以下、ディーゼルエンジンの制御装置の実施形態を図面に基づいて説明する。以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎない。図1及び図2は、実施形態に係るディーゼルエンジンの制御装置の概略構成を示す。この制御装置は、エンジン(エンジン本体)1と、このエンジン1における後述のインジェクタ18(燃料噴射弁)による制御を含む種々の制御を実行するパワートレイン・コントロール・モジュール(以下、PCMと記載)100とを備えている。PCM100は、この実施形態に係る噴射制御手段を構成する。
エンジン1は、不図示の車両に搭載されていて、その出力軸であるクランクシャフト15は、不図示の変速機を介して駆動輪に連結されている。エンジン1の出力が駆動輪に伝達されることによって、車両が推進する。
前記エンジン1は、複数の気筒11a(1つのみ図示)が設けられたシリンダブロック11と、このシリンダブロック11上に配設されたシリンダヘッド12と、シリンダブロック11の下側に配設され、潤滑油が貯留されたオイルパン13とを有している。このエンジン1の各気筒11a内には、ピストン14が往復動可能にそれぞれ嵌挿されていて、このピストン14の頂面には、リエントラント形燃焼室14aを区画するキャビティが形成されている。このピストン14は、コンロッド14bを介してクランクシャフト15と連結されている。
前記シリンダヘッド12には、各気筒11a毎に吸気ポート16及び排気ポート17が形成されていると共に、これら吸気ポート16及び排気ポート17の燃焼室14a側の開口を開閉する吸気弁21及び排気弁22がそれぞれ配設されている。吸気弁21を駆動する吸気動弁系、及び、排気弁22を駆動する排気動弁系はそれぞれ、少なくとも、開弁時期を変更する可変動弁機構を含んでいる。
エンジン1には、エンジン駆動式の高圧燃料ポンプ54と、燃料タンク52内に設けた電動式の低圧燃料ポンプ(不図示)とによって、燃料タンク52から燃料が供給される。前記シリンダヘッド12には、気筒11a内に前記燃料を直接噴射するインジェクタ18が設けられている。このインジェクタ18は、その燃料噴射口が燃焼室14aの天井面から該燃焼室14aに臨むように配設されていて、燃焼室14aの天井面からホローコーン状に燃料を噴射する。このインジェクタ18が燃料噴射弁を構成する。
この実施形態に係るインジェクタ18としては、ソレノイドを用いて構成され、噴射口の高度な開度制御が可能なインジェクタ18が用いられている。PCM100は、気筒11a内への燃料の噴射形態を制御すべく、インジェクタ18に対してパルス信号を入力する。例えば、図4(a)に示すように、1サイクルにつき複数回の噴射を実行させる場合には、PCM100は、インジェクタ18に対し、各噴射に対応するようなパルス幅を有するパルス信号を、所定のタイミングで入力する。各パルス信号のパルス幅、及び、当該信号間の間隔は、概ね、1ミリ秒程度のオーダーに設定される。この構成によると、エンジン1の回転数が非常に大きい場合でも、単位時間あたりの噴射量や噴射タイミングなどを精度良く制御できるようになっている。一般的に、こうしたインジェクタ18においては、各噴射タイミングにおいて噴射する燃料量を保証する最小保証燃料量が設定されている。
燃料タンク52とインジェクタ18との間は、燃料供給経路56によって互いに連結されている。この燃料供給経路56上には、燃料フィルタ53と、エンジン駆動式の高圧燃料ポンプ54と、コモンレール55とを含み且つ、インジェクタ18に、比較的高い燃料圧力で燃料を供給することが可能な燃料供給システム51が介設されている。燃料フィルタ53は、燃料タンク52からの燃料に含まれる異物等を除去して高圧燃料ポンプ54に送り、高圧燃料ポンプ54は、燃料フィルタ53からの燃料を、コモンレール55に圧送する。コモンレール55は、圧送された燃料を、比較的高い燃料圧力で蓄えることが可能であり、インジェクタ18が開弁することによって、コモンレール55に蓄えられている燃料がインジェクタ18の燃料噴射噴口から噴射される。ここで、高圧燃料ポンプ54は、詳細は省略するが、エンジン1によって駆動される。
また、シリンダヘッド12には、エンジン1(エンジン本体)の冷間始動時に、燃料の着火性を高めるためのグロープラグ19が設けられている。
前記エンジン1の一側面には、各気筒11aの吸気ポート16に連通するように吸気通路30が接続されている。一方、前記エンジン1の他側面には、各気筒11aの燃焼室14aからの既燃ガス(排気ガス)を排出する排気通路40が接続されている。これら吸気通路30及び排気通路40には、詳しくは後述するが、吸入空気の過給を行うターボ過給機61が配設されている。
吸気通路30の上流端部には、吸入空気を濾過するエアクリーナ31が配設されている。一方、吸気通路30における下流端近傍には、サージタンク34が配設されている。このサージタンク34よりも下流側の吸気通路30は、各気筒11a毎に分岐する独立通路とされ、これら各独立通路の下流端が各気筒11aの吸気ポート16にそれぞれ接続されている。
吸気通路30におけるエアクリーナ31とサージタンク34との間には、ターボ過給機61のコンプレッサ61aと、前記各気筒11aの燃焼室14aへの吸入空気量を調節する吸気シャッター弁36と、該コンプレッサ61aにより圧縮された空気を冷却するインタークーラ35と、後述の高圧EGR通路71との接続部と、が配設されている。この吸気シャッター弁36は、基本的には全開状態とされる。また、インタークーラ35は、電動ウォータポンプ91を通じて、エンジン1からの冷却水が供給されるように構成されている。
前記排気通路40の上流側の部分は、各気筒11a毎に分岐して排気ポート17の外側端に接続された独立通路と該各独立通路が集合する集合部とを有する排気マニホールドによって構成されている。
この排気通路40における排気マニホールドよりも下流側には、上流側から順に、ターボ過給機61のタービン61bと、排気ガス中の有害成分を浄化する排気浄化装置41と、後述の低圧EGR通路81との接続部と、排気シャッター弁43と、サイレンサ42とが配設されている。
この排気浄化装置41は、上流側から順に、酸化触媒41aと、ディーゼルパティキュレートフィルタ(以下では、DPFと記載)41bとを有している。前記酸化触媒41aは、白金又は白金にパラジウムを加えたもの等を担持した酸化触媒を有していて、排気ガス中のCO及びHCが酸化されてCO2及びH2Oが生成する反応を促すものである。また、前記DPF41bは、エンジン1の排気ガス中に含まれる煤等の微粒子を捕集するものである。尚、DPF41bに酸化触媒をコーティングしてもよい。
前記吸気通路30における前記サージタンク34と吸気シャッター弁36との間の部分(つまりターボ過給機61のコンプレッサ61aよりも下流側部分)と、前記排気通路40における前記排気マニホールドとターボ過給機61のタービン61bとの間の部分(つまりターボ過給機61のタービン61bよりも上流側部分)とは、排気ガスの一部を吸気通路30に還流するための高圧EGR通路71によって接続されている(高圧EGRシステム)。この高圧EGR通路71には、排気ガスの吸気通路30への還流量を調整するための高圧EGR弁(排気ガス還流弁)73が配設されている。
この高圧EGRシステムとは別に、低圧EGRシステムとして、吸気通路30におけるターボ過給機61のコンプレッサ61aよりも上流側部分と、排気通路40におけるDPF41bよりも下流側部分とは、排気ガスの一部を吸気通路30に還流するための低圧EGR通路81によって接続されている。この低圧EGR通路81は、排気ガスの吸気通路30への還流量を調整するための低圧EGR弁83と、排気ガスを冷却するためのEGRクーラ82と、還流させる排気ガス中に含まれる混入物等を捕集するための低圧EGRフィルタ(図示せず)とが配設されて構成されている。
また、排気通路40における低圧EGR通路81との接続部の直下流側であって且つ、サイレンサ42の上流側の部分(つまり、排気通路40における、当該接続部とサイレンサ42との間の部分)には、排気シャッター弁43が配設されており、開閉駆動されるように構成されている。この排気シャッター弁43は、その開度を変更することにより、排気ガスの低圧EGR通路81への流入圧力と流出圧力(吸気通路30における低圧EGR通路81の接続部分の圧力)とを調整可能に構成されていて、低圧EGR弁83と協働することにより、低圧EGR通路81を通じた排気ガスの還流量を制御する。
ターボ過給機61は、吸気通路30に配設されたコンプレッサ61aと、排気通路40に配設されたタービン61bとを有している。このコンプレッサ61aは、吸気通路30におけるエアクリーナ31とインタークーラ35との間に配設されている。一方、タービン61bは、排気通路40における排気マニホールドと酸化触媒41aとの間に配設されている。このタービン61bが排気ガス流により回転し、その回転により、タービン61bに連結された前記コンプレッサ61aが作動する。
ここで、ターボ過給機61は、エンジン1の運転状態に応じてタービン61bに流入する排気ガスの流速を調整可能な可変容量型のターボ過給機(Variable Geometry Turbocharger:VGT)であり、タービン61bの入口、つまり排気通路40におけるタービン61bの直上流部には、この調整のためのVGT絞り弁62が配設されている。VGTの構成は公知であるため、詳細な図示は省略するが、VGT絞り弁62は、支持軸回りに回動可能に構成されており、その開度を変更することにより、排気ガスが通ることになるノズル流路の開度が変更されるように構成されている。例えば、エンジン1の回転数が低いときに、ノズル流路の開度を小さく絞ることにより、ノズル流路を通過してタービン翼列内に流入する排気ガスの流速を高めると共に、その流れ方向がタービン61bの接線方向(つまり、円周方向)に向くことによって過給効率を高めることができる。但し、この場合、タービン61bの上流側の排圧が高まるため、排気抵抗は増加してしまう。
また、このエンジン1は、その排気量を1.5リットル程度とした、比較的排気量の小さいエンジンとなるように構成されている。このエンジン1は、比較的小型軽量であり且つ、機械抵抗が低く、燃費性能が高い。
このように構成されたエンジン1は、前述のPCM100によって制御される。PCM100は、プログラムを実行するCPU、プログラムやデータを格納するメモリ、カウンタタイマ群、インターフェース及びこれらのユニットを接続するパスを有するマイクロプロセッサで構成されている。
PCM100には、図2に示すように、各種のセンサからの検出信号が入力される。そうしたセンサとしては、次のセンサが含まれる。すなわち、エアクリーナ31の下流側で、新気の流量を検出するエアフローセンサ102、及び新気の温度を検出する吸気温度センサ103、インタークーラ35の下流側に配置され且つ、インタークーラ35を通過した後の吸気の圧力を検出する、吸気圧センサ105、サージタンク34に取り付けられて、気筒11a内に供給される吸気の温度を検出する吸入ガス温度センサ104、クランクシャフト15の回転角を検出するクランク角センサ101、エンジン冷却水の温度を検出する水温センサ108、排気通路40における高圧EGR通路71との接続部近傍に配置され、排気圧力を検出する排気圧センサ106、DPF41bを通過する前後の排気ガスの差圧を検出するDPF差圧センサ112、DPF41bを通過した後の排気ガスの温度を検出する排気温度センサ107、車両に設けたアクセルペダルの操作量に対応したアクセル開度を検出するアクセル開度センサ110、及び、変速機の出力軸の回転速度を検出する車速センサ111である。
PCM100は、これらの検出信号に基づいて種々の演算を行うことによってエンジン1や車両の状態を判定し、これに応じてインジェクタ18、グロープラグ19、及び、各種の弁(吸気シャッター弁36、排気シャッター弁43、高圧EGR弁73、及び低圧EGR弁83を含む)等のアクチュエータへ制御信号を出力する。
図3は、エンジン1の運転状態に応じた噴射形態を示すマップである。エンジン1は、温間時には、図3に示すように、エンジン回転数とエンジン負荷(要求噴射量)とに応じて、複数の運転領域からいずれか1つが選択され、各運転領域毎に設定された噴射形態を実行する。図3に示すマップでは、運転領域は、A、B、C及びDの4つに分けられており、PCM100は、これらの運転領域のうちのいずれを選択したとしても、インジェクタ18に対し、拡散燃焼を実行させるように構成されている。拡散燃焼とは、燃料と空気とが拡散及び混合しながら燃焼が進行していく燃焼であって、換言すれば、燃料噴射と燃焼とが時間的に一部重なる燃焼である。この拡散燃焼は、燃料と空気とを混合させた後に着火させる予混合燃焼に比べて、着火遅れが短いため、燃焼の開始タイミングを制御し易い。また、拡散燃焼は、予混合燃焼に比べて、燃焼が緩慢であるため、燃焼圧が低く燃焼騒音が小さくなる。尚、図3において、運転領域A内のさらに低負荷低回転側に設けた領域Eは、アイドル運転状態に相当し、このエンジン1では、アイドル運転時にも拡散燃焼を行う。
図3に示すマップにおいて、低回転低負荷の領域に相当する運転領域Aでは、パイロット噴射と、2回のプレ噴射と、メイン噴射とを含む、合計4回の燃料噴射を行う。また、運転領域Bに対して高負荷側の領域に相当する運転領域Bでは、パイロット噴射と1回のプレ噴射とメイン噴射とアフタ噴射とを含む、合計4回の燃料噴射を行う。さらに、運転領域A及び運転領域Bに対して高回転側の領域に相当すると共に、中回転中負荷の領域を含む運転領域Cでは、2回のプレ噴射とメイン噴射とを含む、合計3回の燃料噴射を行う。加えて、中負荷から高負荷の領域に相当する運転領域Dでは、プレ噴射とメイン噴射とを含む、合計2回の燃料噴射を行う。
尚、運転領域A及び運転領域Bでは、EGRガスを気筒11a内に導入するのに対し、運転領域C及び運転領域Dでは、EGRガスを気筒11a内に導入しない。また、アイドル運転時には、EGRガスを気筒11a内に導入する。
図4は、例えばアイドル運転時における、PCM100からインジェクタ18に出力されるパルス信号(a)と、当該パルス信号に基づいて実現されることになる噴射形態(b)と、それに伴う気筒11a内の熱発生率の履歴(c)とをそれぞれ例示している。尚、図4は、車両走行時にも取り得る噴射形態である。
図4に示す例では、PCM100は、インジェクタ18に対し、1サイクルあたりの要求噴射量を所定の比率で分割することにより、エンジン1の1サイクルにつき、合計3回の燃料噴射を実行させるように要求する。具体的には、PCM100は、圧縮上死点(図4中では、TDCと記載)前の圧縮行程中において、比較的噴射量の少ない、前段噴射の一例としてのプレ噴射を、所定の時間間隔を空けて2回実行させるように設定する。そして、2回目のプレ噴射を実行させた後、さらに所定の時間間隔を空けた後に、圧縮上死点付近、具体的には、圧縮上死点直前から当該上死点を過ぎた直後にかけて、プレ噴射よりも噴射量の多い燃料噴射(主噴射)を実行させる。プレ噴射は、十分な熱発生率を有するプレ燃焼を、その熱発生率のピークが圧縮上死点前の所定の時期に発生するように、生起させる。換言すれば、主燃焼の開始前にプレ燃焼を生起させ、それにより主噴射を開始する時点での気筒11a内の温度及び圧力を高めておく。このことは主噴射により噴射された燃料の着火遅れ時間を短くする。主噴射は、図4の例で示すように、プレ噴射よりも相対的に遅れたタイミングで、つまり、圧縮上死点により近いタイミングで噴射を開始するが、プレ噴射により着火遅れ時間を短くした分だけ、その主噴射に伴う主燃焼は、当該主噴射をしてから比較的早いタイミングで発生するようになる。主燃焼は、プレ噴射に伴うプレ燃焼に継続して発生するように、つまり、プレ燃焼による熱発生率がピークを過ぎて且つゼロに達する前に、当該主燃焼による熱量が発生し始めるようなタイミングで実行される。このように、主噴射の着火遅れを短縮することにより、主燃焼の熱発生率の上昇を緩慢にさせることができるから、燃焼騒音を低減させて、NVH(Noise Vibration Harshness)性能を高める上で有利になる。また、プレ噴射を2回実行させることで、相対的に多量の燃料を、相対的に早いタイミングで噴射させることになるから、気筒11a内の各所に、局所的にリッチな混合気を比較的多量に分散させることができる。それにより、気筒11a内の着火性を高め、未燃成分の低減を図る上で有利になる。
以下では、エンジン1サイクルあたりの要求噴射量を、全要求量と記載する。
PCM100は、アイドル運転時には、エンジン回転数が、目標値として設定された所定のアイドル回転数で安定するように、インジェクタ18に対する全要求量をフィードバック制御(アイドル回転数F/B制御)するように構成されている。アイドル回転数F/B制御により、全要求量、ひいては、各噴射タイミングのそれぞれで噴射する燃料量は増減し得る。
また、PCM100は、アイドル回転数F/B制御を実行している最中には、エンジン回転数をアイドル回転数に安定させると共に、回転速度(角速度)変動が各気筒で均等になるように噴射する燃料量を調整する(気筒間補正)。例えば、回転速度(角速度)変動が一番大きい気筒と一番小さい気筒の平均になるよう、主噴射によって噴射する燃料量を調整する。
ここで、前述したように、インジェクタ18には、実際に噴射する燃料量を保証する最小保証噴射量が設定されている。最小保証噴射量を下回るような微量の燃料を噴射すると、気筒11a内に実際に噴射される燃料量を把握することができなくなるため、そのような微量の燃料を噴射することは、避けることが好ましい。
アイドル回転数F/B制御を実行している最中に全要求量が減少する結果、1回のプレ噴射によって噴射する燃料量が、最小保証噴射量を下回ることが起こり得る。特にこのエンジン1は、前述の通り、比較的低排気量のエンジンであるため、アイドル運転時における全要求量が少なくなり易い。また、前述したように、このエンジン1では、図3に示す各運転領域において、分割噴射を行っているが、例えば車両走行中にアクセル開度をゼロにすることに伴う減速過渡時に、エンジン負荷及びエンジン回転数を低下させる際に、全要求量が少なくなる結果、1回のプレ噴射によって噴射する燃料量が、最小保証噴射量を下回ることも起こり得る。
1回のプレ噴射によって噴射する燃料量が、最小保証噴射量を下回り得るようなときには、当該プレ噴射の噴射量を最小保証噴射量以上に維持するために、プレ噴射の回数を予め設定した回数(この実施形態では、2回)から減らすことが考えられる(つまり、噴射回数可変制御)。これにより、気筒11a内に実際に噴射される燃料量を、常に把握することが可能になり、車両走行中等において、エンジン1の急激なトルク変動を回避することが可能になる。
これに対し、アイドル運転時に、プレ噴射の回数を減らしてしまうと、着火性の低下を招き、未燃成分が増大してしまうことが判明した。また、アイドル運転時には、アイドル回転数F/B制御を行っており、全要求量が増減するため、プレ噴射の回数も増減することになる。これは、エンジン回転数の変動を大きくしてしまう。
そこで、このエンジン1では、アイドル運転時には、最小保証噴射量を下回る噴射量で燃料を噴射することを許容する一方で、プレ噴射の回数を予め設定した回数(この実施形態では、2回)で一定に保持することにした(つまり、噴射回数保持制御)。
以下では、噴射回数可変制御及び噴射回数保持制御の詳細について説明する。
図5は、噴射回数可変制御及び噴射回数保持制御に係る制御フローを例示している。この制御フローはまた、常温環境下に係る。
図5のステップS1に示すように、PCM100は、エンジン1の状態を判定すべく、種々のセンサからの信号を読み込む。
ステップS1から続くステップS2おいて、PCM100は、エンジン1の運転状態がアイドル運転状態であるか否かを判定し、この判定がYESならばステップS8に進む一方、NOであるときには、つまり、車両が走行状態にあると判定したときには、ステップS3に進む。
尚、アイドル運転状態であるか否かの判定は、エンジン1が無負荷状態にあり且つ、車速がゼロであることを条件としてもよい。
ステップS3において、PCM100は、インジェクタ18に対し、エンジン1サイクルにおける各噴射量を最小保証噴射量以上に維持するように、エンジン1サイクルあたりでプレ噴射を行う回数を増減する噴射可変制御を実行する。以下では、この噴射回数可変制御について説明する。
図6(a)及び図6(b)は、それぞれ、PCM100から出力されるパルス信号を概略的に示していて、この図は、図4に示す噴射形態から、全要求量が減少したときの噴射形態の変化を例示している。図6(b)の方が、図6(a)よりも、全要求量は少ない。各図において、紙面右側に示された、比較的幅の長いパルス信号が主噴射に対応し、それよりも紙面左側に示された、比較的幅の短いパルス信号がプレ噴射に対応する。
図6(a)では、全要求量が相対的に少なく、その全要求量を予め定められた割合で、2回のプレ噴射と、1回の主噴射とに分割をすると、それぞれで噴射する燃料量を、最小保証噴射量以上に維持することができなくなる。そこで、PCM100は、全要求量が所定量Q1以下のときには(ステップS4でYESのときには)、ステップS5に進み、プレ噴射の回数を減らし、1回のプレ噴射と1回の主噴射とを実行させる。所定量Q1は、2回のプレ噴射と、1回の主噴射とに分割をすると、最小保証噴射量以上に維持することができなくなる全要求量として、適宜設定される。ここで、2回のプレ噴射のうち、進角側のプレ噴射を行わず、主噴射により近いタイミングで行われるプレ噴射を実行させるようにしている。主噴射に近いタイミングで行うプレ噴射は、主噴射により噴射される燃料の着火性に大きく影響するためである。こうして、プレ噴射の回数を減らすことで、その分だけ、残り1回のプレ噴射と、主噴射とに割く噴射量を、相対的に増大させる。また、主噴射における噴射量は、プレ噴射における噴射量よりも相対的に多くなるように調整されている。
そして、図6(b)では、全要求量がさらに少なくなり、その全要求量を予め定められた割合で、1回のプレ噴射と、1回の主噴射とに分割をすると、それぞれで噴射する燃料量を、最小保証噴射量以上に維持することができなくなる。そこで、PCM100は、全要求量が所定量Q2以下のときには(ステップS6でYESのときには)、ステップS7に進み、プレ噴射を行わずに、1回の主噴射のみを実行させるようにしている。そうすることで、プレ噴射の回数を減らした分だけ、主噴射に割く噴射量を相対的に増量させる。ここで、所定量Q2は、1回のプレ噴射と、1回の主噴射とに分割をすると、最小保証噴射量以上に維持することができなくなる全要求量として、適宜設定される(但し、Q2<Q1)。そうして、ステップS12で、燃料噴射を実行する。尚、全要求量が所定量Q1を超えるときには、その全要求量を予め定められた割合で、2回のプレ噴射と1回の主噴射とに分割することになる。
このように、PCM100は、走行時には、最小保証噴射量以上に維持する噴射回数可変制御を実行する。これにより、全要求量の減少に伴って、プレ噴射を実行させる回数は減っていく。当該制御によって、プレ噴射及び主噴射のそれぞれで噴射する燃料量を、最小保証噴射量以上に維持することができる。したがって、減速過渡時等において、エンジン1のトルクを確実に制御して、トルクショックの発生を回避することができる。
しかも、プレ噴射の回数を減らす際には、主噴射よりも比較的遠いタイミングで行われるものから順に減らすようにしているから、主噴射による主燃焼を、プレ噴射に伴うプレ燃焼に継続して発生させる上で有利になる。そうすることで、プレ噴射の回数を減らす場合であっても、燃料の着火遅れ時間を可及的に短くし、燃焼騒音を抑止したり、燃焼温度を低減することにより、RawNOxの生成を抑止したりする上で有利にしている。
尚、噴射回数可変制御を実行している最中に、さらに、エンジン1及び車両の運転に係る状態が変化した場合には、図5の制御フローに従って、その状態に適した制御を、再度、選び直す。
図5の制御フローに戻り、ステップS8では、エンジン1をアイドル運転させるべく、つまり、エンジン回転数がアイドル回転数で安定するように、アイドル回転数F/B制御を実行する。
そして、図5のステップS8から続くステップS9では、PCM100は、アイドル回転数F/B制御と共に、さらに、全要求量の変動に拘わらず、プレ噴射の噴射回数を一定に保持する噴射回数保持制御を実行する。以下では、この噴射回数保持制御について説明する。
図7(a)及び図7(b)は、いずれも、PCM100から出力されるパルス信号を概略的に示している。図7(a)及び図7(b)における全要求量は、それぞれ、図6(a)及び図6(b)における全要求量と同量である。したがって、図7(a)よりも、図7(b)の方が全要求量は少なく、図7(a)における全要求量は、図4に示す噴射形態の全要求量よりも少ない。
アイドル運転時には、燃料の着火性を高め、ひいてはエンジン回転数を比較的安定させることが要求されるため、噴射回数可変制御を実行することで、そうした状況に適した噴射形態を使用することができる。
図7(a)及び図7(b)から明らかなように、噴射回数保持制御を実行することにより、PCM100は、インジェクタ18に対し、全要求量の大小に拘わらず、エンジン1サイクルにつき、2回のプレ噴射と、1回の主噴射とを実行させる。
噴射回数保持制御では、ステップS10において、全要求量がQ1以下になったときには、ステップS11に進み、全要求量を、2回のプレ噴射と1回の主噴射とで等分する。
こうして、全要求量が少ないときであっても、2回のプレ噴射を確実に実行させることで、気筒11a内の着火性を高め、未燃成分を低減することができる。全要求量が少ないときであっても、2回のプレ噴射を確実に実行させることで、気筒11a内の着火性を高め、未燃成分を低減することができる。全要求量を等分することで、プレ噴射のそれぞれで噴射する燃料量を、図4(a)のように主噴射に係る燃料量がプレ噴射のそれぞれに係る燃料量よりも相対的に多く設定されるときよりも、相対的に且つ可及的に多く設定することになる。このことは、設定された回数のプレ噴射を確実に実行することを可能にする。尚、噴射回数保持制御では、気筒間補正を含んだ気筒毎の全要求量を、2回のプレ噴射と1回の主噴射とで等分する。
尚、全要求量が所定量Q1を超えるときには、その全要求量を予め定められた割合で、2回のプレ噴射と1回の主噴射とに分割することになる。
噴射回数保持制御では、単にプレ噴射を実行させるばかりでなく、その実行回数を一定に保持するようにしている。このことで、エンジン回転数の変動が大きくなることが回避される。
また、噴射回数保持制御を実行している最中に、さらに、エンジン1及び車両の運転に係る状態が変化した場合には、図5の制御フローに従って、その状態に適した制御を、再度、選び直す。
このように、アイドル運転時には、プレ噴射を確実に実行させると共に、その回数を一定に保持するように制御することにより、着火時期の安定性、及び、着火性を可及的に安定させることができるから、燃焼騒音、及び、未燃成分の生成を抑止することができる。
噴射回数保持制御では、最小保証噴射量を下回る噴射を許容するため、気筒11a内に噴射する燃料量を正確に把握することができない。しかしながら、噴射回数保持制御を行うアイドル運転時には、アイドル回転数F/B制御によって、全要求量の増減を行うため、エンジン回転数を、アイドル回転数で安定させることが可能である。
エンジン1の運転状態に基づいて、最小保証噴射量以上に維持する噴射回数可変制御と、所定のタイミングでの燃料噴射を確実に行う噴射回数保持制御とを切り替えることで、それぞれの利点を効果的に発揮させることができる。
このように構成されたPCM100は、この実施形態にて開示したエンジン1のように、インジェクタ18からの噴射量が相対的に少量となる、比較的低排気量のエンジンに適用する上で特に有利なものとなる。
さらに、この実施形態に係るPCM100は、噴射回数保持制御を実行している最中、インジェクタ18に対し、1回の主噴射と、それよりも早いタイミングの2回のプレ噴射とを実行させる。そうすることで、アイドル回転数F/B制御と共に噴射回数保持制御を実行するのに効果的な燃焼形態が得られる。
また、噴射回数可変制御における着火時期の安定性、及び着火性を可及的に高めるべく、PCM100は、全要求量の減少に伴いプレ噴射の回数を減らすときには、2回のプレ噴射のうち、主噴射よりも遠いタイミングで実行されるものから順に削減するようにしている。そうすることで、着火遅れを抑止する上で有利になる。
また、噴射回数保持制御においてプレ噴射を確実に実行させるべく、PCM100は、全要求量の減少に伴って、プレ噴射の回数を減らす代わりに、主噴射と、プレ噴射のそれぞれとで、全要求量を均等に分割する。そうすることで、プレ噴射のそれぞれで噴射する燃料量が相対的に且つ可及的に増大するから、プレ燃焼を確実に実行させる上で有利になる。
<他の実施形態>
PCM100による制御の例として、図5の制御フローに基づく制御について説明したが、必ずしもこの構成に限定されるわけではない。各ステップの順番を、可能な範囲において変更することができる。また、可能な範囲において、これらのステップを並行させるように構成してもよい。
DPF再生時には、主噴射を行った後の膨張行程で、燃焼に寄与しないポスト噴射を実行させる。それにより、酸化触媒41a、ひいては排気ガスの昇温を図り、DPF41bに捕集された微粒子を燃焼除去する。そうしたDPF再生をアイドル運転時に行うときには、その効率化を図るべく、いわゆるアイドルアップを実行することがある。アイドルアップによって、アイドル回転数は通常よりも高く設定され、排気流量、ひいては排気温度を高めることができる。逆に、DPF再生時であっても、アイドルアップを実行していないときには、ポスト噴射を実行させるのに必要な燃料の分だけ、エンジン1サイクルあたりで、プレ噴射及び主噴射にて噴射される燃料は、比較的微量となる。
したがって、DPF再生時には、アイドルアップを実行していないときに、噴射回数保持制御又は噴射回数可変制御を実行するようにしてもよい。
さらに、2000mから3000mほどの高地の環境下では、空気中の酸素量が低地よりも少なくなるため、そうした状況に対応するように、PCM100からインジェクタ18に対し要求する噴射量を減少させる必要がある。したがって、高地環境下では、アイドル運転時に、全要求量が少なくなり易い。そこで、高地環境下では、図5の制御フローを実行し、噴射回数保持制御を実行可能にしてもよい。