JP2017066506A - グラフェン膜の作製方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】 プラズマCVDによるグラフェン膜の低温作製において、高真空プロセス、かつ欠陥が増えて品質が低下する問題を解決すべく、より高圧プロセスで、欠陥が少ない良質なグラフェン膜作製手法、およびグラフェン膜を提供する。【解決手段】含炭素ガスをノズルから前記基材の表面に吹き出しながら、前記ノズルにマイクロ波を印加してプラズマを生成するとともに、前記ガスの流速を制御して、前記ラジカルを前記基材の表面に強制拡散させることにより、金属基材表面にグラフェン膜を形成する。【選択図】 図3

Description

本発明は、グラフェン膜の作製方法に関する。
グラフェンは、炭素原子とその結合から六角形に繋がった平面構造で、1原子の厚さのsp2結合の炭素原子シートである。グラフェンは、化学的・物理的に安定して、高導電性、大電流密度耐性、電子とホールの高移動度、高熱伝導性、高光透過性などの優れた特性を持っていることから、次世代のエレクトロニクス素材として注目されている。
透明導電膜や、電子素子の配線材や、電子素子の熱伝導材などのエレクトロニクス素材として、グラフェンを利用する際には、単結晶膜または多結晶膜の形状で利用される。グラフェン膜の層数が10層以上になると通称のグラファイト膜の物性に近くなるため、多結晶膜のグラフェンをエレクトロニクス素材として利用するためには、グラフェンの優れた物性が維持できる層数が10層以下のグラフェン膜が望ましい。
グラフェン産業を実現するためには、工業用量産技術の開発が不可欠である。グラフェン膜の作製方法として、グラファイトからグラフェンを剥離する方法などの様々な方法が開発されているが、なかでも、化学気相成長(CVD:Chemical Vapor Deposition)が大面積化に向いており、工業用量産技術として期待されている。
近年、熱CVD法が開発されている(非特許文献1参照)。熱CVD法によるグラフェンの作製は、炉心管にリアクタとして石英管を使用した真空排気可能な石英チューブ炉を用いて行う。しかし、1000℃以上の高温リアクタが必要であるし、構造上、大面積化に限界があるため、工業用量産技術として限界がある。
グラフェン産業の半導体プロセスとの親和性を高め、既存の半導体生産ラインへの適用を可能にするためには、作製温度を500℃以下にすることが望ましい。そこで、プラズマCVD法を用いたグラフェン膜の低温作製方法が開発され、工業用量産技術としての将来性が注目されている。
通常、プラズマCVD処理用プラズマの特性は、プラズマを生成する圧力に強く依存するため、プラズマを圧力に対して次の三つの種類に分けられる。
(1)低圧プラズマ:圧力領域 0.01Torr 〜 1.0Torr
(2)中間圧プラズマ:圧力領域 1.0Torr 〜 100Torr
(3)高圧プラズマ:圧力領域 100Torr 〜 760Torr(大気圧)
マイクロ波を用いた表面波プラズマCVD法により、低温(基材温度500℃以下)・低圧(50Pa(0.375Torrに相当)以下)でグラフェン膜を作製する技術が報告されている(特許文献1、2参照)。
図13に従来のマイクロ波を用いた表面波プラズマCVD装置の模式図を示す。マイクロ波を用いた表面波プラズマCVD装置は、上端が開口した金属製のリアクタ(40)と、リアクタ(40)の上端部に金属製支持部材(44)を介して気密に取り付けられたマイクロ波を導入するための誘電体窓(43)と、その上部に取り付けられたスロット(47)付き矩形マイクロ波導波管(42)とから構成されている。リアクタ(40)の内部のプラズマ生成室(41)に設置された試料台(46)に基材(45)を載置し、プラズマCVD処理を行うことにより、グラフェン膜を作製する。
また、マイクロ波を用いた表面波プラズマCVD法を用いて、低温(基材温度600℃以下)・中間圧(3 Torr)でグラフェン膜の作製方法が開発された(特許文献3参照)。
また、パルス電源(パルス周波数10 kHz、パルス幅1μs、電圧±700 V)を用いたプラズマCVD法が開発され、低温(基材温度400℃以下)、かつ中間圧(5Torr)でグラフェン膜の作製が可能になった(特許文献4参照)。
また、平行平板型大気圧パルスプラズマを用いたCVD法が開発され、低温(基材温度600℃以下)、かつ高圧でグラフェン膜の作製が可能になった(特許文献5参照)。
一方、低圧から中間圧および高圧において、プラズマを安定に生成・維持できるマイクロ波プラズマ処理装置が開発されている(非特許文献2〜4、特許文献6〜9)。
これらの装置は、導波管の代わりにマイクロストリップ線路をマイクロ波伝送線路として用いたマイクロ波プラズマ処理装置であって、従来の導波管を用いたマイクロ波プラズマ処理装置より、単純な構造、安価な製作、低電力運転などのメリットを持っており、これからの様々な産業的応用が期待されている。
特に、非特許文献3、4では、大気圧においてマイクロストリップ線路を元に開発したプラズマを大気圧CVDへ応用し、枝状のグラファイト、アモルファスカーボン(DLC:diamond like carbon)、およびナノクリスタルダイヤモンド(NCD:nanocrystalline diamond)をシリコン基材上に合成しており、マイクロストリップ線路を用いて作製したマイクロ波プラズマ処理装置の大気圧CVD用プラズマ源としての可能性を確認している。
Kuen Soo Kim et.al、nature 456、pp.706−710(2009) Jaeho Kim et.al、Appl.Phys.Lett.93、191505(2008) 金載浩ら、IEEE Trans.FM 130、pp.913−918(2010) Jaeho Kim et.al、Jpn.J.Appl.Phys.54、10AA02(2015) Michael A.Lieberman and Allan J.Lichtenberg,"Principles of Plasma Discharges and Materials Processing",Second Edition,A JOHN WILEY & SONS,INC 河野明廣、「常識となっていないシース現象」、J.Plasma Fusion Res. 89、pp.529−535(2013) Xuesong Li et.al、Science 324、pp.1312−1314(2009) L.G.Cancado et.al、Phys.Rev.Lett.93、pp.247401_1−247401_4(2004) L.M.Malard et.al、Physics Reports 473、pp.51−87(2009) A.Reina et.al、Nano Letters 19、pp.30−35(2009)& Supporting Information J.S.Park et.al、Carbon 47、pp.1303−1310(2009)
特開2012−162442号公報 特開2013−249530号公報 特開2013−100205号公報 特開2010−212619号公報 特開2011−207736号公報 特開2006−107829号公報 特開2007−242596号公報 特開2008−282784号公報 国際公開第2015/030191号
特許文献1、2の技術は、50Pa(0.375Torrに相当)以下の高真空リアクタが必要であるため、高価なシステムになることや、プラズマCVD処理の前後の処理との連続性や親和性が低い手法であり、工業用量産技術として限界がある。
また、500℃以下の低温で合成したグラフェンは、ラマン分光スペクトルにおいて結晶格子の欠陥に起因するDバンドがGピークに比べて強く現れていることや、また結晶格子の欠陥に起因するD´バンドのピークが現れていることから分かるように、熱CVD法の場合に比べて結晶性が低下してしまい、工業用の良質なグラフェン膜作製には限界がある。
特許文献3の技術は、3Torrの圧力下で、基材の温度を600℃以下とし、グラフェンを成長することができる。しかし、成膜された多結晶のグラフェン膜の層数が10層以上となっていることや、グラフェンの結晶性を示す2Dピーク(G´ピークとも呼ぶ)がブロードになっており、良質なグラフェン膜が実現できてないことが自明であり、エレクトロニクス素材としての良質なグラフェン膜作製には限界がある。
特許文献4の技術は、プラズマからのイオン衝撃を減らすために、プラズマと基材の間に平板電極を設けている。この平板電極が邪魔になり、プラズマで生成した高密度のラジカルを基材表面に提供することが困難である。また、平板電極にバイアス電圧を印加するシステムが要るなど、装置の構成が複雑であり、量産技術としては限界がある。
特許文献5の技術は、基材の加熱処理工程が必要であるし、プラズマ生成用上部電極とアース電極の間に基材を設ける構造となっているし、基材を加熱する機構が必要であるため、基材面積の大規模化に限界がある。また、ラマン分光スペクトルにおいて結晶格子の欠陥に起因するDバンドのピークが強く現れていることや、Gバンドのピークがブロードでなっていることや、また2Dバンド(G´バンドとも呼ぶ)のピークがGバンドのピークに比べて弱く、かつそのピークがブロードになっていることから、良質なグラフェン膜が実現できていないことが自明であり、エレクトロニクス素材としての良質なグラフェン膜の作製には限界がある。
特許文献1〜5の技術に対して、非特許文献2〜4、および特許文献6〜9には、前述のとおり、低圧から中間圧及び高圧において安定なプラズマを生成させるための装置の構造について記載されており、特に、非特許文献3、4には、大気圧マイクロ波プラズマジェット(ガスノズルの幅は10mm、隙間は1mmである)を用いてカーボン系材料である、枝状のグラファイト、アモルファスカーボン(DLC)膜、およびナノクリスタルダイヤモンド(NCD)膜をシリコン基材上に合成したことが記載されている。
しかしながら、ナノクリスタルダイヤモンドは、カーボン原子がsp3結合した数十ナノメーターのサイズを持つ結晶からなっている多結晶の薄膜である。また、アモルファスカーボン膜は、sp2とsp3の成分を含む非晶質のカーボン薄膜である。さらに、枝状のグラファイトは、グラフェンと同じsp2成分だけで結晶化したカーボン材料であるが、いわゆる、黒鉛の堆積体であり、基材表面に沿って枝状に成長しており、グラフェン膜の生成はできてない。
このように、実際にグラフェン膜合成用CVDへ応用するためには、どんな構造でプラズマCVDシステムを構成するか、ガス種類や流速の選択、プラズマ処理条件などの解決しなければならない課題が多く残っている。
本発明は、以上のような事情に鑑み、1Torr以上(中間圧以上)、かつ低温(基材温度500℃以下)において、エレクトロニクス素材として応用できる、良質な2次元状(平面状)グラフェン膜の作製方法を提供することを目的とする。また、本発明は、グラフェンの優れた物性が維持できる、層数が10層以下、好ましくは1〜2層のグラフェン膜の作製方法を提供することを、もう1つの目的とする。
本発明者らは、上記の目的を達成すべく、鋭意検討を重ねた結果、1Torr以上で、かつ500℃の低温でも良質なグラフェン膜を作製するための新たな手法を見出し、これにより、従来法と比較して、低い基材温度においても欠損が少なく、結晶性が高いグラフェン膜を形成することができ、従来技術における上記課題を解決しうることが判明した。
本発明は、これらの知見に基づいて完成するに至ったものであり、以下のとおりのものである。
[1]基材の表面にマイクロ波プラズマ生成してグラフェン膜を形成するグラフェンの成膜方法であって、
ノズルから炭素系ガスを含む原料ガスを前記基材の表面に吹き出しながら、前記ノズルの内部及び/又は前記ノズルの端又は周辺にマイクロ波を印加することにより、前記原料ガスからラジカルを含むプラズマを生成するとともに、前記原料ガスの流速を制御して、前記ラジカルを前記基材の表面に強制拡散させる工程を含むことを特徴とするグラフェン膜の作製方法。
[2]前記ノズルの、マイクロ波の電界がかかる方向の開口を1mm以下とすることを特徴とする[1]に記載のグラフェン膜の作製方法。
[3]前記ノズルが、1mm以下の隙間を有するスリット形状を有していることを特徴とする[2]に記載のグラフェン膜の作製方法。
[4]前記プラズマから前記基材の表面へのイオン衝撃が減るように、前記工程が行われる圧力を前記プラズマにおけるイオンの平均自由行程がデバイ長より小さくなる圧力より高く設定することを特徴とする[1]〜[3]のいずれかに記載のグラフェン膜の作製方法。
[5]前記工程が行われる圧力を1Torr以上に設定することを特徴とする[1]〜[4]のいずれかに記載のグラフェン膜の作製方法。
[6]前記工程を500℃以下の基材温度で行うことを特徴とする[1]〜[5]のいずれかに記載のグラフェン膜の作製方法。
[7]前記マイクロ波を印加するために、マイクロ波伝送線路としてマイクロストリップ線路又はストリップ線路を用いることを特徴とする[1]〜[6]のいずれかに記載のグラフェン膜の作製方法。
[8]前記工程の処理時間に関係なくグラフェン膜の層数が1〜2層で成長が止まる自己成長停止の成長条件でグラフェン膜を作製することを特徴とする[1]〜[7]のいずれかに記載のグラフェン膜の作製方法。
[9]前記基材をフレキシブルな基材とし、該基材をロール状で連続的に動かすことにより、グラフェン膜をロールツーロール方式で連続作製することを特徴とする[1]〜[8]のいずれかに記載のグラフェン膜の作製方法。
[10]前記フレキシブルな基材にしわとひずみが発生することを低減するため、前記フレキシブルな基材をサポートする成膜ローラを設け、前記成膜ローラの形状に沿って前記ノズルを複数配列して、プラズマを生成することを特徴とする[9]に記載のグラフェン膜の作製方法。
本発明によれば、従来のプラズマCVD法によるグラフェン膜作製の課題である、高真空プロセスであり、かつ作製するグラフェン膜の品質が低下するという問題を解決し、中間圧から大気圧までの高い圧力、かつ500℃以下の低い基材温度においても欠陥が少なく、結晶性が高いグラフェン膜を作製することが可能となる。また、本発明によれば、プラズマ処理の時間に関係なくグラフェン膜の層数が1〜2層で止まる自己成長停止条件で、欠陥のないグラフェン膜を作製することが可能となる。これにより、従来のプラズマCVD法により、高い生産性と信頼性を有する良質なグラフェン膜の工業用大量生産法を提供することが可能となる。
プラズマCVDにおける数層グラフェン膜の成長過程を模式的に示す図 (a)、(b)は、無衝突シースと衝突シースにおけるプラズマから基板表面へのイオン衝撃の様子を模式的に示す図であり、(c)は、本発明における基板表面に当たるガス流れの効果を模式的に示す図 本発明に用いたマイクロ波プラズマCVD装置の模式図 実施例1の、銅箔基材の表面に作製したグラフェン膜のラマン分光スペクトル 実施例2の、銅箔基材の表面に作製したグラフェン膜のラマン分光スペクトル 実施例3の、ノズルと基材との間に生成したプラズマの写真 実施例3の、水素プラズマ処理とプラズマCVD処理する際の基材表面温度の変化を示す図 実施例3の、銅箔基材の表面に作製したグラフェン膜のラマン分光スペクトル 実施例3の、銅箔基材の表面に作製したグラフェン膜を透過型電子顕微鏡で観察した断面写真 実施例4の、銅箔基材の表面に作製したグラフェン膜のラマン分光スペクトル 実施例5の、ロールツーロール方式の連続成膜装置の模式図 実施例6の、基材をサポートする成膜ローラを設けたロールツーロール方式の連続成膜装置の模式図 従来のマイクロ波を用いた表面波プラズマCVD装置の模式図
プラズマから供給される基材表面に原子状炭素(ラジカル)は化学的に再結合することによりカーボン材料として成長する。原子状炭素は化学結合する際にsp2またはsp3結合をする。sp3結合のみで再結合するとダイヤモンドに、sp2とsp3が混在して非結晶(アモルファス)状態で生成するとダイヤモンドライクカーボン(DLC)に、sp2結合のみで再結合するとグラファイトまたはグラフェンになる。グラファイトは通常10層以上のグラフェンの炭素膜をいう。
本発明のグラフェン膜の作製方法は、ノズルから炭素系ガスを含む原料ガスを基材表面に吹き出すこと、該ノズルの内部及び/又は前記ノズルの端又は周辺にマイクロ波を印加してプラズマを生成すること、プラズマ内で生成するラジカルが基材表面に十分供給されるように原料ガスの流速を制御すること、前記マイクロ波の電界がかかる方向の前記ノズルの開口を1mm以下とすること、リアクタ内の圧力を中間圧、またはプラズマにおけるイオンの平均自由行程がデバイ長より小さくなる圧力より高く設定すること等により、ラジカルを基材表面に強制拡散させる工程を有することを特徴とするものであって、基材表面へのプラズマからのイオン衝撃を減らし、グラフェン成長に必要な炭素系ラジカルを含むガス流を適切に供給することにより、低い基材温度においても欠損が少なく、結晶性の高いグラフェン膜を得ることができるものである。
以下、本発明のグラフェン作製法の実施の形態について説明する。
なお、この形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
従来の低圧マイクロ波プラズマCVD処理では、図13に示すように、原料ガスを金属製リアクタの壁に設けたノズルを通してリアクタ内に封入し、リアクタ内に自然拡散させる。その後、リアクタの一方の面に設けたマイクロ波導入窓を通ってリアクタ内にマイクロ波パワーを導入し、プラズマを生成する。
この方法では、プラズマが拡散しやすく、プラズマがリアクタ内の全体に広がり、リアクタ内に設ける基材の表面へ高密度のラジカルが供給される。しかし、高密度のラジカルが基材に供給されると、グラフェンの核生成反応が激しくなり、初期の核生成密度が高くなる。初期核生成密度が高いと、作製される多結晶のグラフェン膜を構成する単結晶グラフェンのサイズが小さくなってしまい、その結果、良質なグラフェン膜の作製が困難となる。この方法で、低温合成されたグラフェン膜からは、ラマン分光スペクトルのDピークが強く現れる。
ここに、プラズマCVD処理における多結晶のグラフェン膜の成長過程について簡単に説明する。図1にその成長過程を示す。
グラフェンは、プラズマにより生成した炭素系ラジカルがシース(プラズマと基材との間に形成する空間領域)に拡散し、基材表面を沿って移動しながら、基材表面で再結合することにより、形成される。
最初に、基材表面にグラフェンの初期核が生成する。それぞれの核が基材表面を沿って横方向に成長し、お互いにぶつかり合うと成長が止まり、第一層のグラフェン膜となる。
次に、第一層のグラフェン膜の上に、第二の核が生成し、第一層のグラフェン膜の表面を沿って成長する。上記と同じ過程を通って第二層のグラフェン膜になる。このような成長過程を繰りかえることで、数層の多結晶グラフェン膜に成長する。
上記の成長過程から分かるように、核生成密度が高いと、それぞれのグラフェン核が成長できるスペースが少なくなり、周りのグラフェンとすぐぶつかり合い、成長が止まる。その結果、グラフェン膜を構成する単結晶グラフェンのサイズが小さくなってしまい、良質なグラフェン膜にならない。
また、低圧におけるプラズマCVD処理では、プラズマと基材との間に形成するシースが無衝突状態のシースとなり、プラズマからのイオンがシース電位でより加速されて高いエネルギーを持ったままで、基材表面に衝撃する。この強いイオン衝撃により、成長中のグラフェンがダメージを受けて、欠陥が多いグラフェン膜になってしまう。そのため、良質なグラフェン膜の作製が困難となる。
本発明者等は、これまでに、基材へのイオン衝撃を減らすために、基材をプラズマ領域から遠く離れたところに置いて処理を行う通常のリモトープラズマCVD法も利用した。
しかし、通常のリモトープラズマCVD法では、グラフェンの核生成密度が低く、なお、それぞれの核が十分に成長できず、完全な連続のグラフェン膜として成長しにくくなり、グラフェン膜としての欠陥が増えてしまう問題と、グラフェンの成長が遅くなり、グラフェン膜を得るために長時間が必要であるという問題があった。
本発明のグラフェン膜の作製方法では、基材表面へのイオン衝撃を減らすため、リアクタ内の圧力をプラズマにおけるイオンの平均自由行程がデバイ長より小さくなる圧力より十分高く設定する。一般的にプラズマとそれを囲む壁との間に形成するシースの長さはデバイ長程度である。
これにより、プラズマと基材との間に衝突状態のシースを形成することができ、プラズマからのイオンはシース内で他の粒子とぶつかり合い、その運動エネルギーを失う。その結果、基材表面へのイオン衝撃によるグラフェンのダメージが劇的に減る。
そこで、本発明で用いるプラズマCVD処理の圧力条件としては、プラズマにおけるイオンの平均自由行程(λ)がデバイ長(λDe)より小さくなる圧力より高い、中間圧から高圧までの間の圧力であることが望ましい。
なお、イオンの平均自由行程とは、他の粒子との衝突から次の衝突までの間にイオンが進む距離の平均である。すなわち、イオンが衝突せずに進む平均距離である。平均自由行程(λ)は、非特許文献5のページ45とページ33に記載されている下記の式(1)と式(2)、および式(3)から求められる。
ここで、nは粒子の密度(m−3)、σは衝突断面積(m)である。
衝突断面積は、
σ=πD ・・・・・・式(2)
である。ここで、Dは粒子の直径である。
また、下記の気体の状態方程式は
P=nKT ・・・・・・式(3)
である。Pは圧力(Torr)、kはボルツマン定数(1.381×10−23 J/K)、Tは温度(K)である。
式(1)に式(2)と式(3)を適用すると、粒子の平均自由行程は次のようになる。
式(4)からイオンの平均自由行程は圧力に反比例関係であることがわかる。圧力が高くなるとイオンの平均自由行程が小さくなる。
一方、デバイ長(λDe)は非特許文献5のページ38に記載されている次の式から求められる。
ここで、εは自由空間中誘電率、Tは電子温度、nは電子密度、eは電子の電荷である。従って、デバイ長は電子密度と電子温度により決まる。
本発明のグラフェン膜の作製方法では、イオンの平均自由行程がデバイ長より小さくなる圧力より高い圧力に設定するとともに、炭素系ガスを含む原料ガスをノズルから前記プラズマ領域を通って基材表面に吹き出すことで、ガスの流れが基材表面に直接当たるようにする。
以下、図面を用いて、説明する。
図2(a)と(b)に、無衝突シースと衝突シースにおけるプラズマから基材表面へのイオン衝撃の様子を模式的にそれぞれ示す。また、図2(c)に本発明のグラフェン作製方法において基材表面に当たるガス流れの効果を模式的に示す。
まず、無衝突シースと衝突シースにおける基材表面へのイオン衝撃について下記に簡単に説明する。
(1)無衝突シースにおける基材へのイオン衝撃(図2(a)):通常の低圧プラズマでは、プラズマと基材表面との間に無衝突シース形成する。プラズマで生成したイオンは、プラズマからシースの方に入ると、シース電位より基材表面を向って加速する。低圧の場合は、空間に粒子が少ないので、加速したイオンは高いエネルギーを持ったまま基材表面に衝突する。そのため、低圧プラズマを用いたCVD処理では、基材表面へのイオン衝撃が成膜に大きく影響する。
(2)衝突シースにおける基材へのイオン衝撃(図2(b)):通常、中間圧以上の高い圧力(厳密には、イオンの平均自由行程がデバイ長より小さくなる圧力より高い圧力)のプラズマでは、衝突シースが形成する。プラズマで生成したイオンは、プラズマからシースの方に入ると、シース電位より基材表面を向って加速される。ところが、高い圧力では、シース内における中性粒子などの密度が高いため、加速中のイオンはそれらの粒子と衝突を繰り返して起こす。イオンは加速しにくくなり、基材表面に達するイオンの運動エネルギーは低い。そのため、中間圧以上のプラズマを用いたCVD処理では、基材表面へのイオン衝撃の影響は劇的に減る。
この衝突シースと無衝突シースについては、例えば、非特許文献6に詳述されている。
一方、衝突シースが形成する高い圧力では、粒子が拡散しにくくなり、プラズマ内に生成するグラフェン成長に必要なラジカルが、自然拡散だけには基材表面まで十分に届かなくなる問題が生じる。その結果、基材表面におけるグラフェンの核生成密度が低く、なお、それぞれの核が十分に成長できず、完全な連続のグラフェン膜として成長しにくくなり、グラフェン膜としての欠陥が増えてしまう問題が生じる。
また、プラズマCVD処理において、プラズマから基材表面に届いたラジカルは基材表面を沿って拡散しながら、化学的に再結合する。これにより、グラフェン膜が基材表面を沿って成長する。この際、ラジカルの表面拡散は基材温度により促進される。しかし、基材温度が低いとラジカルの表面拡散が悪くなり、それぞれのグラフェンの核が十分に成長できず、完全な連続のグラフェン膜として成長しにくくなり、グラフェン膜としての欠陥が増えてしまう問題が生じる。そのため、従来のプラズマCVD処理法では、欠陥が少ないグラフェン膜を作製するためには、700℃以上の基材温度が必要とされている。
本発明のグラフェン膜の作製方法では、前記の問題を解決するために、図2(c)に示すように、原料ガスを前記基材の表面に吹き出すことで、原料ガスの流れがプラズマ領域を通って強制的に送り出され、基板表面に直接当たるようにする。これにより、プラズマ内で生成するラジカルは、この原料ガスの流れと共に基材表面に輸送される。さらに、基材表面に当たるガスは基材表面を沿って流れるので、基材表面に輸送されたラジカルはガスの流れと共に基材表面を沿ってさらに輸送され、その結果、基板表面にラジカルが強制拡散される。さらに、本発明では、プラズマCVD処理中、この基材表面に向けて吹き出される原料ガスの流速を制御することにより、基材温度が低くてもグラフェンが基材表面を沿って成長するために必要な量のラジカルが十分供給されるようにするとともに、基材表面でのラジカルの流れが速すぎて化学反応が悪くならないようにする。
この結果、500℃以下の基材温度においても欠陥が少ない、結晶性の良いグラフェン膜を作製することが可能となる。
プラズマCVD処理中の基材表面に当たるガスの流速は、供給するガスの流量や、リアクタ内の圧力や、ノズルから基材表面までの距離や、ノズルの断面積などを変えることにより制御することが可能である。
原料ガスは、炭素系ガスを含むガスを用いる。
炭素系ガスとしては、メタン、エチレン、アセチレン、エタノール、アセトン、メタノール等が包含される。
また、プラズマの生成する条件に応じて、不活性ガス(アルゴン、ヘリウム等)を混合して用いる。不活性ガスを混合することにより、高い圧力においてもプラズマを安定に維持することができる。
また、プラズマCVDを行う条件に応じて、水素や酸素ガスを適量に混合して用いる。これにより、グラフェン膜におけるガラス状炭素成分等のグラフェン以外の成分の成長を抑えることができる。
ガスは、リアクタ内に設けられているノズルを通って、基材表面に吹き出す。ノズルは、基材表面の上部に設け、原料ガスの流れが基材表面に直接当たるようにする。
上記ノズルの内部及び/又はノズルの端又は周辺にマイクロ波を印加し、プラズマを生成する。
本発明では、基材をプラズマ生成領域から離れたところに置いても、ノズルから吹き出て基材表面に当たる原料ガスの流れを適当な強さにすることにより、グラフェン膜の作製に必要なラジカルを基材表面に十分に供給することができる。これにより、プラズマ生成領域から離れたところにおいても、欠陥が少ない、結晶性の良いグラフェン膜を高速で作製することができる。
また、原料ガスの流速と基材表面に当たるガスの流れの向きを適切にすることにより、成膜の一様性を向上することができる。
ノズルの形状は、矩形、円形、または矩形と円形の中間の形でも良いし、様々な形状にすることができる。さらに細長いスリット形状が望ましい。
高い圧力におけるマイクロ波プラズマ装置では、ノズルの断面面積が大きいと、マイクロ波電界とプラズマとのエネルギー結合が強くなり、プラズマが高温になる。高い圧力においても、安定した低温プラズマを得るためには、マイクロプラズマの生成が望ましい。マイクロプラズマとは、放電ギャップの一方の距離が1mm以下である空間で生成するプラズマを言う。
本発明では、マイクロ波を用いてマイクロプラズマを生成するために、マイクロ波の伝播方向に対して垂直な面にノズルを設けて、マイクロ波の電界がかかる方向(ベクトル方向)のノズルの開口を1mm以下にする。
したがって、本発明では、マイクロ波を用いてマイクロプラズマを安定に生成させる共に、かつ大面積プロセス領域を実現するため、ノズルの形状として1mm以下の隙間を持つ、細長いスリット形状が望ましい。
また、ノズルの隙間のサイズは、ガスの流速を制御するための一つのパラメータとしても用いることができる。ノズルの隙間を小さくするとガスの流速が早くなる。
例えば、同じガス流量を供給した際に、ノズルの隙間を1.0mmから0.2mmにすると、流速は5倍早くなる。それは次の関係式から求められる。
Q=C・A・V
ここで、Qはガス流量、Cはガス係数、Aは流路面積、Vはガス流速である。
したがって、ガス流速は、
V=Q/(C・A)
である。ガス流速はガス流量に比例し、ガス流路面積には反比例する。
したがって、同じガス流量で、ノズルの幅が同じである場合、ノズルの隙間が1/5倍小さくなると、ガス流速は5倍早くなる。
これにより、ノズルの内及び/又は吹き出し口付近で生成したラジカルを、より多く、かつ速やかに基材の表面に供給することができる。
また、圧力が高くなると、低い圧力に比べて、プラズマ中に生成したラジカルの寿命が短くなるので、ガス流速を十分に早くすることで、短い寿命のラジカルも基材表面に供給することが可能になる。
プラズマを生成するマイクロ波としては、900MHzから5GHzまでの間の周波数を持つ電源が包含される。マイクロ波の波形は連続波でも良いし、パルスでも良い。
本発明では、マイクロ波をノズルに印加するためのマイクロ波の伝送線路として、マイクロストリップ線路、または、ストリップ線路を用いる。
マイクロ波の伝送線路として、マイクロストリップ線路、または、ストリップ線路を用いることにより、ノズルのところに局所的にマイクロ波の電界を集中させることが可能となり、高い圧力においても低温のプラズマを生成することができる。
また、板状の誘電体基板にマイクロストリップ線路、または、ストリップ線路、およびノズルを設けるので、これらを複数にアレイすることができる。これにより、プラズマCVD処理面積を大規模化することができる。
ここで、マイクロストリップ線路とは、裏面に導体面を形成した誘電体基板の表面に導体線路を形成した構造を持ち電磁波を伝搬する伝送線路の一種である。ストリップ線路とは、誘電体の表面と裏面に導体箔を形成し、誘電体の内部に導体線路を形成した構造を持ち電磁波を伝搬する伝送線路の一種である。
マイクロ波の伝送線路として、通常の導波管を用いる場合は、構造上、プラズマCVD処理領域がスポットとなり、狭い領域にスポット状にプラズマCVD処理を行うことは可能であるが、プラズマCVD処理面積の大規模化が難しく、工業用量産技術として限界がある。
例として、矩形導波管を用いた吹き出し形のマイクロ波プラズマ生成することができる。導波管を垂直に貫通する石英等のガス管を設け、ガス管内に、またはノズルにマイクロ波の電界を集中させることでプラズマを生成する。使えるノズルの直径は導波管におけるマイクロ波の波長により決まり、2.45GHzを用いる場合は10mm以下である。その以上の直径では、プラズマ生成が難しくなる。また、構造上、ノズルをアレイ化して設けるが困難であるため、プラズマCVD処理面積を大規模化することが難しい。
本発明で用いるプラズマCVD処理の条件として、基材の温度は500℃以下が好ましい。
基材はプラズマからの熱により加熱される。そのため、基材温度は、マイクロ波パワーや、リアクタ内の圧力や、ノズルからの基材距離や、ガス流量や等に依存する。これらを制御することにより500℃以下の低温に保持することができる。
または、試料台に給排水管を設けて、冷却水を供給し、基材を500℃以下の低温に保持することができる。
また、質の良いグラフェン膜を得るためには、基材の水素プラズマ処理により酸化膜などの不純物を取り除くことと、リアクタ内の大気を排気する工程を行い、プラズマCVDを行う際に周りのガス環境を制御することが好ましい。
反応容器内に存在するN、O、HOなどから窒素系ラジカルと酸素系ラジカルが生成し、それらが原子状炭素のsp2結合に悪い影響して、良いグラフェンが得られないためである。特に、酸素系ラジカルはsp2結合膜を優先的にエッチング(除去)し、sp3結合膜のみ残す作用をするので、sp2結合のみのグラフェン膜の成長を邪魔すると考えられる。
グラフェンを形成するための基材の材料としては、グラフェン形成に触媒金属として用いられているCu、Fe、Ni、Al等が挙げられる。
これらの金属材料を実際に基材として利用する際には、箔状、板状等の形状にして用いる。
または、前記金属材料を絶縁体(ポリイミド、ポリカーボネイト、シリコン、酸化シリコン、ガラス等)の表面に被覆した薄状の形状にして用いることができる。
前記金属基材の表面に作製されるグラフェン膜はそのまま、または、転写工程を通って様々な基材に転写され、エレクトロニクス素材等として利用される。
本発明では、プラズマCVD処理時間に関係なく、グラフェン膜の層数が1〜2層で成長が止まる、自己成長停止の成長法を用いる。これにより、大面積の基材表面に一様なグラフェン膜を形成することができる。
従来のCVD法におけるグラフェン膜の自己成長停止の成長法は、1000℃に近い高温でCVD処理を行った際に実現できている(非特許文献7)。
本発明では、上記の実施形態において、適切なガス種と流量で原料ガスを供給することと、基材をプラズマ生成領域から適切に離すことと、等のプラズマCVD処理条件に設定し、中間圧力下で基材表面にプラズマCVD処理を行うことにより、グラフェン膜の層数がプラズマCVD処理時間に関係なく、1〜2層で成長が止まる自己成長停止の成長法でグラフェン膜を低温(500℃以下)作製ができる。
本発明では、前記の自己成長停止の成長法を用いることにより、1〜2層の一様な大面積グラフェン膜が得られる。例えば、プラズマCVD条件の空間的分布の一様性が足りなくても、CVD処理時間に関係なく、先に成長を始めた部分のグラフェンがある層数になると成長が止まるので、結果的にある時間までCVD処理を続けると、基材全面に一様なグラフェン膜が形成する。
本発明では、基材を連続的に移動させながら、プラズマCVD処理を行うことにより、グラフェン膜の大面積及び連続的作製することができる。
基材を連続的に動かす方法としては、基材を移動する試料台、例えばベルトコンベアに乗せて連続的に移動させることも良い。または、銅箔などのフレキシブル基材を用いて、ロールツーロール方式で基材を連続的に移動させることも良い。
以下、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
まず、実施例で用いたラマン分光法について説明する。
(ラマン分光法)
本発明の手法を用いて、銅箔上に作製したグラフェン膜のラマン分光スペクトルの測定を行った。グラフェン膜による結晶性炭素膜のラマン分光による評価で重要なバンドは、Dバンド、Gバンド、2Dバンド、及びD´バンドである。
Gバンドは正常六員環によるもので、2DバンドはDバンドの倍音によるものである。またDバンドは正常六員環の欠陥に起因するピークである。また、D´バンドも欠陥から誘起されるピークであり、数層から数十層程度のグラフェン膜の積層体の端の部分に起因するものと考えられる(上記非特許文献8)。
ラマン散乱分光スペクトルにGバンドと2Dバンドの両方のピークが観測される場合、
膜はグラフェン膜であると同定される(上記非特許文献7)。
2Dバンド、Gバンド、Dバンド、およびD´バンドのピーク位置は、グラフェン膜の
層数やラマン散乱分光スペクトルの測定時のレーザーの励起波長に依存することが上記非
特許文献5等で示されている。
例えば、励起波長532nmのレーザーによる単層グラフェン膜の場合、Dバンド、Gバンド、2Dバンド、及びD´バンドのピーク位置は、それぞれ、1350cm−1、1582cm−1、2680cm−1、1620cm−1付近である。一般的に、グラフェンの層数が増えると2Dバンドは高波数側にシフトすること、半値幅が広がることが知られている。さらに、レーザーの励起波長が短くなると、2Dバンドは高波数側にシフトする。
グラフェン膜のラマン分光スペクトルにおいて、2DバンドとGバンドのピークの相対強度を用いてグラフェン膜の層数を同定することができる(上記非特許文献10)。2DバンドとGバンドの強度の比がI(2D)/I(G)≧1となる場合は単層あるいは2層のグラフェン膜であり、3層以上のグラフェン膜では1.0以下であるとされている。
本実施例におけるラマン分光装置は、レニショー社製inVia Reflexを用いた。励起光は波長532nmの個体レーザーを用いた。測定及びフィッティング等の解析には、本装置標準のソフトウェアWiRE4.1を用いた。各実施例において測定に使用した試料、及びラマン分光スペクトルの詳細な解析は、各実施例で説明する。
(実施例1)
本実施例においては、銅箔を基材とし、吹き出し形のプラズマを生成することができるマイクロ波プラズマ生成装置をリアクタ内に設置して、中間圧においてグラフェン膜の作製を行った。以下に本実施例で用いたプラズマCVD処理の詳細を述べる。
図3は、本実施例に用いたマイクロ波プラズマCVD装置の模式図である。
該図に示すマイクロ波プラズマCVDシステムは、金属製のリアクタ(10)と、リアクタ(10)内に設けられたマイクロ波プラズマ生成装置で構成される。
マイクロ波プラズマ生成装置は、内部にガス流路と裏面に導体面を設けた誘電体基板(4)、誘電体基板(4)の表面に設けられたマイクロストリップ線路(3)、誘電体基板(4)の一方の端面に設けた線状の矩形ノズル(7)、マイクロ波プラズマ生成装置にマイクロ波を供給するためのマイクロ波導入用フランジ(11)とマイクロ波伝送用同軸ケーブル(2)、及びマイクロ波プラズマ生成装置にガスを供給するためのガス導入用フランジ(12)とガス導入管(9)、とから構成されており、前記マイクロ波導入用フランジ(11)及び前記ガス導入用フランジ(12)は、リアクタ(10)に取り付けられている。
前記ノズル(7)は、原料ガスとともにマイクロ波の印加により生成されたプラズマが幅広に一様に吹き出るように、スリット形状を有しており、本実施例においては、断面のサイズは、幅50mm×隙間0.5mmである。
本実施例においては、リアクタ(10)の内部に、厚さ33μmで大きさが50mm×15mmの銅箔基材(5)をマイクロ波プラズマ装置のノズル(7)の真下に、ノズルの幅が基材の長手方向と一致するように設置し、プラズマCVD処理を行った。処理手順は以下の通りである。
リアクタ(10)内に設けられた試料台(6)に前記銅箔基材(5)を設置した。ノズル(7)と銅箔基材(5)との距離が4mmになるように試料台(6)の高さを調整した。次に、排気管(8)を通してリアクタ(10)の排気を行った。
次に、リアクタ(10)内に、ガス導入用フランジ(12)、ガス導入管(9)、前記誘電体基板(4)内のガス流路(表示せず)、及びノズル(7)を通して、水素ガス50sccmを導入した。リアクタ(10)内の圧力を排気管(8)に接続した圧力調整バルブを用いて3Torrに保持した。
次に、マイクロ波導入用フランジ(11)と同軸ケーブル(2)から、マイクロ波(パワー100W)を導入した。マイクロ波は、マイクロストリップ線路(3)が設けられている誘電体基板(4)内を伝搬し、誘電体基板(4)の端部のノズル(7)の内部及び/又はノズル(7)の端又は周辺に印加されて、プラズマを生成した。
生成したプラズマは、原料ガスの流れと共に、銅箔基材(5)に向かって拡散した。プラズマ生成している領域は、ノズル(7)と銅箔基材(5)との間の空間、すなわち、図3に示しているプラズマ生成領域(1)である。また、生成するプラズマ領域は、ノズルの隙間0.5mmより広がり、本実施例の圧力3Torrでは、20mm以上であった。一方、ノズルの幅方向においては、プラズマ生成領域はほぼ50mmであまり広がらなかった。また、ノズル(7)から吹き出たプラズマ発光は基材表面まで届いていた。ここで、プラズマ領域は、プラズマ発光を肉眼で観察した結果である。
水素プラズマ処理時間は10分である。水素プラズマ処理中の基材の温度は490℃以下であった。基材温度の測定は、熱電対を基材表面に接触させることで行った。この水素プラズマ処理によって、銅箔基材の表面の酸化膜や汚染物質を除去した。
次に、マイクロ波パワーを止めて、プラズマを消した後、水素ガスを止め、排気管(8)を通してリアクタ(10)の排気を行った。
次に、リアクタ(10)内に、グラフェン形成用原料ガスをガス導入用フランジ(12)とガス導入管(9)と前記誘電体基板(4)内のガス流路とノズル(7)とを通して導入した。
原料ガスとしては、メタンガス60sccmとアルゴンガス30sccmの混合ガスである。リアクタ(10)内の圧力を排気管(8)に接続した圧力調整バルブを用いて5Torrに保持した。
マイクロ波パワー100Wにてプラズマを生成し、銅箔基材(5)にプラズマCVD処理を行った。プラズマは、ノズル(7)の内部及び/又はノズル(7)の端又は周辺に生成し、原料ガスの流れと共に、銅箔基材(5)に向かって拡散した。処理時間は5分である。
プラズマCVD処理中、基材温度を基材表面に接触した熱電対で測定を行った。基材温度は400℃以下であった。プラズマCVD処理後の銅箔基材には熱的損傷はなかった。この処理により、銅箔基材(5)の表面にグラフェン膜が作製された。
本実施例で得られたグラフェン膜のラマン分光スペクトルの測定を行った。
図4に測定した銅箔基材上の形成された炭素膜のラマン分光スペクトルを示す。
図4では、Gバンド(1593cm−1)と2Dバンド(2682cm−1)の両方が観察されている。したがって、本発明で作製された炭素膜がグラフェン膜であることが明らかである。
また、Dバンド(1344cm−1)とD´バンド(1625cm−1)も現れている。Dバンドは正常六員環の欠陥に起因するものであると知られている。また、D´バンドも欠陥から誘起されるもので、数層から数十層程度のグラフェン膜の積層体の端の部分に起因するものと知られている。
グラフェン膜のラマン分光スペクトルにおいて、2DバンドとGバンドのピークの相対強度を用いてグラフェン膜の層数を同定することができる(上記非特許文献6)。2DバンドとGバンドの強度の比がI(2D)/I(G)≧1となる場合は単層あるいは2層のグラフェン膜であり、3層以上のグラフェン膜では1.0以下であるとされている。
図4に示すラマン分光スペクトルにおいて、Gバンドと2Dバンドのピークをそれぞれ、フィッティングし、バックグラウンドを差し引くことによって、それぞれのピークの相対強度を求めた。ピーク強度はそれぞれ、I(2D)=0.44、I(G)=0.44であった。
したがって、図4に示すラマン分光スペクトルの炭素膜の例は、2DバンドとGバンドのピークの強度比、及びD´バンドが観測されていることから、3層以上のグラフェン膜の部分が混在する構成を有することが分かった。
本実施例で合成されるグラフェン膜(図4に示すグラフェン膜)は、従来の低温(500℃以下)・低圧(20Pa(0.15Torrに相当)以下)表面波プラズマCVD法(特許文献1)により作製したグラフェン膜からのラマン分光スペクトル(特許文献1内の図2)と同じ特性を示している。
本実施例が示すように、本発明では、従来技術において高真空環境下で行うグラフェン膜の低温作製が、中間圧力においても可能である。
このことから、本発明の方法は、大気圧に行われるプラズマCVD処理の前後処理の工程とも連続性が高くなり、工業的に大変有利な手法であるといえる。例えば、本発明によれば、ロールツーロールによるグラフェン膜の連続合成、及び金属基材の表面に作製したグラフェン膜を転写する後処理との連続工程が安価なシステムでより容易に可能になる。
(実施例2)
本実施例では、実施例1で用いたと同様のマイクロ波プラズマCVD装置を用い、大気圧(760Torrに相当)におけるグラフェン膜の作製を行った。なお、実施例2では、断面サイズ幅10mm×隙間0.2mmのノズルを用い、厚さ33μmで大きさが50mm×15mmの銅箔表面の一部にプラズマCVDを行った。
本実施例における処理手順は以下の通りである。
本実施例では、リアクタ(10)内を大気にし、プラズマCVD処理を行った。試料台(6)に銅箔基材(5)を設置した。ノズル(7)と銅箔基材(5)との距離が1mm以下になるように試料台(6)の高さを調整した。
本実施例では、前記の実施例1で行った水素プラズマ処理は行わず、プラズマCVD処理を行った。
原料ガスとしては、メタンガス8sccmとアルゴンガス1000sccmの混合ガスを用いた。原料ガスをノズル(7)通って流しながら、マイクロ波パワー45Wにてプラズマを生成し、銅箔基材(5)にプラズマCVD処理を行った。基材はプラズマからの熱により加熱される。最大温度は、400℃以下であった。
本実施例2で得られたグラフェン膜のラマン分光スペクトルの測定を行った。
図5に測定した銅箔基材上の形成された炭素膜のラマン分光スペクトルを示す。
図5では、Gバンド(1594cm−1)と2Dバンド(2684cm−1)の両方が観察されている。したがって、本発明で作製された炭素膜がグラフェン膜であることが明らかである。
また、Dバンド(1346cm−1)とD´バンド(1621cm−1)も現れている。Dバンドは正常六員環の欠陥に起因するものであると知られている。また、D´バンドも欠陥から誘起されるもので、数層から数十層程度のグラフェン膜の積層体の端の部分に起因するものと知られている。2DバンドとGバンドの強度の比がI(2D)/I(G)は、0.2であった。
したがって、図5に示すラマン分光スペクトルの炭素膜の例は、3層以上のグラフェン膜の部分が混在する構成を有することが分かった。
本実施例2の結果からも明らかのように、本発明では、基材に水素プラズマ処理を施さなくとも大気圧中においてもグラフェン膜の作製が可能になる。しかし、2DバンドとGバンドの強度の比が、実施例1の0.44よりも小さくなるとともに、2Dバンドのピークがブロードになっていることから明らかなように、グラフェン膜としての品質が悪くなっており、アモルファスカーボンに近い特性となっている。これは、リアクタ内の大気中のN、O、HOなどの成分もプラズマ化されて、それらの関連ラジカルがグラフェン成長に悪い影響をしたためと考えられる。
(実施例3)
本実施例では、実施例1と同様に、図3に示すマイクロ波プラズマCVD装置を用いて、CVD処理時間に関係なく、1〜2層で成長が止まる自己成長停止の成長法でグラフェン膜の低温作製を行った。
本実施例における処理手順は以下の通りである。
リアクタ(10)内に設けられた試料台(6)に前記銅箔基材(5)を設置した。ノズル(7)と銅箔基材(5)との距離が4mmになるように試料台(6)の高さを調整した。次に、排気管(8)を通してリアクタ(10)の排気を行った。
前記の実施例1における水素プラズマ処理条件と同じ条件で水素プラズマ処理を行った。
次に、マイクロ波パワーを止めて、水素プラズマを消した後、水素ガスを止め、排気管(8)を通してリアクタ(10)の排気を行った。
次に、リアクタ(10)内に、グラフェン形成用原料ガスをガス導入用フランジ(12)とガス導入管(9)と前記誘電体基板(4)内のガス流路とノズル(7)とを通して導入した。
原料ガスとしては、メタンガス60sccmとアルゴンガス60sccmの混合ガスである。リアクタ(10)内の圧力を排気管(8)に接続した圧力調整バルブを用いて10Torrに保持した。
マイクロ波パワー100Wにてプラズマを生成し、銅箔基材(5)にプラズマCVD処理を行った。プラズマは、実施例1の3Torrにおけるプラズマに比べて、拡散しにくくなり、プラズマ発光がノズルのところにより寄った形状で生成しており、銅箔基材(5)の付近ではプラズマ発光が薄くなっていた。図6にマイクロ波プラズマ生成装置の横側から撮ったプラズマの写真を示す。写真のプラズマ発光パターンにより、ノズルから基材表面に向けて吹き出るプラズマの距離は約2mmであることがわかる。
プラズマCVD処理時間5分と、10分と、15分と、20分に対して、それぞれグラフェン膜の試料を作製した。
前記水素プラズマ処置と前記プラズマCVD処理中、基材温度を基材表面に接触した熱電対で測定を行った。実施例3における前記水素プラズマ処理とプラズマCVD処理中の基材表面温度の変化を図7に示す。水素プラズマ処理中の基材温度は490℃以下であり、プラズマCVD処理中の基材温度は310℃以下である。
本実施例3で得られたグラフェン膜のラマン分光スペクトルの測定を行った。
図8(a)〜(d)に測定した銅箔基材上の形成された炭素膜のラマン分光スペクトルを示す。図中、(a)、(b)、(c)、(d)は、それぞれプラズマCVD処理時間が5分、10分、15分、20分であるグラフェン膜のラマン分光スペクトルを示している。
図8の全てのラマン分光スペクトルからGバンドと2Dバンドの両方が観察されており、作製された炭素膜がグラフェン膜であることが明らかである。
Dバンド、Gバンド、D´バンド、2Dバンドに対して、それぞれフィッティングを行い、バックグラウンドを差し引くことによって、それぞれのピークの相対強度と半値幅を求めた。
図8(a)のプラズマCVD処理時間5分の試料では、Gバンド(1590cm−1)と2Dバンド(2680cm−1)のピークが観察されている。また、グラフェンの正常六員環の欠陥に起因するDバンド(1343cm−1)とD´バンド(1624cm−1)が現れている。Dバンドのピーク強度は、Gバンドのピーク強度より大きく現れている。Gバンドのピーク半値幅は32.1cm−1、2Dバンドのピーク半値幅は51.1cm−1である。
また、2DバンドとGバンドのピーク強度比I(2D)/I(G)は、1.2である。
図8(b)のプラズマCVD処理時間10分の試料では、Gバンド(1582cm−1)と2Dバンド(2663cm−1)のピークが観察されている。また、グラフェンの正常六員環の欠陥に起因するDバンド(1337cm−1)が現れている。一方、D´バンドは現れてない。Dバンドのピーク強度は、Gバンドのピーク強度より小さく現れている。Gバンドのピーク半値幅は26.2cm−1、2Dバンドのピーク半値幅は53.9cm−1である。
また、2DバンドとGバンドのピーク強度比I(2D)/I(G)は、1.6である。
図8(c)のプラズマCVD処理時間15分の試料では、Gバンド(1580cm−1)と2Dバンド(2665cm−1)のピークが観察されている。また、グラフェンの正常六員環の欠陥に起因するDバンドとD´バンドのピークは現れてない。Gバンドのピーク半値幅は30.9cm−1、2Dバンドのピーク半値幅は52.1cm−1である。
また、2DバンドとGバンドのピーク強度比I(2D)/I(G)は、1.9である。
図8(d)のプラズマCVD処理時間20分の試料では、Gバンド(1589cm−1)と2Dバンド(2700cm−1)のピークが観察されている。また、グラフェンの正常六員環の欠陥に起因するDバンドとD´バンドのピークは現れてない。Gバンドのピーク半値幅は28.9cm−1、2Dバンドのピーク半値幅は42.9cm−1である。
また、2DバンドとGバンドのピーク強度比I(2D)/I(G)は、2.3である。
図8に示すラマン分光スペクトルの結果から、プラズマCVD処理の時間が経つにつれて、正常六員環の欠陥に起因するDバンドとD´バンドのピークが小さくなり、ある時間が経つと現れてなくなることが分かる。
これは、プラズマCVD処理の初期にグラフェンの核が生成し、処理時間と共にグラフェン結晶の欠陥が減る、なお、そのグラフェン結晶のサイズが大きく成長して行くことを示す。
図8に示すラマン分光スペクトルの結果から、プラズマCVD処理の時間が経っても、2DバンドとGバンドのピーク強度比I(2D)/I(G)が1.2以上にあることが分かる。
これは、本実施例3で形成したグラフェン膜は、プラズマ処理時間が経ってもその層数が1〜2層で成長が停止していることを示す。
また、DバンドとD´バンドのピークが現れてないことから、本発明により、低温CVD処理において無欠陥の良質なグラフェン膜の作製ができることを示している。
図8に示すラマン分光スペクトルの結果から、本実施例3で形成したグラフェン膜は、プラズマCVD処理時間に関係なく、2Dバンドのピークの半値幅が42.9〜53.8cm−1であることが分かる。
グラフェン膜のラマン分光スペクトルにおける2Dバンドの半値幅から、グラフェン膜の層数を推定することができることが知られている。
本実施例で得られた結果は、非特許文献11中のTable 1に示している2層グラフェン膜に対応しており、本実施例3で形成したグラフェン膜は、2層のグラフェンを含むグラフェン膜であると考えられる。
本発明の手法で作製したグラフェン膜を透過型電子顕微鏡(TEM:Transmission Electron Microscope)で膜の断面観察を行った。
観察用試料は、銅箔表面に形成したグラフェン膜上に非結晶質炭素を塗布し、フォーカスイオンビーム(FIB:Focused Ion Beam)法により薄片化した。FIB装置は、エスアイアイ・ナノテクノロジー社製Xvision200TBを用いた。透過型電子線顕微鏡による透過像観察には、日立製作所社製H−9000UHRを用い、加速電圧300kVの条件で行った。
図9に実施例3により作製したグラフェン膜を透過型電子顕微鏡で観察した断面写真を示す。図9では、グラフェン膜における2層グラフェン膜の部分を示している。すなわち、作製したグラフェン膜、2層グラフェン膜の部分を含む多結晶のグラフェン膜であるが分かる。
上記の実験結果は、本発明の手法を用いることにより、中間圧の圧力環境下で、500℃以下の低い基材温度においても、結晶格子の欠陥が少ないグラフェンにより構成した高い結晶性を持つグラフェン膜の成膜することが可能であることを示す。
これは、従来の高真空リアクタ、及び基材加熱用のヒーターの用意が不要になるので、工業的に大変有利なグラフェン作製手法である。
さらに、上記の実験結果は、本発明の手法を用いることにより、中間圧の圧力環境下で、500℃以下の低い基材温度において、CVD処理時間に関係なく、グラフェン膜がある層以下で成長が止まる自己成長停止の成長法でグラフェン膜の作製ができることを示している。
これは、グラフェン膜の連続作製を行う際、または大面積の基材におけるグラフェン膜を作製する際に、プラズマCVD条件が空間的に一様な分布じゃなくても、プラズマCVD処理を適切な時間まで行うことにより、大面積の基材全面にグラフェン膜が一様に形成できる手法で、工業的に大変有利な手法である。
(実施例4)
本実施例では、実施例1と同様に、図3に示すマイクロ波プラズマCVD装置を用いて、ガス流速を変えた場合、合成される膜の変化を調べた。
本実施例4における処理手順は上記の実施例3と同じである。ただ、基材表面に当たるガス流速を実施例3の条件より減らすために、原料ガスをメタンガス30sccmとアルゴンガス30sccmの混合ガスとした。
本実施例4で得られたグラフェン膜のラマン分光スペクトルの測定を行った。図10に測定した銅箔基材上の形成された炭素膜のラマン分光スペクトルを示す。図中、(a)と(b)は、それぞれプラズマCVD処理時間が5分と10分であるグラフェン膜のラマン分光スペクトルを示しており、実施例3における図8の(a)と(b)に示すラマン分光スペクトルに対応する。
図10の(a)と(b)に示すようにカーボン材料関連のラマン発光スペクトルが現れてない。これは、銅箔基材表面にカーボン材料が合成されてないことを示す。
すなわち、本実施例4においては、ガス流速が遅いため、プラズマ内に生成したラジカルが基材表面まで十分届かず、グラフェンの核生成ができず、成膜ができなかったことを示す。
本実施例から明らかなように、ガス流速を制御して、グラフェン膜が基材表面に沿って成長するために必要なラジカルを十分に供給することが重要である。
(実施例5)
本実施例では、図3に示すノズルから吹き出るマイクロ波プラズマを用いた低温グラフェン膜作製装置と同様の装置を用い、大気中に設置したロール状の銅箔基材をリアクタ内に連続的に送り込みながら、銅箔基材の表面にグラフェン膜を連続的に作製するロールツーロール式の連続成膜装置を製作した。これにより、良質なグラフェン膜の連続的低温成膜が可能となる。
図11にロールツーロール方式の連続成膜装置の模式図を示す。
本実施例では、図11に示すようにマイクロストリップ線路とガス流路とをアレイし、長さ20mmのスロット形状のノズルにプラズマが生成するプラズマ源(106)を複数設けることにより、プラズマ処理面積を大面積にしている。
上記複数のプラズマ源は、金属製のリアクタ(104)の上部面に、基材が動く方向に沿って並列されている。
この連続成膜装置は、プラズマCVD処理領域と差動排気部から構成される。ロール状の銅箔基材は大気中(圧力は、およそ760Torr)に設置する。
銅箔基材は、巻き出しロール(101)から動排気用オリフィスを通して差動排気部(103)に送り込まれる。差動排気部(103)に送り込まれた銅箔は、差動排気部(103)とリアクタ(104)との間に設置した上記と同じ形状のオリフィスを通して、リアクタ(104)に送り込まれる。
それぞれのプラズマ源に、原料ガスとしてメタンガスとアルゴンガスを供給する。リアクタ(104)内の圧力は、圧力調整バルブを制御し、中間圧力以上に保持する。それぞれのプラズマ源にマイクロ波パワーを印加し、プラズマCVD処理を行う。基材温度は、500℃以下に保つ。
プラズマCVD処理により、グラフェン膜が成膜された銅箔基材は、差動排気用オリフィスを通って差動排気部(103)に送り込まれ、さらに次の差動排気用オリフィスを通って大気中に送出され、巻き取りロール(102)に巻き取られる。
このように本発明の手法を用いることにより、連続的にグラフェン膜を低温作製することが可能となり、工業的に大変有利な手法を提供することができる。
(実施例6)
本実施例では、図11に示した実施例5におけるロール・ツー・ロール方式の連続成膜装置に、プラズマCVD処理で発生する基材のしわと、ひずみを低減するため、CVD処理中の基材をサポートする成膜ローラを設けた連続成膜装置を製作した。これにより、より高い信頼性を有するグラフェン膜の連続成膜が可能となる。
図12に本実施例のロールツーロール方式の連続成膜装置の模式図を示す。
本実施例で制作する連続成膜装置では、図11に示すロール・ツー・ロール方式の連続成膜装置において、プラズマCVD処理が行われるところの銅箔基材をサポートする成膜ローラ(107)を設け、その成膜ローラの形状に沿って、複数のプラズマ源(106)を並列している。
図12に示すように、本発明では、成膜ローラ(107)の形状に合わせて、プラズマ源(106)を設けることが可能であり、例えば、円筒型ローラの表面に沿って一様なプラズマを生成することができる。
一方、従来のグラフェン作製用マイクロ波プラズマCVD処理法(例えば、特許文献1と特許文献2と特許文献3の技術)では、一様なCVD処理を行うためには、基材を平面状にして処理する必要があり、本実施例で使用するような基材をサポートする成膜ローラ(107)を適用することが困難である。
したがって、このように本発明の手法を用いることにより、高い生産性と信頼性を保持しながら、連続的にグラフェン膜を作製することが可能となり、工業的に大変有利な手法を提供することができる。
1 プラズマ生成領域
2 マイクロ波伝送用同軸ケーブル
3 マイクロストリップ線路
4 内部にガス流路と裏面に導体面を設けた誘電体基板
5 基材
6 基材を設置するための試料台
7 誘電体基板の端面に設けた線状の矩形ノズル
8 ガス排気管
9 ガス導入管
10 リアクタ
11 マイクロ波導入用フランジ
12 ガス導入用フランジ
40 リアクタ
41 プラズマ生成室
42 矩形マイクロ波導波管
43 マイクロ波導入用誘電体窓
44 誘電体窓を支持する金属製支持部材
45 基材
46 基材を載置するための試料台
47 スロット
48 ガス排気管
49 原料ガス導入管
101 基材の巻き出しロール
102 基材の巻き取りロール
103 差動排気部
104 連続成膜用リアクタ
105 プラズマ
106 プラズマ源
107 成膜ローラ

Claims (10)

  1. 基材の表面にマイクロ波プラズマ生成してグラフェン膜を形成するグラフェンの成膜方法であって、
    ノズルから炭素系ガスを含む原料ガスを前記基材の表面に吹き出しながら、前記ノズルの内部及び/又は前記ノズルの端又は周辺にマイクロ波を印加することにより、前記原料ガスからラジカルを含むプラズマを生成するとともに、前記原料ガスの流速を制御して、前記ラジカルを前記基材の表面に強制拡散させる工程を含むことを特徴とするグラフェン膜の作製方法。
  2. 前記ノズルの、マイクロ波の電界がかかる方向の開口を1mm以下とすることを特徴とする請求項1に記載のグラフェン膜の作製方法。
  3. 前記ノズルが、1mm以下の隙間を有するスリット形状を有していることを特徴とする請求項2に記載のグラフェン膜の作製方法。
  4. 前記プラズマから前記基材の表面へのイオン衝撃が減るように、前記工程が行われる圧力を前記プラズマにおけるイオンの平均自由行程がデバイ長より小さくなる圧力より高く設定することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のグラフェン膜の作製方法。
  5. 前記工程が行われる圧力を1Torr以上に設定することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のグラフェン膜の作製方法。
  6. 前記工程を500℃以下の基材温度で行うことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のグラフェン膜の作製方法。
  7. 前記マイクロ波を印加するために、マイクロ波伝送線路としてマイクロストリップ線路又はストリップ線路を用いることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のグラフェン膜の作製方法。
  8. 前記工程の処理時間に関係なくグラフェン膜の層数が1〜2層で成長が止まる自己成長停止の成長条件でグラフェン膜を作製することを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載のグラフェン膜の作製方法。
  9. 前記基材をフレキシブルな基材とし、該基材をロール状で連続的に動かすことにより、グラフェン膜をロールツーロール方式で連続作製することを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載のグラフェン膜の作製方法。
  10. 前記フレキシブルな基材にしわとひずみが発生することを低減するため、前記フレキシブルな基材をサポートする成膜ローラを設け、前記成膜ローラの形状に沿って前記ノズルを複数配列して、プラズマを生成することを特徴とする請求項9に記載のグラフェン膜の作製方法。
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