本発明の環状水素化シラン化合物の製造方法は、環状ハロシラン化合物の塩とルイス酸化合物とを接触させて環状ハロシラン化合物を得る工程(脱錯化工程)と、前記環状ハロシラン化合物を金属水素化物と接触させて還元する工程(還元工程)とを有するものである。本発明の環状水素化シラン化合物の製造方法によれば、環状水素化シランを効率的に製造することができる。
脱錯化工程で用いる環状ハロシラン化合物の塩としては、ケイ素原子が連なって単素環を形成し、当該単素環を構成する少なくとも1つのケイ素原子にハロゲン原子が結合した構造(環状ハロシラン構造)を有しており、塩を形成している化合物であることが好ましい。
単素環を構成するケイ素原子の数は特に限定されないが、3以上が好ましく、4以上がより好ましく、5以上がさらに好ましく、また8以下が好ましく、7以下がより好ましく、6以下がさらに好ましい。環状ハロシラン化合物は、単素環を構成しないケイ素原子を含むものであってもよく、例えば、単素環を構成するケイ素原子に、ケイ素原子を含む置換基(例えばシリル基)が結合していてもよい。しかしながら、単素環を構成しないケイ素原子が含まれると、環状ハロシラン化合物の塩や環状ハロシラン化合物の保管時や、環状ハロシラン化合物の還元工程において、シランガスの発生量が増加したり、環状ハロシラン化合物の還元反応の収率が低下する傾向にあるので、単素環を構成しないケイ素原子は極力含まないことが好ましい。
ケイ素原子から形成された単素環には、少なくとも1つのハロゲン原子が結合していることが好ましく、より好ましくは、単素環を構成するケイ素原子のそれぞれにハロゲン原子が1つまたは2つ(好ましくは2つ)結合している。
環状ハロシラン化合物の塩としては、下記式(1)で表される化合物を用いることが好ましい。
上記式(1)において、X1とX2はそれぞれ独立してハロゲン原子を表し、Lはアニオン性配位子を表し、pは配位子Lの価数として−2〜0の整数を表し、Kは対カチオンを表し、qは対カチオンKの価数として0〜2の整数を表し、nは0〜5の整数を表し、aとbとcは0〜2n+6の整数(ただし、a+b+c=2n+6であり、aとcは同時に0ではない)を表し、dは0〜3の整数(ただし、aとdは同時に0ではない)、eは0〜3の整数(ただし、d+e=3)を表し、mは1〜2であり、sは1以上の整数を表し、tは1以上の整数を表す。
式(1)中、nは単素環を構成するケイ素原子の数を定め、その値は0〜5であり、1以上が好ましく、2以上がより好ましく、また4以下が好ましく、3以下がより好ましい。nは特に3であることが好ましく、すなわち6員のケイ素単素環であることが好ましい。
式(1)中、X1は環を構成するケイ素原子に結合するハロゲン原子を表し、X2は環を構成するケイ素原子に結合したシリル基のハロゲン原子を表す。X1とX2のハロゲン原子としては、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、フッ素原子が挙げられ、好ましくは塩素原子、臭素原子であり、より好ましくは塩素原子である。X1が複数ある場合は、複数のX1は同一であっても異なっていてもよい。X2が複数ある場合は、複数のX2は同一であっても異なっていてもよい。
式(1)中、aは環を構成するケイ素原子に結合するハロゲン原子の数を表し、bは環を構成するケイ素原子に結合する水素原子の数を表し、cは環を構成するケイ素原子に結合するシリル基の数を表す。また、dは環を構成するケイ素原子に結合したシリル基のハロゲン原子の数を表し、eは環を構成するケイ素原子に結合したシリル基の水素原子の数を表す。cが2以上のとき、環を構成するケイ素原子に結合した複数のシリル基は同一であっても異なっていてもよい。aとbとcは0〜2n+6の整数(ただし、a+b+c=2n+6であり、aとcは同時に0ではない)を表すが、aは1〜2n+6の整数で、bとcは0〜n+5の整数であることが好ましく、aはn+6〜2n+6の整数で、bとcは0〜nの整数であることがより好ましい。なお、上記式(1)中、cが0であれば、ルイス酸化合物と反応させた際にカップリング反応等の副反応が起こることが抑えられたり、環状ハロシラン化合物の塩やそれから製造される環状ハロシラン化合物の保管安定性が向上したり、環状ハロシラン化合物の還元工程においてシランガスの発生が抑制されたり、環状水素化シラン化合物の収率を高めることができる点で、さらに好ましい。また、aが2n+6であり、bとcが0であることが特に好ましい。
式(1)中、Lは環を構成するケイ素原子に配位したアニオン性の配位子を表し、pは配位子の価数(−2〜0の整数)を表し、mは配位子の数(1〜2)を表す。アニオン性の配位子としては、ハロゲン化物イオン、硝酸イオン、シアン化物イオン等が挙げられる。
式(1)中、Kは対カチオンを表し、qは対カチオンKの価数(0〜2の整数)を表し、配位子Lの価数と数および対カチオンKの価数に応じて、sとtの値がそれぞれ定められる。対カチオンKとしては、オニウム類(例えば、ホスホニウムイオンやアンモニウムイオン)、ポリアミン・SiH2Cl+(例えば、ペデタ・SiH2Cl+、テエダ・SiH2Cl+)等が挙げられる。なお、対カチオンKがポリアミン・SiH2Cl+である場合は、ルイス酸化合物と反応させた際に自然発火性ガスであるシランガスが発生することから、このようなシランガスの発生を抑えるために、対カチオンKはオニウム類であることが好ましい。また、対カチオンKがオニウム類であれば、脱錯化工程における環状ハロシラン化合物の収率が向上する点からも好ましい。
対カチオンKのオニウム類としては、下記式(2)で表されるホスホニウムイオンまたは下記式(3)で表されるアンモニウムイオンが好ましい。式(2)および式(3)において、R1〜R4およびR5〜R8は各々独立して、水素原子、アルキル基、アリール基を表す。
式(2)において、R1〜R4は各々異なっていてもよいが、全て同じ基であることが好ましい。式(3)において、R5〜R8は各々異なっていてもよいが、全て同じ基であることが好ましい。R1〜R4およびR5〜R8のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、へキシル基、ヘプチル基、オクチル基、シクロへキシル基等の炭素数1〜16のアルキル基が好ましく挙げられ、炭素数1〜8のアルキル基であることがより好ましい。R1〜R4およびR5〜R8のアリール基としては、フェニル基、ナフチル基等の炭素数6〜18のアリール基が好ましく挙げられ、炭素数6〜12のアリール基であることがより好ましい。なおR1〜R4およびR5〜R8は、アルキル基またはアリール基であることが好ましく、アリール基がより好ましい。R1〜R4およびR5〜R8がアリール基であれば、後述するように、環状ハロシラン化合物の塩を製造する際に、環状ハロシラン化合物の塩が反応液中で沈殿生成して、環状ハロシラン化合物の塩を高純度で得ることが容易になる。また、同様の理由から、対カチオンKのオニウム類としては、アンモニウムイオンよりもホスホニウムイオンの方が好ましい。
式(1)で表される環状ハロシラン化合物の塩としては、具体的には、テトラデカクロロシクロヘキサシラン・ジアニオン錯体([Si6Cl14 2-])の塩や、テトラデカブロモシクロヘキサシラン・ジアニオン錯体([Si6Br14 2-])の塩等が挙げられる。また、その対イオンとしては、ホスホニウムイオンまたはアンモニウムイオンであることが好ましい。
式(1)で表される環状ハロシラン化合物の塩としては、下記式(4)または式(5)で表される化合物を用いることが好ましい。環状ハロシラン化合物の塩としてこのような化合物を用いれば、脱錯化工程で環状ハロシラン化合物の塩をルイス酸化合物と反応させる際に、副生物の生成や自然発火性ガスであるシランガスの生成を抑えて、環状水素化シラン化合物の収率を高めやすくなる。また後述するように、環状ハロシラン化合物の製造も容易になる。
上記式(4)および式(5)において、X1、R1〜R4、R5〜R8、nおよびaは上記と同じ意味であり、X3はハロゲン原子を表す(式(4)および式(5)では、X3はイオン形態で存在しハロゲン化物イオンとなっている)。
X3のハロゲン原子としては、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、フッ素原子が挙げられ、好ましくは塩素原子、臭素原子であり、より好ましくは塩素原子である。X3が複数ある場合は、複数のX3は同一であっても異なっていてもよい。X1とX3は同一であっても異なっていてもよい。式(4)および式(5)において、X1とX3が全て塩素原子であれば、環状水素化シラン化合物を安価に製造することが可能となる。
式(4)および式(5)において、nは0〜5の整数を表し、aは1〜2n+6の整数を表すが、nは3であることが特に好ましく、この場合、aは6以上が好ましく、9以上がより好ましく、12であることが特に好ましい。
環状ハロシラン化合物の塩は、ルイス酸化合物との反応に先立って、必要に応じて精製を行ってもよい。環状ハロシラン化合物の塩を精製して純度を高めることにより、ルイス酸化合物との反応で副生物の生成を抑えることができる。環状ハロシラン化合物の塩の精製は、固液分離、蒸留(溶媒留去)、晶析、抽出等の公知の精製方法を用いればよい。
脱錯化工程では、環状ハロシラン化合物の塩をルイス酸化合物と接触させて反応させることにより、フリーの環状ハロシラン化合物(非錯体型の環状ハロシラン化合物)を得ることができる。具体的には、環状ハロシラン化合物の塩をルイス酸化合物と接触させると、ルイス酸化合物が環状ハロシラン化合物の塩に含まれるアニオン性配位子に求電子的に作用して、環状ハロシラン化合物の塩からアニオン性配位子を引き抜くとともに対カチオンが遊離し、対応する環状ハロシラン化合物を得ることができる。このような非錯体型の環状ハロシラン化合物は、錯体型の環状ハロシラン化合物と比べて高い溶媒溶解性を有するものとなる。そのため、その後の還元工程で非錯体型の環状ハロシラン化合物を金属水素化物と接触させることにより、環状ハロシラン化合物の還元反応を高濃度下で行うことが可能となり、環状水素化シラン化合物を効率的に製造することが可能となる。
脱錯化工程では、例えば、上記式(1)で表される環状ハロシラン化合物の塩からは、下記式(6)で表される環状ハロシラン化合物を得ることができる。下記式(6)において、X1、X2、a〜e、nは上記と同じ意味を表す。
ルイス酸化合物の種類は特に限定されないが、金属ハロゲン化物を用いることが好ましい。金属ハロゲン化物としては、金属塩化物、金属臭化物、金属ヨウ化物等が挙げられるが、反応性や反応の制御の容易性の点から、金属塩化物を用いることが好ましい。金属ハロゲン化物を構成する金属元素としては、ホウ素、アルミニウム、ガリウム、インジウム、タリウム等の13族元素、銅、銀、金等の11族元素、チタン、ジルコニウム等の4族元素、鉄、亜鉛、カルシウム等が挙げられる。ルイス酸化合物としては、具体的に、三フッ化ホウ素、三塩化ホウ素、三臭化ホウ素等のハロゲン化ホウ素;塩化アルミニウム、臭化アルミニウム等のハロゲン化アルミニウム;塩化ガリウム、臭化ガリウム等のハロゲン化ガリウム;塩化インジウム、臭化インジウム等のハロゲン化インジウム;塩化タリウム、臭化タリウム等のハロゲン化タリウム;塩化銅、臭化銅等のハロゲン化銅;塩化銀、臭化銀等のハロゲン化銀;塩化金、臭化金等のハロゲン化金;塩化チタン、臭化チタン等のハロゲン化チタン;塩化ジルコニウム、臭化ジルコニウムなどのハロゲン化ジルコニウム;塩化鉄、臭化鉄等のハロゲン化鉄;塩化亜鉛、臭化亜鉛などのハロゲン化亜鉛;塩化カルシウム、臭化カルシウム等のハロゲン化カルシウム;等が挙げられる。
ルイス酸化合物の使用量は、環状ハロシラン化合物の塩とルイス酸化合物との反応性に応じて適宜調整すればよいが、例えば、環状ハロシラン化合物の塩1モルに対して0.5モル以上とすることが好ましく、1.5モル以上がより好ましく、また20モル以下が好ましく、10モル以下がより好ましい。
環状ハロシラン化合物の塩とルイス酸化合物との反応は溶媒または分散媒(これらを単に溶媒という)中で行うことが好ましい。反応において使用する溶媒(反応溶媒)としては、ヘキサン、トルエン等の炭化水素系溶媒;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、シクロペンチルメチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、メチルターシャリーブチルエーテル等のエーテル系溶媒等が挙げられる。これらの有機溶媒は1種のみを用いてもよいし2種以上を併用してもよい。なお反応溶媒は、その中に含まれる水や溶存酸素を取り除くため、反応前に蒸留や脱水等の精製を施しておくことが好ましい。
反応溶媒の使用量は特に限定されないが、通常、環状ハロシラン化合物の塩の濃度が0.005mol/L以上10mol/L以下となるように調整することが好ましく、より好ましい濃度は0.01mol/L以上5mol/L以下であり、さらに好ましい濃度は0.25mol/L以上1mol/L以下である。
反応溶媒中で環状ハロシラン化合物の塩とルイス酸化合物とを接触させる方法は特に限定されないが、例えば、(1)環状ハロシラン化合物の塩およびルイス酸化合物のそれぞれを予め溶媒中に溶解または分散させることにより、環状ハロシラン化合物の塩の溶液(または分散液)とルイス酸化合物の溶液(または分散液)を調製した後、これらの溶液(または分散液)を混合する方法、(2)溶媒に、環状ハロシラン化合物の塩とルイス酸化合物を同時にまたは順次加える方法、(3)環状ハロシラン化合物の塩の溶液(または分散液)にルイス酸化合物を加える方法、(4)環状ハロシラン化合物の塩とルイス酸化合物とを仕込み、そこに溶媒を加える方法等が挙げられる。
環状ハロシラン化合物の塩とルイス酸化合物との反応を行う際の反応温度は、反応性に応じて適宜調整すればよいが、例えば、−80℃以上が好ましく、−50℃以上がより好ましく、−30℃以上がさらに好ましく、また200℃以下が好ましく、150℃以下がより好ましく、100℃以下がさらに好ましい。
環状ハロシラン化合物の塩とルイス酸化合物との反応を行う際の雰囲気は特に限定されないが、環状ハロシラン化合物およびその塩の酸化反応を抑制する点から、当該雰囲気の酸素濃度は9体積%以下であることが好ましく、5体積%以下がより好ましく、3体積%以下がさらに好ましく、1体積%以下が特に好ましい。また、環状ハロシラン化合物およびその塩の加水分解を抑える点から、当該雰囲気の水分濃度は2000ppm(体積基準)以下が好ましく、1500ppm(体積基準)以下がより好ましく、1000ppm(体積基準)以下がさらに好ましく、500ppm(体積基準)以下がさらにより好ましく、150ppm(体積基準)以下がさらにより好ましく、10ppm(体積基準)以下が特に好ましい。環状ハロシラン化合物の塩とルイス酸化合物との反応は、不活性ガス(例えば、窒素ガスやアルゴンガス)雰囲気下で行うことも好ましく、また遮光下で行うことも好ましい。
環状ハロシラン化合物の塩とルイス酸化合物との反応により得られた環状ハロシラン化合物は、必要に応じて精製を行ってもよい。環状ハロシラン化合物の精製は、固液分離、蒸留(溶媒留去)、晶析、抽出等の公知の手段を用いることができる。
脱錯化工程で得られた環状ハロシラン化合物は、還元工程において金属水素化物と接触させて還元する。これにより、環状水素化シラン化合物を得ることができる。
環状水素化シラン化合物は、ケイ素原子が連なって構成される単素環を有し、ケイ素原子と水素原子から構成される化合物であれば特に限定されない。環状水素化シラン化合物は、単素環を構成するケイ素原子の全ての置換位置に水素原子が結合してもよく、単素環を構成するケイ素原子に無置換のシリル基が結合しているものであってもよい。ただし、保存安定性の観点から、単素環を構成するケイ素原子以外のケイ素原子を含まないことが好ましい。還元工程では、環状ハロシラン化合物の塩ではなく環状ハロシラン化合物を還元するため、当該塩の対カチオンに由来するシランガスの発生がなく、全体としてシランガスの発生を抑制することが可能となるため、環状水素化シラン化合物を高収率かつ簡便に得ることができる。
還元工程で得られる環状水素化シラン化合物は、式(7):SizH2zで表される化合物であることが好ましい。式(7)中、zは単素環を構成するケイ素原子の数を表し、zは3以上が好ましく、4以上がより好ましく、5以上がさらに好ましく、また8以下が好ましく、7以下がより好ましく、6以下がさらに好ましい。なお、薄膜シリコンの形成に有用となる点から、単素環を構成するケイ素原子の数は6(すなわちz=6)であることが特に好ましい。また、同様の観点から、脱錯化工程で得られ、還元工程に供する環状ハロシラン化合物は、式(8):SizX1 aH(2z-a)で表される化合物が好ましく、式(9):SizX1 2zで表される化合物がより好ましい。式(8)および式(9)中、X1とaの態様や好ましい態様は、特に言及する場合を除き、上記式(1)のおけるX1とaとそれぞれ同じであり、zの態様や好ましい態様は、特に言及する場合を除き、上記式(7)におけるzと同じ意味を表す。
環状ハロシラン化合物の還元に用いる金属水素化物の種類は特に限定されず、例えば、水素化リチウムアルミニウム、水素化ジイソブチルアルミニウム、水素化ビス(2−メトキシエトキシ)アルミニウムナトリウム等の水素化アルミニウム化合物;水素化ホウ素ナトリウム、水素化トリエチルホウ素リチウム、水素化ホウ素ニッケル、水素化ホウ素亜鉛等の水素化ホウ素化合物;水素化トリブチルスズ等の水素化スズ化合物;水素化遷移金属化合物等が挙げられる。これらの金属水素化物は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
金属水素化物の使用量は適宜設定すればよく、例えば、環状ハロシラン化合物の有するケイ素−ハロゲン結合1個に対する金属水素化物のヒドリドの当量が0.5当量以上となることが好ましく、0.8当量以上がより好ましく、0.9当量以上がさらに好ましく、また15当量以下が好ましく、5当量以下がより好ましく、2当量以下がさらに好ましい。金属水素化物の量が多すぎると、後処理に時間を要し、生産性が低下する傾向にある。一方、金属水素化物の量が少なすぎると、収率が低下する傾向にあるため好ましくない。
環状ハロシラン化合物の金属水素化物による還元反応は溶媒(反応溶媒)中で行うことが好ましい。ここで用いる溶媒としては有機溶媒が好ましく、例えば、ヘキサン、トルエン等の炭化水素系溶媒;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、シクロペンチルメチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、メチルターシャリーブチルエーテル等のエーテル系溶媒等が好ましく用いられる。これらの溶媒は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。なお還元反応に使用する有機溶媒は、その中に含まれる水や溶存酸素を取り除くため、反応前に蒸留や脱水等の精製を施しておくことが好ましい。
還元反応に用いる反応溶媒の使用量は特に限定されないが、通常、環状ハロシラン化合物の濃度が0.01mol/L以上1mol/L以下となるように調整することが好ましく、より好ましい濃度は0.02mol/L以上0.7mol/L以下であり、さらに好ましい濃度は0.03mol/L以上0.5mol/L以下である。環状ハロシラン化合物の濃度が前記範囲より高い場合、すなわち反応溶媒の使用量が少なすぎると、還元反応により生じた熱が十分に除熱されず、また反応物が溶解しにくいために反応速度が低下する等の問題が生じるおそれがある。一方、環状ハロシラン化合物の濃度が前記範囲より低い場合、すなわち反応溶媒の使用量が多すぎると、例えば、還元反応後に蒸留により反応生成物を精製する場合などに留去すべき溶媒量が多くなり、生産性が低下しやすくなる。
還元反応は、環状ハロシラン化合物を金属水素化物と接触させることにより行うことができる。環状ハロシラン化合物と金属水素化物との接触に際しては、溶媒(反応溶媒)の存在下で接触させることが好ましい。溶媒中で環状ハロシラン化合物と金属水素化物とを接触させる方法としては、例えば、(1)環状ハロシラン化合物と金属水素化物の一方を溶媒中に溶解または分散させて溶液または分散液としておき、他方と混合(他方を溶液または分散液に加えるか、他方に溶液または分散液を加えるか)する方法、(2)両方をそれぞれ溶媒中に溶解または分散させて溶液または分散液としておいた後に、両者を混合する方法、(3)溶媒中に環状ハロシラン化合物と金属水素化物を同時にもしくは順次加える方法等が挙げられる。これらの中で特に好ましいのは上記(2)の態様である。
環状ハロシラン化合物と金属水素化物との接触に際しては、還元を行う反応系内に環状ハロシラン化合物および金属水素化物の少なくとも一方(すなわち一方または両方)を逐次的に添加(逐次添加)することが好ましい。このように環状ハロシラン化合物および金属水素化物の一方または両方を逐次添加することにより、還元反応で生じる発熱を添加速度等でコントロールすることができるので、例えばコンデンサー等の小型化が可能になるなど、生産性の向上に繋がる効果が得られる。また、副生物の生成を抑制し、反応収率を向上させる効果を得ることも可能となる。なお、逐次添加する場合、連続的に添加しても分割的に添加してもよいが、連続的に添加することが好ましい。
環状ハロシラン化合物および金属水素化物のうちの一方を逐次添加する場合、反応系内(反応器)には他方を溶媒とともにあるいは単独(溶媒なし)で仕込んでおけばよい。両方を逐次添加する場合には、反応系内(反応器)に予め溶媒のみを仕込んでおいてもよいし、あるいは空の反応器に環状ハロシラン化合物と金属水素化物を同時または順次添加するようにしてもよい。いずれの場合も、添加に供する側(環状ハロシラン化合物および/または金属水素化物)は、溶媒中に溶解または分散させて溶液または分散液として添加することが好ましい。
本発明の製造方法では、還元工程において、フリーの環状ハロシラン化合物(非錯体型の環状ハロシラン化合物)を用いて還元するため、錯体型の環状ハロシラン化合物(すなわち環状ハロシラン化合物の塩)を用いる場合と比較して、溶媒への溶解性(または分散性)が良好となる傾向にある。そのため、還元工程における反応濃度をより高く設定することができ、環状水素化シラン化合物の製造効率を顕著に向上させることが可能となり、また様々な製造プロセスの採用が可能となる。例えば、上記のように、還元を行う反応系内に環状ハロシラン化合物および金属水素化物の少なくとも一方を逐次添加することにより還元反応を行う場合、環状ハロシラン化合物の溶解度(または分散性)が低いと、反応系内で環状ハロシラン化合物が低濃度で金属水素化物と反応せざるを得ないため、生産効率が低下してしまうことになるが、本発明の製造方法では、環状ハロシラン化合物の溶媒への溶解性(または分散性)が良好であることから、環状ハロシラン化合物の濃度を増加させることができ、生産効率を向上させることができる。また、金属水素化物は発火性を有するため、できるだけ低濃度の溶液等の形態で取り扱うことが好ましいが、本発明においては、環状ハロシラン化合物の濃度を高めることができるので、金属水素化物溶液の濃度を比較的低く設定しても、全体として反応濃度を高く設定することが可能となる。そのため、安全性に配慮しつつ、生産効率を向上させることが可能となる。
環状ハロシラン化合物と金属水素化物の一方または両方を逐次添加する場合の好ましい態様としては、以下の3つの態様がある。すなわち、(A)反容器内に環状ハロシラン化合物の溶液または分散液を仕込んでおき、これに金属水素化物の溶液または分散液を逐次添加する態様、(B)反応器内に金属水素化物の溶液または分散液を仕込んでおき、これに環状ハロシラン化合物の溶液または分散液を逐次添加する態様、(C)反応器内に環状ハロシラン化合物の溶液または分散液と金属水素化物の溶液または分散液とを同時または順次添加する態様である。なお、金属水素化物は、配管中での乾燥、発火することを防止するため、長時間かけて少量ずつ反応器内に添加等するよりも、短時間で反応器内に仕込み、添加ラインを速やかに洗浄することが、安全上好ましい。そのような観点から、金属水素化物溶液を反応器に仕込み、環状ハロシラン化合物の溶液(または分散液)を逐次添加する方法(上記の(B)の態様)を採用することが好ましい。本発明においては、環状ハロシラン化合物の溶媒への溶解性(または分散性)が良好であることから、環状ハロシラン化合物溶液(または分散液)の濃度を高く設定することができ、そのため、環状水素化シラン化合物の製造効率を向上させつつ、環状ハロシラン化合物の添加ラインにおける析出や閉塞を抑制し、安定して製造を行うことが可能となる。
環状ハロシラン化合物と金属水素化物の一方または両方を前記(A)〜(C)の態様で添加する場合、環状ハロシラン化合物を溶質とする溶液または分散液中の溶質濃度は、0.01mol/L以上が好ましく、0.02mol/L以上がより好ましく、0.04mol/L以上がさらに好ましく、0.05mol/L以上が特に好ましい。溶質濃度が低すぎると、目的生成物を単離する際に留去しなければいけない溶媒量が増えるので、生産性が低下しやすくなる。一方、環状ハロシラン化合物を溶質とする溶液または分散液中の溶質濃度の上限は1mol/L以下とすることが好ましく、0.8mol/L以下がより好ましく、0.5mol/L以下がさらに好ましい。溶質濃度(特に逐次添加に供する溶液または分散液の溶質濃度)が高すぎると、還元反応における発熱のコントロールがしにくくなる傾向がある。なお、環状ハロシラン化合物を溶質とする溶液または分散液と、金属水素化物を溶質とする溶液または分散液とは、溶媒量がほぼ同量となるように各溶液または分散液の溶質濃度を設定することが好ましい。
環状ハロシラン化合物と金属水素化物の一方または両方を前記(A)〜(C)の態様で添加する場合、添加時の温度(詳しくは、逐次添加に供する溶液または分散液の温度および/または反応器内に仕込んでおく溶液または分散液の温度)は、−80℃以上が好ましく、−50℃以上がより好ましく、−30℃以上がさらに好ましく、また80℃以下が好ましく、50℃以下がより好ましく、40℃以下がさらに好ましい。添加速度は、溶液または分散液中の溶質濃度によるが、0.01mL/分以上が好ましく、0.1mL/分以上がより好ましく、1mL/分以上がさらに好ましく、また100mL/分以下が好ましく、50mL/分以下がより好ましく、20mL/分以下がさらに好ましい。この場合の添加時間は特に制限されないが、生産性や反応性の点から、10分以上が好ましく、30分以上がより好ましく、1時間以上がさらに好ましく、また20時間以下が好ましく、10時間以下がより好ましく、6時間以下がさらに好ましい。
還元反応を行う際の反応温度は、反応性に応じて適宜調整すればよいが、例えば、−20℃以上が好ましく、−10℃以上がより好ましく、0℃以上がさらに好ましく、また150℃以下が好ましく、100℃以下がより好ましく、80℃以下がさらに好ましく、70℃以下が特に好ましい。反応時間は、反応の進行の程度に応じて適宜調整すればよく、例えば、10分以上が好ましく、1時間以上がより好ましく、2時間以上がさらに好ましく、また72時間以下が好ましく、48時間以下がより好ましく、24時間以下がさらに好ましい。
環状水素化シラン化合物は、禁酸素性物質である。そのため還元反応は、窒素ガス、アルゴンガス等の不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。
還元反応で得られた環状水素化シラン化合物は、純度を高めるために精製を行ってもよい。環状水素化シラン化合物の精製方法としては、固液分離、蒸留、晶析、抽出等の公知の精製方法を採用することができる。例えば反応液中には、環状水素化シラン化合物以外に、環状水素化シラン化合物よりも低沸点の軽沸不純物や、環状水素化シラン化合物よりも高沸点の高沸不純物が溶解している場合がある。従って、環状水素化シラン化合物を軽沸不純物や高沸不純物から分離し、高純度の環状シラン化合物を得るために、蒸留を行うことが好ましい。蒸留の際の温度は、反応液に含まれる環状水素化シラン化合物と不純物組成に応じて適宜設定すればよい。
本発明の製造方法において、脱錯化工程で用いる環状ハロシラン化合物の塩は、ハロシラン化合物と、第三級ポリアミンとを接触させることにより製造することも可能であるが、ハロシラン化合物と、ホスホニウム塩およびアンモニウム塩の少なくとも一方とを接触させることにより製造することが好ましい。この点で、本発明の環状ハロシラン化合物の製造方法は、ハロシラン化合物と、ホスホニウム塩およびアンモニウム塩の少なくとも一方とを接触させて、環状ハロシラン化合物の塩を得る工程(環化カップリング工程)を有することが好ましい。
環化カップリング工程では、ハロシラン化合物とホスホニウム塩およびアンモニウム塩の少なくとも一方とを接触させることにより、ハロシラン化合物の環化カップリング反応が起こり、ハロシラン化合物のケイ素原子が連なって形成された環を含む環状ハロシラン化合物の塩が得られる。この場合、得られる環状ハロシラン化合物の塩は、対カチオンとしてホスホニウムイオンまたはアンモニウムイオンを有するもの(すなわちホスホニウム塩またはアンモニウム塩)となり、対カチオンにケイ素原子を含まないため、これを脱錯化工程でルイス酸化合物と反応させる際に、対カチオンに由来してシランガスが発生することを抑えることができ、環状ハロシラン化合物の製造を容易に行えるようになる。上記の観点から、環化カップリング工程で第三級ポリアミンを使用する場合であっても、極力その使用量は抑えた方が好ましく、例えば、第三級ポリアミンの使用量を、ホスホニウム塩およびアンモニウム塩の合計の使用量に対して、0〜1モル%にすることが好ましく、第三級ポリアミンを使用しないことがより好ましい。
原料となるハロシラン化合物としては、ヘキサクロロジシラン、ヘキサブロモジシラン、ヘキサヨードジシラン等のハロゲン化ジシランを使用することも可能であるが、モノシラン化合物(ハロゲン化モノシラン化合物)を使用することが好ましく、例えば、トリクロロシラン、トリブロモシラン、トリヨードシラン、トリフルオロシラン等のトリハロゲン化シラン;ジクロロシラン、ジブロモシラン、ジヨードシラン、ジフルオロシラン等のジハロゲン化シラン;テトラクロロシラン、テトラブロモシラン、テトラヨードシラン、テトラフルオロシラン等のテトラハロゲン化シラン;等が挙げられ、これらの中でもトリハロゲン化シランが好ましく、トリクロロシランがより好ましい。
ハロシラン化合物としてハロゲン化モノシラン化合物を使用することにより、環構造を形成するケイ素原子以外にはケイ素原子を含まない環状ハロシラン化合物の塩を製造することが可能になる。上記環状ハロシラン化合物の塩やそれから製造されるハロシラン化合物は、保存安定性や化学的安定性が比較的良好であるから、保存時、または脱錯化工程でルイス酸化合物と反応させる際に、分解による副生成物の副生を抑制することが可能となる。よって、保存時や脱錯化工程、還元工程におけるシランガスの発生や、副生成物による悪影響(例えば重合反応やカップリング反応)を抑制することが可能となり、環状水素化シラン化合物の収率が顕著に向上する傾向にある。また、上記副生成物を除去する精製工程を簡略化できることから、製造効率を向上させることができる。
ホスホニウム塩は、第4級ホスホニウム塩であることが好ましく、下記式(10)で表される塩が好ましく挙げられる。また、アンモニウム塩は、第4級アンモニウム塩であることが好ましく、下記式(11)で表される塩が好ましく挙げられる。式(10)および式(11)中、R1〜R4およびR5〜R8の態様や好ましい態様は、特に言及する場合を除き式(2)および式(3)と同じ意味であり、A-は1価のアニオンを示す。
式(10)および式(11)において、A-で示される1価のアニオンとしては、ハロゲン化物イオン(例えば、Cl-、Br-、I-等)、ボレートイオン(例えば、BF4 -)、リン系アニオン(例えば、PF6 -)等が挙げられる。これらの中でも、入手の容易さの点から、Cl-、Br-、I-が好ましく、Cl-、Br-が特に好ましい。
環化カップリング工程において、ホスホニウム塩とアンモニウム塩は、どちらか一方のみ使用してもよく、両方使用してもよい。ホスホニウム塩は、1種のみを使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。アンモニウム塩は、1種のみを使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
式(10)において、R1〜R4は各々異なっていてもよいが、全て同じ基であることが好ましい。式(11)において、R5〜R8は各々異なっていてもよいが、全て同じ基であることが好ましい。なお、R1〜R4およびR5〜R8は、上記に説明したように、アルキル基またはアリール基であることが好ましく、アリール基がより好ましい。R1〜R4およびR5〜R8がアリール基であれば、ハロシラン化合物をホスホニウム塩またはアンモニウム塩と反応させて環状ハロシラン化合物の塩を製造する際に、環状ハロシラン化合物の塩が反応液中で沈殿生成して、環状ハロシラン化合物の塩の精製が容易になる。また、同様の理由から、アンモニウム塩よりもホスホニウム塩を用いる方が好ましい。
式(10)で表されるホスホニウム塩や式(11)で表されるアンモニウム塩を用いることにより、上記式(4)や式(5)で表される環状ハロシラン化合物の塩を得ることができ、特に、6員のケイ素単素環を含み、この単素環を形成するケイ素原子以外にケイ素原子を含まない環状ハロシラン化合物の塩を容易に得ることができる。例えば、ハロシラン化合物としてトリクロロシランを用い、ホスホニウム塩として式(10)中のA-が塩素イオン(Cl-)である化合物を用いた場合には、ドデカクロロジヒドロシクロヘキサシラン・ジアニオン塩([Ph4P+]2[Si6H2Cl12]2-)、トリデカクロロヒドロシクロヘキサシラン・ジアニオン塩([Ph4P+]2[Si6HCl13]2-)、テトラデカクロロシクロヘキサシラン・ジアニオン塩([Ph4P+]2[Si6Cl14]2-)等の、環状ハロシラン化合物のジアニオンとホスホニウムイオンとからなる塩が得られる。
ホスホニウム塩および/またはアンモニウム塩の使用量(2種以上を用いる場合はその合計使用量)は、ハロシラン化合物1モルに対して、0.01モル以上が好ましく、0.05モル以上がより好ましく、0.08モル以上がさらに好ましく、また1.0モル以下が好ましく、0.7モル以下がより好ましく、0.5モル以下がさらに好ましい。ホスホニウム塩および/またはアンモニウム塩の量が少なすぎると、ハロシラン化合物が未反応となり、環状ハロシラン化合物の塩の収率が低下するおそれがあり、一方、ホスホニウム塩および/またはアンモニウム塩の量が多すぎると、環状ハロシラン化合物の塩の純度が低下するおそれがある。
環化カップリング反応は、ポリエーテル化合物、ポリチオエーテル化合物、多座ホスフィン化合物等のキレート型配位子の存在下で行うことが好ましい。環化カップリング反応をキレート型配位子の存在下で行うことにより、効率良く環状ハロシラン化合物の塩を製造することができる。また、使用するキレート型配位子の種類を適宜選択することにより、得られる環状ハロシラン化合物中の水素数や組成比を調整することができる。
ポリエーテル化合物としては、例えば、1,1−ジメトキシエタン、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、1,2−ジプロポキシエタン、1,2−ジイソプロポキシエタン、1,2−ジブトキシエタン、1,2−ジフェノキシエタン、1,3−ジメトキシプロパン、1,3−ジエトキシプロパン、1,3−ジプロポキシプロパン、1,3−ジイソプロポキシプロパン、1,3−ジブトキシプロパン、1,3−ジフェノキシプロパン、1,4−ジメトキシブタン、1,4−ジエトキシブタン、1,4−ジプロポキシブタン、1,4−ジイソプロポキシブタン、1,4−ジブトキシブタン、1,4−ジフェノキシブタン等のジアルコキシアルカン類が挙げられる。これらの中でも、特に好ましくは1,2−ジメトキシエタンが挙げられる。ポリチオール化合物としては、前記例示したポリエーテル化合物の酸素原子を硫黄原子に置換したものが挙げられる。
ホスフィン化合物としては、例えば、1,2−ビス(ジメチルホスフィノ)エタン、1,2−ビス(ジエチルホスフィノ)エタン、1,2−ビス(ジプロピルホスフィノ)エタン、1,2−ビス(ジブチルホスフィノ)エタン、1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン、1,3−ビス(ジメチルホスフィノ)プロパン、1,3−ビス(ジエチルホスフィノ)プロパン、1,3−ビス(ジプロピルホスフィノ)プロパン、1,3−ビス(ジブチルホスフィノ)プロパン、1,3−ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパン、1,4−ビス(ジメチルホスフィノ)ブタン、1,4−ビス(ジエチルホスフィノ)ブタン、1,4−ビス(ジプロピルホスフィノ)ブタン、1,4−ビス(ジブチルホスフィノ)ブタン、1,4−ビス(ジフェニルホスフィノ)ブタン等のビス(ジアルキルホスフィノ)アルカン類やビス(ジアリールホスフィノ)アルカン類が挙げられる。これらの中でも、特に好ましくは1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタンが挙げられる。
キレート型配位子の使用量は適宜設定すればよいが、例えば、ハロシラン化合物1モルに対して0.01モル以上とすることが好ましく、0.05モル以上がより好ましく、0.1モル以上がさらに好ましく、また50モル以下が好ましく、40モル以下がより好ましく、30モル以下がさらに好ましい。
環化カップリング反応は、塩基性化合物の存在下で行うことが好ましい。塩基性化合物としては、例えば(モノ−、ジ−、トリ−、ポリ−)アミン化合物が挙げられるが、中でもモノアミン化合物が好ましく用いられる。具体的には、例えば、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、トリオクチルアミン、トリイソブチルアミン、トリイソペンチルアミン、ジエチルメチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、ジメチルブチルアミン、ジメチル−2−エチルヘキシルアミン、ジイソプロピル−2−エチルヘキシルアミン、メチルジオクチルアミン等が好ましく、ジイソプロピルエチルアミンが特に好ましい。塩基性化合物は、1種のみを使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
塩基性化合物の使用量(2種以上を用いる場合はその合計使用量)は、その種類等に応じて適宜設定すればよいが、例えばモノアミン化合物であれば、ハロシラン化合物1モルに対して、0.1モル以上が好ましく、0.2モル以上がより好ましく、0.4モル以上がさらに好ましく、また2モル以下が好ましく、1.8モル以下がより好ましく、1.5モル以下がさらに好ましい。塩基性化合物(モノアミン化合物)の量が少なすぎると、ハロシラン化合物が未反応となり、環状ハロシラン化合物の塩の収率が低下するおそれがあり、一方、塩基性化合物(モノアミン化合物)の量が多すぎると、環状ハロシラン化合物の塩の収率低下や純度低下を引き起こすおそれがある。なお、塩基性化合物としてジアミン化合物、トリアミン化合物、ポリアミン化合物を用いることもできるが、その場合、それら塩基性化合物(ジ−、トリ−、ポリ−アミン)の使用量(合計使用量)は、ポリアミンに由来する不純物の副生を抑制するうえで、ハロシラン化合物1モルに対して0.5モル以下とすることが好ましく、より好ましくは0.4モル以下、さらに好ましくは0.3モル以下である。
環化カップリング反応は、溶媒(反応溶媒)中で行うことが好ましい。反応溶媒としては、有機溶媒を用いることが好ましい。当該有機溶媒としては、環化カップリング反応を妨げない溶媒が好ましく、例えば、クロロホルム、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン等のハロゲン化炭化水素系溶媒、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、シクロペンチルメチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、メチルターシャリーブチルエーテル等のエーテル系溶媒、アセトニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド等の非プロトン性極性溶媒が好ましく挙げられる。これらの中でも、クロロホルム、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン等の塩素化炭化水素系溶媒が好ましく用いられ、1,2−ジクロロエタンが特に好ましい。
環化カップリング反応に用いる溶媒の使用量は特に制限されないが、通常、ハロシラン化合物の濃度が0.5〜10mol/Lとなるように調整することが好ましく、より好ましい濃度は0.8〜8mol/Lであり、さらに好ましい濃度は1〜5mol/Lである。
環化カップリング反応の反応温度は、反応性に応じて適宜調整すればよく、例えば0〜120℃程度、好ましくは15〜70℃程度である。ここで反応温度とは、反応器内の液温を意味する。反応温度を調整するには、例えば、反応器の周囲に設けたジャケット内に温度調整用の媒体を流通させればよいが、これに限定されるものではない。反応温度、反応の進行の程度に応じて適宜設定すればよく、例えば1時間以上が好ましく、2時間以上がより好ましく、3時間以上がさらに好ましく、また48時間以下が好ましく、24時間以下がより好ましい。さらに、反応中に、反応を促進させるために、加熱と同時に撹拌を行ってもよい。
環化カップリング反応は、実質的に無水条件下で行うことが望ましく、例えば、乾燥ガス(特に窒素ガス、アルゴンガス等の不活性ガス)雰囲気下で行うことが好ましい。
環化カップリング工程で得られた環状ハロシラン化合物の塩は、固液分離、蒸留、晶析、抽出等の精製手段を用いることにより反応液から単離できる。特にホスホニウム塩の置換基R1〜R4やアンモニウム塩の置換基R5〜R8がアリール基であれば、環状ハロシラン化合物の塩が反応液中で沈殿生成するため、環状ハロシラン化合物の塩を固液分離により簡単に精製することができる。同様の理由から、環状ハロシラン化合物の塩は、アンモニウム塩よりもホスホニウム塩の方が好ましい。この際の固液分離手段は特に限定されず、ろ過、沈殿分離、遠心分離、デカンテーション等の公知の固液分離手段を用いることができる。
以上、本発明について説明したが、上記に説明した本発明の個々の好ましい形態を2つ以上組み合わせたものもまた、本発明の好ましい形態であることは言うまでもない。
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
(1)環状ハロシラン化合物・ジアニオンの塩の製造例
温度計、コンデンサー、滴下ロートおよび撹拌装置を備えた300mL四つ口フラスコ内を窒素ガスで置換した後、このフラスコ内に、テトラフェニルホスホニウムクロリド11.9g(0.032mol)と、1,2−ジメトキシエタン2.97g(0.033mol)と、ジイソプロピルエチルアミン12.6g(0.097mol)と、1,2−ジクロロエタン100mLとを入れた。次いでフラスコ内の溶液を撹拌しながら、25℃条件下において、滴下ロートよりトリクロロシラン26.8g(0.198mol)をゆっくりと滴下した。滴下終了後、そのまま2時間撹拌し、引き続き50℃で8時間加熱しながら撹拌することにより、環化カップリング反応を行った。反応後、得られた固体をろ過および精製して、ドデカクロロジヒドロシクロヘキサシラン・ジアニオンのホスホニウム塩([Ph4P+]2[Si6H2Cl12 2-])、トリデカクロロヒドロシクロヘキサシラン・ジアニオンのホスホニウム塩([Ph4P+]2[Si6HCl13 2-])、テトラデカクロロシクロヘキサシラン・ジアニオンのホスホニウム塩([Ph4P+]2[Si6Cl14 2-])を4:5:1の質量比率で含む混合物を90質量%含む白色固体を得た。
(2)環状ハロシラン化合物の製造例
窒素雰囲気下、撹拌装置を備えた300mL三つ口フラスコに、上記(1)で得られた白色固体4.2gと粉末状の塩化アルミニウム(AlCl3)1.0gを入れ、さらにベンゼン50mLを加えた。遮光した状態で、室温条件下、4日間撹拌して反応させた後、得られた反応液から減圧下でベンゼンを留去することで、白色固体を得た。得られた白色固体にヘキサン33gを加えてろ過を行い、得られた無色透明のろ液から減圧下でヘキサンを留去することで、白色固体を1.7g得た。この白色固体を29Si−NMRで測定したところSi6Cl12が生成していることを確認した。
Si6Cl12:29Si−NMR(119MHz,C6D6) δ −3.0
(3)環状水素化シラン化合物の製造例
滴下ロートおよび撹拌装置を備えた100mL三つ口フラスコに、上記(2)で得られた白色固体のSi6Cl120.7g(1.2mmol)とベンゼン65mLを入れた。フラスコ内を窒素ガスで置換した後、フラスコ内の溶液を撹拌しながら、0℃条件下において、滴下ロートより還元剤として水素化リチウムアルミニウムのジエチルエーテル溶液(濃度:約1.0mol/L)17mLを徐々に滴下し、次いで25℃で1時間撹拌することにより、還元反応を行った。反応後、得られた反応液を窒素雰囲気下においてろ過し、生成した塩を取り除いた。得られたろ液から減圧下で溶媒を留去して、ろ過および精製することで、無色透明液体を得た。この液体を分析したところ、シクロヘキサシランが生成していることを確認した。