[重合体(A)]
本発明の重合体(A)は、主鎖にδ−ラクタム構造を有する。重合体(A)は、典型的には熱可塑性重合体である。重合体(A)は、典型的には非水溶性の重合体である。重合体(A)は、非晶性でありうる。
δ−ラクタム構造は、基本骨格として6員環のアミド環構造(環状アミド構造)を有する。この環状アミド構造は、ピペリジノン環構造でもある。重合体が主鎖にδ−ラクタム構造を有するとは、6員環であるδ−ラクタム構造の基本骨格を構成する6つの原子のうち少なくとも1つの原子、典型的にはアミド結合(−NHCO−)を構成しない少なくとも1つの炭素原子が当該重合体の主鎖に位置し、主鎖を構成することを意味する。主鎖に位置する上記炭素原子の数は2または3であってもよく、例えば、δ−ラクタム構造の3位、4位および5位の炭素原子が重合体(A)の主鎖に位置する。
重合体(A)は、主鎖に位置するδ−ラクタム構造に由来する特性を有する。特性は、例えば、熱的特性、光学的特性である。
熱的特性は、例えばガラス転移温度(Tg)であり、重合体(A)のTgはδ−ラクタム構造を主鎖に有さない場合に比べて高くなる。
光学的特性は、例えば複屈折特性である。主鎖に位置するδ−ラクタム構造によって、重合体(A)の複屈折発現性(位相差発現性)が向上する。δ−ラクタム構造は、重合体(A)に正または負の固有複屈折を与える作用を有する。より具体的に、δ−ラクタム構造は、基本的に重合体(A)に正の固有複屈折を与える作用を有するが、環構造の基本骨格に結合した置換基が嵩高いなどの場合、重合体(A)に負の固有複屈折を与えることがある。重合体(A)としての固有複屈折の正負は、当該重合体(A)が有する各構成単位が示す複屈折特性の兼ね合いにより決定される。例えば、δ−ラクタム構造が重合体(A)に正の固有複屈折を与える作用を有する場合においても、負の固有複屈折を与える作用を有する構成単位を重合体(A)がさらに有するとき、重合体(A)としての固有複屈折が負になることがある。
重合体(A)は、その他の特性、例えば、δ−ラクタム構造に含まれる(環状)アミド構造に基づく親水性、密着性、耐加水分解性、耐熱分解性などを有しうる。
重合体(A)はこれらの各特性に基づき、種々の用途に使用できる。用途は、例えば、光学部材である。上述した重合体(A)の熱的特性および光学的特性は、光学部材の有利な特徴になりうる。高いTgは、例えば、重合体(A)を含む光学部材の耐熱性の向上につながり、このような光学部材は、当該光学部材を備える製品の設計の自由度を向上させる。具体的な一例として、光学部材の一種である光学フィルムについて、当該フィルムを光源、電源部、回路基板などの発熱体に近接して配置することが可能となるため、液晶表示装置(LCD)などの画像表示装置の設計の自由度が向上する。高い複屈折発現性は、例えば、光学フィルムについて単位厚さあたりの位相差値の向上につながり、より薄いながらも設計された位相差値を達成した光学フィルムが実現する。複屈折発現性は、例えば、応力光学係数Crにより評価できる。Crの絶対値が大きいほど、複屈折発現性が高い。重合体(A)に正の固有複屈折を与える作用は、例えば、厚さ方向の位相差Rthが正である正の位相差フィルムの実現につながる。密着性、耐加水分解性および耐熱分解性の高さも、光学部材としての有利な点となる。
重合体(A)の用途は光学部材に限定されない。重合体(A)の用途は、例えば、感圧性接着剤、導電性接着剤、感光性接着剤、建材用接着剤、プリント基板用接着剤、透明シートまたはフィルム用接着剤、有機または無機繊維用接着剤などの接着剤;粘着シート、フィルム用粘着剤、電子デバイス用粘着剤、耐熱性粘着剤、熱伝導性粘着剤、導電性粘着剤などの粘着剤;二次電池の電極、機能性ファイバー、導電微粒子、金属微粒子、鱗片状フィラー、染料、インクジェット、カラーフィルター、インク、トナーなどに用いる各種のバインダー樹脂;ガスバリア、水蒸気バリア、表示素子、半導体封止、太陽電池、電子デバイスなどに用いる各種の封止材(剤);医療用または日用の抗菌、除菌および滅菌材;ハードコート、易接着コート、UV硬化樹脂、EB硬化樹脂、錆止め、防曇剤、帯電防止剤、難燃用コーティング剤、遮蔽コート、絶縁コートなどに用いる各種の機能性コーティング材(剤);熱硬化性粉体塗料などの粉体塗料;有機フィラー、保水剤、保湿剤などの化粧品用成分;キャパシタ、コンデンサ、電子機器などに用いるプリント基板および実装基板(フレキシブル基板を含む);潤滑油添加剤、粘度調整剤、粘度指数向上剤などの合成潤滑剤;ナノフィラー、ナノ微粒子、ナノ構造成型用材料などのナノ材料;パルプの凝集剤、分散剤、紙力増強剤などの紙の製造および加工に用いる薬剤;耐熱性が必要なプラスチック部材、フィルム、レンズ、包装材料、タイヤ、光学フィルム、偏光子保護フィルムなどの熱可塑性樹脂;高機能繊維、ナノ繊維、圧電繊維、不織布、フィルター用多孔質膜などの繊維;インク、インクジェット用インク、トナー、マイクロカプセルなどの記憶材料用ゲル化剤;各種の溶液またはペーストの粘度を調整する際に使用する増粘剤、より具体的な例として、二次電池の電極活性粒子を含むペースト、歯磨粉、液体洗剤などに使用される増粘剤;ガラスファイバーまたはカーボンファイバーといったファイバーに使用する分散剤または結束剤;である。
重合体(A)は、例えば、以下の式(1)に示すδ−ラクタム構造を主鎖に有する。式(1)の環構造では、アミド結合を構成していない3つの炭素原子(環構造の3位、4位および5位の炭素原子)が重合体(A)の主鎖に位置する(主鎖を構成する)。式(1)に示す環構造は、重合体(A)の構成単位(繰り返し単位)であっても、構成単位の一部を構成する構造であってもよい。後者の場合、当該構成単位は、その分子構造の一部として式(1)に示すδ−ラクタム構造を含むことになる。
式(1)において、R1は、水素原子、炭素数1〜20の直鎖もしくは分岐を有するアルキル基、炭素数3〜18のシクロアルキル基、またはアリール基であり、R2は−COOR4基であって、R4は、水素原子、炭素数1〜20の直鎖もしくは分岐を有するアルキル基、炭素数3〜18のシクロアルキル基、またはアリール基であり、R3は水素原子またはメチル基であり、R5は、水素原子、または炭素数1〜20の直鎖もしくは分岐を有するアルキル基である。
直鎖または分岐を有するアルキル基の炭素数は1〜12が好ましく、1〜4がより好ましい。直鎖アルキル基は、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基である。分岐を有するアルキル基は、例えば、i−プロピル(i−Pr)基、t−ブチル基である。シクロアルキル基の炭素数は3〜12が好ましく、3〜6がより好ましい。シクロアルキル基は、例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基である。アリール基は、例えば、フェニル基、ナフチル基、ベンジル基であり、アリール基に含まれる芳香環構造の水素原子が置換基により置換されていてもよい。置換基は、例えば、メチル基、エチル基などのアルキル基、アルコキシ基、アシル基、スルホニル基、アミノ基、ニトロ基、ハロゲン基である。アリール基は、好ましくは、フェニル基、トリル基、ベンジル基である。
より具体的なR1は、例えば、水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、i−プロピル基、t−ブチル基、シクロヘキシル基、フェニル基、ベンジル基であり、後述する前駆重合体(B)の環化反応を効率よく進行できる観点、すなわち前駆重合体(B)からの環化反応による重合体(A)の形成効率が高い観点からは、メチル基、エチル基、プロピル基、i−プロピル基が好ましく、i−プロピル基がより好ましい。より具体的なR4は、例えば、水素原子、メチル基、エチル基、フェニル基であり、水素原子、メチル基、エチル基が好ましい。より具体的なR5は、例えば、水素原子、メチル基であり、水素原子が好ましい。
R3、R4およびR5の組み合わせの一例は、R3が水素原子またはメチル基、R4が水素原子、メチル基またはエチル基、R5が水素原子である組み合わせである。このとき、R1は、水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、i−プロピル基、t−ブチル基、シクロヘキシル基、フェニル基、ベンジル基でありうるし、メチル基、エチル基、プロピル基、i−プロピル基でありうるし、i−プロピル基でありうる。
重合体(A)は、δ−ラクタム構造(例えば、式(1)に示すδ−ラクタム構造)を含む構成単位Pを有することになる。構成単位Pは、δ−ラクタム構造のみから構成されていてもよいし、δ−ラクタム構造と他の分子構造とから構成されていてもよい。他の分子構造は、例えば、δ−ラクタム構造の3位および/または5位の炭素原子に結合して、当該環構造とともに重合体(A)の主鎖を構成する分子構造であり、より具体的な例は、メチレン基などのアルキレン基である。
δ−ラクタム構造と他の分子構造とから構成される構成単位Pの一例を、以下の式(5)に示す。式(5)のR1〜R3およびR5は、式(1)のR1〜R3およびR5と同じである。
式(5)に示す構成単位Qは、δ−ラクタム構造と、当該環構造の5位の炭素原子に結合したメチレン基とから構成される単位である。メチレン基の炭素原子および環構造の3位から5位の炭素原子は、重合体(A)の主鎖を構成する。構成単位Qのδ−ラクタム環構造は、第二級アミド構造(R1が水素原子)または第三級アミド構造(R1が水素原子以外)を、環の一部を構成する分子構造として含んでいる(第二級または第三級アミド構造を、環構造の一部として含んでいる)。構成単位Qが含むδ−ラクタム構造は、式(1)に示す構造である。構成単位QにおけるR1〜R5の例および組み合わせの例は、式(1)に示す環構造の説明において上述した例と同じである。構成単位Qは、例えば、R2が−COOCH3基であり、R3がメチル基であり、R5が水素原子である単位である。このとき、R1は、水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、i−プロピル基、t−ブチル基、シクロヘキシル基、フェニル基、ベンジル基でありうるし、メチル基、エチル基、プロピル基、i−プロピル基でありうるし、i−プロピル基でありうる。このような構成単位Qを有する重合体(A)は、例えば、メタクリル酸メチル(MMA)と、α−アミノメチルアクリル酸メチル誘導体との間に環化反応を進行させて形成できる。α−アミノメチルアクリル酸メチル誘導体は、α−アミノメチルアクリル酸メチルの末端に位置するアミノ基の水素原子がR1により置換された構造を有する。例えばR1がi−プロピル基のとき、α−アミノメチルアクリル酸メチル誘導体は、α−((N−i−プロピル)アミノメチル)アクリル酸メチルである。
構成単位Qは、重合体(A)に正の固有複屈折を与える作用を有する。なお、正(または負)の固有複屈折を重合体に与える作用を有する構成単位とは、当該単位のホモポリマーを形成したときに、当該ホモポリマーが正(または負)の固有複屈折を示す単位をいう。重合体(A)としての固有複屈折の正負は、構成単位Qだけではなく、重合体(A)が有する他の構成単位が示す複屈折特性との兼ね合いにより定まる。
重合体(A)は、δ−ラクタム構造を含む構成単位Pのみから構成されるホモポリマーであっても、構成単位Pと、構成単位P以外の構成単位Rとから構成される共重合体であってもよい。共重合体は、ランダム共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体でありうる。
重合体(A)は2種以上の構成単位Pを有しうるし、2種以上の構成単位Rを有しうる。
重合体(A)が構成単位Pと構成単位Rとから構成される共重合体である場合、重合体(A)は、構成単位Rの種類および含有率に応じて様々なさらなる特性を示す。構成単位Rは、例えば、(メタ)アクリル酸エステル単位、(メタ)アクリル酸単位、N−置換マレイミド単位、芳香族ビニル化合物単位、不飽和カルボン酸化合物単位、シアン化ビニル化合物単位、複素芳香族基を有するα,β−不飽和単量体単位である。
重合体(A)は、(メタ)アクリル酸エステル単位および(メタ)アクリル酸単位から選ばれる少なくとも1種を構成単位Rとして有していてもよい。この場合、重合体(A)の光学的な透明性がより高くなり、例えば光学部材としての用途により好適となる。重合体(A)は、(メタ)アクリル酸エステル単位を構成単位Rとして有することが好ましい。
(メタ)アクリル酸エステル単位は、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンタニル、(メタ)アクリル酸アダマンチル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、α−ヒドロキシアクリル酸メチル、α−ヒドロキシアクリル酸エチルの各(メタ)アクリル酸エステルの重合により形成される(これら各単量体に由来する)構成単位である。(メタ)アクリル酸エステル単位は、メタクリル酸メチル(MMA)単位、メタクリル酸エチル単位、メタクリル酸n−ブチル単位、メタクリル酸シクロヘキシル単位、メタクリル酸イソボルニル単位、メタアクリル酸ベンジル単位が好ましく、MMA単位がより好ましい。このとき、重合体(A)の光学的な透明性がさらに高くなる。
重合体(A)における(メタ)アクリル酸エステル単位の含有率が50質量%を超える場合、当該重合体(A)はアクリル重合体である。アクリル重合体である重合体(A)は、アクリル重合体が一般に有する特性、例えば、高い光学的透明性、ならびに機械的強度、成形加工性および表面硬度の高いバランスを示す。アクリル重合体である重合体(A)において(メタ)アクリル酸エステル単位の含有率の合計は、60質量%以上、70質量%以上、80質量%以上、さらには90質量%以上でありうる。
式(5)に示す構成単位Qをはじめとして、構成単位Pの種類によっては、MMAなどの(メタ)アクリル酸エステルとの共重合体を前駆重合体(B)として、当該前駆重合体(B)に環化反応を進行させて重合体(A)を形成できるが、この場合、重合体(A)は、未反応の単位として(メタ)アクリル酸エステル単位を有しうる。
また、上述のように、(メタ)アクリル酸エステル単位を構成単位として有する共重合体である前駆重合体(B)に環化反応を進行させて重合体(A)を形成する場合、当該重合体(A)は、(メタ)アクリル酸エステルの誘導体と捉えることもできる。この場合、重合体(A)における構成単位Pおよび(メタ)アクリル酸エステル単位の含有率の合計が50質量%を超えるとき、重合体(A)はアクリル重合体である。含有率の合計は、60質量%以上、70質量%以上、80質量%以上、さらには90質量%以上でありうる。なお、後述のように、(メタ)アクリル酸エステルとの共重合体である前駆重合体(B)、すなわち、(メタ)アクリル酸エステル単位を構成単位として有する共重合体である前駆重合体(B)において、側鎖にアミノ基またはアミン基がさらに存在し、環化反応により構成単位Pが形成される限り、(メタ)アクリル酸エステルとの共重合の相手であるモノマーは限定されない。当該モノマーは、例えば、α−アミノメチルアクリル酸メチルまたはα−アミノメチルアクリル酸メチル誘導体などのアミノ基またはアミン基を含有するビニル単量体である。
N−置換マレイミド単位は、例えば、N−シクロヘキシルマレイミド、N−フェニルマレイミド、N−メチルマレイミド、N−エチルマレイミド、N−i−プロピルマレイミド、N−t−ブチルマレイミド、N−トリブロモフェニルマレイミド、N−ラウリルマレイミド、およびN−ベンジルマレイミドの各単量体に由来する構成単位である。N−置換マレイミド単位は、N−シクロヘキシルマレイミド単位、N−フェニルマレイミド単位が好ましい。
芳香族ビニル化合物単位は、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、α−クロロスチレン、p−t−ブチルスチレン、p−メチルスチレン、p−クロロスチレン、o−クロロスチレン、2,5−ジクロロスチレン、3,4−ジクロロスチレン、ジビニルベンゼンの各芳香族ビニル化合物に由来する構成単位である。芳香族ビニル化合物単位は、スチレン単位が好ましい。
不飽和カルボン酸化合物単位は、例えば、クロトン酸などの酸およびこれらのアルカリ金属塩、アンモニウム塩、有機アミン塩の重合により形成される構成単位である。なお、本明細書において、不飽和カルボン酸化合物単位には(メタ)アクリル酸単位が含まれない。
シアン化ビニル化合物単位は、例えば、(メタ)アクリロニトリル単位である。
複素芳香族基を有するα,β−不飽和単量体単位は、例えば、ビニルカルバゾール単位、ビニルピリジン単位、ビニルイミダゾール単位およびビニルチオフェン単位から選ばれる少なくとも1種である。
構成単位Rは、上述した単位を除くビニル化合物単位、例えば、酢酸ビニル、塩化ビニル、塩化ビニリデン、エチレン、プロピレン、ブテン、イソプレン、N−ビニル−2−ピロリドン;アジピン酸ジビニル、セバシン酸ジビニルなどのジビニルエステル類;ビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸、2−アクリルアミド−2−フェニルプロパンスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸などのスルホン酸およびこれらのアルカリ金属塩、アンモニウム塩、有機アミン塩;の重合により形成される構成単位でありうる。
重合体(A)は、紫外線(UVA)吸収能を有する構成単位を有しうる。当該構成単位は、例えば、重合性基を導入したベンゾトリアゾール誘導体、トリアジン誘導体またはベンゾフェノン誘導体の重合により形成される構成単位である。これらの誘導体において、導入する重合性基は適宜選択でき、例えばビニル基である。
重合体(A)における構成単位Pの含有率は限定されないが、構成単位Pに由来する特性をより確実に得るためには、例えば3質量%以上であり、5質量%以上が好ましく、10質量%以上がより好ましい。構成単位Pの含有率の上限は特に限定されず、100質量%またはそれ以下であってもよい。重合体(A)が他の構成単位R、特に(メタ)アクリル酸エステル単位をさらに有する場合、構成単位Pの上限は例えば90質量%以下であり、85質量%以下、82質量%以下でありうる。
重合体(A)における各構成単位の含有率は、公知の手法、例えば1H核磁気共鳴(1H−NMR)あるいは赤外線分光分析(IR)により求めることができる。
重合体(A)が主鎖に有するδ−ラクタム構造は、公知の手法、例えば1H−NMRあるいはIRにより確認できる。
重合体(A)は、主鎖のδ−ラクタム構造に基づき、高いTgを示す。重合体(A)のTgは、例えば110℃以上である。δ−ラクタム構造の具体的な構造およびその含有率、あるいはδ−ラクタム構造を含む構成単位Pの構造およびその含有率によっては、重合体(A)のTgは、115℃以上、さらには120℃以上の値をとりうる。
後述の脱アルコール環化縮合反応により重合体(A)を形成した場合、当該重合体(A)には、環化反応時に生成したアルコールが残留しうる。このとき、重合体(A)における残留アルコールの含有量は、例えば10〜3000ppmである。
重合体(A)は、架橋剤等によって架橋されていてもよい。
重合体(A)は、例えば、以下に示す重合体(A)の製造方法により形成できる。
[重合体(A)の製造方法]
重合体(A)は、例えば、ビニルモノマーを含む単量体群の重合により形成された前駆重合体(B)であって、エステル基(カルボキシルエステル基)および/またはカルボキシル基とアミノ基および/またはアミン基とを側鎖として有する前駆重合体(B)に対して環化反応を進行させて形成できる。この環化では、エステル基および/またはカルボキシル基とアミノ基および/またはアミン基との間に環化縮合反応を進行させて6員環のアミド環構造を形成する。このとき、エステル基および/またはカルボキシル基が、δ−ラクタム構造の2位の炭素原子を含むカルボニル基に変化し、アミノ基および/またはアミン基が、δ−ラクタム構造の1位の窒素原子を含むアミン基に変化する。このアミン基は、例えば式(1)に示すように、第2級アミン基(R1が水素原子)または第3級アミン基(R1が水素原子以外)である。
前駆重合体(B)は、例えば、以下の式(2)に示す単位Xおよび以下の式(3)に示す単位Yを構成単位として有する。主鎖にδ−ラクタム構造を有する重合体(A)は、このような前駆共重合体(B)の単位Xおよび単位Yの間に環化反応を進行させて形成してもよい。すなわち本発明の製造方法では、以下の式(2)に示す単位Xおよび以下の式(3)に示す単位Yを構成単位として有する前駆重合体(B)に対して、単位Xおよび単位Yの間に環化反応を進行させて、主鎖にδ−ラクタム構造を有する重合体を得てもよい。
式(2)におけるR1、R4およびR5ならびに式(3)におけるR3は、その好ましい例および組み合わせの例を含めて、式(1)におけるR1、R4およびR5ならびにR3と同じである。式(3)におけるR6は、水素原子または炭素数1〜20の有機残基である。有機残基は、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基などのアルキル基;エテニル基、プロペニル基などの不飽和脂肪族炭化水素基;フェニル基、ナフチル基などの芳香族炭化水素基;上記アルキル基、上記不飽和脂肪族炭化水素基および上記芳香族炭化水素基において、水素原子の一つ以上が、水酸基、カルボキシル基、エーテル基およびエステル基から選ばれる少なくとも1種の基により置換された基;である。
単位Xおよび単位Yは、その構造から理解できるように、いずれもビニルモノマーの重合により形成される(ビニルモノマーに由来する)構成単位である。すなわち、単位Xおよび単位Yを構成単位として有する前駆重合体(B)は、ビニルモノマーを含む単量体群の重合により形成できる。
前駆重合体(B)に対して環化反応を進行させて重合体(A)を形成する例を、以下の式(6)に示す。式(6)の左辺の前駆重合体(B)は、単位Xおよび単位Yを構成単位として有する共重合体である。
式(6)のR1〜R6は、その好ましい例および組み合わせの例を含めて、式(1)のR1〜R5および式(3)のR6と同じである。
式(6)に示す反応では、左辺の分子構造を有する前駆重合体(B)に環化反応を進行させて、右辺の構成単位Pを有する重合体(A)を形成する。この環化反応は、左辺に示す破線部が結合し、R6OHが脱離する縮合反応である。R6が水素原子のとき水が脱離し、すなわち、この反応は脱水環化縮合反応である。R6が有機残基のときアルコールが脱離し、すなわち、この反応は脱アルコール環化縮合反応である。例えば、R6がメチル基のとき、メタノールが脱離する。この反応は、前駆重合体(B)の分子鎖内で進行する。式(6)の右辺の構成単位Pは、式(1)に示すδ−ラクタム構造と、当該環構造の5位の炭素原子に結合したメチレン基とを含む。式(6)の右辺の構成単位Pは、式(5)に示す構成単位Qである。
なお、式(6)に示すような、前駆重合体(B)の破線部が結合し、R6OHが脱離する環化反応では、前駆重合体(B)の分子構造に基づく立体障害の影響を受ける可能性がある。立体障害の影響が抑制されることで前駆重合体(B)の環化反応を効率よく進行できる観点、すなわち、前駆重合体(B)からの環化反応による重合体(A)の形成効率が高い観点からは、R1は、水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、i−プロピル基が好ましく、環化反応をさらに効率的に進行できることからR1はi−プロピル基がより好ましい。また、上記観点からは、R6は、水素原子、メチル基、エチル基が好ましく、環化反応をさらに効率的に進行できることからR6はメチル基がより好ましい。
前駆重合体(B)は、その側鎖にエステル基および/またはカルボキシル基を有するとともにアミノ基および/またはアミン基を有する。より具体的に、式(6)の前駆重合体(B)は、側鎖にアミノ基(R1が水素原子)および/またはアミン基(R1が水素原子以外)を有する構成単位と、側鎖にエステル基(R6が有機残基)および/またはカルボキシル基(R6が水素原子)を有する構成単位とを有する共重合体である。より具体的に、式(6)の前駆重合体(B)は、アミノ基および/またはアミン基を有するビニルモノマーAと、エステル基および/またはカルボキシル基を有するビニルモノマーBとを含む単量体群の重合により形成された共重合体である。この前駆重合体(B)において、側鎖のエステル基および/またはカルボキシル基とアミノ基および/またはアミン基とは、その間に、4つの炭素原子が挿入された位置関係にあり、そのうち3つの炭素原子は前駆重合体(B)の主鎖に位置している。式(6)に示す例では、この4つの炭素原子と、エステル基および/またはカルボキシル基の炭素原子と、アミノ基および/またはアミン基の窒素原子とにより、δ−ラクタム構造が形成される。
このときのビニルモノマーAの例を以下の式(7)に、ビニルモノマーBの例を以下の式(8)に示す。
式(7)のR1、R4およびR5ならびに式(8)のR3およびR6は、その好ましい例および組み合わせの例を含めて、式(2)のR1、R4およびR5ならびに式(3)のR3およびR6と同じである。式(7)において、R4は、水素原子、メチル基またはエチル基でありうるし、メチル基でありうる。R5は水素原子でありうる。R1は、水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、i−プロピル基、t−ブチル基、シクロヘキシル基、フェニル基、ベンジル基でありうるし、メチル基、エチル基、プロピル基、i−プロピル基でありうるし、i−プロピル基でありうる。式(7)に示すビニルモノマーAは、α−アミノメチルアクリル酸メチル、α−アミノメチルアクリル酸メチル誘導体などのアミノ基またはアミン基含有ビニルモノマーでありうる。式(8)に示すビニルモノマーBは、(メタ)アクリル酸エステル単位(R3が水素原子またはメチル基であり、R6有機残基である)、または(メタ)アクリル酸単位(R3が水素原子またはメチル基であり、R6が水素原子である)でありうる。形成した重合体(A)の光学的な透明性がより高くなることから、ビニルモノマーBは、アクリル酸またはメタクリル酸メチル(MMA)が好ましい。
また、上記立体障害の影響が抑制されることで前駆重合体(B)の環化反応を効率よく進行できる観点からは、式(7)のR1は、水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、i−プロピル基が好ましく、環化反応をさらに効率的に進行できることからR1はi−プロピル基がより好ましい。また、上記観点からは、式(8)のR6は、水素原子、メチル基、エチル基が好ましく、環化反応をさらに効率的に進行できることからR6はメチル基がより好ましい。
前駆重合体(B)は、2種以上のビニルモノマーAおよび/または2種以上のビニルモノマーBを含む単量体群の重合により形成された重合体であってもよい。すなわち、前駆重合体(B)は、2種以上のビニルモノマーAに由来する2種以上の構成単位および/または2種以上のビニルモノマーBに由来する2種以上の構成単位を有していてもよい。
前駆重合体(B)がビニルモノマーAとビニルモノマーBとの共重合体であるとき、当該重合体(B)におけるビニルモノマーAに由来する構成単位Xと、ビニルモノマーBに由来する構成単位Yとの含有率の比は特に限定されないが、質量比にして、例えばX:Y=5〜50:95〜50であり、10〜50:90〜50が好ましい。構成単位Yが(メタ)アクリル酸エステル単位である場合、当該前駆重合体(B)から形成した重合体(A)は、未反応の(メタ)アクリル酸エステル単位を構成単位として有しうる。含有率の比がこれらの範囲にある場合、重合反応および環化反応をより効率的に進行できる。
前駆重合体(B)が共重合体である場合、当該重合体(B)は、ランダム共重合体、交互共重合体でありうる。
前駆重合体(B)は、ビニルモノマーAおよびビニルモノマーB以外の単量体に由来する構成単位をさらに有していてもよい。この場合、当該構成単位をさらに有する重合体(A)を形成できる。当該構成単位は、例えば、重合体(A)の説明において上述した、構成単位P以外の構成単位Rである。
(前駆重合体(B)の形成)
前駆重合体(B)の形成方法は特に限定されない。形成した前駆重合体(B)がエステル基および/またはカルボキシル基とアミノ基および/またはアミン基とを側鎖として有するようにモノマーを選択し、当該モノマーを含む単量体群を重合すればよい。単量体群は、必要に応じて、重合体(A)の形成に必須であるモノマー以外のモノマーを含んでいてもよい。当該モノマーは、例えば、重合により構成単位Rとなるモノマーである。
単量体群は、例えば、アミノ基および/またはアミン基を有するビニルモノマーAと、エステル基および/またはカルボキシル基を有するビニルモノマーBとを含む。ビニルモノマーAの例は、α−(アミノメチル)アクリル酸メチルおよびα−(アミノメチル)アクリル酸メチル誘導体から選ばれる少なくとも1種であり、ビニルモノマーBの例は、(メタ)アクリル酸エステルおよび(メタ)アクリル酸から選ばれる少なくとも1種である。
単量体群の重合方法は特に限定されず、溶液重合などの公知の重合方法を適用できる。溶液重合を選択した場合、重合溶媒は特に限定されず、例えば、トルエン、キシレン、エチルベンゼンなどの芳香族炭化水素;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類;クロロホルム、塩化メチレン、1,2−ジクロロエタンなどのハロゲン系炭化水素類;メタノール、エタノールなどのアルコール類;水、ジメチルスルフォキシド(DMSO)、テトラヒドロフランである。
前駆重合体(B)の重合にあたっては、必要に応じて、重合開始剤、連鎖移動剤などを使用できる。重合開始剤は特に限定されないが、例えば、クメンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、t−アミルパーオキシ−2−エチルヘキサノエートなどの有機過酸化物;アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)などのアゾ化合物;である。これらの重合開始剤は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。なお、重合開始剤の使用量は、単量体群に含まれるモノマーの組み合わせ、あるいは重合条件などに応じて適宜設定すればよく、特に限定されない。
重合温度などの重合条件は、適宜、設定できる。
単量体群に含まれるモノマー間に重合速度差がある場合、重合に供する単量体群に含まれる各モノマーの含有率に比べて、重合により形成した前駆重合体(B)における上記モノマーに由来する各構成単位の含有率について、重合速度が速いモノマーに由来する構成単位の含有率が相対的に大きくなる傾向がある。このため、共重合体である前駆重合体(B)であって、当該重合体(B)を構成する各構成単位の含有率および/または含有率比について望む値を有する重合体(B)を得るために、重合に供する単量体群における各モノマーの含有率に留意したり、重合方法を制御したり(例えば、重合速度の速いモノマーの一部または全てを滴下により重合系に供給する)して、形成した前駆重合体(B)における各構成単位の含有率を適宜調整できる。
(環化反応)
前駆重合体(B)を環化する方法は限定されない。例えば、前駆重合体(B)を加熱することにより、当該重合体(B)の分子鎖内でアミド環化反応である環化縮合反応を進行させて重合体(A)を形成できる。すなわち、環化反応を前駆重合体(B)の加熱下において進行させてもよい。
前駆重合体(B)の加熱により環化反応を進行させる場合、加熱温度は、例えば70℃以上であり、100℃以上が好ましく、150℃以上、200℃以上の順にさらに好ましい。前駆重合体(B)の加熱は、前駆重合体(B)が固体の状態、溶媒に溶解している状態などの任意の状態で実施することができる。固体の状態で加熱する場合は、環化反応の速やかな進行のために、粉末、粒子などの表面積が大きい形態を有する前駆重合体(B)とすることが好ましい。また、式(6)の右辺に記載されている、環化反応により生成したアルコールまたは水を除去することで環化反応を速やかに進行させるために、減圧下における加熱が好ましい。減圧の程度は、例えば、絶対圧にして26.6kPa以下である。すなわち、前駆重合体(B)を26.6kPa以下の圧力下で加熱することにより環化反応を進行させてもよい。減圧の程度は、13.3kPa以下が好ましく、2.7kPa以下がより好ましい。
環化反応を進行させる際には、必要に応じて、当該反応を促進させる触媒を使用してもよい。すなわち、前駆重合体(B)の環化反応を、触媒(環化触媒)の使用下において進行させてもよい。触媒を使用する場合、均一な反応のために、前駆重合体(B)が溶媒に溶解している状態での使用が好ましい。触媒の使用と上記加熱とを併用してもよい。
触媒には、例えば、酸、塩基およびこれらの塩、金属錯体、ならびに金属酸化物から選ばれる少なくとも1種を使用できる。酸、塩基およびこれらの塩、金属錯体、ならびに金属酸化物の種類は、特に限定されない。形成される重合体(A)、または当該重合体(A)を含む樹脂組成物(C)もしくは樹脂成形体が透明性の重要視される用途に使用される場合、触媒は、これらの透明性が低下せず、着色などの悪影響が生じない範囲で使用することが好ましい。
酸は限定されず、例えば、塩酸、硫酸、p−トルエンスルホン酸、リン酸、亜リン酸、フェニルホスホン酸、有機カルボン酸、リン酸エステルである。塩基は限定されず、例えば、金属水酸化物、アミン類、イミン類、アルカリ金属誘導体、アルコキシド類、水酸化アンモニウム塩である。酸および塩基の塩は限定されず、例えば、金属カルボン酸塩、金属炭酸塩である。金属カルボン酸塩、金属炭酸塩の金属は、形成される重合体(A)、樹脂組成物(C)または樹脂成形体の特性を阻害せず、かつこれらの廃棄時に環境汚染を招くことがない限り限定されず、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属;マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウムなどのアルカリ土類金属;亜鉛;ジルコニウム;銅;鉄である。金属カルボン酸塩を構成するカルボン酸は限定されず、例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、オクチル酸、ノナン酸、デカン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、トリデカン酸、ペンタデカン酸、ヘプタデカン酸、乳酸、リンゴ酸、クエン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、フマル酸、マレイン酸、アジピン酸である。金属錯体は限定されず、例えばその有機成分の例は、アセチルアセトンである。金属酸化物は限定されず、例えば、酸化亜鉛、酸化カルシウム、酸化マグネシウムである。
このような製造方法の側面から見た本発明の重合体(A)は、ビニルモノマーを含む単量体群の重合により形成された前駆重合体(B)であって、エステル基および/またはカルボキシル基とアミノ基および/またはアミン基とを側鎖として有する前駆重合体(B)を環化してなる重合体である。
[新規共重合体(B)]
前駆重合体(B)は、それ自体、新規な共重合体である。この新規な共重合体は、上述したように、以下の式(2)に示す単位Xおよび以下の式(3)に示す単位Yを構成単位として有する。
式(2)において、R1は、水素原子、炭素数1〜20の直鎖もしくは分岐を有するアルキル基、炭素数3〜18のシクロアルキル基、またはアリール基であり、R4は、水素原子、炭素数1〜20の直鎖もしくは分岐を有するアルキル基、炭素数3〜18のシクロアルキル基、またはアリール基であり、R5は、水素原子、または炭素数1〜20の直鎖もしくは分岐を有するアルキル基である。式(3)において、R3は水素原子またはメチル基であり、R6は、水素原子または炭素数1〜20の有機残基である。式(2)のR1、R4およびR5ならびに式(3)のR3およびR6は、その好ましい例および組み合わせの例を含め、上述したとおりである。
[樹脂組成物(C)]
本発明の樹脂組成物(C)は、重合体(A)を含む。樹脂組成物(C)は、典型的には熱可塑性樹脂組成物である。樹脂組成物(C)は、典型的には非水溶性の樹脂組成物である。樹脂組成物(C)は、非晶性の樹脂組成物でありうる。樹脂組成物(C)は2種以上の重合体(A)を含みうる。
樹脂組成物(C)は重合体(A)に由来する様々な特性を示す。当該特性は、例えば熱的特性、光学的特性である。熱的特性は、例えばTgであり、樹脂組成物(C)のTgは重合体(A)に由来して高くなる。樹脂組成物(C)のTgは、例えば110℃以上であり、重合体(A)の種類および含有率によっては、115℃以上、さらには120℃以上の値をとりうる。
光学的特性は、例えば複屈折特性であり、樹脂組成物(C)は重合体(A)に由来して高い複屈折発現性(位相差発現性)を示す。位相差発現性は、例えば、応力光学係数Crの絶対値により評価できる。重合体(A)の種類および含有率によっては樹脂組成物(C)は正の固有複屈折を示し、このとき樹脂組成物(C)によって、例えば正の位相差フィルムを形成できる。なお、樹脂組成物(C)としての固有複屈折は、重合体(A)だけではなく、樹脂組成物(C)が含む他の重合体が示す固有複屈折との兼ね合いにより定まる。
樹脂組成物(C)は、重合体(A)に由来するその他の種々の特性を有しうる。これらの特性に基づき、樹脂組成物(C)は光学部材をはじめとして、上述した重合体(A)の用途と同様の用途に使用できる。
樹脂組成物(C)は重合体(A)以外の他の重合体を含んでいてもよい。光学部材に樹脂組成物(C)を用いる場合、光学的透明性を確保するために、他の重合体は重合体(A)と相溶することが好ましい。
当該他の重合体は、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン重合体、ポリ(4−メチル−1−ペンテン)などのオレフィン系重合体;塩化ビニル、塩素化ビニル樹脂などの含ハロゲン系重合体;ポリメタクリル酸メチルなどのアクリル重合体;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステル;ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610などのポリアミド;ポリアセタール;ポリカーボネート;ポリフェニレンオキシド;ポリフェニレンスルフィド;ポリエーテルエーテルケトン;ポリサルホン;ポリエーテルサルホン;ポリオキシペンジレン;ポリアミドイミド;ゴム質重合体である。樹脂組成物(C)は、2種以上のこれら重合体を含みうる。
樹脂組成物(C)における重合体(A)の含有率は、通常、50質量%以上であり、70質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましい。樹脂組成物(C)は、重合体として重合体(A)のみを含んでいてもよい。
樹脂組成物(C)は、重合体以外の材料、例えば添加剤、を含むことができる。添加剤は、例えば、酸化防止剤、耐光安定剤、耐候安定剤、熱安定剤などの安定剤;位相差上昇剤、位相差低減剤、位相差安定剤などの位相差調整剤;ガラス繊維、炭素繊維などの補強材;紫外線吸収剤;近赤外線吸収剤;トリス(ジブロモプロピル)ホスフェート、トリアリルホスフェート、酸化アンチモンなどの難燃剤;アニオン系、カチオン系、ノニオン系の界面活性剤を含む帯電防止剤;無機顔料、有機顔料、染料などの着色剤;有機フィラー、無機フィラー、樹脂改質剤、可塑剤、滑剤である。樹脂組成物(C)における添加剤の含有率は、好ましくは7質量%未満、より好ましくは2質量%以下、さらに好ましくは1質量%以下である。
樹脂組成物(C)の形成方法は特に限定されない。重合体(A)からなる樹脂組成物(C)であれば、重合体(A)をそのまま樹脂組成物(C)として使用すればよいし、樹脂組成物(C)が上記他の重合体および/または添加剤を含む場合は、重合体(A)と、上記他の重合体および/または添加剤とを公知の混合方法で混合して形成できる。混合は、例えば、オムニミキサーなどの混合機でプレブレンドした後、得られた混合物を混練して実施できる。混練機は特に限定されず、例えば、単軸押出機、二軸押出機などの押出機や加圧ニーダーなど、公知の混練機を使用できる。
[樹脂成形体]
本発明の樹脂成形体は、重合体(A)を含む。本発明の樹脂成形体は、重合体(A)を含む樹脂組成物(C)から構成されうる。樹脂成形体の用途は限定されず、重合体(A)の特性、ならびに樹脂組成物(C)が含む他の重合体および/または添加剤に由来して得られる特性に応じて選択できる。本発明の樹脂成形体は、例えば、光学用途に使用する光学部材である。
光学部材は、例えば、レンズ、プリズム、光ファイバー、光学フィルムである。光学フィルムは、例えば、各種の光ディスク(VD、CD、DVD、MD、LDなど)の基板の保護フィルム、液晶表示装置(LCD)などの画像表示装置が備える位相差フィルムおよび偏光子保護フィルム、ならびに視野角補償フィルム、光拡散フィルム、反射フィルム、反射防止フィルム、防眩フィルム、輝度向上フィルム、タッチパネル用導電フィルムである。
本発明の樹脂成形体は、重合体(A)の高いTgに由来する耐熱性を有しうる。このため、本発明の樹脂成形体の用途について選択の自由度は高く、本発明の樹脂成形体の使用により様々な効果が得られる。例えば、光学フィルムである本発明の樹脂成形体の使用により、LCDなどの画像表示装置の設計の自由度が向上する。
本発明の樹脂成形体は、高い光学的透明性を有しうる。例えば、JIS K7361の規定に準拠して求めた全光線透過率にして、85%以上、90%以上、さらには91%以上の樹脂成形体、典型的にはフィルム、とすることが可能である。
本発明の樹脂成形体は、表面の低いヘイズを有しうる。例えば、JIS K7136の規定に準拠して求めたヘイズにして、5%以下、3%以下、さらには2%以下のヘイズを有する樹脂成形体、典型的にはフィルム、とすることが可能である。
本発明の樹脂成形体は、位相差フィルムでありうる。位相差フィルムは、例えば、厚さ方向の位相差Rthが正である正の位相差フィルムである。位相差フィルムは、例えば、λ/4板、楕円偏光板でありうる。
本発明の樹脂成形体は、他の部材と組み合わせることができる。例えば、光学フィルムである本発明の樹脂成形体を、他の光学部材と組み合わせてもよい。
本発明の樹脂成形体の表面には、必要に応じて各種の機能性コーティング層が形成されていてもよい。機能性コーティング層は、例えば、帯電防止層、粘接着剤層、接着層、易接着層、防眩(ノングレア)層、光触媒層などの防汚層、反射防止層、ハードコート層、紫外線遮蔽層、熱線遮蔽層、電磁波遮蔽層、ガスバリヤー層である。
本発明の樹脂成形体のその他の用途は、例えば、上述した重合体(A)の用途と同様の用途である。
本発明の樹脂成形体の形成方法は特に限定されない。溶融押出法、キャスト法、プレス成形法などの公知の成形手法により、重合体(A)または樹脂組成物(C)を成形して、本発明の樹脂成形体を形成することができる。必要に応じて、成形手法と公知の他の手法、例えば延伸手法、とを組み合わせてもよい。位相差フィルムを得るためには、樹脂組成物を成形して得たフィルム(原フィルム)の延伸が必要である。
本発明の樹脂成形体を備える製品は特に限定されず、例えば、画像表示装置である。画像表示装置は、例えば、光学フィルムである本発明の樹脂成形体を備える。画像表示装置は特に限定されず、例えば、反射型、透過型、半透過型のLCD;TN型、STN型、OCB型、HAN型、VA型、IPS型などの各種の駆動方式のLCD;エレクトロルミネッセンス(EL)ディスプレイ;プラズマディスプレイ(PD);電界放出ディスプレイ(FED:Field Emission Display)である。
[新規モノマー(D)]
上述したビニルモノマーAのうち、以下の式(4)に示すモノマーは新規モノマーである。
式(4)のR4およびR5は、その好ましい例および組み合わせの例を含め、式(7)のR4およびR5と同じである。R4がメチル基であり、R5が水素原子であるモノマー(D)の例を、以下の式(9)に示す。
式(9)に示すモノマーは、α−(アミノメチル)アクリル酸メチルの誘導体であるα−((N−i−プロピル)アミノメチル)アクリル酸メチルである。式(9)に示すα−((N−i−プロピル)アミノメチル)アクリル酸メチルの形成方法の一例を実施例に示す。式(4)に示すモノマーも、この形成方法と同様にして形成できる。
式(4)に示すモノマーの用途は限定されない。用途の一例は、重合体(A)の前駆体である前駆重合体(B)の形成である。他の用途として、式(4)に示すモノマーが有するビニル基に由来する重合性、エステル基(カルボキシルエステル基)に由来する極性および/または反応性、アミン基に由来する極性および/または反応性を利用した用途が考えられる。式(4)に示すモノマー、特に式(9)に示すモノマーを用いて前駆重合体(B)を形成した場合、換言すれば、前駆重合体(B)が式(4)に示すモノマー、特に式(9)に示すモノマーに由来する構成単位を有する場合、前駆重合体(B)における上述の環化反応をとりわけ効率よく進行させることができる。この一つの理由として、前駆重合体(B)から重合体(A)を形成する環化反応に前駆重合体(B)の分子構造に基づく立体的な制限がある一方で、式(4)に示すモノマーのアミン基にi−プロピル基が結合していることによってこの制限の影響を受けにくくなることが考えられる。
以下、実施例により、本発明をさらに詳細に説明する。本発明は、以下に示す実施例に限定されない。
最初に、本実施例において作製した重合体の評価方法を示す。
[構成単位の含有率]
作製した前駆重合体(B)におけるα−アミノメチルアクリル酸メチル誘導体単位の含有率は、共重合体(B)に対して1H−NMR測定を行い、得られた1H−NMRプロファイルの面積比から求めた。1H−NMR測定には、核磁気共鳴分光計(BRUKER製、AV300M)を用い、測定溶媒には重クロロホルム(和光純薬製)を用いた。
[ガラス転移温度(Tg)]
作製した重合体(前駆重合体を含む)のTgは、JIS K7121の規定に準拠して求めた。具体的には、示差走査熱量計(リガク製、DSC−8230)を用い、窒素ガス雰囲気下、約10mgのサンプルを常温から300℃まで昇温(昇温速度20℃/分)して得られたDSC曲線から、始点法により評価した。リファレンスには、α−アルミナを用いた。
[重量平均分子量]
前駆重合体(B)および作製したδ−ラクタム構造含有重合体(A)の重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用い、標準ポリスチレン換算にて、以下の測定条件により求めた。
測定システム:東ソー社製「GPCシステムHLC−8220」
展開溶媒:N,N-ジメチルホルアミド(和光純薬工業製、特級)
溶媒流量:1mL/分
標準試料:TSK標準ポリスチレン(東ソー社製「PS−オリゴマーキット」)
測定側カラム構成:ガードカラム(東ソー社製「TSK guardcolumn ALPHA」)、分離カラム(東ソー社製「TSK Gel ALPHA−5000」、「TSK Gel ALPHA−2500」)、2本直列接続
(実施例1)
実施例1では、モノマー(D)として、上記式(9)に示すα−((N−i−プロピル)アミノメチル)アクリル酸メチルを合成した。
最初に、内容積100mLの3つ口フラスコに滴下漏斗および冷却管を取り付け、これらの内部を窒素フローした。そこに、イソプロピルアミン6.98g(120mmol)およびトルエン20mLを加え、全体を氷浴した。次に、滴下漏斗から、α−(メトキシメチル)アクリル酸メチル4.75g(30mmol)およびトルエン30mLの混合物を、フラスコ内の内温を確認しながら2時間程度かけてフラスコ内に滴下し、滴下完了後、フラスコの内容物を室温で3時間撹拌した。
上記3時間の撹拌後、フラスコに水を加えてクエンチした後、酢酸エチルにより分液した。分液した有機層を硫酸ナトリウムにより乾燥した後、溶媒を留去して、やや黄色味がかかった液体を得た。次に、得られた液体を単蒸留(温度42℃、圧力0.1kPa)して、α−((N−i−プロピル)アミノメチル)アクリル酸メチルを収率50%で得た。得られたモノマーに対する1H−NMR測定の結果を図1に示す。図1に示すNMRプロファイルにおける化学シフト1−1.1ppmのピークはi−プロピル基のメチル基に、1.3−1.5ppmのピークは窒素に直接結合した水素に、2.7−2.9ppmのピークはi−プロピル基のメチン基に、3.5ppmのピークはアミノメチル基のメチレン基に、3.8ppmのピークはメチルエステル基のメチル基に、5.7ppmおよび6.2ppmのピークはビニル基の水素に、それぞれ対応している。
(実施例2−1)
実施例2−1では、前駆重合体(B)である共重合体を作製した。
内容積100mLの耐圧チューブ内に、実施例1で作製したα−((N−i−プロピル)アミノメチル)アクリル酸メチル0.4g(2.5mmol)と、MMA1.6g(16mmol)とを投入した後、開始剤として4mgのAIBN、および溶媒として1.3gのトルエンをさらに投入した。次に、チューブ内を2分間窒素バブリングした後、チューブを密閉して65℃のオイルバスに8時間浸漬させた。次に、チューブの内容物をクロロホルムに溶解させ、さらにヘキサンで再沈殿させた後、溶媒を除去した。このようにしてα−((N−i−プロピル)アミノメチル)アクリル酸メチル単量体とMMA単量体との共重合を進行させ、白色の固体である両者の共重合体(B−1)を得た。前駆重合体(B−1)におけるα−((N−i−プロピル)アミノメチル)アクリル酸メチル単位の含有率を1H−NMRにより評価したところ、10モル%であった。また、前駆重合体(B−1)の重量平均分子量は5.0万であった。
(実施例2−2)
耐圧チューブに仕込むモノマーの量をα−((N−i−プロピル)アミノメチル)アクリル酸メチル0.4g(2.5mmol)およびMMA3.6g(36mmol)とし、開始剤であるAIBNの量を8mg、溶媒であるトルエンの量を2.7gとした以外は、実施例2−1と同様にして、白色の固体である、α−((N−i−プロピル)アミノメチル)アクリル酸メチルおよびMMAの共重合体(B−2)を得た。前駆重合体(B−2)におけるα−((N−i−プロピル)アミノメチル)アクリル酸メチル単位の含有率を1H−NMRにより評価したところ、5モル%であった。また、前駆重合体(B−2)の重量平均分子量は12.3万であった。
(実施例2−3)
耐圧チューブに仕込むモノマーをα−((N−i−プロピル)アミノメチル)アクリル酸メチルの代わりにα−((N−t−ブチル)アミノメチル)アクリル酸メチルとした以外は実施例2−2と同様にして、白色の固体である、α−((N−t−ブチル)アミノメチル)アクリル酸メチルおよびMMAの共重合体(B−3)を得た。前駆重合体(B−3)におけるα−((N−t−ブチル)アミノメチル)アクリル酸メチル単位の含有率を1H−NMRにより評価したところ、8モル%であった。また、前駆重合体(B−3)の重量平均分子量は4.1万であった。
(実施例2−4)
耐圧チューブに仕込むモノマーをα−((N−i−プロピル)アミノメチル)アクリル酸メチルの代わりにα−((N−シクロヘキシル)アミノメチル)アクリル酸メチルとした以外は実施例2−1と同様にして、白色の固体である、α−((N−シクロヘキシル)アミノメチル)アクリル酸メチルおよびMMAの共重合体(B−4)を得た。前駆重合体(B−4)におけるα−((N−シクロヘキシル)アミノメチル)アクリル酸メチル単位の含有率を1H−NMRにより評価したところ、15モル%であった。また、前駆重合体(B−4)の重量平均分子量は2.2万であった。
(実施例2−5)
耐圧チューブに仕込むモノマーをα−((N−i−プロピル)アミノメチル)アクリル酸メチルの代わりにα−((N−フェニル)アミノメチル)アクリル酸メチルとした以外は実施例2−1と同様にして、白色の固体である、α−((N−フェニル)アミノメチル)アクリル酸メチルおよびMMAの共重合体(B−5)を得た。前駆重合体(B−5)におけるα−((N−フェニル)アミノメチル)アクリル酸メチル単位の含有率を1H−NMRにより評価したところ、14モル%であった。また、前駆重合体(B−5)の重量平均分子量は3.3万であった。
(実施例3−1)
実施例3−1では、実施例2−1で作製した前駆重合体(B−1)に対して環化反応を進行させて、主鎖にδ−ラクタム構造を有する重合体(A−1)を作製した。具体的に環化反応は、前駆重合体(B−1)を200℃に加熱したオーブンに1時間入れることで進行させた。
このようにして作製した重合体(A−1)の主鎖のδ−ラクタム構造は、1H−NMR測定により確認できた。重合体(A−1)のTgは120℃であった。
(実施例3−2)
実施例3−2では、実施例3−1と同様に、実施例2−1で作製した前駆重合体(B−1)に対して環化反応を進行させて、主鎖にδ−ラクタム構造を有する重合体(A−1)を作製した。ただし、環化反応は、前駆重合体(B−1)をトルエン4.5gに溶解させ、これにパラトルエンスルホン酸2.5mgを加えた後、100℃で1時間加熱することで進行させた。作製した重合体(A−1)のTgは120℃であった。
(実施例3−3)
前駆重合体(B−1)の代わりに実施例2−2で作製した前駆重合体(B−2)を用いた以外は実施例3−1と同様に環化反応を進行させて、主鎖にδ−ラクタム構造を有する重合体(A−2)を作製した。このようにして作製した重合体(A−2)の主鎖のδ−ラクタム構造は、実施例3−1と同様にして確認できた。
重合体(A−2)のTgは115℃であった。