図1(a)および図1(b)は、留め具10の斜視図であり、図1(a)は連結状態の留め具10を示し、図1(b)は押込完了状態の留め具10を示す。留め具10は、被取付部材の取付孔に係止する係止部材20と、係止部材20に挿入されるピン部材22とを備え、係止部材20およびピン部材22が一体に成形される。
留め具10が留められる取付孔は、車両の車体や車載装置に形成され、例えばトランスミッションにめねじ状に形成される。図1(a)に示す連結状態の留め具10を、取付孔に挿入し、ピン部材22を押し込むことで、図1(b)に示す押込完了状態になって取付孔への取付が完了する。
係止部材20は、被取付部材の表面に引っ掛かるフランジ部38と、フランジ部38から裏側に延びる一対の脚部40とを有する。フランジ部38は、一対の脚部40のそれぞれに形成され、離間して一対形成される。なお、一対の脚部40が対向する方向を対向方向といい、脚部40および/または延出部26が延びる方向を軸方向という。
一対のフランジ部38は、一対の脚部40の基端部のそれぞれから離間方向に張り出す一対の張出部42と、一対の張出部42にそれぞれ設けられ、軸方向に立設する一対の立設部44と、を有する。脚部40の外周面は、湾曲して軸直交断面が円弧状に形成される。複数の山状部50は、一対の脚部40の外面に軸方向に段状に形成され、取付孔に挿入されてネジ溝に係合する。
ピン部材22は、頭部24と、頭部24の裏側から延びる延出部26とを有する。図1(a)に示すように、ピン部材22の頭部24と係止部材20のフランジ部38とを連結する連結部46が設けられる。
係止部材20およびピン部材22を連結部46により一体に成形することで組立作業を不要にできる。留め具10は、車両のトランスミッションに用いる場合、油圧や振動、高温に耐えられるよう硬い樹脂材料、例えばガラス繊維を含む樹脂材料により形成される。連結部46により係止部材20およびピン部材22を連結することで、硬くて撓みにくい材料でも、撓みを利用して仮保持させることなく、係止部材20およびピン部材22を一体にできる。係止部材20およびピン部材22が一体であるため、留め具10の搬送が容易になり、組み付け作業も容易になる。留め具10の各部材について新たな図面を参照して説明する。
図2は、ピン部材22について説明するための図である。図2(a)はピン部材22を表側からみた斜視図であり、図2(b)はピン部材22を裏側からみた斜視図である。ここで各図面に示される同一または同等の構成要素、部材には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。
頭部24は、角柱状に形成され、両側面に軸方向に切り欠かれて形成されたガイド溝部32を有する。延出部26は、頭部24の裏側の座面24aから垂下するように延び、板状に形成される。
延出部26は、係止部材20の一対の脚部40に挟まれて、対向する対向面26aと、それぞれの対向面26aに形成された一対の凹部28とを有する。対向面26aの延出部26の根元側に拡開部30が形成される。拡開部30は、延出部26の先端側から根元側に向かって対向方向外向きに張り出すように傾斜し、突端が爪状に形成される。
図3(a)は、係止部材20を表側からみた斜視図であり、図3(b)は、係止部材20を裏側からみた斜視図である。また、図4(a)は、係止部材20の正面図であり、図4(b)は、係止部材20の平面図である。
フランジ部38は、取付孔の周りで被取付部材の表面に当接する。フランジ部38は、張出部42、立設部44およびガイド部48を有する。また、フランジ部38には、ピン部材22に連結する柱状の連結部46が複数設けられる。連結部46は軸方向に交差する方向に延出し、対向方向に沿って形成される。
張出部42は、平板状に形成され、軸方向に直交するように延在する。一対の張出部42は、一対の脚部40の基端に連設し、一対の脚部40が離間する方向に張り出す。張出部42の対向方向外側の端部が、立設部44の内側面に連設する。
一対の立設部44は、張出部42の外側部に連なって壁状に形成され、軸方向に沿って延在し、一対の脚部40と同様に対向する。立設部44の上端44aに複数の連結部46が連結する。ガイド部48は、立設部44の内側面から対向方向に突出するように形成される。ガイド部48にはガイド部48の上方先端の角を切り欠いた切欠部48aが形成される。
図4(a)に示すように、張出部42の軸方向厚さは、立設部44の対向方向の厚さより薄く形成され、撓みやすくなっている。張出部42は、立設部44の内側面の中途に連設され、立設部44の下端44bより軸方向上方に位置する。これにより、取付の際に張出部42が被取付部材の表面と非接触になり、撓みやすくなる。また、張出部42を撓ませて一対の脚部40を取付孔の軸方向下方に押し込むことができる。
脚部40は、複数の山状部50、凸部52、突出部54および係合部58を有する。一対の脚部40は、先端部56にて連結され、一体に成形される。脚部40の内面に、凸部52および突出部54が対向方向に突出して形成される。凸部52は、突出部54より脚部40の基端側に位置する。凸部52および山状部50は、軸方向の位置が重複するように設けられる。
図4(b)に示すように、一対の凸部52は、幅方向に位置ずれし、一対の突出部54は、中心側に正対する。凸部52および突出部54によって、ピン部材22の延出部26が入り込んだ際に延出部26の対向方向のガタツキ、軸ぶれやねじれを抑えることができる。係合部58は、凸部52より脚部40の基端側にて、脚部40の内面を窪んで形成される。
図5(a)は、留め具10の側面図であり、図5(b)は、留め具10の平面図である。また、図6(a)は、図5(a)に示す留め具10の線分A−Aの断面図であり、図6(b)は、図5(b)に示す留め具10の線分B−Bの断面図である。
図5(a)に示すように、ピン部材22の延出部26の幅は、係止部材20の脚部40の幅より大きい。これにより、取付孔に挿入した際に、延出部26の側縁によって対向方向の直交する方向のガタツキを抑えることができる。係止部材20の山状部50は、ピン部材22の凹部28と軸方向に重複する位置に設けられる。山状部50は、挿入時に撓みやすい位置に設けられる。延出部26の先端部分26bは、テーパ状に形成され、搬送時に他の留め具10に引っ掛かることを抑えている。また、先端部分26bは山状部50より先端部56側に位置して、取付孔に挿入する際に山状部50より先に入るように構成され、挿入時のガイドとして機能する。
図5(a)および図5(b)に示すように、連結部46は、頭部24の座面24a側の側面と、立設部44の上端44aとを連結する。連結部46により留め具10の上端側の頭部24と立設部44との隙間を遮り、搬送時に他の留め具10と絡みにくくできる。また、連結部46の接合面積は、立設部44のほうが頭部24より大きい。これにより、連結部46が頭部24側で破断し、立設部44に残すことができ、押込時の頭部24の移動を頭部24に残った連結部46が妨げる可能性を低減できる。
図5(b)に示すように、頭部24の側面と、立設部44とが対向方向に離間する。これにより、押込時に立設部44が頭部24側に倒れ込むことができる。複数の連結部46は、頭部24の四隅に連結する。これにより、搬送時などに連結部46の全てが破断する可能性を低減でき、他の留め具10と絡みにくくできる。連結部46は、ピン部材22の押込方向と直交する方向に形成されるため、ピン部材22が係止部材20に対して押し込まれた際には破断しやすく構成される。
図5(b)および図6(b)に示すように、ガイド部48は、ガイド溝部32に入り込み可能に張り出しており、押込時にピン部材22の幅方向の位置ずれや回転を制限し、軸方向の進行をガイドできる。
図6(a)に示すように、連結状態では凹部28と凸部52は対向して離間して配置される。これにより、一対の脚部40が接近するように撓み可能になり、留め具10の取付孔の挿入時に山状部50が取付孔に当接した際に、一対の脚部40が接近するように撓んで挿入を容易にできる。
図6(b)に示すように、連結状態で延出部26の一部が一対の脚部40に挟まれている。これにより、留め具10の軸方向の長さを短くでき、一対の脚部40の間で延出部26を長くできる。延出部26を長くすることで傾いた状態で取り付けられることを抑えることができる。また、ピン部材22の係止部材20に対する押込長さを、ピン部材22と係止部材20が別体である場合と比べて短くでき、ピン部材22が傾いて取り付けられる可能性を低減できる。
図7は、留め具10を取付孔12aに挿入する過程を説明するための図である。図7(a)には、連結状態の留め具10を先端部56から被取付部材12の取付孔12aに挿入している状態を示す。
図7(b)には、山状部50が取付孔12aに入り込んで一対の脚部40が接近するように撓む。一対の脚部40の内側には凸部52が延出部26に向かって突出するが、凸部52に対向して延出部26の凹部28が位置するため、凸部52が凹部28に入り込むことで脚部40の撓むことができる。一対の脚部40が撓むことで挿入力を低減できる。連結部46は、係止部材20を取付孔12aに挿入する際にピン部材22を押しても破断しない強度に設定される。
図7(c)に示すように、立設部44の下端44bが被取付部材12の表面12bに当接して、係止部材20の取付孔12aへの挿入が終わるが、連結部46は破断しておらず、ピン部材22の押込が完了していない。山状部50は、取付孔12aのネジ溝に係合する。このように、係止部材20とピン部材22が一体に設けられていることで、係止部材20を取付孔12aに挿入すればピン部材22もともに取付孔12aに挿入でき、取付作業を容易にできる。
図7(c)に示す連結状態のピン部材22を押し込むと、係止部材20の動きは立設部44の表面12bへの当接で規制されているため、押込力が連結部46に付与されて連結部46が破断し、連結状態が解除される。さらに取付作業について図8を参照して説明する。
図8は、取付孔12aに挿入した留め具10においてピン部材22を押し込む過程を説明するための図である。図8(a)に示すように、連結部46が破断して、ピン部材22が係止部材20に対して軸方向に相対移動して、押し込まれている。ガイド部48は、ガイド溝部32に入り込んでピン部材22の軸方向の移動をガイドする。また、凸部52と凹部28が軸方向にずれ始める。
連結部46が破断しても、連結部46が被取付部材12の表面12bより上方に位置するため、破断した連結部46が異物となって取付孔12a内に入る可能性を低減できる。なお、留め具10の組み付け後に被取付部材12の表面12bを洗浄することで異物となった連結部46が取り除かれる。連結部46の下方の表面12b側に張出部42が設けられることで、取付孔12aへの異物の混入をより抑えることができる。
ピン部材22が軸方向下方に進むと、拡開部30が張出部42および/または脚部40に当接して、一対の張出部42を対向方向外側に離間するように拡開させる。連結部46が破断したことで、立設部44が対向方向内側に接近するように移動しても、拡開部30が立設部44の倒れ込むような頭部24への接近を抑え、一対のフランジ部38を拡開させることでピン部材22の押し込みを容易にできる。拡開部30が被取付部材12の表面12b側にて係止部材20に当接することで、取付孔12a内に入り込んだ脚部40より撓ませやすく、挿入力を低減できる。張出部42は、表面12bから離れているため離間方向に拡開しやすく、立設部44が表面12bに当接した状態で脚部40を軸方向に移動させて、山状部50をネジ溝のピッチに合わせて係合させることができる。
図8(b)に示すように頭部24の座面24aが張出部42に当接して、ピン部材22の押し込みが完了する。押込完了状態で、拡開部30の突端が窪んで形成された係合部58に係合する。これにより、係止部材20に対するピン部材22の抜け止めができる。このように、ピン部材22を取付孔12aに押し込むだけで、留め具10を取付孔12aに取り付けることが可能である。
先端側の延出部26は、一対の突出部54の間に挟まれて対向方向の動きが規制される。これにより、延出部26を軸方向に長く形成することでこじりに強くしつつ、軸振れを抑えることができる。
押込完了状態で凸部52は、凹部28と軸方向に位置ずれた状態にあり、一対の脚部40の接近が規制されている。これにより、山状部50が取付孔12aのネジ溝に係合した状態を維持でき、取付孔12aから外れにくくできる。
図7(b)に示すように、山状部50が設けられた脚部40は、取付孔12aの挿入の際に凹部28に凸部52が入って接近するように撓み、図8(b)に示すように、押込完了時には凸部52が延出部26の表面に当接して接近する撓みが規制される。これにより、係止部材20の挿入を容易にしつつ、係止を強固にできる。
本発明は上述の各実施例に限定されるものではなく、当業者の知識に基づいて各種の設計変更等の変形を各実施例に対して加えることも可能であり、そのような変形が加えられた実施例も本発明の範囲に含まれうる。
連結部46は、立設部44の上端44aと、頭部24の側面に連結する態様を示したが、この態様に限られない。例えば、立設部44の内壁面に連結してよく、頭部24の座面24aに連結してもよい。
実施例では、連結状態において脚部40の凸部52と、延出部26の凹部28を対向させる態様を示したが、この態様に限られず、脚部40に凹部を形成し、延出部26に凸部を形成してもよい。
実施例では、一対の脚部40が先端部56により連結される態様を示したが、この態様に限られず、一対の脚部の先端側が離間して拡開可能に形成されてもよい。この拡開する一対の脚部が取り付けられる取付孔は、ネジ孔でなく、一枚または複数枚のパネルに形成された貫通孔である。一対の脚部は、押し込まれた延出部により取付孔の裏側で拡開し、取付孔の裏側の孔縁に係止する。
実施例では、係止部材20およびピン部材22が一体成形される態様を示したが、その態様に限られない。例えば、係止部材20およびピン部材22が別々に成形されて、係止部材20にピン部材22が仮保持される態様であってよい。ピン部材22の頭部24の側面に仮保持用孔部が形成され、立設部44の内壁面に仮保持用突出部が形成され、仮保持用突出部が仮保持用孔部に入り込んで頭部24と立設部44の連結がなされてよい。
また、ピン部材22の頭部24や係止部材20の立設部44の上面に別の構成を設けることで留め具10は、取付孔12aに所定の部材を固定することが可能である。例えば、頭部24の上面にフック、バンドまたは飾り材を設けてもよい。