以下、車両用制動装置の一実施形態について、図1〜図11を参照して説明する。
図1には、本実施形態の車両用制動装置としての制動装置10と、常用制動装置20とが図示されている。図1に示すように、制動装置10は、駐車制動装置30と、駐車制動装置30の作動を制御する制動制御装置11とを備えている。左右の両後輪RL,RRの各々に対しては、駐車制動装置30を構成する電動制動機構31L,31Rが設けられている。また、左右の両前輪の各々に対しては制動機構が設けられている。
電動制動機構31L,31R及び前輪用の制動機構は、車輪と一体回転する回転体22と、回転体22の車両幅方向の両側に配置される一対の摩擦材23A,23Bと、ホイールシリンダ25とをそれぞれ備えている。そして、ホイールシリンダ25内の液圧を増大させることで、回転体22に摩擦材23A,23Bを押し付ける力である押圧力、すなわち回転体22に対する押圧力が大きくなる。これにより、押圧力に相当する制動力が車輪と路面との間で発生する。なお、本実施形態では、このように車輪と路面との間で発生する制動力のことを「車輪で発生する制動力」という。
常用制動装置20は、ブレーキペダル91が駆動連結されている液圧発生装置21と、液圧発生装置21と各ホイールシリンダ25との間に配置されている制動アクチュエータ28とを有している。車両の運転者によってブレーキペダル91が操作されると、液圧発生装置21からは、ブレーキペダル91の操作量に応じた量のブレーキ液が各ホイールシリンダ25内に供給される。制動アクチュエータ28は、液圧発生装置21に設けられているマスタ室21Aとホイールシリンダ25との間に差圧を発生させるべく作動するようになっている。
図2に示すように、電動制動機構31L,31Rには、回転体22に近づく方向及び回転体22から離れる方向に相対移動可能な状態で摩擦材23A,23Bを支持するキャリパ24が設けられている。摩擦材23A,23Bのうち摩擦材23Aは、回転体22よりも車両幅方向内側に位置している。キャリパ24における摩擦材23Aよりも車両幅方向内側には、ホイールシリンダ25が設けられている。ホイールシリンダ25は、車両幅方向内側が底部25Aによって閉塞され、車両幅方向外側が開口する有底略円筒形状をなしている。ホイールシリンダ25の開口はピストン27によって閉塞されており、ホイールシリンダ25及びピストン27によってシリンダ室26が区画形成されている。ピストン27は、車両幅方向外側が閉塞され、車両幅方向内側が開口する有底略筒状をなしており、ホイールシリンダ25内を車両幅方向に摺動可能である。そして、ピストン27の車両幅方向外側における端部に、摩擦材23Aが配設されている。
ホイールシリンダ25のシリンダ室26には、常用制動装置20からブレーキ液が供給される。ブレーキ液が供給されてシリンダ室26の液圧が高くなり、ピストン27が図中左側である車両幅方向外側に遷移するように摺動する。そして、摩擦材23A,23Bが回転体22に接近して回転体22に摩擦材23A,23Bが押し付けられる。一方、シリンダ室26の液圧が低くなり、ピストン27が図中右側である車両幅方向内側に遷移するように摺動すると、ピストン27による摩擦材23A,23Bの押圧が解消され、摩擦材23A,23Bが回転体22から離間する。
また、電動制動機構31L,31Rには、出力軸34を正逆両方向に回転させることのできる電動モータ33が設けられている。電動モータ33は、駆動源である電源32に接続されている。電源32としては、例えば車両のバッテリを挙げることができる。また、電動制動機構31L,31Rは、車両幅方向に延伸している電動モータ33の出力軸34に固定されている第1ギヤ35と、第1ギヤ35と噛み合うように配設されている第2ギヤ36と、出力軸34と平行に配置されているロッド部材37とを有している。各ギヤ35,36は、ホイールシリンダ25の外側にそれぞれ配置されている。ロッド部材37は、ホイールシリンダ25の底部25Aを車両幅方向に貫通しているとともに、回転が可能な状態で底部25Aに支持されている。そして、ロッド部材37のうちのホイールシリンダ25の外側に位置する部分に第2ギヤ36が一体回転可能に固定されている。なお、第1ギヤ35及び第2ギヤ36は、電動モータ33の出力軸34の回転速度を減速してロッド部材37に出力するようにそれぞれ構成されている。
ロッド部材37の車両幅方向内側における端部、すなわちロッド部材37のうちのシリンダ室26内に位置する端部には、ナット38が取り付けられている。ナット38は、シリンダ室26内、より具体的にはピストン27の内側に配置されている。ナット38の内周面には雌ねじ加工が施されている。また、ロッド部材37においてホイールシリンダ25内に位置する部位の周面には雄ねじ加工が施されており、ナット38はロッド部材37に螺合されている。そのため、電動モータ33の駆動によってロッド部材37が回転することで、ナット38が車両幅方向の一方側又は他方側に移動する。すなわち、ロッド部材37及びナット38によって、電動モータ33の回転運動が直線運動に変換されてピストン27に伝達される。そして、こうした電動モータ33の駆動に起因する電動制動機構31L,31Rの作動によって、摩擦材23Aを回転体22に押し付ける力である押圧力を発生させ、後輪RL,RRと路面との間に制動力を発生させることができる。
次に、図1及び図2を参照し、制動制御装置11について説明する。
制動制御装置11には、車両の各車輪(左右の両後輪RL,RR及び左右の両前輪)に各個対応する四つの車輪速度センサ101〜104が電気的に接続されている。車輪速度センサ101,102は、対応する後輪RL,RRの回転角速度である車輪速度VWL,VWRに応じた信号を制動制御装置11に出力する。車輪速度センサ103,104は、対応する左右の前輪の回転角速度である車輪速度に応じた信号を制動制御装置11に出力する。
制動制御装置11には、ブレーキペダル91の操作量を検出する操作量センサ92と、車室に設けられている操作部93とが電気的に接続されている。操作部93は、駐車制動装置30の作動によって後輪RL,RRで制動力を発生させる際にオン操作される一方、駐車制動装置30の作動によって後輪RL,RRで制動力が発生している状態を解除する際にオフ操作されるものである。そして、操作部93は、オン操作されたときにオン操作信号を制動制御装置11に出力し、オフ操作されたときにはオフ操作信号を制動制御装置11に出力する。
制動制御装置11には、車両の旋回方向への回転角の変化速度であるヨーレートYrを検出するヨーレートセンサ105が電気的に接続されている。
また、制動制御装置11は、機能部として、制動制御部12とアンチロック制御部13と路面判定部14と車輪監視部15とを有している。
制動制御部12は、操作部93からオン操作信号が入力されたときには、各電動制動機構31L,31Rを作動させて後輪RL,RRで制動力を発生させる駐車制動処理を実行する。すなわち、操作部93からオン操作信号が入力されることが「制動要求」に該当する。一方、制動制御部12は、操作部93からオフ操作信号が入力されたときには、各電動制動機構31L,31Rを作動させることで、後輪RL,RRで制動力が発生している状態を解除する駐車制動解除処理を実行する。なお、制動制御部12は、常用制動装置20で異常が発生しており、後輪RL,RR用のホイールシリンダ25内にブレーキ液が供給できない可能性がある場合、ブレーキペダル91の操作量を基に、後輪RL,RRで制動力を発生させるべく電動制動機構31L,31Rを作動させることがある。このように常用制動装置20に異常が発生している場合、ブレーキペダル91が操作されることが「制動要求」に該当する。
アンチロック制御部13は、後述するアンチロック制御と、スピン復帰制御とを実行する。アンチロック制御及びスピン復帰制御は、電動制動機構31L,31Rを作動させて、後輪RL,RRと一体回転する回転体22に対する押圧力を減少する押圧力減少処理と、当該押圧力を増大する押圧力増大処理とを繰り返し実行する制御である。
なお、アンチロック制御部13には、後述するアンチロック制御及びスピン復帰制御に用いられる第1遅延時間PT1と第2遅延時間PT2と増大時遅延時間PTIとが記憶されている。
車輪監視部15は、車輪速度センサ101〜104から検出される各車輪の車輪速度に基づいて、車体速度を算出する。例えば、車輪監視部15は、各車輪の車輪速度のうち最も大きい値を車体速度とすることができる。また、車輪監視部15は、車輪速度と車体速度とに基づいて各車輪のスリップ率(=(車体速度−車輪速度)/車体速度)を算出して記憶する。
路面判定部14は、左後輪RLのスリップ率SLPLと右後輪RRのスリップ率SLPRとに基づいて、車両が走行中の路面がスプリット路面であるか否かを判定する。スプリット路面とは、車両の右輪が接地する路面の摩擦係数と、車両の左輪が接地する路面の摩擦係数との差が大きいような路面のことである。具体的には、路面判定部14は、左右の両後輪RL,RRで制動力が発生している状況下でスリップ率SLPLとスリップ率SLPRとの差の絶対値であるスリップ率差ΔSLPが、路面判定値ΔSLPAよりも大きい場合に、スプリット路面を走行中であると判定する。すなわち、左右の車輪のスリップ率が大きく異なる場合に、走行中の路面がスプリット路面であると判定される。なお、路面がスプリット路面であるか否かの判定の精度は、左後輪RLと一体回転する回転体22に対する押圧力と右後輪RRと一体回転する回転体22に対する押圧力との差分が小さいほど高い。
次に、図3を参照して、アンチロック制御又はスピン復帰制御に先立って実行される事前判定処理の実行のために制動制御装置11で実行される処理ルーチンについて説明する。この処理ルーチンは、駐車制動処理の実行によって各後輪RL,RRで制動力が発生しているときに実行される。
図3に示すように、本処理ルーチンが実行されると、まずステップS11において、各車輪速度センサ101〜104によって車輪速度の検出が可能であるか否かの判定が行われる。車輪速度センサ101〜104に異常が発生したり、車輪速度センサ101〜104と制動制御装置11とを繋ぐ信号線が断線したりすると、制動制御装置11に車輪速度センサ101〜104から信号が入力されなくなる。このように信号が入力されなくなると、制動制御装置11では、車輪速度及び車体速度を算出できない、すなわちスリップ率SLPL,SLPRを算出できない。そこで、車輪速度の検出が可能ではない場合(S11:NO)、処理がステップS12に移行される。ステップS12では、スピン復帰制御実施フラグにオンがセットされる。このスピン復帰制御実施フラグは、後述するアンチロック制御の実行を禁止し、且つ、スピン復帰制御の実行を許可する際にはオンがセットされる。その後、本処理ルーチンが終了される。一方、車輪速度の検出が可能である場合(S11:YES)、処理がステップS13に移行される。
ステップS13では、車両が走行している路面がスプリット路面であるか否かの判定が路面判定部14によって行われる。スプリット路面ではないと判定された場合(S13:NO)、処理がステップS14に移行される。ステップS14では、均一路面フラグにオンがセットされる。均一路面フラグは、車両の走行する路面がスプリット路面ではない状況下、すなわち路面が均一路面である状況下でのアンチロック制御の実行を許可する際にオンがセットされる。その後、本処理ルーチンが終了される。なお、均一路面とは、車両の右輪が接地する路面の摩擦係数と、車両の左輪が接地する路面の摩擦係数との差が小さい路面のことである。
一方、ステップS13において、スプリット路面であると判定された場合(S13:YES)、処理がステップS15に移行される。ステップS15では、スプリット路面フラグにオンがセットされる。スプリット路面フラグは、車両の走行する路面がスプリット路面である状況下でのアンチロック制御の実行を許可する際にオンがセットされる。その後、本処理ルーチンが終了される。
なお、スピン復帰制御実施フラグと均一路面フラグとスプリット路面フラグは、例えば車両が停止したときにオフにされる。
次に、図4及び図5を参照して、スプリット路面を走行中にアンチロック制御を実行するために制動制御装置11で実行される処理ルーチンについて説明する。これらの処理ルーチンは、アンチロック制御部13によって実行される。
まず始めに、図4の処理ルーチンについて説明する。この処理ルーチンは、後述する減少処理実行済フラグにオフがセットされている間、所定の制御サイクル毎に繰り返し実行される。
図4に示すように、本処理ルーチンが実行されると、まずステップS101において、スプリット路面フラグにオンがセットされているか否かが判定される。スプリット路面フラグにオンがセットされていない場合(S101:NO)、本処理ルーチンが一旦終了される。一方、スプリット路面フラグにオンがセットされている場合(S101:YES)、処理がステップS102に移行される。ステップS102では、左後輪RLのスリップ率SLPL又は右後輪RRのスリップ率SLPRがスリップ判定値KVS以上であるか否かが判定される。スリップ判定値KVSは、車輪がロック傾向を示しているか否かの判断基準として設定されている。例えば、スリップ判定値KVSは、制動アクチュエータ28を作動させるアンチロックブレーキ制御を実行する場合に車輪がロック傾向を示しているか否かの判断基準となる判定値と同じ値であってもよいし、同判定値よりも小さい値であってもよい。
左後輪RLのスリップ率SLPLと右後輪RRのスリップ率SLPRがいずれもスリップ判定値KVSよりも低い場合(S102:NO)、本処理ルーチンが一旦終了される。一方、左後輪RLのスリップ率SLPLと右後輪RRのスリップ率SLPRのいずれか一方でもスリップ判定値KVS以上である場合(S102:YES)、処理がステップS103に移行される。
ステップS103では、右後輪RRのスリップ率SLPRが左後輪RLのスリップ率SLPL以上であるか否かが判定される。すなわち、スリップ率SLPRとスリップ率SLPLのどちらが高いかが判定される。スリップ率SLPRがスリップ率SLPLよりも低い場合(S103:NO)、処理がステップS104に移行される。ステップS104では、右後輪RRと一体回転する回転体22に対する押圧力を減少させるべく電動制動機構31Rの電動モータ33を駆動する右後輪RR用の押圧力減少処理の実行が開始され、処理がステップS105に移行される。ステップS105では、右後輪RR用の押圧力減少処理の実行が開始されてから第1遅延時間PT1が経過したか否かが判定される。第1遅延時間PT1が経過していない場合(S105:NO)、ステップS105の処理が繰り返し実行される。一方、第1遅延時間PT1が経過した場合(S105:YES)、処理がステップS106に移行される。ステップS106では、左後輪RLと一体回転する回転体22に対する押圧力を減少させるべく電動制動機構31Lの電動モータ33を駆動する左後輪RL用の押圧力減少処理の実行が開始され、処理がステップS110に移行される。
一方、ステップS103において、スリップ率SLPRがスリップ率SLPL以上である場合(S103:YES)には、処理がステップS107に移行される。ステップS107では、左後輪RLと一体回転する回転体22に対する押圧力を減少させるべく電動制動機構31Lの電動モータ33を駆動する左後輪RL用の押圧力減少処理の実行が開始され、処理がステップS108に移行される。ステップS108では、左後輪RL用の押圧力減少処理の実行が開始されてから第1遅延時間PT1が経過したか否かが判定される。第1遅延時間PT1が経過していない場合(S108:NO)、ステップS108の処理が繰り返し実行される。一方、第1遅延時間PT1が経過した場合(S108:YES)、処理がステップS109に移行される。ステップS109では、右後輪RRと一体回転する回転体22に対する押圧力を減少させるべく電動制動機構31Rの電動モータ33を駆動する右後輪RR用の押圧力減少処理の実行が開始され、処理がステップS110に移行される。
ステップS110では、各電動制動機構31L,31Rの電動モータ33の駆動が停止したか否かが判定される。押圧力減少処理の実行、すなわち電動モータ33の駆動は、押圧力減少処理の終了条件が成立するまで継続される。そのため、両電動制動機構31L,31Rの少なくとも一方で終了条件が未だ成立していない場合(S110:NO)、ステップS110の処理が繰り返し実行される。一方、両電動制動機構31L,31Rで終了条件が成立した場合(S110:YES)、処理がステップS111に移行される。なお、本実施形態では、押圧力減少処理の終了条件は、回転体22に押圧力が付与されなくなること、すなわち回転体22から摩擦材23A,23Bが離間することである。
ステップS111では、減少処理実行済フラグにオンがセットされる。その後、本処理ルーチンが一旦終了される。
なお、本処理ルーチンでは、スリップ率SLPLがスリップ率SLPRよりも高い場合、左後輪RLがスリップ率の高い後輪に該当し、右後輪RRがスリップ率の低い後輪に該当する。そのため、スリップ率SLPLがスリップ率SLPRよりも高い場合、ステップS104で実行が開始される右後輪RR用の押圧力減少処理が、「第1の減少処理」に相当し、ステップS106で実行が開始される左後輪RL用の押圧力減少処理が、「第2の減少処理」に相当する。反対に、スリップ率SLPRがスリップ率SLPLよりも高い場合、ステップS107で実行が開始される左後輪RL用の押圧力減少処理が、「第1の減少処理」に相当し、ステップS109で実行が開始される右後輪RR用の押圧力減少処理が、「第2の減少処理」に相当する。すなわち、スプリット路面を走行中に実行されるアンチロック制御では、各後輪RL,RRで発生する制動力を減少させる場合、第1の減少処理の実行が開始され、その後、第2の減少処理の実行が開始される。
第1遅延時間PT1は、両電動制動機構31L,31Rのうち、一方の電動制動機構31の電動モータ33の起動に対して他方の電動制動機構の電動モータ33の起動を遅らせるために設定された値である。すなわち、第1遅延時間PT1は「規定時間」に相当する。本実施形態では、電動モータ33を駆動させて回転体22に対する押圧力を減少させるに際し、電動モータ33の起動時に発生する突入電流の発生期間が実験によって予め求められている。そして、この発生期間の時間的な長さが第1遅延時間PT1としてアンチロック制御部13に記憶されている。なお、第1遅延時間PT1は、「第1の減少処理」の実行開始から実行終了までの時間よりも短い。
次いで、図5の処理ルーチンについて説明する。この処理ルーチンは、図4の処理ルーチンが実行されていない間、所定の制御サイクル毎に繰り返し実行される。
図5に示すように、本処理ルーチンが実行されると、まずステップS121において、スプリット路面フラグにオンがセットされているか否かが判定される。スプリット路面フラグにオンがセットされていない場合(S121:NO)、本処理ルーチンが一旦終了される。一方、スプリット路面フラグにオンがセットされている場合(S121:YES)、処理がステップS122に移行される。ステップS122では、減少処理実行済フラグにオンがセットされているか否かが判定される。減少処理実行済フラグにオンがセットされていない場合(S122:NO)、本処理ルーチンが一旦終了される。一方、減少処理実行済フラグにオンがセットされている場合(S122:YES)、処理がステップS123に移行される。
ここで、左右の両後輪RL,RRで発生する制動力を減少させるべく実行される図4に示す処理ルーチンの前回の実行時において、ステップS103の判定で用いられた左後輪RLのスリップ率SLPLを「左後輪RLの前回のスリップ率SLPL」といい、ステップS103の判定で用いられた右後輪RRのスリップ率SLPRを「右後輪RRの前回のスリップ率SLPR」というものとする。
ステップS123では、右後輪RRの前回のスリップ率SLPRが左後輪RLの前回のスリップ率SLPL以上であるか否かが判定される。すなわち、前回のスリップ率SLPRと前回のスリップ率SLPLのどちらが高いかが判定される。前回のスリップ率SLPRが前回のスリップ率SLPLよりも低い場合(S123:NO)、処理がステップS124に移行される。ステップS124では、左後輪RLと一体回転する回転体22に対する押圧力を増大させるべく電動制動機構31Lの電動モータ33を駆動する左後輪RL用の押圧力増大処理の実行が開始され、処理がステップS125に移行される。ステップS125では、左後輪RL用の押圧力増大処理の実行が開始されてから増大時遅延時間PTIが経過したか否かが判定される。増大時遅延時間PTIが経過していない場合(S125:NO)、ステップS125の処理が繰り返し実行される。一方、増大時遅延時間PTIが経過した場合(S125:YES)、処理がステップS126に移行される。ステップS126では、右後輪RRと一体回転する回転体22に対する押圧力を増大させるべく電動制動機構31Rの電動モータ33を駆動する右後輪RR用の押圧力増大処理の実行が開始され、処理がステップS130に移行される。
一方、ステップS123において、前回のスリップ率SLPRが前回のスリップ率SLPL以上である場合(S123:YES)には、処理がステップS127に移行される。ステップS127では、右後輪RRと一体回転する回転体22に対する押圧力を増大させるべく電動制動機構31Rの電動モータ33を駆動する右後輪RR用の押圧力増大処理の実行が開始され、処理がステップS128に移行される。ステップS128では、右後輪RR用の押圧力増大処理の実行が開始されてから増大時遅延時間PTIが経過したか否かが判定される。増大時遅延時間PTIが経過していない場合(S128:NO)、ステップS128の処理が繰り返し実行される。一方、増大時遅延時間PTIが経過した場合(S128:YES)、処理がステップS129に移行される。ステップS129では、左後輪RLと一体回転する回転体22に対する押圧力を増大させるべく電動制動機構31Lの電動モータ33を駆動する左後輪RL用の押圧力増大処理の実行が開始され、処理がステップS130に移行される。
ステップS130では、減少処理実行済フラグにオフがセットされる。その後、本処理ルーチンが一旦終了される。
なお、本処理ルーチンでは、前回のスリップ率SLPLが前回のスリップ率SLPRよりも高い場合、左後輪RLが第2の減少処理の実行対象である後輪に該当し、右後輪RRが第1の減少処理の実行対象である後輪に該当する。そのため、前回のスリップ率SLPLが前回のスリップ率SLPRよりも高い場合、ステップS124で実行が開始される左後輪RL用の押圧力増大処理が、「第2の増大処理」に相当し、ステップS126で実行が開始される右後輪RR用の押圧力増大処理が、「第1の増大処理」に相当する。反対に、前回のスリップ率SLPRが前回のスリップ率SLPLよりも高い場合、左後輪RLが第1の減少処理の実行対象である後輪に該当し、右後輪RRが第2の減少処理の実行対象である後輪に該当する。そのため、前回のスリップ率SLPRが前回のスリップ率SLPLよりも高い場合、ステップS127で実行が開始される右後輪RR用の押圧力増大処理が、「第2の増大処理」に相当し、ステップS129で実行が開始される左後輪RL用の押圧力増大処理が、「第1の増大処理」に相当する。すなわち、スプリット路面を走行中に実行されるアンチロック制御では、各後輪RL,RRで発生する制動力を増大させる場合、第2の増大処理の実行が開始され、その後、第1の増大処理の実行が開始される。
増大時遅延時間PTIは、両電動制動機構31L,31Rのうち、一方の電動制動機構31の電動モータ33の起動に対して他方の電動制動機構の電動モータ33の起動を遅らせるために設定された値である。本実施形態では、電動モータ33を駆動させて回転体22に対する押圧力を増大させるに際し、電動モータ33の起動時に発生する突入電流の発生期間が実験によって予め求められている。そして、この発生期間の時間的な長さが増大時遅延時間PTIとしてアンチロック制御部13に記憶されている。なお、増大時遅延時間PTIは、「第2の増大処理」の実行開始から実行終了までの時間よりも短い。
次に、図6及び図7を参照して、均一路面を走行中である場合、すなわちスプリット路面ではない路面を走行中にアンチロック制御を実行するために、制動制御装置11で実行される処理ルーチンについて説明する。これらの処理ルーチンは、アンチロック制御部13によって実行される。
まず始めに、図6の処理ルーチンについて説明する。この処理ルーチンは、後述する減少処理実行済フラグにオフがセットされている間、所定の制御サイクル毎に繰り返し実行される。
図6に示すように、本処理ルーチンが実行されると、まずステップS201において、均一路面フラグにオンがセットされているか否かが判定される。均一路面フラグにオンがセットされていない場合(S201:NO)、本処理ルーチンが一旦終了される。一方、均一路面フラグにオンがセットされている場合(S201:YES)、処理がステップS202に移行される。ステップS202では、左後輪RLのスリップ率SLPL又は右後輪RRのスリップ率SLPRがスリップ判定値KVS以上であるか否かが判定される。
左後輪RLのスリップ率SLPLと右後輪RRのスリップ率SLPRがいずれもスリップ判定値KVSよりも低い場合(S202:NO)、本処理ルーチンが一旦終了される。一方、左後輪RLのスリップ率SLPLと右後輪RRのスリップ率SLPRのいずれか一方でもスリップ判定値KVS以上である場合(S202:YES)、処理がステップS203に移行される。
ステップS203では、右後輪RRのスリップ率SLPRが左後輪RLのスリップ率SLPL以上であるか否かが判定される。すなわち、スリップ率SLPRとスリップ率SLPLのどちらが高いかが判定される。スリップ率SLPRがスリップ率SLPLよりも低い場合(S203:NO)、処理がステップS204に移行される。ステップS204では、左後輪RLと一体回転する回転体22に対する押圧力を減少させるべく電動制動機構31Lの電動モータ33を駆動する左後輪RL用の押圧力減少処理の実行が開始され、処理がステップS205に移行される。ステップS205では、左後輪RL用の押圧力減少処理の実行が開始されてから第2遅延時間PT2が経過したか否かが判定される。第2遅延時間PT2が経過していない場合(S205:NO)、ステップS205の処理が繰り返し実行される。一方、第2遅延時間PT2が経過した場合(S205:YES)、処理がステップS206に移行される。ステップS206では、右後輪RRと一体回転する回転体22に対する押圧力を減少させるべく電動制動機構31Rの電動モータ33を駆動する右後輪RR用の押圧力減少処理の実行が開始され、処理がステップS210に移行される。
一方、ステップS203において、スリップ率SLPRがスリップ率SLPL以上である場合(S203:YES)には、処理がステップS207に移行される。ステップS207では、右後輪RRと一体回転する回転体22に対する押圧力を減少させるべく電動制動機構31Rの電動モータ33を駆動する右後輪RR用の押圧力減少処理の実行が開始され、処理がステップS208に移行される。ステップS208では、右後輪RR用の押圧力減少処理の実行が開始されてから第2遅延時間PT2が経過したか否かが判定される。第2遅延時間PT2が経過していない場合(S208:NO)、ステップS208の処理が繰り返し実行される。一方、第2遅延時間PT2が経過した場合(S208:YES)、処理がステップS209に移行される。ステップS209では、左後輪RLと一体回転する回転体22に対する押圧力を減少させるべく電動制動機構31Lの電動モータ33を駆動する左後輪RL用の押圧力減少処理の実行が開始され、処理がステップS210に移行される。
ステップS210では、各電動制動機構31L,31Rの電動モータ33の駆動が停止したか否かが判定される。押圧力減少処理の実行、すなわち電動モータ33の駆動は、上記の押圧力減少処理の終了条件が成立するまで継続される。そのため、両電動制動機構31L,31Rの少なくとも一方で終了条件が未だ成立していない場合(S210:NO)、ステップS210の処理が繰り返し実行される。一方、両電動制動機構31L,31Rで終了条件が成立した場合(S210:YES)、処理がステップS211に移行される。
ステップS211では、減少処理実行済フラグにオンがセットされる。その後、本処理ルーチンが一旦終了される。
なお、本処理ルーチンでは、スリップ率SLPLがスリップ率SLPRよりも高い場合、左後輪RLがスリップ率の高い後輪に該当し、右後輪RRがスリップ率の低い後輪に該当する。そのため、スリップ率SLPLがスリップ率SLPRよりも高い場合、ステップS204で実行が開始される左後輪RL用の押圧力減少処理が、「第2の減少処理」に相当し、ステップS206で実行が開始される右後輪RR用の押圧力減少処理が、「第1の減少処理」に相当する。反対に、スリップ率SLPRがスリップ率SLPLよりも高い場合、ステップS207で実行が開始される右後輪RR用の押圧力減少処理が、「第2の減少処理」に相当し、ステップS209で実行が開始される左後輪RL用の押圧力減少処理が、「第1の減少処理」に相当する。すなわち、均一路面を走行中に実行されるアンチロック制御では、各後輪RL,RRで発生する制動力を減少させる場合、第2の減少処理の実行が開始され、その後、第1の減少処理の実行が開始される。
第2遅延時間PT2は、両電動制動機構31L,31Rのうち、一方の電動制動機構31の電動モータ33の起動に対して他方の電動制動機構の電動モータ33の起動を遅らせるために設定された値である。本実施形態では、電動モータ33を駆動させて回転体22に対する押圧力を減少させるに際し、電動モータ33の起動時に発生する突入電流の発生期間が実験によって予め求められている。そして、この発生期間の時間的な長さが第2遅延時間PT2としてアンチロック制御部13に記憶されている。なお、第2遅延時間PT2は、「第2の減少処理」の実行開始から実行終了までの時間よりも短い。
次いで、図7の処理ルーチンについて説明する。この処理ルーチンは、図6の処理ルーチンが実行されていない間、所定の制御サイクル毎に繰り返し実行される。
図7に示すように、本処理ルーチンが実行されると、まずステップS221において、均一路面フラグにオンがセットされているか否かが判定される。均一路面フラグにオンがセットされていない場合(S221:NO)、本処理ルーチンが一旦終了される。一方、均一路面フラグにオンがセットされている場合(S221:YES)、処理がステップS222に移行される。ステップS222では、減少処理実行済フラグにオンがセットされているか否かが判定される。減少処理実行済フラグにオンがセットされていない場合(S222:NO)、本処理ルーチンが一旦終了される。一方、減少処理実行済フラグにオンがセットされている場合(S222:YES)、処理がステップS223に移行される。
ここで、左右の両後輪RL,RRで発生する制動力を減少させるべく実行される図6に示す処理ルーチンの前回の実行時において、ステップS203の判定で用いられた左後輪RLのスリップ率SLPLを「左後輪RLの前回のスリップ率SLPL」といい、ステップS203の判定で用いられた右後輪RRのスリップ率SLPRを「右後輪RRの前回のスリップ率SLPR」というものとする。
ステップS223では、右後輪RRの前回のスリップ率SLPRが左後輪RLの前回のスリップ率SLPL以上であるか否かが判定される。すなわち、前回のスリップ率SLPRと前回のスリップ率SLPLのどちらが高いかが判定される。前回のスリップ率SLPRが前回のスリップ率SLPLよりも低い場合(S223:NO)、処理がステップS224に移行される。ステップS224では、右後輪RRと一体回転する回転体22に対する押圧力を増大させるべく電動制動機構31Rの電動モータ33を駆動する右後輪RR用の押圧力増大処理の実行が開始され、処理がステップS225に移行される。ステップS225では、右後輪RR用の押圧力増大処理の実行が開始されてから増大時遅延時間PTIが経過したか否かが判定される。増大時遅延時間PTIが経過していない場合(S225:NO)、ステップS225の処理が繰り返し実行される。一方、増大時遅延時間PTIが経過した場合(S225:YES)、処理がステップS226に移行される。ステップS226では、左後輪RLと一体回転する回転体22に対する押圧力を増大させるべく電動制動機構31Lの電動モータ33を駆動する左後輪RL用の押圧力増大処理の実行が開始され、処理がステップS230に移行される。
一方、ステップS223において、前回のスリップ率SLPRが前回のスリップ率SLPL以上である場合(S223:YES)には、処理がステップS227に移行される。ステップS227では、左後輪RLと一体回転する回転体22に対する押圧力を増大させるべく電動制動機構31Lの電動モータ33を駆動する左後輪RL用の押圧力増大処理の実行が開始され、処理がステップS228に移行される。ステップS228では、左後輪RL用の押圧力増大処理の実行が開始されてから増大時遅延時間PTIが経過したか否かが判定される。増大時遅延時間PTIが経過していない場合(S228:NO)、ステップS228の処理が繰り返し実行される。一方、増大時遅延時間PTIが経過した場合(S228:YES)、処理がステップS229に移行される。ステップS229では、右後輪RRと一体回転する回転体22に対する押圧力を増大させるべく電動制動機構31Rの電動モータ33を駆動する右後輪RR用の押圧力増大処理の実行が開始され、処理がステップS230に移行される。
ステップS230では、減少処理実行済フラグにオフがセットされる。その後、本処理ルーチンが一旦終了される。
なお、本処理ルーチンでは、前回のスリップ率SLPLが前回のスリップ率SLPRよりも高い場合、左後輪RLが第2の減少処理の実行対象である後輪に該当し、右後輪RRが第1の減少処理の実行対象である後輪に該当する。そのため、前回のスリップ率SLPLが前回のスリップ率SLPRよりも高い場合、ステップS224で実行が開始される右後輪RR用の押圧力増大処理が、「第1の増大処理」に相当し、ステップS226で実行が開始される左後輪RL用の押圧力増大処理が、「第2の増大処理」に相当する。反対に、前回のスリップ率SLPRが前回のスリップ率SLPLよりも高い場合、左後輪RLが第1の減少処理の実行対象である後輪に該当し、右後輪RRが第2の減少処理の実行対象である後輪に該当する。そのため、前回のスリップ率SLPRが前回のスリップ率SLPLよりも高い場合、ステップS227で実行が開始される左後輪RL用の押圧力増大処理が、「第1の増大処理」に相当し、ステップS229で実行が開始される右後輪RR用の押圧力増大処理が、「第2の増大処理」に相当する。すなわち、均一路面を走行中に実行されるアンチロック制御では、各後輪RL,RRで発生する制動力を増大させる場合、第1の増大処理の実行が開始され、その後、第2の増大処理の実行が開始される。
増大時遅延時間PTIは、両電動制動機構31L,31Rのうち、一方の電動制動機構31の電動モータ33の起動に対して他方の電動制動機構の電動モータ33の起動を遅らせるために設定された値である。本実施形態では、電動モータ33を駆動させて回転体22に対する押圧力を増大させるに際し、電動モータ33の起動時に発生する突入電流の発生期間が実験によって予め求められている。そして、この発生期間の時間的な長さが増大時遅延時間PTIとしてアンチロック制御部13に記憶されている。なお、増大時遅延時間PTIは、「第1の増大処理」の実行開始から実行終了までの時間よりも短い。
次に、図8及び図9を参照して、スピン復帰制御を実行するために制動制御装置11で実行される処理ルーチンについて説明する。これらの処理ルーチンは、アンチロック制御部13によって実行される。
まず始めに、図8の処理ルーチンについて説明する。この処理ルーチンは、所定の制御サイクル毎に繰り返し実行される。
図8に示すように、本処理ルーチンが実行されると、まずステップS301において、スピン復帰制御実施フラグにオンがセットされているか否かが判定される。スピン復帰制御実施フラグにオンがセットされていない場合(S301:NO)、本処理ルーチンが一旦終了される。一方、スピン復帰制御実施フラグにオンがセットされている場合(S301:YES)、処理がステップS302に移行される。ステップS302では、ヨーレートセンサ105によって検出されるヨーレートYrに基づいて車両のスピンが検出されたか否かが判定される。ヨーレートYrが規定値よりも大きい場合に、車両がスピンしていると判定し、スピンを検出する。スピンが検出されなかった場合(S302:NO)、本処理ルーチンが一旦終了される。一方、スピンが検出された場合(S302:YES)、処理がステップS303に移行される。なお、スピンが検出された場合には、スピン履歴としてアンチロック制御部13に記憶される。
ステップS303では、スピンしている車両の偏向方向が右偏向であるか否かが判定される。右偏向ではない場合(S303:NO)、処理がステップS304に移行される。ステップS304では、左後輪RLと一体回転する回転体22に対する押圧力を減少させるべく電動制動機構31Lの電動モータ33を駆動する左後輪RL用の押圧力減少処理の実行が開始され、処理がステップS305に移行される。ステップS305では、待機終了条件が成立したか否かが判定される。待機終了条件は、左後輪RL用の押圧力減少処理の実行が開始されてから偏向待機時間が経過することと、左後輪RL用の押圧力減少処理の実行が開始されてからのヨーレートYrの変化量が所定の変化量以上になったこととの双方を含んでいる。待機終了条件が成立していない場合(S305:NO)、ステップS305の処理が繰り返し実行される。一方、待機終了条件が成立した場合(S305:YES)、処理がステップS306に移行される。ステップS306では、右後輪RRと一体回転する回転体22に対する押圧力を減少させるべく電動制動機構31Rの電動モータ33を駆動する右後輪RR用の押圧力減少処理の実行が開始される。その後、本処理ルーチンが一旦終了される。
一方、ステップS303において、スピンしている車両の偏向方向が右偏向である場合(S303:YES)には、処理がステップS307に移行される。ステップS307では、右後輪RRと一体回転する回転体22に対する押圧力を減少させるべく電動制動機構31Rの電動モータ33を駆動する右後輪RR用の押圧力減少処理の実行が開始され、処理がステップS308に移行される。ステップS308では、待機終了条件が成立したか否かが判定される。待機終了条件は、右後輪RR用の押圧力減少処理の実行が開始されてから偏向待機時間が経過することと、右後輪RR用の押圧力減少処理の実行が開始されてからのヨーレートYrの変化量が所定の変化量以上になったこととの双方を含んでいる。待機終了条件が成立していない場合(S308:NO)、ステップS308の処理が繰り返し実行される。一方、待機終了条件が成立した場合(S308:YES)、処理がステップS309に移行される。ステップS309では、左後輪RLと一体回転する回転体22に対する押圧力を減少させるべく電動制動機構31Lの電動モータ33を駆動する左後輪RL用の押圧力減少処理の実行が開始される。その後、本処理ルーチンが一旦終了される。
次いで、図9の処理ルーチンについて説明する。この処理ルーチンは、図8に示す処理ルーチンが実行されていない間、所定の制御サイクル毎に繰り返し実行される。
図9に示すように、本処理ルーチンが実行されると、まずステップS311において、スピン復帰制御実施フラグにオンがセットされているか否かが判定される。スピン復帰制御実施フラグにオンがセットされていない場合(S311:NO)、本処理ルーチンが一旦終了される。一方、スピン復帰制御実施フラグにオンがセットされている場合(S311:YES)、処理がステップS312に移行される。ステップS312では、ヨーレートセンサ105によって検出されるヨーレートYrに基づいて車両のスピンが検出されたか否かが判定される。スピンが検出された場合(S312:NO)、本処理ルーチンが一旦終了される。一方、スピンが検出されていない場合(S312:YES)、処理がステップS313に移行される。
ステップS313では、図3に示す処理ルーチンのステップS12の処理によってスピン復帰制御実施フラグにオンがセットされた以降において、車両がスピンした履歴があるか否かが判定される。スピン履歴がない場合(S313:NO)、本処理ルーチンが一旦終了される。一方、スピン履歴がある場合(S313:YES)、処理がステップS314に移行される。
ここで、左右の両後輪RL,RRで発生する制動力を減少させるべく実行される図8に示す処理ルーチンの前回の実行時において、ステップS303の処理において判定された車両の偏向方向を「前回偏向方向」という。
ステップS314では、前回偏向方向が右偏向であるか否かが判定される。前回偏向方向が右偏向ではない場合(S314:NO)、処理がステップS315に移行される。ステップS315では、右後輪RRと一体回転する回転体22に対する押圧力を増大させるべく電動制動機構31Rの電動モータ33を駆動する右後輪RR用の押圧力増大処理の実行が開始され、処理がステップS316に移行される。ステップS316では、右後輪RR用の押圧力増大処理の実行が開始されてから偏向待機時間が経過したか否かが判定される。偏向待機時間が経過していない場合(S316:NO)、ステップS316の処理が繰り返し実行される。一方、偏向待機時間が経過した場合(S316:YES)、処理がステップS317に移行される。ステップS317では、左後輪RLと一体回転する回転体22に対する押圧力を増大させるべく電動制動機構31Lの電動モータ33を駆動する左後輪RL用の押圧力増大処理の実行が開始される。その後、本処理ルーチンが一旦終了される。
一方、ステップS314において、前回偏向方向が右偏向である場合(S314:YES)には、処理がステップS318に移行される。ステップS318では、左後輪RLと一体回転する回転体22に対する押圧力を増大させるべく電動制動機構31Lの電動モータ33を駆動する左後輪RL用の押圧力増大処理の実行が開始され、処理がステップS319に移行される。ステップS319では、左後輪RL用の押圧力増大処理の実行が開始されてから偏向待機時間が経過したか否かが判定される。偏向待機時間が経過していない場合(S319:NO)、ステップS319の処理が繰り返し実行される。一方、偏向待機時間が経過した場合(S319:YES)、処理がステップS320に移行される。ステップS320では、右後輪RRと一体回転する回転体22に対する押圧力を増大させるべく電動制動機構31Rの電動モータ33を駆動する右後輪RR用の押圧力増大処理の実行が開始される。その後、本処理ルーチンが一旦終了される。
次に本実施形態にかかる制動装置10の作用とともに、その効果について説明する。
図10には、制動装置10によって図4に示す処理ルーチンが実行されることによってアンチロック制御の押圧力減少処理が行われる際の、すなわちスプリット路面を車両が走行しているときにおけるアンチロック制御の押圧力減少処理が行われる際の、電動制動機構31L,31Rにおける各電動モータ33の電流値Imtを示している。このアンチロック制御では、まず第1の減少処理の実行が開始され、第1遅延時間PT1の経過後に第2の減少処理の実行が開始される。第1遅延時間PT1には、図10におけるタイミングt1からタイミングt3までの時間と等しい期間が設定されている。
図10の(a)には、電動制動機構31L,31Rのうち第1の減少処理の実行によって作動される一方の電動制動機構31が備える電動モータ33の電流値を示している。タイミングt1では、当該一方の電動モータ33が起動される。この起動に伴って突入電流が発生する。タイミングt1から発生した突入電流は、タイミングt2においてピーク値PImt1に達する。その後、突入電流は降下し、タイミングt3において当該突入電流の発生期間TM1が終了する。タイミングt3以降では、回転体22に対する押圧力が低下するために電流値Imtが徐々に低下する。そして、タイミングt6で当該押圧力が「0」と等しくなるため、電流値Imtが規定電流値TImt1に達する。すると、タイミングt6以降では、回転体22から摩擦材23A,23Bが離れるため、電流値Imtが規定電流値TImt1に維持される。その後のタイミングt8で押圧力減少処理の実行が終了されるため、電動モータ33の駆動が停止される。
図10の(b)には、電動制動機構31L,31Rのうち第2の減少処理の実行によって作動される他方の電動制動機構31が備える電動モータ33の電流値を示している。当該他方の電動モータ33は、タイミングt3から起動される。この起動に伴って突入電流が発生する。タイミングt3から発生した突入電流は、タイミングt4においてピーク値PImt2に達する。その後、突入電流は降下し、タイミングt5において当該突入電流の発生期間が終了する。タイミングt5以降では、回転体22に対する押圧力が低下するために電流値Imtが徐々に低下する。そして、タイミングt7で当該押圧力が「0」と等しくなるため、電流値Imtが規定電流値TImt2に達する。すると、タイミングt7以降では、回転体22から摩擦材23A,23Bが離れるため、電流値Imtが規定電流値TImt2に維持される。その後のタイミングt9で押圧力減少処理の実行が終了されるため、電動モータ33の駆動が停止される。
図10の(a)に示したように、第1の減少処理の実行が開始されることによって発生する突入電流の発生期間TM1は、タイミングt1からタイミングt3までの期間である。そして、第1の減少処理の実行が開始されてから第1遅延時間PT1の経過後に第2の減少処理の実行が開始される。このため、第1の減少処理の実行開始に伴って発生する突入電流がピーク値PImt1に達する時期(タイミングt2)と、第2の減少処理の実行開始に伴って発生する突入電流がピーク値PImt2に達する時期(タイミングt4)と、が重なることを抑制できる。
図11には、制動装置10で図5に示す処理ルーチンが実行されることによってアンチロック制御の押圧力増大処理が行われる際の、すなわちスプリット路面を車両が走行しているときにおけるアンチロック制御の押圧力増大処理が行われる際の、電動制動機構31L,31Rにおける各電動モータ33の電流値Imtを示している。このアンチロック制御では、まず第2の増大処理の実行が開始され、増大時遅延時間PTIの経過後に第1の増大処理の実行が開始される。増大時遅延時間PTIには、図11におけるタイミングt11からタイミングt13までの時間と等しい期間が設定されている。
図11の(a)には、電動制動機構31L,31Rのうち第1の増大処理の実行によって作動される一方の電動制動機構31が備える電動モータ33の電流値を示している。タイミングt13では、当該一方の電動モータ33が起動される。この起動に伴って突入電流が発生する。タイミングt13から発生した突入電流は、タイミングt14においてピーク値PImt3に達する。その後、突入電流は降下し、タイミングt15において当該突入電流の発生期間が終了する。タイミングt15以降において回転体22に摩擦材23A,23Bが未だ接触していない期間では、電流値Imtが一定値に維持される。そしてタイミングt17で回転体22に摩擦材23A,23Bが接触すると、タイミングt17以降では、回転体22に対する押圧力が次第に大きくなるため、電流値Imtが次第に大きくなる。その後、タイミングt19で電流値Imtが規定電流値TImt3に達すると、押圧力増大処理の実行が終了されるため、電動モータ33の駆動が停止される。
図11の(b)には、電動制動機構31L,31Rのうち第2の増大処理の実行によって作動される他方の電動制動機構31が備える電動モータ33の電流値を示している。当該他方の電動モータ33は、タイミングt11から起動される。この起動に伴って突入電流が発生する。タイミングt11から発生した突入電流は、タイミングt12においてピーク値PImt4に達する。その後、突入電流は降下し、タイミングt13において当該突入電流の発生期間TM4が終了する。タイミングt13以降において回転体22に摩擦材23A,23Bが未だ接触していない期間では、電流値Imtが一定値に維持される。そしてタイミングt16で回転体22に摩擦材23A,23Bが接触すると、タイミングt16以降では、回転体22に対する押圧力が次第に大きくなるため、電流値Imtが次第に大きくなる。その後、タイミングt18で電流値Imtが規定電流値TImt4に達すると、押圧力増大処理の実行が終了されるため、電動モータ33の駆動が停止される。
図11の(b)に示したように、第2の増大処理の実行が開始されることによって発生する突入電流の発生期間TM4は、タイミングt11からタイミングt13までの期間である。そして、第2の増大処理の実行が開始されてから増大時遅延時間PTIの経過後に第1の増大処理の実行が開始される。このため、第2の増大処理の実行開始に伴って発生する突入電流がピーク値PImt4に達する時期(タイミングt12)と、第1の増大処理の実行開始に伴って発生する突入電流がピーク値PImt3に達する時期(タイミングt14)と、が重なることを抑制できる。
以上、図10及び図11を参照して説明したように、制動装置10によるアンチロック制御の実行によって押圧力減少処理及び押圧力増大処理が行われる際には、左右の両後輪RL.RRのうち一方の車輪に対応する電動モータ33の起動時に発生する突入電流がピーク値に達する時期と、他方の車輪に対応する電動モータ33の起動時に発生する突入電流がピーク値に達する時期と、が重なることを抑制できる。これによって、アンチロック制御の実行に伴って各電動制動機構31L,31Rが作動されたときに、電動モータ33の電源32に大きな負荷がかかることを抑制できる。
さらに、本実施形態では、第1の減少処理の実行が開始されてから第2の減少処理の実行が開始されるまでの第1遅延時間PT1が、第1の減少処理の実行によって発生する突入電流の発生期間TM1の時間的な長さと等しく設定されている。さらに、第1遅延時間PT1は、第1の減少処理の実行開始から実行終了までの時間よりも短く設定されている。したがって、第1の減少処理の実行によってスリップ率の低い方の車輪で発生する制動力が減少されている最中に、第2の減少処理の実行を開始させることができる。これによって、突入電流の発生時期が重なることを抑制しつつも、スリップ率の高い方の車輪で発生する制動力の減少の開始が過度に遅れることを抑制できる。
また、第2の増大処理の実行が開始されてから第1の増大処理の実行が開始されるまでの増大時遅延時間PTIが、第2の増大処理の実行によって発生する突入電流の発生期間TM4の時間的な長さと等しく設定されている。さらに、増大時遅延時間PTIは、第2の増大処理の実行開始から実行終了までの時間よりも短く設定されている。したがって、第2の増大処理の実行によってスリップ率の高い方の車輪で発生する制動力が増大されている最中に、第1の増大処理の実行を開始させることができる。これによって、突入電流の発生時期が重なることを抑制しつつも、スリップ率の低い方の車輪で発生する制動力の増大の開始が過度に遅れることを抑制できる。
また、図6及び図7に示した処理ルーチンが制動装置10によって実行されることによって行われる、スプリット路面ではない路面を走行中のアンチロック制御においては、第2の減少処理の実行が開始されてから第2遅延時間PT2の経過後に、第1の減少処理の実行が開始される。これによって、スプリット路面を走行中である場合と同様に突入電流の発生時期が重なることを抑制できる。すなわち、スプリット路面ではない路面を走行中である場合も、アンチロック制御の実行に伴って各電動制動機構31L,31Rが作動されたときに、電動モータ33の電源32に大きな負荷がかかることを抑制できる。
さらに、本実施形態では、第2の減少処理の実行が開始されてから第1の減少処理の実行が開始されるまでの第2遅延時間PT2が、第2の減少処理の実行によって発生する突入電流の発生期間の時間的な長さと等しく設定されている。したがって、第2の減少処理の実行によってスリップ率の高い方の車輪で発生する制動力が減少されている最中に、第1の減少処理の実行を開始させることができる。これによって、突入電流の発生時期が重なることを抑制しつつも、スリップ率の低い方の車輪で発生する制動力の減少の開始が過度に遅れることを抑制できる。
ここで、車両が走行している路面がスプリット路面ではあるときには、左右の後輪RL,RRのスリップ率の差が大きくなりやすい。この点、本実施形態によれば、スプリット路面を走行中であると判定されているときに実行されるアンチロック制御では、両後輪RL,RRのうちスリップ率の低い方の車輪を対象とする第1の減少処理が、スリップ率の高い方の車輪を対象とする第2の減少処理よりも先に開始される。その結果、左右の両後輪RL,RRで発生する制動力の差に起因するヨーモーメントが大きくなることを抑制し、車両挙動の安定性の低下を抑制することができる。
一方、車両が走行している路面がスプリット路面ではないときには、左右の後輪RL,RRのスリップ率の差が大きくなりにくい。そのため、このようなときに左右の後輪RL,RRで発生する制動力の差がある程度大きくなっても、車両挙動の安定性は低下しにくい。そこで、本実施形態では、スプリット路面ではない路面を走行中であると判定されているときに実行されるアンチロック制御では、両後輪RL,RRのうちスリップ率の低い方の車輪を対象とする第1の減少処理が、スリップ率の高い方の車輪を対象とする第2の減少処理よりも後に開始される。すなわち、制動力の大きい方の車輪で発生する制動力の減少の開始を遅らせることができる。したがって、路面がスプリット路面ではないときには、車両の減速度の低下を抑制することができる。
さらに、路面がスプリット路面ではないと判定されている場合には、第1の減少処理の実行対象であった車輪を対象とする第1の増大処理が、第2の減少処理の実行対象であった車輪を対象とする第2の増大処理よりも先に開始される。すなわち、制動力を増大させても減速スリップが発生しにくい車輪で発生する制動力が先に増大される。これによって、押圧力増大処理を開始してから、両後輪RL,RRのうちいずれか一方の車輪のスリップ率が再びスリップ率判定値KVS以上に上昇するまでの期間を長くすることができる、すなわち押圧力減少処理が再び実行される時期を遅らせることができる。そのため、アンチロック制御中における車両の減速度を大きくすることができる。
以下では、第1の減少処理の実行対象であった車輪、すなわち一方の車輪のスリップ率がスリップ率KVS判定値以上になったときにおけるスリップ率が低い方の車輪を「前回非スリップ輪」というものとする。そして、第2の減少処理の実行対象であった車輪、すなわち一方の車輪のスリップ率がスリップ率判定値KVS以上になったときにおけるスリップ率が高い方の車輪を「前回スリップ輪」というものとする。
ここで、車両が走行している路面がスプリット路面である場合、前回スリップ輪で発生する制動力を増大させたときに、前回スリップ輪のスリップ率が再び増加しやすい傾向がある。したがって、車両がスプリット路面を走行している場合、前回非スリップ輪を対象とする第1の増大処理を、前回スリップ輪を対象とする第2の増大処理よりも先に開始させてしまうと、左右の両後輪RL,RRに対する制動力の差が大きくなり、当該差に起因するヨーモーメントが大きくなってしまう。すなわち、車両が偏向する虞がある。
この点、本実施形態では、路面がスプリット路面であると判定されている場合には、前回スリップ輪を対象とする第2の増大処理が、前回非スリップ輪を対象とする第1の増大処理よりも先に開始される。これによって、前回非スリップ輪のスリップ率がスリップ率判定値KVS以上になる時期を早めることができ、ひいては左右の両後輪RL,RRで発生する制動力の差が大きくなる前に、第1の減少処理及び第2の減少処理の実行を開始させることができる。したがって、アンチロック制御中における車両挙動の安定性の低下を抑制することができる。
また、スピン復帰制御では、左右の両後輪RL.RRのうちいずれの車輪を対象とする押圧力減少処理を先に実行するかの判定が、ヨーレートYrに基づく車両の偏向方向によって行われる。また、左右の両後輪RL.RRのうちいずれの車輪を対象とする押圧力増大処理を先に実行するかの判定が、押圧力減少処理が前回実行された際の車両の偏向方向に基づいて行われる。これによって、車輪速度センサ101〜104からの信号が制動制御装置11に入力されない場合であっても、車両の挙動の安定性の低下を抑制することができる。
また、スピン復帰制御において左右の両後輪RL,RRで発生する制動力を増大させる場合、後に制動力を減少させた方の車輪用の押圧力増大処理が、先に制動力を減少させた方の車輪用の押圧力増大処理よりも先に開始される。そのため、両後輪RL,RRで発生する制動力を増大させることでヨーモーメントが再び大きくなることを抑制できる。すなわち、両後輪RL,RRで発生する制動力を増大させることに起因する車両の挙動の安定性の低下を抑制することができる。
さらに、スピン復帰制御が実行される場合には、左右の両後輪RL.RRのうち一方の車輪を対象とする押圧力減少処理の実行が開始されてから、待機終了条件の成立後に、他方の車輪を対象とする押圧力減少処理の実行が開始される。また、両後輪RL.RRのうち一方の車輪を対象とする押圧力増大処理の実行が開始されてから、偏向待機時間の経過後に、他方の車輪を対象とする押圧力増大処理の実行が開始される。これによって、突入電流の発生時期が重なることを抑制できる。すなわち、スピン復帰制御の実行に伴って各電動制動機構31L,31Rが作動されたときに、電動モータ33の電源32に大きな負荷がかかることを抑制できる。
なお、上記実施形態は、これを適宜変更した以下の形態にて実施することもできる。
・上記実施形態では、図3に示した事前判定処理によって路面判定フラグ又はスピン復帰制御実施フラグがセットされ、いずれのフラグがオンにセットされているかによって、以降実行される処理ルーチンが異なるように構成した。例えば、スプリット路面フラグにオンがセットされた場合、スプリット路面用の処理ルーチンである図4に示す処理ルーチン及び図5に示す処理ルーチンが実行される一方で、図6に示す処理ルーチン及び図7に示す処理ルーチンと、図8に示す処理ルーチン及び図9に示す処理ルーチンとが実行されない。これに対し、アンチロック制御を実行するに際しては、アンチロック制御の実行中であっても、逐次、路面がスプリット路面であるか否かを判定するようにしてもよい。この場合、アンチロック制御の実行に先立ってスプリット路面フラグにオンがセットされたために図4に示す処理ルーチン及び図5に示す処理ルーチンが実行されているときに、車両の走行する路面がスプリット路面ではなくなると、均一路面フラグにオンがセットされ、スプリット路面フラグにオフがセットされることがある。このように均一路面フラグにオンがセットされた以降では、図4に示す処理ルーチン及び図5に示す処理ルーチンではなく、図6に示す処理ルーチン及び図7に示す処理ルーチンを実行するようにしてもよい。
・電動制動機構は、ブレーキ液を用いずに、回転体に対する押圧力を制御することのできる電動ブレーキであってもよい。この電動ブレーキでは、ブレーキ操作量に応じて電動モータの回転量が制御される。こうした電動ブレーキを有する車両用制動装置であっても、各電動ブレーキの作動によって各後輪RL,RRで制動力が発生している状況下で、いずれか一方の後輪のスリップ率がスリップ判定値KVS以上になったときに、第1の減少処理の実行を開始した後に、第2の減少処理の実行を開始するアンチロック制御を実行するようにしてもよい。
・上記実施形態では、第1遅延時間PT1と第2遅延時間PT2と増大時遅延時間PTIの各遅延時間として、アンチロック制御部13に予め記憶されている値を用いたが、図12に示すように制動制御部12が備える機能部として時間設定部16をさらに有している構成を採用し、時間設定部16によって各遅延時間の算出が行われるように構成することもできる。すなわち、アンチロック制御又はスピン復帰制御が実行されている際の車両状況に応じて各遅延時間を可変させることもできる。
電動モータの起動時に発生する突入電流のピーク値、及び、突入電流の発生期間は、電動モータに対する目標電流値の大きさによって変わることがある。図13では、目標電流値が目標電流値TImt11である場合に電動モータに流れる電流の推移が実線で示され、目標電流値が目標電流値TImt12である場合に電動モータに流れる電流の推移が破線で示されている。なお、目標電流値TImt12は、目標電流値TImt11よりも小さい。
図13に示すように、目標電流値が目標電流値TImt11である場合における突入電流のピーク値PImt11は、目標電流値が目標電流値TImt12である場合における突入電流のピーク値PImt12よりも大きい。また、目標電流値が目標電流値TImt11である場合における突入電流の発生期間TM11は、電動モータの起動開始のタイミングt21から電流が目標電流値TImt11まで降下するタイミングt23までの期間である。一方、目標電流値が目標電流値TImt12である場合における突入電流の発生期間TM12は、電動モータの起動開始のタイミングt21から電流が目標電流値TImt12まで降下するタイミングt22までの期間である。図13からも明らかなように発生期間TM11は、発生期間TM12よりも長い。
そのため、時間設定部16は、電動モータを起動させる際に設定される目標電流値が大きいほど、各遅延時間を長くするようにしてもよい。これによって、第1の減少処理の実行によって生じる突入電流がピーク値に達する時期と第2の減少処理の実行によって生じる突入電流がピーク値に達する時期とが重なることを抑制できる。また、この構成によれば、電動モータを駆動する電流値が小さいほど遅延時間が短くなる。そのため、第1の減少処理及び第2の減少処理のうち、先に開始される一方の減少処理の実行によって生じる突入電流がピーク値に早期に達するようなときには、他方の減少処理の実行を早期に開始することができる。
・アンチロック制御において、第1の増大処理と第2の増大処理とを実行する順序を入れ替えることもできる。例えば、スプリット路面フラグにオンがセットされている状況下でアンチロック制御が実行されている場合、各後輪RL,RRで発生する制動力を増大させるに際し、第1の増大処理の実行を開始し、その後、第2の増大処理の実行を開始するようにしてもよい。また、均一路面フラグにオンがセットされている状況下でアンチロック制御が実行されている場合、各後輪RL,RRで発生する制動力を増大させるに際し、第2の増大処理の実行を開始し、その後、第1の増大処理の実行を開始するようにしてもよい。
・上記実施形態では、第1の減少処理に対応する第1遅延時間PT1と、第2の減少処理に対応する第2遅延時間PT2とに対して、各別の値が設定されている。第1遅延時間PT1及び第2遅延時間PT2としては、同一の値を設定することもできる。
・上記実施形態では、第1遅延時間PT1と第2遅延時間PT2と増大時遅延時間PTIの各遅延時間は、突入電流の発生期間の時間的な長さと等しくなるように設定されている。しかし、一方の電動モータ33の起動時に発生する突入電流がピーク値に達する時期と、他方の電動モータ33の起動時に発生する突入電流がピーク値に達する時期とをずらすことができるのであれば、各遅延時間を任意に設定してもよい。例えば、各遅延時間を、突入電流の発生期間の時間的な長さよりも長くてもよいし、突入電流の発生期間の時間的な長さよりも短くしてもよい。
・第1遅延時間PT1は、第1の減少処理の実行開始から実行終了までの時間よりも長くすることもできる。また、第2遅延時間PT2は、第2の減少処理の実行開始から実行終了までの時間よりも長くすることもできる。
・上記実施形態では、スプリット路面フラグにオンがセットされているときには、図4及び図5に示した処理ルーチンによってアンチロック制御が実行される。一方、均一路面フラグにオンがセットされているときには、図6及び図7に示した処理ルーチンによってアンチロック制御が実行される。スプリット路面フラグにオンがセットされていないときであっても、図6及び図7に示した処理ルーチンに替えて図4及び図5に示した処理ルーチンによってアンチロック制御を実行するように構成することもできる。
・路面判定部14は、スリップ率差ΔSLP以外の他のパラメータを用い、路面がスプリット路面であるか否かを判定するようにしてもよい。制動処理の実行によって各後輪RL,RRで制動力が発生している状況下において、路面がスプリット路面である場合には車両が偏向傾向を示すことがある、すなわちヨーレートYrが大きくなることがある。一方、路面がスプリット路面である場合には車両が偏向傾向を示しにくい、すなわちヨーレートYrが大きくなりにくい。そのため、制動処理の実行によって各後輪RL,RRで制動力が発生している状況下でのヨーレートYrが判定値以上であるときには路面がスプリット路面であると判定する一方、ヨーレートYrが判定値未満であるときには路面がスプリット路面でないと判定するようにしてもよい。
・上記実施形態におけるアンチロック制御では、各押圧力減少処理の実行によって各後輪RL,RRと一体回転する回転体22に対する押圧力が「0」になってから、各後輪RL,RRと一体回転する回転体22に対する押圧力を増大させるべく各押圧力減少処理を実行するようにしている。しかし、回転体22に対する押圧力が「0」となる前に、後輪RL,RRの減速スリップが解消されることもある。そこで、各押圧力減少処理を実行している最中で各後輪RL,RRのスリップ率SLPL,SLPRを監視し、各スリップ率SLPL,SLPRがいずれもスリップ解消判定値未満になったときに、各押圧力減少処理の実行を終了するようにしてもよい。
・電動制動機構は、上記実施形態のようなディスク式の機構ではなく、ドラム式の機構であってもよい。
・車両用制動装置を、電動制動機構の作動によって前輪で制動力を発生される車両に適用してもよい。
次に、上記実施形態及び別の実施形態から把握できる技術的思想を以下に追記する。
(イ)車両の左右の車輪の各々に対応する電動制動機構を備え、前記各電動制動機構が、電動モータの駆動によって前記車輪と一体回転する回転体に摩擦材を押し付ける力である押圧力を制御することで、前記車輪で発生する制動力を調整するようにそれぞれ構成されている車両用制動装置であって、
制動要求に応じて前記各電動制動機構を作動させることで前記左右の車輪で発生する制動力を増大させる制動処理を実行する制動制御部と、
前記制動制御部による前記制動処理の実行によって前記左右の車輪で制動力が発生している状況下で前記左右の車輪のうち一方の車輪のスリップ率がスリップ率判定値以上になったときに、前記左右の車輪のうち、スリップ率が低い方の車輪と一体回転する前記回転体に対する押圧力を減少させるべく同車輪に対応する前記電動モータを駆動する第1の減少処理、及び、スリップ率が高い方の車輪と一体回転する前記回転体に対する押圧力を減少させるべく同車輪に対応する前記電動モータを駆動する第2の減少処理を含むアンチロック制御を実行するアンチロック制御部と、
車両が走行している路面がスプリット路面であるか否かを判定する路面判定部と、を備え、
前記アンチロック制御部は、前記アンチロック制御では、前記第1の減少処理及び前記第2の減少処理のうち、一方の減少処理の実行を先に開始し、他方の減少処理の実行を後で開始するようになっており、
前記アンチロック制御部は、前記アンチロック制御では、前記路面判定部による判定の結果を基に、前記第1の減少処理及び前記第2の減少処理のうち、先に実行する減少処理を決める、車両用制動装置。
上記構成によれば、車両の路面状況に応じたアンチロック制御を実行することが可能となる。