以下に、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の説明では図中の同一または相当部分には同一符号を付してその説明は原則的に繰返さないものとする。
[実施の形態1]
(システム構成)
図1は、本発明の実施の形態1に従う交流電動機の制御システムの全体構成図である。
図1を参照して、交流電動機M1を制御対象とする制御システム100は、直流電圧発生部10♯と、平滑コンデンサC0と、インバータ14と、制御装置30とを備える。
交流電動機M1は、たとえば、電動車両(ハイブリッド自動車、電気自動車や燃料電池車等の電気エネルギによって車両駆動力を発生可能な自動車を包括的に表現するものとする)の駆動輪にトルクを発生させるように構成された走行用電動機である。あるいは、この交流電動機M1は、エンジンによって駆動される発電機の機能を持つように構成されてもよく、電動機および発電機の機能を併せ持つように構成されてもよい。さらに、交流電動機M1は、エンジンに対して電動機として動作し、たとえば、エンジン始動を行ない得るようなものとしてハイブリッド自動車に組み込まれるようにしてもよい。すなわち、本実施の形態において、「交流電動機」は、交流駆動の電動機、発電機および電動発電機(モータジェネレータ)を含むものである。
直流電圧発生部10♯は、直流電源Bと、システムリレーSR1,SR2と、平滑コンデンサC1と、昇圧コンバータ12とを含む。
直流電源Bは、代表的には、ニッケル水素またはリチウムイオン等の二次電池や電気二重層キャパシタ等の再充電可能な蓄電装置により構成される。直流電源Bが出力する直流電圧VLおよび入出力される直流電流Ibは、電圧センサ10および電流センサ11によってそれぞれ検知される。
システムリレーSR1は、直流電源Bの正極端子および電力線6の間に接続され、システムリレーSR2は、直流電源Bの負極端子および電力線5の間に接続される。システムリレーSR1,SR2は、制御装置30からの信号SEによりオン/オフされる。
昇圧コンバータ12は、リアクトルL1と、電力用半導体スイッチング素子Q1,Q2とを含む。電力用半導体スイッチング素子Q1およびQ2は、電力線7および電力線5の間に直列に接続される。電力用半導体スイッチング素子Q1およびQ2のオンオフは、制御装置30からのスイッチング制御信号S1およびS2によって制御される。
この発明の実施の形態において、電力用半導体スイッチング素子(以下、単に「スイッチング素子」と称する)としては、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)、電力用MOS(Metal Oxide Semiconductor)トランジスタあるいは、電力用バイポ
ーラトランジスタ等を用いることができる。スイッチング素子Q1,Q2に対しては、逆並列ダイオードD1,D2が配置されている。リアクトルL1は、スイッチング素子Q1およびQ2の接続ノードと電力線6の間に接続される。また、平滑コンデンサC0は、電力線7および電力線5の間に接続される。
平滑コンデンサC0は、電力線7の直流電圧を平滑化する。電圧センサ13は、平滑コンデンサC0の両端の電圧、すなわち、電力線7上の直流電圧VHを検出する。以下では、インバータ14の直流リンク電圧に相当する直流電圧VHを「システム電圧VH」とも称する。一方、電力線6の直流電圧VLは、電圧センサ19によって検出される。電圧センサ13,19によって検出された直流電圧VH,VLは、制御装置30へ入力される。
インバータ14は、電力線7および電力線5の間に並列に設けられる、U相上下アーム15と、V相上下アーム16と、W相上下アーム17とから成る。各相上下アームは、電力線7および電力線5の間に直列接続されたスイッチング素子から構成される。たとえば、U相上下アーム15は、スイッチング素子Q3,Q4から成り、V相上下アーム16は、スイッチング素子Q5,Q6から成り、W相上下アーム17は、スイッチング素子Q7,Q8から成る。また、スイッチング素子Q3〜Q8に対して、逆並列ダイオードD3〜D8がそれぞれ接続されている。スイッチング素子Q3〜Q8のオンオフは、制御装置30からのスイッチング制御信号S3〜S8によって制御される。
代表的には、交流電動機M1は、3相の永久磁石型同期電動機であり、U,V,W相の3つのコイルの一端が中性点に共通接続されて構成される。さらに、各相コイルの他端は、各相上下アーム15〜17のスイッチング素子の中間点と接続されている。
昇圧コンバータ12は、基本的には、PWM制御に用いられる搬送波(図示せず)の1周期に相当するスイッチング周期の各々において、スイッチング素子Q1およびQ2が相補的かつ交互にオンオフするように制御される。昇圧コンバータ12は、スイッチング素子Q1,Q2のオン期間比(デューティ比)を制御することによって、昇圧比(VH/VL)を制御することができる。したがって、直流電圧VL,VHの検出値と電圧指令値VHrとに従って演算されたデューティ比に従って、スイッチング素子Q1,Q2のオンオフが制御される。
スイッチング素子Q1をスイッチング素子Q2と相補的にオンオフすることにより、リアクトルL1の電流方向に応じて制御を切換えることなく直流電源Bの充電および放電の両方に対応することができる。すなわち、電圧指令値VHrに従うシステム電圧VHの制御を通じて、昇圧コンバータ12は、回生および力行の両方に対応することができる。
なお、交流電動機M1の低出力時には、昇圧コンバータ12による昇圧を行なうことなく、VH=VL(昇圧比=1.0)の状態で交流電動機M1を制御することができる。この場合(以下、「非昇圧モードとも称する」)には、スイッチング素子Q1およびQ2が、オンおよびオフにそれぞれ固定されるので、昇圧コンバータ12での電力損失が低下する。
インバータ14は、交流電動機M1のトルク指令値が正(Tqcom>0)の場合には、平滑コンデンサC0から直流電圧が供給されると制御装置30からのスイッチング制御信号S3〜S8に応答した、スイッチング素子Q3〜Q8のスイッチング動作により直流電圧を交流電圧に変換して正のトルクを出力するように交流電動機M1を駆動する。また、インバータ14は、交流電動機M1のトルク指令値が零の場合(Tqcom=0)には、スイッチング制御信号S3〜S8に応答したスイッチング動作により、直流電圧を交流電圧に変換してトルクが零になるように交流電動機M1を駆動する。これにより、交流電動機M1は、トルク指令値Tqcomによって指定された零または正のトルクを発生するように駆動される。
さらに、制御システム100が搭載された電動車両の回生制動時には、交流電動機M1のトルク指令値Tqcomは負に設定される(Tqcom<0)。この場合には、インバータ14は、スイッチング制御信号S3〜S8に応答したスイッチング動作により、交流電動機M1が発電した交流電圧を直流電圧に変換し、その変換した直流電圧(システム電圧VH)を平滑コンデンサC0を介して昇圧コンバータ12へ供給する。
なお、ここで言う回生制動とは、電動車両を運転するドライバーによるフットブレーキ操作があった場合の回生発電を伴う制動や、フットブレーキを操作しないものの、走行中にアクセルペダルをオフすることで回生発電をさせながら車両を減速(または加速の中止)させることを含む。
電流センサ24は、交流電動機M1に流れる電流(相電流)を検出し、その検出値を制御装置30へ出力する。なお、三相電流iu,iv,iwの瞬時値の和は零であるので、図1に示すように2相分のモータ電流(たとえば、V相電流ivおよびW相電流iw)を検出するように配置してもよい。
回転角センサ(レゾルバ)25は、交流電動機M1のロータ回転角θを検出し、その検出した回転角θを制御装置30へ送出する。制御装置30では、回転角θに基づき交流電動機M1の回転速度Nmtおよび回転角速度ωを算出できる。なお、回転角センサ25については、回転角θを制御装置30にてモータ電圧や電流から直接演算することによって、配置を省略してもよい。
制御装置30は、電子制御ユニット(ECU)により構成され、予め記憶されたプログラムを図示しないCPU(Central Processing Unit)で実行することによるソフトウ
ェア処理および/または専用の電子回路によるハードウェア処理により、制御システム100の動作を制御する。
代表的な機能として、制御装置30は、入力されたトルク指令値Tqcom、電圧センサ19によって検出された直流電圧VL、電流センサ11によって検出された直流電流Ib、電圧センサ13によって検出されたシステム電圧VH、および電流センサ24によって検出されるモータ電流iu(iu=−(iv+iw)),iv,iw、回転角センサ25からの回転角θ等に基づいて、後述する制御方式により交流電動機M1がトルク指令値Tqcomに従ったトルクを出力するように、昇圧コンバータ12およびインバータ14の動作を制御する。
すなわち、制御装置30は、直流電圧VHを電圧指令値VHrに従って上記のように制御するために昇圧コンバータ12のスイッチング制御信号S1,S2を生成する。また、制御装置30は、交流電動機M1の出力トルクをトルク指令値Tqcomに従って制御するためのスイッチング制御信号S3〜S8を生成する。スイッチング制御信号S1〜S8は、昇圧コンバータ12およびインバータ14へ入力される。
(電動機制御における制御モード)
図2は、交流電動機制御のための制御モードを説明する図である。
図2に示すように、本発明の実施の形態に従う交流電動機の制御システムでは、インバータ14による交流電動機制御について3つの制御モードを切換えて使用する。
正弦波PWM制御は、一般的なPWM制御として用いられるものであり、各相アームにおけるスイッチング素子のオンオフを、正弦波状の電圧指令値と搬送波(代表的には、三角波)との電圧比較に従って制御する。この結果、上アーム素子のオン期間に対応するハイレベル期間と、下アーム素子のオン期間に対応するローレベル期間との集合について、一定期間内でその基本波成分が正弦波となるようにデューティ比が制御される。
以下、本明細書では、インバータによる直流交流電圧変換における、直流リンク電圧(システム電圧VH)に対する交流電動機M1へ出力される交流電圧(線間電圧の実効値)の比を「変調度」を定義する。正弦波PWM制御の適用は、基本的には、各相の交流電圧振幅(相電圧)がシステム電圧VHと等しくなる状態が限界である。すなわち、正弦波PWM制御では、変調度を0.61程度までしか高めることができない。
過変調PWM制御は、搬送波の振幅よりも大きい振幅の交流電圧(正弦波状)について、その振幅を拡大した上で、上記正弦波PWM制御と同様のPWM制御を行なうものである。この結果、基本波成分を歪ませることによって、変調度を0.61〜0.78の範囲まで高めることができる。これにより、各相の交流電圧振幅(相電圧)がシステム電圧VHよりも高い領域の一部についても、PWM制御の適用が可能となる。
正弦波PWM制御および過変調PWM制御では、交流電動機M1を流れるモータ電流のフィードバック制御によって、インバータ14から交流電動機M1へ出力される交流電圧が制御される。具体的には、三相のモータ電流をd−q変換したd軸電流Idおよびq軸電流Iqを、トルク指令値Tqcomに従って設定される電流指令値IdcomおよびIqcomに制御するように、交流電動機M1に印加される交流電圧が制御される。なお、お、以下では、正弦波PWM制御および過変調PWM制御の両者を包括する場合に、単にPWM制御とも称することとする。
一方、矩形波電圧制御では、電動機の電気角360度に相当する期間内で、ハイレベル期間およびローレベル期間の比が1:1の矩形波1パルス分をインバータが出力する。これにより、変調度は0.78まで高められる。矩形波電圧制御では、変調度は0.78に固定される。
図3および4には、矩形波電圧制御における電圧位相−トルク特性が示される。
図3を参照して、矩形波電圧制御時には矩形波電圧の電圧位相φvを変化させることによって、交流電動機M1の出力トルクが制御される。電圧位相φvをq軸に対して進めることによって、力行トルクを増大することができる。一方で、回生動作(負トルク出力)時には、電圧位相φvをq軸に対して遅らせることによって回生トルクを増大することができる。
図4には、力行動作(正トルク出力)時における特性が詳細に示される。なお、q軸を基準とする電圧位相φvの極性を反転すれば、回生動作(負トルク出力)時についても同様に交流電動機M1の出力トルクを制御することができる。
矩形波電圧制御における交流電動機M1の出力トルクTは、交流電動機M1の動作状態に基づいて、下記(1)式に従って変化する。
なお、式(1)において、pは極対数、Ld,Lqは、d軸,q軸のインダクタ成分、θは電圧位相(θ=φv)、φkは誘起電圧定数を示す。これらはモータ定数である。また、Vはモータ印加電圧(V=VH)、ωは回転角速度を示す。
図4には、一定回転速度(ω一定)の下でシステム電圧VHを変化させた場合の各々における電圧位相−トルク特性が示される。
図4から理解される通り、同一の電圧位相φvに対して、システム電圧VHが高くなるほど、出力トルクが大きくなる。したがって、高トルクの要求時には、昇圧コンバータ12によってシステム電圧VHを上昇することにより、同一の電圧位相制御範囲に対する出力トルクを確保することができる。
一方、上述のように、昇圧コンバータ12は、非昇圧モード(VH=VL)では、スイッチング損失が低減するため効率が高くなる。これに対して、昇圧コンバータ12を昇圧動作(VH>VL)させると、スイッチング素子Q1,Q2でのスイッチング損失によって、昇圧コンバータ12の効率が相対的に低下する。
また、システム電圧VHが同一、すなわちインバータによりスイッチングされる直流電圧が同一の下で、同一のモータ電流を供給する場合には、インバータでのスイッチング損失は、単位時間内のスイッチング回数に依存する。したがって、このような同一条件の下では、正弦波PWM制御にてスイッチング損失が大きくなる一方で、矩形波電圧制御ではスイッチング損失が小さくなる。
本実施の形態に従う交流電動機の制御システムでは、交流電動機M1の状態に応じて、図2に示した正弦波PWM制御、過変調PWM制御および矩形波電圧制御が選択的に適用される。
概略的には、図5に示されるように、交流電動機M1の動作点(トルクおよび回転速度の組合せ)に応じて、制御モードが切換えられる。
図5を参照して、一般的には、低速回転領域から中速回転領域にかけては正弦波PWMの制御が適用され、中速回転領域から高速回転領域にかけては過変調制御が適用される。さらに、より高速回転領域では矩形波電圧制御を適用することによって、交流電動機M1が制御される。ただし、PWM制御(正弦波PWMまたは過変調PWM)および矩形波電圧制御は、変調度に応じて選択される。一方で、同一のモータ印加電圧の下でも、システム電圧VHが変化すると変調度が変化することによって、適用される制御モードは異なってくる。
このように、交流電動機M1を円滑に駆動するためには、交流電動機M1の動作点(回転速度およびトルク)に応じて、システム電圧VHを適切に設定する必要がある。この際に、上述したように、それぞれの制御モードについて、実現可能な変調度には限界がある。したがって、回転速度およびトルクの積で示される、交流電動機M1の出力が大きくなる程、システム電圧VHを上昇させる必要が生じる。
図6は、各制御モードにおける交流電動機M1の電流位相を示すグラフである。
図6には、同一の直流電圧VHに対して、出力トルクを徐々に高めていったときの電流位相の変化の軌跡が例示されている。図8の横軸はd軸電流Idを示しており、図6の縦軸はq軸電流Iqを示している。電流位相φiは、下記(2)式で定義される。
正弦波PWM制御および過変調PWM制御では、電流位相φiは、最適電流位相ライン42上となるように決定される。最適電流位相ライン42は、Id−Iq平面上で、モータ電流の同一振幅に対して出力トルクが最大となる電流位相の集合として描かれる。すなわち、最適電流位相ライン42は、Id−Iq平面上の等トルク線上における交流電動機M1での損失が参照となる電流位相点の集合に相当する。最適電流位相ライン42は、予め実験ないしシミュレーションによって求めることができる。
PWM制御での電流フィードバック制御におけるd軸およびq軸の電流指令値(Idcom,Iqcom)は、トルク指令値Tqcomに対応する等トルク線と最適電流位相ライン42との交点に対応するd軸およびq軸の電流値に設定される。たとえば、各トルク指令値に対応させて最適電流位相ライン42上の電流指令値Idcom,Iqcomの組み合わせを決定するPWM制御用のマップを予め作成して、制御装置30内に記憶させておくことができる。
図6では、零点位置を起点とするId,Iqの組み合わせによる電流ベクトルの先端位置(電流位相)が、出力トルクの増加に応じて変化する軌跡を矢印で示している。出力トルクが増加するのに応じて、電流の大きさ(Id−Iq平面上での電流ベクトルの大きさに相当)が増加する。正弦波PWM制御および過変調PWM制御では、電流指令値Idcom,Iqcomの設定により、電流位相が最適電流位相ライン42上に制御される。トルク指令値がさらに増加し、変調度が0.78に達すると矩形波電圧制御が適用される。
矩形波電圧制御では、弱め界磁制御を行なうために、電圧位相φvを大きくすることにより出力トルクを増加させるのに従って、界磁電流であるd軸電流Idの絶対値が増加する。この結果、電流ベクトルの先端位置(電流位相)が、最適電流位相ライン42から図中左側(進角側)に離れることによって、交流電動機M1の損失が増加する。このように、矩形波電圧制御では、インバータ14によって交流電動機M1の電流位相を直接制御することができなくなる。
反対に、同一のシステム電圧VHの下で、電圧位相φvを小さくすることにより出力トルクを減少していくと、電流位相φiは図中右側(遅角側)へ変化する。そして、矩形波電圧制御時に電流位相φiが、モード切換ライン43よりも遅角側になると、矩形波電圧制御からPWM制御への遷移が指示される。たとえば、モード切換ライン43は、φi=φth(基準値)となる電流位相点の集合として描かれる。言い換えると、電流位相φiがφth(基準値)よりも小さくなると、矩形波電圧制御からPWM制御への遷移が指示される。
図7には、PWM制御および矩形波電圧制御の間のモード切換を説明するための遷移図が示される。
図7を参照して、PWM制御(正弦波PWMまたは過変調PWM制御)の適用時には、電流フィードバック制御によって求められた交流電圧の大きさに従って、変調度が演算される。たとえば、d軸およびq軸の電流フィードバック制御によるd軸およびq軸の電圧指令値Vd♯,Vq♯を用いると、下記(3)式に従って変調度Kmdを演算できることが知られている。
Kmd=(Vd♯2+Vq♯2)1/2/VH ・・・(3)
PWM制御の適用時に、変調度Kmdが0.78よりも大きくなると、矩形波電圧制御モードへの遷移が指示される。
矩形波電圧制御では、出力トルクの低下に応じて電流位相φiが図6での右側(進角側)へ変化する。そして、電流位相φiが基準値φthよりも小さくなると、すなわち、図6に示したモード切換ライン43よりも遅角側の位相領域に入ると、PWM制御モードへの遷移が指示される。
交流電動機M1の同一出力に対してシステム電圧VHを変えると、PWM制御における変調度が変化する。また、矩形波電圧制御では、当該出力を得るための電圧位相φvが変化するのに付随して電流位相φiが変化する。したがって、システム電圧VHに応じて、制御システムでの損失が変化する。
図8は、3つの制御モードを通じたシステム電圧VHの変化に応じた制御システムの挙動を説明するための概念図である。図8には、システム電圧VHを変化させた上で、交流電動機M1の出力(回転速度×トルク)を同一としたときの挙動が示される。
図8を参照して、同一出力に対してシステム電圧VHを低下させるのに従って、変調度は上昇する。変調度の上昇に応じて、順に、正弦波PWM制御、過変調PWM制御および矩形波電圧制御が順に適用される。矩形波電圧制御では、変調度は0.78で一定である。
電流位相は、PWM制御の適用時には、電流フィードバック制御に伴い、最適電流位相ライン42(図6)に沿って制御される。システム電圧VHを低下させると、同一出力を得るために必要なモータ電流が増加するので、最適電流位相ライン42に沿って電流位相は徐々に進角側に変化する。矩形波電圧制御では、システム電圧VHを低下させると、同一トルクを出力するための電圧位相が増加する。これに従い、図6に示したのと同様に、電流位相は進角側へ変化する。
モータ損失は、PWM制御の適用時には、電流位相が最適電流位相ライン42に沿って制御されるため抑性される。一方で、矩形波電圧制御が適用されると、弱め界磁電流の影響でモータ損失が増加する。矩形波電圧制御の適用時には、同一出力に対してシステム電圧VHが低下すると、弱め界磁電流の増加によりモータ損失が増大する。
一方で、インバータ損失は、インバータ14でのスイッチング回数に依存するので、矩形波電圧制御の適用時には抑性される一方で、PWM制御の適用時には増加する。システム電圧VHが上昇すると、1回のスイッチング当たりの損失電力が増加するため、インバータ損失が増大する。
このようなモータ損失およびインバータ損失の特性から、制御システムでのモータ損失
およびインバータ損失の合計は、矩形波電圧制御が適用される動作点44において最小となることが理解される。図6に示されるように、動作点44の電流位相は、最適電流位相ライン42よりも進角側に位置する。
本実施の形態1に従う交流電動機の制御システムでは、制御システム全体の損失が最小となるのは、矩形波電圧制御が適用され、かつ、交流電動機M1の電流位相が動作点44に対応するときである。すなわち、システム電圧VHは、このような状態となるように設定することが好ましい。
(システム電圧の設定)
図9は、本発明の実施の形態1に従う交流電動機の制御システムにおける矩形波電圧制御時のシステム電圧の制御構成を示す機能ブロック図である。図9を始めとする機能ブロック図に記載された各機能ブロックの機能は、制御装置30によるソフトウェア処理および/またはハードウェア処理によって実現される。
図9を参照して、VH指令値設定部500は、システム電圧VHの電圧指令値VHrを設定する。VH制御部600は、電圧指令値VHrに従ってシステム電圧VHが制御されるように、昇圧コンバータ12のスイッチング制御信号S1,S2を生成する。
VH指令値設定部500は、ベース指令値生成部510と、電流位相制御部520と、演算部550とを含む。VH指令値設定部500は、「電圧指令値設定部」の一実施例に対応する。
ベース指令値生成部510は、交流電動機M1の回転速度Nmtおよびトルク指令値Tqcomに基づいて、予め設定されたマップを参照して、電圧指令値のベース指令値tVHを生成する。図10には、ベース指令値生成部510がベース指令値tVHを求めるためのマップ(tVHマップ)の一例が示される。
図10を参照して、tVHマップは、横軸にモータ回転速度Nmt、縦軸にトルク指令値Tqcomが取られている。本実施の形態では、マップ内の動作点は、システム電圧VH=300V、400V、500V、および600Vに対応する4本のライン45〜48によって区画されている。そして、図中で一番外側に位置するライン49は、システム電圧VHの最大電圧(たとえば、650V)に対応する動作点の集合である。
VH=300Vにおけるライン45によって区画される略扇状の領域RBが、直流電源Bの出力電圧を昇圧することなく、昇圧コンバータ12を非昇圧モードとして交流電動機M1を駆動することができる動作領域に対応する。
より詳細には、各ライン45〜49間に、所定の電圧幅(たとえば20V)毎にラインがさらに設けられている。tVHマップでは、トルク指令値Tqcomおよび回転速度Nmtによって特定される動作点に近接したラインに対応した電圧値に従って、ベース指令値tVHを設定することができる。
再び図9を参照して、電流位相制御部520は、座標変換部525と、電圧偏差算出部530と、制御演算部540とを有する。
座標変換部525は、回転角センサ25によって検出される交流電動機M1の回転角θを用いた座標変換(3相→2相)により、電流センサ24によって検出されたv相電流ivおよびw相電流iw、ならびに、u相電流iu(iu=−(iv+iw))を、d軸電流Idおよびq軸電流Iqに変換する。
電圧偏差算出部530は、d軸電流Idおよびq軸電流Iqによってd−q平面上(図6)で規定される電流位相に応じて、電圧偏差ΔVH*を生成する。電圧偏差算出部530は、図11に例示される電圧偏差マップを用いて、電圧偏差ΔVH*を算出する。
図11は、電圧偏差マップの構成例を説明するための概念図である。
図11を参照して、目標電流位相ライン51は、d−q平面上の各等トルク線上における、動作点44に対応する電流位相の集合として描かれる。動作点44は、最適電流位相ライン42よりも少し進角側に設定される。これにより、矩形波電圧制御での目標電流位相ラインは、PWM制御時の目標電流位相ライン(すなわち、最適電流位相ライン42)よりも進角側に設定されることになる。目標電流位相ライン51は、最適電流位相ライン42(図6)と同様に、実機試験やシミュレーション結果に基づいて、予め設定することができる。
現在のトルク指令値Tqcomに対応する等トルク線と、目標電流位相ライン51との交点61によって、現在の目標電流位相が示される。したがって、電流位相ベクトルの先端位置が符号61によって示される場合には、現在の電流位相が目標電流位相ライン51上であるので、現在のシステム電圧VHを維持するように、電圧偏差ΔVH*=0に設定される。
これに対して、現在の電流位相が目標電流位相ライン51よりも進角側に位置する場合には、現在のシステム電圧VHを上昇させるように、電圧偏差ΔVH*>0に設定される。進角側の領域では、目標電流位相ライン51との位相差が大きくなるにつれて電圧偏差ΔVHも大きく設定される。図11には、ΔVH*=+20Vとなる電流位相の集合である位相ライン52と、ΔVH*=+40Vとなる電流位相の集合である位相ライン53とが例示される。
図11に示すように、電流位相ベクトルの先端位置が符号62によって示される場合には、現在の電流位相が位相ライン53上であるので、電圧偏差算出部530は、電圧偏差マップから、電圧偏差ΔVH*=+40Vとする。
現在の電流位相が目標電流位相ライン51よりも遅角側に位置する場合には、現在のシステム電圧VHを低下させるように、電圧偏差ΔVH*<0に設定される。遅角側の領域でも、目標電流位相ライン51との位相差が大きくなるにつれて電圧偏差の絶対値(|ΔVH|)が大きく設定される。図11には、ΔVH*=−20Vとなる電流位相の集合である位相ライン54と、ΔVH*=−40Vとなる電流位相の集合である位相ライン55とが例示される。
これらの位相ラインの細分化により、あるいは、線形補間を併用して、d軸電流Idおよびq軸電流Iqによって規定される電流位相に応じて、電圧偏差算出部530は、電圧偏差マップに基づいて電圧偏差ΔVH*を算出することができる。
再び図9を参照して、制御演算部540は、電圧偏差算出部530によって生成された電圧偏差ΔVH*に基づく制御演算によって、VH補正値VHhを算出する。制御演算部540による制御演算(PI演算)は、たとえば下記(4)式により示される。
VHh=Kp・ΔVH*+Ki・Σ(ΔVH*) …(4)
なお、式(4)中において、KpおよびKiは、比例ゲインおよび積分ゲインである。
演算部550は、ベース指令値生成部510からのベース指令値tVHおよび、電流位相制御部520からのVH補正値VHhの和に従って、電圧指令値VHrを設定する(VHr=tVH+VHh)。このように、VH指令値設定部500は、ベース指令値tVHを基準として、交流電動機M1の電流位相を目標電流位相ライン51に近付けるように電圧指令値VHrを修正する。
VH制御部600は、システム電圧VHを電圧指令値VHrに制御するためのデューティ比が得られるように、昇圧コンバータ12のスイッチング制御信号S1,S2を生成する。たとえば、昇圧コンバータ12の入力電圧である直流電圧VLと出力電圧の電圧指令値VHrとの電圧比に従って、デューティ比を設定することができる。さらに、システム電圧VHの検出値と電圧指令値VHrとの偏差に従って、デューティ比をフィードバック制御することができる。
VH制御部600は、デューティ比100%を振幅とする搬送波と、所望のデューティ比との電圧比較によるPWM制御によって、スイッチング制御信号S1,S2を生成する。これにより、スイッチング素子Q1,Q2は、搬送波の周波数により、所望のデューティ比に従って周期的にオンオフされる。
図12は、実施の形態1に従うシステム電圧の電圧指令値の設定に係る制御処理を説明するためのフローチャートである。図12に示された制御処理が、制御装置30によって所定周期で実行されることにより、図9に示したVH指令値設定部500の機能が実現される。
図12を参照して、制御装置30は、ステップS100により、交流電動機M1のトルク指令値Tqcomおよび回転速度Nmtに基づいて、システム電圧VHのベース指令値tVHを算出する。ステップS100によるベース指令値tVHの算出は、図10に例示したtVHマップの参照により実行される。
制御装置30は、ステップS200では、d軸電流Idおよびq軸電流Iqによって規定される電流位相に応じて、電圧偏差ΔVH*を算出する。上述のように、図11に例示した電圧偏差マップにより、電流位相を目標電流位相ライン51に近付けるための電圧偏差ΔVH*を算出することができる。
さらに、制御装置30は、ステップS300により、ステップS200で算出された電圧偏差ΔVH*に基づく制御演算(PI演算)によってVH補正値VHhを算出する。さらに、制御装置30は、ステップS400により、ステップS100で算出されたベース指令値tVHと、ステップS300で演算されたVH補正値VHhとの和に従って電圧指令値VHrを算出する。
ステップS100による処理によって、図9のベース指令値生成部510の機能が実現され、ステップS200による処理によって、図9の電圧偏差算出部530の機能が実現される。同様に、ステップS300による処理によって、図9の制御演算部540の機能が実現され、ステップS400による処理によって、図9の演算部550の機能が実現される。
このように、本実施の形態1に従う交流電動機の制御システムでは、矩形波電圧制御時に、交流電動機M1の電流位相(d−q平面上)が目標電流位相ライン51に一致するようにシステム電圧VHを設定することができる。特に、目標電流位相ライン51を、図6に示した最適電流位相ライン42よりも進角側に設定することにより、図8に示した動作点44に対応させて、交流電動機M1の損失自体は最小ではないものの、制御システム全体での損失を最小とするように、システム電圧VHを設定することができる。
[実施の形態1の変形例]
実施の形態1の変形例では、交流電動機M1の負荷状態に応じて、目標電流位相ラインを変化させる制御について説明する。
図13は、発明の実施の形態1の変形例に従う交流電動機の制御システムにおける矩形波電圧制御時のシステム電圧の制御構成を示す機能ブロック図である。
図13を図9と比較して、実施の形態1の変形例に従う構成では、VH指令値設定部500に代えて、VH指令値設定部501が設けられる。VH指令値設定部501は、図11と同様のベース指令値生成部510および演算部550と、電流位相制御部520に代えて設けられた電流位相制御部521とを含む。
電流位相制御部521は、座標変換部525と、電圧偏差算出部531と、マップ選択部535と、制御演算部540とを有する。
実施の形態1の変形例では、電圧偏差マップは複数個用意されている。そして、マップ選択部535は、交流電動機M1の負荷状態、代表的には負荷率に応じて電圧偏差マップを切換える。
交流電動機M1の負荷率Lfcは、下記(5)式によって示される。
Lfc=Pm/Pmax=(Tqcom・Mmt)/Pmax …(5)
式(5)において、Pmは交流電動機M1の出力電力を示し、Pmaxは交流電動機M1の最大出力電力定格を示す。すなわち、負荷率Lfcは、最大出力電力に対する、トルク指令値Tqcomに従った出力電力の比に相当する。
図14を参照して、マップ選択部535は、負荷率Lfcに基づいて、交流電動機M1の負荷レベルを設定する。
図14の例では、負荷率Lfcに基づいて、負荷レベルLVLが0〜3の4段階に設定されている。交流電動機M1の出力電力が低いほどLVLは低い段階に設定され、出力電力が高いほどLVLは高い段階に設定される。
実施の形態1の変形例では、図15に示されるように、交流電動機M1の負荷レベルLVLに応じて目標電流位相ラインが切換えられる。
図15を参照して、負荷レベルLVLにそれぞれ対応して、複数の目標電流位相ライン51が設定されている。図15には、LVL=3のときに選択される目標電流位相ライン51aと、LVL=2のときに選択される目標電流位相ライン51bと、LVL=1のときに選択される目標電流位相ライン51cと、LVL=0のときに選択される目標電流位相ライン51dとが示されている。
負荷レベルが下がるほど、すなわち交流電動機M1の出力電力が小さくなるほど、目標電流位相ラインは、最適電流位相ライン42から進角側に離れるように設定される。一方で、負荷レベルが最大のとき(LVL=3のとき)には、目標電流位相ライン51aは、最適電流位相ライン42に近接して進角側に設定される。
モータ損失は、主にモータ電流の二乗に比例する銅損である。一方で、インバータにおける損失は、主にスイッチング損失であるため、システム電圧VHとインバータを流れる電流との積に依存する。
交流電動機M1の高負荷状態では、モータ電流が大きくなるため交流電動機M1の銅損が増加する。このため、インバータ14でのスイッチング損失よりも、モータ損失の方が支配的になる。したがって、高負荷状態時には、モータ損失を最小にするための最適電流位相ライン42の近傍で交流電動機M1の電流位相を制御する方が、制御システム全体の損失低下に有効である。
一方で、交流電動機M1の低負荷状態では、モータ電流が小さくなるため、モータ損失よりもインバータ損失の方が支配的になる。したがって、低負荷状態時には、システム電圧VHを低下させてインバータ損失を低下する方が好ましい。すなわち、電流位相については、高負荷状態時よりも進角側を狙う方が、制御システム全体の損失低下に有効である。
ただし、図6に示したように、電流位相を進角させ過ぎると、弱め界磁電流の増大によってモータ損失が増大するので、インバータ損失の低減およびモータ損失の増大のバランスを考慮して、制御システム全体の損失が最小となるように、各負荷レベルにおける、最適電流位相ライン42に対する目標電流位相ライン51の遅角量を適切に設定することが必要である。目標電流位相ライン51a〜51dの各々は、目標電流位相ライン51(図11)と同様に、実機試験やシミュレーション結果に基づいて、予め設定することができる。
再び図13を参照して、電圧偏差算出部531は、マップ選択部535によって設定された負荷レベルLVLに応じて、複数の電圧偏差マップのうちの1つを選択する。複数の電圧偏差マップは、目標電流位相ライン51a〜51dのそれぞれに対応して予め用意されている。
図16および図17には、実施の形態1の変形例に従う電圧偏差マップの構成例が示される。図16には、負荷レベルLVL=2のときの電圧偏差マップの例が示され、図17には、負荷レベルLVL=1のときの電圧偏差マップの例が示される。
図16を参照して、LVL=2のときの目標電流位相ライン51b(ΔVH*=0)に対する、位相ライン52b〜55bが例示される。位相ライン52bは、ΔVH*=+20Vとなる電流位相の集合として予め定められ、位相ライン53bは、ΔVH*=+40Vとなる電流位相の集合として予め定められる。同様に、位相ライン54bは、ΔVH*=−20Vとなる電流位相の集合として予め定められ、位相ライン55bは、ΔVH*=−40Vとなる電流位相の集合として予め定められる。
図17を参照して、LVL=1のときの目標電流位相ライン51c(ΔVH*=0)に対する、位相ライン52c〜55cが例示される。位相ライン52cは、ΔVH*=+20Vとなる電流位相の集合として予め定められ、位相ライン53cは、ΔVH*=+40Vとなる電流位相の集合として予め定められる。同様に、位相ライン54cは、ΔVH*=−20Vとなる電流位相の集合として予め定められ、位相ライン55cは、ΔVH*=−40Vとなる電流位相の集合として予め定められる。
図16および図17から理解されるように、負荷レベルLVLに応じて可変に設定された目標電流位相ライン51b,51cの各々に対して、目標電流位相ラインよりも進角側の電流位相のときには電圧偏差ΔVH*>0に設定される一方で、目標電流位相ラインよりも遅角側の電流位相のときには電圧偏差ΔVH*<0に設定される。また、位相ライン52c〜55cは、位相ライン52b〜55bと比較して進角側に設定される。したがって、負荷レベルが低くなると、同一の電流位相に対して電圧偏差ΔVH*は低下する。
再び図13を参照して、電圧偏差算出部531は、負荷レベルLVLに応じて選択された電圧偏差マップを用いて、電圧偏差算出部530と同様に、座標変換部525からのd軸電流Idおよびq軸電流Iqによって規定される電流位相(d−q平面)に応じて電圧偏差ΔVH*を算出する。
ベース指令値生成部510、制御演算部540、演算部550およびVH制御部600の機能は、実施の形態1と同様であるので、詳細な説明は繰り返さない。
図18は、実施の形態1の変形例に従う交流電動機の制御システムにおけるシステム電圧の電圧指令値VHrの設定に係る制御処理を説明するためのフローチャートである。図18に示された制御処理が、制御装置30によって所定周期で実行されることにより、図13に示したVH指令値設定部501の機能が実現される。
図18を参照して、制御装置30は、図12と同様のステップS100により、システム電圧VHのベース指令値tVHを算出する。さらに、制御装置30は、ステップS150により、交流電動機M1の負荷状態(負荷率Pm/Pmax)に応じて、目標電流位相ライン51a〜51dを選択とするとともに、選択された目標電流位相ラインに対応する電圧偏差マップを選択する。これにより、交流電動機M1の負荷状態に応じて、目標電流位相ラインが変化する。
さらに、制御装置30は、ステップS200により、ステップS150で選択された電圧偏差マップを用いて、d軸電流Idおよびq軸電流Iqによって規定される電流位相に応じて、電圧偏差ΔVH*を算出する。これにより、交流電動機M1の負荷状態に応じて可変に設定される目標電流位相ラインと、現在の電流位相との差に応じて、電圧偏差ΔVH*が算出される。
制御装置30は、図12と同様のステップS300,S400により、ステップS200で算出された電圧偏差ΔVH*に基づいて、電圧指令値VHrを算出する。
ステップS150による処理によって、図13のマップ選択部535の機能が実現される。同様に、ステップS150でのマップ選択に従うステップS200による処理によって、図13の電圧偏差算出部531の機能が実現される。
このように、本実施の形態1の変形例に従う交流電動機の制御システムでは、交流電動機M1の負荷状態に応じてd−q平面上での目標電流位相を可変に設定することにより、交流電動機M1の負荷状態の変化に追従して、制御システム全体の損失を低減するようにシステム電圧VHを設定することができる。
[実施の形態2]
実施の形態2では、直流リンク電圧が共通である複数のインバータによって、複数の交流電動機がそれぞれ制御される構成への適用を説明する。上述のように、本実施の形態に従う制御システムの制御対象は、代表的には電動車両の走行用電動機である。
したがって、実施の形態2では、電動車両の代表例として示されるハイブリッド車両に複数個の交流電動機が搭載された場合の構成について説明する。
図19は、本発明の実施の形態2に従う交流電動機の制御システムが搭載される電動車両の代表例として示されるハイブリッド車両の構成例を示す概略ブロック図である。
図19を参照して、ハイブリッド車両800は、エンジン805と、第1MG(Motor Generator)810(以下「MG1」とも称する)と、第2MG820(以下「MG2」とも称する)と、動力分割機構830と、減速機840と、バッテリ850と、駆動輪860と、PM(Power train Manager)−ECU(Electronic Control Unit)870と、MG(Motor Generator)−ECU872とを備える。
ハイブリッド車両800は、エンジン805およびMG2のうちの少なくともいずれか一方からの駆動力により走行する。エンジン805、MG1およびMG2は、動力分割機構830を介して連結されている。
動力分割機構830は、代表的には、遊星歯車機構として構成される。動力分割機構830は、外歯歯車のサンギヤ831と、このサンギヤ831と同心円上に配置された内歯歯車のリングギヤ832と、サンギヤ831に噛合するとともにリングギヤ832に噛合する複数のピニオンギヤ833と、キャリア834とを含む。キャリア834は、複数のピニオンギヤ833を自転かつ公転自在に保持するように構成される。
サンギヤ831は、MG1の出力軸と連結される。リングギヤ832は、クランクシャフト802と同軸上を回転可能に支持される。ピニオンギヤ833は、サンギヤ831とリングギヤ832との間に配置され、サンギヤ831の外周を自転しながら公転する。キャリア834は、クランクシャフト802の端部に結合され、各ピニオンギヤ833の回転軸を支持する。
サンギヤ831およびリングギヤ軸835は、リングギヤ832の回転に伴って回転する。リングギヤ軸835には、MG2の出力軸が連結される。以下では、リングギヤ軸835を、駆動軸835とも称する。
なお、MG2の出力軸を、変速機を介して駆動軸835と連結する構成としてもよい。本実施の形態では、変速機を配置しない構成を例示するため、MG2とリングギヤ(駆動軸)835の回転速度比は1:1となるが、変速機を配置した構成では、駆動軸835とMG2との間の回転速度およびトルクの比が、当該変速比によって定まる。
駆動軸835は、減速機840を介して駆動輪860に機械的に連結されている。したがって、動力分割機構830によりリングギヤ832、すなわち、駆動軸835に出力された動力は、減速機840を介して駆動輪860に出力されることになる。なお、図19の例では、前輪を駆動輪860としているが、後輪を駆動輪860としてもよく、前輪および後輪を駆動輪860としてもよい。
動力分割機構830は、サンギヤ831、リングギヤ832、およびキャリア834を回転要素として差動作用を行なう。これらの3つの回転要素は、エンジン805のクランクシャフト802、MG1の出力軸および駆動軸835の3軸に機械的に連結される。
動力分割機構830によって、エンジン805が発生する動力は、2経路に分割される。一方は減速機840を介して駆動輪860を駆動する経路である。もう一方は、MG1を駆動させて発電する経路である。動力分割機構830は、MG1が発電機として機能するときには、キャリア834から入力されるエンジン805からの動力を、サンギヤ831側と、リングギヤ832側にそのギヤ比に応じて分配する。一方、MG1が電動機として機能するときには、動力分割機構830は、キャリア834から入力されるエンジン805からの動力と、サンギヤ831から入力されるMG1からの動力とを統合してリングギヤ832に出力する。
MG1およびMG2は、代表的には、永久磁石モータによって構成された、三相交流回転電機である。
MG1は、主に発電機として動作して、動力分割機構830により分割されたエンジン805の駆動力により発電することができる。MG1により発電された電力は、車両の走行状態や、バッテリ850のSOC(State Of Charge)の状態に応じて使い分けられる。たとえば、通常走行時では、MG1により発電された電力はそのままMG2を駆動させる電力となる。一方、バッテリ850のSOCが予め定められた値よりも低い場合、MG1により発電された電力は、後述するインバータにより交流から直流に変換される。その後、後述するコンバータにより電圧が調整されてバッテリ850に蓄えられる。なお、MG1は、エンジン始動時にエンジン805をモータリングする場合等には、トルク制御の結果として電動機として動作することも可能である。
MG2は、主に電動機として動作して、バッテリ850に蓄えられた電力およびMG1により発電された電力のうちの少なくともいずれかの電力により駆動される。MG2が発生する動力は、駆動軸835へ伝達され、さらに減速機840を介して駆動輪860に伝達される。これにより、MG2はエンジン805をアシストしたり、MG2からの駆動力により車両を走行させたりする。
ハイブリッド車両の回生制動時には、減速機840を介して駆動輪860によりMG2が駆動される。この場合には、MG2は発電機として動作する。これによりMG2は、制動エネルギを電力に変換する回生ブレーキとして機能する。MG2により発電された電力は、バッテリ850に蓄えられる。
バッテリ850は、複数のバッテリセルを一体化したバッテリモジュールを、さらに複数直列に接続して構成された組電池である。バッテリ850の電圧は、たとえば200V程度である。バッテリ850は、MG1もしくはMG2により発電された電力によって充電することができる。バッテリ850の温度・電圧・電流は、電池センサ852により検出される。電池センサ852は、温度センサ、電圧センサ、電流センサを包括的に標記するものである。
バッテリ850への充電電力は、上限値WINを超えないように制限される。同様に、バッテリ850の放電電力は、上限値WOUTを超えないように制限される。上限値WIN,WOUTは、バッテリ850のSOC、温度、温度の変化率などの種々のパラメータに基づいて定められる。
PM−ECU870およびMG−ECU872は、図示しないCPU(Central Processing Unit)およびメモリを内蔵して構成され、当該メモリに記憶されたマップおよびプログラムに従うソフトウェア処理によって、各センサによる検出値に基づく演算処理を実行するように構成される。あるいは、ECUの少なくとも一部は、専用の電子回路等によるハードウェア処理によって、所定の数値演算処理および/または論理演算処理を実行するように構成されてもよい。
エンジン805は、PM−ECU870からの制御目標値に従って制御される。MG1およびMG2は、MG−ECU872により制御される。PM−ECU870とMG−ECU872とは双方向に通信可能に接続される。PM−ECU870は、後述する走行制御によって、エンジン805、MG1およびMG2の制御目標値(代表的には、トルク目標値)を生成する。
そして、MG−ECU872は、PM−ECU870から伝達された制御目標値に従って、MG1およびMG2を制御する。なお、エンジン805は、PM−ECU870からの動作目標値(代表的には、トルク目標値および回転速度目標値)に従って、燃料噴射量や点火タイミング等を制御する。
図20は、図19に示したハイブリッド車両に搭載された交流電動機の制御システムの構成例を説明する回路図である。
図20を参照して、ハイブリッド車両の電気システムには、SMR830と、コンバータ900と、MG1に対応するインバータ910と、MG2に対応するインバータ920と、が設けられる。
図20に示される交流流電動機の制御システムは、図1に示した交流電動機の制御システムを2個の交流電動機MG1,MG2を制御するように拡張したものである。バッテリ850は、図1の直流電源Bに対応し、SMR830は図1のシステムリレーSR1,SR2に対応する。コンバータ900は、図1の昇圧コンバータ12と同様に構成されて、電力線PL上の直流電圧VH(システム電圧VH)を、電圧指令値VHrに従って制御する。
インバータ910および920の各々は、図1のインバータ14と同様に構成される。インバータ910および920の直流側は、共通の電力線PLおよびGLと接続される。電力線PLおよびGLは、図1の電力線7および5にそれぞれ対応する。したがって、インバータ910および920は、共通のシステム電圧VHをそれぞれが交流電圧に変換して、MG1およびMG2へそれぞれ供給する。
MG1は、星型結線されたU相コイル、V相コイルおよびW相コイルを固定子巻線として有する。各相コイルの一端は、中性点812で互いに接続される。各相コイルの他端は、インバータ910の各相アームのスイッチング素子の接続点とそれぞれ接続される。MG2は、MG1と同様に、星型結線されたU相コイル、V相コイルおよびW相コイルを固定子巻線として有する。各相コイルの一端は、中性点822で互いに接続される。各相コイルの他端は、インバータ920の各相アームのスイッチング素子の接続点とそれぞれ接続される。
MG−ECU872は、図1の制御装置30に対応する。PM−ECU870は、ハイブリッド車両800全体の動作を制御する一環として、MG1およびMG2のトルク指令値Tqcom(1)およびTqcom(2)を生成する。MG−ECU872は、MG1およびMG2の出力トルクがトルク指令値Tqcom(1)およびTqcom(2)となるように、インバータ910,920を制御する。インバータ910および920によるMG1制御およびMG2制御の各々は、インバータ14による交流電動機M1の制御と同様に実行される。
さらに、PM−ECU870は、MG1,MG2の動作状態に応じてシステム電圧VHの指令値を設定するとともに、システム電圧VHが電圧指令値VHrとなるように、コンバータ900を制御する。
ハイブリッド車両800では、エンジン805、MG1およびMG2が、プラネタリギヤを介して連結される。このため、エンジン805、MG1およびMG2の回転速度は、図21に示すように、共線図において直線で結ばれる関係になる。
ハイブリッド車両800では、車両状態に適した走行を行うための走行制御が、PM−ECU870によって実行される。たとえば、車両発進時および低速走行時には、エンジン805を停止した状態で、MG2の出力によってハイブリッド車両は走行する。このとき、MG2の回転速度が正になるとともに、MG1の回転速度が負になる。
定常走行時には、MG1を用いてエンジン805をクランキングするように、MG1をモータとして作動させることによってMG1の回転速度が正にされる。この場合には、MG1は、電動機として動作する。そして、エンジン805を始動して、エンジン805およびMG2の出力によって、ハイブリッド車両は走行する。このように、ハイブリッド車両800では、エンジン805を高効率の動作点で動作させることによって、燃費が向上する。
実施の形態2に従う制御システムでは、MG1およびMG2の出力トルクは、トルク指令値Tqcom(1)およびTqcom(2)にそれぞれ従って、インバータ910,920により制御される。インバータ910,920の各々は、実施の形態1のインバータ14と同様に制御される。
実施の形態2に従う制御システムでは、システム電圧VHがMG1,MG2の間で共通なので、これをどのように設定するかが問題となる。
図22は、複数の交流電動機であるMG1およびMG2のトータル損失を最小とするためのシステム電圧VHの設定を説明する概念図である。
図22を参照して、(a)に示されるように、MG1に関しては、VH=V1で、MG1およびインバータ910の損失の和が最小になるものとする。このとき、MG1は、図6および図8に示した動作点44で動作する。同様に、MG2に関しては、VH=V2(V2>V1)で、MG2およびインバータ920の損失の和が最小になるものとする。このとき、MG2は、図6および図8に示した動作点44で動作する。
したがって、MG2およびMG1に係る制御システムのトータル損失は、システム電圧VHが、MG1に対する最適電圧V1およびMG2に対する最適電圧V2の間のVxであるときに最小となる。このため、特許文献2のように、MG1およびMG2のそれぞれについて、モータ損失およびインバータ損失の和が最小となる最適電圧V1,V2をそれぞれ求めるとともに、これらの最大値に従ってシステム電圧を設定する制御では、制御システムのトータル損失を十分に低減することが困難である。
図23は、発明の実施の形態2に従う交流電動機の制御システムにおけるシステム電圧の電圧指令値の設定に係る機能ブロック図である。
図23を図9と比較して、実施の形態2では、VH指令値設定部500に代えて設けられたVH指令値設定部502によって、電圧指令値VHrが生成される。VH指令値設定部502は、ベース指令値生成部510に代えて設けられたベース指令値生成部512と、電流位相制御部520に代えて設けられた電流位相制御部522と、図9と同様の演算部550とを含む。
ベース指令値生成部512は、MG1の回転速度Nmt(1)およびトルク指令値Tqcom(1)と、MG2の回転速度Nmt(2)およびトルク指令値Tqcom(2)とに基づいて、ベース指令値tVHを生成する。ベース指令値生成部512は、ベース指令値生成部510と同様に図10のtVHマップを用いて、回転速度Nmt(1)およびトルク指令値Tqcom(1)に基づくtVH(1)と、回転速度Nmt(2)およびトルク指令値Tqcom(2)に基づくtVH(2)とを求める。さらに、ベース指令値生成部512は、MG1の動作状態に対応するtVH(1)と、MG2の動作状態に対応するtVH(2)との最大値を、ベース指令値tVHに設定する。
電流位相制御部522は、座標変換部525と、電圧偏差算出部532と、マップ選択部536と、抽出部538と、制御演算部540とを有する。
マップ選択部536は、MG1およびMG2のそれぞれについて、負荷率Lfc(1)およびLfc(2)に基づいて、負荷レベルLVL(1)およびLVL(2)を設定する。
MG1およびMG2の負荷率Lfc(1)およびLfc(2)は、下記(6),(7)式に従って算出される。
Lfc(1)=Pm(1)/Pmax(1)
=Tqcom(1)・Nmt(1)/Pmax(1) …(6)
Lfc(2)=Pm(2)/Pmax(2)
=Tqcom(2)・Nmt(2)/Pmax(2) …(7)
式(6),(7)において、Pm(1)およびPm(2)はMG1およびMG2の出力電力を示し、Pmax(1)およびPmax(2)はMG1およびMG2の最大出力電力定格を示す。すなわち、負荷率Lfc(1),Lfc(2)は、MG1,MG2のそれぞれにおける負荷率Lfcに相当する。
マップ選択部536は、式(8),(9)によって定義される、負荷率Lfc(1)およびLfc(2)の相対比である負荷比Lmgf(1),Lmgf(2)に従って、MG1およびMG2の負荷レベルLVL(1),LVL(2)を設定する。
Lmgf(1)=Lfc(1)/Lfc(2) …(8)
Lmgf(2)=Lfc(2)/Lfc(1) …(9)
マップ選択部536は、MG1の負荷比Lmgf(1)に基づいて、負荷レベルLVL(1)を設定するとともに、MG2の負荷比Lmgf(2)に基づいて、負荷レベルLVL(2)を設定する。
図24に例示するように、負荷比Lmgf(1)に応じて、負荷レベルLVL(1)は0〜3の4段階に設定される。同様に、負荷比Lmgf(2)に応じて、負荷レベルLVL(2)は0〜3の4段階に設定される。
MG1,MG2の負荷比Lmgf(1),Lmgf(2)により、相対的に負荷が高いMGにおいて、負荷レベルLVLが高く設定される。
座標変換部525は、MG1のモータ電流(三相電流)および回転角に基づいて、MG1のd軸電流Id(1)およびq軸電流Iq(1)を算出する。さらに、座標変換部525は、MG2のモータ電流(三相電流)および回転角に基づいて、MG2のd軸電流Id(2)およびq軸電流Iq(2)を算出する。
電圧偏差算出部532は、MG1およびMG2の各々について電圧偏差算出部531と同様の処理を実行することにより、MG1の電圧偏差ΔVH*(1)およびMG2のΔVH*(2)を算出する。
具体的には、電圧偏差算出部532は、MG1の負荷レベルLVL(1)に応じて、電圧偏差算出部531と同様に、目標電流位相ラインおよびこれに対応する電圧偏差マップを選択する。さらに、電圧偏差算出部532は、負荷レベルLVL(1)に応じて選択された電圧偏差マップを用いて、d軸電流Id(1)およびq軸電流Iq(1)によって規定される電流位相(d−q平面)に応じて、MG1に対応する電圧偏差ΔVH*(1)を算出する。
電圧偏差算出部532は、MG2についても同様に、負荷レベルLVL(2)に応じて目標電流位相ラインおよび電圧偏差マップを選択するとともに、選択された電圧偏差マップを用いて、d軸電流Id(2)およびq軸電流Iq(2)によって規定される電流位相(d−q平面)に応じて電圧偏差ΔVH*(2)を算出する。
なお、負荷レベルLVL(1),LVL(2)の各々に対する、目標電流位相ラインおよびこれに対応する電圧偏差マップの選択は、実施の形態1の変形例で説明したのと同様に実行される。
抽出部538は、電圧偏差算出部532がMG1およびMG2のそれぞれについて算出した電圧偏差ΔVH*(1)およびΔVH*(2)のうちの最大値を抽出して、電圧偏差ΔVH*とする。制御演算部540は、実施の形態1で説明したのと同様に、電圧偏差ΔVH*に基づく制御演算(PI演算)によって、VH補正値VHhを算出する。
演算部550の機能は、実施の形態1と同様であるので、詳細な説明は繰り返さない。
図25は、実施の形態2に従うシステム電圧の電圧指令値の設定に係る制御処理を説明するためのフローチャートである。図25に示された制御処理が、制御装置30によって所定周期で実行されることにより、図23に示したVH指令値設定部502の機能が実現される。
図25を参照して、制御装置30は、実施の形態1(図12)におけるステップS100と同等の処理を実行するために、ステップS101〜S105を実行する。
制御装置30は、ステップS101では、MG1のトルク指令値Tqcom(1)および回転速度Nmt(1)に基づいて、実施の形態1で示したtVHマップ(図10)を用いて、MG1に対応したベース指令値tVH(1)を算出する。同様に、制御装置30はステップS102により、MG2のトルク指令値Tqcom(2)および回転速度Nmt(2)に基づいて、MG2に対応したベース指令値tVH(2)を算出する。
制御装置30は、ステップS103により、tVH(1)およびtVH(2)を比較する。制御装置30は、tVH(1)≧tVH(2)のときには(S103のYES判定時)、tVH=tVH(1)に設定する一方で(ステップS104)、tVH(1)<tVH(2)のときには(S103のNO判定時)、tVH=tVH(2)に設定する(ステップS105)。これにより、tVH(1)およびtVH(2)のうちの最大値が、MG1,MG2全体でのベース指令値tVHに設定される。このように、ステップS101〜S105による処理によって、図23に示したベース指令値生成部512の機能が実現される。
さらに、制御装置30は、ステップS150により、MG1およびMG2の各々について電圧偏差マップを選択する。
図26には、ステップS150による制御処理の詳細が示される。
図26を参照して、制御装置30は、ステップS151により、式(6),(7)に従って、MG1およびMG2について、出力電力Pm(1),Pm(2)から負荷率Lfc(1),Lfc(2)を算出する。さらに、制御装置30は、ステップS152,S153により、式(8),(9)に従って、MG1およびMG2の負荷比Lmgf(1),Lmgf(2)を算出する。これにより、MG1およびMG2の負荷が比較されて、相対的に負荷が高いMGにおいて負荷比が高く設定されることになる。
制御装置30は、ステップS154では、図24に例示したマップを用いて、負荷比Lmgf(1)からMG1の負荷レベルLVL(1)を設定する。実施の形態1の変形例で説明したのと同様に、負荷レベルLVL(1)に基づいて、MG1の負荷状態に応じた目標電流位相ライン(図15)およびこれに対応した電圧偏差マップが選択される。
同様に、制御装置30は、ステップS155により、負荷比Lmgf(2)からMG2の負荷レベルLVL(2)を設定する。これにより、MG1と同様に、MG2についても、負荷レベルLVL(2)に基づいて、負荷状態に応じた目標電流位相ライン(図15)およびこれに対応した電圧偏差マップが選択される。図26に示したステップS151〜S155による処理によって、図23のマップ選択部536の機能が実現される。
再び図25を参照して、制御装置30は、実施の形態1(図12)におけるステップS200と同等の処理を実行するために、ステップS201〜S205を実行する。
制御装置30は、ステップS201により、MG1のd軸電流Id(1)およびq軸電流Iq(1)によって規定される電流位相に応じて、電圧偏差ΔVH*(1)を算出する。これにより、負荷レベルLVL(1)に基づいて選択された電圧偏差マップを用いて、MG1の電流位相を負荷状態に応じた目標電流位相ラインに近付けるための電圧偏差ΔVH*(1)が算出される。
制御装置30は、ステップS202により、MG2のd軸電流Id(2)およびq軸電流Iq(2)によって規定される電流位相に応じて、電圧偏差ΔVH*(2)を算出する。これにより、負荷レベルLVL(2)に基づいて選択された電圧偏差マップを用いて、MG2の電流位相を負荷状態に応じた目標電流位相ラインに近付けるための電圧偏差ΔVH*(2)が算出される。ステップS201〜S202による処理によって、図23の電圧偏差算出部532の機能が実現される。
制御装置30は、ステップS203により、ステップS201で算出された電圧偏差ΔVH*(1)とステップS202で算出されたΔVH*(2)とを比較する。そして、制御装置30は、ΔVH*(1)≧ΔVH*(2)のとき(S203のYES判定時)には、MG1,MG2全体の電圧偏差ΔVH*=ΔVH*(1)に設定する(ステップS204)。一方、制御装置30は、ΔVH*(1)<ΔVH*(2)のとき(S203のNO判定時)にはΔVH*=ΔVH*(2)に設定する(ステップS205)。すなわち、ΔVH*(1)およびΔVH*(2)のうちの最大値に従って、MG1およびMG2全体での電圧偏差ΔVH*が設定される。ステップS203〜S205による処理によって、図23の抽出部538の機能が実現される。
さらに、制御装置30は、図12と同様のステップS300およびS400により、電圧指令値VHrを設定する。
このように設定された電圧指令値VHrに従って、昇圧コンバータ12は、システム電圧VHを制御する。VH制御部600による昇圧コンバータ12の制御内容は実施の形態1と同様であるので、詳細な説明は繰り返さない。
このように、本実施の形態2に従う交流電動機の制御システムでは、直流リンク電圧(システム電圧VH)が共通である複数のインバータによって複数の交流電動機が制御される構成を有する電動車両において、複数の交流電動機の電流位相をそれぞれ負荷状態に応じた目標電流位相に近付けるようにシステム電圧を設定することができる。これにより、各交流電動機の負荷状態の変化に追従させて、制御システム全体の損失を低減するようにシステム電圧VHを設定することができる。
なお、本実施の形態に従う交流電動機の制御システムの適用は、例示した電動車両の走行用電動機の制御に限定されるものではない。本実施の形態に従う交流電動機の制御システムは、コンバータによって直流リンク電圧(システム電圧VH)が可変制御されるインバータによって、矩形波電圧制御の適用を伴って交流電動機を制御する構成であれば、パワートレーンの構成を限定することなく任意の電動車両に対して適用可能であり、かつ、電動車両以外に用いられる交流電動機に対しても適用可能である。
特に、実施の形態2に従う交流電動機の制御システムの適用は、図19に示したハイブリッド車両に限定されるものではない。すなわち、直流リンク電圧(システム電圧VH)が共通である複数のインバータによって、複数の交流電動機がそれぞれ制御される構成であれば、実施の形態2に従う交流電動機の制御システムによって、任意の交流電動機を制御対象とすることが可能である。
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。