JP6392664B2 - 電動ブレーキシステム - Google Patents

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Description

本発明は、車両に制動力を付与する電動ブレーキシステムに関する。
自動車等の車両に設けられる電動ブレーキシステムとして、電動モータの駆動に基づいてブレーキ装置を作動させるものが知られている(特許文献1)。
特開平11−321599号公報
特許文献1には、電動ブレーキ装置によってアンチロック制御(アンチロックブレーキ制御)が可能である点が記載されている。このとき、仮に電動ブレーキ装置によって左,右の車輪で独立したアンチロック制御を行ったときには、一方の車輪で制動力を抜くと、他方の車輪の制動力だけになるため、車両にヨーモーメントが発生する。このヨーモーメントが高速走行時に発生すると、車両が不安定になるおそれがある。
本発明の目的は、高速走行中に制動を行うときでも、車両の安定性を確保することが可能な電動ブレーキシステムを提供することにある。
上述した課題を解決するため、本発明による電動ブレーキシステムは、車輪と共に回転する回転部材に摩擦部材を押圧するピストンを推進すると共に、制動要求信号に応じて電動機構により前記摩擦部材を前記回転部材に押圧して前記摩擦部材の押圧力の保持も可能なブレーキ装置が車両の左,右に少なくとも一対設けられ、前記各ブレーキ装置の電動機構を制御する制御装置と、を有し、前記制御装置は、車両が低速走行状態で前記制動要求信号に応じて前記ブレーキ装置を動作させるときには、前記左,右のブレーキ装置を独立してアンチロック制御し、前記車両が前記低速走行状態より高速の高速走行状態で前記制動要求信号に応じて前記ブレーキ装置を動作させるときには、前記左,右のブレーキ装置を一緒にアンチロック制御し、前記左,右の車輪のうち少なくともいずれか一方がスリップ状態となったときに、前記左,右のブレーキ装置がいずれもリリース状態となるように、前記左,右のブレーキ装置の電動機構を制御することを特徴としている。
本発明の電動ブレーキシステムによれば、高速走行中に制動を行うときでも、車両の安定性を確保することができる。
実施形態による電動ブレーキシステムが搭載された車両の概念図。 図1中の後輪側のディスクブレーキを拡大して示す縦断面図。 図1中の駐車ブレーキ制御装置を示すブロック図。 緊急停止制御の処理を示す流れ図。
以下、実施形態による電動ブレーキシステムについて、当該電動ブレーキシステムを4輪自動車に搭載した場合を例に挙げ、添付図面に従って説明する。なお、図4に示す流れ図の各ステップは、それぞれ「S」という表記を用い、例えばステップ1を「S1」として示すものとする。
図1において、車両のボディを構成する車体1の下側(路面側)には、例えば左,右の前輪2(FL,FR)と左,右の後輪3(RL,RR)とからなる合計4個の車輪が設けられている。これらの前輪2および後輪3には、それぞれの車輪(各前輪2、各後輪3)と共に回転する被制動部材(回転部材)としてのディスクロータ4が設けられている。前輪2用のディスクロータ4は、液圧式のディスクブレーキ5により制動力が付与され、後輪3用のディスクロータ4は、電動駐車ブレーキ機能付の液圧式のディスクブレーキ31により制動力が付与される。これにより、各車輪(各前輪2、各後輪3)のそれぞれに対して相互に独立して制動力が付与される。
車体1のフロントボード側には、ブレーキペダル6が設けられている。ブレーキペダル6は、車両のブレーキ操作時に運転者によって踏込み操作され、この操作に基づいて、常用ブレーキ(サービスブレーキ)としての制動力の付与および解除が行われる。ブレーキペダル6には、ブレーキランプスイッチ、ペダルスイッチ、ペダルストロークセンサ等のブレーキ操作検出センサ(ブレーキセンサ)6Aが設けられている。ブレーキ操作検出センサ6Aは、ブレーキペダル6の踏込み操作の有無、または、その操作量を検出し、その検出信号を液圧供給装置用コントローラ13に出力する。ブレーキ操作検出センサ6Aの検出信号は、例えば、車両データバス16、または、液圧供給装置用コントローラ13と駐車ブレーキ制御装置19とを接続する信号線(図示せず)を介して伝送される(駐車ブレーキ制御装置19に出力される)。
ブレーキペダル6の踏込み操作は、倍力装置7を介して、油圧源として機能するマスタシリンダ8に伝達される。倍力装置7は、ブレーキペダル6とマスタシリンダ8との間に設けられた負圧ブースタまたは電動ブースタとして構成され、ブレーキペダル6の踏込み操作時に踏力を増力してマスタシリンダ8に伝える。このとき、マスタシリンダ8は、マスタリザーバ9から供給されるブレーキ液により液圧を発生させる。マスタリザーバ9は、ブレーキ液が収容された作動液タンクにより構成されている。ブレーキペダル6により液圧を発生する機構は、上記の構成に限られるものではなく、ブレーキペダル6の操作に応じて液圧を発生する機構、例えば、ブレーキバイワイヤ方式の機構等であってもよい。
マスタシリンダ8内に発生した液圧は、例えば一対のシリンダ側液圧配管10A,10Bを介して、液圧供給装置11(以下、ESC11という)に送られる。ESC11は、各ディスクブレーキ5,31とマスタシリンダ8との間に配置され、マスタシリンダ8からの液圧をブレーキ側配管部12A,12B,12C,12Dを介して各ディスクブレーキ5,31に分配する。これにより、車輪(各前輪2、各後輪3)のそれぞれに対して相互に独立して制動力を付与する。この場合、ESC11は、ブレーキペダル6の操作量に従わない態様でも、各ディスクブレーキ5,31に液圧を供給すること、即ち、各ディスクブレーキ5,31の液圧を高めることができる。
このために、ESC11は、例えばマイクロコンピュータ等によって構成される専用の制御装置、即ち、液圧供給装置用コントローラ13(以下、コントロールユニット13という)を有している。コントロールユニット13は、ESC11の各制御弁(図示せず)を開,閉したり、液圧ポンプ用の電動モータ(図示せず)を回転,停止させたりする駆動制御を行うことにより、ブレーキ側配管部12A〜12Dから各ディスクブレーキ5,31に供給されるブレーキ液圧を増圧、減圧または保持する制御を行う。これにより、種々のブレーキ制御、例えば、倍力制御、制動力分配制御、ブレーキアシスト制御、アンチロック制御(ABS制御)、トラクション制御、車両安定化制御(横滑り防止を含む)、坂道発進補助制御、自動運転制御等が実行される。
コントロールユニット13には、バッテリ14からの電力が電源ライン15を通じて給電される。図1に示すように、コントロールユニット13は、車両データバス16に接続されている。なお、ESC11の代わりに、公知のABSユニットを用いることも可能である。さらに、ESC11を設けずに(即ち、省略し)、マスタシリンダ8とブレーキ側配管部12A〜12Dとを直接的に接続することも可能である。
車両データバス16は、車体1に搭載されたシリアル通信部としてのCAN(Controller Area Network)を備えており、車両に搭載された多数の電子機器、コントロールユニット13および駐車ブレーキ制御装置19等との間で車両内での多重通信を行う。この場合、車両データバス16に送られる車両情報としては、例えば、ブレーキ操作検出センサ6A、マスタシリンダ液圧(ブレーキ液圧)を検出する圧力センサ17、イグニッションスイッチ、シートベルトセンサ、ドアロックセンサ、ドア開センサ、着座センサ、車速センサ、操舵角センサ、アクセルセンサ(アクセル操作センサ)、スロットルセンサ、エンジン回転センサ、ステレオカメラ、ミリ波レーダ、勾配センサ、シフトセンサ、加速度センサ、車輪速センサ、車両のピッチ方向の動きを検知するピッチセンサ等からの検出信号による情報(車両情報)が挙げられる。
車体1内には、運転席(図示せず)の近傍に駐車ブレーキスイッチ(PKBSW)18が設けられる。駐車ブレーキスイッチ18は運転者によって操作される。駐車ブレーキスイッチ18は、運転者からの駐車ブレーキの作動要求(アプライ要求、リリース要求)に対応する信号(作動要求信号)を、駐車ブレーキ制御装置19へ伝達する。即ち、駐車ブレーキスイッチ18は、電動モータ43Bの駆動(回転)に基づいてブレーキパッド33(図2参照)をアプライ作動させるための制動要求信号としてのアプライ要求信号と、ブレーキパッド33をリリース作動させるためのリリース要求信号とを、コントロールユニット(コントローラ)となる駐車ブレーキ制御装置19に出力する。
運転者により駐車ブレーキスイッチ18が制動側(駐車ブレーキON側)に操作されたとき、即ち、車両に制動力を与えるためのアプライ要求(保持要求、駆動要求)があったときは、駐車ブレーキスイッチ18からアプライ要求信号が出力される。運転者による制動側の操作(制動ON操作)としては、例えば駐車ブレーキスイッチ18の引き上げ操作が該当する。この制動ON操作を行った場合、駐車ブレーキ制御装置19は、電動モータ43Bを制動側に回転させるための電力を、ディスクブレーキ31の電動モータ43Bに給電する。これにより、後輪3用のディスクブレーキ31は、駐車ブレーキまたは補助ブレーキとしての制動力が付与された状態、即ち、アプライ状態となる。
一方、運転者により駐車ブレーキスイッチ18が制動解除側(駐車ブレーキOFF側)に操作されたとき、即ち、車両の制動力を解除するためのリリース要求(解除要求)があったときは、駐車ブレーキスイッチ18からリリース要求信号が出力される。運転者による制動解除側の操作(制動OFF操作)としては、例えば駐車ブレーキスイッチ18の押し下げ操作が該当する。この制動OFF操作を行った場合、駐車ブレーキ制御装置19は、電動モータ43Bを制動側とは逆方向に回転させるための電力を、ディスクブレーキ31の電動モータ43Bに給電する。これにより、後輪3用のディスクブレーキ31は、駐車ブレーキまたは補助ブレーキとしての制動力の付与が解除された状態、即ち、リリース状態となる。
ここで、駐車ブレーキは、車両の停止中に作動する。この駐車ブレーキは、例えば車両が所定時間停止したとき(例えば、走行中に減速に伴って、車速センサの検出速度が4km/h未満の状態が所定時間継続したときに停止と判断)、エンジンが停止したとき、シフトレバーをPに操作したとき、ドアが開いたとき、シートベルトが解除されたとき等、駐車ブレーキ制御装置19での駐車ブレーキのアプライ判断ロジックによる自動的なアプライ要求に基づいて、自動的に付与(オートアプライ)する構成とすることができる。また、駐車ブレーキは、例えば車両が走行したとき(例えば、停車から増速に伴って、車速センサの検出速度が5km/h以上の状態が所定時間継続したときに走行と判断)や、アクセルペダルが操作されたとき、クラッチペダルが操作されたとき、シフトレバーがP、N以外に操作されたとき等、駐車ブレーキ制御装置19での駐車ブレーキのリリース判断ロジックによる自動的なリリース要求に基づいて、自動的に解除(オートリリース)する構成とすることができる。
一方、補助ブレーキは、車両の走行中に作動する。この補助ブレーキは、車両の走行時に駐車ブレーキスイッチ18によるアプライ要求があった場合、より具体的には、走行中に緊急的に駐車ブレーキを補助ブレーキとして用いる等の動的駐車ブレーキの要求があった場合に、作動する。ここで、補助ブレーキは、駐車ブレーキ制御装置19により、車輪(各後輪3)の状態、即ち、車輪がロック(スリップ)しているか否かに応じて、自動的に制動力の付与と解除(ABS制御)を行う。このような動的駐車ブレーキの具体的な動作と、駐車ブレーキ制御装置19の具体的な構成および制御処理については、後で詳しく述べる。
次に、左後輪3側と右後輪3側とに設けられる電動駐車ブレーキ機能付のディスクブレーキ31の構成について、図2を参照しつつ説明する。なお、図2では、左後輪3のディスクブレーキ31と右後輪3のディスクブレーキ31とのうちの一方のみを示している。
車両の左,右にそれぞれ設けられた一対のディスクブレーキ31は、電動式の駐車ブレーキ機能が付設された液圧式のディスクブレーキとして構成されている。ディスクブレーキ31は、駐車ブレーキ制御装置19と共にブレーキシステム(ブレーキ装置)を構成する。ディスクブレーキ31は、車両の後輪3側の非回転部分に取付けられる取付部材32と、制動部材(摩擦部材)としてのインナ側,アウタ側のブレーキパッド33と、電動アクチュエータ43が設けられたブレーキ機構としてのキャリパ34とを含んで構成されている。
この場合、ディスクブレーキ31は、ブレーキペダル6の操作等に基づく液圧により、ピストン39でブレーキパッド33を推進させ、ディスクロータ4をブレーキパッド33で押圧することにより、車輪(後輪3)延いては車両に制動力を付与する。これに加えて、ディスクブレーキ31は、駐車ブレーキスイッチ18からの信号に基づく作動要求や前述の駐車ブレーキのアプライ・リリースの判断ロジック、ABS制御に基づく作動要求に応じて、電動モータ43Bにより(回転直動変換機構40を介して)ピストン39を推進させ、ディスクロータ4をブレーキパッド33で押圧することにより、車輪(後輪3)延いては車両に制動力を付与する。
取付部材32は、ディスクロータ4の外周を跨ぐようにディスクロータ4の軸方向(即ち、ディスク軸方向)に延びディスク周方向で互いに離間した一対の腕部(図示せず)と、該各腕部の基端側を一体的に連結するように設けられ、ディスクロータ4のインナ側となる位置で車両の非回転部分に固定される厚肉の支承部32Aと、ディスクロータ4のアウタ側となる位置で前記各腕部の先端側を互いに連結する補強ビーム32Bとを含んで構成されている。
インナ側,アウタ側のブレーキパッド33は、ディスクロータ4の両面に当接可能に配置され、取付部材32の各腕部によりディスク軸方向に移動可能に支持されている。インナ側,アウタ側のブレーキパッド33は、キャリパ34(キャリパ本体35、ピストン39)によりディスクロータ4の両面側に押圧される。これにより、ブレーキパッド33は、車輪(後輪3)と共に回転するディスクロータ4を押圧することにより車両に制動力を与える。
取付部材32には、ホイールシリンダとなるキャリパ34がディスクロータ4の外周側を跨ぐように配置されている。キャリパ34は、取付部材32の各腕部に対してディスクロータ4の軸方向に沿って移動可能に支持されたキャリパ本体35、このキャリパ本体35内に設けられたピストン39、回転直動変換機構40、電動アクチュエータ43等を備えている。キャリパ34は、ブレーキペダル6の操作に基づいて発生する液圧によって作動するピストン39を用いてブレーキパッド33を推進する。
キャリパ本体35は、シリンダ部36とブリッジ部37と爪部38とを備えている。シリンダ部36は、軸線方向の一方側が隔壁部36Aによって閉塞され、ディスクロータ4に対向する他方側が開口された有底円筒状に形成されている。ブリッジ部37は、ディスクロータ4の外周側を跨ぐようにシリンダ部36からディスク軸方向に延びて形成されている。爪部38は、シリンダ部36と反対側においてブリッジ部37から径方向内側に向けて延びるように配置されている。
キャリパ本体35のシリンダ部36は、図1に示すブレーキ側配管部12Cまたは12Dを介してブレーキペダル6の踏込み操作等に伴う液圧が供給される。このシリンダ部36は、隔壁部36Aと一体形成されている。隔壁部36Aは、シリンダ部36と電動アクチュエータ43との間に位置している。隔壁部36Aは、軸線方向の貫通穴を有しており、隔壁部36Aの内周側には、電動アクチュエータ43の出力軸43Cが回転可能に挿入されている。
キャリパ本体35のシリンダ部36内には、押圧部材(移動部材)としてのピストン39と、回転直動変換機構40と、が設けられている。なお、実施形態においては、回転直動変換機構40がピストン39内に収容されている。但し、回転直動変換機構40は、ピストン39を推進するように構成されていればよく、必ずしもピストン39内に収容されていなくてもよい。
ピストン39は、ブレーキパッド33をディスクロータ4に近付く方向に、または、ディスクロータ4から遠ざかる方向に移動させる。ピストン39は、軸線方向の一方側が開口しており、インナ側のブレーキパッド33に対面し、軸線方向の他方側が蓋部39Aによって閉塞されている。このピストン39は、シリンダ部36内に挿入されている。ピストン39は、電動アクチュエータ43(電動モータ43B)へ電流が供給されることにより移動することに加えて、ブレーキペダル6の踏込み等に基づいてシリンダ部36内に液圧が供給されることによっても移動する。この場合に、電動アクチュエータ43(電動モータ43B)によるピストン39の移動は、直動部材42に押圧されることによって行われる。また、回転直動変換機構40はピストン39の内部に収容されており、ピストン39は、該回転直動変換機構40によりシリンダ部36の軸線方向に推進されるように構成されている。
回転直動変換機構40は、押圧部材保持機構として機能する。具体的には、回転直動変換機構40は、シリンダ部36内への液圧付加によって生じる力とは異なる外力、即ち、電動アクチュエータ43により発生される力によってキャリパ34のピストン39を推進させると共に、推進されたピストン39およびブレーキパッド33を保持する。これにより、駐車ブレーキはアプライ状態または保持状態となる。一方、回転直動変換機構40は、電動アクチュエータ43によりピストン39を推進方向とは逆方向に退避させ、駐車ブレーキをリリース状態(解除状態)とする。そして、左,右の後輪3用に左,右のディスクブレーキ31がそれぞれ設けられるので、回転直動変換機構40および電動アクチュエータ43も、車両の左,右それぞれに設けられている。
回転直動変換機構40は、台形ねじ等の雄ねじが形成された棒状体を有するねじ部材41と、台形ねじによって形成される雌ねじ穴が内周側に形成された直動部材42とにより(スピンドルナット機構として)構成されている。直動部材42は、電動アクチュエータ43によりピストン39に向けて、または、ピストン39から遠ざかる方向に移動する被駆動部材(推進部材)となる。即ち、直動部材42の内周側に螺合したねじ部材41は、電動アクチュエータ43による回転運動を直動部材42の直線運動に変換するねじ機構を構成している。この場合、直動部材42の雌ねじとねじ部材41の雄ねじとは、不可逆性の大きいねじ、実施形態においては、台形ねじを用いて形成することにより押圧部材保持機構を構成している。
押圧部材保持機構(回転直動変換機構40)は、電動モータ43Bに対する給電を停止した状態でも、直動部材42(即ち、ピストン39)を任意の位置で摩擦力(保持力)によって保持するようになっている。なお、押圧部材保持機構は、電動アクチュエータ43により推進された位置にピストン39を保持することができればよく、例えば、台形ねじ以外の不可逆性の大きい通常の三角断面のねじやウォームギヤとしてもよい。
直動部材42の内周側に螺合して設けられたねじ部材41には、軸線方向の一方側に大径の鍔部であるフランジ部41Aが設けられている。ねじ部材41の軸線方向の他方側は、ピストン39の蓋部39Aに向けて延びている。ねじ部材41は、フランジ部41Aにおいて、電動アクチュエータ43の出力軸43Cに一体的に連結されている。また、直動部材42の外周側には、直動部材42をピストン39に対して回り止め(相対回転を規制)しつつ、直動部材42が軸線方向に相対移動することを許容する係合突部42Aが設けられている。これにより、直動部材42は、電動モータ43Bが駆動することにより直動し、ピストン39に接触して該ピストン39を移動させる。
電動アクチュエータ43は、電動機構を構成し、キャリパ34のキャリパ本体35に固定されている。電動アクチュエータ43は、駐車ブレーキスイッチ18の作動要求信号や前述の駐車ブレーキのアプライ・リリースの判断ロジック、ABS制御に基づいて、ディスクブレーキ31を作動(アプライ・リリース)させる。電動アクチュエータ43は、隔壁部36Aの外側に取付けられたケーシング43Aと、該ケーシング43A内に位置してステータ、ロータ等を備え電力(電流)が供給されることによりピストン39を移動させる電動モータ43Bと、該電動モータ43Bのトルクを増幅する減速機(図示せず)と、該減速機による増幅後の回転トルクを出力する出力軸43Cとを含んで構成されている。電動モータ43Bは、例えば、直流ブラシモータとして構成することができる。出力軸43Cは、シリンダ部36の隔壁部36Aを軸線方向に貫通して延びており、ねじ部材41と一体に回転するように、シリンダ部36内においてねじ部材41のフランジ部41Aの端部に連結されている。
出力軸43Cとねじ部材41との連結機構は、例えば、軸線方向には移動可能であるが、回転方向には回り止めされるように構成することができる。この場合は、例えばスプライン嵌合や多角形柱による嵌合(非円形嵌合)等の公知の技術が用いられる。なお、減速機としては、例えば、遊星歯車減速機やウォーム歯車減速機等が用いられてもよい。また、ウォーム歯車減速機等、逆作動性のない(不可逆性の)公知の減速機を用いる場合は、回転直動変換機構40として、ボールねじやボールランプ機構等、可逆性のある公知の機構を用いることができる。この場合は、例えば、可逆性の回転直動変換機構と不可逆性の減速機とにより押圧部材保持機構を構成することができる。
図1ないし図3に示す駐車ブレーキスイッチ18が制動側に操作(制動ON操作)されたときには、駐車ブレーキ制御装置19を介して電動モータ43Bに給電され、電動アクチュエータ43の出力軸43Cが回転される。このため、回転直動変換機構40のねじ部材41は、一方向に出力軸43Cと一体に回転され、直動部材42を介してピストン39をディスクロータ4側に推進(駆動)する。これにより、ディスクブレーキ31は、ディスクロータ4をインナ側およびアウタ側のブレーキパッド33間で挟持し、電動式の駐車ブレーキとして制動力を付与した状態、即ち、アプライ状態または保持状態となる。
一方、駐車ブレーキスイッチ18が制動解除側に操作(制動OFF操作)されたときには、電動アクチュエータ43により回転直動変換機構40のねじ部材41が他方向(逆方向)に回転駆動される。これにより、直動部材42(および液圧付加がなければピストン39)は、ディスクロータ4から離れる方向に駆動され、ディスクブレーキ31は、駐車ブレーキとしての制動力の付与が解除された状態、即ち、解除状態(リリース状態)となる。
この場合、回転直動変換機構40では、ねじ部材41が直動部材42に対して相対回転されるとき、ピストン39内での直動部材42の回転が規制されているため、直動部材42は、ねじ部材41の回転角度に応じて軸線方向に相対移動する。これにより、回転直動変換機構40は、回転運動を直線運動に変換し、直動部材42によりピストン39が推進される。また、これと共に、回転直動変換機構40は、直動部材42を任意の位置でねじ部材41との摩擦力によって保持することにより、ピストン39およびブレーキパッド33を電動アクチュエータ43により推進された位置に保持する。
シリンダ部36の隔壁部36Aには、該隔壁部36Aとねじ部材41のフランジ部41Aとの間にスラスト軸受44が設けられている。このスラスト軸受44は、隔壁部36Aと共にねじ部材41からのスラスト荷重を受け、隔壁部36Aに対するねじ部材41の回転を円滑にする。また、シリンダ部36の隔壁部36Aには、電動アクチュエータ43の出力軸43Cとの間にシール部材45が設けられ、該シール部材45は、シリンダ部36内のブレーキ液が電動アクチュエータ43側に漏洩するのを阻止するように両者の間をシールしている。
また、シリンダ部36の開口端側には、該シリンダ部36とピストン39との間をシールする弾性シールとしてのピストンシール46と、シリンダ部36内への異物侵入を防ぐダストブーツ47とが設けられている。ダストブーツ47は、可撓性を有した蛇腹状のシール部材であり、シリンダ部36の開口端とピストン39の蓋部39A側の外周との間に取付けられている。
なお、前輪2用のディスクブレーキ5は、駐車ブレーキ機構を除いて、後輪3用のディスクブレーキ31とほぼ同様に構成されている。即ち、前輪2用のディスクブレーキ5は、後輪3用のディスクブレーキ31が備える、駐車ブレーキとして作動する回転直動変換機構40および電動アクチュエータ43等を備えていない。しかし、ディスクブレーキ5に代えて、前輪2用に電動駐車ブレーキ機能付のディスクブレーキ31が設けられてもよい。
また、実施形態では、電動アクチュエータ43を有する液圧式のディスクブレーキ31を例に挙げて説明した。しかし、例えば、電動キャリパを有する電動式ディスクブレーキ、電動アクチュエータによりシューをドラムに押付けて制動力を付与する電動式ドラムブレーキ、電動ドラム式の駐車ブレーキを有するディスクブレーキ、電動アクチュエータでケーブルを引っ張ることにより駐車ブレーキをアプライ作動させる構成等、電動アクチューエータ(電動モータ)の駆動に基づいて制動部材(パッド、シュー)を被制動部材(ロータ、ドラム)に押圧(推進)し、その押圧力を保持させることができるブレーキ機構であれば、その構成は、上述の実施形態のブレーキ機構でなくともよい。
次に、電動アクチュエータ43を用いてディスクブレーキ31を制御する駐車ブレーキ制御装置19について、図3を参照しつつ説明する。
制御装置としての駐車ブレーキ制御装置19は、左,右一対のディスクブレーキ31と共に電動ブレーキシステムを構成する。駐車ブレーキ制御装置19は、マイクロコンピュータ等によって構成される演算回路(CPU)20を有し、駐車ブレーキ制御装置19には、バッテリ14からの電力が電源ライン15を通じて給電される。
駐車ブレーキ制御装置19は、ディスクブレーキ31の電動モータ43Bを制御し、車両の駐車、停車時、走行時に制動力(駐車ブレーキ、補助ブレーキ)を発生させる。即ち、駐車ブレーキ制御装置19は、電動モータ43Bを駆動することにより、ディスクブレーキ31を駐車ブレーキおよび補助ブレーキとして作動(アプライ・リリース)させる。このために、図1ないし図3に示すように、駐車ブレーキ制御装置19は、入力側が駐車ブレーキスイッチ18に接続され、出力側はディスクブレーキ31の電動モータ43Bに接続されている。
駐車ブレーキ制御装置19は、運転者の駐車ブレーキスイッチ18の操作による作動要求(アプライ要求、リリース要求)、駐車ブレーキのアプライ・リリースの判断ロジックによる作動要求、ABS制御による作動要求に基づいて、電動モータ43Bを駆動し、ディスクブレーキ31のアプライ(保持)またはリリース(解除)を行う。このとき、ディスクブレーキ31では、電動モータ43Bの駆動に基づいて、押圧部材保持機構(回転直動変換機構40)によるピストン39およびブレーキパッド33の保持または解除が行われる。
図3に示すように、駐車ブレーキ制御装置19の演算回路(CPU)20には、メモリ(記憶部)21に加えて、駐車ブレーキスイッチ18、車両データバス16、電圧センサ部22、モータ駆動回路23、電流センサ部24等が接続されている。車両データバス16からは、駐車ブレーキの制御(作動)に必要な車両の各種状態量、即ち、各種車両情報を取得することができる。
なお、車両データバス16から取得する車両情報は、その情報を検出するセンサを駐車ブレーキ制御装置19(の演算回路20)に直接接続することにより取得する構成としてもよい。また、駐車ブレーキ制御装置19の演算回路20は、車両データバス16に接続された他の制御装置(例えばコントロールユニット13)から前述の判断ロジックやABS制御に基づく作動要求が入力されるように構成してもよい。この場合は、前述の判断ロジックによる駐車ブレーキのアプライ・リリースの判定やABSの制御を、駐車ブレーキ制御装置19に代えて、他の制御装置、例えばコントロールユニット13で行う構成とすることができる。即ち、コントロールユニット13に駐車ブレーキ制御装置19の制御内容を統合することが可能である。
駐車ブレーキ制御装置19は、例えばフラッシュメモリ、ROM、RAM、EEPROM等からなるメモリ21を備えている。メモリ21には、前述の駐車ブレーキのアプライ・リリースの判断ロジックやABSの制御のプログラムに加え、図4に示す動的駐車ブレーキの処理フローを実行するための処理プログラム等が格納されている。また、メモリ21には、動的駐車ブレーキの処理プログラムで用いる各種の計算式、係数(車速判定用の設定値等)等も格納されている。そして、駐車ブレーキ制御装置19は、低速走行状態でABS制御を行う低速走行状態ABS制御部と、高速走行状態でABS制御を行う高速走行状態ABS制御部とを備えている。
なお、実施形態では、駐車ブレーキ制御装置19をESC11のコントロールユニット13と別体としたが、駐車ブレーキ制御装置19をコントロールユニット13と一体に構成してもよい。また、駐車ブレーキ制御装置19は、左,右で2つのディスクブレーキ31を制御するようにしているが、左,右のディスクブレーキ31毎に設けるようにしてもよく、この場合には、駐車ブレーキ制御装置19をディスクブレーキ31に一体的に設けることもできる。
駐車ブレーキ制御装置19は、駐車ブレーキスイッチ18が制動ON操作されたときに、車両の状態に応じて、ディスクブレーキ31に対して静的制御(静的駐車ブレーキ)と動的制御(動的駐車ブレーキ)とを行う。静的制御は、車両が停止中に駐車ブレーキスイッチ18が制動ON操作された場合に行われるものである。この静的制御では、例えば駐車ブレーキスイッチ18を引き上げ操作すると、ディスクブレーキ31に車両が停車するための制動力を発生させる。
一方、動的制御は、車両が走行中に駐車ブレーキスイッチ18が制動ON操作された場合に行われるものである。この動的制御では、例えば駐車ブレーキスイッチ18を引き上げ続けているときにはディスクブレーキ31に徐々に制動力を発生させ、駐車ブレーキスイッチ18から手を離したときにはディスクブレーキ31の制動力を解除するものである。
図3に示すように、駐車ブレーキ制御装置19には、電源ライン15からの電圧を検出する電圧センサ部22、左,右の電動モータ43B,43Bをそれぞれ駆動する左,右のモータ駆動回路23,23、左,右の電動モータ43B,43Bのそれぞれのモータ電流を検出する左,右の電流センサ部24,24等が内蔵されている。これら電圧センサ部22、モータ駆動回路23、電流センサ部24は、それぞれ演算回路20に接続されている。
これにより、駐車ブレーキ制御装置19の演算回路20では、アプライまたはリリースを行うときに、電流センサ部24,24により検出される電動モータ43Bのモータ電流の変化に基づいて、ディスクロータ4とブレーキパッド33との当接・離接の判定、電動モータ43Bの駆動の停止の判定(アプライ完了の判定、リリース完了の判定)等を行うことができる。
実施形態による4輪自動車の電動ブレーキシステムは、上述の如き構成を有するもので、次に、その作動について説明する。
車両の運転者がブレーキペダル6を踏込み操作すると、その踏力が倍力装置7を介してマスタシリンダ8に伝達され、マスタシリンダ8によってブレーキ液圧が発生する。マスタシリンダ8内で発生した液圧は、シリンダ側液圧配管10A,10B、ESC11およびブレーキ側配管部12A,12B,12C,12Dを介して各ディスクブレーキ5,31に分配され、左,右の前輪2と左,右の後輪3とにそれぞれ制動力が付与される。
このときの後輪3用のディスクブレーキ31の具体的な動作について説明する。キャリパ34のシリンダ部36内にブレーキ側配管部12C,12Dを介して液圧が供給され、シリンダ部36内の液圧上昇に従ってピストン39がインナ側のブレーキパッド33に向けて摺動的に変位する。これにより、ピストン39は、インナ側のブレーキパッド33をディスクロータ4の一側面に対して押圧する。このときの反力によって、キャリパ34全体が取付部材32の前記各腕部に対してインナ側に摺動的に変位する。
この結果、キャリパ34のアウタ脚部(爪部38)は、アウタ側のブレーキパッド33をディスクロータ4に対して押圧するように動作し、ディスクロータ4は、一対のブレーキパッド33によって軸線方向の両側から挟持される。それによって、液圧に基づく制動力が発生される。一方、ブレーキ操作が解除されたときには、シリンダ部36内への液圧供給が停止されることにより、ピストン39がシリンダ部36内へと後退するように変位する。これによって、インナ側とアウタ側のブレーキパッド33がディスクロータ4からそれぞれ離間し、車両は非制動状態に戻される。
次に、車両の停止中に、運転者が駐車ブレーキスイッチ18を制動側(オン)に操作(制動ON操作)したときには、駐車ブレーキ制御装置19からディスクブレーキ31の電動モータ43Bに給電が行われ、電動アクチュエータ43の出力軸43Cが回転駆動される。電動駐車ブレーキ機能付のディスクブレーキ31は、電動アクチュエータ43の回転運動を回転直動変換機構40のねじ部材41を介して直動部材42の直線運動に変換し、直動部材42を軸線方向に移動させてピストン39を推進する。これにより、一対のブレーキパッド33がディスクロータ4の両面に対して押圧される。
このとき、直動部材42は、ピストン39から伝達される押圧反力を垂直抗力とした、ねじ部材41との間に発生する摩擦力(保持力)により制動状態に保持され、後輪3用のディスクブレーキ31は、駐車ブレーキとして作動(アプライ)される。即ち、電動モータ43Bへの給電を停止した後にも、直動部材42の雌ねじとねじ部材41の雄ねじとにより、直動部材42(ひいては、ピストン39)は制動位置に保持される。
一方、運転者が駐車ブレーキスイッチ18を制動解除側(オフ)に操作(制動OFF操作)したときには、駐車ブレーキ制御装置19から電動モータ43Bに対してモータが逆転するように給電され、電動アクチュエータ43の出力軸43Cは、駐車ブレーキの作動時(アプライ時)と逆方向に回転される。このとき、ねじ部材41と直動部材42とによる制動力の保持が解除され、回転直動変換機構40は、電動アクチュエータ43の逆回転の量に対応した移動量で直動部材42を戻り方向に、即ち、シリンダ部36内へと移動させ、駐車ブレーキ(ディスクブレーキ31)の制動力を解除する。
ところで、車両の走行中に、例えばブレーキペダル6の固着、倍力装置7の故障、液圧(油圧)の喪失等が生じた場合等では、サービスブレーキが十分に機能しなくなる。このとき、運転者が車両を停止(緊急停止)させるべく、駐車ブレーキスイッチ18を操作すると、電動アクチュエータ43によってディスクブレーキ31を作動させることができる。この場合、車両が走行中で、かつ、左,右方向の両方の後輪3が非ロック状態であるときに、運転者が駐車ブレーキスイッチ18を制動ON操作すると、駐車ブレーキ制御装置19は、動的駐車ブレーキの制御処理として、後述の緊急停止制御の処理を行う。
以下、駐車ブレーキ制御装置19で行われる緊急停止制御の処理について、図4を参照しつつ説明する。
なお、図4の処理は、駐車ブレーキ制御装置19に通電している間、所定時間毎に(所定の制御周期で)繰り返し実行される。また、上述では、緊急停止制御の処理の開始条件の一例として、車両が走行中であること、両輪非ロック状態であること、駐車ブレーキスイッチ18を制動ON操作したことの3条件を挙げた。しかし、本発明はこれに限らず、両輪非ロック状態の条件を省いてもよい。即ち、車両の走行中に駐車ブレーキスイッチ18を制動ON操作すると、両輪非ロック状態か否かに拘らず、緊急停止制御の処理を開始してもよい。
図4の処理動作がスタートすると、演算回路20は、S1で、車両が走行中であるか否かを判定する。この走行中であるか否かの判定は、例えば車両データバス16から取得した車輪速度や車速に基づいて行うことができる。
なお、走行中であるか否かの判定は、アクセルペダルが操作されているか否かの判定、クラッチペダルが操作されているか否かの判定、シフトレバーがP、N(ニュートラル)以外に操作されているか否かの判定と組み合わせて行うこともできる。
S1で「YES」、即ち車両が走行状態であると判定された場合は、S2に進む。一方、S1で「NO」、即ち車両が走行状態でない(停車状態)と判定された場合は、動的制御から静的制御に切り換わるため、そのままリターンする。
S2では、緊急停止制御要求の有無を判断する。この判定は、運転者が駐車ブレーキスイッチ18を制動ON操作しているか否かにより行うことができる。S2で「YES」、即ち緊急停止制御要求ありと判定された場合には、S3に進む。一方、S2で「NO」、即ち緊急停止制御要求なしと判定された場合には、S13に進む。
S3では、左,右のブレーキ装置(ディスクブレーキ31)の両方が緊急停止制御を実施中であるかを判断する。この判定は、後述のS4、S11、S12でのフラグにより判断する。S3で「NO」、即ち左,右のブレーキ装置の両方が緊急停止制御を実施していない、または、左,右のいずれかのブレーキ装置が緊急停止制御を実施していない場合、S4に進む。一方、S3で「YES」、即ち左,右のブレーキ装置の両方が緊急停止制御を実施している場合、S5に進む。
S4では、左,右のブレーキ装置の両方に対し緊急停止制御を実施する。そして、左,右両輪共アプライ制御を実施する。このとき、左,右のブレーキ装置の両方が緊急停止制御を実施中であるフラグを立てる。
S5では、左後輪3がスリップしているか否かを判定する。この判定は、例えば車両データバス16から取得した車輪速センサからの信号等に基づいて行うことができる。具体的な一例としては、左後輪3の回転が設定された減速度を超えて低下したか否かによって、左後輪3がスリップ状態か否かを判定することができる。S5で「NO」、即ち左後輪3が非スリップ状態と判定された場合は、S7に進む。一方、S5で「YES」、即ち左後輪3がスリップ状態と判定された場合には、S6に進む。次のS6では、スリップ状態である左後輪3のディスクブレーキ31をリリース状態にするために、左後輪3のディスクブレーキ31に対して緊急停止解除許可(フラグを立てる)を行い、次のS7に進む。
S7では、右後輪3がスリップしているか否かを判定する。この判定は、S5と同様に、例えば車両データバス16から取得した車輪速センサからの信号等に基づいて行うことができる。S7で「NO」、即ち右後輪3が非スリップ状態と判定された場合は、S9に進む。一方、S7で「YES」、即ち右後輪3がスリップ状態と判定された場合には、S8に進む。次のS8では、スリップ状態である右後輪3のディスクブレーキ31をリリース状態にするために、右後輪3のディスクブレーキ31に対して緊急停止解除許可(フラグを立てる)を行い、次のS9に進む。
S9では、左,右いずれも緊急停止解除が不許可か否かを判定する。S9で「YES」、即ち左,右のディスクブレーキ31はいずれも緊急停止解除が許可されていない場合には、アプライ状態または制動力の保持状態を継続するために、そのままリターンする。
一方、S9で「NO」、即ち左,右のディスクブレーキ31のうち少なくともいずれか一方で緊急停止解除が許可されている場合には、S10に進み、車体速度が設定値未満か否かを判定する。この判定は、例えば車両データバス16から取得した車速センサからの信号等に基づいて行う。また、設定値は、車両が高速走行状態か低速走行状態かを判定する所定値としての速度しきい値であり、例えば60km/h程度に設定されている。車体速度を判定するための設定値は、上述の値に限らず、車両の仕様等に応じて適宜設定される。
S10で「YES」、即ち車速が設定値未満であると判定された場合には、S11に進む。この場合、車両が低速走行状態で、アプライ要求信号が出力されている。このため、S11では、駐車ブレーキ制御装置19は、左,右のディスクブレーキ31を独立してアンチロック制御する。具体的には、駐車ブレーキ制御装置19は、左,右のディスクブレーキ31のうちS5(S6),S7(S8)で緊急停止解除が許可されたディスクブレーキ31を、リリース状態にする。一方、駐車ブレーキ制御装置19は、左,右のディスクブレーキ31のうちS5(S6),S7(S8)で緊急停止解除が許可されなかったディスクブレーキ31を、非リリース状態として、アプライ状態または制動力の保持状態を継続させる。
これにより、駐車ブレーキ制御装置19は、左,右の後輪3のうちいずれか一方がスリップ状態となったときには、スリップ状態となった一方の後輪3(例えば左後輪3)のディスクブレーキ31がリリース状態となり、非スリップ状態となった他方の後輪3(例えば右後輪3)のディスクブレーキ31が非リリース状態となるように、左側のディスクブレーキ31の電動アクチュエータ43と右側のディスクブレーキ31の電動アクチュエータ43とを制御する。このため、S1,S5〜S8,S10,S11は、車両の低速走行状態におけるアンチロック制御を行う低速走行状態ABS制御部の具体例を示している。そして、S11では、一方の車輪のみ緊急停止制御を実施中であるというS3の判定で用いられるフラグを立てる。
一方、S10で「NO」、即ち車速が設定値未満でなく、車速が設定値以上と判定された場合には、S12に進み、左,右両方のディスクブレーキ31を、リリース状態にする。この場合、車両が高速走行状態で、アプライ要求信号が出力されると共に、左,右の後輪3のうちいずれか一方がスリップ状態となっている。このため、S12では、駐車ブレーキ制御装置19は、左,右のディスクブレーキ31を一緒にアンチロック制御する。具体的には、左,右のディスクブレーキ31のうちS5(S6),S7(S8)で緊急停止解除が許可されたディスクブレーキ31が存在するときには、左,右のディスクブレーキ31をいずれもリリース状態にする。
これにより、駐車ブレーキ制御装置19は、左,右の後輪3のうちいずれか一方がスリップ状態となったときには、左,右のディスクブレーキ31がいずれもリリース状態となるように、左側のディスクブレーキ31の電動アクチュエータ43と右側のディスクブレーキ31の電動アクチュエータ43とを制御する。このため、S1,S5〜S8,S10,S12は、車両の高速走行状態におけるアンチロック制御を行う高速走行状態ABS制御部の具体例を示している。そして、S12では、左,右のブレーキ装置の両方の車輪が緊急停止制御を実施していないというS3の判定で用いられるフラグを立てる。
S2で「NO」、即ち緊急停止制御要求なしと判定された場合には、S13に進む。S13では、緊急停止制御が実施中かを判断する。この判断は、S4,S11,S12でのフラグにより判断する。
S13で「NO」、即ち緊急停止制御が実施中ではないと判定されるとリターンする。また、S13で「YES」、即ち緊急停止制御が実施中と判定されると、S14に進む。S14では、緊急停止制御要求はないが、緊急停止制御を実施しているので、この実施を中止し、左,右両方のブレーキ装置の緊急停止制御を解除し、リターンする。
かくして、本実施形態によれば、車両が低速走行状態でアプライ要求信号があったときには、駐車ブレーキ制御装置19は、左,右のディスクブレーキ31を独立してアンチロック制御する。換言すれば、車速が所定値未満であり、制動要求信号に応じてブレーキ装置を動作させる場合であって、左,右のうちの第1の車輪がスリップした場合、該第1の車輪に対してリリース制御を行うと共に、左,右のうちの第2の車輪に対してはリリース制御を行わないようにしている。このため、駐車ブレーキ制御装置19は、車両が低速走行状態でアプライ要求信号があったときには、左,右の後輪3のうちいずれか一方がスリップ状態となったときに、スリップ状態となった一方の車輪のディスクブレーキ31がリリース状態となり、非スリップ状態となった他方の車輪のディスクブレーキ31が非リリース状態となるように、左側のディスクブレーキ31の電動アクチュエータ43と右側のディスクブレーキ31の電動アクチュエータ43とを制御する。この結果、非スリップ状態となった他方の車輪にディスクブレーキ31によって制動力を付加することができるから、車両の制動距離を短くすることができる。
一方、例えばアンチロック制御によって一方の後輪3だけで制動力(ブレーキ力)を抜いたときには、他方の後輪3の制動力だけが付加されて、車両にヨーモーメントが発生する。このヨーモーメントが車両の高速走行状態で発生すると、車両が不安定になる傾向がある。
これに対し、本実施形態では、車両が高速走行状態でアプライ要求信号があったときには、駐車ブレーキ制御装置19は、左,右のディスクブレーキ31を一緒にアンチロック制御する。換言すれば、車速が所定値以上であり、制動要求信号に応じてブレーキ装置を動作させる場合であって、左,右のうちの第1の車輪がスリップした場合、該第1の車輪に対してリリース制御を行うと共に、左,右のうちの第2の車輪に対してもリリース制御を行うようにしている。このため、駐車ブレーキ制御装置19は、車両が高速走行状態でアプライ要求信号があったときには、左,右の後輪3のうち少なくともいずれか一方がスリップ状態となったときに、左,右のディスクブレーキ31がいずれもリリース状態となるように、左側のディスクブレーキ31の電動アクチュエータ43と右側のディスクブレーキ31の電動アクチュエータ43とを制御する。この結果、動的駐車ブレーキによるアンチロック制御で、高速走行時に片方の車輪だけがスリップした場合でも、車両に発生するヨーモーメントを抑制することができ、車両の安定性を確保することができる。
なお、動的駐車ブレーキのアプライ動作およびリリース動作について説明すると、駐車ブレーキ制御装置19は、車両が走行状態では、アプライ要求信号に応じて、左,右のディスクブレーキ31を一緒のタイミング(同じタイミング)で動作させる。即ち、駐車ブレーキ制御装置19は、車両が走行状態でアプライ要求信号が出力されたときには、左,右のディスクブレーキ31を同じタイミングでアプライ動作させるように、左側のディスクブレーキ31の電動アクチュエータ43と右側のディスクブレーキ31の電動アクチュエータ43とを制御する。同様に、駐車ブレーキ制御装置19は、車両が走行状態でアプライ要求信号の出力が停止されたとき、またはリリース要求信号が出力されたときには、左,右のディスクブレーキ31を同じタイミングでリリース動作させるように、左側のディスクブレーキ31の電動アクチュエータ43と右側のディスクブレーキ31の電動アクチュエータ43とを制御する。これにより、左,右のディスクブレーキ31が略同じタイミングでアプライ動作およびリリース動作するから、左,右での制動力の偏りを抑制して、車両の安定性を確保することができる。
一方、静的駐車ブレーキのアプライ動作およびリリース動作について説明すると、駐車ブレーキ制御装置19は、車両が停車状態では、アプライ要求信号に応じて、左,右のディスクブレーキ31を異なるタイミングで動作させる。即ち、駐車ブレーキ制御装置19は、車両が停車状態でアプライ要求信号が出力されたときには、左,右のディスクブレーキ31を異なるタイミングでアプライ動作させるように、左側のディスクブレーキ31の電動アクチュエータ43と右側のディスクブレーキ31の電動アクチュエータ43とを制御する。同様に、駐車ブレーキ制御装置19は、車両が停車状態でリリース要求信号が出力されたときには、左,右のディスクブレーキ31を異なるタイミングでリリース動作させるように、左側のディスクブレーキ31の電動アクチュエータ43と右側のディスクブレーキ31の電動アクチュエータ43とを制御する。これにより、電動アクチュエータ43を始動させるときの突入電流を、左,右で異なるタイミングで発生させることができ、バッテリ14等の負荷を軽減することができる。
上述した実施形態では、駐車ブレーキスイッチ18は、引き上げ操作が制動ON操作になり、押し下げ操作が制動OFF操作になるものを例に挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限らず、例えば駐車ブレーキスイッチは、押し込み操作が制動ON操作になり、引き出し操作が制動OFF操作になるものでもよい。制動ON操作、制動OFF操作の具体的な態様は、車両の仕様等に応じて適宜設定されるものである。
上述した実施形態では、左,右の後輪側ブレーキを電動駐車ブレーキ機能付のディスクブレーキ31とした場合を例に挙げて説明した。しかし、これに限らず、例えば、左,右の前輪側ブレーキを電動駐車ブレーキ機能付のディスクブレーキとしてもよく、全ての車輪(4輪全て)のブレーキを電動駐車ブレーキ機能付のディスクブレーキにより構成してもよい。即ち、車両の少なくとも一対の車輪のブレーキを、電動駐車ブレーキ機能付のディスクブレーキにより構成することができる。
上述した実施形態では、電動駐車ブレーキ付の液圧式ディスクブレーキ31を例に挙げて説明した。しかし、これに限らず、例えば液圧の供給が不要の電動式ディスクブレーキにより構成してもよい。また、ディスクブレーキ式のブレーキ装置に限らず、例えば、ドラムブレーキ式のブレーキ装置として構成してもよいものである。さらに、例えば、ディスクブレーキにドラム式の電動駐車ブレーキを設けたドラムインディスクブレーキによりブレーキ装置を構成してもよく、電動モータでケーブルを引っ張ることにより駐車ブレーキの保持を行うブレーキ装置でもよく、ブレーキ装置は各種のものを採用することができる。この場合に、例えば、液圧の供給が不要な電動式のブレーキ機構を採用した場合は、制御装置は、車両に制動力を常用ブレーキとして与える(ブレーキペダルの操作等によるアプライ要求に基づいて電動モータを駆動する)構成とすることができる。
2 前輪(車輪)
3 後輪(車輪)
4 ディスクロータ(回転部材)
6 ブレーキペダル
18 駐車ブレーキスイッチ
19 駐車ブレーキ制御装置(制御装置)
31 ディスクブレーキ(ブレーキ装置)
33 ブレーキパッド(摩擦部材)
39 ピストン
43 電動アクチュエータ(電動機構)

Claims (3)

  1. 車輪と共に回転する回転部材に摩擦部材を押圧するピストンを推進すると共に、制動要求信号に応じて電動機構により前記摩擦部材を前記回転部材に押圧して前記摩擦部材の押圧力の保持も可能なブレーキ装置が車両の左,右に少なくとも一対設けられ、
    前記各ブレーキ装置の電動機構を制御する制御装置と、を有し、
    前記制御装置は、
    車両が低速走行状態で前記制動要求信号に応じて前記ブレーキ装置を動作させるときには、前記左,右のブレーキ装置を独立してアンチロック制御し、
    前記車両が前記低速走行状態より高速の高速走行状態で前記制動要求信号に応じて前記ブレーキ装置を動作させるときには、前記左,右のブレーキ装置を一緒にアンチロック制御し、前記左,右の車輪のうち少なくともいずれか一方がスリップ状態となったときに、前記左,右のブレーキ装置がいずれもリリース状態となるように、前記左,右のブレーキ装置の電動機構を制御することを特徴とする電動ブレーキシステム。
  2. 前記制御装置は、車両が前記低速走行状態で前記制動要求信号に応じて前記ブレーキ装置を動作させるときには、前記左,右の車輪のうちいずれか一方がスリップ状態となったときに、スリップ状態となった一方の車輪のブレーキ装置がリリース状態となり、非スリップ状態となった他方の車輪のブレーキ装置が非リリース状態となるように、前記左,右のブレーキ装置の電動機構を制御する請求項1に記載の電動ブレーキシステム。
  3. 車輪と共に回転する回転部材に摩擦部材を押圧するピストンを推進すると共に、制動要求信号に応じて電動機構により前記摩擦部材を前記回転部材に押圧して前記摩擦部材の押圧力の保持も可能なブレーキ装置が車両の左,右に少なくとも一対設けられ、
    前記各ブレーキ装置の電動機構を制御する制御装置と、を有し、
    前記制御装置は、
    車速が所定値未満であり、前記制動要求信号に応じて前記ブレーキ装置を動作させる場合であって、前記左,右のうちの第1の車輪がスリップした場合、該第1の車輪に対してリリース制御を行うと共に、前記左,右のうちの第2の車輪に対してはリリース制御を行わず、
    車速が所定値以上であり、前記制動要求信号に応じて前記ブレーキ装置を動作させる場合であって、前記左,右のうちの第1の車輪がスリップした場合、該第1の車輪に対してリリース制御を行うと共に、前記左,右のうちの第2の車輪に対してもリリース制御を行う、電動ブレーキシステム。
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