図1及び図2に示す本発明の好ましい一実施形態に係る歯ブラシ10は、把持部12と植毛台11とこれらを連結する首部13とからなる歯ブラシ本体の植毛台11に形成された複数の植毛穴14に、複数本のテーパーブリッスル16を束ねてなる毛束(タフト)15を、各々植設(植毛)することによって構成される。本実施形態の歯ブラシ10は、植毛台11の長手方向Xの中央部分の植毛領域(長手方向中央部植毛領域19)における、毛束15が植設される植毛穴14の大きさ、数、配設位置等を工夫することによって、例えば歯茎が腫れていたり歯茎に炎症を起こしている場合でも、痛みを感じることを抑制して歯や歯茎を効果的に磨くことができるようにする機能を備える。
すなわち、本実施形態によれば、例えば図4に示すように、歯ブラシ10を用いて、歯50と歯茎51の境目部分52と共に、当該境目部分52に近接する歯50の表面を歯茎51の表面と同時に刷掃する場合、植毛台11の長手方向Xを横方向に向けて、歯50と歯茎51の境目部分52の方向に植毛台11を沿わせながら、歯ブラシ10のテーパーブリッスル16による先端ブラシ面30を歯50や歯茎51に押し付けた状態で、歯磨きを行うのが一般的である。その一方で、歯50の並びは外側に凸の湾曲凸面に沿って横方向に配置されていることから、歯磨きを行なう際に、植毛台11の長手方向Xの中央部分の先端ブラシ面30を歯50や歯茎51に押し付けた状態とすることで、自然に力を入れ易くなって、最も安定した状態で歯磨き行なうことが可能になる。本実施形態の歯ブラシ10は、このような、歯50と歯茎51の境目部分52を歯50と歯茎51と共に刷掃する際に、歯50や歯茎51に押し付けられる主要な部分となると考えられる、植毛台11の長手方向Xの中央部分の毛束15について、これらの毛束15が植設される植毛穴14(主植毛穴14a)の大きさ、数、配設位置等に改良がなされている。これによって、本実施形態の歯ブラシ10は、例えば歯茎51が腫れたり炎症を起こして歯肉の腫れ及び/又は出血部分51a等が生じている場合でも、痛みを感じることを抑制したり防止して、歯50や歯茎51を効果的に磨くことができるようにすると共に、歯50と歯茎51の境目部分52のみならず、歯50の表面や歯茎51の表面も効果的に刷掃できるようにするものである。
そして、本実施形態の歯ブラシ10は、先端に向かって断面積を減少させたテーパー形状部分を備える複数本のテーパーブリッスル16を束ねてなる毛束(タフト)15が、植毛台11に形成された複数の植毛穴14に各々植設されている歯ブラシであって、図1及び図2に示すように、植毛台11の長手方向Xに直線状に毛束15が連設する、平行に配置された一対の最外側毛束列17が、植毛台11の両側の側縁部分に設けられている。これらの一対の最外側毛束列17が植設される最外側植毛穴14dの、最外縁を結んだ仮想の第1周縁線18aによって囲まれる領域を矩形状植毛領域18とする(一点鎖線参照)。この矩形状植毛領域18に少なくとも一部が含まれる複数の植毛穴14を、主植毛穴14aとすると共に、これらの主植毛穴14aのうちの、最外周に配置される主植毛穴14aの外縁を結んだ仮想の第2周縁線19aによって囲まれる領域を、植毛台の長手方向中央部植毛領域19とした際に(点線参照)、この長手方向中央部植毛領域19における、植毛台の長手方向の最大長さLに対する、植毛台11の長手方向Xと垂直な方向Yの最大幅hの比(h/L)が、0.9〜2となっている。長手方向中央部植毛領域19における、植毛台11の長手方向Xと垂直な方向Yの最大幅hが、10〜17mmとなっている。長手方向中央部植毛領域19の面積を、主植毛穴14aの数で割った値である、主植毛穴14aの平均占有単位面積が、1.5〜4mm2となっている。
また、本実施形態の歯ブラシ10では、長手方向中央部植毛領域19の主植毛穴14aに植設された複数の毛束15(主毛束15a)を構成するテーパーブリッスル16の先端を連ねて形成される仮想の先端ブラシ面30は、図3に示すように、植毛台11の長手方向Xから見た際に、滑らかに連続して上方に凸の弧状に湾曲する湾曲凸面となっていることが好ましい。
本実施形態では、歯ブラシ本体は、例えばポリプロピレン、アクリロニトリル、ブタジエン、スチレン共重合体等の合成樹脂を用いて形成することができる。歯ブラシ本体の先端部分を構成する植毛台11は、好ましくは平坦なトラック円形状の植毛面11aを備えており、植毛面11aに開口して、毛束15が植設される複数の植毛穴14が形成されている。
本実施形態では、トラック円形状の植毛面11aの両側の直線状の縁部に沿って、最外側毛束列17の毛束15が植設される最外側植毛穴14dが、植毛台11の長手方向Xに所定の間隔をおいて、直線状に一列に連設して各々設けられている。最外側植毛穴14dは、植毛台11の植毛面11aにおける横断面形状が同様の、円形の植毛穴となっており、その中心を直線状に一列に配置して、植毛面11aの両側の直線状の縁部に沿って、例えば各々6箇所ずつ、互いに平行に連設して設けられている。
そして、本実施形態では、植毛台11の植毛面11aの両側の縁部に沿って各々直線状に一列に配置された、これらの2列の最外側植毛穴14dの最外縁を結んだ仮想の第1周縁線18aによって囲まれる領域が、矩形状植毛領域18となっている。この矩形状植毛領域18に少なくとも一部が含まれる複数の植毛穴14が、歯50と歯茎51の境目部分52を歯50や歯茎51と共に刷掃する際に、歯50や歯茎51に押し付けられる主要な部分となると考えられる、植毛台11の長手方向Xの中央部分(長手方向中央部植毛領域19)に配置された主植毛穴14aとなっている。
本実施形態では、主植毛穴14aは、長手方向中央部植毛領域19の幅方向中央部分に設けられた、植毛面11aにおける横断面形状が好ましくはトラック円形状となっている複数(本実施形態では6箇所)の幅方向中央部主植毛穴14bと、幅方向中央部分の両側の幅方向外側部分に設けられた、植毛面11aにおける横断面形状が好ましくは円形となっている複数(本実施形態では両側に各々19箇所、合計38箇所)の幅方向外側部主植毛穴14cとを含んで構成されることが好ましい。また、トラック円形状の6箇所の幅方向中央部主植毛穴14bの、歯ブラシ本体の首部13側の部分に、植毛台11の植毛面11aにおける横断面形状が、幅方向外側部主植毛穴14cと同様の好ましくは円形となっている補助主植毛穴14eが、1箇所に設けられている。
長手方向中央部植毛領域19は、矩形状植毛領域18に少なくとも一部が含まれる、幅方向中央部主植毛穴14b、幅方向外側部主植毛穴14c、及び補助主植毛穴14eのうちの、最外周に配置される主植毛穴14aの外縁を結んだ仮想の第2周縁線19aによって囲まれる部分として、区画された領域となっている。
また、本実施形態では、植毛台11の植毛面11aにおける長手方向中央部植毛領域19よりも歯ブラシ本体の先端側に、先端側植毛領域20が設けられている。先端側植毛領域20には、植毛台11の植毛面11aにおける横断面形状が、幅方向外側部主植毛穴14cと同様の好ましくは円形となっている先端側副植毛穴14fが、16箇所に形成されている。これらの先端側副植毛穴14fは、好ましくは10箇所以上、より好ましくは14箇所以上形成されており、好ましくは20箇所以下形成されている。これらの先端側副植毛穴14fの外縁を結んだ仮想の周縁線は、奥歯等の細かい部分に対する刷掃性の観点から、好ましくは先端側が先端に凸状のドーム形状となっており、より好ましくは先端側が半円形状となっている。
さらに、植毛台11の植毛面11aにおける長手方向中央部植毛領域19よりも歯ブラシ本体の首部13側に、基端側植毛領域21が設けられている。基端側植毛領域21には、植毛台11の植毛面11aにおける横断面形状が、幅方向外側部主植毛穴14cと同様の好ましくは円形となっている基端側副植毛穴14gが、8箇所に設けられている。
本実施形態では、これらの主植毛穴14a(14b,14c,14e)、及び副植毛穴14f,14gには、各々の植毛穴14a,14f,14gの横断面積に応じた本数のテーパーブリッスル16を束ねてなる毛束15が、各々挿入固定されて植設されている。毛束15を構成するテーパーブリッスル16は、好ましくは合成樹脂からなる。テーパーブリッスル16を形成する合成樹脂としては、ブリッスルに用いられている公知の各種のものを、特に制限なく用いることができ、例えば、ナイロン(登録商標)、ナイロン6等のポリアミド、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル、ポリオレフィン等が挙げられ、好ましくはポリブチレンテレフタレートである。
テーパーブリッスル16のテーパー形状部分を除いた部分の直径は、例えば150〜250μmとなっており、好ましくは160〜220μm、より好ましくは160〜200μmとなっている。テーパーブリッスル16のテーパー形状部分は、ブリッスルの先端部分を公知の研磨装置を用いて研磨することでテーパー状に先鋭加工したり、ブリッスルの先端部分を公知の溶解溶媒中に所定の深さまで浸漬することでテーパー状に先鋭加工したりすることによって、容易に設けることができる。テーパーブリッスル16は、好適にはブリッスルの先端部分を溶解溶媒に浸漬して加工して設ける。テーパーブリッスル16におけるテーパー形状部分の長さは、6〜10mmとなっていることが好ましく、6〜8mmとなっていることがさらに好ましい。
各々の植毛穴14(14a,14f,14g)に毛束15を植設する方法としては、公知の各種の植毛方法を採用することができる。例えば、(1)毛束を平線で2つ折りにして打ち込む方法や、(2)毛束の片端部を加熱して溶融塊を形成した後、その溶融塊を配置した金型内に溶融樹脂を注入して植毛台を射出形成する方法、(3)植毛孔(貫通孔)を有する植毛基部の該植毛孔に毛束を挿入する挿入工程、該植毛孔から突出する毛束の片端部を加熱して溶融塊を形成する熱加工工程、及び該溶融塊を被覆する被覆工程を経て、毛束が植設された状態の植毛台や歯ブラシを得る方法等を用いることができる。
毛束15を植設する方法は、比較的小径の植毛穴に毛束を効率良く植毛でき、しかも植毛台の厚さを小さくできることにより、奥歯の磨きやすさ、操作性が向上する観点、及び外観に優れる等の観点から、毛束の片端部に溶融塊を形成する上記(2)、(3)の方法を含む融着植毛を採用することが好ましく、上記(3)の方法を採用することがより好ましい。上記(3)の方法の具体例としては、特開平9−182632号公報や特開2003−310353号公報に記載の方法等を挙げることができる。特開2003−310353号公報の記載の方法においては、毛束の片端部を、レーザービーム等の非接触熱源で加熱して、溶融塊を形成すると共にその溶融塊と植毛孔の開口周縁部とを融着させるようになっている。
毛束15の植毛穴14(14a,14f,14g)への充填率(テーパーブリッスル16のテーパー形状部分を除いた部分の横断面積の合計/植毛穴の横断面積)は、0.6〜0.85%となっていることが好ましく、0.65〜0.85%となっていることがさらに好ましい。
植毛穴14(14a,14f,14g)に植設される毛束15は、植毛台11の植毛面11aからテーパーブリッスル16の先端までの高さ(植毛高さ)が、各々の毛束15ごとの平均高さとして、例えば10〜15mmとすることができ、12〜14mmとすることが好ましい。主植毛穴14a(14b,14c,14e)、及び主植毛穴14a以外の副植毛穴14f,14gに植設された複数の毛束15は、植毛台11の植毛面11aからテーパーブリッスル16の先端までの高さの毛束15ごとの平均高さが、毛束15ごとのブラッシング圧のばらつきを防止し、テーパーブリッスル16に特有の尖鋭なブリッスルによる刺激を防止する観点から、当該毛束15ごとの平均高さの最小値と最大値との差が3mm以下となるように植設されていることが好ましく、最小値と最大値との差が2.5mm以下となるように植設されていることがより好ましく、最小値と最大値との差が2mm以下となるように植設されていることがさらに好ましい。
また、本実施形態では、図1及び図3に示すように、テーパーブリッスル16の先端を連ねて形成される仮想の先端ブラシ面30は、植毛台11の長手方向Xから見た際に、滑らかに連続して上方に凸の弧状に湾曲する、湾曲凸面となっていることが好ましい。一方、植毛台11の長手方向Xと垂直な方向Yである幅方向から見た際には、歯や歯茎へのブラッシング圧が集中することを防止し、テーパーブリッスル16に特有の尖鋭なブリッスルによる刺激を防止する観点から、先端ブラシ面30は、滑らかに連続する平坦な面となっていることが好ましい(図1参照)。植毛台11の幅方向Yから見た先端ブラシ面30は、滑らかに連続して上方に凸の弧状に湾曲する、湾曲凸面とすることもできる。滑らかに連続して上方に凸の弧状に湾曲する湾曲凸面とした場合には、毛束15ごとの平均高さの最小値と最大値との差は、好ましくは1mm以下であり、より好ましくは0.5mm以下であり、さらに好ましくは0.2mm以下である。
本実施形態では、長手方向中央部植毛領域19の主植毛穴14a(14b,14c,14e)に植設された複数の毛束15は、当該毛束15を構成するテーパーブリッスル16の先端を連ねて形成される仮想の先端ブラシ面30が、歯と歯茎へのブラッシング圧を軽減し、テーパーブリッスル16に特有の尖鋭なブリッスル先端による刺激を防止する観点、及びよりなめらかな感触を歯茎に与える観点から、植毛台11の長手方向Xから見た際に、好ましくは滑らかに連続する平坦な面となっているか、より好ましくは、滑らかに連続して上方に凸の弧状に湾曲する、湾曲凸面となっている。
そして、本実施形態の歯ブラシで10は、図2に示すように、長手方向中央部植毛領域19における、植毛台の長手方向の最大長さLに対する、植毛台11の長手方向Xと垂直な方向(幅方向)Yの最大幅hの比(h/L)が、0.9〜2となっており、長手方向中央部植毛領域19における、植毛台11の長手方向Xと垂直な方向(幅方向)Yの最大幅hが、10〜17mmとなっており、長手方向中央部植毛領域19の面積を、主植毛穴14aの数で割った値である、主植毛穴14aの平均占有単位面積が、1.5〜4mm2となっている。
ここで、長手方向中央部植毛領域19における、植毛台11の長手方向Xの最大長さLに対する、幅方向Yの最大幅hの比(h/L)は、歯ブラシの刷掃圧を軽減し、テーパーブリッスル16の尖鋭な先端によるチクチクする感触を抑制する観点から、0.9以上であり、好ましくは1.0以上であり、より好ましくは1.1以上であり、さらに好ましくは1.15以上である。植毛台11の長手方向Xの最大長さLに対する、幅方向Yの最大幅hの比(h/L)は、歯ブラシの口腔内における操作性の観点から、2以下であり、好ましくは1.7以下であり、より好ましくは1.4以下である。
また、長手方向中央部植毛領域19における、植毛台11の長手方向Xの最大長さLに対する、幅方向Yの最大幅hの比(h/L)は、0.9以上2以下であり、好ましくは1.0〜1.7であり、より好ましくは1.1〜1.4であり、さらに好ましくは1.15〜1.4である。
長手方向中央部植毛領域19における、植毛台11の幅方向Yの最大幅hは、歯ブラシの刷掃圧を軽減して歯茎への刺激を低減しながら、歯ブラシを歯と歯茎に十分に接触させ、しかもテーパーブリッスル16の尖鋭な先端による刺激を抑制する観点から、10mm以上であり、好ましくは11mm以上である。
また、長手方向中央部植毛領域19における、植毛台11の幅方向Yの最大幅hは、歯ブラシの口腔内における操作性の観点から、17mm以下であり、好ましくは15mm以下であり、より好ましくは13mm以下である。長手方向中央部植毛領域19における、植毛台11の幅方向Yの最大幅hは、10mm以上17mm以下であり、好ましくは11〜15mmであり、より好ましくは11〜13mmである。
さらに、長手方向中央部植毛領域19における、長手方向Xの最大長さLは、使用者のブラッシング圧によらず歯ブラシの刷掃圧を軽減する観点から、好ましくは6mm以上であり、より好ましくは7mm以上であり、さらに好ましくは8.5mm以上である。そして、長手方向中央部植毛領域19における、長手方向Xの最大長さLは、歯ブラシの口腔内における操作性の観点、奥歯の磨きやすさの観点から、好ましくは20mm以下であり、より好ましくは15mm以下であり、さらに好ましくは12mm以下である。また、長手方向中央部植毛領域19における、長手方向Xの最大長さLは、好ましくは6〜20mmであり、より好ましくは6〜15mmであり、さらに好ましくは7〜12mmであり、よりさらに好ましくは8.5〜12mmである。
長手方向中央部植毛領域19の面積を、主植毛穴14aの数で割った値である、主植毛穴14aの平均占有単位面積は、植毛台の耐久性、製造性の観点から、1.5mm2以上であり、好ましくは2mm2以上である。また植毛穴14aの相互の距離を短くして密度の高い植毛を実現し、歯ブラシの刷掃圧を軽減し、かつ、テーパーブリッスル16の尖鋭な先端による刺激をも緩和する観点から、4mm2以下であり、好ましくは3.5mm2以下である。
また、主植毛穴14aの平均占有単位面積は、1.5mm2以上4mm2以下であり、好ましくは1.5〜3.5mm2であり、より好ましくは2〜3mm2である。
本実施形態では、長手方向中央部植毛領域19に含まれる主植毛穴14a(14b,14c,14e)の数が、好ましくは20〜80個(本実施形態では45個)である。長手方向中央部植毛領域19に含まれる主植毛穴14a(14b,14c,14e)の数は、歯ブラシの刷掃圧を軽減し、テーパーブリッスル16の感触を改善する観点から、20個以上であり、好ましくは25個以上であり、さらに好ましくは30個以上である。また植毛台の耐久性と口腔内における操作性のバランスの観点から、80個以下であり、好ましくは60個以下であり、さらに好ましくは40個以下である。
また、長手方向中央部植毛領域19に含まれる主植毛穴14a(14b,14c,14e)の数は、20個以上80個以下であり、好ましくは25〜60個であり、より好ましくは30〜40個である。
本実施形態では、主植毛穴14a(14b,14c,14e)の植毛台11の植毛面11aにおける横断面積の平均は、個々の植毛穴の占める面積をより小さくすると共に、植毛穴間の距離を短くすることにより、歯ブラシによる刷掃圧を軽減し、テーパーブリッスル16に特有の刺激を軽減する観点から、好ましくは0.6〜1.4mm2であり、より好ましくは0.7〜1.3mm2であり、さらに好ましくは0.8〜1.2mm2である。
本実施形態では、先端側植毛領域20や基端側植毛領域21に設けられた、主植毛穴14a(14b,14c,14e)以外の植毛穴である副植毛穴14f,14gの、植毛台11の植毛面11aにおける横断面積の平均は、製造性と、長手方向中央植毛領域における刷掃圧力の軽減と、テーパーブリッスル16の感触を良好とする観点から、好ましくは0.6〜1.4mm2であり、より好ましくは0.7〜1.3mm2であり、さらに好ましくは0.8〜1.2mm2である。また好ましくは長手方向中央植毛領域19の主植毛穴14a(14b,14c,14e)の横断面積の平均以下であり、より好ましくは長手方向中央植毛領域19の主植毛穴14a(14b,14c,14e)の横断面積より小さい。
本実施形態では、上述のように、長手方向央部植毛領域19の主植毛穴14aは、幅方向中央部分に設けられた複数の幅方向中央部主植毛穴14bと、幅方向中央部分の両側の幅方向外側部分に設けられた複数の幅方向外側部主植毛穴14cとを含んでおり、幅方向中央部主植毛穴14bの植毛台11の植毛面11aにおける横断面積が、好ましくは1.0〜1.6mm2となっており、幅方向外側部主植毛穴14cの植毛台11の植毛面11aにおける横断面積が、好ましくは0.4〜0.9mm2となっている。幅方向中央部主植毛穴14bの横断面積が1.0〜1.6mm2となっており、且つ幅方向外側部主植毛穴14cの横断面積が0.4〜0.9mm2となっていることが、歯と歯茎に対する刷掃圧を軽減しながら、汚れ除去性能を高める観点から好ましい。
より好適には、本実施形態では、幅方向中央部主植毛穴14bは、植毛台11の植毛面11aにおける横断面形状が、例えば短軸が0.5mm、長軸が1.6mmの大きさのトラック円形状となっている。幅方向中央部主植毛穴14bは、短軸方向を植毛台11の長手方向Xに沿わせて、一列に連設配置されて6箇所に設けられている。各々の幅方向中央部主植毛穴14bは、1.39mm2の横断面積(開口面積)を有している。幅方向外側部主植毛穴14cは、植毛台11の植毛面11aにおける横断面形状が、例えば直径が1mmの大きさの円形となっており、0.79mm2の横断面積(開口面積)を有している。本実施形態では、長手方向央部植毛領域19に設けられた補助主植毛穴14eや、先端側植毛領域20及び基端側植毛領域21に設けられた先端側副植毛穴14f及び基端側副植毛穴14gもまた、植毛台11の植毛面11aにおける横断面形状が、例えば直径が1mmの大きさの円形となっており、0.79mm2の横断面積(開口面積)を有している。
本実施形態の歯ブラシ10が備える植毛台11の厚みは、刷掃圧を軽減しながら十分な汚れ除去性能を実現する長手方向中央部植毛領域19を備えつつ、口腔内における歯ブラシ10の操作性及び奥歯の磨きやすさを実現する観点から、好ましくは5mm以下であり、より好ましくは4.5mm以下であり、さらに好ましくは4mm以下である。そして、植毛台11の厚みは、歯ブラシ10の耐久性と製造性の観点から、好ましくは2.5mm以上であり、より好ましくは3mm以上である。また、植毛台11の厚みは、好ましくは2.5〜5mmであり、より好ましくは3〜4.5mmであり、さらに好ましくは3〜4mmである。なお、植毛台11の厚みは、長手方向中央部植毛領域19における平均厚みであって、植毛穴14が形成されていない領域の表面から背面までの平均の厚みである。
そして、上述の構成を備える本実施形態の歯ブラシ10によれば、歯茎51が腫れていたり歯茎51に炎症を起こしている場合でも、痛みを感じることを抑制し、痛みを感じにくくしながら歯50や歯茎51を効果的に磨くことが可能になると共に、歯50と歯茎51の境目部分52のみならず、歯50や歯茎51の表面も効果的に刷掃することが可能になる。
すなわち、本実施形態の歯ブラシ10によれば、複数本のテーパーブリッスル16を束ねてなる毛束15が植設されており、長手方向中央部植毛領域19における、植毛台11の長手方向の最大長さLに対する、植毛台11の長手方向Xと垂直な方向Yの最大幅hの比(h/L)が、0.9〜2となっており、長手方向中央部植毛領域19における、植毛台11の長手方向Xと垂直な方向Yの最大幅hが、10〜17mmとなっており、且つ長手方向中央部植毛領域19の面積を、主植毛穴14aの数で割った値である、主植毛穴14aの平均占有単位面積が、1.5〜4mm2となっているので、従来の歯ブラシよりも横幅が広くなった長手方向中央部植毛領域19に、比較的束径の小さなテーパーブリッスル16による毛束15を、ばらつきを少なくすると共に適度に密集させた状態で植設することが可能になる。
これによって、図4に示すように、例えば歯50と歯茎51の境目部分52を歯50や歯茎51と共に刷掃する際に、テーパーブリッスル16のテーパー形状部分16aによる先端を、押付け力を広範囲に分散しながら、面として歯50や歯茎51に押し付けることが可能になるので、歯茎51が腫れたり歯茎51に炎症を起こしていて、例えば歯肉の腫れ・出血部分51a等が生じている場合でも、痛みを感じることを抑制、或いは防止し、歯50や歯茎51を効果的に磨くことが可能になると共に、ばらつきが少なく適度に密集させた状態で配置された毛束15のテーパーブリッスル16によって、歯50と歯茎51の境目部分52のみならず、歯50や歯茎51の表面も効果的に刷掃することが可能になる。
なお、本発明は上記実施形態に限定されることなく種々の変更が可能である。例えば、長手方向央部植毛領域の主植毛穴は、幅方向中央部分に設けられた主植毛穴と、幅方向外側部分に設けられた主植毛穴とで、その大きさ又は形状が異なっている必要は必ずしも無く、同じ大きさ及び形状となるように形成されていても良い。
以下、実施例及び比較例により、本発明の歯ブラシをさらに詳細に説明するが、本発明は、以下の実施例及び比較例の記載によって何ら制限されるものではない。
〔実施例1〜3、比較例1〜5〕
表1の実施例2の歯ブラシは、上述の図1〜図3に示す実施形態の歯ブラシと同様の構成を有するもので、植毛台の植毛面に、図2に示す配置で、長手方向中央部植毛領域に配置される主植毛穴と、先端側植毛領域及び基端側植毛領域に配置される副植毛穴とが形成されている。なお、表1中の「R0.5−1.6×6」は、植毛台の植毛面における横断面形状が、短軸0.5mm、長軸1.6mmのトラック円形状の植毛穴が6個存在することを示し、「φ1.0×63」は、植毛台の植毛面における横断面形状が、直径1.0mmの円形の植毛穴が63個存在することを示す。また、実施例1〜3及び比較例5の歯ブラシの植毛台の厚みは3.5mmであり、比較例1〜4の歯ブラシの植毛台の厚みは5mmである。
植毛穴の形状や配列、寸法、ブリッスルの直径等を表1に示すように変更した以外は、実施例2と同様の構成を有する歯ブラシを実施例1、3の歯ブラシ、及び比較例1〜5の歯ブラシとした。実施例1〜3及び比較例5の歯ブラシでは、各々の毛束は、融着植毛によって植毛穴に植設されており、比較例1〜4の歯ブラシでは、平線によって植毛穴に植設されている。毛束を構成するブリッスルは、全て先端部分にテーパー形状部分を備えるテーパーブリッスルとなっている。
実施例1〜3の歯ブラシ、及び比較例1〜5の歯ブラシの各々について、各植毛穴の横断面積、横断面積の総和、各植毛穴に植設されるブリッスルの本数及び充填率の値を算定した。算定結果を表1に示す。横断面積の異なる2種類の植毛穴を備える実施例1〜3及び比較例4の歯ブラシについては、横断面積の異なる各々の植毛穴について、各植毛穴の横断面積、横断面積の総和、各植毛穴に植設されるブリッスルの本数及び充填率の値を算定した。また、実施例1〜3の歯ブラシ、及び比較例1〜5の歯ブラシの各々について、長手方向中央部植毛領域における、面積、植毛台の長手方向の最大長さ、植毛台の幅方向の最大幅、及び植毛台の長手方向の最大長さに対する植毛台の幅方向の最大幅hの比(h/L)の値と、主植毛穴の数と、長手方向中央部植毛領域の面積を主植毛穴の数で割った値である、主植毛穴の平均占有単位面積の値とを算定した。算定結果を表1に示す。さらに、実施例1〜3の歯ブラシ、及び比較例1〜5の歯ブラシの各々について、主植毛穴の植毛台の植毛面における横断面積の平均と、主植毛穴以外の植毛穴の、植毛台の植毛面における横断面積の平均とを算定した。算定結果を表1に示す。
実施例1〜3の歯ブラシ、及び比較例1〜5の歯ブラシの各々について、以下のようにして、テーパーブリッスルの歯茎への感触等に関する評価、歯面凹凸モデルの歯垢除去率評価試験、やわらかい表面の刷掃痕深さ評価試験、及び刷掃シミュレーション解析を行った。なお、比較例5の歯ブラシは刷掃シミュレーション解析のみ行った。
〔テーパーブリッスルの感触〕
テーパーブリッスルの歯茎への感触等に関する評価では、表2に示すように、「テーパーブリッスルの歯茎への感触」、「歯と歯茎の間の汚れ落ち感」、「毛先が歯と歯茎の間に深く届く感じ」、「ブラシ部分の毛の密着性」、「奥歯の磨きやすさ」、「お口の中での操作性の良さ」を評価項目とした。歯茎への刺激が気になると答えた5名をパネラーとして、実施例1〜3の歯ブラシ、及び比較例1〜4の歯ブラシを実際に使用してもらい、非常に良い:3点、良い:2点、普通:1点として、3段階のスコアーによって評価してもらった。5名のパネラーのスコアーの平均値による評価結果を表2に示す。
表2に示す評価結果では、本発明に係る実施例1〜3の歯ブラシは、いずれの評価項目についても、良好な評価結果が得られていることが判明する。
〔歯面凹凸モデルの歯垢除去率評価試験〕
歯の表面には、全体に30〜120μm程度の幅及び深さの微細な凹凸が形成されていることから、微細な凹凸を表面に形成した歯面の凹凸モデルに、歯垢モデルを付着させた歯面汚れ凹凸モデルを作成した。すなわち、歯面汚れ凹凸モデルは、凹凸モデルとして、縦15mm×横15mm×厚さ3mmのステンレス鋼の表面に、角が90°で直線状の、幅90μm、深さ100μmの溝を620μmの間隔で複数設けたものを使用し、この凹凸モデルの表面に、歯垢モデルとしてアイライナー(「サナ スーパークイックアイライナー EX01」、常盤薬品工業製)を用いて、これを溝内に擦り込んで充填した状態で塗布することによって作成した。
作成した歯面汚れ凹凸モデルを、アルミ板(30mm×80mm×5mm)の中央に設けた15mm×15mm×3mmの正方形の凹部に嵌め込み、ブラッシングマシーンを用いて、実施例1〜3、及び比較例1〜4の各々の歯ブラシにより、歯面汚れ凹凸モデルの表面に対するブラッシング試験を行った。刷掃条件は、荷重:200g、ストローク幅:30mm、ストローク速度:120rpm、ストローク数:50回(往復50回)、刷掃方向:歯面汚れ凹凸モデルの溝の方向に平行な方向とした。ブラッシングは、各々の歯ブラシの毛先に、歯磨剤として「ディープクリーンバイタルD」(花王(株)社製)2gを塗布した状態で行った。
ブラッシングの後に、歯垢モデルの体積の除去率を、「3DマイクロスコープVR−3100(×25)」(株式会社キーエンス社製)を用いて、測定範囲を12×9mmとして解析した。解析結果を表3に示す。
表3に示す解析結果では、本発明に係る実施例1〜3の歯ブラシは、比較例1〜4の歯ブラシと比較して、高い歯垢除去率が得られており、歯面に対する汚れ落ち効果が高いことが判明する。なお、歯垢除去性能は、歯ブラシのブリッスルの数が多いほど高くなることから、歯垢除去率を歯ブラシの植毛穴の総面積で除した数値により比較することが好ましい。表3に示すように、植毛穴の単位面積あたりの歯垢除去性能は、本発明に係る実施例1〜3の歯ブラシが極めて高いことが認められる。
〔歯茎モデルの表面の刷掃痕深さ評価試験〕
図5に示すように、歯茎モデルとして、シリコンシート55(硬度10/厚み約3mm)の上に、両面テープ56(厚み約90μm)を用いて、インクリボン57(厚み約3μm)を貼り付けたものを作成した。作成した歯茎モデルの表面モデルとなる、インクリボン57(厚み約3μm)による柔軟なやわらかい表面を、ブラッシングマシーンを用いて、実施例1〜3、及び比較例1〜4の各々の歯ブラシにより刷掃させた。刷掃させた後のインクリボン57の表面の状態を、「3DマイクロスコープVR−3100(×12)」(株式会社キーエンス社製)を用いて観察することで、歯茎モデルの表面の刷掃痕深さを解析した。測定範囲は20×10mmとした。刷掃条件は、荷重:300g、ストローク幅:20mm、ストローク速度:120rpm、ストローク数:120回とした。解析結果を上記の表3に示す。
表3に示す刷掃痕深さの解析結果では、本発明に係る実施例1〜3の歯ブラシは、比較例1〜4の歯ブラシと比較して、歯茎モデルの表面に対する刷掃痕深さが浅くなっており、毛先の当たりが優しくなっていることが判明する。
〔刷掃シミュレーション解析〕
歯のフラットな面のモデルを想定した刷掃面を使用し、この刷掃面を歯ブラシで刷掃したときに刷掃面に対して加わる摩擦力を、コンピューター上でシミュレートできるプログラムを用い、実施例1〜3、及び比較例1〜5の各々の歯ブラシの刷掃性能を評価した。上述のプログラムでは、水平方向をx軸、鉛直上向き方向をy軸と定義し、刷掃面は、図6(a)に示すモデルを設定した。具体的には、xy平面上でy軸を中心線とした平坦な面であって、水平線がx軸の正、負方向に無限に延びている。この線分がxy両軸と直交するz軸方向に無限に延びているものを仮想の刷掃面とした。
歯ブラシは、植毛台の植毛面を水平に保ち、毛先が下向きで、歯ブラシの長手方向をx軸に一致させた状態とする。刷掃方向はx軸方向(歯ブラシの長手方向)とし、毛束の変形はxy平面上のみで起こるものとする。歯ブラシの台座部分(植毛台部分)に鉛直方向下向きに一定の荷重を加えた状態で、歯ブラシを、x軸方向に移動させた。歯ブラシの台座部分に加わる荷重(150gfに設定)が、毛束に加わる荷重の合計量とした。また、歯ブラシの毛束は、歯ブラシの移動方向に応じて図6(b)及び(c)に示す方向に傾斜するものとした。
歯ブラシの植毛仕様やブラッシング条件を計算条件として入力し、上述の仮想の刷掃面上を歯ブラシで刷掃したときの毛束先端の摩擦力をシミュレートした。このシミュレーションでは、歯ブラシの植毛仕様として、毛束の長さ(植毛台からの長さ)、各毛束を構成するブリッスルの径、ブリッスルの本数、ブリッスルの形状(例えば、ブリッスルの先端がテーパー状、ラウンド状等の区別)、各毛束を構成する植毛穴の横断面の形状(例えば、円形、長円形等の区別)、植毛穴の横断面のサイズ(横断面が円形の場合は径、長円形の場合は長軸と短軸の長さ)、各々の形状の植毛穴のそれぞれの数等を入力した。さらにブリッスルの材質としてはナイロンに統一し、ヤング率を2.0×10-9Paとし、ブラッシング条件として、刷掃面の摩擦係数を0.3として計算した。また、このプログラムは梁のモデルを基本とし、図6(b)、(c)に示すように、ブリッスルの撓み形状を直線として近似して計算した。
このシミュレーションの結果として、仮想の刷掃面上の各部分に対して、毛束が通過したときの摩擦力の歯ブラシの全毛束についての和を、刷掃面上にプロットしたものを、図7〜図9に示した。図7〜図9に示すグラフは、台座(植毛台)の長手方向中心線を挟む両側のうちの一方の側のみを示したものである。
図7(a)は、実施例1の歯ブラシについてのシミュレート結果を示すものである。図7(b)は、実施例2の歯ブラシについてのシミュレート結果を示すものである。図7(c)は、実施例34の歯ブラシについてのシミュレート結果を示すものである。図8(a)は、比較例1の歯ブラシについてのシミュレート結果を示すものである。図8(b)は、比較例2の歯ブラシについてのシミュレート結果を示すものである。図8(c)は、比較例3の歯ブラシについてのシミュレート結果を示すものである。図9(a)は、比較例4の歯ブラシについてのシミュレート結果を示すものである。図9(b)は、比較例5の歯ブラシについてのシミュレート結果を示すものである。
図7〜図9に示すシミュレート結果によれば、比較例1〜5の歯ブラシは摩擦力が非常に強いか、摩擦力の高い領域と、低い領域の差が大きいのに対して、実施例1〜3の歯ブラシは、全体に摩擦力が低く、摩擦力が極めて高い領域等が見当たらなく、摩擦力にムラが生じにくいことが判明する。
表4に、図7〜図9に示されたシミュレート結果について、各々の摩擦力の区分に対応するカウント数と、各々の摩擦力の区分に対応するカウント数の、全カウント数に対する割合を示す。表4に示す、各々の摩擦力の区分に対応するカウント数や、各々の摩擦力の区分に対応するカウント数の割合から、本発明に係る実施例1〜3の歯ブラシは、12gf以下の摩擦力のカウント数が多く、3〜12gfの摩擦力のカウント数が多いのに対して、比較例1〜5の歯ブラシは、12gf以上の摩擦力のカウント数が極めて多い、又は3gf以下の摩擦力のカウント数が多いことが判明する。