図面を参照し、本発明の一実施形態のミシン1を説明する。図1の紙面左上側、右下側、左下側、右上側、上側、下側は夫々、ミシン1の左側、右側、前側、後側、上側、下側である。図1に示すように、ミシン1は、ベッド部2、脚柱部3、アーム部4、先端部5を備える。ベッド部2はミシン1の土台である。ベッド部2は、テーブル(図示略)の上面に形成する凹部(図示略)に上方から装着する。ベッド部2は、平面視略矩形状であり、左右方向に延びる。脚柱部3は、ベッド部2の右端から上方に延びる。アーム部4は、脚柱部3の上端から左方に延びる。アーム部4は、ベッド部2の上面に対向する。アーム部4は、左方に先端部5を備える。先端部5は下方に延びる。
ベッド部2は、上部に針板15を設ける。図2に示すように、針板15は、左部に針穴18を有する。針板15は、針穴18の周囲に送り歯穴19を開口する。ベッド部2は、内部にメインモータ13(図7参照)、送り機構30、回転釜(図示略)、糸切り機構(図示略)等を備える。メインモータ13の駆動軸(図示略)は、送り機構30の下軸プーリ24に連結する。送り機構30の詳細は後述する。回転釜は、ボビンケース(図示略)を装着する。ボビンケースは、下糸を巻いたボビン(図示略)を収容する。回転釜と糸切り機構の構成は周知なので、説明を省略する。
図1に示すように、脚柱部3は、前面に操作部10と表示部11を備える。表示部11は、コマンド、設定値、メッセージ等、様々な項目を含む情報を示す画面を表示する。表示部11は、前面に透明なタッチパネル12を備える。タッチパネル12は、指又は専用のタッチペン等を用いた操作の入力を受け付ける。タッチパネル12は、操作の入力を受け付けた時、操作の入力位置を示す座標データをミシン1のCPU41(図7参照)に対して出力する。CPU41は、タッチパネル12から取得した座標データに基づき、表示部11に表示した画面においてユーザが選択する項目を認識し、対応する処理を実行する。以下、タッチパネル12に対する操作の入力を、「パネル操作」という。特に断りがない場合、パネル操作は、画面内の対象の表示領域に対してタッチパネル12により入力を受け付け、且つ所定時間以内に入力状態の解除を受け付ける、所謂「タッチ」のパネル操作である。操作部10は、各種の指示の入力を受け付ける。操作部10は、設定キー10Aとホームキー10Bを備える。ミシン1のCPU41(図7参照)は、設定キー10Aに対する操作を受け付けた時、表示部11に、ミシン1の各種設定を行う設定メニュー画面65(図8参照)を表示する。CPU41は、ホームキー10Bに対する操作を受け付けた時、表示部11に、ホーム画面60(図8参照)を表示する。
脚柱部3は、右側面にプーリカバー9を取り付ける。プーリカバー9は、脚柱部3の右方に膨出し、右側面の開口からプーリ16が突出する。プーリカバー9は、前面下部に開口部6を有する。開口部6は、内側にミシン1の電源スイッチ77(図7参照)を配置する。
アーム部4は、内部に上軸14等を備える。上軸14は左右方向に延びる。上軸14の右端部は、上軸プーリ(図示略)を介してプーリ16に連結する。プーリ16は、脚柱部3の右側面に設ける。タイミングベルト(図示略)は、脚柱部3内部に設ける。タイミングベルトは、環状の帯体である。上軸プーリは、タイミングベルトを介して下軸プーリ24と連結する。
先端部5は、内部に天秤機構(図示略)、針棒上下動機構(図示略)等を備える。針棒上下動機構は、上軸14の左端に接続する。上軸14は、針棒上下動機構を介して天秤機構を駆動する。天秤機構の構成は周知なので、説明を省略する。針棒上下動機構は、針棒7を備える。針棒7は、針板15の上方に位置する。先端部5の下端部は、針板15と対向する。針棒7の下端部は、先端部5の下側から露出し、下方へ延びる。針棒7は、下端に縫針8を装着する。針棒上下動機構は、上軸14が回転することにより針棒7と縫針8を上下に往復移動する。針棒7が下降した時、縫針8の下端は、針穴18(図2参照)を通過して回転釜の上部に到達する。回転釜は、針棒7と協働し、縫針8が保持する上糸にボビンケースから引出した下糸を絡める。天秤機構は、下糸に絡んだ上糸を針板15上に引き上げ、布に縫目を形成する。
先端部5は、下端部に押え棒17を支持する。押え棒17は、針棒7の後方に位置する。押え棒17は、上下方向に延びる。押え棒17は、下端に押え足20を支持する。押え足20は、送り機構30の送り歯34(図2参照)に対向する。押え足駆動機構(図示略)は、先端部5内部に設ける。押え足駆動機構は、押え棒17を上下に移動する。
ミシン1は、テーブル下方に制御装置40(図7参照)を備える。制御装置40は、ロッド(図示略)を介して踏み込み式のペダル22(図7参照)に接続する。ペダル22は、ユーザのつま先又は踵による操作の入力を受け付ける。制御装置40に搭載するCPU41は、ユーザのつま先によるペダル22の踏み込み操作の操作量に応じてメインモータ13の動作を制御する。CPU41は、ユーザの踵によるペダル22の踏み返し操作に応じて糸切り装置(図示略)を駆動する。
送り機構30の構成を説明する。図2に示すように、送り機構30は、送り台33、送り歯34、上下動力機構31、搬送動力機構32を備える。送り台33は、針板15と略平行に針板15の下方に配置する。送り歯34は、送り台33の上面中央に設ける。送り歯34は前後方向に延び、上部に凹凸部分を備える。送り歯34の凹凸部分は送り歯穴19内に位置する。送り歯34の前後方向の長さは、送り歯穴19の長さより短い。縫製時、送り台33は、送り歯34の凹凸部分を送り歯穴19から針板15上に突出し、押え足20(図1参照)との間で布を挟む。
上下動力機構31は、上下送り軸27、偏心部39、第一リンク部材50を備える。ベッド部2(図1参照)は、上下送り軸27を回動可能に支持する。上下送り軸27は、上軸14に対して平行に左右方向に延びる。上下送り軸27の右端部は、下軸プーリ24と連結する。メインモータ13は、下軸プーリ24を回転駆動する。上軸14は、タイミングベルトを介し、上下送り軸27と同期して回転する。
偏心部39は、上下送り軸27の左端に設ける。偏心部39は、上下送り軸27の軸心に対して偏心する。偏心部39は第一リンク部材50を回転可能に保持する。第一リンク部材50は、送り台33の後端に回転可能に連結する。上下送り軸27が回転すると、偏心部39は、第一リンク部材50を介して送り台33を上下方向に移動する。送り台33の上下動は、針棒7の上下動と機械的に同期する。故に送り台33は、針棒7が上下に一往復する間に上下に一往復する。
搬送動力機構32は、布送りモータ35、リンク機構部37、水平送り軸28、第二リンク部材51を備える。布送りモータ35は、ベッド部2内に設け、送り台33の右方に配置する。布送りモータ35の駆動軸36は、左右方向に延びる。布送りモータ35はパルスモータであり、駆動軸36を所定の角度範囲内で回動する。布送りモータ35は、送り台33を前後方向に移動する。
リンク機構部37は、第一腕部25、第二腕部26、作用腕部29を備える。第一腕部25は棒状に延びる。第一腕部25の一端は、駆動軸36の先端に固定する。第一腕部25は駆動軸36に直交して延びる。第一連結部52は、第一腕部25の他端と第二腕部26の一端を回転可能に連結する。第二腕部26は棒状に延びる。第二連結部53は、第二腕部26の他端と作用腕部29の一端を回転可能に連結する。作用腕部29は棒状に延びる。作用腕部29の他端は、水平送り軸28の右端部に固定する。ベッド部2は、水平送り軸28を布送りモータ35の左上方で回動可能に支持する。水平送り軸28は、上下送り軸27と平行に左右方向に延びる。布送りモータ35が駆動し、駆動軸36が所定の角度範囲内で往復回動すると、第一腕部25の他端は前後方向に移動する。第一腕部25は、第二腕部26を介して作用腕部29の一端を上下方向に揺動する。故に水平送り軸28は、作用腕部29の揺動に伴い所定の角度範囲内で往復回動する。
第二リンク部材51の下端は、水平送り軸28の左端部に固定する。第二リンク部材51は、水平送り軸28に直交して上方に延びる。第二リンク部材51の上端は、送り台33の前端に回動可能に連結する。水平送り軸28が所定の角度範囲内で往復回動すると、送り台33は、第二リンク部材51を介して前後方向に往復移動する。
上下動力機構31が送り台33を上方に移動すると、送り歯34は送り歯穴19から凹凸部分を針板15上方に突出し、押え足20との間に布を挟む。送り歯34の凹凸部分が針板15上方に位置する間、縫針8は布に刺さらない。縫製中、ミシン1はメインモータ13の駆動軸の回転角位相(以下、「上軸角」という。)に基づき布送りモータ35の駆動軸36の回転角位相(以下、「布送り軸角」という。)を制御する。送り歯34の凹凸部分が針板15上方に突出する時、布送りモータ35が駆動すると、送り歯34は布を前後方向に移動する。送り台33が下降すると、送り歯34の凹凸部分は針板15下方に位置する。該場合、送り台33が前後方向に移動しても、送り歯34は布を移動しない。縫針8は送り歯34の凹凸部分が針板15下方に位置する間に布に縫目を形成する。
ミシン1は、動作軌跡を変更可能である。動作軌跡は、送り台33が移動した時に描く送り台33の軌跡をいう。図3に示すように、ミシン1は動作軌跡として、例えば、標準軌跡110、第一特殊軌跡120、第二特殊軌跡130、第三特殊軌跡140の何れかを設定できる。ミシン1は、動作軌跡を変更し、送り歯34の上下動に対する搬送動作開始時機と搬送動作終了時機を変更する。搬送動作開始時機は、送り歯34が布を搬送方向へ搬送する動作を開始する時機である。搬送動作終了時機は、送り歯34が布を搬送方向へ搬送する動作を終了する時機である。本実施形態の搬送方向は、ミシン1の前方から後方へ向かう方向である。搬送方向は水平方向と略平行である。ユーザは、ミシン1が縫製する布の厚さ等に応じて、標準軌跡110、第一特殊軌跡120、第二特殊軌跡130、第三特殊軌跡140の何れかを選択する。
標準軌跡110は、従来のミシンの送り台の軌跡と同様であり、通常使用する軌跡である。標準軌跡110は、例えば左側面視、扁平した楕円形状を描く。位置111〜114は夫々、標準軌跡110上の特定の位置である。送り台33が位置111、113に位置する時、送り歯34上端は、針板15と同じ高さに位置する。位置111は位置113後方にある。位置112は、搬送方向略中央で送り歯34上端が針板15下側に位置する送り台33の位置である。位置114は、搬送方向略中央で送り歯34上端が針板15上側に位置する送り台33の位置である。
矢印110Aに示すように、送り台33が位置111から位置112を経由して位置113へ移動する時、送り歯34上端は、針板15下側を前方へ向けて移動する。送り歯34上端が針板15下側に位置するので、送り歯34は布を搬送しない。送り歯34上端が位置113に位置する時、送り歯34は、布を搬送する動作を開始する。矢印110Bに示すように、送り歯34上端は、針板15上側を後方へ向けて移動する。送り歯34上端が針板15上側に位置するので、送り歯34は布を押え足20との間に挟み、後方に搬送する。送り歯34上端が位置111に位置する時、送り歯34は、布を搬送する動作を終了する。
第一特殊軌跡120は、ミシン1が縫製時に布に対する上糸の糸締りを良好にする時に選択対象となる軌跡の一つである。ミシン1は、針棒7の上昇時に天秤(図示略)が上糸を十分に引き上げてから、送り歯34が布を搬送することで上糸の糸締りを良好にすることができる。第一特殊軌跡120は、例えば左側面視、前後方向中央よりも前側が略台形形状を描き、後側が扁平した楕円形状を描く。第一特殊軌跡120は、標準軌跡110よりも遅い時機に搬送動作を開始する。故に天秤は、針棒7上昇時に送り歯34が布を搬送する前に上糸を十分に引き上げることができる。送り台33が第一特殊軌跡120に沿って移動することで、ミシン1は、縫製時に布に対する上糸の糸締りを良好にできる。
位置121〜126は夫々、第一特殊軌跡120上の特定の位置である。送り台33が位置121、124に位置する時、送り歯34上端は、針板15と同じ高さに位置する。位置121は位置124後方にある。位置123は位置124下方にあり、位置125は位置124上方にある。位置124、123、125は、上下方向に略直線状に並ぶ。位置122は、搬送方向略中央で送り歯34上端が針板15下側に位置する送り台33の位置である。位置126は、搬送方向略中央で送り歯34上端が針板15上側に位置する送り台33の位置である。
矢印120Aに示すように、送り台33が位置121から位置122を経由して位置123へ移動する時、送り歯34上端は、針板15下側を前方へ向けて移動する。送り歯34上端が針板15下側に位置するので、送り歯34は布を搬送しない。送り台33が位置123から位置124を経由して位置125に移動する時、ミシン1は、メインモータ13を駆動し、布送りモータ35を駆動しない。送り台33が位置124から位置125に移動する時、送り歯34は、布を搬送せずに、押え足20との間に布を挟む。送り歯34上端が位置125に位置する時、送り歯34は、布を搬送する動作を開始する。矢印120Bに示すように、送り台33が位置125から位置126を経由して位置121へ移動する時、送り歯34上端は、針板15上側を後方へ向けて移動する。送り歯34上端が針板15上側に位置するので、送り歯34は布を押え足20との間に挟み、後方に搬送する。送り歯34上端が位置121に位置する時、送り台33は、布を搬送する動作を終了する。
第二特殊軌跡130は、ミシン1が通常よりも厚い布を縫製する時に選択対象となる軌跡の一つである。第二特殊軌跡130は、例えば左側面視、前後方向中央よりも前側が扁平した楕円形状を描き、後側が略台形形状を描く。第二特殊軌跡130は、標準軌跡110よりも早い時機に搬送動作を終了する。針棒7下降時、厚い布は、通常の厚さの布よりも先に縫針8先端に接触する可能性がある。送り台33が第二特殊軌跡130に沿って移動することで、ミシン1は、搬送動作の終了前に縫針8先端が厚い布に刺さることを防止できる。
位置131〜136は夫々、第二特殊軌跡130上の特定の位置である。送り台33が位置131、134に位置する時、送り歯34上端は、針板15と同じ高さに位置する。位置131は位置134後方にある。位置132は位置131下方にあり、位置136は位置131上方にある。位置131、132、136は、上下方向に略直線状に並ぶ。位置133は、搬送方向略中央で送り歯34上端が針板15下側に位置する送り台33の位置である。位置135は、搬送方向略中央で送り歯34上端が針板15上側に位置する送り台33の位置である。
送り台33が位置131から位置132に移動する時、ミシン1は、メインモータ13を駆動し、布送りモータ35を駆動しない。送り歯34上端は針板15の下側で下降する。矢印130Aに示すように、送り台33が位置132から位置133を経由して位置134へ移動する時、送り歯34上端は、針板15下側を前方へ向けて移動する。送り歯34上端が針板15下側に位置するので、送り歯34は布を搬送しない。送り歯34上端が位置134に位置する時、送り歯34は、布を搬送する動作を開始する。矢印130Bに示すように、送り歯34上端は、針板15上側を後方へ向けて移動する。送り歯34上端が針板15上側に位置するので、送り歯34は布を押え足20との間に挟み、後方に搬送する。送り歯34上端が位置136に位置する時、送り歯34は、布を搬送する動作を終了する。送り台33が位置136から位置131に移動する時、ミシン1は、メインモータ13を駆動し、布送りモータ35を駆動しない。送り歯34上端は針板15上から針板15と同じ高さに下降する。
第三特殊軌跡140は、ミシン1が段差部を有する布を縫製する時に選択対象となる軌跡の一つである。段差部を有する布は、1枚の布の部分と、2枚の布が重なった部分とを有する布である。第三特殊軌跡140は、例えば左側面視、前後方向中央よりも前側と後側が、夫々略台形形状を描く。第三特殊軌跡140は、標準軌跡110よりも遅い時機に搬送動作を開始し、標準軌跡110よりも早い時機に搬送動作を終了する。送り台33が第三特殊軌跡140に沿って移動することで、送り歯34が搬送動作の開始前に押え足20との間に布をしっかり挟むので、ミシン1は、段差部を有する布を確実に搬送することができる。
位置141〜148は夫々、第三特殊軌跡140上の特定の位置である。送り台33が位置141、145に位置する時、送り歯34上端は、針板15と同じ高さに位置する。位置141は位置145後方にある。位置142は位置141下方にあり、位置148は位置141上方にある。位置141、142、148は、上下方向に略直線状に並ぶ。位置144は位置145下方にあり、位置146は位置145上方にある。位置144、145、146は、上下方向に略直線状に並ぶ。位置143は、搬送方向略中央で送り歯34上端が針板15下側に位置する送り台33の位置である。位置147は、搬送方向略中央で送り歯34上端が針板15上側に位置する送り台33の位置である。
送り台33が位置141から位置142に移動する時、ミシン1は、メインモータ13を駆動し、布送りモータ35を駆動しない。送り歯34上端は針板15の下側で下降する。矢印140Aに示すように、送り台33が位置142から位置143を経由して位置144へ移動する時、送り歯34上端は、針板15下側を前方へ向けて移動する。送り歯34上端が針板15下側に位置するので、送り歯34は布を搬送しない。送り台33が位置144から位置145を経由して位置146に移動する時、ミシン1は、メインモータ13を駆動し、布送りモータ35を駆動しない。送り台33が位置145から位置146に移動する時、送り歯34は、布を搬送せずに、押え足20との間に布を挟む。送り歯34上端が位置146に位置する時、送り歯34は、布を搬送する動作を開始する。矢印140Bに示すように、送り台33が位置146から位置147を経由して位置148へ移動する時、送り歯34上端は、針板15上側を後方へ向けて移動する。送り歯34上端が針板15上側に位置するので、送り歯34は布を押え足20との間に挟み、後方に搬送する。送り歯34上端が位置148に位置する時、送り台33は、布を搬送する動作を終了する。送り台33が位置148から位置141に移動する時、ミシン1は、メインモータ13を駆動し、布送りモータ35を駆動しない。送り歯34上端は針板15上から針板15と同じ高さに下降する。
ミシン1は、送り台33の送りピッチを変更可能である。送りピッチは、送り歯34の凹凸部分が送り歯穴19から針板15上側に突出した時、前後方向に移動する移動量である。言い換えると、送りピッチは1針分の縫目の長さである。縫製時、送り歯34は、縫針8が上下方向に一往復する間に、布を前後方向に1ピッチ分移動する。送りピッチは、例えば、0.05〜5.00[mm]の範囲で設定可能である。布送りモータ35の駆動軸36が回動する角度範囲が小さくなると、送りピッチは小さくなる。駆動軸36が回動する角度範囲が大きくなると、送りピッチは大きくなる。故にミシン1は、駆動軸36が回動する角度範囲を変更し、送りピッチを調整できる。
図4に示すように、標準軌跡150は、標準軌跡110の送りピッチよりも大きな送りピッチに変更した時の動作軌跡である。標準軌跡150は、標準軌跡110よりも前後方向に拡大した楕円形状を描く。ミシン1は、送りピッチに応じて布送り軸角を変更し、搬送動力機構32の動作を変更するが、上下動力機構31の動作量は変わらない。従って、標準軌跡150の上下方向の大きさは、標準軌跡110と同じである。標準軌跡150において、送り歯34が針板15と同じ高さになる位置151、153間の長さP2は、標準軌跡110の位置111、113間の長さP1よりも長くなる。
布送りモータ35の駆動軸36は、送りピッチ(図4参照)に応じた角度範囲内で回動する。駆動軸36の角度範囲の下限値は、例えば−30°であり、上限値は、例えば30°である。駆動軸36の角度範囲は、−30°〜30°の角度範囲内で、送りピッチに比例して可変する。上軸角が0°〜720°に変化する間、布送り軸角は、送りピッチに応じた角度範囲内で一往復する。即ちメインモータ13の駆動軸が二回転する時、布送りモータ35の駆動軸36は一往復回動する。駆動軸36が送りピッチに応じた角度範囲内で一回の往復回動を行う時、第二連結部53が二度上下動するので、水平送り軸28は、二回往復回動する。従って、駆動軸36が一回の往復回動を行う時、送り台33は、搬送動作を軌跡に沿って二周行い、布を二回搬送する。縫針8は、メインモータ13が一回転すると布を一針分縫製する。
図5、図6を参照し、軌跡テーブル80と係数テーブル90について説明する。CPU41は、ROM42(図7参照)に記憶する軌跡テーブル80と係数テーブル90に基づき、上軸角に応じた布送り軸角を演算する。軌跡テーブル80は、上軸角と布送りモータ位置を、動作軌跡毎に対応付けたテーブルである。布送りモータ位置は、布送りモータ35の駆動軸36の回転角位相に対応して予め定めた定数である。係数テーブル90は、送りピッチと係数を対応付けたテーブルである。係数は、送りピッチ毎に予め定めた定数である。CPU41は、布送りモータ位置と係数とに基づき、以下の式から布送り軸角を演算する。
布送り軸角 = 布送りモータ位置 × 係数 / 4000
例えば、動作軌跡が標準軌跡110であり、上軸角が50°であり、送りピッチが1mmの時、布送り軸角は、−7033×20/4000 = −35.165[°]である。
例えば、縫製軌跡が第二特殊軌跡130であり、上軸角が50°であり、送りピッチが3mmの時、布送り軸角は、−7033×60/4000=−105.495[°]である。
例えば、縫製軌跡が第三特殊軌跡140であり、上軸角が50°であり、送りピッチが3mmの時、布送り軸角は、−7770×60/4000=−116.55[°]である。
図7を参照し、ミシン1の電気的構成を説明する。ミシン1の制御装置40は、CPU41、ROM42、RAM43、フラッシュメモリ44、入出力インターフェイス(以下、「I/O」という)45を備える。CPU41は、ROM42、RAM43、フラッシュメモリ44、I/O45と電気的に接続する。CPU41は、ミシン1の制御を司る。CPU41は、ROM42が記憶する各種プログラムに従い、縫製に関わる各種演算と処理を実行する。ROM42は、各種プログラム、各種初期設定パラメータ等を記憶する。ROM42は、軌跡テーブル80(図5参照)、係数テーブル90(図6参照)、画面表示プログラム(図9、図10参照)、縫製プログラム(図11、図12参照)等を記憶する。RAM43は、CPU41の演算結果、ポインタ、カウンタ等を一時的に記憶する。フラッシュメモリ44は、不揮発性メモリであり、ユーザが入力した各種設定情報等を記憶する。
CPU41は、I/O45を介して、ペダル22、操作部10、駆動回路46〜49、メインエンコーダ57、布送りエンコーダ58、電源スイッチ77に接続する。ペダル22は、ユーザによるペダル22の操作を検出し、操作方向と操作量に応じた検出信号をCPU41に出力する。操作部10は、設定キー10A、ホームキー10B等に対する操作の入力を受け付け、操作内容に応じた信号をCPU41に出力する。駆動回路46は、CPU41が入力する制御信号に従って表示部11を駆動し、表示部11に各種画面を表示する。駆動回路47は、タッチパネル12を作動し、操作の入力位置の座標データをCPU41に出力する。駆動回路48は、メインモータ13に接続し、CPU41から受信する制御信号に従ってメインモータ13を駆動する。メインエンコーダ57は、メインモータ13の駆動軸に設ける。メインエンコーダ57は、メインモータ13の駆動軸の回転角位相(上軸角)と回転速度を検出し、CPU41に出力する。駆動回路49は、布送りモータ35に接続し、CPU41から受信する制御信号に従って布送りモータ35を駆動する。布送りエンコーダ58は、布送りモータ35の駆動軸36に設ける。布送りエンコーダ58は、駆動軸36の回転角位相と回転速度を検出し、CPU41に出力する。CPU41は、布送りエンコーダ58の出力に基づき布送りモータ35をフィードバック制御する。電源スイッチ77は、ユーザの操作によりミシン1の電源をオン、オフする。
図8を参照し、CPU41が画面表示プログラムを実行して表示部11に表示する画面の遷移について説明する。ホーム画面60は、ユーザが電源スイッチ77をオンにし、ミシン1の電源を入れると、CPU41が表示部11に表示する画面である。ホーム画面60は、縫製に関する各種情報を表示する。ホーム画面60は、メインモータ13の駆動軸の回転数を表示する領域、前止め縫い、後止め縫い、糸切り禁止等の各種指示を受け付けるキーを表示する領域等を有する。
ホーム画面60は、ピッチ表示領域61を有する。ピッチ表示領域61は、ホーム画面60内の上部中央に設ける。ピッチ表示領域61は、送りピッチを表示する領域である。送りピッチは、0.05mm〜5.00mmの範囲で設定可能である。
ホーム画面60は下部に、軌跡選択キー62、きれいモードキー63、スロースタートキー64を備える。軌跡選択キー62は、動作軌跡を設定する指示を受け付けるキーである。二点鎖線の円62Aに示すように、動作軌跡に標準軌跡110を設定した時、軌跡選択キー62の表示領域は、標準軌跡110を表すアイコンを表示する。標準軌跡110のアイコンは、特殊軌跡を選択していない状態を示すグレー表示になる。二点鎖線の円62Bに示すように、動作軌跡に第一特殊軌跡120を設定した時、軌跡選択キー62の表示領域は、第一特殊軌跡120を表すアイコンを表示する。二点鎖線の円62Cに示すように、動作軌跡に第二特殊軌跡130を設定した時、軌跡選択キー62の表示領域は、第一特殊軌跡120を表すアイコンを表示する。二点鎖線の円62Dに示すように、動作軌跡に第三特殊軌跡140を設定した時、軌跡選択キー62の表示領域は、第三特殊軌跡140を表すアイコンを表示する。第一特殊軌跡120、第二特殊軌跡130、第三特殊軌跡140のアイコンは、特殊軌跡を選択した状態を示す黒色表示になる。CPU41は、軌跡選択キー62に対するパネル操作を受け付ける度に、動作軌跡に、標準軌跡110、第一特殊軌跡120、第二特殊軌跡130、第三特殊軌跡140を順に切り替えて設定する。
きれいモードキー63は、きれいモードのON、OFFの切り替えを受け付けるキーである。きれいモードは、例えば糸抜けを防止する処理を行うモードである。縫い始めにおいて、布側の糸抵抗は、糸調子器(図示略)側の糸抵抗より小さい。故に天秤(図示略)は、糸の慣性モーメントに因り、天秤の静的な引き上げ量以上の上糸を布側から引き上げる。きれいモードがONの時、CPU41は、縫い始めの例えば2針分の送りピッチを拡大ピッチに設定する。拡大ピッチは、ユーザが設定した送りピッチを例えば1.6倍に拡大した送りピッチである。例えばユーザの設定による送りピッチが2.0mmの時、拡大ピッチは3.2mmである。ミシン1は、縫い始めの送りピッチを拡大ピッチとすることで、押え足20と布の間に上糸を挟み易くする。ミシン1は、押え足20と布の間に糸を挟むことで、糸の慣性モーメントに対抗する抵抗を大きくし、縫い始めの糸抜けを防止する。
二点鎖線の円63Aに示すように、きれいモードがONの時、きれいモードキー63の表示領域は、きれいモードを表すアイコンを表示する。きれいモードのアイコンは、きれいモードが有効な状態を示す黒色表示になる。二点鎖線の円63Bに示すように、きれいモードがOFFの時、きれいモードのアイコンは、きれいモードが無効な状態を示すグレー表示になる。CPU41は、きれいモードキー63に対するパネル操作を受け付ける度に、きれいモードのONとOFFを切り替えて設定する。
スロースタートキー64は、スロースタートのON、OFFの切り替えを受け付けるキーである。スロースタートは、縫い始めにおける布の搬送速度を通常よりも低速にする処理である。スロースタートがONの時、CPU41は、縫い始めの例えば4針分、メインモータ13の駆動軸を、予め設定したスロースタート時の速度(例えば400針/分)に応じた回転数で回転する。更にCPU41は、動作軌跡を、ユーザによる設定に関わらず、第三特殊軌跡140に設定する。二点鎖線の円64Aに示すように、スロースタートがONの時、スロースタートキー64の表示領域は、スロースタートの実施を表すアイコンを表示する。スロースタートのアイコンは、スロースタートが有効な状態を示す黒色表示になる。二点鎖線の円64Bに示すように、スロースタートがOFFの時、スロースタートのアイコンは、スロースタートが無効な状態を示すグレー表示になる。CPU41は、スロースタートキー64に対するパネル操作を受け付ける度に、スロースタートのONとOFFを切り替えて設定する。
設定メニュー画面65は、CPU41が、ホーム画面60の表示中に設定キー10Aの操作を受け付けた時に表示する画面である。設定メニュー画面65は、縫製に関する各種設定の選択を受け付ける複数のメニューキーを表示する。設定メニュー画面65は、戻るキー表示領域66、メニューキー表示領域67、スクロールキー表示領域68を有する。戻るキー表示領域66は、設定メニュー画面65内の右上に設ける。戻るキー表示領域66は、設定メニュー画面65の表示中にホーム画面60の表示に切り替えるパネル操作を受け付ける領域である。メニューキー表示領域67は、各種設定を行う夫々の画面に表示を切り替えるメニューキーを複数表示し、1つのメニューキーを選択するパネル操作を受け付ける領域である。メニューキー表示領域67は、設定メニュー画面65内のほぼ全域に設ける。スクロールキー表示領域68は、メニューキー表示領域67の右端に設ける。スクロールキー表示領域68は、メニューキー表示領域67内に非表示のメニューキーを画面内にスクロール表示するパネル操作を受け付ける領域である。CPU41は、設定メニュー画面65の表示中にホームキー10Bに対する操作を受け付けた時、表示部11にホーム画面60を表示する。
図9、図10を参照し、画面表示プログラムに従いミシン1が行う処理について説明する。ユーザが電源スイッチ77をオンにすると、ミシン1のCPU41は、画面表示プログラム(図9参照)と縫製プログラム(図11参照)を含む各種プログラムをROM42から読み出して実行する。
図9に示すように、ミシン1のCPU41は、画面表示プログラムを実行し、初期設定を行う。初期設定において、CPU41は、画面表示プログラムの各処理で使用する変数、カウンタ、フラグ、設定値等の各種記憶領域をRAM43に確保する。CPU41は、RAM43に確保する記憶領域の一つとして、動作軌跡を一時的に記憶する待避領域を確保する。CPU41は、初期設定の一つとして、ミシン1の動作モードを通常モードに設定する(S1)。通常モードは、ペダル22の操作量に応じてメインモータ13及び布送りモータ35を駆動可能にするモードである。CPU41は、表示部11にホーム画面60を表示する(S2)。CPU41は、フラッシュメモリ44に記憶する各種設定値を読み込み、ホーム画面60に反映する。例えば、CPU41は、フラッシュメモリ44から送りピッチの設定値を読み込み、ピッチ表示領域61に表示する。例えば、CPU41は、フラッシュメモリ44から動作軌跡の設定状態を読み込み、軌跡選択キー62の表示領域に設定状態に応じたアイコンを表示する。CPU41は、ホーム画面60の表示を継続し、パネル操作又は操作部10に対する操作の受け付けを待機する(S3:NO、S15:NO、S22:NO、S30:NO、S2)。
ホーム画面60の表示中に、軌跡選択キー62に対するパネル操作を受け付けた時(S3:YES)、CPU41は、処理をS4に進める。CPU41は、フラッシュメモリ44に記憶する動作軌跡が、標準軌跡110であるか否か判断する(S4)。動作軌跡が標準軌跡110の時(S4:YES)、CPU41は、軌跡選択キー62の表示領域に第一特殊軌跡120を表すアイコンを表示する(S5)。CPU41は、動作軌跡を第一特殊軌跡120に設定してフラッシュメモリ44に記憶し(S6)、処理をS15に進める。S5の処理で動作軌跡が標準軌跡110でない時(S4:NO)、CPU41は、動作軌跡が第一特殊軌跡120か否か判断する(S7)。動作軌跡が第一特殊軌跡120の時(S7:YES)、CPU41は、軌跡選択キー62の表示領域に第二特殊軌跡130を表すアイコンを表示する(S8)。CPU41は、動作軌跡を第二特殊軌跡130に設定してフラッシュメモリ44に記憶し(S9)、処理をS15に進める。動作軌跡が第一特殊軌跡120でない時(S7:NO)、CPU41は、動作軌跡が第二特殊軌跡130か否か判断する(S10)。動作軌跡が第二特殊軌跡130の時(S10:YES)、CPU41は、軌跡選択キー62の表示領域に第三特殊軌跡140を表すアイコンを表示する(S11)。CPU41は、動作軌跡を第三特殊軌跡140に設定してフラッシュメモリ44に記憶し(S12)、処理をS15に進める。S10の処理で動作軌跡が第二特殊軌跡130でない時(S10:NO)、CPU41は、軌跡選択キー62の表示領域に標準軌跡110を表すアイコンを表示する(S13)。CPU41は、動作軌跡を標準軌跡110に設定してフラッシュメモリ44に記憶し(S14)、処理をS15に進める。
ホーム画面60の表示中に、きれいモードキー63に対するパネル操作を受け付けた時(S3:NO、S15:YES)、CPU41は、処理をS16に進める。CPU41は、フラッシュメモリ44に記憶するきれいモードの設定がONであるか否か判断する(S16)。きれいモードの設定がONである時(S16:YES)、CPU41は、きれいモードキー63の表示領域に、きれいモードのアイコンをグレー表示にして表示する(S17)。CPU41は、きれいモードをOFFに設定してフラッシュメモリ44に記憶し(S18)、処理をS22に進める。S16の処理できれいモードの設定がOFFである時(S16:NO)、CPU41は、きれいモードキー63の表示領域に、きれいモードのアイコンを黒色表示にして表示する(S20)。CPU41は、きれいモードをONに設定してフラッシュメモリ44に記憶し(S21)、処理をS22に進める。
ホーム画面60の表示中に、スロースタートキー64に対するパネル操作を受け付けた時(S3:NO、S15:NO、S22:YES)、CPU41は、処理をS23に進める。CPU41は、フラッシュメモリ44に記憶するスロースタートの設定がONであるか否か判断する(S23)。スロースタートの設定がONである時(S23:YES)、CPU41は、スロースタートキー64の表示領域に、スロースタートのアイコンをグレー表示にして表示する(S25)。CPU41は、スロースタートをOFFに設定してフラッシュメモリ44に記憶し(S26)、処理をS30に進める。S23の処理でスロースタートの設定がOFFである時(S23:NO)、CPU41は、スロースタートキー64の表示領域に、スロースタートのアイコンを黒色表示にして表示する(S27)。CPU41は、スロースタートをONに設定してフラッシュメモリ44に記憶し(S28)、処理をS30に進める。
ホーム画面60の表示中に、設定キー10Aの操作を受け付けた時(S3:NO、S15:NO、S22:NO、S30:YES)、CPU41は、処理をS31に進める。図10に示すように、CPU41は、ミシン1の動作モードを通常モードから調整モードに移行する(S31)。調整モードは、ペダル22の操作を受け付けず、ユーザがペダル22を操作してもメインモータ13及び布送りモータ35を駆動しない状態にするモードである。ユーザは、調整モードにおいて、針棒7の上下動の位置、送り台33の水平方向の位置等を調整することができる。
CPU41は、フラッシュメモリ44に記憶する動作軌跡の設定と送りピッチの設定をRAM43の待避領域に保存する(S32)。CPU41は、メインエンコーダ57から上軸角を取得する(S33)。CPU41は、上軸角が70°〜130°の角度範囲内であるか否か判断する(S34)。上軸角が70°〜130°の角度範囲内の時(S34:YES)、針棒7は、上死点よりも下方に移動し、縫針8の先端は、布に刺さっている可能性がある。CPU41は、表示部11にメッセージボックスをポップアップ表示する。メッセージボックスには、例えば「針折れが発生する可能性があります。」等の警告のメッセージを表示する(S35)。CPU41は、処理をS33に戻し、ユーザがプーリ16を手回しし、上軸角が70°〜130°の角度範囲外になるまでS33〜S35の処理を繰り返し、メッセージボックスの表示を続ける。
上軸角が70°〜130°の角度範囲外の時(S34:NO)、CPU41は、動作軌跡を標準軌跡110に設定し、フラッシュメモリ44に記憶する。CPU41は、送りピッチを予め設定した標準ピッチ(例えば2.00mm)に設定し、フラッシュメモリ44に記憶する(S37)。CPU41は、表示部11にメッセージボックスをポップアップ表示する。メッセージボックスには、例えば「動作軌跡を標準軌跡に変更しました。」等のメッセージを表示する(S38)。
CPU41は、表示部11に設定メニュー画面65を表示する(S40)。CPU41は、パネル操作又は操作部10に対する操作の受け付けを待機する(S41:NO、S42:NO、S43:NO、S40)。設定メニュー画面65の表示中に、メニューキー表示領域67に表示するメニューキーを選択するパネル操作を受け付けた時(S41:YES)、CPU41は、選択したメニューキーに対応する設定画面を表示部11に表示し、設定画面において受け付けた操作に対応する処理を行う(S45)。CPU41は、設定画面の表示を継続し、パネル操作又は操作部10に対する操作の受け付けを待機する(S46:NO、S47:NO、S45)。設定画面の表示中に、戻るキー表示領域66に対するパネル操作を受け付けた時(S46:YES)、CPU41は処理をS40に戻し、設定メニュー画面65を表示する。
ユーザは、設定メニュー画面65の表示中に、針棒7の上下動の位置、送り台33の水平方向の位置等を調整する。ミシン1は、調整モードにおいてペダル22の操作を無効とする。故にユーザは、針棒7及び送り台33の位置調整を安全に行うことができる。設定画面の表示中に、ホームキー10Bに対する操作を受け付けた時(S46:NO、S47:YES)、CPU41は処理をS48に進める。設定メニュー画面65の表示中に、戻るキー表示領域66に対するパネル操作を受け付けた時(S41:NO、S42:YES)、CPU41は処理をS48に進める。設定メニュー画面65の表示中に、ホームキー10Bに対する操作を受け付けた時(S41:NO、S42:NO、S43:YES)、CPU41は処理をS48に進める。
CPU41は、RAM43の待避領域に保存する軌跡を動作軌跡に設定し、フラッシュメモリ44に記憶する。CPU41は、RAM43の待避領域に保存するピッチを送りピッチに設定し、フラッシュメモリ44に記憶する(S48)。CPU41は、ミシン1の動作モードを調整モードから通常モードに移行する(S50)。ペダル22の操作は有効になる。CPU41は、表示部11にメッセージボックスをポップアップ表示する。メッセージボックスには、例えば「動作軌跡をもとの軌跡に戻しました。」等のメッセージを表示する(S51)。CPU41は、処理をS2に戻し、表示部11にホーム画面60を表示する。画面表示プログラムに従いミシン1が行う処理は、ユーザが電源スイッチ77をオフにすると終了する。
図11、図12を参照し、縫製プログラムに従いミシン1が行う処理について説明する。前述したように、ユーザが電源スイッチ77をオンにすると、CPU41は、縫製プログラムをROM42から読み出して実行し、初期設定を行う。初期設定において、CPU41は、縫製プログラムの各処理で使用する変数、カウンタ、フラグ、設定値等の各種記憶領域をRAM43に確保する。図11に示すように、CPU41は、各種操作の入力を待機する(S61)。CPU41は、ユーザがペダル22を操作せず、ペダル22から検出信号を受信しなければ(S62:NO)、処理をS61に戻し、待機状態を継続する。
ペダル22から検出信号を受信した時(S62:YES)、CPU41は、ミシン1の動作モードが通常モードか否か判断する(S63)。ミシン1の動作モードが調整モードの時(S63:NO)、CPU41は、処理をS61に戻し、待機状態を継続する。即ち調整モードの時、CPU41は、ペダル22の操作を受け付けず、メインモータ13及び布送りモータ35を駆動しない。ミシン1の動作モードが通常モードの時(S63:YES)、CPU41は、フラッシュメモリ44からきれいモード、スロースタートの各設定状態を読み込み、RAM43に記憶する(S65)。CPU41は更に、メインモータ13の駆動軸の回転数、前止め縫い、後止め縫い、糸切り禁止等の各種設定値を読み込み、RAM43に記憶する。CPU41は、針数のカウント値を0に設定する。
CPU41は、フラッシュメモリ44から動作軌跡の設定と送りピッチの設定値を読み込み、RAM43に記憶する(S66)。CPU41は、スロースタートの設定がONか否か判断する(S67)。スロースタートの設定がONの時(S67:YES)、CPU41は、針数が4以下か否か判断する(S68)。針数が4以下の時(S68:YES)、CPU41は、RAM43に読み込んだ動作軌跡を、第三特殊軌跡140に変更する(S70)。CPU41は、駆動回路48に制御信号を出力し、予め設定したスロースタート時の速度でメインモータ13を駆動し(S71)、処理をS73に進める。
CPU41は、メインエンコーダ57から針上信号を受信したか否か判断する(S73)。針上信号は、メインモータ13の駆動軸の回転角位相が、針棒7が上下動における上死点位置に位置する時に対応する位相において、メインエンコーダ57が出力する信号である。針上信号は、例えば、回転角位相が337.5°〜22.5°の範囲でONになる。CPU41は、針上信号を受信しなければ(S73:NO)、処理をS81に進める。
図12に示すように、CPU41は、メインエンコーダ57から上軸角を取得する(S81)。CPU41は、取得した上軸角と、RAM43に読み込んだ動作軌跡に対応する布送りモータ位置を軌跡テーブル80から取得する(S82)。CPU41は、きれいモードの設定がONか否か判断する(S83)。きれいモードの設定がONの時(S83:YES)、CPU41は、針数が2以下か否か判断する(S85)。針数が2以下の時(S85:YES)、CPU41は、RAM43に読み込んだ送りピッチを所定の倍率で拡大した拡大ピッチを算出する。CPU41は、拡大ピッチに対応する係数を係数テーブル90から取得する(S86)。CPU41は、布送りモータ位置と係数に基づき、布送り軸角を計算する(S88)。CPU41は、布送りモータ35を制御し、駆動軸36の回転角位相が布送り軸角になるように、駆動軸36を回動する(S90)。送り台33は、メインモータ13の上軸角と布送りモータ35の布送り軸角に対応する動作軌跡上の位置に移動する。
CPU41は、ペダル22の検出信号に基づき、ユーザがペダル22の踏み返し操作を行ったか否か判断する(S91)。ペダル22の踏み返しがなければ(S91:NO)、CPU41は、ペダル22の検出信号に基づき、ユーザがペダル22の踏み込み操作を停止したか否か判断する(S92)。ペダル22の検出信号を受信し、ペダル22の踏み込み操作が継続すれば(S92:NO)、CPU41は、処理をS66に戻す。CPU41は、メインモータ13の駆動を継続し、針上信号がONになるまで動作軌跡に従って布送りモータ35を駆動して送り台33を移動する。針上信号がONになれば(S73:YES)、CPU41は、針数のカウント値を1加算する(S75)。針数加算後もCPU41はメインモータ13の駆動を継続し、動作軌跡に従って布送りモータ35を駆動して送り台33を移動する。
S67の処理でスローモードの設定がOFFの時(S67:NO)、又はスローモードがONであってもS68の処理で針数が5以上になった時(S67:YES、S68:NO)、CPU41は、ペダル22の検出信号に基づきペダル22の踏込量を求める。CPU41は、RAM43に読み込んだ回転数を最大とし、ペダル22の踏込量に応じた回転数を算出する。CPU41は、駆動回路48に制御信号を出力し、回転数に応じた速度でメインモータ13を駆動し(S72)、処理をS73に進める。
S83の処理できれいモードの設定がOFFの時(S83:NO)、又はきれいモードがONであってもS85の処理で針数が3以上になった時(S83:YES、S85:NO)、CPU41は、RAM43に読み込んだ送りピッチに対応する係数を係数テーブル90から取得する(S87)。CPU41は、布送り軸角を、ユーザが設定した送りピッチに基づいて計算し(S88)、布送りモータ35を駆動して送り台33を移動する(S90)。
S91の処理でペダル22の踏み返しがあった時(S91:YES)、又はS92の処理でペダル22の検出信号を受信せず、踏み込み操作が停止した時(S92:YES)、CPU41は、縫製途中の1ピッチ分の縫目を形成してからメインモータ13と布送りモータ35の駆動を停止する(S93)。CPU41は処理をS61に戻し、待機状態になる。縫製プログラムに従いミシン1が行う処理は、ユーザが電源スイッチ77をオフにすると終了する。
以上説明したように、ユーザは、針棒7の上下動の時機と送り台33の動作の時機を調整する時がある。針棒7の上下動の時機と送り台33の動作の時機は、送り台33の軌跡である動作軌跡の設定によって異なる。動作軌跡が第一特殊軌跡120、第二特殊軌跡130、第三特殊軌跡140の何れかの時、精確な調整を行うことが難しいので、ユーザは、動作軌跡を標準軌跡110に設定する必要がある。ミシン1の整備を行う時、ミシン1は、表示部11に設定メニュー画面65を表示するだけで、調整モードに移行する。S31の処理で通常モードから調整モードに切り替えた時、CPU41は、S37の処理で動作軌跡を標準軌跡110に設定する。故にミシン1は、動作軌跡をユーザの手動によって標準軌跡110に設定せずとも、調整モードへの移行することによって容易に標準軌跡110に設定することができる。
S35の処理で、CPU41は、表示部11にメッセージボックスをポップアップ表示することで、動作軌跡を標準軌跡110に変更したことをユーザに報せることができる。
調整モードの時、CPU41は、S63の処理でペダル22の操作受け付けを無効にする。故にミシン1は、整備時にペダル22の誤操作によってメインモータ13が駆動し、縫針8を装着した針棒7が上下動することを防止できる。
縫針8の先端が布に刺さっており、送り歯34の凹凸部分が針板15の上面よりも上側に位置する状態で動作軌跡が変わると、送り歯34と共に布が移動し、縫針8は折れる可能性がある。CPU41は、上軸角が70°〜130°の角度範囲内であるか否か判断することで、S35の処理で縫針8の先端が布に刺さっている可能性があることをユーザに報せ、注意を喚起することができる。
尚、本発明は上記実施形態に限定されず、種々の変更を加えることが可能である。
上述の画面表示プログラムと縫製プログラムの実行に伴う各処理は、CPU41が実行する例に限定しない。上記各処理は、他の電子部品(例えばASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field Programmable Gate Array)等)が実行してもよい。
特殊軌跡は第一特殊軌跡120と第二特殊軌跡130と第三特殊軌跡140の3種類に限らず、1種類又は2種類でもよいし、4種類以上あってもよい。通常モードから調整モードへの移行は、表示部11に設定メニュー画面65を表示する時に限らず、例えば表示部11にホーム画面60を表示した状態のままで変更可能な各種設定値の変更の操作を受け付けた時にも移行してもよい。通常モードから調整モードへの移行は、例えば表示部11に設定メニュー画面65を表示した状態で、調整モードに移行する為のメニューキーの操作でもよい。
図13に示す如く、設定メニュー画面65を表示中にスクロールキー表示領域68に対するパネル操作があると、メニューキー表示領域67は調整画面切替キー167を表示する。調整画面切替キー167は複数のメニューキーの一つである。CPU41は、調整画面切替キー167を選択するパネル操作を受け付けると、調整画面160を表示する。
調整画面160は、戻るキー表示領域161、縫針・送り歯表示領域162、上軸角表示領域163、ピッチ表示領域164、編集キー表示領域165を備える。戻るキー表示領域161は、調整画面160内の右上に設ける。戻るキー表示領域161は、調整画面160の表示中に設定メニュー画面65の表示に切り替えるパネル操作を受け付ける領域である。縫針・送り歯表示領域162は、調整画面160内の略中央に設ける。縫針・送り歯表示領域162は、現在の縫針8と送り歯34の位置を針板15と共にイメージ表示する領域である。上軸角表示領域163は、調整画面160内の左上に設ける。上軸角表示領域163は、現在の上軸角を表示する領域である。ピッチ表示領域164は、調整画面160内の中央よりやや右下に設ける。
ピッチ表示領域164は、現在の送りピッチを表示する領域である。調整画面160を表示した時、ピッチ表示領域164は、送りピッチをアクティブ化した状態である。編集キー表示領域165は、調整画面160内の右端に設ける。編集キー表示領域165は、ピッチ表示領域164にてアクティブ化した送りピッチを編集する。編集キー表示領域165は、[+]キー165Aと[−]キー165Bを有する。[+]キー165Aに対するパネル操作を受付けると、送りピッチの値は所定値ずつ増加する。[−]キー165Bに対するパネル操作を受付けると、送りピッチの値は所定値ずつ減少する。送りピッチの値は例えば−5.00〜5.00[mm]の範囲で設定可能である。一回のパネル操作での模様ピッチの増減値は0.05mmである。
調整画面160を表示した状態で、ユーザは針棒7の上下動の時機と送り台33の動作の時機を調整する。CPU41はユーザの調整に応じて、縫針・送り歯表示領域162の縫針8と送り歯34の位置のイメージ表示を更新すればよい。
S35及びS38の処理で、CPU41は、メッセージボックスに限らず、映像、音声、ランプの点灯等、様々な手段でユーザにメッセージを報知してもよい。ペダル22から検出信号を受信し、ミシン1の動作モードが調整モードの時(S62:YES、S63:NO)、CPU41は、ペダル22の操作が無効である旨のメッセージを表示部11にメッセージボックスをポップアップ表示することで表示してもよい。該場合も、CPU41は映像、音声、ランプの点灯等、様々な手段でユーザにメッセージを報知してもよい。
上記実施形態において、メインモータ13が、本発明の「第一モータ」に相当する。布送りモータ35が、本発明の「第二モータ」に相当する。第一特殊軌跡120、第二特殊軌跡130、第三特殊軌跡140が、本発明の「特殊軌跡」に相当する。S31、S50の処理を実行するCPU41が、本発明の「切替手段」に相当する。S31、S50の処理が、本発明の「切替工程」に相当する。S7、S11、S13の処理を実行するCPU41が、本発明の「第一設定手段」に相当する。S7、S11、S13の処理が、本発明の「第一設定工程」に相当する。S32の処理を実行するCPU41が、本発明の「記憶手段」に相当する。S32の処理が、本発明の「記憶工程」に相当する。S37の処理を実行するCPU41が、本発明の「第二設定手段」に相当する。S37の処理が、本発明の「第二設定工程」に相当する。S48の処理を実行するCPU41が、本発明の「第三設定手段」に相当する。S48の処理が、本発明の「第三設定工程」に相当する。S38の処理を実行するCPU41が、本発明の「第一報知手段」に相当する。S63:NOで、ペダル22の操作の受け付けを無効にするCPU41が、本発明の「無効手段」に相当する。メインエンコーダ57が、本発明の「検出手段」に相当する。S34の処理を実行するCPU41が、本発明の「判断手段」に相当する。上軸角の70°〜130°の角度範囲が、本発明の「警告範囲」に相当する。S35の処理を実行するCPU41が、本発明の「第二報知手段」に相当する。