[積層体]
本発明の積層体は、基材の少なくとも片面に、第1層と第2層とを基材側からこの順に有し、該第1層が亜鉛、ケイ素および酸素を含み、該第2層がスズ、ケイ素、アルミニウム、ジルコニウムおよびチタンからなる群より選ばれる少なくとも2種の元素と酸素とを含み、原子間力顕微鏡(以下AFM)により算出される第2層表面の算術平均粗さRaが0.9nm以下である積層体である。
第1層に含まれる亜鉛は、酸化亜鉛、硫化亜鉛、窒化亜鉛、それらの混合物等が用いられることが好ましく、ガスバリア性の観点から酸化亜鉛および/または硫化亜鉛がより好ましい。光学特性の観点から、酸化亜鉛がさらに好ましい。
第1層を具備することで単層かつ薄膜構成でも高いガスバリア性を発現できるため、積層体の構成においても高度なガスバリア性を発現できる。
第1層に含まれるケイ素の形態は、酸化物、窒化物、酸化窒化物、炭化物などに限定されないが、ガスバリア性などの観点から、酸化物、窒化物、酸化窒化物として存在することが好ましい。非晶質膜を形成することやガスバリア性の観点から、酸化物、窒化物、酸化窒化物および炭化物からなる群より選ばれる少なくとも1つのケイ素化合物として含有されていることがより好ましい。第1層に亜鉛、ケイ素および酸素を含んでいれば、その他の無機化合物が含まれていても構わない。
第2層には、スズ、ケイ素、アルミニウム、ジルコニウムおよびチタンからなる群より選ばれる少なくとも2種の元素と酸素とを含む。少なくとも2種の組み合わせとしては特に限定されないが、ガスバリア性の観点よりスズとケイ素、ケイ素とアルミニウム、ケイ素とジルコニウムの組み合わせで含まれていることが好ましく、耐薬品性の観点よりスズとケイ素、スズとジルコニウムの組み合わせで含まれていることがより好ましい。また、それらの形態として、酸化物、窒化物、酸化窒化物、炭化物などに限定されないが、ガスバリア性などの観点から、酸化物、窒化物、酸化窒化物として存在することが好ましい。上述のとおり、第2層には、スズ、ケイ素、アルミニウム、ジルコニウムおよびチタンからなる群より選ばれる少なくとも2種の元素と酸素とを含んでいれば、上記以外の無機化合物が含まれていても構わない。
第2層を具備することで、第1層の欠陥を埋めることによりガスバリア性を補完し、さらに、AFMにより算出される第2層表面の算術平均粗さRa(以下、単にRaと記載することもある)が0.9nm以下であることで緻密な膜が形成され、薬品が浸透しにくくなるため耐薬品性を付与することができる。Raが0.9nmより大きくなると、第2層が疎になるため薬品が第2層を浸透し第1層に到達しやすくなり、第1層より膜が溶解または剥離する場合がある。耐薬品性や耐擦傷性の観点より、Raは0.7nm以下であることが好ましい。算術平均粗さRaを算出する際のAFMの分析範囲は1μm×1μmとする。
本発明において、第1層と第2層とを基材側からこの順に有することが好ましい。第1層は亜鉛、ケイ素および酸素を含むことで緻密膜を形成することができるため、薄膜(10nm程度~数100nm程度)でも高いガスバリア性を発現できる。亜鉛およびケイ素の形態としては特に限定されないが、緻密膜を形成する観点より複合酸化物(Zn2SiO4)の状態で存在することが好ましい。第1層上に第2層を形成し、第1層の欠陥を埋めることにより、ガスバリア性を補完し、さらに耐薬品性、耐擦傷性を付与することができるため好ましい。第1層と第2層を入れ替えた場合には、所望のガスバリア性及び耐薬品性、耐擦傷性が得られない場合がある。
第1層と第2層とを基材側からこの順に有していれば、基材と第1層との間や第2層上などに他の層が存在していても構わない。例えば、基材を平滑化するために基材と第1層との間にアンカーコート層を設けることが挙げられる。また、さらなる耐薬品性や耐擦傷性を付与するために第2層上にウェットコート層やドライコート層を設けることが挙げられる。
また、第1層と第2層との間に他の層が存在していてもよい。例えば、第1層/他の層/第2層や第1層/第1層/第2層、第1層/第2層/第2層などの構成が挙げられるが、第1層上に第2層を形成することで第1層の欠陥を埋めることができることから、第1層と第2層とが接している構成であることが好ましい。
なお、第1層と第2層いずれの成分も含む層(例えば、亜鉛、ケイ素および酸素を含み、かつスズ、ケイ素、アルミニウム、ジルコニウムおよびチタンからなる群より選ばれる少なくとも2種の元素を含むような層)が存在すれば、当該層に関しては以下の通り第1層か第2層か判断することとする。
まず、最も基材側に存在する第1層と第2層いずれの成分も含む層について、当該層より基材側に第1層と判断される層が存在すれば、当該層は第2層と判断することとする。このとき、当該層より表層側にさらに第1層と第2層いずれの成分も含む層が存在すれば、それらの層はすべて第2層と判断することとする。
一方、最も基材側に存在する第1層と第2層いずれの成分も含む層について、当該層より基材側に第1層と判断される層が存在しなければ、当該層は第1層と判断することとする。このとき、当該層より表層側にさらに第1層と第2層いずれの成分も含む層が存在すれば、それらの層はすべて第2層と判断することとする。
なお、最も基材側に存在する層が第1層と第2層いずれの成分も含む層である場合(すなわち、基材と該層との間に他の層が存在しない場合)、当該層は第1層と判断することとする。このとき、当該層より表層側にさらに第1層と第2層いずれの成分も含む層が存在すれば、それらの層はすべて第2層と判断することとする。
AFMにより算出される第2層表面の最大高さRz(以下、単にRzと記載することもある)は1.8nm以下であることが好ましく、その結果、緻密な膜が形成され、薬品が浸透しにくくなるため耐薬品性を付与することができる。Rzが1.8nmより大きくなると、第2層が疎になるため薬品が第2層を浸透して第1層に到達しやすくなり、第1層より膜が溶解または剥離する場合がある。耐薬品性や耐擦傷性の観点より、Rzは1.5nm以下であることがより好ましい。さらに好ましくは1.2nm以下である。
第1層の膜密度は、2.0~7.0g/cm3であることが好ましい。2.0g/cm3より小さいと、得られた第1層は緻密でなく、十分なガスバリア性が得られない場合がある。一方、第1層の膜密度が7.0g/cm3より大きいと第1層が硬くなりやすく、第1層が、クラックが入りやすくなったり割れやすくなったりする場合がある。ガスバリア性や割れやすさの観点より、第1層の膜密度は2.5~5.5g/cm3であることがより好ましい。
第2層の膜密度は2.5~7.0g/cm3の範囲であることが好ましい。第2層の膜密度が2.5g/cm3より小さくなると、第2層の緻密性が低下し、十分なガスバリア性が得られない、または耐薬品性や耐擦傷性が不十分になる場合がある。膜密度が7.0g/cm3より大きくなると、過剰に緻密になることからクラックが入りやすくなる場合がある。ゆえに第2層の膜密度は2.5~7.0g/cm3の範囲であることが好ましく、3.0~6.0g/cm3の範囲であることがより好ましい。
本発明において、第2層の膜密度はX線反射率法(XRR法)(「X線反射率入門」(桜井健次編集)p.51~78)により測定する値である。具体的には、まずX線源からX線を発生させ、多層膜ミラーにて平行ビームにした後、入射スリットを通してX線角度を制限し、測定試料に入射させる。X線の試料への入射角度を測定する試料表面とほぼ平行な浅い角度で入射させることによって、試料の各層、基材界面で反射、干渉したX線の反射ビームが発生する。発生した反射ビームを受光スリットに通して必要なX線角度に制限した後、ディテクタに入射させることでX線強度を測定する。本方法を用いて、X線の入射角度を連続的に変化させることによって、各入射角度における全反射X線強度プロファイルを得ることができる。
各層の膜密度の解析方法としては、得られたX線の入射角度に対する全反射X線強度プロファイルの実測データをParrattの理論式に非線形最小二乗法でフィッティングさせることで求められる(「X線反射率入門」(桜井健次編集)p.81~141参照)。具体的な解析方法は実施例の項で述べる。
第1層及び第2層の形成方法は特に限定されず、スパッタリング法、真空蒸着法、イオンプレーティング法、CVD法、原子層堆積(ALD)などの形成機構が用いられる。これらの方法の中でも、安価、簡便かつ所望の性質を得られる手法として、スパッタリング法が好ましい。また、スパッタリング法は枚葉式、ロールツーロールなどの成膜様式いずれでもよい。図3にはロールツーロール装置の一例を示す。
第2層を形成する際には、表層側を緻密化させることによって耐薬品性を持たせるために、基材表面側から加熱することが好ましい。基材表面側より加熱を行うことにより、第2層をより効果的に緻密化することができ、第2層表面の平滑化が可能となる。
基材表面側から加熱する手法としては、例えばランプヒーターにより加熱する手法が挙げられる。加熱する手法としては、基材を表面側から加熱することができればランプヒーターに限らないが、粒子の表面拡散性を効果的に向上させることができる観点より、ランプヒーターが好ましい。
本発明で用いられるランプヒーターは、0.8~2.5μmにピーク波長をもつ赤外(IR)ヒーターであることが好ましい。0.8~2.5μmにピーク波長をもつ赤外ヒーターとは、投入電力の85%以上が赤外線に変換され、900~2,800℃程度の発熱体から放射する光を利用するヒーターである。0.8μmより小さなピーク波長をもつヒーターであると、照射エネルギーが強く、基材表面にダメージを与える場合がある。一方、2.5μmよりも大きなピーク波長をもつヒーターであると照射エネルギーが小さく、効率的に基材が加熱されない等の場合がある。加熱効率等の観点より、ピーク波長が0.8~1.8μmのランプヒーターであることがより好ましい。
本発明で用いられるランプヒーターは、赤外ヒーターの中でもハロゲンランプヒーターやセラミックヒーター、石英管ヒーター、カーボンヒーター等を用いることができる。ハロゲンランプヒーターは、近赤外領域にピーク波長を有する光源であり、電気エネルギーを熱エネルギーに変換し、固体の温度を上げて、その温度に相当する放射を利用する熱放射光源である。真空チャンバー内で使用可能、照射エネルギーの立ち上がり、立ち下がりが速い、パーティクルの発生が少ない等の観点よりハロゲンランプヒーターを用いることが好ましい。また、0.8~2.5μmにピーク波長を持つハロゲンランプヒーターであることがより好ましい。
本発明で用いられるランプヒーターは成膜室内に以下のいずれかを満たす形で配置されることが好ましい。
(i)第2層の形成機構の巻き取り側にランプヒーター(A)を有する
(ii)第2層の形成機構の巻き出し側にランプヒーター(B)を有する
(iii)第2層の形成機構の巻き取り側にランプヒーター(A)および第2層の形成機構の巻き出し側にランプヒーター(B)を有する
第2層の表層側を効率的に加熱する観点より、ランプヒーターの配置は(i)もしくは(iii)であることがより好ましい。
また、ランプヒーターは任意に照射角度を変更することが可能である。図4において、スパッタ電極13の基準面から、ランプヒーター(A)18に関しては0°≦ΘA≦90°の角度で照射角度可変であることが好ましい。ΘAはランプヒーター(A)の照射角度を表し、スパッタ電極13の最表面を0°(基準面)とし、図4中の矢印方向に照射角度可変とするものである。
第2層の形成機構の巻き取り側に照射角度可変の有するランプヒーター(A)を備えることで、表層側を緻密化することが容易となるため好ましい。巻き取り側のランプヒーター(A)の照射角度は0°≦ΘB≦60°であることがより好ましい。
第2層の形成機構の巻き出し側に照射角度可変のランプヒーターを備えることで、第2層形成初期の膜組成等の膜構造を制御することが可能となるため好ましい。第2層形成初期の膜組成等の膜構造を効果的に制御するという観点より、巻き出し側のランプヒーターの照射角度は0°≦ΘA≦45°であることがより好ましい。
ランプヒーターに備え付けられているリフレクターは、平行光型リフレクター、集光型リフレクター、パラボラ型リフレクターなどが一般的なものとして考えられるが、基材が熱負けしにくく加熱できるものであればどのようなタイプのものでも構わない。大きさの限られた成膜室内でフィルム基材表面を効率的かつ均一に加熱するには、指向性の低い平行光型リフレクターやパラボラ型リフレクターを用いることが好ましい。
第1層の組成比率はX線光電子分光法(XPS法)により測定することができる。スパッタエッチングにより第2層を除去した後、各元素の含有比率を測定する。第1層の厚みが1/2となる位置まで、表層側からアルゴンイオンエッチングにより層を除去して各元素の含有比率を測定する。
第1層が亜鉛、ケイ素、アルミニウムおよび酸素を含み、X線光電子分光により測定される亜鉛(Zn)原子濃度が3~37atm%、ケイ素(Si)原子濃度が5~20atm%、アルミニウム(Al)原子濃度が1~7atm%、酸素(O)原子濃度が50~70atm%の範囲にあることが好ましい。亜鉛原子濃度が3atm%よりも少ない、またはケイ素原子濃度が20atm%よりも多いと、第1層を柔軟性の高い性質にする亜鉛原子の割合が少なくなるため、積層体の柔軟性が低下する場合がある。亜鉛原子濃度が37atm%よりも多い、またはケイ素原子濃度が5atm%よりも少ないと、ケイ素原子の割合が少なくなることで第1層は結晶層になりやすく、クラックが入りやすくなる場合がある。アルミニウム原子濃度が1atm%よりも少ないと、亜鉛及びケイ素と酸素や各原子間の親和性が損なわれるため、第1層には空隙や欠陥が生じやすくなる場合がある。また、アルミニウム原子濃度が7atm%よりも多いと、亜鉛及びケイ素と酸素や各原子間の親和性が過剰に高くなるため、熱や外部からの応力に対してクラックが生じやすくなる場合がある。酸素原子濃度が50atm%よりも少ないと、亜鉛、ケイ素、アルミニウムは酸化不足となり、光線透過率が低下する場合がある。また、酸素原子濃度が70atm%よりも多いと、酸素が過剰に取り込まれるため、空隙や欠陥が増加し、ガスバリア性が低下する場合がある。
本発明における第1層の厚みは、透過型電子顕微鏡(TEM)及びX線反射率法(XRR法)による評価で得ることができる。第1層の厚みは5nm以上が好ましく、10nm以上がより好ましい。厚みが5nmよりも薄いと層として形成されない領域が発生し、十分にガスバリア性が確保できない場合がある。また、第1層の厚みは300nm以下が好ましく、200nm以下がより好ましい。第1層の厚みが300nmよりも厚いとクラックが入りやすくなったり耐屈曲性が低下したりする場合がある。
第2層の組成比率は第1層同様にXPS法により測定することができる。層の厚みが1/2となる位置まで、表層からアルゴンイオンエッチングにより層を除去して各元素の含有比率を測定する。
第2層がスズ、ケイ素および酸素を含み、かつXPS法により測定されるスズ(Sn)原子濃度が10~30atm%、ケイ素(Si)原子濃度が10~30atm%、酸素(O)原子濃度が50~75atm%の範囲であることが好ましい。スズ原子濃度が10atm%よりも少ない、またはケイ素原子濃度が30atm%よりも多いと、所望の耐薬品性が得られない場合がある。また、スズ原子濃度が30atm%よりも多い、またはケイ素原子濃度が10atm%よりも少ないと、所望のガスバリア性が発現しない、光学特性が低下する、等の問題が生じる場合がある。
本発明における第2層の厚みは、透過型電子顕微鏡(TEM)及びX線反射率法(XRR法)による評価で得ることができる。第2層の厚みは10nm以上が好ましく、20nm以上がより好ましい。厚みが10nmよりも薄いと層として形成されない領域が発生し、十分にガスバリア性が確保できない場合や耐擦傷性、耐薬品性が得られない場合がある。また、第2層の厚みは200nm以下が好ましく、100nm以下がより好ましい。第2層の厚みが200nmよりも厚いとクラックが入りやすくなったり耐屈曲性や光学特性が低下したりする場合がある。
[基材]
本発明に用いられる基材は、柔軟性を確保する観点からフィルム形態を有することが好ましい。フィルムの構成としては、単層フィルム、または2層以上の、例えば、共押し出し法で製膜したフィルムであってもよい。フィルムの種類としては、無延伸、一軸延伸あるいは二軸延伸フィルム等を使用してもよい。
本発明に用いられる基材の素材は特に限定されないが、有機高分子を主たる構成成分とするものであることが好ましい。本発明に好適に用いることができる有機高分子としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等の結晶性ポリオレフィン、環状構造を有する非晶性環状ポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリビニルアルコール、エチレン酢酸ビニル共重合体のケン化物、ポリアクリロニトリル、ポリアセタール等の各種ポリマーなどを挙げることができる。これらの中でも、透明性や汎用性、機械特性に優れた非晶性環状ポリオレフィンまたはポリエチレンテレフタレートを含むことが好ましい。また、前記有機高分子は、単独重合体、共重合体のいずれでもよいし、有機高分子として1種類のみを用いてもよいし、複数種類をブレンドして用いてもよい。
基材の第1層を形成する側の表面には、密着性や平滑性を良くするためにコロナ処理、プラズマ処理、紫外線処理、イオンボンバード処理、溶剤処理、有機物もしくは無機物またはそれらの混合物で構成されるアンカーコート層の形成処理、等の前処理が施されていてもよい。また、第1層を形成する側の反対側には、基材の巻き取り時の滑り性の向上や基材の耐擦傷性を目的として、有機物や無機物あるいはこれらの混合物のコーティング層が積層されていてもよい。
本発明に使用する基材の厚みは特に限定されないが、柔軟性を確保する観点から500μm以下が好ましく、引張りや衝撃に対する強度を確保する観点から5μm以上が好ましい。さらに、フィルムの加工やハンドリングの容易性から基材の厚みは10μm以上、200μm以下がより好ましい。
[アンカーコート層]
本発明の積層体には、前記基材と前記第1層との間にアンカーコート層を設けることが好ましい。さらに、前記基材と前記第1層との間に芳香族環構造を有するポリウレタン化合物を架橋して得られる構造を含むアンカーコート層を設けることがより好ましい。基材上に突起や傷などの欠点が存在する場合、前記欠点を起点に基材上に積層する第1層にもピンホールやクラックが発生してガスバリア性や耐屈曲性が損なわれる場合があるため、アンカーコート層を設けることが好ましい。また、基材と第1層との熱寸法安定性差が大きい場合もガスバリア性や屈曲性が低下する場合があるため、アンカーコート層を設けることが好ましい。また、本発明に用いられるアンカーコート層は、熱寸法安定性、耐屈曲性の観点から芳香族環構造を有するポリウレタン化合物を含有することが好ましく、さらに、エチレン性不飽和化合物、光重合開始剤、有機ケイ素化合物および/または無機ケイ素化合物を含有することがより好ましい。
本発明に用いられる芳香族環構造を有するポリウレタン化合物は、主鎖あるいは側鎖に芳香族環およびウレタン結合を有するものであり、例えば、分子内に水酸基と芳香族環とを有するエポキシ(メタ)アクリレート、ジオール化合物、ジイソシアネート化合物とを重合させて得ることができる。
分子内に水酸基と芳香族環とを有するエポキシ(メタ)アクリレートとしては、ビスフェノールA型、水添ビスフェノールA型、ビスフェノールF型、水添ビスフェノールF型、レゾルシン、ヒドロキノン等の芳香族グリコールのジエポキシ化合物と(メタ)アクリル酸誘導体とを反応させて得ることができる。
ジオール化合物としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,7-ヘプタンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール、2,4-ジメチル-2-エチルヘキサン-1,3-ジオール、ネオペンチルグリコール、2-エチル-2-ブチル-1,3-プロパンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、1,2-シクロヘキサンジメタノール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、2,2,4,4-テトラメチル-1,3-シクロブタンジオール、4,4’-チオジフェノール、ビスフェノールA、4,4’-メチレンジフェノール、4,4’-(2-ノルボルニリデン)ジフェノール、4,4’-ジヒドロキシビフェノール、o-,m-,及びp-ジヒドロキシベンゼン、4,4’-イソプロピリデンフェノール、4,4’-イソプロピリデンビンジオール、シクロペンタン-1,2-ジオール、シクロヘキサン-1,2-ジオール、シクロヘキサン-1,4-ジオール、ビスフェノールAなどを用いることができる。これらは1種を単独で、又は2種以上を併用して用いることができる。
ジイソシアネート化合物としては、例えば、1,3-フェニレンジイソシアネート、1,4-フェニレンジイソシアネート、2,4-トリレンジイソシアネート、2,6-トリレンジイソシアネート、2,4-ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4-ジフェニルメタンジイソシアネート等の芳香族系ジイソシアネート、エチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、リジントリイソシアネート等の脂肪族系ジイソシアネート化合物、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン-4,4-ジイソシアネート、メチルシクロヘキシレンジイソシアネート等の脂環族系イソシアネート化合物、キシレンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート等の芳香脂肪族系イソシアネート化合物等が挙げられる。これらは1種を単独で、又は2種以上を併用して用いることができる。
前記分子内に水酸基と芳香族環とを有するエポキシ(メタ)アクリレート、ジオール化合物、ジイソシアネート化合物の成分比率は所望の重量平均分子量になる範囲であれば特に限定されない。本発明における芳香族環構造を有するポリウレタン化合物の重量平均分子量(Mw)は、5,000~100,000であることが好ましい。重量平均分子量(Mw)が5,000~100,000であれば、得られる硬化皮膜の熱寸法安定性、耐屈曲性が優れるため好ましい。なお、本発明における重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法を用いて測定され標準ポリスチレンで換算された値である。
エチレン性不飽和化合物としては、例えば、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート等のジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等の多官能(メタ)アクリレート、ビスフェノールA型エポキシジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールF型エポキシジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールS型エポキシジ(メタ)アクリレート等のエポキシアクリレート等を挙げられる。これらの中でも、熱寸法安定性、表面保護性能に優れた多官能(メタ)アクリレートが好ましい。また、これらは単一の組成で用いてもよいし、二成分以上を混合して使用してもよい。
エチレン性不飽和化合物の含有量は特に限定されないが、熱寸法安定性、表面保護性能の観点から、芳香族環構造を有するポリウレタン化合物との合計量100質量%中、5~90質量%の範囲であることが好ましく、10~80質量%の範囲であることがより好ましい。
光重合開始剤としては、本発明の積層体のガスバリア性および耐屈曲性を保持することができれば素材は特に限定されない。本発明に好適に用いることができる光重合開始剤としては、例えば、2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン、1-ヒドロキシ-シクロヘキシルフェニルーケトン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-プロパン-1-オン、1-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-フェニル]-2-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロパン-1-オン、2-ヒロドキシ-1-{4-[4-(2-ヒドロキシ-2-メチル-プロピオニル)-ベンジル]フェニル}-2-メチル-プロパン-1-オン、フェニルグリオキシリックアシッドメチルエステル、2-メチル-1-(4-メチルチオフェニル)-2-モルホリノプロパン-1-オン、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルホリノフェニル)-ブタノン-1、2-(ジメチルアミノ)-2-[(4-メチルフェニル)メチル]-1-[4-(4-モルホリニル)フェニル]-1-ブタノン等のアルキルフェノン系光重合開始剤、2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-ホスフィンオキシド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルホスフィンオキシド等のアシルホスフィンオキシド系光重合開始剤、ビス(η5-2,4-シクロペンタジエン-1-イル)-ビス(2,6-ジフルオロ-3-(1H-ピロール-1-イル)-フェニル)チタニウム等のチタノセン系光重合開始剤、1,2-オクタンジオン,1-[4-(フェニルチオ)-,2-(0-ベンゾイルオキシム)]等オキシムエステル構造を持つ光重合開始剤等が挙げられる。
これらの中でも、硬化性、表面保護性能の観点から、1-ヒドロキシ-シクロヘキシルフェニルーケトン、2-メチル-1-(4-メチルチオフェニル)-2-モルホリノプロパン-1-オン、2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-ホスフィンオキシド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルホスフィンオキシドから選ばれる光重合開始剤が好ましい。また、これらは単一の組成で用いてもよいし、二成分以上を混合して使用してもよい。
光重合開始剤の含有量は特に限定されないが、硬化性、表面保護性能の観点から、重合性成分の合計量100質量%中、0.01~10質量%の範囲であることが好ましく、0.1~5質量%の範囲であることがより好ましい。
有機ケイ素化合物としては、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。
これらの中でも、硬化性、活性エネルギー線照射による重合活性の観点から、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシランおよびビニルトリエトキシシランからなる群より選ばれる少なくとも1つの有機ケイ素化合物が好ましい。また、これらは単一の組成で用いてもよいし、二成分以上を混合して使用してもよい。
有機ケイ素化合物の含有量は特に限定されないが、硬化性、表面保護性能の観点から、重合性成分の合計量100質量%中、0.01~10質量%の範囲であることが好ましく、0.1~5質量%の範囲であることがより好ましい。
無機ケイ素化合物としては、表面保護性能、透明性の観点からシリカ粒子が好ましく、さらにシリカ粒子の一次粒子径が1~300nmの範囲であることが好ましく、5~80nmの範囲であることがより好ましい。なお、ここでいう一次粒子径とは、ガス吸着法により求めた比表面積sを下記の式(1)に適用することで求められる粒子直径dを指す。
d=6/ρs ・・・ (1)
ρ:密度。
アンカーコート層の厚みは、200nm以上、4,000nm以下が好ましく、300nm以上、2,000nm以下がより好ましく、500nm以上、1,000nm以下がさらに好ましい。アンカーコート層の厚みが200nmより薄くなると、基材上に存在する突起や傷などの欠点の悪影響を抑制できない場合がある。アンカーコート層の厚みが4,000nmより厚くなると、アンカーコート層の平滑性が低下して前記アンカーコート層上に積層する第1層表面の凹凸形状も大きくなり、積層されるスパッタ粒子間に隙間ができるため、膜質が緻密になりにくく、ガスバリア性の向上効果が得られにくくなる場合がある。ここでアンカーコート層の厚みは、透過型電子顕微鏡(TEM)による断面観察画像から測定することが可能である。
アンカーコート層の中心面平均粗さSRaは、10nm以下であることが好ましい。SRaを10nm以下にすると、アンカーコート層上に均質な第1層を形成しやすくなり、ガスバリア性の繰り返し再現性が向上するため好ましい。アンカーコート層の表面のSRaが10nmより大きくなると、アンカーコート層上の第1層表面の凹凸形状も大きくなり、積層されるスパッタ粒子間に隙間ができるため、膜質が緻密になりにくく、ガスバリア性の向上効果が得られにくくなる場合があり、また、凹凸が多い部分で応力集中によるクラックが発生し易いため、ガスバリア性の繰り返し再現性が低下する原因となる場合がある。従って、本発明においては、アンカーコート層のSRaを10nm以下にすることが好ましく、より好ましくは7nm以下である。本発明におけるアンカーコート層のSRaは、三次元表面粗さ測定機を用いて測定することができる。
本発明の積層体にアンカーコート層を適用する場合、アンカーコート層を形成する樹脂を含む塗液の塗布手段としては、まず基材上に芳香族環構造を有するポリウレタン化合物を含む塗料を乾燥後の厚みが所望の厚みになるよう固形分濃度を調整し、例えばリバースコート法、グラビアコート法、ロッドコート法、バーコート法、ダイコート法、スプレーコート法、スピンコート法などにより塗布することが好ましい。また、本発明においては、塗工適性の観点から有機溶剤を用いて芳香族環構造を有するポリウレタン化合物を含む塗料を希釈することが好ましい。
具体的には、キシレン、トルエン、メチルシクロヘキサン、ペンタン、ヘキサンなどの炭化水素系溶剤、ジブチルエーテル、エチルブチルエーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル系溶剤などを用いて、固形分濃度が10質量%以下に希釈して使用することが好ましい。これらの溶剤は、単独あるいは2種以上を混合して用いてもよい。また、アンカーコート層を形成する塗料には、各種の添加剤を必要に応じて配合することができる。例えば、触媒、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤などの安定剤、界面活性剤、レベリング剤、帯電防止剤などを用いることができる。
次いで、塗布後の塗膜を乾燥させて希釈溶剤を除去することが好ましい。ここで、乾燥に用いられる熱源としては特に制限は無く、スチームヒーター、電気ヒーター、赤外線ヒーターなど任意の熱源を用いることができる。なお、ガスバリア性向上のため、加熱温度は50~150℃で行うことが好ましい。また、加熱処理時間は数秒~1時間行うことが好ましい。さらに、加熱処理中は温度が一定であってもよく、徐々に温度を変化させてもよい。また、乾燥処理中は湿度を相対湿度で20~90%RHの範囲で調整しながら加熱処理してもよい。前記加熱処理は、大気中もしくは不活性ガスを封入しながら行ってもよい。
次に、乾燥後の芳香族環構造を有するポリウレタン化合物を含む塗膜に活性エネルギー線照射処理を施して前記塗膜を架橋させて、アンカーコート層を形成することが好ましい。
かかる場合に適用する活性エネルギー線としては、アンカーコート層を硬化させることができれば特に制限はないが、汎用性、効率の観点から紫外線処理を用いることが好ましい。紫外線発生源としては、高圧水銀ランプメタルハライドランプ、マイクロ波方式無電極ランプ、低圧水銀ランプ、キセノンランプ等、既知のものを用いることができる。また、活性エネルギー線は、硬化効率の観点から窒素やアルゴン等の不活性ガス雰囲気下で用いることが好ましい。紫外線処理としては、大気圧下または減圧下のどちらでも構わないが、汎用性、生産効率の観点から本発明では大気圧下にて紫外線処理を行うことが好ましい。前記紫外線処理を行う際の酸素濃度は、アンカーコート層の架橋度制御の観点から酸素ガス分圧は1.0%以下が好ましく、0.5%以下がより好ましい。相対湿度は任意でよい。
紫外線発生源としては、高圧水銀ランプメタルハライドランプ、マイクロ波方式無電極ランプ、低圧水銀ランプ、キセノンランプ等、既知のものを用いることができる。
紫外線照射の積算光量は0.1~1.0J/cm2であることが好ましく、0.2~0.6J/cm2がより好ましい。前記積算光量が0.1J/cm2以上であれば所望のアンカーコート層の架橋度が得られるため好ましい。また、前記積算光量が1.0J/cm2以下であれば基材へのダメージを少なくすることができるため好ましい。
[その他の層]
本発明の積層体の最表面の上には、ガスバリア性が低下しない範囲で耐擦傷性のさらなる向上を目的としたハードコート層を形成してもよいし、素子等に貼合するための有機高分子化合物からなる粘着層やフィルムをラミネートした積層構成としてもよい。また、耐薬品性のさらなる向上を目的とした層や光学特性を向上させるための低屈折率層を形成してもよい。なお、ここでいう最表面とは、基材上に第1層および第2層がこの順に積層された後の、第1層と接していない側の第2層の表面をいう。
[積層体の用途]
本発明の積層体は高いガスバリア性と耐薬品性を有するため、ガスバリア性フィルムとして好適に用いることができる。また、本発明の積層体は、様々な電子デバイスに用いることができる。例えば、太陽電池やフレキシブル回路基材、有機EL照明、フレキシブル有機ELディスプレイ、シンチレータのような電子デバイスに好適に用いることができる。さらに、高いバリア性と耐薬品性を活かして、リチウムイオン電池の外装材や医薬品の包装材等としても好適に用いることができる。
以下、本発明を実施例に基づき具体的に説明する。ただし、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
[評価方法]
(1)各層の厚み
断面観察用サンプルをマイクロサンプリングシステム((株)日立製作所製 FB-2000A)を使用してFIB法により(具体的には「高分子表面加工学」(岩森暁著)p.118~119に記載の方法に基づいて)作製した。透過型電子顕微鏡((株)日立製作所製 H-9000UHRII)により、加速電圧300kVとして、観察用サンプルの断面を観察し、積層体の第1層、第2層アンカーコート層の厚みを測定した。
(2)第1層、第2層の膜密度、厚み
積層体の第1層、第2層の膜密度、厚みはX線反射率法(XRR法)を用いて評価を行った。すなわち、基材の上に形成された積層体に、斜方向からX線を照射し、入射X線強度に対する全反射X線強度の積層体表面への入射角度依存性を測定することにより、得られた反射波の全反射X線強度プロファイルを得た。その後、全反射X線強度プロファイルのシミュレーションフィッティングを行い、各層の厚み、膜密度を求めた。以下にフィッティングの方法を示す。
フィッティングは、層数、各層の厚み、各層の膜密度の各パラメーターに対して初期値を設定し、設定した構成から求まるX線強度プロファイルと実測データの残差の標準偏差が最小となるように最終的なパラメーターを決定する。フィッティングにおける初期値を決めるために、予め他の分析を行った。透過型電子顕微鏡(TEM)により層数および各層の厚み、X線光電子分光法(XPS法)により組成分析を行い、初期値を決定した。フィッティングの信頼性を示す指標として、一般に信頼性因子(R因子)が用いられる。本発明においては、積層数が最小でかつR因子が1.0%以下となるまでフィッティングし、層数、各層の厚み、各層の膜密度の各パラメーターを決定した。
なお、実施例においてはX線反射測定に用いた装置(Rigaku製SmartLab)の解析ソフトであるRigaku製Grobal Fitによりフィッティングを行った。解析を行う際には考えられうる最小の層数にてフィッティングを行い、R因子が1.0%以下とならない場合は、1層新たな層を追加した構成でフィッティングを行う。そして、R因子が1.0%以下となるところまでこれを継続して行い、他の分析結果と照らし合わせて妥当性を確認したうえで最終的な構造モデルとする。なお、1層新たな層を追加する場合、最適化後の残差二乗和が10%以上小さくなる場合は、層を追加した方が最もらしい構成と考えるため、層を1層追加した構成によりフィッティングを行う。
もし、第1層、第2層が2層以上存在した場合(第1層/第1層/第2層や第1層/第2層/第2層など)には、膜密度はそれぞれの層の膜密度の平均値をとることとする。
測定条件は下記の通りとした。
・装置 :Rigaku製SmartLab
・解析ソフト :Rigaku製Grobal Fit ver.2.0.8.0
・サンプルサイズ :30mm×40mm
・入射X線波長 :0.1541nm(CuKα1線)
・出力 :45kV、30mA
・入射スリットサイズ:0.05mm×5.0mm
・受光スリットサイズ:0.05mm×20.0mm
・測定範囲(θ) :0~3.0°
・ステップ(θ) :0.002° 。
(3)層の組成
積層体の各層の組成分析は、X線光電子分光法(XPS法)により行った。層の厚みが1/2となる位置まで、表層からアルゴンイオンエッチングにより層を除去して下記の条件で各元素の含有比率を測定した。XPS法の測定条件は下記の通りとした。
もし、第1層、第2層が2層以上存在した場合(第1層/第1層/第2層や第1層/第2層/第2層など)には、含有比率はそれぞれの層の含有比率の平均値をとることとする。
・装置 :ESCA 5800(アルバックファイ社製)
・励起X線 :monochromatic AlKα
・X線出力 :300W
・X線径 :800μm
・光電子脱出角度 :45°
・Arイオンエッチング :2.0kV、10mPa。
(4)水蒸気透過度(g/(m2・24hr・atm))
積層体の水蒸気透過率は、温度40℃、湿度90%RH、測定面積50cm2の条件で、英国、テクノロックス(Technolox)社製の水蒸気透過率測定装置(機種名:DELTAPERM(登録商標))を使用して測定した。サンプル数は水準当たり2サンプル行った。2サンプルの測定を行い得たデータを平均し、小数点第2位を四捨五入し、当該水準における平均値を求め、その値を水蒸気透過度(g/(m2・24hr・atm))とした。
(5)表面粗さの測定
算術平均粗さRaおよび最大高さRzは、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて測定を行った。積層体を任意の大きさに切り出し、第2層表面の1μm×1μmの視野に関して下記の条件で測定を行った。測定n=2で行い、Ra、Rzの値はn=2の平均値を用いた。また、第2層が2層以上存在する場合(例えば、第1層/第2層/第2層など)は、最も表層側に存在する第2層の表面において測定を行うこととする。なお、第2層の上にハードコート層等の他の層が存在する場合は、当該他の層を除去した上で、第2層表面において測定を行うこととする。
・測定装置:Bruker製Demension icon
・測定範囲:1μm×1μm
・scan rate:1Hz
・scan line:512
・解析ソフト:Nanoscope Analysis。
(6)耐薬品性試験
100×100mmの積層体をガラスケースに入れ、リチウムイオンバッテリーで用いられる電解液を、積層体が完全に浸漬されるまで投入した。電解液は、エチレンカーボネート:ジエチルカーボネート:ジメチルカーボネート=1:1:1の体積比で混合した溶液に1molの6フッ化リン酸リチウムを添加したものである。次に、ガラスケースを密閉した状態で、85℃の恒温槽内に24時間投入した。その後、電解液中から積層体を取り出し、外観及び水蒸気透過度の評価により、耐薬品性の判断を行った。耐薬品性の判断は以下とした。
○:水蒸気透過度が試験前の値の10倍未満
×:水蒸気透過度が試験前の値の10倍以上。
(実施例1)
(芳香族環構造を有するポリウレタン化合物の合成)
5リットルの4つ口フラスコに、ビスフェノールAジグリシジルエーテルアクリル酸付加物(共栄社化学社製、商品名:エポキシエステル3000A)を300質量部、酢酸エチル710質量部を入れ、内温60℃になるよう加温した。合成触媒としてジラウリン酸ジ-n-ブチル錫0.2質量部を添加し、攪拌しながらジシクロヘキシルメタン4,4’-ジイソシアネート(東京化成工業社製)200質量部を1時間かけて滴下した。滴下終了後2時間反応を続行し、続いてジエチレングリコール(和光純薬工業社製)25質量部を1時間かけて滴下した。滴下後5時間反応を続行し、重量平均分子量20,000の芳香族環構造を有するポリウレタン化合物を得た。
(アンカーコート層の形成)
基材として、厚み100μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(東レ株式会社製“ルミラー”(登録商標)U48)を用いた。
アンカーコート層形成用の塗液として、前記ポリウレタン化合物を150質量部、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(共栄社化学社製、商品名:ライトアクリレートDPE-6A)を20質量部、1-ヒドロキシ-シクロヘキシルフェニルーケトン(BASFジャパン社製、商品名:IRGACURE 184)を5質量部、3-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン(信越シリコーン社製、商品名:KBM-503)を3質量部、酢酸エチルを170質量部、トルエンを350質量部、シクロヘキサノンを170質量部配合して塗液を調整した。次いで、塗液を基材上にマイクログラビアコーター(グラビア線番150UR、グラビア回転比100%)で塗布、100℃で1分間乾燥し、乾燥後、下記条件にて紫外線処理を施して厚み1μmのアンカーコート層を設けた。
紫外線処理装置:LH10-10Q-G(フュージョンUVシステムズ・ジャパン社製)
導入ガス:N2(窒素イナートBOX)
紫外線発生源:マイクロ波方式無電極ランプ
積算光量:400mJ/cm2
試料温調:室温。
(第1層の形成)
図3に示す巻き取り式のスパッタリング装置(以下、スパッタ装置)5を使用し、酸化亜鉛と二酸化ケイ素と酸化アルミニウムで形成された混合焼結材であるスパッタターゲットをスパッタ電極12に設置し、アルゴンガスおよび酸素ガスによるスパッタリングを実施し、基材1のアンカーコート表面に、第1層としてZnO-SiO2-Al2O3層を厚み10nmで設けた。
具体的な操作は以下のとおりである。図3に示す構造の巻き取り式スパッタリング装置5を使用して積層体を得た。IRヒーターの配置は図4のように設置した。
まず、スパッタ電極12に酸化亜鉛/二酸化ケイ素/酸化アルミニウムの組成質量比が77/20/3で焼結されたスパッタリングターゲットを設置したスパッタ装置5の巻き取り室6の中で、巻き出しロール7に前記基材1の第1層を設ける側(アンカーコートが形成された側)の面がスパッタ電極12に対向するようにセットし、巻き出し、ガイドロール8,9,10を介して、温度100℃に制御されたメインドラム11に通した。次に、真空ポンプにより、スパッタ装置5内を減圧し、2.0×10-3Pa以下を得た。次に、真空度3.0×10-1Paとなるように酸素ガス分圧10%としてアルゴンガスおよび酸素ガスを導入し、直流パルス電源によりスパッタ電極12に投入電力3,000Wを印加することにより、アルゴン・酸素ガスプラズマを発生させ、スパッタリングにより前記基材1のアンカーコート表面上にZnO-SiO2-Al2O3層を形成した。また、形成するZnO-SiO2-Al2O3層の厚みは、フィルム搬送速度により調整した。その後、ガイドロール14,15,16を介して巻き取りロール17に巻き取った。
(第2層の形成)
第1層の形成に続いて、図3に示す構造のスパッタ装置を使用し、基材1の第1層上に、第2層を設けた。スズとケイ素で形成された混合焼結材であるスパッタリングターゲットをスパッタ電極13に設置し、アルゴンガスおよび酸素ガスによるスパッタリングを実施し、前記基材1の第1層上に、第2層としてSnO2-SiO2層を厚み30nm設けた。
具体的な操作は以下のとおりである。まず、スパッタ電極13にスズ/ケイ素の組成質量比が50/50で焼結されたスパッタリングターゲットを設置したスパッタ装置5の巻き取り室6の中で、巻き出しロール7に前記基材1の第2層を設ける側(第1層が形成された側)の面がスパッタ電極13に対向するようにセットし、巻き出し、ガイドロール8,9,10を介して、温度100℃に制御されたメインドラム11に通した。次に、真空ポンプにより、スパッタ装置5内を減圧し、2.0×10-3Pa以下を得た。続いて、真空度5.0×10-1Paとなるように酸素ガス分圧40%としてアルゴンガスおよび酸素ガスを導入し、直流パルス電源によりスパッタ電極13に投入電力1,500Wを印加することにより、アルゴン・酸素ガスプラズマを発生させ、前記基材1をランプヒーター18にて加熱を行いながら、スパッタリングにより前記基材1の第1層表面上にSnO2-SiO2層を形成した。ランプヒーターは岩崎電気社平行光型照射器IRE370-Mを用い、図4における照射角度はΘA=12°とした。ランプヒーターの出力は基材1の最高表面温度が150℃となるように調整した。また、形成するSnO2-SiO2層の厚みは、フィルム搬送速度により調整した。その後、ガイドロール14,15,16を介して巻き取りロール17に巻き取り積層体を得た。
続いて、得られた積層体から試験片を切り出し、各種評価を実施した。結果を表1および2に示す。
(実施例2)
第2層であるSnO2-SiO2層の形成において、スズ/ケイ素の組成質量比が62/38で焼結されたスパッタターゲットを用いた以外は、実施例1と同様にして積層体を得た。結果を表1および2に示す。
(実施例3)
第2層であるSnO2-SiO2層の形成において、スズ/ケイ素の組成質量比が32/68で焼結されたスパッタターゲットを用いた以外は、実施例1と同様にして積層体を得た。結果を表1および2に示す。
(実施例4)
第1層であるZnO-SiO2-Al2O3層の形成において、膜厚150nm狙いでフィルム搬送速度を調整し、第2層であるSnO2-SiO2層の形成において、膜厚50nm狙いでフィルム搬送速度を調整した以外は、実施例1と同様にして積層体を得た。結果を表1および2に示す。
(実施例5)
第2層を形成する際に、スパッタ電極13の巻き出し側にもランプヒーターを照射角度Θ=12°で調整して配置し、ランプヒーターの出力は基材1の最高表面温度が150℃となるように調整した以外は、実施例1と同様にして積層体を得た。結果を表1および2に示す。
(実施例6)
第2層の形成において、ジルコニウム/ケイ素の組成質量比が33/67で焼結されたスパッタターゲットを用いた以外は、実施例1と同様にして積層体及び有機EL素子を得た。結果を表1および2に示す。
(比較例1)
第2層であるSnO2-SiO2層の形成時にランプヒーター18を使用しない以外は、実施例1と同様にして積層体を得た。結果を表1および2に示す。
(比較例2)
第1層であるZnO-SiO2-Al2O3層の形成において、膜厚40nm狙いで、フィルム搬送速度を調整し、第2層を形成しない以外は、実施例1と同様にして積層体を得た。結果を表1および2に示す。
(比較例3)
第2層の形成において、スズのスパッタターゲットを用いた以外は、実施例1と同様にして積層体を得た。結果を表1および2に示す。
(比較例4)
実施例1の第2層であるSnO2-SiO2層を第1層として形成し、次いで実施例1の第1層であるZnO-SiO2-Al2O3層を第2層として形成した以外は、実施例1と同様にして積層体を得た。結果を表1および2に示す。
(比較例5)
実施例1の第1層を形成せずに、第2層形成時の搬送速度を調整して膜厚40nm形成する以外は、実施例1と同様にして積層体を得た。結果を表1および2に示す。
(比較例6)
第1層であるZnO-SiO2-Al2O3層の形成において、膜厚150nm狙いで、フィルム搬送速度を調整した以外は、比較例1と同様にして積層体を得た。結果を表1および2に示す。
実施例1~6は、ガスバリア性が良好でありかつ耐薬品性が良好である。一方で比較例1は、ガスバリア性は良好であるが、耐薬品性に劣る。これはSnO2-SiO2層の緻密性が足りないことにより電解液がZnO-SiO2-Al2O3層まで浸透し、ZnO-SiO2-Al2O3層から溶解及び剥離してしまったことによる。比較例2、6は、ガスバリア性は良好であるが、耐薬品性に劣る。これは、ZnO-SiO2-Al2O3層に耐薬品性はなく、電解液により溶解してしまったことによる。比較例3は、ZnO-SiO2-Al2O3層、SnO2層共に電解液耐性に乏しく溶解してしまったことにより、耐薬品性がない。比較例4は、ZnO-SiO2-Al2O3層は電解液耐性がないため消失してしまうが、SnO2-SiO2層は電解液耐性があるため、SnO2-SiO2層のみ残るもののガスバリア性はないため、試験後ガスバリア性は発現しない。比較例5は、比較例4と同様の理由で耐薬品性は見られるものの、ガスバリア性は発現しない。