[重合体(A)]
本発明の重合体(A)は、以下の式(1)に示す環構造を主鎖に有する。式(1)において、R1は、水素原子、メチル基または−NHCOR3基であり、R3は、水素原子、メチル基、フェニル基、炭素数2〜18の直鎖アルキル基、または炭素数3〜18のシクロアルキル基である。R2は、水素原子または−COOR4基であり、R4は、水素原子、メチル基、フェニル基、炭素数2〜18の直鎖アルキル基、または炭素数3〜18のシクロアルキル基である。重合体(A)は、典型的には、熱可塑性重合体である。重合体(A)は、典型的には、非晶性の重合体である。重合体(A)は、典型的には、非水溶性の重合体である。
式(1)に示す環構造は、基本骨格として5員環のアミド環構造(環状アミド構造)を有する。この環状アミド構造は、5員環のラクタム環構造(γ−ラクタム構造)でもある。式(1)に示すように、環構造のアミド構造、より具体的には第二級アミド構造(−NH−CO−)を構成しない3つの炭素原子(環構造の3位、4位および5位の炭素原子)が重合体(A)の主鎖に位置している。式(1)に示す環構造は重合体(A)の主鎖を構成している。
重合体(A)の5%加熱減量温度(JIS K7120に規定された熱重量測定法により求めた5%加熱減量温度、以下、同じ)は、300℃以上である。
重合体(A)は、主鎖に位置する上記環構造に由来する特性を有する。特性の代表的な例は、上記環構造を主鎖に有さない場合に比べて上昇した高いガラス転移温度(Tg)である。高いTgは、重合体(A)または重合体(A)を含む樹脂組成物を成形した樹脂成形体の耐熱性および熱安定性が向上するといった利点をもたらす。しかし、重合体のTgが高いことは、当該重合体および当該重合体を含む樹脂組成物を溶融成形する際に高い成形温度が要求されることを意味し、換言すれば、溶融成形の温度条件が過酷となることを意味する。成形時の過酷な温度条件は、得られた樹脂成形体への発泡の発生、シルバーストリークスの発生、分解物の析出などを誘発する。樹脂成形体の成形時には、特に、樹脂成形体として光学部材を得る場合には、欠点となりうる(光学部材の場合、重大な光学的欠点となりうる)これらの発生をできるだけ抑えることが要求される。ここで、重合体(A)は耐熱分解特性に優れており、とりわけ、溶融成形時に予想される高温に対する耐熱分解特性が向上している。このため、重合体(A)によって、当該重合体(A)の主鎖を構成する環構造に由来した高いTgに基づく耐熱性および熱安定性が向上した樹脂成形体でありながらも、同時に、発泡などの欠点の発生が抑制された樹脂成形体が達成されるという有利な効果が実現する。重合体(A)および重合体(A)を含む樹脂組成物としては、主鎖に有する環構造に由来した高いTgが達成されると同時に、溶融成形する際においても発泡などの欠点の発生が抑制される重合体または樹脂組成物が達成されるという有利な効果が実現する。
重合体(A)は、主鎖に位置する上記環構造に由来するその他の特性を有しうる。特性は、例えば光学的特性であり、より具体的な例は複屈折特性である。主鎖に位置する式(1)の環構造によって、重合体(A)の複屈折発現性(位相差発現性)が向上する。式(1)に示す環構造は、重合体(A)に正または負の固有複屈折を与える作用を有する。より具体的に、式(1)に示す環構造は基本的に重合体(A)に正の固有複屈折を与える作用を有するが、環構造の基本骨格に結合した置換基が嵩高いなどの場合、重合体(A)に負の固有複屈折を与えることがある。重合体(A)としての固有複屈折の正負は、当該重合体(A)が有する各構成単位が示す複屈折特性の兼ね合いにより決定される。例えば、式(1)に示す環構造が重合体(A)に正の固有複屈折を与える作用を有する場合においても、負の固有複屈折を与える作用を有する構成単位を重合体(A)がさらに有するとき、重合体(A)としての固有複屈折が負になることがある。
重合体(A)はこれらの各特性に基づき、種々の用途に使用できる。用途は、例えば、光学部材である。上述した重合体(A)の高いTgおよび耐熱分解特性ならびに光学的特性は、光学部材の有利な特徴になりうる。高いTgは、例えば、重合体(A)を含む光学部材の耐熱性の向上につながり、このような光学部材は、当該光学部材を備える製品の設計の自由度を向上させる。具体的な一例として、光学部材の一種である光学フィルムについて、当該フィルムを光源、電源部、回路基板などの発熱体に近接して配置することが可能となるため、液晶表示装置(LCD)などの画像表示装置の設計の自由度が向上する。高い耐熱分解特性は、光学部材を成形する際の光学的欠点の発生の抑制、およびこれによる光学的欠点の少ない光学部材の実現に寄与する。高い複屈折発現性は、例えば、光学フィルムについて単位厚さあたりの位相差値の向上につながり、より薄いながらも設計された位相差値を達成した光学フィルムが実現する。複屈折発現性は、例えば、応力光学係数Crにより評価できる。Crの絶対値が大きいほど、複屈折発現性が高い。重合体(A)に正の固有複屈折を与える作用は、例えば、厚さ方向の位相差Rthが正である正の位相差フィルムの実現につながる。
式(1)に示す環構造は、重合体(A)の構成単位(繰り返し単位)であっても、構成単位の一部を構成する構造であってもよい。後者の場合、当該構成単位は、その分子構造の一部として式(1)に示す環構造を含む。
式(1)において、R1は、水素原子、メチル基または−NHCOR3基であり、R3は、水素原子、メチル基、フェニル基、炭素数2〜18の直鎖アルキル基、または炭素数3〜18のシクロアルキル基である。R2は、水素原子または−COOR4基であり、R4は、水素原子、メチル基、フェニル基、炭素数2〜18の直鎖アルキル基、または炭素数3〜18のシクロアルキル基である。R3およびR4は、互いに同一であっても異なっていてもよい。
直鎖アルキル基の炭素数は2〜12が好ましく、2〜4がより好ましい。直鎖アルキル基は、例えば、エチル基、プロピル基、ブチル基である。シクロアルキル基の炭素数は3〜12が好ましく、3〜6がより好ましい。シクロアルキル基は、例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基である。
ある実施形態では、式(1)においてR1が上記−NHCOR3基である。この場合、R3は、水素原子、メチル基、フェニル基、n−ブチル基またはt−ブチル基が好ましい。
また別の実施形態では、式(1)においてR2が上記−COOR4基である。この場合、R4は、水素原子、メチル基、エチル基、n−ブチル基またはベンジル基が好ましい。
さらにまた別の実施形態では、式(1)において、R1およびR2が、互いに独立して、水素原子またはメチル基である。
R1およびR2の組み合わせの具体例は、R1がメチル基または−NHCOR3基であり、R2が−COOR4基である組み合わせである。このとき、R3はメチル基でありうるし、これと独立してR4はメチル基でありうる。より具体的な組み合わせの例は、R1がメチル基または−NHCOCH3基であり、R2が−COOCH3基である組み合わせである。
R1およびR2の組み合わせの別の具体例は、R1がメチル基であり、R2が水素原子である組み合わせである。
式(1)に示す環構造は、重合体(A)の主鎖上で連続していてもよい。この場合、連続する環構造は、隣接する環構造同士でスピロ環構造を形成する。ただし、式(1)に示す環構造が重合体(A)の構成単位の一部を構成する場合、例えば、重合体(A)が有する構成単位が、式(1)に示す環構造の3位または5位の炭素原子にメチレン基などのアルキレン基が結合した構造を有する構成単位である場合(より具体的な例は、後述の式(4)に示す構成単位である場合)、重合体(A)の主鎖における当該構成単位の連続は、環構造の間に重合体(A)の主鎖を構成するアルキレン基が位置していることから、主鎖上における環構造の連続に該当しない。この場合、環構造同士は主鎖上で隣接していない、ともいえる。
式(1)に示す環構造が重合体(A)の主鎖上で連続する場合、互いに隣接する2つの環構造は、一方の環構造の3位の炭素原子と他方の環構造の5位の炭素原子とが同一の炭素原子であるスピロ環構造を形成する。そして、当該3位の炭素原子に結合したR1および当該5位の炭素原子に結合したR2は存在しない。
このような、重合体(A)の主鎖上で連続する環構造の例を、以下の式(2),(3)に示す。
式(2)に示す構造は、式(1)に示す2つの環構造が重合体(A)の主鎖上で連続しているスピロ環構造である。左側の環構造の5位の炭素原子と、当該環構造に隣接する右側の環構造の3位の炭素原子とは同一の炭素原子である。いずれの環構造についても、3位から5位の3つの炭素原子が重合体(A)の主鎖を構成する。左側の環構造の5位の炭素原子に結合したR2および右側の環構造の3位の炭素原子に結合したR1は存在しない。
式(3)に示す構造は、式(1)に示す3つの環構造が重合体(A)の主鎖上で連続しているスピロ環構造である。左端の環構造の5位の炭素原子と、当該環構造に隣接する中央の環構造の3位の炭素原子とは同一の炭素原子である。中央の環構造の5位の炭素原子と、当該環構造に隣接する右端の環構造の3位の炭素原子とは同一の炭素原子である。いずれの環構造についても3位から5位の3つの炭素原子が重合体(A)の主鎖を構成する。左端の環構造の5位の炭素原子に結合したR2、中央の環構造の3位の炭素原子に結合したR1および5位の炭素原子に結合したR2、ならびに右端の環構造の3位の炭素原子に結合したR1は存在しない。
このように、式(1)に示す環構造が重合体(A)の主鎖上で連続する場合、R1および/またはR2が存在しないことがある。このとき、R1および/R2は存在しないのではなく、当該基が結合している炭素原子の結合の手(式(1)に示す環構造の外部への結合の手)とともに隣接する環構造を形成している、と表現することもできる。
式(1)に示す環構造が重合体(A)の主鎖上で連続する場合、連続する数は限定されない。ある一つの例では、主鎖全体にわたって式(1)に示す環構造が連続する重合体(A)、換言すれば、式(1)に示す環構造を構成単位として、当該構成単位のみからなるホモポリマーである重合体(A)、でありうる。
重合体(A)は、式(1)に示す環構造を含む構成単位Pを有することになる。構成単位Pは、式(1)に示す環構造のみから構成されていてもよいし、式(1)に示す環構造と他の分子構造とから構成されていてもよい。他の分子構造は、例えば、式(1)に示す環構造の3位および/または5位の炭素原子に結合して、当該環構造とともに重合体(A)の主鎖を構成する分子構造であり、より具体的な例は、上述したメチレン基などのアルキレン基である。
式(1)に示す環構造と他の分子構造とから構成される構成単位Pの一例を、以下の式(4)に示す。
式(4)に示す構成単位Xは、式(1)に示す環構造と、当該環構造の3位の炭素原子に結合したメチレン基とから構成される単位である。メチレン基の炭素原子および環構造の3位から5位の炭素原子は、重合体(A)の主鎖を構成する。構成単位Xの環構造は、第二級アミド構造(−NH−CO−)を環の一部を構成する分子構造として含んでいる(第二級アミド構造を、環構造の一部として含んでいる)。
構成単位Xは、基本的に、重合体(A)に正の固有複屈折を与える作用を有する。ただし、環構造の基本骨格に結合した置換基が嵩高いなどの場合、重合体(A)に負の固有複屈折を与えることがある。正(または負)の固有複屈折を重合体に与える作用を有する構成単位とは、当該単位のホモポリマーを形成したときに、当該ホモポリマーが正(または負)の固有複屈折を示す単位をいう。重合体(A)としての固有複屈折の正負は、構成単位Xだけではなく、重合体(A)が有する他の構成単位が示す複屈折特性との兼ね合いにより定まる。
式(4)のR1およびR2は、上述した具体例を含め、式(1)のR1およびR2と同じである。
式(4)におけるR1およびR2の組み合わせの具体例は、R1がメチル基または−NHCOR3基であり、R2が−COOR4基である組み合わせである。このとき、R3はメチル基でありうるし、これと独立してR4はメチル基でありうる。より具体的な組み合わせの例は、R1がメチル基または−NHCOCH3基であり、R2が−COOCH3基である組み合わせであり、このような組み合わせを有する構成単位Xは、例えば、メタクリル酸メチル(MMA)とアセトアミドアクリル酸メチル(AcAAM)との共重合体を前駆重合体(B)として、当該重合体(B)における隣り合う構成単位間に環化反応を進行させた後、得られた中間重合体(C)の環構造(当該環化反応により形成された環構造)を構成する第三級アミド構造上のアシル基を脱アシル化して形成できる。環化反応を進行させる隣り合う構成単位がMMA単位とAcAAM単位との組み合わせである場合、R1はメチル基であり、一組のAcAAM単位の組み合わせである場合、R1は−NHCOCH3基である。このような組み合わせを有する構成単位Xは、重合体(A)に正の固有複屈折を与える作用を有する。
式(4)におけるR1およびR2の組み合わせの別の具体例は、R1がメチル基であり、R2が水素原子である組み合わせであり、このような組み合わせを有する構成単位Xは、例えば、メタクリル酸メチル(MMA)とN−ビニルアセトアミド(NVA)との共重合体を前駆重合体(B)として、当該重合体(B)における隣り合うMMA単位とNVA単位との間に環化反応を進行させた後、得られた中間重合体(C)の環構造(当該環化反応により形成された環構造)を構成する第三級アミド構造上のアシル基を脱アシル化して形成できる。このような組み合わせを有する構成単位Xは、重合体(A)に正の固有複屈折を与える作用を有する。
重合体(A)は、式(1)に示す環構造を含む構成単位Pのみから構成されるホモポリマーであっても、構成単位Pと、構成単位P以外の構成単位Qとから構成される共重合体であってもよい。共重合体は、ランダム共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体でありうる。
重合体(A)は2種以上の構成単位Pを有しうるし、2種以上の構成単位Qを有しうる。
重合体(A)が構成単位Pと構成単位Qとから構成される共重合体である場合、重合体(A)は、構成単位Qの種類および含有率に応じて様々なさらなる特性を示す。構成単位Qは、例えば、(メタ)アクリル酸エステル単位、(メタ)アクリル酸単位、N−置換マレイミド単位、芳香族ビニル化合物単位、不飽和カルボン酸化合物単位、シアン化ビニル化合物単位、複素芳香族基を有するα,β−不飽和単量体単位である。
重合体(A)は、(メタ)アクリル酸エステル単位および(メタ)アクリル酸単位から選ばれる少なくとも1種を構成単位Qとして有していてもよい。この場合、重合体(A)および重合体(A)を含む樹脂組成物の光学的な透明性がより高くなるなど、その光学的特性がより向上し、例えば光学部材としての用途により好適となる。共重合体である重合体(A)は、(メタ)アクリル酸エステル単位を構成単位Qとして有することが好ましい。換言すれば、重合体(A)は、(メタ)アクリル酸エステル単位を構成単位としてさらに有することが好ましい。
(メタ)アクリル酸エステル単位は、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンタニル、(メタ)アクリル酸アダマンチル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、α−ヒドロキシアクリル酸メチル、α−ヒドロキシアクリル酸エチルの各(メタ)アクリル酸エステルの重合により形成される(これら各単量体に由来する)構成単位である。(メタ)アクリル酸エステル単位は、メタクリル酸メチル(MMA)単位、メタクリル酸エチル単位、メタクリル酸n−ブチル単位、メタクリル酸シクロヘキシル単位、メタクリル酸イソボルニル単位、メタアクリル酸ベンジル単位が好ましく、MMA単位がより好ましい。このとき、重合体(A)の光学的な透明性がさらに高くなる。
重合体(A)が(メタ)アクリル酸エステル単位を構成単位としてさらに有する場合、重合体(A)における(メタ)アクリル酸エステル単位の含有率は、例えば15〜90質量%であり、40〜85質量%が好ましく、60〜80質量%がより好ましい。これらの場合、重合体(A)および重合体(A)を含む樹脂組成物の高いTg、耐熱分解特性および光学的特性のバランスがさらに向上する。
式(4)に示す構成単位Xをはじめとして、構成単位Pの種類によっては、MMAなどの(メタ)アクリル酸エステルとの共重合体を前駆重合体(B)として、当該前駆重合体(B)に環化反応および脱アシル化反応を進行させて重合体(A)を形成できるが、この場合、重合体(A)は、未反応の単位として(メタ)アクリル酸エステル単位を有しうる。
重合体(A)における(メタ)アクリル酸エステル単位の含有率が15質量%を超える場合、当該重合体(A)はアクリル重合体である。アクリル重合体である重合体(A)は、アクリル重合体が一般に有する特性、例えば、高い光学的透明性、ならびに機械的強度、成形加工性および表面硬度の高いバランスを示す。アクリル重合体である重合体(A)において(メタ)アクリル酸エステル単位の含有率の合計は、40質量%以上、60質量%以上、80質量%以上、さらには85質量%以上でありうる。
また、上述のように、(メタ)アクリル酸エステル単位を構成単位として有する共重合体である前駆重合体(B)に環化反応および脱アシル化反応を進行させて重合体(A)を形成する場合、当該重合体(A)は、(メタ)アクリル酸エステルの誘導体と捉えることもできる。この場合、重合体(A)における構成単位Pおよび(メタ)アクリル酸エステル単位の含有率の合計が50質量%を超えるとき、重合体(A)はアクリル重合体である。含有率の合計は、60質量%以上、70質量%以上、80質量%以上、さらには90質量%以上でありうる。なお、後述のように、(メタ)アクリル酸エステルとの共重合体である前駆重合体(B)、すなわち、(メタ)アクリル酸エステル単位を構成単位として有する共重合体である前駆重合体(B)において、当該重合体(B)の側鎖にエステル基および/またはカルボキシル基とアミド基とが存在し、当該重合体(B)への環化反応の進行により第三級アミド構造を有する5員環構造を主鎖に有する重合体(中間重合体(C))が得られる限り、(メタ)アクリル酸エステルとの共重合の相手であるモノマーは限定されない。当該モノマーは、例えば、アミドアクリル酸エステルでありうるし、例えば、N−ビニルホルムアミド、N−ビニルアセトアミドのようなN−ビニルカルボン酸アミドなどのアミド基含有ビニル単量体でありうる。
N−置換マレイミド単位は、例えば、N−シクロヘキシルマレイミド、N−フェニルマレイミド、N−メチルマレイミド、N−エチルマレイミド、N−イソプロピルマレイミド、N−t−ブチルマレイミド、N−トリブロモフェニルマレイミド、N−ラウリルマレイミド、およびN−ベンジルマレイミドの各単量体に由来する構成単位である。N−置換マレイミド単位は、N−シクロヘキシルマレイミド単位、N−フェニルマレイミド単位が好ましい。
芳香族ビニル化合物単位は、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、α−クロロスチレン、p−t−ブチルスチレン、p−メチルスチレン、p−クロロスチレン、o−クロロスチレン、2,5−ジクロロスチレン、3,4−ジクロロスチレン、ジビニルベンゼンの各芳香族ビニル化合物に由来する構成単位である。芳香族ビニル化合物単位は、スチレン単位が好ましい。
不飽和カルボン酸化合物単位は、例えば、クロトン酸などの酸およびこれらのアルカリ金属塩、アンモニウム塩、有機アミン塩の重合により形成される構成単位である。なお、本明細書において、不飽和カルボン酸化合物単位には(メタ)アクリル酸単位が含まれない。
シアン化ビニル化合物単位は、例えば、(メタ)アクリロニトリル単位である。
複素芳香族基を有するα,β−不飽和単量体単位は、例えば、ビニルカルバゾール単位、ビニルピリジン単位、ビニルイミダゾール単位およびビニルチオフェン単位から選ばれる少なくとも1種である。
構成単位Qは、上述した単位を除くビニル化合物単位、例えば、酢酸ビニル、塩化ビニル、塩化ビニリデン、エチレン、プロピレン、ブテン、イソプレン、N−ビニル−2−ピロリドン;アジピン酸ジビニル、セバシン酸ジビニルなどのジビニルエステル類;ビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸、2−アクリルアミド−2−フェニルプロパンスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸などのスルホン酸およびこれらのアルカリ金属塩、アンモニウム塩、有機アミン塩;の重合により形成される構成単位でありうる。
重合体(A)は、紫外線(UVA)吸収能を有する構成単位を有しうる。当該構成単位は、例えば、重合性基を導入したベンゾトリアゾール誘導体、トリアジン誘導体またはベンゾフェノン誘導体の重合により形成される構成単位である。これらの誘導体において、導入する重合性基は適宜選択でき、例えばビニル基である。
重合体(A)における構成単位Pの含有率は限定されないが、構成単位Pに由来する特性をより確実に得るためには、例えば30質量%以上であり、35質量%以上が好ましく、40質量%以上がより好ましい。構成単位Pの含有率の上限は特に限定されず、100質量%またはそれ以下であってもよい。重合体(A)が他の構成単位Q、特に(メタ)アクリル酸エステル単位をさらに有する場合、構成単位Pの上限は例えば90質量%以下であり、85質量%以下、82質量%以下でありうる。
重合体(A)における各構成単位の含有率は、公知の手法、例えば1H核磁気共鳴(1H−NMR)または赤外線分光分析(IR)により求めることができる。
重合体(A)が主鎖に有する式(1)に示す環構造は、公知の手法、例えば1H−NMRあるいはIRにより確認できる。具体的な確認の例は、赤外吸収スペクトルにおいて、波数1690cm-1以上1710cm-1以下の範囲に、式(1)に示す環構造のカルボニル基の伸縮振動に帰属される吸収ピークが観察されるか否かの確認である。赤外吸収スペクトルにおいて式(1)に示す環構造のカルボニル基の伸縮振動に帰属される吸収ピークが上記波数の範囲にあることは、5員環のラクタム環における赤外吸収域として、2006年9月15日刊行「『有機化合物のスペクトルによる同定法 第7版』東京化学同人」に記載されている。
環構造の具体的な構造、重合体(A)における当該環構造の含有率、および重合体(A)が構成単位Qをさらに有する共重合体であるときの構成単位Qの種類および含有率によっては、赤外吸収スペクトルにおける上記吸収ピークが確認しづらいことがある。しかし、重合体(A)の構成によっては、重合体(A)を再加熱することで、重合体(A)の形成時に環化反応が進行することなく残留した構成単位間に改めて環化反応を進行させて、前駆重合体(B)から重合体(A)を形成する際の中間重合体(C)に存在している環構造と同じ環構造、場合によっては、既に重合体(A)に存在している式(1)に示す環構造と同じ環構造、を形成できることがある。このとき、重合体(A)の再加熱の前後における赤外吸収スペクトルの差分をとることにより、これらの環構造を確認できる。すなわち、このとき重合体(A)は、当該重合体を200℃以上で加熱したときに、加熱前後の赤外吸収スペクトルの差分において、波数1690cm-1以上1710cm-1以下の範囲に吸収ピークが観察される重合体でありうる。
後述の脱アルコール環化縮合反応を経て重合体(A)を形成した場合、当該重合体(A)には、環化反応時に生成したアルコールが残留しうる。このとき、重合体(A)における残留アルコールの含有量は、例えば10〜3000ppmである。
重合体(A)は、主鎖を構成する式(1)に示す環構造に基づく高いTgを示す。重合体(A)のTgは、例えば120℃以上である。式(1)に示す環構造の具体的な構造およびその含有率、あるいは式(1)に示す環構造を含む構成単位Pの具体的な構造およびその含有率によっては、重合体(A)のTgは、130℃以上、140℃以上、150℃以上、さらには160℃以上の値をとりうる。
重合体(A)の5%加熱減量温度は、300℃以上である。式(1)に示す環構造の具体的な構造およびその含有率、あるいは式(1)に示す環構造を含む構成単位Pの具体的な構造およびその含有率によっては、重合体(A)の5%加熱減量温度は、320℃以上、340℃以上、さらには360℃以上の値をとりうる。
重合体(A)は、架橋剤などによって架橋されていてもよい。
重合体(A)は、例えば、以下に示す重合体(A)の製造方法により形成できる。
[重合体(A)の製造方法]
本発明の製造方法では、ビニルモノマーを含む単量体群の重合により形成された前駆重合体(B)であって、エステル基および/またはカルボキシル基とアミド基(第二級アミド基:−NHCOR)とを側鎖として有する前駆重合体(B)を環化して、当該環化により形成された環構造(第三級アミド構造を有する環構造)を主鎖に有する中間重合体(C)を得る。そして、さらに中間重合体(C)における上記環構造を構成する第三級アミド構造上のアシル基を脱アシル化して、第二級アミド構造(−NH−CO−)を有する5員環構造を主鎖に有する重合体を得る。当該重合体は、例えば重合体(A)であり、上記第二級アミド構造を有する5員環構造は、例えば、式(1)に示す環構造である。
前駆重合体(B)の環化では、当該重合体(B)の側鎖に位置するエステル基および/またはカルボキシル基とアミド基との間に環化縮合反応を進行させて、第三級アミド構造を有する5員環のアミド環構造を形成する。このとき、エステル基および/またはカルボキシル基が、環構造の2位の炭素原子を含むカルボニル基に変化し、アミド基が、環構造の1位の窒素原子を含むアミド基(第三級アミド基)に変化する。この第三級アミド基は、アシル基(−COR)を有する第三級アミン基と捉えることもできる。2位の炭素原子を含むカルボニル基と1位の窒素原子を含むアミン基とは、第三級アミド構造を構成しており、このようにして形成された中間重合体(C)は、この第三級アミド構造を有する5員環構造を主鎖に有する。中間重合体(C)の主鎖には、当該環構造の3位から5位の3つの炭素原子が位置することになる。
このような環化反応の例を、以下の式(5)に示す。
式(5)のR1およびR2は、上述した具体例を含め、式(1)のR1およびR2と同じである。式(5)のR5は、水素原子、メチル基、フェニル基、炭素数2〜18の直鎖アルキル基、または炭素数3〜18のシクロアルキル基である。R5は、R1およびR2と互いに独立している。式(5)のR6は、水素原子または炭素数1〜18の有機残基である。有機残基は、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基などのアルキル基;エテニル基、プロペニル基などの不飽和脂肪族炭化水素基;フェニル基、ナフチル基などの芳香族炭化水素基;上記アルキル基、上記不飽和脂肪族炭化水素基および上記芳香族炭化水素基において、水素原子の一つ以上が、水酸基、カルボキシル基、エーテル基およびエステル基から選ばれる少なくとも1種の基により置換された基;である。R6は、直鎖アルキル基またはシクロアルキル基が好ましく、その炭素数は、1〜12が好ましく、1〜4がより好ましい。R6は直鎖アルキル基でありうるし、シクロアルキル基でありうる。
式(5)に示す反応では、左辺の分子構造を有する前駆重合体(B)に環化反応を進行させて、右辺の左側に示す構成単位を有する中間重合体(C)を形成する。この環化反応は、左辺に示す破線部が結合し、R6OHが脱離する縮合反応である。R6が水素原子のとき水が脱離し、すなわち、この反応は脱水環化縮合反応である。R6が有機残基のときアルコールが脱離し、すなわち、この反応は脱アルコール環化縮合反応である。例えば、R6がメチル基のとき、メタノールが脱離する。この反応は、前駆重合体(B)の分子鎖内で進行する。式(5)の右辺に示す構成単位は、5員環構造と、当該環構造の3位の炭素原子に結合したメチレン基とを含む。
式(5)の右辺に示す構成単位に対する脱アシル化を、以下の式(6)に示す。式(6)の右辺の左側に示す構成単位は、上述した構成単位Pの一例である。すなわち、式(5)に示す環化反応および式(6)に示す脱アシル化反応を含む反応により、前駆重合体(B)から中間重合体(C)を経て重合体(A)を形成することができる。R7は、水素原子またはR6と同一でありうる。前者の場合は、脱アシル化の際にカルボニル基の炭素原子を攻撃する求核剤が水のケースである。後者の場合は、求核剤が、例えば、上述の環化反応の際に形成されたアルコールR6OHのケースである。
前駆重合体(B)は、その側鎖にエステル基および/またはカルボキシル基を有するとともにアミド基を有する。より具体的に、式(5)の前駆重合体(B)は、側鎖にエステル基(カルボキシルエステル基:R6が有機残基)および/またはカルボキシル基(R6が水素原子)を有する構成単位と、側鎖にアミド基(第二級アミド基:−NHCOR5)を有する構成単位とを有する共重合体である。いずれの構成単位もビニルモノマーに由来する単位である。このように、前駆重合体(B)は、ビニルモノマーを含む単量体群の重合により形成できる。より具体的に、式(5)の前駆重合体(B)は、エステル基および/またはカルボキシル基を有するビニルモノマーAと、アミド基を有するビニルモノマーBとを含む単量体群の重合により形成された共重合体である。この前駆重合体(B)において、側鎖のエステル基および/またはカルボキシル基とアミド基とは、その間に、前駆重合体(B)の主鎖に位置するメチレン基が一つ(炭素原子が一つ)挿入された位置関係にある。式(5)に示す例では、前駆重合体(B)の主鎖に位置する3つの炭素原子、側鎖に位置するカルボキシル基および/またはエステル基の炭素原子、ならびにアミド基の窒素原子により、第三級アミド構造を有する5員環構造が形成される。
このときのビニルモノマーAの例を以下の式(7)に、ビニルモノマーBの例を以下の式(8)に示す。式(7)のR1は、その具体例を含め、式(1)のR1と同じであり、R6は式(5)のR6と同じである。R1は、水素原子またはメチル基でありうる。式(8)のR2は、その具体例を含め、式(1)のR2と同じであり、R5は式(5)のR5と同じである。R2は、水素原子またはメチル基でありうる。式(7)に示すビニルモノマーAは、(メタ)アクリル酸エステル単位(R1が水素原子またはメチル基であり、R6が有機残基である)、または(メタ)アクリル酸単位(R1が水素原子またはメチル基であり、R6が水素原子である)でありうる。形成した重合体(A)の光学的な透明性がより高くなることから、ビニルモノマーAは、アクリル酸またはメタクリル酸メチル(MMA)が好ましく、MMAがより好ましい。
式(8)に示すビニルモノマーBは、N−ビニルホルムアミド(R2およびR5が水素原子)、N−ビニルカルボン酸アミド(R2が水素原子、R5がメチル基、直鎖アルキル基またはシクロアルキル基)などのアミド基含有ビニル単量体でありうる。R5は、水素原子、メチル基または直鎖アルキル基でありうるし、メチル基または直鎖アルキル基でありうるし、メチル基でありうる。R2が水素原子であり、R5がメチル基である場合、式(8)に示すビニルモノマーBは、N−ビニルアセトアミドである(式(9)参照)。
式(8)に示すビニルモノマーBは、アミド基とともに、エステル基および/またはカルボキシル基をさらに有するモノマーでありうる。このとき、式(8)のR2は、−COOR4基であり、これは式(1)のR2がとりうる−COOR4基と同じである。このようなビニルモノマーBの例を、以下の式(10)に示す。
式(10)に示すモノマーBは、アミドアクリル酸エステルでありうる。アミドアクリル酸エステルは、エステル基および/またはカルボキシル基とアミド基とをともに有するビニルモノマーである。
式(8)および式(10)に示すビニルモノマーBは、いずれもアミドアクリル酸エステルでありうるが、アミドアクリル酸エステルは、例えば、アセトアミドアクリル酸メチル(AcAAM)、アセトアミドアクリル酸エチル、アセトアミドアクリル酸n−ブチル、アセトアミドアクリル酸n−dドデシル、アセトアミドアクリル酸シクロヘキシル、アセトアミドアクリル酸フェニルである。
前駆重合体(B)がビニルモノマーAとビニルモノマーBとの共重合体であるとき、当該重合体(B)におけるモノマーAに由来する構成単位Y1と、モノマーBに由来する構成単位Y2との含有率の比は特に限定されないが、質量比にして、例えばY1:Y2=95〜50:5〜50であり、90〜50:10〜50が好ましく、85〜60:15〜40がより好ましい。構成単位Y1は(メタ)アクリル酸エステル単位でありうるし、より具体的な例としてMMA単位でありうる。構成単位Y1が(メタ)アクリル酸エステル単位であるとともに、構成単位Y1とY2との質量比が上述の好ましい範囲にあるとき、(メタ)アクリル酸エステルとビニルモノマーBとの間の環化反応率を向上でき、例えば、最終的に得られた重合体(A)のTgをより高くすることができる。また、このとき、最終的に得られた重合体(A)において(メタ)アクリル酸エステル単位と式(1)に示す環構造との含有率のバランスが良好となり、重合体(A)の耐熱分解特性をより向上できる。最終的に得られた重合体(A)は、未反応の構成単位Y1および/またはY2を有しうる。例えば、構成単位Y1が(メタ)アクリル酸エステル単位である場合、最終的に得られた重合体(A)は、未反応の(メタ)アクリル酸エステル単位を構成単位として有しうる。
前駆重合体(B)は、2種以上のビニルモノマーAおよび/または2種以上のビニルモノマーBを含む単量体群の重合により形成された重合体であってもよい。すなわち、前駆重合体(B)は、2種以上のビニルモノマーAに由来する2種以上の構成単位Y1および/または2種以上のビニルモノマーBに由来する2種以上の構成単位Y2を有していてもよい。
式(7)に示すビニルモノマーAと式(8)に示すビニルモノマーBとは、置換基の種類によっては同一のビニルモノマーでありうる。すなわち、前駆重合体(B)は、当該同一のビニルモノマーのホモポリマーであってもよい。このビニルモノマーは、各式に示す分子構造から理解できるように、エステル基および/またはカルボキシル基とアミド基とをともに有するビニルモノマーCである。すなわち、前駆重合体(B)は、エステル基および/またはカルボキシル基とアミド基とを有するビニルモノマーCを含む単量体群の重合により形成された重合体であってもよい。前駆重合体(B)がこのようなホモポリマーである場合、最終的に得られる重合体(A)のTgが特に高くなる。換言すれば、重合体(A)について、前駆重合体(B)からのTgの上昇が特に大きくなる。
ビニルモノマーCは、例えば、アミドアクリル酸エステルである。
ビニルモノマーCのホモポリマーである前駆重合体(B)から中間重合体(C)を形成する環化反応の例を、以下の式(11)に示す。式(11)に示す例では、アミドアクリル酸エステルのホモポリマーである前駆重合体(B)に環化反応を進行させて、中間重合体(C)を形成している。
式(11)のR4は式(1)のR4と同じであり、式(11)のR5は式(5)のR5と同じである。式(11)の右辺に示す、環構造を主鎖に有する構成単位に脱アシル化を進行させることにより、R1が−NHCOR5基(−NHCOR3基)であり、R2が−COOR4基である式(1)に示す環構造を含む構成単位Pが形成される。すなわち、当該構成単位Pを有する重合体(A)が形成される。式(11)に示す環化反応は、前駆重合体(B)における隣り合う構成単位間の破線部を結合させるとともにR4OHを脱離させる環化縮合反応である。
ビニルモノマーCのホモポリマーである前駆重合体(B)から中間重合体(C)を形成する環化反応の別の例を、以下の式(12)に示す。式(12)に示す例では、アミドアクリル酸エステルのホモポリマーである前駆重合体(B)に環化反応を進行させて、中間重合体(C)を形成している。
式(12)のR4は式(1)のR4と同じであり、式(12)のR5は式(5)のR5と同じである。式(12)の右辺に示す、環構造を主鎖に有する構成単位に脱アシル化を進行させることにより、2つの環構造が主鎖上で連続したスピロ環構造を含む構成単位Pが形成される。すなわち、当該構成単位Pを有する重合体(A)が形成される。式(12)では、互いに隣接する左端および中央のビニルモノマーC間、ならびに互いに隣接する中央および右端のビニルモノマーC間で環化反応(左辺の分子構造における破線部を結合させるとともにR4OHを脱離させる反応)を進行させている。ここから理解できるように、全ての隣接するビニルモノマーC間で環化縮合反応を進行させて中間重合体(C)を形成し、形成した中間重合体(C)に対してさらに脱アシル化を進行させることにより、式(1)に示す環構造から構成される構成単位のみを有するホモポリマーである重合体(A)を形成することも可能である。また、ビニルモノマーAおよびBの共重合体である前駆重合体(B)においても、ビニルモノマーBの種類によっては、当該モノマーBに由来する構成単位が連続した領域において、環化反応により、環構造が連続したスピロ環構造を形成しうる。すなわち、環構造が連続したスピロ環構造を有する重合体(A)を形成しうる。
スピロ環構造が形成された重合体(A)、特に当該ホモポリマーである重合体(A)は、式(1)に示す環構造に基づく特性が特に顕著となることが期待される。当該特性は、例えば非常に高いTgである。このような非常に高いTgを有する重合体(A)は、非常に高い耐熱性が要求される用途への使用が期待される。
前駆重合体(B)が共重合体である場合、当該重合体(B)は、ランダム共重合体、交互共重合体でありうる。
前駆重合体(B)は、2種以上のアミドアクリル酸エステルの共重合体でありうる。
前駆重合体(B)が、ビニルモノマーAとビニルモノマーBとを含む単量体群の重合により形成された共重合体である場合、当該単量体群はビニルモノマーCをさらに含んでいてもよい。前駆重合体(B)が、ビニルモノマーCを含む単量体群の重合により形成された重合体である場合、当該単量体群は、ビニルモノマーAおよび/またはビニルモノマーBをさらに含んでいてもよい。
前駆重合体(B)は、例えば、ビニルモノマーA〜C以外の単量体に由来する構成単位をさらに有していてもよい。この場合、当該構成単位をさらに有する中間重合体(C)および重合体(A)を形成できる。当該構成単位は、例えば、重合体(A)の説明において上述した、構成単位P以外の構成単位Qである。
(前駆重合体(B)の形成)
前駆重合体(B)の形成方法は特に限定されない。形成した前駆重合体(B)がエステル基および/またはカルボキシル基とアミド基とを側鎖として有するようにモノマーを選択し、当該モノマーを含む単量体群を重合すればよい。単量体群は、必要に応じて、重合体(B)の形成に必須であるモノマー以外のモノマーを含んでいてもよい。当該モノマーは、例えば、重合により構成単位Qとなるモノマーである。
単量体群は、例えば、ビニルモノマーを含む。単量体群は、より具体的な例として、エステル基および/またはカルボキシル基を有するビニルモノマーAと、アミド基を有するビニルモノマーBとを含む。単量体群は、別の具体的な例として、エステル基および/またはカルボキシル基とアミド基とを有するビニルモノマーCを含む。ビニルモノマーAの例は、(メタ)アクリル酸エステルおよび(メタ)アクリル酸から選ばれる少なくとも1種である。ビニルモノマーBの例は、N−ビニルホルムアミド、N−ビニルカルボン酸アミドなどのアミド基含有ビニル単量体である。ビニルモノマーBは、N−ビニルホルムアミドおよびN−ビニルアセトアミドから選ばれる少なくとも1種でありうる。ビニルモノマーBの別の例およびビニルモノマーCの例は、アミドアクリル酸エステルである。
単量体群の重合方法は特に限定されず、溶液重合などの公知の重合方法を適用できる。溶液重合を選択した場合、重合溶媒は特に限定されず、例えば、トルエン、キシレン、エチルベンゼンなどの芳香族炭化水素;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類;クロロホルム、塩化メチレン、1,2−ジクロロエタンなどのハロゲン系炭化水素類;メタノール、エタノールなどのアルコール類;水、ジメチルスルフォキシド(DMSO)、テトラヒドロフランである。
前駆重合体(B)の重合にあたっては、必要に応じて、重合開始剤、連鎖移動剤などを使用できる。重合開始剤は特に限定されないが、例えば、クメンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、t−アミルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−アミルパーオキシイソノナノエートなどの有機過酸化物;アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)などのアゾ化合物;である。これらの重合開始剤は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。なお、重合開始剤の使用量は、単量体群に含まれるモノマーの組み合わせ、あるいは重合条件などに応じて適宜設定すればよく、特に限定されない。
重合温度などの重合条件は、適宜、設定できる。
単量体群に含まれるモノマー間に重合速度差がある場合、重合に供する単量体群に含まれる各モノマーの含有率に比べて、重合により形成した前駆重合体(B)における上記モノマーに由来する各構成単位の含有率について、重合速度が速いモノマーに由来する構成単位の含有率が相対的に大きくなる傾向がある。このため、共重合体である前駆重合体(B)であって、当該重合体(B)を構成する各構成単位の含有率および/または含有率比について望む値を有する重合体(B)を得るために、重合に供する単量体群における各モノマーの含有率に留意したり、重合方法を制御したり(例えば、重合速度の速いモノマーの一部または全てを滴下により重合系に供給する)して、形成した前駆重合体(B)における各構成単位の含有率を適宜調整できる。
(環化反応)
前駆重合体(B)を環化する方法は限定されない。例えば、前駆重合体(B)を加熱することにより、当該重合体(B)の分子鎖内でアミド環化反応である環化縮合反応を進行させて中間重合体(C)を形成する。
前駆重合体(B)の加熱により環化反応を進行させる場合、加熱温度は、例えば70℃以上であり、100℃以上が好ましく、150℃以上、200℃以上の順にさらに好ましい。前駆重合体(B)の加熱は、前駆重合体(B)が固体の状態、溶媒に溶解している状態などの任意の状態で実施することができる。固体の状態で加熱する場合は、環化反応の速やかな進行のために、粉末、粒子などの表面積が大きい形態を有する前駆重合体(B)とすることが好ましい。また、式(5),(11),(12)の右辺に記載されている、環化反応により生成したアルコールまたは水を除去することで環化反応を速やかに進行させるために、減圧下における加熱が好ましい。減圧の程度は、例えば、絶対圧にして26.6kPa以下である。すなわち、前駆重合体(B)を26.6kPa以下の圧力下で加熱することにより環化反応を進行させてもよい。減圧の程度は、13.3kPa以下が好ましく、2.7kPa以下がより好ましい。
環化反応を進行させる際には、必要に応じて、当該反応を促進させる触媒を使用してもよい。触媒を使用する場合、均一な反応のために、前駆重合体(B)が溶媒に溶解している状態での加熱が好ましい。
触媒には、例えば、酸、塩基およびこれらの塩、金属錯体、ならびに金属酸化物から選ばれる少なくとも1種を使用できる。酸、塩基およびこれらの塩、金属錯体、ならびに金属酸化物の種類は、特に限定されない。最終的に得られる重合体(A)、または当該重合体(A)を含む樹脂組成物(D)もしくは樹脂成形体が透明性の重要視される用途に使用される場合、触媒は、これらの透明性が低下せず、着色などの悪影響が生じない範囲で使用することが好ましい。
酸は限定されず、例えば、塩酸、硫酸、リン酸、亜リン酸などの無機酸、p−トルエンスルホン酸、フェニルホスホン酸、有機カルボン酸、リン酸エステルなどの有機酸である。塩基は限定されず、例えば、金属水酸化物、アミン類、イミン類、アルカリ金属誘導体、アルコキシド類、水酸化アンモニウム塩である。酸および塩基の塩は限定されず、例えば、金属有機酸塩、金属無機酸塩である、金属有機酸塩の具体的な例は金属カルボン酸塩、金属無機酸塩の具体的な例は金属炭酸塩である。金属錯体は限定されず、例えばその有機成分の例は、アセチルアセトンである。金属酸化物は限定されず、例えば、酸化亜鉛、酸化カルシウム、酸化マグネシウムである。これら例示した触媒のなかでは、酸および塩基の塩が好ましく、金属有機酸塩がより好ましく、特に金属カルボン酸塩が好ましい。金属有機酸塩、例えば金属カルボン酸塩の金属は、最終的に得られる重合体(A)、樹脂組成物(D)または樹脂成形体の特性を阻害せず、かつこれらの廃棄時に環境汚染を招くことがない限り限定されず、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属;マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウムなどのアルカリ土類金属;亜鉛;ジルコニウム;である。なかでも亜鉛が好ましい。金属カルボン酸塩を構成するカルボン酸は限定されず、例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、オクチル酸、ノナン酸、デカン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、トリデカン酸、ペンタデカン酸、ヘプタデカン酸、乳酸、リンゴ酸、クエン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、フマル酸、マレイン酸、アジピン酸である。具体的な金属カルボン酸塩として、酢酸亜鉛、プロピオン酸亜鉛、オクチル酸亜鉛、またはステアリン酸亜鉛が好ましい。
環化反応を経て、前駆重合体(B)から中間重合体(C)が形成される。中間重合体(C)の分子構造は、上述した説明から理解できる。例えば、中間重合体(C)は、第三級アミド構造を有する5員環構造を主鎖に有している。
(脱アシル化反応)
中間重合体(C)に対する脱アシル化反応、より具体的には、中間重合体(C)が主鎖に有する環構造を形成する第三級アミド構造上のアシル基を脱アシル化して、第二級アミド構造を有する5員環構造を主鎖に有する重合体(A)を形成する反応、を進行させる方法は限定されない。例えば、中間重合体(C)を加熱することにより脱アシル化反応を進行させて、重合体(A)を形成する。
中間重合体(C)の加熱により脱アシル化を進行させる場合、加熱温度は、例えば100℃以上であり、200℃以上が好ましく、240℃以上、280℃以上の順にさらに好ましい。中間重合体(C)の加熱は、中間重合体(C)が固体の状態、溶媒に溶解している状態などの任意の状態で実施することができる。固体の状態で加熱する場合は、脱アシル化の速やかな進行のために、粉末、粒子などの表面積が大きい形態を有する中間重合体(C)とすることが好ましい。また、生成するカルボン酸またはカルボン酸エステルを除去することで脱アシル化を速やかに進行させるために、減圧下における加熱が好ましい。減圧の程度は、前駆重合体(B)に対する環化反応時の減圧と同様とすることができる。
脱アシル化を進行させる際には、必要に応じて、当該反応を促進させる触媒を使用してもよい。触媒を使用する場合、均一な反応のために、中間重合体(C)が溶媒に溶解している状態での加熱が好ましい。
触媒には、例えば、酸、塩基およびこれらの塩、金属錯体、ならびに金属酸化物から選ばれる少なくとも1種を使用できる。酸、塩基およびこれらの塩、金属錯体、ならびに金属酸化物の種類は、特に限定されない。具体的な各触媒の例は、環化反応の説明において上述した触媒の例と同じでありうる。最終的に得られる重合体(A)、または当該重合体(A)を含む樹脂組成物(D)もしくは樹脂成形体が透明性の重要視される用途に使用される場合、触媒は、これらの透明性が低下せず、着色などの悪影響が生じない範囲で使用することが好ましい。
酸の塩は限定されず、例えば、金属有機酸塩である。金属有機酸塩の具体的な例は、金属カルボン酸塩である。金属有機酸塩、例えば金属カルボン酸塩の金属は、最終的に得られる重合体(A)、樹脂組成物(D)または樹脂成形体の特性を阻害せず、かつこれらの廃棄時に環境汚染を招くことがない限り限定されず、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属;マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウムなどのアルカリ土類金属;亜鉛;ジルコニウム;である。なかでも亜鉛が好ましい。金属カルボン酸塩を構成するカルボン酸は限定されず、例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、オクチル酸、ノナン酸、デカン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、トリデカン酸、ペンタデカン酸、ヘプタデカン酸、乳酸、リンゴ酸、クエン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、フマル酸、マレイン酸、アジピン酸である。具体的な金属カルボン酸塩として、酢酸亜鉛、プロピオン酸亜鉛、オクチル酸亜鉛、またはステアリン酸亜鉛が好ましい
脱アシル化を経て、中間重合体(C)から、式(1)に示す環構造を主鎖に有する重合体(A)が形成される。
前駆重合体(B)に対する環化反応と、環化反応を経て形成された中間重合体(C)に対する脱アシル化反応とは、段階的に(例えば別個に)実施しても、連続的に実施してもよい。連続的に実施する場合、触媒の種類によっては、共通の触媒を使用することもできる。例えば、前駆重合体(B)の環化およびその後の中間重合体(C)の脱アシル化の触媒に金属有機酸塩を使用してもよく、このとき、金属有機酸塩は亜鉛有機酸塩が好ましい。亜鉛有機酸塩の使用により、前駆重合体(B)に対する環化反応と中間重合体(C)に対する脱アシル化反応とを、より安定かつ確実に進行させることができる。
前駆重合体(B)の環化およびその後の中間重合体(C)の脱アシル化に共通の触媒を使用する場合、各反応の促進に必要な量の触媒を、各反応を開始させる際あるいは各反応の開始後に個別に系に加えてもよいし、環化反応開始時に加えた触媒をそのまま中間重合体(C)に残留させて、この残留した触媒により中間重合体(C)の脱アシル化を促進させてもよい。
なお、中間重合体(C)に対する脱アシル化は、必ずしも、その反応率が100%であるとは限らない。また、中間重合体(C)の脱アシル化を部分的に進行させる、より具体的には、中間重合体(C)が主鎖に有する複数の5員環構造(第三級アミド構造を有する環構造)の一部に対してのみ脱アシル化を進行させる、ことも可能である。この場合、中間重合体(C)に対する脱アシル化により形成された重合体(A)は、式(1)に示す環構造以外に、前駆重合体(B)への環化反応により形成された、中間重合体(C)が有する上記環構造あるいは上記環構造を含む構成単位をさらに有しうる。
本発明の製造方法は、重合体(A)が形成される限り、上述した工程以外の任意の工程を含むことができる。
このような製造方法の側面から見た本発明の重合体(A)は、ビニルモノマーを含む単量体群の重合により形成された前駆重合体(B)であって、エステル基および/またはカルボキシル基とアミド基(第二級アミド基)とを側鎖として有する前駆重合体(B)を環化し、さらに当該環化により形成された環構造を構成する第三級アミド構造上のアシル基を脱アシル化してなる重合体である。
上述のように前駆重合体(B)は、例えば、エステル基および/またはカルボキシル基を有するビニルモノマーAと、アミド基を有するビニルモノマーBとを含む単量体群の重合により形成された共重合体でありうる。また、前駆重合体(B)は、例えば、エステル基および/またはカルボキシル基とアミド基とを有するビニルモノマーCを含む単量体群の重合により形成された重合体でありうるし、ビニルモノマーCのホモポリマーでもありうる。ビニルモノマーA,BおよびCの例は上述のとおりである。
[樹脂組成物(D)]
本発明の樹脂組成物(D)は、重合体(A)を含む。樹脂組成物(D)は、典型的には熱可塑性樹脂組成物である。樹脂組成物(D)は、典型的には非晶性である。樹脂組成物(D)は、典型的には非水溶性である。樹脂組成物(D)は2種以上の重合体(A)を含みうる。
樹脂組成物(D)は重合体(A)に由来する様々な特性を示す。当該特性は、例えば熱的特性、光学的特性である。熱的特性は、例えばTgであり、樹脂組成物(D)のTgは重合体(A)に由来して高くなる。樹脂組成物(D)のTgは、例えば120℃以上であり、重合体(A)の構造および含有率によっては、130℃以上、140℃以上、150℃以上、さらには160℃以上の値をとりうる。
また、樹脂組成物(D)は、重合体(A)を含むことにより、その耐熱分解特性、とりわけ樹脂組成物の溶融成形時に予想される高温に対する耐熱分解特性が向上している。樹脂組成物(D)の5%加熱減量温度は、例えば300℃以上であり、重合体(A)の構造および樹脂組成物(D)における重合体(A)の含有率によっては、樹脂組成物(D)の5%加熱減量温度は、320℃以上、340℃以上、さらには360℃以上の値をとりうる。
光学的特性は、例えば複屈折特性であり、樹脂組成物(D)は重合体(A)に由来して高い複屈折発現性(位相差発現性)を示す。高い位相差発現性は、例えば、高い応力光学係数Crの絶対値により評価できる。重合体(A)の構造および含有率によっては樹脂組成物(D)は正の固有複屈折を示し、このとき樹脂組成物(D)によって、例えば正の位相差フィルムを形成できる。なお、樹脂組成物(D)としての固有複屈折は、重合体(A)だけではなく、樹脂組成物(D)が含む他の重合体が示す固有複屈折との兼ね合いにより定まる。
樹脂組成物(D)は、重合体(A)に由来するその他の種々の特性を有しうる。これらの特性に基づき、樹脂組成物(D)は光学部材をはじめとして、重合体(A)の用途と同様の用途に使用できる。
樹脂組成物(D)は重合体(A)以外の他の重合体を含んでいてもよい。光学部材に樹脂組成物(D)を用いる場合、光学的透明性を確保するために、他の重合体は重合体(A)と相溶することが好ましい。他の重合体は、非水溶性の重合体でありうる。
当該他の重合体は、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン重合体、ポリ(4−メチル−1−ペンテン)などのオレフィン系重合体;塩化ビニル、塩素化ビニル樹脂などの含ハロゲン系重合体;ポリメタクリル酸メチルなどのアクリル重合体;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステル;ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610などのポリアミド;ポリアセタール;ポリカーボネート;ポリフェニレンオキシド;ポリフェニレンスルフィド;ポリエーテルエーテルケトン;ポリサルホン;ポリエーテルサルホン;ポリオキシペンジレン;ポリアミドイミド;ゴム質重合体である。樹脂組成物(D)は、2種以上のこれら重合体を含みうる。
樹脂組成物(D)における重合体(A)の含有率は、通常、50質量%以上であり、70質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましい。樹脂組成物(D)は、重合体として重合体(A)のみを含んでいてもよい。
樹脂組成物(D)は、重合体以外の材料、例えば添加剤、を含むことができる。添加剤は、例えば、酸化防止剤、耐光安定剤、耐候安定剤、熱安定剤などの安定剤;位相差上昇剤、位相差低減剤、位相差安定剤などの位相差調整剤;ガラス繊維、炭素繊維などの補強材;紫外線吸収剤;近赤外線吸収剤;トリス(ジブロモプロピル)ホスフェート、トリアリルホスフェート、酸化アンチモンなどの難燃剤;アニオン系、カチオン系、ノニオン系の界面活性剤を含む帯電防止剤;無機顔料、有機顔料、染料などの着色剤;有機フィラー、無機フィラー、樹脂改質剤、可塑剤、滑剤である。樹脂組成物(D)における添加剤の含有率は、好ましくは7質量%未満、より好ましくは2質量%以下、さらに好ましくは1質量%以下である。
樹脂組成物(D)の形成方法は特に限定されない。重合体(A)からなる樹脂組成物(D)であれば、重合体(A)をそのまま樹脂組成物(D)として使用すればよいし、樹脂組成物(D)が上記他の重合体および/または添加剤を含む場合は、重合体(A)と、上記他の重合体および/または添加剤とを公知の混合方法で混合して形成できる。混合は、例えば、オムニミキサーなどの混合機でプレブレンドした後、得られた混合物を混練して実施できる。混練機は特に限定されず、例えば、単軸押出機、二軸押出機などの押出機や加圧ニーダーなど、公知の混練機を使用できる。
[樹脂成形体]
本発明の樹脂成形体は、重合体(A)を含む。本発明の樹脂成形体は、例えば、重合体(A)を含む熱可塑性樹脂組成物(D)から構成される。樹脂成形体の用途は限定されず、重合体(A)に由来して得られる特性、ならびに樹脂組成物(D)が含む他の重合体および/または添加剤に由来して得られる特性に応じて選択できる。本発明の樹脂成形体は、例えば、光学用途に使用する光学部材である。
光学部材は、例えば、レンズ、プリズム、光ファイバー、光学フィルムである。光学フィルムは、例えば、各種の光ディスク(VD、CD、DVD、MD、LDなど)の基板の保護フィルム、液晶表示装置(LCD)などの画像表示装置が備える位相差フィルムおよび偏光子保護フィルム、ならびに視野角補償フィルム、光拡散フィルム、反射フィルム、反射防止フィルム、防眩フィルム、輝度向上フィルム、タッチパネル用導電フィルムである。
本発明の樹脂成形体は、重合体(A)の高いTgに由来する耐熱性を有しうる。このため、本発明の樹脂成形体の用途の自由度は高く、本発明の樹脂成形体の使用により様々な効果が得られる。例えば、光学フィルムである本発明の樹脂成形体の使用により、LCDなどの画像表示装置の設計の自由度が向上する。
本発明の樹脂成形体は、重合体(A)を含むことにより、その耐熱分解特性が向上している。本発明の樹脂成形体の用途として、この高い耐熱分解特性を利用した用途が期待される。
本発明の樹脂成形体は、高い光学的透明性を有しうる。例えば、JIS K7361の規定に準拠して求めた全光線透過率にして、85%以上、90%以上、さらには91%以上の樹脂成形体、典型的にはフィルム、とすることが可能である。
本発明の樹脂成形体は、表面の低いヘイズを有しうる。例えば、JIS K7136の規定に準拠して求めたヘイズにして、5%以下、3%以下、さらには2%以下のヘイズを有する樹脂成形体、典型的にはフィルム、とすることが可能である。
本発明の樹脂成形体は、位相差フィルムでありうる。位相差フィルムは、例えば、厚さ方向の位相差Rthが正である正の位相差フィルムである。位相差フィルムは、例えば、λ/4板、楕円偏光板でありうる。
本発明の樹脂成形体は、複屈折性を示さない(複屈折について等方的な)光学フィルムでありうる。この光学フィルムは、典型的には延伸フィルム、より具体的には二軸延伸フィルムである。このような光学フィルムは、例えば、偏光子保護フィルムに使用できる。
本発明の樹脂成形体は、他の部材と組み合わせることができる。例えば、光学フィルムである本発明の樹脂成形体を、他の光学部材と組み合わせてもよい。
本発明の樹脂成形体の表面には、必要に応じて各種の機能性コーティング層が形成されていてもよい。機能性コーティング層は、例えば、帯電防止層、粘接着剤層、接着層、易接着層、防眩(ノングレア)層、光触媒層などの防汚層、反射防止層、ハードコート層、紫外線遮蔽層、熱線遮蔽層、電磁波遮蔽層、ガスバリヤー層である。
本発明の樹脂成形体の形成方法は特に限定されない。溶融押出法、キャスト法、プレス成形法などの公知の成形手法により樹脂組成物(D)を成形して、本発明の樹脂成形体を形成することができる。必要に応じて、成形手法と公知の他の手法、例えば延伸手法、とを組み合わせてもよい。位相差フィルムを得るためには、樹脂組成物を成形して得たフィルム(原フィルム)の延伸が必要である。重合体(A)の高い耐熱分解特性を特に活かした方法は、溶融押出法などの溶融成形法である。
本発明の樹脂成形体を備える製品は特に限定されず、例えば、画像表示装置である。画像表示装置は、例えば、光学フィルムである本発明の樹脂成形体を備える。画像表示装置は特に限定されず、例えば、反射型、透過型、半透過型のLCD;TN型、STN型、OCB型、HAN型、VA型、IPS型などの各種の駆動方式のLCD;エレクトロルミネッセンス(EL)ディスプレイ;プラズマディスプレイ(PD);電界放出ディスプレイ(FED:Field Emission Display)である。
以下、実施例により、本発明をさらに詳細に説明する。本発明は、以下に示す実施例に限定されない。
本実施例において、MMA、NVAおよびAcAAMは、それぞれメタクリル酸メチル、N−ビニルアセトアミドおよび2−アセトアミドアクリル酸メチルの略称である。
最初に、本実施例において作製した重合体の評価方法を示す。
[構成単位の構造]
作製した重合体の構成単位がどのような分子構造を有しているのかについて、赤外分光分析(IR)および1H−核磁気共鳴(NMR)により評価した。IRの評価は、赤外分光分析装置(Varian製、Excalibur Series)を用いて、全反射測定法(ATR法)により実施した。測定条件は、スキャンスピード5kHz、分解能4cm-1とした。1H−NMRの評価は、核磁気共鳴分光計(BRUKER製、AV300M)を用いて実施した。測定溶媒には重クロロホルム(和光純薬製)を使用した。
[重合体における構成単位の含有率]
作製した前駆重合体におけるAcAAM単位およびNVA単位の含有率は、重合反応時に得られた重合溶液に残留する未反応単量体の量から算出した。未反応単量体の量は、ガスクロマトグラフィー(島津製作所製、GC2010)により求めた。
[ガラス転移温度(Tg)]
作製した重合体(前駆重合体および中間重合体を含む)のTgは、JIS K7121の規定に準拠して求めた。具体的には、示差走査熱量計(リガク製、DSC−8230)を用い、窒素ガス雰囲気下、約10mgのサンプルを常温から300℃まで昇温(昇温速度20℃/分)して得られたDSC曲線から、始点法により評価した。リファレンスには、α−アルミナを用いた。
[5%加熱減量温度]
作製した重合体(前駆重合体および中間重合体を含む)の5%加熱減量温度(重合体を一定の速度で昇温したときに、その重量が5%減少した時点の温度)は、JIS K7120の規定に準拠し、示差熱量天秤(リガク製、TG−8120)を用いて、サンプル質量5mg、昇温速度10℃/分、窒素雰囲気下の条件で評価した。サンプルには、予め熱風乾燥機にて80℃で12時間乾燥した重合体を用いた。
[応力光学係数Cr]
作製した重合体の応力光学係数Cr(測定波長590nm)は、以下のようにして求めた。
最初に、作製した重合体を210℃の熱プレスにより製膜して、当該重合体の未延伸フィルム(厚さ150μm)を得た。次に、作製した未延伸フィルムをサイズ20mm×60mmで切り出して、Cr評価用の試験片を得た。次に、試験片の一方の短辺に、延伸の際、当該試験片に1N/mm2以下の応力が加わる重量の錘を選択して取り付けた後、重合体のTg+20℃に保持した定温乾燥機(アズワン製、DOV−450A)に収容し、1時間放置した。試験片を定温乾燥機に収容する際には、試験片の他方の短辺をチャックにより固定し、錘により試験片に加わった応力によって試験片がその長辺方向(鉛直方向)に自由端一軸延伸されるようにした。また、収容する際、試験片におけるチャック−錘間の距離を40mmとした。
1時間の加熱延伸後、乾燥機のヒーターを切り、そのまま試験片を乾燥機内で自然に徐冷させた。オーブン内の温度が重合体のTg−40℃に達した時点で試験片(一軸延伸フィルム)を取り出し、取り出した試験片の厚さおよび波長590nmの光に対する面内位相差Reを測定して、当該試験片の面内複屈折Δnを算出した。これとは別に、錘の荷重によって延伸された後の試験片の断面積を求め、当該断面積と錘の荷重とから、フィルムに印加された応力σ(Pa)を計算した。錘の重量を変化させながら、それぞれの荷重についてΔnおよびσを求め、得られたσに対するΔnの傾きを最小二乗法により求めて、これを応力光学係数Cr(Pa-1)とした。面内位相差Reを測定する際の配向角が延伸方向(荷重印加方向)に対して0°近傍の場合、応力光学係数Crの符号は正となる。この場合、重合体の固有複屈折は正である。一方、配向角が延伸方向に対して90°近傍の場合、応力光学係数Crの符号は負となる。この場合、重合体の固有複屈折は負である。Crの絶対値が大きいほど、延伸による複屈折の発現性が高くなる。
試験片の面内位相差Re(nm)は、位相差測定装置(王子計測機器製、KOBRA-WR)を用いて求めた。面内位相差Reは、試験片(フィルム)面内の遅相軸方向(フィルム面内において最大の屈折率を示す方向)の屈折率nx、同面内の進相軸方向(遅相軸方向と直交する方向)の屈折率ny、およびフィルムの厚さd(nm)を用いて、式(nx−ny)×dにより示される値である。nx−nyの値が面内複屈折Δnに相当する。
(実施例1)
0.45質量部のAcAAM、14.55質量部のMMA、15.00質量部のメチルエチルケトンおよび0.03質量部のアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)を反応容器に収容し、容器内を窒素置換した。次に、容器を65℃のオイルバスにより2時間加熱して、AcAAMとMMAとの溶液重合を進行させた。次に、形成された重合溶液を過剰のメタノールに投入して再沈殿させた後、得られた沈殿物を圧力0.13kPa、温度100℃の条件下で1時間真空乾燥して揮発成分を除去し、前駆重合体である固体状の重合体(1−1)を得た。重合体(1−1)のTgは110℃であり、5%加熱減量温度は203℃であった。また、重合体(1−1)におけるAcAAM単位の含有率は17.9質量%であった。
次に、作製した重合体(1−1)10.00質量部と、環化および脱アシル化触媒としてオクチル酸亜鉛0.02質量部とをアセトン90.00質量部に溶解させ、圧力0.13kPaの減圧下、温度180℃で2時間加熱することによって揮発成分を除去しながら環化反応を進行させて、中間重合体である固体状の重合体(1−2)を得た。重合体(1−2)のTgは138℃、5%加熱減量温度は264℃であった。重合体(1−1)および(1−2)に対する1H−NMR評価によれば、重合体(1−1)のNMRスペクトルにおいて観察されたAcAAM単位の第二級アミド構造に帰属されるピークが重合体(1−2)のNMRスペクトルにおいて消失するとともに、後者のNMRスペクトルでは、環構造を構成するアセチルアミド基に帰属される大きなピークが2.49ppmに新たに生じていた。
次に、作製した重合体(1−2)を、固体状のまま、圧力0.13kPaの減圧下、環化反応時より高い温度240℃で2時間加熱することによって脱アシル化を進行させて、固体状の重合体(1−3)を得た。重合体(1−3)のTgは140℃、5%加熱減量温度は373℃であった。重合体(1−1)〜(1−3)に対するIR評価によれば、重合体(1−1)および(1−2)のIRスペクトルには存在しない、第二級アミド環構造のカルボニル基の伸縮振動に帰属される吸収ピーク(波数1780cm-1)が、重合体(1−3)のIRスペクトルにおいて確認された。すなわち、重合体(1−1)に対する先の加熱によって、アセチルアミド基を構造の一部に有する環構造が当該重合体の主鎖に形成され、当該環構造が形成された重合体(1−2)に対する後の加熱によって、式(1)に示す環構造を主鎖に有する重合体(1−3)が形成されたことが確認された。重合体(1−3)のCrは+60×10-11Pa-1であり、重合体(1−3)は正の固有複屈折を有していた。
(実施例2)
0.60質量部のAcAAM、14.40質量部のMMA、15.00質量部のメチルエチルケトンおよび0.03質量部のAIBNを反応容器に収容し、容器内を窒素置換した。次に、容器を65℃のオイルバスにより2時間加熱して、AcAAMとMMAとの溶液重合を進行させた。次に、形成された重合溶液を過剰のメタノールに投入して再沈殿させた後、得られた沈殿物を圧力0.13kPa、温度100℃の条件下で1時間真空乾燥して揮発成分を除去し、前駆重合体である固体状の重合体(2−1)を得た。重合体(2−1)のTgは117℃であり、5%加熱減量温度は196℃であった。また、重合体(2−1)におけるAcAAM単位の含有率は25.4質量%であった。
次に、作製した重合体(2−1)10.00質量部と、環化および脱アシル化触媒としてオクチル酸亜鉛0.02質量部とをアセトン90.00質量部に溶解させ、圧力0.13kPaの減圧下、温度180℃で2時間加熱することによって揮発成分を除去しながら環化反応を進行させて、中間重合体である固体状の重合体(2−2)を得た。重合体(2−2)のTgは143℃、5%加熱減量温度は273℃であった。重合体(2−1)および(2−2)に対する1H−NMR評価によれば、重合体(2−1)のNMRスペクトルにおいて観察されたAcAAM単位の第二級アミド構造に帰属されるピークが重合体(2−2)のNMRスペクトルにおいて消失するとともに、後者のNMRスペクトルでは、環構造を構成するアセチルアミド基に帰属される大きなピークが2.49ppmに新たに生じていた。
次に、作製した重合体(2−2)を、固体状のまま、圧力0.13kPaの減圧下、環化反応時より高い温度240℃で2時間加熱することによって脱アシル化を進行させて、固体状の重合体(2−3)を得た。重合体(2−3)のTgは154℃、5%加熱減量温度は349℃であった。重合体(2−1)〜(2−3)に対するIR評価によれば、重合体(2−1)および(2−2)のIRスペクトルには存在しない、第二級アミド環構造のカルボニル基の伸縮振動に帰属される吸収ピーク(波数1780cm-1)が、重合体(2−3)のIRスペクトルにおいて確認された。すなわち、重合体(2−1)に対する先の加熱によって、アセチルアミド基を構造の一部に有する環構造が当該重合体の主鎖に形成され、当該環構造が形成された重合体(2−2)に対する後の加熱によって、式(1)に示す環構造を主鎖に有する重合体(2−3)が形成されたことが確認された。重合体(2−3)のCrは+87×10-11Pa-1であり、重合体(2−3)は正の固有複屈折を有していた。
(実施例3)
1.35質量部のAcAAM、13.65質量部のMMA、15.00質量部のメチルエチルケトンおよび0.03質量部のAIBNを反応容器に収容し、容器内を窒素置換した。次に、容器を65℃のオイルバスにより2時間加熱して、AcAAMとMMAとの溶液重合を進行させた。次に、形成された重合溶液を過剰の2−プロパノールに投入して再沈殿させた後、得られた沈殿物を圧力0.13kPa、温度100℃の条件下で1時間真空乾燥して揮発成分を除去し、前駆重合体である固体状の重合体(3−1)を得た。重合体(3−1)のTgは119℃であり、5%加熱減量温度は198℃であった。また、重合体(3−1)におけるAcAAM単位の含有率は46.8質量%であった。
次に、作製した重合体(3−1)10.00質量部と、環化および脱アシル化触媒としてオクチル酸亜鉛0.02質量部とをアセトン90.00質量部に溶解させ、圧力0.13kPaの減圧下、温度180℃で2時間加熱することによって揮発成分を除去しながら環化反応を進行させて、中間重合体である固体状の重合体(3−2)を得た。重合体(3−2)のTgは151℃、5%加熱減量温度は250℃であった。重合体(3−1)および(3−2)に対する1H−NMR評価によれば、重合体(3−1)のNMRスペクトルにおいて観察されたAcAAM単位の第二級アミド構造に帰属されるピークが重合体(3−2)のNMRスペクトルにおいて消失するとともに、後者のNMRスペクトルでは、環構造を構成するアセチルアミド基に帰属される大きなピークが2.49ppmに新たに生じていた。
次に、作製した重合体(3−2)を、固体状のまま、圧力0.13kPaの減圧下、環化反応時より高い温度240℃で2時間加熱することによって脱アシル化を進行させて、固体状の重合体(3−3)を得た。重合体(3−3)のTgは181℃、5%加熱減量温度は304℃であった。重合体(3−1)〜(3−3)に対するIR評価によれば、重合体(3−1)および(3−2)のIRスペクトルには存在しない、第二級アミド環構造のカルボニル基の伸縮振動に帰属される吸収ピーク(波数1780cm-1)が、重合体(3−3)のIRスペクトルにおいて確認された。すなわち、重合体(3−1)に対する先の加熱によって、アセチルアミド基を構造の一部に有する環構造が当該重合体の主鎖に形成され、当該環構造が形成された重合体(3−2)に対する後の加熱によって、式(1)に示す環構造を主鎖に有する重合体(3−3)が形成されたことが確認された。
(実施例4)
1.20質量部のNVA、6.80質量部のMMA、12.00質量部のメチルエチルケトンおよび0.016質量部のターシャリーアミルパーオキシイソノナノエート(アトフィナ吉富製、商品名:ルペロックス570)を反応容器に収容し、容器内を窒素置換した。次に、容器を80℃のオイルバスにより4時間加熱して、NVAとMMAとの溶液重合を進行させた。次に、形成された重合溶液を過剰のメタノールに投入して再沈殿させた後、得られた沈殿物を圧力0.13kPa、温度100℃の条件下で1時間真空乾燥して揮発成分を除去し、前駆重合体である固体状の重合体(4−1)を得た。重合体(4−1)のTgは113℃であり、5%加熱減量温度は231℃であった。また、重合体(4−1)におけるNVA単位の含有率は8.0質量%であった。
次に、作製した重合体(4−1)10.00質量部と、環化および脱アシル化触媒としてオクチル酸亜鉛0.02質量部とをアセトン90.00質量部に溶解させ、圧力0.13kPaの減圧下、温度180℃で2時間加熱することによって揮発成分を除去しながら環化反応を進行させて、中間重合体である固体状の重合体(4−2)を得た。重合体(4−2)のTgは128℃、5%加熱減量温度は285℃であった。重合体(4−1)および(4−2)に対する1H−NMR評価によれば、重合体(4−1)のNMRスペクトルにおいて観察されたNVA単位の第二級アミド構造に帰属されるピークが重合体(4−2)のNMRスペクトルにおいて消失するとともに、後者のNMRスペクトルでは、環構造を構成するアセチルアミド基に帰属される大きなピークが2.49ppmに新たに生じていた。
次に、作製した重合体(4−2)を、固体状のまま、圧力0.13kPaの減圧下、環化反応時より高い温度240℃で2時間加熱することによって脱アシル化を進行させて、固体状の重合体(4−3)を得た。重合体(4−3)のTgは137℃、5%加熱減量温度は375℃であった。重合体(4−1)〜(4−3)に対するIR評価によれば、重合体(4−1)および(4−2)のIRスペクトルには存在しない、第二級アミド環構造のカルボニル基の伸縮振動に帰属される吸収ピーク(波数1780cm-1)が、重合体(4−3)のIRスペクトルにおいて確認された。すなわち、重合体(4−1)に対する先の加熱によって、アセチルアミド基を構造の一部に有する環構造が当該重合体の主鎖に形成され、当該環構造が形成された重合体(4−2)に対する後の加熱によって、式(1)に示す環構造を主鎖に有する重合体(4−3)が形成されたことが確認された。重合体(4−3)のCrは+39×10-11Pa-1であり、重合体(4−3)は正の固有複屈折を有していた。
(実施例5)
2.00質量部のNVA、6.00質量部のMMA、12.00質量部のメチルエチルケトンおよび0.016質量部のターシャリーアミルパーオキシイソノナノエート(アトフィナ吉富製、商品名:ルペロックス570)を反応容器に収容し、容器内を窒素置換した。次に、容器を80℃のオイルバスにより4時間加熱して、NVAとMMAとの溶液重合を進行させた。次に、形成された重合溶液を過剰のメタノールに投入して再沈殿させた後、得られた沈殿物を圧力0.13kPa、温度100℃の条件下で1時間真空乾燥して揮発成分を除去し、前駆重合体である固体状の重合体(5−1)を得た。重合体(5−1)のTgは114℃であり、5%加熱減量温度は208℃であった。また、重合体(5−1)におけるNVA単位の含有率は13.1質量%であった。
次に、作製した重合体(5−1)10.00質量部と、環化および脱アシル化触媒としてオクチル酸亜鉛0.02質量部とをアセトン90.00質量部に溶解させ、圧力0.13kPaの減圧下、温度180℃で2時間加熱することによって揮発成分を除去しながら環化反応を進行させて、中間重合体である固体状の重合体(5−2)を得た。重合体(5−2)のTgは131℃、5%加熱減量温度は289℃であった。重合体(5−1)および(5−2)に対する1H−NMR評価によれば、重合体(5−1)のNMRスペクトルにおいて観察されたNVA単位の第二級アミド構造に帰属されるピークが重合体(5−2)のNMRスペクトルにおいて消失するとともに、後者のNMRスペクトルでは、環構造を構成するアセチルアミド基に帰属される大きなピークが2.49ppmに新たに生じていた。
次に、作製した重合体(5−2)を、固体状のまま、圧力0.13kPaの減圧下、環化反応時より高い温度240℃で2時間加熱することによって脱アシル化を進行させて、固体状の重合体(5−3)を得た。重合体(5−3)のTgは144℃、5%加熱減量温度は357℃であった。重合体(5−1)〜(5−3)に対するIR評価によれば、重合体(5−1)および(5−2)のIRスペクトルには存在しない、第二級アミド環構造のカルボニル基の伸縮振動に帰属される吸収ピーク(波数1780cm-1)が、重合体(5−3)のIRスペクトルにおいて確認された。すなわち、重合体(5−1)に対する先の加熱によって、アセチルアミド基を構造の一部に有する環構造が当該重合体の主鎖に形成され、当該環構造が形成された重合体(5−2)に対する後の加熱によって、式(1)に示す環構造を主鎖に有する重合体(5−3)が形成されたことが確認された。重合体(5−3)のCrは+75×10-11Pa-1であり、重合体(5−3)は正の固有複屈折を有していた。
実施例1〜5で作製した前駆重合体の組成および特性、ならびに中間重合体および脱アシル化を経て最終的に得られた重合体の特性を、以下の表1にまとめる。
表1に示すように、主鎖に環構造を有する中間重合体および最終重合体は、前駆重合体よりも高いTgを有していた。そして、脱アシル化を経て得られた最終重合体は、前駆重合体はもちろんのこと、中間重合体に比べて大きく向上した5%加熱減量温度を示し、すなわち、大きく向上した耐熱分解特性を有していた。最終重合体の5%加熱減量温度について、中間重合体からの上昇度は50℃以上、実施例1では100℃以上、実施例4では90℃以上にまで達していた。