≪第1の実施形態≫
以下、本発明の第1の実施形態に係る電動補助装置及び電動補助自転車を、図面を参照して具体的に説明する。
図1は、第1の実施形態に係る電動補助自転車の構成を示す側面図である。図1に示すように、本実施形態に係る電動補助自転車1は、フレーム10を備えている。フレーム10は、フロントフォーク11、ヘッドパイプ12、及びダウンチューブ13を備えている。さらに、フレーム10は、シートチューブ14、シートステー15、及びチェーンステー16を備えている。なお、以下の説明にあたり、電動補助自転車1の通常の走行方向に合わせて、電動補助自転車1の前側(図1の右側)を前側、電動補助自転車1の後側(図1の左側)を後側として説明する。
フロントフォーク11は、電動補助自転車1の前部に配置されており、フロントフォーク11の上端部にヘッドパイプ12が接続されている。また、ヘッドパイプ12における後部側には、ダウンチューブ13の一端部が接続されている。さらに、ヘッドパイプ12におけるダウンチューブ13が接続された部位の直上部には、シートチューブ14が接続されている。
シートチューブ14は、前後方向部材14Aと、上下方向部材14Bとを備えている。前後方向部材の14Aは、略前後方向に延在しながら、後方に行くにしたがってやや下降する傾斜を備えている。また、上下方向部材14Bは、略上下方向に延在しながら後方に行くに上方が後方にやや傾いている。前後方向部材14Aにおける後端部が上下方向部材14Bにおける下端位置に接合されることでシートチューブ14が形成されている。また、前後方向部材14Aにおける一端部がヘッドパイプ12に接続されており、上下方向部材14Bの下端部と、ダウンチューブ13の他端部とが接続されている。
シートチューブ14の上下方向部材14Bにおける上端部の後部側には、シートステー15の一端部が接続されており、シートチューブ14の下端部の後部側には、チェーンステー16の一端部が接続されている。そして、シートステー15の他端部とチェーンステー16の他端部とが互いに接続されている。
フレーム10におけるフロントフォーク11には、前輪21が回動可能に取り付けられており、シートステー15とチェーンステー16との接続部には、後輪22が回動可能に取り付けられている。後輪22には、図示しないスプロケット(以下「後方スプロケット」という)が後輪22と同軸上に配置されて取り付けられている。
また、ヘッドパイプ12には、ハンドルステム23が挿通されている。ハンドルステム23は、ヘッドパイプ12に対して回動可能とされている。さらに、ハンドルステム23の上端にはハンドル24が取り付けられている。また、シートチューブ14における上下方向部材14Bにはシートポスト25が嵌め込まれている。このシートポスト25の上端にはサドル26が取り付けられている。
さらに、シートチューブ14とチェーンステー16との接続部には、図示しないスプロケット(以下「前方スプロケット」という)を介してクランク27の一端部が取り付けられており、クランク27の他端部には、ペダル28が取り付けられている。クランク27は、左右方向(図1の紙面を貫く方向)に沿った回動軸周りに回動可能とされている。また、ペダル28は、クランク27の他端部に位置し、左右方向に沿った回動軸周りに回動可能とされている。なお、クランク27及びペダル28は、図示されたクランク27及びペダル28の左右対称位置にも設けられている。このため、電動補助自転車1は、1組のクランク27及びペダル28を備えている。
前方スプロケット及び後方スプロケットには、チェーン29が巻きまわされている。ペダル28に運転者等の踏力が加えられると、前方スプロケットが回転する。前方スプロケットの回転は、チェーン29を介して後方スプロケットに伝達されて後方スプロケットが回転し、後方スプロケットの回転によって後輪22が回転する。
他方、前輪21の車軸には、補助駆動力付加手段である電動モータ30が取り付けられている。電動モータ30は、前輪21を回転させる駆動力を生成するモータである。電動モータ30の回転は、図示しない減速機構によって減速され前輪21に伝達される。こうして、電動モータ30は、前輪21に補助トルクを付加している。電動モータ30としては、適宜のモータを用いることができるが、例えばブラシレスDCモータを好適に用いることができる。
また、シートチューブ14の後部には、バッテリ31がシートチューブ14に対して着脱可能に取り付けられている。バッテリ31は、電動モータ30に対して電気的に接続されており、電動モータ30に対して電力を供給可能とされている。バッテリ31は、例えばリチウムイオン二次電池からなり、充電を行うことによって繰り返し使用することができる。さらに、バッテリ31は、電動モータ30が回生電力を生成可能である場合には、この回生電力も充電可能である。
次に、電動補助装置について説明する。図2は、本発明の第1の実施形態に係る電動補助装置のブロック構成図である。図1に示す電動補助自転車1は、図2に示す電動補助装置Mを搭載している。
図2に示すように、本実施形態に係る電動補助装置Mは、電源回路41、入力トルク検出部42、クランク回転数検出部43、及び操作・表示部44を備えている。また、電動補助装置Mは、モータ駆動回路45、モータトルク検出部46、及びモータ回転数検出部47を備えている。さらに、電動補助装置Mは、制御装置であるMCU(Micro Controller Unit)50及び上記の電動モータ30、バッテリ31を備えて構成されている。
電動補助装置Mにおける電源回路41、入力トルク検出手段である入力トルク検出部42、クランク回転数検出部43、操作・表示部44、及びモータ駆動回路45は、いずれもMCU50に接続されている。さらに、電動モータ30はモータ駆動回路45に接続されており、バッテリ31は電源回路41及びモータ駆動回路45に接続されている。
電源回路41は、例えばチョッパ方式の降圧型DC−DCコンバータを備えて構成されている。電源回路41では、バッテリ31から出力された直流電流を降圧型DC−DCコンバータで降圧し、降圧した直流電流をMCU50の駆動電力としてMCU50に供給している。
入力トルク検出部42は、トルクセンサを含んで構成されている。トルクセンサは、図1に示す電動補助自転車1のクランク27と前方スプロケットが設けられた位置に配設されている。入力トルク検出部42は、運転者等がペダル28を踏み込んだ際に、ペダルに加えられた踏力による入力トルクを検出し、検出した入力トルクの大きさを示す入力トルク信号をMCU50に出力する。
トルクセンサとしては、適宜公知のものを用いることができる。例えば、ばね等の弾性体と、この弾性体の変位量から、トルクセンサが固定された固定部における変位量を求めるポテンショメータを備えるトルクセンサを用いることができる。このトルクセンサにおける弾性体は、クランク27と前方スプロケットの間に配置されている。弾性体は、運転者等のペダル28の踏み込みによって生じる入力トルクに応じて変位する。このときの弾性体の変位量をカムや遊星ギヤ等によって固定部での変位量に変換し、変換した変位量をポテンショメータで電気信号に変換する。あるいは、磁歪効果を有する磁歪材と検出用のコイルとで構成された非接触式のトルクセンサを用いることもできる。
クランク回転数検出部43は、クランク27の回転数を検出し、検出したクランク回転数を示すクランク回転数信号をMCU50に出力する。クランク回転数検出部43は、例えばクランクの回転数を非接触式の回転センサで読み取って検出している。クランク回転数検出部43は、検出したクランク回転数を示すクランク回転数信号をMCU50に出力する。
操作・表示部44は、操作入力部と表示部とを一体的に構成したものである。操作入力部は、電源スイッチやアシストモード切替スイッチを備えている。電源スイッチは、図2に示す電動補助装置M全体の起動及び停止を切り替えるスイッチである。また、アシストモード切替スイッチは、電動モータ30による補助トルクの大きさを切り替えるためのスイッチである。操作・表示部44は、操作入力部に対する操作入力の内容を示す操作入力信号をMCU50に出力する。
操作・表示部44における表示部は、MCU50から出力される操作入力信号に応じた情報に基づいて、各種の表示を行う。操作・表示部44は、例えば図1に示す電動補助自転車1のハンドル24に取り付けられている。操作・表示部44がハンドル24に取り付けられていることにより、運転者が操作・表示部44の操作や視認を行いやすくされている。
モータ駆動回路45は、例えばPWM(Pulse Width Modulation)方式によって電動モータ30の駆動制御を行っている。モータ駆動回路45では、MCU50から供給される補助トルク信号に基づいて、電動モータ30を駆動するための駆動電力をバッテリ31から取り出して電動モータ30に供給する。電動モータ30は、モータ駆動回路45から供給される駆動電力に応じた補助トルクを発生させて前輪21を回転駆動する。この前輪21の回転駆動によって補助駆動力が発生する。このように、本実施形態では、電動モータ30から前輪21に補助トルクを付加するいわば前輪駆動方式とされているが、電動モータは前輪21と後輪22のいずれの車輪に取り付けられていてもよく、例えば後輪22に補助トルクを付加する後輪駆動方式のものとすることもできる。
モータトルク検出部46は、電動モータ30のトルクを検出し、検出したトルクの大きさを示すモータトルク検出信号をMCU50に出力する。ここで、電動モータ30が発生させるトルクは、電動モータ30に供給される電流に比例する。従って、モータトルク検出部46は、電動モータ30に供給される電流に基づいて電動モータ30のトルクを検出してもよい。
モータ回転数検出部47は、電動モータ30の回転数を検出し、検出した回転数を示す回転数検出信号をMCU50に出力する。例えば、電動モータ30がブラシレスDCモータによって構成される場合、モータ回転数検出部47は、マグネットロータの回転位置を検出するためにホール素子などの磁気センサを備えて構成され、この磁気センサが電動モータ30に付随して設けられる。本実施形態では、磁気センサの出力信号に基づいて電動モータ30の回転数を検出する。なお、モータ回転数検出部47は、例えば光学式の回転検出器を含んで構成されていてもよい。光学式の回転検出器としては、例えば発光ダイオード等の光源からの光を、スリット円盤上の位置検出パターンを通して受光素子で読み取るものを用いることができる。
MCU50は、単一の半導体チップにCPU、メモリ、入出力回路、タイマ回路等を含むコンピュータシステムを集積したLSI(Large Scale Integration)である。MCU50は、入力トルク検出部42が検出した入力トルクを修正トルクに変換し、修正トルクに基づいて補助トルクを求めて、電動モータ30を制御する。
図2に示すように、MCU50は、修正トルク算出部51及び補助トルク算出部52を備えて構成されている。修正トルク算出部51は、補助トルク算出部52において補助トルクを算出する前処理に位置づけられる入力側の処理として、入力トルク検出部42を含む各種センサから送信されたデータの処理を行い、入力トルク検出部42から送信される入力トルクの調整を行っている。修正トルク算出部51では、入力側の処理として、入力トルク検出部42が検出した入力トルクの修正を行っている。一方の補助トルク算出部52では、出力側の処理として、修正トルク算出部51で算出された修正トルク等の情報に基づいて、電動モータ30が補助駆動力を付与する際の補助トルクを算出している。このように、修正トルク算出部51では、いわば入力側に関するトルクの調整を行っており、補助トルク算出部52では、出力側に関するトルクの算出を行っている。したがって、修正トルクは、修正トルク算出部51において実行される入力側の処理で算出される。
修正トルク算出部51は、入力トルク検出部42から出力された入力トルクを修正トルクに変換する。修正トルク算出部51は、図3に示す修正トルク変換マップを記憶しており、入力トルク検出部42から出力された入力トルクを修正トルクに変換するにあたって、図3に示す修正トルク変換マップを利用している。このように、入力トルクから修正トルクへの変換は、入力側の処理で行っている。修正トルク変換マップの具体的内容及び修正トルク変換マップを用いて入力トルクから修正トルクへ変換する際の手順については、後にさらに説明する。
補助トルク算出部52は、モータトルク検出部46及びモータ回転数検出部47から出力される各種信号に基づいて、走行状況に適したアシスト比率を算出する。例えば、電動モータ30の回転数が低くかつ電動モータ30のトルクが大きい場合には、発進直後の状態または上り坂を走行している状態等であると推測される。このような場合、MCU50は、より大きな補助駆動力を発生させるアシスト比率を算出する。
さらに、補助トルク算出部52は、算出したアシスト比率及び修正トルク算出部51で算出された修正トルクに基づいて、電動モータ30で発生させる補助トルクに応じた駆動電力を算出する。そして、算出した駆動電力を示すモータ出力指令値をモータ駆動回路45に出力する。
次に、本実施形態に係る電動補助装置Mによる主な制御について説明する。本実施形態に係る電動補助装置MのMCU50では、修正トルク算出部51において、入力トルク検出部42から出力される入力トルクを、モータ出力指令値の算出に用いる修正トルクに変換する。MCU50では、修正トルクに基づいて電動モータ30に付加する補助トルクを発生させるためのモータ出力指令値を算出する。このため、修正トルク以外の諸条件が一定の場合、修正トルクの増減に伴って補助トルクも増減する。また、修正トルクが0である場合には、補助トルクも0となる。
図3は、本実施形態に係る修正トルク変換マップを示す図である。図3に示すように、修正トルク変換マップTMは、横軸に入力トルクが設定され、縦軸に修正トルクが設定されたマップである。修正トルク変換マップTMには、入力トルクを修正トルクに変換するにあたり、入力トルクの増加に伴って修正トルクを増加させる基準増加ラインBLが設定されている。基準増加ラインBLは、入力トルク=修正トルクであり、入力トルク:修正トルクが、1:1となる関係とされた増加直線である。基準増加ラインBLに沿った修正トルク変換マップTMでは、入力トルクがそのまま修正トルクとなり(入力トルク=修正トルク)、例えば入力トルクTα=修正トルクCαとなる。基準増加ラインBL上の値は、入力トルクに対する修正トルクの基準値(基準トルク)である。ただし、修正トルクの基準値を他の値、例えば入力トルクよりわずかに低い値などとすることもできる。さらには、その他の値とすることもできる。なお、後に説明するように、入力トルクが加算上限値T1を超える範囲では、修正トルク変換マップTMは基準増加ラインBLと一致する。このため、図3では、入力トルクが加算上限値T1を超える範囲では、基準増加ラインBLに優先して修正トルク変換マップTMを実線で示している。
また、入力トルクが所定のしきい値Tt未満の範囲では、修正トルクを非走行値とする。本実施形態では、入力トルクが所定のしきい値Tt未満の範囲では、修正トルクを0とする低減処理を行っている。非走行値とは、例えば入力トルクが非走行値に相当するトルクである場合に、電動補助装置を搭載した停止中の電動補助自転車が走行を開始せず停止状態を維持する程度のトルクをいい、具体的には、0とすることができる。あるいは、0に近似する数値とすることができる。ただし、0に近似する数値は、例えば停止中の電動補助自転車1が自走を開始しない程度の値とすることができる。
しきい値Ttは、例えば停止中の電動補助自転車1の自走を抑制するために設定されるしきい値であり、例えば停止中の電動補助自転車1が自走する可能性があるトルクよりも小さいトルクの値で設定される。しきい値Ttは、適宜の数値とすることができるが、例えば、10(Nm)〜40(Nm)の範囲内における15(Nm)、18(Nm)、20(Nm)、25(Nm)、30(Nm)など、適宜の数値とすることができる。また、10(Nm)〜40(Nm)の範囲内の他の適宜の数値とすることができる。あるいは、この範囲を外れた適宜の数値とすることもできる。このように、入力トルクがしきい値Tt未満の範囲に含まれる値である場合には、修正トルク変換マップTMは基準増加ラインBLから外れている。
さらに、入力トルクが所定のしきい値Tt以上の範囲に含まれる値である場合、入力トルクが所定の加算上限値T1未満の範囲では、修正トルクを基準増加ラインBLに沿った基準値に加算して算出する。例えば、入力トルクがしきい値Ttと加算上限値T1との間の想定値Tsであった場合、修正トルクCsは、入力トルクの想定値Ts時における基準値Csbよりも大きい値となる。ここで、修正トルクCsと修正トルクCsbとの差(=Cs−Csb)が修正トルクについての加算値となる。修正トルクの加算値は、入力トルクの大きさによって異なる。また、修正トルクを求める際に基準値に加算する加算値が最大加算値(Cm1−Cm2)となる際の入力トルクである最大加算入力トルクTmとした場合、入力トルクがしきい値Tt以上最大加算入力トルクTmとなる範囲では、入力トルクの増加に伴って加算値が増加する。入力トルクが最大加算入力トルクTm以上加算上限値T1以下となる範囲では、入力トルクの増加に伴って加算値が減少する。なお、入力トルクがしきい値Tt及び加算上限値T1であるときには、いずれも加算値は0である。
入力トルクが加算上限値T1以上のときには、修正トルクは、入力トルクと同一の値となる。ここまでの修正トルク変換マップの性質についてまとめると、入力トルクがしきい値Tt未満の範囲に含まれる値である場合に修正トルクは非走行値(=0)となる。また、入力トルクがしきい値Tt以上加算上限値T1未満の範囲の値であるときに、修正トルクの基準値に加算値を加算する加算処理が行われる。また、入力トルクがしきい値Ttのとき及び加算上限値T1以上のときに修正トルクは入力トルクと同一の値となる。修正トルクマップTM、第1修正トルク変換マップTM1、第2修正トルク変換マップTM2は、いずれも同一の補助トルクを加算するマップである。このうち、第1修正トルクマップTM1は、加算する補助トルクのピーク(最大値)が最も小さい入力トルクの際に加算されるマップである。第2修正トルクマップTM2は、加算する補助トルクのピーク(最大値)が最も大きい入力トルクの際に加算されるマップである。修正トルクマップTMは、加算する補助トルクのピーク(最大値)が第1修正トルク変換マップTM1と第2変換トルクマップTM2との間の入力トルクの中間の際に加算されるマップである。
ここで、入力トルク=0〜Ttの範囲内で基準増加ラインBLと修正トルク変換マップTMとで囲まれる三角形の領域を第1領域R1とする。また、入力トルク=Tt〜T1の範囲内で、基準増加ラインBLと修正トルク変換マップTMとで囲まれる三角形の領域を第2領域R2とする。この場合、第1領域R1(Tt)の面積は、入力トルクが0〜Ttの範囲において、修正トルクを基準増加ラインBLの基準値から非走行値(=0)に減少させたことで生じる修正トルクの欠損分に相当する。一方、第2領域R2の面積は、入力トルクがTt〜T1の範囲での修正トルクの加算分に相当する。また、本実施形態では、第1領域の面積R1(Tt)と第2領域の面積R2(T1−Tt)とは、同一の面積とされている。ただし、第1領域の面積R1(Tt)は第2領域の面積R2(T1−Tt)よりも小さくなるようにしてもよいし、大きくなるようにしてもよい。
次に、本実施形態に係る電動補助装置Mを搭載した電動補助自転車1の作用について説明する。
本実施形態に係る電動補助装置Mでは、図3に示す修正トルク変換マップTMを参照して入力トルクを修正トルクに変換する。修正トルク変換マップTMを用いて入力トルクを修正トルクに変換すると、入力トルクがしきい値Tt未満の範囲に含まれる値である場合には、修正トルクが非走行値(=0)となる。このため、入力トルク検出部42におけるトルクセンサが誤検出をしたとしても、この誤検出による電動補助装置Mの誤作動、さらには、電動補助装置Mを搭載した電動補助自転車1の自走を抑制することができる。
ところで、基準増加ラインBLに合わせて入力トルクに対して修正トルクが算出される場合、修正トルクは、入力トルクに対する基準値を下回り、修正トルクに欠損が生じることとなる。また、電動モータ30によって付加される補助トルクは、修正トルクに基づいて求められる。このため、入力トルクが所定のしきい値Tt未満の範囲に含まれる値である場合に、修正トルクを非走行値(=0)に設定することで、入力トルクによって本来付加されるはずの補助トルクが得られないこととなってしまう。
この点、本実施形態に係る電動補助自転車1では、入力トルクが0〜Ttの範囲における修正トルクの欠損分に対応させて、入力トルクがしきい値Tt以上の範囲に含まれる値であるときに、修正トルクを基準値に加算する加算処理を行っている。この加算処理を行うことで、例えば入力トルクが0〜T1まで増加する状態で電動補助自転車1が走行した場合には、入力トルクが0〜Ttの範囲における修正トルクの欠損分を入力トルクがしきい値Tt以上の範囲に含まれる値であるときにおける修正トルクの加算分で加算することとなる。したがって、入力トルクに対して本来付加することができる補助トルクの損失を抑制することができる。
また、本実施形態に係る電動補助自転車1では、入力トルクが0〜Ttの範囲にある場合の第1領域R1の面積R1(Tt)と、入力トルクがTt〜T1の範囲にある場合の第2領域R2の面積R2(T1−Tt)とが同一(又は略同一)とされている。したがって、入力トルクが0〜T1まで増加する状態で電動補助自転車1が走行した場合には、入力トルクが0〜Ttとなる範囲の補助トルクの欠損分の全て又はほとんどを、入力トルクがTt〜T1となる範囲の修正トルクの加算分で加算することができる。
他方、加算処理を行うにあたり、修正トルクの加算分は、図4に示すように、形状の異なる修正トルク変換マップを用いて算出することもできる。他の修正トルク変換マップとしては、例えば、図4に示すように、第1修正トルク変換マップTM1や第2修正トルク変換マップTM2とすることもできる。図4において、第1修正トルク変換マップTM1を1点鎖線で示し、第2修正トルク変換マップTM2を2点鎖線で示している。また、上記の修正トルク変換マップTMについては実線で示している。
図4に示すように、入力トルク=Tt〜T1の範囲内で、第1修正トルク変換マップTM1及び第2修正トルク変換マップTM2のいずれも、修正トルク変換マップTMと底辺が共通する三角形をなしている。第1修正トルク変換マップTM1は、修正トルク変換マップTMと比較して、入力トルクが小さい段階では傾斜が大きくなっている。また、第2修正トルク変換マップTM2は、修正トルク変換マップTMと比較して、入力トルクが小さい段階では傾斜が小さくなっている。また、第2修正トルク変換マップTM2では、入力トルクが加算上限値T1となったときに、基準増加ラインBLまで一気に減少する。
ここで、入力トルク=Tt〜T1の範囲内で、基準増加ラインBLと第1修正トルク変換マップTM1とで囲まれる三角形の領域を第3領域R3とし、同範囲内で、基準増加ラインBLと第2修正トルク変換マップTM2とで囲まれる三角形の領域を第4領域R4とする。この場合に、第3領域R3の面積R3(T1−Tt)と第4領域R4の面積R4(T1−Tt)は、いずれも第1領域R1の面積R1(Tt)や第2領域R2の面積R2(T1−Tt)と同一とされている。このように、修正トルク変換マップとしては、適宜の形状とすることができる。第1修正トルク変換マップTM1と第2修正トルク変換マップTM2のように、基準増加ラインBLとで囲まれる領域の面積が同一であることで、入力トルクが0〜Ttとなる範囲の補助トルクの欠損分の全て又はほとんどを、入力トルクがTt〜T1となる範囲の修正トルクの加算分で補てんすることができる。なお、上記の修正トルク変換マップTMは直線部によって構成されているが、修正トルク変換マップは、その一部または全部が曲線部とされたマップとすることができる。また、修正トルク変換マップは、曲線部と直線部とを混在させたマップとすることもできる。
あるいは、加算処理を行うにあたり、修正トルクの加算分は、図5に示すように、形状の修正トルク変換マップを用いることもできる。図5に示す第3修正トルク変換マップTM3は、入力トルクがしきい値Ttである場合に、修正トルクを、非走行値を超え入力トルク未満である値(以下「オフセット値」という)にオフセットさせて、入力トルクを修正トルクに変換する。また、オフセットは、入力トルクがしきい値であるときに、修正トルクを非走行値からオフセット値にずらす、いわば修正トルクを増加させる方向にずらすものを含む。また、オフセットが無い場合には入力トルクを修正トルクとするところ、オフセットさせる場合には、入力トルクがしきい値であるときに、修正トルクを入力トルクに相当する値からオフセット値にずらす、いわば修正トルクを減少させる方向にずらすものも含む。オフセット値としては、基準値よりも小さい値のうちの適宜の値とすることができ、具体的には、基準値に対して50%の値とすることができる。また、基準値に対するその他の割合、例えば30%や80%の割合とすることもできる。なお、基準増加ラインBLと第3修正トルク変換マップTM3との原点以外の交点における入力トルクは、それぞれ加算下限値T2及び加算上限値T3となる。
このように、入力トルクがしきい値Ttとなったときに修正トルクをオフセットさせることにより、修正トルク及び補助トルクの変動量を小さくできるとともに、修正トルクを0に設定したことに伴う補助トルクの減少量を抑制することができる。また、このとき、修正トルク及び補助トルクの変動量が小さくなることから、アシストフィーリングへの悪影響を抑制することができる。その一方で、修正トルクを0としたことに伴う補助トルクの減少量を抑制することで、補助駆動力が小さくなりすぎないようにすることができる。したがって、アシストフィーリングへの悪影響を抑制しながらも、補助駆動力が小さくなりすぎないようにすることができる。
ここで、基準増加ラインBL上で入力トルク値=T2の座標を第1座標P1とし、入力トルク=Ttであり、修正トルクが基準値の50%である点の座標を第2座標P2とし、入力トルク=Ttであり、修正トルク=0の座標を第3座標P3とする。このとき、原点と第1座標P1を結ぶ第1直線と、第1座標P1と第2座標P2を結ぶ第2直線と、第2座標P2と第3座標P3を結ぶ第3直線と、第3座標P3と原点を結ぶ第4直線で囲まれる領域を第5領域R5する。また、入力トルク=T2〜T3の範囲内で、基準増加ラインBLと第3修正トルク変換マップTM3とで囲まれる三角形の領域を第6領域R6とする。この場合、第5領域R5の面積R5(T2)は、入力トルクが0〜T2の範囲で生じる修正トルクの欠損分に相当する。一方、第6領域R6(T3−T2)の面積は、入力トルクがT2〜T3の範囲での修正トルクの加算分に相当する。また、第5領域の面積R1(Tt)と第6領域の面積R6(T3−T2)とは、同一の面積とされている。このため、入力トルクが0〜T2となる範囲の補助トルクの欠損分の全て又はほとんどを、入力トルクがT2〜T3となる範囲の修正トルクの加算分で補てんすることができる。
≪第2の実施形態≫
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。第2の実施形態に係る電動補助装置Mでは、修正トルク算出部51における修正トルク算出手順が上記第1の実施形態と主に相違する。したがって、かかる相違点を中心に第2の実施形態について説明し、第1の実施形態と共通する部分についての説明は省略する。
図6は、第2の実施形態における修正トルク変換マップを示す図である。図6に示すように、本実施形態における修正トルク変換マップとしては、入力トルクがしきい値Tt〜加算上限値T1の範囲において、2つのパターンのマップとされている。このうちの第1パターン修正トルク変換マップTMαは、入力トルクがしきい値Tt〜加算上限値T1の範囲において、図3に示す基準増加ラインBLの形状と同一の形状をなしている。また、第2パターン修正トルク変換マップTMβは、入力トルクがしきい値Tt〜加算上限値T1の範囲において、図3に示す修正トルク変換マップTMの形状と同一の形状をなしている。
修正トルク算出部51では、入力トルクがしきい値Tt未満の範囲に含まれる値となったか否かに基づいて、第1パターン修正トルク変換マップTMαと第2パターン修正トルク変換マップTMβのいずれを用いるかについて決定する。以下、修正トルク変換パターンの決定手順を含めた修正トルク算出処理の手順について、図7に示すフローチャートを参照して説明する。図7は、第2の実施形態における修正トルク算出処理の手順を示すフローチャートである。
図7に示すように、第2の実施形態において、修正トルクを算出する際には、まず、入力トルク検出部からの入力トルク信号を受信しているか否かを判断する(S1)。その結果、入力トルク信号を受信していないと判断した場合には(S1:NO)、入力トルク信号を受信するまでステップS1の処理を繰り返す。
また、入力トルク信号を受信していると判断した場合には(S1:YES)、修正トルク算出部51において、入力トルクを算出する(S2)。続いて、算出した入力トルクが、しきい値Tt未満の範囲に含まれる値であるか否かを判断する(S3)。その結果、入力トルクがしきい値Tt未満の範囲に含まれる値であると判断した場合には(S3:YES)、修正トルクを非走行値(=0)として算出する(S4)。それから加算処理フラグがセットされているか否かを判断する(S5)。欠損した修正トルクを加算する処理の実行を許可するフラグである。
ここで、加算処理フラグがセットされていないと判断した場合には(S5:NO)、加算処理フラグをセットする(S6)。こうして、修正トルク算出処理を終了する。一方、加算処理フラグがセットされていると判断した場合には(S5:YES)、そのまま修正トルク算出処理を終了する。
また、ステップS3において入力トルクがしきい値Tt未満の範囲に含まれる値でないと判断した場合には(S3:NO)、加算処理フラグがセットされているか否かを判断する(S7)。その結果、加算処理フラグがセットされていると判断した場合には(S7:YES)、修正トルクを加算する加算処理を行う(S8)。加算処理としては、修正トルク変換マップTMとして、第2パターン修正トルク変換マップTMβを選択する。さらに、入力トルク及び第2パターン修正トルク変換マップTMβを参照して、修正トルクを算出する。
それから、入力トルクが加算上限値T1を超えているか否かを判断する(S9)。その結果、加算上限値T1を超えていると判断した場合には(S9:YES)、加算処理フラグをクリアして(S10)、修正トルク算出処理を終了する。また、加算上限値T1を超えていないと判断した場合には(S9:NO)、修正トルク算出処理を終了する。
さらに、ステップS7において、加算処理フラグがセットされていないと判断した場合には(S7:NO)、修正トルクを維持する処理を行う(S11)。具体的には、修正トルク変換マップTMとして、第1パターン修正トルク変換マップTMαを選択する。さらに、入力トルク及び第1パターン修正トルク変換マップTMαを参照して、修正トルクを算出する。そして、修正トルク算出処理を終了する。
このように、本実施形態における修正トルク算出処理では、入力トルクがしきい値Tt未満の範囲に含まれる値であるときに加算処理フラグをセットして、第2パターン修正トルク変換マップTMβを用いた加算処理を行って修正トルクを算出する。また、入力トルクがしきい値Tt未満の範囲に含まれる値でないときに第1パターン修正トルク変換マップTMαを用い修正トルクを算出する。このため、入力トルクがしきい値Tt未満の範囲に含まれる値となったことを条件として、加算処理を行うこととなる。
入力トルクがしきい値Tt未満の範囲に含まれる値となったときには、常に修正トルクを0としたことによる修正トルクの欠損が生じていることとなる。その一方、入力トルクがしきい値Tt未満の範囲に含まれる値となっていないときには、修正トルクの欠損は生じないこととなる。このため、入力トルクがしきい値Tt未満の範囲に含まれる値となったことを条件として、加算処理を行うことにより、補助トルクの過剰な付加を抑制することができる。
≪第3の実施形態≫
次に、本発明の第3の実施形態について説明する。第3の実施形態に係る電動補助装置Mでは、第2の実施形態と同様、修正トルク算出部51における修正トルク算出手順が上記第1の実施形態と主に相違する。したがって、かかる相違点を中心に第3の実施形態について説明し、第1の実施形態と共通する部分についての説明は省略する。なお、修正トルク変換マップについては、第2の実施形態と共通のものを用いる。
修正トルク算出部51では、電動補助自転車1が停止状態から発進した時であるか否かに基づいて、第1パターン修正トルク変換マップと第2パターン修正トルク変換マップのいずれを用いるかについて決定する。以下、修正トルク変換パターンの決定手順を含めた修正トルク算出処理の手順について、図8に示すフローチャートを参照して説明する。図8は、第3の実施形態における修正トルク算出処理の手順を示すフローチャートである。
図8に示すように、第3の実施形態において、修正トルクを算出する際には、まず、電動補助自転車1が停止状態から発進した時であるか否かを判断する(S21)。電動補助自転車1が発進した時であるか否かは、電動補助自転車1の車速が0であり、かつ入力トルク0でないか否かで判断する。ここで、電動補助自転車1の車速が0であり、かつ入力トルク0でないときに電動補助自転車1が発進時であると判断し、これらの条件を満たさない場合に、電動補助自転車1が発進時でないと判断する。
ステップS1の判断の結果、電動補助自転車1が発進時であると判断した場合には(ステップS21:YES)、加算処理フラグをセットし(S22)、入力トルク検出部からの入力トルク信号を受信しているか否かを判断する(S23)。また、電動補助自転車1が発進時でないと判断した場合には(ステップS21:NO)、そのままステップS23に進む。
その結果、入力トルク信号を受信していないと判断した場合には(S23:NO)、入力トルク信号を受信するまでステップS23の処理を繰り返す。また、入力トルク信号を受信していると判断した場合には(S23:YES)、修正トルク算出部51において、入力トルクを算出する(S24)。続いて、算出した入力トルクが、しきい値Tt未満の範囲に含まれる値であるか否かを判断する(S25)。その結果、入力トルクがしきい値Tt未満の範囲に含まれる値であると判断した場合には(S25:YES)、修正トルクを0として算出する(S26)。こうして、修正トルク算出処理を終了する。
また、ステップS25において入力トルクがしきい値Tt未満の範囲に含まれる値でないと判断した場合には(S25:NO)、加算処理フラグがセットされているか否かを判断する(S27)。その結果、加算処理フラグがセットされていると判断した場合には(S27:YES)、修正トルクの欠損分を加算する加算処理を行う(S28)。加算処理としては、上記第2の実施形態と同様、修正トルク変換マップTMとして、第2パターン修正トルク変換マップTMβを選択する。さらに、入力トルク及び第2パターン修正トルク変換マップTMβを参照して、修正トルクを算出する。
それから、入力トルクが加算上限値T1を超えているか否かを判断する(S29)。その結果、加算上限値T1を超えていると判断した場合には(S29:YES)、加算処理フラグをクリアして(S30)、修正トルク算出処理を終了する。この加算処理フラグセットし(S22)、をクリアする(S30)ことで、停止状態から発進した後、入力トルクが最初に入力トルクがしきい値を超えたときに、加算処理が行われる。また、加算上限値T1を超えていないと判断した場合には(S29:NO)、修正トルク算出処理を終了する。
さらに、ステップS27において、加算処理フラグがセットされていないと判断した場合には(S27:NO)、修正トルクを維持する処理を行う(S31)。具体的には、修正トルク変換マップTMとして、第1パターン修正トルク変換マップTMαを選択する。さらに、入力トルク及び第1パターン修正トルク変換マップTMαを参照して、修正トルクを算出する。そして、修正トルク算出処理を終了する。
このように、本実施形態における修正トルク算出処理では、電動補助自転車1が発進時であるときに加算処理フラグをセットして、第2パターン修正トルク変換マップTMβを用いた加算処理を行って修正トルクを算出する。また、電動補助自転車1が発進時でないときに第1パターン修正トルク変換マップTMαを用い修正トルクを算出する。このため、電動補助自転車1が発進時であることを条件として、加算処理を行うこととなる。
電動補助自転車1が発進時であるときは、入力トルクが0であることから、発進した後に入力トルクがしきい値を超えた場合には、修正トルクの欠損が生じることとなる。また、電動補助自転車1の発進時には、運転者がペダルを踏み込む負担が大きくなることが多い。このため、電動補助自転車1が発進した後に入力トルクがしきい値を超えたときに、MCU50において加算処理を行うことで、運転者の負担が大きくなるときに運転者の負担を軽減することができる。
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではない。例えば、上記の実施形態においては、入力トルクが所定のしきい値Ttから加算上限値T1となるまでの範囲では、直線状に上下変動するラインに沿って、修正トルクを変動させている。この直線状のラインに対して、曲線状のラインを設定し、曲線状のラインに沿って入力トルクを変動させることもできる。このときの曲線状漸増ラインとしては、上に凸となる曲線状とすることが好適である。上に凸となる曲線状漸増ラインとすることにより、修正トルク変換マップを滑らかな形状で接続させることができる。その結果、修正トルクの急激な変化を抑制でき、走行フィーリングに対する悪影響を抑制することができる。さらには、直線状や曲線状以外のラインとすることもできる。例えば、階段状のラインとすることもできるし、直線と曲線とを組み合わせたラインとすることもできる。
また、入力トルクに基づいて修正トルクを算出するにあたって、修正トルク変換マップを参照したが、所定の演算式等を用いて修正トルクを算出することもできる。さらに、入力トルクに加算値を加算する修正トルクの算出は、入力トルクがしきい値Ttとなったときに開始するものでなく、入力トルクがしきい値Ttとなったとき以降に開始することもできる。また、入力トルクに加算値を加算して修正トルクを算出するにあたり、修正トルクの欠損分を記憶しておき、当該欠損分の範囲で入力トルクに加算値を加算することもできる。
その他、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、上記した実施の形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能であり、また、上記した変形例を適宜組み合わせてもよい。