従来から、金属粉末を製造する方法として、アトマイズ法がある。このアトマイズ法には、溶融金属の流れに高圧の水ジェットを噴射して金属粉末を得る水アトマイズ法、水ジェットに代えて不活性ガスを噴射するガスアトマイズ法がある。
水アトマイズ法では、ノズルより噴射した水ジェットで溶融金属の流れを分断するとともに、水ジェットで分断された溶融金属(粉末状の金属(金属粉末))の冷却も行ってアトマイズ金属粉末を得ている。一方、ガスアトマイズ法では、ノズルより噴射した不活性ガスにより溶融金属の流れを分断したのち、通常、分断された溶融金属(粉末状の金属)を、アトマイズ装置の下に備えられた水槽、あるいは流水のドラム中に落下させて、粉末状の金属(金属粉末)の冷却を行ってアトマイズ金属粉末を得ている。
近年、省エネルギーの観点から、例えば電気自動車やハイブリッド車に使用されるモーターコアの低鉄損化、小型化が要望されている。従来、モーターコアは、電磁鋼板を積層させて製作されてきたが、最近では、形状設計の自由度が高い金属粉末(電磁鉄粉)を用いて圧縮成形して作製したモーターコア(圧粉磁芯)が注目されている。このようなモーターコアの低鉄損化ためには、使用する素材である金属粉末の低鉄損化が必要となる。低鉄損の金属粉末とするには、金属粉末を非晶質化(アモルファス化)することが有効である。しかし、アトマイズ法で、非晶質化した金属粉末を得るためには、非晶質化しやすい合金組成としたうえで、溶融状態を含む高温状態にある金属粉末を急冷して、結晶化を防ぐ必要がある。
なお、金属粉末を製造するうえでは、水アトマイズ法は、ガスアトマイズ法に比べて、生産性が高く、かつ安価な製造方法であるといわれている。さらに、水アトマイズ法で製造された金属粉末は不定形であり、ガスアトマイズ法で製造された球形な金属粉末に比べて圧縮成形時に粉末同士が絡みやすく、圧縮成形後の強度が高くなるという利点がある。しかし、水アトマイズ法では、高温の溶融金属に水ジェットを噴射させる際に、高温の溶融金属に水が接すると、一瞬のうちに蒸発して溶融状態を含む金属粉末(液滴)の表面に蒸気膜を形成する。この表面に形成された蒸気膜により、液滴と冷却水との直接接触が妨げられ、いわゆる膜沸騰状態となりやすい。そのため、水アトマイズ法では、溶融状態を含む金属粉末の冷却速度を高めることが難しくなるという問題があった。
最近では、例えば、非特許文献1に記載されているように、優れた磁気特性を有するナノ結晶軟磁性合金が開発されている。このナノ結晶軟磁性合金は、急冷して作製された非晶質合金に熱処理を施して、結晶粒を10nm程度までに微細化し、優れた磁気特性を実現できるといわれている。代表的なFe基ナノ結晶軟磁性合金としては、例えば、Fe−Si−B非晶質合金組成にNbとCuを複合添加し、優れた軟磁気特性を示すFe−Cu―Nb−Si−B合金が、また、Fe−M非晶質合金にBを添加し、高い飽和磁束密度と優れた軟磁気特性を同時に示す、Fe−M−B合金が知られている。
また、非特許文献2には、軟磁性ヘテロアモルファス合金が記載されている。これらの合金は、Fe−Si−B系組成にPとCuを添加した合金で、アトマイズままで、微細なα−Fe結晶をアモルファス母相中に分散させたナノヘテロ構造を有し、高い飽和磁束密度と優れた軟磁性とを示すとしている。しかし、高い飽和磁束密度を得るためには、Fe比率(FeおよびFeの一部を置換するNi、Coを含む)を高くすることが望ましいがFe、Ni、Co量の増加とともに、非晶質化のために必要な冷却速度も大きくなるといわれている。
従来から、また最近の状況に鑑みて、非晶質化したアトマイズ金属粉末を製造するための方法がいくつか提案されている。
例えば、特許文献1には、非晶質合金粉末の製造方法が記載されている。特許文献1に記載された技術では、合金の溶湯を細孔から流下して高速液体で吹きつけ、溶湯を粉化するとともに急冷凝固して非晶質合金粉末とするにあたり、溶湯を粉化する箇所の周囲に吸引管を配置し20mmH2O〜200mmH2Oの圧力差で吸引するとしている。これにより、完全に非晶質化し、しかも不規則形状化した非晶質合金粉末を得ることができるとしている。
また、特許文献2には、非晶質合金粉末の製造方法が記載されている。特許文献2に記載された技術では、合金の溶湯を細孔から流下させる工程と、流下した溶湯に高速液体を吹きつけて、溶湯を粉化するとともに急冷凝固する工程と、溶湯を粉化する箇所の周囲に吸引管を配置し20mmH2O〜200mmH2Oの圧力差で吸引する工程と、該吸引管の下方に粉末受け体を配置して、凝固した非晶質粉体を、一旦この粉体受け体に当てる工程と、該粉体受け体に当てた後、非晶質粉体を液体を入れたタンクに落下させる工程とを、具備するとしている。この吸引管の減圧作用で高速液体が合金粉末に、より強く作用して、粉末を不規則化するとともに、粉末周囲に形成される蒸気膜を破壊して、粉末の冷却速度を著しく上昇させ、粉体の全てが不規則形状で非晶質単相からなり、圧粉成形可能な非晶質合金粉体が得られるとしている。
また、特許文献3には、非晶質合金粉末の製造方法が記載されている。特許文献3に記載された技術では、合金の溶湯を細孔から流下して高速液体を吹きつけ、溶湯を粉化するとともに急冷凝固させて非晶質合金粉末とするにあたり、溶湯を粉化する個所の直下に上部を円錐状とした冷却ブロックを配置して粉化後の粒子をこの冷却ブロックに当てるとしている。これにより、粉化した合金粉末の冷却速度を高めるとともに、粉末周囲に発生する蒸気膜を破壊して粉末の冷却速度を著しく上昇できるとしている。
また、特許文献4には、金属粉末製造装置が記載されている。特許文献4に記載された金属粉末製造装置では、溶融金属を供給する供給部と、溶融金属が通過可能な流路と該流路に液体を噴射するオリフィスとを備えた液体噴射部とを備え、液体噴射部の下方に、分散液の進行方向を強制的に変化させる進行方向変更手段を設け、オリフィスから噴射された液体に溶融金属を接触させて、溶融金属を微細な多数の液滴に分裂させ、該液滴を液体が分散した状態の分散液として移送するとともに、分散液中の液滴を冷却固化させてアモルファス金属粉末を製造するとしている。特許文献4に記載された技術で使用する進行方向変更手段としては、第2の液体を噴射するノズルを有し、ノズルから分散液に向けて、第2の液体を噴射して衝突させる手段、あるいは、長手方向の途中が円弧状に湾曲した曲部を有する筒状体とし、分散液の進行方向を曲部の内壁面に沿って強制的に変化させる手段、等が例示され、これにより、粉末の周囲に形成される蒸気層を分離することができ、多数の粉末をむらなく冷却できるとしている。なお、特許文献4には、実施例として、粒径:3μm程度の微細な非晶質金属粉末が製造できることが示されている。しかし、それより粗大な粒径の金属粉末では、粒表面から粒中心への伝熱距離が大きくなり、特許文献4に記載された技術では急冷が困難となり、非晶質化率が低下している。
また、特許文献5には、水アトマイズ装置が記載されている。特許文献5に記載された水アトマイズ装置では、第一のノズルとその下方に設けられ、第一のノズルから噴出する水を下方へ吸引する吸引管と、第一のノズルの下方に第二のノズルを設けて、連続して流下する金属溶湯に高速の流水を連続して衝突させて、金属粉末を得るとしている。これによれば、第二のノズルからの噴水により、第一のノズルの下側の圧力が調整され、雰囲気気体の乱れが抑えられ、第一のノズルの上から下への雰囲気気体の流れが安定し、均一な粒径の金属粉末が得られるとしている。また、特許文献6には、特許文献5に記載の水アトマイズ装置に、さらに、タンク内の上側と下側とを連通する連通回路を設け、この連通回路を通して流入する気体の流れを整える整流手段を設けるとしている。これにより、より均一な粒径の金属粉末が得られるとしている。しかし、特許文献5、6に記載された技術では、第一と第二のノズルを用いて、高速の流水を流下する溶融金属流に衝突させているが、蒸気膜の破壊や、冷却速度の向上までの言及はない。
また、高い飽和磁束密度を有し、優れた軟磁性特性を有するFe基ナノ結晶合金を得るための出発原料となる合金組成の例として、例えば特許文献7には、主相として非晶質相を有している組成式FeaBbSicPxCyCuzで、a:79〜86at%、b:5〜13at%、c:0〜8at%、x:1〜8at%、y:0〜4at%、z:0.4〜1.4at%である合金組成物が記載されている。この合金組成物は、主相としてアモルファス相を有し、非晶質と該非晶質中に存在する初期微結晶とからなるナノヘテロ構造を呈するとしている。また、これら合金組成物に熱処理を施すと、bccFe相からなるナノ結晶を析出させることができ、飽和磁束密度が高い、Fe基ナノ結晶合金粉末とすることができるとしている。
また、特許文献8には、アモルファス相を主相とする組成式Fe(100−X−Y−Z)BXPYCuZの合金組成物で、X、Y、Zが、100−X−Y−Z:79〜86at%、X:4〜13at%、Y:1〜10at%、Z:0.5〜1.5at%を満たす合金組成物が記載されている。そして、この合金組成物では、Feの一部をCo、Niのうちの1種以上の元素で置換してもよいとしている。Fe元素は磁性を担う元素であり、飽和磁束密度向上にはFe元素の割合を高めることが好ましいとしている。この合金組成物は、主相としてアモルファス相を有し、非晶質と該非晶質中に存在する初期微結晶とからなるナノヘテロ構造を呈する合金粉末とすることもできるとしている。そして、これら合金組成物に熱処理を施すと、bccFe相からなるナノ結晶を析出させることができ、飽和磁束密度が高い、Fe基ナノ結晶合金粉末とすることができるとしている。
なお、粉末とはなっていないが、アモルファス合金組成として、例えば特許文献9には、アモルファス合金組成FeaBbSicPxCuyであって、a:73〜85at%、b:9.65〜22at%、b+c:9.65〜24.75at%、x:0.25〜5at%、y:0〜0.35at%、y/x:0超え0.5である合金組成物が記載されている。
また、粉末とはなっていないが、アモルファス合金組成として、特許文献10には、アモルファス合金組成FeaBbSicPxCuyであって、a:73〜85at%、b:9.65〜22at%、b+c:9.65〜24.75at%、x:0.25〜5at%、y:0〜0.35at%、およびy/x:0〜0.5at%である薄帯形状の合金組成物が記載されている。
特許文献1、2に記載された技術では、溶湯を粉化する箇所の周囲に吸引管を配置して、20mmH2O〜200mmH2Oの圧力差で吸引することにより、金属粒子の不規則化と、金属粒子周囲に形成された蒸気膜を除去できるとしている。しかしながら、特許文献1、2に記載された技術では、高温の金属粒子のまわりに水分が存在し、その水分もまた高温の金属粒子とともに吸引され、金属粒子が保有している熱により水分が気化して再び、金属粒子表面に蒸気膜が形成されるため、蒸気膜の除去が難しくなるという問題がある。
また、特許文献3に記載された技術では、粉化後の粒子の温度が高いと、周囲にある冷却水が気化して再び粒子表面に蒸気膜を形成するため、蒸気膜の除去が十分であるとはいえないという問題がある。一方、粉化後の粒子の温度が低すぎると、冷却ブロックに衝突した際に、凝固し結晶化が進行しやすいという問題もある。
また、特許文献4に記載された技術では、進行方向変更手段で強制的に進行方向を変化させられた分散液の蒸気膜は除去できるが、分散液の温度がなお高い場合には、周囲に存在する水分により、再び蒸気膜が形成される可能性がある。一方、分散液の温度が低い場合には、進行方向変更手段からの第2の液体(水)により、凝固が進行し結晶化が進むという問題がある。
また、特許文献5、6に記載された技術では、単に雰囲気気体の流れを均一にすることを目的としているにすぎず、蒸気膜の除去や冷却速度の向上についてまでの言及はまったくない。
このように、上記した水アトマイズ法に関する従来技術では、水アトマイズ法で金属粉末表面に形成される蒸気膜の除去が十分であるとは言い難く、したがって、上記した従来技術によっては、水アトマイズ金属粒子の完全非晶質化(アモルファス化)に必要な急速な冷却を安定して確保することが難しいという問題が依然として残されている。
そこで、本発明は、水アトマイズ金属粉末の製造において、液滴(粉子)表面に形成された蒸気膜を除去して、高い非晶質化率を達成できる、水アトマイズ金属粉末の製造方法を提供することを目的とする。さらに本発明は、従来では非晶質化が困難であった、Fe原子(Fe原子の一部をNi、Coで置換したものを含む)の比率を高めたFe基非晶質合金(Fe基軟磁性合金)において、例えば平均粒径:5μm以上の比較的大きな粒径の金属粉末であっても、高い非晶質化率を有する金属粉末(Fe基軟磁性合金粉末)とすることができる、水アトマイズ金属粉末の製造方法を提供することをも目的とする。
なお、ここでいう「高い非晶質化率」を有する金属粉末とは、非晶質化率が90%以上である金属粉末をいうものとする。
なお、「非晶質化率」は、X線回折法により、アモルファス(非晶質)からのハローピークおよび結晶からの回折ピークを測定し、WPPD法により非晶質化率を算出した。ここでいう「WPPD法」とは、Whole-powder-pattern decomposition methodの略である。なお、WPPD法については、虎谷秀穂:日本結晶学会誌, vol.30(1988), No.4, P253〜258に詳しい。
本発明者らは、上記した目的を達成するために、水アトマイズ法における分断された溶融金属の液滴表面に形成される蒸気膜の除去方法について、鋭意研究した。その結果、流下する溶融金属流に水ジェット(溶融金属流分断用噴射水)を噴射して溶融金属流を分断する冷却(一次冷却)のみでは、形成される蒸気膜により分断された溶融金属の液滴の冷却が徐冷となり、非晶質化に必要な急速冷却を実現できないことから、溶融金属流を分断する冷却(一次冷却)に加えて、溶融金属流の分断のための噴射水(溶融金属流分断用噴射水)とは別に、分断された溶融金属の液滴に、新らたに温度調整した二次冷却噴射水を用いた水冷却(二次冷却)を施す必要があることに思い至った。
そして、その水冷却は、溶融金属流の分断のための噴射水(溶融金属流分断用噴射水)の温度(水温)より低い温度に調整した水を使用して行うことが、液滴表面に形成された蒸気膜を除去し、非晶質化率の向上に、極めて有効であることを見出した。
まず、本発明者らが行った基礎的実験結果(1)について説明する。
図3に示す水アトマイズ金属粉製造装置を利用して金属粉末の製造実験を行った。at%で、Fe:83.3%、Si:4%、B:8%、P:4%、Cu:0.7%の鉄基軟磁性合金組成となるように用意した原料粉を配合し、高周波溶解炉2に装入し、約1620℃で溶解した。溶湯(溶融金属)を溶解炉2中で、約1570℃まで徐冷したのち、溶湯(溶融金属)1をタンディッシュ3に装入した。なお、チャンバー9内は、あらかじめ窒素ガス雰囲気としておいた。
そして、タンディッシュ3から溶湯ガイドノズル4を介して溶融金属1を、チャンバー9内に溶融金属流8として流下させた。そして、流下する溶融金属流8に、ノズルヘッダー5に配設された水冷ノズル6を介し溶融金属流分断用噴射水(一次冷却噴射水)7を噴射して、溶融金属流8を分断し、多数の溶融金属の液滴8aとした。なお、溶融金属の流量は約50kg/minとした。
水冷ノズル6は円環ノズルとし、円錐状の溶融金属流分断用噴射水(一次冷却噴射水)7を噴射し、位置Aで溶融金属流8と接触させて、多数の溶融金属の液滴8aとした。なお、溶融金属流分断用噴射水(一次冷却噴射水)の噴射圧は60MPa、水量は300L/minとし、水温を5〜88℃の範囲の各温度に調整した。
そして、分断位置(一次冷却噴射水と溶融金属流との接触位置A)から180mm離れた位置(位置B)で、分断された溶融金属の液滴8aに、二次冷却噴射水20がかかり始めるように二次冷却を開始して、冷却し、凝固させて、水アトマイズ金属粉末とした。二次冷却は、水冷ノズルからなる複数段の二次冷却手段21〜2iうちの、分断位置(位置A)から180mm離なれた位置(位置B)に設置された二次冷却手段(図3では22)から二次冷却噴射水用バルブ(図3では22a)を開放して二次冷却噴射水20を噴射する水冷却とした。なお、使用した一次冷却噴射水の噴射圧(60MPa)で分断された溶融金属の液滴8aは、分断されてから二次冷却を開始されるまでの時間は0.006sとなる。この分断されてから二次冷却を開始されるまでの時間は、予め分断水の飛翔速度を高速度カメラで撮影して算出した。なお、二次冷却噴射水の噴射圧は20MPa、水量は900L/minとし、水温を4〜75℃の範囲の各温度に調整した。
なお、溶融金属8を流下するまえに、高圧ポンプ17を作動させて、冷却水をノズルヘッダー5に供給し、水冷ノズル6から溶融金属流分断用噴射水(一次冷却噴射水)7を噴射状態としておいた。また、二次冷却噴射水20を噴射する水冷却にあたっては、分断された溶融金属の液滴8aが落下する方向に、適正な間隔で配設された複数段の二次冷却手段21〜2iのうちから、二次冷却開始位置に適応する位置の二次冷却手段(図3では22)を選択し、該二次冷却手段2iaのバルブ(二次冷却噴射水用バルブ、図3では22a)を予め開放し、溶融金属を流下するまえに、高圧ポンプ37を作動させて、二次冷却噴射水を噴射状態としておいた。
得られた水アトマイズ金属粉末を、脱水、乾燥したのち、ゴミ(異物)を除去し洗浄した。得られた金属粉末について、X線回折法で、アモルファスからのハローピーク、結晶からの回折ピークを測定し、WPPD法により非晶質化率を算出した。非晶質化率が95%以上である場合を「◎」、90%以上95%未満である場合を「○」とし、それ以外(90%未満)を「×」として評価した。得られた結果を、溶融金属流分断用噴射水7の水温と二次冷却噴射水20の水温との関係で図1に示す。
図1から、二次冷却噴射水20の水温を、溶融金属流分断用噴射水7の水温より低い温度に調整して、二次冷却を開始することにより、水アトマイズ金属粉末の非晶質化率を高く維持できることがわかる。とくに、溶融金属流分断用噴射水の水温と二次冷却噴射水の水温との差を20℃以上に調整して二次冷却すると、安定して非晶質化率:95%以上を確保でき、非晶質化率の安定的向上につながることを見出した。
つぎに、本発明者らが行った基礎的実験結果(2)について説明する。
同様に、図3に示す水アトマイズ金属粉製造装置を利用して金属粉末の製造実験を行った。at%で、Fe:83%、Cu:1%、Nb:3%、B:13%の鉄基軟磁性合金組成となるように原料粉を用意した原料粉を配合し、高周波溶解炉2に装入し、約1580℃で溶解した。溶湯(溶融金属)を溶解炉中で、約1560℃まで徐冷したのち、溶湯(溶融金属)1をタンディッシュ3に装入した。なお、チャンバー9内は、あらかじめ窒素ガス雰囲気としておいた。
タンディッシュ3から溶湯ガイドノズル4を介して溶融金属1を、チャンバー9内に溶融金属流8として流下させた。そして、流下する溶融金属流8に、ノズルヘッダー5に配設された水冷ノズル6を介し溶融金属流分断用噴射水(一次冷却噴射水)7を噴射して、位置Aで溶融金属流8を分断し、多数の溶融金属の液滴8aとした。なお、溶融金属の流量は約20kg/minとした。
なお、水冷ノズル6は12台の水冷ノズルを組み合わせて、円錐状に近い溶融金属流分断用噴射水(一次冷却噴射水)7を、位置Aに噴射できるようにした。また、溶融金属流分断用噴射水(一次冷却噴射水)の噴射圧は80〜120MPa、水量はノズルの数を調整して100L/minとし、水温は40℃に調整した。
ついで、分断された溶融金属の液滴8aに、さらに分断位置(一次冷却噴射水と溶融金属流との接触位置)Aから、所定時間経過後の位置Bで、二次冷却噴射水20をそれぞれ噴射する水冷却(二次冷却)を開始させた。なお、所定時間は0〜0.04s間の時間とした。
二次冷却開始の所定時間は、二次冷却手段を、分断位置Aから液滴の落下方向に0mm位置から1000mm位置の間に、適正な間隔で複数段配設して選択して変化させた。そして、予め、溶融金属流分断用噴射水7の噴射圧を変化して噴射させ、その飛翔速度を高速カメラを用いて撮影して、溶融金属流分断用噴射水7の噴射圧と噴射水飛翔速度との関係を求めておいた。得られた関係から、所定の二次冷却開始時間となるように、溶融金属流分断用噴射水7の噴射圧を調整して、落下方向に設置された複数段の二次冷却手段21〜2iのうちから作動させる二次冷却手段を選定し、当該二次冷却手段で二次冷却を開始した。なお、上記した範囲に設置した複数段の二次冷却手段21〜2iでは、溶融金属流分断用噴射水7の噴射圧の調整により、溶融金属流分断から二次冷却開始までの時間を0〜0.04sの間で調整することを可能とした。
なお、二次冷却を開始する当該二次冷却手段のバルブ(二次冷却噴射水用バルブ、図3では22a)を予め開放し、溶融金属を流下するまえに、高圧ポンプ37を作動させて、二次冷却噴射水20を噴射状態としておいた。なお、二次冷却噴射水20は、噴射圧を120MPa、水量を500L/min、水温を10℃一定とした。
得られたアトマイズ金属粉末を、脱水、乾燥したのち、ゴミ(異物)を除去し洗浄した。得られた金属粉末について、X線回折法で、アモルファスからのハローピーク、結晶からの回折ピークを測定し、WPPD法により非晶質化率を算出した。
得られたアトマイズ金属粉末の非晶質化率と二次冷却噴射水による水冷却開始時間との関係で図2に示す。
図2から、二次冷却噴射水の冷却開始時間を0.001s超え0.02s以下とすることにより、非晶質化率:90%以上の高い非晶質化率を有する水アトマイズ金属粉末を安定して製造できるという知見が得られた。
本発明は、かかる知見に基づき、さらに検討を加えて完成されたものである。すなわち、本発明の要旨はつぎの通りである。
(1)流下する溶融金属流に、溶融金属流分断用噴射水を噴射し、該溶融金属流を分断して多数の溶融金属の液滴とし、冷却して水アトマイズ金属粉末とする水アトマイズ金属粉末の製造方法において、分断された前記溶融金属の液滴に、その落下途中で、前記溶融金属流分断用噴射水の温度より低い温度に調整された二次冷却噴射水を噴射する二次冷却を施すことを特徴とする水アトマイズ金属粉末の製造方法。
(2)(1)において、前記二次冷却噴射水の温度を、前記溶融金属流分断用噴射水の温度より20℃以上低い温度に調整することを特徴とする水アトマイズ金属粉末の製造方法。
(3)(1)または(2)において、前記二次冷却は、前記溶融金属流を分断した時を起点として、0.001s超え0.02s以下の範囲内に開始することを特徴とする水アトマイズ金属粉末の製造方法。
(4)(1)ないし(3)のいずれかにおいて、前記溶融金属流分断用噴射水の水量は、前記溶融金属流1kgに対し10L以下であることを特徴とする水アトマイズ金属粉末の製造方法。
(5)(1)ないし(4)のいずれかにおいて、前記溶融金属が、Fe基軟磁性合金組成またはFeの一部をNiおよび/またはCoで置換されたFe基軟磁性合金組成で、前記FeあるいはFe、Ni、Coの合計量であるFe系元素比率が82.5at%超え86at%未満であることを特徴とする水アトマイズ金属粉末の製造方法。
(6)(5)に記載された水アトマイズ金属粉末の製造方法で製造された水アトマイズ金属粉末に、さらに400〜500℃の範囲内の温度に加熱する熱処理を施すことを特徴とする水アトマイズ金属粉末の製造方法。
(7)(5)に記載の水アトマイズ金属粉末の製造方法で製造されてなり、平均粒径:5μm以上でかつ非晶質化率が90%以上である水アトマイズFe基軟磁性合金粉末。
(8)(6)に記載の水アトマイズ金属粉末の製造方法で製造されてなり、ナノ結晶構造を有する水アトマイズFe基軟磁性合金粉末。
本発明によれば、簡便な方法で、アモルファス金属粉末の製造に有利な急速冷却が可能となり、モーターコア(圧粉磁芯)の製造に有利な、高い非晶質化率を有する水アトマイズ金属粒末を容易に、しかも安定して製造でき、産業上格段の効果を奏する。
また、本発明によれば、従来では困難であった、Fe(Feの一部を置換したNi、Coを含む)比率を82.5at%を超えて高めた鉄基軟磁性合金においても、平均粒径が5μm超えの大きな粒径でも、高い非晶質化率を有する水アトマイズ鉄基軟磁性合金粉末を容易に、しかも安定して製造できるという効果もある。
本発明では、まず、原料である金属材料を溶解して、溶融金属とする。原材料として使用する金属材料としては、従来から鉄粉として使用されている純金属、合金、鋳鉄等がいずれも適用できる。例えば、純鉄、低合金鋼、ステンレス鋼などの鉄基合金、Ni、Cr等の非鉄金属、非鉄合金、あるいはアモルファス合金(非晶質合金)が例示できる。
なお、アモルファス合金(非晶質合金)としては、Fe、B、C、P、Si、Cu、Nb、Crを主構成元素とし、さらに、at%で1%以下程度であれば、Ti、Zr、Hf、Nb、Ta、Mo、W、Al、Mn、Ag、Zn、Sn、As、Sb、Bi、Y、N、O、S、H等の混入が許容される組成の合金が知られている。なお、Feの一部はNi、Coで置換が可能である。本発明においては、これらアモルファス合金(非晶質合金)がいずれも適用できる。
また、鉄基非晶質合金としては、Feを主体とした、例えば、Fe−B合金、Fe−Si−B合金、Fe−Cu−Nb−Si−B合金、Fe−Nb−B合金、Fe−Ni−B合金、Fe−B−P−Cu合金、Fe−B−P−Cu−Cr合金、Fe−Si−B−P−Cu合金等が例示できる。なお、上記した合金は、上記した元素以外の元素を不純物として含む場合があることは言うまでもない。
また、最近、注目され、高い飽和磁束蜜度が期待できる鉄基軟磁性合金もまた本発明を適用できる。とくにFe比率、あるいはFeの一部をNiおよび/またはCoで置換した場合のFe、Niおよび/またはCoの比率が、82.5at%超え86%未満である鉄基軟磁性合金も適用できる。
さらに具体的に、Fe−B合金としては、Fe83B17、Fe85B15が、Fe−Si−B合金としては、Fe79Si10B11、Fe77Si11B12が例示できる。また、Fe−B−P−Cu−Cr合金としては、Fe83.1B10P6Cu0.7Cr0.2が例示できる。
また、Fe−B−P−Cu合金としては、組成式Fe(100−X−Y−Z)BXPYCuZの合金組成で、X、Y、Zが、(100−X−Y−Z):82.5at%超え86at%未満、X:4〜13at%、Y:1〜10at%、Z:0.5〜1.5at%を満たし、あるいはさらに前記Feの一部をNi、Coのうちの1種以上の元素で置換してなる合金組成が、また、Fe−Si−B−P−Cu合金としては、組成式FeaBbSicPxCuyの合金組成で、a:82.5at%超え86 at%未満、b:5〜13at%、c:0〜8at%、x:1〜8at%、y:0超え〜5at%を満たし、あるいはさらにFeの一部をNi、Coのうちの1種以上の元素で置換してなる組成が例示できる。また、組成式FeaBbSicPxCyCuzの合金組成で、a:82.5at%超え86at%未満、b:5〜13at%、c:0〜8at%、x:1〜8at%、y:0超え〜5at%、z:0.4〜1.4を満たし、あるいはさらに前記Feの一部をNi、Coのうちの1種以上の元素で置換してなる組成も例示できる。なお、本発明では、上記したFe基非晶質合金で、Feの含有量(Feの一部を置換したNi、Coをも含め)の含有量が82.5at%を超えるような組成においても、十分に非晶質化することができる。
なお、使用する金属材料の溶解方法はとくに限定する必要はなく、電気炉、真空溶解炉等の、常用の溶解手段がいずれも適用できる。
溶解された溶融金属は、溶解手段からタンディッシュ等の溶融金属保持容器に移され、水アトマイズ金属粉製造装置内で、水アトマイズ金属粉とされる。本発明で使用する好ましい水アトマイズ金属粉製造装置の一例を図3に示す。
以下、本発明を、図3を利用して説明する。図3(a)は装置全体の構成を示し、図3(b)は水アトマイズ金属粉製造装置14の詳細を示す。
溶融金属1は、タンディッシュ等の溶融金属保持容器3から、溶湯ガイドノズル4を介して、チャンバー9内に、溶融金属流8として流下される。なお、チャンバー9内は、不活性ガスバルブ11を開けて不活性ガス雰囲気としておくことができる。なお、不活性ガスとしては、窒素ガス、アルゴンガスが例示できる。
流下された溶融金属流8に、ノズルヘッダー5に配設された水冷ノズル6を介し、溶融金属流分断用噴射水(水ジェット)7を噴射して、該溶融金属流8を分断し、多数の微細な溶融金属の液滴8aとする。水冷ノズル6は、溶融金属流8を分断させる溶融金属流分断用噴射水を噴射するための水冷ノズルで、所定の分断位置Aに噴射水を集中できるように下向きで円錐状に噴射水を噴射できる円環状ノズルとすることが好ましいが、これに限定する必要ない。円環状ノズルに代えて、溶融金属流8の全周で均一に噴射できるように、複数台、好ましくは8〜16台のノズルを組み合わせて、下向きで好ましくは略円錐状に、所定の分断位置Aに噴射水を集中できるように配設したノズルとしてもなんら問題はない。
なお、溶融金属流8と噴射水(水ジェット)7とが接触する位置Aは、溶湯ガイドノズル4から適正な距離離れた位置とすることが、溶融金属流8を熱放射と不活性ガスの冷却作用により融点近傍まで冷却させるという観点、および噴射水7の飛び水が溶湯ガイドノズル4に接触するのを防ぐという観点から好ましい。
本発明では、溶融金属流8を分断するために使用する溶融金属流分断用噴射水(水ジェット)7は、溶融金属流8を分断できる程度の噴射圧を有する噴射水であれば、その噴射圧、水温は特に限定されないが、分断された溶融金属の液滴を微細な液滴とするためには、噴射圧:1MPa以上好ましくは200MPa以下とすることが好ましい。噴射圧が高くなるほど、分断される溶融金属の液滴(金属粉末の平均粒径)は微細になる。なお、溶融金属流分断用噴射水(水ジェット)7の噴射圧は、分断された溶融金属の液滴の飛翔速度に影響する。なお、水温は、低温であるほうが好ましい。
なお、溶融金属流分断用噴射水7に用いられる水は、水アトマイズ金属粉製造装置14の外部に設けられた、冷却水タンク15(断熱構造)に、あらかじめ水を加熱、冷却することができる温度調節器16などの熱交換器で適正な水温の水として貯蔵しておくことが好ましい。なお、一般的な冷却水製造機では熱交換器内が凍結するために3〜4℃未満の冷却水を生成することが難しいため、氷製造機によって氷をタンク内に補給する機構を設けてもよい。さらに、冷却水タンク15には、噴射水7に用いられる冷却水を昇圧・送水する高圧ポンプ17、高圧ポンプからノズルヘッダー5に冷却水を供給する配管18が配設されることはいうまでもない。
本発明では、分断された溶融金属の液滴8aに、さらに、落下途中の所定の位置(位置B)で、二次冷却を開始する。二次冷却は、複数段の水冷ノズル(二次冷却手段)21〜2iを介して二次冷却噴射水を噴射する水冷却として行う。本発明では、二次冷却噴射水20の温度(水温)は、溶融金属流分断用噴射水7の温度(水温)より低い温度に調整された水を用いる。
二次冷却噴射水20の温度(水温)を、溶融金属流分断用噴射水7の温度(水温)より低くすることにより、溶融金属流分断用噴射水7の温度(水温)が高いため二次冷却時に、不可避的に混入する高い水温の溶融金属流分断用噴射水7に由来して形成される蒸気膜あるいは水膜が、溶融金属流分断用噴射水と二次冷却噴射水との温度差(あるいはさらに比重差、表面張力差、粘性差等)に起因する対流等の分断された直後の過渡的な非定常状態より分離除去されるため、蒸気膜等の悪影響が抑制され、このような非定常効果により水アトマイズ金属粉末の冷却速度が向上するものと、本発明者らは考えている。
このようなことから、本発明では、二次冷却の開始に際しては、溶融金属流分断用噴射水とは別系統の水を使用し、使用する二次冷却噴射水の温度(水温)を、溶融金属流分断用噴射水の温度(水温)より低い温度に調整された水を用いることに限定した。なお、二次冷却噴射水の温度(水温)は、溶融金属流分断用噴射水の温度(水温)より20℃以上低い温度とすることが好ましい。
なお、二次冷却噴射水20に用いられる冷却水は、水アトマイズ金属粉製造装置14の外部に設けられた、溶融金属流分断用冷却水とは別系統の冷却水タンク35(断熱構造)に、あらかじめ冷却水を冷却する温度調節器36などの熱交換器で所望の水温に調整した冷却水として貯蔵しておくことが好ましい。なお、一般的な冷却水製造機では熱交換器内が凍結するために3〜4℃未満の冷却水を生成することが難しいため、氷製造機によって氷をタンク内に補給する機構を設けてもよい。
さらに、冷却水タンク35には、二次冷却噴射水20に用いられる冷却水を昇圧・送水する高圧ポンプ37、高圧ポンプから二次冷却水用バルブ21a〜2iaに冷却水を供給する配管38が配設される。配管の途中に、サージタンク、切替弁等を設けて、突発的に所望の高圧水を供給できるようにすることが好ましい。
なお、上記した溶融金属流分断噴射水と二次冷却噴射水の温度差をつけて水アトマイズを行うことにより得られる上記した効果は、溶融金属流の分断から二次冷却の開始までの時間が0.02s以下である場合に顕著である。このため、本発明では、溶融金属流の分断から二次冷却の開始までの時間を0.02s以下に限定することが好ましい。溶融金属流の分断から二次冷却の開始までの時間が0.02sを超えて遅くなると、一次冷却噴射水が非定常状態から定常状態に推移して、一次冷却噴射水全体の温度や圧力等が均一となり、上記した非定常効果が失われるものと推察される。なお、溶融金属流の分断から二次冷却の開始までの時間が0.001s以下の場合には、一次冷却噴射水と二次冷却噴射水とを物理的に分離することが困難で、単一の噴射水で溶融金属流の分断と冷却とを行った場合と同じとなると考えられる。このため、溶融金属流の分断から二次冷却の開始までの時間は、好ましくは0.001s超え0.02s以下に限定することとした。なお、溶融金属流の分断から二次冷却の開始までの時間は、分断された溶融金属流の液滴の飛翔速度を高速度カメラ等で特定することで決定(算出)できるが、液滴が微細である場合には、溶融金属流分断用噴射水の飛翔速度を測定することでも決定(算出)できる。
なお、溶融金属の液滴8aへの二次冷却は、溶融金属の液滴8aの温度を、結晶化を防ぐための温度域、例えば400〜600℃の温度域、以下まで行うものとする。
なお、本発明の実施にあたっては、使用する水アトマイズ金属粉製造装置14には、溶融金属の液滴8aの落下方向に、複数段、適正な間隔をおいて好ましくは1〜4段、の二次冷却手段21〜2iを配設しておく必要がある。なお、各段の二次冷却手段21〜2iは、水冷却ノズルを1台あるいは、落下する溶融金属の液滴8aを全周から均一に冷却できるように、溶融金属流中心の延長線を中心として対象形状に複数台、好ましくは2〜24台、配設された冷却手段とすることが好ましい。なお、円環状ノズルとしてもよい。
なお、落下途中の液滴8aに、同じ位置で二次冷却を開始できるように、二次冷却手段21〜2iである水冷ノズルは、噴射される二次冷却噴射水20の上面が水平面とほぼ平行となるように、水冷ノズルの形式に応じて適当な角度で噴射方向を下向きに調整して配設することが好ましい。図3では、二次冷却手段21〜2iである水冷ノズルを水平より下向きの噴射方向となるように配設している。
なお、各段の二次冷却手段は、各段ごと、あるいは複数段同時に作動できるように、切替可能に配設されることはいうまでもない。また、使用する水冷却ノズルの形式は、とくに限定する必要はなく、常用の水冷却ノズルがいずれも適用できる。なお、二次冷却手段21〜2iには、冷却水量を調節可能とする二次冷却制御バルブ21a〜2iaがそれぞれ付設されていることはいうまでもない。
また、上記した二次冷却による効果をさらに顕著にするため、本発明では、溶融金属流分断用噴射水の水量は、溶融金属流1kgに対し10L以下とすることが好ましい。このように、溶融金属流分断用噴射水の水量を、溶融金属流1kgに対し10L以下とすることにより、溶融金属の分断に使用した溶融金属分断用噴射水の残りが完全に蒸発し、二次冷却時に不可避的に混入する溶融金属分断用噴射水の残量が減少して、蒸気膜等の悪影響が抑制されると考えられる。このため、溶融金属流分断用噴射水の水量は、溶融金属流1kgに対し10L以下に限定することが好ましい。
以下に、実施例に基づき、さらに本発明について説明する。
図3に示す水アトマイズ金属粉製造装置を用いて金属粉末を製造した。
表1に示す鉄基軟磁性合金組成となるように用意した原料粉(一部、不純物を含むこと避けられない)を配合し、高周波溶解炉2に装入し、溶解した。溶湯(溶融金属)を溶解炉中で、徐冷したのち、溶湯(溶融金属)1をタンディッシュ3に装入した。なお、チャンバー9内は、あらかじめ窒素ガス雰囲気としておいた。
なお、溶融金属をタンディッシュ3に注入する前に、高圧ポンプ17を稼動して、冷却水タンク15から冷却水をノズルヘッダー5に供給し、水冷却ノズル6から溶融金属流分断用噴射水7が噴射された状態としておいた。なお、溶融金属流分断用噴射水7の温度(水温)、水量は、表1に示す値とした。なお、水冷却ノズルは円周状に12本配設したものとした。溶融金属流分断用噴射水7の噴射圧は、分断から二次冷却開始までの時間(二次冷却手段の位置)との関係で調整した。
また、溶融金属をタンディッシュ3に注入する前に、高圧ポンプ37を稼動して、冷却水タンク35から冷却水を二次冷却手段に供給し、二次冷却手段(水冷ノズル)から二次冷却噴射水20が噴射された状態としておいた。なお、二次冷却噴射水20の温度(水温)、水量は、表1に示す値とした。二次冷却噴射水20を噴射する水冷却を開始する二次冷却手段は、予め求めておいた溶融金属流分断用噴射水7の噴射圧と溶融金属液滴(分断水)の飛翔速度との関係から、複数段の二次冷却手段のうちから、表1に示す分断から二次冷却開始までの時間に、二次冷却噴射水20を噴射する水冷却(二次冷却)を開始できる位置に配設された二次冷却手段を選定した。なお、二次冷却手段は、水冷ノズルを同一円周上に適正間隔で複数台(8本)、配置した。なお、水冷ノズルは、分断された液滴を同一時刻(位置)で冷却できるように噴射させる水粒子の上面が水平となるように下向きに設置した。
ついで、タンディッシュ3から溶湯ガイドノズル4を介して溶融金属1を、チャンバー9内に溶融金属流8として流下させた。そして、流下する溶融金属流8に、ノズルヘッダー5に配設された水冷ノズル6を介し溶融金属流分断用噴射水7を噴射して、位置Aで溶融金属流8を分断し、多数の溶融金属の液滴8aとした。なお、溶融金属の流量は表1に示す値とした。
そして、さらに、分断された溶融金属の液滴8aに、表1に示す分断から二次冷却開始までの時間で、二次冷却噴射水20を噴射する水冷却(二次冷却)を開始し、冷却、凝固させ水アトマイズ金属粉末とし、回収口13から回収した。得られた金属粉末について、金属粉末以外のゴミを除去したのち、レーザー式粒度分布計を用いて平均粒径を測定した。
また、得られた金属粉末について、金属粉末以外のゴミを除去したのち、X線回折法により、アモルファスからのハローピーク、および結晶からの回折ピークを測定し、WPPD法により、非晶質化率を算出した。
また、得られた金属粉末に、さらに、表2に示す条件で熱処理を施した。熱処理後、振動試料型磁力計VSMを用いて、飽和磁束密度Bs(T)を測定した。
得られた結果を表2に示す。
本発明例はいずれも、粒径が12μm以上と粒径の大きい粉末であるにもかかわらず、非晶質化率が90%以上を示し、また、熱処理後の飽和磁束密度Bsが1.3T以上と優れた磁気特性を有している。一方、本発明の範囲を外れる比較例は、非晶質化率が90%未満であり、所望の非晶質化率を達成できておらず、また熱処理後の飽和磁束密度Bsも低い値しか示していない。