しかし、上記特許文献1の方法では、単結晶SiC基板及びカーボン供給基板のうちの少なくとも一方の表面の、離間した複数の箇所に、スペーサとなる樹脂を均一な厚さに塗布する必要があるが、これには技術的な困難を伴う。また、このように単結晶SiC基板とカーボン供給基板との間にスペーサ等を介在させると、当該スペーサを伝ってシリコン融液が単結晶SiC基板とカーボン供給基板とに挟まれる領域の外に流出してしまい、十分な量のシリコン融液を確保できなくなる場合があった。更に、上記特許文献1の方法では、単結晶SiC基板、カーボン供給基板、及びシリコン原料を合わせた構造体には、シリコン融液の蒸発を防ぐための手立てが講じられておらず、シリコン融液が蒸発することによっても、十分な量のシリコン融液を確保することができなくなる場合があった。そのため、上記特許文献1の方法では、安定した液相エピタキシャル成長を実現することができず、均一な単結晶SiCエピタキシャル膜を形成できない場合があった。
本発明は以上の事情に鑑みてされたものであり、その目的は、安定した液相エピタキシャル成長を実現し、均一な単結晶SiCエピタキシャル膜を形成することができる液相エピタキシャル成長方法及びそれに用いる坩堝を提供することにある。
課題を解決するための手段及び効果
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段とその効果を説明する。
本発明の第1の観点によれば、単結晶炭化ケイ素基板の外周部に液相エピタキシャル成長させない領域を設け、前記単結晶炭化ケイ素基板の平面の面積に対して常に液相エピタキシャル成長させる部分の面積を小さくされている液相エピタキシャル成長方法が提供される。
これにより、単結晶炭化ケイ素基板の外周部を除いた部分に対して単結晶炭化ケイ素を液相エピタキシャル成長させることができる。よって、高品質の単結晶炭化ケイ素エピタキシャル膜を形成することができる。
上記の液相エピタキシャル成長方法においては、以下の構成とすることが好ましい。即ち、この液相エピタキシャル成長方法は、少なくとも炭素原子を供給するためのカーボン供給基板と、ケイ素原子を供給するためのシリコン供給部と、を有底の筒形状の坩堝に収容して単結晶炭化ケイ素基板に対して単結晶炭化ケイ素を液相エピタキシャル成長させる。この液相エピタキシャル成長方法は、カーボン供給基板配置工程と、閉鎖工程と、を含む。前記カーボン供給基板配置工程では、前記カーボン供給基板を前記坩堝の底に配置する。前記閉鎖工程では、前記単結晶炭化ケイ素基板の単結晶炭化ケイ素エピタキシャル膜を形成させる側の面を下側に向けて、当該単結晶炭化ケイ素基板により前記坩堝の上側を閉鎖する。前記カーボン供給基板と、前記単結晶炭化ケイ素基板と、の間に前記シリコン供給部が介在される。
これにより、坩堝の中にシリコン供給部が保持されるので、坩堝内をシリコン融解温度以上に昇温したときにも、シリコン融液が蒸発することが抑制され、長時間にわたってシリコン融液を坩堝内に保持することができる。また、単結晶炭化ケイ素基板が坩堝蓋を兼ねる構成とすることで、坩堝の内部容積を、単結晶炭化ケイ素基板に対して単結晶炭化ケイ素エピタキシャル膜を形成できる範囲で大幅に小さくすることができる。この結果、坩堝内で温度差が発生しにくくなるので、安定した液相エピタキシャル成長を実現し、均一な単結晶炭化ケイ素エピタキシャル膜を形成することができる。
前記の液相エピタキシャル成長方法においては、前記坩堝内をシリコン融解温度以上に昇温して、前記シリコン供給部を融解させてシリコン融液層を形成し、前記シリコン融液層の表面張力によって、前記単結晶炭化ケイ素基板に対して前記カーボン供給基板を懸垂して保持するカーボン供給基板懸垂工程を更に含むことが好ましい。
これにより、シリコン融液層の表面張力によって、単結晶炭化ケイ素基板に対してカーボン供給基板を懸垂するので、単結晶炭化ケイ素基板とカーボン供給基板との間の距離をムラなく一定にすることができる。これにより、安定した液相エピタキシャル成長を実現し、均一な単結晶炭化ケイ素エピタキシャル膜を形成することができる。
前記の液相エピタキシャル成長方法においては、前記坩堝の側壁部の内側表面は、熱分解炭素で被覆されていることが好ましい。
これにより、シリコン融液との濡れ性が低い熱分解炭素によって坩堝の側壁部の内側表面が覆われるので、シリコン融液が坩堝の側壁部の内側表面を伝い上ってくることを抑制することができ、坩堝と単結晶炭化ケイ素基板との隙間からシリコン融液が漏れることを抑制できる。これにより、十分な量のシリコン融液を坩堝内に確保することができ、安定した液相エピタキシャル成長を実現し、均一な単結晶炭化ケイ素エピタキシャル膜を形成することができる。
前記の液相エピタキシャル成長方法においては、前記カーボン供給基板配置工程において、前記カーボン供給基板は、前記坩堝の側壁部の内面との間に空間を形成するように配置されることが好ましい。
これにより、カーボン供給基板の上に形成されるシリコン融液層から、前記単結晶炭化ケイ素基板の結晶炭化ケイ素エピタキシャル膜を形成させる側の面を伝って、坩堝と単結晶炭化ケイ素基板との隙間からシリコン融液が漏れることを抑制できる。これにより、十分な量のシリコン融液を坩堝内に確保することができ、安定した液相エピタキシャル成長を実現し、均一な単結晶炭化ケイ素エピタキシャル膜を形成することができる。
前記の液相エピタキシャル成長方法においては、前記坩堝の側壁部には、前記坩堝の内部空間を外部と繋ぐ開放通路が形成されていることが好ましい。
これにより、例えば真空ポンプを用いて、シリコン融液中の気泡を除去することができる。これにより、シリコン融液中の気泡により液相エピタキシャル成長が阻害されることを抑制し、高品質な単結晶炭化ケイ素エピタキシャル膜を形成することができる。
本発明の第2の観点によれば、前記の液相エピタキシャル成長方法に用いられる坩堝が提供される。
この坩堝を用いることによって、単結晶炭化ケイ素基板に対して均一な単結晶炭化ケイ素エピタキシャル膜を形成することができる。
次に、図面を参照して、本発明の実施の一形態に係る液相エピタキシャル成長方法及びそれに用いる坩堝1について説明する。図1は、坩堝本体2に、シリコン供給部4付きのカーボン供給基板3及び単結晶SiC基板5を組み付けたときの様子を模式的に示す側面断面図である。図2は、坩堝本体2の平面図である。図3は、坩堝本体2の底部近辺の断面図である。図4は、坩堝1内の温度がSi融解温度以上となり、Si融液層が形成されたときの坩堝1内の様子を示す側面断面図である。
初めに、坩堝1を用いて単結晶SiC基板5に対して単結晶SiCを液相エピタキシャル成長させる、本実施形態に係る液相エピタキシャル成長方法について説明する。また、この液相エピタキシャル成長方法に用いる坩堝1についても概略的に説明する。
図1及び図2に示す坩堝1は、単結晶SiC基板5に対して単結晶SiCを液相エピタキシャル成長させるために用いられる容器であって、図略の加熱炉にセットされ、例えば1600〜2000℃で加熱される。この坩堝1は、少なくともCを供給するためのカーボン供給基板3と、Siを供給するためのシリコン供給部4と、を収容することができる。
坩堝1は、坩堝本体2を主要な構成として備える。坩堝本体2は、底を有する円筒状の部材として構成されており、上方が開放されている。この坩堝本体2の内底面には凹部2aが形成されており、当該凹部2aには、円板形状のカーボン供給基板3の底部を収容することができる。凹部2aは、円板状の空間であり、その外径はカーボン供給基板3の外径よりも若干長くなっている。坩堝本体2の凹部2aの外縁と、坩堝本体2の側壁部2bの内面と、の間には適宜の大きさの空間が確保されている。言い換えれば、坩堝本体2の側壁部2bは、坩堝本体2の凹部2aの外縁から十分な距離を保って配置されている。
坩堝1は、単結晶SiC基板5により、坩堝本体2の上側の開放部を閉鎖できるようになっている。言い換えれば、単結晶SiC基板5が坩堝蓋(坩堝1の上蓋)を兼ねている。詳述すると、坩堝本体2の側壁部2bの上端には、外側の高さに対して内側の高さが低くなっている段差部2cが形成されている。段差部2cは、平面視でリング状に形成された平坦な支持面2d(内側の低い方の面)を有しており、この平坦な支持面2dで単結晶SiC基板5の外周部(外縁部)を支持することができる。
単結晶SiC基板5を坩堝蓋として、坩堝本体2の側壁部2bが備える支持面2dでこの単結晶SiC基板5を支持することにより、坩堝本体2の内部空間を閉鎖し、坩堝1内を準密閉状態とすることができる。なお、単結晶SiC基板5は、坩堝本体2に対し、図4に示す単結晶SiCエピタキシャル膜6を形成させたい側の面(本実施形態では、Si面)を内側(下側)に向けた状態で配置される。坩堝1内の、カーボン供給基板3と、単結晶SiC基板5と、の間には、シリコン供給部4が介在される。このように、本実施形態の坩堝1では、当該坩堝1の中にシリコン供給部4が保持される。
本実施形態に係る液相エピタキシャル成長方法においては、坩堝本体2内にカーボン供給基板3とシリコン供給部4とを収容し、坩堝本体2の上側を単結晶SiC基板5で覆った状態で、坩堝1内がSi融解温度以上となるように加熱する。そうすることによりシリコン供給部4のSiを融解させて、Si融液を介して単結晶SiC基板5のSi面に対してSiとCを供給して、図4に示すように、Si面に単結晶SiCエピタキシャル膜6を形成することができる。
次に、坩堝1及びこれに収容される部材を図1のように組み付ける前に、準備として行われる各部材の調製作業について、図3等を参照して説明する。
単結晶SiC基板5は、SiCで作られた円柱形状のインゴットを薄くスライスして形成される円板形状のウエハである。より具体的には、単結晶SiC基板5は、4H−SiCバルク結晶を(0001)面から<11−20>方向に4度オフして切り出すことにより得られる。この単結晶SiC基板5としては、例えば市販のウエハを用いることができる。
カーボン供給基板3は、黒鉛材、好ましくは等方性黒鉛材からなり、少なくとも坩堝本体2の内部空間に露出する表面には多結晶SiCの被膜(以下、多結晶SiC被膜)が形成される。黒鉛材としては、熱膨張係数が、前記多結晶SiC被膜と同程度のもの(具体的には、350〜450℃で4.2〜4.5×10-6/Kの熱膨張係数のもの)が用いられる。
カーボン供給基板3の多結晶SiC被膜の形成方法についてより具体的に説明すると、まず、前述した黒鉛材を加熱炉内に配置し、炉内温度を1450℃とし、炉内圧力を0.1Pa未満まで減圧して48時間保持する。これにより、カーボン供給基板3中に含有される窒素を除去する。その後、炉内温度を1450℃、炉内圧力を1atmとする。この状態で、メチルトリクロルシラン及び水素を1:7の比率になるように導入して炉内に充満させ、化学蒸着(CVD;Chemical Vapor Deposition)により被膜を形成する。更に、上記のコーティング処理後の黒鉛材を取り出して、表面を機械研磨で鏡面に仕上げる。なお、不純物の混入を抑制するために、機械研磨をした後に、アセトン及びエタノールを用いて超音波洗浄し、ハロゲンを用いてクリーニング処理を行うことが好ましい。
シリコン供給部4は、前述のカーボン供給基板3の、多結晶SiC被膜の上に形成される。具体的には、多結晶SiC被膜を施したカーボン供給基板3を加熱炉内に配置し、炉内温度を1000℃、炉内圧力を6.65kPaとする。この状態で、ジクロルシランと水素を1:3の比率になるように導入して炉内に充満させ、化学蒸着させることで、シリコン供給部4を得ることができる。後に詳述するように、このシリコン供給部4が、坩堝1内がSi融解温度以上に昇温されることで融解し、その一部がSi融液層7として、単結晶SiC基板5とカーボン供給基板3との間に保持される。
なお、本実施形態では、シリコン供給部4は事前にカーボン供給基板3の上に被膜として形成されるものとしたが、シリコン供給部4の構成はこれに限るものではない。例えば、上記の構成に代えて、シリコン供給部4をカーボン供給基板3とは別で(一体的ではなく)構成し、坩堝本体2に対して組み付けるときに、カーボン供給基板3の上にシリコン供給部4を載せることとしてもよい。
坩堝本体2は、好ましくは等方性黒鉛材で作成される。図3に示すように、当該坩堝本体2の少なくとも側壁部2bの内側表面、好ましくは坩堝本体2の内部空間に露出する面の全面には、熱分解炭素からなる被膜(熱分解炭素被膜9)が形成されている。この熱分解炭素被膜9は、好ましくは40μmの厚みに形成される。この熱分解炭素被膜9も、化学蒸着により形成される。具体的には、まず、坩堝本体2を加熱炉内に配置し、炉内温度を1450℃とし、炉内圧力を0.1Pa未満まで減圧して48時間保持することで、坩堝本体2の内部に含有される窒素を除去する。その後、炉内温度を1300℃、炉内圧力を1atmとする。この状態で、プロパンと水素を1:4.5の比率になるように導入して炉内に充満させ、熱分解炭素を化学蒸着させる。
また図2に示すように、この坩堝本体2には、開放通路2eが形成されることが好ましい。開放通路2eは、平面視で、坩堝本体2の側壁部2bの段差部2cの内側の平坦な支持面2dから外側の平坦な面2fの中途部にまで至るように、溝状に形成される。この開放通路2eは、坩堝本体2の外周に沿って等間隔に複数設けられることが好ましい。この開放通路2eは、坩堝1の内部空間を外部と繋ぐことができるように構成されており、後の工程で坩堝本体2内に収容されるSi融液に含まれる気泡を除去するために用いられる。
本実施形態に係る液相エピタキシャル成長方法に利用する、坩堝1を昇温させるために用いる加熱炉についても、当該加熱炉内の温度を1450℃とし、加熱炉内の圧力を0.1Pa未満まで減圧した状態を48時間保持することにより、結晶成長を行う前に、予め脱ガス処理を行っておく。このように、窒素を除去するための脱ガス処理が、カーボン供給基板3、坩堝本体2、及び加熱炉について適宜に行われているため、単結晶SiC基板5に対して形成される単結晶SiCエピタキシャル膜に意図しない窒素が取り込まれることを回避することができる。
次に、坩堝1を用いて単結晶SiC基板5に対して単結晶SiCエピタキシャル膜を形成する、液相エピタキシャル成長方法の処理工程について、図1、図4及び図5を参照して説明する。図5は、単結晶SiC基板5に対して傾いて配置されたカーボン供給基板3を、Si融液層7の表面張力によって引き上げることにより単結晶SiC基板5に対して平行な状態に補正する様子を示す模式図である。
上述のようにして、被膜を形成したり、脱ガス処理をしたりして予め調製した坩堝本体2、単結晶SiC基板5、カーボン供給基板3、及びシリコン供給部4を、図1に示すように組み付ける。具体的には、まず、前述のようにカーボン供給基板3の上にシリコン供給部4を形成し、あるいはカーボン供給基板3の上にシリコン供給部4を載せて、このカーボン供給基板3及びシリコン供給部4を、カーボン供給基板3が坩堝1の底の凹部2aに収容されるように配置する(カーボン供給基板配置工程)。続いて、単結晶SiC基板5を、シリコン供給部4の上に重ねるようにして、かつ、坩堝1の側壁部2bの段差部2cに収容するようにして、坩堝本体2の上端部に配置する(閉鎖工程)。
このとき、図1に示すように、カーボン供給基板3の(上下方向の)厚みCと、シリコン供給部4の(上下方向の)厚みSと、を合わせた高さは、坩堝本体2の凹部2aの底面から段差部2cの平坦な支持面2dまでの高さXよりも高くなるように設計されている(C+S>X)。即ち、坩堝1内の温度がSi融解温度よりも低い状態において、坩堝本体2、カーボン供給基板3、シリコン供給部4、及び単結晶SiC基板5を図1に示すように組み付けた場合、単結晶SiC基板5の下面(の外縁部)が坩堝本体2の段差部2cの平坦な支持面2dに対して浮いた状態となっている。このような状態にセットした後、加熱炉内をいったん減圧する。その後、炉内圧力を10Pa程度とし、12℃/minの昇温速度で室温から1450℃まで昇温する。
炉内温度がSiの融点(約1420℃)を超えて、坩堝1内の温度もSi融解温度以上となった時点で、シリコン供給部4が溶融し、単結晶SiC基板5と、カーボン供給基板3と、の間にSi融液層7が形成される。シリコン供給部4には過剰量のSiが含まれているので、余剰のSi融液は、単結晶SiC基板5が重力によって下へ沈み込むのに伴って、カーボン供給基板3の表面(側面)を伝って坩堝本体2の底に流れ落ちる。これにより、単結晶SiC基板5の下面の周縁部が、坩堝本体2の支持面2dに接触した状態となり、上述の準密閉状態が実現される。
このとき、単結晶SiC基板5と、カーボン供給基板3と、の間にSi融液層7が挟まれて、当該Si融液層7に表面張力が働いて、Si融液層7の体積が一定の体積に保持される。Si融液層7の(上下方向の)厚みMは、200μm以下であることが好ましい。このSi融液層7に働く表面張力により、Si融液層7が単結晶SiC基板5のSi面(底面)に密着した状態で保持されるとともに、Si融液層7の表面張力によりカーボン供給基板3が上方に引き上げられる。即ち、カーボン供給基板3は、図5に示すように、坩堝本体2の底から浮いた状態で、Si融液層7の表面張力に引っ張られて当該Si融液層7に懸垂される(カーボン供給基板懸垂工程)。
上述のように、Si融液層7の(上下方向の)厚みMは200μm以下であることが好ましいが、具体的な厚さは、各部材を図1のように組み付ける前に、いったん坩堝本体2の凹部2aにカーボン供給基板3を収容して、坩堝本体2の側壁部2bの段差部2cの内側の支持面2dと、カーボン供給基板3の上面と、の高低差を3次元測定器で実測することにより、適宜の値となるように決定することが好ましい。その後に、決定したSi融液層7の厚みを実現できる適宜の厚みのシリコン供給部4(過剰量のシリコン供給部4)を形成する。Si融液層7の厚みは、坩堝本体2の底の凹部2aにカーボン供給基板3を嵌め合わせたときに、凹部2aの底面が水平に対して若干傾いていたり、カーボン供給基板3の厚みが均一でなかったりすることに起因して、カーボン供給基板3の上面が水平に対して若干傾いていたとしても、カーボン供給基板3を表面張力によって引き上げることができるような適宜の厚みとされる。これにより、水平に配置された単結晶SiC基板5に対してカーボン供給基板3の上面が傾いていたとしても、図5に示すように、カーボン供給基板3が表面張力により引き上げられることで、単結晶SiC基板5と平行な状態となるように補正することができる。
なお、前述のようにカーボン供給基板3の多結晶SiC被膜の表面は鏡面に仕上げられているので、Si融液の一部がSi融液層7として表面張力により前記鏡面上に安定的に保持される。また、カーボン供給基板3の多結晶SiC被膜の表面が鏡面に仕上げられていることにより、この鏡面がSi融液層7と密着し、カーボン供給基板3からSi融液層7にCが均質に溶け出す。
また、前述したように、坩堝本体2の少なくとも側壁部2bの内側表面は熱分解炭素被膜9により覆われているので、坩堝本体2の底に流れ落ちたSi融液(図略)が坩堝本体2を構成する等方性黒鉛材に浸み込んで坩堝本体2が変形してしまうことを抑制することができる。また、坩堝本体2の側壁部2bの内側表面は、一般的にSi融液との濡れ性が低い熱分解炭素被膜9により覆われているので、Si融液が坩堝1の側壁部2bの内側表面を伝い上ってくることを抑制することができる。
Si融液層7が形成された後は、坩堝1内の温度が1450℃である状態で適宜の時間保持し、Si融液中の気泡の除去を行う。具体的には、図略の真空ポンプを加熱炉の加熱室に接続して、Si融液中の気泡を、坩堝本体2に形成された開放通路2eを通じて取り除く。なお、開放通路2eの数及び形状等は、単結晶SiC基板5の大きさや、真空ポンプの排気能力に応じて適宜定めることが望ましい。
次に、炉内温度を、7℃/minの昇温速度で1450℃からエピ成長温度(液相エピタキシャル成長により単結晶SiC基板5に対して単結晶SiC膜を形成するのに適した温度をいい、以下同じ。)にまで昇温する。なお、エピ成長温度は、通常は、1600〜2000℃である。この工程から、Si融液の蒸発を抑制するために、加熱炉内にヘリウム又はアルゴンを導入して充満させ、炉内を大気圧より低い減圧環境とする。この状態の加熱炉をエピ成長温度に任意の時間にわたって保持することにより、単結晶SiCを液相エピタキシャル成長させ、単結晶SiC基板5に対して任意の厚みの単結晶SiCエピタキシャル膜を形成することができる。即ち、エピ成長温度を調整することにより、また、坩堝1内をエピ成長温度に保つ時間を調整することにより、単結晶SiC基板5に形成される単結晶SiCエピタキシャル膜6の厚みを制御することができる。
坩堝1内をエピ成長温度に昇温するとき、Si融液層7は準密閉構造の坩堝1の中に保持されるので、Si融液の蒸発は抑制され、長時間にわたってSi融液を坩堝1内に保持することができる。これにより、成長する結晶へのSiの安定した供給が可能となる。
更に、本実施形態に係る液相エピタキシャル成長方法では、坩堝1内においてカーボン供給基板3が単結晶SiC基板5に対して下方に配置されている。このように、(一般的にSi融液との濡れ性が単結晶SiC基板5よりも高くなっている)カーボン供給基板3を単結晶SiC基板5よりも下方に配置することで、坩堝本体2の上端部と単結晶SiC基板5(坩堝蓋)との隙間からSi溶液が漏れることを抑制できる。これによっても、成長する結晶へのSiの安定した供給が可能となる。
更に、前述したように、坩堝本体2の凹部2aの外縁と、坩堝本体2の側壁部2bの内面と、の間には十分なスペースが形成されている。そのため、カーボン供給基板3の全周にわたって側壁部2bとの間に隙間が形成されるので、Si融液が、Si融液層7と単結晶SiC基板5との接触部から単結晶SiC基板5の下面(本実施形態では、Si面)を伝って、坩堝本体2の上端部と単結晶SiC基板5(坩堝蓋)との隙間から外部に漏れることを抑制できる。従って、この意味でも、単結晶SiC基板5のSi面へのSiの安定した供給が可能となる。
また、本実施形態に係る液相エピタキシャル成長方法では、単結晶SiC基板5が坩堝蓋を兼ねる構成となっている。従って、坩堝1の内部容積を、単結晶SiC基板5に対して単結晶SiCエピタキシャル膜を形成できる範囲でなるべく小さくすることができるので、坩堝1内で温度差が発生しにくい。そのため、安定した液相エピタキシャル成長を実現することができる。更に、坩堝1の構成を簡素化することができる。
一般的に、単結晶SiC基板5に対して均一な単結晶SiCエピタキシャル膜6を形成するためには、単結晶SiC基板5と、カーボン供給基板3と、の間の距離をムラなく一定にする必要がある。言い換えれば、単結晶SiC基板5の結晶が形成される側の面と、カーボン供給基板3の前記単結晶SiC基板5に対向する面と、を厳密に平行な状態に保つことが重要である。ところが、従来からあるMSE法では、単結晶SiC基板5及びカーボン供給基板3の両方をそれぞれ、坩堝1等に対してハンドリングで固定していたため、組付け誤差等により、単結晶SiC基板5とカーボン供給基板3とを平行に配置できない場合があった。
また、単結晶SiC基板5とカーボン供給基板3との間の距離を、スペーサを介在させることによって制御する構成とした場合においても、スペーサの厚みを一定とすることは技術的に困難であり、単結晶SiC基板5とカーボン供給基板3とを平行に配置できない場合があった。そのため、均一な単結晶SiCエピタキシャル膜を形成することが困難であった。
この点、本実施形態に係る方法においては、単結晶SiC基板5及びカーボン供給基板3のうちの単結晶SiC基板5側のみが、坩堝本体2によって支持されている。詳細には、当該単結晶SiC基板5の下面の外縁部が坩堝本体2の支持面2dによって支持されている。一方、カーボン供給基板3側は、坩堝本体2によっては支持されておらず(坩堝本体2に接触しておらず)、単結晶SiC基板5の下面を濡らしているSi融液層7の表面張力によって、単結晶SiC基板5に対して吸い付くように懸垂されている。そのため、組付け誤差等の影響を受けることなく、単結晶SiC基板5とカーボン供給基板3との間の距離が一定となるように制御することができる。また、坩堝本体2の凹部2aに収容されたカーボン供給基板3の上面が単結晶SiC基板5のSi面に対して傾いていたとしても、Si融液層7の表面張力によって引き上げられることによって、図5に示すように、カーボン供給基板3の向きが単結晶SiC基板5のSi面に対して平行となるように補正することができる。
このようにして、坩堝1内(加熱炉内)を任意の時間にわたってエピ成長温度に保つことにより、単結晶SiC基板5に対して単結晶SiCを液相エピタキシャル成長させた後、加熱炉の炉内温度を12℃/minの降温速度で冷却して1450℃まで下げる。その後、炉内温度を1.25℃/minの降温速度で更に徐冷して1300℃まで下げる。その後、炉内温度が室内の温度となるまで自然冷却させた後、坩堝1を加熱炉から取り出す。このようにして、坩堝1内から単結晶SiC基板5を取り外すことにより、Si面にエピタキシャル膜が形成された単結晶SiC基板5を得ることができる。
次に、本実施形態に係る液相エピタキシャル成長方法と、従来のMSE法を利用した方法と、を比較した実験及びその結果について、図6、図8、及び図9を参照して説明する。図6(a)は、実施例1で得られた単結晶SiCエピタキシャル膜の表面の状態を示す顕微鏡写真である。図6(b)は、比較例1で得られた単結晶SiCエピタキシャル膜の表面の状態を示す顕微鏡写真である。図8(a)は、実施例2において、Si融液層の厚み及び単結晶SiCエピタキシャル膜の厚みをそれぞれ測定した結果を示す図である。図8(b)は、比較例2において、Si融液層の厚み及び単結晶SiCエピタキシャル膜の厚みをそれぞれ測定した結果を示す図である。図8(c)は、実施例2及び比較例2において厚みの測定を行った単結晶SiC基板上の位置(3点)を示す模式図である。
(実施例1)
最初の実験について説明する。本実験において、エピタキシャル成長処理を行う対象の単結晶SiC基板としては、3インチの単結晶4H−SiCウエハ(オフ角4度)を使用した。カーボン供給基板としては、多結晶SiCでコーティング(被膜)した、外径70mmの黒鉛材料を用いた。ウエハの外周から内側に3mmまでの領域(ドーナツ状の平面領域)は、坩堝本体の側壁部の段差部の平坦な支持面に接触させて、残りの領域に対して単結晶SiCエピタキシャル膜を形成した。
具体的には、加熱炉の炉内温度を1800℃、炉内圧力を27kPa(He雰囲気)とした状態で5時間保持して、エピタキシャル成長を行った。Si融液層の厚みは、100μmとなるように設計した。坩堝本体としては、3インチウエハ用のものを用いた。坩堝本体の底部に直径70mmの凹部を形成し、その凹部にカーボン供給基板を配置した。坩堝本体の上部を単結晶SiC基板で閉鎖し、シリコン供給部のSiが溶融したときに準密閉状態が形成されるようにした。坩堝本体には、開放通路として、側壁部に等間隔で6つのスリットを形成した。各々のスリットの幅は中心角に換算して5°となるようにし、スリットの深さは0.1mmとした。
(比較例1)
上記の実験と比較するために、従来から知られる方法と同様に、単結晶SiC基板、カーボン供給基板、及びこれらの間に挟まれるSi融液層を、加熱炉の炉内雰囲気に対して開放した状態で、単結晶SiC基板に対して単結晶SiCエピタキシャル膜を形成する液相エピタキシャル成長を行った。加熱炉の炉内温度を1800℃、炉内圧力を27kPa(He雰囲気)とした状態で2時間保持して、エピタキシャル成長させた。Si融液層の厚みは、100μmとなるように設計した。
実施例1及び比較例1で得られた単結晶SiCエピタキシャル膜の表面の状態をそれぞれ顕微鏡で撮影したところ、図6に示すような写真が得られた。実施例1の実験結果では、図6(a)に示すように典型的なステップフロー成長を確認することができ、液相エピタキシャル成長を行った5時間の間、Si融液層の厚みが一定の厚みで良好に維持されていたことがうかがえる。一方、比較例1の実験結果では、図6(b)に示すように単結晶SiCエピタキシャル膜の表面に荒れが見られ、また、単結晶SiCエピタキシャル膜の表面が2次元核形成ライクな表面形態になっていることを確認できる。このことから、液相エピタキシャル成長を行った2時間の間に、Si融液が蒸発してSi融液層の厚みが徐々に減少したことがうかがえる。即ち、Si融液層の厚みは液相エピタキシャル成長の速度を決めるパラメータであるところ、比較例1ではSi融液層の厚みが徐々に減少し、単結晶SiC基板にCが過剰に供給され、結果として液相エピタキシャル成長が不安定になったと考えられる。
なお、参考として、坩堝本体に形成される開放通路の開放度合いを変更することで坩堝内のSi融液の蒸発量がどのように変わるかについて実験した結果を図7に示す。図7は、Si融液膜を炉内雰囲気へ開放する割合を20%、60%、及び100%とした場合のそれぞれについて、Si融液の蒸発量の経時変化を示すグラフである。
本実験では、Si融液膜を周囲へ開放する割合を、20%、60%、及び100%としたときのそれぞれについて、炉内温度1600℃、炉内圧力10Paの下で3時間おきに坩堝内のSi融液の残量を測定した。ここで、開放する割合がX%というときは、形成されるSi融液膜の全周のX%だけを開放するように、坩堝1に開放通路を設けることを意味する。また、開放する割合が100%とは、Si融液膜の全周すべてにわたって開放されている場合を意味する。
図7の結果より、Si融液の周囲を開放する割合を小さくするほど、Si融液の蒸発が抑制され、長時間にわたってSi融液を坩堝内に保持することができ、ひいては安定した液相エピタキシャル成長が行われるようになることがわかる。
(実施例2)
本実験において、単結晶SiC基板としては、20mm×20mm角の単結晶4H−SiCウエハ(オフ角4度)を使用した(これに対応して、坩堝は、角筒状の側壁部を有するものを用いた)。カーボン供給基板としては、多結晶SiCでコーティング(被膜)した、14mm×14mm角の黒鉛材料を用いた。単結晶SiC基板の外周から内側に3mmまでの領域は、準密閉構造を形成するために坩堝の支持面と接触する部分として用い、残りの領域のうちカーボン供給基板と対面する面に対して単結晶SiCエピタキシャル膜を形成した。加熱炉の炉内温度を1800℃、炉内圧力を13kPa(He雰囲気)とした状態で1時間保持して、エピタキシャル成長させた。カーボン供給基板は坩堝に固定せず、Si融液の表面張力によって結晶SiC基板の方へ引き上げる構成とした。
(比較例2)
比較例2の実験は上記の実施例2と殆ど同じであるが、異なる点は、カーボン供給基板を表面張力により引き上げるのではなく、坩堝の底に突起を、カーボン供給基板に前記突起に対応する窪みを形成し、嵌め合わせることでカーボン供給基板を坩堝に対して固定した。
実施例2及び比較例2において、図8(c)に示す単結晶SiC基板上の3箇所において、Si融液層の厚み及び単結晶SiCエピタキシャル膜の厚みをそれぞれ測定した。実施例2の結果を図8(a)に、比較例2の結果を図8(b)に、それぞれ示す。実施例2では図8(a)に示すようにSi融液層の厚みが略均一に保持されているのに対し、比較例2では図8(b)に示すように場所によってSiC融液層の厚みにバラツキがあり、結果として形成された単結晶SiCエピタキシャル膜の厚みにもバラツキがあった。
(比較例3)
比較例3では、上記の実施例1及び実施例2との比較として、加熱炉の炉内雰囲気に対して坩堝内を完全に遮断した構造(密閉構造)とした場合について実験した。単結晶SiC基板、カーボン供給基板、並びに単結晶SiC基板及びカーボン供給基板の間にシリコン供給部を配置し、これらを合わせた構造体の外周を多結晶SiC被膜でコーティング(被覆)した。これにより、密閉構造(完全密閉構造)の空間を作成し、この構造に含まれる単結晶SiC基板に対して単結晶SiCエピタキシャル膜を形成する液相エピタキシャル成長を行った。加熱炉の炉内温度を1800℃、炉内圧力を27kPa(He雰囲気)とした状態で1時間保持して、液相エピタキシャル成長させた。
図9に、比較例3により得られた単結晶SiCエピタキシャル膜を撮影した顕微鏡写真を示す。この図9に示すように、比較例3において得られた単結晶SiCエピタキシャル膜に、クレータ状の部分が存在することが確認できた。このクレータ状の部分は、液相エピタキシャル成長中に単結晶SiCエピタキシャル膜内に気泡があった部分であり、当該部分で局所的に液相エピタキシャル成長が進まなかったことによりクレータ状の部分が形成されたと推定される。
図7に示した参考例を考慮すれば、単結晶SiCを液相エピタキシャル成長させる単結晶SiC基板5に対して常に十分なSiを供給し、安定した液相エピタキシャル成長を実現するという観点からは、坩堝1を極力密閉状態に保つことが好ましいと考えられる。しかし、図9に示した比較例3のとおり、坩堝内を完全な密閉状態とすると、気泡等が発生して液相エピタキシャル成長が阻害されてしまうことがわかった。以上より、坩堝1内がある程度閉鎖された状態となるように、開放通路の数及び形状等を適宜に設計することが望ましい。
以上で説明したように、上記実施形態の液相エピタキシャル成長方法においては、単結晶SiC基板5の外周部に単結晶SiCエピタキシャル膜を形成しない領域を設け、単結晶SiC基板5の平面の面積に対して常に単結晶SiCエピタキシャル膜6を形成する部分の面積を小さくしている。
これにより、単結晶SiC基板5の外周部を除いた部分に対して単結晶SiCエピタキシャル膜6を形成することができる。この単結晶SiC基板5の外周部は、いわゆるエッジ・エクスクルージョン領域(基板品質が保証されない領域)といわれる領域であり、通常単結晶SiC基板5の外周から数mmの領域を指す。この領域がデバイス作成に用いられることはないので、エッジ・エクスクルージョン領域に単結晶SiCエピタキシャル膜6を形成しないことは、デバイス性能に何ら影響を及ぼさない。
このエッジ・エクスクルージョン領域に対して液相エピタキシャル成長させないことで、以下の効果が期待される。即ち、エッジ・エクスクルージョン領域は転位や歪みを内包した低品質領域であるため、単結晶SiCエピタキシャル膜中への転位伝播や、新たな転位発生による品質低下の要因となる。本発明では、高品質な単結晶SiC基板5中央部にのみ単結晶SiCエピタキシャル膜6を形成することで、高品質な単結晶SiCエピタキシャル膜6を得ることが期待できる。なお、液相エピタキシャル成長後、エピタキシャル膜形成しなかった単結晶SiC基板の外周部は加工により除去してもよい。このときの加工方法は、例えば機械研削やレーザー等を用いた公知の加工方法とすることができ、特に限定されない。
また、上記実施形態の液相エピタキシャル成長方法は、少なくともCを供給するためのカーボン供給基板3と、Siを供給するためのシリコン供給部4と、を有底の筒形状の坩堝1に収容して、単結晶SiC基板5に対して単結晶SiCを液相エピタキシャル成長させる。この液相エピタキシャル成長方法は、カーボン供給基板配置工程と、閉鎖工程と、を含む。カーボン供給基板配置工程では、カーボン供給基板3を坩堝本体2の底に収容する。閉鎖工程では、単結晶SiC基板5の単結晶SiCエピタキシャル膜を形成させる側の面を下側に向けて、当該単結晶SiC基板5により坩堝本体2の上端部を閉鎖する。カーボン供給基板3と、単結晶SiC基板5と、の間にはシリコン供給部4が介在される。
これにより、坩堝1の中にシリコン供給部4が保持されるので、坩堝1内をSi融解温度以上に昇温したときにも、Si融液が蒸発することが抑制され、長時間にわたってSi融液を坩堝1内に保持することができる。また、単結晶SiC基板5が坩堝蓋を兼ねる構成とすることで、坩堝1の内部容積を、単結晶SiC基板5に対して単結晶SiCエピタキシャル膜6を形成できる範囲で大幅に小さくすることができる。この結果、坩堝1内で温度差が発生しにくくなるので、安定した液相エピタキシャル成長を実現し、均一な単結晶SiCエピタキシャル膜6を形成することができる。
また、上記実施形態の液相エピタキシャル成長方法においては、坩堝1内をSi融解温度以上に昇温して、シリコン供給部4を融解させてSi融液層を形成し、Si融液層の表面張力によって、単結晶SiC基板5に対してカーボン供給基板3を懸垂して保持するカーボン供給基板懸垂工程を更に含む。
これにより、Si融液層の表面張力によって、単結晶SiC基板5に対してカーボン供給基板3を懸垂するので、単結晶SiC基板5とカーボン供給基板3との間の距離をムラなく一定にすることができる。これにより、安定した液相エピタキシャル成長を実現し、均一な単結晶SiCエピタキシャル膜6を形成することができる。
また、上記実施形態の液相エピタキシャル成長方法においては、坩堝本体2の側壁部2bの内側表面は、熱分解炭素被膜9でコーティングされている。
これにより、Si融液との濡れ性が低い熱分解炭素によって坩堝本体2の側壁部2bの内側表面が覆われるので、Si融液が坩堝本体2の側壁部2bの内側表面を伝い上ってくることを抑制することができ、坩堝本体2と単結晶SiC基板5との隙間からSi融液が漏れることを抑制できる。これにより、十分な量のSi融液を坩堝1内に確保することができ、安定した液相エピタキシャル成長を実現し、均一な単結晶SiCエピタキシャル膜6を形成することができる。
上記実施形態の液相エピタキシャル成長方法においては、坩堝1内に収容するカーボン供給基板3は、坩堝1の側壁部2bの内面との間に空間を形成するように配置される。
これにより、Si融液層7から、単結晶SiC基板5の単結晶SiCエピタキシャル膜6を形成させる側の面(下面)を伝って、坩堝本体2と単結晶SiC基板5との隙間からSi融液が漏れることを抑制できる。これにより、十分な量のSi融液を坩堝1内に確保することができ、安定した液相エピタキシャル成長を実現し、均一な単結晶SiCエピタキシャル膜6を形成することができる。
上記実施形態の液相エピタキシャル成長方法においては、坩堝本体2の側壁部2bには、坩堝1の内部空間を外部と繋ぐ開放通路2eが形成されている。
これにより、例えば真空ポンプを用いて、Si融液中の気泡を除去することができる。これにより、Si融液中の気泡により液相エピタキシャル成長が阻害されることを抑制し、高品質な単結晶SiCエピタキシャル膜6を形成することができる。
前記の坩堝1は、前記の液相エピタキシャル成長方法に用いられている。
この坩堝1を用いることにより、単結晶SiC基板5に対して均一な単結晶SiCエピタキシャル膜6を形成することができる。
以上に本発明の好適な実施の形態を説明したが、上記の構成は例えば以下のように変更することができる。
上記実施形態の液相エピタキシャル成長方法においては、円筒形状の坩堝本体2と、円板形状の単結晶SiC基板5と、を用いるものとした。即ち、坩堝1は略円柱形状であった。しかしながら、坩堝及び単結晶SiC基板の形状は、上記実施形態のものに限定されるものではなく、例えば実施例2のように、角筒形状の坩堝本体2と、四角形板状の単結晶SiC基板5と、を用いるものとしてもよい。
上記実施形態の液相エピタキシャル成長方法においては、単結晶SiC基板5のSi面に対して、単結晶SiCを液相エピタキシャル成長させるものとしたが、結晶を形成させる面は必ずしもSi面である必要はなく、C面に単結晶SiCを液相エピタキシャル成長させてもよい。
カーボン供給基板3の多結晶SiC被膜の形成方法についてより具体的に説明すると、まず、前述した黒鉛材を加熱炉内に配置し、炉内温度を1450℃とし、炉内圧力を0.1Pa未満まで減圧して48時間保持する。これにより、カーボン供給基板3中に含有される窒素を除去する。その後、炉内温度を1450℃、炉内圧力を1atmとする。この状態で、メチルトリクロルシラン及び水素を1:7の比率になるように導入して炉内に充満させ、化学蒸着(CVD;Chemical Vapor Deposition)により被膜を形成する。更に、上記の被膜処理後の黒鉛材を取り出して、表面を機械研磨で鏡面に仕上げる。なお、不純物の混入を抑制するために、機械研磨をした後に、アセトン及びエタノールを用いて超音波洗浄し、ハロゲンを用いてクリーニング処理を行うことが好ましい。