以下、例示的な実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
図1に、シリンダの軸心を含む平面で切断したエンジン100の概略的な断面図を示す。本明細書では、説明の便宜上、シリンダの軸心方向を上下方向と称し、気筒列方向を前後方向と称する。
エンジン100は、4つの気筒が所定の気筒列方向に並んで配置された直列4気筒エンジンである。エンジン100は、シリンダヘッド1と、シリンダヘッド1に取り付けられるシリンダブロック2と、シリンダブロック2に取り付けられるオイルパン3とを備えている。
シリンダブロック2は、アッパブロック21と、ロアブロック22とを有している。ロアブロック22は、アッパブロック21の下面に取り付けられる。ロアブロック22の下面に、オイルパン3が取り付けられる。
アッパブロック21には、4つの気筒に対応する4つのシリンダボア23が気筒列方向に並んで形成されている(図1には1つのシリンダボア23だけ図示)。シリンダボア23は、アッパブロック21の上部に形成され、アッパブロック21の下部はクランク室の一部を区画する。シリンダボア23には、ピストン24が挿通されている。ピストン24は、コネクティングロッド25を介してクランクシャフト26に連結されている。シリンダボア23と、ピストン24と、シリンダヘッド1とによって燃焼室27が区画される。尚、4つのシリンダボア23は、前側から順に、第1気筒、第2気筒、第3気筒及び第4気筒に相当する。
シリンダヘッド1には、燃焼室27に開口する吸気ポート11と排気ポート12が設けられ、吸気ポート11には、吸気ポート11を開閉する吸気弁13が設けられている。排気ポート12には、排気ポート12を開閉する排気弁14が設けられている。吸気弁13及び排気弁14はそれぞれ、カムシャフト41,42に設けられたカム部41a,42aによって駆動される。
詳しくは、吸気弁13及び排気弁14は、バルブスプリング15,16により閉方向(図1では上方向)に付勢されている。吸気弁13及び排気弁14とカム部41a,42aとの間には、それぞれスイングアーム43,44が介設されている。スイングアーム43,44の一端部は、それぞれ油圧ラッシュアジャスタ(Hydraulic Lash Adjuster、以下、「HLA」と称する)45,46に支持されている。スイングアーム43,44は、その略中央部に設けられたカムフォロア43a,44aがそれぞれカム部41a,42aに押されることによって、HLA45,46に支持された一端部を支点として揺動する。スイングアーム43,44は、こうして揺動することによって、他端部でそれぞれ吸気弁13及び排気弁14をバルブスプリング15,16の付勢力に抗して開方向(図1では下方向)へ移動させる。HLA45,46は、油圧により自動的にバルブクリアランスをゼロに調整する。
尚、第1気筒及び第4気筒に設けられたHLA45,46は、それぞれ吸気弁13及び排気弁14の動作を停止させる弁停止機構を備えている。以下、弁停止機構の有無でHLAを区別する場合には、弁停止機構を備えているHLA45,46を、HLA45a,46aと称し、弁停止機構を備えていないHLA45,46を、HLA45b,46bと称する。エンジン100は、全気筒運転時には、第1〜第4気筒の全ての吸気弁13及び排気弁14を作動させる一方、減気筒運転時には、第1及び第4気筒の吸気弁13及び排気弁14の作動を停止させ、第2及び第3気筒の吸気弁13及び排気弁14を作動させる。
シリンダヘッド1の第1及び第4気筒に対応する部分には、HLA45a,46aを装着するための装着孔が形成されている。HLA45a,46aは、該装着孔に装着される。シリンダヘッド1には、装着孔に連通する給油路が形成されている。この給油路を介して、HLA45a,46aにオイルが供給される。
シリンダヘッド1の上部にはカムキャップ47が取り付けられている。カムシャフト41,42は、シリンダヘッド1及びカムキャップ47により回転可能に支持されている。
吸気側カムシャフト41の上方には、吸気側オイルシャワー48が設けられ、排気側カムシャフト42の上方には、排気側オイルシャワー49が設けられている。吸気側オイルシャワー48及び排気側オイルシャワー49は、カム部41a,42aと、スイングアーム43,44のカムフォロア43a,44aとの接触部にオイルを滴下するように構成されている。
また、エンジン100には、吸気弁13及び排気弁14のそれぞれの弁特性を変更する可変バルブタイミング機構(以下、「VVT」と称する)が設けられている。吸気側VVTは電動式であり,排気側VVT18は油圧式である。
アッパブロック21は、4つのシリンダボア23に対して吸気側に位置する第1側壁21aと、4つのシリンダボア23に対して排気側に位置する第2側壁21bと、最も前側のシリンダボア23よりも前側に位置する前壁(図示省略)と、最も後側のシリンダボア23よりも後側に位置する後壁(図示省略)と、隣り合う各2つのシリンダボア23の間の部分において上下方向に拡がる複数の縦壁21cとを有している。
ロアブロック22は、アッパブロック21の第1側壁21aに対応し、吸気側に位置する第1側壁22aと、アッパブロック21の第2側壁21bに対応し、排気側に位置する第2側壁22bと、アッパブロック21の前壁に対応し、前側に位置する前壁(図示省略)と、アッパブロック21の後壁に対応し、後側に位置する後壁(図示省略)と、アッパブロック21の縦壁21cに対応する複数の縦壁22cとを有している。アッパブロック21とロアブロック22とは、ボルト締結される。
アッパブロック21の前壁とロアブロック22の前壁との間、アッパブロック21の後壁とロアブロック22の後壁との間、縦壁21cと縦壁22cとの間には、クランクシャフト26を支持する軸受部28が設けられている。
以下に、図2を参照しながら、縦壁21cと縦壁22cとの間の軸受部28に付いて説明する。図2は、気筒列方向の中央に位置するアッパブロック21の縦壁21c及びロアブロック22の縦壁22cの断面図である。尚、アッパブロック21の前壁とロアブロック22の前壁との間、アッパブロック21の後壁とロアブロック22の後壁との間にも同様の軸受部28が設けられている。それぞれの軸受部28を区別する場合には、前側から順に、第1軸受部28A、第2軸受部28B、第3軸受部28C、第4軸受部28D、第5軸受部28Eと称する。
軸受部28は、2つのボルト締結箇所の間に設けられている。詳しくは、軸受部28は、一対のネジ孔21f及びボルト挿通孔22fの間に配置されている。軸受部28は、円筒状の軸受メタル29を有している。縦壁21c及び縦壁22cのそれぞれの接合部には、半円状の切欠部が形成されている。軸受メタル29は、第1半円部29aと第2半円部29bとからなる分割構造をしており、第1半円部29aは、縦壁21cの切欠部に装着され、第2半円部29bは、縦壁22cの切欠部に装着される。縦壁21cと縦壁22cとが結合されることによって、第1半円部29aと第2半円部29bとが結合し、円筒状になる。第1半円部29aの内周面には、円周方向に延びる油溝29cが形成されている。それに加え、第1半円部29aには、一端が第1半円部29aの外周面に開口し、他端が油溝29cに開口する連絡路29dが貫通形成されている。アッパブロック21には、給油路が形成されており、該給油路を介して第1半円部29aの外周面にオイルが供給されている。連絡路29dは、該給油路と連通する位置に配置されている。これにより、給油路から供給されたオイルが連絡路29dを介して油溝29cに流入するようになっている。
尚、図示は省略するが、シリンダブロック2の前壁には、チェーンカバーが取り付けられている。チェーンカバーの内側には、クランクシャフト26に設けられた駆動スプロケット、該駆動スプロケットに巻回されたタイミングチェーン、該タイミングチェーンに張力を付与するチェーンテンショナ等が配置されている。
次に、図3を参照しながら、排気側VVT18について詳しく説明する。
排気側VVT18は、略円環状のハウジング18aと、該ハウジング18aの内部に収容されたロータ18bとを有している。ハウジング18aは、クランクシャフト26と同期して回転するカムプーリ18cと一体回転可能に連結されている。ロータ18bは、吸気弁13を開閉させるカムシャフト41と一体回転可能に連結されている。ロータ18bには、ハウジング18aの内周面と摺動するベーン18dが設けられている。ハウジング18aの内部には、ハウジング18aの内周面、ベーン18d及びロータ18bの本体によって区画される遅角油圧室18eと進角油圧室18fとが複数形成されている。これら遅角油圧室18e及び進角油圧室18fには、オイルが供給されている。遅角油圧室18eの油圧が高いと、ハウジング18aの回転方向に対してロータ18bが反対向きに回転する。すなわち、カムシャフト41が、カムプーリ18cに対して反対向きに回転し、吸気弁13の開弁時期が遅くなる。一方、進角油圧室18fの油圧が高いと、ハウジング18aの回転方向に対してロータ18bが同じ向きに回転する。すなわち、カムシャフト41が、カムプーリ18cに対して同じ向きに回転し、吸気弁13の開弁時期が早くなる。
次に、オイル供給装置200について図4を参照しながら説明する。図4に、オイル供給装置200の油圧回路図を示す。
オイル供給装置200は、クランクシャフト26によって回転駆動される可変容量型のオイルポンプ81と、オイルポンプ81に接続され、オイルが流通する給油路5とを有している。オイルポンプ81は、エンジン100による駆動される補機である。
オイルポンプ81は、公知の可変容量型のオイルポンプであり、クランクシャフト26により駆動される。オイルポンプ81は、ロアブロック22の下面に取り付けられ、オイルパン3内に収容された状態となっている。詳しくは、オイルポンプ81は、クランクシャフト26に回転駆動される駆動シャフト81aと、駆動シャフト81aに連結されたロータ81bと、ロータ81bから半径方向へ進退自在に設けられた複数のベーン81cと、前記ロータ81b及びベーン81cを収容し、ロータ81bの回転中心に対する偏心量が調整されるように構成されたカムリング81dと、ロータ81bの回転中心に対する偏心量が増大する方向へカムリング81dを付勢するスプリング81eと、ロータ81bの内側に配置されたリング部材81fと、ロータ81b、ベーン81c、カムリング81d、スプリング81e及びリング部材81fを収容するハウジング81gとを有している。
図示は省略するが、駆動シャフト81aの一端部は、ハウジング81gの外方へ突出し、該一端部には、従動スプロケットが連結されている。従動スプロケットには、タイミングチェーンが巻回されている。このタイミングチェーンは、クランクシャフト26の駆動スプロケットにも巻回されている。こうして、ロータ81bは、タイミングチェーンを介してクランクシャフト26に回転駆動される。
ロータ81bが回転する際に各ベーン81cは、カムリング81dの内周面上を摺動する。これにより、ロータ81b、隣り合う2つのベーン81c、カムリング81d及びハウジング81gによってポンプ室(作動油室)81iが区画される。
ハウジング81gには、ポンプ室81i内へオイルを吸入する吸入口81jが形成されると共に、ポンプ室81iからオイルが吐出される吐出口81kが形成されている。吸入口81jには、オイルストレーナ81lが接続されている。オイルストレーナ81lは、オイルパン3に貯留されたオイルに浸漬されている。つまり、オイルパン3に貯留されたオイルがオイルストレーナ81lを介して吸入口81jからポンプ室81i内へ吸入される。一方、吐出口81kには、給油路5が接続されている。つまり、オイルポンプ81により昇圧されたオイルは、吐出口81kから給油路5へ吐出される。
カムリング81dは、所定の支点回りに揺動するようにハウジング81gに支持されている。スプリング81eは、該支点回りの一方側へカムリング81dを付勢している。また、カムリング81dとハウジング81gとの間には圧力室81mが区画される。圧力室81mには、外部からオイルが供給されるように構成されている。カムリング81dには、圧力室81m内のオイルの油圧が作用している。そのため、カムリング81dは、スプリング81eの付勢力と圧力室81mの油圧とのバランスに応じて揺動し、ロータ81bの回転中心に対するカムリング81dの偏心量が決まる。カムリング81dの偏心量に応じて、オイルポンプ81の容量が変化し、オイルの吐出量が変化する。
圧力室81mには、後述するオイル制御弁84からオイルが供給される。つまり、オイルポンプ81は、オイル制御弁84によって容量が制御される。オイルポンプ81及びオイル制御弁84は、油圧制御装置の一例である。
給油路5は、パイプ並びに、シリンダヘッド1及びシリンダブロック2に穿設された流路で形成されている。給油路5は、シリンダブロック2において気筒列方向に延びるメインギャラリ50と、オイルポンプ81とメインギャラリ50とを接続する第1連通路51と、メインギャラリ50からシリンダヘッド1まで延びる第2連通路52と、シリンダヘッド1において吸気側と排気側との間を略水平方向に延びる第3連通路53と、第1連通路51から分岐する制御用給油路54と、第3連通路53から分岐する第1〜第5給油路55〜59とを有している。
第1連通路51は、オイルポンプ81の吐出口81kに接続されている。第1連通路51には、オイルフィルタ82及びオイルクーラ83がオイルポンプ81側から順に設けられている。つまり、オイルポンプ81から第1連通路51へ吐出されたオイルは、オイルフィルタ82で濾過され、オイルクーラ83で油温が調整された後、メインギャラリ50へ流入する。
メインギャラリ50には、4つのピストン24の背面側にオイルを噴射するオイルジェット71と、クランクシャフト26を回転自在に支持する5つの軸受部28の軸受メタル29と、4つのコネクティングロッド25が回転自在に連結されたクランクピンに配置された軸受メタル72と、油圧式チェーンテンショナへオイルを供給するオイル供給部73と、タイミングチェーンにオイルを噴射するオイルジェット74と、メインギャラリ50を流通するオイルの油圧を検出する油圧センサ50aが接続されている。油圧センサ50aは、油圧検出部の一例である。メインギャラリ50には、オイルが常時供給されている。オイルジェット71は、逆止弁とノズルとを有し、所定値以上の油圧が作用すると、逆止弁が開弁し、ノズルからオイルを噴射する。
制御用給油路54は、メインギャラリ50から分岐し、オイル制御弁84を介してオイルポンプ81の圧力室81mに接続されている。制御用給油路54には、オイルフィルタ54aが設けられている。メインギャラリ50のオイルの一部は、制御用給油路54を通り、オイル制御弁84によって油圧が調整された後、オイルポンプ81の圧力室81mに流入する。つまり、オイル制御弁84によって圧力室81mの圧力が調整される。
オイル制御弁84は、リニアソレノイドバルブである。オイル制御弁84は、入力される制御信号のデューティ比に応じて、圧力室81mに供給するオイルの流量を調整する。
第2連通路52は、メインギャラリ50と第3連通路53とを連通させている。メインギャラリ50を流通するオイルは、第2連通路52を通って、第3連通路53へ流入する。第3連通路53へ流入したオイルは、第3連通路53を介して、シリンダヘッド1の吸気側と排気側へ分配される。
第1給油路55には、吸気側のカムシャフト41のカムジャーナルを支持する軸受メタルのオイル供給部91と、吸気側のカムシャフト41のスラスト軸受のオイル供給部92と、弁停止機構付きHLA45aのピボット機構45cと、弁停止機構無しHLA45bと、吸気側のオイルシャワー48と、吸気側VVTの摺動部のオイル供給部93とが接続されている。
第2給油路56には、排気側のカムシャフト42のカムジャーナルを支持する軸受メタルのオイル供給部94と、排気側のカムシャフト42のスラスト軸受のオイル供給部95と、弁停止機構付きHLA46aのピボット機構46cと、弁停止機構無しHLA46bと、排気側のオイルシャワー49とが接続されている。
第3給油路57は、第1方向切換弁96を介して、排気側VVT18の遅角油圧室18e及び進角油圧室18fに接続されている。また、第3給油路57には、排気側のカムシャフト42の軸受メタルのオイル供給部94のうち最前部に位置するオイル供給部94が接続されている。第3給油路57における第1方向切換弁96の上流側には、オイルフィルタ57aが接続されている。第1方向切換弁96によって、遅角油圧室18e及び進角油圧室18fへ供給されるオイル流量が調整される。
第4給油路58は、第2方向切換弁97を介して第1気筒の弁停止機構付きHLA45aの弁停止機構45d及び弁停止機構付きHLA46aの弁停止機構46dに接続されている。第4給油路58における第2方向切換弁97の上流側には、オイルフィルタ58aが接続されている。第2方向切換弁97によって、第1気筒の弁停止機構45d及び弁停止機構46dへのオイル供給が制御される。
第5給油路59は、第3方向切換弁98を介して第4気筒の弁停止機構付きHLA45aの弁停止機構45d及び弁停止機構付きHLA46aの弁停止機構46dに接続されている。第5給油路59における第3方向切換弁98の上流側には、オイルフィルタ59aが接続されている。第3方向切換弁98によって、第4気筒の弁停止機構45d及び弁停止機構46dへのオイル供給が制御される。
エンジン100の各部に供給されたオイルは、図示しないドレイン油路を通ってオイルパン3に滴下し、オイルポンプ81により再び還流される。
以上において、排気側VVT18、弁停止機構45d、弁停止機構46d、オイルジェット71及びオイルジェット74が油圧作動装置に相当する。軸受メタル29、吸気側オイルシャワー48、排気側オイルシャワー49、軸受メタル72、カムシャフト41のカムジャーナルを支持する軸受メタル、カムシャフト41のスラスト軸受、カムシャフト42のカムジャーナルを支持する軸受メタル、カムシャフト42のスラスト軸受、及び、吸気側VVTの摺動部が潤滑部に相当する。
エンジン100は、コントローラ60によって制御される。コントローラ60は、プロセッサ及びメモリを有し、エンジン100の運転状態を検出する各種センサからの検出結果が入力される。例えば、コントローラ60には、油圧センサ50a、クランクシャフト26の回転角度を検出するクランク角センサ61、エンジン100が吸入する空気量を検出するエアフローセンサ62、油温センサ63、カムシャフト41,42の回転位相を検出するカム角センサ64及びエンジン100の冷却水の温度を検出する水温センサ65が接続されている。コントローラ60は、クランク角センサ61からの検出信号に基づいてエンジン回転速度を求め、エアフローセンサ62の検出信号に基づいてエンジン負荷を求め、カム角センサ64の検出信号に基づいて吸気側VVT及び排気側VVT18の作動角を求める。コントローラ60は、制御装置の一例である。
コントローラ60は、エンジン100及びオイル供給装置200を制御する。より詳しくは、コントローラ60は、図5に示すように、オイル供給装置200を制御する油圧制御部601と、エンジン100の運転を制御する運転制御部602とを有する。
油圧制御部601は、各種検出結果に基づいてエンジン100の運転状態を判定し、判定した運転状態に応じてオイル制御弁84、第1方向切換弁96、第2方向切換弁97及び第3方向切換弁98を制御する。例えば、油圧制御部601は、エンジン100の運転状態に応じて、オイルポンプ81の吐出量制御を行う。具体的には、油圧制御部601は、エンジン100の運転状態に応じた目標油圧を設定し、油圧センサ50aにより検出される油圧が目標油圧となるようにオイル制御弁84を介してオイルポンプ81を制御する。
まず、目標油圧の設定について説明する。
オイル供給装置200は、1つのオイルポンプ81によって複数の油圧作動装置にオイルを供給している。各油圧作動装置が必要とする油圧は、エンジン100の運転状態に応じて変化する。そのため、エンジン100の全ての運転状態において全ての油圧作動装置が必要な油圧を得るためには、油圧制御部601は、エンジン100の運転状態ごとに、各油圧作動装置の要求油圧のうち最大のもの、又は最大以上の油圧を目標油圧として設定する必要がある。本実施形態では、排気側VVT18、弁停止機構45d,46d、オイルジェット71が要求油圧が比較的大きな油圧作動装置である。そのため、これらの要求油圧を満たすように目標油圧を設定すれば、要求油圧が比較的小さな油圧作動装置の要求油圧も当然に満たすことになる。
また、油圧作動装置に限らず、軸受メタル29等の潤滑部も必要な油圧があり、潤滑部の要求油圧もエンジン100の運転状態に応じて変化する。潤滑部の中では軸受メタル29の要求油圧が比較的高く、軸受メタル29の要求油圧が満たされていれば、他の潤滑部の要求油圧も当然に満たされる。
本実施形態では、油圧制御部601は、軸受メタル29の要求油圧、又はこの要求油圧よりも少し高い油圧を、油圧作動装置が作動していないときのエンジン100の基本的な運転時に必要なベース油圧P1として設定している。つまり、ベース油圧P1は、全ての潤滑部の要求油圧を満たす油圧である。
油圧制御部601は、ベース油圧P1と、各油圧作動装置が作動する際の要求油圧P2とを比較し、これらのうち最も高い油圧を目標油圧として設定する。これらのベース油圧P1及び油圧作動装置の要求油圧P2は、いずれもエンジン運転状態(エンジン負荷、エンジン回転速度、及び油温等)により変化する。そのため、油圧制御部601は、エンジン負荷、エンジン回転速度、及び油温に応じて予め実験的に設定されたベース油圧P1が規定されたマップ及び油圧作動装置の要求油圧P2が規定されたマップをメモリに記憶している。
具体的に、図6は、ベース油圧マップ、図7は、オイルジェット71の要求油圧マップ、図8は、排気側VVT18の要求油圧マップである。各マップにおいて、「運転状態」(エンジン運転状態ではなく車速やアクセルペダルの操作状態等をいう)、「負荷」、「油温」、及び「回転速度」毎に、「油圧」が記憶される。油温の単位は℃、エンジン回転速度の単位はrpm、油圧の単位はkPaである。図6〜図8は、それぞれマップの一部を抜粋して表している。そのため、油圧は、運転状態、負荷、油温、及び回転速度をさらに細分化して設定され得る。また、油圧は、回転速度等に応じて離散的に設定されている。そのため、マップに設定されていない回転速度等における油圧は、マップに設定されている油圧を線形補間して求められ得る。
図6のベース油圧マップは、暖機後の所定油温Tにおいて、エンジン回転速度に応じて設定されたベース油圧P1が記憶されている。
ベース油圧P1は、油圧作動装置が作動していないときのエンジン100の基本的な運転に必要な油圧なので、図6に示すように、ベース油圧P1が発せられる特段の条件(運転状態、負荷、油温、回転速度)は規定されていない。エンジン回転速度が上昇するほど軸受メタル29等の潤滑部の潤滑が必要になるため、ベース油圧P1は、エンジン回転速度が上昇するほど高い値に設定される。
なお、中回転域では、ベース油圧P1は、略一定の値(図例では200kPa)に設定される。
図7のオイルジェット71の要求油圧マップは、エンジン運転状態に応じて設定されたオイルジェット71の要求油圧P2が記憶されている。
オイルジェット71は、前述したように、逆止弁とノズルとを有し、所定値以上の油圧が作用すると、逆止弁が開弁し、ノズルからオイルを噴射するので、オイルジェット71の要求油圧P2は、図7に示すように、エンジン回転速度(Va2>Va1)が異なっても、また負荷(P1>P2)が異なっても、一定(図例では350kPa)である。
図8の排気側VVT18の要求油圧マップは、エンジン運転状態に応じて設定された排気側VVT18の要求油圧P2が記憶されている。
具体的に、排気側VVT18の要求油圧P2は、図8に示すように、エンジン回転速度が上昇するほど高い値に設定され、油温(Ta1>Ta2>Ta3)が低下するほど高い値に設定される。
次に、図9を参照して、オイルポンプ81の吐出量制御における信号の流れについて説明する。
油圧制御部601は、各種センサより検出されたエンジン回転速度及び油温をベース油圧マップに照らし合わせ、ベース油圧P1を求める。それに加え、油圧制御部601は、油圧作動装置の要求油圧P2を受け取り、これらのベース油圧P1及び要求油圧P2の中から最大の油圧を目標油圧として設定する。エンジン100の運転状態により複数の要求油圧P2が存在する場合もある。なお、要求油圧P2が無い場合には、油圧制御部601は、ベース油圧P1を目標油圧として設定する。
別の見方をすれば、ベース油圧P1は、暫定的な目標油圧である。油圧作動装置の要求油圧P2があり且つその油圧P2がベース油圧P1よりも大きい場合には、油圧P2が目標油圧に設定される。
次に、油圧制御部601は、オイルポンプ81から油圧センサ50aの位置までオイルが流通するときの油圧低下代に基いて目標油圧を増大させ、修正目標油圧を算出する。油圧低下代は、予めメモリに記憶されている。油圧制御部601は、修正目標油圧をオイルポンプ81の流量(吐出量ひいては吐出圧)に変換して、目標流量(目標吐出量ひいては目標吐出圧)を得る。
続いて、油圧制御部601は、目標流量を補正する。具体的には、油圧制御部601は、排気側VVT18を作動させる場合の排気側VVT18の予測作動量を流量変換して、排気側VVT18の作動時の消費流量を得る。排気側VVT18の予測作動量は、現在の作動角と目標の作動角との差及びエンジン回転速度から求めることができる。また、油圧制御部601は、弁停止機構45d,46dを作動させる場合の弁停止機構45d,46dの予測作動量を流量変換して、弁停止機構45d,46dの作動時の消費流量を得る。さらに、油圧制御部601は、オイルジェット71を作動させる場合の消費流量を求める。油圧制御部601は、作動させる油圧作動装置に対応する消費流量を求めて、その消費流量を用いて前述の目標流量を補正する。
エンジン100の定常運転時には、各油圧作動装置の予測作動量はゼロ(0)であるので、上記油圧作動装置の作動に応じた目標油圧の補正はなされない。これに対し、エンジン100の過渡運転時には、作動する油圧作動装置に応じて目標油圧の補正がなされる。つまり、オイルポンプ81の吐出量(吐出圧)が補正制御される。
さらに、油圧制御部601は、目標流量を油圧フィードバック量により補正する。この油圧フィードバック量は、エンジン100の過渡運転時に、油圧センサ50aにより検出される油圧(実油圧)が目標油圧の変化に対してどのように変化するかを予測した予測油圧と上記検出される実油圧との偏差に応じた値である。実油圧が予測油圧よりも高いときには、油圧フィードバック量が負の値となり、目標流量を減量する一方、実油圧が予測油圧よりも低いときには、油圧フィードバック量が正の値となり、目標流量を増量する。実油圧が予測油圧と同じであれば、油圧フィードバック量は0であり、すなわち、油圧フィードバック量による補正は行われない。
エンジン100の過渡運転時において、目標油圧が、例えばステップ状に変化したとき、オイルポンプ81の応答遅れや、油圧がオイルポンプ81から油圧センサ50aの位置に達するまでの応答遅れ等を含む、油圧の応答遅れにより、実油圧は目標油圧の変化に対して遅れて追従する。このような油圧の応答遅れによる実油圧の変化は、予め実験等により決められたむだ時間や時定数により予測することができ、こうして予測した予測油圧を設定する。ただし、オイルポンプ81の定常運転時には、予測油圧は目標油圧と同じになり、目標油圧と実油圧との偏差をフィードバックする油圧フィードバック制御と実質的に同じになる。
目標油圧と実油圧との偏差をフィードバックする場合には、油圧の応答遅れにより、目標油圧が変化した直後における目標油圧と実油圧との偏差が大きくなり過ぎて、実油圧の目標油圧に対するオーバーシュートやアンダーシュートが生じ易くなる。特にオイルポンプ81が劣化すると、上記偏差がより大きくなる。これに対し、予測油圧と実油圧との偏差は通常小さいので、予測油圧と実油圧を偏差をフィードバックすることにより、実油圧が予測油圧に略沿って変化するようになるので、実油圧の目標油圧に対するオーバーシュートやアンダーシュートが生じ難くなる。この結果、実油圧を目標油圧に円滑に一致させるようにすることができる。また、オイルポンプ81が劣化することにより、目標油圧が変化した直後の目標油圧と実油圧との偏差がある程度大きくなったとしても、実油圧が予測油圧に略沿って変化するようになるので、実油圧の目標油圧に対するオーバーシュートやアンダーシュートは生じ難くなる。
油圧制御部601は、このように補正した目標流量とエンジン回転速度とをディーティ比マップに照らし合わせることにより、目標デューティ比を設定し、目標デューティ比を有する制御信号をオイル制御弁84に送信する。 続いて、油圧制御部601によるオイルポンプ81の吐出量制御及び運転制御部602によるエンジン100の運転制御について図10,11のフローチャートを参照しながら説明する。
ステップS1において、油圧制御部601は、エンジン負荷、エンジン回転速度、油温及び水温を読み込む。油圧制御部601は、ステップS2において、エンジン負荷及びエンジン回転速度等に基づいて、油圧作動装置の作動条件を満たしているか否かを判定する。
油圧作動装置の作動条件を満たしていない場合には、油圧制御部601は、ステップS4において、ベース油圧マップから、エンジン回転速度及び油温に応じたベース油圧P1を求める。
一方、油圧作動装置の作動条件を満たしている場合には、油圧制御部601は、条件を満たしている油圧作動装置に対応する要求油圧P2をマップから読み込む(ステップS3)。その後、油圧制御部601は、ステップS4へ進み、前述のようにベース油圧P1を求める。
そして、油圧制御部601は、ベース油圧P1と要求油圧P2とを比較し、最も高い油圧を目標油圧として設定する(ステップS5)。尚、要求油圧P2が存在しない場合には、油圧制御部601は、ベース油圧P1を目標油圧に設定する。
続いて、油圧制御部601は、目標油圧に油圧低下代を加算して、修正目標油圧を算出し(ステップS6)、修正目標油圧を流量に変換して目標流量(目標吐出量)を求める(ステップS7)。さらに、油圧制御部601は、作動する油圧作動装置に応じて目標流量を補正する(ステップS8)。例えば、油圧制御部601は、目標流量に、VVTの作動時の消費流量、弁停止機構の作動時の消費流量、及び/又は、オイルジェットの作動時の消費流量を加算する。
そして、ステップS9において、油圧制御部601は、目標流量をディーティ比マップに照らし合わせて目標デューティ比を設定する。油圧制御部601は、現在の制御信号のデューティ比(以下、「現在デューティ比」という)を読み込むと共に、現在デューティ比が目標デューティ比と一致するか否かを判定する(ステップS10)。現在デューティ比が目標デューティ比と一致しない場合には、油圧制御部601は、制御信号のデューティ比を目標デューティ比に変更し、該制御信号をオイル制御弁84へ出力する(ステップS11)。その後、油圧制御部601は、ステップS12へ進む。一方、現在デューティ比が目標デューティ比と一致する場合には、油圧制御部601は、ステップS11を経ることなく、ステップS12へ進む。
ステップS12では、油圧制御部601は、油圧センサ50aの油圧(以下、「実油圧」という)を読み込む。そして、油圧制御部601は、実油圧がステップS5の目標油圧と一致するか否かを判定する(ステップS13)。
実油圧と目標油圧とが一致する場合には、油圧制御部601は、ステップS14へ進む。ステップS14では、油圧制御部601は、エンジン負荷、エンジン回転速度及び油温を読み込む。そして、油圧制御部601は、エンジン負荷、エンジン回転速度又は油温がステップS1で読み込んだ値と変わっていないかを判定する(ステップS15)。エンジン負荷、エンジン回転速度及び油温が変わっていない場合には、油圧制御部601は、ステップS12に戻り、実油圧の読み込みからの処理を繰り返す。つまり、エンジン負荷、エンジン回転速度及び油温が変わらない場合には目標油圧も一定なので、油圧制御部601は、実油圧が目標油圧と一致するかの監視を続ける。一方、エンジン負荷、エンジン回転速度及び油温の何れかが変わっている場合には、油圧制御部601は、ステップS2に戻り、ステップS2以降の処理を繰り返す。つまり、油圧制御部601は、目標油圧の設定からやり直す。
ステップS13において実油圧と目標油圧とが一致しない場合には、油圧制御部601は、実油圧と目標油圧との偏差に基づいて制御信号のデューティ比を調整し、その制御信号をオイル制御弁84へ出力する(ステップS16)。そして、油圧制御部601は、油圧センサ50aの実油圧を読み込み(ステップS17)、該実油圧がステップS5の目標油圧と一致するか否かを判定する(ステップS18)。
つまり、ステップS16〜S18においては、油圧制御部601は、制御信号のデューティ比を調整し、実油圧が目標油圧と一致するか否かを確認する。この調整により実油圧が目標油圧と一致するようになった場合には、油圧制御部601は、前述のステップS14へ進む。一方、この調整によっても実油圧と目標油圧とが一致しない場合には、油圧制御部601は、ステップS19へ進み、デューティ比のさらなる調整を実行する。
ステップS19においては、油圧制御部601は、実油圧が目標油圧よりも大きいか否かを判定する。実油圧が目標油圧よりも大きい場合には、油圧制御部601は、オイルポンプ81の吐出量を低減させるべく、制御信号のデューティ比を所定量だけ増加させる(ステップS20)。そして、油圧制御部601は、実油圧を読み込み、実油圧が目標油圧よりも大きい状態が継続しているか否かを判定する(ステップS21)。実油圧が目標油圧よりも大きくない場合には、油圧制御部601は、ステップS18に戻り、実油圧が目標油圧と一致するか否かの判定を行う。一方、実油圧が目標油圧よりもまだ大きい場合には、油圧制御部601は、デューティ比がその上限値となっているか否かを判定する(ステップS22)。デューティ比には、オイル制御弁84からオイルポンプ81へ供給するオイルの流量の調整可能範囲に対応した上限値と下限値とがある。デューティ比が上限値となっていない場合には、油圧制御部601は、ステップS20へ戻り、制御信号のデューティ比を再び所定量だけ増加させる。
このように、実油圧が目標油圧よりも大きい場合には、実油圧が目標油圧以下となるか又はデューティ比が上限値に達するまで、制御信号のデューティ比を所定量ずつ増加させ、実油圧を目標油圧に近づける。実油圧が目標油圧に一致した場合には、デューティ比の調整が一旦終了し、油圧制御部601の処理は、ステップS18を経て、ステップS14へ移行する。
一方、実油圧が目標油圧よりも小さい場合には、油圧制御部601は、制御信号のデューティ比を所定量だけ減少させる(ステップS23)。そして、油圧制御部601は、実油圧を読み込み、実油圧が目標油圧よりも小さい状態が継続しているか否かを判定する(ステップS24)。実油圧が目標油圧よりも小さくない場合には、油圧制御部601は、ステップS18に戻り、実油圧が目標油圧と一致するか否かの判定を行う。一方、実油圧が目標油圧よりもまだ小さい場合には、油圧制御部601は、デューティ比がその下限値となっているか否かを判定する(ステップS25)。デューティ比が下限値となっていない場合には、油圧制御部601は、ステップS23へ戻り、制御信号のデューティ比を再び所定量だけ減少させる。
このように、実油圧が目標油圧よりも小さい場合には、実油圧が目標油圧以上となるか又はデューティ比が下限値に達するまで、制御信号のデューティ比を所定量ずつ減少させ、実油圧を目標油圧に近づける。実油圧が目標油圧に一致した場合には、デューティ比の調整が一旦終了し、油圧制御部601の処理は、ステップS18を経て、ステップS14へ移行する。
こうして、ステップS13において実油圧が目標油圧と一致していない場合には、油圧制御部601は、ステップS16〜S25を実行することによって、制御信号のデューティ比を調整して、実油圧を目標油圧に一致させる。
ところで、オイル供給装置200の不具合により、制御信号のデューティ比を限界まで調整しても、実油圧が目標油圧に一致しない場合があり得る。例えば、オイル制御弁84が正常に作動していない場合には、制御信号のデューティ比を調整しても、オイル制御弁84を介してオイルポンプ81に供給されるオイルの流量がデューティ比の通りには変化しないことがある(場合によっては、全く変化しない)。そのような状態において、デューティ比を増加又は減少させていくと、実油圧が目標油圧に一致することなく、デューティ比が上限値又は下限値に達する。あるいは、給油路5で大きなオイル漏れが生じている場合には、オイルポンプ81の吐出量を上げても実油圧が上がらないので、実油圧が目標油圧に一致することなく、デューティ比が下限値に達する。オイル制御弁84や給油路5でのオイル漏れ以外にも、オイルポンプ81、油圧センサ50a、油圧作動部品及び潤滑部の不具合が生じた場合であっても、前述のように、実油圧が目標油圧に一致することなく、デューティ比が上限値又は下限値に達し得る。
そこで、コントローラ60は、実油圧が目標油圧に一致することなく、デューティ比が上限値又は下限値に達した場合(以下、この状態を「油圧異常」という)には、エンジン100の運転状態を一部制限する。油圧異常としては、実油圧が目標油圧よりも高い場合である高油圧異常と実油圧が目標油圧よりも低い低油圧異常とがあるので、コントローラ60は、実油圧が目標油圧よりも高いか低いかによって、エンジン100の制限運転の内容を変更している。
詳しくは、デューティ比が上限値に達した場合(ステップS22においてYES)は、実油圧が目標油圧よりも高すぎる高油圧異常時である。デューティ比が大きくなるほど、オイル制御弁84を介してオイルポンプ81へ供給されるオイルの流量が増加するので、オイルポンプ81の容量は小さくなる。つまり、デューティ比が上限値に達した場合は、実油圧を低減しようとしているときであり、即ち、実油圧が高すぎる場合である。この場合、運転制御部602は、故障であると判定し(ステップS26)、第1フェールセーフモードに移行する(ステップS27)。
第1フェールセーフモードでは、運転制御部602は、エンジン回転速度が高い、又はエンジン負荷が大きい運転を禁止する。具体的には、図12に示すように、運転制御部602は、エンジン回転速度が所定の第1上限回転速度Vhを超えず且つ、エンジン負荷が所定の第1上限負荷Phを超えない範囲にエンジン100の運転状態を制限する。
オイルポンプ81はエンジン100により駆動されるので、容量が一定であるとすると、エンジン回転速度が増加するほど、オイルポンプ81の吐出量は増加する。そこで、実油圧が目標油圧よりも高く且つ実油圧が制御不能な場合には、運転制御部602は、エンジンの高回転側の運転を制限することによって、オイルポンプ81の吐出量が高くなり過ぎることを抑制する。こうして、オイルポンプ81の吐出量が過大となることをエンジン100の運転制限により抑制することによって、オイル供給装置200におけるオイル漏れ(例えば、オイルフィルタ82等からのオイル漏れ)や油圧作動装置の誤作動を抑制することができる。第1上限回転速度Vhは、実油圧が高すぎる場合に許容される上限のエンジン回転速度であり、第1上限負荷Phは、実油圧が高すぎる場合に許容される上限のエンジン負荷である。
一方、デューティ比が下限値に達した場合(ステップS25においてYES)は、実油圧が目標油圧よりも低すぎる低油圧異常時である。デューティ比が小さくなるほど、オイル制御弁84を介してオイルポンプ81へ供給されるオイルの流量が減少するので、オイルポンプ81の容量は大きくなる。つまり、デューティ比が上限値に達した場合は、実油圧を増加させようとしているときであり、即ち、実油圧が低すぎる場合である。この場合、運転制御部602は、実油圧が所定の下限油圧未満か否かを判定する(ステップS28)。下限油圧は、潤滑部での焼き付き等を考慮して定められた、エンジン100を運転するために必要最低限の油圧である。つまり、実油圧が低すぎる場合には、運転制御部602は、必要最低限の油圧が確保されているか否かを判定する。
そして、実油圧が下限油圧以上である場合には、運転制御部602は、故障であると判定し(ステップS29)、第2フェールセーフモードに移行する(ステップS30)。第2フェールセーフモードは、図13に示すように、第1フェールセールモードと同様に、エンジンの高回転側及び高負荷側の運転を制限する運転モードである。ただし、エンジン100の運転可能範囲の上限回転速度及び上限負荷が、実油圧が低すぎる場合に対応した値に設定されている。具体的には、運転制御部602は、エンジン回転速度が所定の第2上限回転速度Vlを超えず且つ、エンジン負荷が所定の第2上限負荷Plを超えない範囲にエンジン100の運転状態を制限する。第2上限回転速度Vlは、実油圧が低すぎる場合に許容される上限のエンジン回転速度であり、第2上限負荷Plは、実油圧が低すぎる場合に許容される上限のエンジン負荷である。第2上限回転速度Vlは、第1上限回転速度Vhと異なる値であっても、同じ値であってもよい。第2上限負荷Plは、第1上限負荷Phと異なる値であっても、同じ値であってもよい。
このようにエンジンの高回転側及び高負荷側の運転を制限することによって、潤滑部における必要油圧を低減することができる。つまり、エンジン回転速度が高くなるほど、また、エンジン負荷が高くなるほど、潤滑部における必要油圧が高くなる。エンジンの高回転側及び高負荷側の運転を制限することによって、潤滑部における必要油圧を低減することができるので、実油圧が低すぎる場合であっても、潤滑部における潤滑不良の発生を抑制することができる。
一方、実油圧が下限油圧未満である場合には、運転制御部602は、故障であると判定し(ステップS31)、退避モードに移行する(ステップS32)。退避モードは、エンジン100の運転をすぐに停止させることを前提とし、車両を路肩等の安全な場所まで運転できる最低限の走行性を確保した運転モードである。具体的には、退避モードにおいては、運転制御部602は、エンジン回転速度が所定の第3上限回転速度Vxを超えず且つ、エンジン負荷が所定の第3上限負荷Pxを超えない範囲にエンジン100の運転状態を制限する。第3上限回転速度Vxは、第2上限回転速度Vlよりも小さい値である。第3上限負荷Pxは、第2上限負荷Plよりも小さい値である。
それに加えて、運転制御部602は、第1フェールセーフモードの第1上限回転速度Vh及び第2フェールセーフモードの第2上限回転速度Vlを油温に応じて補正する。
詳しくは、オイルポンプ81の容量が最大となった状態で制御不能な場合には、オイルポンプ81の最大油圧Pmaxは、図14に示すように、エンジン回転速度が上昇するほど増加する。そして、エンジン回転速度がVh1になると、最大油圧Pmaxは、上限油圧Plmt1に達する。上限油圧Plmt1は、オイル供給装置200としての許容できる油圧の上限値であり、これを超えるとオイル漏れが生じたり、油圧作動装置が誤作動したりする油圧である。最大油圧Pmaxが上限油圧Plmt1に達するときのエンジン回転速度が、第1フェールセーフモードの第1上限回転速度Vhである。つまり、第1フェールセーフモードでは、最大油圧Pmaxが上限油圧Plmt1に達するエンジン回転速度以下でエンジン100が運転される。
このオイルポンプ81の最大油圧Pmaxは、エンジン回転速度だけでなく、油温によっても変化する。油温が上昇するほどオイルの粘度が低下するので、オイルポンプ81の吐出効率が低下する。つまり、エンジン回転速度が同じであっても、最大油圧Pmaxは、油温が高いほど小さくなる。また、エンジン回転速度に対する最大油圧Pmaxの変化率(傾き)は、油温が高くなるほど小さくなる。その結果、第1上限回転速度Vhは、油温が高いほど大きくなる。図14の例で説明すると、油温がT1からT2へ上昇すると、エンジン回転速度に対する最大油圧Pmaxの変化率は小さくなり、第1上限回転速度がVh1からVh2へ増大する。
これに対応させて、運転制御部602は、図12に示すように、油温が上昇するほど、第1フェールセーフモードの第1上限回転速度Vhを大きくする。これにより、第1フェールセーフモードにおけるエンジン100の運転可能範囲は、油温が高くなるほど高回転側に拡大される。
一方、オイルポンプ81の容量が最小となった状態で制御不能な場合には、オイルポンプ81の最小油圧Pminは、図14に示すように、エンジン回転速度が微小なときを除いて、エンジン回転速度によらず略一定となる。この最小油圧Pminが、オイル供給装置200としての許容できる油圧の下限値である下限油圧Plmt2よりも大きければ、エンジン100を問題無く運転することが可能である。しかしながら、下限油圧Plmt2は、図14に示すように、エンジン回転速度に応じて変化する。詳しくは、下限油圧Plmt2は、エンジン回転速度が上昇するほど高くなる。つまり、エンジン回転速度が上昇するほど、潤滑部における必要油圧が高くなるので、それに合わせて、下限油圧Plmt2も高くなる。そのため、エンジン回転速度が低いときには、最小油圧Pminが下限油圧Plmt2よりも大きいが、エンジン回転速度が大きくなると、最小油圧Pminが下限油圧Plmt2を下回るようになる。最小油圧Pminが下限油圧Plmt2に達するときのエンジン回転速度が、第2フェールセーフモードの第2上限回転速度Vlである。つまり、第2フェールセーフモードでは、最小油圧Pminが下限油圧Plmt2に達するエンジン回転速度以下でエンジン100が運転される。
この下限油圧Plmt2は、エンジン回転速度だけでなく、油温によっても変化する。油温が低下するほどオイルの粘度が上昇するので、潤滑部における油膜が確保されやすくなる。つまり、油温が低下するほど潤滑部における必要油圧が小さくなるので、エンジン回転速度が同じであっても、下限油圧Plmt2は、油温が低いほど小さくなる。その結果、第2上限回転速度Vlは、油温が低いほど大きくなる。図14の例で説明すると、油温がT3からT4へ低下すると、第2上限回転速度がVl3からVl4へ増大する。
これに対応させて、運転制御部602は、図13に示すように、油温が低下するほど、第2フェールセーフモードの第2上限回転速度Vlを大きくする。これにより、第2フェールセーフモードにおけるエンジン100の運転可能範囲は、油温が低くなるほど高回転側に拡大される。
以上のように、運転制御部602は、油圧異常時には、エンジン回転速度が第1上限回転速度Vh又は第2上限回転速度Vlを超えない範囲にエンジン100の運転状態を制限する。これにより、オイル漏れ、油圧作動装置の誤作動、又は、潤滑部の潤滑不良等の油圧の制御不良に起因する不具合が抑制される。さらに、このとき、運転制御部602は、第1上限回転速度Vh又は第2上限回転速度Vlを油温に応じて補正する。つまり、油温異常時であっても、エンジン100の運転可能範囲は油温に応じて変化する。そこで、運転制御部602は、油圧異常時にエンジン100の運転状態を一律に制限するのではなく、制限するエンジン100の運転範囲を油温に応じて適宜調整する。これにより、油温異常時には、エンジン100の運転状態が油温に応じて適切に制限され、エンジンの運転状態が不必要に制限されることが防止される。その結果、車両の走行性を確保することができる。
《その他の実施形態》
以上のように、本出願において開示する技術の例示として、前記実施形態を説明した。しかしながら、本開示における技術は、これに限定されず、適宜、変更、置き換え、付加、省略などを行った実施の形態にも適用可能である。また、上記実施形態で説明した各構成要素を組み合わせて、新たな実施の形態とすることも可能である。また、添付図面および詳細な説明に記載された構成要素の中には、課題解決のために必須な構成要素だけでなく、上記技術を例示するために、課題解決のためには必須でない構成要素も含まれ得る。そのため、それらの必須ではない構成要素が添付図面や詳細な説明に記載されていることをもって、直ちに、それらの必須ではない構成要素が必須であるとの認定をするべきではない。
前記実施形態について、以下のような構成としてもよい。
例えば、前記実施形態では、オイルポンプ81は、可変容量型のオイルポンプに限られるものではない。オイルポンプ81は、容量が固定されたオイルポンプであってもよい。この場合、給油路5には、リリーフ弁が設けられている。オイル供給装置200は、このリリーフ弁により、給油路5の実油圧が所定の上限油圧以下となるように制御される。つまり、リリーフ弁が油圧制御装置として機能する。
また、オイルポンプ81は、クランクシャフト26により駆動されるのではなく、電動オイルポンプであってもよい。
また、運転制御部602は、デューティ比が上限値又は下限値となった場合に、高油圧異常又は低油圧異常であると判定し、第1フェールセーフモード、第2フェールセーフモード及び退避モードの何れかに移行するように構成されている。しかし、運転制御部602は、デューティ比が上限値又は下限値となった状態が所定期間、継続したことをもって、高油圧異常又は低油圧異常であると判定するようにしてもよい。
さらに、運転制御部602は、第1フェールセーフモード及び第2フェールセーフモードにおいて、エンジン100の運転領域の上限回転速度を油温に応じて補正しているが、エンジン100の運転領域の上限負荷も油温に応じて補正してもよい。例えば、第1フェールセーフモードにおいて、運転制御部602は、エンジン100の運転領域の第1上限負荷Phを油温が上昇するほど大きくしてもよい。また、第2フェールセーフモードにおいて、運転制御部602は、エンジン100の運転領域の第2上限負荷Plを油温が低下するほど大きくしてもよい。