本実施形態の炭化水素油の脱硫方法は、炭化水素油を水素化精製触媒に接触させる工程を備える。
本実施形態においては、上記炭化水素油に、アニリンが有する水素原子の1つ又は2つ以上が置換基に置換された構造を有し、置換基の合計炭素数が3〜5であるアニリン類を含有させ、且つ、炭化水素油に含まれる上記アニリン類の合計濃度(以下、「C3〜C5アニリン類濃度」という場合もある)を30ppm以上とする。
なお、本明細書では、アニリンが有する水素原子の1つ又は2つ以上が置換基に置換された構造を有する化合物をアニリン類と称する。また、本明細書では、例えば、アニリンが有する水素原子の1つ又は2つ以上が置換基に置換された構造を有し、置換基の合計炭素数が3であるアニリン類をC3アニリン類のように略す。
アニリン類の置換基としては、例えば炭素数1〜8の炭化水素基が挙げられる。アニリン類が置換基として2以上の炭化水素基を有する場合、その炭化水素基の炭素数の合計は10以下であることが好ましい。
本実施形態の炭化水素油の脱硫方法によれば、芳香族分を多く含む炭化水素油を原料油として用いる場合であっても、水素化精製触媒の劣化を抑制しつつ炭化水素油の脱硫を行うことができる。
なお、このような効果が得られる理由を本発明者らは以下のとおり推察する。
まず、炭化水素油の脱硫における水素化精製触媒の劣化は、反応過程において触媒上に堆積するコーク(炭素質)により脱硫反応が阻害されるため起こると考えられている。コークは、脱硫触媒の担体表面上の酸点に堆積し、コークが蓄積するに従って、原料油中のS化合物が活性種(MoS2)へ近づくのが阻害されるために反応性が低下すると考えられる。
触媒上のコーク堆積挙動についてコークの生成過程と成長過程に分けて考えた場合、コーク生成過程では原料油に含まれる芳香族化合物や塩基性窒素分が触媒担体表面に堆積(吸着)すると考えられる。触媒担体(例えば、アルミナなど)表面に存在するルイス酸点への吸着挙動は、塩基性窒素分であればEnd−on(η1配位)、芳香族化合物であればSide−on(η6配位)になると考えられる。End−on吸着したコークの成長は担体表面に対して垂直方向への成長と考えられるのに対して、Side−on吸着したコークの成長は担体表面と平行に積み重なると考えられる。また、End−onで吸着・成長したコーク種はそれぞれ担体表面上でまちまちの方向を向くため、表面上でのコーク密度が低くなると推定される。一方、Side−onで吸着・成長したコーク種は担体表面で積層するため、コーク密度が高くなると推定される。このような違い、すなわちコーク生成過程における吸着挙動の違いが、その後のコークの成長過程でのコーク堆積量に影響し、その結果として、触媒の劣化挙動に違いが生じると考えられる。
芳香族化合物に由来する高密度コークは、触媒の活性種近傍に積み重なって堆積することで、硫黄分の活性種への接近を著しく阻害すると考えられる。これに対して、塩基性窒素分に由来する低密度コークは、担体表面上に積み重なって堆積しない密度の低いコークとして形成されるため、活性種近傍に堆積していても反応性低下の要因にはなり難いと考えられる。
塩基性窒素分の中でもC3〜C5アニリン類が担体表面に吸着しやすく、十分な量のC3〜C5アニリン類により活性種近傍に堆積した低密度コークが、芳香族化合物に由来する高密度コークの堆積を抑制し、結果として、触媒の活性の低下が抑制されるものと考えられる。
上記炭化水素油は、ナフタレン類及びビフェニル類からなる群より選択される少なくとも1種の2環芳香族分を含んでいてもよい。上記炭化水素油における2環芳香族分の総含有量(以下、「2環芳香族分の総含有量」という場合もある)は、触媒劣化の抑制の観点から、5〜10質量%であることが好ましく、6〜8質量%であることがより好ましい。
なお、本明細書において、ナフタレン類とは、ナフタレン、又は、ナフタレンが有する水素原子の1つ若しくは2以上が置換基に置換された構造を有する化合物を示す。また、ビフェニル類とは、ビフェニル、又は、ビフェニルが有する水素原子の1つ若しくは2以上が置換基に置換された構造を有する化合物を示す。ナフタレン類及びビフェニル類における上記置換基としては、例えば炭素数1〜8のアルキル基が挙げられる。具体例として、1−メチルナフタレン、1−エチルナフタレン、2,3−ジメチルナフタレン、1,4−ジメチルナフタレン、2,6−ジメチルナフタレン、1−プロピルナフタレン、1,2,6−トリメチルナフタレン、1,4,5−トリメチルナフタレン、1−ブチルナフタレン、1,2,3,4−テトラメチルナフタレン、2−メチルビフェニル、4−メチルビフェニル、2,2’−ジメチルビフェニル、4,4’−ジメチルビフェニル、2−エチルビフェニル、2−プロピルビフェニル、2,4,6−トリメチルビフェニル、2−ブチルビフェニル、2,2’−ジエチルビフェニル等が挙げられる。
上記炭化水素油における2環芳香族分の総含有量に対するナフタレン類の含有比率(以下、「ナフタレン類比率」という場合もある)は、触媒劣化の抑制の観点から、60%以下であることが好ましく、56%以下であることがより好ましい。
上記炭化水素油における塩基性窒素分は、触媒劣化の抑制の観点から、30質量ppm以上であることが好ましく、70質量ppm以上であることがより好ましい。
上記塩基性窒素分は、UOP試験法 No.269−90に準拠した測定方法により測定される。
上記炭化水素油におけるC3〜C5アニリン類濃度は30ppm以上であることが好ましい。
また、触媒劣化の抑制の観点から、上記炭化水素油における塩基性窒素分に対するアニリン及びアニリン類の合計含有比率(以下、「アニリン類比率」という場合もある)は、20〜80%であることが好ましく、50〜80%であることがより好ましい。
本実施形態に係る炭化水素油におけるC3〜C5アニリン類濃度を求める方法、並びに、上述した2環芳香族分の総含有量、ナフタレン類比率及びアニリン類比率を求める方法について説明する。
図1は、本実施形態に係る方法で用いられる包括的2次元GCシステムを説明するための概略図である。図1に示される包括的2次元GCシステム100は、試料導入部10と、試料導入部10から導入された試料を分離するための第1カラム12、モジュレーションカラム14及び第2カラム18と、分離された試料を検出器に送るためのスプリッター20と、検出器として水素炎イオン化検出器(FID)22、化学発光窒素検出器(NCD)24及び質量分析計(MS)30と、を備えている。また、包括的2次元GCシステム100は、モジュレーションカラム14を加熱ガスで加熱するための加熱部15及び液体窒素で冷却するための冷却部16を有するモジュレータ部50を備えている。
包括的2次元GCシステム100では、試料導入部10から導入された試料が第1カラム12にて沸点毎に分離される。分離された成分は、モジュレータ部50で液体窒素により冷却され、一時的にモジュレーションカラム14でトラップされる。次に、分離成分をトラップしたモジュレーションカラム14に一定の時間間隔で加熱ガスを吹きかけることで、その都度トラップされた成分が第2カラム18に移動する。第2カラム18に移動した成分は極性毎に分離され、スプリッター20にて3種類の検出器に送り込まれる。
次に、包括的2次元GCシステムを用いる測定及び解析について説明する。
図2は、炭化水素油のC3〜C5アニリン類濃度、並びに2環芳香族分の総含有量、ナフタレン類比率及びアニリン類比率を求めるときの手順の一例を示すフロー図である。
図2の(a)は、炭化水素油における2環芳香族分の総含有量及びナフタレン類比率を求めるときの手順の一例を示すフロー図である。ステップS11で、2次元GCを用いて試料のFIDデータ及びMSデータを得る。ステップS12で、得られたFIDデータ及びMSデータを2次元処理する。ステップ13で、2環芳香族分由来のピークをMSデータに基づき同定し、該当するFIDピークの体積値を求める。ステップ14で、検出された全ピークの体積値を求める。ステップ15で、全FIDピークの体積値(この値を100%とみなす)と2環芳香族分のFIDピークの体積値に基づき試料中の2環芳香族分の総含有量(質量%)を算出する。ステップ16で、2環芳香族分のFIDピークの体積値に基づき2環芳香族分全量に対するナフタレン類の比率を算出する。この例では、各ステップが図2(a)に示される順に行われているが、一部のステップが同時に行われてもよく、順序が変更されてもよい。
図2の(b)は、炭化水素油におけるアニリン類比率及びC3〜C5アニリン類濃度を求めるときの手順の一例を示すフロー図である。ステップS21で、2次元GCを用いて試料のNCDデータ及びMSデータを得る。ステップS22で、得られたNCDデータ及びMSデータを2次元処理する。ステップ23で、アニリン及びアニリン類のピークをMSデータに基づき同定し、該当するNCDピークの体積値を求める。ここで、C3〜C5アニリン類の体積値も求められる。ステップ24で、検出された全ピークの体積値を求める。ステップ25で、全NCDピークの体積値に対するアニリン及びアニリン類のNCDピークの体積値の比率を算出する。ステップ26で、JIS K 2609 原料及び石油製品−窒素分試験方法により、試料中の全窒素濃度を求める。ステップ27で、求められた全窒素濃度と、アニリン及びアニリン類の比率とを用いて試料中のアニリン及びアニリン類の濃度(質量ppm)を算出する。また、求められた全窒素濃度と、全NCDピークの体積値に対するC3〜C5アニリン類の体積値の比率とを用いて試料中のC3〜C5アニリン類濃度(質量ppm)を算出する。ステップ28で、UOP試験法 No.269−90により、試料中の塩基性窒素分の濃度を求める。ステップ29で、塩基性窒素分の濃度と、アニリン及びアニリン類の濃度に基づき塩基性窒素分に対するアニリン及びアニリン類の比率を算出する。この例では、各ステップが図2(b)に示される順に行われているが、一部のステップが同時に行われてもよく、順序が変更されてもよい。また、C3〜C5アニリン類濃度のみを求める場合には、ステップS21〜ステップS27を行ってもよい。
ステップS11及びステップS21では、例えば、表3に示される分析条件で測定を行うことができる。
試料は所定の前処理をすることができる。例えば、アニリン及びアニリン類を分析する場合、試料のメタノール抽出物を測定用の試料とすることができる。メタノール抽出は、以下の手順で行うことができる。まず、メタノール及び試料を等量で容器に採取し、5分間激しく振とうする。その後、1時間以上静置してメタノール層を採取し、これを測定用の試料とする。
ステップS12及びステップS22では、解析ソフトGC Imageを用いて2次元処理を行うことができる。これにより、例えば、図3及び図4に示される2次元チャートが得られる。
図3は、包括的2次元GCシステム(検出器:FID)によって得られる2次元チャートの一例を示す図である。図3のチャートには、沸点順及び極性順に分解された炭化水素化合物のピークが示されている。MSデータに基づき、ナフタレン類及びビフェニル類に該当するピークを同定し、それぞれのピークの体積値を得ることができる。
図4は、包括的2次元GCシステム(検出器:NCD)によって得られる2次元チャートの一例を示す図である。図4のチャートには、沸点順及び極性順に分解された塩基性窒素分のピークが示されている。MSデータに基づき、アニリン及びアニリン類に該当するピークを同定し、そのピークの体積値を得ることができる。また、C3〜C5アニリン類に該当するピークを同定し、そのピークの体積値を得ることもできる。このようにして、ステップ13及びステップ23を実施することができる。
ステップ14及びステップ24では全ピークの体積値を求めるが、このときステップ13及びステップ23で体積値を求めるときと同じしきい値を設定することが好ましい。
本実施形態においては、炭化水素油におけるC3〜C5アニリン類濃度が30ppm以上となるように用意した炭化水素油を水素化精製触媒に接触させて脱硫を行う。
本実施形態に係る炭化水素油としては、原油から得られる、直留軽油、接触分解軽油、並びに常圧蒸留残油、減圧蒸留残油、減圧軽油及び溶剤脱れき油等の水素化精製物を用いることができる。
上記直留軽油は、原油を常圧蒸留することで得られる軽油留分を指す。
上記接触分解軽油としては、常圧蒸留残油、減圧軽油、溶剤脱れき油、又はそれらの水素化精製油を流動接触分解装置により接触分解して得られる軽油留分が挙げられる。
上記水素化精製物としては、例えば、常圧蒸留残油を水素化精製して得られる直接脱硫軽油、減圧蒸留残油を水素化精製して得られる間接脱硫軽油が挙げられる。
本実施形態においては、炭化水素油が直留軽油を含むことが好ましい。
この場合、直留軽油の15℃における密度は、燃費の観点から、0.83〜0.88g/cm3であることが好ましく、0.84〜0.87g/cm3であることがより好ましい。なお、本明細書において、15℃における密度とはJIS K 2249に規定する「原油及び石油製品−密度試験方法及び密度・質量・容量換算表(抜粋)」の「振動式密度試験方法」に準拠して測定されるものを指す。
直留軽油の90%留出温度は、燃焼効率およびPM(粒子状物質)抑制の観点から、330〜360℃であることが好ましく、340〜355℃であることがより好ましい。なお、本明細書において、蒸留性状とはJISK2254に規定する「石油製品−蒸留試験方法」によって得られるものを指す。
直留軽油中の硫黄分は、脱硫性能の観点から、3質量%以下であることが好ましく、1.5質量%以下であることがより好ましい。なお、本明細書において、硫黄分とはJIS K 2541−1992に規定する「原油及び石油製品−硫黄分試験方法」の「放射線式励起法」に準拠して測定されるものを指す。
直留軽油中の窒素分は、脱硫性能の観点から、300質量ppm以下であることが好ましく、200質量ppm以下であることがより好ましい。なお、本明細書において、窒素分とは、JIS K 2609「原油及び石油製品−窒素分試験方法」に準拠して測定されるものを指す。
また、触媒劣化の抑制の観点から、炭化水素油が直接脱硫軽油を含むことが好ましい。
本実施形態において、直接脱硫軽油は、常圧残油と、水素化精製触媒とを接触させて得られる反応生成物の軽油留分であることが好ましい。
水素化精製触媒としては、脱メタル触媒を前段に、脱硫触媒を後段に含むものが挙げられる。この場合、常圧残油は、脱メタル触媒に接触させる脱メタル工程と、脱メタル工程の後に脱硫触媒に接触させる脱硫工程とを経て、水素化精製される。
脱メタル触媒は、公知の触媒を用いることができ、例えば、多孔質の担体と担体に担持された活性金属とを有するものを用いることができる。
担体としては、アルミナ、シリカ及びシリカ−アルミナが挙げられる。
活性金属としては、長周期表(新周期表)の第6族元素から選ばれる少なくとも一種と、長周期表の第8族元素、第9族元素及び第10族元素からなる群より選ばれる少なくとも一種と、の組み合わせが好ましい。第6族元素としては、クロム、モリブデン、タングステン及びシーボーギウムからなる群より選ばれる少なくとも一種が挙げられる。長周期表の第8族元素、第9族元素及び第10族元素としては、鉄、ルテニウム、オスミウム、ハッシウム、コバルト、ロジウム、イリジウム、マイトネリウム、ニッケル、パラジウム、白金及びダームスタチウムからなる群より選ばれる少なくとも一種が挙げられる。
脱メタル触媒の中央細孔径としては10〜50nmが挙げられる。なお、中央細孔径とは、窒素ガス吸着法で得られる細孔直径が2nm以上60nm未満である細孔の細孔容積の累積をVとするとき、各直径を有する細孔の容積量を累積させた累積細孔容積曲線において、累積細孔容積がV/2となる細孔径を意味する。中央細孔径が上記範囲内にある場合、メタル成分に由来する金属が脱メタル触媒中に取り込まれ易く、脱硫触媒の失活が抑制され易い。
脱メタル触媒の細孔容積としては0.5〜1.5cm3/g程度が挙げられ、脱メタル触媒のBET比表面積としては100〜250m2/g程度が挙げられる。
脱メタル触媒の形状としては、例えば、角柱状、円柱状、三つ葉状、四つ葉状、及び球状が挙げられる。触媒の大きさは、特に限定されないが、脱メタル触媒の粒径は1〜8mm程度であればよい。
脱メタル工程における水素化処理は以下の反応条件で行うことができる。反応温度としては、300〜450℃が好ましく、325℃〜400℃がより好ましく、340〜360℃が更に好ましい。反応圧力(水素ガスの分圧)は、5〜25MPaが好ましく、10〜22MPaがより好ましく、14〜20MPaが更に好ましい。水素/油比は、400〜2000NL/Lが好ましく、600〜1500NL/Lがより好ましく、1000〜1400NL/Lが更に好ましい。液空間速度(LHSV)は、0.1〜3.0h−1が好ましく、0.1〜2.0h−1がより好ましく、0.2〜1.0h−1が更に好ましい。
脱硫触媒としては、公知の触媒を用いることができ、例えば、多孔質の担体と、担体に担持された活性金属とを有するものを用いることができる。
担体としては、アルミナ、シリカ及びシリカ−アルミナが挙げられる。
活性金属としては、長周期表の第6族元素、第8族元素、第9族元素及び第10族元素からなる群より選ばれる少なくとも一種が挙げられる。第6族元素、第8族元素、第9族元素及び第10族元素としては、脱メタル触媒の活性金属として挙げられた金属を用いることができる。特に活性金属としては、ニッケル及びコバルトのうちの少なくとも一種と、モリブデン及びタングステンのうちの少なくとも一種との組合せが好ましい。具体的な組合せとしては、Ni−Mo、Co−Mo及びNi−Co−Moが挙げられる。
脱硫触媒の中央細孔径としては8〜12nm程度が挙げられる。脱硫触媒の細孔容積としては0.4〜1.0cm3/g程度が挙げられ、脱硫触媒のBET比表面積としては180〜250m2/g程度が挙げられる。
脱硫工程における水素化処理は以下の反応条件で行うことができる。反応温度としては、300〜450℃が好ましく、325℃〜400℃がより好ましく、340〜360℃が更に好ましい。反応圧力(水素ガスの分圧)は、5〜25MPaが好ましく、10〜22MPaがより好ましく、14〜20MPaが更に好ましい。水素/油比は、400〜2000NL/Lが好ましく、600〜1500NL/Lがより好ましく、1000〜1400NL/Lが更に好ましい。液空間速度(LHSV)は、0.1〜3.0h−1が好ましく、0.1〜2.0h−1がより好ましく、0.2〜1.0h−1が更に好ましい。
上記の処理で得られた反応生成物は、例えば精留塔にて常圧換算で180℃〜360℃の範囲の留分を分留することで直接脱硫軽油として用いることができる。
直接脱硫軽油は、常圧換算で180℃〜360℃の範囲の留分を80質量%以上含むことが好ましく、90質量%以上含むことがより好ましく、95質量%以上含むことが更に好ましい。
本実施形態においては、直接脱硫軽油におけるC3〜C5アニリン類濃度が30ppm以上となるように常圧残油を水素化精製することが好ましい。C3〜C5アニリン類濃度は、例えば、上記脱メタル工程及び脱硫工程における反応温度を下げる、反応圧力を上げる、水素/油比を上げる、又は液空間速度を下げることにより増加させることができる。
また、直接脱硫軽油における2環芳香族分の総含有量が10質量%以下となるように常圧残油を水素化精製することが好ましい。
直接脱硫軽油の15℃における密度は、燃費の観点から、0.83〜0.88g/cm3であることが好ましく、0.84〜0.87g/cm3であることがより好ましい。
直接脱硫軽油の90%留出温度は、燃焼効率およびPM抑制の観点から、320〜350℃であることが好ましく、330〜340℃であることがより好ましい。
直接脱硫軽油の硫黄分は、脱硫性能の観点から、1000質量ppm以下であることが好ましく、500質量ppm以下であることがより好ましい。
直接脱硫軽油の窒素分は、脱硫性能の観点から、30〜500質量ppmであることが好ましく、100〜300質量ppmであることがより好ましい。
本実施形態においては、脱硫処理を施す炭化水素油、すなわち水素化精製触媒に接触させる炭化水素油におけるC3〜C5アニリン類濃度が30ppm以上の条件を満たすように、上述した油を2種以上混合することができる。この場合、予め混合する各油についてC3〜C5アニリン類濃度を求め、これらの値に基づき油の混合割合を設定することができる。2環芳香族分の総含有量、ナフタレン類比率、塩基性窒素分及びアニリン類比率についても、同様にして調整することができる。
また、炭化水素油は、硫黄分の含有割合が炭化水素油の全量に対して0.5質量%以上であってよく、0.8質量%以上であってもよい。また、第一の炭化水素油中の硫黄分の含有割合は、第一の炭化水素油の全量に対して、好ましくは2.0質量%以下であり、より好ましくは1.5質量%以下である。硫黄分の含有割合が多いと触媒寿命が短くなるという傾向がある。また、硫黄分の含有割合が少ないと硫黄分が低い高価な炭化水素油を使用する必要があり、経済性が悪いという傾向がある。
炭化水素油は、15℃における密度が0.83〜0.89g/cm3であってよい。また、炭化水素油の15℃における密度は、好ましくは0.83〜0.88g/cm3であり、より好ましくは0.84〜0.87g/cm3であり、さらに好ましくは0.84〜0.86g/cm3である。炭化水素油の密度が上記範囲であると、製品軽油の燃費向上という効果が奏される。
炭化水素油は、90容量%留出温度が320〜370℃であってよい。炭化水素油の90容量%留出温度は、好ましくは320〜360℃であり、より好ましくは330〜355℃である。
炭化水素油は、10容量%留出温度が200〜280℃であってよい。炭化水素油の10容量%留出温度は、好ましくは210〜275℃であり、より好ましくは220〜270℃である。炭化水素油の10容量%留出温度が上記範囲であると、製品軽油の酸化安定性が高いという効果が奏される。
本実施形態で用いられる水素化精製触媒は、通常用いられている触媒であれば、特に制限なく用いることができる。例えば、活性金属元素として、Co及びNiのうちの少なくとも1種類から選ばれる元素、及び、Mo及びWのうちの少なくとも1種類から選ばれる元素を含む多孔質体からなるものを用いることができる。
多孔質体としては、アルミナ、シリカ、チタニア、マグネシア、ジルコニア等の酸化物、シリカ−アルミナ、シリカ−チタニア、シリカ−ジルコニア、シリカ−マグネシア、シリカ−アルミナ−チタニア、シリカ−アルミナ−ジルコニア等の複合酸化物、Y型ゼオライト、安定化Y型ゼオライト、βゼオライト、モルデナイト型ゼオライト及びMCM−22等のゼオライトから選ばれる1種又は2種以上からなる多孔質無機酸化物が挙げられる。
本実施形態においては、脱硫性能の観点から、触媒全量を基準として、Co及びNiの合計含有量が金属元素換算で1〜10質量%、Mo及びWの合計含有量が金属元素換算で2〜30質量%である触媒が好ましい。
水素化精製触媒は、リン、ホウ素、フッ素等の元素を含んでもよいし、さらにエチレンジアミン四酢酸(EDTA)、trans−1,2−シクロヘキサンジアミン−N,N,N',N'−四酢酸、ニトリロ三酢酸、クエン酸等のキレ−ト性の有機化合物などを含んだものも用いることができる。
水素化精製触媒は、メソポアの中央細孔直径が4〜20nmのものが好ましく、4〜15nmのものがより好ましい。また、水素化精製触媒のBET比表面積は、30〜800m2/gのものが好ましく、50〜600m2/gのものがより好ましい。
水素化精製触媒の形態については、粉体ではなく、成形体であることが好ましい。成形体の形状や成形方法に特に制限はないが、球状や柱状の形状が好ましい。また、球状の場合には、直径が0.5〜20mmのものが好ましく、柱状の場合の断面形状は、特に制限はされないが、円型、三つ葉型、四つ葉型であることが好ましい。柱状の成形体の寸法は、断面積が0.25〜400mm2、長さ0.5〜20mm程度であることが好ましい。
水素化精製の条件としては、水素分圧が1〜10MPaであることが好ましく、3〜8MPaであることがより好ましい。水素圧力が1MPaより低いと、炭化水素油中の硫黄分を10質量ppm以下にすることが困難になり、また、水素圧力が10MPaを超えると炭化水素油の単位体積あたりの発熱量が小さくなり、好ましくない。
LHSVは、0.1〜5h−1であることが好ましく、1〜3h−1であることがより好ましい。LHSVが0.1h−1未満の場合には、例えば脱硫軽油を製造するための反応装置が大きくなり過ぎるおそれがあり、LHSVが5h−1を超えると、炭化水素油中の硫黄分を10質量ppm以下にするために反応温度が高くなりすぎて触媒の劣化が促進されるおそれがある。
水素/油比は、30〜500NL/Lであることが好ましく、100〜300NL/Lであることがより好ましい。水素/油比が30NL/L未満では、炭化水素油の硫黄分を10質量ppm以下にすることが困難であり、また、500NL/Lを超えると、水素供給のためのコストが嵩み、経済的な軽油の製造がしにくくなる。
反応温度は、250〜420℃であることが好ましく、250〜400℃であることがより好ましい。反応温度が250℃より低いと、炭化水素油中の硫黄分を10質量ppm以下にすることが困難になり、一方、反応温度が420℃を超えると触媒の劣化が促進されるため、好ましくない。
本実施形態の炭化水素油の脱硫方法によって脱硫軽油を得ることができる。
本実施形態の脱硫軽油の製造方法は、軽油留分を含む炭化水素油から上述した本実施形態の炭化水素油の脱硫方法により脱硫軽油を得る。
本実施形態の脱硫軽油の製造方法によれば、芳香族分を多く含む軽油留分が含まれる炭化水素油を原料油として用いる場合であっても、水素化精製触媒の劣化を抑制しつつ炭化水素油の脱硫を行うことができる。これにより、水素化精製触媒の劣化を抑制しつつ脱硫軽油を製造することができる。また、本発明の方法によれば、重油基材の有効利用を図りながら脱硫軽油を製造することもできる。
本実施形態においる軽油留分は、常圧換算で180℃〜360℃の範囲の留分を80質量%以上含むことが好ましく、90質量%以上含むことがより好ましく、95質量%以上含むことが更に好ましい。
脱硫軽油はそのまま軽油製品として用いることができ、あるいは他の基材と混合して軽油製品を調製するための軽油基材として用いることもできる。この軽油基材と混合される他の軽油基材としては、例えば、原油を精製して生産される灯油、フィッシャ−・トロプシュ法等で誘導される合成軽油、水素化分解軽油、あるいはそれらの半製品、中間製品等の配合用基材が挙げられる。また、植物油メチルエステル、エ−テル類等も他の軽油基材として配合することが可能である。本実施形態で得られる脱硫軽油と他の軽油基材とを配合して、製品軽油を調製する場合、所望の品質の軽油となるように適宜配合割合を選定することができるが、他の軽油基材の配合割合は、20質量%以下、特には15質量%以下にすることが好ましい。
脱硫軽油の硫黄分は、10質量ppm以下であることが好ましく、8質量ppm以下であることがより好ましい。硫黄分が10質量ppmを超えると、ディ−ゼルエンジン燃焼により生成する硫黄酸化物が高濃度となり、排ガス用触媒の劣化を促進したり、当該触媒の再生に要する燃料コストが増加して燃費が悪化したりする恐れがある。
また、本発明の他の側面として、上記炭化水素油を、水素化精製触媒に接触させて、上記炭化水素油を脱硫する脱硫工程における触媒の活性低下を抑制する方法(抑制方法)に関する。このような抑制方法によれば、芳香族分を多く含む炭化水素油を脱硫する脱硫工程において、水素化精製触媒の劣化を抑制することができる。
以下に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに制限されるものではない。
<水素化精製触媒の調製>
(触媒A)
アルミナ−シリカ−リン酸化物担体に、触媒全量を基準として、Coを金属元素換算で2.4質量%、Moを金属元素換算で15.0質量%となるように担持して、BET比表面積が210m2/gである触媒Aを得た。
(触媒B)
アルミナ−シリカ−チタニア担体に、触媒全量を基準として、Coを金属元素換算で2.4質量%、Moを金属元素換算で15.0質量%となるように担持して、BET比表面積が230m2/gである触媒Bを得た。
<原油由来の炭化水素油の準備>
表2に示される直留軽油A、直留軽油B、直接脱硫軽油A、直接脱硫軽油B、直接脱硫軽油C、直接脱硫軽油Dをそれぞれ準備した。
なお、本実施例において、蒸留性状、密度、硫黄分、窒素分は、以下のように得られる。
蒸留性状:JISK2254に規定する「石油製品−蒸留試験方法」によって得られるものである。
密度:15℃における密度は、JIS K 2249に規定する「原油及び石油製品−密度試験方法及び密度・質量・容量換算表(抜粋)」の「振動式密度試験方法」に準拠して測定されるものである。
硫黄分:JIS K 2541−1992に規定する「原油及び石油製品−硫黄分試験方法」の「放射線式励起法」に準拠して測定されるものである。
窒素分:JIS K 2609「原油及び石油製品−窒素分試験方法」に準拠して測定されるものである。
塩基性窒素分:UOP試験法No.269−90に準拠して測定されるものである。
また、2環芳香族分の総含有量(質量%)、2環芳香族分中のナフタレン類比率(%)、塩基性窒素分(質量ppm)、塩基性窒素分中のアニリン類比率(%)、並びに各C1〜C6アニリン類の濃度(質量ppm)は、図1に示されるものと同様の構成を有する2次元GCシステム(ZOEX社製 KT2006(GC及び検出器はAgilent社製))を用い、図2に示されるフロー図と同様の手順で求めた。
<炭化水素油の脱硫>
(実施例1〜3、比較例1〜3)
表3、4に示される油及び混合比率で得られた炭化水素油を、同表に示される触媒を用いて下記に示す条件で水素化精製(脱硫)した。
水素化処理触媒量:100mL
反応温度:340〜380℃
LHSV:3.0h−1
水素分圧:5.5MPa
水素/油比:200NL/L
<水素化精製触媒の劣化速度の算出>
反応時間と、処理後の炭化水素油中の硫黄分を8質量ppmとするために必要な反応温度との関係を得て、21日目の必要反応温度と84日目の必要反応温度の差から水素化精製触媒の劣化速度(℃/月)を算出した。
表3及び4に示されるように、炭化水素油におけるC3〜C5アニリン類の濃度が30ppm以上である実施例1〜3は、C3〜C5アニリン類の濃度が30ppm未満である比較例1〜3に比べて触媒の劣化速度が小さいことが確認された。