JP2017088566A - 農薬分散剤およびこれを用いた農薬分散液 - Google Patents

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Abstract

【課題】 分散質の粒径を比較的大きくしても、分散質としての水難溶性の農薬活性成分の分散状態が安定している分散液を提供できる農薬分散剤を提供する。【解決手段】 ノニオン性で且つ親水性である変性基を有し、さらにケン化度が95モル%以上である変性ポリビニルアルコール系樹脂を含有する。前記変性ポリビニルアルコール樹脂としては、側鎖1,2ジオール変性ポリビニルアルコール系樹脂、オキシアルキレン変性ポリビニルアルコール系樹脂が挙げられる。【選択図】 なし

Description

本発明は、水難溶性の農薬活性成分を水中に分散させるための農薬分散剤に関するものであり、より詳細には、農薬活性成分の分散粒径が大きく、かつ分散安定性に優れた農薬分散液が得られる農薬分散剤に関する。
水難溶性の農薬活性成分は、水中に分散させた農薬分散液とすることで、空中散布のように、広く散布することが可能となる。農薬活性成分が水難溶性液体である場合には、界面活性剤等の乳化剤とともに希釈することで、水性分散液を調製することができ、また、農薬活性成分が水難溶性固体である場合には、有機溶媒で溶かして液状とし、さらに水になじみやすい界面活性剤を加えることで、水性分散液を調製することができる。このように、水難溶性の農薬活性成分は、界面活性剤や水溶性ポリマー等を併用することで水性分散液とすることができるが、分散液が貯蔵期間中に分離したり、農薬活性成分が凝集して沈殿したりするなどの保存安定性の点で問題がある。
特開平10−182302号公報(特許文献1)には、長期間の保存安定性に優れた水性乳化懸濁状農薬組成物として、農薬活性成分、タンパク質、ポリビニルアルコール(以下、PVAという)および界面活性剤を含有する水性乳化懸濁状農薬組成物が提案されている。
特許文献1で使用されているPVAは、ケン化度90モル%以下の未変性PVAであり(段落0013)、界面活性剤としては、非イオン性、カチオン性、アニオン性、両性界面活性剤などを用いることができると記載されている(段落0015)。
特開2002−293702号公報(特許文献2)には、貯蔵中でも分散質が凝集することなく、水で希釈せずにそのまま水田に散布できる湛水下水田の直接散布用水性懸濁製剤として、水難溶性の除草活性成分を、変性ポリビニルアルコール存在下で水媒体中に分散させた水性懸濁液が提案されている。ここで用いている変性PVAとしては、末端アルキル基変性PVA、側鎖アルキル基変性PVA、カルボキシル基変性PVA、カチオン変性PVA、ケイ素含有基変性PVA、エチレンスルホン酸PVA、アセトアセチル基変性PVAが挙げられている(段落0011)。
また、特開2014−111244号公報(特許文献3)には、ポリオキシアルキレンモノマー単位を含むPVAを含有する高分子系界面活性剤が提案されており、当該界面活性剤の用途として、農薬乳剤用乳化剤、農薬粒剤用分散剤が挙げられている(段落0072)。
当該界面活性剤を用いた水溶液は泡安定性に優れること、炭酸カルシウム粉末(平均粒径1〜1.8μm)の水性分散液は、30日間以上、粒子分散層と水層が分離することなく、安定的に保存できることが実施例で示されている。
特許文献3の段落0021には、ポリオキシエチレン変性PVA分子間におけるポリオキシアルキレン基同士の疎水性相互作用が促進され、これにより優れた界面活性能が発揮されると説明されている。
特開平10−182302号公報 特開2002−293702号公報 特開2014−111244号公報
しかしながら、上記特許文献で得られる農薬分散液は、いずれも長期間の貯蔵安定性を目的としていることから、分散質である農薬活性成分の粒径が小さい。分散質粒径が小さすぎると飛散しやすくなるため、周囲の別の圃場にまで散布されるおそれがある。意図しない農薬の散布は、作物の成長に悪影響を与えるおそれがある。
一方、分散質の粒径が大きくなると、分散液における農薬活性成分の分散安定性、乳濁液の保存安定性が低下する傾向にあるため、これらのバランスがとれた散布用農薬分散液が望まれている。
本発明は、以上のような事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、分散質の粒径を比較的大きくしても、分散質の分散状態が安定している分散液を提供できる分散剤を提供することにある。
本発明の農薬分散剤は、ノニオン性で且つ親水性である変性基を有し、さらにケン化度が95モル%以上である変性ポリビニルアルコール系樹脂を含有する。
前記変性ポリビニルアルコール系樹脂が、下記一般式(1)で表される構造単位を有することが好ましい。
Figure 2017088566
式(1)中、Aがノニオン性で且つ親水性である変性基であり、R,R,Rは、それぞれ独立して水素原子または置換基を有していてもよい炭素数1〜5のアルキル基である。ただし、Aが水酸基のみからなる親水性基である場合を除く。
前記変性基は、水酸基含有基であることが好ましく、より好ましくは、1級および/または2級水酸基を1又は2個有している。ただし、単なる水酸基は前記変性基からは除かれる。
また、前記式(1)で表される構造単位のデイビス法によるHLB値が8〜10であることが好ましい。
前記変性ポリビニルアルコール系樹脂は、側鎖1,2−ジオール変性ポリビニルアルコール系樹脂またはオキシアルキレン変性ポリビニルアルコール系樹脂であることが好ましい。
前記変性ポリビニルアルコール系樹脂の重合度は100〜4000であることが好ましい。また、前記変性ポリビニルアルコール系樹脂における前記式(1)の構造単位の含有割合は、0.1〜15モル%であることが好ましい。
本発明の農薬分散液は、分散質としての水難溶性の農薬活性成分;上記本発明の農薬分散剤;および分散媒としての水を含有する。前記農薬活性成分は液体であってもよい。
本発明の農薬分散液は、さらに有機溶剤を含有し、前記農薬活性成分は、常温で固体の農薬活性成分で、前記有機溶剤に溶解した溶液として含有されていてもよい。
本発明の農薬分散液は、分散質の平均粒径が10〜70μmであることが好ましい。
なお、本明細書においてPVA系樹脂の4重量%水溶液の粘度は、JIS K 6726に準拠して測定した20℃における4重量%水溶液の粘度である。
ケン化度はJIS K 6726に準拠して測定することができる。
また、粒径は、分散液中の分散質をレーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置によって測定された体積中位径(メディアン径)をいう。
なおデイビス法によるHLB値とは、官能基に固有の基数を定め、下記式で求められる値をいう。
HLB値=7+Σ(親水基の基数)−Σ(親油基の基数)
OH基の基数は1.9であり、−CH2−、CH3−の基数は0.475、−O−の基数は1.3、−COO−は2.4である。
本発明の農薬分散剤は、水難溶性の農薬活性成分の粒径を比較的大きくした状態で安定的に分散させることができるものであり、そのため、保存安定性を確保しつつ、且つ散布時の飛散を少なくすることができる。
ノニオン性で且つ親水性である変性基を有し、さらにケン化度が95モル%以上である変性PVA系樹脂を用いることによって本発明の効果が得られるメカニズムについては、詳細にはわかっていないが、ノニオン性親水性官能基と特定ケン化度によって界面活性能が適度に制御されることで、農薬活性成分の分散粒径が大きくなるとともに、凝集が抑制され、さらにPVA系樹脂自体の結晶化も抑制されて、農薬活性成分が農薬分散液中で分散安定化されるためであると推測される。
以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、これらの内容に特定されるものではない。
以下、本発明について詳細に説明する。
<農薬分散剤>
本発明の農薬分散剤は、ノニオン性で且つ親水性である変性基を有し、さらにケン化度が95モル%以上である変性ポリビニルアルコール系樹脂(以下、「変性PVA系樹脂」という)を含有する。
前記変性PVA系樹脂が下記一般式(1)で表される構造単位を有する変性PVA系樹脂であることが好ましい。
Figure 2017088566
式(1)中、Aがノニオン性で且つ親水性である変性基であり、R,R,Rは、それぞれ独立して水素原子または置換基を有していてもよい炭素数1〜5のアルキル基である。ただし、Aが水酸基のみからなる親水性基である場合を除く。
前記変性基Aとしては、例えば、水酸基含有アルキル基、末端が水酸基であるオキシアルキレン基等の水酸基含有基、アミノ基、アミノ基含有アルキル基、チオール基、チオール基含有アルキル基などが挙げられる。これらのうち、水酸基含有基が好ましい。ただし、単なる水酸基は除かれる。
水酸基含有基における水酸基の数は、通常1〜4であり、好ましくは1〜3であり、より好ましくは1または2である。水酸基含有基における水酸基は、1級水酸基および/または2級水酸基が好ましい。
したがって、好ましい変性基である水酸基含有基で変性された変性PVA系樹脂は、代表的には、下記一般式(2)の構造単位を有する側鎖1,2−ジオール変性PVA系樹脂および下記一般式(3)の構造単位を有するオキシアルキレン変性PVA系樹脂である。
Figure 2017088566

Figure 2017088566
式(1),式(2)、式(3)中、R,R,Rは、水素原子または炭素数1〜5のアルキル基(例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基)、または、ハロゲン基、水酸基、エステル基、カルボン酸基、スルホン酸基等の置換基を有するアルキル基であり、好ましくは水素原子または炭素数1〜5のアルキル基、より好ましくは水素原子である。
式(2)中、R,R,Rは、それぞれ独立して水素原子または炭素数1〜5のアルキル基(例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基)、または、ハロゲン基、水酸基、エステル基等の置換基を有する炭素数1〜5のアルキル基であり、好ましくは水素原子または炭素数1〜5のアルキル基である。より好ましくはすべてが水素原子の場合である。
式(3)中、R7,R8,R9,R10は、それぞれ独立して水素原子または炭素数1〜5のアルキル基(例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基)、または、ハロゲン基、水酸基、エステル基等の置換基を有するアルキル基であり、好ましくは水素原子または炭素数1〜5のアルキル基である。より好ましくはすべてが水素原子の場合である。また、Xは結合鎖であり、nは5〜50の整数を示す。
前記結合鎖としては、アルキレン、アルケニレン、アルキニレン、フェニレン、ナフチレン等の炭化水素(これらの炭化水素はフッ素、塩素、臭素等のハロゲン等で置換されていてもよい)の他、−O−、−CH2COO−、−CO−、−COCO−、−(CH2mCO−、−CO(C64)CO−、−S−、−CS−、−SO−、−SO2−、−CONH−、−(CH2mCONH−、−NR−、−CONR−、−NRCO−、−CSNR−、−NRCS−、−NRNR−、−HPO4−、−Si(OR)2−、−OSi(OR)2−、−OSi(OR)2O−、−Ti(OR)2−、−OTi(OR)2−、−OTi(OR)2O−、−Al(OR)−、−OAl(OR)−、−OAl(OR)O−等が挙げられ(Rは各々独立して任意の置換基であり、水素原子、アルキル基が好ましく、またmは自然数である)、その中でもオキシアルキレン基供与モノマーの合成上の観点から、−O−、−CH2COO−、−CH2O−、−CH2CONH−が好ましい。
式(1)で表される構造単位におけるデイビス法によるHLB値は、通常8〜10、好ましくは8.5〜9.7である。ここで、デイビス法によるHLB値とは、官能基に固有の基数を定め、下記式で求められる値をいう。
HLB値=7+Σ(親水基の基数)−Σ(親油基の基数)
OH基の基数は1.9であり、−CH2−、CH3−の基数は0.475、−O−の基数は1.3、−COO−は2.4である。
HLB値が小さすぎると、親水基の親水性が弱い又は親水基の数が少ない、換言すると親油基の数が多い又は親油性が強いことを示し、農薬活性成分の粒径が大きくなりすぎる傾向がある。HLB値が大きすぎると、親水性が強くなりすぎるため、水難溶性の農薬活性成分とのなじみが低下し、ひいては保存安定性が低下する傾向がある。
以上のような構成を有する変性PVA系樹脂は、通常、ビニルエステル系モノマーと、ノニオン性で且つ親水性である変性基を供与できるモノマーとの共重合体をケン化することにより得られる。
ビニルエステル系単量体としては、例えば、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、トリフルオロ酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリル酸ビニル、バーサティック酸ビニル、パルミチン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、ピバリン酸ビニル等が挙げられ、これらは単独又は組み合わせて用いてもよい。工業的には酢酸ビニルが好ましく用いられる。
共重合の方法は、特に制限はなく、塊状重合、溶液重合、懸濁重合、分散重合、またはエマルジョン重合等の公知の方法を採用することができ、通常は溶液重合が行われる。かかる共重合で用いられる溶媒としては、通常、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、n−プロパノール、ブタノール等の低級アルコールやアセトン、メチルエチルケトン等のケトン類等が挙げられ、工業的には、メタノールが好適に使用される。
ケン化方法としては、公知のケン化方法を採用できる。具体的には、得られた共重合体をアルコール等の溶媒に溶解し、アルカリ触媒又は酸触媒を用いてケン化される。
代表的な溶媒としては、メタノール、エタノール、プロパノール、tert−ブタノール等が挙げられるが、メタノールが特に好ましく用いられる。アルコール中の共重合体の濃度は系の粘度により適宜選択されるが、通常は10〜60重量%の範囲から選ばれる。ケン化に使用される触媒としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ナトリウムメチラート、ナトリウムエチラート、カリウムメチラート、リチウムメチラート等のアルカリ金属の水酸化物やアルコラートの如きアルカリ触媒、硫酸、塩酸、硝酸、メタスルフォン酸、ゼオライト、カチオン交換樹脂等の酸触媒が挙げられる。
したがって、本発明で用いる変性PVA系樹脂には、下記一般式(4)で表されるビニルアルコール構造単位、式(5)で表される未ケン化部分のビニルエステル構造単位が含まれる。
Figure 2017088566

Figure 2017088566
式(4)および(5)中、R11,R12,R13は、使用するビニルエステル化合物に依存する。それぞれ独立して水素原子、または炭素数1〜18、好ましくは1〜5、より好ましくは1または2のアルキル基、もっとも好ましくは水素原子である。
本発明で用いられる変性PVA系樹脂のケン化度は95モル%以上であり、好ましくは96モル%以上、特に好ましくは97〜99.9モル%である。ケン化度が低すぎると、PVA系樹脂の主鎖中に未ケン化の疎水性基(ビニルエステル構造単位)が比較的多く残ることになり、疎水性の分散質に吸着しやすく、分散力が強くなり、結果として、分散質の粒径が小さくなる傾向にある。
変性PVA系樹脂の重合度は、変性種に依存するものであるが、通常100〜4000であり、好ましくは150〜2000、さらに好ましくは200〜1000である。重合度が小さすぎると分散液の安定性が低下する傾向があり、大きすぎると分散液の粘度が上昇し、散布性が低下する傾向がある。
変性PVA系樹脂の変性度、すなわち上記式(1)で表される構造単位の含有割合(変性量)は、変性種により異なるが、通常0.1〜15モル%であり、好ましくは0.5〜10モル%、更に好ましくは1〜9モル%である。本発明で用いる変性PVA系樹脂の変性は、上記式(1)で示される構造単位を、PVA系樹脂の主鎖中に導入される変性である。変性基はPVA系樹脂主鎖の結晶構成を乱すため、PVA系樹脂同士が凝集しづらくなる。したがって、変性度が小さすぎると、変性PVA系樹脂が凝集しやすくなるため、ゲル化しやすく、保存安定性が低下する傾向がある。一方、変性度が大きくなりすぎると、相対的にPVA系樹脂の主鎖部分の割合が小さくなるため、農薬活性成分を水性媒体中で分散させる力が低下し、結果として分散安定性が低下する傾向にある。
以下、好ましい変性基である水酸基含有基で変性された変性PVA系樹脂、すなわち、上記式(2)で表される構造単位を有する側鎖1,2−ジオール変性PVA系樹脂および上記式(3)で表される構造単位を有するオキシアルキレン変性PVA系樹脂について詳述する。
〔側鎖1,2−ジオール変性PVA系樹脂〕
式(2)で表される構造単位を有する変性PVA系樹脂は、PVAの主鎖に対して、側鎖に1,2−ジオール構造単位を有するものである(以下、かかる変性PVA系樹脂を「側鎖1,2−ジオール変性PVA系樹脂」と称する。)。
式(2)中、R,R,Rは、水素原子または炭素数1〜5のアルキル基(例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基)、または、ハロゲン基、水酸基、エステル基等の置換基を有するアルキル基である。好ましくは水素原子である。
したがって、式(2)で表される側鎖1,2−ジオール構造単位のうち、R1〜Rのすべてが水素原子である下記式(2a)で表される構造単位が最も好ましい。
Figure 2017088566
本発明で用いられる側鎖1,2−ジオール変性PVA系樹脂は、例えば、特開2008−163179の段落[0014]〜[0037]に記載の公知の方法で製造することができる。
具体的には、(i)ビニルエステル系モノマーと下記一般式(2−1)で示される化合物との共重合体をケン化する方法;(ii)ビニルエステル系モノマーと下記一般式(2−2)で示される化合物との共重合体をケン化及び脱炭酸する方法;(iii)ビニルエステル系モノマーと下記一般式(2−3)で示される化合物との共重合体をケン化及び脱ケタール化する方法などにより合成することができる。
Figure 2017088566

Figure 2017088566

Figure 2017088566
式(2−1),(2−2),(2−3)中、R1、R2、R3、R4、R5、及びR6は、上記式(2)の対応するR1、R2、R3、R4、R5、及びR6と同様である。R20及びR21はそれぞれ独立して水素原子またはR22−CO−(式中、R22はアルキル基、好ましくはメチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基またはオクチル基である)を示す。R23、R24はそれぞれ独立して水素又はアルキル基であり、該アルキル基としては特に限定されないが、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基等の炭素数1〜4のアルキル基が好ましい。
なお、上記アルキル基は、式(2)で表される構造単位のノニオン性、HLB値が本発明で特定する範囲を阻害しない範囲内であれば、ハロゲン基、水酸基、エステル基等の置換基を有していてもよい。
式(2−1)で示される化合物としては、例えば、3,4−ジヒドロキシ−1−ブテン、3,4−ジアシロキシ−1−ブテン、3−アシロキシ−4−ヒドロキシ−1−ブテン、4−アシロキシ−3−ヒドロキシ−1−ブテン、3,4−ジアシロキシ−2−メチル−1−ブテン、Xがアルキレン基である4,5−ジヒドロキシ−1−ペンテン、4,5−ジアシロキシ−1−ペンテン、4,5−ジヒドロキシ−3−メチル−1−ペンテン、4,5−ジアシロキシ−3−メチル−1−ペンテン、5,6−ジヒドロキシ−1−ヘキセン、5,6−ジアシロキシ−1−ヘキセン、Xが−CH2OCH2−あるいは−OCH2−であるグリセリンモノアリルエーテル、2,3−ジアセトキシ−1−アリルオキシプロパン、2−アセトキシ−1−アリルオキシ−3−ヒドロキシプロパン、3−アセトキシ−1−アリルオキシ−2−ヒドロキシプロパン、グリセリンモノビニルエーテル、グリセリンモノイソプロペニルエーテルなどが挙げられる。
なかでも、共重合反応性及び工業的な取り扱いにおいて優れるという点で、R1、R2、R3、R4、R5、R6のすべてが水素、R20、R21がR22−CO−であり、R22がアルキル基である3,4−ジアシロキシ−1−ブテンが好ましく、そのなかでも特にR22がメチル基である3,4−ジアセトキシ−1−ブテンが好ましく用いられる。
式(2−2)で示される化合物において、入手の容易さ、良好な共重合性を有する点で、R1、R2、R3、R4、R5、R6のすべてが水素であるビニルエチレンカーボネートが好適に用いられる。
なお、脱炭酸については、特別な処理を施すことなく、ケン化とともに脱炭酸が行われ、エチレンカーボネート環が開環することで1,2−ジオール構造に変換される。また、一定圧力下(常圧〜1×107Pa)で且つ高温下(50〜200℃)でビニルエステル部分をケン化することなく、脱炭酸を行うことも可能であり、かかる場合、脱炭酸を行った後、上記ケン化を行うこともできる。
式(2−3)で示される化合物としては、入手の容易さ、良好な共重合性を有する点で、R1、R2、R3、R4、R5、R6のすべてが水素で、R23、R24がメチル基である2,2−ジメチル−4−ビニル−1,3−ジオキソランが好適である。
脱ケタール化については、ケン化反応がアルカリ触媒を用いて行われる場合は、ケン化後、更に酸触媒を用いて水系溶媒(水、水/アセトン、水/メタノール等の低級アルコール混合溶媒等)中で脱ケタール化が行われ、1,2−ジオール構造に変換される。その場合の酸触媒としては、酢酸、塩酸、硫酸、硝酸、メタスルフォン酸、ゼオライト、カチオン交換樹脂等が挙げられる。ケン化反応が酸触媒を用いて行われる場合は、特別な処理を施すことなく、ケン化とともに脱ケタール化が行われ、1,2−ジオール構造に変換される。
側鎖1,2−ジオール変性PVA系樹脂の一般式(2)で表わされる1,2−ジオール構造単位の含有割合、すなわち側鎖1,2−ジオール変性量は、通常、0.1〜15モル%であり、好ましくは2〜12モル%であり、更に好ましくは4〜10モル%である。かかる変性量が低すぎると分散液の安定性が低下する傾向があり、高すぎると側鎖1,2−ジオール変性PVA系樹脂の製造が困難となる傾向がある。
側鎖1,2−ジオール変性PVA系樹脂の平均重合度(JIS K 6726に準拠して測定)は、通常100〜4000であり、好ましくは150〜2000であり、特に好ましくは200〜800である。
また、側鎖1,2−ジオール変性PVA系樹脂の4重量%水溶液の粘度は、通常、1〜20mPa・sであり、好ましくは1.5〜10mPa・sであり、特に好ましくは2〜10mPa・sである。
かかる平均重合度および粘度が低すぎると結晶構造を形成するPVA系樹脂の主鎖部分が小さくなるため、水難溶性の農薬活性成分との親和性を示すPVA系樹脂の主鎖の凝集部分が小さくなり、分散安定化作用が低下する傾向がある。一方、平均重合度および粘度が高くなりすぎると、結晶構造を形成するPVA系樹脂の主鎖部分が大きくなりすぎて、分散液が高粘度となったり、分散質の粒径が大きくなりすぎたり、分散安定性や保存安定性が低下する傾向がある。
側鎖1,2−ジオール変性PVA系樹脂のケン化度は、通常、95モル%以上、好ましくは96〜99.9モル%であり、特に好ましくは97〜99.8モル%である。このような完全ケン化に近いPVA系樹脂を用いることで、PVA系樹脂の主鎖部分の結晶性が高くなって凝集しやすくなるとともに、側鎖においては、親水基が多くなるので、乳化力が減じられた変性PVA系樹脂の主鎖部分と側鎖に含まれている親水基とのほどよいバランスに基づき、分散質の粒径の増大と分散安定性の両立が可能となると考えられる。
〔オキシアルキレン変性PVA系樹脂〕
式(3)で表される構造単位を有するオキシアルキレン変性PVA系樹脂のうち、親水性の観点から、ノニオン性親水基であるオキシアルキレンとしては、R7,R8,R9,R10がそれぞれ独立して水素原子であるオキシエチレン基を有する構造単位(3a)が好ましく用いられる。
Figure 2017088566
式(3a)中、nは、通常5〜50、好ましくは8〜20、より好ましくは8〜12である。オキシエチレン基の鎖が長くなりすぎると、親水性と疎水性のバランスが崩れてくるため、結果として分散安定性が低下する傾向にある。なお、かかるnの値は、オキシエチレン変性PVA系樹脂中に含まれるオキシエチレン基の平均値を示す。
式(3a)で表される側鎖オキシエチレン基含有単位を供与するオキシエチレン基供与モノマーとしては、下記一般式(3−1)で表されるポリオキシエチレン(メタ)アクリレート、式(3−2)で表されるポリオキシエチレン(メタ)アクリル酸アミド、式(3−3)で表されるポリオキシエチレン(メタ)アリルエーテル、式(3−4)で表されるポリオキシエチレンビニルエーテル、ポリオキシプロピレンビニルエーテル等が挙げられる。
Figure 2017088566

Figure 2017088566

Figure 2017088566

Figure 2017088566
式(3−1),(3−2),(3−3),(3−4)中、Yは水素又はメチル基、nは、式(3a)中のnと同じである。
これらのオキシエチレン基を含有する単量体の中でも式(3−3)で表される(メタ)アリルエーテル型のものが共重合反応の容易さ、ケン化工程における安定性などの点から好適に使用される。
本発明で用いるオキシアルキレン変性PVA系樹脂中の上記式(3a)で表されるオキシアルキレン基含有構造単位の含有割合、すなわちオキシアルキレン変性量は、通常0.1〜15モル%であり、好ましくは0.5〜10モル%、特に好ましくは1〜3モル%である。変性量が少なすぎると、本発明の効果が得られにくくなる傾向があり、逆に多くなりすぎると、PVA系樹脂の主鎖とのバランスがくずれ、結果として分散安定性が損なわれる傾向にある。
また、本発明で用いられるオキシアルキレン変性PVA系樹脂のケン化度は95モル%以上であり、好ましくは96モル%以上、特に好ましくは97〜99.9モル%である。完全ケン化に近いPVA系樹脂を用いることで分散質の粒径を比較的大きくすることができ、側鎖の変性基とのバランスに基づき、分散安定性を確保できる。
オキシアルキレン変性PVA系樹脂の平均重合度(JIS K 6726に準拠して測定)は、通常、100〜4000であり、好ましくは300〜4000、更に好ましくは400〜2000であり、特に好ましくは500〜1000である。かかる平均重合度が低すぎると分散液の安定性が低下する傾向があり、高すぎると農薬活性成分の粒径が大きくなりすぎて、分散安定性、保存安定性が低下する傾向がある。
オキシアルキレン変性PVA系樹脂の4重量%水溶液の粘度は、通常、1.5〜20mPa・sであり、好ましくは4〜12mPa・sであり、特に好ましくは5〜10mPa・sである。オキシアルキレン変性PVA系樹脂の粘度が低すぎるということは、PVA系樹脂の主鎖の重合度が低いことを意味し、分散液の安定性が低下する傾向がある。一方、オキシアルキレン変性PVA系樹脂の粘度が高すぎると、一般に取扱い性が困難となり、PVA系樹脂の主鎖の平均重合度が高くなりすぎることを意味するため、農薬活性成分の分散粒径が大きくなりすぎたり、分散安定性や保存安定性が低下する傾向がある。
本発明で用いる変性PVA系樹脂は、共重合に際して、ビニルエステル系モノマー、変性基供与モノマーとともに、分散性に影響を及ぼさない範囲内であれば、さらに、その他の不飽和モノマーを共重合してもよい。
他の不飽和モノマーとしては、例えばエチレンやプロピレン、イソブチレン、α−オクテン、α−ドデセン、α−オクタデセン等のオレフィン類、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸等の不飽和酸類、その塩、モノエステル、あるいはジアルキルエステル、アクリロニトリル、メタアクリロニトリル等のニトリル類、ジアセトンアクリルアミド、アクリルアミド、メタクリルアミド等のアミド類、エチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸等のオレフィンスルホン酸類あるいはその塩、アルキルビニルエーテル類、ジメチルアリルビニルケトン、N−ビニルピロリドン、塩化ビニル等のビニル化合物、酢酸イソプロペニル、1−メトキシビニルアセテート等の置換酢酸ビニル類、塩化ビニリデン、1,4−ジアセトキシ−2−ブテン、ビニレンカーボネート、アセトアセチル基含有モノマー等が挙げられる。
このような他の不飽和モノマーは、通常10モル%以下であり、好ましくは5モル%以下、より好ましくは1モル%以下である。他の不飽和モノマー由来の構造単位が多くなりすぎると、変性PVA系樹脂の疎水性、親水性のバランスが損なわれ、ひいては所望の分散安定性、分散質の粒径を達成できなくなる傾向がある。
〔農薬活性成分〕
本発明の農薬分散液に使用される農薬活性成分は、水難溶性の液体または固体である。
ここで、水難溶性とは、20℃における水100gに対する溶解量が、通常0.1〜100mgのもの、特に1〜10mgのものをいう。このような溶解度しか示すことができない化合物について、水性散布用分散液を調製するにあたり、分散安定性が重要となる。
本発明で使用する水難溶性の農薬活性成分としては、以下のようなものが挙げられる。
(液体状の農薬活性成分)
(i)殺虫剤
例えば、フラチオカルブ(furathiocarb)、カルボスルファン(carbosulfan)、ベンフラカルブ(benfuracarb)、BPMC、フェノブカルブ(fenobucarb)などカーバメイト系化合物;シフルトリン(cyfluthrin)、シハロトリン(cyhalothrin)、フェンバレレート(fenvalerate)、フルシトリネート(flucythrinate)、フルバリネート(fluvalinate)、シラフルオフェン(silafluofen)、シクロプロトリン(cycloprothrin)、アレスリン(allethrin)、エトフェンプロックス(ethofenprox)などの合成ピレスロイド系化合物;EPN、MPP、フェンチオン(fenthion)、MEP、フェニトロチオン(fenitrothion)、プロパホス(propaphos)、シアノホス(cyanophos)、プロチオホス(prothiofos)、スルプロホス(sulprofos)、プロフェノホス(profenofos)、ジスルホトン(disulfoton)、チオメトン(thiometon)、PAP、フェントエート(phenthoate)、マラソン(malathion)、ピラクロホス(pyraclofos)、BRP、ナレッド(naled)、CVP、クロルフェンビンホス(chlorfenvinphos)、ピリミホスメチル(pirimiphosmethyl)、ダイアジノン(diazinon)、エトリムホス(etrimfos)、イソキサチオン(isoxathion)、キナルホス(quinalphos)、DMTP、メチダチオン(methidathion)などの有機リン系化合物が挙げられる。
(ii)殺菌剤
例えば、エジフェンホス(edifenphos)、イプロベンホス(iprobenfos)などの有機リン系化合物が挙げられる。
(iii)除草剤
例えば、プレチラクロール(pretilachlor)などの酸アミド系化合物;チオベンカルブ(thiobencarb)などのカルバメート系化合物;ベンスリド(bensulide)などの有機リン系化合物;エスプロカルブ(esprocarb);ジメタメトリン(dimethametryn);シハロホップブチル(cyhalofopbutyl)などが挙げられる。
(固体状の農薬活性成分)
(i)殺虫剤
例えば、MIPC、イソプロカルブ(isoprocarb)、XMC、NAC、カルバリル(carbaryl)、ベンダイオカルブ(bendiocarb)、カルボフラン(carbofuran)などのカーバメイト系化合物;シペルメトリン(cypermethrin)などの合成ピレスロイド系化合物;シアノフェンホス(cyanofenphos)、CVMP、テトラクロルビンホス(tetrachlorvinphos)などの有機リン系化合物;エンドスルファン(endosulfan)などの有機塩素系化合物;ベンスルタップ(bensultap);ブプロフェジン(buprofezin);フルフェノクスロン(flufenoxuron);ジフルベンズロン(diflubenzuron);クロルフルアズロン(chlorfluazuron)、イミダクロプリド(imidacloprid)などが挙げられる。
(ii)殺菌剤
例えば、トリホリン(triforine)などのN−ヘテロ環系エルゴステロール阻害剤;メプロニル(mepronil)、フルトラニル(flutoluanil)、ペンシクロン(pencycuron)、オキシカルボキシン(oxycarboxin)などのカルボキシアミド系化合物、イプロジオン(iprodione)、ビンクロゾリン(vinclozolin)、プロシミドン(procymidone)などのジカルボキシイミド系化合物;ベノミル(benomyl)などのベンゾイミダゾール系化合物;キャプタン(captan)などのポリハロアルキルチオ系化合物が挙げられる。
また、フサライド(fthalide)、TPN、クロロタロニル(chlorothalonil)などの有機塩素系化合物;ジネブ(zineb)、マンネブ(maneb)などの硫黄系化合物;ジクロメジン(diclomezin);トリシクラゾール(tricyclazole);プロベナゾール(probenazole);アニラジン(anilazine);オキソリニック酸(oxolinic acid);フェリムゾン(ferimzone)などが挙げられる。
(iii)除草剤
例えば、イマゾスルフロン(imazosulfuron)、ベンスルフロンメチル(bensulfuron-methyl)、アジムスルフロン(azimsulfuron)、スルホスルフロン(sulfosulfuron)、ピラゾスルフロンエチル(pyrazosulfuron ethyl)、ハロスルフロンメチル(halosulfuron methyl)などのスルホニル尿素系化合物;:シメトリン(simetryn)などのトリアジン系化合物;ダイムロン(daimuron)などの尿素系化合物;プロパニル(propanil)、メフェナセット(mefenacet)、エトベンザニド(etobenzanid)などの酸アミド系化合物;スエップ(swep)などのカルバメート系化合物;オキサジアゾン(oxadiazon)、ピラゾレート(pyrazolate)などのダイアゾール系化合物;プロジアミン(prodiamine)などのジニトロアニリン系化合物;カフェンストロール(cafenstrole)などが挙げられる。
上記のような固体状の農薬活性成分は、本発明の分散剤存在下では、固体のまま水中に分散させることが可能であるが、有機溶剤に溶解させて液状としたものを、水中に分散させることが好ましい。かかる有機溶剤としては、例えば、メチルナフタレン、ドデシルナフタレン、トリデシルナフタレンキシレン、エチルベンゼン、オクタデシルベンゼン等の芳香族化合物;脂肪族モノカルボン酸エステル、脂肪族ジカルボン酸エステル、フタル酸エステル等のエステル類;cis-9-オクタデセン酸、デカン酸、ヘプタン酸等の脂肪酸、ひまし油、コーン油、大豆油、ごま油、菜種油、椿油、パーム油、ラード、牛脂等の動植物油、パラフィン、シリコンオイル等の鉱物油等の高沸点有機溶剤等が挙げられる。中でも芳香族化合物が好ましく、引火性の点から特にメチルナフタレンが好ましい。
〔農薬分散液〕
本発明の農薬分散剤は、上記のような分散質としての水難溶性の農薬活性成分;上記本発明の農薬分散剤;および分散媒としての水を含有する。農薬活性成分が分散剤の共存下で、水中に分散した分散液となっている。
かかる分散液の態様としては、(a)液体の農薬活性成分が水中に分散した分散液、(b)固体の農薬活性成分が有機溶剤に溶解した溶液が、水中に分散してなる水中油滴型分散液、(c)固体の農薬活性成分が水中に分散した分散液が挙げられる。
(a)の態様の農薬分散液は、(a−i)変性PVA系樹脂水溶液に液状の農薬活性成分を滴下し、撹拌して分散させる方法、(a−ii)変性PVA系樹脂水溶液と液状の農薬活性成分を一括投入し、撹拌して分散させる方法、(a−iii)液状の農薬活性成分に変性PVA系樹脂水溶液を滴下し、撹拌して分散させる方法等により製造することができ、安定的分散を容易に達成できる点から(a−i)の方法が好ましい。
(b)の態様の農薬分散液は、(b−i)変性PVA系樹脂水溶液に、農薬活性成分の有機溶剤溶液を滴下し、撹拌して分散させる方法、(b−ii)変性PVA系樹脂水溶液と農薬活性成分の有機溶剤溶液を一括投入し、撹拌して分散させる方法、(b−iii)農薬活性成分の有機溶剤溶液に変性PVA系樹脂水溶液を滴下し、撹拌して分散させる方法などにより製造することができ、安定的分散が容易に達成できる点から(b−i)の方法が好ましい。
(c)の態様の農薬分散液は、(c−i)変性PVA系樹脂水溶液に固体状の農薬活性成分を投入し、撹拌して分散させる方法、(c−ii)変性PVA系樹脂水溶液と固体状の農薬活性成分を一括投入し、撹拌して分散させる方法、(c−iii)固体状の農薬活性成分に変性PVA系樹脂水溶液を滴下し、撹拌して分散させる方法などが挙げられるが、安定的分散が容易に達成できる点から(c−i)の方法が好ましい。
以上の方法において使用する変性PVA系樹脂水溶液は、水に所定量の変性PVA系樹脂を配合し、80〜90℃に加温して溶解させて調製する。
本発明の農薬分散液における変性PVA系樹脂の濃度は、通常0.1〜20重量%、好ましくは1〜10重量%、特に好ましくは2〜8重量%である。分散剤である変性PVA系樹脂の濃度が低くなりすぎると分散安定性が低下する傾向にある。分散剤である変性PVA系樹脂の濃度が高くなりすぎると、分散質を取り巻く分散剤量が相対的に増大することから、分散質粒径が小さくなる傾向がある。
本発明の農薬分散液における農薬活性成分の濃度は、通常1〜80重量%、好ましくは5〜60重量%、特に好ましくは10〜50重量%である。農薬活性成分の種類にもよるが、農薬活性成分濃度が低くなりすぎると、希釈した場合に農薬の効果が得られにくくなり、高濃度になりすぎると、相対的に分散剤の濃度が低くなるため、分散安定性が低下する傾向にある。
農薬活性成分を溶解するために有機溶剤を用いる場合、農薬分散液における有機溶剤の濃度は、通常1〜80重量%、好ましくは5〜60重量%、特に好ましくは10〜50重量%である。農薬活性成分の濃度にもよるが、農薬活性成分を溶解することができる量であれば十分であり、多すぎると分散液中の分散剤のバランスがくずれ、散布に適した水性分散液を得られない傾向がある。
本発明の農薬分散液には、上記農薬活性成分、分散剤の他、増粘剤、消泡剤、凍結防止剤、防腐剤などを含有してもよい。
なお、農薬活性成分は、1種類に限定されず、必要に応じて、2種類以上混合して含有させてもよい。
また、分散剤である変性PVA系樹脂についても、異なる2種類以上の変性PVA系樹脂を混合して用いてもよい。この場合、変性基の種類、変性度、ケン化度、重合度、PVA主鎖の他の構造単位などのいずれか又はすべてが異なる2種類以上の変性PVA系樹脂の組み合わせを用いることができる。
このようにして得られた本発明の農薬分散液中の分散質である農薬活性成分の粒径は、通常10〜70μmであり、好ましくは20〜60μm、特に好ましくは30〜50μmである。このように、従来の分散液(乳化液)と比べて、比較的、分散質粒径が大きいことにより、空中散布した場合の飛散を抑制することができる。一方、分散質の粒径が増大したにもかかわらず、本発明の分散剤が共存することで、分散質の凝集を抑制し、保存安定性を確保することができる。また、散布される農薬活性成分の粒径が大きくなることで、散布後の農薬活性成分の失活が少なくて済む。すなわち、粒径が小さい農薬活性成分の液滴(または粒子)と比べて、外界と接触する表面積が小さくなるので、外界の影響により消耗が少なくて済む一方、害虫に対しては接触しやすくなり、害虫除去に有効である。
ここでいう農薬活性成分の粒径は、レーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置によって測定された体積中位径である。すなわち、分散質の全体積を100%として得られる累積カーブの50%径(メディアン径)をいう。
本発明の農薬分散液は、そのまま用いてもよいし、散布する際に、更に水で希釈してもよい。その場合の希釈倍率は、通常20〜2000倍、好ましくは100〜1000倍、特に好ましくは200〜800倍である。かかる濃度が小さすぎると散布の効率が低下する傾向があり、大きすぎると過剰散布になる場合がある。
上記の農薬散布剤の単位作付面積(1ヘクタール)当たりの使用量は、農薬活性成分に換算すると、通常10〜5000g/ha、好ましくは50〜3000g/haである。
以下に、本発明について、実施例を挙げて説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、実施例の記載に限定されるものではない。
尚、例中、「部」、「%」とあるのは、重量基準を意味する。
〔農薬分散剤〕
<側鎖1,2−ジオール変性PVA系樹脂>
還流冷却器、滴下漏斗、撹拌機を備えた反応缶に、酢酸ビニル10部(総使用量の10%)、3,4−ジアセトキシ−1−ブテン1.6部(総使用量の10%)、メタノール30部(初期の溶媒(S)と酢酸ビニルモノマー(M)との重量比:初期S/M=3.00)を仕込み、アゾビスイソブチロニトリルを0.24モル%(対酢酸ビニルの総使用量)投入し、撹拌しながら窒素気流下で温度を上昇させ、重合を開始した。その後、酢酸ビニル90部と3,4−ジアセトキシ−1−ブテン14.4部を9時間かけて滴下した(滴下速度=全単量体使用量の10%/時間)。11.5時間後、酢酸ビニルの重合率が91.7%となった時点で、重合禁止剤としてm−ジニトロベンゼン10ppm(対酢酸ビニルの総使用量)を加え、重合を終了した。続いて、メタノール蒸気を吹き込む方法により未反応の酢酸ビニルモノマーを系外に除去し共重合体のメタノール溶液を得た。
次いで、該溶液をメタノールで希釈して濃度50%に調整してニーダーに仕込み、溶液温度を40℃に保ちながら、水酸化ナトリウムの2%メタノール溶液を共重合体中の酢酸ビニル構造単位及び3,4−ジアセトキシ−1-ブテン構造単位の合計量1モルに対して12ミリモルとなる割合で加えてケン化を行った。ケン化が進行すると共にケン化物が析出して、粒子状となった時点で濾別し、メタノールでよく洗浄して熱風乾燥機中で乾燥し、側鎖1,2−ジオール変性PVA系樹脂を得た。
得られた側鎖1,2−ジオール変性PVA系樹脂のケン化度は、残存する酢酸ビニル構造単位及び3,4−ジアセトキシ−1−ブテン構造単位のエステル部の加水分解に要するアルカリ消費量で分析を行ったところ99モル%であり、重合度は300であった。また、側鎖1,2−ジオール構造単位の含有割合(変性量)は、1H−NMR(内部標準:テトラメチルシラン、溶媒:DMSO−d6)で測定して算出したところ7モル%であった。
<ポリオキシエチレン変性PVA系樹脂>
重合缶にオキシエチレン基の平均鎖長(n)が10のポリオキシエチレンモノアリルエーテル15.0部と酢酸ビニル85部、メタノール10.0部を仕込み、還流状態になるまで昇温した後30分間還流させてから、アゾビスイソブチロニトリルを全仕込酢酸ビニル量に対して0.08モル%仕込んで重合を開始した。反応開始後2時間目と4時間目にアゾビスイソブチロニトリルを全仕込酢酸ビニル量に対して0.08モル%ずつ追加した。
次いで、重合反応開始後約8時間目で、冷却用メタノール20部と禁止剤としてm−ジニトロベンゼンを0.2部加え、反応缶ジャケットを冷却して重合反応を停止して、ポリオキシエチレン基含有酢酸ビニル重合体を得た。かかる重合体の重合率は約95%であった。
次いで、上記で得られたポリオキシエチレン基含有酢酸ビニル重合体の溶液から残存モノマーを追い出した後、メタノールで希釈して濃度40%に調整してニーダーに仕込み、溶液温度を40℃に保ちながら、水酸化ナトリウムの2%メタノール溶液を共重合体中の酢酸ビニル1モル単位に対して11ミリモルとなる量を加えてケン化を行った。ケン化が進行すると共にケン化物が析出し、遂には粒子状となった。生成した樹脂を濾別し、メタノールでよく洗浄して熱風乾燥機中で乾燥し、目的物を得た。得られたポリオキシエチレン変性PVAのケン化度は99.2モル%、平均重合度は750、オキシエチレン基含有単位の含有割合(変性量)は2.0モル%であった。
<アセトアセチル変性PVA系樹脂(A)>
PVA系樹脂(ケン化度99モル%、4重量%水溶積の粘度5mPa・s、重合度500)100部をニーダーに仕込み、これに酢酸30部を投入して膨潤させた。膨潤したPVA系樹脂を、回転数20rpmで撹拌しながら、60℃に昇温後、ジケテン5部を5時間かけて滴下し、更に1時間反応させた。反応終了後、メタノールで洗浄した後、70℃で12時間乾燥してアセトアセチル変性PVA系樹脂(A)を得た。得られたアセトアセチル変性PVA系樹脂(A)のアセトアセチル化度は5モル%であり、ケン化度および平均重合度は、使用したPVA系樹脂と同じであった
<アセトアセチル変性PVA系樹脂(B)>
ケン化度96モル%、4重量%水溶液の粘度14mPa・s、重合度1200のPVA系樹脂を用いた以外は、アセトアセチル変性PVA系樹脂(A)と同様にして合成した。得られたアセトアセチル変性PVA系樹脂(B)のアセトアセチル化度は5モル%、ケン化度96モル%、重合度1200であった。
<アセトアセチル変性PVA系樹脂(C)>
ケン化度98モル%、4重量%水溶液の粘度52mPa・s、重合度2400のPVA系樹脂を用いた以外は、アセトアセチル変性PVA系樹脂(A)と同様にして合成した。得られたアセトアセチル変性PVA系樹脂(C)のアセトアセチル化度は4モル%、ケン化度98モル%、重合度2400であった。
〔農薬分散液の調製〕
<農薬分散液No.1〜7>
表1に示す農薬分散剤を80℃の水に溶解し、7%のPVA系樹脂水溶液を調製した。PVA系樹脂水溶液105部を超高速マルチ攪拌システム TKロボミックス(プライミクス株式会社製)を用いて2500rpmで攪拌し、次いで農薬活性成分のモデル物質として1−メチルナフタレン(常温で液体)45部を10分間かけて滴下した。滴下終了後さらに10分間攪拌を続け、農薬分散液を得た。得られた農薬分散液について、下記評価を行った。
<農薬分散液No.8>
農薬分散剤として、アニオン系界面活性剤(エマール20C 花王株式会社)を用いた以外はNo.1と同様にして、農薬分散液を調製し、下記評価を行った。結果を表1に示す。
<農薬分散液No.9>
農薬分散剤として、ノニオン系界面活性剤(エマルゲン103 花王株式会社)を用いた以外はNo.1と同様にして、農薬分散液を調製し、下記評価を行った。結果を表1に示す。
〔評価・測定方法〕
(1)変性PVA系樹脂のHLB
表中に示すHLBは、変性PVA系樹脂の変性部分、すなわち変性基を含有する構造単位のデイビス法によるHLB値である。
(2)分散質の粒径
得られた農薬モデル物質分散液中の1−メチルナフタレンの体積中位径をレーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置LA-950V2(株式会社堀場製作所製)を用いて測定した。
(3)分散安定性
得られた農薬モデル物質分散液を室温で静置し、1日後の沈降の有無を目視で確認し、以下のように評価した。
A:1−メチルナフタレンの沈降が見られない
B:1−メチルナフタレンの沈降が見られた
(4)保存安定性
得られた農薬モデル物質分散液を6℃で静置し、2日後の流動性を目視で確認し、以下のように評価した。
A:流動性がある
B:ゲル化し流動性がない
Figure 2017088566
表1から、ノニオン性の親水基である側鎖1,2−ジオール基、あるいはポリオキシエチレン鎖を側鎖に有し、且つ高ケン化度の変性PVA系樹脂を、分散剤として用いた農薬分散液は、農薬モデル物質の分散粒径が20〜40μmと適度に大きいにもかかわらず、分散安定性および保存安定性ともに優れていた(No.1,2)。
一方、未変性PVA系樹脂を分散剤として用いたNo.3の場合、完全ケン化に近いPVA系樹脂では結晶性が高いためか、一旦安定的に分散させても、保存中にゲル化した。また、未変性PVA系樹脂を分散剤として用いたNo.4の場合、水溶性に優れた部分ケン化PVA系樹脂を用いているため、分散質の粒径増大を図ることができなかった。
ノニオン性の疎水基であるアセトアセチル基で変性したPVA系樹脂で、且つ高ケン化度の変性PVA系樹脂を分散剤として用いたNo.5−7では、水難溶性の農薬活性成分を安定的に分散させることは困難であった。重合度を変えることで、分散質の粒径を変えても、分散安定性を確保することはできなかった。
さらに、PVA系樹脂に代えて界面活性剤を用いた場合(No.8,9)、ノニオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤のいずれの場合も、分散安定性が不十分であった。
本発明の農薬分散剤は、水難溶性の農薬活性成分を比較的大きい分散粒径にて水中に分散させることで、飛散を抑制して、目的の圃場のみに効果的に散布することができる。しかも、得られた水性分散液は、水難溶性の農薬活性成分でありながら、水媒体中での分散安定性、および保存安定性に優れるので、水難溶性の農薬活性成分の水媒体に対する分散剤として有用である。

Claims (11)

  1. ノニオン性で且つ親水性である変性基を有し、さらにケン化度が95モル%以上である変性ポリビニルアルコール系樹脂を含有することを特徴とする農薬分散剤。
  2. 前記変性ポリビニルアルコール系樹脂が、下記一般式(1)で表される構造単位を有することを特徴とする請求項1に記載の農薬分散剤。
    Figure 2017088566

    〔一般式(1)中、Aがノニオン性で且つ親水性である変性基であり、R,R,Rは、それぞれ独立して水素原子または置換基を有していてもよい炭素数1〜5のアルキル基である。ただし、Aが水酸基のみからなる親水性基である場合を除く。〕
  3. 前記一般式(1)で表される構造単位のデイビス法によるHLB値が8〜10であることを特徴とする請求項2に記載の農薬分散剤。
  4. 前記一般式(1)で表される構造単位が下記一般式(2)で表される構造単位であることを特徴とする請求項2又は3に記載の農薬分散剤。
    Figure 2017088566

    〔一般式(2)中、R,R,R,R,R,Rは、それぞれ独立して水素原子または置換基を有していてもよい炭素数1〜5のアルキル基である。〕
  5. 前記一般式(1)で表される構造単位が下記一般式(3)で表される構造単位であることを特徴とする請求項2又は3に記載の農薬分散剤。
    Figure 2017088566

    〔一般式(3)中、R,R,R,R,R,R,R10は、それぞれ独立して水素原子または置換基を有していてもよい炭素数1〜5のアルキル基であり、Xは結合鎖であり、nは5〜50の整数を示す。〕
  6. 前記変性ポリビニルアルコール系樹脂の重合度が100〜4000であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の農薬分散剤。
  7. 前記変性ポリビニルアルコール系樹脂における前記一般式(1)の構造単位の含有割合は、0.1〜15モル%であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の農薬分散剤。
  8. 分散質としての水難溶性の農薬活性成分;
    請求項1〜7のいずれか1項に記載の農薬分散剤;および
    分散媒としての水
    を含有することを特徴とする農薬分散液。
  9. 前記農薬活性成分が液体であることを特徴とする請求項8に記載の農薬分散液。
  10. さらに有機溶剤を含有し、
    前記農薬活性成分が常温で固体の農薬活性成分で、前記有機溶剤に溶解した溶液として含有されていることを特徴とする請求項8に記載の農薬分散液。
  11. 分散質の平均粒径が10〜70μmであることを特徴とする請求項8〜10のいずれか1項に記載の農薬分散液。
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