主索と駆動シーブとの間に摩擦力(トラクション)を利用してかご及び釣合おもりを昇降させるエレベーターには、一般に電磁力を利用した電磁ブレーキ装置が用いられる。
エレベーターの動作音は昇降路外の空間またはかご内において聞こえないことが望ましい。そのため、電磁ブレーキ装置の動作音を低減する必要がある。電磁ブレーキ装置の動作音を低減する施策として、コアとアマチュア間に緩衝材となる弾性体を配置する手法が知られている。弾性体である緩衝材は温度によって特性が変化する。エレベーターを動作させることにより、電磁ブレーキの温度が上昇し、緩衝材のばね定数が常温状態と比較し減少する。また、低温時は常温状態と比較しばね定数が増加する。そのため、使用条件によって緩衝ゴムの特性が不安定になるため、動作音にばらつきが生じる。特許文献1では加熱装置によって緩衝材を加熱し、温度変化に対して一定の特性を得る手法を提案している。特許文献2ではコアとアマチュアの間に密閉空間を作り、気体の反発力を利用し、温度低下による緩衝材のばね定数低下に対処する手法を提案している。
また、エレベーターは建築物空間の占有率を低下させることが求められており、エレベーターの昇降路および昇降路外に設置されているエレベーター装置を小型化する必要がある。さらに、エレベーター据付及び保守・点検における作業性向上の観点から、エレベーターの部品の小型・軽量化が必要である。特許文献3では、てこの原理を利用することでエレベーターのかご及び釣合おもりを制動または保持するために必要な制動ばね力およびコアの電磁吸引力を低減させるブレーキ装置を提案している。
前述の通り、エレベーター用電磁ブレーキ装置には静音性の向上及び小型化が求められている。エレベーターは特性上、長期間使用される。特にブレーキ装置はかご及び釣合おもりを静止させる安全上重要な装置であるため、ブレーキ装置に使用される各部品は長寿命かつ特性が初期状態からの変化が少ないことが求められる。
特許文献1では前述のとおり、加熱装置を使用し、低温時に緩衝材を加熱することでばね定数の上昇を抑えている。そのため従来より装置を構成する部品数が増加している。
特許文献2では前述のとおり、Oリングを使用してコアとアマチュアの間に密閉空間を作ることで、低温状態における緩衝材の硬度上昇に対処している。しかし、Oリングが摺動するため摩耗により低温時の硬度上昇に対処できなくなる懸念がある。
特許文献3では前述のとおり、てこの原理を利用したブレーキの小型化手法を提案している。てこを利用するため可動部が増加し、可動部分が摩耗するため長寿命化が図りにくい構造となっている。
また、従来のブレーキ装置では緩衝材が温度条件により特性が変化するため、最もばね定数が高くなる低温時を想定して、コアの電磁吸引力を決定していた。そのため、コア内部のコイルを大径化する必要があり、小型化の妨げとなっていた。
本発明は前記課題を鑑みてなされたものであり、温度条件による影響を受け難く、緩衝性能を安定させることができるブレーキ装置を提供することを目的とする。
ブレーキパッドを備えたアマチュアと、前記アマチュアを吸引する電磁力を発生させるコイルが内部に配置されたコアと、前記コアから前記アマチュアを引き離す方向に力を付与する制動ばねとを備えたブレーキ装置において、前記コアの前記アマチュアとの対向する面に座ぐり穴を設け、前記座ぐり穴の内部に温度が上昇すると膨張する樹脂と、前記座ぐり穴内部の前記樹脂と前記アマチュアの間に緩衝ゴムとを設け、前記緩衝ゴムは、前記コアの磁極面より所定寸法突出させたことを特徴とする。
本発明によれば、温度条件による影響を受け難く、緩衝性能が安定したブレーキ装置を提供することができる。
以下、本発明の実施例について、図に基づいて説明する。
図1は、本発明の実施例におけるエレベーターの概略を示す構成図である。本実施例のエレベーター装置1は、建築物に設置された昇降路内においてかご3及び釣合おもり4がガイドレール5に沿って移動するように構成されている。かご3及び釣合おもり4は主索6によって繋がっており、昇降路内に設置された巻上機2の駆動力を主索6に伝達することでかご3及び釣合おもり4を移動させる。
図2は本発明の実施例におけるエレベーター用巻上機の概略を示す構成図である。巻上機2のモータフレーム10にはモータ11、ブレーキドラム8とブレーキ装置9が取り付けられている。ブレーキドラム8には綱車7が取り付けられており、モータ11によって綱車7とブレーキドラム8は一体として回転する。そしてこの綱車7に主索6が巻き掛けられている。かご3及び釣合いおもり4を停止させる時、綱車7及びブレーキドラム8にはかご3と釣合いおもり4の重量の不釣合いによってトルクがかかるため、ブレーキ装置9の制動力によって綱車7及びブレーキドラム8の回転を防ぎ、かご3及び釣合おもり4の昇降を防いでいる。
図3は本発明の実施例におけるエレベーター用巻上機ブレーキ装置の構成図である。巻上機2のモータフレーム10に取付ボルト14によって取り付けられたブレーキ装置9は、コア12内部に挿入されたコイル16に通電することでアマチュア13及びブレーキパッド17をコア12側にひきつけ制動力を無くす構造である。また、コイル16の通電を遮断することでコア12のアマチュア13及びブレーキパッド17を吸引する力を無くし、コア12内部に設けられた制動ばね15によって、アマチュア13を介しブレーキパッド17をブレーキドラム8に押し付けることで制動力を発生させる構造である。
コア12とアマチュア13の間のコア12側には、座ぐり穴12aがあり、座ぐり穴12aのコア12側には緩衝ゴム19より線膨張係数の大きい樹脂18が挿入され樹脂18とアマチュア13間に緩衝ゴム19が配置されている。緩衝ゴム19は経年的に劣化するため交換を行うので、交換が可能な位置に配置することが望ましい。緩衝性能を得るために緩衝ゴム19は、ブレーキパッド17をブレーキドラム8に押し当てている状態において、コア12の磁極面から突出させ、アマチュア13の動作に比例した反力をアマチュア13に与え、コア12とアマチュア13の衝突に起因する音を低減する。
また、緩衝ゴム19が配置される場所に段差があると、緩衝ゴム19が段差の角部から大きな負荷を受けることにより、緩衝ゴム19の寿命が低下するため、本実施例において樹脂18はコア12に設けられた座ぐり穴に隙間無く配置することで段差が生じない構造としている。さらに、アマチュア13がコア12側へ移動する際に緩衝ゴム19は圧縮され、緩衝ゴム19の外径が大きくなる。そのため、本構造は樹脂18の外径を圧縮後の緩衝ゴム19外径より大きくすることで緩衝ゴム19がコア12の角部と接触しない構造である。
座ぐり穴のコア12側に緩衝ゴム19より線膨張係数の大きい樹脂18をコア12と隙間無く挿入し、樹脂18とアマチュア13間にコア12の磁極面から突出する高さを有する緩衝ゴム19を配置した構造により、低温状態の場合は緩衝ゴム19のばね定数が大きくなり、樹脂18は収縮するため、緩衝ゴム19のたわみ量を減少させることができる。一方、高温状態のときは緩衝ゴム19のばね定数が小さくなり、樹脂18は膨張するため緩衝ゴム19のたわみ量を増加させることができる。したがって、温度が変化した場合において、緩衝ゴム19のばね定数の変化を樹脂18の変位で吸収することができる。そのため緩衝ゴム19が発生させる反力が温度条件によらず安定し、緩衝性能が安定するため、コイルによる電磁吸引力を従来よりも低くでき、コイル16の小径化及びコア12の小型軽量化が実現できる。
また、建築物において床面積の有効利用の観点から昇降路は可能な限り小さくすることが望ましい。巻上機2の大きさは昇降路の寸法を決める要素のひとつである。本実施例のブレーキ装置9は巻上機2に取り付けられた装置であるため、ブレーキ装置9の小型化は巻上機2の小型化につながる。本実施例では緩衝ゴム19の反力安定化により、コイル16の小径化及びコア12の小型化を通じたブレーキ装置9の小型化が実現できるため、前述のブレーキ装置の効果を有しながら、巻上機2の小型化も実現できる。
さらに、エレベーター装置1は巻上機2のモータ音やかご3及び釣合おもり4の走行音などの騒音を可能な限り小さいのが望ましい。そこで実施例の巻上機2を使用すれば、ブレーキ装置9における樹脂18と緩衝ゴム19は温度による熱特性により変化するものの、相互に熱の影響による緩衝性能を補完し合うため、ブレーキ9吸引時に生じるコア12とアマチュア13の衝突による動作音が温度条件によらず安定化が可能である。そのため、エレベーター装置1全体の動作音の安定化に寄与できる。よって騒音の発生を抑えたエレベーター装置を提供することができる。