JP2017055744A - カプセル化細胞構造体の製造方法、及びカプセル化細胞構造体 - Google Patents

カプセル化細胞構造体の製造方法、及びカプセル化細胞構造体 Download PDF

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Yasuhide Nakayama
泰秀 中山
良輔 岩井
Ryosuke Iwai
良輔 岩井
根本 泰
Yasushi Nemoto
泰 根本
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Abstract

【課題】本発明の目的は、簡便に、少なくとも1個の塊状細胞構造体を、他の細胞構造体で包み込んだカプセル化細胞構造体を製造する方法を提供することにある。【解決手段】本発明のカプセル化細胞構造体の製造方法は、温度応答性ポリマーI又は温度応答性ポリマー組成物Iで、細胞培養器の培養面を被覆して、被覆細胞培養器Iを準備する第一の準備工程と、前記被覆細胞培養器Iに、細胞Iを播種、培養し、少なくとも1個の塊状細胞構造体を得る第一の培養工程と、温度応答性ポリマーII又は温度応答性ポリマー組成物IIで、細胞培養器の培養面を被覆して、被覆細胞培養器IIを準備する第二の準備工程と、前記被覆細胞培養器IIに、細胞IIを播種、培養し、シート状細胞構造体を得る第二の培養工程と、前記細胞II上に少なくとも1個の前記塊状細胞構造体をのせ、前記塊状細胞構造体を前記シート状細胞構造体で包んだカプセル化細胞構造体を得る形成工程と、を含むことを特徴とする。【選択図】図1

Description

本発明は、カプセル化細胞構造体の製造方法、及びカプセル化細胞構造体に関する。
近年、患者のQOLの向上を目的として、オーダーメイド医療の実現が望まれている。オーダーメイド医療では、患者自身の細胞を用いて機能障害や機能欠損に陥った組織や臓器の再生を図る、再生医療が主要な役割を担う。
再生医療は、患者の組織から採取した細胞を、細胞培養器中で培養し、組織を形成させ、その後、その組織を患者に移植するというオペレーションを必要とする。
そのため、細胞を培養して、組織等の細胞構造体を形成させる技術が所望されている。組織の構造を模倣した立体的構造を有する細胞構造体を形成する方法としては、例えば、細胞培養器の培養面を、特定の細胞培養用組成物で被覆した、被覆細胞培養器を用いて塊状(ペレット状)や管腔状(チューブ状)の細胞構造体を得る方法が知られている(特許文献1参照)。
特開2014−027919号公報
特許文献1に記載の方法は、簡便に肉眼で視認できるほどのサイズの、塊状(ペレット状)や管腔状(チューブ状)の細胞構造体を製造することができる優れた方法である。しかしながら、従来は、単一の細胞の層からなる細胞構造体しか知られていなかった。
少なくとも1個の塊状細胞構造体を他の細胞で包んだカプセル化細胞構造体は、例えば、患部へ投与、移植した後、外側の細胞が生着、浸潤して第一の作用をもたらし、その後内側の塊状細胞構造体が生着して第二の作用をもたらす、複数段階での作用が期待できる。そのため、少なくとも1個の塊状細胞構造体を他の細胞で包んだカプセル化細胞構造体が求められているのが現状である。
従って、本発明の目的は、簡便に、少なくとも1個の塊状細胞構造体を、他の細胞構造体で包んだカプセル化細胞構造体を製造する方法を提供することにある。
すなわち、本発明のカプセル化細胞構造体の製造方法は、温度応答性ポリマーI又は温度応答性ポリマー組成物Iで、細胞培養器の培養面を被覆して、被覆細胞培養器Iを準備する第一の準備工程と、上記被覆細胞培養器Iに、細胞Iを播種、培養し、少なくとも1個の塊状細胞構造体を得る第一の培養工程と、温度応答性ポリマーII又は温度応答性ポリマー組成物IIで、細胞培養器の培養面を被覆して、被覆細胞培養器IIを準備する第二の準備工程と、上記被覆細胞培養器IIに、細胞IIを播種、培養し、シート状細胞構造体を得る第二の培養工程と、上記細胞II上に少なくとも1個の上記塊状細胞構造体をのせ、上記塊状細胞構造体を上記シート状細胞構造体で包んだカプセル化細胞構造体を得る形成工程と、を含むことを特徴とする。
本発明のカプセル化細胞構造体の製造方法は、上記第2の準備工程において、上記温度応答性ポリマーII又は上記温度応答性ポリマー組成物II、及び細胞接着分子で細胞培養器の培養面を被覆することが好ましい。
本発明のカプセル化細胞構造体の製造方法は、上記細胞Iが心筋細胞であり、上記細胞IIが間葉系幹細胞であり、上記細胞接着分子がフィブロネクチンであることが好ましい。
また、本発明のカプセル化細胞構造体は、本発明のカプセル化細胞構造体の製造方法により製造されることを特徴とする。
また、本発明のカプセル化細胞構造体は、細胞Iからなる塊状細胞構造体の少なくとも一部を細胞IIからなるシート状細胞構造体で包んでなることを特徴とする。
本発明のカプセル化細胞構造体の製造方法は、上記構成を有するため、簡便に、少なくとも1個の塊状細胞構造体を、他の細胞構造体で包んだカプセル化細胞構造体を製造することができる。
図1は、本発明の一実施形態のカプセル化細胞構造体の製造方法を説明するための概略図である。 図2は、本発明の一実施形態のカプセル化細胞構造体の製造方法を説明するための写真である。(A)は、細胞II上にのせた塊状細胞構造体が包まれていく様子を蛍光顕微鏡で撮影した写真である。(B)は、カプセル化細胞構造体を実体顕微鏡で撮影した写真である。
以下、本発明のカプセル化細胞構造体の製造方法、及び本発明のカプセル化細胞構造体の実施形態について詳細に例示説明する。
[カプセル化細胞構造体の製造方法]
本発明のカプセル化細胞構造体の製造方法は、少なくとも、第一の準備工程、第一の培養工程、第二の準備工程、第二の培養工程、及び形成工程を、少なくとも含む。
なお、本明細書において、「塊状細胞構造体をシート状細胞構造体で包んだカプセル化細胞構造体」とは、シート状細胞構造体で塊状細胞構造体が完全に包まれている以外にも、シート状細胞構造体で塊状細胞構造体の一部(例えば、塊状細胞構造体の表面積の80%以上)が包まれている場合も含むものとする。
(第一の準備工程)
本発明の実施形態の製造方法において、第一の準備工程は、温度応答性ポリマーI又は温度応答性ポリマー組成物Iで、細胞培養器の培養面を被覆して、被覆細胞培養器Iを準備する工程である。
上記温度応答性ポリマーI及び上記温度応答性ポリマー組成物Iとしては、(A)2−N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート(DMAEMA)単位と、アニオン性モノマー単位とを含む温度応答性ポリマー、(B)N−イソプロピルアクリルアミド(NIPAM)単位と、カチオン性モノマー単位と、アニオン性モノマー単位とを含む温度応答性ポリマー、(C)2−N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート(DMAEMA)及び/又はその誘導体の重合体と、2−アミノ−2−ヒドロキシメチル−1,3−プロパンジオール(トリス)と、核酸、ヘパリン、ヒアルロン酸、デキストラン硫酸、ポリスチレンスルホン酸、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリリン酸、硫酸化多糖類、カードラン及びポリアルギン酸並びにこれらのアルカリ金属塩からなる群から選択される1種以上のアニオン性物質とを含む温度応答性ポリマー組成物等が挙げられる。中でも、塊状細胞構造体を他の細胞構造体で包んだカプセル化細胞構造体が得られやすいという観点から、(A)が好ましい。
ここで、上記(A)としては、例えば、(A−1)DMAEMAを水存在下で重合する方法により得られる温度応答性ポリマー、(A−2)主としてDMAEMAを含むポリマーブロック(重合鎖α末端)と、主としてDMAEMAとアニオン性モノマー(重合鎖ω末端)とを含む温度応答性ポリマー等が挙げられる。
本実施形態において、これらは、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
上記(A)(B)の温度応答性ポリマー及び(C)の温度応答性ポリマー組成物の詳細は、後述する。
温度応答性ポリマーIとしては、上記以外に、例えば、ポリ−N−n−プロピルアクリルアミド、ポリ−N−n−プロピルメタクリルアミド、ポリ−N−エトキシエチルアクリルアミド、ポリ−N−テトラヒドロフルフリルアクリルアミド、ポリ−N−テトラヒドロフルフリルメタクリルアミド、ポリ−N,N−ジエチルアクリルアミド等も挙げられる。
温度応答性ポリマーI又は温度応答性ポリマー組成物Iは、加熱乾燥、凍結乾燥、減圧蒸留等により水分を除去して、水、緩衝液、生理食塩水、メタノール、エタノール等アルコール、ケトン、エステル等の有機溶媒に溶解してもよい。また、有機溶媒に溶解する場合には、更に、ポリエチレングリコール(PEG)、ジメチルアクリルアミド(DMAA)、グリセリン、TritonX、ポリプロピレングリコール等の非イオン性でかつ親水性である親水性分子を加えてもよい。
温度応答性ポリマーI又は温度応答性ポリマー組成物Iとして、温度応答性ポリマーIを含む水溶液を用いる場合、被覆細胞培養器Iは、例えば、温度応答性ポリマーIを含む水溶液を、温度応答性ポリマーIの曇点以下の温度まで冷却する冷却工程と、冷却した水溶液を細胞培養器の培養面に流延させる流延工程と、水溶液が培養面に流延された細胞培養器を、曇点超の温度まで加熱する加熱工程と、を含む方法等で製造することができる。
なお、本明細書において、「被覆細胞培養器」とは、培養面の少なくとも一部が温度応答性ポリマー又は温度応答性ポリマー組成物で被覆された細胞培養器をいう。被覆細胞培養器は、培養面の全面が被覆されていてもよいし、培養面の一部が被覆されていてもよい。
上記冷却工程では、例えば、温度応答性ポリマーIを含む水溶液を約4℃の冷蔵庫に入れることによって、温度応答性ポリマーIの曇点以下の温度まで冷却することができる。
上記流延工程では、例えば、曇点以下の温度を有する温度応答性ポリマーIを含む水溶液を、細胞培養器の培養面を傾けることによって、又はスパチュラを用いて延ばすことによって、流延させることができる。なお、細胞培養器の培養面に、曇点以下の温度を有する温度応答性ポリマーIを含む水溶液を滴下し、流延せずにそのまま加熱してもよい。
上記細胞培養器としては、市販の細胞培養用のプレート、ディッシュ、フラスコ等が挙げられる。細胞培養器の材質としては、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリエチレン、ガラス等が挙げられる。
上記加熱工程では、例えば、細胞培養器を37℃のインキュベーター中で静置することによって、温度応答性ポリマーIの曇点超の温度まで加熱することができる。
被覆細胞培養器Iの製造方法によれば、温度応答性ポリマーI又は温度応答性ポリマー組成物Iを細胞培養器の表面に被覆するための特別な処理、例えば、放射線グラフト重合などを施すことを要しない。すなわち、該培養器を用いる研究者自身により、簡便な方法で(特殊な装置を要することなく)、低コストで行うことができる。
被覆細胞培養器Iによれば、細胞を適切な培養条件で培養することにより、塊状(ペレット状)の構造を有する細胞構造体を簡便に形成させることができる。
これは、温度応答性ポリマーIが側鎖に有する疎水性基及びカチオン性基が、何らかの相互作用をしながら、細胞に刺激を与えていると推定される。また、例えば、カチオン性基とアニオン性基とを有する温度応答性ポリマーIでは、カチオン性官能基による細胞毒性が、アニオン性ポリマーのアニオン性官能基による電気的に中和により、緩和される。こうして、温度応答性ポリマーIは、正電荷と負電荷とのバランスを好適にして、細胞傷害性を抑制し(哺乳類細胞の細胞膜の表面は負電荷を帯びているため、カチオン性物質は細胞傷害性を有することが多い)、且つ、温度応答性ポリマーIの親水性と疎水性とのバランスを好適にして、細胞の遊走や配向を可能にしているものと推定される。被覆細胞培養器Iによれば、細胞の活性を高く維持した状態で、培養操作を行うことが可能となる。
被覆細胞培養器Iによれば、トリプシン処理等の細胞剥離操作を行うことなしに、一般的な37℃のインキュベーター中で細胞を培養するだけで、細胞が自ら収縮して凝集し、細胞構造体を形成し、更に収縮して細胞培養面との接着力が低下して培養面から剥がれるため、細胞構造体を容易に回収することができる。
被覆細胞培養器Iは、培養面が単位面積当たりに有する温度応答性ポリマーIの量が、5〜50ng/mm2であることが好ましく、15〜40ng/mm2であることが更に好ましい。上記範囲とすれば、塊状の細胞構造体を形成させやすくするという効果が得られやすい。
(第一の培養工程)
本発明の実施形態の製造方法において、第一の培養工程は、被覆細胞培養器Iに、細胞Iを播種、培養し、少なくとも1個の塊状細胞構造体を得る工程である。
細胞Iとしては、例えば、血管細胞、血管間質細胞、脂肪細胞、脂肪幹細胞、肝細胞、軟骨細胞、線維芽細胞、心筋細胞、腎細胞、膵β細胞、神経細胞、平滑筋細胞、軟骨細胞、間葉系幹細胞、口腔粘膜上皮細胞、毛根細胞、毛母細胞、毛乳頭細胞等が挙げられる。初代細胞の場合は、コロニーを形成する接着性細胞を選択すれば良く、当業者によって適宜選択可能である。中でも、毛乳頭細胞、心筋細胞、膵β細胞、軟骨細胞が好ましい。
上記細胞Iは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
上記第一の培養工程では、例えば、複数の被覆細胞培養器Iに、細胞Iを播種、培養して、複数の塊状細胞構造体を得てもよい。複数の塊状細胞構造体は、同一種の細胞Iからなる塊状細胞構造体であってもよいし、異なる種類の細胞Iからなる塊状細胞構造体であってもよい。
上記第一の培養工程では、塊状の細胞構造体が得られやすいという観点から、播種される細胞Iの細胞密度が10.0×103個/mm2未満であることが好ましい。中でも、細胞Iが脂肪由来血管間質細胞である場合は、0.8×103〜8.0×103個/mm2が好ましい。
中でも、塊状の細胞構造体が一層得られやすいという観点から、播種される細胞Iの密度が7.0×103個/mm2未満であり、且つ温度応答性ポリマーI又は温度応答性ポリマー組成物Iに含まれる温度応答性ポリマーのカチオン性官能基の官能基数と、アニオン性官能基の官能基数との比(C/A比)が1〜20であることが好ましい。特に、細胞Iが脂肪由来血管間質細胞である場合は、細胞密度が0.8×103〜3×103個/mm2であり、且つC/A比が3〜12であることが好ましい。また、細胞Iが、口腔粘膜上皮細胞、軟骨細胞、心筋細胞、肝細胞の場合は、細胞密度が12.0×103個/mm2未満であり、且つC/A比が5〜13であることが好ましい。
なお、播種される細胞は、生きた細胞とする。
細胞Iの播種は、例えば、37℃のインキュベーター中に静置しておいた被覆細胞培養器Iを、室温のクリーンベンチに取り出して、行うことができる。
次に、播種した細胞Iを培養する。細胞Iの培養は、例えば、一般的な37℃の細胞インキュベーターを用いて行うことができる。細胞Iの培養は、塊状細胞構造体が形成されるまで続けることが好ましく、具体的には、10〜72時間培養することが好ましい。
温度応答性ポリマーI又は温度応答性ポリマーIを被覆した培養面に接着、培養された細胞Iは、自己凝集をして、塊状細胞構造体を形成する。得られた塊状細胞構造体は、そのペレット状の構造内に生存している細胞を有する。
上記塊状細胞構造体の大きさは、細胞IIからなるシート状細胞構造体に包まれたカプセル化細胞構造体が得られるという観点から、例えば、外径が100μm〜2.5mmであることが好ましい。また、上記塊状細胞構造体に含まれる細胞Iの数は、例えば、1万個〜250万個であることが好ましい。
(第二の準備工程)
本発明の実施形態の製造方法において、第二の準備工程は、温度応答性ポリマーII又は温度応答性ポリマー組成物IIで、細胞培養器の培養面を被覆して、被覆細胞培養器IIを準備する工程である。細胞IIと被覆細胞培養器IIとの接着力が適度な範囲となることで、被覆細胞培養器II上で培養した細胞IIが自己凝集してシート状の構造体を形成し、シート状の構造体の端部が培養面から離れて反り返るようにして、包むように収縮し始め、均質なカプセル状構造を一層形成しやすくなるという観点から、温度応答性ポリマーII又は温度応答性ポリマー組成物II、及び細胞接着分子で細胞培養器の培養面を被覆することが好ましい。
温度応答性ポリマーII及び温度応答性ポリマー組成物IIとしては、例えば、上述の温度応答性ポリマーI及び温度応答性ポリマー組成物Iと同様のものが挙げられる。中でも、操作の容易性の観点から、温度応答性ポリマーI又は温度応答性ポリマー組成物Iと同じ組成であることが好ましい。
上記細胞接着分子としては、例えば、フィブロネクチン、コラーゲン、プロテオグリカン、ラミニン、テネイシン、エンタクチン、パールカン、ADAMTS、ニドゲン等の細胞外マトリックス構成タンパク質、コンドロイチン硫酸、ケラタン硫酸、ヘパラン硫酸、へパリン等のプロテオグリカン、ヒアルロン酸、インテグリン、カドヘリン等が挙げられる。中でも、コスト、操作性の観点から、フィブロネクチン、ラミニンが好ましい。また、フィブロネクチンは、遺伝子組み換えによる人工合成品が普及しておらず、天然抽出品を利用するのが通常である。そのため、天然抽出物中に含まれる未知物質による予期せぬ作用や、ロットごとに結果が変わる可能性があることや、動物を犠牲にしたりするため、遺伝子組み換え品のラミニンを用いることが好ましい。
上記細胞接着分子は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
細胞IIとして、間葉系幹細胞を用いる場合、上記細胞接着分子はフィブロネクチンであることが好ましい。また、細胞IIとして平滑筋細胞を用いる場合、上記細胞接着分子はラミニンであることが好ましい。これらは、使用する細胞の生体内環境、基底膜を構成するマトリックスに合わせて当業者によって適宜選択されれば良い。
細胞培養器の培養面に被覆する、温度応答性ポリマーII又は温度応答性ポリマー組成物II、及び上記細胞接着分子を含む混合物中の、上記細胞接着分子の含有量は、被覆細胞培養器II上で培養した細胞IIが自己凝集してシート状の構造体を形成し、シート状の構造体の端部が培養面から離れて反り返るようにして、包むように収縮し始め、カプセル状構造を一層形成しやすくなるという観点から、例えば、0.5〜500ng/μLであることが好ましく、10〜100ng/μLであることがより好ましい。また、80ng/μL超の場合は、コストが高くなること、及び塗江ムラが生じた場合に細胞構造体が剥離せず培地中に浮遊しない可能性があること、から、40ng/μL以下であることが好ましい。
温度応答性ポリマーII又は温度応答性ポリマー組成物IIには、例えば、添加剤、細胞接着分子、水、緩衝液、生理食塩水、メタノール、エタノール等アルコール、ケトン、エステル等の有機溶媒等を加えてもよい。
上記被覆細胞培養器IIは、例えば、温度応答性ポリマーI又は温度応答性ポリマー組成物Iを、温度応答性ポリマーII又は温度応答性ポリマー組成物IIに変更した以外は、被覆細胞培養器Iと同様にして製造することができる。
上記被覆細胞培養器IIは、培養面の全面が被覆されていてもよいし、培養面の一部が被覆されていてもよい。
被覆細胞培養器IIによれば、細胞を適切な培養条件で培養することにより、シート状の構造を有する細胞構造体を簡便に形成させることができる。
上記被覆細胞培養器IIでは、培養面が単位面積当たりに有する温度応答性ポリマーIIの量が、1〜100ng/mm2であることが好ましく、5〜20ng/mm2であることが更に好ましい。上記範囲とすれば、細胞IIが自己凝集してシート状の構造体を形成し、シート状の構造体の端部が培養面から離れて反り返るようにして収縮するという効果が得られやすい。
上記被覆細胞培養器IIでは、培養面が単位面積当たりに有する細胞接着分子の量が、5〜5000ng/mm2であることが好ましく、10〜100ng/mm2であることがより好ましく、40ng/mm2以下であることがさらに好ましい。上記範囲とすれば、細胞IIが自己凝集してシート状の構造体を形成し、シート状の構造体の端部が培養面から離れて反り返るようにして収縮するという効果が得られやすい。
(第二の培養工程)
本発明の実施形態の製造方法において、上記第二の培養工程は、上記被覆細胞培養器IIに、細胞IIを播種、培養し、シート状細胞構造体を得る工程である。
上記細胞IIとしては、上記細胞Iと同様の細胞が挙げられる。中でも、自己凝集してシート状の構造体を形成し、シート状の構造体の端部が培養面から離れて反り返るようにして収縮しやすいという観点から、脂肪組織由来間葉系幹細胞等の間葉系幹細胞、線維芽細胞、軟骨細胞、心筋細胞、毛母細胞が好ましく、間葉系幹細胞、毛母細胞がより好ましい。
上記第二の培養工程では、細胞IIが端部から離れて反り返るようにして自己凝集しやすくなるという観点から、播種される細胞IIの細胞密度が1.0×103〜10.0×103個/mm2であることが好ましい。
細胞IIの播種は、例えば、37℃のインキュベーター中に静置しておいた被覆細胞培養器IIを、室温のクリーンベンチに取り出して、行うことができる。
次に、播種した細胞IIを培養する。細胞IIの培養は、例えば、一般的な37℃の細胞インキュベーターを用いて行うことができる。播種された細胞IIは、温度応答性ポリマーII又は温度応答性ポリマー組成物IIによる被覆部上に接着し、シート状細胞構造体を形成する(図1(vii)参照)。その後、シート状細胞構造体の端部が被覆部から離れて反り返り始めて端部反り返り細胞構造体となる(図1(viii)参照)。
具体的には、細胞IIは、1〜9時間培養することでシート状細胞構造体を形成し、その後1〜15時間培養することで端部反り返り細胞構造体となる。
(形成工程)
本発明の実施形態の製造方法において、上記形成工程は、上記細胞II上に少なくとも1個の上記塊状細胞構造体をのせ、上記塊状細胞構造体を上記シート状細胞構造体で包んだカプセル化細胞構造体を得る工程である。中でも、少なくとも1個の上記塊状細胞構造体は、上記シート状細胞構造体上にのせることが好ましい。
なお、本明細書において、培養面に接着した細胞が単層のシート状の構造をとった細胞構造体を「シート状細胞構造体」、シート状細胞構造体の端部が培養面から離れて反り返っている細胞構造体を「端部反り返り細胞構造体」と称する場合がある。
上記細胞II上に少なくとも1個の上記塊状細胞構造体をのせるタイミング(時点)の始点としては、播種した細胞IIが被覆細胞培養器IIに接着した後が好ましく、例えば、細胞IIの播種後3時間以降が挙げられる。また、塊状細胞構造体とシート状細胞構造体との接着性に優れるカプセル化細胞構造体が得られる観点から、播種、接着した細胞IIが収縮し始める前に上記塊状細胞構造体をのせることが好ましい。
細胞II上に少なくとも1個の上記塊状細胞構造体をのせた後、細胞IIは反り返ることで、塊状細胞構造体を包んだカプセル化細胞構造体を形成する(図1(ix)参照)。
具体的には、細胞IIは、播種後6〜24時間培養することでカプセル化細胞構造体が形成されることが好ましい
本発明の実施形態の製造方法において、細胞IIがシート状細胞構造体となった時点で、上記塊状細胞構造体は形成されていることが好ましい。
上記細胞II上の、上記塊状細胞構造体をのせる位置としては、塊状細胞構造体が均一の厚さの細胞IIで包まれやすくなるという観点から、例えば、シート状細胞構造体又は端部反り返り細胞構造体の集団の中心部分が好ましい。
上記細胞II上にのせる上記塊状細胞構造体は、1個であってもよいし、2個以上であってもよい。また、上記細胞II上にのせる上記塊状細胞構造体は、1種であってもよいし、2種以上であってもよい。
複数個の塊状細胞構造体を細胞II上にのせる場合、全ての塊状細胞構造体を同時に細胞II上にのせてもよいし、何回かに分けて細胞II上にのせてもよい。
図2に、本発明の実施形態におけるカプセル化細胞構造体の製造方法における、塊状細胞構造体が包まれていく様子の一例を示す。
上記細胞IIは、自己凝集して被覆細胞培養器IIの培養面上にシート状細胞構造体を形成する。細胞IIを更に培養すると、細胞IIはさらに自己凝集をして収縮することで、シート状細胞構造体の端部が培養面から離れて反り返るようにして端部反り返り細胞構造体6が形成される。そして端部反り返り細胞構造体6上に塊状細胞構造体3をのせる(図2(A)左)。さらに培養を続けると、端部反り返り細胞構造体6は上記塊状細胞構造体3を包むようにして更に反り返り(図2(A)真ん中)、その後、上記塊状細胞構造体を包んだカプセル化細胞構造体7が形成される(図2(A)右)。
本発明の実施形態のカプセル化細胞構造体の製造方法で得られるカプセル化細胞構造体は、上記塊状細胞構造体の少なくとも一部が、上記シート状細胞構造体で包まれていればよい。中でも、上記塊状細胞構造体が、上記シート状細胞構造体で完全に覆われていることが好ましい。
本発明の実施形態のカプセル化細胞構造体の製造方法で得られるカプセル化細胞構造体としては、例えば、以下が挙げられる。
(一)細胞Iとしての毛乳頭細胞からなる塊状細胞構造体が、細胞IIとしての毛母細胞からなるシート状細胞構造体に包まれたカプセル化細胞構造体。この例において、塊状細胞構造体は、シート状細胞構造体に完全に被覆されておらず、塊状細胞構造体の一部が露出していることが好ましい。この例において、細胞接着分子としては、コラーゲンが好ましい。
(二)細胞Iとしての心筋細胞からなる塊状細胞構造体が、細胞IIとしての間葉系幹細胞からなるシート状細胞構造体に包まれたカプセル化細胞構造体。この例において、細胞接着分子としては、ラミニン及び/又はフィブロネクチンが好ましい。
(三)細胞Iとしての膵β細胞からなる塊状細胞構造体が、細胞IIとしての間葉系幹細胞からなるシート状細胞構造体に包まれたカプセル化細胞構造体。この例において、細胞接着分子としては、フィブロネクチンが好ましい。
(四)細胞Iとしての軟骨細胞からなる塊状細胞構造体が、細胞IIとしての間葉系幹細胞からなるシート状細胞構造体に包まれたカプセル化細胞構造体。この例において、細胞接着分子としては、フィブロネクチン、コンドロイチン、コラーゲン、テネイシンおよびADAMTSが好ましい。
上記(二)〜(四)の例では、細胞IIとして、宿主の免疫攻撃を受けない、免疫寛容能を有する間葉系幹細胞を用いることで、カプセル化細胞構造体を移植しても免疫攻撃を受けることなく生着、浸潤することができ、さらに内側の塊状細胞構造体によって(二)心筋を修復するサイトカインの分泌、(三)インスリンの分泌、(四)宿主の血液に触れると骨に分化する、等の作用が期待できる。この例において、細胞接着分子としては、ラミニンが好ましい。
図1に、本発明の実施形態におけるカプセル化細胞構造体の製造方法の一例を概略図で示す。
(i)温度応答性ポリマーI(例えば、PDMAEMA)で、細胞培養器の培養面を被覆し、温度応答性ポリマーIによる被覆部(1)を有する被覆細胞培養器Iを準備する(第一の準備工程)。
(ii)被覆細胞培養器Iの温度応答性ポリマーIによる被覆部(1)上に細胞I(2)(例えば、心筋細胞)を播種し、培養する(第一の培養工程)。
(iii)細胞I(2)が温度応答性ポリマーIによる被覆部(1)上に、シート状に接着する(第一の培養工程)。
(iv)更に培養を続けると、細胞I(2)が自己凝集して、塊状細胞構造体(3)を形成する(第一の培養工程)。
(v)一方で、温度応答性ポリマーII(例えば、PDMAEMA)、細胞接着分子(例えば、フィブロネクチン)で、細胞培養器の培養面を被覆し、温度応答性ポリマーIIによる被覆部(4)を有する被覆細胞培養器IIを準備する(第二の準備工程)。
(vi)被覆細胞培養器IIの温度応答性ポリマーIIによる被覆部(4)上に細胞II(5)(例えば、間葉系幹細胞)を播種し、培養する(第二の培養工程)。
(vii)細胞II(5)が温度応答性ポリマーIIによる被覆部(4)上に接着し、シート状細胞構造体(6)を形成する(第二の培養工程)。
(viii)シート状に接着した細胞IIがさらに自己凝集し、端部が培養面から離れて反り返った端部反り返り細胞構造体(7)となる。端部反り返り細胞構造体(7)の中心部分に、細胞Iからなる塊状細胞構造体(3)をのせる。
なお、この例の場合、(viii)の端部反り返り細胞構造体(7)が形成された時点で、塊状細胞構造体(3)が得られていることが好ましい。また、細胞IIが温度応答性ポリマーIIによる被覆部(4)上に接着した後、細胞IIが凝集して端部が反り返る前に、塊状細胞構造体(3)をシート状細胞構造体(6)上にのせると、塊状細胞構造体(3)とシート状細胞構造体の接着力が強いカプセル化細胞構造体(8)を得ることができる。
(ix)細胞II(5)が更に自己凝集をして、塊状細胞構造体(3)を包み、カプセル化細胞構造体(8)を得る(形成工程)。
以下、本発明の実施形態の製造方法において用いられる温度応答性ポリマー、及び温度応答性ポリマー組成物について詳述する。
温度応答性ポリマーI又は温度応答性ポリマー組成物I、と温度応答性ポリマーII又は温度応答性ポリマー組成物IIとは、同じであってもよいし異なっていてもよい。
以下、上記(A−1)の温度応答性ポリマー及びその製造方法について記載する。
−(A−1)の温度応答性ポリマーの製造方法−
(A−1)の温度応答性ポリマーの製造方法では、まず、2−N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート(DMAEMA)を含む混合物を調製する(調製工程)。ここで、混合物は、重合禁止剤及び水を更に含む。
2−N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート(DMAEMA)としては、市販品を用いることができる。重合禁止剤としては、メチルヒドロキノン(MEHQ)、ヒドロキノン、p−ベンゾキノリン、N,N−ジエチルヒドロキシルアミン、N−nitroso−N−phenylhydroxylamine(Cupferron)、t−ブチルハイドロキノン等が挙げられる。また、市販のDMAEMAに含まれるMEHQ等をそのまま用いてもよい。水としては、超純水等が挙げられる。
上記混合物に対する重合禁止剤の重量割合は、0.01〜1.5%であることが好ましく、0.1〜0.5%であることが更に好ましい。上記範囲とすれば、ラジカル重合反応の暴走を抑制して、制御できない架橋を低減することができ、製造される温度応答性ポリマーの溶媒に対する溶解性を確保することができる。
上記混合物に対する水の重量割合は、1.0〜50%であることが好ましく、9.0〜33%であることが更に好ましい。上記範囲とすれば、側鎖の加水分解反応の反応速度と、重合するポリマー鎖の成長反応の反応速度とを、バランスよく調和させることができる。これにより、側鎖が加水分解されたDMAEMAに対する、側鎖が加水分解されていないDMAEMAの割合(共重合割合)が1.0〜20程度の温度応答性ポリマーを得ることができる。
次いで、(A−1)の温度応答性ポリマーの製造方法では、混合物に紫外線を照射する(照射工程)。ここで、紫外線は、不活性雰囲気下において、照射される。DMAEMAは、紫外線の照射により、ラジカル重合して、ポリマーとなる。
この工程では、例えば、透明な密封バイアルに、上記混合物を加え、不活性ガスをバブリングすることによってバイアル内を不活性雰囲気とした後に、バイアルの外部から紫外線照射装置を用いて紫外線を照射する。
紫外線の波長としては、210〜600nmであることが好ましく、360〜380nmであることが更に好ましい。上記範囲とすれば、効率よく重合反応を進行させることができ、所期の共重合割合を有する高分子材料を安定的に得ることができる。また、製造したポリマー材料が着色することを防ぐこともできる。
不活性ガスとしては、窒素、アルゴン、ヘリウム、ネオン等が挙げられる。
反応条件に関して、温度条件としては、15〜50℃であることが好ましく、20〜30℃であることが更に好ましい。上記範囲とすれば、熱による開始反応を抑制し、光照射による開始反応を優先的に進行させることができる。また、加水分解反応の反応速度をポリマー鎖の成長反応の反応速度に対してバランスのよいものにすることができる。
反応時間としては、7〜24時間であることが好ましく、17〜21時間であることが更に好ましい。上記範囲とすれば、(A−1)の温度応答性ポリマーを高収率で得ることができ、また、光分解反応や不要な架橋反応を抑制しながらラジカル重合を行うことができる。
なお、混合物調製工程において混合物が調製され終えてから、照射工程において紫外線の照射が開始されるまでの時間は、10分〜1時間であることが好ましい。
混合物を加えたバイアルの内部の気体を置換して、バイアル内を不活性雰囲気とする際には、10分程度の時間を要する。そのため、上記時間を10分未満とすると、ラジカル重合に必要となる不活性雰囲気が得られない虞がある。また、混合物中では、DMAEMAの加水分解反応が、紫外線の照射が開始される前に開始される。そのため、上記時間を1時間超とすると、ラジカル重合反応に不活性なメタクリル酸が混合物中に多数生じてしまう。
(A−1)の温度応答性ポリマーの製造方法では、混合物に水が含まれるため、DMAEMAのラジカル重合反応と、ポリ2−N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート(PDMAEMA)の側鎖のエステル結合の加水分解反応とを、拮抗させることができる。
この拮抗により、得られる生成物は、式(I)で表される繰り返し単位(A)
、及び式(II)で表される繰り返し単位(B)
を含むポリマーとなる。
そのため、ポリマーが有するカチオン性官能基、すなわち、ジメチルアミノ基と、ポリマーが有するアニオン性官能基、すなわち、側鎖のエステル結合が加水分解されてできたカルボキシル基の両方を、バランスよく備えることができる。そして、(A−1)の温度応答性ポリマーの製造方法によれば、カチオン性官能基及びアニオン性官能基を有する、ポリ(2−N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート)由来のポリマーを、少ない工程で簡便に製造することができる。
なお、(A−1)の温度応答性ポリマーの製造方法と同一の製造方法ではなくとも、DMAEMA、重合禁止剤、及び水が、紫外線照射時に反応系中に共存していれば、上記効果と同様の効果を得ることができる。
例えば、DMAEMA及び重合禁止剤を含む混合物と、水とを別々に準備し、次いで、混合物と水とに不活性ガスをバブリングし、その後、混合物と水とを不活性雰囲気下で混合すると同時に紫外線を照射するという、温度応答性ポリマーの製造方法も、(A−1)の温度応答性ポリマーに含めることができる。
−(A−1)の温度応答性ポリマー−
(A−1)の温度応答性ポリマーは、上記(A−1)の製造方法により製造される。
上記温度応答性ポリマー(A−1)は、曇点を細胞培養に適当な温度付近に維持しつつ、イオンバランスを確保する観点から、上記繰り返し単位(A)のホモポリマー領域と、上記繰り返し単位(A)と上記繰り返し単位(B)とのコポリマー領域とを有するポリマーであることが好ましい。
上記繰り返し単位(A)のホモポリマー領域と、上記繰り返し単位(A)と上記繰り返し単位(B)とのコポリマー領域とを有するポリマーの製造方法は、例えば、DMAEMAを光照射してポリマー化し、ポリマーの数平均分子量が一定値を超えた時点(例えば、ポリマーの数平均分子量が5,000Da(より好ましくは20,000Da)を超えた時点)で、アニオン性モノマーである上記繰り返し単位(B)を混合して更に光照射する方法が挙げられる。
(A−1)の温度応答性ポリマーの数平均分子量(Mn)としては、10〜500kDaが好ましい。また、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)は、1.1〜10.0が好ましい。
(A−1)の温度応答性ポリマーの分子量は、紫外線の照射時間及び照射強度の条件により、適宜調整することができる。
(A−1)の温度応答性ポリマーによれば、曇点を、例えば室温(25℃)以下に、低下させることができる。
(A−1)の温度応答性ポリマーでは、曇点以上の温度で形成された温度応答性ポリマーの不溶化物が、室温(約25℃)条件下で再溶解するまでの時間が顕著に遅延する。これは、得られた(A−1)の温度応答性ポリマーは、分子内にカチオン性官能基とアニオン性官能基とが存在するため、高い自己凝集性を有するためであると推定される。
また、この(A−1)の温度応答性ポリマーを用いて、後述するように、培養面にこの温度応答性ポリマーを被覆してなる被覆細胞培養器を調製することができる。
更に、(A−1)の温度応答性ポリマーによれば、後述するように、細胞を適切な培養条件で培養することにより、塊状、シート状、管腔状(チューブ状)の構造を有する細胞構造体を形成させることができる。
(A−1)の温度応答性ポリマーが有する、カチオン性官能基(2−N,N−ジメチルアミノ基)の官能基数と、アニオン性官能基(カルボキシル基)の官能基数との比(C/A比)は、0.5〜32であることが好ましく、4〜16であることが更に好ましい。
C/A比を上記範囲とすれば、曇点を低減させるという上記効果が得られやすい。上記C/A比を有する温度応答性ポリマーでは、上記温度応答性ポリマー中でカチオン性官能基とアニオン性官能基とが、イオン結合的に分子間及び/又は分子内の凝集に作用して、温度応答性ポリマーの凝集力が強くなった結果であると推測される。
また、C/A比を上記範囲とすれば、上記温度応答性ポリマー中の正電荷と負電荷とのバランスを特に好適にして、正電荷による細胞傷害性を抑制することができ、また、上記温度応答性ポリマーの親水性と疎水性とのバランスを特に好適にして、細胞の遊走や配向を生じやすくすることができるものと推定される。
以下、上記(A−2)の温度応答性ポリマー及びその製造方法について記載する。
−(A−2)の温度応答性ポリマーの製造方法−
(A−2)の温度応答性ポリマーの製造方法では、まず、2−N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート(DMAEMA)を含む第一混合物に紫外線を照射する(第一重合工程)。
ここで、第一混合物は、DMAEMA以外に、任意選択的に、例えば、他のモノマー、溶媒等を含んでよい。
また、紫外線は、不活性雰囲気下において、照射されてよい。
DMAEMAとしては、市販品としてよい。
第一混合物に含まれ得る上記他のモノマーとしては、例えば、N,N−ジメチルアクリルアミド、ポリエチレングリコール側鎖を有するアクリル酸やメタクリル酸のエステル、N−イソプロピルアクリルアミド、3−N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、2−N,N−ジメチルアミノエチルメタクリルアミド等が挙げられ、特に、イオンバランスの調整を安定的に行うことを可能にする観点から、N,N−ジメチルアクリルアミド、ポリエチレングリコール側鎖を有するアクリル酸やメタクリル酸のエステル、N−イソプロピルアクリルアミドが好ましい。上記他のモノマーは、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。ここで、他のモノマーの使用量のDMAEMAの使用量に対する割合(モル数)は、0.001〜1とすることが好ましく、0.01〜0.5とすることが更に好ましい。
第一混合物に含まれ得る上記溶媒としては、例えば、トルエン、ベンゼン、クロロホルム、メタノール、エタノール等が挙げられ、特に、DMAEMAのエステル結合に対して不活性であるため、トルエン、ベンゼンが好ましい。上記溶媒は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
この工程では、例えば、透明な密封バイアルに、上記第一混合物を加え、不活性ガスをバブリングすることによってバイアル内を不活性雰囲気とした後に、バイアルの外部から紫外線照射装置を用いて紫外線を照射する。
紫外線の波長としては、210〜600nmであることが好ましく、360〜380nmであることが更に好ましい。上記範囲とすれば、効率よく重合反応を進行させることができ、所期の共重合割合を有する高分子材料を安定的に得ることができる。また、製造したポリマー材料が着色することを防ぐこともできる。
紫外線の照射強度としては、0.01〜50mW/cm2であることが好ましく、0.1〜5mW/cm2であることが更に好ましい。上記範囲とすれば、無用な化学結合の切断等による分解を抑制しつつ、安定的に、適切な速度(時間)で重合反応を進行させることができる。
不活性ガスとしては、窒素、アルゴン、ヘリウム、ネオン等が挙げられる。
温度条件としては、10〜40℃あることが好ましく、20〜30℃あることが更に好ましい。上記範囲とすれば、通常の実験室の室温において反応を行うことができ、また、光とは別の手段(加熱等)により反応を抑制することが可能となる。
反応時間としては、10分〜48時間であることが好ましく、60分〜24時間であることが更に好ましい。
この工程において、DMAEMAは、紫外線の照射により、ラジカル重合して、ポリマー(ポリ(2−N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート)(PDMAEMA))となり、2−N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレートを含むホモポリマーブロックが形成される。他のモノマーも用いた場合には、DMAEMAと他のモノマーとを含むポリマーブロックが形成される。
次いで、(A−2)の温度応答性ポリマーの製造方法では、第一重合工程における重合物(具体的には、ポリマー化した2−N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート)の数平均分子量が所定値以上となった時点で、第一混合物にアニオン性モノマーを添加して第二混合物を調製する(添加工程)。
ここで、第二混合物は、第一重合工程後の第一混合物、及びアニオン性モノマー以外に、例えば、他のモノマー、前述の第一混合物に含まれ得る溶媒(トルエン、ベンゼン、メタノール等)等を含んでよい。
また、アニオン性モノマーは、不活性雰囲気下において、添加されてよい。
アニオン性モノマーとしては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、側鎖にカルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基を有するビニル誘導体等が挙げられ、特に、化学的安定性の観点から、アクリル酸、メタクリル酸が好ましい。上記アニオン性モノマーは、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
第二混合物に含まれ得る他のモノマーとしては、例えば、N,N−ジメチルアクリルアミド、ポリエチレングリコール側鎖を有するアクリル酸やメタクリル酸のエステル、N−イソプロピルアクリルアミド、3−N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、2−N,N−ジメチルアミノエチルメタクリルアミド等が挙げられ、特に、電気的に中性であり、且つ親水性である、N,N−ジメチルアクリルアミドが好ましい。上記他のモノマーは、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。ここで、他のモノマーの使用量のDMAEMAの使用量に対する割合(モル)は、0.01〜10とすることが好ましく、0.1〜5とすることが更に好ましい。
この工程では、例えば、バイアルに不活性ガスをフローさせることによってバイアル内を不活性雰囲気に保ちながら、上記第二混合物を添加する。
数平均分子量の所定値は、曇点低減の効果を十分に得る観点から、好適には5,000Daであり、更に好適には20,000Daであり、特に好適には100,000Daである。
なお、第一重合工程後の第一混合物中におけるポリマー化したPDMAEMAの数平均分子量は、所定の時点で重合系から少量の反応混合物を採取して、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)や光散乱法(SLS)等の当業者に周知の方法により、測定することができる。
この工程において、重合中のDMAEMAを含むホモポリマーに加えて、アニオン性モノマーも重合系に含められることとなり、バイアル内の重合系が、DMAEMAの単独重合系から、DMAEMAとアニオン性モノマーとの共重合系に、変わることとなる。
そして、(A−2)の温度応答性ポリマーの製造方法では、第二混合物に紫外線を照射する(第二重合工程)。
ここで、紫外線は、不活性雰囲気下において、照射されてよい。
この工程では、例えば、第二混合物を添加した後のバイアルの外部から紫外線照射装置を用いて紫外線を照射する。
第二重合工程における、紫外線の波長、紫外線の照射強度、用いる不活性ガス、反応温度、反応時間等の諸条件は、第一重合工程における条件と同様としてよい。
この工程において、DMAEMAとアニオン性モノマーとが、紫外線の照射により、ラジカル重合して、第一重合工程において形成したDMAEMAを含むホモポリマーブロックの重合鎖α末端に連続する形態で、DMAEMAとアニオン性モノマーとを含むコポリマーブロックが形成される。他のモノマーも用いた場合には、DMAEMAとアニオン性モノマーと他のモノマーとを含むコポリマーブロックが形成される。
上記の通り、DMAEMAを含むホモポリマーブロックと、DMAEMAとアニオン性モノマーとのコポリマーブロックとを含む温度応答性ポリマーが得られる。
なお、(A−2)の製造方法では、当業者に理解される通り、種々の分子量及び分子構造を有するポリマーの混合物が生成するところ、DMAEMAを含むホモポリマーブロックと、DMAEMAとアニオン性モノマーとのコポリマーブロックとを含む温度応答性ポリマーを主成分として得る観点から、第一重合工程、添加工程、及び第二重合工程に亘って、同一の条件下で重合を行うことが好ましい。
−(A−2)の温度応答性ポリマー−
(A−2)の温度応答性ポリマーは、上記(A−2)の製造方法により製造される。
(A−2)の温度応答性ポリマーは、主として2−N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレートを含み、任意選択的にジメチルアクリルアミド、ポリエチレングリコール側鎖を有するアクリル酸やメタクリル酸等の親水性モノマー等の他のモノマー単位を含むポリマーブロック(重合鎖α末端)と、主として2−N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレートとアニオン性モノマー(重合鎖ω末端)とを含み、任意選択的に他のモノマー単位を含むコポリマーブロックとを含む。
好適には、(A−2)の温度応答性ポリマーは、DMAEMAのホモポリマーブロックと、DMAEMAとアニオン性モノマーとのコポリマーブロックとを含み、更に好適には、これらブロックからなる。
(A−2)のの温度応答性ポリマーでは、DMAEMA単位、アニオン性モノマー単位の温度応答性ポリマー全体に対する割合(モル)が、それぞれ、99.99〜90、0.01〜10であることが好ましい。
他のモノマーも用いた場合には、DMAEMA単位、アニオン性モノマー単位、他のモノマー単位の温度応答性ポリマー全体に対する割合(モル)が、それぞれ、99.99〜90、0.01〜10、0.01〜10であることが好ましい。
ここで、(A−2)の温度応答性ポリマーとしては、重合鎖α末端のポリマーブロック(例えば、DMAEMAのホモポリマーブロック)の数平均分子量が5000Da以上であることが好ましく、20000Da以上であることが更に好ましい。
(A−2)の温度応答性ポリマーとしては、数平均分子量(Mn)が、10〜500kDaである分子が好ましい。また、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)は、1.1〜10.0である分子が好ましい。
温度応答性ポリマーの分子量は、紫外線の照射時間及び照射強度の条件により、適宜調整することができる。
(A−2)の温度応答性ポリマーによれば、曇点を、例えば室温(25℃)以下に、低下させることができる。
上記(A−2)の温度応答性ポリマーでは、曇点以上の温度で形成された温度応答性ポリマーの不溶化物が、室温(約25℃)条件下で再溶解するまでの時間が顕著に遅延する。これは、得られた温度応答性ポリマーは、分子内にカチオン性官能基とアニオン性官能基とが存在するため、高い自己凝集性を有するためであると推定される。
特に、(A−2)の温度応答性ポリマーは、重合鎖α末端に、高分子量(例えば、5000Da以上)を有するDMAEMAのホモポリマーブロックを備えるため、DMAEMAの側鎖の温度依存的なグロビュール転移が生じやすく、曇点を効果的に低減することが可能となると考えられる。
また、この温度応答性ポリマーを用いて、後述するように、培養面にこの温度応答性ポリマーを被覆してなる被覆細胞培養器を調製することができる。
更に、(A−2)の温度応答性ポリマーによれば、後述するように、細胞を適切な培養条件で培養することにより、塊状(ペレット状)、シート状、管腔状(チューブ状)の構造を有する細胞構造体を形成させることができる。
(A−2)の温度応答性ポリマーが有する、カチオン性官能基(2−N,N−ジメチルアミノ基)の官能基数と、アニオン性官能基(カルボキシル基)の官能基数との比(C/A比)は、0.5〜32であることが好ましく、4〜16であることが更に好ましい。
C/A比を上記範囲とすれば、曇点を低減させるという上記効果が得られやすい。上記C/A比を有する温度応答性ポリマーでは、上記温度応答性ポリマー中でカチオン性官能基とアニオン性官能基とが、イオン結合的に分子間及び/又は分子内の凝集に作用して、温度応答性ポリマーの凝集力が強くなった結果であると推測される。
また、C/A比を上記範囲とすれば、上記温度応答性ポリマー中の正電荷と負電荷とのバランスを特に好適にして、正電荷による細胞傷害性を抑制することができ、また、上記温度応答性ポリマーの親水性と疎水性とのバランスを特に好適にして、細胞の遊走や配向を生じやすくすることができるものと推定される。
以下、上記(B)の温度応答性ポリマー及びその製造方法について記載する。
−(B)の温度応答性ポリマーの製造方法−
(B)の温度応答性ポリマーの製造方法は、N−イソプロピルアクリルアミド(NIPAM)(以下、「モノマー(A)」ともいう。)と、カチオン性モノマー(以下、「モノマー(B)」ともいう。)と、アニオン性モノマー(以下、「モノマー(C)」ともいう。)とを重合させるものである。任意選択的に、上記3種類のモノマーにこれら以外の他のモノマーを加えて重合させてよい。
N−イソプロピルアクリルアミド(NIPAM)としては、市販品としてよい。
カチオン性モノマーとしては、カチオン性官能基を有するモノマーが挙げられ、カチオン性官能基としては、第1級〜第4級アミノ基等のアミノ基、グアニジン基等が挙げられ、特に、化学的安定性、低細胞傷害性、滅菌安定性、強陽電荷性の観点から、第3級アミノ基が好ましい。
より具体的には、カチオン性モノマーとしては、生理活性物質を担持したり、アルカリ性条件下においたりしても、安定性が高いものが好ましく、例えば、3−(N,N−ジメチルアミノプロピル)−(メタ)アクリルアミド、3−(N,N−ジメチルアミノプロピル)−(メタ)アクリレート、アミノスチレン、2−(N,N−ジメチルアミノエチル)−(メタ)アクリルアミド、2−(N,N−ジメチルアミノエチル)−(メタ)アクリレート等が挙げられる。
これらの中で、特に、3−(N,N−ジメチルアミノプロピル)アクリルアミドは、高い陽電荷強度を有することから、アニオン性物質の担持を容易にするため、好ましい。
また、アミノスチレンは、高い陽電荷強度を有することから、アニオン性物質の担持を容易にすると共に、分子内の芳香環が水溶液中において他の物質の疎水性構造と相互作用することから、担持可能なアニオン性物質のバリエーションを広げるため、好ましい。
更に、2−(N,N−ジメチルアミノエチル)−メタクリルアミドは、中性域のpHで微弱な陽電荷を有し、且つ、水への溶解性が温度に影響されないことから、一度担持したアニオン性物質の放出を容易にするため、好ましい。
カチオン性モノマーは、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
アニオン性モノマーとしては、アニオン性官能基を有するモノマーが挙げられ、アニオン性官能基としては、カルボン酸基、スルホン酸基、硫酸基、リン酸基、ボロン酸基等が挙げられ、特に、化学的安定性、細胞親和性、高い精製度の観点から、カルボン酸基、スルホン酸基、リン酸基が好ましい。
より具体的には、アクリル酸、メタクリル酸、ビニル安息香酸等が挙げられ、特に、化学的安定性、細胞親和性の観点から、メタクリル酸、ビニル安息香酸が好ましい。
アニオン性モノマーは、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
他のモノマーとしては、例えば、ジメチルアクリルアミド、ポリエチレングリコール側鎖を有するアクリル酸やメタクリル酸等の中性の親水性モノマー等が挙げられる。
他のモノマーは、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
他のモノマーは、電荷以外の親水性・疎水性のバランスの調整に使用可能であり、バリエーションを広げることが可能となる。
ここで、(B)の温度応答性ポリマーの製造方法におけるNIPAMの使用量のモノマー(A)〜(C)の合計の使用量に対する割合(モル)は、0.01〜90とすることが好ましく、0.1〜10とすることが更に好ましく、0.9とすることが特に好ましい。
カチオン性モノマーの使用量のモノマー(A)〜(C)の合計の使用量に対する割合(モル)は、0.01〜90とすることが好ましく、0.1〜10とすることが更に好ましい。
アニオン性モノマーの使用量のモノマー(A)〜(C)の合計の使用量に対する割合(モル)は、0.01〜10とすることが好ましく、0.1〜10とすることが更に好ましい。
他のモノマーの使用量のモノマー(A)〜(C)の合計の使用量に対する割合(モル)は、0.01〜10とすることが好ましく、0.1〜10とすることが更に好ましい。
ここで、重合方法としては、ラジカル重合、イオン重合等が挙げられる。
ラジカル重合としては、リビングラジカル重合が好ましく、リビングラジカル重合としては、可逆的付加開裂連鎖移動(RAFT)重合、原子移動ラジカル重合(ATRP)、イニファーター重合等が挙げられ、イニファーター重合が好ましい。
イオン重合としては、リビングアニオン重合が好ましい。
(B)の温度応答性ポリマーの製造方法の一例は、ラジカル重合を用いる方法である。
この製造方法の一例では、まず、N−イソプロピルアクリルアミド(NIPAM)を含む第一混合物に紫外線を照射する(第一重合工程)。
ここで、第一混合物は、DMAEMA以外に、任意選択的に、例えば、他のモノマー、溶媒、連鎖移動剤、安定剤、界面活性剤等を含んでよい。
また、紫外線は、不活性雰囲気下において、照射されてよい。
この工程では、例えば、透明な密封バイアルに、上記第一混合物を加え、不活性ガスをバブリングすることによってバイアル内を不活性雰囲気とした後に、バイアルの外部から紫外線照射装置を用いて紫外線を照射する。
溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエン、クロロホルム、メタノール、水等が挙げられ、特に、溶解力の点、及び重合に不活性である点から、ベンゼン、トルエンが好ましい。溶媒は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
この工程では、例えば、透明な密封バイアルに、上記第一混合物を加え、不活性ガスをバブリングすることによってバイアル内を不活性雰囲気とした後に、バイアルの外部から紫外線照射装置を用いて紫外線を照射する。
紫外線の波長としては、210〜600nmであることが好ましく、360〜380nmであることが更に好ましい。上記範囲とすれば、効率よく重合反応を進行させることができ、所期の共重合割合を有する高分子材料を安定的に得ることができる。また、製造したポリマー材料が着色することを防ぐこともできる。
紫外線の照射強度としては、0.01〜100mW/cm2であることが好ましく、0.1〜10mW/cm2であることが更に好ましい。上記範囲とすれば、分解などの副反応を抑制しながら効率良く重合反応を進行させることができる。
不活性ガスとしては、窒素、アルゴン、ヘリウム、ネオン等が挙げられる。
温度条件としては、10〜50℃であることが好ましく、20〜30℃であることが更に好ましい。上記範囲とすれば、省エネルギーであること、温度制御が容易であること、反応が効率良く進行すること、熱反応ルートでの重合反応を抑制できることができる。
反応時間としては、1分間〜720時間であることが好ましく、1〜48時間であることが更に好ましい。上記範囲とすれば、目的の分子量まで副反応を抑制しながら効率良く重合反応を進行させることができる。
この工程において、NIPAMは、紫外線の照射により、ラジカル重合して、ポリマー(ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)(PNIPAM))となり、N−イソプロピルアクリルアミドを含むホモポリマーブロックが形成される。他のモノマーも用いた場合には、NIPAMと他のモノマーとを含むポリマーブロックが形成される。
次いで、(B)の温度応答性ポリマーの製造方法では、第一重合工程後の第一混合物にカチオン性モノマーとアニオン性モノマーとを添加して第二混合物を調製する(添加工程)。
ここで、第二混合物は、第一重合工程後の第一混合物、カチオン性モノマー、及びアニオン性モノマー以外に、例えば、他のモノマー、溶媒、連鎖移動剤、安定剤、界面活性剤等を含んでよい。
また、カチオン性モノマーとアニオン性モノマーとは、不活性雰囲気下において、添加されてよい。
この工程では、例えば、バイアルに不活性ガスをフローさせることによってバイアル内を不活性雰囲気に保ちながら、上記カチオン性モノマーとアニオン性モノマーとを添加する。
この工程において、重合中のNIPAMを含むホモポリマーに加えて、カチオン性モノマー及びアニオン性モノマーも重合系に含められることとなり、バイアル内の重合系が、NIPAMの単独重合系から、NIPAMとカチオン性モノマーとアニオン性モノマーとの共重合系に、変わることとなる。
そして、(B)の温度応答性ポリマーの製造方法では、第二混合物に紫外線を照射する(第二重合工程)。
ここで、紫外線は、不活性雰囲気下において、照射されてよい。
この工程では、例えば、カチオン性モノマーとアニオン性モノマーとを添加した後のバイアルの外部から紫外線照射装置を用いて紫外線を照射する。
紫外線の波長としては、210〜600nmであることが好ましく、360〜380nmであることが更に好ましい。上記範囲とすれば、効率よく重合反応を進行させることができ、所期の共重合割合を有する高分子材料を安定的に得ることができる。また、製造したポリマー材料が着色することを防ぐこともできる。
紫外線の照射強度としては、0.01〜100mW/cm2であることが好ましく、0.1〜10mW/cm2であることが更に好ましい。
不活性ガスとしては、窒素、アルゴン、ヘリウム、ネオン等が挙げられる。
温度条件としては、10〜50℃であることが好ましく、20〜30℃であることが更に好ましい。上記範囲とすれば、通常の実験室の室温において重合反応を行うことを可能とすることができ、また、光照射という手段とは別の加熱という手段での反応制御を可能とすることもできる。
反応時間としては、1分間〜720時間であることが好ましく、1〜48時間であることが更に好ましい。
この工程において、NIPAMとカチオン性モノマーとアニオン性モノマーとが、紫外線の照射により、ラジカル重合して、第一重合工程において形成したNIPAMを含むホモポリマーブロックの重合鎖α末端に連続する形態で、NIPAMとカチオン性モノマーとアニオン性モノマーとを含むコポリマーブロックが形成される。他のモノマーも用いた場合には、NIPAMと他のモノマーとを含むポリマーブロック、及び/又は、NIPAMとカチオン性モノマーとアニオン性モノマーと他のモノマーとを含むコポリマーブロックが形成される。
上記の通り、NIPAMを含むホモポリマーブロックと、NIPAMとカチオン性モノマーとアニオン性モノマーとのコポリマーブロックとを含む温度応答性ポリマーが得られる。
なお、この一例の製造方法では、効率的な反応を実現する観点から、第一重合工程、添加工程、及び第二重合工程に亘って紫外線を照射することが好ましい。
(B)の温度応答性ポリマーの製造方法の別の例は、ラジカル重合を用いる方法であり、N−イソプロピルアクリルアミド(NIPAM)と、カチオン性モノマーと、アニオン性モノマーと、任意選択的に他のモノマーを含む混合物に紫外線を照射する。
ここで、上記混合物は、例えば、溶媒、連鎖移動剤、安定剤、界面活性剤等を含んでよい。
また、紫外線は、不活性雰囲気下において、照射されてよい。
他の条件については、前述の一例の製造方法と同様としてよい。
−(B)の温度応答性ポリマー−
(B)の温度応答性ポリマーは、上記(B)の製造方法により製造される。
(B)の温度応答性ポリマーは、N−イソプロピルアクリルアミド(NIPAM)単位と、カチオン性モノマー単位と、アニオン性モノマー単位とを含み、任意選択的に、他のモノマー単位を含む。本ポリマーは、前述の一例、別の例の製造方法により製造することができる。
好適には、(B)の温度応答性ポリマーは、主としてN−イソプロピルアクリルアミド(NIPAM)単位を含み、任意選択的に他のモノマー単位を含むポリマーブロック(重合鎖α末端)と、主としてカチオン性モノマー単位と、アニオン性モノマー単位とを含み、任意選択的に他のモノマー単位を含むコポリマーブロックとを含む。更に好適には、(B)の温度応答性ポリマーは、NIPAMのホモポリマーブロックと、NIPAMとカチオン性モノマーとアニオン性モノマーとのコポリマーブロックとを含み、特に好適には、これらブロックからなる。本ポリマーは、前述の一例の製造方法により製造することができる。
例えば、従来の温度応答性ポリマーでは、ポリマーに温度応答性を与えるDMAEMAが、同時に、(アニオン性モノマーと共に)細胞構造体の形成に必要となるカチオン性モノマーであり、また、温度応答性に関わるDMAEMAはポリマーブロックとして重合鎖α末端に含まれている。
かかる温度応答性ポリマーでは、重合鎖α末端に必ずカチオン性モノマーが存在することから、重合鎖中におけるカチオン性サイトの位置の調整の自由度が高くはなく、また、カチオン性モノマーが主としてDMAEMAに限られることから、カチオン性サイトの陽電荷強度の調整や、温度応答性ポリマー水溶液のpHの調整も必ずしも容易とは言えなかった。
例えば、温度応答性ポリマーを薬物送達(DDS)に用いた場合、担持可能な薬剤の種類や量が限られる可能性があった。DDSの手法としては、例えば、細胞培養器に薬剤を担持させた温度応答性ポリマーを塗布して、塗布後の細胞培養器で細胞や組織を培養することによって、被覆物から細胞・組織に対して薬剤を徐放するといった手法等が挙げられる。ここで、上記従来の温度応答性ポリマーでは、陽電荷強度が小さいDMAEMAを含むため、アニオン性物質の薬剤の担持は必ずしも容易とは言えず、担持可能な薬剤の種類や量が限られる可能性があった。
一方、(B)の温度応答性ポリマーでは、ポリマーに温度応答性を与えるNIPAMは中性のモノマーであり、(アニオン性モノマーと共に)細胞構造体の形成に必要となるカチオン性モノマーはNIPAMとは異なるモノマーである。
(B)の温度応答性ポリマーでは、重合鎖α末端に必ずしもカチオン性モノマーが存在する必要はなく、重合鎖中におけるカチオン性サイトの位置を自由に調整することが可能であり、また、広範なカチオン性モノマーを用いることができるため、カチオン性サイトの陽電荷強度や温度応答性ポリマー水溶液のpHを容易に調整することが可能である。
(B)の温度応答性ポリマーによれば、例えば、温度応答性ポリマーを薬物送達(DDS)に用いた場合、担持可能な薬剤の種類を拡大しつつ、その量を増加させることが可能となり、ひいては、温度応答性ポリマーの応用範囲を拡大することができる。
(B)の温度応答性ポリマーでは、NIPAM単位、カチオン性モノマー単位、アニオン性モノマー単位の合計に対する、NIPAM単位の割合(モル)が、0.6〜0.9であることが好ましく、0.7〜0.9であることが更に好ましく、0.9であることが特に好ましい。
他のモノマーも用いた場合には、NIPAM単位、カチオン性モノマー単位、アニオン性モノマー単位の合計に対する、他のモノマー単位の割合(モル)が、0.001〜0.2であることが好ましく、0.01〜0.1であることが更に好ましい。
(B)の温度応答性ポリマーとしては、重合鎖α末端のポリマーブロック(例えば、NIPAMのホモポリマーブロック)の数平均分子量が5000Da以上であることが好ましく、20000Da以上であることが更に好ましい。
(B)の温度応答性ポリマーとしては、数平均分子量(Mn)が、10〜500kDaである分子が好ましい。また、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)は、1.1〜10.0である分子が好ましい。
温度応答性ポリマーの分子量は、重合条件により、適宜調整することができる。
(B)の温度応答性ポリマーによれば、曇点を、例えば室温(25℃)以下に、低下させることができる。
上記温度応答性ポリマーでは、曇点以上の温度で形成された温度応答性ポリマーの不溶化物が、室温(約25℃)条件下で再溶解するまでの時間が顕著に遅延する。これは、得られた温度応答性ポリマーは、分子内にカチオン性官能基とアニオン性官能基とが存在するため、高い自己凝集性を有するためであると推定される。
特に、前述の(B)の好適な温度応答性ポリマーは、重合鎖α末端に、高分子量を有するNIPAMのホモポリマーブロックを備えるため、NIPAMの側鎖の温度依存的なグロビュール転移が生じやすく、曇点を効果的に低減することが可能となると考えられる。
また、この温度応答性ポリマーを用いて、後述するように、培養面にこの温度応答性ポリマーを被覆してなる被覆細胞培養器を調製することができる。
更に、(B)の温度応答性ポリマーによれば、後述するように、細胞を適切な培養条件で培養することにより、塊状(ペレット状)、シート状、管腔状(チューブ状)の構造を有する細胞構造体を形成させることができる。
(B)の温度応答性ポリマーが有する、カチオン性官能基の官能基数と、アニオン性官能基の官能基数との比(C/A比)は、0.5〜32であることが好ましく、4〜16であることが更に好ましい。
C/A比を上記範囲とすれば、曇点を低減させるという上記効果が得られやすい。上記C/A比を有する温度応答性ポリマーでは、上記温度応答性ポリマー中でカチオン性官能基とアニオン性官能基とが、イオン結合的に分子間及び/又は分子内の凝集に作用して、温度応答性ポリマーの凝集力が強くなった結果であると推測される。
また、C/A比を上記範囲とすれば、上記温度応答性ポリマー中の正電荷と負電荷とのバランスを特に好適にして、正電荷による細胞傷害性を抑制することができ、また、上記温度応答性ポリマーの親水性と疎水性とのバランスを特に好適にして、細胞の遊走や配向を生じやすくすることができるものと推定される。
−−(C)の温度応答性ポリマー組成物の製造方法−−
以下、上記(C)の温度応答性ポリマー及びその製造方法について記載する。
(C)の温度応答性ポリマー組成物の製造方法は、まず、混合型温度応答性ポリマー組成物を調製する(組成物調製工程)。具体的には、(1)2−N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート(DMAEMA)及び/又はその誘導体の重合体と、(2)2−アミノ−2−ヒドロキシメチル−1,3−プロパンジオール(トリス)と、(3)核酸、ヘパリン、ヒアルロン酸、デキストラン硫酸、ポリスチレンスルホン酸、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリリン酸、硫酸化多糖類、カードラン及びポリアルギン酸並びにこれらのアルカリ金属塩からなる群から選択される一種以上のアニオン性物質とを混合する((2)トリスは任意選択的に含む。)。
(1)のDMAEMA及び/又はその誘導体の重合体は、温度応答性ポリマーであり、その曇点は32℃である。(2)のトリスは、曇点の若干の低下、及び/又は曇点よりも高温で形成されたポリマーが、曇点以下に冷却された際に再溶解する速度を低減させる役割を果たし、また、疎水化されたポリマー層中でも親水性を維持しながら、アミノ基に由来する陽電荷により細胞に刺激を与える役割を果たすと推定される。(3)のアニオン性物質は、培養する細胞の遊走や配向を可能にする役割や細胞傷害性を抑制する役割を果たすと推定される。
この混合型温度応答性ポリマー組成物によれば、曇点を室温(25℃)以下に低減させることができる。
上記組成物では、DMAEMA及び/又はその誘導体の重合体の側鎖とトリスとが、互いに相互作用(例えば、架橋する作用)して、上記重合体が凝集しやすくなっていると推定される。
ここで、上記(1)について、DMAEMA及び/又はその誘導体の重合体としては、数平均分子量(Mn)が、10kDa〜500kDaである分子が好ましい。また、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)は、1.1〜6.0である分子が好ましい。
また、(1)のDMAEMAの誘導体としては、例えば、メタクリレートのメチル基の水素原子をハロゲン置換した誘導体、メタクリレートのメチル基を低級アルキル基で置換した誘導体、ジメチルアミノ基のメチル基の水素原子をハロゲン置換した誘導体、ジメチルアミノ基のメチル基を低級アルキル基で置換した誘導体等が挙げられる。
上記(2)について、トリスは、純度99.9%以上の純物質であるか、又は、トリス水溶液を、アルカリ性物質の添加などにより、使用時に中性又は塩基性とすることが好ましい。トリスは、塩酸塩の状態で市販されているところ、これを用いた場合には、トリス水溶液のpHが下がるため、組成物の曇点が70℃程度にまで上昇してしまう。そのため、トリス塩酸塩は好ましくない。
上記(3)に列挙したアニオン性物質のうち、核酸は、DNA、RNA、その他1本鎖、2本鎖、オリゴ体、ヘアピンなどの人工核酸などが挙げられる。
また、上記(3)に列挙したアニオン性物質は、ある程度の大きさ、例えば1kDa〜5,000kDaの分子量(M)を有していることが好ましい。
分子量を上記範囲とすれば、アニオン性物質は、カチオン性物質とイオン結合して、カチオン性物質を、長時間捕捉する役割を果たすことができ、安定したイオン複合体微粒子を形成させることがでる。また、一般的にカチオン性物質が有する、細胞の細胞膜表面に対する静電的相互作用に起因する細胞傷害性を緩和することもできる。
(3)に列挙したアニオン性物質の他にも、例えば、カチオン性ポリマーであるポリ(4−アミノスチレン)の4−位のアミノ基に対してシュウ酸などのジカルボン酸を脱水縮合させることによって、アニオン性官能基を導入した、実質的にアニオン性物質として機能するポリマー誘導体も、用いることができる。
なお、上記(3)に列挙したアニオン性物質は、二種以上含まれていてもよい。
ここで、(1)2−N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート(DMAEMA)及び/又はその誘導体の重合体に対する、(2)2−アミノ−2−ヒドロキシメチル−1,3−プロパンジオール(トリス)の割合((2)/(1))が、1.0以下とした混合型温度応答性ポリマー組成物を用いることが好ましい。
なお、割合((2)/(1))は、重量割合であるものとする。
上記割合の混合型温度応答性ポリマー組成物を用いた場合、塊状の細胞構造体を形成しやすくすることができる。
この組成物によれば、上記組成物の親水性と疎水性とのバランスを更に好適にすることができる。そして、この好適なバランスが、培養面への細胞の接着性を好適に調整し、細胞の遊走や配向を活性化していると推定される。
また、上記割合((2)/(1))は、0.1以上あることが好ましい。
上記割合を0.1以上とすることにより、曇点を低減させるという上記効果が得られやすい。また、細胞構造体を形成しやすくするという上記効果が得られやすい。
上記と同様の理由により、上記割合((2)/(1))は、0.1〜0.5であることが更に好ましい。
ここで、温度応答性ポリマー組成物中のC/A比(正電荷/負電荷)が、0.5〜16であることが好ましい。
なお、本願明細書では、C/A比とは、組成物中に含まれる物質が有する正電荷の、組成物中に含まれる物質が有する負電荷に対する割合を指す。具体的には、C/A比は、(1)DMAEMA及び/又はその誘導体の重合体のモル数をN1、(3)アニオン性物質のモル数をN3としたときに、{(重合体1分子当たりの正電荷)×N1}/{(アニオン性物質1分子当たりの負電荷)×N3}という式で表される。
またなお、本願明細書では、アニオン性物質をDNAとした場合、アニオン性物質1分子当たりの負電荷数は、DNAの塩基対の数(bp数)×2で計算し、分子量(Da)は、bp数×660(ATペア及びCGペアの平均分子量)で計算するものとする。
C/A比を0.5〜16とすることにより、塊状の細胞構造体を形成させやすくするという上記効果が得られやすくなる。
上記組成物中の正電荷と負電荷とのバランスを好適にして、正電荷による細胞傷害性を抑制することができると推定される。また、上記組成物の親水性と疎水性とのバランスを更に好適にして、細胞の遊走や配向を生じやすくすることができると推定される。
上記と同様の理由により、上記C/A比は、2〜10とすることが更に好ましく、特にC/A比は8付近であることが最も好ましい。
[カプセル化細胞構造体]
本発明のカプセル化細胞構造体は、上記カプセル化細胞構造体の製造方法により製造させることが好ましい。また、本発明のカプセル化細胞構造体は、細胞Iからなる塊状細胞構造体の少なくとも一部を細胞IIからなるシート状細胞構造体で包んでなることが好ましい。
本発明の実施態様のカプセル化細胞構造体は、内部に少なくとも1個の塊状細胞構造体を含み、該塊状細胞構造体が細胞IIによって隙間なく包み込まれた構造を有していることが好ましい。
本発明の実施態様のカプセル化細胞構造体の大きさは、例えば、外径が0.05〜2.5mmであることが好ましい。
本発明の実施態様のカプセル化細胞構造体は、1〜150万個の塊状細胞構造体を包み込んだ構造を有することが好ましい。
本発明の実施態様のカプセル化細胞構造体は、例えば、壊死した患部の組織再生等を目的とした再生医療等の用途に用いることができる。
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
(実施例1)
(試験A)温度応答性ポリマーI液の調製
容量50mLの軟質ガラス製の透明なバイアル瓶に、2−(N,N−ジメチルアミノエチル)メタクリレート7.0gを加えて、磁気撹拌器を用いて撹拌した。そして、この混合物(液体)に対してG1グレードの高純度(純度:99.99995%)の窒素ガスを10分間パージ(流速:2.0L/分)することにより、この混合物を脱酸素した。
その後、この反応物に対して、丸型ブラック蛍光灯(NEC社製、型番FCL20BL、18W)を用いて、21時間紫外線照射することにより、上記反応物を、溶媒を用いることなく(すなわち、ニート条件下で)、重合させた。反応物は、5時間後に粘性を帯び、15時間後に固化して、重合体が、反応生成物として得られた。この反応生成物を、クロロホルムに溶解させ、その後、n−ヘキサンを用いて再沈殿させた。クロロホルム/n−ヘキサンを用いた上記再沈殿を、計6回繰り返すことにより、反応生成物を精製した。
精製した重合体をエバポレーションすることにより、その中に残留する溶媒を除去した。その後、重合体を150mLのベンゼンに溶解させ、PTFE製の0.45μmフィルター(ポール社製、型番:Ekicrodisk 25CR)で濾過し、得られた濾液を凍結乾燥させることにより、カチオン性の温度応答性ポリマーが得られた(収量4.3g、転化率:61.4%)。このポリマーの数平均分子量(Mn)を、GPC(島津社製、型番:LC−10vpシリーズ)を用いて、ポリエチレングリコール(Shodex社製、TSKシリーズ)を標準物質として測定し、Mn=1.0×105g/mol(DMAEMAに相当する構成単位(モル)/メタクリレートに相当する構成単位(モル)=9)と決定した。
また、このポリマーの核磁気共鳴スペクトル(NMR)を、核磁気共鳴装置(Varian社製、型番:Gemini300)を用いて、重水(D2O)中で測定した。結果は下記の通りである。
1H-NMR (in D2O) δ 0.8-1.2 (br, 3H, -CH2-C(CH3)-), 1.6-2.0 (br, 2H, -CH2-C(CH3)-), 2.2-2.4 (br, 6H, -N(CH3)2), 2.5-2.7 (br, 2H, -CH2-N(CH3)2), 4.0-4.2 (br, 2H, -O-CH2-)
そして、ポリマーをダルベッコPBS緩衝溶液(ギブコ社、製品コード:14190136)に溶解して、温度応答性ポリマーI液(終濃度15ng/μL)を調製した。
(試験B)被覆細胞培養器Iの調製
温度応答性ポリマーI液を4℃まで冷却して液体状態とし、24ウェル細胞培養プレート(イワキ社製、1ウェル当たりの底面積:200mm2)の1ウェルの略中心部に、温度応答性ポリマーI液を1μL、室温下で滴下して、細胞インキュベーター(37℃、5%CO2)中で6時間インキュベートして被覆細胞培養器Iを得た。
(試験C)塊状細胞構造体の調製
細胞Iとしての、細胞蛍光標識剤(シグマ社、CellVue CFRFセルリンカーキット、品番41M0849)で標識した、ルイスラット脂肪組織由来間葉系幹細胞(ADSC(Adipose−derived vascular stromal cell))を、完全培地(ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)+10%ウシ胎児血清(FCS)溶液、DMEM:ギブコ社製、型番11965、FCS:インビトロゲン社製、ロット番号715929)中に浮遊させ、細胞密度が6×103個/mm2にとなるように、上記被覆細胞培養器Iの温度応答性ポリマーI液が塗布されたスポットへ1μL滴下した。
その後、細胞インキュベーター(37℃、5%CO2)中で、24時間インキュベートしたところ、塊状細胞構造体が形成された。
(試験D)温度応答性ポリマーII液の調製
一方、試験Aで調製した温度応答性ポリマーIと、細胞接着分子としてのフィブロネクチン(シグマ社製品)をPBSで希釈して、温度応答性ポリマーII液(終濃度は、温度応答性ポリマー濃度15ng/μL、フィブロネクチン濃度100ng/μL)を調製した。
(試験E)被覆細胞培養器IIの調製
温度応答性ポリマーII液を4℃まで冷却して液体状態とし、24ウェル細胞培養プレート(イワキ社製、1ウェル当たりの底面積:200mm2)の1ウェルの略中心部に、温度応答性ポリマーII液を6μL、室温下で滴下して、細胞インキュベーター(37℃、5%CO2)中で6時間インキュベートして被覆細胞培養器IIを得た。
(試験F)シート状細胞構造体の調製
細胞IIとしてのGFP組換えルイスラット脂肪組織由来間葉系幹細胞(ADSC(Adipose−derived vascular stromal cell))を、完全培地(ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)+10%ウシ胎児血清(FCS)溶液、DMEM:ギブコ社製、型番11965、FCS:インビトロゲン社製、ロット番号715929)中に浮遊させ、細胞密度が6×103個/mm2にとなるように、上記被覆細胞培養器IIの温度応答性ポリマーII液が塗布されたスポットへ6μL滴下した。
その後、細胞インキュベーター(37℃、5%CO2)中で、3時間インキュベートしたところ、細胞IIがシート状細胞構造体を形成した。
(試験G)カプセル化細胞構造体の調製
上記細胞IIからなるシート状細胞構造体の中心部に、上記塊状細胞構造体を1個のせ、さらに21時間インキュベートしたところ、塊状細胞構造体が細胞IIで完全に覆われた、外径が500μmのカプセル化細胞構造体が得られた。
(実施例2)
シート状細胞構造体の中心部に、上記塊状細胞構造体を2個のせた以外は、実施例1と同様にしてカプセル化細胞構造体を得た。カプセル化細胞構造体の外径は500μmであった。
(実施例3)
細胞Iとして、ビーグル犬由来の心筋細胞、細胞IIとして、ビーグル犬皮下脂肪由来の間葉系幹細胞を用いた以外は、実施例1と同様にしてカプセル化細胞構造体を得た。カプセル化細胞構造体の外径は500μmであった。
(実施例4)
温度応答性ポリマーII液のフィブロネクチン濃度を500ng/μLとした以外は、実施例1と同様にしてカプセル化細胞構造体を得た。
温度応答性ポリマーII液を塗布したスポット上で細胞IIはシート状細胞構造体の形状を維持したまま9時間以上維持され、端部からの剥離現象は不均質に起こり、最終的には均質な真球状のカプセル化細胞構造体とならなかったものの、塊状細胞構造体がわずかに露出したカプセル化細胞構造体が得られた(外径500μm)。
(実施例5)
温度応答性ポリマーII液のフィブロネクチン濃度を50ng/μLとした以外は、実施例1と同様にしてカプセル化細胞構造体を得た。
温度応答性ポリマーII液を塗布したスポット上で細胞IIはシート状細胞構造体の形状を維持したまま9時間以上維持され、端部からの剥離現象は不均質に起こり、最終的には均質な真球状のカプセル化細胞構造体とならなかったものの、塊状細胞構造体がわずかに露出したカプセル化細胞構造体が得られた(外径500μm)。
(実施例6)
温度応答性ポリマーII液にフィブロネクチンを加えなかった以外は、実施例1と同様の操作を行った。(試験F)において、細胞IIがあまり反り返らず、得られたカプセル化細胞構造体は、塊状細胞構造体が部分的に露出した不均質なカプセル化細胞構造体となった(外径500μm)。
(比較例1)
実施例1と同様にして試験A〜Cを行い、試験D、Eにおいて、温度応答性ポリマー液IIを用いずに、24ウェル細胞培養プレート(イワキ社製、1ウェル当たりの底面積:200mm2)をそのまま使用した。試験Fで、実施例1と同様にしてルイスラット脂肪組織由来間葉系幹細胞を播種、培養したところ、細胞IIは、シート状細胞構造体を形成したが、そのまま単層のシート状構造を維持し、端部が培養面から離れず、カプセル化細胞構造体が得られなかった。
[評価]
(外観)
実施例及び比較例で得られたカプセル化細胞構造体を蛍光顕微鏡(オリンパス社、IX−71)で観察し、以下の基準で外観の評価を行った。
◎(優れる):全ての塊状細胞構造体が、細胞IIのシート状細胞構造体で完全に覆われていた。また、カプセル化細胞構造体全体に亘って細胞IIがほぼ均一の厚さに分布していた。
○(良好):塊状細胞構造体が、細胞IIのシート状細胞構造体で覆われていたが、わずかに塊状細胞構造体が露出しており、細胞IIの厚さが不均質なカプセル化細胞構造体が見られた。なお、塊状細胞構造体の露出面積は、塊状細胞構造体の全表面積に対して、5%未満であった。
△(普通):塊状細胞構造体が、細胞IIのシート状細胞構造体で覆われていたが、部分的に塊状細胞構造体が露出しており、細胞IIの厚さが不均質なカプセル化細胞構造体が見られた。なお、塊状細胞構造体の露出面積は、塊状細胞構造体の全表面積に対して、5%以上20%以下であった。
×(不良):細胞IIが塊状細胞構造体を包むように自己凝集せず、カプセル化細胞構造体を形成できなかった。
(カプセル化細胞構造体の外径)
実施例及び比較例で得られたカプセル化細胞構造体を蛍光顕微鏡(オリンパス社、IX−71)で観察し、最大の外径(μm)を測定し、カプセル化細胞構造体の外径(μm)とした。
実施例1〜6のカプセル化細胞構造体を、他の細胞培養器に播種したところ、細胞I及び細胞IIは培養面上に拡散、増殖し、カプセル化細胞構造体内の細胞は生きていることを確認した。
1 温度応答性ポリマーIによる被覆部
2 細胞I
3 塊状細胞構造体
4 温度応答性ポリマーIIによる被覆部
5 細胞II
6 シート状細胞構造体
7 端部反り返り細胞構造体
8 カプセル化細胞構造体

Claims (4)

  1. 温度応答性ポリマーI又は温度応答性ポリマー組成物Iで、細胞培養器の培養面を被覆して、被覆細胞培養器Iを準備する第一の準備工程と、
    前記被覆細胞培養器Iに、細胞Iを播種、培養し、少なくとも1個の塊状細胞構造体を得る第一の培養工程と、
    温度応答性ポリマーII又は温度応答性ポリマー組成物IIで、細胞培養器の培養面を被覆して、被覆細胞培養器IIを準備する第二の準備工程と、
    前記被覆細胞培養器IIに、細胞IIを播種、培養し、シート状細胞構造体を得る第二の培養工程と、
    前記細胞II上に少なくとも1個の前記塊状細胞構造体をのせ、前記塊状細胞構造体を前記シート状細胞構造体で包んだカプセル化細胞構造体を得る形成工程と、
    を含むことを特徴とする、カプセル化細胞構造体の製造方法。
  2. 前記第二の準備工程において、前記温度応答性ポリマーII又は前記温度応答性ポリマー組成物II、及び細胞接着分子で細胞培養器の培養面を被覆する、請求項1に記載のカプセル化細胞構造体の製造方法。
  3. 前記細胞Iが心筋細胞であり、前記細胞IIが間葉系幹細胞であり、前記細胞接着分子がフィブロネクチンである、請求項2に記載のカプセル化細胞構造体の製造方法。
  4. 細胞Iからなる塊状細胞構造体の少なくとも一部を細胞IIからなるシート状細胞構造体で包んでなることを特徴とする、カプセル化細胞構造体。
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* Cited by examiner, † Cited by third party
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WO2023282273A1 (ja) * 2021-07-05 2023-01-12 慶應義塾 細胞培養方法

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