JP2017079714A - 細胞培養器及び細胞培養器の製造方法 - Google Patents

細胞培養器及び細胞培養器の製造方法 Download PDF

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Yasuhide Nakayama
泰秀 中山
良輔 岩井
Ryosuke Iwai
良輔 岩井
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Yasushi Nemoto
泰 根本
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Abstract

【課題】本発明は、正確な顕微鏡観察が可能であり、培地交換の際に誤吸引をしにくい、塊状(ペレット状)の均質な細胞構造体を容易に作製することができる、細胞培養器を提供することを目的としている。
【解決手段】本発明の細胞培養器は、培養面上に、温度応答性ポリマー又は温度応答性ポリマー組成物で被覆された被覆領域Aと、培養面が露出した培養面露出領域又は細胞接着性物質で被覆された被覆領域Bとを有し、前記被覆領域Aの中央部に、前記培養面露出領域又は前記被覆領域Bがあることを特徴としている。
【選択図】図1

Description

本発明は、細胞培養器及び細胞培養器の製造方法に関する。
生物学の分野における重要な実験技術として、1900年頃に開発された細胞培養技術がある。開発当初は、培地成分の最適化等細胞を馴化することに注力されるに留まり、単層培養や浮遊培養の技術が中心に検討されてきた。
近年、単層培養系の細胞と生体内組織の細胞との間で、種々の性質、刺激応答性、細胞機能等が異なることが明らかになり、単層構造を形成させる単層培養よりも、生体内の組織構造に近い3D構造を形成させる3D培養、特に、スフェロイド培養の需要が拡大している。
古典的には、タンパク質系のゾル中に細胞を浮遊させ、この細胞浮遊液を何らかのトリッガー(熱、光、化学架橋剤等)でゲル化させることによって形成させた3Dゲル中に細胞を包埋させる技術、多孔質のスキャホールド中に細胞を生着させる技術等が盛んに開発されてきた。
近年では、住友ベークライト社のPrimeSurface等の、非接着性の丸底面へ細胞を沈降させる手法;JSR社のNano Culture Plate、日立製作所のNano Pillar Plate等の、レーザー加工により平滑面を規則正しい凹凸面にすることによって培養面に接着した細胞の遊走性を高め、これにより、培養面において細胞の自己組織化を誘導する手法;クラレ社のElplasia、イワキ社のEZSPHERE等の、直径100〜500μm、深さ500μm程度の無数の穴が配設された培養皿を用いて、播種した細胞を各穴の底面へ沈降させる手法等が開発されている。
Nature,Vol 424,P870−872,21 August,2003.
しかしながら、上記従来の細胞培養器では、細胞がつくる立体的構造の再現性や均質性が良好ではない場合があった。すなわち、操作者の技量やさじ加減に依存して、得られる細胞構造体にバラツキが生じ、そのため、得られた細胞構造体を用いて得られる実験結果が、研究機関ごとに異なってしまう虞があった。
従って、本発明の目的は、塊状(ペレット状)の均質な細胞構造体を容易に作製することができる、細胞培養器を提供することにある。
すなわち、本発明は、培養面上に、温度応答性ポリマー又は温度応答性ポリマー組成物で被覆された被覆領域Aと、培養面が露出した培養面露出領域又は細胞接着性物質で被覆された被覆領域Bとを有し、上記被覆領域Aの中央部に、上記培養面露出領域又は上記被覆領域Bがあることを特徴とする、細胞培養器を提供する。
上記被覆領域Aの表面積が0.32〜150cm2であることが好ましい。
また、本発明は、温度応答性ポリマー又は温度応答性ポリマー組成物を調製する調製工程と、培養面の中央部に培養面を露出させるようにして、上記温度応答性ポリマー又は上記温度応答性ポリマー組成物を培養面上に塗布、乾燥し、被覆領域Aを形成する被覆工程、とを含むことを特徴とする、上記細胞培養器の製造方法を提供する。
また、本発明は、温度応答性ポリマー又は温度応答性ポリマー組成物、及び細胞接着性物質を含む細胞接着性溶液を調製する調製工程と、前記温度応答性ポリマー又は前記温度応答性ポリマー組成物を培養面上に塗布、乾燥して被覆領域Aを形成し、培養面の中央部に前記細胞接着性溶液を塗布、乾燥して被覆領域Bを形成する被覆工程、とを含むことを特徴とする、上記細胞培養器の製造方法を提供する。
本発明の細胞培養器は、上記構成を有するため、塊状(ペレット状)で均質な細胞構造体を容易に作製することができる。
図1は、本発明の実施形態の細胞培養器の製造方法、及び本発明の実施形態の細胞培養器を用いた細胞培養方法の一例の概略を示す図である。
以下に、本発明の細胞培養器及び細胞培養器の製造方法について、一実施形態を詳細に説明する。
[細胞培養器]
本発明の細胞培養器は、培養面上に、温度応答性ポリマー又は温度応答性ポリマー組成物で被覆された被覆領域Aと、培養面が露出した培養面露出領域又は細胞接着性物質で被覆された被覆領域Bとを有し、上記被覆領域Aの中央部に、上記培養面露出領域又は上記被覆領域Bがある。
なお、本明細書において、培養面露出領域を、単に「露出領域」と称する場合がある。また、本明細書において、ポリマーの「曇点」とは、必ずしも厳密な意味で、「所定の温度未満では溶解するが、所定の温度以上では不溶化して沈殿する、その温度」を指すものではなく、「不溶化して沈殿したポリマーを所定の温度未満の条件下で溶解する際に、溶解に要する時間が10分以上である、その温度」をも指す。
本実施形態の細胞培養器によれば、トリプリン処理等の特別な操作をすることなく、播種した細胞を、一般的な37℃のインキュベーター中で培養するだけで、細胞が自己凝集して細胞構造体を作製することができる。また、本実施形態の細胞培養器により作製された細胞構造体は、一部が培養面に接着しているため、培養面から剥離して浮遊しない。
特に被覆領域の中央部に細胞構造体が培養面と接着する領域が設けられているため、凝集する方向を中央部方向に集中させることができ、塊状で均質な細胞構造体を作製することができる。
また、本実施形態の細胞培養器によれば、塊状の均質な細胞構造体を作製する現象の再現性が極めて高く、同様の形状、性質の細胞構造体を再現よく得ることができる。
従来の細胞培養器を用いて作製された細胞の塊は、細胞非接着性の培養面に接着できない細胞が寄せ集められたものに過ぎないため、細胞の塊を構成する細胞のバイアビリティが低いという問題があった。
一方、本実施形態の細胞培養器で作製された細胞構造体(スフェロイド)は、培養面上に速やかに接着し、伸展するという経過を経たうえで形成されるものであるため、細胞間に産生された細胞外マトリックスが豊富に存在する。そのため、細胞構造体自体のバイアビリティ(活性)が極めて高い。
本実施形態の細胞培養器によれば、細胞培養器の種類を選択して、培養面のサイズを変えることにより、細胞構造体の大きさを簡単に調整することができる。
また、従来の細胞培養器を用いて作製された細胞構造体は、浮遊しているため、顕微鏡等で観察している時に細胞構造体が動き、正確な顕微鏡観察が困難な場合があった。
本実施形態の細胞培養器を用いて作製された細胞構造体は、培養面に接着しているため、顕微鏡等で観察する際に細胞構造体が動きにくく、より正確な顕微鏡観察が可能となり、観察時の精度が向上する。
また、従来の細胞培養器を用いて作製された細胞構造体は、浮遊しているため、培地交換の際に誤って吸引する場合があった。また、培地交換の際の吸引を避けるために、細胞構造体の位置を確認しながら培地を吸引する必要があり、培地交換の作業に時間がかかっていた。
本実施形態の細胞培養器を用いて作製された細胞構造体は、培養面に接着しているため、培地交換の際に誤吸引をしにくく、培地交換の作業性が向上する。
本実施形態の細胞培養器における上記細胞培養器としては、市販のマルチウェルプレート、ディッシュ、フラスコ等が挙げられる。上記細胞培養器の材質としては、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリエチレン、ポリカーボネート、ガラス等が挙げられる。中でも、精密な成形加工が容易であり、種々の滅菌法を適用することが可能であり、透明性があるため顕微鏡観察に向いているという観点から、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート(PET)が好ましい。
上記細胞培養器は、培養面表面に細胞接着処理等の処理が施されたものであってもよいし、表面が無処理であってもよい。中でも、上記細胞培養器の培養面は、表面に細胞接着処理が施された、細胞接着性の面であることが好ましい。上記培養面は、細胞の接着性を調整するために、コーティング処理、加工処理等がされていてもよい。なお、「細胞接着性」とは、付着細胞(例えば、線維芽細胞、肝細胞、血管内皮細胞等)が、通常の培養条件下で、接着する性質をいう。
上記培養面の平面視形状は、特に限定されないが、例えば、略四角形等の略多角形、略円形等の形状が挙げられる。中でも、より均質で球状の細胞構造体が得られやすいという観点から、略円形が好ましい。
上記培養面の底形状は、特に限定されないが、平底、丸底、凹凸状底等が挙げられる。中でも、より均質で球状の細胞構造体が得られやすいという観点から、平底が好ましい。
上記培養面の表面積としては、0.01〜800cm2が好ましく、より均質で球状の細胞構造体が得られやすいという観点から、0.33〜160cm2がより好ましい。
(被覆領域A)
本実施形態の細胞培養器における上記被覆領域Aは、上記培養面全面上に設けられていてもよいし、培養面の一部に設けられていてもよい。中でも、上記培養面上の、上記培養面露出領域及び上記被覆領域Bを除く全ての領域に設けられていることが好ましい。即ち、上記培養面は、上記被覆領域Aと、上記培養面露出領域又は上記被覆領域Bとからなり、上記被覆領域Aが、上記培養面の中央部を除く全面に設けられていることが好ましい。
上記被覆領域Aにおいて、単位面積当たりに含まれる温度応答性ポリマーの含有量としては、より均質で球状の細胞構造体が得られやすいという観点から、5〜50ng/mm2が好ましく、より好ましくは15〜40ng/mm2である。
上記被覆領域Aの平面視形状は、特に限定されないが、例えば、略四角形等の略多角形、円形、略円形等の形状が挙げられる。中でも、より均質で球状の細胞構造体が得られやすいという観点から、略円形が好ましい。
上記被覆領域Aの表面積としては、0.009〜795cm2が好ましく、より均質で、大きいサイズの球状の細胞構造体が得られやすいという観点から、0.32〜150cm2がより好ましい。
なお、被覆領域Aの表面積は、顕微鏡写真の画像解析など当業者に周知の方法により測定することができる。
上記培養面の表面積(100%)に対する上記被覆領域Aの表面積の割合は、90.0〜100%が好ましく、より好ましくは95.0〜99.9%である。上記割合が90.0%以上であることにより、より均質で球状の細胞構造体が得られやすくなる。また、上記割合が99.9%以下であることにより、細胞構造体が培養面に接着し、細胞構造体をより正確に観察可能となり、細胞構造体を一層誤吸引しにくくなる。
上記被覆領域A表面のゼータ電位としては、0〜50mVが好ましく、より好ましくは0〜35mV、更に好ましくは10〜25mVである。ゼータ電位が0mV以上であることにより、負に帯電する細胞が接着しやすくなる。また、ゼータ電位が50mV以下であることにより、細胞毒性を軽減することができる。
また、ゼータ電位を上記範囲とすることにより、細胞を適切な培養条件で培養するだけで、塊状(ペレット状)の構造を有する細胞構造体を一層簡便に作製させることができる。これは、表面ゼータ電位を上記範囲とすることによって、被覆領域A表面に細胞毒性を惹起しない微弱な陽電荷を与えることができ、また、播種した細胞の速やかな接着を確保し、細胞の活性の向上及び細胞外マトリックスの分泌を促進し、更には、細胞遊走を適度に抑制して、細胞間の結合を強くすることができることによるものと推測される。
なお、ゼータ電位とは、ポリスチレンラテックスをヒドロキシプロピルセルロースで被覆した粒子(ゼータ電位:−5〜+5mV)を標準のモニター粒子として、ゼータ電位計(例えば、型番「ELSZ」、大塚電子社製等)で測定した、Smoluchowski式により算出される値をいう。
上記被覆領域A表面に対する水の接触角としては、本発明の効果を高める観点から、50〜90°が好ましく、より好ましくは60〜80°、更に好ましくは62〜78°である。なお、被覆領域Aに対する水の接触角とは、被覆領域A内の任意の数点において、JIS R 3257に準拠して測定される接触角の平均値をいう。
(培養面露出領域、被覆領域B)
本実施形態の細胞培養器は、上記被覆領域Aの中央部に上記培養面露出領域又は上記被覆領域Bを有する。
上記培養面露出領域は、温度応答性ポリマー又は温度応答性ポリマー組成物で被覆されていない領域である。また、上記培養面露出領域は、上記被覆領域Aに囲まれた、培養面が剥き出しになっている領域である。
なお、本実施形態の細胞培養器が上記培養面露出領域を有する場合は、細胞培養器として、細胞接着性の培養面を有する細胞培養器を用いることが好ましい。
上記被覆領域Bは、細胞接着性物質で被覆された領域である。上記被覆領域Bは、表層が細胞接着物質を含む層で形成されていれば、他の層との積層構造であってもよく、例えば、温度応答性ポリマー又は温度応答性ポリマー組成物からなる層と、細胞接着物質を含む層との積層構造であってもよい。
上記被覆領域Bにおける上記細胞接着性物質としては、ラミニン、コラーゲン、フィブロネクチン、ペプチド、カチオン性ポリマー、ポリスチレン等が挙げられる。上記ペプチドとしては、アルギニン−グリシン−アスパラギン酸の配列を有するペプチド、アルギニン残基が8個以上連続する配列を有するペプチド等が挙げられる。上記カチオン性ポリマーとしては、アミノスチレン等が挙げられる。これらの中でも、細胞接着性が高い、ラミニン、コラーゲン、フィブロネクチンが好ましい。
また、上記列挙の細胞接着性物質を含む試薬も好適に用いることができ、かかる試薬としては、血清等が挙げられる。
上記被覆領域Bにおいて、単位面積当たりに含まれる細胞接着性物質の含有量としては、均質で球状の細胞構造体の形成と、細胞構造体の培養面への固定を効率的に行うことができるという観点から、5〜500ng/mm2が好ましく、より好ましくは20〜200ng/mm2である。
上記培養面露出領域は、例えば、培養面の中央部に突起部が設けられた細胞培養器に温度応答性ポリマー又は温度応答性ポリマー組成物を添加して、中央の突起部に培養面を露出させることで形成してもよい。上記突起部の断面形状としては、例えば、略半円状、略三角状、略四角状、略半多角形状等の形状が挙げられる。上記突起部は、端部から中心に向かって高さが漸増する構造であってもよいし、端部から中心に向かって高さが上下する構造であってもよい。また。突起部の高さとしては、例えば、10μm〜1.0mmが好ましい。
射出成型で樹脂から製造した細胞培養器は、培養器の底面の面積が大きいと底面が盛り上がったり、培養器の底面の面積が小さいと底面がへこんだりする場合がある。培養皿底面の突起部は、これらの現象を利用することで形成してもよい。突起部が設けられた細胞培養器は、細胞培養器全体が同一の材質からなっていてもよいし、突起部のみが異なる材質(例えば、細胞接着性に優れる材質など)であってもよい。
上記培養面露出領域又は上記被覆領域Bの平面視形状は、特に限定されないが、例えば、略四角形等の略多角形、円形、楕円形等の略円形等の形状が挙げられ、より均質で球状の細胞構造体が得られやすいという観点から、略円形が好ましい。
中でも、上記被覆領域Aが略円形であって、上記培養面露出領域又は上記被覆領域Bが、上記被覆領域Aと同一の中心からなる同心円状の略円形であることが特に好ましい。
上記培養面露出領域又は上記被覆領域Bは、上記被覆領域Aの中央部に設けられており、上記被覆領域Aの重心を含む部分に設けられていることが好ましい。上記被覆領域Aが略円形である場合は、被覆領域Aの中心から0.01〜0.75rの距離(rは、被覆領域Aの半径)の領域であることが好ましい。培養面露出領域又は上記被覆領域Bが、被覆領域Aの中央部に設けられることにより、細胞構造体が形成される過程で培養面の中央部の細胞が接着し続けるため、細胞間の凝集力が強くなって凝集する時に、凝集する方向を中央部へ集中させることができ、均質で球状の、寸法形状がよい細胞構造体を作製することができる。
上記培養面露出領域又は上記被覆領域Bは、上記被覆領域A中に少なくとも1箇所設けられていることが好ましく、均質の、寸法形状がよい細胞構造体が得られやすいという観点から、上記被覆領域A中に1箇所設けられていることがより好ましい。
上記培養面露出領域又は上記被覆領域Bの表面積(平面視した時の表面積)としては、細胞構造体がより動きにくくなることで、より正確な観察ができ、培地交換の際に誤吸引をしにくくなるという観点から、0.001〜30mm2が好ましく、0.01〜20mm2がより好ましい。
なお、培養面露出領域又は上記被覆領域Bの表面積は顕微鏡写真の画像処理など当業者に周知の方法により測定することができる。
上記被覆領域Aの表面積(100%)に対する、上記培養面露出領域又は上記被覆領域Bの表面積(平面視した時の表面積)の割合は、0.1〜50%が好ましく、より好ましくは1〜30%である。上記割合が0.1%以上であると、細胞構造体が動きにくくなり、より正確な観察が可能となり、培地交換の際に誤吸引をしにくくなる。また、上記割合が50%以下であると、より均質で球状の、寸法形状がよい細胞構造体が得られやすい。
−温度応答性ポリマー−
以下、実施形態の細胞培養器の被覆領域Aに用いられる温度応答性ポリマー及び温度応答性ポリマー組成物について詳述する。
本実施形態の細胞培養器に用いられる温度応答性ポリマー及び温度応答性ポリマー組成物としては、(A)2−N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート(DMAEMA)単位と、アニオン性モノマー単位とを含む温度応答性ポリマー、(B)N−イソプロピルアクリルアミド(NIPAM)単位と、カチオン性モノマー単位と、アニオン性モノマー単位とを含む温度応答性ポリマー、(C)2−N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート(DMAEMA)及び/又はその誘導体の重合体と、2−アミノ−2−ヒドロキシメチル−1,3−プロパンジオール(トリス)と、核酸、ヘパリン、ヒアルロン酸、デキストラン硫酸、ポリスチレンスルホン酸、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリリン酸、硫酸化多糖類、カードラン及びポリアルギン酸並びにこれらのアルカリ金属塩からなる群から選択される1種以上のアニオン性物質とを含む温度応答性ポリマー組成物等が挙げられる。中でも、塊状の細胞構造体が得られやすいという観点から、(A)が好ましい。
ここで、上記(A)としては、例えば、(A−1)DMAEMAを水存在下で重合する方法により得られる温度応答性ポリマー、(A−2)主としてDMAEMAを含むポリマーブロック(重合鎖α末端)と、主としてDMAEMAとアニオン性モノマー(重合鎖ω末端)とを含む温度応答性ポリマー等が挙げられる。
本実施形態において、これらは、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
以下、上記(A−1)の温度応答性ポリマー及びその製造方法について記載する。
−−(A−1)の温度応答性ポリマーの製造方法−−
(A−1)の温度応答性ポリマーの製造方法では、まず、2−N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート(DMAEMA)を含む混合物を調製する(調製工程)。ここで、混合物は、重合禁止剤及び水を更に含む。
2−N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート(DMAEMA)としては、市販品を用いることができる。重合禁止剤としては、メチルヒドロキノン(MEHQ)、ヒドロキノン、p−ベンゾキノリン、N,N−ジエチルヒドロキシルアミン、N−nitroso−N−phenylhydroxylamine(Cupferron)、t−ブチルハイドロキノン等が挙げられる。また、市販のDMAEMAに含まれるMEHQ等をそのまま用いてもよい。水としては、超純水等が挙げられる。
重合禁止剤の混合物に対する質量割合は、0.01〜1.5%であることが好ましく、0.1〜0.5%であることが更に好ましい。上記範囲とすれば、ラジカル重合反応の暴走を抑制して、制御できない架橋を低減することができ、製造される温度応答性ポリマーの溶媒に対する溶解性を確保することができる。
水の混合物に対する質量割合は、1.0〜50%であることが好ましく、9.0〜33%であることが更に好ましい。上記範囲とすれば、側鎖の加水分解反応の反応速度と、重合するポリマー鎖の成長反応の反応速度とを、バランスよく調和させることができる。これにより、側鎖が加水分解されたDMAEMAに対する、側鎖が加水分解されていないDMAEMAの割合(共重合割合)が1.0〜20程度の温度応答性ポリマーを得ることができる。
次いで、(A−1)の温度応答性ポリマーの製造方法では、混合物に紫外線を照射する(照射工程)。ここで、紫外線は、不活性雰囲気下において、照射される。DMAEMAは、紫外線の照射により、ラジカル重合して、ポリマーとなる。
この工程では、例えば、透明な密封バイアルに、上記混合物を加え、不活性ガスをバブリングすることによってバイアル内を不活性雰囲気とした後に、バイアルの外部から紫外線照射装置を用いて紫外線を照射する。
紫外線の波長としては、210〜600nmであることが好ましく、360〜380nmであることが更に好ましい。上記範囲とすれば、効率よく重合反応を進行させることができ、所期の共重合割合を有する高分子材料を安定的に得ることができる。また、製造したポリマー材料が着色することを防ぐこともできる。
不活性ガスとしては、窒素、アルゴン、ヘリウム、ネオン等が挙げられる。
反応条件に関して、温度条件としては、15〜50℃であることが好ましく、20〜30℃であることが更に好ましい。上記範囲とすれば、熱による開始反応を抑制し、光照射による開始反応を優先的に進行させることができる。また、加水分解反応の反応速度をポリマー鎖の成長反応の反応速度に対してバランスのよいものにすることができる。
反応時間としては、7〜24時間であることが好ましく、17〜21時間であることが更に好ましい。上記範囲とすれば、(A−1)の温度応答性ポリマーを高収率で得ることができ、また、光分解反応や不要な架橋反応を抑制しながらラジカル重合を行うことができる。
なお、調製工程において混合物が調製され終えてから、照射工程において紫外線の照射が開始されるまでの時間は、10分〜1時間であることが好ましい。
混合物を加えたバイアルの内部の気体を置換して、バイアル内を不活性雰囲気とする際には、10分程度の時間を要する。そのため、上記時間を10分未満とすると、ラジカル重合に必要となる不活性雰囲気が得られない虞がある。また、混合物中では、DMAEMAの加水分解反応が、紫外線の照射が開始される前に開始される。そのため、上記時間を1時間超とすると、ラジカル重合反応に不活性なメタクリル酸が混合物中に多数生じてしまう。
(A−1)の温度応答性ポリマーの製造方法では、混合物に水が含まれるため、DMAEMAのラジカル重合反応と、ポリ2−N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート(PDMAEMA)の側鎖のエステル結合の加水分解反応とを、拮抗させることができる。
この拮抗により、得られる生成物は、式(I)で表される繰り返し単位(A)
Figure 2017079714
、及び式(II)で表される繰り返し単位(B)
Figure 2017079714
を含むポリマーとなる。
そのため、ポリマーが有するカチオン性官能基、すなわち、ジメチルアミノ基と、ポリマーが有するアニオン性官能基、すなわち、側鎖のエステル結合が加水分解されてできたカルボキシル基の両方を、バランスよく備えることができる。そして、(A−1)の温度応答性ポリマーの製造方法によれば、カチオン性官能基及びアニオン性官能基を有する、ポリ(2−N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート)由来のポリマーを、少ない工程で簡便に製造することができる。
なお、(A−1)の温度応答性ポリマーの製造方法と同一の製造方法ではなくとも、DMAEMA、重合禁止剤、及び水が、紫外線照射時に反応系中に共存していれば、本実施形態の温度応答性ポリマーの製造方法の上記効果と同様の効果を得ることができる。
例えば、DMAEMA及び重合禁止剤を含む混合物と、水とを別々に準備し、次いで、混合物と水とに不活性ガスをバブリングし、その後、混合物と水とを不活性雰囲気下で混合すると同時に紫外線を照射するという、温度応答性ポリマーの製造方法も、(A−1)の温度応答性ポリマーに含めることができる。
−−(A−1)の温度応答性ポリマー−−
(A−1)の温度応答性ポリマーは、上記(A−1)の製造方法により製造される。
上記温度応答性ポリマー(A−1)は、曇点を細胞培養に適当な温度付近に維持しつつ、イオンバランスを確保する観点から、上記繰り返し単位(A)のホモポリマー領域と、上記繰り返し単位(A)と上記繰り返し単位(B)とのコポリマー領域とを有するポリマーであることが好ましい。
上記繰り返し単位(A)のホモポリマー領域と、上記繰り返し単位(A)と上記繰り返し単位(B)とのコポリマー領域とを有するポリマーの製造方法は、例えば、DMAEMAを光照射してポリマー化し、ポリマーの数平均分子量が一定値を超えた時点(例えば、ポリマーの数平均分子量が5,000Da(より好ましくは20,000Da)を超えた時点)で、アニオン性モノマーである上記繰り返し単位(B)を混合して更に光照射する方法が挙げられる。
(A−1)の温度応答性ポリマーとしては、数平均分子量(Mn)が、10〜500kDaである分子が好ましい。また、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)は、1.1〜10.0である分子が好ましい。
(A−1)の温度応答性ポリマーの分子量は、紫外線の照射時間及び照射強度の条件により、適宜調整することができる。
(A−1)の温度応答性ポリマーによれば、曇点を、例えば室温(25℃)以下に、低下させることができる。
上記(A−1)の温度応答性ポリマーでは、曇点以上の温度で形成された温度応答性ポリマーの不溶化物が、室温(約25℃)条件下で再溶解するまでの時間が顕著に遅延する。これは、得られた(A−1)の温度応答性ポリマーは、分子内にカチオン性官能基とアニオン性官能基とが存在するため、高い自己凝集性を有するためであると推定される。
また、この(A−1)の温度応答性ポリマーを用いて、培養面に被覆領域を形成することができる。
更に、(A−1)の温度応答性ポリマーによれば、後述するように、細胞を適切な培養条件で培養することにより、塊状(ペレット状)の構造を有する細胞構造体を形成させることができる。
(A−1)の温度応答性ポリマーが有する、カチオン性官能基(2−N,N−ジメチルアミノ基)の官能基数と、アニオン性官能基(カルボキシル基)の官能基数との比(C/A比)は、0.5〜32であることが好ましく、4〜16であることが更に好ましい。
C/A比を上記範囲とすれば、曇点を低減させるという上記効果が得られやすい。上記C/A比を有する温度応答性ポリマーでは、上記温度応答性ポリマー中でカチオン性官能基とアニオン性官能基とが、イオン結合的に分子間及び/又は分子内の凝集に作用して、温度応答性ポリマーの凝集力が強くなった結果であると推測される。
また、C/A比を上記範囲とすれば、上記温度応答性ポリマー中の正電荷と負電荷とのバランスを特に好適にして、正電荷による細胞傷害性を抑制することができ、また、上記温度応答性ポリマーの親水性と疎水性とのバランスを特に好適にして、細胞の遊走や配向を生じやすくすることができるものと推定される。
以下、上記(A−2)の温度応答性ポリマー及びその製造方法について記載する。
−−(A−2)の温度応答性ポリマーの製造方法−−
(A−2)の温度応答性ポリマーの製造方法では、まず、2−N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート(DMAEMA)を含む第一混合物に紫外線を照射する(第一重合工程)。
ここで、第一混合物は、DMAEMA以外に、任意選択的に、例えば、他のモノマー、溶媒等を含んでよい。
また、紫外線は、不活性雰囲気下において、照射されてよい。
DMAEMAとしては、市販品としてよい。
第一混合物に含まれ得る他のモノマーとしては、例えば、N,N−ジメチルアクリルアミド、ポリエチレングリコール側鎖を有するアクリル酸やメタクリル酸のエステル、N−イソプロピルアクリルアミド、3−N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、2−N,N−ジメチルアミノエチルメタクリルアミド等が挙げられ、特に、イオンバランスの調整を安定的に行うことを可能にする観点から、N,N−ジメチルアクリルアミド、ポリエチレングリコール側鎖を有するアクリル酸やメタクリル酸のエステル、N−イソプロピルアクリルアミドが好ましい。これらは、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。ここで、他のモノマーの使用量のDMAEMAの使用量に対する割合(モル数)は、0.001〜1とすることが好ましく、0.01〜0.5とすることが更に好ましい。
溶媒としては、例えば、トルエン、ベンゼン、クロロホルム、メタノール、エタノール等が挙げられ、特に、DMAEMAのエステル結合に対して不活性であるため、トルエン、ベンゼンが好ましい。これらは、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
この工程では、例えば、透明な密封バイアルに、上記第一混合物を加え、不活性ガスをバブリングすることによってバイアル内を不活性雰囲気とした後に、バイアルの外部から紫外線照射装置を用いて紫外線を照射する。
紫外線の波長としては、210〜600nmであることが好ましく、360〜380nmであることが更に好ましい。上記範囲とすれば、効率よく重合反応を進行させることができ、所期の共重合割合を有する高分子材料を安定的に得ることができる。また、製造したポリマー材料が着色することを防ぐこともできる。
紫外線の照射強度としては、0.01〜50mW/cm2であることが好ましく、0.1〜5mW/cm2であることが更に好ましい。上記範囲とすれば、無用な化学結合の切断等による分解を抑制しつつ、安定的に、適切な速度(時間)で重合反応を進行させることができる。
不活性ガスとしては、窒素、アルゴン、ヘリウム、ネオン等が挙げられる。
温度条件としては、10〜40℃あることが好ましく、20〜30℃あることが更に好ましい。上記範囲とすれば、通常の実験室の室温において反応を行うことができ、また、光とは別の手段(加熱等)により反応を抑制することが可能となる。
反応時間としては、10分〜48時間であることが好ましく、60分〜24時間であることが更に好ましい。
この工程において、DMAEMAは、紫外線の照射により、ラジカル重合して、ポリマー(ポリ(2−N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート)(PDMAEMA))となり、2−N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレートを含むホモポリマーブロックが形成される。他のモノマーも用いた場合には、DMAEMAと他のモノマーとを含むポリマーブロックが形成される。
次いで、(A−2)の温度応答性ポリマーの製造方法では、第一重合工程における重合物(具体的には、ポリマー化した2−N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート)の数平均分子量が所定値以上となった時点で、第一混合物にアニオン性モノマーを添加して第二混合物を調製する(添加工程)。
ここで、第二混合物は、第一重合工程後の第一混合物、及びアニオン性モノマー以外に、例えば、他のモノマー、前述の第一混合物に含まれ得る溶媒(トルエン、ベンゼン、メタノール等)等を含んでよい。
また、アニオン性モノマーは、不活性雰囲気下において、添加されてよい。
アニオン性モノマーとしては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、側鎖にカルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基を有するビニル誘導体等が挙げられ、特に、化学的安定性の観点から、アクリル酸、メタクリル酸が好ましい。
これらは、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
第二混合物に含まれ得る他のモノマーとしては、例えば、N,N−ジメチルアクリルアミド、ポリエチレングリコール側鎖を有するアクリル酸やメタクリル酸のエステル、N−イソプロピルアクリルアミド、3−N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、2−N,N−ジメチルアミノエチルメタクリルアミド等が挙げられ、特に、電気的に中性であり、且つ親水性である、N,N−ジメチルアクリルアミドが好ましい。これらは、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。ここで、他のモノマーの使用量のDMAEMAの使用量に対する割合(モル)は、0.01〜10とすることが好ましく、0.1〜5とすることが更に好ましい。
この工程では、例えば、バイアルに不活性ガスをフローさせることによってバイアル内を不活性雰囲気に保ちながら、上記第二混合物を添加する。
数平均分子量の所定値は、曇点低減の効果を十分に得る観点から、好適には5,000であり、更に好適には20,000であり、特に好適には100,000である。
なお、第一重合工程後の第一混合物中におけるポリマー化したPDMAEMAの数平均分子量は、所定の時点で重合系から少量の反応混合物を採取して、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)や光散乱法(SLS)等の当業者に周知の方法により、測定することができる。
この工程において、重合中のDMAEMAを含むホモポリマーに加えて、アニオン性モノマーも重合系に含められることとなり、バイアル内の重合系が、DMAEMAの単独重合系から、DMAEMAとアニオン性モノマーとの共重合系に、変わることとなる。
そして、(A−2)の温度応答性ポリマーの製造方法では、第二混合物に紫外線を照射する(第二重合工程)。
ここで、紫外線は、不活性雰囲気下において、照射されてよい。
この工程では、例えば、第二混合物を添加した後のバイアルの外部から紫外線照射装置を用いて紫外線を照射する。
第二重合工程における、紫外線の波長、紫外線の照射強度、用いる不活性ガス、反応温度、反応時間等の諸条件は、第一重合工程における条件と同様としてよい。
この工程において、DMAEMAとアニオン性モノマーとが、紫外線の照射により、ラジカル重合して、第一重合工程において形成したDMAEMAを含むホモポリマーブロックの重合鎖α末端に連続する形態で、DMAEMAとアニオン性モノマーとを含むコポリマーブロックが形成される。他のモノマーも用いた場合には、DMAEMAとアニオン性モノマーと他のモノマーとを含むコポリマーブロックが形成される。
上記の通り、DMAEMAを含むホモポリマーブロックと、DMAEMAとアニオン性モノマーとのコポリマーブロックとを含む温度応答性ポリマーが得られる。
なお、(A−2)の製造方法では、当業者に理解される通り、種々の分子量及び分子構造を有するポリマーの混合物が生成するところ、DMAEMAを含むホモポリマーブロックと、DMAEMAとアニオン性モノマーとのコポリマーブロックとを含む温度応答性ポリマーを主成分として得る観点から、第一重合工程、添加工程、及び第二重合工程に亘って、同一の条件下で重合を行うことが好ましい。
−−(A−2)温度応答性ポリマー−−
(A−2)の温度応答性ポリマーは、上記(A−2)の製造方法により製造される。
(A−2)の温度応答性ポリマーは、主として2−N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレートを含み、任意選択的にジメチルアクリルアミド、ポリエチレングリコール側鎖を有するアクリル酸やメタクリル酸等の親水性モノマー等の他のモノマー単位を含むポリマーブロック(重合鎖α末端)と、主として2−N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレートとアニオン性モノマー(重合鎖ω末端)とを含み、任意選択的に他のモノマー単位を含むコポリマーブロックとを含む。
好適には、(A−2)の温度応答性ポリマーは、DMAEMAのホモポリマーブロックと、DMAEMAとアニオン性モノマーとのコポリマーブロックとを含み、更に好適には、これらブロックからなる。
ここで、(A−2)の温度応答性ポリマーとしては、重合鎖α末端のポリマーブロック(例えば、DMAEMAのホモポリマーブロック)の数平均分子量が5000Da以上であることが好ましく、20000Da以上であることが更に好ましい。
(A−2)の温度応答性ポリマーとしては、数平均分子量(Mn)が、10〜500kDaである分子が好ましい。また、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)は、1.1〜10.0である分子が好ましい。
温度応答性ポリマーの分子量は、紫外線の照射時間及び照射強度の条件により、適宜調整することができる。
(A−2)の温度応答性ポリマーによれば、曇点を、例えば室温(25℃)以下に、低下させることができる。
上記(A−2)の温度応答性ポリマーでは、曇点以上の温度で形成された温度応答性ポリマーの不溶化物が、室温(約25℃)条件下で再溶解するまでの時間が顕著に遅延する。これは、得られた温度応答性ポリマーは、分子内にカチオン性官能基とアニオン性官能基とが存在するため、高い自己凝集性を有するためであると推定される。
特に、(A−2)の温度応答性ポリマーは、重合鎖α末端に、高分子量(例えば、5000Da以上)を有するDMAEMAのホモポリマーブロックを備えるため、DMAEMAの側鎖の温度依存的なグロビュール転移が生じやすく、曇点を効果的に低減することが可能となると考えられる。
また、この(A−2)の温度応答性ポリマーを用いて、培養面に被覆領域を形成することができる。
更に、(A−2)の温度応答性ポリマーによれば、後述するように、細胞を適切な培養条件で培養することにより、塊状(ペレット状)の構造を有する細胞構造体を形成させることができる。
(A−2)の温度応答性ポリマーが有する、カチオン性官能基(2−N,N−ジメチルアミノ基)の官能基数と、アニオン性官能基(カルボキシル基)の官能基数との比(C/A比)は、0.5〜32であることが好ましく、4〜16であることが更に好ましい。
C/A比を上記範囲とすれば、曇点を低減させるという上記効果が得られやすい。上記C/A比を有する温度応答性ポリマーでは、上記温度応答性ポリマー中でカチオン性官能基とアニオン性官能基とが、イオン結合的に分子間及び/又は分子内の凝集に作用して、温度応答性ポリマーの凝集力が強くなった結果であると推測される。
また、C/A比を上記範囲とすれば、上記温度応答性ポリマー中の正電荷と負電荷とのバランスを特に好適にして、正電荷による細胞傷害性を抑制することができ、また、上記温度応答性ポリマーの親水性と疎水性とのバランスを特に好適にして、細胞の遊走や配向を生じやすくすることができるものと推定される。
以下、上記(B)の温度応答性ポリマー及びその製造方法について記載する。
−−(B)の温度応答性ポリマーの製造方法−−
(B)の温度応答性ポリマーの製造方法は、N−イソプロピルアクリルアミド(NIPAM)(以下、「モノマー(A)」ともいう。)と、カチオン性モノマー(以下、「モノマー(B)」ともいう。)と、アニオン性モノマー(以下、「モノマー(C)」ともいう。)とを重合させるものである。任意選択的に、上記3種類のモノマーにこれら以外の他のモノマーを加えて重合させてよい。
N−イソプロピルアクリルアミド(NIPAM)としては、市販品としてよい。
カチオン性モノマーとしては、カチオン性官能基を有するモノマーが挙げられ、カチオン性官能基としては、第1級〜第4級アミノ基等のアミノ基、グアニジン基等が挙げられ、特に、化学的安定性、低細胞傷害性、滅菌安定性、強陽電荷性の観点から、第3級アミノ基が好ましい。
より具体的には、カチオン性モノマーとしては、生理活性物質を担持したりアルカリ性条件下においたりしても安定性が高いものが好ましく、例えば、3−(N,N−ジメチルアミノプロピル)−メタ(ア)クリルアミド、3−(N,N−ジメチルアミノプロピル)−メタ(ア)クリレート、アミノスチレン、2−(N,N−ジメチルアミノエチル)−メタ(ア)クリルアミド、2−(N,N−ジメチルアミノエチル)−メタ(ア)クリレート等が挙げられる。
これらの中で、特に、3−(N,N−ジメチルアミノプロピル)アクリルアミドは、陽電荷強度が高く、アニオン性物質の担持を容易にするため、好ましい。また、アミノスチレンは、陽電荷強度が高く、アニオン性物質の担持を容易にすると共に、分子内の芳香環が水溶液中において他の物質の疎水性構造と相互作用することから、担持可能なアニオン性物質のバリエーションを広げるため、好ましい。更に、2−(N,N−ジメチルアミノエチル)−メタクリルアミドは、中性域のpHで微弱な陽電荷を持ち、かつ、水への溶解性が温度に影響されないことから一度担持したアニオン性物質の放出を容易するこるため、好ましい。
これらは、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
アニオン性モノマーとしては、アニオン性官能基を有するモノマーが挙げられ、アニオン性官能基としては、カルボン酸基、スルホン酸基、硫酸基、リン酸基、ボロン酸基等が挙げられ、特に、化学的安定性、細胞親和性、高い精製度の観点から、カルボン酸基、スルホン酸基、リン酸基が好ましい。
より具体的には、アクリル酸、メタクリル酸、ビニル安息香酸、等が挙げられ、特に、化学的安定性、細胞親和性の観点から、メタクリル酸、ビニル安息香酸が好ましい。
これらは、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
他のモノマーとしては、例えば、ジメチルアクリルアミド、ポリエチレングリコール側鎖を有するアクリル酸やメタクリル酸等の中性の親水性モノマー等が挙げられる。
これらは、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
他のモノマーは、電荷以外の親水性・疎水性のバランスの調整に使用可能であり、バリエーションを広げることが可能となる。
ここで、(B)の温度応答性ポリマーの製造方法におけるNIPAMの使用量、カチオン性モノマーの使用量、他のモノマーの使用量それぞれの、モノマー(A)〜(C)の合計の使用量に対する割合(モル)は、モノマーの重合反応における反応性を考慮して、所望のモノマー成分の割合を得られるよう、当業者が適宜調整することができる。
ここで、重合方法としては、ラジカル重合、イオン重合等が挙げられる。
ラジカル重合としては、リビングラジカル重合が好ましく、リビングラジカル重合としては、可逆的付加開裂連鎖移動(RAFT)重合、原子移動ラジカル重合(ATRP)、イニファーター重合等が挙げられ、イニファーター重合が好ましい。
イオン重合としては、リビングアニオン重合が好ましい。
(B)の温度応答性ポリマーの製造方法の一例は、ラジカル重合を用いる方法である。
この製造方法の一例では、まず、N−イソプロピルアクリルアミド(NIPAM)を含む第一混合物に紫外線を照射する(第一重合工程)。
ここで、第一混合物は、DMAEMA以外に、任意選択的に、例えば、他のモノマー、溶媒、連鎖移動剤、安定剤、界面活性剤等を含んでよい。
また、紫外線は、不活性雰囲気下において、照射されてよい。
この工程では、例えば、透明な密封バイアルに、上記第一混合物を加え、不活性ガスをバブリングすることによってバイアル内を不活性雰囲気とした後に、バイアルの外部から紫外線照射装置を用いて紫外線を照射する。
溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエン、クロロホルム、メタノール、水、等が挙げられ、特に、溶解力の点、及び重合に不活性である点から、ベンゼン、トルエンが好ましい。これらは、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
この工程では、例えば、透明な密封バイアルに、上記第一混合物を加え、不活性ガスをバブリングすることによってバイアル内を不活性雰囲気とした後に、バイアルの外部から紫外線照射装置を用いて紫外線を照射する。
紫外線の波長としては、210〜600nmであることが好ましく、360〜380nmであることが更に好ましい。上記範囲とすれば、効率よく重合反応を進行させることができ、所期の共重合割合を有する高分子材料を安定的に得ることができる。また、製造したポリマー材料が着色することを防ぐこともできる。
紫外線の照射強度としては、0.01〜50mW/cm2であることが好ましく、0.1〜5mW/cm2であることが更に好ましい。
不活性ガスとしては、窒素、アルゴン、ヘリウム、ネオン等が挙げられる。
温度条件としては、10〜40℃あることが好ましく、20〜30℃あることが更に好ましい。上記範囲とすれば、通常の実験室の室温において重合反応を行うことを可能とすることができ、また、光照射という手段とは別の加熱という手段での反応制御を可能とすることもできる。
反応時間としては、反応時間としては、10分〜48時間であることが好ましく、60分〜24時間であることが更に好ましい。
この工程において、NIPAMは、紫外線の照射により、ラジカル重合して、ポリマー(ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)(PNIPAM))となり、N−イソプロピルアクリルアミドを含むホモポリマーブロックが形成される。他のモノマーも用いた場合には、NIPAMと他のモノマーとを含むポリマーブロックが形成される。
次いで、(B)の温度応答性ポリマーの製造方法では、第一重合工程後の第一混合物にカチオン性モノマーとアニオン性モノマーとを添加して第二混合物を調製する(添加工程)。
ここで、第二混合物は、第一重合工程後の第一混合物、カチオン性モノマー、及びアニオン性モノマー以外に、例えば、他のモノマー、溶媒、連鎖移動剤、安定剤、界面活性剤等を含んでよい。
また、カチオン性モノマーとアニオン性モノマーとは、不活性雰囲気下において、添加されてよい。
この工程では、例えば、バイアルに不活性ガスをフローさせることによってバイアル内を不活性雰囲気に保ちながら、上記カチオン性モノマーとアニオン性モノマーとを添加する。
この工程において、重合中のNIPAMを含むホモポリマーに加えて、カチオン性モノマー及びアニオン性モノマーも重合系に含められることとなり、バイアル内の重合系が、NIPAMの単独重合系から、NIPAMとカチオン性モノマーとアニオン性モノマーとの共重合系に、変わることとなる。
そして、(B)の温度応答性ポリマーの製造方法では、第二混合物に紫外線を照射する(第二重合工程)。
ここで、紫外線は、不活性雰囲気下において、照射されてよい。
この工程では、例えば、カチオン性モノマーとアニオン性モノマーとを添加した後のバイアルの外部から紫外線照射装置を用いて紫外線を照射する。
紫外線の波長としては、210〜600nmであることが好ましく、360〜380nmであることが更に好ましい。上記範囲とすれば、効率よく重合反応を進行させることができ、所期の共重合割合を有する高分子材料を安定的に得ることができる。また、製造したポリマー材料が着色することを防ぐこともできる。
紫外線の照射強度としては、0.01〜50mW/cm2であることが好ましく、0.1〜5mW/cm2であることが更に好ましい。
不活性ガスとしては、窒素、アルゴン、ヘリウム、ネオン等が挙げられる。
温度条件としては、10〜40℃あることが好ましく、20〜30℃あることが更に好ましい。上記範囲とすれば、通常の実験室の室温において重合反応を行うことを可能とすることができ、また、光照射という手段とは別の加熱という手段での反応制御を可能とすることもできる。
反応時間としては、反応時間としては、10分〜48時間であることが好ましく、60分〜24時間であることが更に好ましい。
この工程において、NIPAMとカチオン性モノマーとアニオン性モノマーとが、紫外線の照射により、ラジカル重合して、第一重合工程において形成したNIPAMを含むホモポリマーブロックの重合鎖α末端に連続する形態で、NIPAMとカチオン性モノマーとアニオン性モノマーとを含むコポリマーブロックが形成される。他のモノマーも用いた場合には、NIPAMと他のモノマーとを含むポリマーブロック、及び/又は、NIPAMとカチオン性モノマーとアニオン性モノマーと他のモノマーとを含むコポリマーブロックが形成される。
上記の通り、NIPAMを含むホモポリマーブロックと、NIPAMとカチオン性モノマーとアニオン性モノマーとのコポリマーブロックとを含む温度応答性ポリマーが得られる。
なお、この一例の製造方法では、効率的な反応を実現する観点から、第一重合工程、添加工程、及び第二重合工程に亘って紫外線を照射することが好ましい。
(B)の温度応答性ポリマーの製造方法の別の例は、ラジカル重合を用いる方法であり、N−イソプロピルアクリルアミド(NIPAM)と、カチオン性モノマーと、アニオン性モノマーと、任意選択的に他のモノマーを含む混合物に紫外線を照射する。
ここで、上記混合物は、例えば、溶媒、連鎖移動剤、安定剤、界面活性剤等を含んでよい。
また、紫外線は、不活性雰囲気下において、照射されてよい。
他の条件については、前述の一例の製造方法と同様としてよい。
更には、イニファーター重合を用いる場合、イニファーターとして、ベンジル−(N,N−ジエチル)ジチオカルバメートを、溶媒として、トルエン等を用いてよく、近紫外線の照射によりリビング重合を行ってよい。ここで、1番目のモノマーによる重合後、単離操作を経て、2番目のモノマーによる重合を行うことによって、ブロック共重合体を得ることができる。
更には、イオン重合を用いる場合、触媒として、NaOH粉末を、溶媒として、精製に用いられる再沈殿用溶媒と共に非プロトン系溶媒を用いてよい。1番目のモノマーによる重合後、再沈殿操作(この操作後もω末端にイオン種が残る)を経て、2番目のモノマーによる重合を行うことによって、ブロック共重合体を得ることができる。
−−(B)の温度応答性ポリマー−−
(B)の温度応答性ポリマーは、上記(B)の製造方法により製造される。
(B)の温度応答性ポリマーは、N−イソプロピルアクリルアミド(NIPAM)単位と、カチオン性モノマー単位と、アニオン性モノマー単位とを含み、任意選択的に、他のモノマー単位を含む。本ポリマーは、前述の一例、別の例の製造方法により製造することができる。
好適には、(B)の温度応答性ポリマーは、主としてN−イソプロピルアクリルアミド(NIPAM)単位を含み、任意選択的に他のモノマー単位を含むポリマーブロック(重合鎖α末端)と、主としてカチオン性モノマー単位と、アニオン性モノマー単位とを含み、任意選択的に他のモノマー単位を含むコポリマーブロックとを含む。更に好適には、(B)の温度応答性ポリマーは、NIPAMのホモポリマーブロックと、NIPAMとカチオン性モノマーとアニオン性モノマーとのコポリマーブロックとを含み、特に好適には、これらブロックからなる。本ポリマーは、前述の一例の製造方法により製造することができる。
例えば、特許文献1に記載の温度応答性ポリマーでは、ポリマーに温度応答性を与えるDMAEMAが、同時に、(アニオン性モノマーと共に)細胞構造体の形成に必要となるカチオン性モノマーであり、また、温度応答性に関わるDMAEMAはポリマーブロックとして重合鎖α末端に含まれている。
かかる温度応答性ポリマーでは、重合鎖α末端に必ずカチオン性モノマーが存在することから、重合鎖中におけるカチオン性サイトの位置の調整の自由度が高くはなく、また、カチオン性モノマーが主としてDMAEMAに限られることから、カチオン性サイトの陽電荷強度の調整や、温度応答性ポリマー水溶液のpHの調整も必ずしも容易とは言えなかった。
例えば、温度応答性ポリマーを薬物送達(DDS)に用いた場合、担持可能な薬剤の種類や量が限られる可能性があった。DDSの手法としては、例えば、細胞培養器に薬剤を担持させた温度応答性ポリマーを塗布して、塗布後の細胞培養器で細胞や組織を培養することによって、被覆物から細胞・組織に対して薬剤を徐放するといった手法等が挙げられる。ここで、上記特許文献1の温度応答性ポリマーでは、陽電荷強度が小さいDMAEMAを含むため、アニオン性物質の薬剤の担持は必ずしも容易とは言えず、担持可能な薬剤の種類や量が限られる可能性があった。
一方、(B)の温度応答性ポリマーでは、ポリマーに温度応答性を与えるNIPAMは中性のモノマーであり、(アニオン性モノマーと共に)細胞構造体の形成に必要となるカチオン性モノマーはNIPAMとは異なるモノマーである。
(B)の温度応答性ポリマーでは、重合鎖α末端に必ずしもカチオン性モノマーが存在する必要はなく、重合鎖中におけるカチオン性サイトの位置を自由に調整することが可能であり、また、広範なカチオン性モノマーを用いることができるため、カチオン性サイトの陽電荷強度や温度応答性ポリマー水溶液のpHを容易に調整することが可能である。
(B)の温度応答性ポリマーによれば、例えば、温度応答性ポリマーを薬物送達(DDS)に用いた場合、担持可能な薬剤の種類を拡大しつつ、その量を増加させることが可能となり、ひいては、温度応答性ポリマーの応用範囲を拡大することができる。
(B)の温度応答性ポリマーでは、NIPAM単位の、NIPAM単位、カチオン性モノマー単位、アニオン性モノマー単位の合計に対する割合(モル)が、0.6〜0.9であることが好ましく、0.7〜0.9であることが更に好ましく、0.9であることが特に好ましい。
他のモノマーも用いた場合には、他のモノマー単位の、NIPAM単位、カチオン性モノマー単位、アニオン性モノマー単位の合計に対する割合(モル)が、0.001〜0.2であることが好ましく、0.01〜0.1であることが更に好ましい。
(B)の温度応答性ポリマーとしては、重合鎖α末端のポリマーブロック(例えば、NIPAMのホモポリマーブロック)の数平均分子量が5000Da以上であることが好ましく、20000Da以上であることが更に好ましい。
(B)の温度応答性ポリマーとしては、数平均分子量(Mn)が、10〜500kDaである分子が好ましい。また、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)は、1.1〜10.0である分子が好ましい。
温度応答性ポリマーの分子量は、重合条件により、適宜調整することができる。
(B)の温度応答性ポリマーによれば、曇点を、例えば室温(25℃)以下に、低下させることができる。
上記温度応答性ポリマーでは、曇点以上の温度で形成された温度応答性ポリマーの不溶化物が、室温(約25℃)条件下で再溶解するまでの時間が顕著に遅延する。これは、得られた温度応答性ポリマーは、分子内にカチオン性官能基とアニオン性官能基とが存在するため、高い自己凝集性を有するためであると推定される。
特に、前述の(B)の温度応答性ポリマーは、重合鎖α末端に、高分子量を有するNIPAMのホモポリマーブロックを備えるため、NIPAMの側鎖の温度依存的なグロビュール転移が生じやすく、曇点を効果的に低減することが可能となると考えられる。
また、この(B)の温度応答性ポリマーを用いて、培養面に被覆領域を形成することができる。
更に、(B)の温度応答性ポリマーによれば、後述するように、細胞を適切な培養条件で培養することにより、塊状(ペレット状)の構造を有する細胞構造体を形成させることができる。
(B)の温度応答性ポリマーが有する、カチオン性官能基の官能基数と、アニオン性官能基の官能基数との比(C/A比)は、0.5〜32であることが好ましく、4〜16であることが更に好ましい。
C/A比を上記範囲とすれば、曇点を低減させるという上記効果が得られやすい。上記C/A比を有する温度応答性ポリマーでは、上記温度応答性ポリマー中でカチオン性官能基とアニオン性官能基とが、イオン結合的に分子間及び/又は分子内の凝集に作用して、温度応答性ポリマーの凝集力が強くなった結果であると推測される。
また、C/A比を上記範囲とすれば、上記温度応答性ポリマー中の正電荷と負電荷とのバランスを特に好適にして、正電荷による細胞傷害性を抑制することができ、また、上記温度応答性ポリマーの親水性と疎水性とのバランスを特に好適にして、細胞の遊走や配向を生じやすくすることができるものと推定される。
以下、上記(C)の温度応答性ポリマー及びその製造方法について記載する。
−−(C)の温度応答性ポリマー組成物の製造方法−−
(C)の温度応答性ポリマー組成物の製造方法は、まず、混合型温度応答性ポリマー組成物を調製する(混合物調製工程)。具体的には、(1)2−N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート(DMAEMA)及び/又はその誘導体の重合体と、(2)2−アミノ−2−ヒドロキシメチル−1,3−プロパンジオール(トリス)と、(3)核酸、ヘパリン、ヒアルロン酸、デキストラン硫酸、ポリスチレンスルホン酸、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリリン酸、硫酸化多糖類、カードラン及びポリアルギン酸並びにこれらのアルカリ金属塩からなる群から選択される一種以上のアニオン性物質とを混合する((2)トリスは任意選択的に含む。)。
(1)のDMAEMA及び/又はその誘導体の重合体は、温度応答性ポリマーであり、その曇点は32℃である。(2)のトリスは、曇点の若干の低下、及び/又は曇点よりも高温で形成されたポリマーが、曇点以下に冷却された際に再溶解する速度を低減させる役割を果たし、また、疎水化されたポリマー層中でも親水性を維持しながら、アミノ基に由来する陽電荷により細胞に刺激を与える役割を果たすと推定される。(3)のアニオン性物質は、培養する細胞の遊走や配向を可能にする役割や細胞傷害性を抑制する役割を果たすと推定される。
この混合型温度応答性ポリマー組成物によれば、曇点を室温(25℃)以下に低減させることができる。
上記組成物では、DMAEMA及び/又はその誘導体の重合体の側鎖とトリスとが、互いに相互作用(例えば、架橋する作用)して、上記重合体が凝集しやすくなっていると推定される。
ここで、上記(1)について、DMAEMA及び/又はその誘導体の重合体としては、数平均分子量(Mn)が、10〜500kDaである分子が好ましい。また、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)は、1.1〜6.0である分子が好ましい。
また、(1)のDMAEMAの誘導体としては、例えば、メタクリレートのメチル基の水素原子をハロゲン置換した誘導体、メタクリレートのメチル基を低級アルキル基で置換した誘導体、ジメチルアミノ基のメチル基の水素原子をハロゲン置換した誘導体、ジメチルアミノ基のメチル基を低級アルキル基で置換した誘導体が挙げられる。
上記(2)について、トリスは、純度99.9%以上の純物質であるか、又は、トリス水溶液を、アルカリ性物質の添加などにより、使用時に中性又は塩基性とすることが好ましい。トリスは、塩酸塩の状態で市販されているところ、これを用いた場合には、トリス水溶液のpHが下がるため、組成物の曇点が70℃程度にまで上昇してしまう。そのため、トリス塩酸塩は好ましくない。
上記(3)に列挙したアニオン性物質のうち、核酸は、DNA、RNA、その他1本鎖、2本鎖、オリゴ体、ヘアピンなどの人工核酸などが挙げられる。
また、上記(3)に列挙したアニオン性物質は、ある程度の大きさ、例えば1〜5,000kDaの分子量(M)を有していることが好ましい。
分子量を上記範囲とすれば、アニオン性物質は、カチオン性物質とイオン結合して、カチオン性物質を、長時間捕捉する役割を果たすことができ、安定したイオン複合体微粒子を形成させることがでる。また、一般的にカチオン性物質が有する、細胞の細胞膜表面に対する静電的相互作用に起因する細胞傷害性を緩和することもできる。
(3)に列挙したアニオン性物質の他にも、例えば、カチオン性ポリマーであるポリ(4−アミノスチレン)の4−位のアミノ基に対してシュウ酸などのジカルボン酸を脱水縮合させることによって、アニオン性官能基を導入した、実質的にアニオン性物質として機能するポリマー誘導体も、用いることができる。
なお、上記(3)に列挙したアニオン性物質は、二種以上含まれていてもよい。
ここで、(1)2−N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート(DMAEMA)及び/又はその誘導体の重合体に対する、(2)2−アミノ−2−ヒドロキシメチル−1,3−プロパンジオール(トリス)の割合((2)/(1))が、1.0以下とした混合型温度応答性ポリマー組成物を用いることが好ましい。
なお、割合((2)/(1))は、質量割合であるものとする。
上記割合の混合型温度応答性ポリマー組成物を用いた場合、後述の培養工程で、細胞構造体を形成しやすくすることができる。
この組成物によれば、上記組成物の親水性と疎水性とのバランスを更に好適にすることができる。そして、この好適なバランスが、培養面への細胞の接着性を好適に調整し、細胞の遊走や配向を活性化していると推定される。
また、上記割合((2)/(1))は、0.1以上あることが好ましい。
上記割合を0.1以上とすることにより、曇点を低減させるという上記効果が得られやすい。また、細胞構造体を形成しやすくするという上記効果が得られやすい。
上記と同様の理由により、上記割合((2)/(1))は、0.1〜0.5であることが更に好ましい。
ここで、混合型温度応答性ポリマー組成物中のC/A比(正電荷/負電荷)が、0.5〜16であることが好ましい。
なお、本願明細書では、C/A比とは、組成物中に含まれる物質が有する正電荷の、組成物中に含まれる物質が有する負電荷に対する割合を指す。具体的には、C/A比は、(1)DMAEMA及び/又はその誘導体の重合体のモル数をN1、(3)アニオン性物質のモル数をN3としたときに、{(重合体1分子当たりの正電荷)×N1}/{(アニオン性物質1分子当たりの負電荷)×N3}という式で表される。
またなお、本願明細書では、アニオン性物質をDNAとした場合、アニオン性物質1分子当たりの負電荷数は、DNAの塩基対の数(bp数)×2で計算し、分子量(Da)は、bp数×660(ATペア及びCGペアの平均分子量)で計算するものとする。
C/A比を0.5〜16とすることにより、細胞構造体を形成させやすくする。
上記組成物中の正電荷と負電荷とのバランスを好適にして、正電荷による細胞傷害性を抑制することができると推定される。また、上記組成物の親水性と疎水性とのバランスを更に好適にして、細胞の遊走や配向を生じやすくすることができると推定される。
上記と同様の理由により、上記C/A比は、2〜10とすることが更に好ましく、特にC/A比は8付近であることが最も好ましい。
上記温度応答性ポリマー又は温度応答性ポリマー組成物は、加熱乾燥、凍結乾燥、減圧蒸留などにより、有機溶媒に溶解する前に、水分を除去することが好ましい。
[細胞培養器の製造方法]
本発明の細胞培養器の製造方法は、温度応答性ポリマー又は温度応答性ポリマー組成物を調製する調製工程と、培養面の中央部に培養面を露出させるようにして、上記温度応答性ポリマー又は上記温度応答性ポリマー組成物を培養面上に塗布、乾燥し、被覆領域Aを形成する被覆工程、とを含む製造方法、又は、温度応答性ポリマー又は温度応答性ポリマー組成物、及び細胞接着性物質を含む細胞接着性溶液を調製する調製工程と、上記温度応答性ポリマー又は上記温度応答性ポリマー組成物を培養面上に塗布、乾燥して被覆領域Aを形成し、培養面の中央部に上記細胞接着性溶液を塗布、乾燥して被覆領域Bを形成する被覆工程、とを含む製造方法である。
上述した実施形態の本発明の細胞培養器は、正確な顕微鏡観察が可能であり、培地交換の際に誤吸引しにくく、塊状の細胞構造体を容易に作製することができる、細胞培養器が容易に得られる観点から、上記本発明の細胞培養器の製造方法により製造されることが好ましい。
(調製工程)
上記温度応答性ポリマー又は上記温度応答性ポリマー組成物は、上述の方法により調製することができる。上記温度応答性ポリマー又は上記温度応答性ポリマー組成物は、溶媒に溶解した溶液として用いることが好ましい。なお、本明細書において、温度応答性ポリマー又は温度応答性ポリマー組成物を溶媒に溶解した溶液を「温度応答性ポリマー溶液」と称する場合がある。
上記温度応答性ポリマー溶液における上記溶媒としては、例えば、水;メタノール、エタノール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、1−ブタノール、イソブチルアルコール、2−ブタノール、t−ブチルアルコール、1−ペンタノール、2−ペンタノール、3−ペンタノール、2−メチル−1−ブタノール、3−メチル−1−ブタノール、2−メチル−2−ブタノール、3−メチル−2−ブタノール、2,2−ジメチル−1−プロパノール、1−ペンタノール、2−ペンタノール、3−ペンタノール、2−メチル−1−ブタノール、3−メチル−1−ブタノール、2−メチル−2−ブタノール、3−メチル−2−ブタノール、2,2−ジメチル−1−プロパノール、1−ヘキサノール、2−メチル−2−ペンタノール、アリルアルコール、ベンジルアルコール、サリチルアルコール等のアルコール;アセトン、エチルメチルケトン、ジエチルケトン、メチルプロピルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルビニルケトン、シクロヘキサノン、2−メチルシクロペンタノン、アセトフェノン、ベンゾフェノン、イソホロン等のケトン;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸n−ブチル、酢酸イソブチル、酢酸sec−ブチル、酢酸tert−ブチル、酢酸ビニル、ギ酸メチル、ギ酸エチル、ギ酸プロピル、上記アルコールとリン酸のエステル、上記アルコールと炭酸のエステル等のエステル;クロロホルム;ベンゼン;トルエン;ジエチルエーテル;ジクロロメタン;等が挙げられる。
中でも、培養面に均一に被覆しやすく、また、温度応答性ポリマーの溶解性に優れるという観点から、メタノール、エタノール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、2−ブタノール、t−ブチルアルコール、アリルアルコール等のアルコール;アセトン、エチルメチルケトン、ジエチルケトン、メチルビニルケトン等のケトン;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸tert−ブチル、酢酸ビニルなどのエステル;クロロホルム;ベンゼン;トルエン;ジエチルエーテル;ジクロロメタンが好ましい。また、短時間で乾燥させることができ、培養面に一層均一に塗布しやすいという観点から、沸点が低い有機溶媒(例えば、炭素数1〜4の低級アルコール、炭素数3〜5の低級ケトン、及び炭素数1〜4のアルキル基を有する酢酸アルキルエステルからなる群より選ばれる少なくとも1種、特に、水より沸点が低い、炭素数1〜4の低級アルコール、炭素数3〜5の低級ケトン、及び炭素数1〜4のアルキル基を有する酢酸アルキルエステルからなる群より選ばれる少なくとも1種)がさらに好ましく、コスト、操作性の観点から、メタノールとエタノールが特に好ましい。上記有機溶媒は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
上記有機溶媒は、温度応答性ポリマーの溶解性に優れるため、曇点以上の温度(例えば、室温や37℃など)にしても、温度応答性ポリマーが不溶化して沈殿しにくい。そのため、温度応答性ポリマーを塗布する際に、温度応答性ポリマー溶液の温度管理をする手間が省け、簡易に細胞培養器を製造することができる。
上記温度応答性ポリマー溶液には、細胞が自己凝集して球状の細胞構造体を形成しやすくなるという観点から、親水性分子が含まれることが好ましい。上記親水性分子としては、上記温度応答性ポリマーのC/A比に影響しない非イオン性かつ親水性であるもの、例えば、ポリエチレングリコール(PEG)、ジメチルアクリルアミド(DMAA)、グリセリン、TritonX、ポリプロピレングリコール等が挙げられる。
上記温度応答性ポリマー溶液中の温度応答性ポリマーの含有量は、温度応答性ポリマーが培養面に均一に被覆されやすくなるという観点から、温度応答性ポリマー溶液(100質量%)に対して、0.00075〜0.015質量%であることが好ましく、0.001〜0.01質量%であることがより好ましい。
上記温度応答性ポリマー溶液中の親水性分子の含有量は、細胞が自己凝集しやすくなるという観点から、温度応答性ポリマー(100質量%)に対して、0.00001〜0.00015質量%であることが好ましく、0.00003〜0.0001質量%であることがより好ましい。
上記温度応答性ポリマー溶液は、温度応答性ポリマー又は上記温度応答性ポリマー組成物が培養面に均一に被覆されやすくなるという観点から、水が含まれないことが好ましく、上記温度応答性ポリマー溶液(100質量%)中の水の質量割合が0.5質量%以下であることがより好ましく、0.1質量%以下であることがさらに好ましい。
なお、水の質量割合は、ガスクロマトグラフィー、カールフィッシャー法など当業者に周知の方法により測定可能である。
上記細胞接着性溶液に含まれる細胞接着性物質としては、上述のものが挙げられる。
上記細胞接着性溶液は、例えば、細胞性接着性物質に、水、メタノール、エタノール等アルコール、ケトン、エステル等の有機溶媒等を加えて、混合することにより調製することができる。
上記細胞接着性溶液中の、細胞接着性物質の含有量は、均質で球状の細胞構造体の形成と、細胞構造体の培養面への固定を効率的に行うことができるという観点から、0.1〜500ng/μLであることが好ましく、10〜150ng/μLであることがより好ましい。
(被覆工程)
上記被覆工程において、被覆領域Aを形成する方法としては、培養面の中央部に培養面を露出させて、上記被覆領域の中央部に上記培養面露出領域が設けられるようにして、上記温度応答性ポリマー溶液を培養面上に塗布し、乾燥する方法(被覆工程I)、又は上記温度応答性ポリマー溶液を培養面上に塗布し、乾燥させた後、被覆領域の中央部に上記細胞接着性容器を塗布し、乾燥させて被覆領域Bを形成する方法(被覆工程II)、が挙げられる。
上記被覆工程Iにおいて、培養面の中央部に培養面を露出させる方法としては、例えば、(i)培養面の中央部に剥離可能なシールを貼付し、培養面上に温度応答性ポリマー溶液を塗布し、乾燥させた後に、上記シールを剥がす方法、(ii)培養全面上に温度応答性ポリマー溶液を塗布し、乾燥させた後に中央部へ部分的に溶媒を供給して塗布されたポリマーを溶解させながら吸引する方法、(iii)曇点を有さない水溶性ポリマーや塩化ナトリム結晶などを培養面の中央部へあらかじめ配置し、ここへ、温度応答性ポリマー溶液を塗布し、乾燥させた後に、培養面全体を温水で洗浄して前記した水溶性ポリマーや塩化ナトリム結晶を選択的に溶出除去させる方法等が挙げられる。
上記被覆工程IIにおいて、被覆領域A及び被覆領域Bを形成する方法としては、例えば、培養面の全面、又は培養面の中央部に培養面を露出させて、培養面上に温度応答性ポリマー溶液を塗布し、乾燥させ、その後、培養面の中央部に細胞接着性溶液を塗布し、乾燥させる方法が挙げられる。
塗布した温度応答性ポリマー溶液を乾燥する条件としては、培養面に上記温度応答性ポリマー又は上記温度応答性ポリマー組成物を均一に被覆する観点から、大気圧下で、温度10〜70℃、時間1〜3,000分が好ましい。塗布した温度応答性ポリマー溶液を、素早く乾燥させることにより、培養面上に温度応答性ポリマー又は上記温度応答性ポリマー組成物が偏ることなく、均一に被覆されやすくなる。
塗布した温度応答性ポリマー溶液は、例えば、細胞培養器を37℃のインキュベーター中で静置することによって乾燥させてもよい。
以下に、本実施形態の細胞培養器を用いた細胞構造体の作製方法の一例について、図1を用いて説明する。本実施形態の細胞培養器を用いることにより、培養面に接着した状態の、均質の細胞構造体を容易に作製することができる。
細胞培養器の培養面の中央部に培養面露出領域が設けられるようにして、上記温度応答性ポリマー溶液を塗布し(図1(ii)参照)、乾燥させ、被覆領域Aと培養面露出領域とを有し、被覆領域Aの中央部に培養面露出領域がある細胞培養器を作製する(図1(iii)参照)。
その後、細胞培養用培地を加え、細胞を播種する(図1(iv)参照)。細胞は、培養面全面に接着し(図1(v)参照)、その後、培養面中央部に向かって凝集し始め、端部が培養面から離れて反り返り始めて、端部が反り返った細胞構造体となる(図1(vi)参照)。その後、更に凝集を続け、塊状の細胞構造体となる(図1(vii)参照)。得られる塊状の細胞構造体は、培養面露出領域で培養面と接着しており、浮遊しない(図1(vii)参照)。
上記細胞構造体の作製方法の一例としては、上記細胞培養器に細胞を播種する播種工程と、播種された細胞を培養する培養工程とを含む方法が挙げられる。
播種条件及び培養条件は、細胞種や実験目的に基づいて、当業者は適切に定めることができる。また、播種する細胞には、血管内皮細胞等の血管細胞、脂肪細胞、脂肪幹細胞、肝細胞、軟骨細胞、線維芽細胞、心筋細胞、腎細胞、神経細胞、平滑筋細胞、軟骨細胞等の様々な細胞を用いることができる。
上記細胞構造体の作製方法の一例では、播種される細胞の密度が1,500個/mm2以下(培養面の面積が200mm2である24ウェル細胞培養プレートに1.0mLの細胞浮遊液を加えることにより播種する場合、3.0×105個/mL以下)であることが好ましい。なお、播種される細胞は、生きた細胞とする。
上記細胞密度とすれば、ペレット状(塊状)の構造を有する細胞構造体を形成させることができる。
上記細胞構造体の作製方法の一例は、血管内皮細胞、脂肪細胞、脂肪幹細胞、線維芽細胞など間葉系の細胞に対して、特に好適に適用することができる。初代培養細胞の場合は、使用する細胞の生体内環境の基底膜由来の細胞外マトリックスを使用すれば良く、当業者によって適宜選択可能である。
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
(温度応答性ポリマーの製造)
容量50mLの軟質ガラス製の透明なバイアル瓶に、2−N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート(DMAEMA)10.0g、及び水5mLを加えて、磁気撹拌器を用いて撹拌した。そして、この混合物(液体)に対してG1グレードの高純度(純度:99.99995%)の窒素ガスを10分間パージ(流速:2.0L/分)することにより、この混合物を脱酸素した。なお、用いたDMAEMAには、重合禁止剤であるメチルヒドロキノン(MEHQ)が0.5質量%含まれていた。
その後、この反応物に対して、丸型ブラック蛍光灯(NEC社製、型番:FCL20BL、18W)を用いて、22時間紫外線照射することにより、上記反応物を重合させた。反応物は、5時間後に粘性を帯び15時間後に固化して、重合体が反応生成物として得られた。この反応生成物を2−プロパノールに溶解させ、溶液を透析チューブに移した。そして、透析を72時間行い、反応生成物を精製した。
反応生成物を含む溶液を、セルロース混合エステル製の0.2μmフィルター(東洋濾紙社製、型番:25AS020)で濾過し、得られた濾液を凍結乾燥させることにより、温度応答性(ホモ)ポリマーが得られた(収量:6.8g、転化率:68%)。このポリマーの数平均分子量(Mn)を、GPC(島津社製、型番:LC−10vpシリーズ)を用いて、ポリエチレングリコール(Shodex社製、TSKシリーズ)を標準物質として測定し、Mn=160,000(Mw/Mn=3.0)と決定した。
上述の温度応答性ポリマーの核磁気共鳴スペクトル(NMR)を、核磁気共鳴装置(Varian社製、型番:Gemini300)を用いて、重水(D2O)を標準物質として測定した。下記には、代表的なピークを示す。
1H-NMR (in D2O) δ 0.8-1.2 (br, -CH2-C(CH3)-), 1.6-2.0 (br, -CH2-C(CH3)-), 2.2-2.4 (br, -N(CH3)2), 2.5-2.7 (br, -CH2-N(CH3)2), 4.0-4.2 (br, -O-CH2-).
ここで、主鎖のメチル基(δ 0.8-1.2)のプロトン数(DMAEMAのホモポリマーの場合はモノマー1分子につき3個)Aと、側鎖のジメチルアミノ基(δ 2.2-2.4)のメチルプロトン数(DMAEMAのホモポリマーの場合はモノマー1分子につき6個で)Bとから、側鎖が有するアミノ基の官能基数と、重合反応と同時に進行する側鎖のエステル結合の加水分解反応により生じた側鎖のカルボキシル基の官能基数との比を算出した。
その結果、上述の温度応答性ポリマーの場合は94:6となった。これは、カチオン性ポリマーとアニオン性ポリマーとを含む2成分混合系におけるイオン複合体で言うC/A比に換算すると、C/A比=15.6となる。
上述の温度応答性ポリマーの曇点を以下の方法で測定した。
温度応答性ポリマーの3%水溶液を調製し、この水溶液の660nmにおける吸光度を、20℃〜40℃の間で測定した。
その結果、20℃〜30℃では、水溶液は透明であり、吸光度がほぼ0であったが、31℃付近から水溶液中に白濁が見られるようになり、32℃で吸光度が急激に上昇した。これにより、温度応答性ポリマーは、約32℃の曇点を有することを確認した。
なお、温度応答性ポリマーを37℃まで昇温させると、ポリマー水溶液は、良好な応答性で、懸濁し、その後、水溶液全体が固化した。この固化物を室温(25℃)で維持したところ、数十時間の間、固化した状態のままであった。その後、固化物が徐々に溶解して、均質な水溶液に変化した。固化したポリマーは4℃まで冷却すると、速やかに溶解した。そして、上記昇温及び降温の操作を繰り返し行なっても、応答性に変化は生じなかったことから、ポリマーが可逆的に相転移を生じさせることが確認された。
(実施例1)
上述の温度応答性ポリマーを、メタノールに溶解して、温度応答性ポリマー溶液(終濃度15μg/mL)を調製した。ポリスチレン製の24ウェル細胞培養プレート(イワキ社製、マイクロプレート、型番:3815−024、1ウェル当たりの底面積:200mm2、培養面の平面視形状は円形)の各培養面の中央部に、面積20mm2の円形のシールを貼付し、各ウェルに、温度応答性ポリマー溶液を、200μLずつ、室温下で加えて、クリーンベンチ(三洋電機社製、MHE−131AJ)内の吸気穴付近へ静置して24時間乾燥させてメタノールを完全に揮発させた。その後、シールを剥がし、温度応答性ポリマーで被覆された被覆領域の中央部に培養面露出領域がある24ウェル細胞培養プレート(細胞培養器)を得た。
(実施例2)
培養面の中央部に、面積60mm2の円形のシールを貼付したこと以外は、実施例1と同様にして、温度応答性ポリマーで被覆された被覆領域の中央部に培養面露出領域がある24ウェル細胞培養プレート(細胞培養器)を得た。
(実施例3)
培養面の中央部に、面積1mm2の円形のシールを貼付したこと以外は、実施例1と同様にして、温度応答性ポリマーで被覆された被覆領域の中央部に培養面露出領域がある24ウェル細胞培養プレート(細胞培養器)を得た。
(実施例4)
細胞培養器として、ポリスチレン製の48ウェル細胞培養プレート(BDファルコン社製、型番「353078」、1ウェル当たりの平面視したときの底面積:76mm2、培養面の平面視形状は円形)の各培養面の中央部に、平面視したときの直径が約1.0mmであって、高さ約0.3mmの、端部から中心に向かって高さが漸増する突起部(断面形状は、略半円形状)が一つ設けられた細胞培養器を使用した。
上述の温度応答性ポリマーを、メタノールに溶解して、温度応答性ポリマー溶液(終濃度15μg/mL)を調製した。上記の細胞培養器の各ウェルに、突起部に温度応答性ポリマー溶液がかからないようにして、温度応答性ポリマー溶液を、100μLずつ、室温下で加えて、クリーンベンチ(三洋電機社製、MHE−131AJ)内の吸気穴付近へ静置して24時間乾燥させてメタノールを完全に揮発させ、温度応答性ポリマーで被覆された被覆領域の中央部に培養面露出領域がある48ウェル細胞培養プレート(細胞培養器)を得た。
(実施例5)
細胞培養器として、ポリスチレン製の96ウェル細胞培養プレート(BDファルコン社製、型番「353072」、1ウェル当たりの平面視したときの底面積:32mm2、培養面の平面視形状は円形)の各培養面の中央部に、平面視したときの直径が約0.7mmであって、高さ約0.15mmの、端部から中心に向かって高さが漸増する突起部(断面形状は、略半円形状)が一つ設けられた細胞培養器を使用した。
上述の温度応答性ポリマーを、メタノールに溶解して、温度応答性ポリマー溶液(終濃度15μg/mL)を調製した。上記の細胞培養器の各ウェルに、突起部に温度応答性ポリマー溶液がかからないようにして、温度応答性ポリマー溶液を、50μLずつ、室温下で加えて、クリーンベンチ(三洋電機社製、MHE−131AJ)内の吸気穴付近へ静置して24時間乾燥させてメタノールを完全に揮発させ、温度応答性ポリマーで被覆された被覆領域の中央部に培養面露出領域がある96ウェル細胞培養プレート(細胞培養器)を得た。
(比較例1)
培養面の中央部にシールを貼付しなかったこと以外は、実施例1と同様にして24ウェル細胞培養プレート(細胞培養器)を得た。
(比較例2)
培養面の端部(培養面の外縁を含む部分)にシールを貼付したこと以外は、実施例1と同様にして、温度応答性ポリマーで被覆された被覆領域の端部に培養面露出領域がある24ウェル細胞培養プレート(細胞培養器)を得た。
[評価]
実施例及び比較例で得られた細胞培養器について、下記の測定を行った。
(顕微鏡観察の正確性)
実施例及び比較例で得られた24ウェル細胞培養プレートの各ウェルに、室温条件下において、ラット皮下脂肪由来の間葉系幹細胞を、完全培地(ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)+10%ウシ胎児血清(FCS)溶液、DMEM:ギブコ社製、型番11965、FCS:BI社製、ロット番号715929)中に浮遊させ、細胞密度を3.0×105個/mLに調整した細胞浮遊液を1mLずつ加えた(1,500個/mm2)。
また、実施例4では、得られた48ウェル細胞培養プレートの各ウェルに、室温条件下において、ラット皮下脂肪由来の間葉系幹細胞を、完全培地(ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)+10%ウシ胎児血清(FCS)溶液、DMEM:ギブコ社製、型番11965、FCS:BI社製、ロット番号715929)中に浮遊させ、細胞密度を3.0×105個/mLに調整した細胞浮遊液を0.4mLずつ加えた(1,579個/mm2)。
また、実施例5では、得られた96ウェル細胞培養プレートの各ウェルに、室温条件下において、ラット皮下脂肪由来の間葉系幹細胞を、完全培地(ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)+10%ウシ胎児血清(FCS)溶液、DMEM:ギブコ社製、型番11965、FCS:BI社製、ロット番号715929)中に浮遊させ、細胞密度を3.0×105個/mLに調整した細胞浮遊液を0.16mLずつ加えた(1,500個/mm2)。
この細胞を37℃の細胞培養インキュベーター中で24時間培養した。播種から3時間後、細胞は培養面全面に接着した(100%コンフルエント)。培養10時間後から、各ウェルの外周部から全ての細胞が一度剥離して、シートが丸まりながら収縮していくような動作で、細胞が互いに一箇所に凝集し、培養21時間後に中央部に凝集して塊状となり、その後、細胞構造体を形成した。
得られた細胞構造体を、顕微鏡(ECLIPSE−Ti、ニコン社製)を用いて観察し、自動焦点調整機能を使用して焦点合わせが完了するまでの時間(Q)と、3名の熟練した当業者が手作業で焦点を合わせる平均時間(T)との比、Q/T比を算出した。そして、以下の基準で顕微鏡観察の正確性を評価した。Q/Tが大きい程、手作業でも焦点が合わせやすく、顕微鏡観察が容易で正確に行えることを示す。
(基準)
優れる(◎):Q/T比が3.0以上であった。
良好(○):Q/T比が2.0以上3.0未満であった。
不良(×):Q/T比が2.0未満であった。
(培養面接着性)
上記「顕微鏡観察の正確性」と同様にして細胞構造体を得た後に、各ウェルの培地をアスピレーターで吸引し、PBS(ダルベッコPBS、ギブコ社製)1mLで1回洗浄した後、新たな培地1mLを加えて、培地交換を行った。なお、実施例4では、0.4mLのPBS及び培地を使用して培地交換を行った。また、実施例5では、0.16mLのPBS及び培地を使用して培地交換を行った。
10ウェルについて、上述の培地交換を3回行い、以下の基準で細胞構造体の培養面接着性を評価した。
(基準)
優れる(◎):全てのウェルで培地交換中に細胞構造体を誤吸引しなかった。
良好(○):1ウェルで培地交換中に細胞構造体を誤吸引した。
不良(×):2以上のウェルで培地交換中に細胞構造体を誤吸引した。
(細胞構造体の形状)
上記「顕微鏡観察の正確性」と同様にして得られた細胞構造体を、顕微鏡(ECLIPSE−Ti、ニコン社製)を用いて観察し、形状を確認した。
Figure 2017079714
実施例1、3の細胞培養器から得られた細胞構造体は、細胞の凝集方向が中央部方向に集中しているためか、均質で真球状であった。実施例2の細胞培養器から得られた細胞構造体は、球状ではあるが、中央部の培養面露出領域が広いためか、細胞の凝集方向がバラつき、均質といえる分布ではあるものの、わずかに細胞の分布にばらつきがあった。比較例1の細胞培養器から得られた細胞構造体は、実施例1〜3で得られた細胞構造体よりも、均質性に劣っていた。比較例2の細胞培養器から得られた細胞構造体は、楕円体状の形状で、均質性に劣っていた。

Claims (4)

  1. 培養面上に、温度応答性ポリマー又は温度応答性ポリマー組成物で被覆された被覆領域Aと、培養面が露出した培養面露出領域又は細胞接着性物質で被覆された被覆領域Bとを有し、
    前記被覆領域Aの中央部に、前記培養面露出領域又は前記被覆領域Bがあることを特徴とする、細胞培養器。
  2. 前記被覆領域Aの表面積が0.32〜150cm2である、請求項1に記載の細胞培養器。
  3. 温度応答性ポリマー又は温度応答性ポリマー組成物を調製する調製工程と、
    培養面の中央部に培養面を露出させるようにして、前記温度応答性ポリマー又は前記温度応答性ポリマー組成物を培養面上に塗布、乾燥し、被覆領域Aを形成する被覆工程、
    とを含むことを特徴とする、請求項1に記載の細胞培養器の製造方法。
  4. 温度応答性ポリマー又は温度応答性ポリマー組成物、及び細胞接着性物質を含む細胞接着性溶液を調製する調製工程と、
    前記温度応答性ポリマー又は前記温度応答性ポリマー組成物を培養面上に塗布、乾燥して被覆領域Aを形成し、培養面の中央部に前記細胞接着性溶液を塗布、乾燥して被覆領域Bを形成する被覆工程、
    とを含むことを特徴とする、請求項1に記載の細胞培養器の製造方法。
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* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
JP2019154285A (ja) * 2018-03-09 2019-09-19 大日本印刷株式会社 観察用容器、及び生体サンプルの観察方法
CN113061513A (zh) * 2021-03-30 2021-07-02 上海睿钰生物科技有限公司 一种培养装置

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