JP2016069886A - 建造物の補強構造 - Google Patents
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上記囲い鋼板Aは、断面をL字状にした4枚の分割鋼板2からなり、各分割鋼板2の直角部分を既存柱1の角に対応させて配置し、既存柱1の周囲を囲んでいる。このとき、互いに隣接する一方の分割鋼板2の一端側と、他方の分割鋼板2の他端側とが重ね合わされるようしている。そして、囲い鋼板Aと既存柱1との間には、ほぼ一定の間隔を設けている。
このように、囲い鋼板Aの軸方向長さを、既存柱1の補強対象部分の軸方向長さを複数に分割した短い長さにしているのは、各分割鋼板2の重量を軽くして、その搬送性や現場での施工作業性をよくするためである。
なお、上記囲い鋼板Aと既存柱1との空間には、既存柱1の四隅に対応した位置に鉄筋などの軸方向筋5を配置するとともに、既存柱1の側面には、既存柱1の幅方向及び軸方向に間隔を保って複数のアンカー部材6を打ち込んでおく。これら軸方向筋5やアンカー部材6は、上記空間内に充填したグラウト材3内に埋設される。
上記グラウト材3に埋設された上記軸方向筋5が、補強柱の曲げ耐力を発揮することになる。
したがって、上記従来の補強構造において曲げ耐力を発揮させるためには、既存柱1に沿った軸方向筋5を配置することが必須であった。
つまり、対向する分割鋼板2,2の距離は一対の軸方向筋5,5間の距離Sと軸方向筋5と分割鋼板2との間隔s×2の合計となる(図8参照)。その結果、補強柱の幅W1が大きくなってしまう。なお、ここでは既存柱1及び補強柱の断面が正方形としている。
そして、補強柱の幅W1が大きく、すなわち補強柱の太さが大きくなれば、その分、居住空間など、建物内が狭くなってしまうという問題があった。
また、補強柱を太くできないような現場では、曲げ耐力を向上させるような補強ができないこともあった。
この発明の目的は、補強柱の太さをできるだけ細く保ったまま曲げ耐力を向上させることができ、スペースの少ない現場でも採用可能な建造物の補強構造を提供することである。
そして、第1の発明は、上記積層した囲い鋼板のうち最上部となる囲い鋼板と最下層となる囲い鋼板とのそれぞれに、梁やスラブなどの既存構造体に固定するための固定手段を備えるとともに、上記積層した囲い鋼板同士を結合して軸方向に一体化したことを特徴とする。
上記軸方向筋を細くしたり省略したりできれば、軸方向筋を埋設した従来の補強構造と比べて、囲い鋼板と既存柱との間隔を狭くすることができるため、補強柱の断面積を小さくすることができる。
したがって、居住空間などを維持しながら、補強構造の曲げ耐力を上げることができるし、周囲のスペースが少ない現場でも、補強が可能になる。
言い換えれば、従来と同様の軸方向筋を使用し、従来通りの断面積にすれば、一体化された囲い鋼板の曲げ耐力が付加され、より一層大きな曲げ耐力が発揮されることになる。
したがって、補強柱を太くしなくても、囲い鋼板によってより太い軸方向筋と同様の補強効果を得られる。
また、縦リブ同士を突き合わせることによって、隣り合う分割鋼板の位置合わせが容易にでき、囲い鋼板の設置作業性が向上する。
また、囲い鋼板が複数の分割鋼板で構成されている場合に、帯状シートによって周方向に連続する分割鋼板を束ねることで、分割鋼板の位置ずれを防止でき、グラウト材充填時の型枠や支保部材を簡略化できるメリットもある。
なお、この第1実施形態において上記した従来例と同じ構成要素には、図7.8と同じ符号を用い、個々の詳細な説明は省略する。
上記柱用の囲い鋼板Aは、従来と同様に4枚の分割鋼板2を一組にしてなり、各分割鋼板2の直角部分を既存柱1の角に対応させて配置し、複数積層して既存柱1の周囲を囲んでいる。
なお、上記交差部用の囲い鋼板Bも複数の分割鋼板によって構成してもよい。
上記固定用ロッド10と最下層に配置される囲い鋼板A1との結合は、現場で行なってもよいし、鋼板成形時に予め行なっておいてもよい。
なお、柱用の囲い鋼板のうち最下層となる囲い鋼板を区別する際には囲い鋼板「A1」とするが、特に区別に必要がない場合には全ての柱用の囲い鋼板を符号「A」で説明する。
また、積層した複数の囲い鋼板Aの上には、上記交差部用の鋼板Bを積層させて、上記取付け片bを固定用ボルト8で既存梁7に固定する。
さらに、上記囲い鋼板A,A間、及びA,B間を溶接によって結合する。この溶接は、上記囲い鋼板A,Bを積層しながら行なう。
なお、図1中符号9は溶接部であるが、この溶接部9は、積層された囲い鋼板A,Bが地震力などを受けたときに分断されず、一体物として機能する強度が必要である。
そして、上記囲い鋼板A,Bと既存柱1との間にグラウト材3を充填して硬化させ、補強柱を形成して補強構造を完成する。
上記上下を固定し軸方向に一体化された囲い鋼板A,Bの引っ張り耐力は、おおよそ下記の演算式(1)で表すことができる。この引っ張り耐力は、軸方向に連続的に結合された分割鋼板2ごとに算出する。
鋼板の厚さをt(図3参照)、鋼板の2辺の合計長さをL、鋼板材料の降伏点強度をαとすると、分割鋼板の引っ張り耐力=厚さt×長さL×降伏点強度α・・・(1)となる。
これを、例えば高強度鉄筋に相当する、降伏点強度β=490[N/mm2]の丸棒に換算すると、直径が46.9[mm]になる。つまり、従来のようにグラウト材3内に軸方向筋5を埋設しなくても、直径が46.9[mm]相当の高強度の軸方向筋を設けた場合と同等の引っ張り耐力が得られ、対応した曲げ耐力が発揮される。
ただし、上記α=294[N/mm2]、β=490[N/mm2]は、建築材料に用いられる一般的な鋼材の一例である。
したがって、軸方向筋5を省略でき、その分、図3に示すように補強柱の幅W2を従来の幅W1よりも小さくすることができる。
そのため、従来と比べて補強柱を細くでき、居住空間などを保つことができる。また、スペースの少ない現場でも既存の構造体を補強することができる。
しかし、上記囲い鋼板Bを固定する既存構造体は既存梁7に限らない。例えば、上記囲い鋼板Bを上スラブに固定するようにしてもよい。その場合には、上記囲い鋼板Bの角付近に、図1,2の最下層となる囲い鋼板A1と同様に固定用ロッド10を結合し、それを固定手段とすればよい。
さらに、積層された囲い鋼板A,Bを結合する手段も、溶接に限らない。強固な結合状態が維持できるものであれば、接着や、ねじ止めなどを利用することができる。
この第2実施形態の分割鋼板13は、断面L字状にした鋼板であって、既存柱1の周方向の端部には、既存柱1側に向かって突出する縦リブ14,14を備えている。
また、各分割鋼板13の上下の端部には、既存柱1側に向かって突出する横リブ15、15を備えている。
これら縦リブ14及び横リブ15は各分割鋼板13の端部を折り曲げて形成してもよいし、別部材を取り付けて形成してもよい。
そして、上記囲い鋼板A1の各分割鋼板13に設けた固定用ロッド10を、図2に示す第1実施形態と同様にして下スラブ11に固定する。
なお、上記交差部用の囲い鋼板Bの下端に横リブを設けて、囲い鋼板Aの横リブ15に重ねるようにしてもよい。
なお、上下に連続する囲い鋼板同士の溶接部9は、強固にする必要があるが、上記縦リブ14,14同士は、帯状シート4のみで連結するようにしてもよいし、縦リブ14,14間の溶接部16は仮止め程度の溶接でもよい。
また、この第2実施形態では、上記縦リブ14を設けたので、補強柱の太さを第1実施形態の補強柱と同じにしても、上記縦リブ14の分だけ各分割鋼板13の断面積が大きくなる。そのため、分割鋼板13がより太い軸方向筋に相当することになり、補強強度が高くなる。
例えば、地震力などが作用すると、囲い鋼板Aが補強柱の外方へ向かって膨らんだり、内側にへこんだりするような力を受けるが、上記横リブ15は、囲い鋼板A,Bの伸びを抑えて、膨らんだりへこんだりする変形を起こりにくくする。軸方向筋として機能する囲い鋼板が変形しにくくなれば、結果として補強柱の変形量も小さくなって、建造物が破壊しにくくなる。
また、交差部用の囲い鋼板Bに、上記囲い鋼板A1に設けた固定用ロッド10と同様の固定用ロッド10を上方に突出させて設け、これを固定手段として図示しない上スラブに固定するようにしてもよい。さらに、上記固定用ロッド10を囲い鋼板Bの上端に設けた横リブに設けてもよい。
この第3実施形態においても、上記第1実施形態と同様の構成要素には同じ符号を用いることとし、その詳細な説明は省略する。
この第3実施形態は、図5に示すように、既存柱1の正面1aを一対の分割鋼板19,20からなる囲い鋼板Cで囲い、この囲い鋼板Cと既存柱1との間にはグラウト材3を充填している。
図5は、最上層の囲い鋼板Cを示しているが、分割鋼板19,20の角部近傍の内側面に、それぞれ上記固定用ロッド10を溶接して設けている。最下層においても同様に、固定用ロッド10を下方に突出させている。
そして、これら最上下層の囲い鋼板Cに設けた固定用ロッド10を、それぞれ上下スラブに形成した挿入孔に挿入し、その先端に形成されたねじ部10aにナット12を固定する(図2参照)。これにより、固定用ロッド10を介して上記軸方向に一体化した囲い鋼板Cの上下端が固定されることになる。
上記のようにした一対の鋼板19,20の正面部19a,20aの先端同士を重ね合わせるとともに、上記側面部19b,20bの対向間隔を既存柱1の幅に合わせ、その間隔を保って既存柱1の正面1aを囲む。
そして、上記側面部19b、20bを既存柱1の両側面1b、1cに密着させて、既存柱1を挟むようにしている。
上記側面1b,1cから突出したねじ部材21には、各分割鋼板19,20の側面部19b,20bに形成した貫通孔19c,20cを合わせ、上記ねじ部材21,21を貫通させた状態で、側面部19b,20bを側面1b,1cに密着させて、その位置を保つようにしている。
さらに、設置した分割鋼板19,20の外側には、帯状シート4を接着して、周方向に隣り合う分割鋼板19,20同士が連結されるようにしている。
そして、上記帯状シート4から突出したねじ部材21に、座金プレート22を介してナット23を締め付け、既存柱1に分割鋼板19,20を固定する。上記分割鋼板19,20が既存柱1に固定されたら、既存柱との間にグラウト材3を充填する。
そのため、囲い鋼板Cと既存柱1との間の軸方向筋を省略したり、細くしたりすることができ、補強柱を従来よりも細くして、居住空間を保ちながら補強したり、周囲のスペースが少ない場合にも既設構造体を補強したりすることが可能になる。
ただし、例えば、既存柱1の正面1aと壁18とが面一で、側面1b、1cに囲い鋼板Cを固定できない場合であっても、アンカー部材6などを利用してグラウト材3を介して囲い鋼板Cと既存柱1との一体性を保持出来れば、正面1aのみを囲う囲い鋼板Cであっても、軸方向筋として機能させることが可能である。
例えば、図6に示す第4実施形態の固定手段は、最上層あるいは最下層の囲い鋼板を構成する分割鋼板2の角部に溶接した固定用プレート24と、固定用ロッド25とによって構成される。上記固定用ロッド25は、一方の端部をスラブ側に固定し、他端側にねじ部25aを形成している。
そして、固定用プレート24には挿入孔24aを形成し、この挿入孔24aに上記固定用ロッド25のねじ部25a側を挿入し、ナットなどを用いて囲い鋼板をスラブに固定するようにする。
また、上記実施形態の固定用ロッド10や、図6の固定用ロッド25は、上記挿入孔11aや24aからの突出長さを十分にとれば、グラウト材などで支持することができ、ナットを省略することも可能である。
このような固定手段は、上記第1〜3実施形態のいずれにも適用可能である。
2 分割鋼板
3 グラウト材
4 帯状シート
7 既設梁
8 固定用ボルト
9 溶接部
10 固定用ロッド
11 下スラブ
11a 挿入孔
12 ナット
13 分割鋼板
14 縦リブ
15 横リブ
19 分割鋼板
20 分割鋼板
24 固定用プレート
24a 挿入孔
25 固定用ロッド
25a ねじ部
A、A1、B,C 囲い鋼板
b 取付け片
Claims (4)
- 積層した複数の囲い鋼板によって既存柱の周囲を軸方向に沿って囲み、この囲い鋼板と既存柱との間にグラウト材を充填して補強柱を構成する建造物の補強構造において、
上記積層した囲い鋼板のうち最上部となる囲い鋼板と最下層となる囲い鋼板とのそれぞれには、梁やスラブなどの既存構造体に固定するための固定手段を備えるとともに、
上記積層した囲い鋼板同士を結合して軸方向に一体化した建造物の補強構造。 - 上記囲い鋼板を、上記既存柱の周方向に沿って配置される複数の分割鋼板で構成し、各分割鋼板の周方向端部には、既存柱に向かって突出し、軸方向に連続する縦リブを設けた請求項1に記載の建造物の補強構造。
- 上記囲い鋼板の上下端部のうち少なくとも一方の端部には、既存柱に向かって突出した横リブを設けた請求項1又は2に記載の建造物の補強構造。
- 上記囲い鋼板の周囲に帯状シートを接着した請求項1〜3のいずれかに記載の建造物の補強構造。
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