JP5953921B2 - ガスバリア性フィルム - Google Patents

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Description

本発明は、高いガスバリア性が必要とされる食品、医薬品の包装用途や太陽電池、電子ペーパー、有機ELなどの電子部材用途に使用されるガスバリア性フィルムに関する。
高分子フィルム基材の表面に、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化マグネシウム等の無機物(無機酸化物を含む)を使用し、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等の物理気相成長法(PVD法)、あるいは、プラズマ化学気相成長法、熱化学気相成長法、光化学気相成長法等の化学気相成長法(CVD法)等を利用して、その無機物の蒸着膜を形成してなる透明ガスバリア性フィルムは、水蒸気や酸素などの各種ガスの遮断を必要とする食品や医薬品などの包装材および薄型テレビ、太陽電池などの電子デバイス部材として用いられている。
ガスバリア性向上技術としては、例えば、有機ケイ素化合物の蒸気と酸素を含有するガスを用いてプラズマCVD法により基材上に、ケイ素酸化物を主体とし、炭素、水素、ケイ素及び酸素を少なくとも1種類含有した化合物からなる層を形成することによって、透明性を維持しつつガスバリア性を向上させる方法が用いられている(特許文献1)。また、成膜方法以外のガスバリア性向上技術としては、基板上にエポキシ化合物である有機層とプラズマCVD法で形成されたケイ素系酸化物層を交互に積層させることで、膜応力によるクラック及び欠陥の発生を防止した多層積層構成のガスバリア性フィルムが用いられている(特許文献2)。
特開平8−142252号公報(特許請求の範囲) 特開2003−341003号公報(特許請求の範囲)
しかしながら、プラズマCVD法によりケイ素酸化物を主成分としたガスバリア性の層を形成する方法では、有機ELや電子ペーパー用途で必要とされる水蒸気透過率1×10−3g/m・24hr・atm以下の高いガスバリア性を得るためには層を厚くする必要がありそのような場合には、形成されたガスバリア性の層が非常に緻密かつ高硬度な層であるため、形成した層の応力により、ケイ素酸化物層にクラックが発生し、逆にガスバリア性が低下するという課題があった。
一方、有機層と無機層を交互に多層積層構成にしたガスバリア性の層を形成する方法では、水蒸気透過率1×10−3g/m・24hr・atm以下の高いガスバリア性を得るためには、数十層の多層積層が必要であり、層形成中にプラズマの輻射熱により高分子フィルム基材がダメージを受け、熱負けによる反りを発生し、後工程の加工で作業性が悪くなるなどの問題があった。
本発明は、かかる従来技術の背景に鑑み、厚みが薄くても高いガスバリア性が得られ、高温環境や屈曲に対してもガスバリア性が低下しない、高度なガスバリア性を有するガスバリア性フィルムを提供せんとするものである。
本発明は、かかる課題を解決するために、次のような手段を採用する。すなわち、
(1)高分子フィルム基材の少なくとも片側に厚みが25〜500nmの無機物層を有するガスバリアフィルムであって、前記無機物層は、該無機物層の全体の厚み範囲に8atom%以上含まれる元素の個々の元素の濃度に対して、該無機物層の前記高分子フィルム基材の側から10nmまでの厚み範囲に含まれる、対応する元素の濃度が、それぞれ0.87〜1.15倍の範囲にあり、前記無機物層の全体の厚み範囲における密度に対して、前記高分子フィルム基材の側から10nmまでの厚み範囲における密度が、0.95〜0.998倍であって、かつ前記無機物層が下記[A1]層であることを特徴とするガスバリア性フィルム。
[A1]層
酸化亜鉛−二酸化ケイ素−酸化アルミニウムの共存相からなる層であり、ICP発光分光分析法により測定される亜鉛(Zn)元素の濃度が20〜40atom%、ケイ素(Si)元素の濃度が10〜20atom%、アルミニウム(Al)元素の濃度が0.5〜5atom%、酸素(O)元素の濃度が35〜70atom%である。
また、以下を好ましい態様とする。
(2)前記無機物層の表面の平均表面粗さRaが0.5nm以下であること
(3)前記高分子フィルム基材と無機物層の間に無機物層と接して、無機物層との界面の平均表面粗さRaが0.5nm以下の架橋樹脂層を有すること
)前記無機物層の全体の厚み範囲における密度が3.0〜5.6g/cmであること
酸素ガス、水蒸気等に対する高いガスバリア性を有するガスバリア性フィルムを提供することができる。
本発明のガスバリア性フィルムの概略を示す断面図である。 本発明のガスバリア性フィルムを製造するための巻き取り式のスパッタリング・化学気相蒸着装置の概略を示す模式図である。
[ガスバリア性フィルム]
本発明のガスバリア性フィルムは、高分子フィルム基材の少なくとも片側に厚みが25〜500nmの無機物層を有するガスバリアフィルムであって、該無機物層の全体の厚み範囲に8atom%以上含まれる元素の個々の元素の濃度に対して、該無機物層の前記高分子フィルム基材の側から10nmまでの厚み範囲に含まれる、対応する元素の濃度が、それぞれ0.87〜1.15倍の範囲にあり、前記無機物層の全体の厚み範囲における密度に対して、前記高分子フィルム基材の側から10nmまでの厚み範囲における密度が、0.95〜0.998倍であって、かつ前記無機物層が[A1]層であるとしたところ、従来のガスバリアフィルムでは達成できない薄い無機物層の厚みにおいても高い酸素ガス、水蒸気等に対する遮断性を有するガスバリア性フィルムが得られることを見出したものである。ここで、元素の濃度とは、後述するICP発光分光分析法により特定される。無機物層の全体の厚み範囲に8atom%以上含まれる元素の個々の元素の濃度に対して、該無機物層の前記高分子フィルム基材の側から10nmまでの厚み範囲に含まれる、対応する元素の濃度が、それぞれ0.87〜1.15倍の範囲にあるとは、組成が無機物層の厚み方向の全体にわたって大きくは変動していないということを示している。前記元素の濃度の数値範囲の幅は、無機物層形成時における減圧度、プラズマ強度など、組成を均一に制御するには困難な因子が影響し、多少の組成の変動が生じるのが不可避であることを考慮したものである。また、[A1]層は、酸化亜鉛−二酸化ケイ素−酸化アルミニウムの共存相からなる層であり、ICP発光分光分析法により測定される亜鉛(Zn)元素の濃度が20〜40atom%、ケイ素(Si)元素の濃度が10〜20atom%、アルミニウム(Al)元素の濃度が0.5〜5atom%、酸素(O)元素の濃度が35〜70atom%である。
前記無機物層に含まれる元素の濃度が、前記関係を満たすものであり、前記無機物層の全体の厚み範囲における密度に対して、前記高分子フィルム基材の側から10nmまでの厚み範囲における密度が、0.95〜0.998倍であることの意味は、無機物層の高分子フィルム基材の側に極近い厚み範囲においても内部欠陥が少なく緻密化された構造であることを示しており、これにより前記無機物層が酸素ガス、水蒸気等に対する遮断性が高いものとなっているのである。かかる顕著な効果が得られる理由は、以下のように推測している。一般的な無機物層は、該無機物層の形成時に高分子フィルム基材の側から厚み10nm以下の範囲で層形成が起こる初期成長過程においては、外部からのガスや水分の影響を受けやすいため、無機物層の形成の最終段階(形成された無機物層の表層側)に比べて組成が不安定で、かつ空隙をもつ柱状構造となり、低密度の層領域が形成される。これに対して本発明のガスバリア性フィルムの無機物層は、高分子フィルム基材の側から厚み10nm以下の初期成長過程において、下地表面で無機物層を形成する粒子に外部から熱やプラズマなどでエネルギーを加えて、表面での拡散性を活性化させることで、無機物層の形成雰囲気中の水やガスの外部影響を受けにくくすることにより、不純物や未反応のガス分子の含有が少なく、かつ組成が安定して成長するため、結果として無機物層全体を高密度に形成することが可能となったものである。すなわち、従来のガスバリア性フィルムの無機物層に比べて初期成長段階で形成された層の領域においても密度が高く緻密な構造を有することから、飛躍的に酸素ガス、水蒸気等に対する遮断性が向上したものと推測している。
なお、本発明に用いられる無機物層は、該無機物層の全体の厚み範囲に8atom%以上含まれる元素の個々の元素の濃度に対して、該無機物層の前記高分子フィルム基材の側から10nmまでの厚み範囲に含まれる、対応する元素の濃度が、それぞれ0.87〜1.15倍の範囲にある。これは前述したように組成が無機物層の厚み方向の全体にわたって大きくは変動していないということを示しているのであるが、例えば、無機物層の高分子フィルム基材の側から10nmまでの厚み範囲とそれ以外とで組成が異なれば、前記無機物層の全体の厚み範囲における密度に対して、高分子フィルム基材の側から10nmの厚み範囲における密度が、0.95〜0.998倍であっても、緻密性が十分ではない構造となる場合があり、そのような場合には、所望の酸素ガス、水蒸気等に対する遮断性が得られ難いためである。すなわち、本発明における無機物層は、高分子フィルム基材の側から表面側まで構成する元素の組成は変動が少ないことが好ましく、無機物層の全体の厚み範囲に8atom%以上含まれる元素の個々の元素の濃度に対して、該無機物層の前記高分子フィルム基材の側から10nmまでの厚み範囲に含まれる、対応する元素の濃度が0.91〜1.1倍の範囲であることが好ましく、0.95〜1.05倍がより好ましい。
本発明において、無機物層の密度は(「X線反射率入門」(桜井健次編集)p.51〜78)により測定した値とする。
具体的には、以下の手順により行う。
(i)測定試料の透過型電子顕微鏡(以降、TEMと略記する)による断面観察により、対象となるサンプルの層構成を特定する。
(ii)(a)無機物からなる層が、1層の場合はその層を無機物層として、(b)無機物からなる層が2層以上確認された場合は、最も高分子フィルム基材側にある無機物からなる層を、無機物層として以下のX線反射率法による測定を実施する。
(X線反射率法による無機物層の密度測定)
X線反射率法による無機物層の密度測定の方法は、まず測定試料を試料台の上に配置し、X線源からX線を発生させ、多層膜ミラーにて平行ビームにした後、入射スリットを通してX線角度を制限し、測定試料に入射させる。X線の試料への入射角度を測定する試料表面とほぼ平行な浅い角度で入射させることによって、試料の無機物層、高分子フィルム基材界面で反射、干渉したX線の反射ビームが発生する。発生した反射ビームを受光スリットに通して必要なX線角度に制限した後、ディテクタに入射させることでX線強度を測定する。本方法を用いて、X線の入射角度を連続的に変化させて測定を行うことによって、各入射角度におけるX線強度プロファイルを得ることができる。
無機物層全体の密度の解析方法としては、得られたX線の入射角度に対するX線強度プロファイルの実測データをParrattの理論式に非線形最小二乗法でフィッティングさせることで求められる。フィッティングは、無機物層の厚み及び密度の各パラメータに対して任意の初期値を設定し、設定した構成から求まるX線強度プロファイルと実測データの残差の標準偏差が最小となるように各パラメータを変更していき最終的なパラメータを決定する方法をいう。本発明においては、残差の標準偏差が最小となるまでフィッティングし、無機物層の厚み及び密度の各パラメータを決定する。フィッティングに際して用いる各パラメータの初期値として、無機物層の厚みは、測定試料のTEM断面観察から得られる値を使用し、無機物層の全体の密度は、上記(i)〜(ii)のTEM断面観察で特定した無機物層について、厚みが2分の1となる位置でXPS分析またはICP発光分光分析などの組成分析法により得られる元素比率から求められる値を使用する。なお、初期値において、X線強度プロファイルと実測データの残差の標準偏差が3.0%以下である場合は、それ以上のフィティングは行う必要はない。なお、本願の実施例においてはX線反射測定に用いた装置(Rigaku製SmartLab)の解析ソフトであるRigaku製Grobal Fitによりフィッティングを行っている。
高分子フィルム基材の側から10nmまでの厚み範囲における無機物層の密度の分析方法としては、まず無機物層表層からプラズマエッチング、薬液エッチングなどで処理し、無機物層を高分子フィルム基材の側から10nmまでの厚みとする。次に上述した無機物層全体の密度の分析方法、解析方法を適用することで高分子フィルム基材の側から10nmまでの厚み範囲における無機物層の密度を特定することが可能である。
[高分子フィルム基材]
本発明に用いられる高分子フィルム基材としては、有機高分子化合物からなるフィルムであれば特に限定されず、例えば、ポリエチレンあるいはポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレートあるいはポリエチレンナフタレート等のポリエステル、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリビニルアルコール、エチレン酢酸ビニル共重合体のケン化物、ポリアクリロニトリル、ポリアセタール等の各種ポリマーからなるフィルムなどを用いることができる。これらの中でも、ポリエチレンテレフタレートからなるフィルムであることが好ましい。高分子フィルム基材を構成するポリマーは、ホモポリマー、コポリマーのいずれでもよいし、また、単独のポリマーであってもよいし複数のポリマーをブレンドして用いてもよい。
また、高分子フィルム基材として、単層フィルム、あるいは、2層以上の、例えば、共押し出し法で製膜したフィルムや、一軸方向あるいは二軸方向に延伸されたフィルム等を用いてもよい。無機物層を形成する側の高分子フィルム基材の表面には、密着性を良くするために、コロナ処理、イオンボンバード処理、溶剤処理、粗面化処理、および、有機物または無機物あるいはそれらの混合物で構成されるアンカーコート層の形成処理、といった前処理が施されていても構わない。また、無機物層を形成する側の反対面には、フィルムの巻き取り時の滑り性の向上および、無機物層を形成した後にフィルムを巻き取る際に無機物層との摩擦を軽減することを目的として、有機物や無機物あるいはこれらの混合物のコーティング層が施されていても構わない。
本発明に用いられる高分子フィルム基材の厚さは特に限定されないが、柔軟性を確保する観点から500μm以下が好ましく、200μm以下がより好ましい。引張りや衝撃に対する強度を確保する観点から5μm以上が好ましく、10μm以上がより好ましい。また、フィルムの加工やハンドリングの容易性から10μm〜200μmがさらに好ましい。
[無機物層]
次に、高分子フィルム基材の上に配置される無機物層について詳細を説明する。本発明に用いられる無機物層の材質としては、例えば、Zn、Si、Al、Ti、Zr、Sn、In、Nb、Mo、Taからなる群より選ばれる1種以上の元素を含む酸化物、窒化物、酸窒化物、硫化物、または、それらの混合物等が挙げられる。高いガスバリア性や柔軟性の層が得られることから、亜鉛の酸化物、窒化物、酸窒化物、あるいは硫化物を主成分とした亜鉛化合物が好ましく用いられる。ここで、主成分とは無機物層全体の60質量%以上であることを意味し、80質量%以上であれば好ましい(以降、主成分についてはこれと同様とする)。なお、前記の主成分となる化合物は、後述するX線光電子分光法(XPS法)、ICP発光分光分析、ラザフォード後方散乱法等により成分を特定される。そして、前記化合物を構成する各元素の組成比は、無機物層を形成する際の条件に依存して、量論比から若干のずれた組成比となる場合もあるが、組成比が整数で表される組成式を有する化合物として扱う。(以下同じ)
無機物層として、亜鉛化合物とケイ素化合物の混合物からなる無機物層が高い酸素ガス、水蒸気等に対する遮断性が得られることから好ましく用いられる。かかる混合物からなる無機物層の具体例としては、酸化亜鉛−二酸化ケイ素−酸化アルミニウムの共存相からなる層(以降[A1]層と略記する)または硫化亜鉛と二酸化ケイ素の共存相からなる層(以降[A2]層と略記する)(参考例)が好適に用いられる。(なお、[A1]層と[A2]層のそれぞれの詳細説明は後述する。)
本発明に用いられる無機物層の厚みは、25nm以上であり、50nm以上が好ましい。無機物層の厚みが25nmより薄くなると、ガスバリア性が十分に確保できにくい箇所が発生し、高分子フィルム基材の面内でガスバリア性がばらつくなどの問題が生じる場合がある。また、本発明に用いられる無機物層の厚みは、500nm以下であり、300nm以下がより好ましい。無機物層の厚みが500nmより厚くなると、無機物層の形成後に層内に残留する応力が大きくなるため、曲げや外部からの衝撃によって無機物層にクラックが発生しやすくなり、使用に伴いガスバリア性が低下する場合がある。
X線反射率法により測定される無機物層の密度は、3.0〜5.6g/cmの範囲であることが好ましい。無機物層の密度が、3.0g/cmより小さくなると、無機物層を形成する無機化合物の粒子サイズが大きくなるため、空隙部分や欠陥部分が相対的ではあるが増加し、安定して十分なガスバリア性が得られなくなる場合がある。無機物層の密度が5.6g/cmより大きくなると、無機物層を形成する無機化合物の粒子サイズが小さくなり、過剰に緻密となるため、熱や外部からの応力に対してクラックが生じやすくなる傾向がある。従って、無機物層の密度は、3.0〜5.6g/cmの範囲であることが好ましく、3.5〜4.5g/cmの範囲がより好ましい。
本発明において無機物層の平均表面粗さRaは、0.5nm以下であることが好ましい。平均表面粗さが0.5nmより大きくなると、無機物層表面の粒子間に隙間ができるため、密度が低下し、酸素ガス、水蒸気等に対する遮断性が低下する場合がある。従って、無機物層の平均表面粗さRaは、0.5nm以下であることが好ましく、さらに好ましくは、0.3nm以下である。
本発明において無機物層の平均表面粗さRaは、原子間力顕微鏡を用いて測定することができる。なお、無機物層表面に樹脂層が積層されている場合には、X線反射率法(「X線反射率入門」(桜井健次編集)p.51〜78)を用いて無機物層の平均表面粗さRaを得ることとする。
無機物層を形成する方法は特に限定されず、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、CVD法等によって形成することができるが、無機物層を形成する条件としては、高分子フィルム基材の側から厚み10nm以下の初期成長過程において、均質かつ緻密で密度が高く形成されるようにするために、無機物層を形成する面をあらかじめ無機物層を形成する粒子が表面拡散しやすい平滑な面に形成したり、無機物層を形成する際に無機物層を形成する粒子を活性化させるエネルギーを高く設定したりすることが好ましい。具体的には、高分子フィルム基材の表面を平滑な面にする方法として、高分子フィルム基材上に架橋樹脂層を形成する方法が好ましい。また、活性化させるエネルギーを使用する方法としては、高分子フィルム基材の表面を酸素ガスや炭酸ガスなどの反応性ガスのプラズマやイオンビームで処理しながら、上述した成膜法で無機物層を形成するプラズマアシスト蒸着法、プラズマアシストスパッタ法、イオンビームアシスト蒸着法、イオンビームアシストスパッタ法、イオンビームアシストイオンプレーティング法、イオンビームアシストCVD法などの方法が好ましい。これらの方法の中でも、本発明に用いられる無機物層の形成方法としては、厚み10nm以下の初期成長過程において、密度の高い無機物層が形成でき、飛躍的に酸素ガス、水蒸気等に対する遮断性を向上させることができることから、高分子フィルム基板上に平均表面粗さRaが0.5nm以下の架橋樹脂層を形成し、架橋樹脂層の表面を酸素ガスのプラズマでアシストしながら薄膜を形成するプラズマアシストスパッタ法を適用することがより好ましい。
[架橋樹脂層]
高分子フィルム基材と無機物層の間に無機物層と接して、無機物層との界面の平均表面粗さRaが0.5nm以下の架橋樹脂層を有することが好ましい。架橋樹脂層とは、架橋点間の構造式に基づく分子量が20000以下である樹脂(以降、架橋樹脂と略記する)の層であり、本発明において架橋樹脂層に適用できる架橋樹脂の例としては、アクリル系、ウレタン系、有機シリケート系の重合体、シリコーン系の重合体などが挙げられる。架橋樹脂層の平均表面粗さRaは0.5nmより大きいと、無機物層の高分子フィルム基材の側から厚み10nm以下の範囲の初期成長過程において、架橋樹脂層表面の凹凸が気相成長時の無機化合物粒子の表面拡散の妨げとなることから、無機物層の高分子フィルム基材の側から厚み10nm以下の範囲が不均質で空隙が大きい密度の低い状態となる場合がある。従って、架橋樹脂層表面で、気相成長時の無機化合物粒子の表面拡散を妨げず、均質で緻密な密度の高い構造の無機物層を形成できる観点から、架橋樹脂層の平均表面粗さRaは0.5nm以下が好ましく、0.3nm以下がより好ましい。
本発明に用いる架橋樹脂層の厚みは、0.5μm以上、10μm以下が好ましい。層の厚みが0.5μmより薄くなると、高分子基材の凹凸の影響を受けて、無機物層が均一になり難いため、ガスバリア性が低下する場合がある。層の厚みが10μmより厚くなると、架橋樹脂層の層内に残留する応力が大きくなることによって高分子フィルム基材が反り、無機物層にクラックが発生するため、ガスバリア性が低下する場合がある。従って、架橋樹脂層の厚みは0.5μm以上、10μm以下が好ましく、フレキシブル性を確保する観点から1μm以上、5μm以下がより好ましい。架橋樹脂層の厚みは、透過型電子顕微鏡(TEM)による断面観察画像から、測定することが可能である。
架橋樹脂層を形成する樹脂からなる塗液の塗布手段としては、例えば、リバースコート法、グラビアコート法、ロッドコート法、バーコート法、ダイコート法、スプレーコート法などを用いることができる。中でも、本発明における好ましい架橋樹脂層の厚みである0.5μm以上、10μm以下の塗工に好適な手法として、グラビアコート法が好ましい。
架橋樹脂層を架橋させる際に用いられる活性線としては、紫外線、電子線、放射線(α線、β線、γ線)などがあり、実用上簡便な方法として、紫外線が好ましい。また、熱により架橋させる場合に用いられる熱源としては、スチームヒーター、電気ヒーター、赤外線ヒーターなどがあり、温度制御の安定性の観点から赤外線ヒーターが好ましい。
[酸化亜鉛−二酸化ケイ素−酸化アルミニウムの共存相からなる層]
次に、本発明における亜鉛化合物とケイ素化合物の混合物からなる層として好適に用いられる酸化亜鉛−二酸化ケイ素−酸化アルミニウムの共存相からなる層([A1]層)について詳細を説明する。なお、「酸化亜鉛−二酸化ケイ素−酸化アルミニウムの共存相」を「ZnO−SiO−Al」と略記することもある。また、二酸化ケイ素(SiO)は、生成時の条件によって、左記組成式のケイ素と酸素の組成比率から若干ずれたもの(SiO〜SiO)が生成することがあるが、本明細書においては二酸化ケイ素あるいはSiOと表記し、その組成として扱うこととする。かかる組成比の化学式からのずれに関しては、酸化亜鉛、酸化アルミニウムについても同様の扱いとし、それぞれ、本明細書においては、生成時の条件に依存する組成比のずれに関わらず、酸化亜鉛またはZnO、酸化アルミニウムまたはAlと表記し、それらの組成として扱うこととする。
本発明のガスバリア性フィルムにおいて[A1]層を適用することによりガスバリア性が良好となる理由は、酸化亜鉛−二酸化ケイ素−酸化アルミニウムの共存相においては酸化亜鉛に含まれる結晶質成分と二酸化ケイ素の非晶質成分とを共存させることによって、微結晶を生成しやすい酸化亜鉛の結晶成長が抑制され粒子径が小さくなるため層が緻密化し、酸素および水蒸気の透過が抑制されるためと推測している。
また、酸化アルミニウムを共存させることによって、酸化亜鉛と二酸化ケイ素を共存させる場合に比べて、より結晶成長を抑制することができるため、クラックの生成に起因するガスバリア性低下が抑制できたものと考えられる。
[A1]層の組成は、後述するようにICP発光分光分析法により測定することができる。ICP発光分光分析法により測定されるZn元素の濃度は20〜40atom%、Si元素の濃度は10〜20atom%、Al元素の濃度は0.5〜5atom%、O元素の濃度は35〜70atom%であることが、好ましい。Zn元素の濃度が40atom%より大きくなる、またはSi元素の濃度が10atom%より小さくなると、酸化亜鉛の結晶成長を抑制する酸化物が不足するため、空隙部分や欠陥部分が増加し、十分なガスバリア性が得られない場合がある。Zn元素の濃度が20atom%より小さくなる、またはSi元素の濃度が20atom%より大きくなると、層内部の二酸化ケイ素の非晶質成分が増加して層の柔軟性が低下する場合がある。また、Al元素の濃度が5atom%より大きくなると、酸化亜鉛と二酸化ケイ素の親和性が過剰に高くなるため、熱や外部からの応力に対してクラックが生じやすくなる場合がある。Al元素の濃度が0.5atom%より小さくなると、酸化亜鉛と二酸化ケイ素の親和性が不十分となり、層を形成する粒子間の結合力が向上できにくいため、柔軟性が低下する場合がある。また、O元素の濃度が70atom%より大きくなると、[A1]層内の欠陥量が増加するため、所定のガスバリア性が得られない場合がある。O元素の濃度が35atom%より小さくなると、亜鉛、ケイ素、アルミニウムの酸化状態が不十分となり、結晶成長が抑制できず粒子径が大きくなるため、ガスバリア性が低下する場合がある。かかる観点から、Zn元素の濃度が25〜35atom%、Si元素の濃度が10〜15atom%、Al元素の濃度が1〜3atom%、O元素の濃度が50〜64atom%であることがより好ましい。
[A1]層に含まれる成分は酸化亜鉛および二酸化ケイ素および酸化アルミニウムが上記組成の範囲でかつ主成分であれば特に限定されず、例えば、Al、Ti、Zr、Sn、In、Nb、Mo、Ta、Pd等から形成された金属酸化物を含んでも構わない。
[A1]層の組成は、層の形成時に使用した混合焼結材料と同等の組成で形成されるため、目的とする層の組成に合わせた組成の混合焼結材料を使用することで[A1]層の組成を調整することが可能である。
[A1]層の組成分析は、ICP発光分光分析法を適用して、亜鉛、ケイ素、アルミニウムの各元素を定量分析し、酸化亜鉛と二酸化ケイ素、酸化アルミニウムおよび含有する無機酸化物の組成比を知ることができる。なお、酸素原子は亜鉛原子、ケイ素原子、アルミニウム原子が、それぞれ酸化亜鉛(ZnO)、二酸化ケイ素(SiO)、酸化アルミニウム(Al)として存在すると仮定して算出する。ICP発光分光分析は、試料をアルゴンガスとともにプラズマ光源部に導入した際に発生する発光スペクトルから、多元素の同時計測が可能な分析手法であり、組成分析に適用することができる。[A]層上に無機層や樹脂層が積層されている場合、X線反射率法により求めた厚さ分をイオンエッチングや薬液処理により除去した後、ICP発光分光分析することができる。
高分子フィルム基材の上(または高分子フィルム基材の上に設けられた層上)に[A1]層を形成する方法は特に限定されず、酸化亜鉛と二酸化ケイ素と酸化アルミニウムの混合焼結材料を使用して、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等によって形成することができる。酸化亜鉛と二酸化ケイ素と酸化アルミニウムの単体材料を使用する場合は、酸化亜鉛と二酸化ケイ素と酸化アルミニウムをそれぞれ別の蒸着源またはスパッタ電極から同時に蒸着し、所望の組成となるように混合させて形成することができる。これらの方法の中でも、本発明に使用する[A1]層の形成方法は、ガスバリア性と形成した層の組成再現性の観点から、混合焼結材料を使用したスパッタリング法がより好ましい。
[硫化亜鉛と二酸化ケイ素の共存相からなる層]
次に、本発明における亜鉛化合物とケイ素化合物の混合物からなる層として参考例として用いられる硫化亜鉛と二酸化ケイ素の共存相からなる層([A2]層)について詳細を説明する。なお、「硫化亜鉛−二酸化ケイ素共存相」を、「ZnS−SiO」と略記することもある。また、二酸化ケイ素(SiO)は、その生成時の条件によって、左記組成式のケイ素と酸素の組成比率から若干ずれたもの(SiO〜SiO)が生成することがあるが、本明細書においては二酸化ケイ素あるいはSiOと表記し、その組成として扱うこととすることは、[A1]層と同様であり、かかる組成比の化学式からのずれに関しては、硫化亜鉛についても同様の扱いとし、本明細書においては、生成時の条件に依存する組成比のずれに関わらず、硫化亜鉛またはZnSと表記し、その組成として扱うこととする。(以下同じ)
本発明のガスバリア性フィルムにおいて[A2]層を適用することによりガスバリア性が良好となる理由は、硫化亜鉛−二酸化ケイ素共存相においては硫化亜鉛に含まれる結晶質成分と二酸化ケイ素の非晶質成分とを共存させることによって、微結晶を生成しやすい硫化亜鉛の結晶成長が抑制され粒子径が小さくなるため層が緻密化し、酸素および水蒸気の透過が抑制されるためと推測している。また、結晶成長が抑制された硫化亜鉛を含む硫化亜鉛−二酸化ケイ素共存相は、無機酸化物または金属酸化物だけで形成された層よりも柔軟性が優れるため、熱や外部からの応力に対してクラックが生じにくいため、かかる[A2]層を適用することによりクラックの生成に起因するガスバリア性低下が抑制できたものと考えられる。
[A2]層の組成は、硫化亜鉛と二酸化ケイ素の合計に対する硫化亜鉛のモル分率が0.7〜0.9であることが好ましい。硫化亜鉛と二酸化ケイ素の合計に対する硫化亜鉛のモル分率が0.9より大きくなると、硫化亜鉛の結晶成長を抑制する酸化物が不足するため、空隙部分や欠陥部分が増加し、所定のガスバリア性が得られない場合がある。また、硫化亜鉛と二酸化ケイ素の合計に対する硫化亜鉛のモル分率が0.7より小さくなると、[A2]層内部の二酸化ケイ素の非晶質成分が増加して層の柔軟性が低下するため、機械的な曲げに対するガスバリア性フィルムの柔軟性が低下する場合がある。さらに好ましくは0.75〜0.85の範囲である。
[A2]層に含まれる成分は硫化亜鉛および二酸化ケイ素が上記組成の範囲でかつ主成分であれば特に限定されず、例えば、Al、Ti、Zr、Sn、In、Nb、Mo、Ta、Pd等の金属酸化物を含んでも構わない。
[A2]層の組成は、層の形成時に使用した混合焼結材料と同等の組成で形成されるため、目的に合わせた組成の混合焼結材料を使用することで[A2]層の組成を調整することが可能である。
[A2]層の組成分析は、ICP発光分光分析によりまず亜鉛及びケイ素の組成比を求め、この値を基にラザフォード後方散乱法を適用して、各元素を定量分析し硫化亜鉛と二酸化ケイ素および含有する他の無機酸化物の組成比を知ることができる。ICP発光分光分析は、試料をアルゴンガスとともにプラズマ光源部に導入した際に発生する発光スペクトルから、多元素の同時計測が可能な分析手法であり、組成分析に適用することができる。また、ラザフォード後方散乱法は高電圧で加速させた荷電粒子を試料に照射し、そこから跳ね返る荷電粒子の数、エネルギーから元素の特定、定量を行い、各元素の組成比を知ることができる。なお、[A2]層は硫化物と酸化物の複合層であるため、硫黄と酸素の組成比分析が可能なラザフォード後方散乱法による分析を実施する。[A2]層上に無機層や樹脂層が積層されている場合、X線反射率法により求めた厚さ分をイオンエッチングや薬液処理により除去した後、ICP発光分光分析及び、ラザフォード後方散乱法にて分析することができる。
高分子フィルム基材の上(または高分子フィルム基材の上に設けられた層上)に[A2]層を形成する方法は特に限定されず、硫化亜鉛と二酸化ケイ素の混合焼結材料を使用して、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等によって形成することができる。硫化亜鉛と二酸化ケイ素の単体材料を使用する場合は、硫化亜鉛と二酸化ケイ素をそれぞれ別の蒸着源またはスパッタ電極から同時に成膜し、所望の組成となるように混合させて形成することができる。これらの方法の中でも、本発明に用いられる[A2]層の形成方法は、ガスバリア性と形成した層の組成再現性の観点から、混合焼結材料を使用したスパッタリング法がより好ましい。
以下、本発明を実施例に基づき、具体的に説明する。ただし、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
[評価方法]
まず、各実施例および比較例における評価方法を説明する。評価n数は、特に断らない限り、n=5とし平均値を求めた。
(1)無機物層の厚み(t0)、および、無機物層の密度(全体の厚み範囲(d1)、および高分子フィルム基材の側から10nmまでの厚み範囲(d2))
(1−1)TEMによる断面観察
断面観察用サンプルをマイクロサンプリングシステム(日立製FB−2000A)を使用してFIB法により(具体的には「高分子表面加工学」(岩森暁著)p.118〜119に記載の方法に基づいて)作製した。透過型電子顕微鏡(日立製H−9000UHRII)により、加速電圧300kVとして、観察用サンプルの断面を観察し、サンプルの層構成を特定し、無機物層の厚み(t0)を測定した。
(1−2)X線反射率法による無機物層の密度の測定
X線反射率法により、無機物層の全体の厚み範囲における密度(d1)は以下の手順にて測定を行った。高分子フィルム基材の上に形成された無機物層を、斜方向からX線を照射し、入射X線強度に対する全反射X線強度の無機物層表面への入射角度依存性を測定することにより、得られた反射波のX線強度プロファイルを得た。次いで(1−1)の断面観察により特定した層のデータ、および、(4)及び(5)の評価により得た組成(元素濃度)情報から計算される密度を初期値として、本文に記載したX線強度プロファイルのフィッティング方法を用いて無機物層全体の厚み範囲における密度を測定した。
高分子フィルム基材の側(架橋樹脂層の表面)から10nmまでの厚み範囲における密度(d2)は、Arガスプラズマを用いて高分子フィルム基材の側(架橋樹脂層の表面)から無機物層が厚み10nmとなるまでエッチングした後、上述したX線反射率法を適用することにより測定した。(この場合において、「無機物層の全体の厚み範囲」は、「高分子フィルム基材の側から10nmまでの厚み範囲」と読み替えるものとする)
測定条件は下記の通りとした。
・装置:Rigaku製SmartLab
・解析ソフト:Rigaku製Grobal Fit
・測定範囲(試料表面とのなす角):0〜8.0°、0.01°ステップ
・入射スリットサイズ:0.05mm×10.0mm
・受光スリットサイズ:0.15mm×20.0mm。
(2)平均表面粗さ(Ra)
原子間力顕微鏡を用いて、以下の条件で測定した。
システム:NanoScopeIII/MMAFM(デジタルインスツルメンツ社製)
スキャナ:AS−130(J−Scanner)
プローブ:NCH−W型、単結晶シリコン(ナノワールド社製)
走査モ−ド:タッピングモ−ド
走査範囲:1μm×1μm
走査速度:0.5Hz
測定環境:温度23℃、相対湿度65%、大気中。
(3)水蒸気透過率
温度40℃、湿度90%RH、測定面積50cmの条件で、英国、テクノロックス(Technolox)社製の水蒸気透過率測定装置(機種名:DELTAPERM(登録商標))を使用して測定した。サンプル数は水準当たり2検体とし、測定回数は同一サンプルについて各10回とし、その平均値を水蒸気透過率(g/m・24h・atm)とした。
(4)[A1]層の組成
後述する[A1]層の組成分析はICP発光分光分析(エスアイアイ・ナノテクノロジー社製、SPS4000)により行った。試料を、硝酸および硫酸で加熱分解し、希硝酸で加温溶解してろ別した。不溶解分は加熱灰化したのち、炭酸ナトリウムで融解し、希硝酸で溶解して、先のろ液とあわせて定容とした。この溶液について、亜鉛原子、ケイ素原子、アルミニウム原子の含有量を測定し、元素比率に換算した。なお、酸素原子は亜鉛原子、ケイ素原子、アルミニウム原子が、それぞれ酸化亜鉛(ZnO)、二酸化ケイ素(SiO)、酸化アルミニウム(Al)として存在すると仮定して求めた計算値とした。
(5)[A2]層の組成
後述する[A2]層の組成分析はICP発光分光分析(エスアイアイ・ナノテクノロジー社製、SPS4000)およびラザフォード後方散乱法(日新ハイボルテージ(株)製AN−2500)により行った。試料を、硝酸および硫酸で加熱分解し、希硝酸で加温溶解してろ別した。不溶解分は加熱灰化したのち、炭酸ナトリウムで融解し、希硝酸で溶解して、先のろ液とあわせて定容とした。この溶液について、亜鉛原子、ケイ素原子の含有量をICP発光分光分析により測定した。次に、この値をもとにさらにラザフォード後方散乱法により各元素を定量分析し硫化亜鉛と二酸化ケイ素の元素比率を求めた。
[[A1][A2]層の形成]
([A1]層)
図2に示す構造の巻き取り式のスパッタリング装置を使用し、酸化亜鉛と二酸化ケイ素と酸化アルミニウムで形成された混合焼結材であるスパッタターゲットをスパッタ電極11に設置してアルゴンガスおよび酸素ガスによるスパッタリングを実施し、高分子フィルム基材3のスパッタ電極11側の面(架橋樹脂層が形成されている場合は架橋樹脂層の形成された面、または、架橋樹脂層を形成していない場合には高分子フィルム基材の面)の上に[A1]層を設けた。
具体的な操作は以下のとおりである。まず、スパッタ電極11に酸化亜鉛/二酸化ケイ素/酸化アルミニウムの組成質量比が77/20/3で焼結されたスパッタターゲットを設置した巻き取り式スパッタ装置4の巻き取り室5の中で、巻き出しロール6に前記高分子フィルム基材3を[A1]層を設ける側の面がスパッタ電極11に対向するようにセットし、巻き出し、ガイドロール7,8,9を介して、クーリングドラム10に通した。減圧度2×10−1Paとなるように酸素ガス分圧10%としてアルゴンガスおよび酸素ガスを導入し、直流電源により投入電力2000Wを印加することにより、アルゴン・酸素ガスプラズマを発生させ、さらにプラズマアシスト電極12に酸素ガス0.5L/minを投入し、直流電流により投入電力1000wを印加することにより、前記高分子フィルム基材3の表面上をプラズマで処理しながらスパッタリングし、前記高分子フィルム基材3のスパッタ電極11側の面上に[A1]層を形成した。厚みは、フィルム搬送速度により調整した。その後、ガイドロール13,14,15を介して巻き取りロール16に巻き取った。
([A2]層)
図2に示す構造の巻き取り式のスパッタリング装置を使用し、硫化亜鉛および二酸化ケイ素で形成された混合焼結材であるスパッタターゲットをスパッタ電極11に設置してアルゴンガスプラズマによるスパッタリングを実施し、高分子フィルム基材3のスパッタ電極11側の面(架橋樹脂層が形成されている場合は架橋樹脂層の形成された面、または、架橋樹脂層を形成していない場合には高分子フィルム基材の面)の上に、[A2]層を設けた。
具体的な操作は以下のとおりである。まず、スパッタ電極11に硫化亜鉛/二酸化ケイ素のモル組成比が80/20で焼結されたスパッタターゲットを設置した巻き取り式スパッタ装置4の巻き取り室5の中で、巻き出しロール6に前記高分子フィルム基材3をセットし、巻き出し、ガイドロール7,8,9を介して、クーリングドラム10に通した。減圧度2×10−1Paとなるようにアルゴンガスを導入し、高周波電源により投入電力500Wを印加することにより、アルゴンガスプラズマを発生させ、さらにプラズマアシスト電極に酸素ガス0.5L/minを投入し、直流電流により投入電力1000wを印加することにより、前記高分子フィルム基材3の表面上をプラズマで処理しながらスパッタリングし、前記高分子フィルム基材3のスパッタ電極11側の面上に[A2]層を形成した。厚みは、フィルム搬送速度により調整した。その後、ガイドロール13,14,15を介して巻き取りロール16に巻き取った。
(実施例1)
高分子フィルム基材として厚み100μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(東レ株式会社製“ルミラー(登録商標)”U48)を使用した。
架橋樹脂層を形成するための塗工液として、ポリエステルアクリレート(日本化薬(株)製FOP−1740)100質量部にシリコーンオイル(東レ・ダウコーニング(株)製SH190)0.2質量部を添加し、トルエン50質量部、MEK50質量部で希釈した塗工液を調製し、該塗工液をマイクログラビアコーター(グラビア線番200UR、グラビア回転比100%)で塗布、60℃で1分間乾燥後、紫外線を1.0J/cm照射、架橋させ、厚み5μmの架橋樹脂層を設けた。
架橋樹脂層を形成したフィルムから縦100mm、横100mmの試験片を切り出し、架橋樹脂層の平均表面粗さRaを測定した。結果を表1に示す。
次に、架橋樹脂層上に[A1]層を厚みが50nmとなるよう形成し、ガスバリア性フィルムを得た。無機物層の全体の厚み範囲における密度(d1)および高分子フィルム基材の側(架橋樹脂層の表面)から10nmまでの厚み範囲における密度(d2)を測定し、(d2/d1)を計算した。また、無機物層の全体の厚み範囲における各元素の元素濃度(X1)(Xは元素記号を示すものとする:以下同じ)および高分子フィルム基材の側(架橋樹脂層の表面)から10nmまでの厚み範囲における各元素の元素濃度(X2)を測定し、各元素ごとに(X2/X1)を計算した。次に、得られたガスバリア性フィルムを縦100mm、横140mmの試験片を切り出し、水蒸気透過率の評価を実施した。結果を表1に示す。
参考例1
無機物層を[A2]層に替えた以外は、実施例1と同様にしてガスバリア性フィルムを得た。結果を表1に示す。なお、表1中の実施例2は参考例1を示す。
(実施例3)
プラズマアシスト電極に直流電流により投入電力200wを印加した以外は、実施例1と同様にしてガスバリア性フィルムを得た。
参考例2
無機物層を[A2]層に替えた以外は、実施例3と同様にしてガスバリア性フィルムを得た。結果を表1に示す。なお、表1中の実施例4は参考例2を示す。
(実施例5)
プラズマアシスト電極を使用しない以外は、実施例1と同様にしてガスバリア性フィルムを得た。
(実施例6)
[A1]層を厚みが200nmとなるよう形成した以外は、実施例1と同様にしてガスバリア性フィルムを得た。
(実施例7)
[A1]層を厚みが450nmとなるよう形成した以外は、実施例1と同様にしてガスバリア性フィルムを得た。
(比較例1)
[A1]層を厚みが15nmとなるよう形成した以外は、実施例1と同様にしてガスバリア性フィルムを得た。
(比較例2)
[A1]層に代えて[A2]層を厚みが15nmとなるよう形成した以外は、実施例1と同様にしてガスバリア性フィルムを得た。
(比較例3)
架橋樹脂層を設けず、プラズマアシスト電極を使用しない以外は、実施例1と同様にしてガスバリア性フィルムを得た。
(比較例4)
プラズマアシスト電極の直流電源の投入電力を1000Wから200Wに下げて印加した以外は、実施例1と同様にしてガスバリア性フィルムを得た。
(比較例5)
無機物層を[A2]層に替え、高周波電源の投入電力を100Wに下げて印加した以外は、実施例1と同様にしてガスバリア性フィルムを得た。
(比較例6)
[A1]層を厚みが650nmとなるよう形成した以外は、実施例1と同様にしてガスバリア性フィルムを得た。
本発明のガスバリア性フィルムは、酸素ガス、水蒸気等に対する高いガスバリア性、透明性、耐熱性に優れているので、例えば、食品、医薬品などの包装材および薄型テレビ、太陽電池などの電子デバイス部材として有用なに用いることができるが、用途がこれらに限定されるものではない。
Figure 0005953921
1 高分子フィルム基材
2 無機物層
3 高分子フィルム基材
4 スパッタ装置
5 巻き取り室
6 巻き出しロール
7、8、9 巻き出し側ガイドロール
10 クーリングドラム
11 スパッタ電極
12 プラズマアシスト電極
13、14、15 巻き取り側ガイドロール
16 巻き取りロール

Claims (4)

  1. 高分子フィルム基材の少なくとも片側に厚みが25〜500nmの無機物層を有するガスバリアフィルムであって、前記無機物層は、該無機物層の全体の厚み範囲に8atom%以上含まれる元素の個々の元素の濃度に対して、該無機物層の前記高分子フィルム基材の側から10nmまでの厚み範囲に含まれる、対応する元素の濃度が、それぞれ0.87〜1.15倍の範囲にあり、前記無機物層の全体の厚み範囲における密度に対して、前記高分子フィルム基材の側から10nmまでの厚み範囲における密度が、0.95〜0.998倍であって、かつ前記無機物層が下記[A1]層であることを特徴とするガスバリア性フィルム。
    [A1]層
    酸化亜鉛−二酸化ケイ素−酸化アルミニウムの共存相からなる層であり、ICP発光分光分析法により測定される亜鉛(Zn)元素の濃度が20〜40atom%、ケイ素(Si)元素の濃度が10〜20atom%、アルミニウム(Al)元素の濃度が0.5〜5atom%、酸素(O)元素の濃度が35〜70atom%である。
  2. 前記無機物層の表面の平均表面粗さRaが0.5nm以下である請求項1に記載のガスバリア性フィルム。
  3. 前記高分子フィルム基材と無機物層の間に無機物層と接して、無機物層との界面の平均表面粗さRaが0.5nm以下の架橋樹脂層を有する請求項1または2に記載のガスバリア性フィルム。
  4. 前記無機物層の全体の厚み範囲における密度が3.0〜5.6g/cmである請求項1〜のいずれかに記載のガスバリア性フィルム。
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