本発明者らは、アルミニウム系ヒドリド還元剤を用いて所定の水素化シランを合成し、水素化シランを製造した後の残渣を、安全で、且つ効率良く失活処理するために鋭意検討を重ねてきた。その結果、水素化シランを回収した後の水素化シラン含有アルミニウム含有残渣と、酸とを接触させるか、或いはアルカリ金属またはアルカリ土類金属含有塩基性化合物とを接触させれば、自然発火性を有する水素化シランと、高い反応性を有するアルミニウム系ヒドリド還元剤の両方を、安全で、効率良く失活処理できることを見出し、本発明を完成した。
以下、本発明について詳細に説明する。
まず、本発明では、アルミニウム系ヒドリド還元剤を用いて下記式(1)または下記式(2)で表される水素化シランを合成することを前提としており、例えば、ハロゲン化シランと、アルミニウム系ヒドリド還元剤とを反応させて上記水素化シランを合成する方法が挙げられる。下記式(1)中、nは3〜6であり、下記式(2)中、mは3〜8である。なお、水素化シランを合成する工程を、以下、還元工程と称することがある。
SinH2n+2 ・・・(1)
(SiH2)m ・・・(2)
上記式(1)で表される水素化シランは、鎖状水素化シランであり、上記式(2)で表される水素化シランは、環状水素化シランである。
上記式(1)で表される鎖状水素化シランは、ハロゲン化シランとして鎖状ハロゲン化シランを用いることによって製造され、該鎖状ハロゲン化シランは、例えば、ケイ素またはケイ素合金を高温でハロゲン化する方法などによって製造できる。
上記式(2)で表される環状水素化シランは、ハロゲン化シランとして環状ハロゲン化シランを用いることによって製造され、該環状ハロゲン化シランは、例えば、ジハロゲン化モノシラン、トリハロゲン化モノシラン、テトラハロゲン化モノシランなどのハロゲン化モノシランを環化することによって製造できる。上記還元工程に供する環状ハロゲン化シラン(環状ハロシラン化合物ともいう)は、錯体であっても、塩であっても、フリーの環状ハロゲン化シランであってもよい。
本発明では、上記式(2)で表される環状水素化シランを製造することが好ましく、該環状水素化シランの製造原料である環状ハロゲン化シランの好ましい製造方法について説明する。
環状ハロゲン化シランの製造原料となる上記ハロゲン化モノシラン(ハロシランともいう)としては、例えば、ジクロロシラン、ジブロモシラン、ジヨードシラン、ジフルオロシラン等のジハロゲン化モノシラン;トリクロロシラン、トリブロモシラン、トリヨードシラン、トリフルオロシラン等のトリハロゲン化モノシラン;テトラクロロシラン、テトラブロモシラン、テトラヨードシラン、テトラフルオロシラン等のテトラハロゲン化モノシラン;等を用いることができる。これらの中でも好ましくはトリハロゲン化モノシランであり、特に好ましくはトリクロロシランである。
上記ハロゲン化モノシランを環化する方法は特に制限されないが、例えば、下記(A)または(B)の方法が好ましい。
(A)ハロゲン化モノシランと、ホスホニウム塩および/またはアンモニウム塩とを接触させ、環状ハロゲン化シランの塩を得る方法[以下、方法Aという場合がある]。
(B)ハロゲン化モノシランと、下記(I)および(II)からなる群より選択される少なくとも1種の化合物とを接触させ、環状ハロゲン化シラン中性錯体を得る方法[以下、方法Bという場合がある]。
(I)XRnとして表される化合物[以下、化合物Iという場合がある]。Xは、P、P=O、N、S、S=O、O、またはCNである。XがPまたはP=Oのときはn=3であり、Rは同一または異なって置換または無置換のアルキル基またはアリール基を表す。XがNのときはn=3であり、Rは同一または異なって置換または無置換のアルキル基またはアリール基を表す。XがS、S=O、Oのときはn=2であり、Rは同一または異なって置換または無置換のアルキル基またはアリール基を表す。XがCNのときはn=1であり、Rは置換または無置換のアルキル基またはアリール基を表す。なお、Xが、P、P=O、S、S=O、O、またはCNの場合、Rが置換のアルキル基または置換のアリール基で、置換基がアミノ基の場合は、XRn中のアミノ基の数は0または1である。一方、XがNの場合は、XRnに含まれるXR2を1つのアミノ基として数え、XRn中のアミノ基の数は1である。
(II)環中に非共有電子対を有するN、O、SまたはPを含む置換または無置換の複素環化合物からなる群より選択される少なくとも1種の複素環化合物[以下、化合物IIという場合がある]。但し、複素環化合物が有する置換基としての第3級アミノ基の数は0または1である。
まず、上記方法Aについて説明する。
上記ホスホニウム塩は、第4級ホスホニウム塩であることが好ましく、下記式(11)で表される塩が好ましく挙げられる。下記式(11)において、R1〜R4は各々異なっていてもよいが、全て同じ基であることが好ましい。
また、上記アンモニウム塩は、第4級アンモニウム塩であることが好ましく、下記式(12)で表される塩が好ましく挙げられる。下記式(12)において、R5〜R8は各々異なっていてもよいが、全て同じ基であることが好ましい。
上記式(11)、上記式(12)において、R1〜R4およびR5〜R8は各々独立して、水素原子、アルキル基、アリール基を表し、A-は1価のアニオンを示す。
上記R1〜R4およびR5〜R8のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、へキシル基、ヘプチル基、オクチル基、シクロへキシル基等の炭素数1〜16のアルキル基が好ましく挙げられ、炭素数1〜8のアルキル基がより好ましい。
上記R1〜R4およびR5〜R8のアリール基としては、フェニル基、ナフチル基等の炭素数6〜18のアリール基が好ましく挙げられ、炭素数6〜12のアリール基がより好ましい。
上記R1〜R4およびR5〜R8は、アルキル基またはアリール基であることが好ましく、アリール基がより好ましい。R1〜R4およびR5〜R8がアリール基であれば、後述するように、環状ハロゲン化シランの塩を製造する際に、環状ハロゲン化シランの塩が反応液中で沈殿生成して、環状ハロゲン化シランの塩を高純度で得ることが容易になる。また、同様の理由から、アンモニウム塩よりもホスホニウム塩を用いる方が好ましい。
上記式(11)、式(12)において、A-で示される1価のアニオンとしては、ハロゲン化物イオン(例えば、Cl-、Br-、I-等)、ボレートイオン(例えば、BF4-)、リン系アニオン(例えば、PF6-)等が挙げられる。これらの中でも入手の容易さの点からハロゲン化物イオンが好ましく、より好ましくはCl-、Br-、I-、特に好ましくはCl-、Br-である。
上記ホスホニウム塩とアンモニウム塩は、どちらか一方のみ用いてもよく、両方用いてもよい。ホスホニウム塩は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。アンモニウム塩は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
上記ホスホニウム塩および/またはアンモニウム塩の使用量(2種以上を用いる場合はその合計使用量)は、ハロゲン化モノシラン1molに対して、好ましくは0.01mol以上、より好ましくは0.05mol以上、さらに好ましくは0.08mol以上、また好ましくは1.0mol以下、より好ましくは0.7mol以下、さらに好ましくは0.5mol以下である。ホスホニウム塩および/またはアンモニウム塩の使用量が上記範囲であると、環状ハロゲン化シランの塩の収率が向上する傾向にある。
上記方法Aは、ポリエーテル、ポリチオエーテル、多座ホスフィン等のキレート型配位子の存在下で行うことが好ましい。環化カップリング反応をキレート型配位子の存在下で行うことにより、環状ハロゲン化シランの塩を効率良く製造できる。また、用いるキレート型配位子の種類を適宜選択することにより、得られる環状ハロゲン化シラン中の水素数や組成比を調整できる。
上記ポリエーテルとしては、例えば、1,1−ジメトキシエタン、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、1,2−ジプロポキシエタン、1,2−ジイソプロポキシエタン、1,2−ジブトキシエタン、1,2−ジフェノキシエタン、1,3−ジメトキシプロパン、1,3−ジエトキシプロパン、1,3−ジプロポキシプロパン、1,3−ジイソプロポキシプロパン、1,3−ジブトキシプロパン、1,3−ジフェノキシプロパン、1,4−ジメトキシブタン、1,4−ジエトキシブタン、1,4−ジプロポキシブタン、1,4−ジイソプロポキシブタン、1,4−ジブトキシブタン、1,4−ジフェノキシブタン等のジアルコキシアルカン類が挙げられる。これらの中でも、特に好ましくは1,2−ジメトキシエタンが挙げられる。
上記ポリチオエーテルとしては、前記例示したポリエーテルの酸素原子を硫黄原子に置換したものが挙げられる。
上記多座ホスフィンとしては、例えば、1,2−ビス(ジメチルホスフィノ)エタン、1,2−ビス(ジエチルホスフィノ)エタン、1,2−ビス(ジプロピルホスフィノ)エタン、1,2−ビス(ジブチルホスフィノ)エタン、1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン、1,3−ビス(ジメチルホスフィノ)プロパン、1,3−ビス(ジエチルホスフィノ)プロパン、1,3−ビス(ジプロピルホスフィノ)プロパン、1,3−ビス(ジブチルホスフィノ)プロパン、1,3−ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパン、1,4−ビス(ジメチルホスフィノ)ブタン、1,4−ビス(ジエチルホスフィノ)ブタン、1,4−ビス(ジプロピルホスフィノ)ブタン、1,4−ビス(ジブチルホスフィノ)ブタン、1,4−ビス(ジフェニルホスフィノ)ブタン等のビス(ジアルキルホスフィノ)アルカン類やビス(ジアリールホスフィノ)アルカン類が挙げられる。これらの中でも、特に好ましくは1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタンが挙げられる。
上記キレート型配位子の使用量は適宜設定すればよいが、例えば、ハロゲン化モノシラン1molに対して、好ましくは0.01mol以上、より好ましくは0.05mol以上、さらに好ましくは0.1mol以上、また好ましくは50mol以下、より好ましくは40mol以下、さらに好ましくは30mol以下である。
上記方法Aで得られる環状ハロゲン化シランの塩は、例えば、下記式(13)で表されるものが好適である。
上記式(13)において、X1とX2はそれぞれ独立してハロゲン原子を表し、Lはアニオン性配位子を表し、pは配位子Lの価数として−2〜0の整数を表し、Kは対カチオンを表し、qは対カチオンKの価数として0〜2の整数を表し、nは0〜5の整数を表し、aとbとcは0以上、“2n+6”以下の整数(但し、a+b+c=2n+6であり、aとcは同時に0ではない)を表し、dは0〜3の整数(但し、aとdは同時に0ではない)、eは0〜3の整数(但し、d+e=3)を表し、mは1〜2であり、sは1以上の整数を表し、tは1以上の整数を表す。
上記環状ハロゲン化シランの塩は、ルイス酸と接触させて反応させることにより、フリーの環状ハロゲン化シランとしてもよい。フリーの環状ハロゲン化シランとは、例えば、Si5Cl10やSi6Cl12などの非錯体型の環状ハロゲン化シランを意味する。具体的には、環状ハロゲン化シランの塩をルイス酸と接触させると、ルイス酸が環状ハロゲン化シランの塩に含まれるアニオン性配位子に求電子的に作用して、環状ハロゲン化シランの塩からアニオン性配位子を引き抜くとともに対カチオンが遊離し、対応するフリーの環状ハロゲン化シランを得ることができる。
上記ルイス酸の種類は特に限定されないが、金属ハロゲン化物を用いることが好ましい。金属ハロゲン化物としては、例えば、金属塩化物、金属臭化物、金属ヨウ化物等が挙げられるが、反応性や反応の制御の容易性の点から、金属塩化物を用いることが好ましい。金属ハロゲン化物を構成する金属元素としては、ホウ素、アルミニウム、ガリウム、インジウム、タリウム等の13族元素、銅、銀、金等の11族元素、チタン、ジルコニウム等の4族元素、鉄、亜鉛、カルシウム等が挙げられる。ルイス酸としては、具体的に、三フッ化ホウ素、三塩化ホウ素、三臭化ホウ素等のハロゲン化ホウ素;塩化アルミニウム、臭化アルミニウム等のハロゲン化アルミニウム;塩化ガリウム、臭化ガリウム等のハロゲン化ガリウム;塩化インジウム、臭化インジウム等のハロゲン化インジウム;塩化タリウム、臭化タリウム等のハロゲン化タリウム;塩化銅、臭化銅等のハロゲン化銅;塩化銀、臭化銀等のハロゲン化銀;塩化金、臭化金等のハロゲン化金;塩化チタン、臭化チタン等のハロゲン化チタン;塩化ジルコニウム、臭化ジルコニウムなどのハロゲン化ジルコニウム;塩化鉄、臭化鉄等のハロゲン化鉄;塩化亜鉛、臭化亜鉛などのハロゲン化亜鉛;塩化カルシウム、臭化カルシウム等のハロゲン化カルシウム;等が挙げられる。
上記ルイス酸の使用量は、環状ハロゲン化シランの塩とルイス酸との反応性に応じて適宜調整すればよいが、例えば、環状ハロゲン化シランの塩1molに対して、好ましくは0.5mol以上、より好ましくは1.5mol以上、また好ましくは20mol以下、より好ましくは10mol以下である。
上記環状ハロゲン化シランの塩とルイス酸との反応は、溶媒または分散媒(これらを単に溶媒という)中で行うことが好ましい。反応において使用する溶媒(反応溶媒)としては、ヘキサン、トルエン等の炭化水素系有機溶媒;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、シクロペンチルメチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、メチルターシャリーブチルエーテル等のエーテル系有機溶媒等が挙げられる。これらの有機溶媒は1種のみを用いてもよいし2種以上を併用してもよい。なお反応溶媒は、その中に含まれる水や溶存酸素を取り除くため、反応前に蒸留や脱水等の精製を施しておくことが好ましい。
上記環状ハロゲン化シランの塩とルイス酸との反応を行う際の反応温度は、反応性に応じて適宜調整すればよいが、例えば、好ましくは−80℃以上、より好ましくは−50℃以上、さらに好ましくは−30℃以上、また好ましくは200℃以下、より好ましくは150℃以下、さらに好ましくは100℃以下である。
次に、上記方法Bについて説明する。
上記化合物IのXRnでは、Xが環状ハロゲン化シランに配位して環状ハロゲン化シラン中性錯体を形成する。Xは、P、P=O、N、S、S=O、O、またはCNである。
XがPまたはP=Oである場合、Xは3価であり、Rの数を示すnは3である。Rは同一または異なって置換または無置換のアルキル基またはアリール基を表す。Rがアルキル基の場合は、直鎖、分岐状または環状のアルキル基が挙げられ、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、へキシル基、ヘプチル基、オクチル基、シクロへキシル基等の炭素数1〜16のアルキル基が好ましく挙げられる。Rがアリール基の場合は、フェニル基、ナフチル基等の炭素数6〜18程度のアリール基が好ましく挙げられる。Rは置換または無置換のアリール基がより好ましい。
XがNである場合、Xは3価であり、Rの数を示すnは3である。Rは同一または異なって置換または無置換のアルキル基またはアリール基を表す。Rがアルキル基の場合は、直鎖、分岐状または環状のアルキル基が挙げられ、炭素数1〜16のアルキル基が好ましく、炭素数1〜4のアルキル基がより好ましく、炭素数1〜3のアルキル基がさらに好ましいものとして挙げられる。Rがアリール基の場合は、フェニル基、ナフチル基等の炭素数6〜18程度のアリール基が好ましく挙げられる。Rは置換または無置換のアルキル基がより好ましい。但し、XがNの場合は、XRn自体をアミンと数え、XRn中のアミノ基の数は1である。
上記XがP、P=OのときのXRnにおいて、上記アルキル基が有していてもよい置換基としては、アルコキシ基、アミノ基、シアノ基、カルボニル基、スルホニル基等が挙げられ、上記アリール基が有していてもよい置換基としては、アルコキシ基、アミノ基、シアノ基、カルボニル基、スルホニル基等が挙げられる。
アミノ基としては、ジメチルアミノ基やジエチルアミノ基が挙げられるが、アミノ基の数はXR3中1つ以下であり、第3級ポリアミンを除く趣旨である。
なお、3個のRは、同一であっても、異なっていてもよい。
上記XがNのときのXRnにおいて、上記アルキル基が有していてもよい置換基としては、アルコキシ基、シアノ基、カルボニル基、スルホニル基等が挙げられ、上記アリール基が有していてもよい置換基としては、アルコキシ基、シアノ基、カルボニル基、スルホニル基等が挙げられる。なお、3個のRは、同一であっても、異なっていてもよい。
上記XがS、S=O、Oのとき、Xは2価であり、Rの数を示すnは2である。このRは、XがP、P=Oである場合のRと同じ意味であり、置換または無置換のアルキル基またはアリール基である。Rは置換または無置換のアリール基がより好ましい。
上記XがCNのとき、Xは1価であり、Rの数を示すnは1である。この場合も、Rは、XがP、P=Oである場合のRと同じ意味であり、置換または無置換のアルキル基またはアリール基である。Rは置換または無置換のアリール基がより好ましい。
上記化合物Iの具体例としては、トリフェニルホスフィン(PPh3)、トリフェニルホスフィンオキシド(Ph3P=O)、トリス(4−メトキシフェニル)ホスフィン(P(MeOPh)3)等のXがPまたはP=Oの化合物;ジメチルスルホキシド等のXがS=Oの化合物;p−トルニトリル(p−メチルベンゾニトリルともいう)等のXがCNの化合物等が挙げられる。
上記(II)の複素環化合物(化合物II)においては、環中に非共有電子対を有していることが必要であり、この非共有電子対が環状ハロゲン化シランに配位して環状ハロゲン化シラン中性錯体を形成する。このような複素環化合物としては、環中にローンペアを有するN,O,SまたはPを含む置換または無置換の複素環化合物1種以上が挙げられる。複素環化合物が有していてもよい置換基は、上記Rがアリール基の場合に有していてもよい置換基と同じである。複素環化合物としては、ピリジン類、イミダゾール類、ピラゾール類、オキサゾール類、チアゾール類、イミダゾリン類、ピラジン類、チオフェン類、フラン類等が挙げられる。具体例としては、N,N−ジメチル−4−アミノピリジン、テトラヒドロチオフェン、テトラヒドロフラン等が挙げられる。
上記化合物Iおよび化合物IIのうち、反応温度において液体である化合物は溶媒の役目も兼ねることができる。
上記化合物Iおよび上記化合物IIの使用量は適宜決定すればよく、ハロゲン化モノシラン6molに対し、上記化合物を、例えば、0.1〜50mol用いてもよく、0.5〜3mol用いることが好ましい。
上記方法Bで得られる上記環状ハロゲン化シラン中性錯体は、原料とするハロゲン化モノシランのケイ素原子が3〜8個から形成され、好ましくは5個または6個、特に6個であり、ケイ素原子が連なった環を含む錯体であり、一般式[Y]l[SimZ2m-aHa]で表すことができる。上記一般式で、Yは上記化合物Iまたは上記化合物IIであり、Zは、同一または異なって、Cl、Br、I、Fのいずれかのハロゲン原子を表し、lは1または2、mは3〜8、好ましくは5または6、特に好ましくは6、aは0〜2m−1、好ましくは0〜mである。
上記方法A、方法Bにおけるハロゲン化モノシランの環化反応は、第3級アミンを添加して行うことが好ましい。第3級アミンを添加することにより生成する塩酸を中和することができる。
上記環化反応で用いられる第3級アミンとしては、例えば、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、トリオクチルアミン、トリイソブチルアミン、トリイソペンチルアミン、ジエチルメチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン(DIPEA)、ジメチルブチルアミン、ジメチル−2−エチルヘキシルアミン、ジイソプロピル−2−エチルヘキシルアミン、メチルジオクチルアミン等が好ましく挙げられる。
上記第3級アミンは、1種を用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。また、第3級アミンには、環状ハロゲン化シランに配位するものも含まれ、例えば、ジエチルメチルアミン、トリエチルアミン等の、比較的嵩高くなく、対称性の高いアミン等は、比較的効率よく配位すると考えられる。しかし、前記化合物IのXRnで表される第3級アミンだけでは、環状ハロゲン化シラン中性錯体の収率が低くなる傾向にあるため、第3級アミン以外の化合物Iを併用することが好ましい。
上記第3級アミンは、ハロゲン化モノシラン1molに対して、0.5〜4mol用いることが好ましく、同molとすることが特に好ましい。
なお、本発明では、限定はされないが、炭素原子を2個以上有し、アミノ基を3個以上有する第3級ポリアミンは用いないことが好ましい。上記第3級ポリアミンを用いると、対カチオンにケイ素を含む環状ハロゲン化シランの塩が生成し、保管時や還元反応時にシランガスが発生するため、安全性の観点から好ましくない。
上記方法A、方法Bにおける上記ハロゲン化モノシランの環化反応は、必要に応じて有機溶媒中で実施できる。この有機溶媒としては、環化反応を妨げない溶媒が好ましく、例えば、炭化水素系有機溶媒(例えば、ヘキサン、ヘプタン、ベンゼン、トルエン等)、ハロゲン化炭化水素系有機溶媒(例えば、クロロホルム、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン等)、エーテル系有機溶媒(例えば、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、シクロペンチルメチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、メチルターシャリーブチルエーテル等)、アセトニトリル等の非プロトン性極性溶媒が好ましく挙げられる。これらの中でも、クロロホルム、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン等の塩素化炭化水素系有機溶媒が好ましく、特に1,2−ジクロロエタンが好ましい。なお、これら有機溶媒は、1種を用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
上記有機溶媒の使用量は、特に制限されないが、通常、ハロゲン化モノシランの濃度が0.5〜10mol/Lとなるように調整することが好ましく、より好ましい濃度は0.8mol/L以上、さらに好ましい濃度は1mol/L以上、より好ましい濃度は8mol/L以下、さらに好ましい濃度は5mol/L以下である。
上記環化反応における反応温度は、反応性に応じて適宜設定でき、例えば0〜120℃程度、好ましくは15〜70℃程度である。また上記環化反応は、窒素等の不活性ガス雰囲気下で行うことが推奨される。
環化反応後は、環状ハロゲン化シランを非ハロゲン溶媒で洗浄することが好ましい。即ち、環化反応が終われば、環状ハロゲン化シランの塩、フリーの環状ハロゲン化シラン、環状ハロゲン化シラン中性錯体等の環状ハロゲン化シランを含む溶液あるいは分散液が生成する。これを濃縮あるいは濾過し、得られた固体を例えば、クロロホルム、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタンなどのハロゲン溶媒やアセトニトリル、ヘキサンなどの非ハロゲン溶媒等で洗浄することで、精製してもよい。環状ハロゲン化シランを、非ハロゲン溶媒を用いて洗浄することにより、環状水素化シランに含まれるハロゲン元素含有量が顕著に低減される傾向にある。
上記非ハロゲン溶媒で洗浄するに先立って、環状ハロゲン化シランをハロゲン溶媒で洗浄することが好ましい。ハロゲン溶媒で洗浄することによりアミン塩酸塩を除去でき、非ハロゲン溶媒で洗浄することによりハロゲン溶媒を除去できる。
上記ハロゲン溶媒を用いた洗浄、および上記非ハロゲン溶媒を用いた洗浄は、それぞれ1回ずつでもよいし、それぞれ2回以上であってもよい。
上記環状ハロゲン化シランは、精製により、高純度な固体として得ることが可能である。しかし、所望により、不純物を含む環状ハロゲン化シランを含む組成物として得ることも可能である。環状ハロゲン化シランを含む組成物は、環状ハロゲン化シランを80質量%以上含むことが好ましく、90質量%以上がより好ましく、95質量%以上がさらに好ましい。上限は例えば99.99質量%である。上記不純物としては、溶剤や上記化合物Iまたは上記化合物IIの残渣、環状ハロゲン化シランの分解物やハロゲン化モノシランがポリマー化したもの等である。環状ハロゲン化シランを含む組成物における上記不純物の含有量は、20質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましく、5質量%以下がさらに好ましく、下限は例えば0.01質量%である。
ここで、一例として、上記方法Bにより、環状ハロゲン化シラン中性錯体を製造した例について説明する。上記方法Bにおいて、ハロゲン化モノシランとしてトリクロロシラン、化合物Iとしてトリフェニルホスフィン(PPh3)、第3級アミンとしてN,N−ジイソプロピルエチルアミン(DIPEA)を用いたスキーム例を下記に示す。
トリクロロシランとトリフェニルホスフィン(PPh3)を接触させると環化し、通常、上記スキームのように6員環のドデカクロロシクロヘキサシランを含む錯体となる。即ち、ドデカクロロシクロヘキサシランにトリフェニルホスフィンが配位した中性錯体([PPh3]2[Si6Cl12])となる。得られた環状ハロゲン化シラン中性錯体は、環構造を形成するケイ素原子以外にケイ素原子を含まないため、還元やアルキル化もしくはアリール化した際にシランガスや有機モノシランが発生しないか、発生してもその量を低く抑えることができる。
上記のような製造方法または他の方法によって得られる鎖状ハロゲン化シランおよび環状ハロゲン化シランは、アルミニウム系ヒドリド還元剤と反応させて、上記式(1)で表される鎖状水素化シランまたは上記式(2)で表される環状水素化シランを合成する。
上記アルミニウム系ヒドリド還元剤(以下、単に、還元剤ということがある。)としては、例えば、水素化リチウムアルミニウム(LiAlH4;LAH)、水素化ジイソブチルアルミニウム(DIBAL)、水素化ビス(2−メトキシエトキシ)アルミニウムナトリウム[「Red−Al」(シグマアルドリッチ社の登録商標)]等の金属水素化物等が挙げられ、特にLAHを使用することが多い。なお、還元剤は1種を用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
上記還元剤の使用量は、適宜設定すればよく、例えば、ハロゲン化シランのケイ素−ハロゲン結合1個に対する還元剤中のヒドリドのモル当量を、少なくとも0.9当量以上とすることが好ましい。上記還元剤の使用量は、より好ましくは1.0〜50当量、さらに好ましくは1.0〜30当量、特に好ましくは1.0〜15当量、最も好ましくは1.0〜2当量である。還元剤の使用量が多すぎると、後処理に時間を要し生産性が低下する傾向がある。一方、還元剤の使用量が少なすぎると、ハロゲンが還元されずに残り、収率が低下する傾向がある。
上記還元反応では、還元助剤としてのルイス酸触媒を上記還元剤と併用してもよい。ルイス酸触媒としては、塩化アルミニウム、塩化チタン、塩化亜鉛、塩化スズ、塩化鉄等の塩化物;臭化アルミニウム、臭化チタン、臭化亜鉛、臭化スズ、臭化鉄等の臭化物;ヨウ化アルミニウム、ヨウ化チタン、ヨウ化亜鉛、ヨウ化スズ、ヨウ化鉄等のヨウ化物;フッ化アルミニウム、フッ化チタン、フッ化亜鉛、フッ化スズ、フッ化鉄等のフッ化物;等のハロゲン化金属化合物が挙げられる。これらは1種を用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
上記還元反応は、必要に応じて、有機溶媒の存在下で行うことができる。上記有機溶媒としては、例えば、トルエン、キシレン、ノルマルヘキサン、イソヘキサン、シクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ノルマルヘプタン、イソオクタン、ノルマルデカン、ノルマルペンタン、イソペンタン等の上記炭化水素系有機溶媒;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、シクロペンチルメチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、メチルターシャリーブチルエーテル等のエーテル系有機溶媒;等が挙げられる。これら有機溶媒は1種を用いてもよいし2種以上を併用してもよい。また、ハロゲン化シランを製造するときに得られた有機溶媒溶液を、そのまま還元反応における有機溶媒溶液として用いてもよいし、ハロゲン化シランを含む有機溶媒溶液から、有機溶媒を留去して、新たな有機溶媒を添加して還元反応を行ってもよい。なお、還元反応に用いる有機溶媒は、その中に含まれる水や溶存酸素を取り除くため、反応前に蒸留や脱水等の精製を行っておくことが好ましい。
上記還元反応に用いる有機溶媒の使用量としては、ハロゲン化シランの濃度が0.01〜1mol/Lとなるように調整することが好ましく、より好ましくは0.02mol/L以上、さらに好ましくは0.03mol/L以上、より好ましくは0.7mol/L以下、さらに好ましくは0.5mol/L以下である。上記範囲で反応を行うことにより、水素化シランに含まれるハロゲン元素含有量が顕著に低減される傾向にある。
上記還元反応を有機溶媒の存在下で行う場合は、例えば、(a)ハロゲン化シランを含む有機溶媒溶液または分散液に、還元剤をそのまま加える、(b)ハロゲン化シランを含む有機溶媒溶液または分散液に、還元剤を溶媒に溶解または分散させた溶液または分散液を滴下する、(c)還元剤を溶媒に溶解または分散させた溶液または分散液に、ハロゲン化シランを含む有機溶媒溶液または分散液を滴下する、(d)有機溶媒中にハロゲン化シランと還元剤を同時にもしくは順次滴下する、などの混合手順を採用すればよい。これらの中で好ましいのは(b)または(c)である。還元を行う反応系内に、ハロゲン化シランを含む有機溶媒溶液または分散液と、還元剤の溶液または分散液との少なくともいずれか一方を滴下することにより、還元反応で生じる発熱を滴下速度等でコントロールできるため、例えばコンデンサー等の小型化が可能になるなど、生産性の向上に繋がる効果が得られる。特に好ましいのは上記(b)の態様である。
ハロゲン化シランと還元剤の一方または両方を滴下する場合、ハロゲン化シランを含む有機溶媒溶液または分散液の濃度は、好ましくは0.01mol/L以上、より好ましくは0.02mol/L以上、さらに好ましくは0.04mol/L以上、特に好ましくは0.05mol/L以上である。ハロゲン化シランの濃度が低すぎると、目的生成物を単離する際に留去しなければいけない溶媒量が増えるので、生産性が低下する傾向がある。一方、ハロゲン化シランを含む溶液または分散液の濃度の上限は、好ましくは1mol/L以下、より好ましくは0.8mol/L以下、さらに好ましくは0.5mol/L以下である。
滴下時の温度(詳しくは、滴下用の溶液または分散液の温度)の下限は、好ましくは−198℃以上、より好ましくは−160℃以上、さらに好ましくは−100℃以上である。また、滴下時の温度の上限は、好ましくは+150℃以下、より好ましくは+100℃以下、さらに好ましくは+80℃以下、特に好ましくは+40℃以下である。
なお、反応容器の温度(反応温度)は、ハロゲン化シランや還元剤の種類に応じて適宜設定すればよく、通常、下限を−198℃以上とすることが好ましく、より好ましくは−160℃以上、さらに好ましくは−100℃以上である。水素化シラン中のハロゲン元素含有量の低減を目的とする場合は、反応温度を高めにすることが好ましい。この場合、反応温度は、例えば、好ましくは−60℃以上、より好ましくは−50℃以上である。しかし、反応温度が高すぎると、中間生成物や目的物の分解や重合が抑制できず、収量が低下することがある。従って反応温度の上限は、+150℃以下が好ましく、より好ましくは+100℃以下、さらに好ましくは+80℃以下、特に好ましくは+40℃以下である。
反応時間は、反応の進行の程度に応じて適宜決定すればよく、通常、10分以上72時間以下、好ましくは1時間以上48時間以下、より好ましくは2時間以上24時間以下である。
還元反応は、通常、例えば、窒素ガス、アルゴンガス等の不活性ガスの雰囲気下で行うことが好ましい。
ここで、シクロヘキサシランの好ましい製造例について示す。環状ハロゲン化シラン中性錯体(例えば、[PPh3]2[Si6Cl12])を還元して環状水素化シラン(例えば、シクロヘキサシラン)を得る方法は、例えば、還元剤としてLiAlH4を用いた場合は、以下のスキームで表される。
本発明では、還元反応後、反応混合物から固液分離により液体部分を除去することで、アルミニウム含有残渣を得、このアルミニウム含有残渣を失活処理する。なお、アルミニウム含有残渣は乾燥物などの完全固体である必要はなく、液体成分を含有していてもよい。
上記固液分離の手法は、濾過が簡便であるため好ましく採用できるが、これに限定されるものではなく、例えば、遠心分離やデカンテーションなど公知の固液分離の手法を適宜採用できる。上記固液分離は、水素化シランの自然発火を防止するため、不活性ガス雰囲気で行うことが好ましい。上記不活性ガスとしては、窒素ガス、アルゴンガスなどを用いることができる。
固液分離して得られた液体部分は、後述するように、溶媒を減圧蒸留させるなどして水素化シランを回収する。
一方、反応混合物から固液分離により液体部分を除去すると、上記式(1)または式(2)で表される水素化シランを含有するアルミニウム含有残渣が得られる。
本発明では、上記アルミニウム含有残渣と、酸とを接触させるか、或いはアルカリ金属またはアルカリ土類金属含有塩基性化合物とを接触させて、水素化シランおよびアルミニウム含有残渣を失活処理するところに特徴がある。酸またはアルカリ金属もしくはアルカリ土類金属含有塩基性化合物と接触させることによって、アルミニウム含有残渣に含まれる水素化シランのSi−Si結合が効率的に切断され、無害化できる。また、酸またはアルカリ金属もしくはアルカリ土類金属含有塩基性化合物と接触させることによって、未反応の還元剤も分解され、失活させることができる。以下、上記アルミニウム含有残渣と、酸とを接触させるか、或いはアルカリ金属またはアルカリ土類金属含有塩基性化合物とを接触させる処理を、アルミニウム含有残渣の失活処理工程ということがある。
上記アルミニウム含有残渣は、上記水素化シランを0.0001〜10質量%含有していてもよい。上記水素化シランは、より好ましくは0.001質量%以上、更に好ましくは0.01質量%以上であり、より好ましくは5質量%以下、更に好ましくは3質量%以下である。
上記酸としては、有機酸または無機酸のいずれを用いてもよいが、無機酸を用いることが好ましい。上記有機酸としては、例えば、ギ酸、酢酸、シュウ酸などのカルボン酸類;クエン酸などのヒドロキシ酸類;メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、トルエンスルホン酸などのスルホン酸類などを用いることができ、これらから選ばれる少なくとも1種を用いることができる。上記無機酸としては、例えば、塩酸、硝酸、硫酸、リン酸、ホウ酸、およびフッ化水素酸などを用いることができ、これらから選ばれる少なくとも1種を用いることができる。
本発明では、上記酸として、塩酸、硝酸、硫酸、リン酸、および酢酸から選ばれる少なくとも1種を用いることがより好ましい。
上記酸は、典型的には溶液、好ましくは水溶液として添加される。上記酸の濃度は、好ましくは1質量%以上、より好ましくは3質量%以上、更に好ましくは5質量%以上であり、好ましくは20質量%以下、より好ましくは15質量%以下、更に好ましくは10質量%以下である。上記酸の濃度を上記範囲にすることによって、アルミニウム含有残渣に含まれる水素化シランおよび未反応のアルミニウム系ヒドリド還元剤を失活させる効率を一層高めることができる。
上記酸の添加量は、アルミニウム含有残渣に上記酸を添加した後の組成物のpHが5以下、好ましくはpHが4以下、より好ましくはpHが3以下の酸性になる量であればよい。ただし、上記組成物が2層分離する場合には、いずれか一方、たとえば水層のpHが上記範囲であることが好ましい。pHを所定範囲内とすることにより、水素化シランのSi−Si結合を効率的に切断でき、無害化できる。上記酸の濃度や添加速度は、ガスの発生や液温の上昇を抑えるように調整することが好ましい。アルミニウム含有残渣に上記酸を添加した後の組成物のpHは1以上であってもよい。
上記アルカリ金属またはアルカリ土類金属含有塩基性化合物としては、例えば、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の水酸化物、酢酸塩、リン酸塩、ホウ酸塩、および炭酸塩から選ばれる少なくとも1種を用いることが好ましく、より好ましくは水酸化物である。アルカリ金属とは、Li、Na、K、Rb、Cs、Frであり、好ましくはNa、Kである。アルカリ土類金属とは、Ca、Sr、Ba、Raであり、好ましくはCaである。最も好ましい塩基性化合物は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属水酸化物である。
上記アルカリ金属またはアルカリ土類金属含有塩基性化合物は、典型的には溶液、好ましくは水溶液として添加される。上記塩基性化合物の濃度は、好ましくは1質量%以上、より好ましくは3質量%以上、更に好ましくは5質量%以上であり、好ましくは20質量%以下、より好ましくは15質量%以下、更に好ましくは13質量%以下である。上記塩基性化合物の濃度を上記範囲にすることによって、アルミニウム含有残渣に含まれる水素化シランおよび未反応のアルミニウム系ヒドリド還元剤を失活させる効率を一層高めることができる。
上記アルカリ金属またはアルカリ土類金属含有塩基性化合物の添加量は、アルミニウム含有残渣に上記塩基性化合物を添加した後の組成物のpHが10以上、好ましくはpHが11以上、より好ましくはpHが12以上の塩基性になる量であればよい。ただし、上記組成物が2層分離する場合には、いずれか一方、たとえば水層のpHが上記範囲であることが好ましい。pHを所定範囲内とすることにより、水素化シランのSi−Si結合を効率的に切断でき、無害化できる。上記塩基性化合物の濃度や添加速度は、ガスの発生や液温の上昇を抑えるように調整することが好ましい。アルミニウム含有残渣に上記塩基性化合物を添加した後の組成物のpHは14以下であってもよい。
上記アルミニウム含有残渣と、上記酸または上記塩基性化合物とを接触させるときの雰囲気は、不活性ガス雰囲気とすることが好ましい。上記不活性ガスとしては、例えば、窒素ガス、アルゴンガスなどを用いることができる。
本発明では、上記アルミニウム含有残渣と、上記酸または上記塩基性化合物とを接触させるに先立って、上記アルミニウム含有残渣を非プロトン性有機溶媒に分散させることが好ましい。「上記アルミニウム含有残渣を、非プロトン性有機溶媒に分散させること」によって、上記アルミニウム含有残渣と、上記酸または上記塩基性化合物との接触が促進され、水素化シランおよびアルミニウム含有残渣の失活処理効率を高めることができる。なお、上記アルミニウム含有残渣の失活処理時に、酸またはアルカリ金属もしくはアルカリ土類金属含有塩基性化合物と接触させる前に、予備的な失活としてアルコールやアミンと接触させてもよい。
上記非プロトン性有機溶媒としては、例えば、炭化水素系有機溶媒またはエーテル系有機溶媒を用いることが好ましい。上記炭化水素系有機溶媒としては、例えば、トルエン、キシレン、ノルマルヘキサン、イソヘキサン、シクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ノルマルヘプタン、イソオクタン、ノルマルデカン、ノルマルペンタン、イソペンタン等を用いることができる。上記エーテル系有機溶媒としては、例えば、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、シクロペンチルメチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、メチルターシャリーブチルエーテル等を用いることができる。上記非プロトン性有機溶媒としては、ノルマルデカンなどの引火点が40℃以上の溶媒を用いることが特に好ましい。これらの非プロトン性有機溶媒は、1種を用いてもよいし2種以上を併用してもよい。なお、上記非プロトン性有機溶媒は、その中に含まれる水や溶存酸素を取り除くため、事前に蒸留や脱水等の精製を施しておくことが好ましい。
上記非プロトン性有機溶媒の量は、上記アルミニウム含有残渣を分散できる量であれば特に限定されないが、例えば、上記固液分離を行った後の、水素化シランを含むアルミニウム含有残渣100質量部に対して、好ましくは100〜10000質量部、より好ましくは100〜5000質量部、更に好ましくは100〜1000質量部である。
なお、アルミニウム系ヒドリド還元剤を用いてハロゲン化シランを還元する還元工程と、前記還元工程で生成したアルミニウム含有残渣と、酸またはアルカリ金属もしくはアルカリ土類金属含有塩基性化合物とを接触させるアルミニウム含有残渣の失活処理工程と、を含む水素化シランの製造方法も、本発明の好ましい形態の一つである(以下、「本発明の製造方法ともいう」)。本発明の製造方法は、上記の工程の他に任意の工程を含むことができる。任意の工程としては、例えば、固液分離工程、蒸留工程、洗浄工程等の精製工程等が挙げられる。
上記工程で得られた水素化シランまたは水素化シラン組成物は、必要に応じて、さらに蒸留するなどして精製してもよい。この蒸留は、減圧蒸留が好ましい。減圧蒸留する方法は特に限定されず、公知の蒸留塔で行えばよい。上記蒸留は、留分を複数に分けて行うことが好ましく、得られた留分のうち、ハロゲン元素含有量を考慮して適切な留分のみを選択してもよい。
上記蒸留(特に減圧蒸留)は、2回以上行うことが好ましい。上記蒸留を複数回行うことによって、水素化シラン中のハロゲン元素の含有量を低減できる。例えば、上記液体部分を蒸留し、ハロゲン元素含有量が適切な留分を回収した後(第1蒸留)、この回収留分を再度蒸留してハロゲン元素含有量が適切な留分を回収することが好ましい(第2蒸留)。さらに、必要に応じて第2蒸留を繰り返してもよい。
上記減圧蒸留を2回以上行う場合は、先の減圧蒸留での液温(内温)は、好ましくは25〜80℃で行うのがよく、より好ましくは30℃以上、70℃以下で行うのがよく、後の減圧蒸留での液温(内温)は、好ましくは20〜75℃で行うのがよく、より好ましくは30℃以上、65℃以下で行うのがよい。先の減圧蒸留における液温と後の減圧蒸留における液温は同じでもよい。
上記減圧蒸留を2回以上行う場合は、先の減圧蒸留は、好ましくは5〜400Paで行うのがよく、より好ましくは10Pa以上、300Pa以下で行うのがよく、後の減圧蒸留は、好ましくは5〜300Paで行うのがよく、より好ましくは10Pa以上、200Pa以下で行うのがよい。先の減圧蒸留における圧力と後の減圧蒸留における圧力は同じでもよい。
上記減圧蒸留は、水素化シランよりも高沸点の不純物および低沸点の不純物を分けるため、また水素化シラン中のハロゲン元素含有量を低減させるために、バッチ式で行ってもよい。
こうして得られた水素化シランは、下記式(1)または下記式(2)で表される。
SinH2n+2 ・・・(1)
(SiH2)m ・・・(2)
上記式(1)におけるnは3〜6であり、上記式(1)で表される鎖状水素化シランは、具体的には、トリシラン、テトラシラン、ペンタシラン、ヘキサシランなどの枝分かれシリル基を有さない鎖状水素化シラン、シリルトリシラン、シリルテトラシラン、シリルペンタシランなどの枝分れシリル基を有する鎖状水素化シランが挙げられ、枝分かれシリル基を有さない鎖状水素化シランが好ましい。
上記式(2)におけるmは3〜8であり、上記式(2)で表される環状水素化シランは、具体的には、シクロトリシラン、シクロテトラシラン、シクロペンタシラン、シクロヘキサシラン、シクロヘプタシラン、シクロオクタシランなどの枝分れシリル基を有さない環状水素化シラン、シリルシクロトリシラン、シリルシクロテトラシラン、シリルシクロペンタシラン、シリルシクロヘキサシラン、シリルシクロヘプタシランなどの枝分れシリル基を有する環状水素化シランが挙げられ、枝分かれシリル基を有さない環状水素化シランが好ましい。上記環状水素化シランの中でも、上記式(2)におけるmが6のシクロヘキサシランが有用である。
水素化シランの水素の一部が−SiH3で置換された化合物(例えば、シリルシクロペンタシランなど)は、例えば、質量基準で10ppb以上含有してもよい。上限は、例えば、質量基準で1%以下が好ましい。
本発明の水素化シランの純度は、例えば、95%以上であることが好ましく、より好ましくは97%以上、特に好ましくは98%以上である。上記水素化シランの純度は、例えば、ガスクロマトグラフを用いて測定できる。
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記実施例によって制限を受けるものではなく、前記および後記の趣旨に適合し得る範囲で変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
滴下ロートおよび攪拌装置を備えた容量500mLのセパラブルフラスコに、環状ハロゲン化シラン中性錯体含有組成物35.6g(31.8mmol)を入れ、フラスコ内を窒素で置換した後、溶媒としてジエチルエーテル179gを加えた。環状ハロゲン化シラン中性錯体としては、ビス(トリフェニルホスフィン)ドデカクロロシクロヘキサシランを用いた。なお、環状ハロゲン化シラン中性錯体含有組成物には、環状ハロゲン化シラン中性錯体以外に、微量の鎖状ハロゲン化シラン、および中性錯体の合成時に用いた溶媒(クロロホルム)が微量含まれる。
続いて、フラスコ内の懸濁液を攪拌しながら、内温が−40℃の条件下において、滴下ロートから、アルミニウム系ヒドリド還元剤として濃度が約1.0mol/Lの水素化リチウムアルミニウム(LiAlH4)のジエチルエーテル溶液68gを徐々に滴下し、−40℃で3時間攪拌して還元反応を行った。
3時間撹拌後、反応液を室温まで昇温した後、窒素雰囲気下でデカンテーションにより固液分離し、液体部分(202.6g)と、固体部分(45.6g)を得た。
液体部分をガスクロマトグラフィーで分析した。分析には、キャピラリーカラム(J&W SCIENTIFIC製「DB−1MS」、0.25mm×50m)を装着したガスクロマトグラフ(島津製作所製「GC2014」)を用いた。その結果、シクロヘキサシランのピークが観測され、シクロヘキサシランの濃度は1.97質量%、収量は4.1g、収率は72%であった。
一方、固体部分は、シクロヘキサシランを含有するアルミニウム含有残渣であり、このシクロヘキサシランとアルミニウム含有残渣を、次の手順で失活処理した。上記アルミニウム含有残渣に含まれる上記シクロヘキサシランは1質量%であった。
固体部分3.5gとノルマルデカン9.0gを窒素雰囲気下で容量100mLの二口フラスコに入れ、攪拌子で攪拌した。上記ノルマルデカンは、上記固液分離を行った後の、シクロヘキサシランを含むアルミニウム含有残渣100質量部に対して260質量部である。
二口フラスコの口の一方に三方コック、他方にセプタムを取り付けた。三方コックにはタイゴンチューブを取り付け、その先端にガス捕集用の水上置換器具を設置した。室温条件下、セプタムから10質量%水酸化ナトリウム水溶液15.8gを、シリンジを用いて徐々に滴下した。
滴下直後からガスが発生し、水上置換によりガスを捕集した。捕集したガスの全量は130mLであった。捕集したガスは検知管により水素である事が分かった。滴下中の内温は、18℃から23℃まで変化した。
10質量%水酸化ナトリウム水溶液を滴下してもガスが発生せず、液温の上昇がなく、液のpHが12の塩基性であることを確認できた時点で、10質量%水酸化ナトリウム水溶液の滴下を停止し、失活処理を終了した。
失活処理後、濾過し、固液分離した。固液分離して得られた濾液を、上記液体部分と同じ条件で、ガスクロマトグラフィーで分析した。その結果、シクロヘキサシランのピークは観測されず、シクロヘキサシランとアルミニウム含有残渣は、完全に失活していることを確認した。