以下に、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。なお、以下図中の同一または相当部分には同一符号を付してその説明は原則的として繰返さないものとする。
(ハイブリッド車両の構成)
図1は、本発明の実施の形態に係るハイブリッド車両の全体構成を概略的に示すブロック図である。
図1を参照して、車両1は、エンジン100と、モータジェネレータ10,20と、遊星歯車機構30と、駆動輪50と、駆動輪50に接続された出力軸60と、「蓄電装置」を構成するバッテリ150と、システムメインリレー(SMR:System Main Relay)160と、電力制御ユニット(PCU:Power Control Unit)200と、電子制御ユニット(ECU:Electronic Control Unit)300とを備える。
車両1は、後程詳細に説明するように、エンジン100を停止させてモータジェネレータ20のみの動力を用いる電気自動車走行(EV走行)と、エンジン100を作動させてエンジン100およびモータジェネレータ20の動力をともに用いるハイブリッド自動車走行(HV走行)との間で車両1の走行態様を切り替えることができる。
エンジン100は、燃料燃焼による熱エネルギを機械的エネルギに変換する内燃機関である。エンジン100は、ECU300からの制御信号に応じて車両1が走行するための動力を、クランクシャフト110の回転力として発生する。クランクシャフト110は、遊星歯車機構30と接続される。
エンジン100には、クランクシャフト110の回転位置(クランク角)を検出するための回転検出センサ410が設けられている。回転検出センサ410の検出結果を示す信号はECU300に出力される。回転検出センサ410によって検出された回転位置の変化速度に基づき、エンジン100の回転数(エンジン回転数)Neを検出することができる。
モータジェネレータ10,20の各々は、たとえば三相交流永久磁石型同期モータで構成される。すなわち、モータジェネレータ10(第1のモータジェネレータ:MG1)のロータ11およびモータジェネレータ20(第2のモータジェネレータ:MG2)のロータ21の各々は、永久磁石を有する。
モータジェネレータ10は、エンジン100を始動させる際にはバッテリ150の電力を用いてエンジン100のクランクシャフト110を回転させる。また、モータジェネレータ10は、エンジン100の動力を用いて発電することも可能である。モータジェネレータ10によって発電された交流電力は、PCU200により直流電力に変換されてバッテリ150に充電される。また、モータジェネレータ10によって発電された交流電力がモータジェネレータ20に供給される場合もある。
モータジェネレータ20のロータ21は、出力軸60に対して機械的に接続される。なお、図1の例では、モータジェネレータ20のロータ21が出力軸60と直接連結されているが、当該ロータは、変速機(減速機)を経由して、出力軸60と機械的に接続されてもよい。
なお、車両1には、機械的ブレーキとしての制動装置55がさらに設けられる。たとえば、制動装置55は、ECU300からの制御指令に応答して、円板形状のブレーキディスク56に対してブレーキパッド(図示せず)を油圧等によって押し当てることによって生じる摩擦力により、駆動輪60の回転を妨げるように構成される。このように、車両1では、モータジェネレータ20による回生制動力および、制動装置55による機械的な制動力の組み合わせによって、ユーザによるブレーキペダル(図示せず)の操作に応じた制動力が確保される。
モータジェネレータ20は、バッテリ150からの供給電力およびモータジェネレータ10による発電電力のうちの少なくとも一方を用いて出力軸60を回転させる。また、モータジェネレータ20は、回生制動によって発電することも可能である。モータジェネレータ20によって発電された交流電力は、PCU200により直流電力に変換されてバッテリ150に充電される。
モータジェネレータ10にはレゾルバ421が設けられている。レゾルバ421は、モータジェネレータ10の回転角を検出し、その検出結果を示す信号をECU300に出力する。レゾルバ421によって検出された回転角の変化速度から、モータジェネレータ10の回転数(MG1回転数)Nm1を検出することができる。
同様に、モータジェネレータ20にはレゾルバ422が設けられている。レゾルバ422は、モータジェネレータ20の回転角θ1を検出し、その検出結果を示す信号をECU300に出力する。レゾルバ422によって検出された回転角θ2の変化速度から、モータジェネレータ20の回転数(MG2回転数)Nm2を検出することができる。
遊星歯車機構30は、回転要素としてサンギヤSと、リングギヤRと、キャリアCAと、ピニオンギヤPとを含む。サンギヤSは、モータジェネレータ10のロータ11に連結される。リングギヤRは、出力軸60に連結される。ピニオンギヤPは、サンギヤSとリングギヤRとに噛合する。キャリアCAは、エンジン100のクランクシャフト110に連結されるとともに、ピニオンギヤPが自転かつ公転できるようにピニオンギヤPを保持する。この結果、エンジン100のクランクシャフト110、モータジェネレータ10のロータ11、および、モータジェネレータ20のロータ21と接続された出力軸60は、遊星歯車機構30によって機械的に連結される。これにより、車両1は、エンジン100、モータジェネレータ10および出力軸60(モータジェネレータ20)の間でトルクを伝達可能に構成される。特に、遊星歯車機構30によって連結された、クランクシャフト110、モータジェネレータ10のロータ11および、出力軸60(モータジェネレータ20のロータ21)の3軸の間では、いずれか2軸へ入出力される動力(または回転数)が決定されると、残りの1軸に入出力される動力(または回転数)は他の2軸へ入出力される動力に基づいて定まることが知られている。
バッテリ150は、再充電が可能に構成された「蓄電装置」の代表例として示される。バッテリ150は、代表的にはニッケル水素二次電池もしくはリチウムイオン二次電池などの二次電池によって構成される。蓄電装置としては、電気二重層キャパシタなどのキャパシタを用いることも可能である。バッテリ150の電圧(以下「バッテリ電圧」とも称する)VBは、たとえば200V程度の高電圧である。
SMR160は、バッテリ150とPCU200との間の電力線に介挿接続されている。SMR160は、ECU300からの制御信号に応じて、バッテリ150とPCU200との導通状態および遮断状態を切り替える。
PCU200は、バッテリ150に蓄えられた直流電力を昇圧し、昇圧された電圧を交流電圧に変換してモータジェネレータ10およびモータジェネレータ20に供給する。また、PCU200は、モータジェネレータ10およびモータジェネレータ20により発電された交流電力を直流電力に変換してバッテリ150に供給する。すなわち、バッテリ150は、PCU200を経由してモータジェネレータ10および20との間で電力を授受(入出力)することができる。PCU200の構成については図2にて詳細に説明する。
車両1は、アクセルペダルセンサ511と、ブレーキペダルセンサ512と、車速センサ513と、パワースイッチ514とをさらに備える。アクセルペダルセンサ511は、ドライバによるアクセルペダル(図示せず)の操作量Accを検出する。アクセルペダルの非操作時にはAcc=0である。ブレーキペダルセンサ512は、ドライバによるブレーキペダル(図示せず)の操作量Brkを検出する。車速センサ513は、車両1の速度、すなわち、車速SPを検出する。アクセルペダルセンサ511、ブレーキペダルセンサ512および、車速センサ513による検出値は、ECU300へ入力される。
パワースイッチ514は、ドライバが車両運転の開始または終了を指示する際に操作される。パワースイッチ514がユーザによって操作されると、信号PWRがECU300へ入力されるので、ECU300は、信号PWRに応じてパワースイッチ514が操作されたことを検知できる。
たとえば、ECU300は、運転停止状態において、ドライバがブレーキペダルを踏んだ状態でパワースイッチ514が操作されると、車両1を「Ready−ON状態」とする。Ready−ON状態では、SMR160がオンされて、バッテリ150およびPCU120が導通状態となって、車両1は、アクセルペダルの操作に応じて走行可能な状態となる。
一方で、Ready−ON状態においてドライバがパワースイッチ514を操作すると、車両1は運転停止状態(Ready−OFF状態)に遷移する。Ready−OFF状態では、SMR160がオフされて、バッテリ150およびPCU120の間が電気的に遮断されて、車両1は走行不能な状態となる。
ECU300は、いずれも図示しないが、CPU(Central Processing Unit)と、メモリと、入出力バッファ等とを含んで構成される。ECU300は、各センサおよび機器からの信号、ならびにメモリに格納されたマップおよびプログラムに基づいて、車両1が所望の走行状態となるように各種機器を制御する。なお、各種制御については、ソフトウェアによる処理に限られず、専用のハードウェア(電子回路)により処理することも可能である。本実施の形態では、ECU300は単一の要素として説明を進める。ECU300は「制御装置」の一実施例に対応する。
(電気システムの構成)
図2は、車両1の電気システムの構成を説明するための回路ブロック図である。
図2を参照して、PCU200は、コンデンサC1と、コンバータ210と、コンデンサC2と、インバータ221,222と、電圧センサ230と、電流センサ241,242とを含む。
バッテリ150には監視ユニット440が設けられている。監視ユニット440は、バッテリ電圧VB、バッテリ150の入出力電流(バッテリ電流)IB、およびバッテリ150の温度(バッテリ温度)TBを検出して、それらの検出結果を示す信号をECU300に出力する。コンデンサC1は、バッテリ150に並列に接続されている。コンデンサC1は、バッテリ電圧VBを平滑化してコンバータ210に供給する。
コンバータ210は、ECU300からの制御信号に応じて、バッテリ電圧VBを昇圧し、昇圧された電圧を電力線PL,NLに供給する。また、コンバータ210は、MG−ECU300からの制御信号に応じて、インバータ221およびインバータ222の一方または両方から供給された電力線PL,NLの直流電圧を降圧してバッテリ150を充電する。
より具体的に、コンバータ210は、いわゆる昇圧チョッパによって構成されて、リアクトルL1と、スイッチング素子Q1,Q2と、ダイオードD1,D2とを含む。スイッチング素子Q1,Q2および後述するスイッチング素子Q3〜Q14の各々は、たとえばIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)である。スイッチング素子Q1,Q2は、電力線PLと電力線NLとの間に互いに直列に接続されている。ダイオードD1,D2は、スイッチング素子Q1,Q2のコレクタ−エミッタ間に逆並列にそれぞれ接続されている。
コンデンサC2は、電力線PLと電力線NLとの間に接続されている。コンデンサC2は、コンバータ210から供給された直流電圧を平滑化してインバータ221,222に供給する。
電圧センサ230は、コンデンサC2の両端の電圧、すなわちコンバータ210とインバータ221とを結ぶ電力線PL,NL間の電圧(以下「システム電圧」とも称する)VHを検出し、その検出結果を示す信号をECU300に出力する。
インバータ221は、システム電圧VHが供給されると、ECU300からの制御信号に応じて、直流電圧を交流電圧に変換してモータジェネレータ10を駆動する。これにより、モータジェネレータ10は、トルク指令値に従ったトルクを発生するように、インバータ221により制御される。
インバータ221は、U相アーム1Uと、V相アーム1Vと、W相アーム1Wとを含む。各相アームは、電力線PLと電力線NLとの間に互いに並列に接続されている。U相アーム1Uは、互いに直列に接続されたスイッチング素子Q3,Q4を有する。V相アーム1Vは、互いに直列に接続されたスイッチング素子Q5,Q6を有する。W相アーム1Wは、互いに直列に接続されたスイッチング素子Q7,Q8を有する。各スイッチング素子Q3〜Q8のコレクタ−エミッタ間には、ダイオードD3〜D8が逆並列にそれぞれ接続されている。
各相アームの中間点は、モータジェネレータ10の各相コイルに接続されている。すなわち、モータジェネレータ10のU相、V相およびW相の3つのコイルの一方端は、中性点に共通接続されている。U相コイルの他方端は、スイッチング素子Q3,Q4の中間点に接続されている。V相コイルの他端は、スイッチング素子Q5,Q6の中間点に接続されている。W相コイルの他方端は、スイッチング素子Q7,Q8の中間点に接続されている。
インバータ222は、各相アーム2U〜2Wと、スイッチング素子Q9〜Q14と、ダイオードD9〜D14とを含む。なお、インバータ222の構成は、基本的にはインバータ221の構成と同等であるため、説明は繰り返さない。モータジェネレータ20についても、トルク指令値に従ったトルクを発生するように、インバータ222により制御される。
モータジェネレータ10には、レゾルバ421に加えて電流センサ241が設けられる。同様に、モータジェネレータ20には、レゾルバ422に加えて電流センサ242が設けられる。電流センサ241は、モータジェネレータ10を流れる三相電流(モータ電流MCRT1)を検出する。電流センサ242は、モータジェネレータ20を流れる三相電流(モータ電流MCRT2)を検出する。これらのセンサは、検出結果を示す信号をECU300にそれぞれ出力する。
ECU300は、ドライバ操作に応じた走行が実現されるように車両1全体を制御する。具体的には、ECU300は、アクセルペダル操作量Acc、ブレーキペダル操作量Brkおよび車速SPに基づいて、車両走行に必要な駆動力(駆動トルク)を算出する。さらに、当該駆動トルクを出力軸60に作用させるための、エンジン100およびモータジェネレータ10,20間の最適な出力配分を決定し、決定された出力配分に従って、モータジェネレータ10,20の運転指令およびエンジン100の運転指令を生成する。エンジン100の運転指令は、エンジン100の停止指令および作動指令を含む。
また、ブレーキペダルの操作時には、ブレーキペダル操作量Brkに応じた制動トルクが出力軸60に作用するように、制動装置50による制動トルクと、モータジェネレータ20の回生ブレーキによる制動トルクとの配分が協調制御されるように、モータジェネレータ10,20、エンジン100および制動装置55の運転指令が生成される。一般的には、ブレーキペダルの操作時には、エンジン100には停止指令が発せられるとともに、モータジェネレータ20には負トルクの運転指令が発せられる。
エンジン100の運転指令(作動時)は、目標エンジン回転数Ne*および目標エンジントルクTe*を含む。目標エンジン回転数Ne*および目標エンジントルクTe*は、上記出力配分に従って設定されたエンジン100への要求パワーに従って、エンジン100の高効率の動作領域に設定される。ECU300は、運転指令(目標エンジン回転数Ne*および目標エンジントルクTe*)に従ってエンジン100が駆動されるように、燃料噴射、点火時期、バルブタイミング等を調整するためのアクチュエータ(図示せず)を制御する。
モータジェネレータ10,20の運転指令には、モータジェネレータ10のトルク指令値Tqcom1およびモータジェネレータ20のトルク指令値Tqcom2が含まれる。ECU300は、運転指令に従って、コンバータ210およびインバータ221,222の制御を通じて、モータジェネレータ10,20の出力を制御する。
ECU300は、コンバータ210の出力電圧の目標値(以下「目標システム電圧」という)VH*を設定し、システム電圧VHが目標システム電圧VH*に追従するようにコンバータ210のスイッチング素子Q1,Q2のオンオフを制御する。たとえば、PWM(Pulse Width Modulation)制御によって、スイッチング素子Q1,Q2のオンオフを制御する制御信号PWMCが生成される。目標システム電圧VH*は、モータジェネレータ10,20の動作状態(回転数、トルク)に応じて可変に設定される。
また、ECU300は、レゾルバ421,422および電流センサ241,242の出力等に基づいて、モータジェネレータ10,20が運転指令(トルク指令値Tqcom1,Tqcom2)に従って動作するようにインバータ221,222を制御する。
具体的には、ECU300は、モータジェネレータ10の出力を制御するために、システム電圧VH、回転角θ1(電気角)、モータ電流MCRT1およびトルク指令値Tqcom1に基づいて、スイッチング素子Q3〜Q8の各々をスイッチング動作させるためのPWM方式の制御信号PWM1を生成してインバータ221に出力する。一方、ECU300は、モータジェネレータ10の停止時には、スイッチング素子Q3〜Q8の各々をゲート遮断するためのゲート遮断信号SDN1を生成してインバータ221をシャットダウン状態とすることができる。
同様に、ECU300は、モータジェネレータ20の出力を制御するために、システム電圧VH、回転角θ2(電気角)、モータ電流MCRT2およびトルク指令値Tqcom2に基づいて、スイッチング素子Q9〜Q14の各々をスイッチング動作させるためのPWM方式の制御信号PWM2を生成してインバータ222に出力する。一方、ECU300は、モータジェネレータ20の停止時等には、スイッチング素子Q9〜Q14の各々をゲート遮断するためのゲート遮断信号SDN2を生成してインバータ222をシャットダウン状態とすることができる。このように、ECU300によるインバータ221,222の制御方式は同等である。
なお、ECU300は、監視ユニット440からのバッテリ電圧VB、バッテリ電流IB、およびバッテリ温度TBに基づき、バッテリ150のSOC(State of Charge)、放電電力上限値WOUT(WOUT≧0,WOUT=0は放電禁止)および、充電電力上限値WIN(WIN≦0,WIN=0は充電禁止)を算出する。上述のトルク指令値Tqcom1,Tqcom2は、バッテリ150の保護のために、モータジェネレータ10および20の入出力電力(トルク×回転数)の和がWIN〜WOUTの範囲内に収まるように設定される必要がある。
(車両走行におけるモータジェネレータの出力制御)
ECU300は、上述のEV走行およびHV走行を必要によって切換えながら車両1を走行させる。たとえば、車両発進時や低速走行時において、エンジン100が低効率領域で動作することを回避するために、EV走行が選択される。
図3には、EV走行における遊星歯車機構30での共線図が示される。
図3を参照して、遊星歯車機構30によって機械的に連結された、モータジェネレータ10、エンジン100および、モータジェネレータ20のそれぞれの回転数である、MG1回転数Nm1、エンジン回転数Neおよび、MG2回転数Nm2の間には、ギヤ比ρを用いて、下記(1)式に示す関係が成立する。したがって、MG1回転数Nm1、エンジン回転数Neおよび、MG2回転数Nm2は、共線図上で結ばれる。
ρ・Nm1=Ne・(1+ρ)−Nm2・Gr… (1)
なお、式(1)中において、GrはMG2回転数Nm2と出力軸60の回転数の間の変速比である。以下、モータジェネレータ20のロータ軸が変速機を介さずに出力軸60に連結される本実施の形態では、Gr=1として式(1)を取り扱う。
EV走行では、エンジン100は停止されており、モータジェネレータ20のトルク(MG2トルク)Tmによって車両1の駆動力が発生される。EV走行時には、モータジェネレータ10のトルク(MG1トルク)Tg=0であり、モータジェネレータ10は、モータジェネレータ20の回転に伴って、従動的に回転される。
モータジェネレータ10の回転数(MG1回転数Nm1)は、上記(1)式にNe=0を代入することで求められる。すなわち、Nm1=−(1/ρ)・Nm2となり、車両1の前進時(Nm2>0)には、モータジェネレータ10は、図3に示されるように、負方向に回転する。
一方で、ECU300は、ドライバによる加速要求(アクセルペダル操作)や、バッテリ150の充電のためにエンジン100を作動させる必要がある場合には、EV走行からHV走行への切換えを実行する。図4は、HV走行における遊星歯車機構30での共線図である。
図4を参照して、HV走行中においても、上記(1)式に示す関係に従って、MG1回転数Nm1、エンジン回転数Neおよび、MG2回転数Nm2は、共線図上で結ばれる。図3および図4を通じて、遊星歯車機構30に連結された、エンジン100のクランクシャフト110、モータジェネレータ10および20のロータ軸の3軸について、3軸のうちのいずれか2軸の回転数が決定されるとギヤ比に従って残余の1軸の回転数が決定されることが理解される。
HV走行中には、エンジン100が作動されて、エンジン回転数NeおよびエンジントルクTeが、目標エンジン回転数Ne*および目標エンジントルクTe*に従って制御される。
モータジェネレータ10のトルク(MG1トルク)Tgおよび回転数Nm1は、エンジン100が目標エンジン回転数Ne*および目標エンジントルクTe*に従って動作するように制御される。たとえば、目標エンジン回転数Ne*および現在の出力軸60の回転数(MG2回転数Nm2)から、式(1)を変形した下記の式(2)によって目標MG1回転数Nm1*を定めることができる。
Nm1*=(Ne*・(1+ρ)−Nm2)/ρ …(2)
さらに、目標MG1回転数Nm1*およびMG1回転数Nm1の偏差に応じてMG1トルクTgを増減するように、トルク指令値Tqcom1を設定することができる。
通常の前進走行時には、図4に示されるように、MG1トルクTgは負トルク(Tg<0)とされて、モータジェネレータ10は発電する状態となる。したがって、トルク指令値Tqcom1に従ってMG1トルクTgを制御すると、出力軸60には、車両前進方向に作用する直達トルクTep(=−Tg/ρ)が伝達される。直達トルクTepは、モータジェネレータ10で反力を受け持ちながら目標エンジン回転数Ne*および目標エンジントルクTe*でエンジン100を動作させたときに、出力軸60に伝達されるトルクに相当する。
出力軸60には、MG2トルクTmがさらに作用する。すなわち、HV走行では、必要な車両1の駆動トルクに対する直達トルクTepの過不足分を補償するように、MG2トルクTmを発生することで、円滑な走行制御が実現される。
このように、車両1では、モータジェネレータ10,20の出力トルク(Tg,Tm)は、走行制御に従って設定されたトルク指令値Tqcom1,Tqcom2に追従して制御される必要がある。
(通常のモータジェネレータの出力制御)
本実施の形態によるハイブリッド車両では、モータジェネレータの出力制御として、パルス幅変調(PWM:Pulse Width Modulation)制御について説明する。
図5は、PWM制御の基本動作を説明する概念的な波形図である。
図5を参照して、PWM制御では、搬送波160と、相電圧指令170との電圧比較に基づき、インバータ221,222の各相のスイッチング素子のオンオフ制御が制御される。これにより、モータジェネレータ10,20の各相に、擬似正弦波電圧としてのパルス幅変調電圧180が印加される。搬送波160は、所定周波数の三角波やのこぎり波によって構成することができる。相電圧指令170は、モータジェネレータ10,20がトルク指令値Tqcom1,Tqcom2に従ったトルクを出力するための相電圧として、以下に説明するように演算される。パルス幅変調電圧180のパルス高さは、システム電圧VHに相当する。
図6は、モータジェネレータ10,20に対する出力制御の構成を説明する機能ブロック図である。図6に示したPWM制御による制御構成は、モータジェネレータ10および20に共通に適用される。以下の説明では、モータジェネレータ10,20のトルク指令値Tqcom1,Tqcom2を包括的に、トルク指令値Tqcomと表記する。また、モータジェネレータ10,20の回転角θ1およびθ2についても、包括的に電気角θと表記する。
図6を参照して、PWM制御部500は、電流指令生成部510と、座標変換部520,550と、電圧指令生成部540と、PWM変調部560とを含む。なお、図6ははじめとする機能ブロック図中の各機能ブロックについては、ECU300内に当該ブロックに相当する機能を有する電子回路(ハードウェア)によって実現されてもよいし、予め記憶されたプログラムに従ってECU300がソフトウェア処理を実行することにより実現されてもよい。PWM制御部500は、周期的に制御演算を実行する。以下では、PWM制御の前回の制御周期から今回の制御周期までの経過時間をΔtとする。すなわち、ΔtはPWM制御の制御周期に相当する。この制御周期Δtは一定値であってもよく、MG1回転数Nm1およびMG2回転数Nm2の変化等に応じて可変とされてもよい。
電流指令生成部510は、予め作成されたテーブル等に従って、トルク指令値Trqcomに応じて、d軸電流指令値Idcomおよびq軸電流指令値Iqcomを生成する。なお、√(Idcom2+Iqcom2)によって電流振幅が決まり、IdcomおよびIqcomの比によって電流位相が決まる。
座標変換部520は、電気角θを用いた座標変換(dq変換)により、d軸電流Idおよびq軸電流Iqを算出する。具体的には、座標変換部520は、電流センサ241(242)によって検出された三相電流iv,iw,ivを、下記の式(3)に従って、d軸電流Idおよびq軸電流Iqに変換する。
なお、三相電流iu,iv,iwの瞬時値の和は0であるので(iu+iv+iw=0)、電流センサ241(242)については2相に配置すれば、残りの1相の電流は演算によって求めることができる。
電圧指令生成部540には、d軸電流の指令値に対する偏差ΔId(ΔId=Idcom−Id)およびq軸電流の指令値に対する偏差ΔIq(ΔIq=Iqcom−Iq)が入力される。電圧指令生成部540は、d軸電流偏差ΔIdおよびq軸電流偏差ΔIqのそれぞれについて、所定ゲインによるPI(比例積分)演算を行なって電流制御偏差を求め、この電流制御偏差に基づいてd軸電圧指令値Vd*およびq軸電圧指令値Vq*が生成される。
d−q軸平面での電圧方程式は、下記(4)式で与えられることが知られている。電圧指令生成部540における電圧指令値Vd*,Vq*の算出は、電圧方程式におけるId,IqとVd,Vqとの関係に基づいて実行される。
なお、式(4)中において、Vdはd軸電圧、Vqはq軸電圧であり、Ra,Ld,Lqは、モータジェネレータ10(20)の回路定数パラメータである。具体的には、Raは1相の抵抗値、Ldはd軸インダクタンス、Lqはq軸インダクタンス、Φはロータ11(21)の永久磁石による磁束である。また、ωはモータジェネレータ10(20)の回転角速度である。
座標変換部550は、電気角θを用いた座標変換(dq逆変換)によって、U相、V相、W相の電圧指令Vu,Vv,Vwを算出する。具体的には、座標変換部550は、電圧指令生成部540からのd軸電圧指令値Vd*およびq軸電圧指令値Vq*を、下記の式(5)に従って、電圧指令Vu,Vv,Vwに変換する。
PWM変調部560は、搬送波160(図5)と座標変換部550からの各相電圧指令Vu,Vv,Vwとの電圧比較に従って、インバータ221(222)のオンオフを制御する制御信号PWM1(PWM2)を生成する。各相電圧指令Vu,Vv,Vwは、図5での相電圧指令170に相当する。
これにより、制御信号PWM1(PWM2)に従って、インバータ221(222)の各相上下アーム素子を構成するスイッチング素子Q3〜Q8(Q9〜Q14)がオンオフ制御される。これにより、モータジェネレータ10(20)の各相に、電圧指令Vu,Vv,Vwに従った疑似正弦波電圧(図6のパルス幅変調電圧180)が印加される。
なお、PWM変調における搬送波160の振幅は、システム電圧VHに相当する。ただし、各相電圧指令Vu,Vv,Vwの振幅について、Vd*,Vq*に基づく本来の振幅値をシステム電圧VHで除算したものに正規化すれば、PWM変調部560で用いる搬送波160の振幅を固定できる。
(レゾルバ異常時におけるモータジェネレータの出力制御)
このように、ロータに永久磁石モータを有するモータジェネレータ10,20の出力制御には、電気角θが必要である。図6に示された通常時(レゾルバ正常時)の制御では、座標変換部520,550による式(3),(5)の座標変換で必要となる電気角θは、レゾルバ421(422)の検出値から求められる。
したがって、図6の制御構成では、レゾルバ421,422のいずれか一方に異常が発生した場合には、レゾルバ異常が発生した一方のモータジェネレータでは、電気角θが検出不能となってしまうため出力制御ができなくなる。以下、本実施の形態では、モータジェネレータ20のレゾルバ422に異常が発生する一方で、モータジェネレータ10のレゾルバ422は正常に電気角θを検出可能であるケースにおける制御について説明する。
このようなレゾルバ異常の発生時に、特許文献1では、レゾルバ異常が発生したモータジェネレータ(MG2)に対応するインバータをシャットダウンして当該モータジェネレータからのトルク出力を停止して、エンジン100およびレゾルバ異常が発生していないモータジェネレータ(MG1)の出力によるリンプフォーム走行が実行される。
特許文献1に記載されたリンプフォーム走行は、図5に示された共線図において、Tm=0として、直達トルクTepのみで車両1を走行するものである。しかしながら、この車両走行では、モータジェネレータ10(MG1)が継続的に負トルクを出力するため、モータジェネレータ10による発電が継続的に実行される。この結果、バッテリ150のSOCが上限まで上昇すると、モータジェネレータ10(MG1)によるトルク出力を停止せざるを得ず、車両走行が継続不能となってしまう。すなわち、特許文献1のリンプフォーム走行では、走行距離の確保に懸念が生じる。
図7は、本実施の形態に従うハイブリッド車両におけるレゾルバ異常が発生したモータジェネレータに対する出力制御の構成を説明する機能ブロック図である。
本実施の形態では、モータジェネレータ10については図6に示した制御構成によって出力が制御される。これに対して、レゾルバ異常が発生したモータジェネレータ20については、図7に示した出力制御が適用される。以下では、図7に従うモータジェネレータの出力制御を「レゾルバレス制御」とも称する。
図7を参照して、レゾルバレス制御のためのPWM制御部500♯は、図6に示されたPWM制御部500と比較して、レゾルバ異常が発生したモータジェネレータ(ここでは、モータジェネレータ20)の電気角を推定するための電気角推定部600をさらに含む。PWM制御部500♯は、図6に示されたPWM制御部500と同様に、周期的に(制御周期Δt)演算を実行する。なお、以下では、図7のPWM制御部500♯での制御周期についてもΔtと表記する。
電気角推定部600は、エンジン回転数NeおよびMG1回転数Nm1と、電圧指令値Vd*およびVq*と、電流センサ242による電流検出値(三相電流)とを用いて、モータジェネレータ20の電気角推定値θeを算出する。
座標変換部520は、レゾルバ422によって検出された電気角θ2に代えて、電気角推定部600からの電気角推定値θeを用いた座標変換(式(3))により、電流センサ242によって検出された三相電流iu,iw,ivからd軸電流Idおよびq軸電流Iqを算出する。
同様に、座標変換部550は、電気角推定部600による電気角推定値θeを用いた座標変換(式(5))によって、電圧指令生成部540からの電圧指令値Vd*,Vq*から電圧指令Vu,Vv,Vwを算出する。
図7に示されたPWM制御部500♯における上記以外の構成および機能については、図6のPWM制御部500と同様であるので、詳細な説明は繰返さない。すなわち、レゾルバ異常が発生したモータジェネレータでは、レゾルバ検出値を用いることなく、電気角推定部600によって算出された電気角推定値θeを用いて、dq変換(座標変換部520)およびdq逆変換(座標変換部550)が実行される。
次に、電気角推定部600による電気角推定値θeの算出手法を詳細に説明する。
図8は、電気角推定部600による制御処理を説明するためのフローチャートである。
図8を参照して、電気角推定部600(ECU300)は、ステップS100により、回転検出センサ410およびレゾルバ421の検出値から求められたエンジン回転数NeおよびMG1回転数Nm1を用いて、MG2回転数Nm2の推定値(MG2回転数推定値Nme2)を算出する。
図4に示された共線図および式(1)より、ステップS100におけるMG2回転数推定値Nme2の算出式は、Gr=1とした式(1)を変形して得られる下記の式(6)とすることができる。
Nme2=Ne・(1+ρ)−Nm1・ρ …(6)
電気角推定部600(ECU300)は、ステップS110により、ステップS100で求められたMG2回転数推定値Nme2を回転角速度ωに換算する。回転角速度ωと、PWM制御の制御周期Δtとの積により、制御周期間での電気角変化量(ω・Δt)を求めることができる。
電気角推定部600は、MG2回転数推定値Nme2に基づく制御周期間での電気角変化量(ω・Δt)を逐次積算することによって、各制御周期における電気角推定値θeを算出することができる。たとえば、第i番目(i:自然数)の制御周期において、前回の制御周期における電気角推定値θe(i−1)と、第(i−1)周期および第i周期の間での電気角変化量ω・Δtとの和によって、今回の制御周期における電気角推定値θe(i)を算出することができる。
一方で、制御周期間での電気角変化量(ω・Δt)の積算のみでは、レゾルバレス制御の開始時における電気角推定値θeの初期値に誤差が存在すると、モータジェネレータの出力トルクに誤差が発生してしまう。このため、本実施の形態によるレゾルバレス制御では、電気角推定値θeの精度を高めるために、各制御周期において電気角の推定誤差Δθの算出処理が実行される。
具体的には、電気角推定部600(ECU300)は、ステップS120により、PWM制御によるインバータ222への制御指令と、電流センサ242の検出値に基づく実際の電流値とを用いて、前回の制御周期での電気角推定値θ(i−1)の推定誤差Δθを演算する。
図9は、ステップS120における電気角推定誤差Δθの算出原理を説明するための概念図である。
図9を参照して、d−q軸平面上の電流ベクトルは、三相電流iu,iv,iwを上述の式(3)に従って変換した、d軸電流Idおよびq軸電流Iqのベクトル和に相当する。この際の電気角θは、永久磁石のN極に相当するd軸とU相の交流巻線との角度によって定義される。
図9中のd′軸およびq′軸は、現在の電気角推定値θeの基準とされたd軸およびq軸である。d′軸およびq′軸は、実際のd軸およびq軸に対して、Δθの誤差を有している。図8のステップS120では、この電気角推定誤差Δθの推定演算が実行される。
再び図7を参照して、電流フィードバックに基づく電圧指令値Vd*,Vq*から三相の電圧指令Vu,Vv,Vwへの変換は、電気角推定誤差Δθを含む電気角推定値θeを用いて実行される。さらに、電圧指令値Vd*,Vq*に基づく電圧指令Vu,Vv,Vwが印可されることによって、すなわちインバータ222への制御指令に応じて実際に生じる電流は、実際の電気角(θe−Δθ)に従った値である。すなわち、実際の三相電流値を変換して得られるd軸電流およびq軸電流についても、電気角推定誤差Δθを含んだものとなる。
したがって、電圧方程式(式(4))に従って電圧指令値Vd*,Vq*によって生じるべきd軸電流Idおよびq軸電流Iqと、実際に生じたd軸電流Id_sおよびq軸電流Iq_sとの間には、角度Δθの回転による一次変換に相当する下記式(7)の関係が成立する。
同様に、電圧指令値Vd*,Vq*に相当する理論値Vd_tおよびVd_tと、実際にモータジェネレータ20に作用するd軸電圧Vdおよびq軸電圧Vqとの間には、下記式(8)の関係が成立する。
図10は、図8のステップS120による電気角推定誤差Δθの推定処理を詳細に説明するフローチャートである。
図10を参照して、図8に示されたステップS120は、ステップS122〜S128を有する。
電気角推定部600(ECU300)は、ステップS122により、前回周期での電気角推定値θe(i−1)を用いた座標変換(式(3))により、電流センサ242によって検出された今回の制御周期での三相電流(iu,iv,iw)から、センサ検出値に基づくd軸電流Id_sおよびq軸電流Iq_sを算出する。
電気角推定部600(ECU300)は、ステップS124により、前回周期、すなわち第(i−1)周期での電圧指令値Vd*,Vq*を、電圧指令値の理論値Vd_t,Vq_tにセットする。さらに、電気角推定部600は、ステップS125により、センサ検出値に基づくId_s,Iq_sと、電圧指令値の理論値Vd_t,Vq_tから、電気角推定誤差Δθを求めるための係数パラメータka〜kdを算出する。
ここで、係数パラメータka〜kdについて説明する。
電圧方程式(式(4))の左辺において、d軸電圧Vdおよびq軸電圧Vqには、式(8)から得られる、Vd=cosΔθ・Vd_t−sinΔθ・Vq_tおよび、Vq=sinΔθ・Vd_t+cosΔθ・Vq_tを代入することができる。
同様に、電圧方程式(式(4))の右辺では、d軸電流Idおよびq軸電流Iqに対して、式(7)から得られる、Id=cosΔθ・Id_s−sinΔθ・Iq_sおよび、Iq=sinΔθ・Id_s+cosΔθ・Iq_sを代入することができる。
これらの代入により、電圧方程式は、cosΔθおよびsinΔθを変数とする下記(9)式に書き直すことができる。
式(9)において、cosΔθおよびsinΔθの係数となるka〜kdは、センサ検出値に基づくId_s,Iq_sおよび電圧指令値の理論値Vd_t,Vq_tを変数として、下記(10)〜(13)式で示される。
なお、式(9)において、Δθ=0のとき、すなわち、Id=Id_s,Iq=Iq_sかつVd=Vd_t,Vq=Vq_tのときには、電圧方程式(式(4))との比較から、cosΔθの係数となるka,kdについて、ka=0,kd=ω・φとなることが理解される。また、θ=0のとき、sinΔθ=0であるから、kb・sinΔθ=kc・sinΔθ=0となる。
電気角推定部600(ECU300)は、ステップS125により、ステップS122,S124で求められたId_s,Iq_sおよびVd_tおよびVq_tを式(10)〜(13)に代入することにより、係数パラメータka〜kdを算出する。なお、電圧方程式中の回路定数パラメータRa,Ld,Lqは、予め求められており、回転角速度ωについては、ステップS110(図8)で求められている。
さらに、電気角推定部600(ECU300)は、ステップS126により、式(9)の連立方程式を変形した下記の式(14)に、ステップS125で求められた係数パラメータka〜kdを代入することによって、sinΔθおよびcosΔθを算出する。
そして、電気角推定部600(ECU300)は、ステップS128により、ステップS126で算出されたsinΔθおよび/またはcosΔθから、電気角推定誤差Δθを算出する。
再び図8を参照して、電気角推定部600(ECU300)は、ステップS130に処理を進めて、今回の制御周期(すなわち、第i制御周期)における電気角推定値θe(i)を算出する。具体的には、前回の制御周期における電気角推定値θe(i−1)に対して、ステップS110で求められた回転角速度ωに基づく制御周期間での電気角変化量(ω・Δt)を加算し、さらに、ステップS130で算出された電気角推定誤差Δθを用いた補正を行って、電気角推定値θe(i)が算出される(θe(i)=θe(i−1)+ω・Δt−Δθ)。
なお、電気角推定誤差Δθによる補正については、上述したように制御周期毎に電気角推定値θeに直接反映する方式の他、ローパスフィルタ等によって平滑化した学習値として電気角推定値θeに反映することも可能である。いずれにしても、電気角推定値θeと実際の電気角との誤差が小さくなるにつれて、Δθは0に収束する。
さらに、ECU300は、ステップS140により、ステップS100〜S130の処理によって、すなわち電気角推定部600により求められた電気角推定値θeを用いて、レゾルバ異常が発生したモータジェネレータ20のトルク制御を実行する。具体的には、図7の座標変換部520,550での式(3),(5)によるdq変換およびdq逆変換に電気角推定値θeを使用した制御演算によって、インバータ222の制御信号PWM2が生成される。
これにより、図7に示された機能ブロック図に従うレゾルバレス制御によって、インバータ222によってモータジェネレータ20の出力を制御することができる。したがって、モータジェネレータ20にレゾルバ故障が発生して電気角の検出値を得ることができなくなっても、トルク指令値Tqcom2に従ってモータジェネレータ20の出力を制御することができる。なお、図7に示された制御構成では、トルク指令値Tqcom2がゼロトルクや負トルクに設定されても、モータジェネレータ20の出力を制御することが可能である。したがって、レゾルバ422に異常が発生した場合においても、レゾルバレス制御の適用によりモータジェネレータ20による回生制動のためのトルク出力が可能となる。
このように、本発明の実施の形態に従うハイブリッド車両によれば、モータジェネレータ20にレゾルバ異常が発生しても、電気角推定を行うレゾルバレス制御を適用することによって、モータジェネレータ20からトルクを出力することができる。以下では、レゾルバレス制御が適用された車両走行をレゾルバレス走行とも称する。
本実施の形態によるレゾルバレス走行によれば、モータジェネレータ20にレゾルバ異常が発生したときの車両走行について、MG2トルクTmを継続的に出力した車両走行が可能となるので、特許文献1のように、モータジェネレータ20のトルク出力を停止させて(すなわち、電力消費なし)リンプフォーム走行を行なう場合と比較して、走行距離を拡大することができる。また、モータジェネレータ20による回生ブレーキを使用できるので、摩擦ブレーキ55の過負荷によって走行継続が制限されることも防止できる。
(レゾルバレス走行におけるモータジェネレータの出力制限)
しかしながら、上述のレゾルバレス制御では、電気角に推定誤差が発生していると出力トルクに誤差が生じることが懸念される。電気角推定誤差Δθの周期的な更新によって最終的にはΔθが0に収束した状態とすることが可能であるものの、モータジェネレータ20のトルク誤差が運転性に影響を与える虞がある場面では、トルク出力に制約を設けることが好ましい。
図11は、本実施の形態に従うハイブリッド車両のレゾルバレス走行時におけるトルク制限の制御処理を説明するフローチャートである。図11に示されるフローチャートの制御処理は、Ready−ON状態においてECU300によって繰返し実行される。
図11を参照して、ECU300は、ステップS200により、モータジェネレータ20のレゾルバ異常(MG2レゾルバ異常)が発生しているか否かを判定する。ステップS200による判定は、たとえば、ダイアグコードの出力等に基づいて実行することができる。
ECU300は、MG2レゾルバ異常の非発生時(S200のNO判定時)には、以降の処理をスキップする。この場合には、モータジェネレータ20の出力は、図6に示された制御構成に従って、レゾルバ422の検出値に基づく電気角θを用いて制御される。すなわち、車両1ではレゾルバレス走行は実行されない。
ECU300は、MG2レゾルバ異常の発生時(S200のYES判定時)には、以下の制御処理に従って、レゾルバレス走行を実行する。ECU300は、ステップS210により、MG2回転数推定値Nme2を所定の判定値Nthと比較する。MG2回転数推定値Nme2は、図8のステップS100での算出値を用いることができる。
さらに、ECU300は、ステップS220により、MG1トルクの大きさ|Tg|を所定の判定値Tthと比較する。MG1トルクTgについては、モータジェネレータ10の電圧値および電流値から実績値を演算してもよく、トルク指令値Tqcom1を用いてステップS220の判定を行ってもよい。
図4の共線図から理解されるとおり、MG2回転数が低い領域では、MG2トルクTmの誤差が、出力軸60の回転数(車速)の変化に与える影響が大きい。また、MG1トルク|Tg|が小さいと、直達トルクTepも小さくなるので、出力軸60に作用するトルク(車両駆動力)に占めるMG2トルクTmの割合が大きくなる。したがって、これらのMG2低回転領域、および、MG1低トルク領域では、MG2トルクの誤差が運転快適性に及ぼす影響が大きくなることが懸念される。すなわち、図11のステップS210,S220における判定値Nth,Tthは、MG2トルクに生じた誤差が運転性に与える影響を評価して、実験等によって予め定められる。
したがって、ECU300は、MG2低回転領域内(S210のNO判定時)であるとき、または、MG1低トルク領域内(S220のNO判定時)であるときには、ステップS240に処理を進めてMG2トルクの出力を禁止する。たとえば、ECU300は、ゲート遮断信号SDN2を出力してインバータ222をシャットダウン状態とすることによって、確実にMG2トルクTm=0とすることができる。
あるいは、ステップS220においては、トルク指令値Tqcom2=0としてレゾルバレス制御を実行してもよい。この場合には、電気角誤差Δθが存在していると、実際にはMG2トルクを確実に0とすることはできないが、比較的低トルク出力とした下で、電気角誤差Δθを収束させることが可能となる。
一方で、ECU300は、MG2低回転領域外(S210のYES判定時)、かつ、MG1低トルク領域外(S220のYES判定時)であるときには、ステップS230により、MG2トルクの出力を許可する。
図12には、レゾルバレス走行時における共線図が示される。図11のステップS240によりMG2トルクの出力が禁止されると、車両1は共線図301に従って走行する。すなわち、Nm2(Nme2)<NthのMG2低回転領域、および、|Tg|<TthのMG1低トルク領域では、Tm=0として、エンジン100およびモータジェネレータ10による直達トルクTepのみを用いて、車両駆動力(出力の駆動トルクTp)が発生される。
一方で、図11のステップS230によりMG2トルクの出力が許可されると、車両1は共線図302に従って走行する。すなわち、直達トルクTepと、レゾルバレス制御されるモータジェネレータ20からのMG2トルクTmとの和が出力軸60に作用することによって、車両1は走行する。
この結果、レゾルバレス走行におけるモータジェネレータ10,20のトルク出力範囲は、図13に示すようになる。
図13を参照して、MG1トルクの絶対値|Tg|が判定値Tthよりも小さい領域では、MG2トルクの発生が禁止されるので、Tm=0である。一方で、|Tg|>Tthの領域では、MG2トルクの発生が許可される。この際に、レゾルバレス制御されるモータジェネレータ20のトルク指令値Tqcom2は、車両状況(たとえば、アクセル操作量Accおよび車速SP)に基づいて設定することができる。ただし、上述のように、レゾルバレス走行時(S230)には、通常の車両走行(レゾルバ正常時)と比較して、車両駆動力(出力軸の駆動トルクTp)の上限値が制限されることが好ましい。
このように、本実施の形態に従うハイブリッド車両によれば、モータジェネレータ20のレゾルバ異常発生時において、レゾルバレス制御の適用によってモータジェネレータ20からのトルク出力を可能とすることで走行距離を確保することができる。さらに、モータジェネレータ20のトルク誤差が運転性に与える影響が大きい領域では、レゾルバレス制御が適用されるモータジェネレータ20からのトルク出力が禁止される。この結果、運転性の低下を回避しつつ、モータジェネレータ20からのトルク出力を伴う車両走行を行うことができるので、車両駆動力の誤差による運転性低下を抑制しつつ、レゾルバ異常時における走行距離を拡大することができる。
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。