以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」と言う。)について、詳細に説明する。以下の本実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明を以下の内容に限定する趣旨ではない。本発明は、その要旨の範囲内で適宜変形して実施できる。
なお、本明細書において、重合前のモノマー成分のことを「〜単量体」といい、「単量体」を省略することもある。また、重合体を構成する構成単位のことを「〜単量体単位」といい、単に「〜単位」と表記することもある。
〔熱可塑性樹脂組成物〕
本実施形態の熱可塑性樹脂組成物は、
メタクリル酸エステル単量体単位80〜99.9質量%と、前記メタクリル酸エステル単量体と共重合可能な他のビニル単量体単位を0.1〜20質量%と、を含むメタクリル系樹脂(A)(以下、単に「メタクリル系樹脂(A)」又は「成分(A)」と記載することもある)を100質量部、
ヒンダードフェノール系熱安定剤とヒンダードアミン系光安定剤とを含む安定剤(B)(以下、単に「安定剤(B)」又は「成分(B)」と記載することもある)を0.01〜5質量部、及び
ゴム質共重合体(C)(以下、単に「成分(C)」と記載することもある)を20〜100質量部含有する。以下、本実施形態の熱可塑性樹脂組成物を構成する各成分について説明する。
(メタクリル系樹脂(A))
メタクリル系樹脂(A)は、メタクリル酸エステル単量体単位:80〜99.9質量%と、前記メタクリル酸エステル単量体に共重合可能な他のビニル単量体単位:0.1〜20質量%とを含む。すなわち、メタクリル系樹脂(A)は、メタクリル酸エステル単量体を80〜99.9質量%と、前記メタクリル酸エステル単量体に共重合可能な他のビニル単量体を0.1〜20質量%とを含む単量体成分の共重合体である。
<メタクリル酸エステル単量体>
メタクリル系樹脂(A)を構成するメタクリル酸エステル単量体としては、本発明の効果を達成できるものであれば特に限定されないが、好ましい例としては、下記一般式(1)で示される単量体が挙げられる。
一般式(1)中、R
1はメチル基を表す。また、R
2は炭素原子が1〜18個からなる炭化水素基であって、炭素上の水素原子が水酸基やハロゲン基によって置換されていてもよい。
メタクリル酸エステル単量体としては、以下に限定されるものではないが、例えば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸(2−エチルヘキシル)、メタクリル酸(t−ブチルシクロヘキシル)、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸(2,2,2−トリフルオロエチル)等が挙げられる。取扱いや入手のし易さの観点より、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル等がより好ましく、メタクリル酸メチルが特に好ましい。上記メタクリル酸エステル単量体は、一種のみを単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
メタクリル系樹脂(A)を構成する、上述したメタクリル酸エステル単量体単位の含有量は、メタクリル系樹脂(A)中の80〜99.9質量%である。メタクリル系樹脂(A)中のメタクリル酸エステル単量体単位の含有量を80質量%以上とすることにより、本実施形態の熱可塑性樹脂組成物において優れた耐熱性が得られ、99.9質量%以下とすることにより優れた流動性が得られる。メタクリル系樹脂(A)中のメタクリル酸エステル単量体単位の含有量は、好ましくは88〜99質量%であり、より好ましくは90〜98質量%である。
<メタクリル酸エステル単量体と共重合可能な他のビニル単量体>
メタクリル系樹脂(A)を構成する、上述したメタクリル酸エステル単量体と共重合可能な他のビニル単量体としては、本発明の効果を達成できるものであれば特に限定されないが、好ましい例としては、下記一般式(2)で表されるアクリル酸エステル単量体が挙げられる。
一般式(2)中、R
3は水素原子である。また、R
4は炭素原子が1〜18個からなる炭化水素基であって、炭素上の水素原子が水酸基やハロゲン基によって置換されていてもよい。
前記一般式(2)で表されるアクリル酸エステル単量体としては、以下に限定されるものではないが、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸フェニル、アクリル酸(2−エチルヘキシル)、アクリル酸(t−ブチルシクロヘキシル)、アクリル酸ベンジル、アクリル酸(2,2,2−トリフルオロエチル)等が挙げられる。取り扱いや入手のし易さの観点より、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸イソブチル等がより好ましく、アクリル酸メチルが特に好ましい。
また、前記メタクリル酸エステル単量体に共重合可能な、前記一般式(2)のアクリル酸エステル単量体以外の他のビニル単量体としては、以下の例に限定されるものではないが、例えば、アクリル酸やメタクリル酸等のα,β−不飽和酸;マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、桂皮酸等の不飽和基含有二価カルボン酸及びそれらのアルキルエステル;スチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、2,5−ジメチルスチレン、3,4−ジメチルスチレン、3,5−ジメチルスチレン、p−エチルスチレン、m−エチルスチレン、о−エチルスチレン、p−tert−ブチルスチレン、イソプロペニルベンセン(α−メチルスチレン)等のスチレン系単量体;1−ビニルナフタレン、2−ビニルナフタレン、1,1−ジフェニルエチレン、イソプロペニルトルエン、イソプロペニルエチルベンゼン、イソプロペニルプロピルベンゼン、イソプロペニルブチルベンゼン、イソプロペニルペンチルベンゼン、イソプロペニルヘキシルベンゼン、イソプロペニルオクチルベンゼン等の芳香族ビニル化合物;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル化合物;無水マレイン酸、無水イタコン酸等の不飽和カルボン酸無水物類;マレイミドや、N−メチルマレイミド、N−エチルマレイミド、N−フェニルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド等のN−置換マレイミド等;アクリルアミド、メタクリルアミド等のアミド類;エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート等のエチレングリコール又はそのオリゴマーの両末端水酸基をアクリル酸又はメタクリル酸でエステル化したもの;ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ジ(メタ)アクリレート等の2個のアルコールの水酸基をアクリル酸又はメタクリル酸でエステル化したもの;トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等の多価アルコール誘導体をアクリル酸又はメタクリル酸でエステル化したもの;ジビニルベンゼン等の多官能モノマー等が挙げられる。
上記メタクリル酸エステル単量体に共重合可能な、前記一般式(2)のアクリル酸エステル単量体や、前記一般式(2)のアクリル酸エステル単量体以外のビニル単量体は、一種のみを単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
メタクリル系樹脂(A)を構成する、上述したメタクリル酸エステル単量体に共重合可能な他のビニル単量体単位の含有量は、メタクリル系樹脂(A)中の0.1〜20質量%である。メタクリル系樹脂(A)中、メタクリル酸エステル単量体に共重合可能な他のビニル単量体単位の含有量を0.1質量%以上とすることにより、本実施形態の熱可塑性樹脂組成物において、優れた流動性及び耐熱性が得られ、20質量%以下とすることにより優れた耐熱性が得られる。メタクリル酸エステル単量体に共重合可能な他のビニル単量体単位の含有量は、好ましくは1.0〜15質量%であり、より好ましくは1.5〜12質量%であり、さらに好ましくは2.0〜10質量%である。
メタクリル系樹脂(A)においては、耐熱性、加工性等の特性を向上させる目的で、上記例示したビニル単量体以外のビニル系単量体を適宜添加して共重合させてもよい。
<メタクリル系樹脂(A)の重量平均分子量、分子量分布>
本実施形態の熱可塑性樹脂組成物に含まれるメタクリル系樹脂(A)の重量平均分子量及び分子量分布について説明する。
メタクリル系樹脂(A)は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)で測定した重量平均分子量(Mw)が50000〜300000であることが好ましい。
優れた機械的強度及び耐溶剤性を得るためには、メタクリル系樹脂(A)の重量平均分子量(Mw)は、50000以上が好ましく、60000以上がより好ましく、70000以上がさらに好ましく、80000以上がさらにより好ましく、90000以上がよりさらに好ましい。
また、メタクリル系樹脂が良好な流動性を示すためには、メタクリル系樹脂(A)の重量平均分子量(Mw)は300000以下であることが好ましく、250000以下がより好ましく、230000以下がさらに好ましく、210000以下がさらにより好ましく、180000以下がよりさらに好ましい。
前記メタクリル系樹脂(A)の重量平均分子量が50000〜300000の範囲であることにより、流動性、機械的強度、及び耐溶剤性のバランスを図ることができ、良好な成形加工性が維持される。
本実施形態の熱可塑性樹脂組成物に含まれるメタクリル系樹脂(A)の分子量分布(Mw/Mn)は、1.6〜6.0であることが好ましく、1.7〜5.0であることがより好ましく、1.8〜5.0であることがさらに好ましい。メタクリル系樹脂の分子量分布が1.6以上6.0以下であることにより成形加工流動と機械強度のバランスに優れる効果が得られる。ここで、Mwは重量平均分子量を表し、Mnは数平均分子量を表す。
メタクリル系樹脂の重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定することができ、具体的には、後述する〔実施例〕に記載の方法により測定することができる。
具体的には、あらかじめ単分散の重量平均分子量が既知で試薬として入手可能な標準メタクリル系樹脂と、高分子量成分を先に溶出する分析ゲルカラムを用い、溶出時間と重量平均分子量から検量線を作成しておき、続いて得られた検量線を元に、所定の測定対象のメタクリル系樹脂の重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)を求めることができ、これらにより分子量分布を算出することができる。数平均分子量(Mn)とは、単純な分子1本あたりの分子量の平均であり、系の全重量/系中の分子数で定義される。重量平均分子量(Mw)とは、重量分率による分子量の平均で定義される。
<ピークトップ分子量(Mp)の1/5以下の分子量成分の存在量>
メタクリル系樹脂(A)は、耐溶剤性、流動性の観点から、当該メタクリル系樹脂に存在するピークトップ分子量(Mp)の1/5以下の分子量成分の存在量が、6〜50%であることが好ましく、7〜45%であることがより好ましく、8〜43%であることがさらに好ましく、9〜40%であることがさらにより好ましく、10〜38%であることがさらに好ましい。
ここで、前記ピークトップ分子量(Mp)の1/5以下の分子量成分の存在量(%)とは、GPC溶出曲線の全エリア面積を100%とした場合の、前記ピークトップ分子量(Mp)の1/5以下の分子量成分に相当するエリア面積の割合であり、後述する〔実施例〕に記載する方法により測定することができる。なお、前記ピークトップ分子量(Mp)とは、GPC溶出曲線においてピークを示す重量分子量を指す。GPC溶出曲線においてピークが複数存在する場合は、存在量が最も多い重量分子量が示すピークにおける分子量を、ピークトップ分子量(Mp)とする。
当該メタクリル系樹脂に存在するピークトップ分子量(Mp)の1/5以下の分子量成分の存在量が6%以上であることより、良好な成形流動性が得られる。50%以下であることより、良好な耐溶剤性が得られる。
なお、重量平均分子量が500以下のメタクリル系樹脂成分は、成形時にシルバーと呼ばれる発泡様の外観不良の発生を防止するため、できる限り少ない方が好ましい。
<メタクリル系樹脂(A)の製造方法>
本実施形態の熱可塑性樹脂組成物に含まれるメタクリル系樹脂(A)は、塊状重合、溶液重合、懸濁重合法もしくは乳化重合法のいずれかの方法により重合でき、好ましくは、塊状重合、溶液重合及び懸濁重合法であり、より好ましくは懸濁重合法である。
重合温度は、重合方法に応じて適宜最適の重合温度を選択すればよいが、好ましくは50℃以上100℃以下であり、より好ましくは60℃以上90℃以下である。
メタクリル系樹脂(A)を製造する際には、重合開始剤を用いてもよい。重合開始剤としては、以下に限定されるものではないが、ラジカル重合を行う場合は、例えば、ジ−t−ブチルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ステアリルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシネオデカネート、t−ブチルパーオキシピバレート、ジラウロイルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン等の有機過酸化物や、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスイソバレロニトリル、1,1−アゾビス(1−シクロヘキサンカルボニトリル)、2,2’−アゾビス−4−メトキシ−2,4−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス−2,4−ジメチルバレロニトリル、2,2’−アゾビス−2−メチルブチロニトリル等のアゾ系の一般的なラジカル重合開始剤が挙げられる。これらは一種のみを単独で用いてもよく、二種類以上を組み合わせて用いてもよい。これらのラジカル開始剤と適当な還元剤とを組み合わせてレドックス系開始剤として用いてもよい。
これらのラジカル重合開始剤及び/又はレドックス系開始剤は、メタクリル系樹脂の重合の際に使用する全単量体の総量100質量部に対して、0〜1質量部の範囲で用いるのが一般的であり、重合を行う温度と重合開始剤の半減期を考慮して適宜選択することができる。
メタクリル系樹脂の重合方法として、塊状重合法、キャスト重合法、又は懸濁重合法を選択する場合には、メタクリル系樹脂の着色を防止する観点から、過酸化系重合開始剤を用いて重合することが好ましい。
前記過酸化系重合開始剤としては、以下に限定されるものではないが、例えば、ラウロイルパーオキサイド、デカノイルパーオキサイド、及びt−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート等が挙げられ、ラウロイルパーオキサイドがより好ましい。
また、メタクリル系樹脂(A)を、90℃以上の高温下で溶液重合法により重合する場合には、10時間半減期温度が80℃以上で、かつ用いる有機溶媒に可溶である過酸化物、アゾビス開始剤等を重合開始剤として用いることが好ましい。
当該過酸化物、アゾビス開始剤としては、以下に限定されるものではないが、例えば、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、シクロヘキサンパーオキシド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、1,1−アゾビス(1−シクロヘキサンカルボニトリル)、2−(カルバモイルアゾ)イソブチロニトリル等が挙げられる。
メタクリル系樹脂(A)を製造する際には、本発明の目的を損わない範囲で、メタクリル系樹脂の分子量の制御を行ってもよい。メタクリル系樹脂(A)の分子量を制御する方法としては、以下に限定されるものではないが、例えば、アルキルメルカプタン類、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、トリエチルアミン等の連鎖移動剤、ジチオカルバメート類、トリフェニルメチルアゾベンゼン、テトラフェニルエタン誘導体等のイニファータ等を用いることによって分子量の制御を行う方法が挙げられる。また、これらの添加量を調整することにより、分子量を調整することも可能である。
前記連鎖移動剤としては、取扱性や安定性の観点から、アルキルメルカプタン類が好ましく、当該アルキルメルカプタン類としては、以下に限定されるものではないが、例えば、n−ブチルメルカプタン、n−オクチルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン、n−テトラデシルメルカプタン、n−オクタデシルメルカプタン、2−エチルヘキシルチオグリコレート、エチレングリコールジチオグリコレート、トリメチロールプロパントリス(チオグリコート)、ペンタエリスリトールテトラキス(チオグリコレート)等が挙げられる。
これらは、目的とするメタクリル系樹脂の分子量に応じて適宜添加することができるが、一般的には、メタクリル系樹脂の重合の際に使用する全単量体の総量100質量部に対して0.001質量部〜5質量部の範囲で用いられる。
また、その他の分子量制御方法としては、重合方法を変える方法、重合開始剤、上述した連鎖移動剤やイニファータ等の量を調整する方法、重合温度等の各種重合条件を変更する方法等が挙げられる。
これらの分子量制御方法は、一種の方法のみを用いてもよく、二種以上の方法を併用してもよい。
また、GPC溶出曲線から得られるピークトップ分子量(Mp)の1/5以下の分子量成分の存在量が、6〜50%の範囲であるメタクリル系樹脂を製造する方法としては、低分子量のメタクリル系樹脂と高分子量のメタクリル系樹脂とを溶融ブレンドする方法や、多段重合法により製造する方法等が挙げられる。
上記のMpの1/5以下の分子量成分の存在量が6〜50%のメタクリル系樹脂(A)を製造する場合、その方法については特に限定されるものではないが、品質安定性の観点から多段重合法を使用することがより好ましい。
前記多段重合法を使用する場合、まず、1段目の重合において、メタクリル酸エステル単量体と当該メタクリル酸エステル単量体と共重合可能な他のビニル単量体の少なくとも1種で構成される原料混合物を用いて、GPCで測定した重量平均分子量が5000〜50000である重合体(I)を、目的とするメタクリル系樹脂全体に対して5〜50質量%製造することが好ましい。次に、重合系内を前記1段目の重合温度よりも高い温度に一定時間保持する。その後、前記重合体(I)の存在下で、メタクリル酸エステル単量体と当該メタクリル酸エステル単量体に共重合可能な他のビニル単量体の少なくとも1種で構成される原料混合物を添加して重合し、重量平均分子量が60000〜350000である重合体(II)を、目的とするメタクリル系樹脂全体に対して95〜50質量%製造することが好ましい。
前記1段目の重合で得られ、GPCで測定した重量平均分子量が5000〜50000である重合体(I)(以下、単に重合体(I)と言う。)と、重合体(I)の存在下でメタクリル酸エステルを含む原料混合物を添加して重量平均分子量が60000〜350000である2段目の重合で得られる重合体(II)(以下、単に重合体(II)と言う。)の配合割合は、製造時の重合安定性及びメタクリル系樹脂の流動性や樹脂成形体の機械的強度を向上させる観点から、重合体(I)の比率が5〜50質量%であることが好ましく、重合体(II)の比率が95〜50質量%であることが好ましい。
重合安定性、流動性、成形体の機械的強度のバランスを考慮すると、重合体(I)/重合体(II)の比率は、より好ましくは7〜47質量%/93〜53質量%、さらに好ましくは10〜45質量%/90〜65質量%であり、さらにより好ましくは13〜43質量%/87〜57質量%であり、よりさらに好ましくは15〜40質量%/85〜60質量%である。
さらに、前記重合体(I)は、メタクリル酸エステル単量体単位80〜100質量%及びメタクリル酸エステルと共重合可能な他のビニル単量体の少なくとも1種で構成される単量体単位0〜20質量%を含む重合体であることが好ましい。重合体(I)を構成する単量体単位の比率は、多段重合の重合体(I)の重合工程において添加する単量体量を制御することにより調整することができる。前記重合体(I)は、メタクリル酸エステルに共重合可能な他のビニル単量体は少ない方が好ましく、使用しなくてもよい。
また、成形時のシルバー等の不具合抑制、重合安定性、流動性の観点から、重合体(I)のGPCで測定した重量平分均子量は、5000〜50000であることが好ましく、10000〜45000であることがより好ましく、18000〜42000であることがさらに好ましく、20000〜40000であることがさらにより好ましい。
重合体(I)の重量平均分子量は、上述したように、連鎖移動剤やイニファータを用いたり、これらの量を調整したり、重合条件を適宜変更することにより制御できる。
前記重合体(II)は、メタクリル酸エステル単量体単位80〜99.9質量%及びメタクリル酸エステルと共重合可能な他のビニル単量体の少なくとも1種で構成される単量体単位0.1〜20質量%を含む重合体であることが好ましい。重合体(II)を構成する単量体単位の比率は、多段重合の重合体(II)の重合工程において添加する単量体量を調整することにより制御することができる。
また、耐溶剤性、流動性の観点から、重合体(II)のGPCで測定した重量平分均子量は、60000〜350000であることが好ましく、100000〜320000であることがより好ましく、130000〜300000であることがさらに好ましく、150000〜270000であることがさらにより好ましい。重合体(II)の重量平均分子量は、上述したように、連鎖移動剤やイニファータを用いたり、これらの量を調整したり、重合条件を適宜変更することにより制御できる。
前記1段目の重合工程では、メタクリル酸エステル単量体を単独で、又はメタクリル酸エステル単量体及び少なくとも一種のメタクリル酸エステルと共重合可能な他のビニル単量体を用いて重合体(I)を重合する。
2段目の重合工程では、その重合体(I)の存在下で、メタクリル酸エステル単量体及び少なくとも1種のメタクリル酸エステルと共重合可能な他のビニル系単量体を添加し、重合体(II)を製造するが、この重合法は、重合体(I)と重合体(II)のそれぞれの組成を制御しやすく、重合時の重合発熱による温度上昇が押さえられ、系内の粘度も安定化できる。
この場合、重合体(I)の重合が完了しないうちに重合体(II)の原料組成混合物は一部重合が開始されている状態であってもよいが、一度キュア(この場合、系内を重合温度より高い温度に保つこと)を行い、重合を完了させた後に重合体(II)の原料組成混合物を添加する方が好ましい。1段目にキュアを行うことにより、重合が完了するだけでなく、未反応の単量体、開始剤、連鎖移動剤等を除去又は失活させることができ、2段目の重合に悪影響を及ぼさなくなる。結果として、目的の重量平均分子量を得ることができる。
重合温度は、重合方法に応じて適宜最適の重合温度を選択して製造すればよいが、好ましくは50℃以上100℃以下であり、より好ましくは60℃以上90℃以下である。重合体(I)及び重合体(II)の重合温度は、同じであっても異なっていてもよい。
キュアの際に昇温させる温度は、重合体(I)の重合温度よりも5℃以上高くすることが好ましく、より好ましくは7℃以上、さらに好ましくは10℃以上である。さらに、キュアの際に昇温した温度で保持する時間は、10分間以上180分間以下が好ましく、より好ましくは15分間以上150分間以下である。
<ヒンダードフェノール系熱安定剤とヒンダードアミン系光安定剤とを含む安定剤(B)>
本実施形態の熱可塑性樹脂組成物は、ヒンダードフェノール系熱安定剤及びヒンダードアミン系光安定剤とを含む安定剤(B)を0.01〜5質量部含む。
ヒンダードフェノール系熱安定剤は、特に限定されないが、環構造を3つ以上含む化合物であることが好ましい。ここで、環構造は、芳香族環、脂肪族環、芳香族複素環及び非芳香族複素環からなる群から選ばれる少なくとも一種であることが好ましく、1つの化合物中に2以上の環構造を有する場合、それらは互いに同一であっても異なっていてもよい。ヒンダードフェノール系熱安定剤としては、以下に限定されるものではないが、例えば、具体的には、ペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、チオジエチレンビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、N,N’−ヘキサン−1,6−ジイルビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニルプロピオンアミド]、3,3’,3’’,5,5’,5’’−ヘキサ−tert−ブチル−a,a’,a’’−(メシチレン−2,4,6−トリイル)トリ−p−クレゾール、4,6−ビス(オクチルチオメチル)−o−クレゾール、4,6−ビス(ドデシルチオメチル)−o−クレゾール、エチレンビス(オキシエチレン)ビス[3−(5−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−m−トリル)プロピオネート]、ヘキサメチレンビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、1,3,5−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオン、1,3,5−トリス[(4−tert−ブチル−3−ヒドロキシ−2,6−キシリン)メチル]−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオン、2,6−ジ−tert−ブチル−4−(4,6−ビス(オクチルチオ)−1,3,5−トリアジン−2−イルアミン)フェノール、4,4’,4’’−(1−メチルプロパニル−3−イリデン)トリス(6−tert−ブチル−m−クレゾール)、6,6’−ジ−tert−ブチル−4,4’−ブチリデン−ジ−m−クレゾール、3,9−ビス{2−[3−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ]−1,1−ジメチルエチル}−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン、1,3,5−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニルメチル)−2,4,6−トリメチルベンゼン等が挙げられ、中でも環構造を3つ以上含んでいるペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、3,3’,3’’,5,5’,5’’−ヘキサ−tert−ブチル−a,a’,a’’−(メシチレン−2,4,6−トリイル)トリ−p−クレゾール、1,3,5−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオン、1,3,5−トリス[(4−tert−ブチル−3−ヒドロキシ−2,6−キシリン)メチル]−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオン、3,9−ビス{2−[3−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ]−1,1−ジメチルエチル}−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン、1,3,5−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニルメチル)−2,4,6−トリメチルベンゼン、4,4’,4’’−(1−メチルプロパニル−3−イリデン)トリス(6−tert−ブチル−m−クレゾール)が好ましい。
ヒンダードアミン系光安定剤は、特に限定されないが、環構造を3つ以上含む化合物であることが好ましい。ここで、環構造は、芳香族環、脂肪族環、芳香族複素環及び非芳香族複素環からなる群から選ばれる少なくとも一種であることが好ましく、1つの化合物中に2以上の環構造を有する場合、それらは互いに同一であっても異なっていてもよい。ヒンダードアミン系光安定剤としては、以下に限定されるものではないが、例えば、具体的には、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)[[3,5−ビス(1,1−ジメチルエチル)−4−ヒドロキシフェニル]メチル]ブチルマロネート、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケートとメチル1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジルセバケートの混合物、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、N,N’−ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)−N,N’−ジホルミルヘキサメチレンジアミン、ジブチルアミン・1,3,5−トリアジン・N,N’−ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル−1,6−ヘキサメチレンジアミンとN−(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)ブチルアミンの重縮合物、ポリ[{6−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)アミノ−1,3,5−トリアジン−2,4−ジイル}{2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ}ヘキサメチレン{(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ}]、テトラキス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)ブタン−1,2,3,4−テトラカルボキシレート、テトラキス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)ブタン−1,2,3,4−テトラカルボキシレート、1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジオールとβ,β,β’,β’−テトラメチル−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン−3,9−ジエタノールの反応物、2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジオールとβ,β,β’,β’−テトラメチル−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン−3,9−ジエタノールの反応物、ビス(1−ウンデカノキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)カーボネート、1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジルメタクリレート、2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジルメタクリレート等が挙げられ、中でも環構造を3つ以上含んでいるビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)[[3,5−ビス(1,1−ジメチルエチル)−4−ヒドロキシフェニル]メチル]ブチルマロネート、ジブチルアミン・1,3,5−トリアジン・N,N’−ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル−1,6−ヘキサメチレンジアミンとN−(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)ブチルアミンの重縮合物、ポリ[{6−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)アミノ−1,3,5−トリアジン−2,4−ジイル}{2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ}ヘキサメチレン{(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ}]、1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジオールとβ,β,β’,β’−テトラメチル−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン−3,9−ジエタノールの反応物、2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジオールとβ,β,β’,β’−テトラメチル−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン−3,9−ジエタノールの反応物が好ましい。
ヒンダードフェノール系熱安定剤とヒンダードアミン系光安定剤とを含む安定剤を用いることにより、ヒンダードフェノール系熱安定剤のみ、または、ヒンダードアミン系光安定剤のみを用いた場合に比べて、更なる熱安定効果が期待できる。さらに、環構造体を3つ以上有する安定剤を使用することで、熱可塑性樹脂組成物中から安定剤自体が揮発及び分解し難くなり、結果として、樹脂組成物の熱安定性の向上に繋がる。熱安定性が向上することにより、熱可塑性樹脂組成物の高温成形下、高温環境下で滞留する条件下において、耐熱分解性の効果が極めて高く発揮される。
熱可塑性樹脂組成物中の、ヒンダードフェノール系熱安定剤とヒンダードアミン系光安定剤との合計の含有量は、メタクリル系樹脂(A)100質量部に対して、0.01〜5質量部であり、0.01〜4質量部が好ましく、0.05〜3質量部がより好ましく、0.1〜2質量部がさらにより好ましく、0.15〜1.5質量部が特に好ましい。このうち、熱可塑性樹脂組成物中の、ヒンダードアミン系光安定剤の含有量は、メタクリル系樹脂(A)100質量部に対して0.01〜4質量部が好ましく、0.05〜3質量部がより好ましく、0.1〜2質量部がさらにより好ましく、0.15〜1.5質量部が特に好ましい。ヒンダードフェノール系熱安定剤とヒンダードアミン系光安定剤との合計の含有量が0.01質量部以上であると、熱安定性効果を発現でき、5質量部以下であると、ブリードアウトを低減できる。
(ゴム質共重合体(C))
本実施形態の熱可塑性樹脂組成物は、ゴム質共重合体(C)を20〜100質量部含有する。
ゴム質共重合体(C)としては、特に限定されるものではなく、例えば、一般的なブタジエン系ABSゴム、アクリル系、ポリオレフィン系、シリコン系、フッ素ゴム等の多層構造を有する有機ゴム粒子を使用することができる。中でも、成分(B)との組み合わせの観点から、アクリル系の有機ゴムが好ましい。
ゴム質共重合体(C)としては、特に、二層以上の多層構造を有するゴム粒子が好ましく、上述したメタクリル系樹脂(A)との相溶性の観点から、二層以上の多層構造を有するアクリルゴム粒子がより好ましい。さらに、二層構造の有機ゴム粒子よりも三層構造以上の多層構造を有する有機ゴム粒子を用いることにより、成形加工時の熱劣化や、加熱による有機ゴム粒子の変形が抑制され、成形体の耐熱性の維持や熱変形が抑制される傾向にあり、特に好ましい。
上記の三層構造以上の多層構造を有する有機ゴム粒子とは、ゴム状ポリマーからなる軟質層と、ガラス状ポリマーからなる硬質層とが積層した多層構造のゴム粒子を言い、特に限定されないが、例えば、内側から軟質−硬質−軟質−硬質、軟質−硬質−硬質、軟質−軟質−硬質、硬質−軟質−硬質、硬質−硬質−軟質−硬質、硬質−軟質−硬質−硬質等の多層構造が挙げられ、内側から硬質層−軟質層−硬質層の順に形成された三層構造及び硬質−硬質−軟質−硬質、硬質−軟質−硬質−硬質の順に形成された四層構造を有する粒子が好ましい。硬質層を最内層と最外層に有すると、有機ゴム粒子の変形が抑制される傾向にあり、中央層に軟質成分を有することにより良好な靭性が付与される傾向にある。
例えば、有機ゴム粒子が三層構造のアクリル系ゴムにより形成されている場合の、最内層(b−i)を形成する共重合体は、メタクリル酸メチルと、アクリル酸エステル単量体単位、芳香族ビニル化合物単量体単位及び共重合性多官能単量体単位からなる群から選ばれる少なくとも一種との共重合体であることが好ましい。
最内層(b−i)を形成する共重合体がアクリル酸エステル単量体単位を含む場合、アクリル酸エステル単量体としては、特に限定されないが、例えば、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸2−へキシルが好適なものとして挙げられる。
最内層(b−i)を形成する共重合体が芳香族ビニル化合物単量体単位を含む場合、芳香族ビニル化合物単量体としては、例えばメタクリル系樹脂(A)に使用される単量体と同様のものを用いることができるが、好ましくは、スチレン又はその誘導体が用いられる。
最内層(b−i)を形成する共重合体が、共重合性多官能単量体単位を含む場合、当該共重合性多官能単量体としては、特に限定されないが、例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3−ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸アリル、トリアリルイソシアヌレート、マレイン酸ジアリル、ジビニルベンゼン等が挙げられる。これらは、一種又は二種以上を併用して用いることができる。上記化合物の中でも特に好ましいのは、(メタ)アクリル酸アリルである。
有機ゴム粒子が三層構造のアクリル系ゴム粒子により形成されている場合の、中央層(b−ii)を形成する共重合体は、熱可塑性樹脂成形体に優れた靭性を付与する観点から、軟質なゴム弾性を示す共重合体であることが好ましい。
中央層(b−ii)を形成する共重合体は、例えば、アクリル酸エステル単量体単位と、芳香族ビニル化合物単量体及び共重合性多官能単量体単位からなる群から選ばれる少なくとも一種との共重合体であることが好ましい。
中央層(b−ii)を形成する共重合体を構成するアクリル酸エステル単量体としては、特に限定されないが、好ましくは、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸2−エチルへキシル等が挙げられ、これらから1種又は2種以上を併用して用いることができる。特に、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸2−へキシルがより好ましい。
中央層(b−ii)を形成する共重合体において、アクリル酸エステルと共重合される単量体として、芳香族ビニル化合物単量体を含む場合、当該芳香族ビニル化合物単量体としては、特に限定されないが、スチレン又はその誘導体が好ましい。
中央層(b−ii)を形成する共重合体中に共重合性多官能単量体単位を含む場合、当該共重合性多官能単量体としては、上述した最内層(b−i)で用いられる共重合性多官能単量体と同様のものを用いることができ、その含有量としては、0.1質量%以上5質量%以下であると、良好な架橋効果を有し、かつ、架橋が適度でゴム弾性効果が大きくなる傾向にあるため好ましい。
有機ゴム粒子が三層構造のアクリル系ゴム粒子により形成されている場合の、アクリル系ゴム粒子の最外層(b−iii)は、メタクリル酸メチルと、当該メタクリル酸メチルと共重合可能な単量体単位との共重合体であることが好ましく、メタクリル酸メチルと共重合可能な単量体としては、特に限定されないが、例えば、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸2−へキシルが好ましい。また、メタクリル酸メチルの含有量は、メタクリル系樹脂(A)との相溶性の観点から、90質量%以上が好ましい。
ゴム質共重合体(C)の平均粒子径は、分散性の観点から0.3μm以下が好ましく、より好ましくは0.25μm以下であり、さらにより好ましくは0.08μm以上0.25μm以下である。
ゴム質共重合体(C)の平均粒子径は、以下の方法により求めることができる。ゴム質共重合体(C)が含まれている乳化液をサンプリングし、固形分が500質量ppmになるように水で希釈し、UV1200V分光光度計(株式会社島津製作所製)を用いて波長550nmでの吸光度を測定して測定値を得ておく。次に、透過型電子顕微鏡写真より粒子径を計測したサンプルについて同様に吸光度を測定して検量線を作成し、当該検量線と前記測定値とを用いることにより、粒子径を求めることができる。
ゴム質共重合体(C)の製造方法としては、特に限定されるものではなく、塊状重合、溶液重合、懸濁重合及び乳化重合等の公知重合法を適用でき、特に、乳化重合により得ることが好ましい。
ゴム質共重合体(C)を三層構造のアクリル系ゴム粒子により形成する場合、乳化剤、重合開始剤の存在下で、初めに最内層(b−i)の単量体混合物を添加し重合を完結させ、次に中央層(b−ii)の単量体混合物を添加して重合を完結させ、次いで最外層(b−iii)の単量体混合物を添加して重合を完結させることにより、容易に多層構造粒子をラテックスとして得ることができる。このラテックスから塩析、噴霧乾燥、凍結乾燥等の公知の方法により粉体として回収できる。
本実施形態の熱可塑性樹脂組成物中のゴム質共重合体(C)の含有量は、メタクリル系樹脂(A)100質量部に対し、20〜100質量部であり、23〜90質量部が好ましく、25〜80質量部がさらにより好ましい。
ゴム質重合体(C)の含有量を、メタクリル系樹脂(A)に対し100質量部以下にすることにより、耐熱分解の影響が低減でき、20質量部以上にすることにより、高い耐溶剤性が発現する。
本実施形態の熱可塑性樹脂は、表面摺動剤(D)(以下、単に「成分(D)」と記載することもある。)を含んでもよい。表面摺動剤(D)の含有量は、メタクリル系樹脂(A)100質量部に対して、0.1〜10質量部であるのが好ましい。表面摺動剤としては、特に限定されないが、例えば、パラフィンワックス、ポリエチレンワックス、高級脂肪酸エステル、ガラス、マイカ等やポリテトラフルオロエチレン、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリエステル等の樹脂が挙げられ、特に、フッ素基を含有する化合物単位からなる樹脂であるフッ素系樹脂が好ましい。
フッ素系樹脂としては、本発明の効果を損なわない限り、特に限定されるものではないが、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(四フッ化エチレン樹脂、PTFE)、三フッ化塩化エチレン樹脂(PCTFE)、四フッ化エチレン六フッ化エチレンプロピレン樹脂(PFEP)、フッ化ビニル樹脂(PVF)、フッ化ビリニデン樹脂(PVDF)、二フッ化二塩化エチレン樹脂、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体(ETFE)、ポリビニリデンフルオライド、ポリクロロトリフルオロエチレン、クロロトリフルオエチレン−エチレン共重合体(ECTFE)等が挙げられる。耐熱分解性の観点から、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体(ETFE)、四フッ化エチレン六フッ化エチレンプロピレン樹脂(PFEP)、テトラフルオロエチレン樹脂(PTFE)等を好ましく用いることができ、特に、テトラフルオロエチレン樹脂(PTFE)が好ましい。
フッ素系樹脂として、前記テトラフルオロエチレン樹脂を用いる場合は、代表的にはテトラフルオロエチレンホモポリマーが用いられるが、その他、単量体としてテトラフルオロエチレンと共に少量の変性剤、例えばパーフルオロオレフィン、ハイドロフルオロオレフィン、パーフルオロビニルエーテル等を共重合したものであってもよい。
フッ素系樹脂の形態は、ハンドリングの観点から、粉末状の樹脂粒子であることが好ましい。フッ素系樹脂粉末は、上記単量体を乳化重合又は懸濁重合することにより得ることができる。
熱可塑性樹脂組成物が、これらのフッ素系樹脂を表面摺動剤(D)として含む場合は、該フッ素系樹脂の含有量は、メタクリル系樹脂(A)100質量部に対し、0.1〜10質量部であることが好ましく、0.1〜7質量部であることがより好ましく、0.1〜5質量部であることがさらに好ましい。該フッ素系樹脂の含有量が、メタクリル系樹脂(A)100質量部に対し、0.1質量部以上であると熱可塑性樹脂組成物の表面硬度が良好となり、10質量部以下であると熱可塑性樹脂組成物の耐熱分解性が良好となる。
(その他の成分)
本実施形態の熱可塑性樹脂組成物は、本発明の目的を損なわない範囲で、上述した成分(A)〜(D)以外のその他の添加剤を含有させてもよく、特に、無機充填剤、着色剤、紫外線吸収剤、及び難燃剤等を含むことが好ましい。
無機充填剤としては、以下に限定されるものではないが、例えば、ガラス繊維、炭素繊維、ケイ酸カルシウム繊維、チタン酸カリウム繊維、ホウ酸アルミニウム繊維、フレーク状ガラス、タルク、カオリン、マイカ、ハイドロタルサイト、炭酸カルシウム、炭酸亜鉛、酸化亜鉛、二酸化亜鉛、リン酸一水素カルシウム、ウォラストナイト、シリカ、ゼオライト、アルミナ、酸化アルミナ、ベーマイト、水酸化アルミニウム、酸化チタン、二酸化チタン、ケイ酸、酸化ケイ素、二酸化ケイ素、酸化マグネシウム、二酸化マグネシウム、ケイ酸カルシウム、アルミノケイ酸ナトリウム、ケイ酸マグネシウム、硫酸バリウム、黄銅、銅、銀、アルミニウム、ニッケル、鉄、酸化鉄、グラファイト、カーボンナノチューブ、フッ化カルシウム、雲母、モンモリロナイト、膨潤性フッ素雲母、及びアパタイト等が挙げられる。無機充填剤は、1種類のみを単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。隠蔽性及び表面硬度等の観点から、二酸化チタン、酸化マグネシウム、酸化アルミナ、水酸化アルミニウム、二酸化亜鉛、二酸化ケイ酸、硫酸バリウム、タルク、カオリン、マイカ、炭酸カルシウム、ウォラストナイト、シリカ、グラファイト、カーボンナノチューブ等が含まれることが好ましい。また、これらの無機充填剤は、メタクリル系樹脂(A)とより馴染ませることを目的として、適宜表面処理を施してもよい。
着色剤としては、以下に限定されるものではないが、例えば、ペリレン系染料、ペリノン系染料、ピラゾロン染料、メチン系染料、クマリン染料、キノフタロン系染料、キノリン系染料、アントラキノン系染料、アンスラキノン系染料、アスドラピリドン系染料、チオインジゴ系染料、クマリン系染料、イソインドリノン系顔料、シケトピロロピロール系顔料、縮合アゾ系顔料、ベンズイミダゾロン系顔料、ジオキサジン系顔料、銅フタロシアニン系顔料、キナクリドン系顔料、ニッケル錯体系化合物、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸アルミニウム、ポリメチルシルセスキオキサン、ハロゲン化銅フタロシアニン、エチレンビスステアリン酸アマイド、群青、群青バイオレット、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、ファーネスブラック、カーボンブラック、流動パラフィン、シリコンオイル等が挙げられる。着色剤は、1種類のみを単独で用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。隠蔽性の観点から、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸化カルシウム、ステアリン酸亜鉛、ポリメチルシルセスキオキサン、ケッチェンブラック、カーボンブラック、アセチレンブラック及びファーネスブラック、流動パラフィン、シリコンオイル等が好ましい。
なお、無機充填剤、及び着色剤として有機系染料を併用した場合、成形時に当該有機系染料が分解する場合があるため、無機充填剤を主成分として使用することが好ましい。特に、成形時の耐熱分解性の観点から、酸化無機物、二酸化無機物に代表される無機系酸化物を組み合わせて用いることが好ましい。無機充填剤及び着色剤の合計の含有量は、成分(A)100質量部に対し、0.1〜2質量部であることが好ましく、0.3〜2質量部がより好ましく、0.5〜2質量部がさらにより好ましい。該含有量が2質量部以下であると、成形時の耐熱分解性が良好となり、例えば成形体表面でのシルバー発生に対して抑制効果が得られる。また、該含有量が0.1質量部以上であると、成形体において優れた隠蔽性を発揮することができる。
<紫外線吸収剤>
紫外線吸収剤としては、以下に限定されるものではないが、例えば、ベンゾトリアゾール系化合物、ベンゾトリアジン系化合物、ベンゾエート系化合物、ベンゾフェノン系化合物、オキシベンゾフェノン系化合物、フェノール系化合物、オキサゾール系化合物、マロン酸エステル系化合物、シアノアクリレート系化合物、ラクトン系化合物、サリチル酸エステル系化合物、ベンズオキサジノン系化合物等が挙げられ、好ましくはベンゾトリアゾール系化合物、ベンゾトリアジン系化合物である。これらは一種のみを単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
また、紫外線吸収剤を添加する場合、成形加工性に優れることから、20℃における蒸気圧(P)が1.0×10-4Pa以下であるものが好ましく、より好ましくは1.0×10-6Pa以下であり、さらに好ましくは1.0×10-8Pa以下である。「成形加工性に優れる」とは、例えば射出成形時に、金型表面への紫外線吸収剤の付着が少ないことや、フィルム成形時に、紫外線吸収剤のロールへの付着が少ないこと等を示す。ロールへ付着すると、例えば成形体表面へ付着し外観、光学特性を悪化させるおそれがあるため、成形体を光学用材料として使用する場合は好ましくない場合がある。
紫外線吸収剤の融点(Tm)は80℃以上であることが好ましく、より好ましくは100℃以上、さらに好ましくは130℃以上、さらにより好ましくは160℃以上である。前記紫外線吸収剤は、23℃から260℃まで20℃/minの速度で昇温した場合の重量減少率が50%以下であることが好ましく、より好ましくは30%以下、さらに好ましくは15%以下、さらにより好ましくは10%以下、よりさらに好ましくは5%以下である。
<難燃剤>
難燃剤としては、以下に限定されるものではないが、例えば、環状窒素化合物、リン系難燃剤、シリコン系難燃剤、籠状シルセスキオキサン又はその部分開裂構造体、シリカ系難燃剤が挙げられる。本実施形態の熱可塑性樹脂組成物においては、難燃剤を添加し、難燃性を付与することが特に好ましい。
<上記以外のその他の添加剤>
本実施形態の熱可塑性樹脂組成物は、離型性、帯電防止性、剛性や寸法安定性等の他の特性を付与する観点から、本発明の効果を損なわない範囲で各種の添加剤をさらに添加することができる。
当該その他の添加剤としては、以下に限定されるものではないが、例えば、フタル酸エステル系、脂肪酸エステル系、トリメリット酸エステル系、リン酸エステル系、ポリエステル系等の可塑剤、高級脂肪酸、高級脂肪酸エステル、高級脂肪酸のモノ、ジ、又はトリグリセリド系等の離型剤、ポリエーテル系、ポリエーテルエステル系、ポリエーテルエステルアミド系、アルキルスルフォン酸塩、アルキルベンゼンスルフォン酸塩等の帯電防止剤、難燃助剤、硬化剤、硬化促進剤、導電性付与剤、応力緩和剤、結晶化促進剤、加水分解抑制剤、衝撃付与剤、相溶化剤、核剤、強化剤、補強剤、流動調整剤、増感材、増粘剤、沈降防止剤、タレ防止剤、消泡剤、カップリング剤、防錆剤、抗菌・防黴剤、防汚剤、導電性高分子等が挙げられる。
<その他の樹脂>
本実施形態の熱可塑性樹脂組成物は、熱可塑が可能であれば、上述した成分(A)〜(D)の他、従来公知の樹脂を組み合わせて含有してもよい。使用に供される樹脂としては、特に限定されるものではなく、従来公知の硬化性樹脂、熱可塑性樹脂が好適に使用される。
熱可塑性樹脂としては、以下に限定されるものではないが、例えば、ポリプロピレン系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、シンジオタクテックポリスチレン系樹脂、ABS系樹脂(アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン系共重合体)、メタクリル系樹脂、AS系樹脂(アクリロニトリル−スチレン系共重合体)、BAAS系樹脂(ブタジエン−アクリロニトリル−アクリロニトリルゴム−スチレン系共重合体、MBS系樹脂(メチルメタクリレート−ブタジエン−スチレン系共重合体)、AAS系樹脂(アクリロニトリル−アクリロニトリルゴム−スチレン系共重合体)、生分解性樹脂、ポリカーボネート−ABS樹脂のアロイ、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリアルキレンアリレート系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂、フェノール系樹脂等が挙げられる。
特に、AS樹脂、BAAS樹脂は、流動性を向上させるために好ましく、ABS樹脂、MBS樹脂は耐衝撃性を向上させるために好ましく、また、ポリエステル樹脂は耐薬品性を向上させるために好ましい。
また、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂、フェノール系樹脂等は難燃性を向上させる効果が期待できる。
また、硬化性樹脂としては、以下に限定されるものではないが、例えば、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、ジアリルフタレート樹脂、エポキシ樹脂、シアネート樹脂、キシレン樹脂、トリアジン樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、ウレタン樹脂、オキセタン樹脂、ケトン樹脂、アルキド樹脂、フラン樹脂、スチリルピリジン樹脂、シリコン樹脂、合成ゴム等が挙げられる。
これらの樹脂は、一種のみを単独で用いてもよく、二種以上の樹脂を組み合わせて用いてもよい。
〔熱可塑性樹脂組成物の製造方法〕
本実施形態の熱可塑性樹脂組成物を製造する際、各成分を混合させる順序は、本発明の効果が達成できる方法であれば、特に限定されるものではない。例えば、まず、上述したメタクリル系樹脂(A)、ヒンダードフェノール系熱安定剤とヒンダードアミン系光安定剤とを含む安定剤(B)、及びゴム質共重合体(C)を混練し、さらに、適宜、その他の添加剤や上述した他の樹脂を混練して熱可塑性樹脂組成物を製造してもよい。あるいは、熱可塑性樹脂組成物を構成するすべての化合物を同時に混練してもよい。
混練方法としては、従来公知の方法を用いることができ、特に限定されないが、例えば、押出機、加熱ロール、ニーダー、ローラミキサー、バンバリーミキサー等の混練機を用いて混練製造することができる。特に、押出機による混練が、生産性の面で好ましい。
混練温度は、本実施形態の熱可塑性樹脂に含まれるメタクリル系樹脂及びその他の樹脂等の好ましい加工温度に従えばよく、目安としては140〜300℃の範囲が好ましく、180〜280℃の範囲がより好ましい。
また、本実施形態においては、上述したように熱可塑性樹脂組成物を得た後、これを成形することにより成形体が得られる。
成形方法としては、特に限定されないが、例えば、射出成形、シート成形、ブロー成形、インジェクションブロー成形、インフレーション成形、Tダイ成型、プレス成形、押出成形等で成形する方法が挙げられ、圧空成形、真空成形等の二次加工成形法も用いることができる。これらのうち、射出成形により成形体を得ることが好ましい。
また、加熱ロール、ニーダー、バンバリーミキサー、押出機等の混練機を用いて熱可塑性樹脂組成物を混練製造した後、冷却、粉砕し、さらにトランスファー成形、射出成形、圧縮成形等により成形を行う方法も適用できる。
熱可塑性樹脂組成物に含まれる各成分の特定及び各成分の含有量は下記のように決定することができる。
<熱可塑性樹脂組成物中のヒンダードフェノール系熱安定剤とヒンダードアミン系光安定剤とを含む安定剤(B)の解析及び含有量の測定方法>
本実施形態の熱可塑性樹脂組成物における特定の熱安定剤(B)の解析及び含有量の測定方法の一例を以下に説明する。熱安定剤(B)の解析及び含有量は、例えば、NMR測定により求めることができる。
熱可塑性樹脂組成物約100mgを1.0mlのCDCl3に溶解し、1H-NMRスペクトルを測定することにより安定剤の化学構造を同定する。そして、得られたスペクトルの所定のシグナルの積分値より、含有量を算出することができる。
<熱可塑性樹脂組成物中のゴム質重合体(C)の含有量の測定方法>
本実施形態の熱可塑性樹脂組成物におけるゴム質共重合体(C)の含有量の測定方法の一例を以下に説明する。ゴム質共重合体(C)の含有量は、例えば、熱可塑性樹脂組成物のアセトン不溶部の量を測定することにより求めることができる。
まず、熱可塑性樹脂組成物を精秤する(質量(W1))。この組成物を遠沈管に入れ、その後アセトンを加えて溶解し、アセトン可溶部を除去する。真空乾燥機にて溶媒を飛ばし、冷却後、残留物であるアセトン不溶部を秤量する(質量(W2))。
下記の式により、アセトン不溶部の含有量(質量%)(Y)=ゴム質共重合体(C)の含有量(質量%)を算出する。
アセトン不溶部の含有量(Y)=W2/W1×100(質量%)
さらに、メタクリル系樹脂(A)については、NMR測定により組成を特定し、そのシグナル比から、熱可塑性樹脂組成物中のメタクリル系樹脂(A)の含有量を算出することができる。あるいは、上述の安定剤(B)の含有量とゴム質共重合体(C)の含有量より、メタクリル系樹脂(A)の含有量(質量%)が算出できる場合もある。メタクリル系樹脂(A)の含有量より、熱可塑性樹脂組成物中の安定剤(B)及びゴム質共重合体(C)の、メタクリル系樹脂(A)100質量部に対する含有量(質量部)を算出することができる。
<熱可塑性樹脂組成物中のゴム質重合体(C)の構造の解析方法>
本実施形態の熱可塑性樹脂組成物に含まれるゴム質共重合体(C)の解析方法の一例を以下に説明する。例えば、熱可塑性樹脂組成物から切片を作製し、ルテニウムによる染色を行う。その後、透過型電子顕微鏡による観察を行うことにより、単層か多層かの判別を行うことが出来る。
また、定性分析としては、上述の熱可塑性樹脂組成物のアセトン不溶分のIR測定を行い、既存のスペクトルと重ねあわせることにより、分析が可能である。
〔用途〕
本実施形態の熱可塑性樹脂組成物は、特に限定されないが、成形することにより、家具類、家庭用品、収納又は備蓄用品、壁又は屋根等の建材、玩具又は遊具、パチンコ面盤等の趣味用途、医療用品、福祉用品、OA機器、AV機器、電池電装用、照明機器、船舶、航空機の構造の車体部品、車両用部品、衛生陶器代替部品に使用可能である。特に好ましくは、車両用途や光学用途、電気又は電子用途、衛生陶器代替用途に用いることができる。
具体的には、車両用途では、耐衝撃性が要求される外装部品として好適であり、バンパー、フロントグリル、ヘッドランプカバー、テールランプカバー、ボディ周辺部品(バイザー等)、タイヤ周辺部品等の各種車両用部材に用いることが可能である。
光学用途としては、例えば、各種レンズ、タッチパネル等、また、太陽電池に用いられる透明基盤等が挙げられる。その他にも、光通信システム、光交換システム、光計測システムの分野において、導波路、光ファイバー、光ファイバーの被覆材料、LEDのレンズ、レンズカバーEL照明等のカバー等にも利用することができる。
電気又は電子用途としては、例えば、パソコン、ゲーム機、テレビ、カーナビ、電子ペーパーなどのディスプレイ装置、プリンター、コピー機、スキャナー、ファックス、電子手帳やPDA、電子式卓上計算機、電子辞書、カメラ、ビデオカメラ、携帯電話、電池パック、記録媒体のドライブや読み取り装置、マウス、テンキー、CDプレーヤー、MDプレーヤー、携帯ラジオ・オーディオプレーヤー等が挙げられる。特に、テレビ、パソコン、カーナビ、電子ペーパー等の筐体の意匠性部品等に好適に用いることができる。
雑貨用途としては、給水塔、衣装ケース、各種収納ケース、パチンコ面盤等に好適に用いることができる。
特により好ましくは、本実施形態の熱可塑性樹脂組成物は、衛生陶器代替用途として好適に使用でき、以下に限定されるものではないが、例えば、中型から大型成形のための高温成形条件下における耐熱分解性及び高い耐溶剤性が必要となる用途に用いるのが好ましい。具体的には、便器、洗面化粧ボウル、キッチンシンク、浴槽、洗面化粧台等の用途として好適に用いることができる。特に、本実施形態の熱可塑性樹脂組成物を成形して得られる成形体は、便器、洗面化粧ボウル、キッチンシンク、及び浴槽からなる群から選ばれるいずれかの成形体であることが好ましい。
また、本実施形態の熱可塑性樹脂組成物からなる成形体は、目的に応じて、適宜、例えばハードコート処理、反射防止処理、透明導電処理、電磁波遮蔽処理、ガスバリア処理等の表面機能化処理を施すことができる。
以下、実施例により本実施形態を具体的に説明するが、本実施形態は、後述する実施例に限定されるものではない。
〔実施例及び比較例において用いた原料〕
メタクリル系樹脂(A)の製造に用いた原料は下記のとおりである。
・メタクリル酸メチル(MMA):旭化成ケミカルズ製(重合禁止剤として中外貿易製2,4−ジメチル−6−t−ブチルフェノール(2,4−di−methyl−6−tert−butylphenol)を2.5ppm添加されているもの)
・アクリル酸メチル(MA):三菱化学製(重合禁止剤として川口化学工業製4−メトキシフェノール(4−methoxyphenol)が14ppm添加されているもの)
・アクリル酸エチル(EA):三菱化学製
・n−オクチルメルカプタン(n−octylmercaptan):アルケマ製
・2−エチルヘキシルチオグリコレート(2−ethylhexyl thioglycolate):アルケマ製
・ラウロイルパーオキサイド(lauroyl peroxide):日本油脂製
・第3リン酸カルシウム(calcium phosphate):日本化学工業製、懸濁剤として使用
・炭酸カルシウム(calcium calbonate):白石工業製、懸濁剤として使用
・ラウリル硫酸ナトリウム(sodium lauryl sulfate):和光純薬製、懸濁助剤として使用
〔測定方法〕
<I.メタクリル系樹脂(A)の分子量及び分子量分布の測定方法>
メタクリル系樹脂(A)の重量平均分子量、分子量分布を下記の装置、及び条件で測定した。
測定装置:東ソー株式会社製ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(HLC−8320GPC)
カラム:TSKgel SuperH2500 1本、TSKgel SuperHM−M 2本、TSKguardcolumn SuperH−H 1本、直列接続
本カラムでは、高分子量が早く溶出し、低分子量は溶出する時間が遅い。
検出器 :RI(示差屈折)検出器
検出感度 :3.0mV/min
カラム温度:40℃
サンプル :0.02gのメタクリル系樹脂のテトラヒドロフラン10mL溶液
注入量 :10μL
展開溶媒 :テトラヒドロフラン、流速;0.6mL/min
検量線用標準サンプルとして、単分散の重量ピーク分子量が既知で分子量が異なる以下の10種のポリメタクリル酸メチル(Polymethyl methacrylate Calibration Kit PL2020−0101 M−M−10)を用いた。
なお、検量線用標準サンプルに用いたポリメタクリル酸メチルは、それぞれ単ピークのものであるため、(Mp)をピーク分子量と表記し、ピークが複数ある場合の表記「ピークトップ分子量」と区別した。
ピーク分子量(Mp)
標準試料1 1,916,000
標準試料2 625,500
標準試料3 298,900
標準試料4 138,600
標準試料5 60,150
標準試料6 27,600
標準試料7 10,290
標準試料8 5,000
標準試料9 2,810
標準試料10 850
上記の条件で、メタクリル系樹脂の溶出時間に対する、RI検出強度を測定した。
GPC溶出曲線におけるエリア面積と、7次近似式の検量線を基にメタクリル系樹脂(A)の重量平均分子量(Mw)、分子量分布(Mw/Mn)、GPCピーク分子量(Mp)及びGPCピークトップ分子量(Mp)の1/5以下の分子量を有する成分の割合(%)を求めた。
<II.メタクリル系樹脂(A)構造単位の解析>
1H−NMR測定により構造単位を同定し、その存在量(質量%)を算出した。
1H−NMR測定の測定条件は、以下のとおりである。
装置:JEOL−ECA500
溶媒:CDCl3−d1(重水素化クロロホルム)
試料:成分(A)15mgをCDCl3−d1 0.75mLに溶解し、測定用サンプルとした。
〔III.熱可塑性樹脂組成物の物性測定〕
<(1)耐熱分解性の測定方法−1>
高温環境下の滞留時の耐熱分解性の評価として、TG−DTA8120(差動型示差熱天秤、理学社製)を使用し、8〜15mgの測定サンプルを270℃、窒素雰囲気下において、30min間保持した(高温環境下で滞留した)際の質量減量率(%)を測定することで評価した。質量減量率の絶対値が小さいサンプルほど、耐熱分解性が良好といえる。
測定サンプルとして、後述する実施例及び比較例で製造した熱可塑性樹脂組成物を用いた。なお、表4においては「耐熱分解性―1」として、質量減少率の結果を記載した。
<(2)耐熱分解性の測定方法−2>
高温成形時の耐熱分解性評価は、後述する実施例及び比較例で製造した熱可塑性樹脂組成物を用いて、東芝機械株式会社製EC−100SXの成形機を使用し、成形機設定温度280℃下、30秒成形サイクル条件にて、100mm×100mm×2mmtの平板を製造することで評価した。平板にシルバーが発生するか否かの目視評価を実施した。
目視評価の判断基準として、以下の○〜×の評価を行った。
○:10枚成形中、シルバー発生枚数が2枚以下であった。
△:10枚成形中、シルバー発生枚数が3枚以上4枚以下であった。
×:10枚成形中、シルバー発生枚数が5枚以上であった。
なお、表4においては、「耐熱分解性−2」としてこれら評価結果を記載した。
<(3)耐溶剤性の評価方法>
耐溶剤性の評価は、後述する実施例及び比較例で製造した樹脂組成物を用いて、東芝機械株式会社製EC−100SXの成形機を用いて、100mm×100mm×2mmtの平板を製造後、23℃条件下にて24hr水中に浸漬させた後、80℃の熱風オーブンで6hr乾燥させ、再び23℃条件下にて24hr水中に浸漬させた。その後、成形体の表面に、消毒用エタノール(76.9〜81.4v/v%)をスプレーし、クラックが発生するか否かの目視評価を実施した。
目視評価の判断基準として、以下の◎〜×の評価を行った。
◎:目視でクラックが確認されなかった。
○:目視で長さ1mm以下の微細クラックがわずかに確認されたが、1mmを超えるクラックは確認されなかった。
×:目視で長さ1mmを超えるクラックが確認された。
なお、表4においては、「耐溶剤性」としてこれら評価結果を記載した。
〔成分〕
後述する実施例及び比較例で、熱可塑性樹脂組成物の構成成分として用いたメタクリル系樹脂(A)、ヒンダードフェノール系熱安定剤及びヒンダードアミン系光安定剤等の安定剤、ゴム質共重合体(C)について、以下記載する。
(メタクリル系樹脂(A))
メタクリル系樹脂(A)は、下記製造例A1〜A4により製造した(A−1)〜(A−4)のメタクリル系樹脂を使用した。
<製造例A1(メタクリル系樹脂(A−1)の製造)>
攪拌機を有する容器に、イオン交換水:2kg、第三リン酸カルシウム:65g、炭酸カルシウム:39g、ラウリル硫酸ナトリウム:0.39gを投入し、混合液(a)を得た。
次いで、60Lの反応器に、イオン交換水:26kgを投入して80℃に昇温し、混合液(a)、メタクリル酸メチル:21.2kg、アクリル酸メチル:0.43kg、ラウロイルパーオキサイド:27g、及びn−オクチルメルカプタン:62gを投入した。
その後、約80℃を保って懸濁重合を行い、発熱ピークを観測後、92℃に1℃/minの速度で昇温し、60分間熟成し、重合反応を実質終了した。
次いで、50℃まで冷却して懸濁剤を溶解させるために、20質量%硫酸を投入後、重合反応溶液を、1.68mmメッシュの篩にかけて凝集物を除去し、得られたビーズ状ポリマーを洗浄脱水乾燥処理し、ポリマー微粒子を得た。
得られたポリマー微粒子を240℃に設定したφ30mmの二軸押出機にて溶融混練し、ストランドを冷却裁断して樹脂ペレット〔メタクリル系樹脂(A−1)〕を得た。
得られた樹脂ペレットの重量平均分子量は10.2万であり、ピークトップ分子量(Mp)は10.9万であり、分子量分布(Mw/Mn)は1.85であった。さらに、Mp値の1/5以下の分子量成分の存在量(%)は、4.5%であった。また、構造単位はMMA/MA=98/2質量%であった。
<製造例A2(メタクリル系樹脂(A−2)の製造)>
攪拌機を有する容器に、イオン交換水:2kg、第三リン酸カルシウム:65g、炭酸カルシウム:39g、ラウリル硫酸ナトリウム:0.39gを投入し、混合液(b)を得た。
次いで、60Lの反応器にイオン交換水:26kgを投入して80℃に昇温し、混合液(b)、メタクリル酸メチル:21.2kg、アクリル酸エチル:1.35kg、ラウロイルパーオキサイド:27g、及びn−オクチルメルカプタン:32.8gを投入した。
その後、約80℃を保って懸濁重合を行い、発熱ピークを観測後、92℃に1℃/minの速度で昇温した。
その後、60分間熟成し、重合反応を実質終了した。
次いで、50℃まで冷却して懸濁剤を溶解させるために、20質量%硫酸を投入後、重合反応溶液を、1.68mmメッシュの篩にかけて凝集物を除去し、得られたビーズ状ポリマーを洗浄脱水乾燥処理し、ポリマー微粒子を得た。
得られたポリマー微粒子を240℃に設定したφ30mmの二軸押出機にて溶融混練し、ストランドを冷却裁断して樹脂ペレット〔メタクリル系樹脂(A−2)〕を得た。
得られた樹脂ペレットの重量平均分子量は17.4万であり、ピークトップ分子量(Mp)は18.2万であり、分子量分布(Mw/Mn)は1.85であった。さらに、Mp値の1/5以下の分子量成分の存在量(%)は、4.6%であった。また、構造単位はMMA/EA=94/6質量%であった。
<製造例A3(メタクリル系樹脂(A−3)の製造)>
攪拌機を有する容器に、イオン交換水:2kg、第三リン酸カルシウム:65g、炭酸カルシウム:39g、ラウリル硫酸ナトリウム:0.39gを投入し、混合液(c)を得た。
次いで、60Lの反応器に、イオン交換水:23kgを投入して80℃に昇温し、混合液(c)、メタクリル酸メチル:5.5kg、ラウロイルパーオキサイド:40g、及び2−エチルヘキシルチオグリコレート:90gを投入した。
その後、約80℃を保って懸濁重合を行った。原料を投入してから80分後に発熱ピークが観測された。
次いで、92℃に1℃/min速度で昇温した後、30分間92℃〜94℃の温度を保持した。その後、1℃/minの速度で80℃まで降温した後、次いで、メタクリル酸メチル:16.2kg、アクリル酸メチル:0.75kg、ラウロイルパーオキサイド:21g、n−オクチルメルカプタン:17.5gを投入し、引き続き約80℃を保って懸濁重合を行った。原料を投入してから105分後に発熱ピークが観測された。
その後、92℃に1℃/minの速度で昇温した後、60分間熟成し、重合反応を実質終了した。
次に、50℃まで冷却して懸濁剤を溶解させるために、20質量%硫酸を投入後、重合反応溶液を、1.68mmメッシュの篩にかけて凝集物を除去し、得られたビーズ状ポリマーを洗浄脱水乾燥処理し、ポリマー微粒子を得た。
得られたポリマー微粒子を240℃に設定したφ30mmの二軸押出機にて溶融混練し、ストランドを冷却裁断して樹脂ペレット〔メタクリル系樹脂(A−3)〕を得た。
得られた樹脂ペレットの重量平均分子量は17.2万であり、ピークトップ分子量(Mp)は19.7万であり、分子量分布(Mw/Mn)は3.65であった。さらに、Mp値の1/5以下の分子量成分の存在量(%)は24.5%であった。また、構造単位はMMA/MA=96.5/3.5質量%であった。
<製造例A4(メタクリル系樹脂(A−4)の製造)>
攪拌機を有する容器に、イオン交換水:2kg、第三リン酸カルシウム:65g、炭酸カルシウム:39g、ラウリル硫酸ナトリウム:0.39gを投入し、混合液(d)を得た。
次いで、60Lの反応器に、イオン交換水:26kgを投入して80℃に昇温し、混合液(d)、メタクリル酸メチル:3.76kg、アクリル酸エチル:0.1kg、ラウロイルパーオキサイド:27g、及び2−エチルヘキシルチオグリコレート:62gを投入した。
その後、約80℃を保って懸濁重合を行った。原料を投入してから80分後に発熱ピークが観測された。
次いで、92℃に1℃/min速度で昇温した後、30分間92℃〜94℃の温度を保持した。その後、1℃/minの速度で80℃まで降温した後、次いで、メタクリル酸メチル:17.4kg、アクリル酸エチル:1.35kg、ラウロイルパーオキサイド:23g、n−オクチルメルカプタン:35gを投入し、引き続き約80℃を保って懸濁重合を行った。原料を投入してから105分後に発熱ピークが観測された。
その後、92℃に1℃/minの速度で昇温した後、60分間熟成し、重合反応を実質終了した。
次に、50℃まで冷却して懸濁剤を溶解させるために、20質量%硫酸を投入後、重合反応溶液を、1.68mmメッシュの篩にかけて凝集物を除去し、得られたビーズ状ポリマーを洗浄脱水乾燥処理し、ポリマー微粒子を得た。
得られたポリマー微粒子を230℃に設定したφ30mmの二軸押出機にて溶融混練し、ストランドを冷却裁断して樹脂ペレット〔メタクリル系樹脂(A−4)〕を得た。
得られた樹脂ペレットの重量平均分子量は11.8万であり、ピークトップ分子量(Mp)は12.5万であり、分子量分布(Mw/Mn)は2.45であった。さらに、Mp値の1/5以下の分子量成分の存在量(%)は13.5%であった。また、構造単位はMMA/EA=93.5/6.5質量%であった。
〔ヒンダードフェノール系熱安定剤とヒンダードアミン系光安定剤とを含む安定剤(B)〕
(ヒンダードフェノール系熱安定剤)
B−1;BASF社製、Irg1010(ペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート)
B−2;BASF社製、Irg1076(オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート)
B−3;BASF社製、Irg1330(3,3’,3’’,5,5’,5’’−ヘキサ−tert−ブチル−a,a’,a’’−(メシチレン−2,4,6−トリイル)トリ−p−クレゾール)
B−4;BASF社製、Irg3114(1,3,5−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオン)
B−5;ADEKA社製、AO−30(4,4’,4’’−(1−メチルプロパニル−3−イリデン)トリス(6−tert−ブチル−m−クレゾール))
B−6;ADEKA社製、AO−40(6,6’−ジ−tert−ブチル−4,4’−ブチリデン−ジ−m−クレゾール)
(ヒンダードアミン系光安定剤)
B−7;BASF社製、TinuvinPA144(ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)[[3,5−ビス(1,1−ジメチルエチル)−4−ヒドロキシフェニル]メチル]ブチルマロネート)
B−8;BASF社製、Tinuvin770DF(ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート)
B−9;BASF社製、Chimassorb2020FDL(ジブチルアミン・1,3,5−トリアジン・N,N’−ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル−1,6−ヘキサメチレンジアミンとN−(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)ブチルアミンの重縮合物)
B−10;ADEKA社製、LA−68(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジオールとβ,β,β’,β’−テトラメチル−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン−3,9−ジエタノールの反応物)
〔ゴム質共重合体(C)〕
ゴム質共重合体は、下記製造例(C1)及び製造例(C2)により製造したゴム質共重合体(C−1)及び(C−2)を使用した。
<製造例C1(ゴム質共重合体(C−1)の製造)>
内容積10Lの還流冷却器付反応器にイオン交換水:6868mL、ジヘキシルスルホコハク酸ナトリウム:13.7gを投入し、250rpmの回転数で攪拌しながら、窒素雰囲気下75℃に昇温し、酸素の影響が事実上無い状態にした。
メタクリル酸メチル:907g、アクリル酸ブチル:33g、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール:0.28g及びアリルメタクリレ−ト:0.93gからなる混合物(I−1)のうち222gを一括添加し、5分後に過硫酸アンモニウム0.22gを添加した。
その40分後から(I−1)の残りの719gを20分間かけて連続的に添加し、添加終了後さらに60分間保持した。
次に、過硫酸アンモニウム1.01gを添加した後、アクリル酸ブチル:1067g、スチレン:219g、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール:0.39g、アリルメタクリレ−ト:27.3gからなる混合物(I−2)を140分間かけて連続的に添加し、添加終了後さらに180分間保持した。
次に、過硫酸アンモニウム:0.30gを添加した後、メタクリル酸メチル:730g、アクリル酸ブチル:26.5g、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール:0.22g、n−オクチルメルカプタン:0.76gからなる混合物(I−3)を40分間かけて連続的に添加し、添加終了後95℃に昇温し30分間保持した。
重合乳化液(ラテックス)を3質量%硫酸ナトリウム温水溶液中へ投入して、塩拆・凝固させ、次いで、脱水・洗浄を5回繰り返したのち乾燥し、ゴム質共重合体(C−1)を得た。
得られたゴム質共重合体(C−1)の平均粒子径は0.23μmであった。
なお、前記ゴム質共重合体の平均粒子径は、以下のようにして求めた。
まず、得られたゴム質共重合体の乳化液をサンプリングして、固形分500ppmになるように水で希釈し、UV1200V分光光度計(株式会社島津製作所製)を用いて波長550nmでの吸光度を測定した。
透過型電子顕微鏡写真より粒子径をあらかじめ計測したサンプルについて同様に吸光度を測定した値に基づいて作成した検量線を用い、上記ゴム質共重合体の乳化液の吸光度の測定値から平均粒子径を求めた。
<製造例C2(ゴム質共重合体(C−2)の製造)>
内容積10Lの還流冷却器付反応器にイオン交換水:4600mL、乳化剤としてジオクチルスルホコハク酸ナトリウム:24gを投入し、250rpmの回転数で攪拌しながら、窒素雰囲気下80℃に昇温し、酸素の影響が事実上無い状態にした。
次いで、還元剤としてロンガリット還元剤:1.3gを加え均一に溶解した。
第一層としてメタクリル酸メチル:190g、アクリル酸ブチル:2.5g、アリルメタクリレ−ト:0.2g、及びジイソプロピルベンゼンハイドロパ−オキサイド:0.2gの単量体混合物(II−1)を加え80℃で重合した。約15分で反応は完了した。
次いで、第二層としてアクリル酸ブチル:1360g、スチレン:320g、ポリエチレングリコ−ルジアクリレ−ト(分子量200):40g、アリルメタクリレ−ト:7.0g、ジイソプロピルベンゼンハイドロパ−オキサイド:1.6g、及びロンガリット還元剤:1.0gの単量体混合物(II−2)を90分にわたって滴下した。滴下終了後40分で反応は完了した。
次に、第三層1段として、メタクリル酸メチル:190g、アクリル酸ブチル:2.3g、ジイソプロピルベンゼンハイドロパ−オキサイド:0.2gの単量体混合物(II−3)を5分にわたって滴下し、滴下終了後、この段階の反応は約15分で完了した。
最後に、第三層2段として、メタクリル酸メチル:380g、メタクリル酸メチル:4.6g、ジイソプロピルベンゼンハイドロパ−オキサイド:0.4g、及びn−オクチルメルカプタン:1.2gの単量体混合物(II−4)を10分にわたって加えた。この段階は約15分で反応が完了した。
温度を95℃に上げ、1時間保持し、得られた重合乳化液(ラテックス)を0.5%塩化アルミニウム水溶液中に投入して重合体を凝集させ、温水で5回洗浄したのち乾燥し、ゴム質共重合体(C−2)を得た。
得られたゴム質共重合体(C−2)の平均粒子径は0.1μmであった。
粒子径は、上記ゴム質共重合体(C−1)と同様にして測定した。
〔表面摺動剤(D)〕
D−1;株式会社喜多村社製、KTL−2N(ポリテトラフルオロエチレン)
D−2;株式会社喜多村社製、KTL−8HM(ポリテトラフルオロエチレン)
〔実施例1〜13〕、〔比較例1〜7〕
(メタクリル系樹脂(A)、ヒンダードフェノール系熱安定剤及び/又はヒンダードアミン系光安定剤、ゴム質共重合体(C)、表面摺動剤(D)の混合)
メタクリル系樹脂(A)100質量部に、下記表1〜3に示す配合比に従い、各種ヒンダードフェノール系熱安定剤及び/又はヒンダードアミン系光安定剤、ゴム質共重合体(C)、表面摺動剤(D)をタンブラーにてドライブレンドして予備混合後、240〜270℃に設定したφ30mmの二軸押出機にて溶融混練し、ストランドを冷却裁断して熱可塑性樹脂組成物のペレットを得た。
各熱可塑性樹脂組成物中のメタクリル系樹脂(A)、ヒンダードフェノール系熱安定剤とヒンダードアミン系光安定剤とを含む安定剤(B)、ゴム質共重合体(C)及び表面摺動剤(D)の種類及び配合量(単位は「質量部」)を下記表1〜3に示す。また、各熱可塑性樹脂組成物の評価結果を表4に示す。
実施例1〜13の熱可塑性樹脂組成物は、高温環境下で滞留したときの耐熱分解性(耐熱分解性−1)、高温成形時の耐熱分解性(耐熱分解性−2)、及び吸水乾燥サイクル後の耐溶剤性の全てが良好であった。特に、実施例1〜4、6〜9、11及び12の熱可塑性樹脂組成物は、成分(B)として環構造を3つ以上含む化合物を含むため、実施例5、10及び13に比べて耐熱分解性にさらに優れていた。
一方で、比較例1においては、安定剤(B)を混合していないため、耐熱分解性評価の全てにおいて、性能が不十分であった。
比較例2〜4においては、ヒンダードフェノール系熱安定剤とヒンダードアミン系光安定剤のうちいずれか一方しか含まなかったため、高温成形時の耐熱分解性が不十分であった。
比較例5においては、ゴム質共重合体(C)の量が適切でなかったため、耐溶剤性が不十分であった。
比較例6においては、安定剤(B)の添加量が過剰であったため、成形品表面にブリードアウトが発生し、成形時のシルバーの原因となった。
比較例7においては、ゴム質共重合体(C)の添加量が過剰であったため、安定剤(B)を含むにもかかわらず、耐熱分解性が低下した。