以下、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
<研磨用組成物SB>
ここに開示される研磨用組成物は、ケイ酸アルカリ含有液に由来するコロイダルシリカ(シリカS)と、水中におけるシリカ吸着率ASが20%以上であるフィルム状物質付着防止剤(防止剤B)とを含むことによって特徴づけられる。以下、シリカSと防止剤Bとを含む研磨用組成物を「研磨用組成物SB」と表記することがある。
ここで「ケイ酸アルカリ含有液に由来するコロイダルシリカ」とは、ケイ酸アルカリ含有液(例えば、珪砂を出発原料とするケイ酸ナトリウム含有液)を原料に用いて製造されたコロイダルシリカをいう。一般に、このような方法で製造されたコロイダルシリカ(シリカS)には、不可避的に、その原料に由来するフィルム状物質が混在している。したがって、上記フィルム状物質を排除する意図的かつ適切な処理を高精度に行わない限り、シリカSを含む研磨用組成物には上記フィルム状物質が不可避的に含まれている。すなわち、ここに開示される研磨用組成物は、典型的には、シリカSとともにフィルム状物質を含んでいる。また、ここに開示される研磨用組成物がフィルム状物質を含む場合には、そのことから該研磨用組成物がシリカSを含むことを推定できる。
ここに開示される技術において、組成物がフィルム状物質を含むか否かは、以下の方法により評価することができる。すなわち、評価対象の組成物を含む分散液サンプルを、孔径0.2μmのメンブレンフィルタで濾過する。このとき、上記メンブレンフィルタで濾過する分散液サンプルの量が、当該メンブレンフィルタの濾過面積1cm2当たり、固形分基準で30mgとなるようにする。分散液サンプルを孔径0.2μmのメンブレンフィルタに通液できない場合には、該分散液サンプルを事前に3倍以上の孔径のメンブレンフィルタ(すなわち、孔径0.6μm以上のメンブレンフィルタ)で濾過する前処理を行うことができる。孔径0.2μmメンブレンフィルタとしては、例えばポリカーボネート製メンブレンフィルタ(ADVANTEC社製の商品名「K020A−047A」)を用いることができる。
分散液サンプルを孔径0.2μmのメンブレンフィルタで濾過した後、該メンブレンフィルタ上の残渣物を走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)で観察する。観察は、無作為に選択した12.7μm×9.5μm×100視野について行う。判別しにくい場合は、必要に応じてズームして確認を行う。そして、それらの視野のなかにフィルム状物質の存在が認められる場合には、当該組成物がフィルム状物質を含むと評価する。上記100視野のなかにフィルム状物質の存在が認められない場合には、当該組成物がフィルム状物質を実質的に含まないと評価する。
なお、ここに開示される技術において、上記の方法によりフィルム状物質を含むか否かを評価する対象には、研磨用組成物のほか、洗浄液、表面処理液、リンス液等、研磨物の製造過程において使用され得る任意の組成物も含まれ得る。また、ケイ酸アルカリ含有液に由来するコロイダルシリカの水分散液等、このような組成物の製造に用いられる原料として使用され得る材料も、上記方法による評価の対象となり得る。
(フィルム状物質)
上記フィルム状物質は、例えば図1に示すように、典型的には矩形状(具体的には長方形状)を呈する微小なフィルム(換言すると、薄片または薄膜)である。このフィルム状物質は、多くは長方形状の形態で存在しており、通常、その厚さLTは凡そ100nm未満(典型的には凡そ50nm以下)である。また、通常、上記フィルム状物質の長辺の長さLLは凡そ0.5μm以上であり、短辺の長さLSは凡そ0.1μm以上である。したがって、長辺と短辺との比によっては、フィルム状物質の形状は、短冊状、帯状等と表現され得る。
このようなフィルム状物質を含む研磨用組成物が研磨対象物に供給されると、該研磨対象物の表面と上記フィルム状物質の表面とが面接触し得る。このとき、研磨対象物の表面とフィルム状物質の表面とが密接すると、研磨対象物上の特定の位置にフィルム状物質が継続的に留まる状態、すなわちフィルム状物質の付着(固着)が生じる。このような面接触により研磨対象物の表面に付着したフィルム状物質は、該フィルム状物質が薄く平坦な形状を有することもあって、一般的なスクラブや超音波付与等の手法でアルカリ洗浄液や水による洗浄を行っても研磨対象物表面に残存してしまい、結果的に凸欠陥の原因となり得る。また、例えば化学的な洗浄の条件をより厳しくして研磨対象物表面のフィルム状物質を除去しても、研磨対象物のうちフィルム状物質が付着していた部分は該フィルム状物質が付着していなかった部分(非付着部分)に比べて化学的な洗浄による表面除去量が少なくなるので、やはり凸欠陥の原因となり得る。このようなフィルム状物質に起因する凸欠陥(典型的には、概ね平坦な形状(卓状等)の凸欠陥)を抑制することが、ここに開示される技術の主要な解決課題のひとつである。
フィルム状物質の長径LLは、通常0.5μm以上である。したがって、ここでいうフィルム状物質の代表的な形状として、厚さが100nm未満であり、かつ長径LLが0.5μm以上である形状が挙げられる。フィルム状物質の長径LLは、典型的には凡そ0.7μm以上であり、例えば凡そ1μm以上であり得る。所定以上の長径LL(長さ)を有するフィルム状物質は、研磨対象物表面と接触し得る面積が大きいため、付着力が強くなりがちである。したがって、ここに開示される技術の適用効果がよりよく発揮され得る。長径LLの上限は特に限定されないが、通常は5μm以下であり、典型的には3μm以下である。長径LLが小さくなると、シリカSを含む研磨用組成物からフィルム状物質を精度よく除去することがますます困難になるため、ここに開示される技術の適用意義が大きくなる。ここに開示される技術は、研磨用組成物にフィルム状物質が含まれることを許容し、かつ該フィルム状物質の付着を効果的に防止することができるので、長径LLが所定以下のフィルム状物質に対しても好ましく適用され得る。
フィルム状物質の短径LSは、通常0.1μm以上、典型的には凡そ0.2μm以上であり、例えば凡そ0.3μm以上であり得る。所定以上の短径LS(幅)を有するフィルム状物質は、研磨対象物表面と接触し得る面積が大きいため、付着力が強くなりがちである。したがって、ここに開示される技術の適用効果が好適に発揮され得る。短径LSの上限は特に限定されないが、通常は1.5μm以下であり、典型的には1μm以下である。短径LSが小さくなると、シリカSを含む研磨用組成物からフィルム状物質を精度よく除去することがますます困難になるため、ここに開示される技術の適用意義が大きくなる。ここに開示される技術は、研磨用組成物にフィルム状物質が含まれることを許容し、かつ該フィルム状物質の付着を効果的に防止することができるので、短径LSが所定以下のフィルム状物質に対しても好ましく適用され得る。
なお、長径LLは、フィルム状物質が長方形状を有する場合はその長辺とする。フィルム状物質は必ずしも長方形状を有するとは限らないため、そのような場合には便宜的に最長径を長径LLとすればよい。短径LSは、フィルム状物質が長方形状を有する場合はその短辺とする。長方形状以外のフィルム状物質においては、長径LLと直交する方向における最も長い差渡し長さを短径LSとすればよい。
フィルム状物質の厚さLTは、典型的には50nm以下、例えば凡そ30nm以下であり、一般的には凡そ20nm以下である。フィルム状物質の厚さLTが小さくなると、シリカSを含む研磨用組成物からフィルム状物質を精度よく除去することがますます困難になるため、ここに開示される技術の適用意義が大きくなる。ここに開示される技術は、研磨用組成物SBが上記厚さLTを有するフィルム状物質を含む態様でも好適に実施され得る。厚さLTの下限は特に限定されないが、通常は凡そ3nm以上、例えば5nm以上である。
特に限定するものではないが、フィルム状物質の厚さLTに対する長径LLの比(LL/LT)は、凡そ10より大きく、15以上(例えば50以上、典型的には100以上)であることが好ましい。上記比(LL/LT)を満たすフィルム状物質は、薄くかつ面積が大きいため、研対対象物に対する付着力が強くなりがちである。したがって、このようなフィルム状物質を含む研磨用組成物および該組成物を用いる研磨においては、ここに開示される技術を適用することが特に有意義である。
上記フィルム状物質は、少なくとも、ケイ酸アルカリ含有液(例えばケイ酸ナトリウム含有液)を原料に用いるコロイダルシリカの製造において副次的に生成することがわかっている。したがって、上記フィルム状物質は、少なくとも、上記製法によって得られたコロイダルシリカを含む組成物に不可避的に含まれ得る成分である。
(シリカS)
ここに開示される研磨用組成物SBは、ケイ酸アルカリ含有液に由来するコロイダルシリカ(シリカS)を含有する。上記研磨用組成物SBは、シリカSの1種を単独で含んでいてもよく、2種以上(例えば、粒子径、粒子形状等が異なる2種以上)のシリカSを組み合わせて含んでいてもよい。
上記研磨用組成物SBは、典型的には、シリカSを砥粒として含む。ここで「砥粒として含む」とは、研磨対象物に対する研磨作用を発揮し得る態様で含まれていることをいう。上記研磨用組成物SBにおける砥粒は、シリカSから実質的に構成されていてもよく、シリカSと他の砥粒との組合せにより構成されていてもよい。ここで、砥粒がシリカSから実質的に構成されるとは、砥粒の95重量%以上(典型的には98重量%以上)がシリカSからなることをいう。他の種類の砥粒についても同様である。
ここに開示される研磨用組成物SBは、シリカSを砥粒として含むものに限定されない。換言すると、ここに開示される研磨用組成物SBは、砥粒以外の目的でシリカSを含むものであってもよく、砥粒としてのシリカSと砥粒以外の目的で含有されるシリカSとの両方を含むものであってもよい。シリカSの機能や使用目的にかかわらず、シリカSを含む組成物には上記フィルム状物質がともに含まれ得るためである。ここに開示される技術によると、シリカSの機能や使用目的にかかわらず、上記フィルム状物質に起因する欠陥(例えば、該フィルム状物質の付着による凸欠陥)を抑制することができる。
以下、シリカSを主に砥粒として利用する態様について主に説明するが、この明細書により開示される技術思想はかかる態様に限定されない。
ここに開示される研磨用組成物SBに含有されるシリカSは、一次粒子の形態であってもよく、複数の一次粒子が凝集した二次粒子の形態であってもよい。また、一次粒子の形態のシリカSと二次粒子の形態のものとが混在していてもよい。
シリカSの粒子形状は特に限定されず、例えば球形であってもよく、非球形であってもよい。非球形の具体例としては、ピーナッツ形状(すなわち、落花生の殻の形状)、繭形状、突起付き形状(例えば、金平糖形状)、ラグビーボール形状等が挙げられる。表面粗さ低減の観点から、球形に近いシリカSを好ましく使用し得る。
シリカSの平均一次粒子径D1は特に制限されないが、研磨効率等の観点から、好ましくは5nm以上、より好ましくは8nm以上、さらに好ましくは10nm以上、例えば12nm以上である。また、より平滑性の高い表面が得られやすいという観点から、D1は、好ましくは100nm以下、より好ましくは80nm以下、さらに好ましくは50nm以下である。ここに開示される技術は、より高品位の表面を得やすい等の観点から、D1が30nm以下(より好ましくは25nm以下、さらに好ましくは25nm未満、例えば20nm未満)のシリカSを用いる態様でも好ましく実施され得る。
なお、ここに開示される技術において、シリカSその他の粒子の平均一次粒子径D1とは、BET法に基づく平均粒子径をいう。上記平均一次粒子径D1は、BET法により測定される比表面積S(m2/g)から、D1(nm)=2727/Sの式により算出することができる。比表面積の測定は、例えば、マイクロメリテックス社製の表面積測定装置、商品名「Flow Sorb II 2300」を用いて行うことができる。
シリカSの平均二次粒子径D2は特に限定されないが、研磨速度等の観点から、好ましくは5nm以上、より好ましくは8nm以上、さらに好ましくは10nm以上、例えば12nm以上である。また、より平滑性の高い表面を得るという観点から、上記D2は、200nm以下が適当であり、好ましくは150nm以下、より好ましくは100nm以下、さらに好ましくは80nm以下である。ここに開示される技術は、より高品位の表面を得やすい等の観点から、D2が50nm以下(より好ましくは30nm以下、さらに好ましくは25nm未満、例えば20nm未満)のシリカSを用いる態様でも好ましく実施され得る。
なお、ここに開示される技術において、シリカSその他の粒子の平均二次粒子径D2は、測定対象物の水分散液を測定サンプルとして、例えば、日機装株式会社製の型式「UPA−UT151」を用いた動的光散乱法により測定することができる。
シリカSのD2は、一般に、D1と同等以上(D2/D1≧1)であり、典型的にはD1よりも大きい(D2/D1>1)。特に限定するものではないが、研磨効果および研磨後の表面平滑性の観点から、シリカSのD2/D1は、通常は1.0〜3.0の範囲にあることが適当であり、1.0〜2.5の範囲が好ましく、1.0〜2.3の範囲がより好ましい。より高い表面平滑性を得る観点から、D2/D1が1.0〜2.0(より好ましくは1.0〜1.5、例えば1.0〜1.4)であるシリカSを好ましく使用し得る。なお、後述する実施例において使用したシリカSのD2/D1は、いずれも1.1〜1.4である。
特に限定するものではないが、シリカSの長径/短径比の平均値(平均アスペクト比)は、好ましくは1.01以上、さらに好ましくは1.05以上(例えば1.1以上)である。平均アスペクト比の増大によって、より高い研磨レートが実現され得る。シリカSの平均アスペクト比は、表面粗さ低減等の観点から、好ましくは3.0以下であり、より好ましくは2.0以下、さらに好ましくは1.5以下である。ここに開示される研磨用組成物は、フィルム状物質付着防止剤を含むことにより、平均アスペクト比が1.25未満(例えば1.20以下、典型的には1.15未満)のシリカSを用いる態様でも、フィルム状物質の付着による凸欠陥を効果的に低減することができる。したがって、かかる態様によると、表面粗さの低減と上記凸欠陥の低減とを高レベルで両立することができる。
シリカSの形状(外形)や平均アスペクト比は、例えば、電子顕微鏡観察により把握することができる。平均アスペクト比を把握する具体的な手順としては、例えば、SEMを用いて、独立した粒子の形状を認識できる所定個数(例えば200個)の砥粒粒子について、各々の粒子画像に外接する最小の長方形を描く。そして、各粒子画像に対して描かれた長方形について、その長辺の長さ(長径の値)を短辺の長さ(短径の値)で除した値を長径/短径比(アスペクト比)として算出する。上記所定個数の粒子のアスペクト比を算術平均することにより、平均アスペクト比を求めることができる。
シリカSの密度は、1.5以上であることが好ましく、より好ましくは1.6以上、さらに好ましくは1.7以上である。シリカの密度の増大によって、研磨対象物を研磨する際に、研磨レートが向上し得る。研磨対象物の表面(研磨対象面)に生じるスクラッチを低減する観点からは、上記密度が2.3以下のシリカ粒子が好ましい。砥粒(典型的にはシリカ)の密度としては、置換液としてエタノールを用いた液体置換法による測定値を採用し得る。
ここに開示される技術におけるシリカSは、上述のようにケイ酸アルカリ含有液を原料に用いて製造されたものである。かかるシリカSを含む組成物(例えば、ここに開示されるいずれかの研磨用組成物)は、原料に由来するアルカリ金属(例えば、Na,K,Li等のアルカリ金属)を含み得る。シリカSを含む組成物は、典型的にはNaを含み得る。
(溶媒)
ここに開示される研磨用組成物SBは、典型的には、シリカSを分散させる溶媒(以下、溶媒および分散媒を包含する媒体の意味で用いられる。)として水を含む。水としては、イオン交換水(脱イオン水)、純水、超純水、蒸留水等を好ましく用いることができる。
ここに開示される研磨用組成物SBは、必要に応じて、水と均一に混合し得る有機溶剤(低級アルコール、低級ケトン等)をさらに含有してもよい。通常は、研磨用組成物に含まれる溶媒の90体積%以上が水であることが好ましく、95体積%以上(典型的には99〜100体積%)が水であることがより好ましい。
(フィルム状物質付着防止剤)
ここに開示される技術におけるフィルム状物質付着防止剤(防止剤B)は、水中におけるシリカ吸着率ASが20%以上であることによって特徴づけられる。以下において、「水中におけるシリカ吸着率AS」を、単に「シリカ吸着率AS」と表記することがある。本明細書におけるシリカ吸着率ASは、以下の方法で測定される。
[シリカ吸着率ASの測定方法]
(i)イオン交換水中に、平均一次粒子径D1(比表面積換算粒子径)が280nmのコロイダルシリカ(日揮触媒化成(株)製、製品名「スフェリカ#300」)を73g/L、測定対象であるフィルム状物質付着防止剤(防止剤B)を1mmol/L含み、硫酸(H2SO4)および水酸化ナトリウム(NaOH)によりpH3.0に調整された分散液Xを調製する。上記分散液Xを25℃で24時間静置した後、高速冷却遠心機(ベックマン・コールター社製、装置名「Avanti HP-301」、ロータ名「JA−30.50」、以下の溶液Yの測定においても同じ。)を使用して、温度25℃、回転数20000rpmで20分間遠心分離し、上澄みXを取り出す。この上澄みXの全有機炭素(TOC)をTOC計(島津製作所社製、装置名「TOC−5000A」、以下の上澄みYの測定においても同じ。)で測定し、これをX(ppm)とする。
(ii)上記コロイダルシリカを使用しない他は分散液Xを調製したのと同様にして、pH3.0に調整された溶液Yを調製する。この溶液Yを25℃で24時間静置した後、高速冷却遠心機を使用して、温度25℃、回転数20000rpmで20分間遠心分離し、上澄みYを取り出す。この上澄みYの全有機炭素(TOC)をTOC計で測定し、これをY(ppm)とする。
(iii)上記(i)および(ii)の測定により得られたXおよびYに基づいて、次式:AS=(Y−X)/Y×100;によりシリカ吸着率ASを算出する。
なお、上記シリカ吸着率ASの測定方法に用いられるコロイダルシリカ(日揮触媒化成(株)製、製品名「スフェリカ#300」)は、ケイ酸アルカリ含有液に由来するコロイダルシリカであって、防止剤Bのシリカへの吸着しやすさを評価するためのSiO2表面を提供する測定試薬である。したがって、ここに開示される研磨用組成物に用いられるシリカSは、上記測定方法に用いられるコロイダルシリカに限定されない。もっとも、上記測定方法に用いられるコロイダルシリカを研磨用組成物の構成成分として利用することは妨げられない。
特に限定するものではないが、ここに開示される防止剤Bがフィルム状物質の付着防止に寄与し得る理由は、例えば以下のように考えられる。すなわち、シリカ吸着率ASは、その値が大きいほど水中においてシリカ(SiO2)に吸着し易い物質であることを表す。したがって、シリカ吸着率ASが20%以上の防止剤Bは、水中において、上記フィルム状物質に対して吸着し易い性質を有するといえる。フィルム状物質に吸着した防止剤Bは、該フィルム状物質と研磨対象物との間に介在することで、フィルム状物質と研磨対象物との密着を妨げる機能を発揮し得る。このことによってフィルム状物質の研磨対象物への付着が効果的に防止されるものと考えられる。特に、研磨対象物がガラス基板等のガラス材料である場合には、防止剤Bが研磨対象物に対しても吸着し易いため、該防止剤Bによってフィルム状物質と研磨対象物との密着をより効果的に妨げることができる。したがって、ここに開示される技術の適用効果がよりよく発揮され得る。
防止剤Bの種類や組成等は、シリカ吸着率ASが上述する下限値以上である限りにおいて、特に限定されない。例えば、防止剤Bは、水中において少なくともその一部が電離してカチオンまたはアニオンとなり得るイオン性化合物(カチオン性化合物、アニオン性化合物または両性化合物)であってもよい。また、防止剤Bは非イオン性化合物であってもよい。好適なシリカ吸着率ASが得られやすいことから、防止剤Bとして非イオン性化合物が好適に採用され得る。特に、酸性(例えばpH5以下、好ましくは4以下)条件下において用いられる防止剤Bとして、非イオン性化合物を好ましく選択し得る。
より高いフィルム状物質付着防止効果を得る観点から、防止剤Bのシリカ吸着率ASは、25%以上であることが好ましく、より好ましくは50%以上(例えば60%以上、典型的には70%以上)であり、さらに好ましくは80%以上(例えば90%以上)である。シリカ吸着率ASが大きい防止剤Bによると、フィルム状物質の付着防止効果がよりよく発揮される傾向にある。
ここに開示される防止剤Bの一好適例として、ポリオキシエチレン誘導体が挙げられる。ここでポリオキシエチレン誘導体とは、ポリオキシエチレン構造(ポリオキシエチレン鎖)を含む化合物をいう。例えば、非イオン性化合物であるポリオキシエチレン誘導体が好適に採用され得る。このようなポリオキシエチレン誘導体の例としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン等が挙げられる。
ここに開示される防止剤Bがポリオキシエチレン誘導体である場合、該化合物のエチレンオキサイド(EO)付加モル数は、2以上であればよく、特に限定されない。好適なシリカ吸着率が得られやすいことから、通常は、EO付加モル数が4〜30であるポリオキシエチレン誘導体が好ましい。また、水への分散性の観点から、ポリオキシエチレン誘導体のEO付加モル数は、6〜20であることが好ましく、より好ましくは8〜20、さらに好ましくは10〜20である。好ましい一態様において、EO付加モル数12〜20(より好ましくは14〜20、典型的には16〜20、例えば18〜20)の防止剤Bを用いることができる。
ここに開示される防止剤Bがポリオキシエチレン誘導体である場合、該防止剤Bは、ポリオキシエチレン鎖に加えて、疎水性基を有していることが好ましい。好ましい一態様において、上記疎水性基は、上記ポリオキシエチレン鎖の末端に結合している。かかる構造の防止剤Bによると、フィルム状物質の付着を防止する効果がよりよく発揮される傾向にある。このことによって、フィルム状物質の付着に起因する凸欠陥が低減され、より表面品質のよい研磨物が実現され得る。
上記疎水性基の好適例として、炭化水素基およびハロゲン化炭化水素基が挙げられる。上記炭化水素基は、例えば、アルキル基、アルケニル基、アルカジエニル基、アルカトリエニル基、アルキニル基、シクロアルキル基、ビシクロアルキル基、トリシクロアルキル基、シクロアルケニル基、シクロアルカジエニル基、アリール基、アラルキル基、アルコキシ基およびアルコキシアルキル基からなる群から選択され得る。上記ハロゲン化炭化水素基は、上に列挙した炭化水素基における水素原子の一部または全部がF,Cl、Br等のハロゲン原子で置換されたものであり得る。例えば、上記疎水性基が炭化水素基である防止剤Bが好ましい。上記疎水性基は、脂肪族基であることが好ましく、鎖状脂肪族基であることがより好ましい。
上記疎水性基(例えばアルキル基)の炭素数は特に限定されず、例えば1〜36であり得る。上記炭素数は、通常、4以上であることが適当であり、好ましくは6以上、より好ましくは8以上、例えば10以上であり得る。疎水性基の炭素数が多くなると、シリカへの吸着性は向上する傾向にある。このことはフィルム状物質の研磨対象物への付着を防止する観点から好ましい。また、上記疎水性基の炭素数は、通常、32以下であることが適当であり、好ましくは28以下、より好ましくは24以下、さらに好ましくは22以下、例えば20以下である。疎水性基の炭素数が少なくなると、防止剤Bの水に対する溶解性または分散性が向上する傾向にある。このことは、防止剤Bを含む研磨用組成物の分散安定性の観点から好ましい。好ましい一態様において、上記疎水性基の炭素数が12〜24(例えば14〜20)であるポリオキシエチレン誘導体を防止剤Bとして採用し得る。このような防止剤Bによると、より良好なフィルム状物質付着防止効果が発揮され得る。
ここに開示される技術は、上記防止剤Bがポリオキシエチレンアルキルエーテル(以下、POEアルキルエーテルと表記することがある。)である態様で好ましく実施され得る。上記POEアルキルエーテルのEO付加モル数としては、上述したポリオキシエチレン誘導体において採用し得るEO付加モル数を適用することができる。例えば、EO付加モル数が6〜20(より好ましくは10〜20、さらに好ましくは12〜20、より好ましくは14〜20、典型的には16〜20、例えば18〜20)の防止剤Bを用いることができる。上記POEアルキルエーテルにおけるアルキル基の構造および炭素数は、上述したポリオキシエチレン誘導体において採用し得る疎水性基がアルキル基である場合と同様であり得る。例えば、上記アルキル基が炭素数1〜20(典型的には8〜20、好ましくは10〜20、より好ましくは12〜20、さらに好ましくは14〜20)の鎖状アルキル基(例えば直鎖アルキル基)である防止剤Bが好ましい。
ここに開示される技術における防止剤Bは、上述のような化合物のいずれか1種であってもよく、2種以上の混合物であってもよい。
ここに開示される防止剤BのHLB(Hydrophile−Lipophile Balance)値は特に限定されない。水に対する溶解性または分散性の観点から、HLB値が11以上である防止剤Bを好ましく採用し得る。フィルム状物質の付着防止効果をよりよく発揮する観点から、上記HLB値は12以上とすることがより好ましく、さらに好ましくは13以上(例えば14以上)であり、特に好ましくは15以上である。防止剤BのHLB値の上限は特に限定されないが、通常は19以下であることが適当であり、好ましくは18以下、より好ましくは17以下(例えば16以下)である。上述する範囲のHLB値を有する防止剤Bは、好適なシリカ吸着率ASを示す傾向があり、フィルム状物質の研磨対象物への付着防止効果を好適に発揮し得る。なお、ここに開示される研磨用組成物が、HLB値の異なる複数種類の防止剤Bを含有する場合には、上記HLB値は各防止剤BのHLB値の加重平均(重量基準)とする。
防止剤Bの分子量は特に限定されず、例えば200〜5000程度であり得る。良好なフィルム付着防止効果を得る観点から、防止剤Bの分子量は、通常、400以上が適当であり、500以上が好ましく、600以上がより好ましく、700以上(例えば800以上)がさらに好ましい。また、研磨効率の観点から、防止剤Bの分子量は、4000以下が適当であり、3000以下が好ましく、2500以下がより好ましく、2000以下(例えば1500以下)がさらに好ましい。
ここに開示される研磨用組成物における防止剤Bの含有量(複数種類の防止剤Bを含有する場合にはそれらの合計量)は特に限定されず、使用目的や使用態様等に応じて所望の効果が得られるように適宜設定することができる。好ましい一態様において、研磨用組成物における防止剤Bの含有量は、例えば0.001mmol/L以上とすることができ、フィルム状物質の付着防止効果をよりよく発揮する観点から通常は0.01mmol/L以上とすることが適当であり、0.1mmol/L以上が好ましく、0.2mmol/L以上がより好ましく、0.3mmol/L以上(例えば0.5mmol/L以上)がさらに好ましい。また、研磨用組成物における防止剤Bの含有量は、例えば100mmol/L以下とすることができ、研磨効率等の観点から通常は10mmol/L以下とすることが適当であり、5mmol/L以下が好ましく、3mmol/L以下がより好ましい。
特に限定するものではないが、100gのシリカSに対する防止剤Bの含有量は、例えば0.01mmol以上とすることができ、フィルム状物質の付着防止効果をよりよく発揮する観点から通常は0.05mmol以上が適当であり、0.1mmol以上が好ましく、0.3mmol以上がより好ましい。また、100gのシリカSに対する防止剤Bの含有量は、例えば10mmol以下とすることができ、研磨効率等の観点から通常は5mmol以下が適当であり、3mmol以下が好ましい。ここに開示される防止剤Bは、例えば、100gのシリカSに対する含有量が1mmol以下である態様においても良好なフィルム状物質付着防止効果を発揮し得る。
(シリカS以外の砥粒)
ここに開示される研磨用組成物SBは、シリカS以外の砥粒を含んでいてもよい。シリカS以外の砥粒の材質や性状は特に制限されず、研磨用組成物の使用目的や使用態様等に応じて適宜選択することができる。シリカS以外の砥粒としては、無機粒子、有機粒子、および有機無機複合粒子のいずれも使用可能である。無機粒子の具体例としては、シリカ粒子、アルミナ粒子、セリア粒子、チタニア粒子、ジルコニア粒子、酸化クロム粒子、酸化マグネシウム粒子、二酸化マンガン粒子、酸化亜鉛粒子、ベンガラ粒子等の酸化物粒子;窒化ケイ素粒子、窒化ホウ素粒子等の窒化物粒子;炭化ケイ素粒子、炭化ホウ素粒子等の炭化物粒子;ダイヤモンド粒子;炭酸カルシウムや炭酸バリウム等の炭酸塩;等が挙げられる。有機粒子の具体例としては、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)粒子やポリ(メタ)アクリル酸粒子(ここで(メタ)アクリル酸とは、アクリル酸およびメタクリル酸を包括的に指す意味である。)、ポリアクリロニトリル粒子等が挙げられる。シリカS以外の砥粒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
シリカS以外の砥粒としては、無機粒子が好ましく、なかでも金属または半金属の酸化物からなる粒子が好ましい。上記砥粒はシリカ粒子であってもよい。シリカS以外のシリカ粒子(すなわち、ケイ酸アルカリ含有液に由来するコロイダルシリカ以外のシリカ粒子。以下「シリカNS」ともいう。)の例としては、ケイ酸アルカリ含有液を原料に用いる方法以外の方法により製造されたコロイダルシリカ(例えば、アルコキシド法コロイダルシリカ)、乾式法シリカ(例えばフュームドシリカ)等が挙げられる。
特に限定するものではないが、シリカS以外の砥粒としては、上述したシリカSにおける好ましい平均一次粒子径D1、平均二次粒子径D2およびD2/D1の1または2以上を満たすものを好ましく採用し得る。
特に限定するものではないが、ここに開示される研磨用組成物SBに含まれる砥粒に占めるシリカSの割合は、典型的には50重量%以上、好ましくは75重量%以上、より好ましくは90重量%以上、さらに好ましくは95重量%以上である。ここに開示される技術は、砥粒が実質的にシリカSから構成される態様で好ましく実施され得る。なお、シリカSの含有量にかかわらず、フィルム状物質が含まれ得る限り、ここに開示される技術の適用効果は発揮され得る。したがって、ここに開示される技術は、研磨用組成物に含まれる砥粒に占めるシリカSの割合が50重量%未満、例えば25重量%以下、あるいは10重量%以下、さらには5重量%以下である態様でも好ましく実施され得る。
(pH)
研磨用組成物SBのpHは特に制限されない。研磨用組成物SBのpHは、例えば、pH12.0以下(典型的にはpH1.0〜12.0)とすることができ、pH10.0以下(典型的にはpH1.0〜10.0)としてもよい。好ましい一態様において、研磨用組成物SBのpHは、pH7.0以下(例えばpH1.0〜7.0)とすることができ、pH6.0以下(典型的にはpH1.2〜6.0、例えばpH1.2〜5.5)とすることがより好ましく、pH5.0以下(例えばpH1.5〜5.0)とすることがさらに好ましい。研磨用組成物SBのpHは、例えばpH4.5以下(典型的にはpH2.0〜4.5、好ましくはpH2.5〜4.3、より好ましくはpH2.5〜4.0)とすることができる。上記pHは、例えば、ガラス磁気ディスク基板等のガラス材料の研磨に用いられる研磨液(例えばポリシング用の研磨液)に好ましく適用され得る。ガラス材料の研磨において、より平滑性の高い表面を得るために、研磨用組成物SBのpHとしてpH2.5を超える範囲(典型的にはpHが2.5より大きく4.3以下の範囲、例えばpHが2.5より大きく以上3.8以下の範囲)を好ましく採用することができる。pHの調整には、必要に応じて後述するpH調整剤等を使用することができる。
(その他の成分)
ここに開示される研磨用組成物SBは、本発明の効果が著しく妨げられない範囲で、酸やアルカリ剤等のpH調整剤、酸化剤、キレート剤、界面活性剤、水溶性高分子、防錆剤、防腐剤、防カビ剤等の、研磨用組成物(例えば磁気ディスク基板用の研磨用組成物)に使用され得る公知の添加剤を、必要に応じてさらに含有してもよい。ここに開示される技術は、また、研磨用組成物SBが酸化剤、水溶性高分子、界面活性剤、キレート剤等の添加剤を実質的に含まない態様で実施されてもよい。かかる組成の研磨用組成物SBは、例えば、ガラス材料(ガラス磁気ディスク基板等)の研磨において用いられる研磨用組成物として好適である。ここに開示される研磨用組成物SBは、例えば、シリカSおよび不可避的に含有され得るフィルム状物質、溶媒、防止剤BおよびpH調整剤から実質的に構成されていてもよい。
研磨用組成物SBに含ませ得る酸の例としては、炭酸、塩酸、硝酸、リン酸、次亜リン酸、亜リン酸、ホスホン酸、硫酸、ホウ酸、フッ化水素酸、オルトリン酸、ピロリン酸、ポリリン酸、メタリン酸、ヘキサメタリン酸等の無機酸;有機カルボン酸、有機ホスホン酸、有機スルホン酸等の有機酸;が挙げられるが、これらに限定されない。有機酸としては、炭素数が1〜18程度のものが好ましく、炭素数が1〜10程度のものがより好ましい。有機酸の具体例としては、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、ニコチン酸等の飽和カルボン酸;クロトン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、リシノレン酸等の不飽和カルボン酸;シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、イミノ二酢酸等の飽和ジカルボン酸および不飽和ジカルボン酸;グリコール酸、乳酸、リンゴ酸、クエン酸、酒石酸、グルコン酸、マンデル酸等のヒドロキシカルボン酸;メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、10−カンファースルホン酸、イセチオン酸、タウリン等のスルホン酸;メチルアシッドホスフェート、エチルアシッドホスフェート、エチルグリコールアシッドホスフェート、イソプロピルアシッドホスフェート、フィチン酸、1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸等のホスホン酸;等が挙げられる。研磨効率の観点から好ましい酸として、硫酸、リン酸等の無機酸が挙げられる。マレイン酸、クエン酸等のカルボン酸(例えば、2または3以上のカルボキシ基を有する多価カルボン酸)を用いることにより、防止剤Bの効果がよりよく発揮される傾向にある。マレイン酸、クエン酸、イセチオン酸等の有機酸を用いることにより、より高い平滑性が実現される傾向にある。また、例えばガラス材料の研磨に用いられる研磨用組成物において、酸化力の低い酸(例えば、標準水素電極に対する標準酸化還元電位が0.5V以下の酸、具体的には硫酸、クエン酸等)を好ましく採用し得る。なお、酸は、該酸との塩の形態で用いられてもよい。酸の塩としては特に制限はなく、例えば適当な金属やアンモニウム等との塩が挙げられる。酸およびその塩は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
酸を含む態様において、研磨用組成物SB中における該酸の含有量(複数の酸を含む態様では、それらの合計含有量)は、所望のpHが得られるように適宜設定することができる。特に限定するものではないが、酸の含有量は、例えば0.1g/L以上とすることができ、研磨レート等の観点から、好ましくは0.5g/L以上、より好ましくは1g/L以上、さらに好ましくは5g/L以上である。また、研磨組成物SBの貯蔵安定性等の観点から、上記含有量は、70g/L以下が適当であり、好ましくは50g/L以下、例えば30g/L以下である。
アルカリ剤の例としては、アルカリ金属塩(水酸化物塩を含む。以下同じ。)、アルカリ土類金属塩またはアンモニウム塩が挙げられる。好適例としては、水酸化カリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸アンモニウム、リン酸カリウム、リン酸水素カリウム、リン酸ナトリウム、リン酸水素ナトリウム、リン酸水素アンモニウム、クエン酸カリウム、シュウ酸カリウム、シュウ酸水素アンモニウム、酒石酸カリウム、酒石酸カリウムナトリウム、酒石酸アンモニウム、酒石酸水素アンモニウム、臭素酸カリウム、ソルビン酸カリウム、塩素酸カリウム、過塩素酸カリウム、硝酸カルシウム、グルコン酸カリウム、コハク酸カリウム、フッ化カリウム、フッ化カルシウム、フッ化アンモニウム、過ヨウ素酸カリウム、フェリシアン化カリウム、酢酸アンモニウム、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム、水酸化テトラブチルアンモニウムが挙げられる。なかでも、水酸化カリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸アンモニウム、リン酸カリウム、リン酸水素カリウム、リン酸ナトリウム、リン酸水素ナトリウム、リン酸水素アンモニウムがより好ましい。このようなアルカリ剤は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
アルカリ剤を含む態様において、該アルカリ剤の含有量(複数のアルカリ剤を含む態様では、それらの合計含有量)は、所望のpHが得られるように適宜設定することができる。特に限定するものではないが、アルカリ剤の含有量は、例えば0.1g/L以上とすることができる。上記含有量は、研磨レート等の観点から、好ましくは0.5g/L以上、より好ましくは1g/L以上、さらに好ましくは5g/L以上である。また、研磨組成物の貯蔵安定性等の観点から、上記含有量は、70g/L以下が適当であり、好ましくは50g/L以下、例えば30g/L以下である。
好ましい一態様において、上述した酸およびアルカリ剤を、pHの緩衝作用が発揮され得るように組み合わせて使用することができる。特に限定するものではないが、このような緩衝系として、例えば、クエン酸とクエン酸ナトリウムのような弱酸とその強塩基塩との組合せや、硫酸と硫酸アンモニウムのような強酸とその弱塩基塩との組合せなどを利用することができる。
酸化剤の例としては、過酸化物、硝酸またはその塩、ペルオキソ酸またはその塩、過マンガン酸またはその塩、クロム酸またはその塩等が挙げられるが、これらに限定されない。このような酸化剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を適宜組み合わせて用いてもよい。酸化剤の具体例としては、過酸化水素、硝酸、硝酸鉄、硝酸アルミニウム、ペルオキソ二硫酸、過ヨウ素酸、臭素酸、過塩素酸、次亜塩素酸、過硫酸、それらの塩(例えばナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩)等、が挙げられる。好ましい酸化剤として、過酸化水素、硝酸鉄、ペルオキソ二硫酸および硝酸が例示される。このような酸化剤は、典型的には前述の酸と合わせて用いられることにより、研磨促進剤として効果的に作用し得る。例えば、金属材料(例えばニッケルリンメッキされた磁気ディスク基板)の研磨に用いられる研磨用組成物において、このような酸化剤を好ましく使用し得る。
酸化剤を含む態様において、研磨用組成物SB中における該酸化剤の含有量(複数の酸化剤を含む場合には、それらの合計含有量)は、例えば0.01g/L以上とすることができる。上記含有量は、研磨レート等の観点から、好ましくは0.1g/L以上、より好ましくは0.5g/L以上である。また、経済性等の観点から、酸化剤の含有量は、100g/L以下が適当であり、好ましくは75g/L以下、より好ましくは60g/L以下である。
ここに開示される研磨用組成物SBは、該研磨用組成物が酸化剤を実質的に含まない態様で好ましく実施され得る。例えば、研磨対象物がシリコンウェーハである場合、研磨用組成物中に酸化剤が含まれていると、当該組成物が研磨対象物に供給されることで該研磨対象物の表面が酸化されて酸化膜が生じ、これにより研磨レートが低下してしまうことがあり得るためである。また、研磨対象物がガラス材料(例えば、ガラス磁気ディスク基板)である場合にも、通常、酸化剤は不要である。例えば、少なくとも過酸化水素、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウムおよびジクロロイソシアヌル酸ナトリウムのいずれをも実質的に含有しない研磨用組成物SBが好ましい。なお、研磨用組成物が酸化剤を実質的に含まないとは、少なくとも意図的には酸化剤を含有させないことをいう。したがって、原料や製法等に由来して微量(例えば、研磨用組成物中における酸化剤のモル濃度が0.0005モル/L以下、好ましくは0.0001モル/L以下、より好ましくは0.00001モル/L以下、特に好ましくは0.000001モル/L以下)の酸化剤が不可避的に含まれている研磨用組成物は、ここでいう酸化剤を実質的に含有しない研磨用組成物の概念に包含され得る。
ここに開示される研磨用組成物SBには、水溶性高分子を含有させてもよい。水溶性高分子を含有させることにより、研磨用組成物による研磨後の表面粗さ(例えば、磁気ディスク基板の表面粗さ)がより一層低減され得る。水溶性高分子の例としては、セルロース誘導体、デンプン誘導体、オキシアルキレン単位を含むポリマー、窒素原子を含有するポリマー、ビニルアルコール系ポリマー、スルホン酸基を有するポリマー、アクリル系ポリマー等が挙げられる。具体例としては、ヒドロキシエチルセルロース、プルラン、エチレンオキサイドとプロピレンオキサイドとのランダム共重合体やブロック共重合体、ポリビニルアルコール、ポリイソプレンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸、ポリアリルスルホン酸、ポリイソアミレンスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸またはその塩、ポリアクリル酸またはその塩、ポリ酢酸ビニル、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリロイルモルホリン、ポリアクリルアミド等が挙げられる。水溶性高分子は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。ここに開示される技術は、研磨用組成物SBが水溶性高分子を実質的に含まない態様でも好ましく実施され得る。
水溶性高分子を含む態様において、研磨用組成物SB中における該水溶性高分子の含有量(複数の水溶性高分子を含む態様では、それらの合計含有量)は、例えば0.01g/L以上とすることができる。上記含有量は、表面平滑性等の観点から、好ましくは0.05g/L以上、より好ましくは0.08g/L以上、さらに好ましくは0.1g/L以上である。また、研磨レート等の観点から、上記含有量は、10g/L以下とすることが適当であり、好ましくは5g/L以下、例えば1g/L以下である。
ここに開示される研磨用組成物SBには、任意成分として、界面活性剤(典型的には、分子量1×104未満の水溶性有機化合物)を含ませることができる。界面活性剤の使用により、研磨用組成物SBの分散安定性が向上し得る。界面活性剤としては、特に限定されず、公知のノニオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤および両性界面活性剤から選択される1種または2種以上を用いることができる。ここに開示される研磨用組成物SBは、任意成分としての界面活性剤を実質的に含まない態様でも好ましく実施され得る。
防腐剤および防カビ剤の例としては、イソチアゾリン系化合物、パラオキシ安息香酸エステル類、フェノキシエタノール等が挙げられる。
(研磨液)
ここに開示される技術において、研磨用組成物は、典型的には該研磨用組成物を含む研磨液の形態で研磨対象物に供給されて、その研磨対象物の研磨に用いられる。上記研磨液は、例えば、ここに開示されるいずれかの研磨用組成物を希釈(典型的には、水により希釈)して調製されたものであり得る。あるいは、研磨用組成物をそのまま研磨液として使用してもよい。すなわち、ここに開示される技術における研磨用組成物の概念には、研磨対象物に供給されて該研磨対象物の研磨に用いられる研磨液(ワーキングスラリー)と、希釈して研磨液として用いられる濃縮液(研磨液の原液)との双方が包含される。ここに開示される研磨用組成物を含む研磨液の他の例として、該組成物のpHを調整してなる研磨液が挙げられる。
研磨液における砥粒の含有量は特に制限されないが、通常は0.01重量%以上であり、0.05重量%以上であることが好ましく、より好ましくは0.1重量%以上、さらに好ましくは0.15重量%以上(例えば1重量%以上、典型的には3重量%以上)である。砥粒の含有量の増大によって、より高い研磨速度が実現され得る。経済性の観点から、通常、上記含有量は30重量%以下が適当であり、好ましくは25重量%以下、より好ましくは20重量%以下である。また、上記含有量は15重量%以下であってもよく、例えば10重量%以下とすることができ、5重量%以下(さらには2重量%以下、例えば1重量%以下)であってもよい。
(濃縮液)
ここに開示される研磨用組成物は、研磨対象物に供給される前には濃縮された形態(すなわち、研磨液の濃縮液の形態)であってもよい。このように濃縮された形態の研磨用組成物は、製造、流通、保存等の際における利便性やコスト低減等の観点から有利である。濃縮倍率は、例えば、体積換算で2倍〜100倍程度とすることができ、通常は2倍〜50倍程度が適当である。好ましい一態様に係る研磨用組成物の濃縮倍率は、例えば2倍〜10倍である。
このように濃縮液の形態にある研磨用組成物は、所望のタイミングで希釈して研磨液を調製し、その研磨液を研磨対象物に供給する態様で使用することができる。上記希釈は、典型的には、上記濃縮液に前述の溶媒を加えて混合することにより行うことができる。また、上記溶媒が混合溶媒である場合、該溶媒の構成成分のうち一部の成分のみを加えて希釈してもよく、それらの構成成分を上記溶媒とは異なる量比で含む混合溶媒を加えて希釈してもよい。また、後述するように多剤型の研磨用組成物においては、それらのうち一部の剤を希釈した後に他の剤と混合して研磨液を調製してもよく、複数の剤を混合した後にその混合物を希釈して研磨液を調製してもよい。
上記濃縮液における砥粒の含有量は、例えば50重量%以下とすることができる。研磨用組成物の安定性(例えば、砥粒の分散安定性)や濾過性等の観点から、通常、上記含有量は、好ましくは45重量%以下であり、より好ましくは40重量%以下である。好ましい一態様において、砥粒の含有量を30重量%以下としてもよく、20重量%以下(例えば15重量%以下)としてもよい。また、製造、流通、保存等の際における利便性やコスト低減等の観点から、砥粒の含有量は、例えば0.5重量%以上とすることができ、好ましくは1重量%以上、より好ましくは3重量%以上(例えば5重量%以上)である。
ここに開示される研磨用組成物は、一剤型であってもよく、二剤型を始めとする多剤型であってもよい。例えば、該研磨用組成物の構成成分のうち一部の成分を含むパートAと、残りの成分を含むパートBとが混合されて研磨対象物の研磨に用いられるように構成され得る。パートAとパートBとは、あらかじめ混合されてもよく、研磨対象物に至る供給ラインの途中で混合されてもよく、研磨対象物表面またはその直前で混合されてもよい。特に限定するものではないが、ここに開示される研磨用組成物SBは、例えば、シリカSを含むパートAと、防止剤Bを含むパートBとが混合されて研磨対象物の研磨に用いられるように構成され得る。パートAは、典型的にはシリカSと溶媒とを含む分散液であり得る。パートBは、防止剤Bと溶媒とを含む溶液または分散液であってもよく、実質的に防止剤Bから構成されてもよい。
<研磨対象物>
ここに開示される研磨用組成物は、種々の材質および形状を有する研磨対象物の研磨に適用され得る。研磨対象物の材質は、例えば、シリコン、アルミニウム、ニッケル、タングステン、銅、タンタル、チタン、ステンレス鋼等の金属もしくは半金属またはこれらの合金、およびそれらの材料を用いた半導体配線に使用される薄膜;石英ガラス、アルミノシリケートガラス、ガラス状カーボン等のガラス状物質;アルミナ、シリカ、サファイア、窒化ケイ素、窒化タンタル、炭化チタン等のセラミック材料;炭化ケイ素、窒化ガリウム、ヒ化ガリウム等の化合物半導体基板材料;ポリイミド樹脂等の樹脂材料;等であり得るが、これらに限定されない。また、これらのうち複数の材質により構成された研磨対象物であってもよい。研磨対象物の形状は特に制限されない。ここに開示される研磨用組成物は、例えば、板状や多面体状等の、平面を有する研磨対象物の研磨に好ましく適用され得る。
ここに開示される技術は、ガラス材料の研磨に好ましく適用され得る。ここで「ガラス材料の研磨」とは、研磨対象面の少なくとも一部がガラス材料により構成されている研磨対象物を研磨することをいい、全体がガラス材料により構成されている研磨対象物(典型的にはガラス基板)を研磨することを包含する。上記ガラス材料の例としては、アルミノシリケートガラス、ソーダライムガラス、ソーダアルミノケイ酸ガラス、アルミノボロシリケートガラス、ボロシリケートガラス、石英ガラス、結晶化ガラス等が挙げられる。結晶化ガラスの例としては、主結晶相がスポジューメン、ムライト、ホウ酸アルミニウム系結晶、β−石英固溶体、α−クオーツ、コージェライト、エンスタタイト、セルシアン、ウォラストナイト、アノーサイト、フォルステライト、リチウムメタシリケート、リチウムダイシリケート等であるものが挙げられる。ここに開示される研磨用組成物は、例えば、磁気ディスク用ガラス基板(ガラス磁気ディスク基板)やフォトマスク用ガラス基板等のガラス基板を研磨する用途に好適である。
ここに開示される技術は、ケイ酸を含有するガラス材料(以下「ケイ酸含有ガラス材料」ともいう。)の研磨に好ましく適用され得る。上記フィルム状物質は、上述のように少量のアルカリ金属を含有し得るシリケート化合物であり、ケイ酸含有ガラス材料においては該フィルム状物質が特に付着しやすく、かついったん付着したフィルム状物質が除去され難い。また、フィルム状物質とケイ酸含有ガラス材料とはこのように似た組成を有するため、ケイ酸含有ガラス材料を傷めずにフィルム状物質のみを除去する化学的処理条件を設定することが難しい。すなわち、フィルム状物質を除去するための化学的処理条件を厳しくすると、ケイ酸含有ガラス材料(研磨対象物)の表面品質の低下を招きやすい傾向にある。したがって、ケイ酸含有ガラス材料の研磨では、ここに開示される技術を適用してフィルム状物質の付着を防止することが特に有意義である。例えば、ケイ酸含有ガラス材料により構成された表面を有するガラス基板への適用が好ましく、高レベルの欠陥低減が求められるガラス磁気ディスク基板への適用が特に好ましい。
ここに開示される研磨用組成物は、研磨後の表面の欠陥(特に、概ね平坦な形状(卓状等)の凸欠陥)を高度に低減し得ることから、磁気ディスク基板の研磨に好ましく適用され得る。例えば、アルミノシリケートガラス等のガラス材料により構成されたガラス磁気ディスク基板や、アルミニウム合金の表面にニッケルリンめっき層を有する磁気ディスク基板(Ni−P基板)を研磨する用途に好適である。ガラス磁気ディスク基板の研磨への適用が特に好ましい。ここでいうアルミノシリケートガラスには、結晶構造を有しているものや、化学強化処理を施したものが含まれ得る。化学強化処理は研磨後に行ってもよい。
<研磨方法>
ここに開示される研磨用組成物SBは、研磨対象物のポリシング(精密研磨)に特に好適である。したがって、この明細書により、研磨用組成物SBを用いたポリシング工程を含む研磨物の製造方法が提供される。研磨用組成物SBでポリシングされる研磨対象物は、ラッピング(粗研磨)、グラインディング、めっき等の工程を経て得られた研磨対象物であり得る。研磨用組成物SBは、シリカSを含み、したがって典型的にはフィルム状物質を含むにもかかわらず、該フィルム状物質の研磨対象物への付着を防止剤Bによって抑制することができる。換言すると、上記防止剤Bが、研磨用組成物SBに含まれ得るフィルム状物質の無害化剤として機能し得る。これにより、シリカSを使用することの利点を享受しつつ、上記フィルム状物質の付着による凸欠陥の発生を防ぎ、より高品質の表面を実現することができる。また、研磨用組成物SBを用いたポリシング工程を含む研磨物の製造方法によると、高品質の表面を有する研磨物を効率よく製造することができる。
研磨用組成物SBは、研磨後の表面において凸欠陥を高度に低減し得ることから、研磨対象物のファイナルポリシングに特に好ましく使用され得る。したがって、この明細書によると、研磨用組成物SBを用いたファイナルポリシング工程を含む研磨物の製造方法(例えば、ガラス磁気ディスク基板その他の磁気ディスク基板の製造方法)が提供される。なお、ファイナルポリシングとは、目的物の製造プロセスにおける最後のポリシング工程(すなわち、その工程の後にはさらなるポリシングを行わない工程)を指す。ただし、研磨用組成物SBを用いるファイナルポリシング工程の後工程として、後述する表面処理液を用いる表面処理工程を行うことは許容され得る。
ここに開示される研磨用組成物SBは、また、ファイナルポリシングよりも上流のポリシング工程に用いられてもよい。ここで、ファイナルポリシングよりも上流のポリシング工程とは、粗研磨工程と最終研磨工程との間の予備研磨工程を指す。予備研磨工程は、典型的には少なくとも1次ポリシング工程を含み、さらに2次、3次・・・等のポリシング工程を含み得る。ここに開示される研磨用組成物は、例えば、ファイナルポリシングの直前に行われるポリシング工程に用いられてもよい。
特に限定するものではないが、研磨用組成物SBを用いるポリシング工程は、例えば以下のようにして実施することができる。すなわち、ここに開示されるいずれかの研磨用組成物SBを含有する研磨液を用意する。上記研磨液を用意することには、研磨用組成物に、濃度調整(例えば希釈)、pH調整等の操作を加えて研磨液を調製することが含まれ得る。あるいは、上記研磨用組成物をそのまま研磨液として使用してもよい。また、多剤型の研磨用組成物の場合、上記研磨液を用意することには、それらの剤を混合すること、該混合の前に1または複数の剤を希釈すること、該混合の後にその混合物を希釈すること、等が含まれ得る。
次いで、その研磨液を研磨対象物に供給し、常法により研磨する。研磨機としては、研磨対象物の形状や研磨目的に応じた公知の研磨機を適宜採用し得る。例えば、ガラス基板のポリシングを行う場合には、ラッピング工程を経たガラス基板を研磨機にセットし、該研磨機の研磨パッドを通じて上記ガラス基板の表面(研磨対象面)に研磨液を供給する。典型的には、上記研磨液を連続的に供給しつつ、ガラス基板の表面に研磨パッドを押しつけて両者を相対的に移動(例えば回転移動)させる。研磨パッドの種類は特に限定されない。例えば、不織布タイプ、スウェードタイプ、砥粒を含むもの、砥粒を含まないもの等のいずれを用いてもよい。砥粒を含まない研磨パッドの使用が好ましく、なかでもスウェードタイプの研磨パッドが好ましい。
研磨液の供給終了に続いてリンス処理を行ってもよい。このリンス処理は、典型的には、研磨液に代えてリンス液を研磨対象面に供給することにより行われる。リンス液としては、特に限定されないが、例えば水を好ましく用いることができる。あるいは、シリカSその他の固形分を含まない他は研磨液と同じ成分を含むリンス液を使用してもよい。
好ましい一態様において、上記リンス処理に使用するリンス液には、防止剤Bを含有させることができる、したがって、この明細書によると、ここに開示されるいずれかの防止剤Bを含み、典型的にはさらに溶媒(例えば水)を含むリンス液が提供される。また、上記防止剤Bを含むリンス液調製用組成物が提供される。上記リンス液は、シリカSを含む研磨液(防止剤Bを含む研磨液でもよく、防止剤Bを含まない研磨液でもよい。)に続いて研磨対象物に供給される態様で好ましく使用され得る。かかる組成のリンス液によると、リンス処理の開始時に残留し得る研磨液中のフィルム状物質が研磨対象物に付着することが防止され得る。また、リンス処理により研磨対象物から取り除かれたフィルム状物質が研磨対象物に再付着することが防止され得る。したがって、上記リンス液の使用により、フィルム状物質の付着による凸欠陥が低減され得る。
上記リンス液が防止剤Bを含む場合、該防止剤Bの含有量(複数種類の防止剤Bを含有する場合にはそれらの合計量)は特に限定されない。例えば、研磨組成物SBに適用され得る防止剤Bの含有量(濃度)を、上記リンス液においても採用することができる。
上記リンス液のpHは特に限定されない。例えば、研磨組成物SBに適用され得るpHを、上記リンス液においても採用することができる。pHの調整には、必要に応じて、研磨用組成物SBと同様のpH調整剤等を使用することができる。好ましい一態様において、上記リンス液は概ね中性(例えばpH6〜pH8)であってもよい。上記リンス液は、防止剤Bおよび水から実質的に構成される組成であってもよい。
この明細書により開示される事項には、さらに、ここに開示されるいずれかの防止剤Bを含むリンス液を使用して研磨対象物のリンス処理を行うリンス処理方法、該リンス処理を含む研磨方法および研磨物の製造方法、ならびに上記リンス処理を含む欠陥低減方法が含まれる。
ここに開示される研磨物製造方法は、研磨用組成物SBを用いるポリシング工程よりも前に行われるポリシング工程(以下「工程(P)」ともいう。)をさらに含み得る。工程(P)を含む態様によると、ポリシング工程全体の所要時間を短縮して研磨物の生産性を高める効果が実現され得る。また、工程(P)を実施することにより、例えば、ポリシング工程の開始時に存在する欠陥(例えば凹み欠陥)が効率よく解消され得る。工程(P)は、1種類の研磨用組成物を使用する1つのポリシング工程であってもよく、2種以上の研磨用組成物を順次に使用して行われる2以上のポリシング工程を含んでもよい。
工程(P)に使用する研磨用組成物(以下「研磨用組成物(P)」ともいう。)は特に限定されない。例えば、砥粒としては、研磨用組成物SBに使用し得る材料として例示したシリカS以外の砥粒およびシリカSのいずれも使用可能である。研磨用組成物(P)がシリカSを含む場合、該シリカSは、研磨用組成物SBに含まれるシリカSと同一であってもよく、異なってもよい。研磨用組成物(P)に含まれるシリカSと、研磨用組成物SBに含まれるシリカSとの相違は、例えば、粒子径、粒子形状、密度その他の特性の1または2以上における相違であり得る。
研磨用組成物(P)に含まれる砥粒の平均一次粒子径D1Pは、研磨用組成物SBに含まれるシリカSの平均一次粒子径D1Sと同等またはそれ以上であることが好ましい。例えば、D1P/D1Sを1〜100とすることができ、通常は2〜50とすることが適当である。好ましい一態様において、研磨用組成物(P)に含まれる砥粒として、D1Pが10nm〜1000nm(より好ましくは20nm〜700nm、さらに好ましくは30nm〜500nm)程度のものを好ましく採用し得る。
研磨用組成物(P)が砥粒としてシリカ粒子を含む場合、該シリカ粒子としては、シリカSおよびシリカNSのいずれも使用可能である。特に限定するものではないが、平均一次粒子径D1が10nm〜1000nm(より好ましくは20nm〜700nm、さらに好ましくは30nm〜500nm、例えば30nm〜200nm)程度のシリカ粒子を研磨用組成物(P)の砥粒として好ましく採用し得る。研磨用組成物SBに含まれるシリカSの1〜50倍(より好ましくは1.5〜30倍、例えば2〜20倍)の平均一次粒子径D1を有するシリカ粒子が好ましい。
研磨用組成物(P)が砥粒としてシリカ粒子を含む場合、該シリカ粒子の形状(外形)は特に限定されず、球形であってもよく、非球形であってもよい。非球形の具体例としては、ピーナッツ形状(すなわち、落花生の殻の形状)、繭形状、突起付き形状(例えば、金平糖形状)、ラグビーボール形状等が挙げられる。シリカ粒子は、同形状の1種を単独で使用してもよく、形状の異なる2種以上を組み合わせて使用してもよい。なかでも、ピーナッツ形状、繭形状、突起付き形状を有するシリカ粒子が好ましく、突起付きシリカ粒子がより好ましい。
研磨対象物がガラス材料である場合、研磨用組成物(P)に好ましく使用し得る砥粒として、セリア、ジルコニア、チタニアおよびシリカが例示される。なかでも好ましいものとしてセリアおよびシリカが挙げられる。セリアとしては、平均一次粒子径D1が10nm〜1000nm(より好ましくは30nm〜700nm、さらに好ましくは100nm〜500nm)程度の粒子を好ましく使用し得る。
研磨用組成物(P)における砥粒含有量は特に限定されない。例えば、上述した研磨液または濃縮液と同様の砥粒含有量を、研磨用組成物(P)における砥粒の含有量にも適用することができる。
研磨用組成物(P)は、典型的には、上記のような砥粒を分散させる溶媒を含む。溶媒としては、研磨用組成物SBと同様のものを好ましく用いることができる。
研磨用組成物(P)のpHは特に制限されず、例えばpH12.0以下(典型的にはpH1.0〜12.0)とすることができ、pH10.0以下(典型的にはpH1.0〜10.0)としてもよい。好ましい一態様において、研磨用組成物(P)のpHは、pH9.0以下(例えばpH2.0〜9.0)とすることができ、pH8.0以下(典型的にはpH2.5〜8.0、例えばpH3.0〜8.0)とすることがより好ましい。上記pHは、例えば、ガラス磁気ディスク基板等のガラス基板の製造において好ましく適用され得る。砥粒としてセリアを用いる場合、研磨用組成物(P)のpHは、例えばpH3.0〜9.0とすることができ、pH4.0〜8.0としてもよく、さらにはpH5.0〜7.5としてもよい。pHの調整には、必要に応じて、研磨用組成物SBと同様のpH調整剤等を使用することができる。
研磨用組成物(P)は、必要に応じて、研磨用組成物SBと同様の公知の添加剤(例えば水溶性高分子等)を含有してもよい。添加剤として水溶性高分子を含む場合、その使用量は、通常、0.05g/L〜20g/Lとすることが適当であり、1g/L〜10g/Lとすることが好ましい。ここに開示される技術は、研磨用組成物(P)が酸化剤を実質的に含まない態様で好ましく実施され得る。かかる組成の研磨用組成物(P)は、例えば、研磨対象物がガラス材料(ガラス磁気ディスク基板等)である態様において好ましく採用され得る。好ましい一態様において、研磨用組成物(P)は、砥粒、溶媒、pH調整剤(例えば酸)および必要に応じて使用される水溶性高分子から実質的に構成され得る。
工程(P)は、研磨パッドを有する研磨機を用い、該研磨機にセットされている研磨対象物と上記研磨パッドとの間に研磨用組成物(P)を含有する研磨液を供給しながら上記研磨対象物と上記研磨パッドとを相対移動させる態様で好ましく実施され得る。研磨機としては、研磨対象物の形状や研磨目的に応じた公知の研磨機を適宜採用し得る。工程(P)に使用する研磨パッドの種類は特に限定されない。例えば、不織布タイプ、スウェードタイプ、砥粒を含むもの、砥粒を含まないもの等のいずれを用いてもよい。砥粒を含まない研磨パッドの使用が好ましく、なかでもスウェードタイプの研磨パッドが好ましい。研磨液の供給終了に続いてリンス処理を行ってもよい。
ここに開示されるフィルム状物質付着防止剤(防止剤B)は、上述のように、シリカSを含む研磨用組成物の構成成分として好ましく用いられ得る。シリカSを含む研磨用組成物に防止剤Bを含有させることによって、上記組成物に含まれ得るフィルム状物質を無害化することができる。より具体的には、上記フィルム状物質の研磨対象物への付着を防止し、該フィルム状物質に起因する凸欠陥を低減することができる。したがって、この明細書によると、シリカSおよびフィルム状物質を含む研磨用組成物に防止剤Bを含有させることを特徴とする、上記フィルム状物質の無害化方法が提供される。
<表面処理液>
ここに開示される防止剤Bは、また、研磨対象物を処理する表面処理液の構成成分として好ましく用いられ得る。防止剤Bを含む表面処理液(以下「表面処理液B」ともいう。)の処理対象である研磨対象物として、表面に付着したフィルム状物質を有し得る研磨対象物が挙げられる。かかる研磨対象物の好適例として、シリカSを含む研磨用組成物(防止剤Bを含む研磨用組成物でもよく、防止剤Bを含まない研磨用組成物でもよい。)を用いて研磨された研磨対象物が挙げられる。表面処理液Bを用いる表面処理によると、該表面処理液Bが防止剤Bを含むことにより、処理対象の研磨対象物から除去されたフィルム状物質の該研磨対象物への再付着が抑制され得る。このことによって研磨対象物の表面からフィルム状物質を効率よく除去することができる。したがって、表面処理液Bによると、表面処理後の研磨対象物において、フィルム状物質に起因する凸欠陥を効果的に低減することができる。
ここで、防止剤Bを含む上記表面処理液(表面処理液B)により行われる「表面処理」とは、該表面処理液を研磨対象物の表面に適用して行われる処理を包括的に指す概念である。ここでいう表面処理は、研磨対象物の表面に存在し得るフィルム状物質を該表面から取り除く効果を発揮し得る限り、研磨対象物の洗浄、リンス、研磨等として把握される処理であり得る。
ここに開示される表面処理液Bは、典型的には、防止剤Bを溶解または分散させる溶媒を含む。溶媒としては、研磨用組成物SBに用いられ得る溶媒と同様のものを好ましく用いることができる。表面処理液Bに使用される溶媒の一好適例として水が挙げられる。
上記表面処理液Bにおける防止剤Bの含有量(複数種類の防止剤Bを含有する場合にはそれらの合計量)は特に限定されず、使用目的や使用態様等に応じて所望の効果が得られるように適宜設定することができる。好ましい一態様において、表面処理液Bにおける防止剤Bの含有量は、例えば0.001mmol/L以上とすることができ、フィルム状物質の付着防止効果をよりよく発揮する観点から、通常は0.01mmol/L以上とすることが適当であり、0.1mmol/L以上が好ましく、0.3mmol/L以上(例えば0.5mmol/L以上)がより好ましい。また、表面処理液における防止剤Bの含有量は、例えば1000mmol/L以下とすることができ、経済性の観点から、通常は500mmol/L以下とすることが好ましく、100mmol/L以下とすることがより好ましい。好ましい一態様において、表面処理液における防止剤Bの含有量を10mmol/L以下とすることができ、5mmol/L以下、さらには3mmol/L以下としてもよい。
ここに開示される表面処理液は、粒子を含んでもよい。表面処理液に含ませる粒子は特に限定されず、研磨組成物SBに使用し得る材料として例示したシリカS以外の砥粒およびシリカSのいずれも使用可能である。上記粒子は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。表面処理後の表面品質を向上する観点からは、上記表面処理液がフィルム状物質を実質的に含まないことが好ましく、したがって上記表面処理液はシリカSを含まないことが好ましい。換言すると、表面処理液に粒子を含ませる場合、該粒子はシリカS以外の粒子から選択することが好ましい。
表面処理液に含ませ得る粒子の好適例として、シリカS以外のシリカ粒子(シリカNS)が挙げられる。かかる組成の表面処理液は、フィルム状物質に似た組成のシリカNSを含むことにより、該シリカNSの作用によりフィルム状物質を研磨対象物から効果的に除去し得る。また、シリカNSを含む表面処理液は、フィルム状物質を実質的に含まない組成とすることができるので、該表面処理液に由来するフィルム状物質が研磨対象物に付着する事態を回避することができる。
シリカNSは、アルコキシド法コロイダルシリカおよび乾式法シリカからなる群から選択されることが好ましい。ここでいう乾式法シリカの例には、四塩化ケイ素やトリクロロシラン等のシラン化合物を典型的には水素火炎中で燃焼させることで得られるシリカ(フュームドシリカ)や、金属ケイ素と酸素の反応により生成するシリカが含まれる。なかでも好ましいシリカNSとして、アルコキシド法コロイダルシリカが挙げられる。アルコキシド法コロイダルシリカは、アルコキシシランの加水分解縮合反応により製造されるコロイダルシリカである。上記アルコキシシランとしては、通常、テトラアルコキシシラン(例えば、テトラエトキシシランやテトラメトキシシラン等)が用いられる。シリカNSは、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。好ましい一態様に係る表面処理液は、該表面処理液に含まれる粒子が実質的にシリカNSから構成される。
表面処理液Bが粒子を含む場合において、該粒子の平均一次粒子径D1、平均二次粒子径D2およびD2/D1は、特に限定されない。例えば、上述したシリカSにおける好ましいD1、D2およびD2/D1を、表面処理液に含ませる粒子にも好ましく適用することができる。また、表面処理液Bが粒子を含む場合において、該粒子の含有量は特に限定されない。例えば、上述した研磨液または濃縮液と同様の砥粒含有量を、表面処理液Bの粒子含有量にも適用することができる。
表面処理液Bは、研磨用組成物SBと同様の公知の添加剤を、必要に応じてさらに含有してもよい。ここに開示される技術は、また、表面処理液Bが酸化剤を実質的に含まない態様で好ましく実施され得る。かかる組成の表面処理液Bは、例えば、研磨対象物がガラス材料(ガラス磁気ディスク基板等)である態様において好ましく採用され得る。ここに開示される表面処理液Bは、例えば、防止剤Bおよび溶媒から実質的に構成される組成;防止剤B、溶媒およびpH調整剤から実質的に構成される組成:防止剤B、溶媒および界面活性剤から実質的に構成される組成;防止剤B、溶媒、pH調整剤および界面活性剤から実質的に構成される組成;等であり得る。
表面処理液BのpHは特に限定されない。例えば、研磨組成物SBに適用され得るpHを、表面処理液Bにおいても採用することができる。pHの調整には、必要に応じて、研磨用組成物SBと同様のpH調整剤等を使用することができる。好ましい一態様において、表面処理液Bは、概ね中性(例えばpH6〜pH8)であってもよい。
表面処理液Bを使用する表面処理は、当該処理によって上記研磨対象物表面からフィルム状物質を取り除くことが可能な種々の態様で行うことができる。
上記表面処理の好ましい一態様として、研磨パッドを有する研磨機を用い、該研磨機にセットされている研磨対象物と上記研磨パッドとの間に表面処理液Bを供給しながら上記研磨対象物と上記研磨パッドとを相対移動させる態様が挙げられる。研磨機としては、研磨対象物の形状や研磨目的に応じた公知の研磨機を適宜採用し得る。使用する研磨パッドの種類は特に限定されない。例えば、不織布タイプ、スウェードタイプ、砥粒を含むもの、砥粒を含まないもの等のいずれを用いてもよい。砥粒を含まない研磨パッドの使用が好ましく、なかでもスウェードタイプの研磨パッドが好ましい。表面処理液Bの供給終了に続いて、防止剤Bを含まないリンス液(例えば水)によるリンス処理を行ってもよい。
表面処理液Bを使用する表面処理の他の態様として、表面処理液Bの存在下で研磨対象物の表面を研磨テープで研磨する態様;表面処理液Bの存在下で研磨対象物の表面をワイピングテープでクリーニングする態様;表面処理液Bの存在下で研磨対象物の表面をポリビニルアルコール(PVA)製等のスポンジでスクラブ洗浄する態様;等が挙げられる。これらの処理は、研磨対象物が表面処理液Bに浸漬された状態で行ってもよい。表面処理工程の他の態様として、研磨対象物を表面処理液Bに浸漬して超音波を付与する態様;研磨対象物の表面に高圧の表面処理液Bを噴射する態様;等が挙げられる。これらは1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて行うことができる。例えば、スクラブ洗浄と超音波付与とを順次にまたは並行して行ってもよい。
特に限定するものではないが、表面処理液Bを用いる表面処理は、例えば、シリカSを含む研磨用組成物を用いる研磨工程におけるリンス処理;シリカSを含む研磨用組成物を用いる研磨工程に続いて行われる洗浄処理;シリカSを含む研磨用組成物を用いる研磨工程の次工程として行われる研磨工程;等であり得る。この明細書によると、例えば、シリカSを含む研磨用組成物で研磨対象物を研磨する工程(1)と、防止剤Bを含む表面処理液(表面処理液B)で上記研磨対象物を表面処理する工程(2)とをこの順に含む、研磨物の製造方法が提供される。
上記製造方法において、工程(1)は、シリカSを含む研磨用組成物を用いるポリシング工程(典型的には、フィルム状物質を含む研磨用組成物を用いるポリシング工程)のうち最後の工程であることが好ましい。工程(1)の後、シリカSを含まない研磨用組成物を用いるポリシング工程をさらに行ってもよい。工程(1)より後に行われるポリシング工程は、工程(2)の前に行ってもよく、工程(2)の後に行ってもよい。工程(1)において研磨対象物の表面に付着し得るフィルム状物質の影響拡大を抑える観点からは、工程(1)と工程(2)との間に他のポリシング工程を配置しないことが好ましい。ここに開示される製造方法が工程(1)より後(好ましくは工程(2)より後)に行われるポリシング工程を含む場合、該ポリシング工程は、シリカSを含まず、かつ工程(1)に用いたシリカSよりも平均一次粒子径の小さい砥粒を含む研磨用組成物を用いて行うことが好ましい。
ここに開示される技術は、工程(1)の終了から工程(2)の開始までの間に研磨対象物の表面を乾燥させない態様で好ましく実施され得る。すなわち、工程(1)の終了から工程(2)の開始までの間、研磨対象物の表面が濡れた状態に維持される態様で好ましく実施され得る。このことによって、工程(1)において付着し得るフィルム状物質が研磨対象物表面に強く固着することが抑制され、工程(2)においてフィルム状物質が除去されやすくなる傾向にある。したがって、より表面品質のよい研磨物が製造され得る。
<組成物セット>
この明細書によると、第一組成物と第二組成物とをセット内容に含む研磨物製造用組成物セットが提供される。上記研磨物製造用組成物セットにおいて、第一組成物と第二組成物とは互いに分けて保管され、典型的には混合して使用される。ここに開示される研磨物製造用組成物セットは、そのセット内容として、上記第一組成物および第二組成物とは分けて保管される第三組成物をさらに含んでもよい。
上記研磨物製造用組成物セットを構成する第一組成物は、シリカSを含み、好ましくはさらに溶媒を含む。この第一組成物は、典型的にはフィルム状物質を含む組成物である。第一組成物は、そのまま、あるいは適当な溶媒(例えば水)で希釈して、研磨用組成物の調製に使用され得る。
上記研磨物製造用組成物セットを構成する第二組成物は、典型的にはフィルム状物質を実質的に含まない組成物である。この第二組成物は、好ましくはpH調整剤を含む。このようにシリカSとpH調整剤とを分けて保管することは、第一組成物の保存安定性の観点から有利である。第二組成物は、pH調整剤の溶解または希釈に適した溶媒をさらに含んでもよい。第二組成物が溶液の形態である場合、該溶液は、粒子等の不溶分を含まないことが好ましい。第二組成物は、そのまま、あるいは適当な溶媒(例えば水)に溶解させるかまたは該溶媒で希釈して、研磨用組成物の調製に使用され得る。例えば、第一組成物と第二組成物とを常法により混合することによって研磨用組成物を調製し得る。また、第一組成物を含む研磨用組成物に、任意のタイミングで第二組成物を添加してもよい。
ここに開示される研磨物製造用組成物セットの好ましい一態様において、第一組成物または第二組成物に防止剤Bを含有させることができる。第一組成物および第二組成物の両方に防止剤Bを、同一のまたは異なる濃度で含有させてもよい。このように第一組成物および第二組成物の少なくとも一方に防止剤Bを含有させることにより、防止剤Bを含む研磨用組成物の調製作業を省力化することができる。
上記研磨物製造用組成物セットの他の好ましい一態様において、防止剤Bは、第一組成物および第二組成物とは分けて保管される第三組成物としてセット内容に含まれていてもよい。このような構成の組成物セットは、防止剤Bの使用態様や濃度の自由度が高いので使い勝手がよい。第三組成物は、防止剤Bを単独で含んでもよく、防止剤Bと適当な溶媒とを含む溶液であってもよい。第三組成物が溶液の形態である場合、該溶液は、粒子等の不溶分を含まないことが好ましい。
第三組成物は、そのまま、あるいは適当な溶媒(例えば水)に溶解させるかまたは該溶媒で希釈して、研磨用組成物の調製に使用し得る。例えば、第一組成物、第二組成物および第三組成物を常法により混合することによって研磨用組成物を調製し得る。また、第一組成物を含む研磨用組成物(第一組成物および第二組成物を含む研磨用組成物であり得る。以下同じ。)に、任意のタイミングで第三組成物を添加してもよい。例えば、第一組成物を含む研磨用組成物の研磨対象物への供給を開始した後に、該研磨用組成物に第三組成物を添加してもよい。他の使用態様として、第三組成物をそのまま、あるいは適当な溶媒(例えば水)に溶解させるかまたは該溶媒で希釈して、第一組成物を含む研磨用組成物による研磨工程より後に用いられる表面処理液の調製に使用する態様が挙げられる。
なお、この明細書により開示される事項には、以下のものが含まれる。
<1> ケイ酸アルカリ含有液に由来するコロイダルシリカを含む研磨用組成物に含有されるフィルム状物質付着防止剤であって、
シリカ吸着率ASが20%以上であるフィルム状物質付着防止剤を含み、
上記研磨用組成物を使用する研磨において、フィルム状物質の付着により生じる欠陥を低減する、フィルム状物質付着防止剤。
<2> ケイ酸アルカリ含有液に由来するコロイダルシリカを含む研磨用組成物で研磨対象物を研磨する工程(1)と、
シリカ吸着率ASが20%以上であるフィルム状物質付着防止剤を含む表面処理液で上記研磨対象物を表面処理する工程(2)と
をこの順に含む、研磨物の製造方法。
<3> 上記工程(1)の研磨用組成物が上記フィルム状物質を含有することを特徴とする、上記<2>に記載の製造方法。
<4> 上記工程(2)の表面処理液が上記フィルム状物質を実質的に含有しないことを特徴とする、上記<2>または<3>に記載の製造方法。
<5> ケイ酸アルカリ含有液に由来するコロイダルシリカを含むコロイダルシリカ含有液で処理(例えば研磨)された研磨対象物に用いられる表面処理剤であって、シリカ吸着率ASが20%以上であるフィルム状物質付着防止剤を含むことを特徴とする、表面処理剤。
<6> ケイ酸アルカリ含有液に由来するコロイダルシリカを含むコロイダルシリカ含有液で処理(典型的には研磨)された研磨対象物に用いられる表面処理液であって、上記<5>に記載の表面処理剤と、該表面処理剤を溶解または分散し得る溶媒とを含む、表面処理液。
<7> ケイ酸アルカリ含有液に由来するコロイダルシリカを含む研磨用組成物を用いて研磨対象物を研磨する工程より後に該研磨対象物の研磨に用いられる研磨用組成物であって、
シリカ吸着率ASが20%以上であるフィルム状物質付着防止剤と砥粒(好ましくは、ケイ酸アルカリ含有液に由来するコロイダルシリカ以外の砥粒)とを含む、研磨用組成物。
<8> 互いに分けて保管される組成物(a)と組成物(b)とを含み、
上記組成物(a)は、ケイ酸アルカリ含有液に由来するコロイダルシリカを含み、
上記組成物(b)は、シリカ吸着率ASが20%以上であるフィルム状物質付着防止剤を含む、研磨物製造用組成物セット。
以下、本発明に関するいくつかの実施例を説明するが、本発明をかかる実施例に示すものに限定することを意図したものではない。
以下の実施例および比較例において使用した添加剤の内容は、以下のとおりである。カッコ内の数字は、ポリオキシエチレン鎖におけるエチレンオキサイド(EO)の付加モル数を示している。
N1:ポリオキシエチレン(20)ステアリルエーテル
N2:ポリオキシエチレン(20)ラウリルエーテル
N3:ポリオキシエチレン(6)イソデシルエーテル
N4:ポリオキシエチレン(9)イソデシルエーテル
N5:ポリオキシエチレン(7)ステアリルエーテル
N6:ポリオキシエチレン(10)ベヘニルエーテル
N7:ポリエチレングリコール(重量平均分子量約600)
N8:ポリオキシエチレン(2)ラウリルエーテル硫酸ナトリウム
N9:塩化ラウリルトリメチルアンモニウム
上記添加剤N1〜N9の有するアルキル基の炭素数(アルキル鎖長;複数のアルキル基を有する場合は最も炭素数の多いアルキル基の炭素数)と、EO付加モル数と、HLB値と、上述する方法で測定したシリカ吸着率ASとを表1、2に示した。
実験例1
<研磨用組成物の調製>
(実施例1)
ケイ酸アルカリ含有液に由来し平均一次粒子径D1が17nmのコロイダルシリカを含む水性分散液と、pH調整剤としての硫酸と、添加剤N1と、イオン交換水とを混合して、上記コロイダルシリカを砥粒として含む、表1に示す組成の研磨用組成物を調製した。上記水性分散液、pH調整剤および添加剤の使用量は、砥粒の濃度が12.6重量%となり、pHが3.0となり、添加剤の含有量が1mmol/Lとなるように調整した。
(実施例2〜8)
表1に示すpH調整剤および添加剤をそれぞれ使用した他は実施例1と同様にして、表1に示す組成の研磨用組成物を調製した。
(比較例1)
添加剤N1を使用しない他は実施例1と同様にして、表1に示す組成の研磨用組成物を調製した。
<ガラス基板の研磨>
実施例1〜7および比較例1〜3の研磨用組成物をそのまま研磨液に用いて、直径65mm(約2.5インチ)の磁気ディスク用アルミノシリケートガラス基板を以下の条件で研磨した。上記ガラス基板としては、平均一次粒子径D1が300nmのセリア(CeO2)砥粒を含む予備研磨用組成物により予備研磨したものを使用した。
(研磨条件)
研磨装置:スピードファム社製の両面研磨装置、型式「9B−5P」
研磨パッド:スウェードパッド
研磨圧力:130g/cm2
上定盤回転数:13rpm
下定盤回転数:40回転/分
研磨液の供給レート:15mL/分(掛け流し)
研磨液の温度:25℃
研磨時間:10分間
研磨後の基板を次の条件で洗浄し、乾燥させた。その後、以下の評価を行った。
(洗浄条件)
研磨後の基板を、120kHzの超音波を付与したアルカリ洗浄液(スピードファムクリーンシステム(株)から入手可能な「CSC−102B」を体積基準で200倍に希釈したもの)に浸漬し、120kHzの超音波を付与した純水中でPVA製スポンジによるスクラブ洗浄を行い、次いで950kHzの超音波を付与したイオン交換水に浸漬した後、イソプロピルアルコール(IPA)雰囲気中に引き上げて乾燥させた。
<評価>
(研磨レート)
研磨前後におけるガラス基板の重量差および該ガラス基板の密度に基づいて研磨レートを算出した。その結果を、比較例1を100%とする相対値に換算して表1に示す。
(表面粗さ)
研磨後の表面につき、原子間力顕微鏡(AFM;商品名「D3100 Nano Scope V」、Veeco社製)を用いて、測定領域1μm×1μmの条件で表面粗さRa(nm)を測定した。その結果を、比較例1を100%とする相対値に換算して表1に示す。
(欠陥評価)
各例に係るガラス基板の表面をKLA Tencor社製の検査装置「CandelaOSA7100」で検査し、所定の領域(ディスク中心からの半径位置が20mm〜31mmの領域)における欠陥の所在を検出した。次いで、該ガラス基板を上記の洗浄条件で再洗浄した後、再洗浄前と同じ領域を同様に検査して欠陥の所在を検出した。そして、再洗浄後の検査において再洗浄前と同じ位置に検出された欠陥を「残留欠陥」としてカウントした。その結果を、比較例1を100%とする相対値に換算して表1に示す。残留欠陥が多いことは、再洗浄によっても除去できない強固な付着物による欠陥が多いことを意味する。
表1に示されるように、砥粒としてコロイダルシリカ(シリカS)を含む研磨用組成物による研磨において、添加剤N1〜N4を使用した実施例1〜8によると、添加剤を含まない比較例1に比べて残留欠陥が著しく低減することが確認された。また、実施例1〜8の研磨用組成物によると、比較例1に概ね匹敵する研磨レートを維持しつつ、表面粗さをより低減し得ることが明らかとなった。
実験例2
<研磨用組成物の調製>
(実施例9、10)
ケイ酸アルカリ含有液に由来し平均一次粒子径D1が12nmまたは25nmであるコロイダルシリカを砥粒として使用した他は実施例1と同様にして、表2に示す組成の研磨用組成物を調製した。
(実施例11、12)
添加剤の含有量を0.1mmol/Lまたは5mmol/Lとした他は実施例1と同様にして、表2に示す組成の研磨用組成物を調製した。
(実施例13)
pHが5.0となるようにpH調整剤を使用した他は実施例1と同様にして、表2に示す組成の研磨用組成物を調製した。
(比較例2〜6)
表2に示す添加剤をそれぞれ使用した他は実施例1と同様にして、表2に示す組成の研磨用組成物を調製した。
<ガラス基板の研磨および評価>
実施例9〜13および比較例2〜6の研磨用組成物をそのまま研磨液に用いて、実験例1と同様にしてガラス基板の研磨を行った。研磨後のガラス基板を実験例1と同様に洗浄して乾燥させた後、同様にして残留欠陥の評価を行った。結果を表2に示す。この表2には、実験例1における比較例1の評価結果を併せて示している。
表2に示されるように、砥粒としてのコロイダルシリカ(シリカS)と添加剤N1とを含む実施例9〜13の研磨用組成物によると、これらのシリカSの粒子径、添加剤含有量およびpHにおいても、残留欠陥を明らかに低減し得ることが確認された。なお、実施例12、13は、他の実施例に比べて研磨レートは低めであった。
一方、添加剤N5および添加剤N6は、シリカ吸着率ASの測定時において分散液Xの分散安定性が低く、シリカ吸着率ASを適切に測定することができなかった。また、これらの添加剤N5、N6を用いた比較例2、3の研磨用組成物は、比較例1に比べて残留欠陥が著しく多かった。また、シリカ吸着率ASが20%未満である添加剤N7〜N9を用いた比較例4〜6では、比較例1に比べて残留欠陥を低減する効果が認められないか、むしろ残留欠陥が増加する傾向であった。
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。