JP2016101736A - ファブリック強化樹脂成形体の製造方法及びファブリック強化樹脂成形体 - Google Patents

ファブリック強化樹脂成形体の製造方法及びファブリック強化樹脂成形体 Download PDF

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Abstract

【課題】成形後に反りが発生しにくいファブリック強化樹脂成形体の製造方法及びファブリック強化樹脂成形体を提供すること。【解決手段】補強繊維と、該補強繊維よりも融点が低く且つ該補強繊維を接着可能なバインダー繊維と、を用いて成形したファブリック又は該ファブリックを用いたシート材を加熱する加熱工程と、該加熱工程において加熱された前記ファブリック又は前記シート材を、金型を用いて、冷間にて、圧縮成形又は真空成形する成形工程と、を有するファブリック強化樹脂成形体の製造方法を提供する。【選択図】図2

Description

本発明は、ファブリック強化樹脂成形体の製造方法及びファブリック強化樹脂成形体に関する。より詳しくは、補強材として織物、編み物及び不織布などのファブリックを用いた樹脂成形体を製造する方法及びこの方法で製造された樹脂成形体に関する。
近年、様々な分野、用途において、樹脂形成品が多用されている。例えば、旅行用スーツケースなどには、軽量などの理由から、樹脂成形品が多用されている。一方、樹脂製のスーツケースは、飛行機に搭乗する際に手荷物として預けると、貨物として扱われるため、輸送途中で傷つき、割れ、破損及び穴あきなどが起こることがある。このような高い強度が要求される樹脂成形体には、従来、繊維強化プラスチック(Fiber Reinforced Plastics:FRP)が用いられている。
また、補強材として織物を用いた織物強化樹脂成形体も提案されている(特許文献1,2参照)。例えば、特許文献1,2には、炭素繊維やアラミド繊維を平織した織物シートに、熱硬化性エポキシ樹脂を含浸させて圧縮成形した樹脂成形体が開示されている。
特開平5−208471号公報 特開2009−184239号公報
しかしながら、繊維強化プラスチックを用いた樹脂成形体は、加熱成形後に成形体に反りが生じやすく、保形性に問題がある。この成形後の「反り」の問題は、深絞り成形した場合に特に顕著である。また、特許文献1,2に記載されているような織物シートを用いたファブリック強化樹脂成形体は、前述した保形性に加えて、補強材が高価であるため製造コストが増加するという問題もある。
そこで、本発明は、成形後に反りが発生しにくいファブリック強化樹脂成形体の製造方法及びファブリック強化樹脂成形体を提供することを主目的とする。
繊維強化プラスチックは、加熱成形時に補強材である繊維が部分的に延伸されるが、この補強繊維に加えられた部分的な延伸ひずみが成形後に緩和することにより、成形体に反りが生じるものと考えられる。そこで、本発明者は、補強材及び成形方法について鋭意実験検討を行い、補強繊維と、所定のバインダー繊維と、を用いて成形したファブリックを用いて、特定の方法で成形することにより、反りの発生しないファブリック強化樹脂成形体が得られることを見出し、本発明に至った。
即ち、本発明では、まず、補強繊維と、該補強繊維よりも融点が低く且つ該補強繊維を接着可能なバインダー繊維と、を用いて成形したファブリック又は該ファブリックを用いたシート材を加熱する加熱工程と、
該加熱工程において加熱された前記ファブリック又は前記シート材を、金型を用いて、冷間にて、圧縮成形又は真空成形する成形工程と、
を有するファブリック強化樹脂成形体の製造方法を提供する。
前記加熱工程では、前記バインダー繊維の融点以上、前記補強繊維の融点未満の温度にて加熱を行うことができる。
本発明に係る製造方法で用いることができる前記バインダー繊維は、本発明の効果を損なわない限り特に限定されないが、融点が130℃以下のポリオレフィン系樹脂を用いることができる。
本発明に係る製造方法で用いることができる前記補強繊維も、本発明の効果を損なわない限り特に限定されないが、前記バインダー繊維よりも融点が20℃以上高い結晶性熱可塑性樹脂を用いることができる。また、前記補強繊維として、120℃における引張りヤング率が7cN/dtex以上の補強繊維を用いることも可能である。
本発明に係る製造方法では、前記シート材として、前記ファブリックを複数枚積層して前記バインダー繊維が溶融する温度で熱圧着したものや、1又は2枚以上の前記ファブリックと、前記バインダー繊維と同種の樹脂からなる樹脂シートとを積層し、前記バインダー繊維が溶融する温度で熱圧着したものを用いることができる。
本発明に係る製造方法では、前記ファブリックとして、平織織布を用いることができる。
本発明では、次に、示差走査熱量計を使用し、昇温速度を30℃/分として、融解熱量法により測定した補強繊維の結晶化度が70%以上である補強繊維と、該補強繊維よりも融点が低く且つ該補強繊維を接着可能なバインダー繊維と、を混繊することにより形成したファブリック又は該ファブリックを用いたシート材を加熱した後、金型を用いて、冷間にて、圧縮成形又は真空成形して得たファブリック強化樹脂成形体を提供する。
ここで、本発明に用いる技術用語の定義付けを行う。
「ファブリック」とは、織物、編み物及び不織布などの繊維を用いて形成された布類全般を含む概念である。
「ファブリック強化樹脂成形体」とは、前記ファブリックに含まれる布類全般によって強化された樹脂成形体を指す。
本発明によれば、補強繊維と該補強繊維を接着するバインダー繊維を混繊することにより形成したファブリックを用いることで、成形後に反りが発生しにくいファブリック強化樹脂成形体を製造することができる。
本発明の実施形態のファブリック強化樹脂成形体の製造方法を示すフローチャート図である。 A〜Cは図1に示すファブリック強化樹脂成形体の製造方法をその工程順に示す模式図である。 補強繊維とバインダー繊維を用いたファブリック11(平織織布)の一例を模式的に示す斜視図である。 補強繊維1と、バインダー繊維2と、を用いたファブリック11の一例を模式的に示す断面模式図である。 ファブリック強化樹脂の一例を模式的に示す断面模式図である。 本発明の実施形態のファブリック強化樹脂成形体20の構成例を示す斜視図である。 A及びBは反りの評価方法を示す模式図である。
以下、本発明を実施するための好適な形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明の代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。
<ファブリック強化樹脂成形体の製造方法>
図1は本発明の実施形態に係るファブリック強化樹脂成形体の製造方法を示すフローチャート図であり、図2A〜Cは図1に示すファブリック強化樹脂成形体の製造方法をその工程順に示す模式図である。図1及び図2に示すように、本実施形態のファブリック強化樹脂成形体(以下、単に樹脂成形体ともいう。)の製造方法では、補強繊維と該補強繊維を接着するバインダー繊維を混繊して形成したファブリック11又はシート材12を加熱する工程(加熱工程S1)と、加熱したファブリック11又はシート材12を成形する工程(成形工程S2)とを行う。
(1)材料
本発明に係る樹脂成形体の製造方法で用いる補強繊維並びに補強繊維を接着するバインダー繊維の原糸は、溶融紡糸などにより形成することができる。
[補強繊維]
本発明において、補強繊維は、成形体において補強材として機能する。本発明で用いることができる補強繊維の種類は特に限定されないが、結晶性の樹脂を用いることが好ましい。結晶性の樹脂を用いることで、成形体における補強効果を向上させることができる。
また、繊維製造時から成形体の状態においても溶融しないことが必要である。具体的には、補強繊維には、融点がバインダー繊維よりも20℃以上高い結晶性熱可塑性樹脂を使用することが好ましい。このような条件を満たす補強繊維としては、アイソタクチックポリプロピレン(i−PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)などが挙げられる。
ここで、補強繊維の延伸条件は、特に限定されるものではないが、繊維物性向上の観点から、延伸温度は145℃以上とすることが好ましい。一方、延伸倍率は、補強繊維の結晶化度を高める観点からは、高い方が好ましいが、延伸倍率が高すぎると、結晶配向が乱れて結晶化度が低下する。そこで、補強繊維の結晶化度を高めるには、1段よりも多段で延伸することが望ましい。1段で延伸する場合、一気に大きな延伸倍率がかかるため、加熱槽に被延伸物が侵入する前に延伸が開始され、特にネック(くびれ)延伸が極端に開始され、結果として配向結晶が生じにくくなるためである。
例えば、2段延伸により補強繊維を形成する場合は、1段目を温水で行い、2段目を高飽和水蒸気中で行うことが好ましい。また、その場合、補強繊維の結晶化度向上の観点から、2段目の延伸倍率を1.5〜2.5倍に設定することが好ましい。2段目の延伸倍率が1.5倍未満の場合、1段目に形成した配向結晶が乱れて、結晶化度が低下することがある。また、2段目の延伸倍率が2.5倍を超えると、糸切れが発生したり、配向結晶が壊れて、結晶化度が低下したりすることがある。
なお、2段延伸により補強繊維を形成する場合における1段目の延伸倍率は、特に限定されるものではないが、例えば4.0〜10.0倍とすることができる。また、補強繊維の延伸は2段に限定されるものではなく、3段以上で行ってもよい。
そして、本発明に係る製造方法で用いる補強繊維は、示差走査熱量計を使用し、昇温速度を30℃/分として、融解熱量法により測定した結晶化度が60%以上である。補強繊維の結晶化度が60%未満の場合、成形時に歪みが発生して、成形体に反りが生じる。一方、補強繊維の結晶化度を70%以上にすることにより、成形時発生する歪みを小さくし、反りのない樹脂成形体を製造することができる。
ここで規定する補強繊維の結晶化度は、示差走査熱量計(DSC)を用いて測定した補強繊維の融解熱量から算出した値である。結晶化度の算出にあたっては、補強繊維を構成する樹脂の完全結晶における融解熱量文献値(209J/g、昇温速度10℃/分)を結晶化度100%とした。また、補強繊維の測定量は約10mgとし、室温から補強繊維の融点よりも30〜40℃高い温度まで、昇温速度30℃/分で、昇温走査した。
DSCを用いて樹脂の融点を測定する場合は、一般に、昇温速度は10℃/分に設定されるが、延伸物のような配向結晶化が生じているものの融解熱量を測定し、繊維に内在している結晶化度の差異を求める場合、昇温速度が遅いと、昇温中に結晶化が進行し、測定前と異なる状態の融解熱量を測定することになる。そこで、本実施形態においては、補強繊維の結晶化度は、昇温速度を30℃/分として測定した値で規定した。
更に、本発明に係る樹脂成形体の製造方法で用いる補強繊維は、120℃における引張りヤング率が7cN/dtex以上であることが好ましい。これにより、成形時に発生する歪みを小さくすることができる。
補強繊維の表面には、官能基を持たせるために、表面処理を行うことができる。表面処理の方法は特に限定されず、電解処理や収束剤処理などの公知の表面処理方法を自由に選択して用いることができる。本発明では特に、表面処理を行う場合、収束剤を用いた表面処理を選択することが好ましく、カップリング剤を含む収束剤を用いることがより好ましい。
カップリング剤を含む収束剤を用いる場合、用いるカップリング剤の種類も限定されず、本発明の効果を損なわない限り、公知のカップリング剤を自由に選択して用いることができる。例えば、アミノシランやエポキシシランなどシラン系カップリング剤;チタン系カップリング剤などが挙げられる。また、収束剤として、カップリング剤の他に、樹脂エマルジョンを含むものを用いれば、取り扱いを容易にすることが可能である。
このように、表面処理された強化繊維を用いると、バインダー繊維との接着性が付与され、強度と外観が良好な成形体を得ることができる。
[バインダー繊維]
本発明において、バインダー繊維は、補強繊維よりも融点が低く且つ該補強繊維を接着可能な繊維である。本発明で用いることができる補強繊維の種類は特に限定されないが、比較的低温で成形でき、熱効率において経済的な点から、融点が130℃以下のポリオレフィン系樹脂を用いることが好ましい。
より具体的には、バインダー繊維には、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン及びエチレン酢酸ビニルなどのエチレン系樹脂、エチレン及びブテンなどのαオレフィンとプロピレンとの2元系又は3元系共重合体であるランダム又はブロック共重合ポリプロピレンなどを用いることができる。これらのポリオレフィン系樹脂のなかでも、融点が明確で温度に対してシャープな溶融挙動を示す点から、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン及び高密度ポリエチレンが好適である。
[混繊繊維]
本発明に係る樹脂成形体の製造方法では、前記補強繊維と、前記接着可能なバインダー繊維と、を用いた混繊繊維を用いることができる。混繊繊維は、前記補強繊維と前記バインダー繊維とを公知のエアーによる混繊によって得ることができる。
[ファブリック11・シート材12]
本発明に係る樹脂成形体の製造方法で用いるファブリックは、前述した補強繊維とバインダー繊維とのコミングル繊維を用いて製造することができ、例えば、織物、編み物又は不織布である。また、コミングル繊維とせずに、前述した補強繊維とバインダー繊維とを合糸したものを用いることも可能である。更に、本発明で用いるファブリックは、前述した補強繊維及びバインダー繊維を用いていればよく、その他の異種繊維種が混繊されていてもよい。
図3は、ファブリックの一例である平織織布を模式的に示す斜視図である。ファブリック11の組織は、特に限定されるものではなく、図3に示す平織の他、斜文織、朱子織、これらの原組織の変形組織など用途に応じて適宜選択することができる。また、ファブリックの製造方法も、特に限定されるものではなく、公知の方法を適用することができる。
更に、本実施形態の樹脂成形体の製造方法では、前述したファブリックを単体で使用することもできるが、複数枚のファブリックを積層し、バインダー繊維が溶融する温度で熱圧着したシート材や、1又は2枚以上のファブリックと、バインダー繊維と同種の樹脂からなる樹脂シートとを積層し、バインダー繊維が溶融する温度で熱圧着したシート材を使用することが好ましい。
このようにファブリックを熱圧着してシート化することにより、強化繊維の結晶化度を高めることができると共に、加熱工程S1及び成形工程S2における操作性を向上させることができる。また、ファブリックに樹脂シートを積層したシート材は、ファブリックの特徴である透湿性や通気性を低下させることができるため、家電などの透水を嫌う用途への適用が可能となると共に、真空成形法の適用も可能となる。
なお、本発明に係る樹脂成形体の製造方法では、前述したファブリック又はシート材の片面又は両面に、ポリオレフィン、ポリエステル又はABS(アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体)樹脂からなるフィルムを貼り合わせてもよい。これにより、樹脂成形体の表面を着色したり、模様などの意匠性を付与したりすることが可能となる。
ファブリックに用いる補強繊維とバインダー繊維との重量比率は、製造される成形体の用途等に応じて自由に設定することができる。本発明では、バインダー繊維1に対して、補強繊維を1〜4の重量比で用いることが好ましい。バインダー繊維1に対して、補強繊維を重量比1以上用いることで、成形体の強度を向上させることができ、補強繊維を重量比4以下とすることで、補強繊維同士の密着不足による強度低下を防ぐことができる。
[加熱工程S1]
図2A及び図2Bに示すように、加熱工程S1では、ファブリック11又はこのファブリックを用いたシート材12を、必要に応じて裁断や積層した後、加熱する。その際、加熱方法は、特に限定されるものではなく、オーブンやホットプレートなど公知の加熱装置を使用することができる。また、必要に応じて、金属板などで挟持した状態で、ファブリック11又はシート材12を加熱してもよい。これにより、熱収縮を防止することができる。
ファブリック11又はシート材12の加熱温度は、バインダー繊維の融点以上かつ補強繊維の融点未満の温度とすることが好ましい。これにより、形状保持性(保形性)が良好なファブリック強化樹脂成形体を得ることができる。
図4は、補強繊維1と、バインダー繊維2と、を用いたファブリック11の一例を模式的に示す断面模式図である。このファブリック11を、バインダー繊維2の融点以上かつ補強繊維1の融点未満の温度にて加熱すると、バインダー繊維2のみが溶融して、融合一体化し、図5に示すような、バインダー繊維2中に補強繊維1が島状に存在する海島構造のファブリック強化樹脂が得られる。ここで、「海島構造」とは、ポリマーブレンドにおける相分離構造を指し、例えば島成分が相互に連結している相互連結型や厚さ方向に海成分及び島成分が分布している層状構造も含む。
[成形工程S2]
図6は本実施形態の方法で製造されるファブリック強化樹脂成形体の構成例を示す斜視図である。図2Cに示すように、前述した加熱工程S1で加熱したファブリック11又はシート材12を、金型13a,13bを用いて、冷間にて、圧縮成形又は真空成形する。これにより、例えば図6に示される深絞り成形体20などの略箱状体をはじめとし、各種形状のファブリック強化樹脂成形体を製造することができる。
圧縮成形及び真空成形する際の条件は、特に限定されるものではないが、例えば、圧力を1〜5MPa、ファブリック11又はシート材12の温度を120〜150℃、冷却時間を30〜60秒とする。なお、本実施形態の樹脂成形体の製造方法では、冷間にて成形を行っているが、これは形状保持性(保形性)が良好なファブリック強化樹脂成形体を、効率よく製造するためである。
以上詳述したように、本実施形態の樹脂成形体の製造方法では、2種類以上の融点の異なるマルチフィラメントを用いたファブリックを用いているため、炭素繊維やアラミド繊維を用いた織物に樹脂を含浸させた複合シートに比べて、補強繊維とバインダー繊維とが隙間なく一体化された樹脂成形体が得られる。これにより、成形体の強度を高めることができる。
また、本実施形態の樹脂成形体の製造方法では、補強繊維の融点よりも低い温度で予備加熱を行った後、冷間成形を行っているため、ファブリックを構成する各繊維に歪みが生じることを防止できる。その結果、成形体の保形性を向上させることができる。本実施形態の樹脂成形体の製造方法は、織物、編み物及び不織布を用いた樹脂成形体の製造に好適であるが、強化材として伸縮性に劣る織物を用いた場合に特に効果が大きい。
以下、実施例に基づいて本発明を更に詳細に説明する。なお、以下に説明する実施例は、本発明の代表的な実施例の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。
本実施例では、以下に示す方法及び条件で作製した補強繊維とバインダー繊維とにより形成した平織織布を用いて樹脂成形体を製造し、その性能を評価した。
<補強繊維A>
アイソタクチックポリプロピレン(i−PP)[メルトフローレイト(MFR)=18g/10分(230℃、21.18N)、融点=165℃]を使用した。これらの材料を、ホール数が240ホールの細孔を有する紡糸ノズルを用いて、紡糸温度240℃にて、紡糸ノズルヘッド部に備え付けの溶融樹脂ギヤポンプで所定量の吐出樹脂量に計量しつつ紡糸速度60m/分で紡糸し、繊度が16147dtexの単一紡糸繊維を作製した。
引き続き、得られた単一紡糸繊維(240本)をスピンドロー方式(紡糸延伸直結法)にて、第1延伸ローラー(G1)=60m/分、第1延槽伸温度=95℃(温水)、第2延伸ローラー(G2)速度=405m/分、第2延伸槽温度=153℃(高圧飽和水蒸気)、第3延伸ローラー(G3)速度=805m/分で、第1延伸倍率(G2/G1速度比)=6.75倍、第2延伸倍率(G3/G2速度比)=1.99倍、全延伸倍率(G3/G1速度比)=13.42倍の条件で2段延伸した。この延伸工程により、PP単一の補強繊維Aを得た。
この延伸補強繊維Aの物性は、繊度=1196dtex、引張りヤング率=93cN/dtex(室温引張り試験)、13.2cN/dtex(120℃熱間引張り試験)であった。また、得られた延伸複合繊維Aについて、示差走査熱量計(DSC)にて、昇温速度30℃/分の条件で、融解熱量を測定し、i−PP樹脂の完全結晶体の融解熱量との対比から結晶化度を算出した。その結果、結晶化度は72%であった。120℃熱処理後の配向結晶化度が65%であった。
<補強繊維B>
エチレン―プロピレンランダム共重合体(co−PP)[メルトフローレイト(MFR)=5g/10分(230℃、21.18N)、融点=145℃]を使用した。これらの材料を、ホール数が240ホールの細孔を有する紡糸ノズルを用いて、紡糸温度240℃にて、紡糸ノズルヘッド部に備え付けの溶融樹脂ギヤポンプで所定量の吐出樹脂量に計量しつつ紡糸速度60m/分で紡糸し、繊度が15795dtexの紡糸繊維を作製した。引き続き、得られた単一紡糸繊維(240本)をスピンドロー方式(紡糸延伸直結法)にて、第1延伸ローラー(G1)=60m/分、第1延槽伸温度=95℃(温水)、第2延伸ローラー(G2)速度=405m/分、第2延伸槽温度=153℃(高圧飽和水蒸気)、第3延伸ローラー(G3)速度=805m/分で、第1延伸倍率(G2/G1速度比)=6.75倍、第2延伸倍率(G3/G2速度比)=1.99倍、全延伸倍率(G3/G1速度比)=13.42倍の条件で2段延伸した。この延伸工程により、co-PP単一の強化繊維Bを得た。
この延伸補強繊維Bの物性は、繊度=1225dtex、引張りヤング率=95cN/dtex(室温引張り試験)、13.2cN/dtex(120℃熱間引張り試験)であった。また、得られた延伸複合繊維Bについて、示差走査熱量計(DSC)にて、昇温速度30℃/分の条件で、融解熱量を測定し、co−PP樹脂の完全結晶体の融解熱量との対比から結晶化度を算出した。その結果、結晶化度は71%であった。120℃熱処理後の配向結晶化度が63%であった。
<補強繊維C>
PET繊維[IV=0.65]を使用した。これらの材料を、ホール数が240ホールの細孔を有する紡糸ノズルを用いて、紡糸温度280℃にて、紡糸ノズルヘッド部に備え付けの溶融樹脂ギヤポンプで所定量の吐出樹脂量に計量しつつ紡糸速度60m/分で紡糸し、繊度が23400dtexの紡糸繊維を作製した。引き続き、得られた単一紡糸繊維(240本)をスピンドロー方式(紡糸延伸直結法)にて、第1延伸ローラー(G1)=60m/分、第1延槽伸温度=95℃(温水)、第2延伸ローラー(G2)速度=405m/分、第2延伸槽温度=193℃(熱風槽温度)、第3延伸ローラー(G3)速度=805m/分で、第1延伸倍率(G2/G1速度比)=6.75倍、第2延伸倍率(G3/G2速度比)=1.99倍、全延伸倍率(G3/G1速度比)=13.42倍の条件で2段延伸した。この延伸工程により、PET単一の強化繊維Cを得た。
この延伸強化繊維Cの物性は、繊度=1755dtex、引張りヤング率=114cN/dtex(室温引張り試験)、7.8cN/dtex(120℃熱間引張り試験)であった。また、得られた延伸複合繊維Cについて、示差走査熱量計(DSC)にて、昇温速度30℃/分の条件で、PET樹脂の完全結晶体の融解熱量との対比から結晶化度を算出した。その結果、結晶化度は75%であった。120℃処理後の配向結晶化度が75%であった。
<補強繊維D>
市販の東洋紡株式会社製のダイニーマ(登録商標、275T192、タイプSK71)を4本合糸して、補強繊維Dを得た。
この延伸強化繊維Dの物性は、繊度=1100dtex、引張りヤング率=1250cN/dtex(室温引張り試験)、36.0cN/dtex(120℃熱間引張り試験)であった。また、得られた延伸複合繊維Dについて、示差走査熱量計(DSC)にて、昇温速度30℃/分の条件で、HDPE樹脂の完全結晶体の融解熱量との対比から結晶化度を算出した。その結果、結晶化度は95%であった。120℃熱処理後の配向結晶化度が92%であった。
<バインダー繊維α>
LLDPE(Linear Low Density Polyethylene)[メルトフローレイト(MFR)=8g/10分(230℃、21.18N)、融点=125℃]を使用した。これらの材料を、ホール数が240ホールの細孔を有する紡糸ノズルを用いて、紡糸温度210℃で、紡糸ノズルヘッド部に備え付けの溶融樹脂ギヤポンプで所定量の吐出樹脂量に計量しつつ紡糸速度60m/分で紡糸し、繊度が8395dtexの紡糸繊維を作製した。引き続き、得られた単一紡糸繊維(240本)をスピンドロー方式(紡糸延伸直結法)にて、第1延伸ローラー(G1)=60m/分、第1延槽伸温度=95℃(温水)、第2延伸ローラー(G2)速度=405m/分、第2延伸槽温度=常温、第3延伸ローラー(G3)速度=407で、第1延伸倍率(G2/G1速度比)=6.75倍、第2延伸倍率(G3/G2速度比)=1.0倍延伸倍、全延伸倍率(G3/G1速度比)=6.78倍の条件で延伸した。この延伸工程により、LLDPE単一繊維αを得た。
<バインダー繊維β>
HDPE(High Density Polyethylene)[メルトフローレイト(MFR)=8g/10分(230℃、21.18N)、融点=134℃]を使用した以外は、バインダー繊維αと同様の方法にてHDPE単一繊維βを得た。
これら補強繊維A〜Dとバインダー繊維α、βについて、上記以外の製造条件及び繊維物性を下記表1にまとめて示す。
Figure 2016101736
なお、上記表1に示す「引張り強度」は、以下に示す方法にて測定した値である。
(1)室温
JIS L1013で規定される方法に準じて、試料長100mm、引張り速度100mm/分の条件で、株式会社島津製作所社製オートグラフAG−100kN ISを用いて、1試料当たり5回の測定を行った。そして、その平均値から、強度(cN/dtex)、伸度(%)、ヤング率(cN/dtex)を求めた。
(2)120℃
加熱炉を使用して120℃雰囲気下で1時間調整した後、試料をセットして、3分後(試料の温度が約2分後に120℃に達する)に、JIS L1013で規定される方法に準じて、試料長100mm、引張り速度100mm/分の条件で、株式会社島津製作所社製 オートグラフAG−100kN ISを用いて、1試料当たり5回の測定を行った。そして、その平均値から、強度(cN/dtex)、伸度(%)、ヤング率(cN/dtex)を求めた。
[実施例1]
(1)ファブリックの作製
複合補強繊維Aとバインダー繊維αを2本コミングル合糸して1824dtexとし、織機にて、縦横方向の原糸打ち密度をそれぞれ8.33本/25mmとして平織織布を作製した。得られた織布の面密度は122g/mであった。
(2)シート材の作製
得られた平織織布を、縦横長さ1.5mの大きさに裁断し、これを3枚積層して、加熱平板(縦2m×横2m)ホットプレス機にて熱圧着ファブリックシートを作製した。シート作製の前準備として、縦横長さ1.8m、厚さ1.5mmのアルミニウム板を予めホットプレス機で所定の温度に予熱した。そして、このアルミニウム板に前述した平織織布を載せて、所定条件で熱圧着した。プレス圧解除後にアルミニウム板ごと取り出し、別途準備しておいた冷却用のアルミニウム板をこれに載せてシートを急冷した後、シートのみを取り外すことによって熱圧着ファブリックシートを作製した。その際、ホットプレス条件は、平板温度120℃、加圧1.6MPa、加圧保持時間45秒とした。また、得られた熱圧着ファブリックシートは、厚さ1.1mm、面密度341g/mであった。
(3)圧縮成形試験
圧縮成形試験では、雄金型には、縦500mm、横700mm、高さ120mm、上部端部曲率R80mm、底部端部曲率R10mmの凸形状を有する金型を使用した。一方、雌金型には、雄金型に対応する凹形状を有する金型を使用し、雄雌金型をプレス機に装着して圧縮成形試験に使用した。なお各金型は、型内通水冷却管に冷水又は温水を通水することにより、金型温度を30℃〜70℃の範囲に維持できる状態で使用した。
前記で得られたファブリックシートの上下面を、遠赤外線(IR)ヒーターにより、表面温度が120℃〜130℃になるまで予め加熱した。所定温度に到達後、ファブリックシートを素早く圧縮試験金型に挿入し、雄雌金型のクリアランスが1mmの状態で4秒間圧縮成形した後、60秒間冷間成形を維持した。冷間成形が終了した後、脱型し、箱状成形体を得た。
次に、この箱状成形体を、室温で24時間放置後、反り及び変形などの形状を目視観察すると共に、底面に対する側壁面の反りの程度を反り角度α(°)として測定した。図7A及び図7Bは反りの評価方法を示す模式図である。反り角度α(°)は、図7Aに示すように箱状成形体の底部と側壁部とがなす角度θが90°のときをα=0°とし、図7Bに示すように側壁部が内側に反っている場合を+θ°、底側に反っている場合を−θ°として求めた。その結果、得られた箱状成形体には、反り及び変形は認められず、反り角度αは0°であり、良好な成形性であった。
[実施例2]
補強繊維として補強繊維Bを用いた以外は、前述した実施例1と同様の方法及び条件で、熱圧着ファブリックシートを作製した。得られた熱圧着ファブリックシートは、厚さ1.1mm、面密度335g/mであった。
次に、前記で得られた熱圧着ファブリックシートを、織布側の面が金型の雄側に接するように設置し、実施例1と同様の方法及び条件で圧縮成形試験を行った。その結果、室温で24時間放置後の目視観察において、箱状成形体に反りや変形は認められず、反り角度αは0°であり、良好な成形性であった。
[実施例3]
補強繊維として補強繊維Cを用い、補強繊維とバインダー繊維の重量比率を75:25にした以外は、前述した実施例1と同様の方法及び条件で、熱圧着ファブリックシートを作製した。得られた熱圧着ファブリックシートは、厚さ1.1mm、面密度441g/mであった。
次に、前記で得られた熱圧着ファブリックシートを、織布側の面が金型の雄側に接するように設置し、実施例1と同様の方法及び条件で圧縮成形試験を行った。その結果、室温で24時間放置後の目視観察において、箱状成形体に反りや変形は認められず、反り角度αは0°であり、良好な成形性であった。
[実施例4]
補強繊維として補強繊維Dを用いた以外は、前述した実施例1と同様の方法及び条件で、熱圧着ファブリックシートを作製した。得られた熱圧着ファブリックシートは、厚さ1.3mm、面密度334g/mであった。
次に、前記で得られた熱圧着ファブリックシートを、織布側の面が金型の雄側に接するように設置し、実施例1と同様の方法及び条件で圧縮成形試験を行った。その結果、室温で24時間放置後の目視観察において、箱状成形体に反りや変形は認められず、反り角度αは0°であり、良好な成形性であった。
[実施例5]
補強繊維とバインダー繊維の重量比率を80:20にした以外は、前述した実施例1と同様の方法及び条件で、熱圧着ファブリックシートを作製した。得られた熱圧着ファブリックシートは、厚さ1.4mm、面密度582g/mであった。
次に、前記で得られた熱圧着ファブリックシートを用いて、実施例1と同様の方法及び条件で圧縮成形試験を行った。その結果、室温で24時間放置後の目視観察において、箱状成形体に反りや変形は認められず、反り角度αは0°であり、良好な成形性であった。
[実施例6]
補強繊維とバインダー繊維の重量比率を50:50にした以外は、前述した実施例5と同様の方法及び条件で、熱圧着ファブリックシートを作製した。得られた熱圧着ファブリックシートは、厚さ1.3mm、面密度485g/mであった。
次に、前記で得られた熱圧着ファブリックシートを用いて、実施例1と同様の方法及び条件で圧縮成形試験を行った。その結果、室温で24時間放置後の目視観察において、箱状成形体に反りや変形は認められず、反り角度αは0°であり、良好な成形性であった。
[実施例7]
織布に加えて、面密度200g/mのLLDPE樹脂製[メルトフローレイト(MF
R)=8g/10分(190℃、21.18N)、融点=117℃]シートを片面に積層
した以外は、前述した実施例1と同様の方法及び条件で、熱圧着ファブリックシートを作
製した。得られた熱圧着ファブリックシートは、厚さ1.3mm、面密度525g/mであった。
次に、前記で得られた熱圧着ファブリックシートを、織布側の面が金型の雄側に接するように設置し、実施例1と同様の方法及び条件で圧縮成形試験を行った。その結果、室温で24時間放置後の目視観察において、箱状成形体に反りや変形は認められず、反り角度αは0°であり、良好な成形性であった。
[実施例8]
補強繊維として補強繊維Bを、バインダー繊維としてβを用い、プレス温度を138℃にした以外は、前述した実施例1と同様の方法及び条件で、熱圧着ファブリックシートを作製した。得られた熱圧着ファブリックシートは、厚さ1.1mm、面密度340g/mであった。
次に、前記で得られた熱圧着ファブリックシートを、織布側の面が金型の雄側に接するように設置し、実施例1と同様の方法及び条件で圧縮成形試験を行った。その結果、室温で24時間放置後の目視観察において、箱状成形体に反りや変形はあまり認められなかったが、補強繊維が部分的に熱に耐えられない箇所があり、一部に角度αが2°の反りが生じた。また、成形性は良好とまでは言えなかったが成形可能であった。
[比較例1]
補強繊維Aを2本合糸し、2392dtexとした以外は、実施例1と同様の方法及び条件で平織織布を作製した。得られた織布の面密度は、157g/mであった。次に、この織布を使用して実施例1と同様の方法及び条件で、熱圧着ファブリックシートを作製したが熱圧着シートは得られなかった。
以上の結果を、下記表2にまとめて示す。
Figure 2016101736
上記表2に示す実施例1〜7の熱圧着ファブリックシートを用いた箱状成形体は、反りの発生がなく、成形性にも優れていた。この結果から、本発明によれば、成形後に反りが発生しにくいファブリック強化樹脂成形体を製造できることが確認された。
また、実施例8の結果から、補強繊維とバインダー繊維の融点が近い場合であっても、プレス温度等を工夫することで、反りの発生の少ないファブリック強化樹脂成形体を製造できることが分かった。しかし、反りの発生をより少なくし、成形性を高めるためには、バインダー繊維の融点よりも20℃以上高い融点を持つ補強繊維を用いることが好ましいことが分かった。
11 ファブリック
12 シート材
13a,13b 金型
1 補強繊維
2 バインダー繊維
20 樹脂成形体

Claims (8)

  1. 補強繊維と、該補強繊維よりも融点が低く且つ該補強繊維を接着可能なバインダー繊維と、を用いて成形したファブリック又は該ファブリックを用いたシート材を加熱する加熱工程と、
    該加熱工程において加熱された前記ファブリック又は前記シート材を、金型を用いて、冷間にて、圧縮成形又は真空成形する成形工程と、
    を有するファブリック強化樹脂成形体の製造方法。
  2. 前記加熱工程では、前記バインダー繊維の融点以上、前記補強繊維の融点未満の温度にて加熱を行う請求項1記載のファブリック強化樹脂成形体の製造方法。
  3. 前記バインダー繊維は、融点が130℃以下のポリオレフィン系樹脂であり、
    前記補強繊維は、前記バインダー繊維よりも融点が20℃以上高い結晶性熱可塑性樹脂である請求項1又は2に記載のファブリック強化樹脂成形体の製造方法。
  4. 前記補強繊維は、120℃における引張りヤング率が7cN/dtex以上である請求項1から3のいずれか一項に記載のファブリック強化樹脂成形体の製造方法。
  5. 前記シート材は、前記ファブリックを複数枚積層して前記バインダー繊維が溶融する温度で熱圧着したものである請求項1から4のいずれか一項に記載のファブリック強化樹脂成形体の製造方法。
  6. 前記シート材は、1又は2枚以上の前記ファブリックと、前記バインダー繊維と同種の樹脂からなる樹脂シートとを積層し、前記バインダー繊維が溶融する温度で熱圧着したものである請求項1から4のいずれか一項に記載のファブリック強化樹脂成形体の製造方法。
  7. 前記ファブリックは、平織織布である請求項1から6のいずれか一項に記載のファブリック強化樹脂成形体の製造方法。
  8. 示差走査熱量計を使用し、昇温速度を30℃/分として、融解熱量法により測定した補強繊維の結晶化度が70%以上である補強繊維と、該補強繊維よりも融点が低く且つ該補強繊維を接着可能なバインダー繊維と、を混繊することにより形成したファブリック又は該ファブリックを用いたシート材を加熱した後、金型を用いて、冷間にて、圧縮成形又は真空成形して得たファブリック強化樹脂成形体。
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