JP2016076369A - リチウムイオン二次電池 - Google Patents

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秀康 田中
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Abstract

【課題】リチウムイオン二次電池の正極活物質として好適なリチウム含有金属酸化物を含有する正極合剤層を有することによって、高容量と高いレート特性とが両立されたリチウムイオン二次電池を提供すること。
【解決手段】正極活物質を含有する正極を有するリチウムイオン二次電池であって、前記正極は、特定のリチウム含有金属酸化物を含有する正極合剤層を有しており、前記リチウムイオン二次電池を満充電した時の充電容量をQとし、該満充電状態から放電量が0.2Qとなるまで0.3Cで放電した時の内部抵抗をR1とし、前記内部抵抗R1測定後に、引き続いて放電量が合計0.8Qとなるまで0.3Cで放電した時の内部抵抗をR2とした時に、数式R2<R1×4.7の関係を満足することを特徴とする、前記リチウムイオン二次電池。
【選択図】なし

Description

本発明は、リチウムイオン二次電池に関する。詳しくは、高容量かつ高いレート特性を有するリチウムイオン二次電池に関する。
近年の環境技術への関心の高まりに伴い、太陽光発電、風力発電などによって生み出された電気エネルギーの蓄電用途;電気自動車のバッテリー用途などにおいて、蓄電デバイスに対する期待はますます高くなっている。特に、蓄電デバイスの代表であるリチウムイオン二次電池には、蓄電能力向上のために、さらなる高容量化が求められている。リチウムイオン二次電池の容量は、電池内の正極における正極活物質のリチウム含有量に支配される。そのため、リチウム含有量が多い正極活物質を用いることにより、リチウムイオン二次電池の高容量化が期待できる。
正極活物質は、一般に、1種類または複数種類のリチウム含有金属酸化物の結晶から構成される。リチウム含有金属酸化物として、組成式LiMeO{式中、MeはLi以外の1種類以上の金属元素、好ましくは遷移金属元素である。}で表される層状リチウム酸化物結晶を用いる現在のリチウムイオン二次電池の実容量は約160mAh/gであり、これ以上容量を増やすことは現実的に困難な状況になっている。
これに対して、リチウムの含有量がより高い組成式LiMnOで表される層状リチウム酸化物結晶は、理論容量が約450mAh/gと高く、特許文献1にあるように、この結晶を含有するリチウム含有金属酸化物を正極活物質に用いることにより、リチウムイオン二次電池の容量を高めることができ、有望な正極活物質として期待されている。
米国特許第6677082号明細書
しかし、組成式LiMnOで表される層状リチウム酸化物結晶は、一般に、電気抵抗が大きく、放電時に大電流を流すことが難しい。すなわち、電池として用いた場合にレート特性が悪いという問題がある。該結晶の高い容量を大電流時にも十分に発現させる目的で、該結晶と他の1種類以上のリチウム含有金属酸化物の結晶とを併用(それらの結晶同士が互いに固溶した固溶体も含む)した正極活物質を用いる検討が多数なされている。しかしながら、上記の問題は依然として解決されておらず、現状では実用化には至っていない。
かかる事情に鑑みて、本発明が解決しようとする課題は、リチウムイオン二次電池の正極活物質として好適なリチウム含有金属酸化物を含有する正極合剤層を有することによって、高容量と高いレート特性とが両立されたリチウムイオン二次電池を提供することである。
組成式LiMnOで表される層状リチウム酸化物結晶を有するリチウム含有金属酸化物のレート特性が悪い原因は、該酸化物の電気抵抗が大きいことにあると指摘されている。つまり、リチウムイオン二次電池の内部抵抗が大きく、そのため、大電流が流れた時には電池の電圧が低下して電池として機能しなくなることによると指摘されているのである。しかし、その詳細は理解されていない。
本発明者らは、特定の理論に束縛されることを好まないが、レート特性の悪い原因が、単にリチウム含有金属酸化物の電気抵抗が大きいことのみに起因するのではなく、該酸化物の電気抵抗がリチウムイオンのSOC(State Of Charge)に依存することが原因であると推察している。
SOCとは、充電率を意味する。SOCは、該酸化物からリチウムイオンが脱離していくほど(すなわちリチウムイオン二次電池が充電されていくほど)高いパーセンテージを示し、リチウムイオン二次電池が満充電の状態が100%と定義される。逆に、該酸化物にリチウムイオンが挿入されていくほど(すなわちリチウムイオン二次電池が放電されていくほど)低いパーセンテージを示し、リチウムイオン二次電池が完全放電した状態が0%と定義される。
電池を充電した後に放電する場面において、高SOCで電圧が高い放電前半は、該酸化物の電気抵抗は小さく、従って大電流を流し易い。これに対して、低SOCで電圧が低い放電後半は、該酸化物の電気抵抗が増大し、従って大電流が流れ難くなる。その結果、放電後半においては、電流が大きいほどリチウムイオン二次電池の電圧が低下し、電池として機能し難くなり、遂には放電が停止してしまう。本発明者らは、上記の現象が、組成式LiMnOで表される層状リチウム酸化物結晶を有するリチウム含有金属酸化物のレート特性が悪くなる原因であると推定している。
リチウム含有金属酸化物の電気抵抗がSOCに依存して前述のように変化するならば、単に該酸化物の電気抵抗を低減させることではなく、該酸化物の低SOCにおける電気抵抗を低減させることによってこそ、該酸化物を正極活物質に用いたリチウムイオン二次電池のレート特性が向上することが期待される。
本発明者らは、上記の仮説に従って鋭意検討を行った。その結果、該酸化物の高SOCでの電気抵抗を低減させずとも(場合によっては高SOCでの電気抵抗が若干増大しても)、低SOCでの電気抵抗を低減させることにより、高いレート特性が発現することを見出し、本発明を完成するに至ったのである。特記すべきは、上記の効果が、低SOCにおける電気抵抗を低減させる手法に依存せずに発現することである。
本発明は以下のとおりである。
[1] 正極活物質を含有する正極を有するリチウムイオン二次電池であって、
前記正極は、正極活物質として、下記組成式(1):
LiMn1−x3−α・・・(1)
{式中、M’は、MnおよびLi以外の1種類以上の金属元素であり、そして0≦x<1、および0≦α<1の関係を満足する。}で表されるLiが層状に配列した層状結晶構造を有するリチウム含有金属酸化物を含有する正極合剤層を有しており、そして
前記リチウムイオン二次電池を、Li金属に対する正極電位が4.6Vとなるまで0.3Cで満充電した時の充電容量をQとし、
該満充電状態から放電量が0.2Qとなるまで0.3Cで放電した後に、1分間の放電休止法によって算出される該電池の内部抵抗をR1とし、
前記内部抵抗R1測定後に、引き続いて放電量が0.8Qとなるまで0.3Cで放電した後に、1分間の放電休止法によって算出される該電池の内部抵抗をR2とした時に、下記数式(2):
R2<R1×Σ・・・(2)
{数式(2)中、Σ=4.7である。}の関係を満足することを特徴とする、前記リチウムイオン二次電池。
[2] 前記式(1)中のMが、Ni、Co、Al、Mn、Mo、W、Ce、Nb、Mg、Fe、Cu、Ti、Sn、Pb、V、Zn、Ga、Ge、およびZrから選ばれる少なくとも1種である、[1]に記載のリチウムイオン二次電池。
本発明のリチウムイオン二次電池は、高容量かつ高いレート特性を有するため、例えば電気自動車の駆動電源用、定置型電源用、モバイル機器の電源用などの電池として、好適に利用可能である。
以下、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という。)について詳細に説明する。以下の本実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明を限定することを意図するものではない。本発明は、その要旨の範囲内で適宜に変形して実施できる。
前述したように、本実施形態にかかるリチウムイオン二次電池は、正極活物質として、下記組成式(1):
LiMn1−x3−α・・・(1)
{式中、Mは、MnおよびLi以外の1種類以上の金属元素であり、そして0≦x<1、および0≦α<1の関係を満足する。}で表されるLiが層状に配列した層状結晶構造を有するリチウム含有金属酸化物を含有する正極合剤層を有している。
以下、リチウム含有金属酸化物について説明する。
<リチウムイオン含有金属酸化物>
組成式(1)で表されるLiが層状に配列した層状結晶構造としては、空間群
Figure 2016076369
に帰属される結晶構造でもよいし、空間群C2/mに帰属される結晶構造でもよいし、もしくは空間群P312に帰属される結晶構造でもよいし、またはこれらが混在した構造でもよい。
組成式(1)で表されるLiが層状に配列した層状構造が、MnおよびLi以外の金属元素Mを有する場合、該Mは特に限定されるものではないが、本実施形態として好ましいものは、Ni、Co、Al、Mo、W、Ce、Nb、Mg、Fe、Cu、Ti、Sn、Pb、V、Zn、Ga、Ge、およびZrから選ばれる1種以上である。なかでも、3d軌道の有効核電荷が大きい金属元素が、リチウムイオン二次電池の起電力を向上させるという点で好ましく、有効核電荷が6以上のFe、Co、およびNiから選ばれる1種以上がより好ましく、最も有効核電荷が大きいNiが、特に好ましい。また、高容量を発現し易いとの観点からは、多くの価数状態をとれる金属元素、特に第6族の遷移金属元素であるMoおよびWから選ばれる1種以上が好ましい。
Mnおよび金属元素Mは、組成式(1)で表される層状結晶構造内で均一に分散していることが好ましい。このことは、同種の金属元素が凝集していないことが好ましいことを意味する。この要件は、同種の金属元素の凝集が存在すると、その凝集部分が所望の層状結晶構造とは異なる構造になる可能性があるから、これを排除する趣旨である。
前記組成式(1)で表される層状結晶構造が正極中の正極活物質を構成するリチウム含有金属酸化物中に占める質量割合は、20質量%以上80質量%以下であることが好ましく、より好ましくは25質量%以上75質量%以下であり、25質量%以上70質量%以下であることが最も好ましい。組成式(1)で表される層状結晶構造の割合が20質量%未満であると、高容量を発現する組成が不足して電池の容量が低下する可能性がある。また、同割合が80質量%超過であると、リチウム含有金属酸化物の電気抵抗値が十分に下がらず、レート特性が改善されない可能性がある。
組成式(1)で表される層状結晶構造の割合が20質量%以上80質量%以下である場合、該リチウム含有金属酸化物の結晶を収束イオンビームなどの適宜の方法により厚さ約100nm以下の薄片に加工し、空間群
Figure 2016076369
における方位
Figure 2016076369
に沿って電子線を結晶に入射させた際に得られる制限視野電子線回折像に、1/3周期で直線状のストリーク構造が現れる。
また、透過型電子顕微鏡を用いて、結晶薄片を特定の方位から観察した暗視野像には、結晶軸方向に沿って、結晶内の金属原子に対応する明点の並びが現れる。組成式(1)で表される層状結晶構造の場合には、上記の厚さ約100nm以下の薄片を上記の方位から観察した場合に、結晶のa軸またはb軸の方向に沿って、2つの明るい明点の並びの次に少し暗い明点が1つ現れる、3原子ごとの周期構造を有する明点が観察される。組成式(1)で表される層状結晶構造の割合が20質量%以上80質量%以下である場合、この周期構造の割合は、視野中の約10%〜90%を占めることになる。
さらに、初回充放電を経る前のリチウム含有金属酸化物のX線構造解析を行うと、X線としてCu−Kαを用いた場合、回折角2θが20°<2θ<25°の範囲に、空間群C2/mに対応する超格子ピークが発現する。
従って、組成式(1)で表される層状結晶構造の有無およびそのおおよその割合は、制限視野電子線回折、透過型電子顕微鏡像、および/またはX線構造解析によって知ることができる。
本実施形態にかかるリチウムイオン二次電池は、正極中の正極活物質を構成するリチウム含有金属酸化物の低SOCでの電気抵抗が低減されている。その結果、低SOCにおけるリチウムイオン二次電池の内部抵抗が減少し、高いレート特性を発現する。この時、高SOCでの電気抵抗は低減させずとも、さらには場合によっては高SOCでの電気抵抗が若干増大しても、高いレート特性が発現する。
本実施形態におけるリチウム含有金属酸化物の高SOCおよび低SOCでの電気抵抗を反映する、高SOCおよび低SOCでのリチウムイオン二次電池の内部抵抗の比を、以下に定義する。
リチウムイオン二次電池を、0.3C(ここで、1Cの定義はリチウムイオン二次電池を所定の電圧まで1時間で充電できる電流量である)の電流量Iで、Li金属に対する正極電位が4.6Vとなるまで満充電する(SOC100%)。この時の充電容量をQとする。
この満充電状態から、放電量が0.2Qとなるまで0.3Cの電流量Iで放電する。その後、放電を1分間休止し、その1分間における電圧の上昇量△V1を調べる。この△V1を0.3Cにおける電流量Iで割った値を、該電池の内部抵抗R1とする。すなわち、R1の定義は下記式(3)
R1=△V1/I・・・(3)
である。
次に、前記内部抵抗測定後の電池について、同様に0.3Cの電流量Iで放電を再開し、前記満充電状態からの合計放電量が0.8Qとなるまで放電した後に、同様に放電を1分間休止した時の、該1分間における電圧の上昇量△V2を調べる。この△V2を0.3Cの電流量Iで割った値を該電池の内部抵抗R2とする。すなわち、R2の定義は下記式(4)
R2=△V2/I・・・(4)
である。
以上の定義から明らかなように、
内部抵抗R1は、電圧が高く、高SOC(SOC80%)におけるリチウムイオン二次電池の内部抵抗を、
内部抵抗R2は、電圧が低く、低SOC(SOC20%)におけるリチウムイオン二次電池の内部抵抗を、
それぞれ示す値である。これらの内部抵抗値は、それぞれ、正極中の正極活物質を構成するリチウム含有金属酸化物の高SOCおよび低SOCにおける電気抵抗の大きさを強く反映する。
ここで、前記内部抵抗R1とR2とが、前記数式(2)の関係を満足する場合、正極中の正極活物質を構成するリチウム含有金属酸化物の、低SOCにおける電気抵抗の低減が十分となり、リチウムイオン二次電池は高いレート特性を発現するのである。
リチウムイオン二次電池がより高いレート特性を発現するために、前記数式(2)におけるΣの値は、4.7より小さいことが好ましく、4.0であることがより好ましく、3.3であることが特に好ましい。
リチウムイオン二次電池は、初回充放電時および2回目の充放電時には(比較的大きな)不可逆容量が観察される。また、上記R1およびR2の測定に先立って、充電容量Qの値を知る必要があるから、少なくとも1回の充電操作が必要である。従って、上記のR1およびR2の測定は、初回充放電を含めて3回目以降の充放電サイクルの時に行われることが好ましい。
一方、電池は充放電サイクルの繰り返しに伴って、多かれ少なかれ劣化するから、上記R1およびR2の測定は、電池の劣化が有意とならない充放電サイクル数のうちに行うことが好ましい。この充放電サイクル数としては、例えば100回以下の数値を例示することができ、好ましくは50回以下である。
また、上記R1およびR2の測定は、負極にLi金属を用いたリチウムイオン二次電池で行われることが好ましい。Li金属以外の負極(例えばグラファイト、合金金属など)を用いたリチウムイオン二次電池の場合には、該二次電池より正極を取り出して、負極にLi金属を用いたリチウムイオン二次電池に組み直して上記R1およびR2の測定を行うことができる。この操作によって得られた上記R1およびR2の値が前記数式(2)の関係を満たしている場合、Li金属以外の負極を用いたリチウムイオン二次電池についても、本実施形態にかかるリチウムイオン二次電池の要件を満たしていると見做すことができる。
本実施形態にかかるリチウムイオン二次電池は、
正極中の正極活物質を構成するリチウム含有金属酸化物が、組成式(1)で表されるLiが層状に配列した層状結晶構造を有するリチウム含有金属酸化物を有するものであり、そして、
前記電池が前記数式(2)の関係を満足するものであれば、特に限定されない。
本実施形態にかかるリチウムイオン二次電池における正極中の正極活物質を構成するリチウム含有金属酸化物として、例えば
リチウムを含有する前駆体金属酸化物の表面に、該酸化物と組成の異なるコーティング層が形成されて成る酸化物複合体、
リチウムを含有する前駆体金属酸化物の表面を、酸処理および熱処理を順次行って化学変化させて成る酸化物変性体、
Li、Mn、Ni、Co、Li、およびO(酸素)以外の元素(特に、Al、Mo、W、Ce、Nb、Mg、Fe、Cu、Ti、Sn、Pb、V、Zn、Ga、Ge、およびZrから選ばれる1種以上)を0.001〜10質量%の範囲で添加した異元素含有のリチウム含有金属酸化物、
前記組成式(1)において、α>0であり、酸素欠損状態にある還元体リチウム含有金属酸化物、
リチウム含有金属酸化物を構成する酸素の一部がフッ素に置換されている、フッ素変性されたリチウム含有金属酸化物、
リチウムを含有する前駆体金属酸化物の表面に、該酸化物と別のリチウム含有金属酸化物(例えばMnを含むスピネル構造からなるリチウム含有金属酸化物等)から成る層または粒子が形成されて成る複合リチウム含有金属酸化物、
一次粒子の表面および内部で構成元素の濃度が傾斜的に変化する傾斜構造を有するリチウム含有金属酸化物
など、およびこれらの2種以上が複合して成るリチウム含有金属酸化物などを挙げることができる。
本実施形態にかかるリチウム含有金属酸化物として、前駆体金属酸化物の表面に該酸化物と組成の異なるコーティング層が形成されて成る酸化物複合体について、その詳細を以下に示す。
前記前駆体金属酸化物と組成の異なるコーティング層としては、例えば
前記前駆体金属酸化物と組成の異なる酸化物、リン酸化合物、およびフッ化物などから選ばれる1種類以上の化合物(以下、「コーティング化合物」ともいう。)から成る層を挙げることができる。この層は、1層のみから成っていてもよく、2層以上がコーティングされていてもよい。
前記コーティング化合物としては、金属の酸化物、リン酸化合物、またはフッ化物であることが好ましい。これらの化合物を構成する金属としては、例えば、Li、B、Mg、Al、Si、Ca、Ti、Sn、Pb、V、Mn、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Ge、Mo、W、Zr、Hf、Y、Nb、Ba、Sr、Ceなどを挙げることができる。これらのうちから選ばれる1種類以上の金属を含有する化合物から構成されるコーティング化合物を用いることができる。
金属の酸化物としては、例えばMgO、Al、SiO、TiO、V、MnO、ZnO、ZrO、Ga、GeOなどの金属の単独酸化物;
ZrTiO、MgAl、LiAlO、LiNbO、LiTaOなどの複合酸化物
などを例示することができる。金属のリン酸化合物としては、例えばLiPO、AlPOなどが;
金属のフッ化物としては、例えばLiF、MgF、AlF、CuFなどが、
それぞれ挙げられる。
前記コーティング層は、前駆体金属酸化物の表面の一部を被覆していてもよいし、全表面を被覆していてもよいが、表面の被覆率が高い方が好ましい。被覆率としては、50%以上が好ましく、より好ましくは70%以上であり、90%以上被覆されていることが最も好ましい。
コーティング層の平均膜厚は、0.1nm以上10nm以下が好ましく、より好ましくは0.5nm以上10nm以下である。これより薄いとコーティングの効果が限定され、これより厚いと正極活物質の体積当たりに占めるコーティング層の体積が高くなって、該正極活物質を用いた電池の容量が減少する。
コーティング層の平均膜厚は、例えば既知の誘導結合プラズマ発光分析法(以下、ICPと略す。)および不活性気体の物理吸着量を計測する比表面積測定(以下、BETと略す。)を組み合わせることによって測定することができる。具体的には、ICPによって、リチウム含有金属酸化物が有する単位質量当たりのコーティング化合物の質量を測定し、前記コーティング化合物の質量を該化合物の既知の比重を基にコーティング層の体積に換算し、そしてBETによって予め測定された前駆体金属酸化物の比表面積で割り返すことにより、コーティング層の平均膜厚を算出することができる。
上記コーティング層の形成方法は特に限定されるものではない。前駆体金属酸化物の表面に、酸化物、リン酸化合物、またはフッ化物を形成する公知の方法を任意に採用することができる。これらは、好ましくは金属の酸化物、リン酸化合物、またはフッ化物であり、より好ましくはTi、Mg、Al、V、およびZrから選ばれる1種以上の金属の酸化物、リン酸化合物、またはフッ化物である。
例えば、金属の酸化物から成るコーティング層は、該酸化物を構成する金属元素を含む可溶性塩(前駆体化合物)を水などの溶媒に溶解して得られた溶液中に前駆体金属酸化物を浸漬したうえで、溶媒を例えば減圧加熱、ろ過などの適宜の手段によって除去した後に、高温で焼成する方法などにより、形成することができる。
金属の酸化物から成るコーティング層を形成する場合に好ましく使用される可溶性塩としては、所望の金属の、例えば硫酸塩、酢酸塩、硝酸塩、水酸化物塩、塩化物塩、アンモニウム塩などを、挙げることができる。これらの可溶性塩を含有する溶液の濃度は、0.001〜5質量%とすることが好ましく、0.01〜1質量%とすることが好ましい。
前記溶液中にリチウム含有金属酸化物を浸漬する時には、前駆体金属酸化物の表面全体に均一にコーティングする目的で、撹拌および超音波照射から選ばれる1種以上の処理を導入することができる。これらのうち、少なくとも超音波照射処理を行うことが好ましい。超音波の照射エネルギーおよび照射時間は特に限定されるものではないが、前駆体金属酸化物の形態が大きく壊れない程度に留めることが好ましい。このような操作により、前駆体金属酸化物の表面の隅々にまで前記溶液が十分に浸透し、その結果、表面に均一に酸化物がコーティングされたリチウム含有金属酸化物を得ることが可能となる。
浸漬時の溶液温度は、0〜50℃とすることが好ましく、0〜30℃とすることがより好ましい。浸漬時間は、1分〜24時間とすることが好ましく、10分〜12時間とすることがより好ましい。その後の焼成は、例えば300〜900℃、好ましくは400〜800℃の温度において、例えば10分〜48時間、好ましくは5時間〜24時間の条件で行うことができる。
金属のリン酸化合物から成るコーティング層は、例えば、前駆体金属酸化物の表面において、リン源と金属カチオン源とを反応させる方法などにより、形成することができる。
前記リン源としては、例えばリン酸アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸二水素アンモニウムなどを;
前記金属カチオン源としては、例えば、所望の金属の硫酸塩、酢酸塩、硝酸塩、水酸化物塩、塩化物塩、アンモニウム塩などを、
それぞれ挙げることができる。
具体的な操作方法としては、例えば以下の方法を挙げることができる。
先ず、前駆体金属酸化物を適当な溶媒中に分散させた懸濁液を調製し;
更に、前記リン源を適当な溶媒に溶解した溶液、および金属カチオン源を適当な溶媒に溶解した溶液を、それぞれ調製し;そして、
前記前駆体金属酸化物の懸濁液中に、前記リン源溶液および金属カチオン源溶液を、好ましくは同時に滴下する方法である。
前記懸濁液および溶液に使用する溶媒は水が好ましい。滴下時の液温は、0〜50℃とすることが好ましく、0〜30℃とすることがより好ましい。滴下後に、例えば300〜900℃において、例えば10分〜48時間の加熱処理を行ってもよい。
フッ化物から成るコーティング層は、リン源の代わりにフッ素源を使用する他は、上記のリン酸化合物から成るコーティング層の場合と同様にして形成することができる。このフッ素源としては、例えば、フッ素ガス、フッ化アンモニウム、フッ化水素などを挙げることができる。
前記カチオン源としては、例えば、所望の金属の硫酸塩、酢酸塩、硝酸塩、水酸化物塩、塩化物塩、アンモニウム塩などを、それぞれ挙げることができる。
本実施形態にかかるリチウム含有金属酸化物として、前駆体金属酸化物の表面を酸および熱処理にて化学変化させた酸化物変性体について、その詳細を以下に示す。
リチウムを含有する前駆体金属酸化物の表面を酸および熱処理にて化学変化させることにより本実施形態にかかるリチウム含有金属酸化物とする場合、先ず、前駆体金属酸化物を無機酸または有機酸を含有する酸性水溶液中に投入して該前駆体金属酸化物の表面を前記酸性水溶液と接触させ、その後に、それを熱処理する。具体的には、例えば以下の方法を挙げることができる。
前駆体金属酸化物の表面を前記酸性水溶液と接触させる際、互いの接触効率をより高めるために、前駆体金属酸化物の入った酸性水溶液に対して、例えば撹拌、超音波照射などの、固体粒子と液体との接触効率を向上させる公知の方法を実施することができる。
前記の無機酸および有機酸としては、それぞれ、水溶液中でプロトンを放出できるものであれば特に限定されるものではない。また、金属イオンを含有する無機酸あるいは有機酸を用いても良い。
前記無機酸としては、例えば、硫酸、塩酸、硝酸、ホウ酸、フッ化水素酸、リン酸などを挙げることができる。この中で、安価であり、プロトンを容易に放出し、かつ、不純物となる余剰な残渣が残り難いという点で、硫酸、塩酸、および硝酸から選択される1種以上を使用することが好ましい。
有機酸としては、例えば、酢酸、ギ酸、クエン酸、シュウ酸などを挙げることができる。この中で、安価であり、プロトンを容易に放出し、かつ、不純物となる余剰な残渣が残り難いという点で、酢酸およびギ酸から選択される1種以上を使用することが好ましい。また上記無機酸あるいは有機酸を単独種で用いてもよいし、複数の無機酸あるいは有機酸の混合物として用いてもよい。
前駆体金属酸化物を添加する前の、前記酸性水溶液におけるプロトンの濃度としては、0.001mol/L以上1mol/L以下が好ましく、より好ましくは0.01mol/L以上0.5mol/L以下であり、さらに好ましくは0.05mol/L以上0.2mol/L以下である。プロトンの濃度が0.001mol/L未満であると、酸による前駆体金属酸化物の表面状態の化学的変化が十分に進まず、本実施形態にかかるリチウム含有金属酸化物とならない場合がある。また、プロトンの濃度が1mol/L超過であると、酸による前駆体金属酸化物の表面状態の化学的変化が進みすぎて表面が壊れてしまい、同様に本実施形態にかかるリチウム含有金属酸化物とならない場合がある。
前記酸性水溶液の液量は、該酸性水溶液中に投入する前駆体金属酸化物に含有されるLi原子の量に対する液中のプロトンの量として、1モル%以上200モル%以下の範囲になるようにすることが好ましく、より好ましくは5モル%以上150モル%以下、さらに好ましくは20モル%以上100モル%以下の範囲である。前記プロトンの量が1モル%未満であると、酸による前駆体金属酸化物の表面状態の化学的変化が十分に進まず、本実施形態にかかるリチウム含有金属酸化物とならない場合がある。また、前記プロトンの量が200モル%超過であると、酸による前駆体金属酸化物の表面状態の化学的変化が進みすぎて表面が壊れてしまい、同様に本実施形態にかかるリチウム含有金属酸化物とならない場合がある。
以上より、投入する前駆体金属酸化物の量に応じて、好適な酸性水溶液のプロトン濃度および液量の範囲を算出することができる。
前記無機酸または有機酸を含有する酸性水溶液は、必要に応じて各種の有機溶剤、添加物などが添加されたものでもよい。
前駆体金属酸化物の表面を酸性水溶液と接触させる際には、該酸性水溶液の温度が低いほうがよい。好ましくは0℃以上30℃以下であり、より好ましくは0℃以上10℃以下であり、最も好ましくは0℃以上5℃以下であって、0℃に近いほど好ましい。ただし、酸性水溶液が凍らずに流動性が確保されていれば、0℃以下であってもよい。温度が低すぎる場合には、酸性水溶液の流動性が低下し、固体粒子と液体との接触効率が低下して、本実施形態にかかるリチウム含有金属酸化物とならない場合がある。この傾向は、特に酸性水溶液の温度が0℃未満である場合に顕著である。一方、酸性水溶液の温度が30℃超過であると、酸による前駆体金属酸化物の表面状態の化学的変化が進みすぎて表面が壊れてしまい、同様に本実施形態にかかるリチウム含有金属酸化物とならない場合がある。
前駆体金属酸化物の表面が酸性水溶液と接触している時間は、1分以上24時間以内が好ましく、より好ましくは10分以上12時間以内であり、さらに好ましくは1時間以上6時間以内であり、最も好ましくは1.5時間以上3時間以内である。接触時間が1分以下であると、酸による結晶の表面状態の化学的変化が十分に進まず、本実施形態にかかるリチウム含有金属酸化物とならない場合がある。また、接触時間が24時間以上であると、酸による結晶の表面状態の化学的変化が進みすぎて結晶表面が壊れてしまい、同様に本実施形態にかかるリチウム含有金属酸化物とならない場合がある。
ここで、前駆体金属酸化物の表面が酸性水溶液と接触している時間が長くなると、該酸性水溶液中のプロトン濃度が減少していく場合がある。そのような場合には、新たにプロトン源としての無機酸または有機酸を追加してもよいし、プロトン濃度が減少した状態をそのまま保持してもよい。酸を追加する場合、前記のプロトン量は、当初添加した酸から発生するプロトンの量と、後添加する酸から発生するプロトンの量との合計量として理解すべきである。
酸と接触後の前駆体金属酸化物は、ろ取、遠心分離などの公知の方法により、水溶液から分離・回収する。分離・回収された前駆体金属酸化物は、必要に応じて水洗してもよいし、そのまま次の熱処理に供してもよい。水洗を行う場合には、洗浄水の温度は低いほうが良く、好ましくは0℃以上30℃以下であり、より好ましくは0℃以上10℃以下、最も好ましくは0℃以上5℃以下であって、0℃に近いほど好ましい。洗浄水の温度が30℃超過であると、酸によって変化した表面が洗浄中に壊れてしまい、正極活物質としての性能が劣化する場合がある。
酸によって化学変化した表面を有する前駆体金属酸化物は、100℃より高く600℃より低い温度で熱処理されることで、本実施形態にかかるリチウム含有金属酸化物となる。熱処理時の周囲雰囲気としては、例えば大気中、酸素雰囲気下、不活性ガス雰囲気下(例えば窒素中、アルゴン中など)、炭化水素系ガス(例えばエチレンガス雰囲気下、プロピレンガス雰囲気下など)雰囲気下で行ってもよい。
本実施形態においては、上記の温度範囲において熱処理を行う前後で、前駆体金属酸化物の質量に対して、0.5%以上3%以下の質量減少が観測される場合がある。その減少率としては、0.8%以上2.5%以下であることが好ましく、1%以上1.5%以下であることがより好ましい。
本実施形態においては、この質量減少が発現する温度、またはそれよりやや高い温度で熱処理を経たリチウム含有金属酸化物であることが好ましい。具体的には、0.5%以上の重量減少が起こる温度以上、前記温度+300℃以下、の温度範囲で熱処理を経たリチウム含有金属酸化物であることが好ましい。より具体的には、200℃以上500℃以下が好ましく、250℃以上450℃以下がより好ましい。この質量減少が発現することにより、SOCが低い場面における該リチウム含有金属酸化物の電気抵抗がより低減される。その結果、該酸化物を正極活物質に用いた電池の低SOCにおける内部抵抗がより低減されて、レート特性がより向上することが期待される。
上記の質量減少の程度および該質量減少が起こる温度は、例えば熱重量分析などによって知ることができる。
上記の方法によって得られるリチウム含有金属酸化物は、酸との接触および熱処理を経る前後で、リチウムの含有量が減少する。その減少率としては、5モル%以上15モル%以下であることが好ましく、8モル%以上12モル%以下であることがより好ましい。リチウム含有金属酸化物中のリチウムおよび金属元素の重量割合は、ICPによって求めることができる。
以上が、本実施形態にかかるリチウムイオン二次電池における正極中の正極活物質を構成するリチウム含有金属酸化物の例示である。
しかしながら該リチウム含有金属酸化物は、組成式(1)で表されるLiが層状に配列した層状結晶構造を有するリチウム含有金属酸化物を含有するものであれば、前述の例示に限定されるものではない。
正極活物質を構成するリチウム含有金属酸化物のうち、組成式(1)で表される層状結晶構造以外の酸化物の組成や構造は特に限定されるものではないが、例えば正極活物質としての機能を有する下記組成式(5):
Li1+kMn2−yMe’4―γ・・・(5)
{式中、Me’は、MnおよびLi以外の1種類以上の金属元素であり、そして0≦k<1、0≦y≦0.5、および0≦γ<1の関係を満足する。}で表されるスピネル結晶構造、同様に正極活物質としての機能を有する下記組成式(6):
LiMeO・・・(6)
{式中、Meは、Li以外の1種類以上の金属元素である。}で表されるLiが層状に配列した層状結晶構造から選ばれる1種以上の結晶構造などを挙げることができる。組成式(5)および組成式(6)で例示されるリチウム含有金属酸化物は、それぞれ、組成式(1)で表される層状結晶構造と、粒子として互いに混ざった状態で存在していてもよいし、組成式(1)で表される層状結晶構造と固溶した結晶構造を形成していてもよい。
組成式(5)で表されるスピネル結晶構造としては、空間群
Figure 2016076369
に帰属されるディスオーダー構造でもよいし、空間群P432に帰属されるオーダー構造でもよいし、その両方の構造が混じっていてもよい。スピネル結晶構造においては、kの値は一般的なスピネルでは0であるが、リチウムを過剰に含むスピネル構造の場合、0<k<1の値をとってもよい。その際、スピネル構造の一部または全体が岩塩構造、立方晶、斜方晶、正方晶などの他の結晶構造に近い構造に変形してもよい。
組成式(5)で表されるスピネル構造が、マンガンおよびリチウム以外の1種類以上の金属元素Me’を有する場合、該Me’は特に限定されるものではないが、Niを含むことが好ましい。この場合、該Me’の割合を示すyの値は、0.5が最大値である。0.5を超えて、マンガンおよびリチウム以外の1種類以上の金属元素を導入しようとすると、スピネル構造ではない構造が生成してしまう可能性がある。
組成式(5)で表されるスピネル構造が含有する酸素の割合を示すγの値は、0に近い値をとる。γ=0のとき、スピネル構造中の酸素原子が入るサイトにはすべて酸素原子が入っており、酸素欠損がない状態となる。しかしながら、実際のスピネル構造では酸素欠損が多かれ少なかれ発生し、γ>0となる場合が多い。ただし、γ<1でないとスピネル構造を形成することは困難である。
組成式(6)で表されるLiが層状に配列した層状結晶構造としては、空間群
Figure 2016076369
に帰属される結晶構造を有するものが好ましい。組成式(6)で表される1種類以上の金属元素Meは特に限定されるものではないが、本実施形態として好ましいものは、Mn、Ni、Co、Ti、Al、Mg、Mo、W、およびVから選ばれる1種以上である。特に、Mn、Co、およびNiから選ばれる1種以上を含有していることにより、3d軌道の有効核電荷が大きい金属元素がリチウムイオン二次電池の起電力を向上させるという点で好ましい。
なお、組成式(6)で表されるLiが層状に配列した層状結晶構造においては、金属元素Meに対する酸素原子の存在比が2倍等量の表記になっている。この表記は、理想的な結晶構造の場合を示している。実際の結晶においては、製造段階または充放電過程において、若干の酸素の欠損が発生することがあり、金属元素Meに対して酸素原子が2倍等量より僅かに少なくなる場合もあるが、その場合も本実施形態に含まれる。
正極活物質を構成するリチウム含有金属酸化物の中で、組成式(1)で表される層状結晶構造と、組成式(5)で表されるスピネル結晶構造および組成式(6)で表される層状結晶構造から選ばれる1種以上の結晶構造とが固溶している場合、それらがどのように固溶しているかについては、例えば以下のようにして知ることができる。
すなわち、リチウム含有金属酸化物の結晶を収束イオンビームなどにより厚さ約100nm以下の薄片に加工し、透過型電子顕微鏡を用いて結晶内の原子配列を観察する。特に、透過型電子顕微鏡の光学系における球面収差を補正した球面収差補正型走査透過型電子顕微鏡(Cs−STEM)およびCs−STEMに付随するエネルギー分散型X線分析装置を用いることにより、原子の配列および種類を高分解能で観察することができ、リチウム含有金属酸化物中における各結晶構造の平均サイズおよび分散状態を画像観察から求めることができる。
本実施形態におけるリチウム含有金属酸化物は、一般には、一次粒子と、該一次粒子が凝集した二次粒子とからなる粉体である。一次粒子は、それ自身が単結晶であってもよく、複数の単結晶が異なる面方位で結合したものであってもよい。二次粒子は、他の粒子との結合箇所がなく、1つの粒子として単離できる形態のものである。
一次粒子の平均粒子径である平均一次粒径は、特に限定されるものではない。しかしながら、平均一次粒径が大きくなりすぎると、放電時に大電流を流し難くなる。そのため、好適な平均一次粒径は、好ましくは2μm以下、より好ましくは1μm以下、さらに好ましくは0.5μm以下である。但し、平均一次粒径が小さくなりすぎると電池としての耐久性(長期保存特性、充放電の繰り返しによる劣化特性など)が悪化するため、好適な平均一次粒径は、好ましくは0.05μm以上、より好ましくは0.1μm以上である。
なお、一次粒子の平均粒子径は、走査型電子顕微鏡像中の結晶の粒子径を複数測長して平均化することによって、あるいはBET法によって、求めることができる。BET法によって求められた平均粒子径は、粒子を真球の球体と仮定して算出した数値である。
本実施形態におけるリチウム含有金属酸化物は、前記した特徴を有している限り、任意の方法によって製造されたもの、もしくはそれをベース(前駆体金属酸化物)として用いて、前記のコーティング層や酸および熱処理などを付与した任意のものであることができる。
リチウム含有金属酸化物(前駆体金属酸化物である場合を含む。以下同じ。)は、湿式合成法および乾式合成法のいずれによっても合成することができる。前記湿式合成法としては、例えば共沈法、ゲル化燃焼法などを;前記乾式合成法としては、例えばスプレードライ法、固相法などをそれぞれ挙げることができる。
共沈法によるリチウム含有金属酸化物の製造は、定法に従って行うことができる。例えばNi、Co、およびMnから選ばれる1種類以上を含む金属の塩を、所定の割合で含有する水溶液を調製し、該水溶液にアルカリを加えて得られる沈殿を乾燥した後、Li塩を所定量添加して焼成する方法により、製造することができる。前記Ni、Co、およびMnから選ばれる1種類以上を含む金属塩の一部を、アルカリによって生ずる沈殿にLi塩とともに後添加し、必要に応じて粉砕・混合したうえで、焼成に供してもよい。
前記Ni塩として例えばNiSO・6HO、Ni(NO・6HOなどを;
Co塩として例えばCoSO・7HO、Co(NO・6HOなどを;
Mn塩として例えばMnSO・5HO、Mn(NO・6HOなどを、
それぞれ挙げることができる。
前記アルカリとしては、例えばNaCO、NaHCO、NaOH、KOH、NHOHなどの水溶液を挙げることができる。
得られた沈殿の乾燥は、好ましくは80〜150℃、より好ましくは80〜120℃において、好ましくは1〜72時間、より好ましくは5〜48時間行われる。
次いで、上記の操作によって得られた乾燥後の沈殿物にLi塩を混合して焼成することにより、リチウム含有金属酸化物を得ることができる。用いるLi塩としては、例えばLiNO、Li(CHCOO)・2HO、LiCO、LiOH・HO、LiOなどが挙げられる。Li塩を混合した後の焼成は、好ましくは600〜1,000℃、より好ましくは800〜950℃において、好ましくは1〜48時間、より好ましくは3〜24時間行われる。
スプレードライ法は、Li塩と、
Ni、Co、およびMnから選ばれる1種類以上の金属の塩と
を、所定の割合で含有する溶液または懸濁液を調製し、該溶液または懸濁液を噴霧乾燥した後に焼成する方法である。前記金属塩の一部を、噴霧乾燥して得られる粉体に後添加し、必要に応じて粉砕・混合したうえで、焼成に供してもよい。前記溶液または懸濁液の溶媒としては、水が好ましい。
スプレードライ法における原料金属塩の種類、溶液中の金属塩濃度、および焼成条件としては、それぞれ、前記共沈法の条件をそのまま採用することができる。溶液の代わりに懸濁液を使用する場合の金属塩濃度は、溶液の場合に準じて考えてよい。
ゲル化燃焼法は、酸化性の配位子を有する金属塩と、燃焼性の配位子を有する金属塩とからなる燃焼性ゲルを熱処理して、該燃焼性ゲルを瞬時に熱分解させることにより、均質で微細な微粉体酸化物の粉体を得る技術である。
前記酸化性の配位子を有する金属塩としては、例えば硝酸塩、硫酸塩などを;
前記燃焼性の配位子を有する金属塩としては、例えばクエン酸塩、酢酸塩、グリシン塩、シュウ酸塩などを、
それぞれ挙げることができる。これらの塩は、無水塩であっても含水塩であってもよい。酸化性の配位子を有する金属塩として硝酸塩を、燃焼性の配位子を有する金属塩としては酢酸塩を、それぞれ使用することが、最も好ましい。
前記酸化性の配位子を有する金属塩と燃焼性の配位子を有する金属塩との使用比率としては、燃焼性の配位子を有する金属塩/酸化性の配位子を有する金属塩の比が、2〜5(モル比)の範囲で用いることが好ましく、更に好ましくはこの比が2.5〜3.5となる範囲である。
ゲル化燃焼法においては、
先ず、上記のような酸化性の配位子を有する金属塩および燃焼性の配位子を有する金属塩を所定の割合で含有する水溶液を調製し、
次いで、前記水溶液から水を除去して均質な燃焼性ゲルとし、そして
この燃焼性ゲルを熱処理する。この熱処理によって得られた粉体を、更に粉砕・撹拌後、焼結を行って結晶の成長を調整してもよい。
前記の溶液から燃焼性ゲルを得るには、該溶液に対して加熱および減圧から選択される1種以上の操作を加えて溶媒を除去し、乾固する方法によることができる。
前記燃焼性ゲルの熱処理は、最高到達温度を好ましくは300℃〜500℃として行われる。ゲルに含まれる配位子を十分に分解させるため300℃以上の温度とすることが好ましく、粒子サイズおよび金属の分布が不均一になることを抑えるため500℃以下とすることが好ましい。最も好ましくは300℃〜400℃の範囲である。最高到達温度における保持時間としては、30分〜48時間が好ましく、1時間〜24時間がより好ましい。熱処理後の冷却速度は任意である。
以上のようにして得られたリチウム含有金属酸化物は、該酸化物をベース(前駆体金属酸化物)として用いて、
該酸化物と組成の異なるコーティング層を形成する手法、
該酸化物の表面を酸および熱処理にて化学変化させる手法
などを行うことによって、本実施形態における正極活物質としてさらに向上された性能を有するリチウム含有金属酸化物とすることができる。
<リチウムイオン二次電池>
本実施形態におけるリチウム含有金属酸化物を、正極活物質としてリチウムイオン二次電池に用いる際の一例を以下に示す。
本実施形態におけるリチウムイオン二次電池は、正極活物質を正極に含有しており、さらに、負極、電解液、セパレーター、ならびにそれらを収納して電気的接続および絶縁をとるための外装体からなる。
(正極)
正極およびその製造方法の一例を以下に示す。
正極は、集電体と、該集電体上に形成された正極合剤層とから成る。本実施形態におけるリチウム含有金属酸化物は、この正極合剤層における正極活物質として適用される。
正極合剤層は、正極活物質としてのリチウム含有金属酸化物以外に、導電助剤およびバインダーを含有することが好ましい。ここで、導電助剤としては、電子を伝導できる公知のものであれば特に限定されないが、例えばグラファイト、アセチレンブラック、カーボンブラックなどに代表される炭素材料が好適である。また、バインダーとしては、正極に含まれる2種類以上の構成材料を結着できるものであれば特に限定されないが、例えばポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリアクリル酸、スチレンブタジエンゴム、フッ素ゴムなどに代表されるポリマー材料が好適である。これらは1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いられる。
前記集電体としては特に限定されないが、例えば、金属箔、エキスパンドメタル、パンチメタル、発泡メタル、カーボンクロス、カーボンペーパーなどが好適である。前記金属箔、エキスパンドメタル、パンチメタル、および発泡メタルを構成する金属としては、例えばアルミニウム、チタン、ステンレスなどが好適である。
正極は、例えば以下の操作によって形成することができる。
リチウム含有金属酸化物と、必要に応じて、上記の導電助剤、バインダーなどを加えて混合した正極合剤を、例えばN−メチルピロリドン(NMP)のような適当な溶剤に分散させて、正極合剤含有ペーストを調製する。次いで、この正極合剤含有ペーストを集電体上に塗布し、乾燥して正極合剤層を形成し、必要に応じてこれをさらに加圧して厚みを調整して集電体上に正極合剤層を形成することにより、正極が製造される。
(負極)
本実施形態に用い得る負極としては、リチウムイオン二次電池に用いられる負極として従来公知のものを用いることができ、特に制限されない。
負極は、負極活物質としてリチウムイオンを吸蔵および放出することが可能な材料から成ることが好ましい。すなわち、負極としては、リチウム金属を用いるか、あるいは
集電体と、該集電体上に負極合剤層とから成る負極を用いることが好ましい。後者の態様における負極活物質としては、炭素負極活物質、リチウムと合金形成が可能な元素を含む負極活物質、ケイ素酸化物負極活物質、スズ酸化物負極活物質、リチウム含有化合物(例えばチタン酸リチウムなど)から成る負極活物質などより選ばれる1種以上が好ましい。この場合の負極活物質は、1種で、または2種以上を組合せて用いることが可能である。
前記の炭素負極活物質としては、例えばハードカーボン、ソフトカーボン、人造黒鉛、天然黒鉛、黒鉛、熱分解炭素、コークス、ガラス状炭素、有機高分子化合物の焼成体、メソカーボンマイクロビーズ、炭素繊維、活性炭、グラファイト、炭素コロイド、カーボンブラックなどが挙げられる。コークスとしては、例えばピッチコークス、ニードルコークス、石油コークスなどが挙げられる。また、有機高分子化合物の焼成体とは、フェノール樹脂やフラン樹脂などの高分子材料を適当な温度で焼成して炭素化したものである。
前記のリチウムと合金形成が可能な元素を含む負極活物質としては、金属または半金属の単体、合金または化合物であることができ、これらの1種または2種以上の相を少なくとも一部に有するようなものであってもよい。本明細書において、「合金」には、全体として金属の性質を有するものであれば、非金属元素が含まれていてもよい。従って、本明細書における「合金」には、2種以上の金属元素からなるものに加えて、1種以上の金属元素と1種以上の半金属元素とを有するものも含まれる。金属元素および半金属元素としては、例えばチタン(Ti)、スズ(Sn)、鉛(Pb)、アルミニウム、インジウム(In)、ケイ素(Si)、亜鉛(Zn)、アンチモン(Sb)、ビスマス(Bi)、ガリウム(Ga)、ゲルマニウム(Ge)、ヒ素(As)、銀(Ag)、ハフニウム(Hf)、ジルコニウム(Zr)、イットリウム(Y)などが挙げられる。
これらの中でも、長周期型周期表における4族または14族の金属元素および半金属元素が好ましく、特に好ましくはチタン、ケイ素、およびスズから選ばれる1種以上である。
スズの合金としては、例えば、スズ以外の第2の構成元素として、ケイ素、マグネシウム(Mg)、ニッケル、銅、鉄、コバルト、マンガン、亜鉛、インジウム、銀、チタン,ゲルマニウム、ビスマス、アンチモン、およびクロム(Cr)からなる群より選ばれる1種以上の元素を有するものが挙げられる。
ケイ素の合金としては、例えば、ケイ素以外の第2の構成元素として、スズ、マグネシウム、ニッケル、銅、鉄、コバルト、マンガン、亜鉛、インジウム、銀、チタン、ゲルマニウム、ビスマス、アンチモン、およびクロムからなる群より選ばれる1種以上の元素を有するものが挙げられる。
チタン化合物、スズ化合物、およびケイ素化合物としては、例えば、酸素または炭素を有するものが挙げられ、チタン、スズまたはケイ素に加えて、上述の第2の構成元素を有していてもよい。
負極の製造方法の一例は、例えば以下のとおりである。
上記負極活物質に、必要に応じて、導電助剤、バインダーなどを加えて混合した負極合剤を溶剤に分散させて負極合剤含有ペーストを調製する。バインダーとしては負極に含まれる2種類以上の構成材料を結着できるものであれば特に限定されない。特に、カルボキシメチルセルロース、スチレン−ブタジエンの架橋ゴムラテックス、アクリル系ラテックス、ポリフッ化ビニリデンなどが、バインダーとして好ましい。これらは1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いられる。
次いで、この負極合剤含有ペーストを集電体に塗布し、乾燥して負極合剤層を形成する。必要に応じて得られた負極合剤層を加圧して厚みを調整することにより、負極が製造される。負極における集電体は、例えば、銅箔、ニッケル箔、ステンレス箔などの金属箔により構成される。なお、負極活物質は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
(電解液)
リチウムイオン二次電池に用いられる電解液としては、少なくとも溶媒とリチウム塩とを含有し、二次電池の電解液として作用するものであれば特に限定されず、公知のものを用いることができる。前記溶媒としては、実質的に水を含有しない非水系溶媒から成ることが好ましい。
非水系溶媒としては、特に制限はなく、例えば、非プロトン性溶媒が挙げられ、中でも、非プロトン性極性溶媒が好ましい。
非水系溶媒の具体例としては、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、1,2−ブチレンカーボネート、トランス−2,3−ブチレンカーボネート、シス−2,3−ブチレンカーボネート、1,2−ペンチレンカーボネート、トランス−2,3−ペンチレンカーボネート、シス−2,3−ペンチレンカーボネート、トリフルオロメチルエチレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート、および1,2−ジフルオロエチレンカーボネートに代表される環状カーボネート;γ−ブチロラクトン、およびγ−バレロラクトンに代表されるラクトン;メチルエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルプロピルカーボネート、メチルイソプロピルカーボネート、ジプロピルカーボネート、メチルブチルカーボネート、ジブチルカーボネート、エチルプロピルカーボネート、およびメチルトリフルオロエチルカーボネートに代表される鎖状カーボネート;アセトニトリル、プロピオノニトリル、ブチロニトリル、バレロニトリル、およびアクリロニトリルに代表されるモノニトリル;メチルプロピオネートに代表される鎖状カルボン酸エステル;ジメトキシエタンに代表される鎖状エーテルカーボネート化合物などが挙げられる。
リチウム塩としては、非水系二次電池の電解液に用いられているものであれば特に制限はなく、いずれのものであってもよい。リチウム塩としては、特に制限はないが、無機リチウム塩であることが好ましい。無機リチウム塩は、通常の非水系電解質として用いられているものであれば特に限定されず、いずれのものを用いてもよい。そのような無機リチウム塩の具体例としては、例えば、LiPF、LiBF、LiClO、LiAsF、LiSiF、LiSbF、LiAlO、LiAlCl、Li1212−b〔bは0〜3の整数〕などの他、多価アニオンと結合されたリチウム塩などが挙げられる。
リチウム塩は、非水系電解液中に0.1〜3mol/Lの濃度で含有されることが好ましく、0.5〜2mol/Lの濃度で含有されることがより好ましい。
(セパレーター)
本実施形態に用い得るセパレーターとしては、リチウムイオン二次電池に用いられる従来公知のものを用いることができ、特に制限されない。中でも、イオン透過性が大きく、機械的強度に優れる絶縁性の薄膜が好ましい。そのようなセパレーターとしては、例えば織布、不織布、合成樹脂製微多孔膜などが挙げられ、これらの中でも、合成樹脂製微多孔膜が好ましい。合成樹脂製微多孔膜としては、例えば、ポリエチレンおよびポリプロピレンから選ばれる1種以上を主成分として含有するポリオレフィン系微多孔膜が好適に用いられる。不織布としては、例えばセラミック(例えばガラスなど)製、ポリオレフィン製、ポリエステル製、ポリアミド製、液晶ポリエステル製、アラミド製などの、耐熱性の微多孔膜が用いられる。
セパレーターは、1種の微多孔膜を単層または複数積層したものであってもよく、2種以上の微多孔膜を積層したものであってもよい。
(外装体)
本実施形態のリチウムイオン二次電池に用い得る外装体は、電池の外装体として従来公知のものを用いることができ、特に制限されない。外装体の材料としては、例えばステンレス、鉄、アルミニウムなどの金属、あるいはその金属の表面を樹脂で被覆したラミネートフィルムなどが挙げられる。
(リチウムイオン二次電池の製造方法)
本実施形態におけるリチウムイオン二次電池は、上述の電解液、リチウム含有金属酸化物を用いて製造した正極、負極、およびセパレーターを用いて、公知の方法により製造される。例えば、正極と負極とを、その間にセパレーターを介在させた積層体とし、
該積層体を巻回して、積層体の巻回体に構成する態様;
該積層体を折り曲げて、交互に積層した複数の正極と負極との間にセパレーターが介在する多層構造の積層体に構成する態様;
該積層体を複数層に積層して、交互に積層した複数の正極と負極との間にセパレーターが介在する多層構造の積層体に構成する態様
などによって、電極積層体を構成する。次いで、該電極積層体を電池ケース(外装)内に収容して、電解液をケース内部に注液し、上記積層体を電解液に浸漬して封印することによって、リチウムイオン二次電池を製造することができる。或いは、ゲル化させた電解液を含む電解質膜を予め作製しておき、正極、負極、該電解質膜、およびセパレーターを用いて、上述の方法に準じて電極積層体を形成した後、該電極積層体を電池ケース内に収容してリチウムイオン二次電池を製造する方法も可能である。
リチウムイオン二次電池の形状は、特に限定されず、例えば、円筒形、楕円形、角筒型、ボタン形、コイン形、扁平形、ラミネート形などが好適に採用される。
上記のようにして製造されたリチウムオン二次電池は、初回充電により電池として機能し得る。ここで、初回充電の際に電解液の一部が分解することにより、安定化する。初回充電の方法について特に制限はないが、0.001〜0.3Cで行われることが好ましく、0.002〜0.25Cで行われることがより好ましく、0.003〜0.2Cで行われることがさらに好ましい。また、初回充電の途中に定電圧充電を経由して行われることも好ましい結果を与える。
以上、本発明を実施するための形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
[実施例1]
<リチウム含有金属酸化物の製造>
(1)リチウム含有金属酸化物の合成
以下の硫酸塩:
MnSO・5HO(関東化学株式会社製)2,563.5g、
NiSO・6HO(関東化学株式会社製)931.5g、および
CoSO・7HO(関東化学株式会社製)569.4g
を純水に溶解させて合計8,100mlとした水溶液Aを調製した。
炭酸ナトリウムNaCO(関東化学株式会社製)1,717.2gを純水に溶解させ、さらに28質量%アンモニア水(関東化学株式会社製)546.9mlを加えて合計8,100mlとした水溶液Bを調製した。
撹拌機構と、不活性ガスをバブリングさせる機構とを有する反応槽中に、硫酸ナトリウムNaSO(関東化学株式会社製)710.2gを純水に溶解させて合計5,000mlとした水溶液Cを入れた。この水溶液Cに対し、撹拌下に窒素ガスを吹き込みつつ、かつ、10分ごとに約520mlずつ反応槽から液を抜き出しつつ、水溶液Aおよび水溶液Bを各25.8mL/分の速度で同時に水溶液C中に滴下させ、水に難溶性の金属塩の粒子を反応槽中に生成させた。300分後に滴下を止め、反応槽内の液を回収し、ろ過して、沈殿およびろ液を得た。
得られた沈殿につき、純水中で10分撹拌した後にろ過をする作業を繰り返し、ろ液の導電率が30mS/cm以下になるまで沈殿を洗浄した。
洗浄後の沈澱を80℃で真空乾燥させたもの2.00gと、平均一次粒径2μm以下に粉砕した炭酸リチウムLiCO(本荘ケミカル株式会社製)0.953gとをよく混合した後、大気中、500℃において5時間焼成した後、再度混合して、さらに大気下900℃において5時間焼成することにより、リチウム含有金属酸化物を得た。
このリチウム含有金属酸化物についてX線構造解析を行ったところ、組成式(1):
LiMn1−x3−α・・・(1)
{式中、Mは、NiおよびCoから選ばれ、0≦x<1、そして0≦α<1の関係を満足する。}で表される層状結晶構造、および下記組成式(6):
LiMeO・・・(6)
{式中、Meは、Mn,NiおよびCoから選ばれる。}で表される層状結晶構造の2つの結晶構造が固溶した構造を有していることが分かった。
このリチウム含有金属酸化物の一部を採り、マイクロウェーブ(アナリティクイエナ社製、TOPwave(登録商標))により酸分解してICP測定(Perkin Elmer社製、Optima8300)を行った。その結果、上記金属酸化物における金属元素の組成比は、Li:Mn:Ni:Co=0.62:0.28:0.076:0.054(モル比)であることが分かった。これより、上記組成式(1)中のM’としてNiが存在していることが推定され、
また、上記組成式(6)中のMeとして、Mn、Ni、およびCoの3種の金属元素が共存していることが確認された。
次いで、上記のリチウム含有金属酸化物1.5gを、氷浴により2℃に冷却されている0.015mol/Lの硫酸水溶液(関東化学株式会社製)100mL中に入れ、スターラーにより400rpmで2時間撹拌して、硫酸との接触処理を行った。
硫酸との接触処理後のリチウム含有金属酸化物をろ取し、氷浴により2℃に冷却されている純水100mLに入れ、スターラーにより400rpmで10分間撹拌洗浄した。これをろ取し、100℃において2時間乾燥した。その後、昇温速度10℃/分で400℃まで昇温し、400℃において5時間熱処理することにより、目的とするリチウム含有金属酸化物を得た。
上記工程を行った後に、上記と同様の手順によって再度ICP測定を行ったところ、Liの減少量は8.9%であった。
<リチウムイオン二次電池の製造>
本実施例においては、前述のようにして得られたリチウム含有金属酸化物を正極活物質として用いた。
この正極活物質と、導電助剤であるグラファイトの粉末(TIMCAL社製、KS−6)およびアセチレンブラックの粉末(電気化学工業社製、HS−100)と、バインダーであるポリフッ化ビニリデン溶液(クレハ社製、L#7208)とを、固形分比として80:5:5:10の質量比で混合した。得られた混合物に、分散溶媒としてN−メチルピロリドンを、固形分30質量%となるように投入して更に混合することにより、正極合剤含有ペーストを調製した。このペーストを厚さ20μmのアルミニウム箔の片面に塗布し、溶剤を乾燥除去した後、ロールプレスで圧延して、厚さ60μmの正極を得た。なお、この正極の厚さは、アルミニウム箔の厚さを含む値である。
ステンレス製の円盤型電池ケース(外装体)に、負極として直径16mmに打ち抜いたリチウム金属箔(厚さ0.5mm)を挿入した。その上に、ポリエチレン製の微多孔膜からなるセパレーター、ガラス繊維製のセパレーター(ADVANTEC社製、GA−100、膜厚約500μm)、および上記で作製した正極を直径16mmに打ち抜いたものを、この順で挿入した。次いで、電池ケース内に、電解液を1.0mL注入して、正極、負極、およびセパレーターを電解液に浸漬した後、電池ケースを密閉することにより、リチウムイオン二次電池を製造した。前記電解液としては、エチルメチルカーボネート(EMC)およびエチレンカーボネート(EC)から成る容量比7:3の混合溶媒中に、1mol/LのLiPFを溶解した溶液を用いた。
<電池評価>
得られたリチウムイオン二次電池(以下、単に「電池」ともいう。)を、25℃に設定した恒温槽(二葉科学社製、恒温槽PLM−73S)内に収容し、充放電装置(アスカ電子(株)製、充放電装置ACD−01)に接続した。次いで、その電池を0.1Cの定電流で充電し、4.7Vに到達した後、4.7Vの定電圧において電流が0.05mA以下になるまで充電した。次いで、0.1Cの定電流で2.0Vまで放電した際の放電容量を計測したところ、296mAh/gであった。
次に、その電池を0.3Cの定電流で充電し、4.6Vに到達した後、4.6Vの定電圧において電流が0.05mA以下になるまで満充電した。
上記満充電後の電池を、0.3Cの定電流で2.0Vまで放電した。その後、その電池を0.3Cの定電流で充電し、4.6Vに到達した後、4.6Vの定電圧において電流が0.05mA以下になるまで満充電した。この時の充電容量をQとして、278mAh/gの値を得た。
上記の操作から10分間の充電休止の後、0.3Cの定電流で放電を開始し、56mAh/g(0.2Q)の放電後、1分間放電を休止し、電圧上昇量△V1を測定した。その結果、38mVの値が得られ、そこから内部抵抗R1が36Ωと算出された。
上記の1分間の放電休止の後、0.3Cの定電流で放電を再開し、前記満充電状態から積算して222mAh/g(0.8Q)の放電後、1分間放電を休止し、電圧上昇量△V2を測定した。その結果、121mVの値が得られ、そこから内部抵抗R2が116Ωと算出された。
上記より、
R2<R1×4.7
となり、前記数式(2)の関係を満たすことが分かった。
次に、その電池を0.3Cの定電流で充電し、4.6Vに到達した後、4.6Vの定電圧において電流が0.05mA以下になるまで充電し、さらに、2.0Vまで定電流放電する充放電サイクルを、電流値を0.3、0.3、1、1、2、2、5、および5Cとこの順で変量して計8回行った。
最後の5Cにおける放電容量を計測したところ、154mAh/gであった。
[実施例2]
オキシ硫酸チタン(キシダ化学株式会社製)2.91gを水200mlに溶解した。これを氷浴により2℃に冷却し、実施例1と同じ条件で製造したリチウム含有金属酸化物1.51gを投入した。投入直後から15分間、液に超音波を照射した。超音波の照射は、液を氷浴に入れた状態のまま、超音波照射装置(株式会社日本精機製作所製 US−600T)にて、照射ロッド(Φ7mm、チタン合金製)を用いて、出力300Wで行った。
照射終了後、リチウム含有金属酸化物をろ取し、氷浴によって2℃に冷却した水100ml中にリチウム含有金属酸化物を再分散させ、氷浴に入れた状態のまま、スターラーにより400rpmで10分撹拌した。その後、リチウム含有金属酸化物をろ取し、100℃において2時間乾燥した後、昇温速度10℃/分で400℃まで昇温し、400℃において5時間焼成することにより、目的とするリチウム含有金属酸化物を得た。
得られたリチウム含有金属酸化物をICPによって分析した結果から、該リチウム含有金属酸化物に含有される金属の全部に占めるTi原子の割合は、0.41質量%であることが分かった。また、チタン処理前のリチウム含有金属酸化物のBET法による測定から、一次粒子の平均粒子径が660nmであると算出された。これらの測定結果から、Ti原子はそのすべてが比重4.0g/cmのTiOの形態で一次粒子の表面に存在していると仮定し、さらにコア部分(リチウム含有金属酸化物のうちのコーティング層以外の部分)の比重が4.2g/cmであるとの仮定の下に、TiOからなるコーティング層の膜厚を0.8nmと算出した。
このリチウム含有金属酸化物を正極活物質として用いた他は、実施例1と同様にしてリチウムイオン二次電池を製造し、電池評価を行った。その結果、充電容量Qは248mAh/g、内部抵抗R1およびR2はそれぞれ115Ωおよび130Ωと算出され、前記数式(2)の関係を満たすことが分かった。また、最後の5Cにおける放電容量は、151mAh/gであった。
[実施例3]
本実施例では、リチウムイオン二次電池の負極として、リチウム金属箔ではなく、負極活物質であるグラファイト粉末(大阪ガスケミカル社製、OMAC1.2H/SS)およびグラファイト粉末(TIMCAL社製、SFG6)と、バインダーであるスチレンブタジエンゴム(SBR、旭化成ケミカルズ(株)、L−1571)およびカルボキシメチルセルロースアンモニウム(ダイセル化学工業(株)、DN−400H)とが、固形分比として90:10:1.5:1.8の質量比からなる、厚さ40μmの負極合剤層を厚さ19μmの銅箔上に形成した負極シートを用いた。
負極として、上記負極シートを直径16mmに打ち抜いて用い、Li金属に対する正極電位が4.6Vとなるように正負極間の電位差を4.5Vに設定したこと以外は、実施例1と同様にしてリチウムイオン二次電池を製造し、電池評価を行った。その結果、充電容量Qは236mAh/g、内部抵抗R1およびR2は、それぞれ68Ωおよび121Ωと算出され、前記数式(2)の関係を満たすことが分かった。また、最後の5Cにおける放電容量は、137mAh/gであった。
[比較例1]
本比較例では、リチウム含有金属酸化物に対して硫酸との接触処理および熱処理を行わなかったこと以外は、実施例1と同様にしてリチウムイオン二次電池を製造し、実施例1と同様にして電池評価を行った。その結果、充電容量Qは257mAh/g、内部抵抗R1およびR2はそれぞれ36Ωおよび225Ωと算出され、前記数式(2)の関係を満たさないことが分かった。また、最後の5Cにおける放電容量は、123mAh/gであった。
[比較例2]
リチウム含有金属酸化物の製造に際して、硫酸水溶液の代わりに純水を用いたこと以外は、実施例1と同様にしてリチウムイオン二次電池を製造し、実施例1と同様にして電池評価を行った。その結果、充電容量Qは263mAh/g、内部抵抗R1およびR2はそれぞれ32Ωおよび206Ωと算出され、前記数式(2)の関係を満たさないとが分かった。また、最後の5Cにおける放電容量は、120mAh/gであった。
本発明のリチウムイオン二次電池は、各種民生用機器用電源、定置型電源、自動車用電源などの製造において、好適に利用可能である。

Claims (2)

  1. 正極活物質を含有する正極を有するリチウムイオン二次電池であって、
    前記正極は、正極活物質として下記組成式(1):
    LiMn1−x3−α・・・(1)
    {式中、Mは、MnおよびLi以外の1種類以上の金属元素であり、そして0≦x<1、および0≦α<1の関係を満足する。}で表されるLiが層状に配列した層状結晶構造を有するリチウム含有金属酸化物を含有する正極合剤層を有しており、そして
    前記リチウムイオン二次電池を、Li金属に対する正極電位が4.6Vとなるまで0.3Cで満充電した時の充電容量をQとし、
    該満充電状態から放電量が0.2Qとなるまで0.3Cで放電した後に、1分間の放電休止法によって算出される該電池の内部抵抗をR1とし、
    前記内部抵抗R1測定後に、引き続いて放電量が合計0.8Qとなるまで0.3Cで放電した後に、1分間の放電休止法によって算出される該電池の内部抵抗をR2とした時に、下記数式(2):
    R2<R1×Σ・・・(2)
    {数式(2)中、Σ=4.7である}の関係を満足することを特徴とする、前記リチウムイオン二次電池。
  2. 前記式(1)中のMが、Ni、Co、Al、Mn、Mo、W、Ce、Nb、Mg、Fe、Cu、Ti、Sn、Pb、V、Zn、Ga、Ge、およびZrから選ばれる少なくとも1種である、請求項1に記載のリチウムイオン二次電池。
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