以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。本明細書において、特に記載がない限り、「%」は「質量%」を、「部」は「質量部」を、それぞれ意味し、また、範囲を示す「A〜B」なる記載は、A以上、B以下であることを意味する。
本明細書における「樹脂」は「重合体」よりも広い概念である。樹脂は、例えば一種類または二種類以上の重合体から構成されていてもよいし、必要に応じて、重合体以外の材料、例えば、酸化防止剤、フィラーなどの添加剤、相溶化剤、安定化剤などを含んでいてもよい。
〔1.アクリル樹脂組成物の組成〕
〔A.アクリル系重合体を含有するアクリル樹脂〕
本発明に係る製造方法によって得られるアクリル樹脂組成物は、ポリマーフィルタを用いて濾過することを最も好ましい実施形態として意図したものであり、ガラス転移温度(Tg)の高いアクリル系重合体と紫外線吸収剤とを含有するアクリル樹脂組成物である限り、特に限定されないが、樹脂組成物としてのTgが110℃以上となるアクリル樹脂組成物であることが必要である。
紫外線吸収剤を含んだ樹脂組成物としてのTgが110℃以上であることから、アクリル系重合体は、そのTgが110℃以上のものが採用される。また、樹脂組成物としてのTgを向上することができることから、アクリル系重合体のTgは115℃以上が好ましく、120℃以上がより好ましく、130℃以上がさらに好ましい。なお、代表的なアクリル系重合体であるポリメタクリル酸メチル(PMMA)のTgは105℃である。
本明細書において「アクリル系重合体」とは、主鎖に(メタ)アクリル酸エステル単量体由来の構造単位(以下、「(メタ)アクリル酸エステル単位」と称する)を有する重合体をいう。アクリル系重合体における(メタ)アクリル酸エステル単位の含有率は、通常、10質量%以上、好ましくは30質量%以上、より好ましくは50質量%以上、特に好ましくは70質量%以上である。
(メタ)アクリル酸エステル単位は、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸n−ヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンタニルオキシエチル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンタニル、(メタ)アクリル酸クロロメチル、(メタ)アクリル酸2−クロロエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2,3,4,5,6−ペンタヒドロキシヘキシル、(メタ)アクリル酸2,3,4,5−テトラヒドロキシペンチルなどの単量体に由来する構成単位である。
アクリル系重合体は、(メタ)アクリル酸エステル単位として、これら構成単位を二種類以上有していてもよい。アクリル系重合体は、(メタ)アクリル酸メチル単位を有することが好ましく、この場合、アクリル系重合体およびアクリル系重合体を含む樹脂組成物並びに当該樹脂組成物を成形して得られる樹脂成形品の熱安定性が向上する。
アクリル系重合体はTgのより高いものが好ましい。よって、本発明において、アクリル系重合体として主鎖に環構造を有しているものが好適に用いられる。この場合、アクリル系重合体および樹脂組成物のTgがより高くなり、当該樹脂組成物から得られる樹脂成形品の耐熱性が向上する。このように主鎖に環構造を有するアクリル系重合体を含む樹脂組成物から得られる樹脂成形品、例えば樹脂フィルムは、画像表示装置における光源などの発熱部の近傍への配置が容易となるなど、光学部材としての用途に好適である。
本明細書において「主鎖に環構造を有するアクリル系重合体」とは、主鎖に(メタ)アクリル酸エステル単位と、環構造とを含む重合体をいう。
上記環構造とは、(メタ)アクリル酸エステル単位の分子鎖内にある水酸基またはカルボキシ基と、同じく分子鎖内にあるエステル基との間で脱アルコール環化縮合反応(以下、環化縮合反応ともいう)を進行させることによって形成される環構造をいう。環構造としては、例えば、ラクトン環構造、無水グルタル酸構造、グルタルイミド構造、N−置換マレイミド構造、無水マレイン酸構造などを挙げることができるが、その種類は特に限定されるものではない。環構造として、これら構造から選ばれる少なくとも一種類を用いることができる。
上記「主鎖に環構造を有するアクリル系重合体」における(メタ)アクリル酸エステル単位の含有率と、環構造の含有率との合計は、主鎖中に好ましくは50質量%以上、より好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは90質量%、特に好ましくは95質量%以上、最も好ましくは99質量%以上である。
上記「主鎖に環構造を有するアクリル系重合体」における環構造(ラクトン環構造を除く)の含有率は特に限定されないが、例えば5〜90質量%であり、10〜70質量%であることが好ましく、10〜60質量%であることがより好ましく、10〜50質量%であることがさらに好ましい。
上記「主鎖に環構造を有するアクリル系重合体」が主鎖にラクトン環構造を有する場合、当該重合体におけるラクトン環構造の含有率は特に限定されないが、例えば5〜90質量%であり、以下、20〜90質量%、30〜90質量%、35〜90質量%、40〜80質量%、45〜75質量%の順により好ましくなる。
上記「主鎖に環構造を有するアクリル系重合体」における環構造の含有率が過度に小さくなると、樹脂組成物並びに当該樹脂組成物を成形して得られる樹脂成形品の耐熱性が低下したり、耐溶剤性および表面硬度が不十分となったりすることがある。一方、上記含有率が過度に大きくなると、樹脂組成物の成形性、ハンドリング性が低下することがある。
上記「主鎖に環構造を有するアクリル系重合体」は、(メタ)アクリル酸エステル単位を二種類以上含有していてもよい。また、上記「主鎖に環構造を有するアクリル系重合体」は、(メタ)アクリル酸エステル単位として、(メタ)アクリル酸メチルを含有することが好ましい。(メタ)アクリル酸メチルを含有することにより、本発明に係る製造方法によって得られたアクリル樹脂組成物、および当該樹脂組成物を成形して得られる樹脂成形品の熱安定性を向上させることができる。
上記「主鎖に環構造を有するアクリル系重合体」は、(メタ)アクリル酸エステル単位以外の構成単位を含有していてもよい。当該構成単位としては、水酸基を含有する単量体に由来する構成単位、カルボキシ基を含有する単量体に由来する構成単位などを挙げることができる。本発明に係る製造方法では、環化縮合反応によって主鎖に環構造を導入するため、上記「主鎖に環構造を有するアクリル系重合体」を重合するときに、上記単量体を共重合させることが好ましい。
水酸基を含有する単量体としては、例えば、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸エチル、2−(ヒドロキシエチル)アクリル酸メチルなどを挙げることができる。
カルボキシ基を含有する単量体としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸や2−(ヒドロキシエチル)アクリル酸などの2−(ヒドロキシアルキル)アクリル酸、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルや2−(ヒドロキシエチル)アクリル酸メチルなどの2−(ヒドロキシアルキル)アクリル酸エステル、などを挙げることができる。
上記「主鎖に環構造を有するアクリル系重合体」には、これら単量体が二種類以上、共重合されていてもよい。水酸基を含有する単量体およびカルボキシ基を含有する単量体は、環化縮合反応によって環構造へと変化するが、上記「主鎖に環構造を有するアクリル系重合体」には、水酸基を含有する未反応の単量体由来の構成単位および/またはカルボキシ基を含有する未反応の単量体由来の構成単位が含まれていてもよい。
また、「主鎖に環構造を有するアクリル系重合体」には、(メタ)アクリル酸エステル単位、水酸基を含有する単量体に由来する構成単位、およびカルボキシ基を含有する単量体に由来する構成単位以外の、その他の構成単位が含有されていてもよい。該その他の構成単位としては、例えば、スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン、α−ヒドロキシメチルスチレン、α−ヒドロキシエチルスチレン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、メタリルアルコール、アリルアルコール、エチレン、プロピレン、4−メチル−1−ペンテン、酢酸ビニル、2−ヒドロキシメチル−1−ブテン、メチルビニルケトン、N−ビニルピロリドン、N−ビニルカルバゾールなどの単量体に由来する構成単位を挙げることができる。上記「主鎖に環構造を有するアクリル系重合体」は、該その他の構成単位を二種類以上含有していてもよい。
上記「主鎖に環構造を有するアクリル系重合体」および本発明に係る製造方法によって製造されるアクリル樹脂組成物のTgをより向上させることができるため、上記環構造は、グルタルイミド構造、無水グルタル酸構造およびラクトン環構造から選ばれる少なくとも一種類であることが好ましい。
下記式(1)に、グルタルイミド構造および無水グルタル酸構造を示す。
上記式(1)におけるR1およびR2は、互いに独立して、水素原子またはメチル基であり、X1は、酸素原子または窒素原子である。X1が酸素原子のときR3は存在せず、X1が窒素原子のとき、R3は、水素原子、炭素数1〜6の直鎖アルキル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基またはフェニル基である。
X1が窒素原子のとき、式(1)により示される環構造はグルタルイミド構造となる。グルタルイミド構造は、例えば、(メタ)アクリル酸エステル重合体をメチルアミンなどのイミド化剤を用いてイミド化することによって形成することができる。
X1が酸素原子のとき、式(1)により示される環構造は無水グルタル酸構造となる。無水グルタル酸構造は、例えば、(メタ)アクリル酸エステルと(メタ)アクリル酸との共重合体を、分子内で脱アルコール環化縮合反応させることによって形成することができる。
下記式(2)に、N−置換マレイミド構造および無水マレイン酸構造を示す。
上記式(2)におけるR4およびR5は、互いに独立して、水素原子またはメチル基であり、X2は、酸素原子または窒素原子である。X2が酸素原子のときR6は存在せず、X2が窒素原子のとき、R6は、水素原子、炭素数1〜6の直鎖アルキル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、ベンジル基またはフェニル基である。
X2が窒素原子のとき、式(2)により示される環構造はN−置換マレイミド構造となる。N−置換マレイミド構造を主鎖に有するアクリル樹脂は、例えば、N−置換マレイミドと(メタ)アクリル酸エステルとを共重合させることによって形成することができる。
X2が酸素原子のとき、式(2)により示される環構造は無水マレイン酸構造となる。無水マレイン酸構造を主鎖に有するアクリル樹脂は、例えば、無水マレイン酸と(メタ)アクリル酸エステルとを共重合させることによって形成することができる。
なお、式(1),(2)の説明において例示した、環構造を形成する各方法では、各々の環構造の形成に用いる重合体が全て(メタ)アクリル酸エステル単位を構成単位として有するため、当該方法により得られる樹脂はアクリル樹脂となる。
上記環構造としては、環構造内に窒素原子を含まないため着色(黄変)が生じにくく、樹脂成形品としたときの光学特性に優れるため、ラクトン環構造であることがより好ましい。即ち、上記「主鎖に環構造を有するアクリル系重合体」は、主鎖にラクトン環構造を有するアクリル系重合体であることがより好ましい。
上記「主鎖に環構造を有するアクリル系重合体」が主鎖に有していてもよいラクトン環構造の環員数は特に限定されず、例えば4〜8員環であってもよいが、環構造としての安定性に優れるため、5員環または6員環であることが好ましく、6員環であることがより好ましい。
下記式(3)に、例えば6員環であるラクトン環構造を示す。
上記式(3)におけるR7、R8およびR9は、互いに独立して、水素原子または炭素数1〜20の範囲の有機残基である。当該有機残基は酸素原子を含んでいてもよい。
上記式(3)における有機残基は、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基などの炭素数が1〜20の範囲のアルキル基;エテニル基、プロペニル基などの炭素数が2〜20の範囲の不飽和脂肪族炭化水素基;フェニル基、ナフチル基などの炭素数が4〜20の範囲の芳香族炭化水素基;上記アルキル基、上記不飽和脂肪族炭化水素基および上記芳香族炭化水素基において、水素原子の一つ以上が、水酸基、カルボキシ基、エーテル基およびエステル基から選ばれる少なくとも一種類の基により置換された基;である。
上記「主鎖に環構造を有するアクリル系重合体」は、紫外線吸収能を有する構成単位(UVA単位)を有していてもよい。この場合、樹脂組成物並びに当該樹脂組成物を成形して得られる樹脂成形品の紫外線吸収能がさらに向上する。また、UVA単位の構造によっては、上記「主鎖に環構造を有するアクリル系重合体」と、上記紫外線吸収剤との相溶性が向上する。
UVA単位の起源となる単量体は特に限定されるものではなく、例えば、重合性基を導入したベンゾトリアゾール誘導体、トリアジン誘導体またはベンゾフェノン誘導体を挙げることができる。導入する重合性基は、上記「主鎖に環構造を有するアクリル系重合体」が有する構成単位に応じて、適宜選択することができる。
上記単量体の具体的な例としては、2−(2'−ヒドロキシ−5'−メタクリロイルオキシ)エチルフェニル−2H−ベンゾトリアゾール(大塚化学株式会社製、商品名:RUVA−93)、2−(2'−ヒドロキシ−5'−メタクリロイルオキシ)フェニル−2H−ベンゾトリアゾール、2−(2'−ヒドロキシ−3'−t−ブチル−5'−メタクリロイルオキシ)フェニル−2H−ベンゾトリアゾールを挙げることができ、さらに、下記式(4),(5),(6)により示されるトリアジン誘導体、あるいは下記式(7)により示されるベンゾトリアゾール誘導体を挙げることができる。
紫外線吸収能がより高いことから、上記単量体としては、2−(2'−ヒドロキシ−5'−メタクリロイルオキシ)エチルフェニル−2H−ベンゾトリアゾールが好ましい。高い紫外線吸収能を有するUVA単位によれば、上記「主鎖に環構造を有するアクリル系重合体」におけるUVA単位の含有率が低い場合においても、所望の紫外線吸収効果が得られる。
即ち、上記「主鎖に環構造を有するアクリル系重合体」がUVA単位を含む場合においても、UVA単位以外の構成単位の含有率を相対的に大きくすることができ、光学部材などの様々な用途に好適な特性(例えば熱可塑性、耐熱性)を有する樹脂組成物が得やすくなる。
また、UVA単位の含有率が大きくなると樹脂組成物の成形時に着色が生じやすくなるため、高い紫外線吸収能を有するUVA単位によれば、最終的に得られる樹脂成形品の着色を抑制することができ、当該樹脂成形品は光学部材の用途に好適である。
上記「主鎖に環構造を有するアクリル系重合体」がUVA単位を含む場合、上記「主鎖に環構造を有するアクリル系重合体」における当該単位の含有率は、20質量%以下が好ましく、15質量%以下がより好ましい。上記含有率が20質量%を超えると、樹脂組成物としての耐熱性が低下する。
上記「主鎖に環構造を有するアクリル系重合体」の重量平均分子量は、例えば1,000〜300,000の範囲内であり、5,000〜250,000の範囲内が好ましく、10,000〜200,000の範囲内がより好ましく、50,000〜200,000の範囲内がさらに好ましい。
上記「主鎖に環構造を有するアクリル系重合体」は、触媒として酸性物質または塩基性物質を用いることによって、アクリル系重合体の環化縮合反応を行い、上記重合体の主鎖に環構造を形成する工程(環化工程)によって得ることができる。
上記アクリル系重合体は、分子鎖内に有する水酸基とエステル基との間の環化縮合反応によってラクトン環構造を形成することができる。
以下、ラクトン環構造形成の原料となる上記アクリル系重合体について説明する。上記アクリル系重合体は、下記式(8)で示されるビニル単量体の重合体であることが好ましい。
式(8)におけるR10およびR11は、互いに独立して、水素原子または上記式(3)において有機残基として例示した基である。
式(8)により示される単量体の具体的な例としては、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸エチル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸イソプロピル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸n−ブチル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸t−ブチルなどが挙げられる。
これらの中でも、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸エチルが好ましく、ラクトン環構造の形成による耐熱性の向上効果が高いことから、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル(MHMA)が特に好ましい。上記アクリル系重合体は、これら単量体を二種類以上、共重合させた共重合体であってもよい。
上記アクリル系重合体は、上記式(8)により示される単量体と、エステル基を有する単量体(式(8)により示される単量体を除く)との共重合体であってもよい。
エステル基を有する単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸エステルが挙げられる。ここでいう(メタ)アクリル酸エステルとは、式(8)により示される単量体以外の単量体であって、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸ベンジルなどのアクリル酸エステル;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸ベンジルなどのメタクリル酸エステル;などが挙げられる。
これらの中でも、環化縮合反応によって、優れた耐熱性、透明性を有する樹脂が得られることから、メタクリル酸メチル(MMA)が特に好ましい。
上記アクリル系重合体が、上記式(8)により示される単量体と、上記エステル基を有する単量体との共重合体である場合、当該アクリル系重合体を得るための単量体群における、各単量体の含有率の好ましい範囲は以下の通りである。
即ち、上記式(8)により示される単量体の含有率については、5〜90質量%の範囲内が好ましく、10〜70質量%の範囲内がより好ましく、10〜60質量%の範囲内、10〜50質量%の範囲内の順にさらに好ましい。
上記含有率が5質量%未満であると、上記アクリル系重合体を環化縮合反応させたときに形成されるラクトン環の量が少なくなり、得られる樹脂の耐熱性、耐溶剤性、表面硬度などが不十分となることがある。
一方、上記含有率が90質量%を超えると、上記アクリル系重合体を環化縮合反応させるときに、ゲルが生じ、得られる樹脂の透明性および成形性が低下することがある。
上記アクリル系重合体は、上記例示した各単量体と、その他の単量体、例えば水酸基を有する各種の単量体、不飽和カルボン酸、下記式(9)により示される単量体など、との共重合体であってもよい。
上記式(9)におけるR12は、水素原子またはメチル基であり、Xは、水素原子、炭素数1〜20の範囲のアルキル基、アリール基、−OAc基、−CN基、−CO−R13基、または−C−O−R14基であり、ここで、Acはアセチル基であり、R13およびR14は、水素原子または上記式(3)において有機残基として例示した基である。
ここで、水酸基を有する各種の単量体としては、上記式(8)により示される単量体以外の単量体であって、例えば、α−ヒドロキシメチルスチレン、α−ヒドロキシエチルスチレン、2−(ヒドロキシエチル)アクリル酸メチルなどの2−(ヒドロキシアルキル)アクリル酸エステル;2−(ヒドロキシエチル)アクリル酸などの2−(ヒドロキシアルキル)アクリル酸;などが挙げられる。
不飽和カルボン酸としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、α−置換アクリル酸、α−置換メタクリル酸などが挙げられる。これらの中でも、アクリル酸およびメタクリル酸が特に好ましい。
式(9)により示される単量体としては、例えば、スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン、アクリロニトリル、メチルビニルケトン、エチレン、プロピレン、酢酸ビニルなどが挙げられる。これらの中でも本発明の効果を発揮させる上で、スチレン、α−メチルスチレンが特に好ましい。これらの単量体は、単独で用いてもよく、二種類以上を併用してもよい。
上記アクリル系重合体が、上記例示した単量体と、上記その他の単量体との共重合体である場合、当該アクリル系重合体を得るための単量体群における、上記その他の単量体の含有率は、合計で、0〜30質量%が好ましく、0〜20質量%がより好ましく、0〜15質量%、0〜10質量%の順にさらに好ましい。
上記アクリル系重合体は、上記その他の単量体を含む上記例示した単量体と、上述したUVA単量体(UVA単位の起源となる単量体)との共重合体であってもよい。このようなアクリル系重合体を環化縮合反応させることにより、紫外線吸収能をさらに有するアクリル樹脂を得ることができる。
上記アクリル系重合体は、分子鎖内に有するカルボキシ基とエステル基との間の環化縮合反応によって無水グルタル酸構造を形成することができる。無水グルタル酸構造を形成するアクリル系重合体としては、例えば、(メタ)アクリル酸エステルと(メタ)アクリル酸との共重合体を挙げることができる。
(メタ)アクリル酸エステルとしては、上述したメタクリル酸メチル(MMA)などを用いることができる。(メタ)アクリル酸としては、アクリル酸またはメタクリル酸を用いることができる。
無水グルタル酸構造を形成する上記アクリル系重合体は、当該重合体の形成に用いた単量体に由来する構成単位を有する。当該アクリル系重合体における各構成単位の含有率は、当該アクリル系重合体を得るために重合した単量体群に含まれる各単量体の含有量に応じて決定される。
アクリル系重合体を得るための重合方法としては、従来公知の方法、例えば特開2007−262396号公報に記載の方法を用いることができる。本明細書では、アクリル系重合体を得るための重合を行う工程を「重合工程」とも称する。重合方法としては、アクリル系重合体を得た後に、続いて該アクリル系重合体の環化縮合反応を行うことができるため、溶液重合によって該アクリル系重合体を得ることが好ましい。また、反応を効率的に行うために窒素雰囲気下で重合を行うことが好ましい。
重合温度や重合時間は、使用する単量体の種類や割合などに応じて変化するが、重合温度については、好ましくは0〜150℃、より好ましくは80〜140℃であり、重合時間については、好ましくは0.5〜20時間、より好ましくは1〜10時間である。
溶液重合により上記アクリル系重合体を形成する場合、用いる重合溶媒としては、例えば、トルエン、キシレン、エチルベンゼンなどの芳香族炭化水素;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類;クロロホルム、ジメチルスルフォキシド(DMSO)、テトラヒドロフランなど、が挙げられる。中でも、重合溶媒として芳香族炭化水素、ケトン類を用いることが好ましく、特に、トルエン、メチルイソブチルケトンを用いることが好ましい。
上記アクリル系重合体の重合時には、必要に応じて、重合開始剤を添加してもよい。重合開始剤は特に限定されないが、例えば、クメンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、t−アミルパーオキシ−2−エチルヘキサノエートなどの有機過酸化物;2,2'−アゾビス(イソブチロニトリル)、1,1'−アゾビス(シクロヘキサンカルボニトリル)、2,2'−アゾビス(2−メチルイソブチロニトリル)、2,2'−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)などのアゾ化合物;を挙げることができる。
これらの重合開始剤は、単独で用いてもよく、二種類以上を併用してもよい。なお、重合開始剤の使用量は、単量体の組み合わせ、あるいは、重合条件などに応じて適宜設定すればよく、特に限定されるものでない。
溶液重合により上記アクリル系重合体を形成した場合、重合生成物には、上記アクリル系重合体以外に、重合に用いた重合溶媒が含まれるが、必ずしも当該溶媒を除去して上記アクリル系重合体を固体として取り出さなくてもよい。
上述したように、重合溶媒を含んだ状態のまま、重合生成物を、続く環化工程に導入することができる。もちろん、上記アクリル系重合体を固体として取り出した後、重合時に用いた重合溶媒よりも環化工程の実施に好適な溶媒を改めて加えて、環化工程に導入してもよい。
上記環化工程の実施に好適な溶媒としては、特に限定されず、例えば、トルエン、キシレン、エチルベンゼンなどの芳香族炭化水素類;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類;クロロホルム、DMSO、テトラヒドロフランなどを用いることができるが、好ましくは、重合工程で用いることができる溶媒と同じ種類の溶媒である。
また、上記アクリル系重合体としては、必ずしも重合反応を行って調製したものでなくてもよく、市販のものを用いてもよい。
〔B.紫外線吸収剤〕
本発明に係る製造方法によって得られるアクリル樹脂組成物は、紫外線吸収剤を含有する。上記紫外線吸収剤は、紫外線吸収剤としての役割を示す上で、波長300nmから380nmの範囲の光に対する最大吸収波長のモル吸光係数が、クロロホルム溶液中において10000(L・mol-1・cm-1)以上であることが好ましいが、特に限定されない。なお、上記紫外線吸収剤は、単量体に由来する繰り返し単位を含まない(即ち、重合体ではない)ことが好ましい。
上記紫外線吸収剤は室温(25℃)で固体であってもよく、液体であってもよいが、固体の紫外線吸収剤は成形時の昇華が問題となりやすいため、室温で液体であることが好ましい。
上記紫外線吸収剤は、分子量が600以上であることが好ましく、より好ましくは650以上であり、さらに好ましくは700以上である。
当該分子量が600未満の場合、紫外線吸収剤を添加したアクリル樹脂組成物を成形するときに発泡が生じたり、紫外線吸収剤がブリードアウトしたりすることがある。また、成形時に加えられる熱により紫外線吸収剤が蒸散して、得られた樹脂成形品の紫外線吸収能が低下したり、蒸散した紫外線吸収剤により成型装置が汚染されたりするなどの問題が生じることがある。
一方、紫外線吸収剤の分子量の上限は、10,000以下であることが好ましく、8,000以下がより好ましく、5,000以下がさらに好ましい。当該分子量が10,000を超えると、アクリル系重合体との相溶性が低下することで、最終的に得られる樹脂成形品の色相、濁度などの光学的特性が低下する。
紫外線吸収剤の構造は特に限定されないが、例えば、ベンゾフェノン系化合物、サリシケート系化合物、ベンゾエート系化合物、トリアゾール系化合物およびトリアジン系化合物などが挙げられる。その中でも、ヒドロキシフェニルトリアジン骨格を有する化合物が好ましい。上記化合物は、ブリードアウトを起こしにくく、かつ、主鎖に環構造を有するアクリル系重合体との相溶性が良好であり、その結果、上記アクリル樹脂組成物をより安定的に長時間にわたって連続的に製造することができる。
ヒドロキシフェニルトリアジン骨格は、トリアジンと、トリアジンに結合した三つのヒドロキシフェニル基とからなる骨格((2−ヒドロキシフェニル)−1,3,5−トリアジン骨格)である。ヒドロキシフェニル基における水酸基の水素原子は、トリアジンの窒素原子と共に水素結合を形成し、形成された水素結合は、フェニルトリアジンの発色団としての作用を増大させる。
分子量が600以上である紫外線吸収剤では、上記水素結合が三つ形成されるため、フェニルトリアジン骨格が有する発色団としての作用をより増大することができ、少ない添加量で高い紫外線吸収能を得ることができる。
なお、上記紫外線吸収剤が二種類以上の化合物の混合物からなる場合、少なくとも主成分である化合物がヒドロキシフェニルトリアジン骨格を有することが好ましい。本明細書における主成分とは、最も含有量(含有率)が多い成分を意味し、その含有率は典型的には50質量%以上である。
ヒドロキシフェニルトリアジン骨格におけるヒドロキシフェニル基には、アルキル基、アルキルエステル基などの置換基が結合していてもよいが、当該置換基中にアクリル樹脂との架橋点となり得る構造を有さないことが好ましい。架橋点となり得る構造は、例えば、水酸基、チオール基、アミン基などの官能基あるいは二重結合である。
なお、ヒドロキシフェニル基には置換基として水酸基が存在するが、ベンゼン環に直接結合した水酸基はアクリル樹脂と架橋構造を形成しないため、アクリル樹脂との架橋点となり得る構造として扱わない。また、上記アルキルエステル基は、式「−CH(−R)C(=O)OR'」により示される基であることが好ましく、上記式において、Rは水素原子またはメチル基であり、R'は直鎖または分岐を有するアルキル基である。
ヒドロキシフェニルトリアジン骨格におけるヒドロキシフェニル基の置換基中にアクリル樹脂との架橋点となり得る構造が存在すると、樹脂組成物の成形時にゲルが発生する可能性が増大する。
以下に使用可能な紫外線吸収剤を例示するが、紫外線吸収剤はこれらに限定されるものでない。
ベンゾフェノン系化合物としては、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、4−n−オクチルオキシ−2−ヒドロキシベンゾフェノンなどが挙げられる。
サリシケート系化合物としては、p−t−ブチルフェニルサリシケートなどが挙げられる。ベンゾエート系化合物としては、2,4−ジ−t−ブチルフェニル−3',5'−ジ−t−ブチル−4'−ヒドロキシベンゾエートなどが挙げられる。
トリアゾール系化合物としては、2,2'−メチレンビス[4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール]、2−(3,5−ジ−t−ブチル−2−ヒドロキシフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−p−クレゾールなどが挙げられる。
さらに、トリアジン系化合物としては、2,4−ジフェニル−6−(2−ヒドロキシ−4−メトキシフェニル)−1,3,5−トリアジン、2,4−ジフェニル−6−(2−ヒドロキシ−4−エトキシフェニル)−1,3,5−トリアジン、2,4−ジフェニル−(2−ヒドロキシ−4−プロポキシフェニル)−1,3,5−トリアジン、2,4−ジフェニル−(2−ヒドロキシ−4−ブトキシフェニル)−1,3,5−トリアジン、2,4−ジフェニル−6−(2−ヒドロキシ−4−ブトキシフェニル)−1,3,5−トリアジン、2,4−ジフェニル−6−(2−ヒドロキシ−4−ヘキシルオキシフェニル)−1,3,5−トリアジン、2,4−ジフェニル−6−(2−ヒドロキシ−4−オクチルオキシフェニル)−1,3,5−トリアジン、2,4−ジフェニル−6−(2−ヒドロキシ−4−ドデシルオキシフェニル)−1,3,5−トリアジン、2,4−ジフェニル−6−(2−ヒドロキシ−4−ベンジルオキシフェニル)−1,3,5−トリアジン、2,4−ジフェニル−6−(2−ヒドロキシ−4−ブトキシエトキシ)−1,3,5−トリアジン、2,4−ビス[2−ヒドロキシ−4−ブトキシフェニル]−6−(2,4−ジブトキシフェニル)−1,3,5−トリアジン、2,4−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−6−[2−ヒドロキシ−4−(3−アルキルオキシ−2−ヒドロキシプロピルオキシ)−5−α−クミルフェニル]−s−トリアジン骨格(アルキルオキシ;オクチルオキシ、ノニルオキシ、デシルオキシなどの長鎖アルキルオキシ基)を有する紫外線吸収剤、2,4,6−トリス(2−ヒドロキシ−4−ヘキシルオキシフェニル)−1,3,5−トリアジン、2,4,6−トリス(2−ヒドロキシ−4−オクチルオキシフェニル)−1,3,5−トリアジン、2,4,6−トリス(2−ヒドロキシ−4−ドデシルオキシフェニル)−1,3,5−トリアジン、2,4,6−トリス(2−ヒドロキシ−4−ベンジルオキシフェニル)−1,3,5−トリアジン、2,4,6−トリス(2−ヒドロキシ−4−(1−(2−エトキシヘキシルオキシ)−1−オキソプロパン−2−イルオキシ)フェニル)−1,3,5−トリアジン、2,4,6−トリス(2−ヒドロキシ−3−メチル−4−ヘキシルオキシフェニル)−1,3,5−トリアジン、2,4,6−トリス(2−ヒドロキシ−3−メチル−4−オクチルオキシフェニル)−1,3,5−トリアジン、2,4,6−トリス(2−ヒドロキシ−3−メチル−4−ドデシルオキシフェニル)−1,3,5−トリアジン、2,4,6−トリス(2−ヒドロキシ−3−メチル−4−ベンジルオキシフェニル)−1,3,5−トリアジン、2,4,6−トリス(2−ヒドロキシ−3−メチル−4−ブトキシエトキシフェニル)−1,3,5−トリアジン、2,4,6−トリス(2−ヒドロキシ−3−メチル−4−プロポキシエトキシフェニル)−1,3,5−トリアジン、2,4,6−トリス(2−ヒドロキシ−3−メチル−4−メトキシカルボニルプロピルオキシフェニル)−1,3,5−トリアジン、2,4,6−トリス(2−ヒドロキシ−3−メチル−4−エトキシカルボニルエチルオキシフェニル)−1,3,5−トリアジン、2,4,6−トリス(2−ヒドロキシ−3−メチル−4−(1−(2−エトキシヘキシルオキシ)−1−オキソプロパン−2−イルオキシ)フェニル)−1,3,5−トリアジン、2,4−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−6−[2−ヒドロキシ−4−(3−アルキルオキシ−2−ヒドロキシプロピルオキシ)−5−α−クミルフェニル]−s−トリアジン骨格(アルキルオキシ;オクチルオキシ、ノニルオキシ、デシルオキシなどの長鎖アルキルオキシ基)を有する紫外線吸収剤、などが挙げられる。
市販品としては、例えば、トリアジン系紫外線吸収剤として「チヌビン1577」「チヌビン460」「チヌビン477」(BASFジャパン株式会社製)、「アデカスタブLA−F70」(株式会社ADEKA製)、トリアゾール系紫外線吸収剤として「アデカスタブLA−31」(株式会社ADEKA製)などが挙げられる。
また、下記式(10)によって示される構造を有するトリアジン系化合物も、紫外線吸収剤として好適に利用することができる。
上記式(10)におけるR13は、炭素数1〜12の範囲の直鎖又は分岐のアルキル基、炭素数3〜8の範囲のシクロアルキル基又はアルケニル基、炭素数6〜18の範囲のアリール基、炭素数7〜18の範囲のアルキルアリール基又はアリールアルキル基を表し、R14は、炭素数1〜8の範囲のアルキル基又は炭素数3〜8の範囲のアルケニル基である。
上記式(10)中、R13で示される炭素数1〜12の範囲の直鎖又は分岐のアルキル基としては、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、第二ブチル、第三ブチル、アミル、第三アミル、ヘキシル、オクチル、第二オクチル、第三オクチル、2−エチルヘキシル、デシル、ウンデシル、ドデシルなどの直鎖又は分岐のアルキル基が挙げられる。炭素数3〜8の範囲のシクロアルキル基としては、例えば、シクロプロピル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチルなどが挙げられる。
上記式(10)中、R14で示される炭素数1〜8の範囲のアルキル基としては、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、第二ブチル、第三ブチル、アミル、第三アミル、ヘキシル、オクチル、第二オクチル、第三オクチルなどが挙げられる。
上記R13およびR14で示される炭素数3〜8の範囲のアルケニル基としては、例えば、直鎖および分岐のプロペニル、ブテニル、ペンテニル、ヘキセニル、ヘプテニル、オクテニルが、不飽和結合の位置にかかわらず挙げられる。
上記R13で示される炭素数6〜18の範囲のアリール基としては、例えば、フェニル、ナフチル、ビフェニルなどが挙げられ、炭素数7〜18の範囲のアルキルアリール基としては、例えば、メチルフェニル、ジメチルフェニル、エチルフェニル、オクチルフェニルなどが挙げられ、炭素数7〜18の範囲のアリールアルキル基としては、例えば、ベンジル、2−フェニルエチル、1−メチル−1−フェニルエチルなどが挙げられる。また、置換基や中断を有するアリール基としては、例えば、4−メチルフェニル、3−クロロフェニル、4−ベンジルオキシフェニル、4−シアノフェニル、4−フェノキシフェニル、4−グリシジルオキシフェニル、4−イソシアヌレートフェニルなどが挙げられる。
上記R13で示される置換基や中断を有するアルキル基、シクロアルキル基としては、2−ヒドロキシプロピル、2−メトキシエチル、3−スルホニル−2−ヒドロキシプロピル、4−メチルシクロヘキシルなどが挙げられる。
上記紫外線吸収剤は、単独で、または二種類以上を組み合わせて使用することができる。上記紫外線吸収剤のアクリル樹脂組成物中における含有量は特に限定されないが、アクリル樹脂組成物の黄変を防止して透明度を保つことができ、かつ、発泡やブリードアウトを起こさないという観点から、0.01質量%以上、10質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以上、5質量%以下であることがより好ましく、0.2質量%以上、3質量%以下であることがさらに好ましい。
本発明において、紫外線吸収剤のアクリル樹脂組成物中における含有量は、アクリル樹脂組成物をクロロホルムに溶解した1400ppm溶液を試料とし、光路長1cmの石英セルに収容し、分光光度計(UV−3100PC、株式会社島津製作所製)を用いて、波長357nmに対する吸光度から求めた含有量をいう。
〔2.アクリル樹脂組成物の製造方法〕
本発明に係る製造方法は、ガラス転移温度が高いアクリル系重合体を含有するアクリル樹脂と紫外線吸収剤とを含有するアクリル樹脂組成物を、安定的にかつ長時間連続して製造することを目的とした方法である。より詳細には、本発明に係る製造方法は、アクリル系重合体と紫外線吸収剤とを含有するガラス転移温度が110℃以上であるアクリル樹脂組成物を製造する方法であって、上記アクリル系重合体を含有するアクリル樹脂に、紫外線吸収剤を含有し、かつ、固有複屈折率の符号が上記アクリル系重合体とは異なる熱可塑性樹脂を混合する混合工程を包含する。
本発明が目的とするアクリル樹脂組成物は、ポリマーフィルタを用いて濾過することを最も好ましい実施形態として意図したアクリル樹脂組成物であってもよく、ポリマーフィルタを用いて濾過されたアクリル樹脂組成物であってもよい。即ち、上記混合工程を包含する、ガラス転移温度が高いアクリル系重合体と紫外線吸収剤とを含有し、かつポリマーフィルタを用いて濾過されたアクリル樹脂組成物を製造する方法もまた、本発明の一態様である。
本発明に係る製造方法を、アクリル系重合体として「主鎖に環構造を有するアクリル系重合体」が用いられる場合を例に挙げて以下に説明する。この場合、上記紫外線吸収剤は、上記「主鎖に環構造を有するアクリル系重合体」と、最終生成物であるアクリル樹脂組成物において混合される。
本発明において、「主鎖に環構造を有するアクリル系重合体」と紫外線吸収剤とを含有するアクリル樹脂組成物を製造する場合、本発明に係る製造方法は、触媒として酸性物質または塩基性物質を用いることによって、好ましくは酸性物質を用いてアクリル系重合体の環化縮合反応を行い、上記重合体の主鎖に環構造を形成して、主鎖に環構造を有するアクリル系重合体を得る環化工程と、上記触媒を失活させる(中和する)中和工程と、紫外線吸収剤を含有し、かつ、固有複屈折率の符号が上記アクリル系重合体とは異なる熱可塑性樹脂を混合する混合工程とを包含する。
また、上記製造方法は、上記アクリル系重合体を得る工程(重合工程)、環化工程で副生するアルコールを脱揮する工程(脱揮工程)などをさらに包含してもよいが、中和工程によって得られる樹脂組成物を、ポリマーフィルタを用いて濾過処理する工程(濾過工程)に供することが最も好ましい実施形態である。
上記紫外線吸収剤は、上記中和工程の終了後、後述する濾過工程の前に上記「主鎖に環構造を有するアクリル系重合体」と混合される。
<a.環化工程>
本発明に係る製造方法における環化工程とは、触媒として酸性物質または塩基性物質を用いることによって、好ましくは酸性物質を用いることによって、アクリル系重合体の環化縮合反応を行い、上記重合体の主鎖に環構造を形成して、主鎖に環構造を有するアクリル系重合体を得る工程である。本明細書では、アクリル系重合体の環化縮合反応に用いられる触媒を、環化触媒とも称する。
環化縮合反応によって主鎖に環構造が形成されることにより、耐熱性に優れるアクリル樹脂を得ることができる。また、アクリル系重合体に環化触媒を添加することにより、単量体と触媒との副反応や重合中の分岐や架橋が抑制され、アクリル系重合体に優れた熱安定性および機械的強度を付与することができる。
環化触媒が酸性物質である場合、当該酸性物質としては、上記環化縮合反応の触媒として機能し得るものであれば、無機物であっても有機物であってもよい。
無機物である酸性物質としては、例えば硫酸、塩酸などを用いることができる。上記無機物は、単独で用いてもよいし、二種類以上を混合して用いてもよい。
有機物である酸性物質としては、例えば、有機リン化合物、環化縮合反応の触媒として一般に使用されるp−トルエンスルホン酸などのエステル化触媒またはエステル交換触媒、酢酸、プロピオン酸、安息香酸、アクリル酸、メタクリル酸などの有機カルボン酸類を挙げることができる。
中でも、上記有機物としては有機リン化合物を用いることが好ましい。有機リン化合物を環化触媒として用いることにより、環化反応率を向上させることができると共に、得られるラクトン環構造を有するアクリル系重合体の着色を大幅に低減することができるためである。さらに、有機リン化合物を環化触媒として用いることにより、後述の脱揮工程を併用する場合において起こり得る分子量の低下を抑制することができ、優れた機械的強度を付与することができるという利点もあるためである。
本発明において使用可能な有機リン化合物としては、例えば、アルキル(アリール)亜ホスホン酸およびこれらのモノエステルまたはジエステル;ジアルキル(アリール)ホスフィン酸およびこれらのエステル;アルキル(アリール)ホスホン酸およびこれらのモノエステルまたはジエステル;アルキル(アリール)亜ホスフィン酸およびこれらのエステル;亜リン酸モノエステル、ジエステルまたはトリエステル;リン酸メチル、リン酸エチル、リン酸2−エチルヘキシル、リン酸オクチル、リン酸イソデシル、リン酸ラウリル、リン酸ステアリル、リン酸イソステアリル、リン酸フェニル、リン酸ジメチル、リン酸ジエチル、リン酸ジ−2−エチルヘキシル、リン酸ジイソデシル、リン酸ジラウリル、リン酸ジステアリル、リン酸ジイソステアリル、リン酸ジフェニル、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル、リン酸トリイソデシル、リン酸トリラウリル、リン酸トリステアリル、リン酸トリイソステアリル、リン酸トリフェニルなどのリン酸モノエステル、ジエステルまたはトリエステル;モノ−、ジ−またはトリ−アルキル(アリール)ホスフィン;アルキル(アリール)ハロゲンホスフィン;酸化モノ−、ジ−またはトリ−アルキル(アリール)ホスフィン;ハロゲン化テトラアルキル(アリール)ホスホニウム;などが挙げられる。
これらの有機リン化合物は、単独で用いてもよく、二種類以上を併用してもよい。これらの有機リン化合物のうち、触媒活性が高くて着色性が低いことから、リン酸モノエステルまたはジエステルが特に好ましい。
このように、上記酸性物質としては有機物であっても無機物であってもよいが、有機溶媒に溶解または分散可能であるという操作性の観点と、反応生成物の着色抑制の観点とから、有機物を用いることが好ましい。
環化触媒が塩基性物質である場合、当該塩基性物質としては、上記環化縮合反応の触媒として機能し得るものであれば、無機物であっても有機物であってもよい。
環化触媒として用いることができる塩基性物質としては、例えば、12族元素の化合物が挙げられ、当該化合物中でも亜鉛化合物が好ましい。亜鉛化合物としては、特に限定されるものではないが、具体的には、例えば、酢酸亜鉛、プロピオン酸亜鉛、オクチル酸亜鉛などの有機亜鉛化合物;トリフルオロメタンスルホン酸亜鉛などのフッ素を含む有機亜鉛化合物;酸化亜鉛、塩化亜鉛、硫酸亜鉛などの無機亜鉛化合物;などが挙げられる。これら亜鉛化合物中でも、酢酸亜鉛、オクチル酸亜鉛が好ましく、オクチル酸亜鉛が特に好ましい。
環化縮合反応を行うときの環化触媒の使用量は、特に限定されるものでないが、例えば主鎖に環構造を有するアクリル系重合体に対して、好ましくは0.001〜5質量%、より好ましくは0.01〜2.5質量%、さらに好ましくは0.01〜1質量%、特に好ましくは0.05〜0.5質量%である。
上記触媒の使用量が0.001質量%未満であると、環化縮合反応の環化反応率が十分に向上しないことがある。逆に、触媒の使用量が5質量%を超えると、得られたアクリル樹脂が着色することや、アクリル樹脂が架橋して、溶融成形が困難になることがある。
触媒の添加時期は、特に限定されるものでなく、例えば、重合工程途中に添加してもよいし、重合工程後に添加してもよいし、それらの両方で添加してもよい。重合中あるいは重合後に加熱しながら触媒を添加してもよいし、環化触媒の添加後に高温で熱処理してもよい。
環化縮合反応において加熱する方法については、特に限定されるものでなく、従来公知の方法を利用すればよい。例えば、重合工程によって得られた、重合溶媒を含む重合溶液をそのまま加熱処理してもよいし、重合溶媒を脱揮後に加熱処理してもよい。溶液状態でオートクレーブなどの耐圧装置中で200℃以上の温度で環化縮合反応を行い、高温で環化縮合反応を促進させるのも好ましい実施形態の一つである。
あるいは、揮発成分を除去するための真空装置あるいは脱揮装置を備えた加熱炉や反応装置、脱揮装置を備えた押出機などを用いて脱揮処理を行うこともできる。本発明では、触媒を含んだ重合溶液を加圧下に熱処理することが好ましい実施形態の一つである。
重合溶媒と環化触媒とを含んだ状態で加熱した後、さらに耐圧装置中、加圧下で200℃以上に加熱して環化縮合反応することにより、後述する脱揮工程での劣化なしに、環化度が高くて耐熱性に優れた主鎖に環構造を有するアクリル系重合体を溶液状態で得ることができる。
環化縮合反応のときに採用することができる反応器は、特に限定されるものでないが、例えば、オートクレーブ、釜型反応器、熱交換器と脱揮槽とからなる脱揮装置などが挙げられ、さらに、脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応に好適なベント付き押出機も使用可能である。
加熱温度および加熱時間は特に限定されるものでないが、例えばオートクレーブを用いた場合、加熱温度は、好ましくは40〜300℃であり、加熱時間は、好ましくは1〜20時間、より好ましくは2〜10時間である。このような加熱温度および加熱時間を採用することにより、環化反応率の低下、樹脂の着色または分解などの問題を生じるおそれを低減することができるため好ましい。
このように、上記酸性物質または塩基性物質、好ましくは酸性物質を環化触媒として用いて環化縮合反応を行うことにより、アクリル系重合体の分子鎖中に存在する水酸基またはカルボキシ基とエステル基とを環化縮合反応させ、主鎖にラクトン環構造または無水グルタル酸構造を有するアクリル系重合体を得ることができる。
また、アクリル系重合体とN−置換マレイミドまたは無水マレイン酸とを共重合させることにより、主鎖にN−置換マレイミド構造または無水マレイン酸構造を有するアクリル系重合体を得ることができる。
さらに、上記アクリル系重合体にイミド化剤を添加することによってグルタルイミド構造を有するアクリル系重合体を得ることもできる。イミド化剤としては例えば、メチルアミン、エチルアミン、n−プロピルアミン、i−プロピルアミン、n−ブチルアミン、i−ブチルアミン、t−ブチルアミン、n−ヘキシルアミン、シクロヘキシルアミンなどの脂肪族アミン;アニリン、トルイジン、トリクロロアニリンなどの芳香族アミン;尿素、1,3−ジメチル尿素、1,3−ジエチル尿素、1,3−ジプロピル尿素などの加熱によりアミンを発生する尿素化合物;などを用いることができる。
<b.脱揮工程>
本発明においては、特開2000−230016号公報や特開2007−262396号公報、特開2007−262399号公報などに記載された脱揮工程を環化縮合反応に併用することも可能である。
脱揮工程とは、溶媒、残存単量体などの揮発分と、上記環化工程により副生したアルコールとを、必要により減圧加熱条件下で、除去処理する工程をいう。当該工程により、生成したアクリル樹脂中の残存揮発分に基づく成形時の変質などによる着色、泡やシルバーストリークなどの成形不良が起こるといった問題が生じるおそれを低減することができる。
脱揮工程の好ましい形態としては、環化縮合反応を溶媒の存在下で行い、かつ、環化縮合反応のときに、脱揮工程を併用する方法を挙げることができる。この場合、環化縮合反応の過程全体を通じて脱揮工程を併用する形態、および、脱揮工程を環化縮合反応の過程全体にわたっては併用せずに過程の一部においてのみ併用する形態が挙げられる。脱揮工程を併用する方法では、環化縮合反応で副生するアルコールを強制的に脱揮させて除去するので、反応の平衡が生成側に有利となる。
環化縮合反応の過程全体を通じて脱揮工程を併用する形態の場合、使用する装置については特に限定されないが、本発明をより効果的に行うために、熱交換器と脱揮槽とからなる脱揮装置やベント付き押出機、また、上記脱揮装置と上記押出機とを直列に配置したものを用いることが好ましく、熱交換器と脱揮槽とからなる脱揮装置またはベント付き押出機を用いることがより好ましい。
上記熱交換器と脱揮槽とからなる脱揮装置を用いる場合の反応処理時の温度は、150〜350℃の範囲内が好ましく、200〜300℃の範囲内がより好ましい。上記温度が150℃より低いと、環化縮合反応が不十分となって残存揮発分が多くなるおそれがあり、350℃より高いと、着色や分解が起こるおそれがある。
上記熱交換器と脱揮槽とからなる脱揮装置を用いる場合の反応処理時の圧力は、931〜1.33hPa(700〜1mmHg)の範囲内が好ましく、798〜66.5hPa(600〜50mmHg)の範囲内がより好ましい。上記圧力が931hPaより高いと、アルコールを含めた揮発分が残存し易いという問題があり、1.33hPaより低いと、工業的な実施が困難になっていくという問題がある。
上記ベント付き押出機を用いる場合、ベントは一個でも複数個でもよいが、複数個のベントを有する方が好ましい。上記ベント付き押出機を用いる場合の反応処理時の温度は、150〜350℃の範囲内が好ましく、200〜300℃の範囲内がより好ましい。上記温度が150℃より低いと、環化縮合反応が不十分となって残存揮発分が多くなるおそれがあり、350℃より高いと、着色や分解が起こるおそれがある。
上記ベント付き押出機を用いる場合の反応処理時の圧力は、931〜1.33hPa(700〜1mmHg)の範囲内が好ましく、798〜13.3hPa(600〜10mmHg)の範囲内がより好ましい。上記圧力が931hPaより高いと、アルコールを含めた揮発分が残存し易いという問題があり、1.33hPaより低いと、工業的な実施が困難になっていくという問題がある。
なお、環化縮合反応の過程全体を通じて脱揮工程を併用する形態の場合、厳しい熱処理条件では得られる「主鎖に環構造を有するアクリル系重合体」の物性が低下するおそれがあるので、好ましくは、上述した脱アルコール環化縮合反応の触媒を使用し、できるだけ温和な条件で、ベント付き押出機などを用いて行うことが好ましい。
また、環化縮合反応の過程全体を通じて脱揮工程を併用する形態の場合、好ましくは、重合工程で得られたアクリル系重合体を溶媒と共に環化縮合反応装置に導入するが、この場合、必要に応じて、もう一度ベント付き押出機などの上記反応装置に当該重合体などを通してもよい。
脱揮工程は、環化縮合反応の過程全体にわたっては併用せずに、過程の一部においてのみ併用する形態であってもよい。例えば、アクリル系重合体を製造した装置を、さらに加熱し、必要に応じて脱揮工程を一部併用して、環化縮合反応を予めある程度進行させておき、その後に引き続いて脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応を行い、反応を完結させる形態である。
先に述べた環化縮合反応の過程全体を通じて脱揮工程を併用する形態では、例えば、アクリル系重合体を、二軸押出し機を用いて、250℃近い、あるいはそれ以上の高温で熱処理するときに、熱履歴の違いにより環化縮合反応が起こる前に一部分解などが生じ、得られる主鎖に環構造を有するアクリル系重合体の物性が低下するおそれがある。
そこで、脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応を行う前に、予め環化縮合反応をある程度進行させておくと、後半の反応条件を緩和することができ、得られる環構造を有するアクリル系重合体の物性の低下を抑制することができるので好ましい。
特に好ましい形態としては、脱揮工程を環化縮合反応の開始から時間をおいて開始する形態、即ち、重合工程で得られたアクリル系重合体の分子鎖中に存在する水酸基とエステル基を予め環化縮合反応させて環化反応率をある程度上げておき、引き続き、脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応を行う形態が挙げられる。
具体的には、例えば、予め釜型の反応器を用いて溶媒の存在下で環化縮合反応をある程度の環化反応率まで進行させておき、その後、脱揮装置のついた反応器、例えば、熱交換器と脱揮槽とからなる脱揮装置や、ベント付き押出機などで、環化縮合反応を完結させる形態が好ましく挙げられる。特にこの形態の場合、環化触媒が存在していることがより好ましい。
上述のように、重合工程で得られたアクリル系重合体を予め環化縮合反応させて環化反応率をある程度上げておき、引き続き、脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応を行う方法は、環構造を有するアクリル系重合体を得る上で好ましい形態である。
この形態により、環化反応率もより高まり、ガラス転移温度がより高く、耐熱性に優れた環構造を有するアクリル系重合体が得られる。この場合、環化反応率の目安としては、実施例に示すダイナミックTG測定における、150〜300℃間での重量減少率が2%以下であることが好ましく、より好ましくは1.5%以下であり、さらに好ましくは1%以下である。
脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応の前に予め行う環化縮合反応のときに採用することができる反応器は特に限定されないが、好ましくは、オートクレーブ、釜型反応器、熱交換器と脱揮槽とからなる脱揮装置などが挙げられ、さらに、脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応に好適なベント付き押出機も使用することができる。
<c.中和工程>
環化縮合反応を行った後に環化触媒が残存していると、得られるアクリル樹脂組成物の耐熱性に悪影響を与える。よって、アクリル樹脂組成物を得る前に上記触媒を失活させることが必要である。
上述したように環化触媒として好ましくは酸性物質が用いられるので、一般には、失活剤として塩基性物質を用いて上記触媒を中和する。塩基性物質としては、上記環化縮合反応を停止する機能を有し得るものであれば特に限定されないが、例えば、金属カルボン酸塩、金属錯体、金属酸化物などが用いられる。
上記化合物を混合するタイミングは、アクリル系重合体の製造にあたり、触媒を添加し環化縮合反応を十分行った後であり、後述する混合工程を行う前であれば特に限定されるものでない。
例えば、アクリル系重合体を製造中に所定の段階で上記化合物を添加するか、アクリル系重合体に環化触媒を添加し熱処理して環化縮合反応を進行させてから上記化合物を添加するか、あるいは、アクリル系重合体を製造した後、アクリル系重合体、上記化合物、その他の成分などを同時に加熱溶融させて混練する方法;アクリル系重合体を製造した後、アクリル系重合体、上記化合物、その他の成分などを溶媒に溶解する方法;アクリル系重合体、その他の成分などを加熱溶融させておき、そこに上記化合物を添加して混練する方法;アクリル系重合体を加熱溶融させておき、そこに上記化合物、その他の成分などを添加して混練する方法;などが挙げられる。
上記脱揮工程が環化縮合反応の過程全体を通じて脱揮工程を併用する形態の場合、上記化合物は、当該脱揮工程を行う押出機における、環化縮合反応が十分行われた後の位置に混合されるようにする。
環化触媒として塩基性物質が用いられた場合には、失活剤として酸性物質を用いて上記触媒を中和する。酸性物質としては、上記環化縮合反応を停止する機能を有し得るものであれば特に限定されないが、例えば、上記<a.環化工程>に記載した酸性物質が挙げられる。
<d.混合工程>
上記中和工程を行った後のアクリル系重合体を含有するアクリル樹脂に、紫外線吸収剤を混合する。後述する濾過工程を行う場合には、当該濾過工程の前に紫外線吸収剤の混合を行う。混合工程とは、アクリル系重合体を含有するアクリル樹脂に、紫外線吸収剤を含有し、かつ、固有複屈折率の符号が上記アクリル系重合体とは異なる熱可塑性樹脂を混合する工程をいう。これによって、アクリル系重合体と紫外線吸収剤とを含有するガラス転移温度が110℃以上であるアクリル樹脂組成物を得ることができる。混合工程を行うときに予め熱可塑性樹脂に紫外線吸収剤を混練して分散させておくことにより、アクリル系重合体中において紫外線吸収剤が局所的に高濃度に存在する状態を防止することができ、アクリル系重合体中に紫外線吸収剤をより均一に分散させることができる。また、熱可塑性樹脂に紫外線吸収剤を混練して分散させた後、アクリル系重合体に当該熱可塑性樹脂を混合することにより、アクリル系重合体に紫外線吸収剤を直接、混練する場合と比べて、アクリル系重合体中における紫外線吸収剤の粒子径(または液滴径)をより小さくすることができると共に、アクリル系重合体中における紫外線吸収剤の分散性が良好となる。
上記熱可塑性樹脂は、固有複屈折率の符号が上記アクリル系重合体とは異なる樹脂であればよく、特に限定されるものではない。通常、アクリル系重合体は負の固有複屈折率を有しているため、上記紫外線吸収剤を含有する熱可塑性樹脂は、正の固有複屈折率を有していることが好ましい。
一方、主鎖に環構造を有するアクリル系重合体は正の固有複屈折率を有することがあり、その場合は、上記紫外線吸収剤を含有する熱可塑性樹脂は、負の固有複屈折率を有していることが好ましい。
正の固有複屈折率を有する熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのオレフィン系ポリマー;ノルボルネン樹脂などの環状オレフィン系ポリマー;塩化ビニル、フッ化ビニルなどのハロゲン含有ポリマー;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステル;セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレートなどのセルロースエステル;ポリカーボネート;ポリフェニレンオキシド;ポリフェニレンスルフィド:ポリエーテルエーテルケトン;ポリサルホン;ポリエーテルサルホン;ポリオキシペンジレン;ポリアミドイミド;フェノキシ樹脂;などが挙げられる。これらの熱可塑性樹脂は、単独で用いてもよく、二種類以上を併用してもよい。
一方、負の固有複屈折率を有する熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリスチレン、スチレン−メタクリル酸メチル共重合体、スチレン−アクリロニトリル共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレンブロック共重合体などのスチレン系ポリマー;ポリメタクリル酸メチル(PMMA);アクリル系ゴムを配合したASA樹脂などのゴム質重合体;などが挙げられる。これらの熱可塑性樹脂は、単独で用いてもよく、二種類以上を併用してもよい。
上記ゴム質重合体は、その表面に、アクリル系重合体と相溶し得る組成のグラフト部を有することが好ましい。また、ゴム質重合体が粒子状である場合には、その平均粒子径は、上記アクリル樹脂組成物を樹脂フィルムとしたときの透明性向上の観点から、300nm以下が好ましく、150nm以下がより好ましい。
上記例示した熱可塑性樹脂の中でも、主鎖に環構造を有するアクリル系重合体との相溶性に優れることから、シアン化ビニル単量体に由来する構成単位と芳香族ビニル単量体に由来する構成単位とを含む共重合体が好ましい。当該共重合体は、例えば、スチレン系ポリマーであり、具体的には、スチレン−アクリロニトリル共重合体または塩素化ビニル樹脂である。
アクリル系重合体に対する熱可塑性樹脂の量は、同量未満である。つまり、熱可塑性樹脂は、アクリル樹脂組成物中に50質量%未満となるように含まれる。
熱可塑性樹脂に紫外線吸収剤を混練して分散させる方法は、特に限定されるものではないが、混合機を用いた混練方法が好適である。紫外線吸収剤が混練された熱可塑性樹脂は、アクリル樹脂への投入が容易となるように、ペレタイザーを用いたペレット化がなされていることが好ましい。
紫外線吸収剤が混練された熱可塑性樹脂の、アクリル系重合体を含有するアクリル樹脂への混合は、混合機を用いて押出混練することが好ましい。押出混練に用いる混合機は、特に限定されるものでなく、例えば、単軸押出機、二軸押出機などの押出機や加圧ニーダーなど、従来公知の混合機を用いることができる。また、環化縮合反応の過程全体を通じて上記脱揮工程を併用する形態の場合であって、当該脱揮工程を行う押出機を用いて引き続き混合工程を行う場合には、紫外線吸収剤が混練された熱可塑性樹脂は、当該押出機における、中和工程が行われた後の位置に混合されるようにする。この場合は、押出機にサイドフィーダーを設け、混合機内における中和工程が行われた後のアクリル樹脂に、サイドフィーダーから紫外線吸収剤が混練された熱可塑性樹脂を投入することが好ましい。
<e.濾過工程>
濾過工程は、上記混合工程を経たアクリル樹脂組成物を、ポリマーフィルタを用いて濾過する工程であり、必要に応じて行われる。濾過工程によってアクリル樹脂組成物中に存在する異物を除去することができるため、得られたアクリル樹脂組成物の外観上の欠点を低減することができる。
上記混合工程を行った後、続いて濾過工程を行う場合には、混合機を用いて押出混練することが好ましい。押出混練に用いる混合機は、特に限定されるものでなく、例えば、単軸押出機、二軸押出機などの押出機や加圧ニーダーなど、従来公知の混合機を用いることができる。また、環化縮合反応の過程全体を通じて上記脱揮工程を併用する形態の場合には、当該脱揮工程、中和工程、混合工程を行う押出機を用いて、濾過工程を行ってもよい。脱揮工程、中和工程、混合工程、および濾過工程を一つの押出機を用いて行う製造方法は、最も好ましい実施形態である。なお、ポリマーフィルタによってアクリル樹脂組成物を濾過するときには、押出機とポリマーフィルタとの間にギアポンプを設置して、フィルタ内のアクリル樹脂組成物の圧力を安定化することが好ましい。
なお、本発明においては、上記混合工程を採用することによって、除去されるべき異物の量を低減することができるので、ポリマーフィルタを用いて濾過されたアクリル樹脂組成物を安定的にかつ長時間連続して製造することができる。
本発明に係る製造方法が、ポリマーフィルタを用いて濾過するためのアクリル樹脂組成物を製造する場合、濾過工程は、アクリル樹脂組成物における粒子状異物の量を確認する工程として包含されてもよい。この場合、製品の製造プロセスに進められるべきアクリル樹脂組成物の5グラム当たりに含まれる異物の数は、粒子径が20μm以上のものが100個以下であることが好ましく、50個以下であることがより好ましく、粒子径が5μm以上、20μm未満のものが150個以下であることが好ましく、70個以下であることがより好ましく、50個以下、30個以下であるほどさらに好ましく、また、粒子径が5μm以上、10μm未満のものが100個以下であることが好ましく、50個以下であることがより好ましく、30個以下であることがさらに好ましい。即ち、上記確認する工程は、含まれている異物の数が所定の範囲内(好ましくは上述した数値範囲内)であるアクリル樹脂組成物を選択する工程ともいえる。
本発明において、異物数は、得られたアクリル樹脂組成物のペレット5gを100mLのクロロホルムに溶解し、パーティクルカウンタ(パマス社製、型式:SVSS−C、センサー仕様:HCB−LD−50/50)を用いて測定した異物数をいう。なお、異物としては長径が5〜10μm、10〜20μm、20μm以上のものを測定する。
また、本発明に係る製造方法が、ポリマーフィルタを用いて濾過されたアクリル樹脂組成物を製造する場合、濾過工程は必須である。
ポリマーフィルタの構成は特に限定されないが、ハウジング内に多数枚のリーフディスク型フィルタを配したポリマーフィルタを好適に用いることができる。リーフディスク型フィルタの濾材は、金属繊維不織布を焼結したタイプ、金属粉末を焼結したタイプ、金網を数枚積層したタイプ、あるいはそれらを組み合わせたハイブリッドタイプのいずれでもよいが、金属繊維不織布を焼結したタイプが最も好ましい。
ポリマーフィルタによる濾過精度は特に限定されないが、通常20μm以下、好ましくは15μm以下、より好ましくは10μm以下、さらに好ましくは5μm以下である。濾過精度が1μm以下になると、アクリル樹脂組成物の滞留時間が長くなることで当該組成物の熱劣化が大きくなり、生産性が低下するおそれがある。一方、濾過精度が20μmを超えると、アクリル樹脂組成物中の異物を除去することが難しくなる。
ポリマーフィルタにおける、単位時間当たりの樹脂処理量に対する濾過面積は特に限定されず、アクリル樹脂組成物の処理量に応じて適宜設定することができる。上記濾過面積は、例えば、0.001〜0.15m2/(kg/h)である。
ポリマーフィルタの形状は特に限定されず、例えば、複数の樹脂流通口を有し、センターポール内に樹脂の流路を有する内流型;断面が複数の頂点もしくは面においてリーフディスクフィルタの内周面に接し、センターポールの外面に樹脂の流路がある外流型;などがある。特に、樹脂の滞留箇所の少ない外流型を用いることが好ましい。
ポリマーフィルタにおける樹脂組成物の滞留時間に特に制限はないが、20分間以下が好ましく、10分間以下がより好ましく、5分間以下がさらに好ましい。また、濾過時におけるフィルタ入口圧およびフィルタ出口圧は、例えば、それぞれ、3〜15MPaおよび0.3〜10MPaであり、圧力損失(フィルタの入口圧と出口圧の圧力差)は、1MPa〜15MPaの範囲内が好ましい。圧力損失が1MPa未満になると、アクリル樹脂組成物がフィルタを通過する流路に偏りが生じやすく、得られたアクリル樹脂組成物の品質が低下する傾向がある。一方、圧力損失が15MPaを超えると、ポリマーフィルタの破損が起こり易くなる。
本発明に係る製造方法では、ポリマーフィルタの圧力損失の増加を抑制することができるため、濾過工程の前後におけるポリマーフィルタの圧力損失の増加を0.06MPa/hr以下とすることができる。当該増加は、0.05MPa/hr以下であることがより好ましく、0.04MPa/hr以下であることがさらに好ましい。
ポリマーフィルタに導入されるアクリル樹脂組成物の温度は、その溶融粘度に応じて適宜設定すればよく、例えば250〜300℃であり、255〜300℃が好ましく、260〜300℃がさらに好ましい。
ポリマーフィルタを用いた濾過処理により、異物、着色物の少ないアクリル樹脂組成物を得る具体的な工程は、特に限定されない。例えば、(1)クリーン環境下でアクリル樹脂組成物の形成および濾過処理を行い、引き続いてクリーン環境下でアクリル樹脂組成物の成形を行うプロセス、(2)異物または着色物を有するアクリル樹脂組成物を、クリーン環境下で濾過処理した後、引き続いてクリーン環境下でアクリル樹脂組成物の成形を行うプロセス、(3)異物または着色物を有するアクリル樹脂組成物を、クリーン環境下で濾過処理すると同時に成形を行うプロセス、などが挙げられる。それぞれの工程毎に、複数回、ポリマーフィルタによるアクリル樹脂組成物の濾過処理を行ってもよい。
上記成形としては、特に限定されるものでなく、任意の形状に成形して構わない。例えば、ペレタイザーを用いたペレット化や、オムニミキサーなど、従来公知の混合機でフィルム原料をプレブレンドした後、得られた混合物を押出混練することによるフィルム化などが可能である。
フィルム成形の方法としては、例えば、溶液キャスト法(溶液流延法)、溶融押出法、カレンダー法、圧縮成形法など、従来公知のフィルム成形法が挙げられる。これらのフィルム成形法のうち、溶液キャスト法(溶液流延法)、溶融押出法が特に好適である。
〔3.アクリル樹脂組成物〕
本発明に係る製造方法によって得られたアクリル樹脂組成物は、ガラス転移温度が110℃以上であるアクリル系重合体と、紫外線吸収剤と、固有複屈折率の符号が上記アクリル系重合体とは異なる熱可塑性樹脂とを含有することを必須とする。上記アクリル系重合体、上記熱可塑性樹脂、および紫外線吸収剤については、上記説明を参照のこと。上記アクリル樹脂組成物は、ガラス転移温度が110℃以上であるアクリル系重合体を50質量%以上、100質量%未満の範囲内で含有することが好ましい。これにより、上記アクリル樹脂組成物は優れた透明性や耐熱性に加えて、機械的強度、成形加工性などの所望の特性を得ることができる。
上記アクリル樹脂組成物における紫外線吸収剤の含有量は、上述のように0.01質量%以上、10質量%以下の範囲内であることが好ましく、0.01質量%以上、5質量%以下の範囲内であることがより好ましい。そのため、上記アクリル樹脂組成物は、合計100質量%となるように、ガラス転移温度が110℃以上であるアクリル系重合体を50質量%以上、100質量%未満の範囲内、紫外線吸収剤を0.01質量%以上、5質量%以下の範囲内、より好ましくは0.01質量%以上、5質量%以下の範囲内、上記熱可塑性樹脂を50質量%未満の範囲内、これらの合計が100質量%となるように含有する。
また、上記アクリル樹脂組成物の5グラム当たりに含まれる異物の数は、粒子径が5μm以上、20μm未満のものが150個以下であることが好ましく、70個以下であることがより好ましく、50個以下、30個以下であるほどさらに好ましく、また、粒子径が5μm以上、10μm未満のものが100個以下であることが好ましく、50個以下であることがより好ましく、30個以下であることがさらに好ましい。また、上記アクリル樹脂組成物がポリマーフィルタを用いて濾過するためのものである場合、5グラム当たりに含まれる異物の数は、粒子径が20μm以上のものが100個以下であることが好ましく、50個以下であることがより好ましい。
また、上記アクリル樹脂組成物は、酸化防止剤を含んでいてもよい。酸化防止剤としては例えば、フェノール系酸化防止剤、チオエーテル系酸化防止剤、リン酸系酸化防止剤などを用いることができ、具体的には、特開2009−52021号公報に例示されている酸化防止剤を好適に用いることができる。
上記アクリル樹脂組成物における酸化防止剤の含有量は、例えば上記アクリル樹脂組成物を100質量%としたときに、例えば0〜10質量%であり、0〜5質量%であることが好ましく、0.01〜2質量%であることがより好ましく、0.05〜1質量%であることがさらに好ましい。
上記アクリル樹脂組成物は、その他の添加剤として、例えば、耐光安定剤、耐候安定剤、熱安定剤などの安定剤;位相差上昇剤、位相差低減剤、位相差安定剤などの位相差調整剤;ガラス繊維、炭素繊維などの補強材;近赤外線吸収剤;トリス(ジブロモプロピル)ホスフェート、トリアリルホスフェート、酸化アンチモンなどの難燃剤;アニオン系、カチオン系、ノニオン系の界面活性剤に代表される帯電防止剤;無機顔料、有機顔料、染料などの着色剤;有機フィラー、無機フィラー;樹脂改質剤;可塑剤;滑剤;難燃剤などを含んでいてもよい。
上記アクリル樹脂組成物における、上記その他の添加剤の含有量は、上記アクリル樹脂組成物を100質量%としたときに、例えば0〜5質量%であり、0〜2質量%が好ましく、0〜0.5質量%がより好ましい。
上記酸化防止剤、その他の添加剤は、例えば、上記アクリル樹脂組成物が得られた後に、従来公知の方法(例えば溶融混練)によって上記アクリル樹脂組成物中に含有させることができる。
上記アクリル樹脂組成物のガラス転移温度(Tg)は、高い耐熱性を付与する観点から、110℃以上であれば特に限定されないが、115℃以上が好ましく、120℃以上がさらに好ましい。後述する実施例ではいずれも120℃以上のTgを有するアクリル樹脂組成物が得られている。なお、本明細書におけるTgは、JIS K7121の規定に基づき、示差走査熱量計(DSC)を用いて、始点法により求めた値とする。
以下、実施例により、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものでない。当業者は本発明の範囲を逸脱することなく、種々の変更、修正、および改変を行うことができる。まず、本実施例において作製したアクリル樹脂組成物などの評価方法を説明する。
[ガラス転移温度(Tg)]
アクリル樹脂組成物のガラス転移温度(Tg)は、JIS K7121の規定に準拠して求めた。具体的には、示差走査熱量計(株式会社リガク製、DSC−8230)を用い、窒素ガス雰囲気下、約10mgのサンプルを常温から200℃まで昇温(昇温速度20℃/分)して得られたDSC曲線から、始点法により評価した(ダイナミックTG測定)。リファレンスには、α−アルミナを用いた。
[熱分解温度]
アクリル樹脂組成物の熱分解温度は、差動型示差熱天秤装置(株式会社リガク製、Thermo Plus 2 TG−8120)を用い、窒素ガス雰囲気下、約10mgのサンプルを常温から500℃まで昇温(昇温速度10℃/分)して求めた。このとき、150〜500℃の間で、重量減少速度値が0.05質量%/秒以下となるように階段状に等温制御した。
[重量平均分子量(Mw)]
アクリル樹脂組成物の重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて、ポリスチレン換算により求めた。測定に用いた装置および測定条件は下記表1の通りである。
〔製造例1〕
スチレン−アクリロニトリル共重合体(スチレン/アクリロニトリルの共重合比は73重量%/27重量%、重量平均分子量は220,000)94.5重量部、および紫外線吸収剤としてのアデカスタブLA−F70(株式会社ADEKA製)5.5重量部をドライブレンドし、二軸押出機にて混合することで、紫外線吸収剤を含有し、負の固有複屈折を有する熱可塑性樹脂(A)を得た。
(製造例2)
ベント付き二軸押出機にて、スチレン−アクリロニトリル共重合体(スチレン/アクリロニトリルの共重合比は73重量%/27重量%、重量平均分子量は220,000)65重量部/時で混練しながら、ベントの前から紫外線吸収剤/トルエン溶液を35重量部/時で投入することで、紫外線吸収剤を含有し、負の固有複屈折を有する熱可塑性樹脂(B)を得た。上記紫外線吸収剤/トルエン溶液としては、チヌビン477(BASFジャパン株式会社製、有効成分80%)30重量部をトルエン70重量部に溶解させた溶液を用いた。
〔実施例1〕
攪拌装置、温度センサー、冷却管および窒素導入管を備えた反応容器に、40重量部のメタクリル酸メチル(MMA)、10重量部の2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル(MHMA)、および重合溶媒としての50重量部のトルエンを仕込み、これに窒素を通じつつ、105℃まで昇温させた。
昇温に伴う還流が始まったところで、重合開始剤として0.05重量部のt−アミルパーオキシイソノナノエート(アルケマ吉富株式会社製、商品名:ルペロックス570)を添加すると共に、0.10重量部の上記t−アミルパーオキシイソノナノエートを2時間かけて滴下しながら、約105〜110℃の還流下で溶液重合を進行させ、さらに4時間の熟成を行った。
次に、得られた重合溶液に、環化縮合反応の触媒(環化触媒)として、0.05重量部のステアリルアシッドホスフェート(堺化学工業株式会社製、商品名:Phoslex A−18)を加え、約90〜110℃の還流下において2時間、環化縮合反応を進行させ、重合溶液を得た。
一連の反応によって主鎖にラクトン環構造を有するアクリル系樹脂が形成されたことは、本実施例で最終的に形成したアクリル樹脂組成物のペレットの組成を別途、核磁気共鳴(NMR)および赤外分光(IR)を用いて分析することにより、確認した。
次に、得られた重合溶液を熱交換器に通して240℃まで昇温し、当該温度において環化縮合反応をさらに進行させた後、その重合溶液をベントタイプスクリュー二軸押出機(L/D=52)に、樹脂量換算で24重量部/時の処理速度で導入し、脱揮を行った。上記ベントタイプスクリュー二軸押出機は、一個のリアベントおよび四個のフォアベント(上流側から第1、第2、第3、第4ベントと称する)を備え、第3ベントと第4ベントとの間にサイドフィーダーが設けられており、先端部にギアポンプとリーフディスク型のポリマーフィルタ(濾過精度5μm)が配置されている。上記脱揮の条件は、バレル温度240℃、回転速度120rpm、減圧度13.3〜400hPa(10〜300mmHg)であり、ポリマーフィルタの温度は295℃であった。
このとき、別途準備しておいた酸化防止剤/環化触媒の失活剤の混合溶液を、0.23重量部/時の投入速度で第3ベントの前から投入した。
上記酸化防止剤/環化触媒の失活剤の混合溶液としては、酸化防止剤としての2.8重量部のイルガノックス1010(BASFジャパン株式会社製)および2.8重量部のアデカスタブAO−412S(株式会社ADEKA製)を、環化触媒の失活剤としての94.4重量部のオクチル酸亜鉛(日本化学産業株式会社製、商品名:ニッカオクチクス亜鉛、亜鉛含有量18質量%)を含有する10質量%トルエン溶液に溶解させた混合溶液を用いた。
これに加えて、製造例1で得られた熱可塑性樹脂(A)を、3.3重量部/時の投入速度で上記サイドフィーダーから投入した。
脱揮完了後、上記押出機内に残された熱溶融状態にあるアクリル樹脂組成物を当該押出機の先端からポリマーフィルタ(長瀬産業株式会社製)により濾過しながら排出し、ペレタイザーによりペレット化して、主鎖にラクトン環構造を有する(メタ)アクリル系重合体を含有するアクリル樹脂組成物の透明なペレットを得た。上記ポリマーフィルタにおける、単位時間当たりの樹脂処理量に対する濾過面積は、0.02m2(kg/h)であった。
24時間溶融状態にあるアクリル樹脂組成物の濾過を行い、濾過の開始時から終了時までのポリマーフィルタ前後における圧力差(圧力損失)の増加分を評価したところ、PF昇圧速度は0.28MPa/日であった。当該アクリル樹脂組成物のガラス転移温度(Tg)は125℃、熱分解温度は341℃、重量平均分子量(Mw)は132,000であった。PF昇圧速度が遅いので、上記ペレットを、安定的にかつ長時間連続して製造することができた。
〔実施例2〕
熱可塑性樹脂(A)の替わりに、製造例2で得られた熱可塑性樹脂(B)を、3.5重量部/時の投入速度で上記サイドフィーダーから投入した以外は実施例1と同様にして、主鎖にラクトン環構造を有する(メタ)アクリル系重合体を含有するアクリル樹脂組成物の透明なペレットを得た。そして、実施例1と同様にして、ポリマーフィルタ前後における圧力差(圧力損失)の増加分を評価したところ、PF昇圧速度は0.25MPa/日であった。当該アクリル樹脂組成物のTgは123℃、熱分解温度は340℃、Mwは131,000であった。PF昇圧速度が遅いので、上記ペレットを、安定的にかつ長時間連続して製造することができた。
〔比較例1〕
酸化防止剤/環化触媒の失活剤の混合溶液の替わりに、酸化防止剤/環化触媒の失活剤/紫外線吸収剤の混合溶液として、酸化防止剤としての0.9重量部のイルガノックス1010(BASFジャパン株式会社製)および0.9重量部のアデカスタブAO−412S(株式会社ADEKA製)、紫外線吸収剤としての68.3重量部のチヌビン477(BASFジャパン株式会社製、有効成分80%)を、環化触媒の失活剤としての29.9重量部のオクチル酸亜鉛(日本化学産業株式会社製、商品名:ニッカオクチクス亜鉛、亜鉛含有量18質量%)を含有する10質量%トルエン溶液に溶解させた混合溶液を用い、当該混合溶液を第3ベントの前から0.73重量部/時の投入速度で注入すると共に、熱可塑性樹脂(A)の替わりに、スチレン−アクリロニトリル共重合体(スチレン/アクリロニトリルの共重合比は73重量%/27重量%、重量平均分子量は220,000)を、3.1重量部/時の投入速度で上記サイドフィーダーから投入した以外は実施例1と同様にして、主鎖にラクトン環構造を有する(メタ)アクリル系重合体を含有するアクリル樹脂組成物の透明なペレットを得た。そして、実施例1と同様にして、ポリマーフィルタ前後における圧力差(圧力損失)の増加分を評価したところ、PF昇圧速度は1.8MPa/日であった。当該アクリル樹脂組成物のTgは122℃、熱分解温度は340℃、Mwは132,000であった。PF昇圧速度が速いので、上記ペレットを、安定的にかつ長時間連続して製造することができなかった。
〔比較例2〕
酸化防止剤/環化触媒の失活剤の混合溶液の替わりに、酸化防止剤/環化触媒の失活剤/紫外線吸収剤の混合溶液として、酸化防止剤としての1.1重量部のイルガノックス1010(BASFジャパン株式会社製)および1.1重量部のアデカスタブAO−412S(株式会社ADEKA製)、紫外線吸収剤としての30.0重量部のアデカスタブLA−F70(株式会社ADEKA製)を、環化触媒の失活剤としての35.7重量部のオクチル酸亜鉛(日本化学産業株式会社製、商品名:ニッカオクチクス亜鉛、亜鉛含有量18質量%)を含有する10質量%トルエン溶液に溶解させた混合溶液を用い、当該混合溶液を第3ベントの前から0.61重量部/時の投入速度で注入すると共に、熱可塑性樹脂(A)の替わりに、スチレン−アクリロニトリル共重合体(スチレン/アクリロニトリルの共重合比は73重量%/27重量%、重量平均分子量は220,000)を、3.1重量部/時の投入速度で上記サイドフィーダーから投入した以外は実施例1と同様にして、主鎖にラクトン環構造を有する(メタ)アクリル系重合体を含有するアクリル樹脂組成物を得た。しかし、実施例1と同様にしてペレットを作成して、ポリマーフィルタ前後における圧力差(圧力損失)の増加分を評価しようとしたが、PF昇圧速度が速く、24時間連続して濾過を実施することはできなかった。当該アクリル樹脂組成物のTgは125℃、熱分解温度は340℃、Mwは132,000であった。
本発明は上述した各実施形態に限定されるものでなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。