以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰返さない。
図1は、本発明の実施の形態による制御装置であるECU(Electronic Control Unit)100を搭載した車両1の全体構成図である。車両1は、エンジン10と、有段式の自動変速機20と、自動変速機20の一部を構成するギヤユニット30と、自動変速機20の一部を構成する油圧回路40と、ディファレンシャルギヤ50と、ドライブシャフト60と、駆動輪70と、ECU100とを含む。
エンジン10は、電子スロットルバルブ11を備える。エンジン10の出力は、電子スロットルバルブ11の開度(スロットル開度)あるいは図示しない燃料噴射装置からの燃料噴射量を調整することによって制御可能である。
自動変速機20は、1速〜6速のギヤ段(変速比)のうちのいずれかのギヤ段を選択的に形成可能に構成される。自動変速機20の入力軸は、トルクコンバータ25を介してエンジン10のクランクシャフトに連結される。自動変速機20の出力軸は、ディファレンシャルギヤ50およびドライブシャフト60を介して、左右の駆動輪70に連結される。
さらに、車両1は、車速センサ81、シフトセンサ82、アクセルペダルポジションセンサ83、ストロークセンサ84、スロットル開度センサ85、エンジン回転速度センサ86、入力軸回転速度センサ87、および出力軸回転速度センサ88を備える。
車速センサ81は、車速を検出する。シフトセンサ82は、シフトレバーの位置(シフトポジション)を検出する。アクセルペダルポジションセンサ83は、アクセルペダル操作量(アクセル開度)を検出する。ストロークセンサ84は、ブレーキペダルのストローク量を検出する。スロットル開度センサ85は、電子スロットルバルブ11の開度(スロットル開度)を検出する。エンジン回転速度センサ86は、エンジン10の回転速度(エンジン回転速度NE)を検出する。入力軸回転速度センサ87は、自動変速機20の入力軸回転速度NINを検出する。出力軸回転速度センサ88は、自動変速機20の出力軸回転速度NOUTを検出する。これらの各センサは、検出結果をECU100に送信する。
ECU100は、図示しないCPU(Central Processing Unit)およびメモリを内蔵する。ECU100は、各センサからの情報およびメモリに記憶された情報に基づいて所定の演算処理を実行し、演算結果に基づいて車両1の各機器を制御する。
ECU100は、シフトポジションが前進走行を行なうためのD(ドライブ)ポジションである場合、1速〜6速のギヤ段のうちのいずれかのギヤ段が形成されるように、自動変速機20を制御する。
図2は、自動変速機20のギヤユニット30の内部の構造の一例を模式的に示す図である。ギヤユニット30は、入力軸21と、シングルピニオン型の遊星歯車機構である第1遊星歯車装置310と、ラビニヨ型の遊星歯車機構である第2遊星歯車装置320と、出力ギヤ31と、油圧によって作動する複数の摩擦係合要素(C1クラッチ36、C2クラッチ37、B1ブレーキ33、B2ブレーキ34、およびB3ブレーキ35)と、ワンウェイクラッチ38とを含む。
入力軸21は、トルクコンバータ25を介してエンジン10のクランクシャフトに連結される。
C1クラッチ36、C2クラッチ37、B1ブレーキ33、B2ブレーキ34、およびB3ブレーキ35は、それぞれに接続された複数のソレノイドバルブから供給される油圧によって係合される。なお、複数のソレノイドバルブは、油圧回路40(図1参照)の内部に設けられる。
第1遊星歯車装置310は、サンギヤS(UD)と、ピニオンギヤP(UD)と、リングギヤR(UD)と、キャリアC(UD)とを含む。サンギヤS(UD)は、入力軸21に連結されている。ピニオンギヤP(UD)は、キャリアC(UD)に回転自在に支持されている。ピニオンギヤP(UD)は、サンギヤS(UD)およびリングギヤR(UD)と噛合している。リングギヤR(UD)は、B3ブレーキ35によりギヤケース32に固定される。キャリアC(UD)は、B1ブレーキ33によりギヤケース32に固定される。
第2遊星歯車装置320は、サンギヤS(D)と、ショートピニオンギヤP(1)と、キャリアC(1)と、ロングピニオンギヤP(2)と、キャリアC(2)と、サンギヤS(S)と、リングギヤR(1)とを含む。サンギヤS(D)は、第1遊星歯車装置310のキャリアC(UD)に連結されている。
ショートピニオンギヤP(1)は、キャリアC(1)に回転自在に支持されている。ショートピニオンギヤP(1)は、サンギヤS(D)およびロングピニオンギヤP(2)と噛合している。キャリアC(1)は、出力ギヤ31に連結されている。
ロングピニオンギヤP(2)は、キャリアC(2)に回転自在に支持されている。ロングピニオンギヤP(2)は、ショートピニオンギヤP(1)、サンギヤS(S)およびリングギヤR(1)と噛合している。キャリアC(2)は、出力ギヤ31に連結されている。
サンギヤS(S)は、C1クラッチ36により入力軸21に連結される。リングギヤR(1)は、B2ブレーキ34によりギヤケース32に固定され、C2クラッチ37により入力軸21に連結される。
ワンウェイクラッチ38のアウターレースはギヤケース32に固定され、ワンウェイクラッチ38のインナーレースはリングギヤR(1)に連結される。1速ギヤ段での駆動時(入力軸21から出力ギヤ31に向けて動力が伝達されている時)にはワンウェイクラッチ38のインナーレースがアウターレースと係合するため、リングギヤR(1)はギヤケース32に固定される。
一方、1速ギヤ段での被駆動時(出力ギヤ31から入力軸21に向けて動力が伝達されている時)にはワンウェイクラッチ38のインナーレースはアウターレースと係合しないため、リングギヤR(1)はギヤケース32に固定されない。
B2ブレーキ34は、ワンウェイクラッチ38と並列に設けられる。B2ブレーキ34が係合すると、リングギヤR(1)がギヤケース32に固定される。したがって、1速ギヤ段での被駆動時において、B2ブレーキ34を係合することによってエンジンブレーキを作用させることができる。
図3は、各ギヤ段と各摩擦係合要素の作動状態との対応関係を表した作動表である。図3において、○は係合を表している。×は解放を表している。◎はエンジンブレーキ時のみの係合を表している。△は駆動時のみの係合を表している。この作動表に示された組み合わせで各ブレーキおよび各クラッチを作動させることにより1速〜6速の前進ギヤ段と、後進ギヤ段が形成される。
ECU100は、車速およびアクセル開度と予め記憶された変速マップとに基づいて目標ギヤ段を算出し、目標ギヤ段に対応する各摩擦係合要素の作動状態を図3の作動表に基づいて特定し、各摩擦係合要素が特定された作動状態となるように油圧回路40に設けられる各ソレノイドバルブに指令信号(ソレノイド要求電流値)を出力する。各ソレノイドバルブは、指令信号に応じた油圧を、対応する摩擦係合要素に供給する。これにより、各摩擦係合要素の作動状態が目標ギヤ段に対応する作動状態となり、実ギヤ段が目標ギヤ段と同じギヤ段となる。
たとえば、2速から3速へのアップ変速を行なう場合、ECU100は、C1クラッチ36を係合状態に維持しつつ、B1ブレーキ33を解放しかつB3ブレーキ35を係合する指令信号を、油圧回路40の各ソレノイドバルブに出力する。
また、3速から2速へのダウン変速を行なう場合、ECU100は、C1クラッチ36を係合状態に維持しつつ、B3ブレーキ35を解放しかつB1ブレーキ33を係合させる指令信号を、油圧回路40の各ソレノイドバルブに出力する。
また、コースト状態(アクセル開度が0の状態で車両1が惰性走行している状態)で2速から1速へのダウン変速を行なう場合、ECU100は、B1ブレーキ33を解放させるための指令信号を、B1ブレーキ33の油圧を調整するソレノイドバルブ(以下「B1ソレノイドバルブ」という)に出力するともとに、エンジンブレーキに寄与するB2ブレーキ34を係合させるための指令信号(以下「B2ソレノイド要求電流値」ともいう)をB2ブレーキ34の油圧を調整するソレノイドバルブ(以下「B2ソレノイドバルブ」ともいう)に出力する。これにより、2速から1速へのダウン変速が実行されるとともに、エンジンブレーキを作用させることができる。このように、2速から1速(1st)へのコーストダウン変速においては、エンジンブレーキ(EB)に寄与するB2ブレーキ34が係合対象となることから、以下では、2速から1速へのコーストダウン変速によって形成される1速を「1stEB」とも称し、2速から1速へのコーストダウン変速を「1stEBへのコーストダウン変速」とも称する。
以上のような構成を有する車両1において、ECU100は、コーストダウン変速中に入力軸回転速度NINが変速後の同期回転速度(コーストダウン変速後の変速比と出力軸回転速度NOUTとから決まる、コーストダウン変速後の入力軸回転速度NIN)に早期に変化するように、コーストダウン変速中にエンジン10のトルクアップを行なってエンジン回転速度NEを上昇させることで入力軸回転速度NINを上昇させる制御(以下「ブリッピング制御」ともいう)を実行する。このブリッピング制御によって、コーストダウン変速によって自動変速機20の入力軸21に作用するエンジンイナーシャ(いわゆるエンジンブレーキ)が軽減されるため、コーストダウン変速中に過大な減速度が発生することが抑制される。特に、トルクコンバータ25のロックアップクラッチが係合されている場合(トルクコンバータ25の入力要素であるポンプインペラと出力要素であるタービンライナとが直結状態である場合)には、トルクコンバータ25でスリップせずエンジンイナーシャによる減速度が大きいため、ブリッピング制御が有用である。
しかしながら、1stEBへのコーストダウン変速中に何らかの要因(たとえばECU100の内部異常)によって上述のブリッピング制御が実行されない異常(以下「ブリッピング異常」ともいう)が発生した場合、コーストダウン変速中に過大な減速度が発生してしまう可能性がある。
そこで、本実施の形態によるECU100は、1stEBへのコーストダウン変速の実行中にブリッピング異常の有無を判定し、ブリッピング異常が生じている場合は1stEBへのコーストダウン変速での係合制御対象(解放状態から係合状態に変更される対象)であるB2ブレーキ34を係合せずに解放する。これにより、1stEBへのコーストダウン変速中の減速度が抑制される。この点について、以下に詳細に説明する。
図4は、1stEBへのコーストダウン変速に関連するECU100の機能ブロック図である。ECU100は、変速要求判定部110と、変速制御部120と、エンジン制御部130と、ブリッピング異常判定部140とを含む。
変速要求判定部110は、車速およびアクセル開度と変速マップとに基づいて目標ギヤ段を算出し、算出された目標ギヤ段が変化した場合、変化前の目標ギヤ段から変化後の目標ギヤ段への変速が要求されたと判定する。たとえば、変速要求判定部110は、コースト状態において目標ギヤ段が2速から1速に変化した場合に、1stEBへのコーストダウン変速が要求されたと判定する。なお、変速を要求する操作をユーザが直接的に行なうための装置(たとえばパドルスイッチ)が設けられている場合には、当該装置の操作に応じて目標ギヤ段を算出するようにしてもよい。変速要求判定部110は、目標ギヤ段および変速要求の有無を変速制御部120およびエンジン制御部130に出力する。
変速制御部120は、自動変速機20で形成されるギヤ段が変速要求判定部110によって算出された目標ギヤ段となるように、指令信号(ソレノイド電流要求値)を各ソレノイドバルブに出力する。変速制御部120は、1stEBへのコーストダウン変速が要求された旨の信号を変速要求判定部110から受けた場合、1stEBへのコーストダウン変速の実行を開始する。具体的には、変速制御部120は、上述したように、B1ブレーキ33を解放させるための指令信号をB1ソレノイドバルブに出力するともとに、エンジンブレーキに寄与するB2ブレーキ34を係合させるための指令信号をB2ソレノイドバルブに出力する。
エンジン制御部130は、1stEBへのコーストダウン変速が要求された旨の信号を変速要求判定部110から受けた場合、上述のブリッピング制御を実行する。具体的には、エンジン制御部130は、エンジン10のトルクアップを要求する信号(以下「トルクアップ要求信号」という)を、電子スロットルバルブ11あるいは図示しない燃料噴射弁に出力する。トルクアップ要求信号によって要求されるエンジン10のトルクアップ量(以下、単に「トルクアップ要求量」という)が適正な値である場合には、1stEBへのコーストダウン変速中に、エンジン回転速度NEが1stEBへのコーストダウン変速後の入力軸回転速度NINの同期回転速度まで上昇される。そのため、1stEBへのコーストダウン変速中に自動変速機20の入力軸21に作用するエンジン10のイナーシャ(いわゆるエンジンブレーキ)が軽減され、1stEBへのコーストダウン変速中に過大な減速度が発生することが抑制される。
なお、本実施の形態によるエンジン制御部130は、車速がしきい値V0(ブリッピング作動車速)を超える高車速域で1stEBへのコーストダウン変速が実行される場合に限って、ブリッピング制御を実行する。すなわち、車速がしきい値V0を超える高車速域で1stEBへのコーストダウン変速が実行される場合は、ブリッピング制御を実行しなければ過大な減速度が発生する。一方、車速がしきい値V0未満である低車速域で1stEBへのコーストダウン変速が実行される場合は、ブリッピング制御を実行しなくても過大な減速度は発生しない。この点を考慮し、本実施の形態によるエンジン制御部130は、車速がしきい値V0を超える高車速域で1stEBへのコーストダウン変速が実行される場合に限って、ブリッピング制御を実行する。なお、車速がしきい値V0未満である低車速域においても多少の減速度が発生することを考慮して、低車速域においてもブリッピング制御を実行するようにしてもよい。
ブリッピング異常判定部140は、1stEBへのコーストダウン変速中に、ブリッピング制御が正常に実行されない異常(以下、単に「ブリッピング異常」という)が生じているか否かを判定する。
ブリッピング異常判定部140は、変速制御部120から各ソレノイドバルブに出力されるソレノイド電流要求値に基づいて、現在形成されているあるいは形成されようとしているギヤ段を推定する。そして、ブリッピング異常判定部140は、コースト状態においてソレノイド電流要求値に基づいて推定されたギヤ段(以下「推定ギヤ段」という)が2速から1速に変化した場合に、1stEBへのコーストダウン変速中であると判定する。このように、ブリッピング異常判定部140は、ECU100の内部にある変速制御部120からECU100の外部にある各ソレノイドバルブに最終的に出力されるソレノイド電流要求値に基づいて1stEBへのコーストダウン変速中であるか否かを判定する。そのため、ECU100の内部の何らかの異常に影響されることなく、1stEBへのコーストダウン変速中であるか否かを適切に判定することができる。
ブリッピング異常判定部140は、1stEBへのコーストダウン変速中であると判定された場合、ブリッピング異常が生じているか否かを判定する。ブリッピング異常判定部140は、エンジン制御部130が電子スロットルバルブ11あるいは燃料噴射弁にトルクアップ要求信号を出力した履歴(以下「トルクアップ要求履歴」という)があるか否かを判定する。また、ブリッピング異常判定部140は、トルクアップ要求履歴がある場合、トルクアップ要求量が適正な値であるか否かを判定する。ブリッピング異常判定部140は、トルクアップ要求履歴がない場合あるいはトルクアップ要求量が適正な値ではない場合、ブリッピング異常が生じていると判定する。ブリッピング異常判定部140は、ブリッピング異常が生じているか否かの判定結果を示す信号を変速制御部120に出力する。
変速制御部120は、1stEBへのコーストダウン変速中にブリッピング異常が生じている旨の信号をブリッピング異常判定部140から受けていない場合、1stEBへのコーストダウン変速での係合制御対象であるB2ブレーキ34の係合を継続するようにB2ソレノイド電流要求値の出力を継続する。一方、変速制御部120は、1stEBへのコーストダウン変速中にブリッピング異常が生じている旨の信号をブリッピング異常判定部140から受けた場合、1stEBへのコーストダウン変速での係合制御対象であるB2ブレーキ34を解放するようにB2ソレノイド電流要求値の出力を停止するフェールセーフ(F/S)制御を実行する。
特に、本実施の形態による変速制御部120は、車速がしきい値V0を超える高車速域でブリッピング異常が生じている場合に限って、B2ブレーキ34を解放するフェールセーフ制御を実行する。そのため、車速がしきい値V0未満である低車速域(ブリッピング制御を実行しなくても過大な減速度は発生しない車速域)で、B2ブレーキ34が不必要に解放されることを防止することができる。
図5は、上述した機能を実現するためにECU100が行なう処理手順を示すフローチャートである。このフローチャートは、所定周期で繰り返し実行される。
ステップ(以下、ステップを「S」と略す)10にて、ECU100は、車速を検出する(すなわち車速センサ81の出力を取得する)。S11にて、ECU100は、各ソレノイドバルブに出力されているソレノイド電流要求値に基づいて推定ギヤ段を算出する。
S12にて、ECU100は、コースト状態において推定ギヤ段が2速から1速に変化し、かつ車速がしきい値V0(ブリッピング作動車速)よりも高いか否かを判定する。コースト状態において推定ギヤ段が2速から1速に変化していない場合あるいは車速がしきい値V0よりも低い場合(S12にてNO)、ECU100は処理を終了する。
コースト状態において推定ギヤ段が2速から1速に変化し、かつ車速がしきい値V0よりも高い場合(S12にてYES)、ECU100は、車速がしきい値V0よりも高い高車速域で1stEBへのコーストダウン変速が実行されていると判定し、以下に説明するS13〜S16の処理でブリッピング異常が生じているか否かを判定する。
S13にて、ECU100は、コースト状態において推定ギヤ段が2速から1速に変化した時点から所定時間が経過したか否かを判定する。ECU100は、コースト状態において推定ギヤ段が2速から1速に変化した時点からカウンタによる計時を開始し、コースト状態において推定ギヤ段が2速から1速に変化した時点から所定時間が経過したことを示す値にカウンタが達したか否かを判定する。所定時間が経過していない場合(S13にてNO)、ECU100は、S13の処理を繰り返し、所定時間が経過するまで待つ。
コースト状態において推定ギヤ段が2速から1速に変化した時点から所定時間が経過した場合(S13にてYES)、ECU100は、S14にて、ブリッピング制御によるトルクアップ要求履歴があるか否かを判定する。S15にて、ECU100は、推定ギヤ段が2速から1速に変化した時点から所定時間が経過する前までの間になされたトルクアップ要求量が適正な値であるか否かを判定する。
トルクアップ要求履歴がある場合(S14にてYES)でかつトルクアップ要求量が適正な値である場合(S15にてYES)、ECU100は、ブリッピング異常が生じていないと判定して処理を終了する。これにより、B2ブレーキ34の係合が継続され、1stEBへのコーストダウン変速が予定通り実行される。
一方、トルクアップ要求履歴がない場合(S14にてNO)またはトルクアップ要求量が適正な値でない場合(S15にてNO)、ECU100は、S16にて、ブリッピング異常であると判定する。その後、ECU100は、S17にて、1stEBへのコーストダウン変速での係合制御対象であるB2ブレーキ34を解放するフェールセーフ(F/S)制御を実行する。
S18にて、ECU100は、フェールセーフ制御の終了条件が成立したか否かを判定する。たとえば、ECU100は、車速がB2ブレーキ34の係合を許可し得る値まで低下した場合または推定ギヤ段がB2ブレーキ34の係合を許可し得るギヤ段に変化した場合、フェールセーフ制御の終了条件が成立したと判定する。
フェールセーフ制御の終了条件が成立していない場合(S18にてNO)、ECU100は、処理をS17に戻し、フェールセーフ制御を継続する。一方、フェールセーフ制御の終了条件が成立した場合(S18にてYES)、ECU100は、S19にて、フェールセーフ制御を終了する。
図6は、2速から1速へのコーストダウン変速の実行中にブリッピング異常が発生した場合のB2ソレノイド電流要求値(すなわちB2ブレーキ34の油圧)の変化の一例を示す図である。
時刻t1にて、推定ギヤ段が2速から1速へ変化すると、1stEBへのコーストダウン変速が開始され、ECU100からB2ソレノイドバルブにB2ソレノイド電流要求値が出力され始めるとともに、カウンタによる計時が開始される。
正常時であれば、一点鎖線に示すように、時刻t2にてブリッピング制御によるトルクアップ要求量が0よりも増加し、トルクアップ要求履歴がオン状態となるはずである。しかしながら、図6に示す例では、ブリッピング異常が生じているため、二点鎖線に示すように、トルクアップ要求量が増加せず0のままとなり、トルクアップ要求履歴がオフ状態のまま維持されている。
推定ギヤ段が2速から1速に変化した時刻t1から所定時間が経過したことを示す値にカウンタが達した時刻t3にて、トルク要求履歴がオフ状態であるため、ブリッピング異常が生じていることを示すフラグがオン状態に切り替えられるとともに、B2ソレノイド電流要求値の出力が停止される。これにより、時刻t3以降においては、変速が終了する時刻t4を含め、B2ブレーキ34に供給される油圧(B2ブレーキ圧)が0となりB2ブレーキ34が解放されるため、エンジンブレーキは作用しない。そのため、ブリッピング異常が生じた場合であっても、1stEBへのコーストダウン変速中における過大な減速度の発生を抑制することができる。
以上のように、本実施の形態によるECU100は、1stEBへのコーストダウン変速中にブリッピング異常の有無を判定し、ブリッピング異常が生じている場合は1stEBへのコーストダウン変速での係合制御対象であるB2ブレーキ34を係合せずに解放する。これにより、ブリッピング制御が実行されない場合であても、1stEBへのコーストダウン変速中における減速度の発生を抑制することができる。
さらに、本実施の形態によるECU100は、1stEBへのコーストダウン変速中に車速がしきい値V0を超える高車速領域でブリッピング異常が生じた場合に限って、B2ブレーキ34を解放する。そのため、車速がしきい値V0未満である低車速域(ブリッピング制御を実行しなくても過大な減速度は発生しない低車速域)で、B2ブレーキ34が不必要に解放されることを防止することができる。
さらに、本実施の形態によるECU100は、ECU100の内部からECU100の外部にあるソレノイドバルブに実際に出力されているソレノイド電流要求値に基づいて、1stEBへのコーストダウン変速中であるか否かを判定する。そのため、ECU100の内部の何らかの異常に影響されることなく、1stEBへのコーストダウン変速中であるか否かを適切に判定することができる。
なお、上述の本実施の形態においては、2速から1速へのコーストダウン変速中にブリッピング制御を実行するとともにブリッピング異常の有無を判定したが、2速から1速へのコーストダウン変速以外のコーストダウン変速中にブリッピング制御を実行するとともにブリッピング異常の有無を判定するようにしてもよい。たとえば、3速から2速へのコーストダウン変速中にブリッピング異常があった場合には、3速から2速へのコーストダウン変速での係合制御対象であるB1ブレーキ33を解放するようにすればよい。
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。