以下、本発明を詳述する。
なお、以下において記載する本発明の個々の好ましい形態を2つ以上組み合わせたものもまた、本発明の好ましい形態である。
本発明において、一般式(SiH2)n(n=3~8)で表される環状水素化シランとしては、シクロトリシラン、シクロテトラシラン、シクロペンタシラン、シクロヘキサシラン、シクロヘプタシラン、シクロオクタシラン等の無置換(好ましくはシリル基を有さない)環状水素化シラン;シリルシクロテトラシラン、シリルシクロペンタシラン、シリルシクロヘキサシラン等の置換(好ましくはシリル基を有する)環状水素化シラン等が挙げられる。
環状水素化シランは、シクロヘキサシランを少なくとも含み、このシクロヘキサシランを環状水素化シランの主たる成分(環状水素化シラン100質量%中50質量%以上の成分)として含む。上記環状水素化シランは、シクロヘキサシランであることが特に好ましい。すなわち、本発明の製造方法において、環状水素化シランがシクロヘキサシランである形態は、特に好ましい形態の一つである。
本発明の製造方法は、環状ハロシラン化合物を還元する工程(「還元工程」ともいう)をさらに含み、本発明における環状水素化シランが、環状ハロシラン化合物を還元する工程を含む方法により製造されたものであることは、本発明の好ましい形態の一つである。前記環状ハロシラン化合物については後述するが、環状ハロシラン化合物が環状ハロシランの4級アンモニウム塩、環状ハロシランの4級ホスホニウム塩、環状ハロシランにホスフィン等の配位子が配位した環状ハロシラン錯体、フリーの環状ハロシラン(例えば配位子を持たない非錯体型の環状ハロシラン化合物)等である形態は、本発明のより好ましい形態の一つである。すなわち、本発明において環状ハロシラン化合物とは、特に言及する場合を除き、フリーの環状ハロシラン、環状ハロシランの塩、環状ハロシランの錯体等が含まれる。
本発明において、環状水素化シランを含む組成物は、環状水素化シランを含んでいればよい。環状水素化シランを含む組成物は、好ましくは、環状水素化シランを0.01質量%以上、90質量%以下含み、より好ましくは、1質量%以上、80質量%以下含み、残りの量は例えば後述する溶媒等である。前記環状水素化シランを含む組成物が、環状ハロシラン化合物を還元する工程を含む方法により製造された組成物であることは、本発明の好ましい形態の一つである。前記環状ハロシラン化合物を還元する工程を含む方法により製造された組成物は、例えば、環状ハロシラン化合物を還元して得られた反応液そのものでもよく、反応液を濃縮、反応に用いた溶媒若しくはその他の溶媒で希釈、溶媒置換、ろ過、少なくとも完全に相溶しない溶媒等で洗浄、薄膜蒸発、不溶分の吸着等の処理を施したものであってもよい。
本発明において、環状ハロシラン化合物を含む組成物は、環状ハロシラン化合物を含んでいればよい。環状ハロシラン化合物を含む組成物は、好ましくは、環状ハロシラン化合物を0.01質量%以上含み、より好ましくは、0.1質量%以上含み、残りの量は例えば後述する溶媒等である。環状ハロシラン化合物を含む組成物における環状ハロシラン化合物の含有量の上限は、100質量%であってもよいが、環状ハロシラン化合物と区別するために便宜上100質量%に限りなく近くすなわち約100質量%であってもよい。前記環状ハロシラン化合物を含む組成物が、ハロシラン化合物を環化する工程を含む方法により製造された組成物であることは、本発明の好ましい形態の一つである。前記環状ハロシラン化合物を環化する工程を含む方法により製造された組成物は、例えば、ハロシラン化合物を環化して得られた反応液そのものでもよく、反応液を濃縮、反応に用いた溶媒若しくはその他の溶媒で希釈、溶媒置換、ろ過、乾燥、少なくとも完全に相溶しない溶媒等で洗浄、軽沸の除去、ルイス酸処理、薄膜蒸発、蒸留、不溶分の吸着等の処理を施したものであってもよい。
環状水素化シランを含む組成物は、後述する高沸点溶媒を含み、反応溶媒及び前記高沸点溶媒よりも沸点が低い低沸点溶媒から選ばれる1種以上である第2溶媒をさらに含んでいてもよい。
高沸点溶媒は、環状水素化シランとは反応せず、環状水素化シランの沸点よりも所定以上高く、環状水素化シランの蒸留時に蒸留容器に残存し、容器内の組成物の分散性を保持する溶媒であればよい。
低沸点溶媒としては、例えば、還元用反応溶媒、溶媒置換用溶媒等が挙げられる。
高沸点溶媒は、常圧時において環状水素化シランよりも沸点が10℃以上高く、好ましくは環状水素化シランよりも沸点が30℃以上高く、より好ましくは環状水素化シランよりも沸点が50℃以上高く、さらに好ましくは環状水素化シランよりも沸点が100℃以上高く、さらにより好ましくは環状水素化シランよりも沸点が150℃以上高い。高沸点溶媒と環状水素化シランの沸点の差が10℃以上の場合には、環状水素化シランを取り出す工程において、高沸点溶媒を分離することが容易となり、精製設備の簡略化や生産効率の向上が可能となる傾向にある。
また、高沸点溶媒の沸点は、常圧時において230℃以上であることが好ましく、250℃以上であることがより好ましく、300℃以上であることがさらに好ましく、600℃以下であることが好ましい。
かかる高沸点溶媒であると、蒸留時に高沸点溶媒が蒸留釜に残存して還元剤の残渣や副生成物が析出しても、析出物の分散性若しくは流動性を維持し、蒸留釜壁面に固着することを抑制することができる。よって、蒸留釜壁面が固着物に覆われ蒸留効率が低下することを抑制したり、蒸留釜の洗浄を容易にすることにより生産効率を向上することが可能となる。なお常圧時において、シクロヘキサシランの沸点は、226℃であり、シクロペンタシランの沸点は、194℃である。
高沸点溶媒は、炭化水素系溶媒、エーテル系溶媒及びシリコーン系溶媒からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
炭化水素系溶媒としては、ドデカン(沸点216℃)、シクロヘキシルベンゼン(沸点240℃)、ジペンチルベンゼン(沸点255℃~280℃)、ドデシルベンゼン(沸点331℃)、テトラデカン(沸点254℃)、ビフェニル(沸点255℃)等が挙げられる。
エーテル系溶媒としては、ジヘキシルエーテル(沸点226℃)、ペンチルフェニルエーテル(沸点214℃)、ジフェニルエーテル(沸点258℃)、ジベンジルエーテル(沸点295℃~298℃)、ジエチレングルコールジブチルエーテル(沸点254℃)、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(沸点230℃)、トリエチレングリコール(沸点288℃)、トリエチレングリコールモノメチルエーテル(沸点249℃)、テトラエチレングリコール(沸点327℃)等が挙げられる。
シリコーン系溶媒としては、ジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル、メチルハイドロジェンシリコーンオイル等のストレートシリコーンオイル、高級脂肪酸エステル変性シリコーンオイル、アルキル変性シリコーンオイル、アミノ変性シリコーンオイル、エポキシ変性シリコーンオイル、ポリエーテル変性シリコーンオイル等の変性シリコーンオイルが挙げられる。シリコーン系溶媒は、同じシリコーンオイルでも粘度が高くなると沸点も高くなる傾向があり、環状水素化シランの沸点よりも10℃以上高いものを選択して使用すればよい。
これらの中でも、シリコーン系溶媒が好ましく、ストレートシリコーンオイルがより好ましく、ジメチルシリコーンオイルがさらに好ましい。
環状水素化シランを含む組成物は、環状水素化シラン、シリコーン系溶媒、およびエーテル系溶媒を含んでいてもよく、これら混合物を固液分離したものであってもよく、濃縮したものであってもよい。
環状水素化シランを含む組成物から前記環状水素化シランを取り出す工程において、該組成物における前記高沸点溶媒の組成量は、環状水素化シラン100質量部に対して、10質量部以上であることが好ましく、50質量部以上であることがより好ましく、100質量部以上であることがさらに好ましく、10000質量部以下であることが好ましい。
本発明において、低沸点溶媒は、高沸点溶媒よりも低い沸点を有する溶媒であり、好ましくは高沸点溶媒及び環状水素化シランよりも沸点が低い溶媒である。
低沸点溶媒は、例えば、炭化水素系溶媒(例えば、ヘキサン、ヘプタン、ベンゼン、トルエン等)、ハロゲン化炭化水素系溶媒(例えば、クロロホルム、ジクロロメタン、1,2-ジクロロエタン等)、エーテル系溶媒(例えば、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、シクロペンチルメチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、メチルターシャリーブチルエーテル等)、アセトニトリル等の非プロトン性極性溶媒が好ましく挙げられる。
低沸点溶媒は、エーテル系溶媒、炭化水素系溶媒であることが好ましく、エーテル系溶媒であることがより好ましい。
低沸点溶媒は、好ましくは環状水素化シランよりも沸点が30℃以上低く、より好ましくは環状水素化シランよりも沸点が60℃以上低く、より好ましくは環状水素化シランよりも沸点が90℃以上低い。
低沸点溶媒の添加量は、環状水素化シラン100質量部に対して、50質量部以上であることが好ましく、100質量部以上であることがより好ましく、200質量部以上であることがさらに好ましく、10000質量部以下であることが好ましい。
なお、本発明において、前記高沸点溶媒および前記環状ハロシラン化合物を還元する工程で使用した溶媒(以下、「還元反応溶媒」ともいう)以外の溶媒を、その他の溶媒ということがある。
また、本発明において、環状ハロシラン化合物を還元する工程で使用した溶媒とは、実際に還元工程で使用した溶媒に限定されず、同種の溶媒(例えば該工程後に添加された同種の溶媒)も含まれる。
以下、環状水素化シランの製造方法を具体的に説明するが、環状水素化シランの製造方法は、特に限定されず、種々の公知の製造方法を採用できる。例えば、ハロシランの環化(その他の工程を含んでもよい)により得られる環状ハロシラン化合物を還元する方法は好ましい方法の一つである。
上記ハロシラン(ハロゲン化シラン)としては、例えば、ジクロロシラン、ジブロモシラン、ジヨードシラン、ジフルオロシラン等のジハロシラン;トリクロロシラン、トリブロモシラン、トリヨードシラン、トリフルオロシラン等のトリハロシラン;テトラクロロシラン、テトラブロモシラン、テトラヨードシラン、テトラフルオロシラン等のテトラハロシラン;等を用いることができる。これらの中でも好ましくはトリハロシランであり、特に好ましくはトリクロロシランである。
上記ハロシランを環化する方法は特に制限されないが、例えば、下記(A)または(B)の方法が好ましい。
(A)ハロシラン(ハロゲン化モノシラン)と、ホスホニウム塩および/またはアンモニウム塩とを接触させる工程を含み、環状ハロシランの塩を得る方法[以下、方法Aという場合がある]。
(B)ハロシランと、下記(I)および(II)からなる群より選択される少なくとも1種の化合物とを接触させる工程を含み、環状ハロシラン中性錯体を得る方法[以下、方法Bという場合がある]。
(I)XRnとして表される化合物[以下、化合物Iという場合がある]。XがPまたはP=Oのときはn=3であり、Rは同一または異なって置換または無置換のアルキル基またはアリール基を表す。XがS、S=O、Oのときはn=2であり、Rは同一または異なって置換または無置換のアルキル基またはアリール基を表す。XがCNのときはn=1であり、Rは置換または無置換のアルキル基またはアリール基を表す。但し、XRn中のアミノ基の数は0または1である。
(II)環中に非共有電子対を有するN、O、SまたはPを含む置換または無置換の複素環化合物からなる群より選択される少なくとも1種の複素環化合物[以下、化合物IIという場合がある]。但し、複素環化合物が有する置換基としての第3級アミノ基の数は0または1である。
まず、上記方法Aについて説明する。
上記ホスホニウム塩は、第4級ホスホニウム塩であることが好ましく、下記式(11)で表される塩が好ましく挙げられる。下記式(11)において、R1~R4は各々異なっていてもよいが、全て同じ基であることが好ましい。
また、上記アンモニウム塩は、第4級アンモニウム塩であることが好ましく、下記式(12)で表される塩が好ましく挙げられる。下記式(12)において、R5~R8は各々異なっていてもよいが、全て同じ基であることが好ましい。
上記式(11)、上記式(12)において、R1~R4およびR5~R8は各々独立して、水素原子、アルキル基、アリール基を表し、A-は1価のアニオンを示す。
上記R1~R4およびR5~R8のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、へキシル基、ヘプチル基、オクチル基、シクロへキシル基等の炭素数1~16のアルキル基が好ましく挙げられ、炭素数1~8のアルキル基がより好ましい。
上記R1~R4およびR5~R8のアリール基としては、フェニル基、ナフチル基等の炭素数6~18のアリール基が好ましく挙げられ、炭素数6~12のアリール基がより好ましい。
上記R1~R4およびR5~R8は、アルキル基またはアリール基であることが好ましく、アリール基がより好ましい。R1~R4およびR5~R8がアリール基であれば、後述するように、環状ハロシランの塩を製造する際に、環状ハロシランの塩が反応液中で沈殿生成して、環状ハロシランの塩を高純度で得ることが容易になる。また、同様の理由から、アンモニウム塩よりもホスホニウム塩を用いる方が好ましい。
上記式(11)、式(12)において、A-で示される1価のアニオンとしては、ハロゲン化物イオン(例えば、Cl-、Br-、I-等)、ボレートイオン(例えば、BF4
-)、リン系アニオン(例えば、PF6
-)等が挙げられる。これらの中でも入手の容易さの点からハロゲン化物イオンが好ましく、より好ましくはCl-、Br-、I-、特に好ましくはCl-、Br-である。
上記ホスホニウム塩とアンモニウム塩は、どちらか一方のみ用いてもよく、両方用いてもよい。ホスホニウム塩は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。アンモニウム塩は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
上記ホスホニウム塩および/またはアンモニウム塩の使用量(2種以上を用いる場合はその合計使用量)は、ハロシラン1molに対して、好ましくは0.01mol以上、より好ましくは0.05mol以上、さらに好ましくは0.08mol以上、また好ましくは1.0mol以下、より好ましくは0.7mol以下、さらに好ましくは0.5mol以下である。ホスホニウム塩および/またはアンモニウム塩の使用量が上記範囲であると、環状ハロシランの塩の収率が向上する傾向にある。
上記方法Aは、ポリエーテル、ポリチオエーテル、多座ホスフィン等のキレート型配位子の存在下で行うことが好ましい。環化カップリング反応をキレート型配位子の存在下で行うことにより、環状ハロシランの塩を効率よく製造できる。また、用いるキレート型配位子の種類を適宜選択することにより、得られる環状ハロシラン中の水素数や組成比を調整できる。
上記ポリエーテルとしては、例えば、1,1-ジメトキシエタン、1,2-ジメトキシエタン、1,2-ジエトキシエタン、1,2-ジプロポキシエタン、1,2-ジイソプロポキシエタン、1,2-ジブトキシエタン、1,3-ジメトキシプロパン、1,3-ジエトキシプロパン、1,3-ジプロポキシプロパン、1,3-ジイソプロポキシプロパン、1,3-ジブトキシプロパン、1,4-ジメトキシブタン、1,4-ジエトキシブタン、1,4-ジプロポキシブタン、1,4-ジイソプロポキシブタン、1,4-ジブトキシブタン等のジアルコキシアルカン類、1,2-ジフェノキシエタン、1,3-ジフェノキシプロパン、1,4-ジフェノキシブタン等のジアリールオキシアルカン類等が挙げられる。これらの中でも、特に好ましくは1,2-ジメトキシエタンが挙げられる。
上記ポリチオエーテルとしては、前記例示したポリエーテルの酸素原子を硫黄原子に置換したものが挙げられる。
上記多座ホスフィンとしては、例えば、1,2-ビス(ジメチルホスフィノ)エタン、1,2-ビス(ジエチルホスフィノ)エタン、1,2-ビス(ジプロピルホスフィノ)エタン、1,2-ビス(ジブチルホスフィノ)エタン、1,2-ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン、1,3-ビス(ジメチルホスフィノ)プロパン、1,3-ビス(ジエチルホスフィノ)プロパン、1,3-ビス(ジプロピルホスフィノ)プロパン、1,3-ビス(ジブチルホスフィノ)プロパン、1,3-ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパン、1,4-ビス(ジメチルホスフィノ)ブタン、1,4-ビス(ジエチルホスフィノ)ブタン、1,4-ビス(ジプロピルホスフィノ)ブタン、1,4-ビス(ジブチルホスフィノ)ブタン、1,4-ビス(ジフェニルホスフィノ)ブタン等のビス(ジアルキルホスフィノ)アルカン類やビス(ジアリールホスフィノ)アルカン類が挙げられる。これらの中でも、特に好ましくは1,2-ビス(ジフェニルホスフィノ)エタンが挙げられる。
上記キレート型配位子の使用量は適宜設定すればよいが、例えば、ハロシラン1molに対して、好ましくは0.01mol以上、より好ましくは0.05mol以上、さらに好ましくは0.1mol以上、また好ましくは50mol以下、より好ましくは40mol以下、さらに好ましくは30mol以下である。
上記方法Aで得られる環状ハロシランの塩は、例えば、下記式(13)で表されるものが好適である。
上記式(13)において、X1とX2はそれぞれ独立してハロゲン原子を表し、Lはアニオン性配位子を表し、pは配位子Lの価数として-2~0の整数を表し、Kは対カチオンを表し、qは対カチオンKの価数として0~2の整数を表し、nは0~5の整数を表し、aとbとcは0以上、“2n+6”以下の整数(ただし、a+b+c=2n+6であり、aとcは同時に0ではない)を表し、dは0~3の整数(ただし、aとdは同時に0ではない)、eは0~3の整数(ただし、d+e=3)を表し、mは1~2であり、sは1以上の整数を表し、tは1以上の整数を表す。
上記環状ハロシランの塩は、ルイス酸と接触させて反応させることにより、フリーの環状ハロシランとしてもよい。フリーの環状ハロシランとは、例えば、Si5Cl10やSi6Cl12などの非錯体型の環状ハロシランを意味する。具体的には、環状ハロシランの塩をルイス酸と接触させると、ルイス酸が環状ハロシランの塩に含まれるアニオン性配位子に求電子的に作用して、環状ハロシランの塩からアニオン性配位子を引き抜くとともに対カチオンが遊離し、対応するフリーの環状ハロシランを得ることができる。
上記ルイス酸の種類は特に限定されないが、金属ハロゲン化物を用いることが好ましい。金属ハロゲン化物としては、例えば、金属塩化物、金属臭化物、金属ヨウ化物等が挙げられるが、反応性や反応の制御の容易性の点から、金属塩化物を用いることが好ましい。金属ハロゲン化物を構成する金属元素としては、ホウ素、アルミニウム、ガリウム、インジウム、タリウム等の13族元素、銅、銀、金等の11族元素、チタン、ジルコニウム等の4族元素、鉄、亜鉛、カルシウム等が挙げられる。ルイス酸としては、具体的に、三フッ化ホウ素、三塩化ホウ素、三臭化ホウ素等のハロゲン化ホウ素;塩化アルミニウム、臭化アルミニウム等のハロゲン化アルミニウム;塩化ガリウム、臭化ガリウム等のハロゲン化ガリウム;塩化インジウム、臭化インジウム等のハロゲン化インジウム;塩化タリウム、臭化タリウム等のハロゲン化タリウム;塩化銅、臭化銅等のハロゲン化銅;塩化銀、臭化銀等のハロゲン化銀;塩化金、臭化金等のハロゲン化金;塩化チタン、臭化チタン等のハロゲン化チタン;塩化ジルコニウム、臭化ジルコニウムなどのハロゲン化ジルコニウム;塩化鉄、臭化鉄等のハロゲン化鉄;塩化亜鉛、臭化亜鉛などのハロゲン化亜鉛;塩化カルシウム、臭化カルシウム等のハロゲン化カルシウム;等が挙げられる。
上記ルイス酸の使用量は、環状ハロシランの塩とルイス酸との反応性に応じて適宜調整すればよいが、例えば、環状ハロシランの塩1molに対して、好ましくは0.5mol以上、より好ましくは1.5mol以上、また好ましくは20mol以下、より好ましくは10mol以下である。
上記環状ハロシランの塩とルイス酸との反応は、溶媒または分散媒(これらを単に溶媒という)中で行うことが好ましい。反応において使用する溶媒(反応溶媒)としては、ヘキサン、トルエン等の炭化水素系溶媒;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、シクロペンチルメチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、メチルターシャリーブチルエーテル等のエーテル系溶媒等が挙げられる。これらの有機溶媒は1種のみを用いてもよいし2種以上を併用してもよい。なお反応溶媒は、その中に含まれる水や溶存酸素を取り除くため、反応前に蒸留や脱水等の精製を施しておくことが好ましい。
上記環状ハロシランの塩とルイス酸との反応を行う際の反応温度は、反応性に応じて適宜調整すればよいが、例えば、好ましくは-80℃以上、より好ましくは-50℃以上、さらに好ましくは-30℃以上、また好ましくは200℃以下、より好ましくは150℃以下、さらに好ましくは100℃以下である。
次に、上記方法Bについて説明する。
上記化合物IのXRnでは、Xが環状ハロシランに配位して環状ハロシラン中性錯体を形成する。XがPまたはP=Oである場合、Xは3価であり、Rの数を示すnは3である。Rは同一または異なって置換または無置換のアルキル基またはアリール基を表す。Rは置換または無置換のアリール基であることがより好ましい。Rがアルキル基の場合は、直鎖、分岐状または環状のアルキル基が挙げられ、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、へキシル基、ヘプチル基、オクチル基、シクロへキシル基等の炭素数1~16のアルキル基が好ましく挙げられる。また、Rがアリール基の場合は、フェニル基、ナフチル基等の炭素数6~18程度のアリール基が好ましく挙げられる。
上記化合物IのXRnにおいて、XがNのときも、Xが環状ハロシランに配位して環状ハロシラン中性錯体を形成する。但し、XRn中のアミノ基の数は1である。XがNである場合、Xは3価であり、Rの数を示すnは3である。Rは同一または異なって置換または無置換のアルキル基またはアリール基を表す。Rは置換または無置換のアルキル基がより好ましい。Rがアルキル基の場合は、直鎖、分岐状または環状のアルキル基が挙げられ、炭素数1~16のアルキル基が好ましく、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等の炭素数1~4のアルキル基がより好ましく、炭素数1~3のアルキル基がさらに好ましいものとして挙げられる。また、Rがアリール基の場合は、フェニル基、ナフチル基等の炭素数6~18程度のアリール基が好ましく挙げられる。
上記XがP、P=Oのときや、XがNのときのXRnにおいて、上記アルキル基が有していてもよい置換基としては、アルコキシ基、アミノ基、シアノ基、カルボニル基、スルホニル基等が挙げられ、アリール基が有していてもよい置換基としては、アルコキシ基、アミノ基、シアノ基、カルボニル基、スルホニル基等が挙げられる。アミノ基としては、ジメチルアミノ基やジエチルアミノ基が挙げられるが、アミノ基の数はXR3中1つ以下であり、第3級ポリアミンを除く趣旨である。なお、3個のRは、同一であっても、異なっていてもよい。
上記XがS、S=O、Oのとき、Xは2価であり、Rの数を示すnは2である。Rは、XがP、P=Oである場合のRと同じ意味であり、置換または無置換のアルキル基またはアリール基である。Rは置換または無置換のアリール基であることがより好ましい。また、XがCNのとき、Xは1価であり、Rの数を示すnは1である。この場合も、Rは、XがP、P=Oである場合のRと同じ意味であり、置換または無置換のアルキル基またはアリール基である。Rは置換または無置換のアリール基であることがより好ましい。
上記化合物Iの具体例としては、トリフェニルホスフィン(PPh3)、トリフェニルホスフィンオキシド(Ph3P=O)、トリス(4-メトキシフェニル)ホスフィン(P(MeOPh)3)等のXがPまたはP=Oの化合物;ジメチルスルホキシド等のXがS=Oの化合物;p-トルニトリル(p-メチルベンゾニトリルともいう)等のXがCNの化合物等が挙げられる。
上記(II)の複素環化合物(化合物II)においては、環中に非共有電子対を有していることが必要であり、この非共有電子対が環状ハロシランに配位して環状ハロシラン中性錯体を形成する。このような複素環化合物としては、環中にローンペアを有するN,O,SまたはPを含む置換または無置換の複素環化合物1種以上が挙げられる。複素環化合物が有していてもよい置換基は、上記Rがアリール基の場合に有していてもよい置換基と同じである。複素環化合物としては、ピリジン類、イミダゾール類、ピラゾール類、オキサゾール類、チアゾール類、イミダゾリン類、ピラジン類、チオフェン類、フラン類等が挙げられる。具体例としては、N,N-ジメチル-4-アミノピリジン、テトラヒドロチオフェン、テトラヒドロフラン等が挙げられる。
上記化合物Iおよび上記化合物IIのうち、反応温度において液体である化合物は溶媒の役目も兼ねることができる。
上記化合物Iおよび上記化合物IIの使用量は適宜決定すればよく、ハロシラン6molに対し、上記化合物を、例えば、0.1~50mol用いてもよく、0.5~3mol用いることが好ましい。
上記方法Bで得られる上記環状ハロシラン中性錯体は、原料とするハロシランのケイ素原子が3~8個(好ましくは5個または6個、特に6個)から形成され、ケイ素原子が連なった環を含む錯体であり、一般式[Y]l[SimZ2m-aHa]で表すことができる。上記一般式で、Yは上記化合物Iまたは上記化合物IIであり、Zは、同一または異なって、Cl、Br、I、Fのいずれかのハロゲン原子を表し、lは1または2、mは3~8、好ましくは5または6、特に好ましくは6、aは0~2m-1、好ましくは0~mである。
上記方法A、方法Bにおけるハロシランの環化反応は、第3級アミンを添加して行うことが好ましい。第3級アミンを添加することにより生成する塩酸を中和することができる。
上記環化反応で用いられる第3級アミンとしては、例えば、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、トリオクチルアミン、トリイソブチルアミン、トリイソペンチルアミン、ジエチルメチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン(DIPEA)、ジメチルブチルアミン、ジメチル-2-エチルヘキシルアミン、ジイソプロピル-2-エチルヘキシルアミン、メチルジオクチルアミン等が好ましく挙げられる。
上記第3級アミンは、1種を用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。また、第3級アミンには、環状ハロシランに配位するものも含まれ、例えば、ジエチルメチルアミン、トリエチルアミン等の、比較的嵩高くなく、対称性の高いアミン等は、比較的効率よく配位すると考えられる。しかし、前記化合物IのXRnで表される第3級アミンだけでは、環状ハロシラン中性錯体の収率が低くなる傾向にあるため、第3級アミン以外の化合物Iを併用することが好ましい。
上記第3級アミンは、ハロシラン1molに対して、0.5~4mol用いることが好ましく、1molとすることが特に好ましい。
なお、本発明では、限定はされないが、炭素原子を2個以上有し、アミノ基を3個以上有する第3級ポリアミンは用いないことが好ましい。上記第3級ポリアミンを用いると、対カチオンにケイ素を含む環状ハロシランの塩が生成し、保管時や還元反応時にシランガスが発生するため、安全性の観点から好ましくない。
上記方法A、方法Bにおける上記ハロシランの環化反応は、必要に応じて有機溶媒中で実施できる。この有機溶媒としては、環化反応を妨げない溶媒が好ましく、例えば、炭化水素系溶媒(例えば、ヘキサン、ヘプタン、ベンゼン、トルエン等)、ハロゲン化炭化水素系溶媒(例えば、クロロホルム、ジクロロメタン、1,2-ジクロロエタン等)、エーテル系溶媒(例えば、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、シクロペンチルメチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、メチルターシャリーブチルエーテル等)、アセトニトリル等の非プロトン性極性溶媒が好ましく挙げられる。これらの中でも、クロロホルム、ジクロロメタン、1,2-ジクロロエタン等の塩素化炭化水素系溶媒が好ましく、特に1,2-ジクロロエタンが好ましい。なお、これら有機溶媒は、1種を用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
上記有機溶媒の使用量は、特に制限されないが、通常、ハロシランの濃度が0.5~10mol/Lとなるように調整することが好ましく、より好ましい濃度は0.8~8mol/L、さらに好ましい濃度は1~5mol/Lである。
環化反応における反応温度は、反応性に応じて適宜設定でき、例えば0~120℃程度、好ましくは15~70℃程度である。また環化反応は、窒素等の不活性ガス雰囲気下で行うことが推奨される。
環化反応後は、環状ハロシラン化合物を含む反応液を非ハロゲン溶媒で洗浄する工程を含むことが好ましい。即ち、環化反応が終われば、環状ハロシラン化合物(環状ハロシランの塩、フリーの環状ハロシラン、環状ハロシラン中性錯体等)の溶液あるいは分散液が生成する。これを濃縮あるいは濾過し、得られた固体を例えば、クロロホルム、ジクロロメタン、1,2-ジクロロエタンなどのハロゲン溶媒やアセトニトリル、ヘキサンなどの非ハロゲン溶媒等で洗浄することで、精製してもよい。環状ハロシラン化合物を、非ハロゲン溶媒を用いて洗浄する工程を含むことにより、水素化シラン組成物に含まれるハロゲン元素等の不純物含有量が顕著に低減される傾向にある。
上記非ハロゲン溶媒で洗浄するに先立って、ハロゲン溶媒で洗浄する工程を含むことが好ましい。ハロゲン溶媒で洗浄することによりアミン塩酸塩を除去でき、非ハロゲン溶媒で洗浄することによりハロゲン溶媒を除去できる。
上記ハロゲン溶媒を用いた洗浄、および上記非ハロゲン溶媒を用いた洗浄は、それぞれ1回ずつでもよいし、それぞれ2回以上であってもよい。
上記環状ハロシラン化合物は、精製により、高純度な固体として得ることが可能である。しかし、所望により、不純物を含む環状ハロシラン化合物を含む組成物として得ることも可能である。環状ハロシラン化合物を含む組成物は、環状ハロシラン化合物を80質量%以上含むことが好ましく、90質量%以上がより好ましく、95質量%以上がさらに好ましい。上限は例えば99.99質量%である。上記不純物としては、溶剤や上記化合物Iまたは上記化合物IIの残渣、環状ハロシラン化合物の分解物やハロシランポリマー等である。環状ハロシラン化合物を含む組成物における上記不純物の含有量は、20質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましく、5質量%以下がさらに好ましく、下限は例えば0.01質量%である。
<還元反応工程>
本発明の製造方法で使用する、環状水素化シラン若しくは環状水素化シランを含む組成物は任意であるが、環状ハロシラン化合物を還元する工程(以下、「還元反応工程」若しくは「還元工程」ともいう)を含む方法により製造されたものを使用することが好ましい。還元工程で使用する環状ハロシラン化合物は任意であるが、例えば上記環状ハロシランの塩、フリーの環状ハロシラン、環状ハロシラン中性錯体等を使用することが好ましい。上記還元工程は、還元剤の存在下で行われることが好ましい。
上記還元工程で用いることのできる還元剤は特に制限されないが、アルミニウム系還元剤、ホウ素系還元剤からなる群より選ばれる1種以上を用いることが好ましい。アルミニウム系還元剤としては、例えば、水素化リチウムアルミニウム(LiAlH4;LAH)、水素化ジイソブチルアルミニウム(DIBAL)、水素化ビス(2-メトキシエトキシ)アルミニウムナトリウム[「Red-Al」(シグマアルドリッチ社の登録商標)]等の金属水素化物等が挙げられる。ホウ素系還元剤としては、例えば、水素化ホウ素ナトリウム、水素化トリエチルホウ素リチウム等の金属水素化物や、ジボラン等が挙げられ、金属水素化物を用いることが好ましい。なお、還元剤は1種を用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
上記還元工程における還元剤の使用量は、適宜設定すればよく、例えば、環状ハロシラン化合物のケイ素-ハロゲン結合1個に対する還元剤中のヒドリドの当量を、少なくとも0.9当量以上とすることが好ましい。上記還元剤の使用量は、より好ましくは1.0~50当量、さらに好ましくは1.0~30当量、特に好ましくは1.0~15当量、最も好ましくは1.0~2当量である。還元剤の使用量が多すぎると、後処理に時間を要し生産性が低下する傾向がある。一方、還元剤の使用量が少なすぎると、ハロゲンが還元されずに残り、収率が低下する傾向がある。
上記還元工程では、還元助剤としてルイス酸触媒を上記還元剤と併用してもよい。ルイス酸触媒としては、塩化アルミニウム、塩化チタン、塩化亜鉛、塩化スズ、塩化鉄等の塩化物;臭化アルミニウム、臭化チタン、臭化亜鉛、臭化スズ、臭化鉄等の臭化物;ヨウ化アルミニウム、ヨウ化チタン、ヨウ化亜鉛、ヨウ化スズ、ヨウ化鉄等のヨウ化物;フッ化アルミニウム、フッ化チタン、フッ化亜鉛、フッ化スズ、フッ化鉄等のフッ化物;等のハロゲン化金属化合物が挙げられる。これらは1種を用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
上記還元工程における反応は、必要に応じて、有機溶媒の存在下で行うことができる。上記有機溶媒としては、例えば、ヘキサン、トルエン等の炭化水素系溶媒;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、シクロペンチルメチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、メチルターシャリーブチルエーテル等のエーテル系溶媒;等が挙げられる。これら有機溶媒は1種を用いてもよいし2種以上を併用してもよい。また、環状ハロシラン化合物を製造するときに得られた有機溶媒溶液を、そのまま還元工程における有機溶媒溶液として用いてもよいし、環状ハロシラン化合物を含む有機溶媒溶液から、有機溶媒を留去して、新たな有機溶媒を添加して還元工程を行ってもよい。なお、還元工程における反応に用いる有機溶媒は、その中に含まれる水や溶存酸素を取り除くため、反応前に蒸留や脱水等の精製を行っておくことが好ましい。
還元反応に用いる有機溶媒の使用量としては、環状ハロシラン化合物の濃度が0.01~1mol/Lとなるように調整することが好ましく、より好ましくは0.02~0.7mol/L、さらに好ましくは0.03~0.5mol/Lである。上記範囲で反応を行うことにより、水素化シラン組成物に含まれるハロゲン元素等の不純物含有量が顕著に低減される傾向にある。
還元は、環状ハロシラン化合物と還元剤とを接触させることにより行うことができる。環状ハロシラン化合物と還元剤との接触に際しては、溶媒の存在下で接触させることが好ましい。溶媒の存在下で環状ハロシラン化合物と還元剤とを接触させるには、例えば、(a)環状ハロシラン化合物の溶液または分散液に、還元剤をそのまま加える、(b)環状ハロシラン化合物の溶液または分散液に、還元剤を溶媒に溶解または分散させた溶液または分散液を加える、(c)溶媒中に環状ハロシラン化合物と還元剤を同時にもしくは順次加える、などの混合手順を採用すればよい。これらの中で特に好ましいのは上記(b)の態様である。
また環状ハロシラン化合物と還元剤との接触に際しては、還元を行う反応系内に、環状ハロシラン化合物の溶液または分散液と、還元剤の溶液または分散液との少なくともいずれか一方を滴下することが好ましい。このように環状ハロシラン化合物および還元剤の一方または両方を滴下することにより、還元反応で生じる発熱を滴下速度等でコントロールすることができるので、例えばコンデンサー等の小型化が可能になるなど、生産性の向上に繋がる効果が得られる。
環状ハロシラン化合物と還元剤の一方または両方を滴下する場合の好ましい態様としては、以下の3つの態様がある。即ち、A)反応器内に環状ハロシラン化合物の溶液または分散液を仕込んでおき、これに還元剤の溶液または分散液を滴下する態様、B)反応器内に還元剤の溶液または分散液を仕込んでおき、これに環状ハロシラン化合物の溶液または分散液を滴下する態様、C)反応器内に、環状ハロシラン化合物の溶液または分散液と還元剤の溶液または分散液とを同時または順次滴下する態様である。これらの中でも上記A)の態様が好ましい。
環状ハロシラン化合物と還元剤の一方または両方を上記A)~C)の態様で滴下する場合、環状ハロシラン化合物の溶液または分散液の濃度は、好ましくは0.01mol/L以上、より好ましくは0.02mol/L以上、さらに好ましくは0.04mol/L以上、特に好ましくは0.05mol/L以上である。環状ハロシラン化合物の濃度が低すぎると、目的生成物を単離する際に留去しなければいけない溶媒量が増えるので、生産性が低下する傾向がある。一方、環状ハロシランの溶液または分散液の濃度の上限は、好ましくは1mol/L以下、より好ましくは0.8mol/L以下、さらに好ましくは0.5mol/L以下である。
滴下時の温度(詳しくは、滴下用の溶液または分散液の温度)の下限は、好ましくは-198℃以上、より好ましくは-160℃以上、さらに好ましくは-100℃以上である。また、滴下時の温度の上限は、好ましくは+150℃以下、より好ましくは+100℃以下、さらに好ましくは+80℃以下、特に好ましくは+40℃以下である。なお、反応容器の温度(反応温度)は、環状ハロシラン化合物や還元剤の種類に応じて適宜設定すればよく、通常、下限を-198℃以上とすることが好ましく、より好ましくは-160℃以上、さらに好ましくは-100℃以上である。反応容器(反応溶液)の温度の上限は、+150℃以下が好ましく、より好ましくは+100℃以下、さらに好ましくは+80℃以下、特に好ましくは+40℃以下である。反応温度が低いと、中間生成物や目的物の分解や重合を抑制できるので、収量が向上する。反応時間は、反応の進行の程度に応じて適宜決定すればよく、通常、10分以上72時間以下、好ましくは1時間以上48時間以下、より好ましくは2時間以上24時間以下である。
一例として、上記方法Bにおいて、ハロシランとしてトリクロロシラン、化合物Iとしてトリフェニルホスフィン(PPh3)、第3級アミンとしてN,N-ジイソプロピルエチルアミン(DIPEA)を用いたスキーム例を下記に示す。
トリクロロシランを出発原料とし、上記化合物Iをトリフェニルホスフィン(PPh3)とすると、通常、上記スキームのように6員環のドデカクロロシクロヘキサシランを含む錯体(ドデカクロロシクロヘキサシランにトリフェニルホスフィンが配位した中性錯体([PPh3]2[Si6Cl12]))となる。この環状ハロシラン中性錯体は環構造を形成するケイ素原子以外にケイ素原子を含まないため、還元やアルキル化もしくはアリール化した際にシランガスや有機モノシランが発生しないか、発生してもその量を低く抑えることができる。
この環化反応で生じた環状ハロシラン中性錯体の収量・収率は、錯体が定量的に反応する下記スキームで表されるメチル化反応を利用して算出できる。
上記環状ハロシラン中性錯体(例えば、[PPh3]2[Si6Cl12])を還元して環状水素化シラン(例えば、シクロヘキサシラン)を得る方法は、例えば、還元剤としてLiAlH4を用いた場合は、以下のスキームで表される。
還元反応は、通常、例えば、窒素ガス、アルゴンガス等の不活性ガスの雰囲気下で行うことが好ましい。
本発明の環状水素化シランあるいは該環状水素化シランを含む組成物が還元工程を含む方法により得られた物である場合、任意であるが、本発明の製造方法は、該環状水素化シランを含む組成物(例えば還元反応の反応液)を、前記環状水素化シランと、環状ハロシラン化合物を還元する工程で使用した溶媒(「還元反応溶媒」という)とを含む液層と、固形物(還元剤の残渣や副生成物など)とに固液分離する工程を含んでいてもよい。還元反応後に固液分離工程を設けることにより、本発明の効果がより顕著に発揮される傾向にある。本発明の製造方法は、固液分離工程を1または2以上含んでいてもよく、1又は2含むことが好ましい。
本発明の環状水素化シランあるいは該環状水素化シランを含む組成物が還元工程を含む方法により得られた物である場合、任意であるが、本発明の製造方法は、前記環状水素化シランと、環状ハロシラン化合物を還元する工程で使用した溶媒(「還元反応溶媒」という)とを含む組成物に他の溶媒(上記高沸点溶媒を除き、好ましくは還元工程で使用した溶媒を除く)を添加する工程を含んでいてもよい。
前記他の溶媒を添加する工程により得られた組成物は、さらに還元工程で使用した溶媒の一部若しくは全部を留去したり、上記他の溶媒が還元工程で使用した溶媒と相溶しない場合には該他の溶媒で環状水素化シラン化合物を抽出する等して、前記環状水素化シランと、還元反応溶媒とを含む組成物に含まれる、該還元反応溶媒の一部または全部を、他の溶媒に溶媒置換してもよい(以下、「溶媒置換工程」という)。
すなわち、本発明の製造方法は、溶媒置換工程を含んでいてもよい。前記添加する他の溶媒若しくは置換する溶媒としては、任意であるが、添加若しくは溶媒置換することにより、還元剤の残渣や副生成物などの析出が促進されるものを使用する方が、濃縮工程や蒸留工程における析出物量が低減される傾向にあるため、本発明の効果がより顕著に発揮される傾向にあるため好ましい。そのような溶媒としては、ヘキサン等の炭化水素系溶媒が好ましく例示される。濃縮を容易とする観点からは、低沸点溶媒であることが好ましい。
任意であるが、本発明の製造方法は、他の溶媒の添加工程若しくは溶媒置換工程の以後に固液分離工程を設けてもよい。
また、他の溶媒の添加工程若しくは溶媒置換工程の以前に、高沸点溶媒を添加する工程を設けてもよい。
本発明の製造方法は、任意であるが、(I)前記環状水素化シランと、(II)環状ハロシラン化合物を還元する工程で使用した溶媒および/またはその他の溶媒とを含む組成物から、該(II)の溶媒の一部を留去する工程(以下、「濃縮工程という」)を含んでいてもよい。高沸点溶媒の不存在下で前記環状水素化シランの含有量が高くなると、析出する還元剤の残渣や副生成物が釜の壁面に固着する等して生産性が低下する傾向にあるため、該環状水素化シラン化合物の濃度が高くならないように上記濃縮工程を行うか、上記濃縮工程の途中若しくは前に、前記高沸点溶媒を添加する工程を行うことが好ましい。
したがって、(I)前記環状水素化シランと、(II)環状ハロシラン化合物を還元する工程で使用した溶媒および/またはその他の溶媒とを含む組成物から、該(II)の溶媒を留去する工程を含み、該工程において該(II)の溶媒の全量が留去される前に、前記高沸点溶媒を添加する工程が行われることも、本発明の製法の好ましい形態の一つである。
高沸点溶媒が不存在の場合、濃縮工程において、環状水素化シランを含む組成物における環状水素化シランの含有量としては、該組成物100質量%に対して、90質量%未満であることが好ましく、80質量%以下であることが好ましい。
濃縮工程において、前記高沸点溶媒が不存在の場合に環状水素化シランの含有量を上記範囲より濃縮する場合には、薄膜蒸発など、なるべく熱履歴のかからない方法を選択することが好ましい。
環状水素化シランを含む組成物への高沸点溶媒の添加のタイミングとしては、環状水素化シランを含む組成物から前記環状水素化シランを取り出すときまでに高沸点溶媒の添加が開始されていれば任意であるが、上記還元工程を含む場合には、その前、途中、後であってもよく、濃縮工程を含む場合には、その前、途中、後であってもよく、溶媒置換工程を含む場合には、その前、途中、後であってもよく、固液分離工程を含む場合には、その前、途中、後であってもよい。ただし、上記のとおり、環状水素化シランを含む組成物における環状水素化シランの含有量が上記範囲のときに添加することが好ましい。
本発明の製造方法は、環状ハロシラン化合物、環状ハロシラン化合物を含む組成物、環状水素化シラン、および環状水素化シランを含む組成物から選ばれる少なくとも1つに、高沸点溶媒を添加する工程を、1または2以上含むことが好ましい。
本発明において、(I)前記環状水素化シランと、(II)環状ハロシラン化合物を還元する工程で使用した溶媒および/またはその他の溶媒とを含む組成物から、該(II)の溶媒の一部を留去する工程を含み、該工程の前若しくは途中若しくは後に、前記高沸点溶媒を添加する工程が行われてもよく、
(I)前記環状水素化シランと、(II)環状ハロシラン化合物を還元する工程で使用した溶媒および/またはその他の溶媒とを含む組成物から、該(II)の溶媒を留去する工程を含み、該工程において該(II)の溶媒の全量が留去される前に、前記高沸点溶媒を添加する工程が行われてもよい。
他方、(I)前記環状水素化シランと、(II)環状ハロシラン化合物を還元する工程で使用した溶媒および/またはその他の溶媒と、(III)前記高沸点溶媒と、を含む組成物から、該(II)の溶媒の少なくとも一部を留去する工程を、1または2以上含んでいてもよい。
本発明の好ましい態様において、前記高沸点溶媒を還元工程の前に添加する場合とは、例えばハロシランを環化する工程の前(ハロシランもしくはハロシランを含む組成物に添加)、途中(環状ハロシラン化合物を含む組成物に添加)、後(環状ハロシラン化合物を含む組成物に添加、もしくは環状ハロシラン化合物を単離する工程を経て、環状ハロシラン化合物に添加)が例示される。
一方、前記高沸点溶媒を還元工程の途中若しくは後に添加する場合、例えば環状水素化シランを含む組成物に添加してもよく、環状水素化シランを単離する工程により得られた環状水素化シランに添加してもよい。
析出物を効率よく除去する観点から、前記還元工程の途中若しくは後に、前記高沸点溶媒を添加する工程が行われ、さらにその後に前記環状水素化シランを含む液組成物を固液分離する工程が行われてもよい。
なお、本発明の製造方法は、環状水素化シランを取り出す工程に加え、任意の工程を含んでいてもよい。好ましい製造方法としては、例えば、下記の(ア)~(オ)が例示される。
(ア)環状水素化シランを含む組成物(典型的には上記還元工程で得られた反応液)を固液分離する工程(以下、「固液分離工程(A)」という)、該固液分離した液相を濃縮する工程(以下、「濃縮工程(A)」という)、環状水素化シランを取り出す工程をこの順に、必須に含む製造方法。
(イ)環状水素化シランを含む組成物(典型的には上記還元工程で得られた反応液)に他の溶媒(高沸点溶媒および還元工程で使用した溶媒を除く)を添加する工程(以下「添加工程(A)」という)、環状水素化シランと他の溶媒を含む組成物を固液分離する工程(「固液分離工程(B)」という)、該固液分離した液相を濃縮する工程(「濃縮工程(B)」という)、環状水素化シランを取り出す工程をこの順に、必須に含む製造方法。
(ウ)上記固液分離工程(A)、上記濃縮工程(A)、他の溶媒(高沸点溶媒および還元工程で使用した溶媒を除く)を添加する工程(以下「添加工程(B)」という)、環状水素化シランと他の溶媒を含む組成物を固液分離する工程(以下、「固液分離工程(B)」という)、環状水素化シランと他の溶媒を含む組成物を濃縮する工程(以下、「濃縮工程(B)」という)、環状水素化シランを取り出す工程をこの順に、必須に含む製造方法。
(エ)上記固液分離工程(A)、上記濃縮工程(A)、上記添加工程(B)、上記濃縮工程(B)、環状水素化シランを取り出す工程をこの順に、必須に含む製造方法。
(オ)環状水素化シランを含む組成物(典型的には上記還元工程で得られた反応液)を濃縮する工程(以下、「濃縮工程(C)」という)、上記添加工程(B)、上記固液分離工程(B)、上記濃縮工程(B)、環状水素化シランを取り出す工程をこの順に、必須に含む製造方法。
また、上記(ア)~(オ)について、高沸点溶媒を添加する工程は、前記のとおり環状水素化シランを取り出す工程を開始する前または同時に開始すればよく、好ましくは前記のとおりである。
本発明において、上記(ア)の製造方法が好ましく、上記(ア)において、濃縮工程(A)の後に、高沸点溶媒を添加する工程を行い、環状水素化シランを取り出す工程を行うことがより好ましく、高沸点溶媒の添加後に、さらに濃縮工程を行い、環状水素化シランを取り出す工程を行うことがさらに好ましい。
反応液から反応溶媒および/またはその他の溶媒を留去する濃縮工程において、溶媒を留去する方法として、減圧留去する方法が好ましく採用される。
固液分離を行う場合、固液分離の手法は、濾過が簡便であるため好ましく採用できるが、これに限定されるものではなく、例えば、遠心分離やデカンテーションなど公知の固液分離の手法を適宜採用できる。
以下、環状水素化シランを取り出す工程について説明する。環状水素化シランを取り出す工程は、これに限定されないが、好ましくは環状水素化シランを蒸留する工程(以下、「蒸留工程」ともいう)を含む。上記蒸留工程は、高沸点溶媒を残留物側に残しつつ、環状水素化シランを蒸留することが好ましい。
蒸留は、減圧蒸留であるのが好ましい。減圧蒸留する方法は特に限定されず、公知の蒸留塔で行えばよい。上記蒸留は、留分を複数に分けて行うことが好ましい。
特に鎖状水素化シランの含有量を低減するための一つの手法として、前記蒸留(特に減圧蒸留)を2回以上行うことが挙げられる。例えば、水素化シラン組成物を含む溶液を減圧蒸留し、環状水素化シラン(特にシクロヘキサシラン)含有量が適切な留分を回収した後(第1蒸留)、この回収留分を再度減圧蒸留して環状水素化シラン(特にシクロヘキサシラン)含有量が適切な留分を回収し(第2蒸留)、さらに必要に応じて第2蒸留を繰り返す操作を行ってもよい。
上記減圧蒸留は、環状水素化シランよりも高沸点の不純物および低沸点の不純物を分けるため、また水素化シラン組成物中の鎖状水素化シラン含有量を低減させるために、バッチ式で行ってもよい。
高沸点溶媒の含有量は、蒸留後の環状水素化シラン100質量%中、極力減少させることが好ましいが、例えば1質量%以下であることが好ましく、1000ppm以下であることがより好ましく、100ppm以下であることがさらに好ましい。
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
(ガスクロマトグラフィー(GC)分析方法)
測定方法:GC FID法
分析装置:島津製作所社製 GC2014
カラム:Agilent J&W GCカラム DB-5ms 0.25μm(Film)×0.25mm(Diam)×30m(Length)(Agilent Technologies)
気化室温度:250度
検出器温度:280度
昇温条件:50度5分保持、20度/分で250度まで昇温、10度/分で280度に昇温10分保持
製造例1(環状ハロシラン化合物の製造)
温度計、コンデンサー、滴下ロートおよび撹拌装置を備えた3L四つ口フラスコ内を窒素ガスで置換した後、当該フラスコ内に、配位化合物としてトリフェニルホスフィン155g(0.591mol)と、塩基性化合物としてジイソプロピルエチルアミン458g(3.54mol)と、溶媒として1,2-ジクロロエタン1789gとを入れた。続いて、フラスコ内の溶液を撹拌しながら、25℃条件下において、滴下ロートから、ハロシラン化合物としてトリクロロシラン481g(3.54mol)をゆっくりと滴下した。
滴下終了後、そのまま2時間撹拌し、続いて60℃で8時間加熱撹拌することにより環化カップリング反応を行い、均一な反応液を得た。得られた反応液を濃縮し、クロロホルム7200gを加えて室温で1時間撹拌し洗浄した後、ろ過を行い、ろ過残渣を減圧下で乾燥することにより、白色固形物(粗製品)を得た。
続いて、上記で得られた白色固形物に対して5倍量(質量基準)の脱水ヘキサンを加えて室温で24時間撹拌し洗浄した後、ろ過を行った。得られたろ過残渣に対し、上記と同じ手順によりヘキサンで洗浄・ろ過を再度行い、得られたろ過残渣を減圧下で乾燥することで、環状ハロシラン化合物(ビス(トリフェニルホスフィン)ドデカクロロシクロヘキサシラン([Ph3P]2[Si6Cl12]))の精製品を得た。洗浄から乾燥までの工程はすべて窒素雰囲気下で行った。得られた精製品をガスクロマトグラフィーにより測定したところ、精製品には、ハロゲン化炭化水素化合物としてクロロホルムが1質量%、アミン塩(アミン塩酸塩)が1質量%含まれていた。
実施例
窒素雰囲気下で2000mLフラスコに、上記製造例1で得られた環状ハロシラン化合物の精製品100gとシクロペンチルメチルエーテル(CPME)591gを入れ、-60℃で撹拌した。この中に、LiAlH4の1Mジエチルエーテル溶液183gを滴下ロートから滴下した。滴下終了後、-60℃~-71℃で3時間撹拌し、還元反応を行った。その後、反応液を室温20℃まで昇温した後、窒素雰囲気下で固液分離(濾過)し、濾液783gを取得した。得られた濾液195gから減圧下でジエチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテルの溶媒を留去した。得られた濃縮液18g(シクロヘキサシラン1.5g含有)に高沸点溶媒としてジメチルシリコーンオイル79g(KF-96-20cs,沸点460℃)を添加した。その後、シクロペンチルメチルエーテル、ジエチルエーテルの溶媒をさらに留去して濃縮した。得られた濃縮液を減圧条件下で蒸留することで、シクロヘキサシランの精製品を得た(蒸留条件:圧力1.7~2.3Torr,内温25~60℃)。
フラスコの内部を確認したところ、析出物は流動性を有しており、高沸点溶媒と共にフラスコから除去することが可能であった。
以上より、本発明の製造方法は、析出物の挙動を改善し、析出物の容器への固化を抑制することが可能であることが確認された。よって、生産性の向上が可能であることが明らかとなった。