JP2017065054A - ガスバリア性フィルムおよび電子デバイス - Google Patents

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Abstract

【課題】厚膜化や多層積層をせずとも高度なガスバリア性を有し、耐屈曲性、密着性に優れたガスバリア性フィルムを提供する。【解決手段】高分子基材1の少なくとも片側に、無機層[A]2と層[B]3とが高分子基材側からこの順に配置されたガスバリア性フィルムであって、無機層[A]2が、以下の[A1]〜[A3]のいずれかを満たし、層[B]3が、Si−Hで表される結合を有する成分を含み、かつ水素原子濃度が35〜55atm%であるガスバリア性フィルム。[A1]亜鉛のK吸収端のX線吸収端近傍構造スペクトル強度比の値が0.910〜1.000、[A2]亜鉛の原子濃度をケイ素の原子濃度で除した割合が、0.1〜1.5であり、構造密度指数が1.20〜1.40、[A3]FT−IR測定により波数920cm−1と波数1,080cm−1をピーク分離し、各々のスペクトルの面積強度の比の値が1.0〜7.0。【選択図】図1

Description

本発明は、高いガスバリア性が必要とされる食品、医薬品の包装用途や太陽電池、電子ペーパー、有機エレクトロルミネッセンス(EL)ディスプレーなどの電子デバイス用途に好ましく使用されるガスバリア性フィルムおよび電子デバイスに関する。
高分子基材の表面に、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化マグネシウム等の無機物(無機酸化物を含む)を使用し、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等の物理気相成長法(PVD法)、あるいは、プラズマ化学気相成長法、熱化学気相成長法、光化学気相成長法等の化学気相成長法(CVD法)等を利用して、その無機物の蒸着膜を形成してなるガスバリア性フィルムは、水蒸気や酸素などの各種ガスの遮断を必要とする食品や医薬品などの包装材および薄型テレビ、太陽電池などの電子デバイス部材として用いられている。
ガスバリア性向上技術としては、例えば、有機ケイ素化合物の蒸気と酸素を含有するガスを用いてプラズマCVD法により基材上に、ケイ素酸化物を主体としたガスバリア層を積層することによって、透明性を維持しつつガスバリア性を向上させる方法が開示されている(特許文献1,2)。また、プラズマCVD法などの成膜方法以外によるガスバリア性向上技術としては、ガスバリア性を低下させるピンホールやクラックの発生原因となる突起や凹凸を減少させた平滑基材や表面平滑化を目的としたアンダーコート層を設けた基材が用いられていたり(特許文献3)、ウェットコート法により形成したポリシラザン膜を酸化ケイ素膜や酸窒化ケイ素膜へ転化させる方法(特許文献4,5)が開示されたりしている。
特許第5394867号公報 特許第5332279号公報 特許第5531892号公報 特開2012−143996号公報 特許第5373235号公報
しかしながら、特許文献1,2のように、プラズマCVD法によりケイ素酸化物を主成分としたガスバリア層を形成する方法では、ガスバリア層の欠陥を抑制することが難しいことから安定したガスバリア性が得られず、ガスバリア性を安定させたり、高いバリア性を得るためには厚膜化する必要があり、耐屈曲性が低下したり製造コストが増加するといった問題がある。
また、特許文献3のように、ガスバリア層を形成する基材に平滑基材や表面平滑化を目的としたアンダーコート層を設けた基材を用いた方法は、ピンホールやクラックの発生を防止することでガスバリア性は向上するものの、性能の向上は不十分であった。
また、特許文献4,5のポリシラザン層でガスバリア層を形成する方法では、層を形成する際の条件に影響を受けやすく、十分なガスバリア性のあるガスバリア性フィルムを安定して得るためには複数のポリシラザン層を積層する必要があるため、耐屈曲性が低下したり製造コストが増加したりするといった問題がある。
本発明は、かかる従来技術の背景に鑑み、厚膜化や多層積層をせずとも高度なガスバリア性を有し、耐屈曲性、密着性に優れたガスバリア性フィルムを提供せんとするものである。
本発明は、かかる課題を解決するために、次のような手段を採用する。すなわち、
(1)高分子基材の少なくとも片側に、無機層[A]と層[B]とが高分子基材側からこの順に配置されたガスバリア性フィルムであって、前記無機層[A]が、以下の[A1]〜[A3]のいずれかを満たし、前記層[B]が、Si−Hで表される結合を有する成分を含み、かつ水素原子濃度が35〜55atm%であるガスバリア性フィルム。
[A1]亜鉛のK吸収端のX線吸収端近傍構造(XANES)スペクトルについて、(9,664.0eVのスペクトル強度)/(9,668.0eVのスペクトル強度)の値が0.910〜1.000
[A2]亜鉛の原子濃度をケイ素の原子濃度で除した割合が、0.1〜1.5であり、以下の式で表される構造密度指数が1.20〜1.40
構造密度指数=(X線反射率(XRR)法により求められた無機層[A]の密度)/(X線光電子分光(XPS)法により求められた組成比率から算出された理論密度)
[A3]FT−IR測定により測定される波数900〜1,100cm-1にあるピークを波数920cm−1と1,080cm−1とにピーク分離したとき、920cm−1にピークを持つスペクトルの面積強度(A)と1,080cm−1にピークを持つスペクトルの面積強度(B)との比(A/B)の値が1.0〜7.0
(2)前記無機層[A]と前記層[B]との間に、二酸化ケイ素、炭化ケイ素、窒化ケイ素および酸窒化ケイ素からなる群より選ばれる少なくとも一つを含む無機層[C]が配置された(1)に記載のガスバリア性フィルム。
(3)前記層[B]における前記無機層[A]側の密度が1.3〜1.9g/cmであり、最表面側の密度が1.9〜2.3g/cmである(1)または(2)に記載のガスバリア性フィルム。
(4)前記無機層[A]中の、亜鉛のK吸収端のX線広域吸収近傍構造(EXAFS)スペクトルをフーリエ変換して得られる動径分布関数において、(0.280nmのスペクトル強度)/(0.155nmのスペクトル強度)の値が0.08〜0.20である(1)〜(3)のいずれかに記載のガスバリア性フィルム。
(5)(1)〜(4)のいずれかに記載のガスバリア性フィルムを用いた電子デバイス。
厚膜化や多層積層をせずとも水蒸気に対する高度なガスバリア性を有し、耐屈曲性、密着性に優れたガスバリア性フィルムを提供することができる。
本発明のガスバリア性フィルムの一例を示した断面図である。 本発明のガスバリア性フィルムを製造するための枚葉式スパッタリング装置の一例を模式的に示す概略図である。 本発明のガスバリア性フィルムを製造するための巻き取り式スパッタリング装置を模式的に示す概略図である。 本発明のガスバリア性フィルムを製造するための巻き取り式CVD装置を模式的に示す概略図である。 本発明のガスバリア性フィルムの一例を示した断面図である。 本発明のガスバリア性フィルムの一例を示した断面図である。 耐屈曲性試験の概略図である。
本発明者らは、水蒸気等に対する高度なガスバリア性を有し、耐屈曲性、密着性にも優れたガスバリア性フィルムを得ることを目的として鋭意検討を重ね、高分子基材の少なくとも片側に、無機層[A]と層[B]とが高分子基材側からこの順に配置され、さらに前記無機層[A]が以下の[A1]〜[A3]のいずれかを満たし、前記層[B]がSi−Hで表される結合を有する成分を含み、かつ水素原子濃度が35〜55atm%であると、前記課題を解決することを見出したものである。
[A1]亜鉛のK吸収端のX線吸収端近傍構造(XANES)スペクトルについて、(9,664.0eVのスペクトル強度)/(9,668.0eVのスペクトル強度)の値が0.910〜1.000
[A2]亜鉛の原子濃度をケイ素の原子濃度で除した割合が、0.1〜1.5であり、以下の式で表される構造密度指数が1.20〜1.40
構造密度指数=(X線反射率(XRR)法により求められた無機層[A]の密度)/(X線光電子分光(XPS)法により求められた組成比率から算出された理論密度)
[A3]FT−IR測定により測定される波数900〜1,100cm-1にあるピークを波数920cm−1と波数1,080cm−1とにピーク分離したとき、波数920cm−1にピークを持つスペクトルの面積強度(A)と波数1,080cm−1にピークを持つスペクトルの面積強度(B)との比(A/B)の値が1.0〜7.0
図1は、本発明のガスバリア性フィルムの一例を示す断面図である。本発明のガスバリア性フィルムは、図1に示すように、高分子基材1の片側に、高分子基材1側から無機層[A]と層[B]とがこの順に積層されたものである。なお、図1の例は、本発明のガスバリア性フィルムの最小限の構成を示すものであり、無機層[A]と層[B]のみが高分子基材1の片側に配置されているが、高分子基材と無機層[A]との間、若しくは無機層[A]と層[B]との間に他の層が配されてもよく、また、高分子基材1の無機層[A]が積層されている側と反対側に他の層が配されていてもよい。
[高分子基材]
本発明に用いられる高分子基材は、柔軟性を確保する観点からフィルム形態を有することが好ましい。フィルムの構成としては、単層フィルム、または2層以上の、例えば、共押し出し法で製膜したフィルムであってもよい。フィルムの種類としては、一軸方向あるいは二軸方向に延伸されたフィルム等を使用してもよい。
本発明に用いられる高分子基材の素材は特に限定されないが、有機高分子を主たる構成成分とするものであることが好ましい。本発明に好適に用いることができる有機高分子としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等の結晶性ポリオレフィン、環状構造を有する非晶性環状ポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリビニルアルコール、エチレン酢酸ビニル共重合体のケン化物、ポリアクリロニトリル、ポリアセタール等の各種ポリマーなどを挙げることができる。これらの中でも、透明性や汎用性、機械特性に優れた非晶性環状ポリオレフィンまたはポリエチレンテレフタレートを含むことが好ましい。また、前記有機高分子は、単独重合体、共重合体のいずれでもよいし、有機高分子として1種類のみを用いてもよいし、複数種類をブレンドして用いてもよい。
高分子基材の無機層[A]を形成する側の表面には、密着性や平滑性を良くするためにコロナ処理、プラズマ処理、紫外線処理、イオンボンバード処理、溶剤処理、有機物もしくは無機物またはそれらの混合物で構成されるアンダーコート層の形成処理、等の前処理が施されていてもよい。また、無機層[A]を形成する側の反対側には、フィルムの巻き取り時の滑り性の向上を目的として、有機物や無機物あるいはこれらの混合物のコーティング層が積層されていてもよい。
本発明に用いる高分子基材の厚みは特に限定されないが、柔軟性を確保する観点から500μm以下が好ましく、引張りや衝撃に対する強度を確保する観点から5μm以上が好ましい。さらに、フィルムの加工やハンドリングの容易性から高分子基材の厚みは10μm以上、200μm以下がより好ましい。
[無機層[A]]
本発明における無機層[A]は、少なくとも酸化亜鉛と二酸化ケイ素とを含むことが好ましい。少なくとも酸化亜鉛と二酸化ケイ素とを含んでいれば、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、スズ(Sn)、インジウム(In)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、タンタル(Ta)等の元素の酸化物、窒化物、硫化物、または、それらの混合物を含んでいてもよい。
また、高いガスバリア性が得られる無機層[A]として、以下の[A1]〜[A3]のいずれかを満たすことが好ましい。
[A1]亜鉛のK吸収端のX線吸収端近傍構造(XANES)スペクトルについて、(9,664.0eVのスペクトル強度)/(9,668.0eVのスペクトル強度)の値が0.910〜1.000
[A2]亜鉛の原子濃度をケイ素の原子濃度で除した値が、0.1〜1.5であり、かつ下の式で表される構造密度指数が1.20〜1.40
構造密度指数=(X線反射率(XRR)法により求められた無機層[A]の密度)/(X線光電子分光(XPS)法により求められた組成比率から算出された理論密度)
[A3]FT−IR測定により測定される波数900〜1,100cm−1にあるピークを波数920cm−1と1,080cm−1とにピーク分離したとき、920cm−1にピークを持つスペクトルの面積強度(A)と1,080cm−1にピークを持つスペクトルの面積強度(B)との比(A/B)の値が1.0〜7.0
無機層[A]に含まれる酸化亜鉛は、ガスバリア性及び光学特性に優れることから好ましく用いられ、二酸化ケイ素は、非晶質膜を形成することやガスバリア性に優れるため好ましく用いられる。
以下[A1]〜[A3]について説明する。なお、[A1]〜[A3]のいずれかのみを満たしても本発明の効果は得られるが、複数を同時に満たすと、さらに高い効果が得られることからより好ましい。
([A1])
本発明において、[A1]は、亜鉛のK吸収端のX線吸収端近傍構造(XANES)スペクトルについて、(9,664.0eVのスペクトル強度)/(9,668.0eVのスペクトル強度)の値が0.910〜1.000であることが好ましい。かかる特性を有する無機層[A]の構造については、後述する方法により、亜鉛のK吸収端に関して、吸収微細X線構造(XAFS:X−ray Absorption Fine Structure)の評価を行い特定される。XAFSは、X線吸収端近傍構造(XANES:X−ray Absorption Near Edge Structure)と広域X線吸収構造(EXAFS:Extended X−ray Absorption Fine Structure)とに分類される。XANESは、試料のX線吸収端近傍50eV程度の狭い領域に現れる吸収端微細構造のことである。一方、EXAFSは、XANESよりも高エネルギー側である約100eV程度から1keV程度の広い範囲にわたって現れる吸収微細構造のことである。XANESからは、着目原子の価数や構造に関する情報が得られ、EXAFSでは試料の局所構造(着目原子周囲の原子種、価数、距離)に関する情報が主に得られる。
XAFSの具体的な測定方法は、以下のとおりである。X線源よりX線を発生させ、モノクロメータにて単色化された後に集光ミラーにてX線を集光させる。X線パス上に試料をセットし、集光ミラーにて集光させたX線を試料に入射させ、試料透過前後のX線強度をイオンチャンバーにて計測する。本手法にて、X線のエネルギーを目的の吸収端を基準として、−500eV〜+1,200eVの範囲でX線エネルギーを走査し、試料透過前後のX線強度より吸光度を算出し、走査エネルギーに対して吸光度をプロットすることにより、X線吸収スペクトルを得ることができる。
得られたX線吸収スペクトルについて、50〜300eVの範囲の任意の2点を選択し、Victoreenの式で最小二乗近似し、吸収端より高エネルギー側に外挿することでバックグラウンド除去を行う。次に、100〜1,000eVの範囲の任意の2点を選択し、EXAFS振動成分の振動中心をスプライン関数で近似した曲線の強度が測定範囲のエネルギー領域で1になるように規格化を行い、EXAFS振動成分を抽出する。そして、得られたEXAFS振動成分に波数kの3乗の重み付けを行い、3〜12((オングストローム)−1)の範囲について有限フーリエ変換することにより、亜鉛原子周りの動径分布関数を得ることができる。
無機層[A]の亜鉛K吸収端のXANESスペクトルについて、(9,664.0eVのスペクトル強度)はケイ酸亜鉛成分に由来し、(9,668.0eVのスペクトル強度)は酸化亜鉛成分に由来する。
(9,664.0eVのスペクトル強度)/(9,668.0eVのスペクトル強度)の値が大きいことは無機層[A]中にケイ酸亜鉛成分の割合が多いことを意味する。一方、(9,664.0eVのスペクトル強度)/(9,668.0eVのスペクトル強度)の値が小さいことは無機層[A]中に酸化亜鉛の割合が多いことを意味する。(9,664.0eVのスペクトル強度)/(9,668.0eVのスペクトル強度)の値は0.910〜1.000であることが好ましい。0.910未満である場合、無機層[A]中のケイ酸亜鉛成分の割合が少なく、緻密性に乏しいため、所望のガスバリア性は得られない場合がある。一方、1.000より大きい場合、ケイ酸亜鉛成分の割合が多く、緻密になりすぎることから、クラックが生じやすくなる場合がある。ガスバリア性の観点より、0.920〜1.000であることがより好ましく、0.920〜0.960であることがさらに好ましい。
無機層[A]の亜鉛K吸収端のEXAFSより得られた動径分布関数について、(0.155nmのスペクトル強度)はZnOの最近接Zn−Oに起因し、(0.28nmのスペクトル強度)はZnOの第2〜3近接のZn−ZnもしくはZn−Siに起因する。
(0.28nmのスペクトル強度)/(0.155nmのスペクトル強度)の値が大きいことは、Zn周りの第2〜3近接に存在する原子の秩序性が高いことを意味する。一方、(0.28nmのスペクトル強度)/(0.155nmのスペクトル強度)の値が小さいことは、Zn周りの第2〜3近接に存在する原子の秩序性が低く、結晶性が低いことを意味する。(0.28nmのスペクトル強度)/(0.155nmのスペクトル強度)の値は0.08〜0.20であることが好ましい。0.08未満であると、層中の構造秩序性が低いため、所望のガスバリア性は得られない場合がある。一方、0.20より大きい場合、秩序性が良好になりすぎることから、クラックなどが生じやすくなる場合がある。ガスバリア性の観点より、0.09〜0.20であることがより好ましく、0.09〜0.15であることがさらに好ましく、0.12〜0.14であることが特に好ましい。
([A1]を満たす無機層[A]の形成方法)
本発明において、[A1]を満たす無機層[A]は、スパッタリング、真空蒸着法、イオンプレーティング法、CVD法などによって形成できる。これらの方法の中でも、安価、簡便かつ所望の層の性質を得られる手法として、スパッタリングが好ましい。また、スパッタリングの方法は枚葉式、ロールツーロールなどいずれの方法で行ってもよい。図2には枚葉式で行う場合のスパッタリング装置の一例を、図3にはロールツーロールで行う場合のスパッタリング装置の一例を示す。
本発明における[A1]を満たす無機層[A]をスパッタリングにより形成するには、例えば少なくとも酸化亜鉛と二酸化ケイ素とを含み、亜鉛の原子濃度をケイ素の原子濃度で除した値が、1.4〜8.5であるターゲット材料を用い、高分子基材の表面を40〜200℃の温度としてからスパッタリングを行うことにより得ることができる(以降、亜鉛の原子濃度をケイ素の原子濃度で除した値を「亜鉛/ケイ素比」と記すこともある)。かかる条件を適用することにより、スパッタリングを行う際に無機層[A]を形成する無機材料粒子が高分子基材の表面に均一に拡散することにより、無機層[A]の緻密化を図ることができ、類似構成でこれまで達成不可能であった高いガスバリア性が得られる。なお、スパッタリングを行う際に無機層[A]を形成する無機材料粒子が高分子基材の表面に均一に拡散することを「粒子の表面拡散性」と略記することもある。以下各条件について、詳細を記す。
ターゲット材料の亜鉛/ケイ素比は、上述の通り1.4〜8.5であることが好ましい。亜鉛/ケイ素比が1.4より小さいと、無機層[A]を形成した際に軟らかい金属である亜鉛が少なくなるため、無機層[A]が柔軟性に乏しくなる場合がある。かかる観点から、亜鉛/ケイ素比は1.5以上であることがより好ましい。また、亜鉛/ケイ素比が8.5より大きいと、無機層[A]を形成した際に非晶質構造を取り難くなり、クラックが生じやすくなる場合がある。かかる観点から、亜鉛/ケイ素比は6.5以下であることがより好ましい。
そして、高分子基材の表面の温度を40〜200℃に調節してからスパッタリングを行うことで、粒子の表面拡散性が向上し、これにより無機層[A]の緻密化を図ることが可能となることから好ましい。なお、「高分子基材の表面の温度を40〜200℃に調節してからスパッタリングを行う」とは、スパッタリングを行う前に高分子基材の表面の温度を40〜200℃とすることを表す。すなわち、スパッタリング中には無機材料粒子の衝突により一般に高分子基材の表面の温度が上昇するが、かかる温度上昇分は含まない温度を示すものである。高分子基材の表面の温度が40℃より低いと、十分な粒子の表面拡散性の向上効果が得られず、ガスバリア性が不十分となる場合がある。一方、高分子基材の表面の温度が200℃より高いと、高分子基材に溶融変形が生じ、ガスバリア性フィルムとして使用することができなくなる場合がある。成膜を行う前の高分子基材の表面の温度は、ガスバリア性やフィルムの熱負けを抑制する観点より、100〜180℃に調節することが好ましく、100〜150℃であることがより好ましい。
([A2])
本発明において、[A2]は、亜鉛の原子濃度をケイ素の原子濃度で除した値が、0.1〜1.5であり、以下の式で表される構造密度指数が1.20〜1.40であることが好ましい。
構造密度指数=(X線反射率(XRR)法により求められた無機層[A]の密度)/(X線光電子分光(XPS)法により求められた組成比率から算出された理論密度)
無機層[A]の亜鉛/ケイ素比は、0.1〜1.5であることが好ましい。無機層[A]の亜鉛/ケイ素比が1.5より大きくなると、無機層[A]を構成する成分が結晶化しクラックが生じやすくなることで無機層[A]が割れやすくなる場合がある。無機層[A]の亜鉛/ケイ素比が0.1より小さくなると、無機層[A]を柔軟性の高い膜質にする亜鉛原子が少なくなることで、無機層[A]が割れやすくなる場合がある。
構造密度指数とは、無機層[A]の緻密性を評価する指標であり、無機層[A]について、X線光電子分光(XPS)法により求められた組成比より理論密度を算出し、X線反射率(XRR)法によって実測密度を求め、実測密度/理論密度の計算により求めるものである。理論密度は、化合物1gが薄膜においてどの程度の体積を占めているかを、以下に基づいて算出するものを用いる。
理論密度[g/cm]=薄膜1[g]/(1g中の化合物Aの体積[cm]+1g中の化合物Bの体積[cm]+・・・+1g中の化合物Zの体積[cm])
例えば、無機層[A]の含有組成比率が下記3種類の元素で構成されている場合は以下のように計算することが可能である。ただし、すべての元素について、完全酸化物を仮定する。
ZnO 61.0[atm%] 実測密度5.60[g/cm] 分子量 81.4
SiO 35.0[atm%] 実測密度2.20[g/cm] 分子量 60.1
Al 4.0[atm%] 実測密度3.97[g/cm] 分子量102.0
理論密度[g/cm]=1[g]/{{61.0[atm%]×81.4/(61.0[atm%]×81.4+35.0[atm%]×60.1+4.0[atm%]×102.0)}+{35.0[atm%]×60.1/(61.0[atm%]×81.4+35.0[atm%]×60.1+4.0[atm%]×102.0)}+{4.0[atm%]×102.0/(61.0[atm%]×81.4+35.0[atm%]×60.1+4.0[atm%]×102.0)}}
=3.84[g/cm
上記の計算により得られた構造密度指数の値が大きいことは無機層[A]がより緻密であることを意味する。一方、構造密度指数の値が小さいことは、無機層[A]が緻密でなく、欠陥やクラックが存在しやすいことを意味する。本発明のガスバリア性フィルムの無機層[A]に関して、構造密度指数は1.20〜1.40であることが好ましい。1.20より小さい場合、無機層[A]の空隙や欠陥が多く存在すると考えられ、良好なガスバリア性が得られない場合がある。一方、構造密度指数が1.40より大きい場合、所望のものと異なる配位構造をとりうるようになるため、良好なガスバリア性が得られなくなる場合がある。ガスバリア性の観点より、構造密度指数は1.25〜1.35であることがより好ましい。1.30〜1.35の範囲にあることがさらに好ましい。
([A2]を満たす無機層[A]の形成方法)
[A2]を満たす無機層[A]の形成方法は、例えば高分子基材の少なくとも片側に、少なくとも酸化亜鉛と二酸化ケイ素とを含む無機層[A]を形成する方法であって、該無機層[A]を以下に述べる方法にて形成するものである。
本発明において[A2]を満たす無機層[A]は、例えば少なくとも酸化亜鉛と二酸化ケイ素とを含み、亜鉛/ケイ素比が、1.4〜8.5であるターゲット材料を用いて、高分子基材の表面を40〜200℃の温度としてから、スパッタリングを行うことにより、無機層[A]を形成することができる。かかる条件を適用すると、粒子の表面拡散性が良好となることから、無機層[A]の緻密化を図ることができ、類似構成でこれまで達成不可能であった高いガスバリア性が得られるため好ましい。
使用するターゲット材料について、亜鉛/ケイ素比が、1.4〜8.5であることが好ましい。亜鉛/ケイ素比が1.4より小さい場合、無機層[A]を形成した際に軟らかい金属である亜鉛が少なくなるため、無機層[A]が柔軟性に乏しくなる場合がある。かかる観点から、亜鉛/ケイ素比は1.5以上であることがより好ましい。また、亜鉛/ケイ素比が8.5より大きい場合、無機層[A]を形成した際に非晶質構造を取り難くなり、クラックが生じやすくなる場合がある。かかる観点から、亜鉛/ケイ素比は6.5以下であることがより好ましい。
そして、高分子基材の表面の温度を40〜200℃に調節してからスパッタリングを行うことで、粒子の表面拡散性が向上し、これにより無機層[A]の緻密化を図ることが可能となることから好ましい。なお、「高分子基材の表面の温度を40〜200℃に調節してからスパッタリングを行う」とは、[A1]の場合と同様スパッタリングを行う前に高分子基材の表面の温度を40〜200℃とすることを表す。すなわち、スパッタリング中には無機材料粒子の衝突により一般に高分子基材の表面の温度が上昇するが、かかる温度上昇分は含まない温度を示すものである。高分子基材の表面の温度が40℃より低いと、十分な粒子の表面拡散性の向上効果が得られず、ガスバリア性が不十分となる場合がある。一方、高分子基材の表面の温度が200℃より高いと、高分子基材に溶融変形が生じ、ガスバリア性フィルムとして使用することができなくなる場合がある。成膜を行う前の高分子基材の表面の温度は、ガスバリア性やフィルムの熱負けを抑制する観点より、100〜180℃に調節することが好ましく、100〜150℃であることがより好ましい。
本発明のガスバリア性フィルムの製造方法において亜鉛/ケイ素比が1.4〜8.5であるターゲット材料を用いて、高分子基材の表面温度を40〜200℃として、スパッタリングを行うことが好ましいことは上述の通りであるが、この際形成される無機層[A]の亜鉛/ケイ素比は、0.1〜1.5であることが好ましい。無機層[A]の亜鉛/ケイ素比が1.5より大きくなると、無機層[A]を構成する成分が結晶化しクラックが生じやすくなることで無機層[A]が割れやすくなる場合がある。無機層[A]の亜鉛/ケイ素比が0.1より小さくなると、無機層[A]を柔軟性の高い膜質にする亜鉛原子が無機層[A]中に少なくなることで、無機層[A]が割れやすくなる場合がある。ターゲット材料と得られた無機層[A]の亜鉛/ケイ素比が上記のように大きく異なるのは、高分子基材の表面の加熱を行うことにより、蒸気圧の高い亜鉛原子が抜けやすくなったためである。ガスバリア性フィルムの柔軟性、ガスバリア性の観点より、無機層[A]の亜鉛/ケイ素比を0.3〜1.2とすることがより好ましい。
([A3])
本発明において、[A3]は、FT−IR測定により測定される波数900〜1,100cm−1にあるピークを波数920cm−1と1,080cm−1とにピーク分離したとき、920cm−1にピークを持つスペクトルの面積強度(A)と1,080cm−1にピークを持つスペクトルの面積強度(B)との比(A/B)の値が1.0〜7.0であることが好ましい。
本発明の無機層[A]は、酸化亜鉛と二酸化ケイ素とを含むことが好ましいことから、後述する方法により、FT−IR測定した際、酸化亜鉛と二酸化ケイ素およびその複合物により波数900〜1,100cm−1にピークをもつ吸収スペクトルが得られる。そして、前記波数900〜1,100cm−1のピークをZn−O−Si結合の吸収に由来する920cm−1とSi−O−Si結合に由来する1,080cm−1とにピーク分離し、それぞれのスペクトルの面積強度を比較することで、前記無機層[A]に含まれるSi−O−Si結合とZn−O−Si結合の比率情報を得ることができる。このとき、波数900〜1,100cm−1のピークをピーク分離する際、後述のソフトを用いて、ベースラインとして650cm−1と1,400cm−1におけるスペクトル値の2点を結ぶ直線を設定し、ガウス関数を2つ設定する。ガウス関数の1つのピーク位置のみを1,080cm−1に固定値とし設定し計算を実施する。計算の結果、1,080cm−1にピークをもつスペクトルの面積強度と900〜940cm−1にピーク位置が計算されたものをZn−O−Si結合の吸収に由来する920cm−1のピークとし、スペクトルの面積強度をそれぞれ求めて比率をとる。なお、以下では900〜940cm−1にピーク位置が計算されたピークを「920cm−1のピーク」という。
本発明において、[A3]を満たす無機層[A]は、920cm−1にピークを持つスペクトルの面積強度(A)と1,080cm−1にピークを持つスペクトルの面積強度(B)との比(A/B)の値が1.0〜7.0が好ましい。920cm−1にピークを持つスペクトルの面積強度(A)と1,080cm−1にピークを持つスペクトルの面積強度(B)との比(A/B)の値が1.0未満であると、Si−O−Si結合の比率が増加し柔軟性が乏しく割れやすい無機層[A]となる場合があり、また、920cm−1にピークを持つスペクトルの面積強度(A)と1,080cm−1にピークを持つスペクトルの面積強度(B)との比(A/B)の値が7.0より大きくなるとSi−O−Si結合の比率が少なくなるためアモルファス性が低下し、容易にクラックが入りバリア性が低下する場合がある。より好ましくは1.0〜6.0であり、さらに好ましくは1.0〜5.0である。
また、前記無機層[A]内に酸化亜鉛と二酸化ケイ素およびその複合物以外の含有物で波数900〜1,100cm−1にピークを持つ吸収スペクトルが得られる場合は、含有物由来のピークを分離・除去した後、920cm−1にピークを持つスペクトルの面積強度(A)と1,080cm−1にピークを持つスペクトルの面積強度(B)との比(A/B)の値を求めることが好ましい。このとき、前述同様にピーク分離を実施するが、ガウス関数を3つ以上設定するとき(900〜1,100cm−1に3つ以上ピークを持つ)、少なくともガウス関数のピーク位置を920cm−1と1,080cm−1とを固定値とし計算を実施し、それぞれの面積強度を計算する。
([A3]を満たす無機層[A]の形成方法)
[A3]を満たす無機層[A]の形成方法は、例えば高分子基材の少なくとも片側に、少なくとも酸化亜鉛と二酸化ケイ素とを含む無機層[A]を形成する方法であって、該無機層[A]を以下に述べる方法にて形成するものである。
すなわち、酸素を含むガス圧を0.20Pa未満としてスパッタリングを行うことにより、無機層[A]を形成する工程を含む製造方法である。酸素を含まないガス(たとえばArガスのみ)でスパッタリングを実施すると、無機層[A]の酸素欠損が多く、Si−O−Si結合およびZn−O−Siの結合ができ難くなる場合がある。さらに、前記無機層[A]は光の透過率が低い黒色の膜となってしまう場合がある。また、ガス圧を0.20Pa以上でスパッタリングを実施すると920cm−1にピークを持つスペクトルの面積強度(A)と1,080cm−1にピークを持つスペクトルの面積強度(B)との比(A/B)の値が7.0より大きくなり、Si−O−Si結合が少なくなる場合がある。
本発明のガスバリア性フィルムの製造方法は、スパッタリング時の高分子基材が以下の(1)および(2)を満たすことが好ましい。
(1)無機層[A]が形成される面とは逆の面の温度が−20℃以上、150℃以下
(2)(無機層[A]が形成される面の温度)−(無機層[A]が形成される面とは逆の面の温度)≦100(℃)。
スパッタリング時に、(無機層[A]が形成される面の温度)−(無機層[A]が形成される面とは逆の面の温度)が100℃より大きいと、該高分子基材の両面の熱収縮差が大きくなるため、カールや熱負けが発生する場合がある。また、該高分子基材の無機層[A]が形成される面とは逆の面の温度が−20℃以上、150℃以下であることが好ましい。該高分子基材の無機層[A]が形成される面とは逆の面が−20℃以上のとき、無機層[A]が920cm−1にピークを持つスペクトルの面積強度(A)と1,080cm−1にピークを持つスペクトルの面積強度(B)との比(A/B)の値を7.0以下としやすいため好ましい。また、150℃以下のとき、920cm−1にピークを持つスペクトルの面積強度(A)と1,080cm−1にピークを持つスペクトルの面積強度(B)との比(A/B)の値が1.0以上となりやすいため好ましい。
通常、スパッタリングにより無機層[A]が形成される面は、無機層[A]が形成される面とは逆の面に対し温度が高くなるが、無機層[A]が形成される面とは逆の面の温度が−20℃以上、150℃以下であり、かつ(無機層[A]が形成される面の温度)−(無機層[A]が形成される面とは逆の面の温度)≦100(℃)であれば高分子基材の熱負けによるフィルム切れを抑制することができるため好ましい。
(無機層[A]に含まれる酸化亜鉛と二酸化ケイ素以外の成分)
無機層[A]には、少なくとも酸化亜鉛と二酸化ケイ素とが含まれていれば、上記以外の無機化合物が含まれていても構わない。例えば、亜鉛、ケイ素、アルミニウム,チタン,スズ,インジウム,ニオブ,タンタル,ジルコニウム等の元素の酸化物、窒化物、硫化物等、またはそれらの混合物を含んでいても構わない。ガスバリア性の観点より、酸化アルミニウム、酸化スズ、酸化インジウム、窒化ケイ素を含むことがより好ましく、酸化アルミニウムを含むことがさらに好ましい。
(無機層[A]の密度)
無機層[A]の密度は、X線反射率法(XRR法)により測定することができる。XRR法とは、X線を試料表面に極浅い角度(0〜5°程度)で入射させ、その入射角対鏡面方向に反射したX線強度プロファイルを測定する。この測定により得られたプロファイルに対してシミュレーション解析を行い最適化することにより、試料の厚み、層の密度、粗さを決定する手法である。XRR法により測定される無機層[A]の密度は、1〜7g/cmであることが好ましい。1g/cmより小さいと、得られた無機層[A]は緻密でなく、十分なガスバリア性が得られない場合がある。一方、無機層[A]の密度が7g/cmより大きいと無機層[A]が硬くなりやすく、無機層[A]が割れやすくなる場合がある。ガスバリア性や屈曲性の観点より、無機層[A]の密度は2〜7g/cmであることがより好ましく、2〜5g/cmであることがさらに好ましい。
(無機層[A]の組成比率)
無機層[A]の組成比率は、後述するようにX線光電子分光法(XPS法)により測定することができる。ここで、無機層[A]の最表面は一般に過剰酸化されており、内部の組成比率と異なるため、XPS法による分析の前処理としてアルゴンイオンを用いたスパッタエッチングにより、最表層を5nm程度エッチングして除去した後、組成分析を行い得た原子濃度を、本発明における原子濃度とする。
無機層[A]の組成比率は、亜鉛(Zn)原子濃度が1〜35atm%、ケイ素(Si)原子濃度が5〜25atm%、アルミニウム(Al)原子濃度が1〜7atm%、酸素(O)原子濃度が50〜70atm%の範囲にあることが好ましい。
亜鉛原子濃度が1atm%よりも少ない、またはケイ素原子濃度が25atm%よりも多いと、無機層[A]を柔軟性の高い性質にする亜鉛原子の割合が少なくなるため、ガスバリア性フィルムの柔軟性が低下する場合がある。かかる観点から、亜鉛原子濃度は、3atm%以上であることがより好ましい。亜鉛原子濃度が35atm%よりも多い、またはケイ素原子濃度が5atm%よりも少ないと、ケイ素原子の割合が少なくなることで無機層[A]は結晶層になりやすく、クラックが入りやすくなる場合がある。かかる観点から、ケイ素原子濃度は、7atm%以上であることがより好ましい。アルミニウム原子濃度が1atm%よりも少ないと、酸化亜鉛と二酸化ケイ素の親和性が損なわれるため、無機層[A]には空隙や欠陥が生じやすくなる場合がある。また、アルミニウム原子濃度が7atm%よりも多いと、酸化亜鉛と二酸化ケイ素の親和性が過剰に高くなるため、熱や外部からの応力に対してクラックが生じやすくなる場合がある。酸素原子濃度が50atm%よりも少ないと、亜鉛、ケイ素、アルミニウムは酸化不足となり、光線透過率が低下する場合がある。また、酸素原子濃度が70atm%よりも多いと、酸素が過剰に取り込まれるため、空隙や欠陥が増加し、ガスバリア性が低下する場合がある。
(無機層[A]の厚み)
無機層[A]の厚みは、50〜300nmが好ましく、100〜200nmがより好ましい。無機層[A]の厚みが50nmよりも薄くなると、十分にガスバリア性が確保できない箇所が生じる場合がある。また、300nmよりも厚くなると、層内に残留する応力が大きくなるため、曲げや外部からの衝撃によって無機層[A]にクラックが発生しやすくなり、ガスバリア性が低下する場合がある。
[層[B]]
本発明において層[B]は、Si−Hで表される結合を有する成分を含み、かつ水素原子濃度が35〜55atm%であることが好ましい。水素原子濃度は38〜52atm%であることがより好ましく、40〜50atm%であることがさらに好ましい。層[B]における水素原子濃度が35〜55atm%であることにより、安定した高度なガスバリア性を有し、かつ、耐屈曲性に優れるため好ましい。
ここで、層[B]がSi−Hで表される結合を有する成分を含むか否かは、フーリエ変換赤外分光法での分析によって判断することができ、2,140〜2,260cm−1にSi−H伸縮振動を示すピークを有すれば、Si−Hで表される結合を有する成分を含むと判断する。
また、層[B]における水素原子濃度は、ラザフォード後方散乱分析法および水素前方散乱分析法により測定することができる。
本発明の層[B]を適用することにより安定した高度なガスバリア性を有し、かつ、耐屈曲性に優れるガスバリア性フィルムが得られる理由は以下の(i)、(ii)のように推定している。
(i)まず、層としての寄与として、層[B]がSi−Hで表される結合を有する成分を含むことで、層[B]内に存在するケイ素の未結合手(ダングリングボンド)に水素が結合することで膜質が安定し、かつ結合を水素で終端することで柔軟性も付与することができる。前記2,140〜2,260cm−1にピークを有さない場合、層[B]は過剰に緻密な膜となって柔軟性が不足し、熱や外部からの応力でクラックが生じやすくなり、ガスバリア性が低下する。また、層[B]における水素原子濃度が35〜55atm%であることで、層[B]が安定性かつ柔軟性を有し、本発明のガスバリア性フィルムを屈曲させる際に生じる応力を緩和させられ、クラック生成に起因するガスバリア性低下を抑制でき、耐屈曲性に優れた層となる。
(ii)次に、無機層[A]や後述の無機層[C]など、層[B]の高分子基材側で接する層が有するピンホールやクラック等の欠陥に層[B]を構成する成分が充填され高いバリア性を発現することが可能となる。加えて、水素原子濃度が35〜55atm%であることで、無機層[A]を構成する成分と化学結合を形成することが容易となるため、無機層[A]と層[B]との界面領域における密着性も向上する。
本発明において層[B]は、少なくとも窒素原子、酸素原子およびケイ素原子を含み、かつ窒素原子濃度が10〜40atm%、酸素原子濃度が1〜10atm%、ケイ素原子濃度が10〜45atm%であることが好ましい。窒素原子濃度は15〜35atm%であることがより好ましく、18〜30atm%であることがさらに好ましい。酸素原子濃度は1.5〜9atm%であることがより好ましく、2〜8atm%であることがさらに好ましい。ケイ素原子濃度は15〜40atm%であることがより好ましく、20〜35atm%であることがさらに好ましい。
層[B]の窒素、酸素およびケイ素の原子濃度が上記範囲を満たすことで、層[B]が緻密な層となり、酸素および水蒸気の透過が抑制されガスバリア性が高い層となるため好ましい。加えて、柔軟性を併せ持ち、使用時において熱や外部からの応力に対してクラックが生じにくく、クラック生成に起因するガスバリア性低下が抑制できる層となるため好ましい。
ここで層[B]における窒素、酸素およびケイ素の原子濃度は、ラザフォード後方散乱分析法および水素前方散乱分析法により測定することができる。
さらに、層[B]はガスバリア性の制御および安定化を目的として、実質的に炭素原子を含まないことが好ましい。実質的に炭素原子を含まない場合、炭素原子を含む層よりも高いバリア性を発現することが可能となる。ここで層[B]が実質的に炭素原子を含まないとは、層[B]をX線光電子分光法(XPS)の深さ方向分析による元素分析を行った場合、炭素原子のピークが見られないことをいう。
本発明において層[B]は、前記無機層[A]側の密度が1.3〜1.9g/cmであり、最表面側の密度が1.9〜2.3g/cmであることが好ましい。なお、本発明で層[B]における無機層[A]側の密度とは、X線反射率法(XRR)により算出される層[B]における無機層[A]側から測定した密度であり、層[B]における最表層側の密度とは、同様にして算出される無機層[A]側と反対の面(すなわち、層[B]の最表層)側から測定した密度である。
本発明において層[B]の厚みは、50nm以上、1,000nm以下が好ましく、100nm以上、500nmがより好ましい。層[B]の厚みが50nmより薄くなると、安定した水蒸気バリア性能を得ることができない場合がある。層[B]の厚みが1,000nmより厚くなると、層[B]内に残留する応力が大きくなることによって高分子基材が反り、層[B]および/または無機層[A]および/または後述の無機層[C]にクラックが発生してガスバリア性が低下する場合がある。層[B]の厚みは、透過型電子顕微鏡(TEM)による断面観察画像から測定することが可能である。
本発明において層[B]の中心面平均粗さSRaは、10nm以下であることが好ましい。SRaを10nm以下にすると、ガスバリア性の繰り返し再現性が向上するため好ましい。層[B]の表面のSRaが10nmより大きくなると、凹凸が多い部分で応力集中によるクラックが発生し易いため、ガスバリア性の繰り返し再現性が低下する原因となる場合がある。従って、本発明においては、層[B]のSRaを10nm以下にすることが好ましく、より好ましくは7nm以下である。層[B]のSRaは、三次元表面粗さ測定機を用いて測定することができる。
本発明において層[B]の原料としては、ポリシラザン骨格を持つケイ素化合物が好ましく用いられる。ポリシラザン骨格を持つケイ素化合物としては、例えば下記の化学式(1)で表される部分構造を有する化合物を好ましく用いることができる。具体的には、パーヒドロポリシラザン、オルガノポリシラザン、およびこれらの誘導体からなる群より選択される少なくとも一種を用いることができる。本発明においては、ガスバリア性向上の観点から下記の化学式(1)に示されるR、R、Rの全てが水素であるパーヒドロポリシラザンを用いることが好ましいが、水素の一部又は全部がアルキル基等の有機基で置換されたオルガノポリシラザンであってもよい。また、単一の組成で用いてもよいし、二成分以上を混合して使用してもよい。なお、nは1以上の整数を表す。
Figure 2017065054
本発明における層[B]を設ける工程は、ポリシラザン骨格を持つケイ素化合物を含む塗液を塗布して塗膜を設ける工程[a]、前記塗膜を乾燥させる工程[b]、前記塗膜を加湿する工程[c]、前記塗膜に光照射処理を施して前記塗膜の表面を硬化させる工程[d]、および前記塗膜に光照射処理を施して前記塗膜を組成転化させる工程[e]をこの順に有することが好ましい。以下各工程の詳細を説明する。
[工程[a]]
前記工程[a]は、ポリシラザン骨格を持つケイ素化合物を含む塗液を塗布して塗膜を設ける工程であることが好ましい。
ここで、工程[a]における塗液を塗布して塗膜を設ける工程としては、公知の方法を用いることができる。まず無機層[A]若しくは後述の無機層[C]上に前記化学式(1)で表される化合物を含む塗料を乾燥後の厚みが所望の厚みになるよう固形分濃度を調整しリバースコート法、グラビアコート法、ロッドコート法、バーコート法、ダイコート法、スプレーコート法、スピンコート法などにより塗布することが好ましい。また、本発明においては、塗工適性の観点から有機溶剤を用いて前記化学式(1)で表される化合物を含む塗料を希釈することが好ましい。具体的には、キシレン、トルエン、ターペン、ソルベッソなどの炭化水素系溶剤、ジブチルエーテル、エチルブチルエーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル系溶剤などを用いて、固形分濃度を10質量%以内に希釈して使用することが好ましい。これらの溶剤は、単独あるいは2種以上を混合して用いてもよい。
層[B]を形成するケイ素化合物を含む塗料には、層[B]の効果が損なわれない範囲で、各種の添加剤を必要に応じて配合することができる。例えば、触媒、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤などの安定剤、界面活性剤、レベリング剤、帯電防止剤などを用いることができる。
[工程[b]]
前記工程[b]は、塗膜を乾燥させる工程[b]であることが好ましい。具体的には、工程[b]では、塗布後の塗膜を乾燥させて希釈溶剤を除去することが好ましい。ここで、乾燥に用いられる熱源としては特に制限は無く、スチームヒーター、電気ヒーター、赤外線ヒーターなど任意の熱源を用いることができる。なお、ガスバリア性向上のため、加熱温度は50〜150℃で行うことが好ましい。また、加熱処理時間は数秒〜1時間行うことが好ましい。さらに、加熱処理中は温度が一定であってもよく、徐々に温度を変化させてもよい。
[工程[c]]
前記工程[c]は塗膜を加湿する工程であることが好ましい。具体的には、工程[c]では、乾燥後の塗膜に特定の湿度条件で加湿処理を施して、光照射処理により塗膜組成を変性させるために必要な水分を安定供給することが好ましい。ここで、本発明における加湿処理とは、一定の温度、相対湿度に保たれた環境に晒すことをいう。
温度を一定に保つために用いられる熱源としては特に制限はなく、スチームヒーター、電気ヒーター、赤外線ヒーターなど任意の熱源を用いることができる。温度は水分の安定供給の観点から20〜40℃で行うことが好ましく、かつ相対湿度は、水分の安定供給の観点から40〜90%で行うことが好ましい。
加湿処理時間は数秒〜1時間行うことが好ましく、また、加湿処理は大気中もしくは不活性ガス中に封入した状態で行ってもよい。
[工程[d]]
工程[d]は前記塗膜に光照射処理を施して前記塗膜の表面を硬化させる工程であることが好ましい。具体的には、工程[d]では、加湿後の塗膜にプラズマ処理、紫外線照射処理、フラッシュパルス処理などの光照射処理を施すことで、前記塗膜の表面を硬化させることができる。光照射処理としては、簡便で生産性に優れ、かつ前記塗膜の表面を均一に硬化することが容易であることから紫外線処理を使用することが好ましい。紫外線処理としては、大気圧下または減圧下のどちらでも構わないが、汎用性、生産効率の観点から本発明では大気圧下にて紫外線処理を行うことが好ましい。前記紫外線処理を行う際の酸素濃度は2.0体積%以下が好ましく、1.0体積%以下がより好ましく、0.5体積%以下がさらに好ましい。相対湿度は任意でよい。また、前記紫外線処理では窒素ガスを用いて酸素濃度を低下させることがより好ましい。
紫外線発生源としては、高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ、マイクロ波方式無電極ランプ、低圧水銀ランプ、キセノンランプ等、既知のものを用いることができるが、生産効率の観点から本発明では高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ、マイクロ波方式無電極ランプのいずれかを使用することが好ましい。照射する紫外線の波長は特に限定されるところではないが、生産効率の観点から200〜380nmが好ましく、280〜380nmがより好ましく、315〜380nmがさらに好ましい。
紫外線照射の積算光量は、0.2〜2.0J/cmであることが好ましく、0.3〜1.0J/cmがより好ましく、0.4〜0.8J/cmがさらに好ましい。前記積算光量が0.2J/cm以上であると塗膜の表面が硬化でき、また、前記積算光量が2.0J/cm以下であると高分子基材、無機層[A]等へのダメージを少なくすることができるため好ましい。
[工程[e]]
工程[e]は前記塗膜に活性エネルギー線照射処理を施す工程であることが好ましい。具体的には、工程[e]では、加湿後の塗膜にプラズマ処理、紫外線照射処理、フラッシュパルス処理などの光照射処理を施すことで前記塗膜を組成転化させ、本発明の層[B]を得ることができる。
活性エネルギー線照射処理としては、簡便で生産性に優れ、かつ均一な層[B]組成を得ることが容易であることから紫外線処理を使用することが好ましい。紫外線処理としては、大気圧下または減圧下のどちらでも構わないが、汎用性、生産効率の観点から本発明では大気圧下にて紫外線処理を行うことが好ましい。前記紫外線処理を行う際の酸素濃度は1.0体積%以下が好ましく、0.5体積%以下がより好ましい。相対湿度は任意でよい。また、前記紫外線処理では窒素ガスを用いて酸素濃度を低下させることがより好ましい。
紫外線発生源としては、高圧水銀ランプメタルハライドランプ、マイクロ波方式無電極ランプ、低圧水銀ランプ、キセノンランプ等、既知のものを用いることができるが、生産効率の観点からキセノンランプを使用することが好ましい。照射する紫外線の波長は特に限定されるところではないが、生産効率の観点から10〜200nmが好ましく、100〜200nmがより好ましく、150〜180nmがさらに好ましい。
紫外線照射の積算光量は、1.5〜10J/cmであることが好ましく、2.5〜7J/cmがより好ましい。前記積算光量が1.5J/cm以上であると所望の層[B]組成が得ることができ、また、前記積算光量が10J/cm以下であると高分子基材、無機層[A]等へのダメージを少なくすることができるため好ましい。
また、本発明では、紫外線処理の際、生産効率を向上させるために加湿後の塗膜を加熱しながら紫外線処理を行うことがより好ましい。加熱温度としては、50〜150℃が好ましく、80〜130℃がより好ましい。加熱温度が50℃以上であれば高い生産効率が得られるため好ましく、また、加熱温度が150℃以下であれば高分子基材など他の材料の変形や変質が起こりにくいため好ましい。
[無機層[C]]
本発明において、ガスバリア性をさらに向上させる目的で、図6に示すように無機層[A]と層[B]との間に無機層[C]を設けてもよい。ガスバリア性を有する無機層[C]が存在することで、本発明のガスバリア性フィルムに含まれるバリア性を有する層が増えるためガスバリア性をさらに向上させられるため好ましい。なお、無機層[C]にも無機層[A]同様欠陥が存在すると考えられるが、無機層[C]上に層[B]を設けることで、無機層[C]が有するピンホールやクラック等の欠陥に層[B]を構成する成分が充填され高いバリア性を発現することが可能となる。
本発明に用いられる無機層[C]の材質としては、ガスバリア性の観点から、二酸化ケイ素、炭化ケイ素、窒化ケイ素および酸窒化ケイ素からなる群より選ばれる少なくとも一つを含むケイ素化合物を主成分とすることが好ましい。すなわち、前記無機層[A]と前記層[B]との間に、二酸化ケイ素、炭化ケイ素、窒化ケイ素および酸窒化ケイ素からなる群より選ばれる少なくとも一つを含む無機層[C]が配置されることが好ましい。
ここで、主成分とは無機層[C]全体の60質量%以上であることを意味し、80質量%以上であれば好ましい。なお、前記の主成分となる化合物は、X線光電子分光法(XPS法)、ICP発光分光分析、ラザフォード後方散乱法等により成分を特定される。無機層[C]上に他の層が配置されている場合、X線反射率法により求めた厚さ分をイオンエッチングや薬液処理により除去した後、分析することができる。そして、前記化合物を構成する各元素の組成比は、無機層[C]を形成する際の条件に依存して、量論比から若干のずれた組成比となる場合もあるが、組成比が整数で表される組成式を有する化合物として扱う。
無機層[C]の組成は、ケイ素原子に対する酸素原子の原子数比が1.5〜2.0であるケイ素の酸化物を含むことがより好ましい。酸素原子に対するケイ素原子の原子数比が2.0より大きくなると、含まれる酸素原子量が多くなるため、空隙部分や欠陥部分が増加し、所定のガスバリア性が得られない場合がある。また、酸素原子に対するケイ素原子の原子数比が1.5より小さくなると、酸素原子が減少し緻密な膜質になるが、柔軟性が低下する場合がある。さらに好ましくは1.4〜1.8の範囲である。
本発明に使用される無機層[C]の厚み及び密度は上述したX線反射率法により測定することができる。X線反射率法により測定される無機層[C]の密度は、2.0〜2.6g/cmの範囲であることが好ましい。無機層[C]の密度が、2.0g/cmより小さくなると、無機層[C]の膜質の緻密性が低下し、空隙部分や欠陥部分が増加するため、十分なガスバリア性が得られなくなる場合がある。無機層[C]の密度が2.6g/cmより大きくなると、無機層[C]が過剰に緻密な膜質となるため、熱や外部からの応力に対してクラックが生じやすくなる場合がある。従って、無機層[C]の密度は、2.0〜2.6g/cmの範囲であることが好ましく、2.3〜2.5g/cmの範囲がより好ましい。
本発明に使用する無機層[C]の厚みは、10nm以上が好ましく、100nm以上がより好ましい。層の厚みが10nmより薄くなると、十分にガスバリア性が確保できない箇所が発生し、ガスバリア性フィルムの面内でガスバリア性がばらつくなどの問題が生じる場合がある。また、無機層[C]の厚みは、1,000nm以下が好ましく、500nm以下がより好ましい。層の厚みが1,000nmより厚くなると、層内に残留する応力が大きくなるため、曲げや外部からの衝撃によって無機層[C]にクラックが発生しやすくなり、使用に伴いガスバリア性が低下する場合がある。
第2の層形成段階に適用する方法は特に限定されず、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、化学気相蒸着法CVD法(CVD法と略す)等によって形成することができる。
[アンダーコート層]
本発明に適用される高分子基材の表面には、無機層[A]との密着性の向上を目的として図5に示すようにアンダーコート層24を形成することが好ましい。得られたガスバリア性フィルムが、高分子フィルムと無機層[A]との間にアンダーコート層を有することにより、高分子基材に直接無機層[A]を施した場合よりも無機層[A]さらには層[B]の平坦性が向上し、ガスバリア性が向上し、また高分子基材上に直接無機層[A]を施した場合よりもガスバリア性フィルムの柔軟性も向上するため好ましい。
このアンダーコート層に用いられる材料としては、ポリエステル樹脂、イソシアネート樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、エチレンビニルアルコール樹脂、ビニル変性樹脂、エポキシ樹脂、変性スチレン樹脂、変性シリコン樹脂、およびアルキルチタネート等が挙げられ、これらを1または2種以上併せて使用することもできる。本発明に用いるアンダーコート層の材料としては耐溶剤性の観点から主剤と硬化剤とからなる二液硬化型樹脂が好ましく、ガスバリア性、耐水性の観点からポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂を主剤として使用することがより好ましい。硬化剤としてはガスバリア性、透明性などの特性を阻害しない範囲内であれば、特に限定されることはなく、イソシアネート系、エポキシ系などの一般的な硬化剤を使用することができる。これらのアンダーコート層には、既知の添加剤を含有させることもできる。
本発明に用いるアンダーコート層の厚みは、0.3〜10μmが好ましい。アンダーコート層の厚みが0.3μmより薄くなると、高分子基材の凹凸の影響を受けて、無機層[A]の表面粗さが大きくなる可能性があり、ガスバリア性が低下する場合がある。アンダーコート層の厚みが10μmより厚くなると、アンダーコート層の層内に残留する応力が大きくなることによって高分子基材が反り、無機層[A]にクラックが発生するため、ガスバリア性が低下する場合がある。従って、アンダーコート層の厚みは0.3〜10μmが好ましい。さらに、フレキシブル性を確保する観点から1〜3μmがより好ましい。
高分子基材の表面にアンダーコート層を形成する方法としては例えば上記のアンダーコート層の材料に溶剤、希釈剤等を加えて塗剤とした後、ロールコート、グラビアコート、ナイフコート、ディップコート、スプレーコート等の方法により高分子基材上にコーティングして塗膜を形成し、溶剤、希釈剤等を乾燥除去することによりアンダーコート層を形成することができる。塗膜の乾燥方法は、熱ロール接触法、熱媒(空気、オイルなど)接触法、赤外線加熱法、マイクロ波加熱法等が利用できる。中でも、本発明のアンダーコート層の厚みである0.3〜10μmの厚みの層を塗工するに好適な手法として、グラビアコート法が好ましい。
[その他の層]
本発明のガスバリア性フィルムの最表面の上には、ガスバリア性が低下しない範囲で耐擦傷性の向上を目的としたハードコート層を形成してもよいし、有機高分子化合物からなるフィルムをラミネートした積層構成としてもよい。なお、ここでいう最表面とは、高分子基材上に無機層[A]および層[B]が接するようにこの順に積層された後の、無機層[A]と接していない側の層[B]の表面をいう。
[電子デバイス]
本発明のガスバリア性フィルムは高いガスバリア性を有するため、様々な電子デバイスに用いることができる。例えば、太陽電池のバックシートやフレキシブル回路基板のような電子デバイスに好適に用いることができる。本発明のガスバリア性フィルムを用いた電子デバイスは、優れたガスバリア性を有するため、水蒸気等によるデバイスの性能低下を抑制することができる。
[その他の用途]
本発明のガスバリア性フィルムは高いガスバリア性を有するため、電子デバイス以外にも、食品や電子部品の包装用フィルム等として好適に用いることができる。
以下、本発明を実施例に基づき具体的に説明する。ただし、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
[評価方法]
まず、各実施例および比較例における評価方法を説明する。特に記載のない限り評価n数は水準当たり5検体とし、得られた5検体の測定値の平均値を測定結果とした。
(1)層の厚み
断面観察用サンプルをマイクロサンプリングシステム((株)日立製作所製 FB−2000A)を使用してFIB法により(具体的には「高分子表面加工学」(岩森暁著)p.118〜119に記載の方法に基づいて)作製した。透過型電子顕微鏡((株)日立製作所製 H−9000UHRII)により、加速電圧300kVとして、観察用サンプルの断面を観察し、各層の厚みを測定した。観察倍率は、観察画像の縦方向における層の厚みが占める割合が30〜70%となるように調整した。
(2)層の密度
各層の密度はX線反射率法(XRR法)を用いて評価を行った。すなわち、ガスバリア性フィルム30mm×40mmにサンプリングし、試料ホルダーに固定して以下の測定条件でX線反射率測定を行った。測定データにおいて、臨界角から密度値を、振動周期から膜厚値をそれぞれ見積もり、それらを初期値としてカーブフィッティングを行い、膜厚・密度の各パラメータを最適化することにより解析し、各領域の厚み、密度および構造密度指数を求めた。
測定条件は下記の通りとした。
・装置 :Rigaku製SmartLab
・解析ソフト :Rigaku製GrobalFit
・サンプルサイズ :30mm×40mm
・入射X線波長 :0.1541nm(CuKα1線)
・出力 :45kV、30mA
・入射スリットサイズ:0.05mm×5.0mm
・受光スリットサイズ:0.05mm×20.0mm
・測定範囲(θ) :0〜4.0°
・ステップ(θ) :0.002° 。
本発明における層[B]における無機層[A]側の密度および最表面側の密度はX線反射率法(XRR)により算出された値である。
具体的には、まずX線源からX線を発生させ、多層膜ミラーにて平行ビームにした後、入射スリットを通してX線角度を制限し、測定試料に入射させた。X線の試料への入射角度を、測定する試料表面とほぼ平行な浅い角度で入射させることによって、試料の各層、基材界面で反射、干渉したX線の反射ビームが発生した。発生した反射ビームを受光スリットに通して必要なX線角度に制限した後、ディテクタに入射させることでX線強度を測定した。本方法を用いて、X線の入射角度を連続的に変化させることによって、各入射角度におけるX線強度プロファイルを得た。
膜密度並びに膜厚の解析方法としては、得られたX線の入射角度に対するX線強度プロファイルの実測データをParrattの理論式に非線形最小二乗法でフィッティングさせることで求めた。フィッティングは、X線強度プロファイル(実測データ)における臨界角から密度を、振動周期から膜厚をそれぞれ見積もり、それらを初期値として設定し、設定した構成から求まるX線強度プロファイル(理論データ)を算出した。次いで、前記実測データと理論データとでカーブフィッティングを行い、残差の標準偏差が最小となるように密度並びに膜厚の各パラメータを算出した。ここで、カーブフィッティングは、層[B]が単層(層[B]中で密度の偏りがないと仮定)、2層(層[B]を密度により2層に分けることができると仮定)、3層(層[B]を密度により3層に分けることができると仮定)、以下同様に4層、5層・・・と仮定できるとして、この順にフィッティングしていくこととする(以下、仮定した層数を「積層数」という)。
フィッティングは上述のX線反射率測定装置により得られたX線強度プロファイル(実測データ)を解析ソフトウェアにより理論データとのフィッティングを行うが、当該ソフトウェアにより、実測データにより得られるX線強度プロファイルのグラフから、振動周期、振動振幅、ラフネスを解析し、X線強度プロファイルのグラフから得られる周期的な波形それぞれについて、特定の膜厚・密度を有する1つの層が対応すると仮定してフィッティングする。ここで、積層数をより多くしてフィッティングするほど実測データと理論データとは整合することになる(すなわち、残差の標準偏差がより小さくなる)が、本発明においては、単層、2層、3層・・・の順にフィッティングし、残差の標準偏差が3.0%以下となる最小の積層数にて、密度並びに膜厚の各パラメータを決定した。このとき、層[B]における最も無機層[A]側に存在する膜の密度を層[B]における無機層[A]側の密度とし、層[B]における最表面側に存在する膜の密度を層[B]における最表面側の密度とする。
なお、層の組成が異なること等により、層間の界面がSEM等により明確に観察される場合は、X線反射率法(XRR)の測定前に、それぞれ別の層としてカウントするものとする。
(3)X線光電子分光法(XPS法)
無機層[A]の組成分析は、X線光電子分光法(XPS法)により行った。無機層[A]形成後の高分子基材を試料として用いた。すなわち、アルゴンイオンを用いたスパッタエッチングにより、最表層を5nm程度エッチングして除去した後、各元素の含有比率を測定した。無機層[A]中における組成傾斜はないものとし、この測定点における組成比率を、無機層[A]の組成比率とした。亜鉛の原子濃度をケイ素の原子濃度で除した割合を求めた。無機層[C]の組成分析も同様に行った。
XPS法の測定条件は下記の通りとした。
・装置 :ESCA 5800(アルバックファイ社製)
・励起X線 :monochromatic AlKα
・X線出力 :300W
・X線径 :800μm
・光電子脱出角度 :45°
・Arイオンエッチング :2.0kV、10mPa。
(4)吸収微細X線構造
無機層[A]の亜鉛のK吸収端のX線吸収端近傍構造(XANES)スペクトルは吸収微細X線構造(XAFS)を用いて評価を行った。無機層[A]形成後の高分子基材を試料として用いた。すなわち、X線源よりX線を発生させ、モノクロメータにて単色化された後に集光ミラーにてX線を集光させた。X線パス上に試料をセットし、集光ミラーにて集光させたX線を試料に入射させ、試料透過前後のX線強度をイオンチャンバーにて計測した。本手法にて、X線のエネルギーを目的の吸収端を基準として、−500eV〜+1,200eVの範囲でX線エネルギーを走査し、試料透過前後のX線強度より吸光度を算出し、走査エネルギーに対して吸光度をプロットすることにより、X線吸収スペクトルを得た。
X線吸収スペクトルの解析はシカゴ大学作成のフリーソフトATHENA(バージョン:0.8.061)を用いて行った。得られたX線吸収スペクトルについて、−30eVと−300eVの2点を選択し、Victoreenの式で最小二乗近似し、吸収端より高エネルギー側に外挿することでバックグラウンド除去を行った。次に、150eVと1,000eVの2点を選択し、EXAFS振動成分の振動中心をスプライン関数で近似した曲線の強度が測定範囲のエネルギー領域で1になるように規格化を行い、EXAFS振動成分を抽出した。そして、得られたEXAFS振動成分に波数kの3乗の重み付けを行い、3〜12((オングストローム)−1)の範囲について有限フーリエ変換することにより、亜鉛原子周りの動径分布関数を得た。
測定条件は下記の通りとした。
・実験施設 :高エネルギー加速器研究機構 放射光科学研究施設(Photon Factory)
・実験ステーション :BL9A
・分光器 :Si(111)2結晶分光器
・ミラー :集光ミラー
・吸収端 :Zn K(9,660.7eV)吸収端
・検出法 :透過法
・使用検出器 :イオンチャンバー。
(5)フーリエ変換赤外分光法(FT−IR:Fourier Transform Infrared Spectroscopy)測定
無機層[A]のFT−IR測定はATR(Attenuated Total Refrection)法を用いて測定した。各水準で無機層[A]形成前後の高分子基剤をそれぞれ切り出し、ATR結晶に圧着し、それぞれn=2回ずつ測定を実施した。無機層[A]形成前後で得られたスペクトルの差スペクトルを取り、波数900〜1,100cm−1にあるピークを波数920cm−1と波数1,080cm−1とにピーク分離し、それぞれのスペクトルの面積強度を求めた。このとき、ベースラインとして波数650cm−1と波数1,400cm−1におけるスペクトル値の2点を結ぶ直線を設定し、ガウス関数を2つ設定し、ガウス関数の1つのピーク位置のみを波数1,080cm−1での固定値とし設定し計算を実施した。計算の結果、波数1,080cm−1にピークをもつスペクトルの面積強度(B)と、波数900〜940cm−1にピーク位置が計算されたものをZn−O−Si結合の吸収に由来する波数920cm−1のピークとし、そのスペクトルの面積強度(A)とをそれぞれ求めて比(A/B)をとった。n=2回の測定結果の平均値を測定結果とした。
測定条件は下記の通りとした。
・装置 :FTS−55a(Bio−RadDIGILAB社製)
・光源 :高輝度セラミック
・検知器 :MCT
・パージ :窒素ガス
・分解能 :4cm−1
・積算回数 :256回
・測定方法 :減衰全反射(Attenuated Total Refrection,ATR)法
・測定波長 :4,000〜600cm−1
・付属装置 :一回反射型ATR測定付属装置(Seagull,Harrick社製)
・ATR結晶 :Geプリズム
・入射角度 :70度
・解析ソフト :GRAMS AI ver8.0(Thermo Electoron Corporation社製)。
また、層[B]のSi−Hで表される結合を有する成分の有無の確認もフーリエ変換赤外分光法により行った。すなわち、ガスバリア性フィルムを10mm×10mmにサンプリングし、層[B]の表面をATR結晶に圧着して以下の測定条件で測定し、2,140〜2,260cm−1におけるSi−Hで表される結合に由来するピークの有無の確認を行った。ピークがある場合はSi−Hで表される結合を有する成分を含むと判断し、ピークがない場合はSi−Hで表される結合を有する成分を含まないと判断した。
・装置:FT/IR−6100
・光源:標準光源
・検出器:GTS
・分解能:4cm−1
・積算回数:256回
・測定方法:減衰全反射(ATR)法
・測定波数範囲:4,000〜600cm−1
・ATR結晶:Geプリズム、入射角:45° 。
(6)層[B]における炭素原子有無
炭素原子の有無の確認はX線光電子分光法(XPS)の深さ方向分析で元素分布を測定することにより行った。測定条件は下記の通りとした。
・装置:Quantera SXM(PHI社製)
・励起X線:monochromatic AlKα1,2
・X線径:100μm
・光電子脱出角度:45°
・イオンエッチング:5.6nm/min(SiOのエッチングレートで換算した値)
・rasterサイズ:2mm×2mm。
なお、本分析では、測定サンプル最表層に有機物からなる汚染物が吸着する影響で最初のプロットに炭素原子を検出する場合があるため、本発明においてXPSの深さ方向分析をする際には、最表層2nmを予めイオンエッチングして表面を洗浄した後に測定を開始した。
すなわち、層[B]の最表面から2nmの深さから、無機層[A]と層[B]との界面まで2nmずつ深さ方向に元素分析を行い、炭素原子のピークが見られた場合は炭素原子を含むと判断し、炭素原子のピークが見られなかった場合は炭素原子を実質的に含まないと判断した。
(7)原子濃度(atm%)
層[B]における水素、窒素、酸素、ケイ素の原子濃度は、ラザフォード後方散乱分析法(RBS)および水素前方散乱分析法(HFS)により深さ方向に測定を行い、その平均値を算出して、層[B]における各原子濃度とした。測定条件は下記の通りとした。
・装置:Pelletron 3SDH(National Electrostatics Corporation製)
・入射イオン:4He++
・入射エネルギー:2,300keV
・入射角:75deg(RBS/HFS同時)、0deg(RBS単独)
・散乱角:160deg
・反跳角:30deg(RBS/HFS同時)、無(RBS単独)
・試料電流:4nA
・ビーム径:2mmφ
・面内回転:無
・照射量:10.2μC(RBS/HFS同時)、13μC(RBS単独)。
(8)水蒸気透過度(g/(m・d))
特許第4407466号に記載のカルシウム腐食法により、温度40℃、相対湿度90%RHの雰囲気下での水蒸気透過度を測定した。具体的には、真空蒸着により、ガスバリア性フィルムの層[B]の無機層[A]面とは反対面に、厚さ100nmのカルシウム層を形成し、次いで、同じく真空蒸着により前記カルシウム層上に、カルシウム層全域を覆うように厚さ3,000nmのアルミニウム層を形成した。さらに、アルミニウム層形成後、前記アルミニウム層面に熱硬化性エポキシ樹脂を介して厚さ1mmのガラスを貼り合わせ、100℃で1時間処理し、評価サンプルを得た。得られたサンプルを、温度40℃、相対湿度90%RH、800時間処理し、前記処理後、水蒸気により腐食したカルシウムの量を算出することにより水蒸気の透過量を測定した。水蒸気透過度サンプル数は水準当たり2検体とし、測定回数は各検体について5回とし、得られた10点の平均値を水蒸気透過度(g/(m・d))とした。
(9)密着性
JIS K5600−5−6:1999に準拠し、層[B]に1mm×1mmの直角の格子パターン25マスの切り込みを入れ、密着性を評価した。評価結果を密着性良好なものから順に分類0から分類5までの6段階に分類した。
(10)耐屈曲性
ガスバリア性フィルムを100mm×140mmに1水準当たり2検体サンプリングし、このガスバリア性フィルムサンプル26において、図7に示すとおり、無機層[A]および層[B]が形成された面と反対面28側の中央部に直径5mmの金属円柱27を固定し、この円柱に沿って、円柱の抱き角0°(サンプルが平面の状態)から、円柱への抱き角が180°(円柱で折り返した状態)となる範囲で、100回折り曲げ動作を行った後、(7)に示す方法で水蒸気透過度評価を行った。測定回数は各検体について5回とし、得られた10点の平均値を耐屈曲性試験後の水蒸気透過度とした。
(実施例1)
[アンダーコート層の形成]
高分子基剤として、厚み125μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(東レ株式会社製“ルミラー”(登録商標)U48:両面に易接着層が施されている)を用い、該高分子基材上に、アンダーコート層形成用の塗液として、ウレタンアクリレート(中国塗料(株)製フォルシード420C)100質量部をトルエン70質量部で希釈した塗液Aを調製した。次いで、塗液Aを前記高分子基剤の片面にマイクログラビアコーター(グラビア線番200UR、グラビア回転比100%)で塗布、60℃で1分間乾燥後、紫外線を500mJ/cm照射、硬化させ、厚み1μmのアンダーコート層を設けた。
[無機層[A]の形成]
高分子基材にアンダーコート層を形成した側に、酸化亜鉛/二酸化ケイ素/酸化アルミニウムの質量比が77/20/3であるスパッタリングターゲットを用い、アルゴンガスおよび酸素ガスによるスパッタリングを実施し、無機層[A]を設けた(無機層[A]の厚み:150nmとした)。
具体的な操作は以下のとおりである。図2に示す構造の枚葉式のスパッタリング装置4を使用した。まず、プラズマ電極8上に酸化亜鉛、二酸化ケイ素、酸化アルミニウムを含有する混合物で、酸化亜鉛/二酸化ケイ素/酸化アルミニウムの組成質量比が77/20/3であるスパッタリングターゲットを設置した枚葉式スパッタリング装置4の基板ホルダ5にアンダーコート層を設けた前記高分子基材6をセットし、基板ホルダ5を20rpmにて回転を開始させた。次に、真空ポンプにより、枚葉式スパッタリング装置4内を減圧し、1.0×10−3Pa以下を得ると同時に、高分子基材6の表面温度が150℃となるようにIRヒーター7にて加熱を行った。次に、減圧度2.0×10−1Paとなるように酸素ガス分圧20atm%としてアルゴンガスおよび酸素ガスを導入した。前記高分子基材6が回転した際に、プラズマ電極8とIRヒーター7を交互に通過するようにプラズマ電極8とIRヒーター7を配置し、IRヒーター7にて加熱を行いながら、直流電源により投入電力1,500Wをプラズマ電極8に印加することにより、アルゴン・酸素ガスプラズマを発生させ、スパッタリングにより前記高分子基材6の表面上に無機層[A]を形成した。
[層[B]の形成]
層[B]形成用の塗液として、パーヒドロポリシラザンを主成分とするコート剤(メルクパフォーマンスマテリアルズ合同会社製「NN120−20」、固形分濃度20質量%)100質量部をジブチルエーテル150質量部、ジエチルエーテル150質量部で希釈した塗液1を調製し、塗液1を無機層[A1]上にマイクログラビアコーター(グラビア線番200UR、グラビア回転比100%)で塗布、120℃で3分間乾燥した。次いで、気温23℃、相対湿度44%で20分間加湿した。加湿後、下記条件Xにて紫外線処理を施し、さらに下記条件Yにて紫外線処理を施し、厚み150nmの層[B]を設けてガスバリア性フィルムを得た。
(条件X)
紫外線処理装置:CV−110QC−G(ヘレウス株式会社製)
ランプ型式:LH−10−10
バルブ:Hバルブ
導入ガス:N
酸素濃度:1,000ppm
積算光量:0.8J/cm
試料温調:22℃。
(条件Y)
紫外線処理装置:MEIRH−M−1−A4−H(エム・ディ・エキシマ社製)
ランプ型式:MEBF−400HQ
照射波長:172nm
導入ガス:N
酸素濃度:1,000ppm
積算光量:4.0J/cm
試料温調:120℃
得られたガスバリア性フィルムの評価結果を表1に示す。
(実施例2)
層[B]形成時、条件Yの紫外線照射積算光量を3.0J/cmに変更した以外は、実施例1と同様にしてガスバリア性フィルムを得た。
(実施例3)
層[B]形成時、条件Yの紫外線照射積算光量を1.5J/cmに変更した以外は、実施例1と同様にしてガスバリア性フィルムを得た。
(実施例4)
層[B]形成時、マイクログラビアコーターを変更(グラビア線番150UR、グラビア回転比100%)して層[B]の厚みを220nmとし、条件Yの紫外線照射積算光量を3.0J/cmに変更した以外は、実施例1と同様にしてガスバリア性フィルムを得た。
(実施例5)
条件Yの紫外線照射積算光量を2.0J/cmに変更した以外は、実施例4と同様にしてガスバリア性フィルムを得た。
(実施例6)
無機層[A]形成時、高分子基材6のスパッタリング前の表面温度を100℃とした以外は、実施例1と同様にしてガスバリア性フィルムを得た。
(実施例7)
無機層[A]形成時、高分子基材6のスパッタリング前の表面温度を180℃とした以外は、実施例1と同様にしてガスバリア性フィルムを得た。
(実施例8)
前記無機層[A]と前記層[B]との間に、ヘキサメチルジシロキサンを原料とした化学気相蒸着(CVD)を実施し、厚みが150nmとなるように無機層[C]を設けた以外は、実施例1と同様にしてガスバリア性フィルムを得た。
[無機層[C]の形成]
図4に示す構造のCVD装置の巻き取り室12の中で、巻き出しロール13に、表面上に無機層[A]を形成した高分子基材6をセットし、前記無機層[A]表面がCVD電極19に向くように、巻き出し、ガイドロール14,15,16を介して、クーリングドラム17に通した。次いで、真空度2×10−1Paとなるように酸素ガス0.5L/分とヘキサメチルジシロキサン70cc/分を導入し、高周波電源からCVD電極19に投入電力3000Wを印加することにより、プラズマを発生させ、CVDにより前記無機層[A]の表面上に無機層[C]を形成した後、ガイドロール20,21,22を介して巻き取りロール23に巻き取った。
(比較例1)
層[B]形成用の塗液として、パーヒドロポリシラザンを主成分としPd系触媒を含有するコート剤(メルクパフォーマンスマテリアルズ合同会社製「NL120−20」、固形分濃度20質量%)100質量部をジブチルエーテル300質量部で希釈した塗液2を用いて層[B]を形成し、前記ケイ素化合物総[B]を130℃で5分間乾燥し、乾燥後、下記条件にて処理を施した以外は、実施例1と同様にしてガスバリア性フィルムを得た。
処理温度:85℃
処理湿度:85%RH
処理時間:96時間。
(比較例2)
層[B]形成用の塗液として、パーヒドロポリシラザンを主成分としアミン系触媒を含有するコート剤(メルクパフォーマンスマテリアルズ合同会社製「NAX120−20」、固形分濃度20質量%)100質量部をジブチルエーテル300質量部で希釈した塗液3を用いて層[B]を形成し、前記ケイ素化合物総[B]を130℃で5分間乾燥し、乾燥後、下記条件にて処理を施した以外は、実施例1と同様にしてガスバリア性フィルムを得た。
処理温度:85℃
処理湿度:85%RH
処理時間:48時間。
(比較例3)
層[B]を設けない以外は、実施例1と同様にしてガスバリア性フィルムを得た。
Figure 2017065054
PET:ポリエチレンテレフタレート
XANESスペクトル:XANESスペクトルにおける9,664.0eVのスペクトル強度/9,668.0eVのスペクトル強度
動径分布関数:EXAFSの動径分布関数における0.28nmのスペクトル強度/0.155nmのスペクトル強度
XRR密度:X線反射率(XRR)法により求められた無機層[A]の密度
XPS密度:X線光電子分光(XPS)法により求められた組成比率から算出された理論密度
Figure 2017065054
1 高分子基材
2 無機層[A]
3 層[B]
4 枚葉式スパッタリング装置
5 基板ホルダ
6 高分子基材
7 IRヒーター
8 プラズマ電極
9 高分子基材
10 巻き取り式スパッタリング装置
11 巻き取り式CVD装置
12 巻き取り室
13 巻き出しロール
14、15、16 巻き出し側ガイドロール
17 クーリングドラム
18 スパッタ電極
19 CVD電極
20、21、22 巻き取り側ガイドロール
23 巻き取りロール
24 アンダーコート層
25 無機層[C]
26 ガスバリア性フィルムサンプル
27 金属円柱
28 無機層[A]および層[B]が形成された面と反対面

Claims (5)

  1. 高分子基材の少なくとも片側に、無機層[A]と層[B]とが高分子基材側からこの順に配置されたガスバリア性フィルムであって、前記無機層[A]が、以下の[A1]〜[A3]のいずれかを満たし、前記層[B]が、Si−Hで表される結合を有する成分を含み、かつ水素原子濃度が35〜55atm%であるガスバリア性フィルム。
    [A1]亜鉛のK吸収端のX線吸収端近傍構造(XANES)スペクトルについて、(9,664.0eVのスペクトル強度)/(9,668.0eVのスペクトル強度)の値が0.910〜1.000
    [A2]亜鉛の原子濃度をケイ素の原子濃度で除した割合が、0.1〜1.5であり、以下の式で表される構造密度指数が1.20〜1.40
    構造密度指数=(X線反射率(XRR)法により求められた無機層[A]の密度)/(X線光電子分光(XPS)法により求められた組成比率から算出された理論密度)
    [A3]FT−IR測定により測定される波数900〜1,100cm-1にあるピークを波数920cm−1と波数1,080cm−1とにピーク分離したとき、波数920cm−1にピークを持つスペクトルの面積強度(A)と波数1,080cm−1にピークを持つスペクトルの面積強度(B)との比(A/B)の値が1.0〜7.0
  2. 前記無機層[A]と前記層[B]との間に、二酸化ケイ素、炭化ケイ素、窒化ケイ素および酸窒化ケイ素からなる群より選ばれる少なくとも一つを含む無機層[C]が配置された請求項1に記載のガスバリア性フィルム。
  3. 前記層[B]における前記無機層[A]側の密度が1.3〜1.9g/cmであり、最表面側の密度が1.9〜2.3g/cmである請求項1または2に記載のガスバリア性フィルム。
  4. 前記無機層[A]中の、亜鉛のK吸収端のX線広域吸収近傍構造(EXAFS)スペクトルをフーリエ変換して得られる動径分布関数において、(0.280nmのスペクトル強度)/(0.155nmのスペクトル強度)の値が0.08〜0.20である請求項1〜3のいずれかに記載のガスバリア性フィルム。
  5. 請求項1〜4のいずれかに記載のガスバリア性フィルムを用いた電子デバイス。
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