以下、実施形態によるブレーキ装置について、当該ブレーキ装置を4輪自動車に搭載した場合を例に挙げ、添付図面に従って説明する。なお、図4、図6に示す流れ図の各ステップは、それぞれ「S」という表記を用い、例えばステップ1を「S1」として示すものとする。
図1において、車両のボディを構成する車体1の下側(路面側)には、例えば左,右の前輪2(FL,FR)と左,右の後輪3(RL、RR)とからなる合計4個の車輪が設けられている。これらの前輪2および後輪3には、それぞれの車輪(各前輪2、各後輪3)と共に回転する被制動部材としてのディスクロータ4が設けられている。前輪2用のディスクロータ4は、液圧式のディスクブレーキ5により制動力が付与され、後輪3用のディスクロータ4は、電動駐車ブレーキ機能付の液圧式のディスクブレーキ31により制動力が付与される。これにより、各車輪(各前輪2、各後輪3)には、それぞれ独立して制動力が付与される。
車体1のフロントボード側には、ブレーキペダル6が設けられている。ブレーキペダル6は、車両のブレーキ操作時に運転者によって踏込み操作され、この操作に基づいて、常用ブレーキ(サービスブレーキ)としての制動力の付与および解除が行われる。ブレーキペダル6には、ブレーキランプスイッチ、ペダルスイッチ、ペダルストロークセンサ等のブレーキ操作検出センサ(ブレーキセンサ)6Aが設けられている。ブレーキ操作検出センサ6Aは、ブレーキペダル6の踏込み操作の有無、または、その操作量を検出し、その検出信号を液圧供給装置用コントローラ13に出力する。ブレーキ操作検出センサ6Aの検出信号は、例えば、車両データバス16、または、液圧供給装置用コントローラ13と駐車ブレーキ制御装置19とを接続する信号線(図示せず)を介して伝送される(駐車ブレーキ制御装置19に出力される)。
ブレーキペダル6の踏込み操作は、倍力装置7を介して、油圧源として機能するマスタシリンダ8に伝達される。倍力装置7は、ブレーキペダル6とマスタシリンダ8との間に設けられた負圧ブースタまたは電動ブースタとして構成され、ブレーキペダル6の踏込み操作時に踏力を増力してマスタシリンダ8に伝える。このとき、マスタシリンダ8は、マスタリザーバ9から供給されるブレーキ液により液圧を発生させる。マスタリザーバ9は、ブレーキ液が収容された作動液タンクにより構成されている。ブレーキペダル6により液圧を発生する機構は、上記の構成に限られるものではなく、ブレーキペダル6の操作に応じて液圧を発生する機構、例えば、ブレーキバイワイヤ方式の機構等であってもよい。
マスタシリンダ8内に発生した液圧は、例えば一対のシリンダ側液圧配管10A,10Bを介して液圧供給装置11(以下、ESC11という)に送られる。ESC11は、各ディスクブレーキ5,31とマスタシリンダ8との間に配置され、マスタシリンダ8からの液圧をブレーキ側配管部12A,12B,12C,12Dを介して各ディスクブレーキ5,31に分配する。これにより、各車輪(各前輪2、各後輪3)には、それぞれ相互に独立して制動力が付与される。この場合、ESC11は、ブレーキペダル6の操作量に従わない態様でも、各ディスクブレーキ5,31に液圧を供給する(即ち、各ディスクブレーキ5,31の液圧を高める)ことができる。
このために、ESC11は、例えばマイクロコンピュータ等によって構成される専用の制御装置、即ち、液圧供給装置用コントローラ13(以下、コントロールユニット13という)を有している。コントロールユニット13は、ESC11の各制御弁(図示せず)を開,閉したり、液圧ポンプ用の電動モータ(図示せず)を回転,停止させたりする駆動制御を行うことにより、ブレーキ側配管部12A〜12Dから各ディスクブレーキ5,31に供給されるブレーキ液圧を増圧、減圧または保持する制御を行う。これにより、種々のブレーキ制御、例えば、倍力制御、制動力分配制御、ブレーキアシスト制御、アンチロックブレーキ制御(ABS)、トラクション制御、車両安定化制御(横滑り防止を含む)、坂道発進補助制御、自動運転制御等が実行される。
コントロールユニット13には、バッテリ14からの電力が電源ライン15を通じて給電される。図1に示すように、コントロールユニット13は、車両データバス16に接続されている。なお、ESC11の代わりに、公知のABSユニットを用いることも可能である。さらに、ESC11を設けることなく(即ち、省略し)、マスタシリンダ8とブレーキ側配管部12A〜12Dとを直接的に接続することも可能である。
車両データバス16は、車体1に搭載されたシリアル通信部としてのCAN(Controller Area Network)を備えており、車両に搭載された多数の電子機器、コントロールユニット13および駐車ブレーキ制御装置19等との間で車両内での多重通信を行う。この場合、車両データバス16に送られる車両情報としては、例えば、ブレーキ操作検出センサ6A、マスタシリンダ液圧(ブレーキ液圧)を検出する圧力センサ17、イグニッションスイッチ、シートベルトセンサ、ドアロックセンサ、ドア開センサ、着座センサ、車速センサ、操舵角センサ、アクセルセンサ(アクセル操作センサ)、スロットルセンサ、エンジン回転センサ、ステレオカメラ、ミリ波レーダ、勾配センサ、シフトセンサ、加速度センサ、車輪速センサ、車両のピッチ方向の動きを検知するピッチセンサ等からの検出信号による情報(車両情報)が挙げられる。
車体1内には、運転席(図示せず)の近傍に駐車ブレーキスイッチ(図2に示すPKBSW)18が設けられる。駐車ブレーキスイッチ18は運転者によって操作される。駐車ブレーキスイッチ18は、運転者からの駐車ブレーキの作動要求(アプライ要求、リリース要求)に対応する信号(作動要求信号)を、駐車ブレーキ制御装置19へ伝達する。即ち、駐車ブレーキスイッチ18は、電動モータ43Bの駆動(回転)に基づいてブレーキパッド33(図3参照)をアプライ作動またはリリース作動させるための信号(アプライ要求信号、リリース要求信号)を、コントロールユニット(コントローラ)となる駐車ブレーキ制御装置19に出力する。
運転者により駐車ブレーキスイッチ18が制動側に操作されたとき、即ち、車両に制動力を与えるためのアプライ要求(保持要求、駆動要求)があったときは、駐車ブレーキスイッチ18からアプライ要求信号が出力される。この場合は、駐車ブレーキ制御装置19から後輪3用のディスクブレーキ31に、電動モータ43Bを制動側に回転させるための電力が給電される。これにより、後輪3用のディスクブレーキ31は、駐車ブレーキ(ないし補助ブレーキ)としての制動力が付与された状態、即ち、アプライ状態となる。
一方、運転者により駐車ブレーキスイッチ18が制動解除側に操作されたとき、即ち、車両の制動力を解除するためのリリース要求(解除要求)があったときは、駐車ブレーキスイッチ18からリリース要求信号が出力される。この場合は、駐車ブレーキ制御装置19からディスクブレーキ31の電動モータ43Bに、モータを制動側とは逆方向に回転させるための電力が給電される。これにより、後輪3用のディスクブレーキ31は、駐車ブレーキ(ないし補助ブレーキ)としての制動力の付与が解除された状態、即ち、リリース状態となる。
駐車ブレーキは、例えば車両が所定時間停止したとき(例えば、走行中に減速に伴って、車速センサの検出速度が4km/h未満の状態が所定時間継続したときに停止と判断)、エンジンが停止したとき、シフトレバーをP(パーキング)に操作したとき、ドアが開いたとき、シートベルトが解除されたとき等、駐車ブレーキ制御装置19での駐車ブレーキのアプライ判断ロジックによる自動的なアプライ要求に基づいて、自動的に付与(オートアプライ)する構成とすることができる。また、駐車ブレーキは、例えば車両が走行したとき(例えば、停車から増速に伴って車速センサの検出速度が5km/h以上の状態が所定時間継続したときに走行と判断)や、アクセルペダルが操作されたとき、クラッチペダルが操作されたとき、シフトレバーがP(パーキング)、N(ニュートラル)以外に操作されたとき等、駐車ブレーキ制御装置19での駐車ブレーキのリリース判断ロジックによる自動的なリリース要求に基づいて、自動的に解除(オートリリース)する構成とすることができる。
さらに、車両の走行時に駐車ブレーキスイッチ18によるアプライ要求があった場合、より具体的には、走行中に緊急的に駐車ブレーキを補助ブレーキとして用いる等の動的駐車ブレーキ(動的アプライ)の要求があった場合に、駐車ブレーキ制御装置19により、車輪(各後輪3)の状態、即ち、車輪がロック(スリップ)しているか否かに応じて、自動的に制動力の付与と解除(ABS制御)を行う構成とすることもできる。
次に、ブレーキ装置の制御部となる駐車ブレーキ制御装置19について、図2を参照しつつ説明する。
駐車ブレーキ制御装置19は、左,右一対のディスクブレーキ31と共に電動ブレーキシステム(ブレーキ装置)を構成している。駐車ブレーキ制御装置19は、マイクロコンピュータ等によって構成される演算回路(CPU)20と、メモリ(記憶部)21、電圧センサ部22、モータ駆動回路23、電流センサ部24等とを含んで構成されている。駐車ブレーキ制御装置19の演算回路20、メモリ21、電圧センサ部22、モータ駆動回路23および電流センサ部24は、必ずしも単一のケーシング(図示せず)内に設ける必要はなく、それぞれ別体として構成してもよい。
ここで、駐車ブレーキ制御装置19の演算回路20、メモリ21および各モータ駆動回路23は、後述の電動モータ43Bに給電することにより車両に制動力を与えるためのアプライ制御、及び、制動力を解除するためのリリース制御を行う制御部を構成している。そして、各電流センサ部24は、各電動モータ43Bに通電されるモータ電流を検出する電流検出部を構成している。
駐車ブレーキ制御装置19には、前記バッテリ14から電源ライン15を通じて電力が供給される。駐車ブレーキ制御装置19は、ディスクブレーキ31の電動モータ43Bを制御し、車両の駐車、停車時(必要に応じて走行時)に制動力(駐車ブレーキ、補助ブレーキ)を発生させる。即ち、駐車ブレーキ制御装置19は、電動モータ43Bを駆動することにより、ディスクブレーキ31を駐車ブレーキ(必要に応じて補助ブレーキ)として作動させる。このために、図1ないし図3に示すように、駐車ブレーキ制御装置19は、入力側が車両データバス16および駐車ブレーキスイッチ18等に接続され、出力側はディスクブレーキ31の電動モータ43Bに接続されている。
駐車ブレーキ制御装置19は、運転者の駐車ブレーキスイッチ18の操作による作動要求(アプライ要求、リリース要求)、駐車ブレーキのアプライ・リリースの判断ロジックによる作動要求、ABS制御による作動要求に基づいて、電動モータ43Bを駆動制御し、ディスクブレーキ31のアプライ(保持)またはリリース(解除)を行う。駐車ブレーキ制御装置19は、車両データバス16から複数の車両情報(例えば、駐車ブレーキの制御に必要な車両の各種状態量)を取得することができる。なお、車両データバス16から取得する車両情報は、その情報を検出するセンサを駐車ブレーキ制御装置19に直接接続することにより取得する構成としてもよい。
また、駐車ブレーキ制御装置19の演算回路20は、車両データバス16に接続された他の制御装置(例えば、コントロールユニット13)から前述の判断ロジックやABS制御に基づく作動要求が入力されるように構成してもよい。この場合は、前述の判断ロジックによる駐車ブレーキのアプライ・リリースの判定やABSの制御を、駐車ブレーキ制御装置19に代えて、他の制御装置、例えばコントロールユニット13で行う構成とすることができる。即ち、コントロールユニット13に駐車ブレーキ制御装置19の制御内容を統合することは、可能である。
なお、実施形態では、駐車ブレーキ制御装置19をESC11のコントロールユニット13と別体としたが、駐車ブレーキ制御装置19をコントロールユニット13と一体に構成してもよい。また、駐車ブレーキ制御装置19は、左,右で2つのディスクブレーキ31を制御するようにしているが、左,右のディスクブレーキ31毎に設けるようにしてもよく、この場合には、駐車ブレーキ制御装置19をディスクブレーキ31に一体的に設けることもできる。
駐車ブレーキ制御装置19のメモリ21は、例えば不揮発性メモリ、ROM、RAM、EEPROM等からなる記憶手段(閾値記憶部を含む)を構成している。メモリ21には、前述の駐車ブレーキのアプライ・リリースの判断ロジックやABSの制御のプログラムに加え、図4と図6に示す制御処理を実行するための処理プログラム等が格納されている。また、メモリ21には、図4に示すタイマTM、突入電流(A0)を判別するための所定時間T1およびクランプ完了を判別するための停止電流Imsと、図6に示す第1,第2の電流閾値Im1,Im2、時間計測部を構成するタイマtおよび後述の規定経過時間(Tb±e)等とが更新可能に格納されている。
さらに、図6に示す処理手順のうちS17およびS18は、時間計測部としてのタイマtによって計測された経過時間が規定経過時間(Tb±e)の範囲内にあるか否かを比較して判定することにより、後述の電動モータ43Bにより駆動される回転直動変換機構40(直動部材42)の動きが正常であるか異常(電動モータ43Bの不調および/またはメカ機構の不調を含む)であるかを判定する動作判定部の具体例を示している。
前記閾値記憶部、時間計測部および動作判定部は、前記制御部の正否判定部を構成している。この正否判定部は、電動モータ43Bに給電しているときに、モータ電流が一の電流値(例えば、第1の電流閾値Im1)から他の電流値(例えば、第2の電流閾値Im2)になるまでの経過時間を計測し、該経過時間と規定経過時間(Tb±e)とを比較することにより、前記制動力の付与または解除が正常に行われたか否かを判定するものである。
図2に示すように、駐車ブレーキ制御装置19には、電源ライン15からの電圧を検出する電圧センサ部22と、左,右のディスクブレーキ31の電動モータ43Bをそれぞれ独立して駆動する左,右のモータ駆動回路23と、左,右の電動モータ43Bに供給(通電)されるモータ電流を個別に検出する電流検出部としての左,右の電流センサ部24等とが設けられている。駐車ブレーキ制御装置19の電圧センサ部22、モータ駆動回路23および電流センサ部24は、それぞれ演算回路20に接続されている。
これにより、駐車ブレーキ制御装置19の演算回路20は、アプライまたはリリースを行うときに、各電流センサ部24により検出される電動モータ43Bのモータ電流Im(例えば、図5参照)の変化に基づいて、ディスクロータ4とブレーキパッド33との当接・離接の判定、電動モータ43Bの駆動または停止の判定(即ち、アプライ完了の判定またはリリース完了の判定)等を行うことができる。
次に、左,右の後輪3側に設けられる電動駐車ブレーキ機能付のディスクブレーキ31の構成について、図3を参照しつつ説明する。なお、図3では、左,右の後輪3に対応してそれぞれ設けられた左,右のディスクブレーキ31のうちの一方のみを代表例として示している。
車両の左,右に設けられた一対のディスクブレーキ31は、それぞれ電動式の駐車ブレーキ機能が付設された液圧式のディスクブレーキとして構成される。ディスクブレーキ31は、駐車ブレーキ制御装置19と共にブレーキシステム(ブレーキ装置)を構成している。ディスクブレーキ31は、車両の後輪3側の非回転部分に取付けられる取付部材32と、制動部材としてのインナ側,アウタ側のブレーキパッド33と、電動アクチュエータ43が設けられたブレーキ機構としてのキャリパ34とを含んで構成されている。
この場合、ディスクブレーキ31は、ブレーキパッド33をブレーキペダル6の操作等に基づく液圧によりピストン39で推進させ、ディスクロータ4をブレーキパッド33で押圧することにより、車輪(後輪3)延いては車両に制動力を付与する。また、ディスクブレーキ31は、後述の如く電動モータ43Bにより(回転直動変換機構40を介して)ピストン39を推進させ、ディスクロータ4をブレーキパッド33で押圧することにより、車輪(後輪3)延いては車両に制動力を付与する。
取付部材32は、ディスクロータ4の外周を跨ぐようにディスクロータ4の軸方向(即ち、ディスク軸方向)に延びディスク周方向で互いに離間した一対の腕部(図示せず)と、該各腕部の基端側を一体的に連結するように設けられ、ディスクロータ4のインナ側となる位置で車両の非回転部分に固定される厚肉の支承部32Aと、ディスクロータ4のアウタ側となる位置で前記各腕部の先端側を互いに連結する補強ビーム32Bとを含んで構成されている。
インナ側,アウタ側のブレーキパッド33は、ディスクロータ4の両面に当接可能に配置され、取付部材32の各腕部によりディスク軸方向に移動可能に支持されている。インナ側,アウタ側のブレーキパッド33は、キャリパ34(キャリパ本体35、ピストン39)によりディスクロータ4の両面側に押圧される。これにより、ブレーキパッド33は、車輪(後輪3)と共に回転するディスクロータ4を押圧することにより車両に制動力を与える。
取付部材32には、ホイールシリンダとなるキャリパ34がディスクロータ4の外周側を跨ぐように配置されている。キャリパ34は、取付部材32の前記各腕部に対してディスクロータ4の軸方向に沿って移動可能に支持されたキャリパ本体35、このキャリパ本体35内に摺動変位可能に挿嵌して設けられたピストン39、回転直動変換機構40および電動アクチュエータ43等を備えている。キャリパ34は、ブレーキペダル6の操作に基づいて発生する液圧によって作動するピストン39を用いてブレーキパッド33を推進する。
キャリパ本体35は、シリンダ部36とブリッジ部37と爪部38とを備えている。シリンダ部36は、軸線方向の一方側が隔壁部36Aによって閉塞され、ディスクロータ4に対向する他方側が開口された有底円筒状に形成されている。ブリッジ部37は、ディスクロータ4の外周側を跨ぐように該シリンダ部36からディスク軸方向に延びて形成されている。爪部38は、シリンダ部36と反対側においてブリッジ部37から径方向内側に向けて延び、アウタ側のブレーキパッド33に背面側から当接するように配置されている。
キャリパ本体35のシリンダ部36は、図1に示すブレーキ側配管部12Cまたは12Dを介してブレーキペダル6の踏込み操作等に伴う液圧が供給される。このシリンダ部36には隔壁部36Aが一体形成されている。隔壁部36Aは、シリンダ部36と電動アクチュエータ43との間に位置している。隔壁部36Aは、軸線方向の貫通穴を有しており、隔壁部36Aの内周側には、電動アクチュエータ43の出力軸43Cが回転可能に挿入されている。
キャリパ本体35のシリンダ部36内には、押圧部材(移動部材)としてのピストン39と、回転直動変換機構40とが設けられている。なお、実施形態においては、回転直動変換機構40がピストン39内に収容されている。しかし、回転直動変換機構40は、ピストン39を推進するように構成されていればよく、必ずしもピストン39内に収容されていなくてもよい。
ピストン39は、ブレーキパッド33をディスクロータ4に向けて、または、ディスクロータ4から遠ざかる方向に移動させる。ピストン39は、軸線方向の一方側が開口しており、インナ側のブレーキパッド33に対面する、軸線方向の他方側が蓋部39Aによって閉塞されている。このピストン39は、シリンダ部36内に摺動変位可能に挿入されている。
ピストン39は、電動アクチュエータ43の電動モータ43Bへ電流が供給(通電)されることにより、シリンダ部36内を軸方向に移動することに加えて、ブレーキペダル6の踏込み等に基づいてシリンダ部36内に液圧が供給されることによっても、同じく軸方向に移動する。この場合に、電動アクチュエータ43(電動モータ43B)によるピストン39の移動は、直動部材42に押圧されることによって行われる。また、回転直動変換機構40は、ピストン39の内部に収容されており、ピストン39は、該回転直動変換機構40によりシリンダ部36の軸線方向に推進されるように構成されている。
回転直動変換機構40は、シリンダ部36内への液圧供給によって生じる力とは異なる外力(即ち、電動アクチュエータ43により発生される力)によってキャリパ34のピストン39を軸方向に推進させると共に、推進されたピストン39およびブレーキパッド33を、その位置に保持する機能を有している。これにより、駐車ブレーキはアプライ状態(保持状態)となる。一方、回転直動変換機構40は、電動アクチュエータ43によりピストン39を推進方向とは逆方向に退避させ、駐車ブレーキをリリース状態(解除状態)とする。そして、左,右の後輪3用に左,右のディスクブレーキ31がそれぞれ設けられるので、回転直動変換機構40および電動アクチュエータ43も、車両の左,右それぞれに設けられている。
回転直動変換機構40は、台形ねじ等の雄ねじが形成された棒状体を有するねじ部材41と、台形ねじによって形成される雌ねじ穴が内周側に形成された直動部材42とにより(スピンドルナット機構として)構成されている。直動部材42は、電動アクチュエータ43によりピストン39に向けて、または、ピストン39から遠ざかる方向に移動する被駆動部材(推進部材)となる。即ち、直動部材42の内周側に螺合したねじ部材41は、電動アクチュエータ43による回転運動を直動部材42の直線運動に変換するねじ機構を構成している。この場合、直動部材42の雌ねじとねじ部材41の雄ねじとは、不可逆性の大きいねじ、実施形態においては、台形ねじを用いて形成することにより押圧部材保持機構を構成している。
即ち、回転直動変換機構40は、電動モータ43Bに対する給電を停止した状態でも、直動部材42(即ち、ピストン39)を任意の位置で摩擦力(保持力)によって保持する押圧部材保持機構として構成されている。なお、押圧部材保持機構は、電動アクチュエータ43により推進された位置にピストン39を保持することができればよく、例えば、台形ねじ以外の不可逆性の大きい通常の三角断面のねじやウォームギヤとしてもよい。
直動部材42の内周側に螺合して設けられたねじ部材41には、軸線方向の一方側に大径の鍔部であるフランジ部41Aが設けられている。ねじ部材41の軸線方向の他方側は、ピストン39の蓋部39Aに向けて延びている。ねじ部材41は、フランジ部41Aにおいて、電動アクチュエータ43の出力軸43Cに一体的に連結されている。また、直動部材42の外周側には、直動部材42をピストン39に対して回り止め(相対回転を規制)しつつ、直動部材42が軸線方向に相対移動することを許容する係合突部42Aが設けられている。これにより、直動部材42は、電動モータ43Bが駆動することにより直動し、ピストン39に接触して該ピストン39を軸方向に移動させる。
電動アクチュエータ43は、キャリパ34のキャリパ本体35に固定されている。電動アクチュエータ43は、駐車ブレーキスイッチ18の作動要求信号や前述の駐車ブレーキのアプライ・リリースの判断ロジック、ABSの制御に基づいて、ディスクブレーキ31を作動(アプライ・リリース)させる。電動アクチュエータ43は、隔壁部36Aの外側に取付けられたケーシング43Aと、該ケーシング43A内に位置してステータ、ロータ等を備え電力(電流)が供給されることによりピストン39を軸方向に移動させる電動モータ43Bと、該電動モータ43Bの回転を減速してトルクを増大させる減速機(図示せず)と、該減速機による増幅後の回転トルクを出力する出力軸43Cとを含んで構成されている。
電動モータ43Bは、例えば、直流ブラシモータとして構成することができる。出力軸43Cは、シリンダ部36の隔壁部36Aを軸線方向に貫通して延びており、ねじ部材41と一体に回転するように、シリンダ部36内においてねじ部材41のフランジ部41Aの端部に連結されている。出力軸43Cとねじ部材41との連結機構は、例えば、軸線方向には移動可能であるが回転方向には回り止めされるように構成することができる。この場合は、例えばスプライン嵌合や多角形柱による嵌合(非円形嵌合)等の公知の技術が用いられる。
なお、減速機としては、例えば、遊星歯車減速機やウォーム歯車減速機等を用いてもよい。また、ウォーム歯車減速機等、逆作動性のない(不可逆性の)公知の減速機を用いる場合は、回転直動変換機構40として、ボールねじやボールアンドランプ機構等、可逆性のある公知の機構を用いることができる。この場合は、例えば、可逆性の回転直動変換機構と不可逆性の減速機とにより押圧部材保持機構を構成することができる。
車両の運転者が駐車ブレーキスイッチ18を操作したときには、駐車ブレーキ制御装置19を介して電動モータ43Bに給電が行われ、電動アクチュエータ43の出力軸43Cが回転される。これにより、回転直動変換機構40のねじ部材41は、一方向に出力軸43Cと一体に回転され、直動部材42を介してピストン39をディスクロータ4側に推進(駆動)する。このとき、ディスクブレーキ31は、インナ側およびアウタ側のブレーキパッド33間でディスクロータ4軸方向両側から挟持し、電動式の駐車ブレーキとして制動力を付与した状態、即ち、アプライ状態(保持状態)となる。
一方、駐車ブレーキスイッチ18が制動解除側に操作されたときには、電動アクチュエータ43により回転直動変換機構40のねじ部材41が他方向(逆方向)に回転駆動される。これにより、直動部材42(および液圧付加がなければピストン39)は、ディスクロータ4から離れる方向に駆動され、ディスクブレーキ31は、駐車ブレーキとしての制動力の付与が解除された状態、即ち、解除状態(リリース状態)となる。
回転直動変換機構40は、ねじ部材41が直動部材42に対して相対回転されるとき、ピストン39内での直動部材42の回転が規制されているため、直動部材42は、ねじ部材41の回転角度に応じて軸線方向に相対移動する。これにより、回転直動変換機構40は、回転運動を直線運動に変換し、直動部材42によりピストン39が軸方向に推進される。また、これと共に、回転直動変換機構40は、直動部材42をねじ部材41との摩擦力によって任意の位置で保持することにより、ピストン39およびブレーキパッド33を電動アクチュエータ43により推進された位置に保持する。
シリンダ部36の隔壁部36Aには、該隔壁部36Aとねじ部材41のフランジ部41Aとの間にスラスト軸受44が設けられている。このスラスト軸受44は、隔壁部36Aと共にねじ部材41からのスラスト荷重を受け、隔壁部36Aに対するねじ部材41の回転を円滑にする。また、シリンダ部36の隔壁部36Aには、電動アクチュエータ43の出力軸43Cとの間にシール部材45が設けられ、該シール部材45は、シリンダ部36内のブレーキ液が電動アクチュエータ43側に漏洩するのを阻止するように両者の間をシールしている。
また、シリンダ部36の開口端側には、該シリンダ部36とピストン39との間をシールする弾性シールとしてのピストンシール46と、シリンダ部36内への異物侵入を防ぐダストブーツ47とが設けられている。ダストブーツ47は、可撓性を有した蛇腹状のシール部材であり、シリンダ部36の開口端とピストン39の蓋部39A側の外周との間に取付けられている。
なお、前輪2用のディスクブレーキ5は、駐車ブレーキ機構を除いて、後輪3用のディスクブレーキ31とほぼ同様に構成されている。即ち、前輪2用のディスクブレーキ5は、後輪3用のディスクブレーキ31が備える、駐車ブレーキとして作動する回転直動変換機構40および電動アクチュエータ43等を備えていない。しかし、ディスクブレーキ5に代えて、前輪2用に電動駐車ブレーキ機能付のディスクブレーキ31を設ける構成としてもよい。
本実施形態による4輪自動車のブレーキ装置は、上述の如き構成を有するもので、次に、その作動について説明する。
車両の運転者がブレーキペダル6を踏込み操作すると、その踏力が倍力装置7を介してマスタシリンダ8に伝達され、マスタシリンダ8によってブレーキ液圧が発生する。マスタシリンダ8内で発生したブレーキ液圧は、シリンダ側液圧配管10A,10B、ESC11およびブレーキ側配管部12A,12B,12C,12Dを介して各ディスクブレーキ5,31に分配して供給され、左,右の前輪2と左,右の後輪3とにそれぞれ制動力が付与される。
後輪3用の各ディスクブレーキ31についても、前輪2側と同様にキャリパ34のシリンダ部36内にブレーキ側配管部12C,12Dを介してそれぞれ液圧が供給され、シリンダ部36内の液圧上昇に従ってピストン39がインナ側のブレーキパッド33に向けて軸方向に摺動変位する。これにより、ピストン39は、インナ側のブレーキパッド33をディスクロータ4の一側面に向けて押圧し、このときの反力によって、キャリパ34全体が取付部材32の前記各腕部に対してインナ側へと軸方向に摺動変位する。
この結果、キャリパ34のアウタ脚部(爪部38)は、アウタ側のブレーキパッド33をディスクロータ4に対して押圧するように動作し、ディスクロータ4は、一対のブレーキパッド33によって軸方向の両側から挟持される。それによって、液圧に基づく制動力が発生される。一方、ブレーキ操作が解除されたときには、シリンダ部36内への液圧供給が停止されることにより、ピストン39がシリンダ部36内へと後退するように変位する。これによって、インナ側とアウタ側のブレーキパッド33がディスクロータ4からそれぞれ離間し、車両は非制動状態に戻される。
次に、車両の運転者が駐車ブレーキスイッチ18を制動側に操作したときには、駐車ブレーキ制御装置19からディスクブレーキ31の電動モータ43Bに給電(通電)が行われ、電動アクチュエータ43の出力軸43Cが回転駆動される。電動駐車ブレーキ機能付のディスクブレーキ31は、電動アクチュエータ43の回転運動を回転直動変換機構40のねじ部材41を介して直動部材42の直線運動に変換し、直動部材42を軸方向に移動させてピストン39を推進する。これにより、一対のブレーキパッド33がディスクロータ4の両面に対して押圧される。
このとき、直動部材42は、ピストン39から伝達される押圧反力でねじ部材41との間に発生する摩擦力(保持力)により制動状態に保持され、後輪3用のディスクブレーキ31は、駐車ブレーキとして作動(アプライ)される。即ち、電動モータ43Bへの給電を停止した後にも、直動部材42の雌ねじとねじ部材41の雄ねじとにより、直動部材42(ひいては、ピストン39)は制動位置に保持されることになる。
一方、運転者が駐車ブレーキスイッチ18を制動解除側に操作したときには、駐車ブレーキ制御装置19から電動モータ43Bに対してモータが逆転するように給電され、電動アクチュエータ43の出力軸43Cは、駐車ブレーキの作動時(アプライ時)と逆方向に回転される。このとき、ねじ部材41と直動部材42とによる制動力の保持が解除され、回転直動変換機構40は、電動アクチュエータ43の逆回転の量に対応した移動量で直動部材42を戻り方向に、即ち、シリンダ部36内へと移動させ、駐車ブレーキ(ディスクブレーキ31)の制動力を解除する。
ここで、ディスクブレーキ31は、駐車ブレーキとして制動を行うとき、または制動を解除するときに、駐車ブレーキ制御装置19のモータ駆動回路23から電動モータ43Bに通電されるモータ電流の電流値を、図2に示す電流センサ部24によって常に検出し、モータ電流の検出値に基づいて電動アクチュエータ43(電動モータ43B)の駆動、停止を制御する構成としている。これにより、ディスクロータ4に対するブレーキパッド33の押圧力(クランプ力)をクランプ力センサ等で検出したり、ピストン39の移動位置を位置センサ等で検出したりする必要がなく、駐車ブレーキとしての作動,解除を制御することができ、センサの個数を削減することができるという利点がある。
即ち、駐車ブレーキ制御装置19は、例えば駐車ブレーキを制動(アプライ)させるときの制御を、図4に示す処理手順に従って行うようにしている。なお、以下の説明は、駐車ブレーキをかける、即ち、ブレーキパッド33に所定の押圧力(クランプ力)を付与して、そのときのピストン位置を保持するための動作を「アプライ」といい、駐車ブレーキを解除、即ち、保持状態を解除してクランプ力を無くすための動作を「リリース」というものとする。
駐車ブレーキ制御装置19は図4の処理動作がスタートすると、S1で駐車ブレーキスイッチ18や駐車ブレーキの作動判断ロジックによりアプライ指令があるか否かを判定する。S1で「NO」と判定する間は、図5に示す駐車ブレーキスイッチ18の特性線48のように、例えば時間Ta1で駐車ブレーキスイッチ18によるアプライ指令(APL)が出力されていないので、S1の処理に戻る。
次に、S1で「YES」と判定したときには、例えば図5の特性線48のように時間Ta2で、駐車ブレーキスイッチ18によるアプライ指令(APL)が出力され、駐車ブレーキを作動させる場合であるから、次のS2に進む。このS2では、アプライ指令に従って電動モータ43Bをアプライ方向に駆動するための給電を行う。即ち、S2において、駐車ブレーキ制御装置19は、直動部材42(ピストン39)がディスクロータ4に近付く方向へ電動アクチュエータ43(電動モータ43B)を駆動する。
しかし、図5に示すモータ電流Imの特性線50のように、電動アクチュエータ43(電動モータ43B)は、時間Ta2で駆動開始されるときに、後述の如くピーク状の突入電流(A0)が発生する。この突入電流(A0)は、クランプ力の発生には実質的に関与しない電流である。このため、図4に示すS3では、タイマTMをカウントアップする。次のS4では、タイマTMが所定時間T1(図5参照)以上となったか否か、即ち電動モータ43Bの駆動を開始してから所定時間T1を経過したか否かを判定する。図5に示すように、所定時間T1は、電動モータ43Bへの通電直後に発生する突入電流(A0)が、後述の電流値(例えば、第1の電流閾値Im1 )よりも低下するまでの時間より長い時間に設定されている。
S4で「NO」と判定する間は、タイマがTM<T1となって、所定時間T1が経過していないので、S3に戻ってタイマTMによるカウントアップを継続する。そして、S4で「YES」と判定したときには、所定時間T1(TM≧T1)が経過し、突入電流(A0)は収束しているので、次のS5に進む。
S5の処理は、ピストン39が本来の制動位置に達したか否かを判定するための処理である。即ち、電動モータ43Bのモータ電流Imが、電動モータ43Bを停止するための電流閾値(以下、停止電流Imsという)に達したか否かを、S5で判定する。S5で「NO」と判定する間は待機し、「YES」と判定したときには、ピストン39が本来の制動位置に達していると判断できるので、次のS6に進む。
S6では、駐車ブレーキ制御装置19による電動モータ43Bへの通電を停止し、電動モータ43Bを停止させる。これにより、回転直動変換機構40のアプライ方向の作動が完了して、ピストン39が制動位置に保持される。即ち、ディスクブレーキ31は、各ブレーキパッド33間でディスクロータ4に所定の押圧力(クランプ力)を付与しており、この段階でクランプ完了となる。そして、続くS7で、タイマTMをクリアし、駐車ブレーキ制御装置19によるアプライ時の制御処理を終了する。なお、モータ電流Imが停止電流Imsに達した後、ノイズ除去のため、所定時間待ってからモータを停止するようにしてもよい。また、第2の電流閾値Im2を停止電流Ims(Ims=Im2 )としてもよい。
次に、このようなアプライ時の制御について、図5を参照して時間Ta1〜Ta5にわたる時系列データにより説明する。図5の特性線48は、アプライ時の駐車ブレーキスイッチ18(PKB SW)の操作特性を示している。特性線49は、回転直動変換機構40で発生する(電動アクチュエータ43により生じた)推力Fの特性を示している。特性線50は、電動モータ43Bのモータ電流Imの時間変化を、時間Ta1〜Ta5にわたる時系列で示している。
図5の時間Ta1では、特性線48の如く駐車ブレーキスイッチ18(PKB SW)によるアプライ指令(APL)が出力されていない。このため、特性線49のようにブレーキの推力Fは零(F=0)となって、電動アクチュエータ43(電動モータ43B)は停止しており、特性線50のように電動モータ43Bのモータ電流Imは零である。
次の時間Ta2では、特性線48の如く駐車ブレーキスイッチ18によるアプライ指令(APL)が出力され、駐車ブレーキ制御装置19は、電動モータ43Bへの通電を開始し、電動アクチュエータ43により直動部材42およびピストン39をディスクロータ4へと近付く方向に駆動しようとしている(図4のS2参照)。
しかし、電動モータ43Bの通電直後は、電動アクチュエータ43(電動モータ43B)が停止状態から駆動状態に移行するため、特性線50のように一度大きな突入電流(A0)が発生した後、電動アクチュエータ43(電動モータ43B)は駆動状態となり、電動モータ43Bのモータ電流Imは次第に低下する。なお、図5中の時間Ta2〜Ta3に至る所定時間T1は、突入電流(A0)の特性として知られている時間であり、図4中のS3、S4の処理は、突入電流による誤判定を防止するために行うものである。
所定時間T1の経過後にも、電動アクチュエータ43(電動モータ43B)は無負荷運転され、回転直動変換機構40で発生する推力Fも暫く零に保たれる。即ち、図3に示すように、ピストン39の蓋部39Aと直動部材42の先端との間には軸方向の隙間(クリアランス)が初期設定により形成されているため、直動部材42がピストン39の蓋部39Aに当接するように前記クリアランス分だけ軸方向に変位(さらには、ブレーキパッド33がパッドクリアランス分だけ軸方向に変位)するまでは、電動モータ43Bは実質的に無負荷運転される。
その後に、特性線50のモータ電流Imは、無負荷時の電流値よりも大きな電流値に設定された第1の電流閾値Im1を越えて漸次増大し、これに伴って回転直動変換機構40で発生する推力Fも、特性線49のように増大する。このように、電動モータ43Bに供給(通電)するモータ電流Imが増加し、回転直動変換機構40で発生する推力Fによりブレーキパッド33がディスクロータ4に押圧されると、例えば時間Ta4で、モータ電流Imが第2の電流閾値Im2(Im2 >Im1)に達する。
ここで、第1の電流閾値Im1は、図5の特性線50に示す如く、電動モータ43Bの無負荷(運転)時における電流値よりも大きな電流値に設定され、第2の電流閾値Im2は、後述のアプライ完了時(例えば、時間Ta5)におけるモータ電流Imの電流値よりも小さな値に設定されている。第1の電流閾値Im1は、メモリ21に記憶された複数の電流閾値のうち小さい方の電流閾値であり、第2の電流閾値Im2は、大きい方の電流閾値である。
そして、時間Ta5まで電動モータ43Bへの給電(通電)を続けると、モータ電流Imが所定時間T2(時間Ta4〜Ta5)にわたって第2の電流閾値Im2以上の電流値となり、回転直動変換機構40で発生する推力Fは、特性線49のように目標となる推力値Ftまで増大している。ディスクブレーキ31は、推力Fが目標の推力値Ftに達した段階で、ブレーキパッド33に所定の押圧力(クランプ力)を付与しており、クランプ完了(即ち、アプライ完了)となる。
そこで、駐車ブレーキ制御装置19は、モータ電流Imが所定時間T2の間にわたって第2の電流閾値Im2以上となると、時間Ta5で電動モータ43Bへの通電を停止し、電動モータ43Bを停止させてアプライ完了とする(図4中のS6参照)。この所定時間T2は、モータ電流Imに重畳するリップル状のノイズによりアプライ完了と誤判定するのを防止するための時間である。なお、別途にノイズフィルタを用いれば、モータ電流Imが第2の電流閾値Im2以上か否かを判定するだけでも、アプライ完了時を識別することが可能となる。また、第2の電流閾値Im2は、駐車する路面の傾斜やディスクブレーキ31(キャリパ34)内の液圧Pの大きさに応じて補正してもよい。
ところで、電動駐車ブレーキ機能付のディスクブレーキ31は、メカ機構(例えば、回転直動変換機構40および/または前記減速機等)の不調により、制動力(クランプ力)の発生時に電流に対するクランプ力発生効率が低下することがある。以下、これをクランプ力が不足する異常モードという。このような異常モードは、コスト削減のためにクランプ力センサ、位置センサを用いることなく、駐車ブレーキ制御装置19の電流センサ部24により、クランプ中の電流値(即ち、モータ電流Im)を用いて検出することが知られている。
ここで、ブレーキ装置の異常モード判定を、電動モータの電流値変化速度(電流値を微分した値、あるいは所定の演算サイクルで演算される電流値の前回値と今回値の差)を所定の電流閾値と比較することにより行うことが考えられる。この場合、異常モードの判定には、クランプ力が発生しているときの電流値を異常診断に用いる必要がある。一方、クランプ力が発生するタイミングは、前回リリース時のクリアランスや電圧等の条件によって変化する。このため、該方法では、別途クランプ中であるか否かを判定し、クランプ区間の電流値により異常診断を行う必要があり、処理負荷が増加し制御が複雑化する。また、電動モータの回転を減速機により減速して回転トルクを増大させるが、減速機の噛合わせによる高周波のノイズの影響を受け易いという問題がある。
そこで、本実施形態では、図6に示す処理手順に従ってブレーキ装置の異常モード判定(即ち、正否判定)を行うことにより、異常診断処理を簡素化することができ、高周波のノイズ等の影響を受けて異常診断の信頼性が低下するのを抑えることができるようにしている。
図6に示す異常診断処理は、処理動作がスタートすると、S11でアプライ指令があるか否かを判定し、S12では、突入電流収束後か否かを判定する。ここで、S11〜S12の処理は、図4に示すS1〜S4の処理と実質的に同じ処理を行うものであり、S12で「YES」と判定したときは、例えば図5に示す時間Ta3で、所定時間T1の突入電流(A0)が収束した場合である。なお、S12で「NO」と判定する間は、例えば図5の時間Ta3に達していない場合であり、この場合にはS20でリターンする。
次にS13では、モータ電流Imが前述した第1の電流閾値Im1以上(Im≧Im1)まで高くなったか否かを判定し、「NO」と判定する間は、S20でリターンする。しかし、S13で「YES」と判定したときには、次のS14でタイマtをスタートさせる。そして、次のS15では、モータ電流Imが前述した第2の電流閾値Im2以上(Im≧Im2)まで高くなったか否かを判定し、「YES」と判定したときに、次のS16でタイマtを停止させる。
ここで、ディスクブレーキ31が正常モードの場合には、図5に示す特性線50のように、モータ電流Imが第1の電流閾値Im1を越えて第2の電流閾値Im2に到達するまでの経過時間(即ち、タイマtの計測時間)が時間Tbとなっている。そこで、ディスクブレーキ31が正常モードであるか否かを判定するため、モータ電流Imが第1の電流閾値Im1を越えて第2の電流閾値Im2に到達するまでのタイマtによる計測時間を、判定基準として規定経過時間(Tb±e)の範囲内に設定する。但し、時間eは、時間Tbよりも短い不感帯の時間であり、実験データ等に基づいて設定されるものである。
次にS17では、タイマtによる計測時間が規定経過時間(Tb±e)に対し、下記の数1式による関係を満たしているか否かを判定する。S17で「NO」と判定したときには、次のS18で、タイマtによる計測時間が下記の数2式による関係を満たしているか否かを判定する。
図5中に点線で示す特性線51は、ディスクブレーキ31が異常モードとなった一方の例であり、この場合は、ディスクブレーキ31のメカ機構の不調によりモータ電流Imに対するクランプ力発生効率が悪いために、電流の傾きが急になる現象を呈している。このように特性線51の場合は、モータ電流Imが第1の電流閾値Im1を越えて第2の電流閾値Im2に到達するまでの経過時間(即ち、タイマtの計測時間)が時間Tcとなり、タイマt(時間Tc)は、前記数1式による時間(Tb−e)よりも短くなっている。
そして、この場合に回転直動変換機構40で発生する推力Fは、モータ電流Imに対するクランプ力発生効率が悪いため、図5中に点線で示す特性線52のように立ち上りが低く抑えられ、正常時に回転直動変換機構40で発生すべき目標の推力値Ftよりも大幅に小さくなっている。
そこで、S17で「YES」と判定したときには、図5中に点線で示す特性線51のように、モータ電流Imの傾きが急になるディスクブレーキ31の異常モードであるから、次のS19でフェールセーフ処理を行い、S20でリターンする。S19のフェールセーフ処理は、ディスクブレーキ31が異常モードであることを警報ランプ、ブザーまたは音声合成装置等で報知し、必要に応じて電動モータ43Bの作動を停止させる処理を行うものである。
一方、図5中に一点鎖線で示す特性線53は、モータ電流Imの傾きが逆に緩やかになり過ぎている他方の異常モードの例である。このように特性線53の場合は、モータ電流Imが第1の電流閾値Im1を越えて第2の電流閾値Im2に到達するまでの経過時間(即ち、タイマtの計測時間)が時間Tdとなり、タイマt(時間Td)は、前記数2式による時間(Tb+e)よりも長くなっている。このため、回転直動変換機構40で発生する推力Fも、図5中に点線で示す特性線54のように緩やかに立ち上がるだけであり、正常時に回転直動変換機構40で発生すべき目標の推力値Ftよりも小さくなっている。
このような場合には、図6のS18で「YES」と判定することになり、図5中に一点鎖線で示す特性線53のように、モータ電流Imの傾きが緩やかになり過ぎるディスクブレーキ31の異常モードであるから、次のS19でフェールセーフ処理(例えば、ディスクブレーキ31が異常モードであることを警報ランプ、ブザーまたは音声合成装置等で報知し、必要に応じて電動モータ43Bの作動を停止させる処理)を行うようにする。
一方、S18で「NO」と判定するときには、前記タイマtによる計測時間が規定経過時間(Tb±e)の範囲内にあり、ディスクブレーキ31は正常モードにあると判断することができる。即ち、正常モードの場合は、図5中に実線で示す特性線50のように、モータ電流Imが適正な傾きで緩やかに上昇し、第1の電流閾値Im1を越えて第2の電流閾値Im2に到達するまでの時間(タイマtの計測時間)が時間Tbとなっている。そして、この場合は、S20でリターンした後にディスクブレーキ31を正常モードで作動させることができる。
かくして、本実施形態によれば、ディスクブレーキ31のアプライ制御およびリリース制御を行う駐車ブレーキ制御装置19は、各電動モータ43Bに通電されるモータ電流Imを検出する電流検出部としての各電流センサ部24と、演算回路20、メモリ21および各モータ駆動回路23等からなり、各ディスクブレーキ31による制動力の付与または解除が正常に行われたか否かを判定する制御部の正否判定部とを含んで構成されている。
前記正否判定部は、電流センサ部24により検出されるモータ電流Imの第1,第2の電流閾値Im1,Im2からなる少なくとも2つの電流閾値を記憶する閾値記憶部としてのメモリ21と、電流センサ部24により検出されるモータ電流Imが第1の電流閾値Im1を越えて少なくとも第2の電流閾値Im2に到達するまでの時間を計測する時間計測部(例えば、図6中のタイマt)と、タイマtによって計測された経過時間が予め決められた規定経過時間(Tb±e)の範囲内にあるか否かを判定(比較)することにより、電動モータ43Bにより駆動される直動部材42(即ち、回転直動変換機構40)の動きが正常であるか否かを判定する動作判定部(例えば、図6中のS17,S18の処理)とを含んで構成されている。
このように、本実施の形態によれば、メモリ21に記憶している少なくとも二つの電流閾値のうち第1の電流閾値Im1を無負荷電流よりも大きく設定し、第1の電流閾値Im1よりも大きい第2の電流閾値Im2を、クランプ完了時の電流値よりも小さく設定している。このため、電動モータ43Bの駆動直後の突入電流(A0)である起動電流をマスクすれば、別途クランプ中であることを判定する必要がなく、クランプ力発生中の効率異常診断を適切に実施することができる。
これにより、ディスクブレーキ31が正常に動作するか否かの正否判定、即ち電動モータ43Bにより駆動される回転直動変換機構40の動きが正常であるか否かを適正に判定して診断することができ、異常モードの診断処理を簡素化することができる。また、二つの電流閾値Im1,Im2の差を十分に大きくすることにより、例えば減速機の噛み合わせに起因した高周波のノイズによる影響を小さくすることができ、異常診断の信頼性を向上することができる。
しかも、本実施形態では、モータ電流Imが電流閾値Im1,Im2を通過する間の時聞をタイマtで計測し、計測した時間が規定経過時間(Tb±e)の範囲内にあるか否かを判定(比較)するという単純な制御により、ディスクブレーキ31の異常モード判定を行うことができ、制御を単純にすることができる。
なお、前記実施形態では、電動駐車ブレーキ機能付のディスクブレーキ31の異常診断を、第1,第2の電流閾値Im1,Im2を用いて行う場合を例に挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限らず、例えば3つ以上の電流閾値を用いてブレーキの異常診断を行う構成としてもよい。ここで、図7に示す変形例は、第1,第2,第3の電流閾値Im1,Im2,Im3を用いてブレーキの異常診断を行う構成としている。図7に示す変形例において、第3の電流閾値Im3は、第1の電流閾値Im1よりも大きく、第2の電流閾値Im2よりも小さな電流値(Im1<Im3<Im2)に設定されている。
即ち、図7の変形例では、実線で示す特性線50のように、ディスクブレーキ31が正常モードの場合に、モータ電流Imが第1の電流閾値Im1を越えて第3の電流閾値Im3に到達するまでの経過時間(即ち、タイマtの計測時間)が時間Tb1となっている。そして、モータ電流Imが第3の電流閾値Im3を越えて第2の電流閾値Im2に到達するまでの経過時間が時間Tb2となっている。図7の変形例においては、ディスクブレーキ31が正常モードであるか否かを判定するために判定基準となるタイマtによる計測時間を、規定経過時間(Tb1±e1 ),(Tb2±e2 )に設定すればよい。但し、時間e1 ,e2 は、時間Tb1、Tb2よりも短い不感帯の時間であり、実験データ等に基づいて設定されるものである。
図7中に点線で示す特性線51のように、ディスクブレーキ31が異常モードとなった一方の例では、モータ電流Imが第1の電流閾値Im1を越えて第3の電流閾値Im3に到達するまでの経過時間が時間Tc1となり、モータ電流Imが第3の電流閾値Im3を越えて第2の電流閾値Im2に到達するまでの経過時間が時間Tc2となっている。この場合は、タイマt(時間Tc1)が規定経過時間(Tb1±e1 )の範囲内にあるか否か、即ち、時間(Tb1−e1 )よりも短くなっている否かを第1の判定条件とする。また、タイマt(時間Tc2)が規定経過時間(Tb2±e2 )の範囲内にあるか否か、即ち、時間(Tb2−e2)よりも短くなっている否かを第2の判定条件とする。
そして、前記第1,第2の判定条件のうち、少なくとも一方の判定条件で「YES」と判定されるときには、モータ電流Imの変化による傾きが急になる現象を呈する異常モードとして故障診断を行う。これにより、ディスクブレーキ31が異常モードになっているか否かの診断を、図5および図6に示す前記実施形態よりも一層に高精度に行うことができる。
また、図7中に一点鎖線で示す特性線53のように、ディスクブレーキ31が異常モードとなった他方の例では、モータ電流Imが第1の電流閾値Im1を越えて第3の電流閾値Im3に到達するまでの経過時間が時間Td1となり、モータ電流Imが第3の電流閾値Im3を越えて第2の電流閾値Im2に到達するまでの経過時間が時間Td2となっている。この場合は、タイマt(時間Td1)が規定経過時間(Tb1±e1 )の範囲内にあるか否か、即ち、時間(Tb1+e1 )よりも長くなっている否かを第1の判定条件とする。また、タイマt(時間Td2)が規定経過時間(Tb2±e2 )の範囲内にあるか否か、即ち、時間(Tb2+e2)よりも長くなっている否かを第2の判定条件とする。
そして、前記第1,第2の判定条件のうち、少なくとも一方の判定条件で「YES」と判定されるときには、モータ電流Imの変化による傾きが緩やかになり過ぎている現象を呈する異常モードとして故障診断を行う。これにより、ディスクブレーキ31が異常モードになっているか否かの診断を、図5および図6に示す前記実施形態よりも一層に高精度に行うことができる。
また、前記実施形態では、アプライ制御時においてディスクブレーキ31の正否判定(異常診断)を行う場合を例に挙げて説明した。しかし、本発明はアプライ時の異常診断に限らず、例えばリリース時に制動力の解除が正常に行われたか否かを判定する構成としてもよい。
一方、前記実施形態では、左,右の後輪側ブレーキを電動駐車ブレーキ機能付のディスクブレーキ31とした場合を例に挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限らず、左,右の前輪側ブレーキを電動駐車ブレーキ機能付のディスクブレーキとしてもよいし、全ての車輪(4輪全て)のブレーキを電動駐車ブレーキ機能付のディスクブレーキにより構成してもよい。
また、前記実施形態では、電動駐車ブレーキ付の液圧式ディスクブレーキ31を例に挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限らず、液圧の供給が不要な電動式ディスクブレーキにより構成してもよい。また、ディスクブレーキ式のブレーキ装置に限らず、ドラムブレーキ式のブレーキ装置として構成してもよい。さらに、ディスクブレーキにドラム式の電動駐車ブレーキを設けたドラムインディスクブレーキ、電動モータでケーブルを引っ張ることにより駐車ブレーキの保持を行う構成等、ブレーキ機構は各種のものを採用することができる。例えば、液圧の供給が不要な電動式のブレーキ機構を採用した場合は、制御部は、車両に制動力を常用ブレーキとして与える(ブレーキペダルの操作等によるアプライ要求に基づいて電動モータを駆動する)構成とすることができる。