本発明は、以下に説明する複数の発明を包含する発明群に属する発明であり、以下に、その発明群の実施の形態として、第1の実施の形態および第2の実施の形態について説明するが、そのうち、第2の実施の形態が、本出願人が特許請求の範囲に記載した発明に対応するものである。
以下、実施形態による駐車ブレーキシステムを、4輪自動車に搭載した場合を例に挙げ、添付図面に従って詳細に説明する。尚、図5および図7の流れ図におけるステップは、Sと表記する(例えば、ステップ1はS1)。
図1ないし図6は、第1の実施の形態を示している。図1において、車両のボディを構成する車体1の下側(路面側)には、4個の車輪、例えば左,右の前輪2(FL,FR)と左,右の後輪3(RL、RR)とが設けられている。これらの各前輪2および各後輪3には、それぞれの車輪(各前輪2、各後輪3)と共に回転するロータ(回転部材)としてのディスクロータ4が設けられている。各前輪2用のディスクロータ4は、液圧式のディスクブレーキ5により挟持され、各後輪3用の各ディスクロータ4は、電動駐車ブレーキ機能付の液圧式のディスクブレーキ31により挟持される。これにより、車輪(各前輪2、各後輪3)のそれぞれに対して相互に独立して制動力が付与される。
車体1のフロントボード側には、ブレーキペダル6が設けられている。ブレーキペダル6は、車両のブレーキ操作時に運転者によって踏込み操作され、この操作に基づいて、常用ブレーキ(サービスブレーキ)としての制動力の付与および解除が行われる。ブレーキペダル6には、ブレーキランプスイッチ、ペダルスイッチ、ペダルストロークセンサ等のブレーキ操作検出センサ(ブレーキセンサとも呼ぶ)6Aが設けられている。ブレーキ操作検出センサ6Aは、ブレーキペダル6の踏込み操作の有無、または、その操作量を検出し、その検出信号を液圧供給装置用コントローラ13に出力する。ブレーキ操作検出センサ6Aの検出信号は、例えば、車両データバス16、または、液圧供給装置用コントローラ13と駐車ブレーキ制御装置23とを接続する信号線(図示せず)を介して伝送される(駐車ブレーキ制御装置23に出力される)。
ブレーキペダル6の踏込み操作は、倍力装置7を介して、油圧源として機能するマスタシリンダ8に伝達される。倍力装置7は、ブレーキペダル6とマスタシリンダ8との間に設けられた負圧ブースタまたは電動ブースタ等を備えており、ブレーキペダル6の踏込み操作時に踏力を増力してマスタシリンダ8に伝える。このとき、マスタシリンダ8は、マスタリザーバ9から供給されるブレーキ液により液圧を発生させる。マスタリザーバ9は、ブレーキ液が収容された作動液タンクとして機能する。ブレーキペダル6により液圧を発生する機構は、上記の構成に限らず、ブレーキペダル6の操作に応じて液圧を発生する機構、例えば、ブレーキバイワイヤ方式の機構等であってもよい。
マスタシリンダ8内に発生した液圧は、例えば一対のシリンダ側液圧配管10A,10Bを介して、液圧供給装置11(以下、ESC11という)に送られる。このESC11は、マスタシリンダ8からの液圧をブレーキ側配管部12A,12B,12C,12Dを介して各ディスクブレーキ5,31に分配する。これにより、車輪(各前輪2、各後輪3)のそれぞれに対して相互に独立して制動力が付与される。
ESC11は、各ディスクブレーキ5,31とマスタシリンダ8との間に配置されている。ESC11は、ブレーキペダル6の操作量に従わない態様でも、各ディスクブレーキ5,31に液圧を供給すること、即ち、各ディスクブレーキ5,31の液圧を高めることができる。ESC11は、ESC11を制御する液圧供給装置用コントローラ13(以下、コントロールユニット13という)を有している。コントロールユニット13は、ESC11の駆動制御をすることにより、ブレーキ側配管部12A〜12Dから各ディスクブレーキ5,31に供給されるブレーキ液圧を増圧、減圧または保持する制御を行う。これにより、種々のブレーキ制御、例えば、倍力制御、制動力分配制御、ブレーキアシスト制御、アンチロックブレーキ制御(ABS)、トラクション制御、車両安定化制御(横滑り防止を含む)、坂道発進補助制御等が実行される。
コントロールユニット13は、マイクロコンピュータを備えている。バッテリ14からの電力が電源ライン15を通じてコントロールユニット13に給電される。また、コントロールユニット13は、図1に示すように、車両データバス16に接続されている。なお、ESC11の代わりに、公知のABSユニットが用いられてもよい。さらには、ESC11を設けずに(即ち、省略し)、マスタシリンダ8がブレーキ側配管部12A〜12Dに直接的に接続されてもよい。
車両データバス16は、車体1に搭載されたシリアル通信部としてのCAN(Controller Area Network)を備えており、車両に搭載された多数の電子機器、コントロールユニット13および駐車ブレーキ制御装置23等との間で車両内での多重通信を行う。この場合、車両データバス16に送られる車両情報としては、例えば、ブレーキ操作検出センサ6A、イグニッションスイッチ、シートベルトセンサ、ドアロックセンサ、ドア開センサ、着座センサ、車速センサ、操舵角センサ、エンジン回転センサ、ステレオカメラ、ミリ波レーダ、圧力センサ17、アクセル開度センサ18、シフトセンサ19、加速度センサ20、車輪速センサ21、車両のピッチ方向の動きを検知するピッチセンサ等からの検出信号が表す情報が挙げられる。
ここで、マスタシリンダ液圧を検出する圧力センサ17は、マスタシリンダ8とESC11との間のシリンダ側液圧配管10A,10Bに設けられている。なお、圧力センサ17は、ブレーキ側配管部12A,12B,12C,12Dにそれぞれ設けられ、それぞれの管路内圧力(即ち、液圧)、換言すれば、各管路に対応するキャリパ34(シリンダ部36)内の液圧(シリンダ液圧)を個別に検出する構成としてもよい。
アクセル開度センサ18は、運転者が踏込み操作するアクセルペダルの操作量、ないし、アクセルペダルの操作の有無を検出し、その検出信号を出力する。アクセル開度センサ18は、例えば、アクセル操作センサ、スロットルセンサとも呼ばれる、運転者の発進の意思を検知する発進意思検出部である。なお、該意思の検知は、アクセル開度センサ18の検出信号に代えて、例えば、運転者が踏込み操作するクラッチペダルの操作量を検出するクラッチストロークセンサの検出信号を用いてもよい。
シフトセンサ19は、車両のトランスミッションまたはシフトレバー(セレクトレバー、セレクトスイッチ)に設けられ、車両のギアの位置、即ち、車両のトランスミッションの選択位置、ないし、これに対応するシフトレバーの選択位置を検出する。シフトセンサ19は、トランスミッションセンサ、シフトスイッチ、セレクトスイッチとも呼ばれ、車両の進行方向を検知するためのギア位置検出部となるものである。シフトセンサ19は、運転者により選択されたギア位置(シフトレバーの位置)、例えば、パーキング(P)、ニュートラル(N)、ドライブ(D)、リバース(R)、ロー(L)、セカンド(S)、変速段(例えば1速ないし7速の何れか)等に対応する検出信号を出力する。
加速度検出部としての加速度センサ(Gセンサ)20は、車体1に設けられ、車両の加速度、例えば、車両の前後方向の加速度を検出する。ここで、加速度センサ20は、車両が置かれている(停止している)場所(路面)の傾斜状態(勾配)、換言すれば、車両の傾斜を検出する傾斜検出部(勾配検出部)となるものである。即ち、加速度センサ20には、車両の加速、減速(制動)等に基づく加速度(車両の走行に基づく加速度)が加わるだけでなく、路面の勾配(車両の傾斜)に応じた重力加速度も加わる。換言すれば、車両が停止(停車)または等速で走行しているときは、加速度センサ20には、その車両が停止している(ないし等速走行中の)路面の勾配(車両の傾斜)に応じた重力加速度のみが加わる。
例えば、車両が前方に加速するとき(=車両が後方に走行中に減速するとき)の加速度を正の加速度とすると、これと同方向に重力加速度が加わる上り坂(登坂路)に車両が停止している(ないし等速走行中の)ときは、その上り坂の勾配に応じた正の加速度が検出される。一方、車両が前方に走行中に減速するとき(=車両が後方に加速するとき)の加速度を負の加速度とすると、これと同方向に重力加速度が加わる下り坂(降坂路)に車両が停止している(ないし等速走行中の)ときは、その下り坂の勾配に応じた負の加速度が検出される。
このため、加速度センサ20により検出される加速度に基づいて、路面の勾配(傾斜量、傾斜角)を算出することができる。この場合、車両が停止または等速で走行しているか否は、例えば、車輪速センサ21や車速センサの検出信号から検知することができる。なお、傾斜検出部(勾配検出部)は、路面の勾配(車両の傾斜)を検知(検出)できるセンサであれば、加速度センサ20以外のセンサ、例えば、ジャイロセンサ、傾斜センサ、勾配センサ等を用いてもよい。
車輪速センサ21は、例えば車輪2,3を回転可能に支持する車輪軸受ユニット(図示せず)に設けられ、車輪2,3の回転速度となる車輪速ないし該車輪速に対応する車両の速度(車速)を検出する。車輪速センサ21は、車両が走行可能状態か否かを検知するための走行可能検出部となるものである。車両が走行可能状態であるか否かは、例えば、車輪速ないし車速が0km/hよりも大きい状態(車速>0km/h)で所定時間(走行できる状態が確実に想定できる時間)経過したときに、走行可能状態であると判定することができる。なお、車速の検出は、車輪速センサ21の検出信号の他、トランスミッションの回転軸の回転速度を検出する車速センサの検出信号を用いてもよい。
車体1において、運転席(図示せず)の近傍に駐車ブレーキスイッチ22が設けられる。該駐車ブレーキスイッチ22は運転者によって操作される。駐車ブレーキスイッチ22は、運転者からの駐車ブレーキの作動要求(アプライ要求、リリース要求)に対応する信号(作動要求信号)を、駐車ブレーキ制御装置23へ伝達する。即ち、駐車ブレーキスイッチ22は、後述する電動モータ43Bの駆動(回転)に基づいてブレーキパッド33をアプライ作動またはリリース作動させるための信号(アプライ要求信号、リリース要求信号)を、駐車ブレーキ制御装置23に対して出力する。
運転者により駐車ブレーキスイッチ22が制動側(駐車ブレーキON側)に操作されたとき、即ち、車両に制動力を与えるためのアプライ要求(保持要求、駆動要求)があったときは、駐車ブレーキスイッチ22からアプライ要求信号が出力される。この場合は、駐車ブレーキ制御装置23を介して後輪3用のディスクブレーキ31に、電動モータ43Bを制動側に回転させるための電力が給電される。これにより、後輪3用のディスクブレーキ31は、駐車ブレーキ(ないし補助ブレーキ)としての制動力が付与された状態、即ち、アプライ状態となる。
一方、運転者により駐車ブレーキスイッチ22が制動解除側(駐車ブレーキOFF側)に操作されたとき、即ち、車両の制動力を解除するためのリリース要求(解除要求)があったときは、駐車ブレーキスイッチ22からリリース要求信号が出力される。この場合は、駐車ブレーキ制御装置23を介してディスクブレーキ31に、電動モータ43Bを制動側とは逆方向に回転させるための電力が給電される。これにより、後輪3用のディスクブレーキ31は、駐車ブレーキ(ないし補助ブレーキ)としての制動力の付与が解除された状態、即ち、リリース状態となる。
駐車ブレーキは、例えば車両が停止したとき(例えば、走行中に減速に伴って4km/h未満の状態が所定時間継続したとき)や、エンジンが停止したとき、シフトレバーをPに操作したとき、ドアが開いたとき、シートベルトが解除されたとき等、駐車ブレーキ制御装置23での駐車ブレーキのアプライ判断ロジックによる自動的なアプライ要求(オートアプライ要求)に基づいて、制動力を自動的に付与(オートアプライ)されてもよい。また、駐車ブレーキは、例えば車両が走行したとき(例えば、停車から増速に伴って5km/h以上の状態が所定時間継続したとき)や、アクセルペダルが操作されたとき、クラッチペダルが操作されたとき、シフトレバーがP、N以外に操作されたとき等、駐車ブレーキ制御装置23での駐車ブレーキのリリース判断ロジックによる自動的なリリース要求(オートリリース要求)に基づいて、制動力を自動的に解除(オートリリース)されてもよい。
さらに、車両の走行時に駐車ブレーキスイッチ22によるアプライ要求があった場合、より具体的には、走行中に緊急的に駐車ブレーキを補助ブレーキとして用いる等の動的駐車ブレーキ(動的アプライ)の要求があった場合には、駐車ブレーキ制御装置23は、車輪(各後輪3)がロック(スリップ)しているか否かを判定し、車輪の状態(ロックしているか否か)に応じたアプライ要求とリリース要求とに基づいて、自動的に制動力の付与と解除(ABS制御)を行ってもよい。
駐車ブレーキ制御装置23は、左,右一対のディスクブレーキ31と共に電動ブレーキシステム(ブレーキ装置、駐車ブレーキシステム)を構成する。図2に示すように、駐車ブレーキ制御装置23は、マイクロコンピュータ等によって構成される演算回路(CPU)24を有し、駐車ブレーキ制御装置23には、バッテリ14からの電力が電源ライン15を通じて給電される。
駐車ブレーキ制御装置23は、制御手段(コントローラ、コントロールユニット)を構成している。駐車ブレーキ制御装置23は、ディスクブレーキ31の電動モータ43Bを制御し、車両の駐車、停車時(必要に応じて走行時)に制動力(駐車ブレーキ、補助ブレーキ)を発生させる。即ち、駐車ブレーキ制御装置23は、電動モータ43Bを駆動することにより、ディスクブレーキ31を駐車ブレーキ(必要に応じて補助ブレーキ)として作動(アプライ・リリース)させる。
ここで、駐車ブレーキ制御装置23は、運転者の駐車ブレーキスイッチ22の操作による作動要求(アプライ要求、リリース要求)に基づいて、電動モータ43Bを駆動し、ディスクブレーキ31のアプライ(保持)またはリリース(解除)を行う。これに加えて、駐車ブレーキ制御装置23は、駐車ブレーキのアプライ・リリースの判断ロジックによる作動要求に基づいて、電動モータ43Bを駆動し、ディスクブレーキ31のアプライまたはリリースを行う。即ち、駐車ブレーキ制御装置23は、車両停止時に所定の操作(シフトレバーをPに操作、ドア開、シートベルト解除等)で、駐車ブレーキを自動的に作動(オートアプライ)する。また、車両発進時に所定の操作(アクセルの操作、クラッチの操作等)で、駐車ブレーキの作動を自動的に解除(オートリリース)する。さらに、駐車ブレーキ制御装置23は、ABS制御による作動要求に基づいて、電動モータ43Bを駆動し、ディスクブレーキ31のアプライまたはリリースを行う。このとき、ディスクブレーキ31では、電動モータ43Bの駆動に基づいて、押圧部材保持機構(回転直動変換機構40)によるピストン39およびブレーキパッド33の保持または解除が行われる。
このように、実施形態では、車両の制動力に関する要求(リリース要求とアプライ要求)は、駐車ブレーキスイッチ22により生成される手動のものと、駐車ブレーキ制御装置23のアプライ・リリースの判断ロジックやABS制御により生成される自動のものがある。即ち、実施形態では、駐車ブレーキスイッチ22および/または駐車ブレーキ制御装置23が、車両に制動力を与えるためのアプライ要求、および、車両の制動力を解除するためのリリース要求を生成する要求生成部を構成している。そして、駐車ブレーキ制御装置23は、要求生成部が生成した要求を受領し、当該要求に応じて電動モータ43Bに電流を供給することにより、当該要求を実行する実行部を有している。
図1ないし図3に示すように、駐車ブレーキ制御装置23は、入力側が駐車ブレーキスイッチ22に接続され、出力側はディスクブレーキ31の電動モータ43Bに接続されている。より具体的には、図2に示すように、駐車ブレーキ制御装置23の演算回路(CPU)24には、記憶部(メモリ)25に加えて、駐車ブレーキスイッチ22、車両データバス16、電圧センサ部26、モータ駆動回路27、電流センサ部28等が接続されている。車両データバス16からは、駐車ブレーキの制御(作動)に必要な車両の各種状態量、即ち、各種車両情報を取得することができる。
なお、車両データバス16から取得する車両情報は、その情報を検出するセンサを駐車ブレーキ制御装置23(の演算回路24)に直接接続することにより取得する構成としてもよい。
また、駐車ブレーキ制御装置23の演算回路24は、車両データバス16に接続された他の制御装置(例えばコントロールユニット13)から前述の判断ロジックやABS制御に基づく作動要求が入力されるように構成してもよい。この場合は、前述の判断ロジックによる駐車ブレーキのアプライ・リリースの判定やABSの制御を、駐車ブレーキ制御装置23に代えて、他の制御装置、例えばコントロールユニット13で行う構成とすることができる。即ち、コントロールユニット13に駐車ブレーキ制御装置23の制御内容を統合することが可能である。
駐車ブレーキ制御装置23は、例えばフラッシュメモリ、ROM、RAM、EEPROM等からなる記憶部(メモリ)25(図2参照)を備えている。記憶部25には、前述の駐車ブレーキのアプライ・リリースの判断ロジックやABSの制御のプログラムに加え、図5に示す処理フローを実行するための処理プログラム、即ち、オートリリース制御処理に用いる処理プログラム等が格納されている。また、記憶部25には、処理プログラム等で用いる各種の判定値(所定値、所定時間等)も格納されている。
なお、実施形態では、駐車ブレーキ制御装置23をESC11のコントロールユニット13と別体としたが、駐車ブレーキ制御装置23をコントロールユニット13と一体に構成してもよい。また、駐車ブレーキ制御装置23は、左,右で2つのディスクブレーキ31を制御するようにしているが、左,右のディスクブレーキ31毎に設けるようにしてもよく、この場合には、駐車ブレーキ制御装置23をディスクブレーキ31に一体的に設けることもできる。
図2に示すように、駐車ブレーキ制御装置23には、電源ライン15からの電圧を検出する電圧センサ部26、左,右の電動モータ43B,43Bをそれぞれ駆動する左,右のモータ駆動回路27,27、左,右の電動モータ43B,43Bのそれぞれのモータ電流を検出する左,右の電流センサ部28,28等が内蔵されている。これら電圧センサ部26、モータ駆動回路27、電流センサ部28は、それぞれ演算回路24に接続されている。
これにより、駐車ブレーキ制御装置23の演算回路24では、アプライまたはリリースを行うときに、電流センサ部28,28により検出される電動モータ43Bのモータ電流の変化に基づいて、ディスクロータ4とブレーキパッド33との当接・離接の判定、電動モータ43Bの駆動の停止の判定(アプライ完了の判定、リリース完了の判定)等を行うことができる。
一方、図4に示すように、左,右のモータ駆動回路27,27は、Hブリッジ回路27Aにより構成されている。Hブリッジ回路27Aには、例えば電界効果トランジスタ(FET)等により構成された4個の半導体スイッチ、即ち、第1のスイッチ(Tr1)27A1、第2のスイッチ(Tr2)27A2、第3のスイッチ(Tr3)27A3、第4のスイッチ(Tr4)27A4が設けられている。これら各スイッチ27A1〜27A4のON(導通)とOFF(非導通)は、演算回路24からの指令によって切換えられる。即ち、電動モータ43Bへの電流の供給は、Hブリッジ回路27Aの各スイッチ27A1〜27A4のONとOFFにより切換えられる。
例えば、電動モータ43Bをアプライ方向に駆動する場合には、第1のスイッチ27A1をON、第2のスイッチ27A2をOFF、第3のスイッチ27A3をOFF、第4のスイッチ27A4をONにする(Tr1:ON、Tr2:OFF、Tr3:OFF、Tr4:ON)。電動モータ43Bをリリース方向に駆動する場合には、第1のスイッチ27A1をOFF、第2のスイッチ27A2をON、第3のスイッチ27A3をON、第4のスイッチ27A4をOFFにする(Tr1:OFF、Tr2:ON、Tr3:ON、Tr4:OFF)。
一方、4個全てのスイッチ27A1〜27A4をOFFにすると、電動モータ43Bに電流が供給されない状態(OFFの状態)になる(Tr1:OFF、Tr2:OFF、Tr3:OFF、Tr4:OFF)。また、第1のスイッチ27A1をON、第2のスイッチ27A2をON、第3のスイッチ27A3をOFF、第4のスイッチ27A4をOFFにすると、モータブレーキ、即ち、電動モータ43Bにブレーキ力を発生させることができる(Tr1:ON、Tr2:ON、Tr3:OFF、Tr4:OFF)。
さらに、第1のスイッチ27A1をOFF、第2のスイッチ27A2をON、第3のスイッチ27A3をOFF、第4のスイッチ27A4をOFFにすると、下流OFFになる(Tr1:OFF、Tr2:ON、Tr3:OFF、Tr4:OFF)。この下流OFFは、電動モータ43Bをリリース方向に駆動している状態から第3のスイッチ27A3をOFFにするだけで、電動モータ43BをOFFの状態にすることができる。
ところで、特許文献1によれば、リリースのときに路面が平坦(平地、水平)な場合は、電動モータをデューティ比100%でリリース方向に駆動するのに対し、路面が車両の進行方向に下向きに所定以上傾斜している場合は、例えばデューティ比50%で電動モータをリリース方向に駆動する。これにより、ピストンの推力の低下速度(ブレーキ解除推力の変化速度)を、路面が平坦のときよりも遅くする(推力を除々に下げる)ことができる。しかし、車両が走行可能状態になっても、駐車ブレーキのリリースが終了しないおそれがある。この場合、ロータとブレーキパッドとの引き摺りを生じるおそれがある。
そこで、第1の実施形態では、駐車ブレーキ制御装置23は、駐車ブレーキスイッチ22による手動のリリース要求、または、駐車ブレーキ制御装置23のリリースの判断ロジックによる自動のリリース要求を受領後、少なくとも、電動モータ43Bに対する供給電流を連続的に大小に切換えるスイッチング制御、および、電動モータ43Bに対する通電を継続して行う通電継続制御を行う制御部(図5のS9、S12の処理)を備えている。この場合、駐車ブレーキ制御装置23は、車両発進時に所定の操作で駐車ブレーキの作動を自動的に解除するオートリリースのときに、車両が停止(停車)している路面の勾配に応じてスイッチング制御(PWM制御、デューティ比が0%よりも大きく100%よりも小さい値となる制御)を行う。そして、駐車ブレーキ制御装置23は、スイッチング制御中に車両の動き出しを検知すると、スイッチング制御を終了して通電継続制御(デューティ比が100%となる制御)を行う。
より具体的には、図6は、第1の実施形態による、リリースのときの電動モータ43Bの電流(モータ電流)、モータ駆動回路27のスイッチ動作、ピストン39の推力、および、車輪速センサ21により検出される車輪速の時間変化を示している。駐車ブレーキ制御装置23は、時間軸の(b)の時点で、所定の操作(アクセルペダルの操作)が行われたことによるオートリリース要求を受領する(後述する図5のS4の処理で「YES」と判定される)と、スイッチング制御が必要か否かを判定する(図5のS8の処理を行う)。
スイッチング制御が必要か否かの判定は、加速度センサ20により検出される加速度に基づく路面の勾配と、シフトセンサ19が検出したシフトレバーの位置とに基づいて行われる。より具体的には、勾配が所定角度以上かつ車両の発進方向が下り方向の場合に、スイッチング制御が必要と判定する。所定角度は、推力の減力速度を遅くする必要があるとき(飛び出し感の抑制が必要なとき)に、スイッチング制御を行うことができるように、予め実験、シミュレーション、計算等により求めておく。
時間軸の(b)の時点で、スイッチング制御が必要であると判定されると、路面の勾配に基づいて、その後行うスイッチング制御のデューティ比(0%<デューティ比<100%)、より具体的には、周期とパルス幅(と必要に応じてパルス数)を算出する(S11)。そして、駐車ブレーキ制御装置23は、算出されたデューティ比、即ち、勾配に応じたデューティ比でスイッチング制御を行う。例えば、路面が車両の進行方向に下向きに大きく傾斜している程、デューティ比を小さくする(推力の減力速度を遅くする)。これにより、駐車ブレーキ制御装置23は、車両が進行方向に下り坂で発進するときに、加速度センサ20により検出される下り坂の勾配(車両の傾斜)に応じて、ディスクブレーキ31によるブレーキ解除推力を変化させる構成となっている。
そして、時間軸の(e)の時点で、車両の動き出しを検知すると、スイッチング制御を終了し、電動モータ43Bへの継続的(連続的)な通電、即ち、デューティ比が100%となる通電継続制御を行う。ここで、車両の動き出しは、例えば、車輪速センサ21により検出される車輪速ないし車速が0km/hよりも大きい状態(車速>0km/h)で所定時間経過したこと、または、車輪速ないし車速が予め設定した所定速度(例えば車速で5km/h)になったことにより検知することができる。
これにより、駐車ブレーキ制御装置23は、ブレーキ解除中に車両の速度が所定速度となったときに、ブレーキ解除推力を所定速度未満の場合よりも大きく変化させる構成となっている。なお、所定時間、所定速度は、車両の動き出しに伴うディスクロータ4とブレーキパッド33との引き摺りを抑制することができるように、予め実験、シミュレーション、計算等により求めておく。通電継続制御は、時間軸の(e)の時点から、ブレーキパッド33とディスクロータ4とのクリアランス(隙間)が確保される(g)の時点まで行われる。
ここで、図6では、リリース要求の受領後(リリース開始)からリリースが終了するまでの間、電動モータ43Bに通電継続制御を行った場合を、太い破線で示している。この図6に実線の特性29で示すように、スイッチング制御(0%<デューティ比<100%)を行っている間は、太い破線の特性29′と比較して、ピストン39の推力の低下速度(減力速度)を遅くする(推力を除々に下げる)ことができる。これにより、運転者や乗員に与える違和感、例えば車両の動き出しのときに推力の低下が速いことによる車両の飛び出し感(車両の唐突な発進)を抑制することができる。
一方、通電継続制御(デューティ比=100%)を行っている間は、スイッチング制御を行っているときよりも電動モータ43Bの駆動速度(回転速度)を速くすることができる。このため、スイッチング制御中に、車両の動き出しを検知した場合に、スイッチング制御を終了して通電継続制御を開始することにより、車両の動き出しに伴うディスクロータ4とブレーキパッド33との引き摺りを抑制することができる。
ここで、スイッチング制御は、モータ駆動回路27を構成するHブリッジ回路27Aの各スイッチ27A1〜27A4を、電動モータ43Bに対する通電(リリースON)と非通電(OFF、必要に応じて下流OFF、ブレーキ)とが周期的に繰り返されるように切換えることにより行う。具体的には、Hブリッジ回路27Aを、例えば、リリースON(Tr1:OFF、Tr2:ON、Tr3:ON、Tr4:OFF)、下流OFF(Tr1:OFF、Tr2:ON、Tr3:OFF、Tr4:OFF)、ブレーキ(Tr1:ON、Tr2:ON、Tr3:OFF、Tr4:OFF)、OFF(Tr1:OFF、Tr2:OFF、Tr3:OFF、Tr4:OFF)の順序で切換える。この場合、「リリースON→下流OFF→ブレーキ→OFF」までを1周期として、所定周期で繰り返す。
一方、通電継続制御は、Hブリッジ回路27Aの各スイッチ27A1〜27A4を、電動モータ43Bに対する通電(リリースON)が所定時間を超えて継続されるように維持することにより行う。具体的には、Hブリッジ回路27Aを、所定時間を超えて、リリースON(Tr1:OFF、Tr2:ON、Tr3:ON、Tr4:OFF)の状態とする。なお、通電継続制御の所定時間は、例えば、スイッチング制御の所定周期以上の時間(所定時間≧所定周期)として設定されるものである。
また、スイッチング制御は、例えば、電動モータ43Bに対する通電(リリースON)と非通電(下流OFF、ブレーキ、OFF)とのデューティ比を、デューティ比を0%よりも大きく100%よりも小さい範囲で可変とした(周期、パルス幅、必要に応じてパルス数を可変とした)パルス幅変調スイッチング制御(PWM制御)とすることができる。この場合には、スイッチング制御中に、デューティ比を変化させることにより、即ち、周期、パルス幅、必要に応じてパルス数を変化させることにより、ピストン39の推力の減力速度を変化させることができる。なお、スイッチング制御は、デューティ比を、予め設定した値(0%よりも大きく100%よりも小さい一定値、例えば、33%、40%、50%、66%等)に固定した(周期とパルス幅を固定した)パルス幅固定スイッチング制御とすることもできる。換言すれば、電動モータ43Bに対する通電(スイッチON)と非通電(スイッチOFF)を、所定時間毎に(所定周期で)切換える時間制御とすることができる。この場合は、スイッチング制御中のピストン39の推力の減力速度は、予め設定したデューティ比(一定値)に対応した一定の速度で、かつ、デューティ比が100%のときよりも遅い速度となる。
何れにしても、第1の実施形態では、リリース開始から終了までの1回のリリースの間に、スイッチング制御と通電継続制御との両方を行うことにより、ピストン39の推力の減力速度(電動モータ43Bの回転速度)を可変にすることができる。
なお、スイッチング制御および通電継続制御は、例えば、車両がAT車(オートマチックトランスミッション車)の場合のみ行うようにしてもよい。この場合に、車両がAT車であるかMT車(マニュアルトランスミッション車)であるかは、例えば車両データバス(CAN)16を流れる情報から判定することができる(例えば、シフトレバーの位置情報を所得できる場合はAT車であると判定することができる)。
次に、左,右の後輪3,3側に設けられる電動駐車ブレーキ機能付のディスクブレーキ31,31の構成について、図3を参照しつつ説明する。なお、図3では、左,右の後輪3,3に対応してそれぞれ設けられた左,右のディスクブレーキ31,31のうちの一方のみを示している。
車両の左,右にそれぞれ設けられた電動駐車ブレーキ機構としての一対のディスクブレーキ31は、電動式の駐車ブレーキ機能が付設された液圧式のディスクブレーキとして構成されている。ディスクブレーキ31は、駐車ブレーキ制御装置23と共に電動ブレーキシステム(ブレーキ装置、駐車ブレーキシステム)を構成する。ディスクブレーキ31は、車両の後輪3側の非回転部分に取付けられる取付部材32と、押圧部材(摩擦部材)としてのインナ側,アウタ側のブレーキパッド33と、ホイールシリンダとしてのキャリパ34と、電動アクチュエータ43とを含んで構成されている。
この場合、ディスクブレーキ31は、ブレーキパッド33をブレーキペダル6の操作等に基づく液圧によりピストン39で推進することにより、ブレーキパッド33をディスクロータ4に押圧し、車輪(後輪3)に制動力を付与する。これに加えて、ディスクブレーキ31は、駐車ブレーキスイッチ22からの信号に基づく作動要求や前述の駐車ブレーキのアプライ・リリースの判断ロジック、ABS制御に基づく作動要求に応じて、電動モータ43Bにより(回転直動変換機構40を介して)ピストン39を推進することにより、ブレーキパッド33をディスクロータ4に押圧し、車輪(後輪3)に制動力を付与する。
取付部材32は、ディスクロータ4の外周を跨ぐようにディスクロータ4の軸方向(即ち、ディスク軸方向)に延びディスク周方向で互いに離間した一対の腕部(図示せず)と、該各腕部の基端側を一体的に連結するように設けられ、ディスクロータ4のインナ側となる位置で車両の非回転部分に固定される厚肉の支承部32Aと、ディスクロータ4のアウタ側となる位置で前記各腕部の先端側を互いに連結する補強ビーム32Bとを含んで構成されている。
インナ側,アウタ側のブレーキパッド33は、ディスクロータ4の両面に当接可能に配置され、取付部材32の各腕部によりディスク軸方向に移動可能に支持されている。インナ側,アウタ側のブレーキパッド33は、キャリパ34(キャリパ本体35、ピストン39)によりディスクロータ4の両面側に押圧される。これにより、ブレーキパッド33は、車輪(後輪3)と共に回転するディスクロータ4を押圧することにより車両に制動力を与える。
取付部材32には、ディスクロータ4の外周側を跨ぐようにキャリパ34が配置されている。キャリパ34は、取付部材32の各腕部に対してディスクロータ4の軸方向に沿って移動可能に支持されたキャリパ本体35、このキャリパ本体35内に設けられたピストン39、回転直動変換機構40、電動アクチュエータ43等を備えている。キャリパ34は、ブレーキペダル6の操作に基づいて発生する液圧によって作動するピストン39を用いてブレーキパッド33を推進する。
キャリパ本体35は、シリンダ部36とブリッジ部37と爪部38とを備えている。シリンダ部36は、軸線方向の一方側が隔壁部36Aによって閉塞され、ディスクロータ4に対向する他方側が開口された有底円筒状に形成されている。ブリッジ部37は、ディスクロータ4の外周側を跨ぐように該シリンダ部36からディスク軸方向に延びて形成されている。爪部38は、シリンダ部36と反対側においてブリッジ部37から径方向内側に向けて延びるように配置されている。
キャリパ本体35のシリンダ部36は、図1に示すブレーキ側配管部12Cまたは12Dを介してブレーキペダル6の踏込み操作等に伴う液圧が供給される。このシリンダ部36は、隔壁部36Aと一体形成されている。隔壁部36Aは、シリンダ部36と電動アクチュエータ43との間に位置している。隔壁部36Aは、軸線方向の貫通穴を有しており、隔壁部36Aの内周側には、電動アクチュエータ43の出力軸43Cが回転可能に挿入されている。
キャリパ本体35のシリンダ部36内には、移動部材としてのピストン39と、回転直動変換機構40と、が設けられている。なお、実施形態においては、回転直動変換機構40がピストン39内に収容されている。但し、回転直動変換機構40は、ピストン39を推進するように構成されていればよく、必ずしもピストン39内に収容されていなくてもよい。
ピストン39は、ブレーキパッド33をディスクロータ4に向け、または、ディスクロータ4から遠ざかる方向に移動させる。ピストン39は、軸線方向の一方側が開口しており、インナ側のブレーキパッド33に対面する、軸線方向の他方側が蓋部39Aによって閉塞されている。このピストン39は、シリンダ36内に挿入されている。ピストン39は、電動アクチュエータ43(電動モータ43B)へ電流が供給されることにより移動することに加えて、ブレーキペダル6の踏込み等に基づいてシリンダ部36内に液圧が供給されることによっても移動するものである。この場合に、電動アクチュエータ43(電動モータ43B)によるピストン39の移動は、直動部材42に押圧されることによって行われる。また、回転直動変換機構40はピストン39の内部に収容されており、ピストン39は、該回転直動変換機構40によりシリンダ部36の軸線方向に推進されるように構成されている。
回転直動変換機構40は、押圧部材保持機構として機能する。具体的には、回転直動変換機構40は、シリンダ部36内への液圧付加によって生じる力とは異なる外力、即ち、電動アクチュエータ43により発生される力によってキャリパ34のピストン39を推進させると共に、推進されたピストン39およびブレーキパッド33を保持する。これにより、駐車ブレーキはアプライ状態(保持状態)となる。一方、回転直動変換機構40は、電動アクチュエータ43によりピストン39を推進方向とは逆方向に退避させ、駐車ブレーキをリリース状態(解除状態)とする。そして、左,右の後輪3用に左,右のディスクブレーキ31がそれぞれ設けられるので、回転直動変換機構40および電動アクチュエータ43も、車両の左,右それぞれに設けられている。
回転直動変換機構40は、台形ねじ等の雄ねじが形成された棒状体を有するねじ部材41と、台形ねじによって形成される雌ねじ穴が内周側に形成された直動部材42とにより(スピンドルナット機構として)構成されている。直動部材42は、電動アクチュエータ43によりピストン39に向けて、または、ピストン39から遠ざかる方向に移動する被駆動部材(推進部材)となる。即ち、直動部材42の内周側に螺合したねじ部材41は、電動アクチュエータ43による回転運動を直動部材42の直線運動に変換するねじ機構を構成している。この場合、直動部材42の雌ねじとねじ部材41の雄ねじとは、不可逆性の大きいねじ、実施形態においては、台形ねじを用いて形成することにより押圧部材保持機構を構成している。
この押圧部材保持機構(回転直動変換機構40)は、電動モータ43Bに対する給電を停止した状態でも、直動部材42(即ち、ピストン39)を任意の位置で摩擦力(保持力)によって保持するようになっている。なお、押圧部材保持機構は、電動アクチュエータ43により推進された位置にピストン39を保持することができればよく、例えば、台形ねじ以外の不可逆性の大きい通常の三角断面のねじやウォームギヤとしてもよい。
直動部材42の内周側に螺合して設けられたねじ部材41には、軸線方向の一方側に大径の鍔部であるフランジ部41Aが設けられている。ねじ部材41の軸線方向の他方側は、ピストン39の蓋部39Aに向けて延びている。ねじ部材41は、フランジ部41Aにおいて、電動アクチュエータ43の出力軸43Cに一体的に連結されている。また、直動部材42の外周側には、直動部材42をピストン39に対して回り止め(相対回転を規制)しつつ、直動部材42が軸線方向に相対移動することを許容する係合突部42Aが設けられている。
電動アクチュエータ43は、キャリパ34のキャリパ本体35に固定されている。電動アクチュエータ43は、駐車ブレーキスイッチ22の作動要求信号や前述の駐車ブレーキのアプライ・リリースの判断ロジック、ABSの制御に基づいて、ディスクブレーキ31を作動(アプライ・リリース)させる。電動アクチュエータ43は、隔壁部36Aの外側に取付けられたケーシング43Aと、該ケーシング43A内に位置してステータ、ロータ等を備え電力(電流)が供給されることによりピストン39を移動させる電動モータ43Bと、該電動モータ43Bのトルクを増幅する減速機(図示せず)と、該減速機による増幅後の回転トルクを出力する出力軸43Cとを含んで構成されている。電動モータ43Bは、例えば、直流ブラシモータとして構成することができる。出力軸43Cは、シリンダ部36の隔壁部36Aを軸線方向に貫通して延びており、ねじ部材41と一体に回転するように、シリンダ部36内においてねじ部材41のフランジ部41Aの端部に連結されている。
出力軸43Cとねじ部材41との連結手段は、例えば、軸線方向には移動可能であるが回転方向には回り止めされるように構成することができる。この場合は、例えばスプライン嵌合や多角形柱による嵌合(非円形嵌合)等の公知の技術が用いられる。なお、減速機としては、例えば、遊星歯車減速機やウォーム歯車減速機等が用いられてもよい。また、ウォーム歯車減速機等、逆作動性のない(不可逆性の)公知の減速機を用いる場合は、回転直動変換機構40として、ボールねじやボールランプ機構等、可逆性のある公知の機構を用いることができる。この場合は、例えば、可逆性の回転直動変換機構と不可逆性の減速機とにより押圧部材保持機構を構成することができる。
運転者が図1ないし図3に示す駐車ブレーキスイッチ22を操作したときには、駐車ブレーキ制御装置23を介して電動モータ43Bに給電され、電動アクチュエータ43の出力軸43Cが回転される。このため、回転直動変換機構40のねじ部材41は、一方向に出力軸43Cと一体に回転され、直動部材42を介してピストン39をディスクロータ4側に推進(駆動)する。これにより、ディスクブレーキ31は、ディスクロータ4をインナ側およびアウタ側のブレーキパッド33間で挟持し、電動式の駐車ブレーキとして制動力を付与した状態、即ち、アプライ状態(保持状態)となる。
一方、駐車ブレーキスイッチ22が制動解除側に操作されたときには、電動アクチュエータ43により回転直動変換機構40のねじ部材41が他方向(逆方向)に回転駆動される。これにより、直動部材42(および液圧付加がなければピストン39)は、ディスクロータ4から離れる方向に駆動され、ディスクブレーキ31は、駐車ブレーキとしての制動力の付与が解除された状態、即ち、解除状態(リリース状態)となる。
この場合、回転直動変換機構40では、ねじ部材41が直動部材42に対して相対回転されるとき、ピストン39内での直動部材42の回転が規制されているため、直動部材42は、ねじ部材41の回転角度に応じて軸線方向に相対移動する。これにより、回転直動変換機構40は、回転運動を直線運動に変換し、直動部材42によりピストン39が推進される。また、これと共に、回転直動変換機構40は、直動部材42を任意の位置でねじ部材41との摩擦力によって保持することにより、ピストン39およびブレーキパッド33を電動アクチュエータ43により推進された位置に保持する。
シリンダ部36の隔壁部36Aには、該隔壁部36Aとねじ部材41のフランジ部41Aとの間にスラスト軸受44が設けられている。このスラスト軸受44は、隔壁部36Aと共にねじ部材41からのスラスト荷重を受け、隔壁部36Aに対するねじ部材41の回転を円滑にする。また、シリンダ部36の隔壁部36Aには、電動アクチュエータ43の出力軸43Cとの間にシール部材45が設けられ、該シール部材45は、シリンダ部36内のブレーキ液が電動アクチュエータ43側に漏洩するのを阻止するように両者の間をシールしている。
また、シリンダ部36の開口端側には、該シリンダ部36とピストン39との間をシールする弾性シールとしてのピストンシール46と、シリンダ部36内への異物侵入を防ぐダストブーツ47とが設けられている。ダストブーツ47は、可撓性を有した蛇腹状のシール部材であり、シリンダ部36の開口端とピストン39の蓋部39A側の外周との間に取付けられている。
なお、前輪2用のディスクブレーキ5は、駐車ブレーキ機構を除いて、後輪3用のディスクブレーキ31と略同様に構成されている。即ち、前輪2用のディスクブレーキ5は、後輪3用のディスクブレーキ31が備える、駐車ブレーキとして作動する回転直動変換機構40および電動アクチュエータ43等を備えていない。しかし、ディスクブレーキ5に代えて、前輪2用に電動駐車ブレーキ機能付のディスクブレーキ31を設けられてもよい。
なお、実施形態では、電動アクチュエータ43を有する液圧式のディスクブレーキ31を例に挙げて説明した。しかし、例えば、電動キャリパを有する電動式ディスクブレーキ、電動アクチュエータによりシューをドラムに押付けて制動力を付与する電動式ドラムブレーキ、電動ドラム式の駐車ブレーキを有するディスクブレーキ、電動アクチュエータでケーブルを引っ張ることにより駐車ブレーキをアプライ作動させる構成等、電動アクチューエータ(電動モータ)の駆動に基づいて押圧部材(パッド、シュー)をロータ(ドラムを含む)に押圧(推進)し、その押圧力を保持させることができるブレーキ機構(電動駐車ブレーキ機構)であれば、その構成は、上述の実施形態のブレーキ機構でなくともよい。
第1の実施形態による4輪自動車のブレーキシステムは、上述の如き構成を有するもので、次に、その作動について説明する。
車両の運転者がブレーキペダル6を踏込み操作すると、その踏力が倍力装置7を介してマスタシリンダ8に伝達され、マスタシリンダ8によってブレーキ液圧が発生する。マスタシリンダ内8で発生した液圧は、シリンダ側液圧配管10A,10B、ESC11およびブレーキ側配管部12A,12B,12C,12Dを介して各ディスクブレーキ5,31に分配され、左,右の前輪2と左,右の後輪3とにそれぞれ制動力が付与される。
後輪3用のディスクブレーキ31について説明する。キャリパ34のシリンダ部36内にブレーキ側配管部12C,12Dを介して液圧が供給され、シリンダ部36内の液圧上昇に従ってピストン39がインナ側のブレーキパッド33に向けて摺動的に変位する。これにより、ピストン39は、インナ側のブレーキパッド33をディスクロータ4の一側面に対して押圧する。このときの反力によって、キャリパ34全体が取付部材32の前記各腕部に対してインナ側に摺動的に変位する。
この結果、キャリパ34のアウタ脚部(爪部38)は、アウタ側のブレーキパッド33をディスクロータ4に対して押圧するように動作し、ディスクロータ4は、一対のブレーキパッド33によって軸方向の両側から挟持される。それによって、液圧に基づく制動力が発生される。一方、ブレーキ操作が解除されたときには、シリンダ部36内への液圧供給が停止されることにより、ピストン39がシリンダ部36内へと後退するように変位する。これによって、インナ側とアウタ側のブレーキパッド33がディスクロータ4からそれぞれ離間し、車両は非制動状態に戻される。
次に、車両の運転者が駐車ブレーキスイッチ22を制動側(オン)に操作したときには、駐車ブレーキ制御装置23からディスクブレーキ31の電動モータ43Bに給電が行われ、電動アクチュエータ43の出力軸43Cが回転駆動される。電動駐車ブレーキ機能付のディスクブレーキ31は、電動アクチュエータ43の回転運動を回転直動変換機構40のねじ部材41を介して直動部材42の直線運動に変換し、直動部材42を軸方向に移動させてピストン39を推進する。これにより、一対のブレーキパッド33がディスクロータ4の両面に対して押圧される。
このとき、直動部材42は、ピストン39から伝達される押圧反力を垂直抗力とした、ねじ部材41との間に発生する摩擦力(保持力)により制動状態に保持され、後輪3用のディスクブレーキ31は、駐車ブレーキとして作動(アプライ)される。即ち、電動モータ43Bへの給電を停止した後にも、直動部材42の雌ねじとねじ部材41の雄ねじとにより、直動部材42(ひいては、ピストン39)は制動位置に保持されることができる。
一方、運転者が駐車ブレーキスイッチ22を制動解除側(オフ)に操作したときには、駐車ブレーキ制御装置23から電動モータ43Bに対してモータが逆転するように給電され、電動アクチュエータ43の出力軸43Cは、駐車ブレーキの作動時(アプライ時)と逆方向に回転される。このとき、ねじ部材41と直動部材42とによる制動力の保持が解除され、回転直動変換機構40は、電動アクチュエータ43の逆回転の量に対応した移動量で直動部材42を戻り方向に、即ち、シリンダ部36内へと移動させ、駐車ブレーキ(ディスクブレーキ31)の制動力を解除する。
次に、駐車ブレーキ制御装置23の演算回路24で行われるオートリリース制御処理について、図5を参照しつつ説明する。なお、図5のオートリリース制御処理は、駐車ブレーキ制御装置23に通電している間、所定の制御周期で、即ち、所定時間(例えば、10ms)毎に繰り返し実行される。
例えば運転者の操作によるアクセサリON、イグニッションON、電源ON等のシステム起動(車両システムの起動、駐車ブレーキ制御装置23の起動)により、図5の処理動作がスタートすると、演算回路24は、S1で、車両が停止しているか否か、即ち、車両の速度(車体の速度)となる車速が0km/hである(ないし、0km/hの状態で所定時間経過した)か否かを判定する。この判定は、例えば、車輪速センサ21や車速センサの検出信号に基づいて行うことができる。
S1で、「NO」、即ち、車両が走行中である(車速≠0)と判定された場合は、リターンを介してスタートに戻り、S1以降の処理を繰り返す。即ち、車両の走行中は、S2以降の処理に基づくオートリリースを行わない。一方、S1で、「YES」、即ち、車両が停止している(車速=0)と判定された場合は、S2に進む。S2では、駐車ブレーキがアプライ状態であるか否かを判定する。この判定は、例えば、駐車ブレーキの状態(ステータス)が変更する(「アプライ」から「リリース」、または、「リリース」から「アプライ」)毎に、記憶部25に更新可能に記憶される駐車ブレーキの現在の状態から判定することができる。
S2で、「NO」、即ち、駐車ブレーキがアプライ状態でない(リリース状態である)と判定された場合は、リターンを介してスタートに戻り、S1以降の処理を繰り返す。即ち、駐車ブレーキがリリース状態である場合は、S3以降の処理に基づくオートリリースを行わない。一方、S2で、「YES」、即ち、駐車ブレーキがアプライ状態であると判定された場合は、S3に進む。S3では、シートベルトが解除されているか否かとドアが開いているか否を判定する。この判定は、例えば、シートベルトの着脱状態を検出するシートベルトセンサ(シートベルトスイッチ)の検出信号、および、ドアの開閉状態を検出するドア開センサ(ドア開閉スイッチ)の検出信号に基づいて行うことができる。
S3で、「YES」、即ち、シートベルトが解除されている、または、ドアが開いていると判定された場合は、リターンを介してスタートに戻り、S1以降の処理を繰り返す。即ち、シートベルトが解除されている、または、ドアが開いている場合は、S3以降の処理に基づくオートリリースを行わない。一方、S3で、「NO」、即ち、シートベルトが装着されており、かつ、ドアが閉まっていると判定された場合は、S4に進む。S4では、オートリリース要求が有るか否か、より具体的には、アクセルがONされた(アクセルペダルが踏込まれた)か否かを判定する。この判定は、アクセル開度センサ18の検出信号に基づいて行うことができる。
S4で、「NO」、即ち、オートリリース要求(アクセルON)なしと判定された場合は、リターンを介してスタートに戻り、S1以降の処理を繰り返す。即ち、オートリリース要求がない場合は、S5以降の処理に基づくリリースを行わない。一方、S4で、「YES」、即ち、オートリリース要求ありと判定された場合は、S5に進む。
S5では、車両が停止している場所(路面)の勾配(車両の傾斜)を取得する。勾配は、加速度センサ20により検出される加速度に基づいて算出することができる。即ち、S1で車両が停止していると判定されているため、加速度センサ20には、停車している路面の勾配(車両の傾斜)に応じた重力加速度のみが加わる。そして、車両の前方が前上がりの上り坂(登坂路)の場合は、加速度センサ20によりその勾配に応じた正の加速度が検出され、車両の前方が前下がりの下り坂(降坂路)の場合は、加速度センサ20によりその勾配に応じた負の加速度が検出される。S5では、加速度センサ20により検出される加速度に基づいて勾配を算出する。この場合に、勾配は、傾斜角度として加速度から算出してもよいが、勾配として加速度の値をそのまま用いてもよい。
S5で勾配を取得したら、S6で、路面が平坦(平地、水平)であるか否か、即ち、勾配(加速度)が0であるか否かを判定する。S6で、「YES」、即ち、路面が平坦である(傾斜していない)と判定された場合は、S7を介することなくS8に進む。一方、S6で、「NO」、即ち、路面が傾斜している(上り坂または下り坂である)と判定された場合は、S7に進む。
S7では、車両が下がる、即ち、運転者が意図する進行方向とは逆方向に車両が下がる可能性があるか否かを判定する。具体的には、現在の車両の進行方向に応じた駆動トルクが、車両が進行方向とは逆方向に下がらないために必要なトルク以上(駆動トルク≧下がらないトルク)であるか否かを判定する。車両の駆動トルクは、例えば、アクセル開度センサ18の検出信号に基づいて算出することができる。具体的には、車両の駆動トルクとアクセル開度との関係を予め求めておき、この関係と現在のアクセル開度とに基づいて、駆動トルクを算出することができる。
一方、車両が下がらないために必要なトルク(停車必要トルク)は、停車状態を維持するために必要なトルクと勾配との関係を予め求めておき、この関係と現在の勾配とに基づいて算出することができる。S7では、現在のアクセル開度に基づいて算出される駆動トルクが、現在の勾配に基づいて算出される停車に必要なトルク以上であるか否かを判定する。この場合、車両の進行方向は、シフトセンサ19が検出したシフトレバーの位置(ギア位置)から判定することができる。
S7で、「NO」、即ち、車両が下がる可能性がある(駆動トルク<停車に必要なトルク)と判定された場合は、リターンを介してスタートに戻り、S1以降の処理を繰り返す。即ち、車両が下がる可能性がある場合は、S8以降の処理に基づくリリースを行わない。これにより、駐車ブレーキによる車両のずり下がりの抑制(坂道発進補助)を行うことができる。一方、S7で、「YES」、即ち、車両が下がる可能性がない(駆動トルク≧停車必要トルク)と判定された場合は、S8に進む。
S8では、スイッチング制御(PWM制御)を行う必要があるか否かを判定する。即ち、車両の飛び出し感を抑制すべく、デューティ比が0%よりも大きく100%よりも小さいスイッチング制御(PWM制御)を開始するか、デューティ比が100%の通電(通電継続制御)を開始するかを判定する。
具体的には、S8では、S5で取得した勾配(車両の傾斜)とシフトセンサ19が検出したシフトレバーの位置(ギア位置)とに基づいて、スイッチング制御と通電継続制御との何れを開始するかを判定する。これにより、ピストン39の推力の減力速度(ブレーキ解除推力の変化速度)を、通電継続制御を開始する(速くする)場合と、スイッチング制御を開始する(遅くする)場合とで、可変に構成している。この場合、勾配の絶対値が所定角度未満の場合におけるブレーキ解除推力の変化速度よりも、勾配が所定角度以上かつ車両の発進方向が下り方向の場合におけるブレーキ解除推力の変化速度を遅くする。即ち、勾配が所定角度以上かつ車両の発進方向が下り方向の場合に、スイッチング制御を行い、ピストン39の推力の減力速度を遅くする。
このため、S8では、勾配が第1の所定値以上かつシフトレバーの位置が後進(R)であるか否か、または、勾配が第2の所定値以下かつシフトレバーの位置が前進(D、L、S、変速段)であるか否かを判定する。ここで、勾配は、路面が平坦(平地、水平)、換言すれば、車両が水平の状態の0を挟み、車両の前方が下側に傾斜する(下り坂である)と負(マイナス)、車両の前方が上側に傾斜する(上り坂である)と正(プラス)に設定される。
従って、勾配が第1の所定値以上かつシフトレバーの位置が後進(後退)に対応する位置である場合、または、勾配が第2の所定値以下かつシフトレバーの位置が前進に対応する位置である場合は、路面が車両の進行方向に下向きに所定値以上に傾斜していることになる。第1の実施形態では、この場合に、推力の減力速度(ブレーキ解除推力の変化速度)を遅くすべく、スイッチング制御が必要、即ち、「YES」と判定する。なお、勾配の第1の所定値および第2の所定値は、推力の減力速度を遅くする必要があるとき(飛び出し感の抑制が必要なとき)に、スイッチング制御を行うことができるように、予め実験、シミュレーション、計算等により求めておく。
S8で、「NO」、即ち、勾配が第1の所定値以上でなくかつシフトレバーの位置が後進(R)でない、または、勾配が第2の所定値以下でなくかつシフトレバーの位置が前進(D、L、S、変速段)でないため、スイッチング制御を行う必要がないと判定された場合は、S9に進む。このS9では、デューティ比が100%の通電(通電継続制御)を開始する。具体的には、Hブリッジ回路27AをリリースON(Tr1:OFF、Tr2:ON、Tr3:ON、Tr4:OFF)にし、その状態を維持する(リリースONを継続する)。そして、続くS10で、リリースが完了したか否かを判定する。
具体的には、S10では、ピストン39の推力が0になったか否か(ブレーキパッド33がディスクロータ4から離間し始めたか否か)と、ブレーキパッド33とディスクロータ4とが所定のクリアランスになったか否かを判定する。推力が0になったか否かの判定は、例えば、電流センサ部28により検出される電動モータ43Bの電流の変化に基づいて行うことができる。具体的には、例えば、電動モータ43Bの電流が所定電流値以下となり、かつ電流の時間変化量が所定変化量以下となった場合に、推力が0になったと判定することができる。
また、ブレーキパッド33とディスクロータ4とが所定のクリアランスになったか否かは、図3に示すX1とX2の和となるクリアランス(X1+X2)が予め設定した隙間閾値以上になったか否かにより判定する。この場合、クリアランスは、例えば、電流値と電圧値と電動モータ43Bの回転量との関係、および、該回転量とブレーキパッド33(ピストン39、直動部材42)の変位量(退避量)との関係に基づいて、推力がゼロになったと判定されてからの変位量として求めることができる。隙間閾値は、適切なクリアランスでリリースの完了を行うことができるように、予め実験、シミュレーション、計算等により求めておく。
S10で、「NO」、即ち、リリースが完了していない(リリース完了条件を満たしていない)と判定された場合、具体的には、ピストン39の推力が0になっていない、または、クリアランスが隙間閾値未満であると判定された場合は、S10の前に戻り、S10の処理を繰り返す。一方、S10で、「YES」、即ち、リリースが完了した(リリース完了条件を満たした)と判定された場合、具体的には、ピストン39の推力が0になり、かつ、クリアランスが隙間閾値以上になったと判定された場合は、リリースを終了する。即ち、電動モータ43Bのリリース方向への駆動を停止する。具体的には、Hブリッジ回路27AをOFF(Tr1:OFF、Tr2:OFF、Tr3:OFF、Tr4:OFF)にする。そして、リターンを介して、スタートに戻り、S1以降の処理を繰り返す。
一方、S8で、「YES」、即ち、勾配が第1の所定値以上かつシフトレバーの位置が後進(R)である、または、勾配が第2の所定値以下かつシフトレバーの位置が前進(D、L、S、変速段)であるため、スイッチング制御を行う必要があると判定された場合は、S11に進む。S11では、S5で取得した勾配(加速度)に基づいて、スイッチング制御のデューティ比(0%<デューティ比<100%)、より具体的には、周期とパルス幅(と必要に応じてパルス数)を算出する。この場合、例えば、路面が車両の進行方向に下向きに大きく傾斜している程、デューティ比を小さくする(推力の減力速度を遅くする)。勾配(加速度)とデューティ比(周期、パルス幅)との関係は、飛び出し感(車両の唐突な発進)を抑制することができるように、予め実験、シミュレーション、計算等により求めておく。
S11でデューティ比(周期、パルス幅)算出したら、S12に進み、スイッチング制御(PWM制御)を開始する。具体的には、Hブリッジ回路27Aを、例えば、「下流OFF→ブレーキ→OFF→リリースON」の順序で切換える。この切換えは、「下流OFF→ブレーキ→OFF→リリースON」の周期と「リリースON」の時間(パルス幅)がS11で算出した値(デューティ比)となるように行う。なお、Hブリッジ回路27Aの切換えは、「下流OFF→OFF→リリースON」の順序で行ってもよい(ブレーキを省略してもよい)。
S12でスイッチング制御を開始したら、続くS13で、車両が動き出したか否か、即ち、車速が変化したか否かを判定する。具体的には、S13では、車輪速センサ21により検出される車輪速ないし車速が、0km/hよりも大きい状態(車速>0km/h)で所定時間経過したか否か、または、予め設定した所定速度(例えば車速で5km/h)になったか否かを判定する。ここで、所定時間、所定速度は、車両の動き出しを適切に検知できるように、換言すれば、車両の動き出しに伴うディスクロータ4とブレーキパッド33との引き摺りを抑制できるように、予め実験、シミュレーション、計算等により求めておく。
S13で、「NO」、即ち、車速が変化していないと判定された場合は、S14に進み、リリースが完了したか否かの判定を行う。この判定は、例えば、リリース開始(例えば、S4で「YES」と判定されて)から所定時間が経過したか否かにより行うことができる。また、スイッチング制御のON、OFFの繰り返し回数が、規定回数に達したか否かにより判定することもできる。所定時間、規定回数は、リリース開始からクリアランスが確保されるまでの時間、規定回数として、予め実験、シミュレーション、計算等により求めておく。
S14で、「NO」、即ち、リリースが完了していないと判定された場合は、S13の前に戻り、S13以降の処理を繰り返す。一方、S14で、「YES」、即ち、リリースが完了したと判定された場合は、リリースを終了する。即ち、電動モータ43Bのリリース方向への駆動を停止する。具体的には、Hブリッジ回路27AをOFF(Tr1:OFF、Tr2:OFF、Tr3:OFF、Tr4:OFF)にする。そして、リターンを介して、スタートに戻り、S1以降の処理を繰り返す。
一方、S13で、「YES」、即ち、車速が変化したと判定された場合は、S9に進む。即ち、スイッチング制御を終了し、デューティ比が100%の通電(通電継続制御)を開始する。具体的には、Hブリッジ回路27AをリリースON(Tr1:OFF、Tr2:ON、Tr3:ON、Tr4:OFF)にし、その状態を維持する(リリースONを継続する)。
このように、第1の実施形態では、スイッチング制御中に車速が変化した場合は、スイッチング制御を終了し、デューティ比が100%の通電を開始する。これにより、ピストン39の推力の減力速度を、車両の動き出しを検知する前と後とで可変に構成している。具体的には、車両の動き出し(車両が所定速度になった)を検知した場合、スイッチング制御を終了し、通電継続制御を開始することで、推力の減力速度(電動モータ43Bの回転速度)を、車両が動き出す前よりも速くする。
これにより、車両の速度が所定速度未満の場合におけるブレーキ解除推力の変化速度(推力の減力速度)よりも、車両の速度が所定速度以上の場合におけるブレーキ解除推力の変化速度(推力の減力速度)を速くしている。なお、車速は、車輪速センサ21に代えて、トランスミッションの回転軸の回転速度を検出する車速センサにより検出することもできる。
次に、駐車ブレーキ制御装置23により図5に示す処理を行ったときのタイムチャートを、図6を用いて説明する。
図6の時間軸の(a)の時点は、車両が停止しており、駐車ブレーキはアプライ状態である。時間軸の(b)の時点で、アクセルONによるリリース要求(オートリリース要求)を受領すると、図5のS4で「YES」と判定され、S8により、スイッチング制御が必要か否かの判定が行われる。このS8で、スイッチング制御が必要、即ち、車両が発進方向に下向きに所定以上傾斜しており、飛び出し感を抑制すべくピストン39の推力の減力速度を遅くする必要があると判定されると、S11を介してS12に進み、スイッチング制御が開始される。即ち、電動モータ43Bのリリース方向への駆動が開始され、図6の時間軸の(c)の時点で、ピストン39の推力が低下し始める。スイッチング制御を行っている間、即ち、時間軸の(b)の時点から(e)の時点までの間は、図6に実線の特性29で示されるように、ピストン39の推力の減力速度を遅くすることができる。具体的には、時間軸の(b)の時点から通電継続制御を開始した場合の太い破線の特性29′よりも遅くすることができる。これにより、飛び出し感を抑制することができる。
図6の時間軸の(d)の時点で、車両が動き出し始め、時間軸の(e)の時点で、車両の動き出しが検知されると、図5のS13で「YES」と判定され、S9に進む。これにより、スイッチング制御が終了し、デューティ比が100%の通電(通電継続制御)が開始される。これにより、ピストン39の推力の減力速度を速くすることができ、車両の動き出しに伴うディスクロータ4とブレーキパッド33との引き摺りを抑制できる。図6の時間軸の(g)の時点では、S10により、リリース完了条件が満たされた、即ち、ブレーキパッド33とディスクロータ4とのクリアランス(隙間)が確保されたと判定され、電動モータ43Bのリリース方向への駆動が停止する(リリースが終了する)。
第1の実施形態では、リリースのときの違和感の抑制と引き摺りの抑制とを両立することができる。
即ち、駐車ブレーキ制御装置23は、進行方向に下り坂で発進するときに、スイッチング制御を行うことにより、ディスクブレーキ31の電動モータ43Bの駆動に基づくブレーキ解除推力を、下り坂の勾配に応じて変化させる。このため、下り坂の勾配が大きいときに、勾配が小さいないし平坦(水平、平地)のときよりも、ブレーキ解除推力の変化速度(減力速度、低下速度)を遅くすることができる。これにより、運転者や乗員に与える違和感、例えば車両の動き出しのときにブレーキ解除推力の低下が速いことによる車両の飛び出し感(車両の唐突な発進)を抑制することができる。
これに加えて、駐車ブレーキ制御装置23は、ブレーキ解除中に車両の速度が所定速度となったときに、スイッチング制御を終了してデューティ比が100%の通電(通電継続制御)を開始することにより、ブレーキ解除推力を所定速度未満の場合よりも大きく変化させる。このため、リリース中に車両が動き出すと、ブレーキ解除推力の変化速度(減力速度、低下速度)を速くすることができる。これにより、車両の動き出しに伴うディスクロータ4とブレーキパッド33との引き摺りを抑制することができる。
第1の実施形態では、駐車ブレーキ制御装置23は、勾配の絶対値が所定角度未満の場合におけるブレーキ解除推力の変化速度よりも、勾配が所定角度以上かつ車両の発進方向が下り方向の場合におけるブレーキ解除推力の変化速度を遅くする構成としている。これにより、車両が進行方向に加速し易い勾配が急角度(勾配の絶対値が所定角度以上)の場合は、ブレーキ解除推力の変化速度を遅くすることができ、飛び出し感の抑制を図ることができる。一方、車両が進行方向に加速しにくい勾配が緩やかないし平坦(勾配の絶対値が所定角度未満)の場合は、ブレーキ解除推力の変化速度を速くすることができ、リリースを迅速に行うことができる(リリースの開始から終了までの時間を短くできる)。
第1の実施形態では、駐車ブレーキ制御装置23は、車両の速度が所定速度未満の場合におけるブレーキ解除推力の変化速度よりも、車両の速度が所定速度以上の場合におけるブレーキ解除推力の変化速度を速くする構成としている。これにより、車両の速度が速い(所定速度以上の)場合に、ブレーキ解除推力の変化速度を速くして、ディスクロータ4とブレーキパッド33との引き摺りを抑制することができる。
第1の実施形態では、駐車ブレーキ制御装置23は、電動モータ43Bに対する供給電流を連続的に大小に切換えるスイッチング制御を行うことにより、ブレーキ解除推力を変化させる構成としている。これにより、ブレーキ解除推力の変化速度を、スイッチング制御のデューティ比(0%<デューティ比<100%)に応じた速度にする(遅くする)ことができる。即ち、ブレーキ解除推力の変化速度を、スイッチング制御のデューティ比に応じた遅い速度と、デューティ比100%で通電を行う通電継続制御に対応する速い速度にすることができる。
しかも、通電継続制御とスイッチング制御は、駐車ブレーキ制御装置23のソフトウエア(リリース処理のプログラム)で行うことができる。この場合には、リリース時に一定速度で解除していたクランプ力(推力)を、ソフトウエアにより可変にすることができる。このため、クランプ力を可変にする(電動モータ43Bの速度を可変にする)ための特別なハードウエアを新たに追加することなく、リリースのときの違和感の抑制と円滑なリリース動作(引き摺りの抑制)とを両立することができる。
即ち、第1の実施形態では、通電継続制御およびスイッチング制御を、Hブリッジ回路27Aで行う構成としている。この場合、通電継続制御は、Hブリッジ回路27Aの各スイッチ27A1〜27A4を、リリースONの状態が所定時間を超えて継続されるように維持することにより行うことができる。一方、スイッチング制御は、Hブリッジ回路27Aの各スイッチ27A1〜27A4を、リリースONとOFFと下流OFFとブレーキとが周期的に繰り返されるように切換えることにより行うことができる。この場合、通電継続制御の所定時間(リリースON継続時間)は、スイッチング制御の1周期以上の時間(所定時間≧1周期)として設定される。
次に、図7および図8は、第2の実施形態を示している。第2の実施形態の特徴は、車両の動き出しを加速度センサで検知する構成としたことにある。なお、第2の実施形態では、第1の実施形態と同一の構成要素に同一の符号を付し、その説明を省略する。
図7のS21は、第1の実施形態の図5のS13に代えて、第2の実施形態で用いる処理である。このS21では、車両が動き出したか否かを、加速度が変化したか否かにより判定する。具体的には、S21では、加速度センサ20により検出される現在の加速度が、S5で勾配を求めたときの加速度(勾配に対応する加速度)からずれた状態(勾配に対応する加速度≠現在の加速度)で所定時間経過したか否かを判定する。
例えば、車両の前方が前下がりの下り坂(降坂路)で進行方向が前方の場合は、加速度センサ20により検出される現在の加速度が勾配に対応する加速度よりも大きい状態(現在の加速度>勾配に対応する加速度)で所定時間経過したか否かを判定する。一方、車両の前方が前上がり上り坂(登坂路)で進行方向が後方の場合は、加速度センサ20により検出される現在の加速度が勾配に対応する加速度よりも小さい状態(現在の加速度<勾配に対応する加速度)で所定時間経過したか否かを判定する。
S21で、「NO」、即ち、車両の加速度が変化していないと判定された場合は、S14に進む。一方、S21で、「YES」、即ち、車両の加速度が変化したと判定された場合は、S9に進む。即ち、図8に示すように、時間軸の(e)の時点で、加速度に基づいて車両の動き出しが検知されると、図5のS21で「YES」と判定され、S9に進む。これにより、スイッチング制御が終了し、デューティ比が100%の通電(通電継続制御)が開始される。S21以外のS1〜12,14の処理については、第1の実施形態と同様である。
第2の実施形態は、上述の如きS21により、車両の動き出しの判定を行うもので、その基本的作用については、第1の実施形態によるものと格別差異はない。
特に、第2の実施形態は、加速度センサ20を用いて車両の動き出しの判定を行う。このため、勾配と車両の動き出しとを1つのセンサ(加速度センサ20)を用いて検知することができ、センサの数の低減を図ることができる。
なお、第2の実施形態では、加速度センサ20を用いて勾配を検出する構成とした場合を例に挙げて説明した。しかし、これに限らず、路面の勾配(車両の傾斜)を検知(検出)できるセンサであれば、加速度センサ以外のセンサ、例えば、ジャイロセンサ、傾斜センサ、勾配センサ等を用いてもよい。
上述した実施形態では、加速度センサ20を前後方向の加速度を検出する構成とした場合を例に挙げて説明した。しかし、これに限らず、加速度センサ(加速度検出部)は、例えば、上,下方向、左,右方向、ピッチ等の加速度を検出する構成としてもよい。
上述した実施形態では、スイッチング制御は、Hブリッジ回路27Aを「リリースON→下流OFF→ブレーキ→OFF」の順序で切換えると共に、この切換えを周期的に繰り返す構成とした場合を例に挙げて説明した。しかし、これに限らず、例えば、ブレーキを省略し、「下流OFF→OFF→リリースON」の順序で切換えると共に、この切換えを周期的に繰り返す構成としてもよい。
上述した実施形態では、左,右の後輪側ブレーキを電動駐車ブレーキ機能付のディスクブレーキ31とした場合を例に挙げて説明した。しかし、これに限らず、左,右の前輪側ブレーキを電動駐車ブレーキ機能付のディスクブレーキとしてもよいし、全ての車輪(4輪全て)のブレーキを電動駐車ブレーキ機能付のディスクブレーキにより構成してもよい。
上述した実施形態では、電動駐車ブレーキ付の液圧式ディスクブレーキ31を例に挙げて説明した。しかし、これに限らず、液圧の供給が不要な電動式ディスクブレーキにより構成してもよい。また、ディスクブレーキ式のブレーキ装置に限らず、ドラムブレーキ式のブレーキ装置として構成してもよいものである。さらに、ディスクブレーキにドラム式の電動駐車ブレーキを設けたドラムインディスクブレーキ、電動モータでケーブルを引っ張ることにより駐車ブレーキの保持を行う構成等、電動駐車ブレーキ機構は各種のものを採用することができる。
以上の実施形態によれば、リリースのときの違和感の抑制と引き摺りの抑制とを両立することができる。
即ち、実施形態によれば、制御手段は、進行方向に下り坂で発進するときに、電動駐車ブレーキ機構によるブレーキ解除推力を、下り坂の勾配に応じて変化させる。このため、下り坂の勾配が大きいときに、勾配が小さいないし平坦(平地、水平)のときよりも、ブレーキ解除推力の変化速度(減力速度、低下速度)を遅くすることができる。これにより、運転者や乗員に与える違和感、例えば車両の動き出しのときにブレーキ解除推力の低下が速いことによる車両の飛び出し感(車両の唐突な発進)を抑制することができる。
これに加えて、制御手段は、ブレーキ解除中に車両の速度が所定速度となったときに、ブレーキ解除推力を所定速度未満の場合よりも大きく変化させる。このため、リリース中に車両が動き出すと、ブレーキ解除推力の変化速度(減力速度、低下速度)を速くすることができる。これにより、車両の動き出しに伴うロータ(ディスク、ドラム)と押圧部材(パッド、シュー)との引き摺りを抑制することができる。
実施形態によれば、制御手段は、勾配の絶対値が所定角度未満の場合におけるブレーキ解除推力の変化速度よりも、勾配が所定角度以上かつ車両の発進方向が下り方向の場合におけるブレーキ解除推力の変化速度を遅くする構成としている。これにより、車両が進行方向に加速し易い勾配が急角度(勾配の絶対値が所定角度以上)の場合は、ブレーキ解除推力の変化速度を遅くすることができ、飛び出し感の抑制を図ることができる。一方、車両が進行方向に加速しにくい勾配が緩やかないし平坦(勾配の絶対値が所定角度未満)の場合は、ブレーキ解除推力の変化速度を速くすることができ、リリースを迅速に行うことができる(リリースの開始から終了までの時間を短くできる)。
実施形態によれば、制御手段は、車両の速度が所定速度未満の場合におけるブレーキ解除推力の変化速度よりも、車両の速度が所定速度以上の場合におけるブレーキ解除推力の変化速度を速くする構成としている。これにより、車両の速度が速い(所定速度以上の)場合に、ブレーキ解除推力の変化速度を速くして、ロータと押圧部材との引き摺りを抑制することができる。
実施形態によれば、制御手段は、電動駐車ブレーキ機構の電動モータに対する供給電流を連続的に大小に切換えるスイッチング制御を行うことにより、ブレーキ解除推力を変化させる構成としている。これにより、ブレーキ解除推力の変化速度を、スイッチング制御のデューティ比(0%<デューティ比<100%)に応じた速度にする(遅くする)ことができる。即ち、ブレーキ解除推力の変化速度を、スイッチング制御のデューティ比に応じた遅い速度と、デューティ比100%で通電を行う通電継続制御に対応する速い速度にすることができる。
しかも、通電継続制御とスイッチング制御は、制御部のソフトウエアで行うことができる。この場合には、リリース時に一定速度で解除していたクランプ力(推力)を、ソフトウエアにより可変にすることができる。このため、クランプ力を可変にする(電動モータの速度を可変にする)ための特別なハードウエアを新たに追加することなく、リリースのときの違和感の抑制と円滑なリリース動作(引き摺りの抑制)とを両立することができる。