JP2017057358A - 熱硬化性粉体塗料及び塗装方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】熱硬化性樹脂及び熱硬化剤を含有する粉体粒子を含み、体積粒度分布指標GSDvが1.20未満であり、平均円形度が0.96以上である、熱硬化性粉体塗料。
【選択図】なし
Description
熱硬化性樹脂及び熱硬化剤を含有する粉体粒子を含み、体積粒度分布指標GSDvが1.20未満であり、平均円形度が0.96以上である、熱硬化性粉体塗料。
体積平均粒径が3μm以上10μm以下である、請求項1に記載の熱硬化性粉体塗料。
パウダーレオメータにより測定されるトータルエネルギー量が10mJ以上80mJ以下である、請求項1又は請求項2に記載の熱硬化性粉体塗料。
さらに外部添加剤を含む、請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の熱硬化性粉体塗料。
非導電性部材の被塗装面に正又は負の電荷を付与する電荷付与工程と、
請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の熱硬化性粉体塗料を、前記非導電性部材に付与した前記電荷と逆極性に帯電させ、前記非導電性部材に静電塗装する静電塗装工程と、
静電塗装した前記熱硬化性粉体塗料を前記非導電性部材に焼き付ける焼付け工程と、
を含む、熱硬化性粉体塗料を非導電性部材に塗装する塗装方法。
前記電荷付与工程が、コロナ放電により正又は負の電荷を付与する工程である、請求項5に記載の塗装方法。
前記静電塗装工程が、前記熱硬化性粉体塗料を摩擦帯電させることを含む、請求項5又は請求項6に記載の塗装方法。
本実施形態に係る熱硬化性粉体塗料(以下、「粉体塗料」ともいう。)は、熱硬化性樹脂及び熱硬化剤を含有する粉体粒子を含み、体積粒度分布指標GSDvが1.20未満であり、平均円形度が0.96以上である。
本実施形態に係る粉体塗料は、非導電性部材への静電塗装においても、平滑性に優れ且つ厚さの均一性が高い塗膜を形成する。
また、水蒸気を当てて被塗装面の水分量を調整して帯電させる技術も知られている。しかし、被塗装面に水蒸気を当てると、焼付け工程において被塗装面から水蒸気が発生し、塗膜の平滑性を低下させることがある。
ほかに、非導電性部材の被塗装面を帯電させる技術としては、コロナ放電等により電荷を付与する技術がある。この技術は、導電プライマーの下塗りや水蒸気処理に起因する上記事象が生じない点では望ましい。ただし、この技術においては、導電プライマーの塗布に比べると被塗装面の帯電が弱いので、被塗装面に粉体塗料がより確実に到達するように、塗装装置の搬送エアー量を上げる方策が採られることがある。しかし、塗装装置の搬送エアー量を上げると、粉体粒子の被塗装面への付着が安定せず、その結果、塗膜の平滑性が低下し、また、塗膜の厚さの均一性が低下することがある。
本実施形態に係る粉体塗料は、粉体塗料の体積粒度分布指標GSDv及び平均円形度が上記範囲であることから、粉体塗料を構成する粉体粒子の粒度分布が狭く、粗粉及び微粉が少ない状態であり、且つ粉体粒子の形状が球状に近いため、下記の機序により、非導電性部材への静電塗装においても、平滑性に優れ且つ厚さの均一性が高い塗膜を形成すると推測される。
本実施形態において粉体粒子は、粒度分布が狭く且つ形状が球状に近いため、帯電(例えば摩擦帯電)が安定して行われるので粒子間の帯電量のバラツキが小さい。加えて、粉体粒子の微粉が少なく且つ粉体粒子の形状が球状に近いため、粉体粒子同士の凝集(ブロッキング)が発生しにくいことから、塗装装置から吐出されやすく、また被塗装面に付着しやすい。
以上のことから、本実施形態において粉体粒子は、被塗装面に均一性高く付着し、結果、平滑性に優れ且つ厚さの均一性が高い塗膜を形成する。
そして、本実施形態において粉体粒子は、粒子間の帯電量のバラツキが小さく、また、凝集しにくいことから、被塗装面の帯電が比較的弱い場合でも粉体粒子が被塗装面に付着しやすいので、非導電性部材の被塗装面を帯電させる方式として、コロナ放電等により電荷を付与する技術を採用することができる。被塗装面に対する導電プライマーの下塗りや水蒸気処理を要せず、また、粉体塗料を吐出する際の塗装装置の搬送エアー量をそれほど多くすることを要しないので、これら処理に起因する塗膜の平滑性低下が生じない。
・粉体粒子の粗粉が少ないので、塗膜表面に粗粉に起因する凹凸が発生しにくい。
・粉体粒子の微粉が少ないので、粉体粒子の流動性が良好である。
・粉体粒子の形状が球状に近いため、粉体粒子の流動性が良好である。
・粉体粒子の形状が球状に近いため、粉体粒子間に空隙が形成されにくく、塗膜表面に凹凸が発生しにくい。
−体積平均粒径D50v−
粉体塗料の体積平均粒径D50vは、塗膜の厚さの均一性を高める観点から、3μm以上10μm以下が好ましく、4μm以上10μm以下がより好ましく、4μm以上8μm以下が更に好ましく、5μm以上7μm以下が更に好ましい。
粉体塗料の体積粒度分布指標GSDvは、塗膜の平滑性を良化する観点から、1.20未満であり、1.19以下がより好ましく、1.18以下が更に好ましい。
粉体塗料の平均円形度は、塗膜の平滑性を良化する観点から、0.96以上であり、0.97以上がより好ましく、0.98以上が更に好ましい。
測定に際しては、分散剤として、界面活性剤(アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウムが好ましい)の5質量%水溶液2ml中に測定試料を0.5mg以上50mg以下加える。これを電解液100ml以上150ml以下中に添加する。
試料を懸濁した電解液は超音波分散器で1分間分散処理を行い、コールターマルチサイザーIIにより、アパーチャー径として100μmのアパーチャーを用いて2μm以上60μm以下の範囲の粒径の粒子の粒度分布を測定する。サンプリングする粒子数は50000個である。
測定される粒度分布を基にして分割された粒度範囲(チャンネル)に対して体積基準の累積分布を小径側から描いて、累積16%となる粒径を体積粒径D16v、累積50%となる粒径を体積平均粒径D50v、累積84%となる粒径を体積粒径D84vと定義する。体積粒度分布指標GSDvは(D84v/D16v)1/2として算出される。
粉体塗料のパウダーレオメータにより測定されるトータルエネルギー量は、平滑性に優れ且つ厚さの均一性が高い塗膜を形成する観点から、10mJ以上80mJ以下が好ましく、15mJ以上70mJ以下がより好ましく、20mJ以上60mJ以下が更に好ましい。
また、誤差による影響を少なくするため、このコンディショニングとエネルギー測定操作のサイクルを5回行って得られた平均値を、トータルエネルギー量(mJ)とする。
本実施形態に係る粉体塗料は、熱硬化性樹脂及び熱硬化剤を含有する粉体粒子を含む。本実施形態に係る粉体塗料は、前記粉体粒子に着色剤を含まない透明粉体塗料(クリア塗料)、及び前記粉体粒子に着色剤を含む着色粉体塗料のいずれであってもよい。
粉体粒子の体積粒度分布指標GSDvは、塗膜の平滑性を良化する観点から、1.20未満が好ましく、1.19以下がより好ましく、1.18以下が更に好ましい。
粉体粒子の平均円形度は、塗膜の平滑性を良化する観点から、0.96以上が好ましく、0.97以上がより好ましく、0.98以上が更に好ましい。
なお、粉体粒子の体積平均粒径D50v、体積粒度分布指標GSDv及び平均円形度は、粉体塗料について説明した測定方法と同様の方法により測定される。
粉体粒子は、熱硬化性樹脂と熱硬化剤とを含有する。粉体粒子が芯部と樹脂被覆部とを有する構造である場合、芯部が熱硬化性樹脂及び熱硬化剤を含んでいてもよい。芯部は、着色剤等のその他添加剤を含んでいてもよい。
熱硬化性樹脂は、熱硬化反応性基を有する樹脂である。熱硬化性樹脂としては、粉体塗料の粉体粒子に従来使用されている様々な種類の樹脂が挙げられる。
熱硬化性樹脂は、非水溶性(疎水性)の樹脂であることがよい。熱硬化性樹脂として非水溶性(疎水性)の樹脂を適用すると、粉体塗料(粉体粒子)の帯電特性の環境依存性が低減される。また、粉体粒子を凝集合一法で作製する場合、水性媒体中で乳化分散を実現する点からも、熱硬化性樹脂は、非水溶性(疎水性)の樹脂であることがよい。非水溶性(疎水性)とは、25℃の水100質量部に対する対象物質の溶解量が5質量部未満であることを意味する。
熱硬化性(メタ)アクリル樹脂は、熱硬化反応性基を有する(メタ)アクリル樹脂である。熱硬化性(メタ)アクリル樹脂への熱硬化反応性基の導入は、熱硬化反応性基を有するビニル単量体を用いることがよい。熱硬化反応性基を有するビニル単量体は、(メタ)アクリル単量体((メタ)アクリロイル基を有する単量体)であってもよいし、(メタ)アクリル単量体以外のビニル単量体であってもよい。
他のビニル単量体としては、各種のα−オレフィン(例えば、エチレン、プロピレン、ブテン−1等)、フルオロオレフィンを除く各種のハロゲン化オレフィン(例えば、塩化ビニル、塩化ビニリデン等)、各種の芳香族ビニル単量体(例えば、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン等)、各種の不飽和ジカルボン酸と炭素数1以上18以下の1価アルコールとのジエステル(例えば、フマル酸ジメチル、フマル酸ジエチル、フマル酸ジブチル、フマル酸ジオクチル、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル、マレイン酸ジブチル、マレイン酸ジオクチル、イタコン酸ジメチル、イタコン酸ジエチル、イタコン酸ジブチル、イタコン酸ジオクチル等)、各種の酸無水基含有単量体(例えば、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸、無水(メタ)アクリル酸、無水テトラヒドロフタル酸等)、各種のリン酸ステル基含有単量体(例えば、ジエチル−2−(メタ)アクリロイルオキシエチルフォスフェート、ジブチル−2−(メタ)アクリロイルオキシブチルフォスフェート、ジオクチル−2−(メタ)アクリロイルオキシエチルフォスフェート、ジフェニル−2−(メタ)アクリロイルオキシエチルフォスフェート等)、各種の加水分解性シリル基含有単量体(例えば、γ−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン、γ−(メタ)アクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシラン等)、各種の脂肪族カルボン酸ビニル(例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、カプロン酸ビニル、カプリル酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、炭素原子数9以上11以下の分岐状脂肪族カルボン酸ビニル、ステアリン酸ビニル等)、環状構造を有するカルボン酸の各種のビニルエステル(例えば、シクロヘキサンカルボン酸ビニル、メチルシクロヘキサンカルボン酸ビニル、安息香酸ビニル、p−tert−ブチル安息香酸ビニル等)などが挙げられる。
熱硬化性ポリエステル樹脂は、例えば、多塩基酸と多価アルコールとを少なくとも重縮合した重縮合体である。熱硬化性ポリエステル樹脂への熱硬化反応性基の導入は、多塩基酸と多価アルコールとの使用量を調整することにより行う。この調整により、熱硬化反応性基として、カルボキシル基及び水酸基の少なくとも一方を有する熱硬化性ポリエステル樹脂が得られる。
他の単量体としては、例えば、一分子中にカルボキシル基と水酸基とを併せ有する化合物(例えば、ジメタノールプロピオン酸、ヒドロキシピバレート等)、モノエポキシ化合物(例えば、「カージュラE10(シェル社)」等の分岐脂肪族カルボン酸のグリシジルエステル)など)、種々の1価アルコール(例えば、メタノール、プロパノール、ブタノール、ベンジルアルコール等)、種々の1価の塩基酸(例えば、安息香酸、p−tert−ブチル安息香酸等)、種々の脂肪酸(例えば、ひまし油脂肪酸、ヤシ油脂肪酸、大豆油脂肪酸の等)等が挙げられる。
熱硬化性樹脂のガラス転移温度(Tg)は、示差走査熱量測定(DSC)により得られたDSC曲線より求める。具体的にはJIS K7121−1987「プラスチックの転移温度測定方法」のガラス転移温度の求め方に記載の「補外ガラス転移開始温度」により求める。
芯部は、非硬化性樹脂を含んでいてもよい。但し、芯部において全樹脂に占める非硬化性樹脂の割合は、塗膜の硬化密度(架橋密度)向上の観点から、5質量%以下が好ましく、1質量%以下がより好ましく、実質的に含まれていないことが好ましい。即ち、芯部に含まれる樹脂は、熱硬化性樹脂のみであることが好ましい。
芯部が非硬化性樹脂を含む場合、非硬化性樹脂としては、(メタ)アクリル樹脂及びポリエステル樹脂からなる群から選択される少なくとも一種が好ましい。
熱硬化剤は、熱硬化性樹脂の熱硬化反応性基の種類に応じて選択する。
具体的には、熱硬化性樹脂の熱硬化反応性基がエポキシ基の場合、熱硬化剤としては、例えば、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、エイコサン二酸、マレイン酸、シトラコン酸、イタコン酸、グルタコン酸、フタル酸、トリメリット酸、ピロメリット酸、テトラヒドロフタル酸、ヘキサヒドロフタル酸、シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸、トリメリット酸、ピロメリット酸等の酸;これら酸の無水物;これらの酸のウレタン変性物;などが挙げられる。これらの中でも、熱硬化剤としては、塗膜物性及び貯蔵安定性の観点から、脂肪族二塩基酸が好ましく、塗膜物性の点から、ドデカン二酸が特に好ましい。
着色剤としては、例えば、顔料が挙げられる。着色剤は、顔料と共に染料を併用してもよい。
顔料としては、例えば、酸化鉄(例えば、ベンガラ等)、酸化チタン、チタン黄、亜鉛華、鉛白、硫化亜鉛、リトポン、酸化アンチモン、コバルトブルー、カーボンブラック等の無機顔料;キナクリドンレッド、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン、パーマネントレッド、ハンザイエロー、インダンスレンブルー、ブリリアントファーストスカーレット、ベンツイミダゾロンイエロー等の有機顔料;などが挙げられる。
顔料としては、その他、光輝性顔料も挙げられる。光輝性顔料としては、例えば、パール顔料、アルミニウム粉、ステンレス鋼粉等の金属粉;金属フレーク;ガラスビーズ;ガラスフレーク;雲母;リン片状酸化鉄(MIO);などが挙げられる。
その他添加剤としては、粉体塗料に使用される各種の添加剤が挙げられる。具体的には、その他添加剤としては、例えば、表面調整剤(シリコーンオイル、アクリルオリゴマー等)、発泡(ワキ)防止剤(例えば、ベンゾイン、ベンゾイン誘導体等)、硬化促進剤(アミン化合物、イミダゾール化合物、カチオン重合触媒等)、可塑剤、帯電制御剤、酸化防止剤、顔料分散剤、難燃剤、流動付与剤等が挙げられる。
樹脂被覆部は、樹脂を含む。樹脂被覆部は、樹脂のみで構成されていてもよいし、他の添加剤(芯部で説明した熱硬化剤、その他添加剤等)を含んでいてもよい。樹脂被覆部は、粉体粒子表面のブリード発生を低減する観点から、樹脂のみで構成されていることがよい。樹脂被覆部が他の添加剤を含む場合でも、樹脂が樹脂被覆部全体の90質量%以上(好ましくは95質量%以上)を占めることがよい。
上記条件で得られたスペクトルから、粉体粒子表面の芯部の材料に起因する成分と被覆樹脂部の材料に起因する成分とをピーク分離することによって、樹脂被覆部の被覆率を定量する。ピーク分離は、測定されたスペクトルを、最小二乗法によるカーブフィッティングを用いて各成分に分離する。ピーク分離のベースとなる成分スペクトルは、粉体粒子の作製に用いた、芯部の樹脂、硬化剤、顔料、添加剤、樹脂被覆部の樹脂を単独に測定して得られたスペクトルを用いる。そして、全スペクトル強度の総和に対する樹脂被覆部の樹脂に起因するスペクトル強度の比率から、被覆率を求める。
樹脂被覆部の厚さは、次の方法により測定される値である。粉体粒子をエポキシ樹脂等に包埋し、ダイヤモンドナイフ等で切削することで薄切片を作製する。この薄切片を透過型電子顕微鏡(TEM)等で観察し、複数の粉体粒子の断面画像を撮影する。粉体粒子の断面画像から樹脂被覆部の厚さを20か所測定して、その平均値を採用する。クリア塗料などの断面画像において樹脂被覆部と芯部との区別が難しい場合は、染色を行って観察することで、測定を容易にすることもできる。
粉体粒子には、2価以上の金属イオン(以下、単に「金属イオン」とも言う。)を含むことがよい。この金属イオンは、粉体粒子が芯部と樹脂被覆部とを有する構造である場合には、芯部及び樹脂被覆部のいずれに含まれていてもよい。2価以上の金属イオンは、粉体粒子に含まれる樹脂が有するカルボキシル基又は水酸基と相互作用しイオン架橋を形成する。このイオン架橋により、粉体粒子表面への各種成分のブリードが抑制され、粉体塗料の保管性が向上する。このイオン架橋は、熱硬化をする際の加熱により、イオン架橋の結合が切れるので、2価以上の金属イオンが含まれていても粉体粒子の溶融粘度を高めることはなく、塗膜の平滑性を低下させる懸念がない。
無機金属塩重合体としては、例えば、ポリ塩化アルミニウム、ポリ水酸化アルミニウム、ポリ硫酸鉄(II)、多硫化カルシウム等が挙げられる。
金属錯体としては、例えば、アミノカルボン酸の金属塩等が挙げられる。金属錯体として、具体的には、例えば、エチレンジアミン四酢酸、プロパンジアミン四酢酸、ニトリル三酢酸、トリエチレンテトラミン六酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸等の公知のキレート酸をベースにした金属塩(例えば、カルシウム塩、マグネシウム塩、鉄塩、アルミニウム塩等)などが挙げられる。
金属イオンの含有量を0.002質量%以上とすると、金属イオンによるイオン架橋が適度に形成され、粉体粒子表面のブリード発生を抑え、塗装塗料の保管性が高まる。一方、金属イオンの含有量を0.2質量%以下とすると、金属イオンによるイオン架橋の過剰な形成が起らず、塗膜の平滑性に優れる。
外部添加剤は、粉体粒子間の凝集の発生を抑制する。これにより、少量の粉体塗料で平滑性の高い塗膜を形成し得る。外部添加剤の具体例としては、例えば、無機粒子が挙げられる。無機粒子として、SiO2、TiO2、Al2O3、CuO、ZnO、SnO2、CeO2、Fe2O3、MgO、BaO、CaO、K2O、Na2O、ZrO2、CaO・SiO2、K2O・(TiO2)n、Al2O3・2SiO2、CaCO3、MgCO3、BaSO4、MgSO4等の粒子が挙げられる。
次に、本実施形態に係る粉体塗料の製造方法について説明する。
本実施形態に係る粉体塗料は、粉体粒子を製造後、必要に応じて粉体粒子に外部添加剤を外添すること、必要に応じて分級することで得られる。
熱硬化性樹脂を含む第1樹脂粒子及び熱硬化剤が分散された分散液中で、前記第1樹脂粒子と前記熱硬化剤とを凝集して、又は、熱硬化性樹脂及び熱硬化剤を含む複合粒子が分散された分散液中で、前記複合粒子を凝集して、第1凝集粒子を形成する工程と、
前記第1凝集粒子が分散された第1凝集粒子分散液と、樹脂を含む第2樹脂粒子が分散された第2樹脂粒子分散液とを混合し、前記第1凝集粒子の表面に前記第2樹脂粒子を凝集して、前記第2樹脂粒子が前記第1凝集粒子の表面に付着した第2凝集粒子を形成する工程と、
前記第2凝集粒子が分散された第2凝集粒子分散液に対して加熱して、前記第2凝集粒子を融合及び合一する工程と、
を経て、粉体粒子を製造することが好ましい。
この凝集合一法により製造された粉体粒子は、第1凝集粒子が融合合一した部分が芯部となり、第1凝集粒子の表面に付着した第2樹脂粒子が融合合一した部分が樹脂被覆部となる。
まず、凝集合一法で使用する各分散液を準備する。具体的には、芯部の熱硬化性樹脂を含む第1樹脂粒子が分散された第1樹脂粒子分散液、熱硬化剤が分散された熱硬化剤分散液、着色剤が分散された着色剤分散液、樹脂被覆部の樹脂を含む第2樹脂粒子が分散された第2樹脂粒子分散液を準備する。
または、第1樹脂粒子分散液及び熱硬化剤が分散された熱硬化剤分散液に代えて、芯部の熱硬化性樹脂及び熱硬化剤を含む複合粒子が分散された複合粒子分散液を準備する。
以下、第1樹脂粒子、第2樹脂粒子及び複合粒子を「樹脂粒子」と総称して説明する。
水性媒体としては、例えば、蒸留水、イオン交換水等の水、アルコール類等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
界面活性剤は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
転相乳化法とは、分散すべき樹脂をその樹脂が可溶な疎水性有機溶剤中に溶解せしめ、有機連続相(O相)に塩基を加えて中和したのち、水性媒体(W相)を投入することによって、W/OからO/Wへの樹脂の変換(いわゆる転相)が行われて不連続相化し、樹脂を水性媒体中に粒子状に分散する方法である。
ポリエステル樹脂粒子分散液の場合、ポリエステル樹脂を構成する単量体を加熱溶融し減圧下で重縮合させ、得られた重縮合体に溶剤(例えば、酢酸エチル等)を加え溶解し、さらに弱アルカリ性水溶液を加えながら攪拌し転相乳化することによって、ポリエステル樹脂粒子が分散された樹脂粒子分散を得る。
樹脂粒子の体積平均粒径は、レーザ回折式粒度分布測定装置(例えば、LA−700、堀場製作所)の測定によって得られた粒度分布を用い、分割された粒度範囲(チャンネル)に対し、体積について小粒径側から累積分布を描き、全粒子に対して体積50%となる粒径を体積平均粒径D50vとする。他の分散液中の粒子の体積平均粒径も同様に測定される。
次に、第1樹脂粒子分散液と、熱硬化剤分散液と、着色剤分散液と、を混合する。
そして、混合分散液中で、第1樹脂粒子と熱硬化剤と着色剤とをヘテロ凝集させ目的とする粉体粒子の径に近い径を有する、第1樹脂粒子と熱硬化剤と着色剤とを含む第1凝集粒子を形成する。
凝集終了後、凝集剤の金属イオンと錯体又は類似の結合を形成する添加剤を必要に応じて用いてもよい。この添加剤としては、キレート剤が好適に用いられる。このキレート剤の添加により、凝集剤を過剰に添加した場合、粉体粒子の金属イオンの含有量の調整が実現される。
キレート剤の添加量は、例えば、樹脂粒子100質量部に対して0.01質量部以上5.0質量部以下が好ましく、0.1質量部以上3.0質量部未満がより好ましい。
次に、得られた第1凝集粒子が分散された第1凝集粒子分散液と、第2樹脂粒子分散液とを混合する。第2樹脂粒子は第1樹脂粒子と同種であってもよいし、異種であってもよい。
次に、第2凝集粒子が分散された第2凝集粒子分散液に対して、例えば、第1及び第2樹脂粒子のガラス転移温度以上(例えば、第1及び第2樹脂粒子のガラス転移温度より10から30℃高い温度以上)に加熱して、第2凝集粒子を融合合一し、粉体粒子を形成する。
本実施形態に係る粉体塗料を用いた塗装方法の一実施形態を説明する。
本実施形態に係る塗装方法は、本実施形態に係る粉体塗料を用いることにより、平滑性に優れ且つ厚さの均一性が高い塗膜を形成する。
電荷付与工程は、非導電性部材の被塗装面に正又は負の電荷を付与する工程である。非導電性部材の被塗装面に対する電荷付与の方式としては、具体的には、コロナ放電、金属材料との接触による接触帯電などが挙げられ、コロナ放電が好ましい。
静電塗装工程は、粉体塗料を、非導電性部材に付与した電荷と逆極性に帯電させ、非導電性部材に静電塗装する工程である。粉体塗料の帯電方式としては、摩擦帯電方式またはコロナ帯電方式のいずれでもよく、より平滑性に優れた塗膜を形成する観点から、摩擦帯電方式が好ましい。
焼付け工程は、静電塗装した粉体塗料を非導電性部材に焼き付ける工程である。本工程は、粉体塗料を塗装した被塗装面を加熱して粉体塗料を硬化させた塗膜を形成する。静電塗装工程と焼付け工程とは、一括して行ってもよい。
焼付け工程における加熱時間(焼付時間)は、加熱温度(焼付温度)に応じて調節する。加熱時間(焼付時間)は、例えば20分間以上60分間以下である。
・シアン顔料(C. I. Pigment Blue 15:3(銅フタロシアニン)、大日精化工業)
:100部
・アニオン界面活性剤(ネオゲンRK、第一工業製薬): 15部
・イオン交換水 :285部
上記の材料を混合し、高圧衝撃式分散機アルティマイザー(HJP30006、スギノマシン)を用いて1時間分散して、固形分濃度25質量%の着色剤分散液C1を調製した。着色剤分散液C1は、シアン顔料の体積平均粒径が0.13μmであった。
シアン顔料をマゼンタ顔料(キナクリドン系顔料、クロモファインマゼンタ6887、大日精化工業)に変更した以外は着色剤分散液C1の調製と同様にして、固形分濃度25質量%の着色剤分散液M1を調製した。着色剤分散液M1は、マゼンタ顔料の体積平均粒径が0.14μmであった。
シアン顔料をイエロー顔料(Paliotol Yellow D1155、BASF社)に変更した以外は着色剤分散液C1の調製と同様にして、固形分濃度25質量%の着色剤分散液Y1を調製した。着色剤分散液Y1は、イエロー顔料の体積平均粒径が0.13μmであった。
シアン顔料をブラック顔料(Regal33、キャボット社)に変更した以外は着色剤分散液C1の調製と同様にして、固形分濃度25質量%の着色剤分散液K1を調製した。着色剤分散液K1は、ブラック顔料の体積平均粒径が0.11μmであった。
・酸化チタン(A−220、石原産業) :100部
・アニオン界面活性剤(ネオゲンRK、第一工業製薬): 15部
・イオン交換水 :285部
上記の材料を混合し、高圧衝撃式分散機アルティマイザー(HJP30006、スギノマシン)を用いて3時間分散して、固形分濃度25質量%の着色剤分散液W1を調製した。着色剤分散液W1は、酸化チタンの体積平均粒径が0.25μmであった。
・テレフタル酸 :742部(100モル%)
・ネオペンチルグリコール:312部(62モル%)
・エチレングリコール :59.4部(20モル%)
・グリセリン :90部(18モル%)
・ジブチル錫オキサイド :0.5部
上記の材料を攪拌機、温度計、窒素ガス導入口、及び精留塔を備えた反応容器に仕込み、窒素雰囲気下で攪拌しながら240℃に昇温し、重縮合反応を行った。
コンデンサー、温度計、水滴下装置、及びアンカー翼を備えたジャケット付き3リットル反応槽(BJ−30N、東京理化器械)を水循環式恒温槽にて40℃に維持しながら、該反応槽に酢酸エチル180部とイソプロピルアルコール80部との混合溶剤を投入し、これに下記の材料を投入した。
・ポリエステル樹脂PE1 :240部
・熱硬化剤(VESTAGON B1530、エボニック社) : 60部
・ベンゾイン : 3部
・アクリルオリゴマー(アクロナール4F、BASF社) : 3部
得られた乳化液800部とイオン交換水700部とを2リットルのナスフラスコに入れ、トラップ球を介して真空制御ユニットを備えたエバポレーター(東京理化器械)にセットした。ナスフラスコを回転させながら、60℃の湯バスで加温し、突沸に注意しつつ7kPaまで減圧し溶剤を除去した。溶剤回収量が1100部になった時点で常圧に戻し、ナスフラスコを水冷して、熱硬化性ポリエステル樹脂及び熱硬化剤を含有する複合粒子の分散液を得た。得られた分散液に溶剤臭は無かった。
ポリエステル樹脂PE1を300部とし、熱硬化剤、ベンゾイン、アクリルオリゴマーを加えなかった以外は、複合粒子分散液1を調製する条件と同様にして、ポリエステル樹脂粒子分散液1を得た。
−凝集工程−
・複合粒子分散液1:325部(固形分65部)
・着色剤分散液C1: 3部(固形分0.75部)
・着色剤分散液W1:150部(固形分37.5部)
上記の材料を丸型ステンレス製フラスコ中においてホモジナイザー(ウルトラタラックスT50、IKA社)で混合し分散した。次いで、1.0質量%硝酸水溶液を用いてpHを2.5に調整した。これに10質量%ポリ塩化アルミニウム水溶液0.50部を加え、ホモジナイザーで分散操作を継続した。
攪拌機及びマントルヒーターを設置し、スラリーが充分に攪拌するように攪拌機の回転数を調整しながら、50℃まで昇温し、50℃で15分間保持した後、体積平均粒径が5.5μmとなったところで、ポリエステル樹脂粒子分散液1を100部(固形分20部)ゆっくりと投入した。次いで、10質量%ニトリロ三酢酸金属塩水溶液(キレスト70、キレスト社)を40部加え、その後、5質量%水酸化ナトリウム水溶液を用いてpHを6.0に調整した。
pH調整の後、30分間保持し、その後、85℃まで昇温し1.5時間保持した。光学顕微鏡で、分散液中の粒子がほぼ球形化していることを確認した。
融合合一工程の終了後、フラスコ内の溶液を冷却し、濾過することにより固形分を得た。次に、この固形分を、イオン交換水で十分に洗浄した後、ヌッチェ式吸引濾過で固液分離し、再度固形分を得た。次に、この固形分を40℃のイオン交換水3リットル中に再分散し、回転数300rpmで15分間攪拌し洗浄した。この洗浄操作を5回繰り返し、ヌッチェ式吸引濾過で固液分離して得られた固形分を12時間真空乾燥させ、これを着色粉体粒子C1とした。
着色粉体粒子C1に対して、正帯電性外部添加剤として疎水性シリカ粒子TG820F(キャボット社製、一次粒径8nm)0.6質量%を混合して、体積粒度分布指標GSDvが1.20未満となるまで分級を繰返し、着色粉体塗料C1を得た。着色粉体塗料C1について、既述の測定方法により物性を測定した。
凝集工程において10質量%ニトリロ三酢酸金属塩水溶液を用いず、また10質量%ポリ塩化アルミニウム水溶液の量を1.8部に変更した以外は、実施例C1と同様にして、着色粉体粒子C2及び着色粉体塗料C2を作製した。
融合合一工程において85℃まで昇温し1.2時間保持したこと以外は、実施例C1と同様にして、着色粉体粒子C3及び着色粉体塗料C3を作製した。
凝集工程において10質量%ニトリロ三酢酸金属塩水溶液を用いず、また10質量%ポリ塩化アルミニウム水溶液の量を2.2部に変更し、融合合一工程において50℃まで昇温し50℃で15分間保持し、その後32℃として32℃で15分間保持したこと以外は、実施例C1と同様にして、着色粉体粒子C4及び着色粉体塗料C4を作製した。
融合合一工程において50℃まで昇温し50℃で15分間保持し、その後60℃として60℃で25分間保持したこと以外は、実施例C1と同様にして、着色粉体粒子C5及び着色粉体塗料C5を作製した。
凝集工程において10質量%ニトリロ三酢酸金属塩水溶液を用いず、また10質量%ポリ塩化アルミニウム水溶液の量を2.2部に変更した以外は、実施例C1と同様にして、着色粉体粒子XC1を作製し、外部添加剤の外添後の分級を行わず着色粉体塗料XC1を作製した。
融合合一工程において85℃まで昇温し40分間保持したこと以外は、実施例C1と同様にして、着色粉体粒子XC2及び着色粉体塗料XC2を作製した。
着色剤分散液C1を着色剤分散液M1に変更した以外は、実施例C1と同様にして、着色粉体粒子M1及び着色粉体塗料M1を作製した。
着色剤分散液C1を5部の着色剤分散液Y1に変更した以外は、実施例C1と同様にして、着色粉体粒子Y1及び着色粉体塗料Y1を作製した。
着色剤分散液C1を着色剤分散液K1に変更した以外は、実施例C1と同様にして、着色粉体粒子K1及び着色粉体塗料K1を作製した。
着色剤分散液C1を添加しなかった以外は、実施例C1と同様にして、着色粉体粒子W1及び着色粉体塗料W1を作製した。
[塗膜試料の作製]
被塗物として、80℃で24時間熱処理した、ガラス板、木材板、及び紙を用意した。被塗物にコロナ放電により負電荷を与えた後、粉体塗料をトリボガンにて正帯電させて静電塗装し、焼付け(加熱温度180℃、加熱時間30分間)を行い、塗膜試料を得た。粉体塗料の塗装量は、膜厚30μmの塗膜に相当する量とした。
塗膜の膜厚を、デュアルタイプ膜厚計(LZ−990、株式会社ケツト科学研究所)を用いて5点測定し、平均値d1と、最大値と最小値との差d2とを求め、(d2÷d1×100)(%)を算出し、下記のとおり分類した。
G1(○):15%以下
G2(△):15%超、20%以下
NG(×):20%超
表面粗さ測定機(SURFCOM 1400A、東京精密)を用いて、塗膜試料の表面のろ波中心線うねりWca(単位:μm)を測定し、下記のとおり分類した。
G1(○):0.06μm以下
G2(△):0.06μm超、0.1μm以下
NG(×):0.1μm超
G1(○):0.3μm以下
G2(△):0.3μm超、0.4μm以下
NG(×):0.4μm超
G1(○):1.5μm以下
G2(△):1.5μm超、2.0μm以下
NG(×):2.0μm超
Claims (7)
- 熱硬化性樹脂及び熱硬化剤を含有する粉体粒子を含み、体積粒度分布指標GSDvが1.20未満であり、平均円形度が0.96以上である、熱硬化性粉体塗料。
- 体積平均粒径が3μm以上10μm以下である、請求項1に記載の熱硬化性粉体塗料。
- パウダーレオメータにより測定されるトータルエネルギー量が10mJ以上80mJ以下である、請求項1又は請求項2に記載の熱硬化性粉体塗料。
- さらに外部添加剤を含む、請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の熱硬化性粉体塗料。
- 非導電性部材の被塗装面に正又は負の電荷を付与する電荷付与工程と、
請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の熱硬化性粉体塗料を、前記非導電性部材に付与した前記電荷と逆極性に帯電させ、前記非導電性部材に静電塗装する静電塗装工程と、
静電塗装した前記熱硬化性粉体塗料を前記非導電性部材に焼き付ける焼付け工程と、
を含む、熱硬化性粉体塗料を非導電性部材に塗装する塗装方法。 - 前記電荷付与工程が、コロナ放電により正又は負の電荷を付与する工程である、請求項5に記載の塗装方法。
- 前記静電塗装工程が、前記熱硬化性粉体塗料を摩擦帯電させることを含む、請求項5又は請求項6に記載の塗装方法。
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