JP2016069343A - 脳機能障害改善剤 - Google Patents

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Abstract

【課題】 副作用が少なく安全性に優れ、血圧の変動を生じさせずにアミロイド・ベータ蛋白質に起因する脳機能障害を改善する薬剤を提供すること。【解決手段】 Met−Lys−Proからなるペプチドを有効成分として含有するアミロイド・ベータ蛋白質に起因する脳機能障害改善剤、前記アミロイド・ベータ蛋白質に起因する脳機能障害がアルツハイマー型認知症である前記改善剤、及び前記アルツハイマー型認知症が高齢者に発症する症状である前記改善剤。【選択図】なし

Description

本発明は、アミロイド・ベータ蛋白質に起因する脳機能障害改善剤に関する。
認知症は、加齢に伴い発現率が高くなる脳機能障害であり、その発現率は、65歳以上の高齢者の凡そ7.7%であり、80〜84歳では14.6%、85歳以上では27.3%とも言われている。我が国においては、人口の高齢化に伴って、認知症患者数が急激に増加しており、2010年時点では200万人程度である患者数が、2021年には300万人以上になるとも推定されている。認知症は、種々の原因で発症するが、その中でも一番多い原因疾患は、アミロイド・ベータ蛋白質に起因する脳機能障害であるアルツハイマー病である(アルツハイマー型認知症)。
このような背景から、アルツハイマー型認知症に対する根本的治療法が望まれている。アルツハイマー型認知症は、脳内でアミロイド・ベータ蛋白質が凝集して蓄積することで神経毒性が生じ、脳内の神経細胞を死滅させることが原因で発症するとされている。そのため、根本的な治療方法としては、脳内の神経細胞死自体を抑制することが必要である。しかしながら、現在のアルツハイマー型認知症の治療方法としては、コリンエステラーゼ阻害薬やグルタミン酸NMDA受容体拮抗薬による投薬治療が対症療法的に行われているのみである(非特許文献1)。
近年、ペリンドプリルなどの薬剤に、アミロイド・ベータ蛋白質による脳内の神経細胞死を抑制する効果が見出され、アルツハイマー型認知症の原因治療になり得るものとして注目を集めている。しかしながら、ペリンドプリルなどの薬剤は、強力な血圧降下作用を有しているため、副作用として低血圧を誘発する可能性がある。
血圧とアルツハイマー型認知症の関係では、中年期の高血圧が晩年の認知機能低下に関与することが示唆されている一方で、高齢者においては、低血圧による不安定な循環動態が、アルツハイマー病の病態を悪化させると考えられている(非特許文献2)。
したがって、血圧が変動しやすく、かつ、高齢のアルツハイマー型認知症患者にとって、従来の血圧降下作用を有する薬剤を用いて治療をすることは、血圧のさらなる低下を引き起こす恐れがあり、かえって病状を悪化させてしまう可能性があった。
上野川修一、吉川正明編集、「食と健康のための免疫学入門」、初版、株式会社建帛社、2012年2月10日、第199−215頁 山崎貴史、「アルツハイマー病における血管性危険因子と画像所見の横断的検討」、脳卒中、日本脳卒中学会、2008年、第30巻第5号、第660−667頁
前記アルツハイマー型認知症において、薬剤による治療には長期間の薬剤投与を伴うのが通常である。そのため、継続的に摂取又は投与をしても副作用が少なく、安全性が高い薬剤が望まれていた。
また、高齢者のアルツハイマー病患者に対しても、血圧の変動を生じさせずに、アミロイド・ベータ蛋白質による脳内の神経細胞死を抑制することができる治療薬が望まれている。
本発明者は鋭意検討を行った結果、Met−Lys−Proで表される配列(配列番号1)からなるペプチド(以下、「ペプチドMKP」とも表記する)が、アミロイド・ベータ蛋白質に起因する脳機能障害に対して有効であることを見出し、本発明を完成させるに至った。このペプチドMKPは、血圧を過度に低下させることなく、アルツハイマー型認知症の改善に有効であることが明らかとなった。さらに、ペプチドMKPは、乳蛋白質であるカゼインを特定の酵素で分解した加水分解物中に存在する成分であるため、サプリメントや食品に添加して提供することも可能な安全性の高いものであった。
本発明は、副作用が少なく安全性に優れ、血圧の変動を生じさせずにアミロイド・ベータ蛋白質に起因する脳機能障害及びアルツハイマー型認知症を改善する薬剤を提供することを目的としている。
すなわち、前記課題を解決する本発明は、以下の(1)である。
(1)Met−Lys−Proからなるペプチドを有効成分として含有するアミロイド・ベータ蛋白質に起因する脳機能障害改善剤。
また、本発明は以下の(2)及び(3)を好ましい態様としている。
(2)前記(1)のアミロイド・ベータ蛋白質に起因する脳機能障害はアルツハイマー型認知症である。
(3)前記(2)アルツハイマー型認知症は、高齢者に発症する症状である。
さらに、本発明は以下の(4)〜(7)にもある。
(4)Met−Lys−Proからなるペプチドを含むカゼイン加水分解物を有効成分として含有するアミロイド・ベータ蛋白質に起因する脳機能障害改善剤。
(5)アミロイド・ベータ蛋白質に起因する脳機能障害改善剤の製造におけるMet−Lys−Proからなるペプチドの使用。
(6)Met−Lys−Proからなるペプチドが配合された飲食品を含有するアミロイド・ベータ蛋白質に起因する脳機能障害改善剤。
(7)Met−Lys−Proからなるペプチドを配合してなるアミロイド・ベータ蛋白質に起因する脳機能障害予防用飲食品。
本発明の有効成分であるペプチドMKPは、乳由来のカゼイン蛋白質から得られるペプチドであることから副作用が少なく安全に摂取が可能である。また、ペプチドMKPを含有する医薬品や飲食品の形態により、アミロイド・ベータ蛋白質に起因する脳機能障害の改善剤を提供することができる。
次に、本発明の好ましい実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の好ましい実施形態に限定されず、本発明の範囲内で自由に変更することができるものである。尚、本明細書において百分率は特に断りのない限り質量による表示である。
<アミロイド・ベータ蛋白質に起因する脳機能障害改善剤>
本発明のMet−Lys−Proからなるペプチドを有効成分とするアミロイド・ベータ蛋白質に起因する脳機能障害改善剤(以下、「本発明の脳機能障害改善剤」とも記載する)は、当該Met−Lys−Proからなるペプチドを含む脳機能障害改善剤を、アミロイド・ベータ蛋白質に起因する脳機能障害の罹患者に投与する、又は摂取させることにより、アミロイド・ベータ蛋白質に起因する脳機能障害を改善する効果を有するものである。ここで、本明細書における、「改善」とは、疾患の症状・状態の好転、疾患の症状・状態の悪化の防止若しくは遅延、疾患の症状の進行の逆転、防止若しくは遅延、又は疾患の治療等を意味するものである。さらに、本発明書における「改善」は、予防の意味をも包含する。「予防」とは、適用対象における疾患の発症の防止若しくは発症の遅延、又は適用対象の疾患の発症の危険性を低下させる等を意味するものである。
本発明の脳機能障害改善剤の投与対象となる「アミロイド・ベータ蛋白質に起因する脳機能障害」とは、アミロイド・ベータ蛋白質が脳内に凝集して蓄積し、脳内の神経細胞が死滅することによって生ずる、記憶障害、学習障害及び空間認知機能障害などの脳の種々の機能障害を意味する。このような脳機能障害のうち、最も典型的なものは、アルツハイマー型認知症である。アルツハイマー型認知症は、アルツハイマー病を原因疾患とする認知症であり、認知症とは、「一度正常に達した認知機能が後天的な脳の障害によって持続的に低下し、日常生活や社会生活に支障をきたすようになった状態であり、かつ、それが意識障害のないときにみられる状態」と定義されている(認知症疾患治療ガイドライン2010)。
アルツハイマー型認知症の患者においては、脳萎縮(大脳皮質・海馬の萎縮、及び脳室の拡大)が見られ、さらに、大脳皮質には老人斑と呼ばれる病理学的所見が見られる。この老人斑の主要な構成成分はアミロイド・ベータ蛋白質であることが知られている。
アルツハイマー型認知症の原因は完全には明らかになってはいないが、このアミロイド・ベータ蛋白質が脳内に凝集・蓄積して老人班となる過程で神経毒性を生じ、神経原線維を変性させ、最終的には神経細胞死に至ることが主要因であると想定されている。
したがって、本発明のアミロイド・ベータ蛋白質に起因する脳機能障害改善剤は、アミロイド・ベータ蛋白質に起因する脳機能障害の中でも、アルツハイマー型認知症の改善に有効であると考えられる。
<ペプチドMKP>
本発明の脳機能障害改善剤の有効成分はペプチドであり、当該ペプチドは、Met−Lys−Proで表されるアミノ酸配列(配列番号1)からなる、「ペプチドMKP」である。ここで、Met(M)はメチオニン残基、Lys(K)はリジン残基、Pro(P)はプロリン残基を示す。いずれのアミノ酸も、L−型アミノ酸であることが好ましい。
また、本発明の有効成分であるペプチドは、このペプチドの塩類であってもよい。当該塩類としては、例えば、カリウム、ナトリウム等のアルカリ金属類;カルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属類等が挙げられる。
前記ペプチドMKPは、例えば、(1)Met−Lys−Proで表されるアミノ酸配列(配列番号1)を含む蛋白質やペプチドを加水分解酵素等にて分解し、得られた分解物から分離精製して得る方法、(2)ペプチドの化学合成方法にてペプチドMKPを合成した後、得られた合成物からペプチドMKPを分離精製して得る方法、(3)ペプチドMKP及びこれを含むペプチド等を生産する植物、動物や微生物から抽出し、得られた抽出物から分離精製する方法等により得ることができる。本明細書においては、前記の(1)及び(2)の方法によるペプチドMKPを製造する方法について、以下のとおり説明する。
(1)加水分解により得る方法
本発明の脳機能障害改善剤の有効成分であるペプチドMKPを、加水分解により得る方法としては、例えば、乳蛋白質であるカゼインを、蛋白質加水分解酵素や、酸・アルカリ等により加水分解し、得られた加水分解物からMKPの配列を有するペプチドを分離精製する方法が挙げられる。
ここでは、乳蛋白質であるカゼインを原料として、加水分解酵素により加水分解して前記ペプチドMKPを得る方法を例示する。
まず、カゼインを酵素で加水分解する前に、カゼイン蛋白質を水に溶解、分散又は懸濁させる。前記カゼイン蛋白質は、MKPを一次構造中に含む蛋白質であって、適宜加水分解酵素で消化したときに本発明の有効成分であるペプチドが生成可能なものである。なお、加水分解により本発明の脳機能障害改善剤の有効成分であるペプチドMKPを得られるものであれば、原料に用いられる蛋白質として、動物由来、植物由来又は微生物由来のいずれかの蛋白質であってもよい。
原料蛋白質の性状により処理方法は異なるが、原料蛋白質が可溶性の場合には、原料蛋白質を水又は温水に分散して溶解すればよく、また、難溶性の場合には熱水に蛋白質を混合撹拌し均質化すればよい。また、前記蛋白質を含有する溶液に、アルカリ剤又は酸剤を添加してpHを調整してもよい。当該pHは、使用する加水分解酵素の至適pH又はその付近のpHに調整することが好ましい。
次に、前記カゼイン蛋白質を含有する溶液に、所定量の加水分解酵素を加え、温度10〜85℃程度で0.1〜48時間反応を行い、加水分解物を得る。
このとき、前記カゼイン蛋白質を含有する溶液に加水分解酵素を添加した後、当該溶液を、酵素の種類に応じて適当な温度、例えば30〜60℃、望ましくは45〜55℃に保持して、蛋白質の加水分解を開始することが望ましい。
前記加水分解酵素は、特に限定されるものではなく、前記原料蛋白質を加水分解して本発明の有効成分であるペプチドを生成させ得る酵素であることが好ましく、当該生成させ得る酵素として、具体的にはエンドペプチダーゼが好ましい。
前記エンドペプチダーゼとして、例えば、微生物由来や動物由来のものが挙げられる。具体的には、バチルス(Bacillus)属細菌由来のプロテアーゼ及び動物膵臓由来のプロテアーゼ等が挙げられる。前記プロテアーゼは市販されているものを利用することが可能である。市販品のプロテアーゼとして、例えば、ビオプラーゼsp−20(長瀬生化学工業社製)又はプロテアーゼN(天野エンザイム社製)等のバチルス属細菌由来のプロテアーゼ;PTN6.0S(ノボザイムズ・ジャパン社製)等の動物膵臓由来のプロテアーゼ等が好ましいものとして例示できる。
例えば、バチルス属細菌由来のプロテアーゼを使用する際には、蛋白質1g当たり100〜5000活性単位の割合で添加するのが望ましい。また、動物膵臓由来のプロテアーゼを使用する際には、蛋白質1g当たり3000〜8000活性単位の割合で添加するのが望ましい。
本発明において用いる加水分解酵素は、単独で又は2種以上組み合わせて使用してもよい。2種以上の酵素を用いる場合には、それぞれの酵素反応は同時に又は別々に行ってもよい。本発明において、ビオプラーゼsp−20、プロテアーゼN及びPTN6.0Sを併用するのが好ましく、これら3種の酵素を混合して使用することが特に好ましい。
加水分解の反応時間は、酵素反応の分解率をモニターしながら、好ましい分解率に達するまで反応を続ければよい。特に、原料に前記カゼイン蛋白質を用いた場合の分解率は20〜30%であることが好ましい。
なお、原料蛋白質の分解率の算出方法は、ケルダール法(日本食品工業学会編、「食品分析法」、第102頁、株式会社光琳、昭和59年)により試料の全窒素量を測定し、ホルモール滴定法(満田他編、「食品工学実験書」、上巻、第547ページ、養賢堂、1970年)により試料のホルモール態窒素量を測定し、これらの測定値から分解率を次式により算出する。
分解率(%)=(ホルモール態窒素量/全窒素量)×100
加水分解酵素反応の停止は、例えば、加水分解溶液中の酵素の失活により行われ、常法による加熱失活処理により実施することができる。加熱失活処理の加熱温度と保持時間は、使用した酵素の熱安定性を考慮し、十分に失活できる条件を適宜設定することができる。
なお、前記の加熱失活処理は、加水分解物の殺菌処理として併用することも可能であり、常法による加熱処理方法等を用いることができる。
加熱処理時の加熱温度と保持時間は、充分に加熱・殺菌できる条件を適宜設定すればよく、例えば、80〜140℃で2秒間〜30分間加熱処理することができる。
加熱処理の方式としては、バッチ方式、連続方式のいずれの方式も可能であり、連続方式として、プレート熱交換方式、インフュージョン方式、インジェクション方式等の方式を用いることができる。
加水分解酵素による反応後、加熱処理された加水分解物は、ペプチドMKPを精製することを目的として、ペプチドの分離精製を行うことができる。例えば、イオン交換クロマトグラフィー、吸着クロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー、分配クロマトグラフィー、ゲル濾過クロマトグラフィー等の各種クロマトグラフィー、溶媒沈殿、塩析、2種の液相間での分配等の方法を適宜組み合わせることによって、分離精製が可能である。
分離精製したペプチドの分画物は、本発明の有効成分であるペプチドMKPが含まれているかどうかを確認することを目的として、質量分析法により、ペプチドMKPの同定を行うことができる。
前記のようにして得られたペプチドMKPは、ペプチド溶液のまま使用することもでき、また、必要に応じて、該溶液を公知の方法により、濃縮した濃縮液として使用することもできる。また、該濃縮液を公知の方法により乾燥し、粉末にして使用することもできる。
(2)化学合成により得る方法
また、本発明の有効成分であるペプチドMKPは、化学合成によっても製造することができる。
本発明の有効成分であるペプチドMKPの化学合成は、オリゴペプチドの合成に通常用いられている液相法または固相法によって行うことができる。合成されたペプチドは必要に応じて脱保護され、未反応試薬や副生物等を除去して、本発明の有効成分であるペプチドMKPを単離することが可能である。
このようなペプチドの合成は、市販のペプチド合成装置を用いて行うことができる。
<脳機能障害改善剤>
前記の通り、本発明の脳機能障害改善剤の有効成分であるペプチドMKPは、乳蛋白質であるカゼインの加水分解物から得られることから、腸管からの消化吸収性に優れている。さらに、風味がほとんど無味無臭であって、かつ、アミロイド・ベータ蛋白質に起因する脳機能障害の改善効果を有するため、アミロイド・ベータ蛋白質に起因する脳機能障害及びアルツハイマー型認知症等の改善のための医薬品として用いることができる。
また、前記の通り、本発明の脳機能障害改善剤の有効成分であるペプチドMKPは、投与対象の血圧を正常に保つ作用を有する。したがって、高齢者であり、低血圧等による不安定な循環動態に起因してアルツハイマー病の病態が悪化している対象、特に高血圧症を併発していない対象に発症するアルツハイマー型認知症に対して、必要以上に血圧変動を伴わずに改善効果が期待されるものである。
したがって、従来の降圧作用を伴うアルツハイマー型認知症の治療と比較して、投与対象者の血圧を過度に低下させることなく、アルツハイマー型認知症を始めとしたアミロイド・ベータ蛋白質に起因する脳機能障害に広く用いることができる。
ここで、本明細書において、「高血圧症」とは、診察室血圧において収縮期血圧が140mmHg以上、又は、拡張期血圧が90mmHg以上である状態をいう(高血圧治療ガイドライン2009参照)。また、「高血圧症ではない」とは、「血圧が正常である」と同義であり、診察室血圧において収縮期血圧が139mmHg以下、かつ、拡張期血圧が89mmHg以下の状態をいう。
なお、前記「診察室血圧」とは、前記「高血圧治療ガイドライン2009」において示されている「診察室での血圧測定の指針」に基づいて測定された値を意味する。
さらに、本明細書において、「高齢者」との用語は、65歳以上の対象を示す。
本発明の脳機能障害改善剤は、食品として長年使用されてきた乳由来の成分を有効成分とするため、種々のアミロイド・ベータ蛋白質に起因する脳機能障害を罹患した患者に対しても安心して投与できる可能性が高い。また、長期間、連続的に投与しても副作用を心配する必要性も少ない。さらに、他の薬剤との併用においても安全性が高い。
本発明の脳機能障害改善剤を医薬品に利用する場合、該医薬品は、経口投与及び非経口投与のいずれでもよいが、経口投与が好ましい。非経口投与としては、例えば、静注、直腸投与、吸入等が挙げられる。経口投与の剤形としては、例えば、錠剤、カプセル剤、トローチ剤、シロップ剤、顆粒剤、散剤等が挙げられる。
また、製剤化に際しては、本発明の有効成分であるペプチドMKPの他に、通常製剤化に用いられている賦形剤、pH調整剤、着色剤、矯味剤等の成分を用いることができる。また、本発明の脳機能障害改善剤を含有しているものであれば、公知の又は将来的に見出される脳機能障害に関連する疾患の改善効果を有する成分を、本発明の脳機能障害改善剤と併用することもできる。
さらに、投与方法に応じて、適宜所望の剤形に製剤化することができる。例えば、経口投与の場合、散剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤等の固形製剤;溶液剤、シロップ剤、懸濁剤、乳剤等の液剤等に製剤化することができる。また、非経口投与の場合、座剤、噴霧剤、軟膏剤、貼付剤、注射剤等に製剤化することができる。
加えて、製剤化は剤形に応じて適宜公知の方法により実施できる。製剤化に際しては、有効成分であるペプチドMKPのみを製剤化してもよく、適宜、製剤担体を配合して製剤化してもよい。
製剤担体を配合する場合、脳機能障害改善剤の有効成分であるペプチドMKPの含有量は特に限定されず、剤形に合わせて一日あたりの摂取量又は投与量に基づいて適宜選択することができる。
また、当該ペプチドMKPの一日の摂取量又は投与量は、0.1mg/日〜1g/日の範囲であることが好ましい。なお、当該ペプチドMKPの摂取又は投与は、当該摂取量又は投与量が得られる範囲で、1日複数回に分けて行ってもよい。
また、前記製剤担体としては、剤形に応じて、各種有機又は無機の担体を用いることができる。固形製剤の場合の担体としては、例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、潤沢剤、安定剤、矯味矯臭剤等が挙げられる。
賦形剤としては、例えば、乳糖、白糖、ブドウ糖、マンニット、ソルビット等の糖誘導体;トウモロコシデンプン、馬鈴薯デンプン、α−デンプン、デキストリン、カルボキシメチルデンプン等のデンプン誘導体;結晶セルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム等のセルロース誘導体;アラビアゴム;デキストラン;プルラン;軽質無水珪酸、合成珪酸アルミニウム、メタ珪酸アルミン酸マグネシウム等の珪酸塩誘導体;リン酸カルシウム等のリン酸塩誘導体;炭酸カルシウム等の炭酸塩誘導体;硫酸カルシウム等の硫酸塩誘導体等が挙げられる。
結合剤としては、例えば、上記賦形剤の他、ゼラチン、ポリビニルピロリドン、マクロゴール等が挙げられる。
崩壊剤としては、例えば、上記賦形剤の他、クロスカルメロースナトリウム、カルボキシメチルスターチナトリウム、架橋ポリビニルピロリドン等の化学修飾されたデンプン又はセルロース誘導体等が挙げられる。
滑沢剤としては、例えば、タルク;ステアリン酸;ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム等のステアリン酸金属塩;コロイドシリカ;ピーガム、ゲイロウ等のワックス類;硼酸;グリコール;フマル酸、アジピン酸等のカルボン酸類;安息香酸ナトリウム等のカルボン酸ナトリウム塩;硫酸ナトリウム等の硫酸塩類;ロイシン;ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸マグネシウム等のラウリル硫酸塩;無水珪酸、珪酸水和物等の珪酸類;デンプン誘導体等が挙げられる。
安定剤としては、例えば、メチルパラベン、プロピルパラベン等のパラオキシ安息香酸エステル類;クロロブタノール、ベンジルアルコール、フェニルエチルアルコール等のアルコール類;塩化ベンザルコニウム;無水酢酸;ソルビン酸等が挙げられる。
矯味矯臭剤としては、例えば、甘味料、酸味料、香料等が挙げられる。
なお、経口投与用の液剤の場合に使用する担体としては、水等の溶剤、矯味矯臭剤等が挙げられる。
<飲食品、飼料>
前記の通り、本発明の脳機能障害改善剤の有効成分であるペプチドMKPは、腸管からの消化吸収性に優れている。さらに、風味がほとんど無味無臭であって、かつ、後述するようにアミロイド・ベータ蛋白質に起因する脳機能障害の改善・予防効果を有するため、アミロイド・ベータ蛋白質に起因する脳機能障害及びアルツハイマー型認知症等の疾患の改善・予防用の飲食品、飼料等の有効成分としてこれらに配合して使用することができる。
(1)飲食品
本発明の脳機能障害改善剤を飲食品に利用する場合、公知の飲食品に添加して脳機能障害改善・予防効果を有する飲食品を調製することができる。また、飲食品の原料中に混合してアミロイド・ベータ蛋白質に起因する脳機能障害の改善・予防効果を有する新たな飲食品を製造することもできる。
前記飲食品は、液状、ペースト状、固体、粉末等の形態を問わず、錠菓、流動食、飼料(ペット用を含む)等のほか、例えば、小麦粉製品、即席食品、農産加工品、水産加工品、畜産加工品、乳・乳製品、油脂類、基礎調味料、複合調味料・食品類、冷凍食品、菓子、飲料、これら以外の市販品等が挙げられる。
小麦粉製品としては、例えば、パン、マカロニ、スパゲッティ、めん類、ケーキミックス、から揚げ粉、パン粉等が挙げられる。
即席食品類としては、例えば、即席めん、カップめん、レトルト・調理食品、調理缶詰め、電子レンジ食品、即席スープ・シチュー、即席みそ汁・吸い物、スープ缶詰め、フリーズ・ドライ食品、その他の即席食品等が挙げられる。
農産加工品としては、例えば、農産缶詰め、果実缶詰め、ジャム・マーマレード類、漬物、煮豆類、農産乾物類、シリアル(穀物加工品)等が挙げられる。
水産加工品としては、例えば、水産缶詰め、魚肉ハム・ソーセージ、水産練り製品、水産珍味類、つくだ煮類等が挙げられる。
畜産加工品としては、例えば、畜産缶詰め・ペースト類、畜肉ハム・ソーセージ等が挙げられる。
乳・乳製品としては、例えば、加工乳、乳飲料、ヨーグルト類、乳酸菌飲料類、チーズ、アイスクリーム類、調製粉乳類、クリーム、その他の乳製品等が挙げられる。
油脂類としては、例えば、バター、マーガリン類、植物油等が挙げられる。
基礎調味料としては、例えば、しょうゆ、みそ、ソース類、トマト加工調味料、みりん類、食酢類等が挙げられ、前記複合調味料・食品類として、調理ミックス、カレーの素類、たれ類、ドレッシング類、めんつゆ類、スパイス類、その他の複合調味料等が挙げられる。
冷凍食品としては、例えば、素材冷凍食品、半調理冷凍食品、調理済冷凍食品等が挙げられる。
菓子類としては、例えば、キャラメル、キャンディー、チューインガム、チョコレート、クッキー、ビスケット、ケーキ、パイ、スナック、クラッカー、和菓子、米菓子、豆菓子、デザート菓子、その他の菓子等が挙げられる。
飲料類としては、例えば、炭酸飲料、天然果汁、果汁飲料、果汁入り清涼飲料、果肉飲料、果粒入り果実飲料、野菜系飲料、豆乳、豆乳飲料、コーヒー飲料、お茶飲料、粉末飲料、濃縮飲料、スポーツ飲料、栄養飲料、アルコール飲料、その他の嗜好飲料等が挙げられる。
上記以外の市販食品としては、例えば、ベビーフード、ふりかけ、お茶漬けのり等が挙げられる。
また、本発明で定義される飲食品は、アミロイド・ベータ蛋白質に起因する脳機能障害の改善用又は予防用との保健用途が表示された飲食品として提供・販売されることが可能である。
「表示」行為には、需要者に対して前記用途を知らしめるための全ての行為が含まれ、前記用途を想起・類推させうるような表現であれば、表示の目的、表示の内容、表示する対象物・媒体等の如何に拘わらず、全て本技術の「表示」行為に該当する。
また、「表示」は、需要者が上記用途を直接的に認識できるような表現により行われることが好ましい。具体的には、飲食品に係る商品又は商品の包装に前記用途を記載したものを譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引き渡しのために展示し、輸入する行為、商品に関する広告、価格表若しくは取引書類に上記用途を記載して展示し、若しくは頒布し、又はこれらを内容とする情報に上記用途を記載して電磁気的(インターネット等)方法により提供する行為等が挙げられる。
一方、表示内容としては、行政等によって認可された表示(例えば、行政が定める各種制度に基づいて認可を受け、そのような認可に基づいた態様で行う表示等)であることが好ましい。また、そのような表示内容を、包装、容器、カタログ、パンフレット、POP等の販売現場における宣伝材、その他の書類等へ付することが好ましい。
また、「表示」には、健康食品、機能性食品、経腸栄養食品、特別用途食品、保健機能食品、特定保健用食品、栄養機能食品、医薬用部外品等としての表示も挙げられる。この中でも特に、消費者庁によって認可される表示、例えば、特定保健用食品制度、これに類似する制度にて認可される表示等が挙げられる。後者の例としては、特定保健用食品としての表示、条件付き特定保健用食品としての表示、身体の構造や機能に影響を与える旨の表示、疾病リスク減少表示等を挙げることができ、より具体的には、健康増進法施行規則(平成15年4月30日日本国厚生労働省令第86号)に定められた特定保健用食品としての表示(特に保健の用途の表示)及びこれに類する表示が典型的な例である。
なお、飲食品を製造する際に添加する本発明の脳機能障害改善剤の有効成分であるペプチドMKPの含有量は特に限定されず、一日あたりの摂取量に基づいて適宜選択することができる。なお、当該ペプチドMKPの一日の摂取量は、0.1mg/日〜1g/日の範囲であることが好ましい。
(2)飼料
本発明の脳機能障害改善剤を飼料に利用する場合、公知の飼料に添加して脳機能障害の改善・予防効果を有する飼料を調製することもできるし、飼料の原料中混合して脳機能障害の改善・予防効果を有する新たな飼料を製造することもできる。
前記飼料の原料としては、例えば、トウモロコシ、小麦、大麦、ライ麦等の穀類;ふすま、麦糠、米糠、脱脂米糠等の糠類;コーングルテンミール、コーンジャムミール等の製造粕類;脱脂粉乳、ホエー、魚粉、骨粉等の動物性飼料類;ビール酵母等の酵母類;リン酸カルシウム、炭酸カルシウム等の鉱物質飼料;油脂類;アミノ酸類;糖類等が挙げられる。また、前記飼料の形態としては、例えば、愛玩動物用飼料(ペットフード等)、家畜飼料、養魚飼料等が挙げられる。
なお、飼料を製造する際に添加する本発明の脳機能障害改善剤の有効成分であるペプチドMKPの含有量は特に限定されず、一日あたりの摂餌量に基づいて適宜選択することができる。なお、当該ペプチドMKPの一日の摂餌量、1μg/kg体重/日〜1g/kg体重/日の範囲であることが好ましい。
以下、実施例に基づいて本発明を更に詳細に説明する。なお、以下に説明する実施例は、本発明の代表的な実施例の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。
[製造例1]カゼインの酵素分解によるペプチドMKPの製造
(1)カゼインの酵素分解
市販のカゼイン(フォンテラ社製)100gに水900gを加えて分散させ、水酸化ナトリウムを添加して溶液のpHを7.0に調整して、カゼインを完全に溶解した。溶解後のカゼイン水溶液の濃度は、約10質量%であった。該カゼイン水溶液を85℃で10分間加熱殺菌し、50℃に温度調整し、水酸化ナトリウムを添加してpHを9.5に調整した。
その後、pH調整したカゼイン水溶液にビオプラーゼsp−20(長瀬生化学工業社製)100,800活性単位(蛋白質1g当り1,200活性単位)、プロテアーゼN(天野エンザイム社製)168,000活性単位(蛋白質1g当り2,000活性単位)、及びPTN6.0S(ノボザイムズ・ジャパン社製)588,000活性単位(蛋白質1g当り7,000活性単位)を添加して、加水分解反応を開始させた。カゼインの分解率が24.1%に達した時点で、80℃で6分間加熱して酵素を失活させて酵素反応を停止し、10℃に冷却した。この加水分解液を分画分子量3,000の限外ろ過膜(旭化成社製)で限外ろ過し、濃縮後に凍結乾燥し、カゼイン加水分解物の凍結乾燥粉末85gを得た。
(2)HPLCによるペプチドの精製
逆相HPLCで上記カゼイン加水分解物の分離精製を行った。このHPLC条件は下記HPLC条件1に示した。
〔HPLC条件1〕
カラム :カプセルパックC18(UG120、粒子径5μm) 20mmI.D.×250mm(株式会社資生堂)
検 出 :UV 215nm
流 速 :16ml/分
溶離液A:0.05% TFAを含む1%アセトニトリル水溶液
溶離液B:0.05% TFAを含む25%アセトニトリル水溶液
溶離液の送液は、溶離液Aの割合100%から、40分後に溶離液Bの割合が100%になるように直線的に濃度勾配をかけたグラジエント法で行った。得られた溶出画分のそれぞれについて、Applied Biosystem社のプロテイン・シーケンサー(Model−473A)を用いてアミノ酸配列を同定したところ、リテンションタイム22分に溶出された画分が、Met−Lys−Proの配列を持つペプチドMKPであることが確認された。このペプチドを精製するため、さらにHPLCで精製した。
このときの条件を下記HPLC条件2に示した。
〔HPLC条件2〕
カラム :カプセルパックC18(UG300、粒子径5μm) 2.0mmI.D.×250mm(株式会社資生堂)
検 出 :UV 215nm
流 速 :0.2ml/分
溶離液A:0.05% TFAを含む1%アセトニトリル水溶液
溶離液B:0.05% TFAを含む10%アセトニトリル水溶液
溶離液の送液は、溶離液Aの割合100%から15分後に溶離液Bの割合100%になるように直線的に濃度勾配をかけたグラジエント法で行った。得られた溶出画分のそれぞれについて、前記と同様にアミノ酸配列を同定したところ、リテンションタイム13分のピークに溶出された画分が、ペプチドMKPであることが確認された。
なお、前記カゼイン加水分解物の凍結乾燥粉末85g中に、ペプチドMKPは、42.5mg含まれていた。
[製造例2]ペプチドMKPの化学合成
ペプチドシンセサイザー(Model 433A型、アプライドバイオシステムズ社)を使用し、Fmoc−L−Met(アプライドバイオシステムズ社)、Fmoc−Lys(Boc)(アプライドバイオシステムズ社)、Fmoc−Pro−TrtA−PEG Resin(渡辺化学工業株式会社製)を原料に用いて、固相合成法によりトリペプチドMet−Lys−Proを合成した。合成操作はアプライドバイオシステムズ社のマニュアルに従って行った。その後、合成物を脱保護した。
このペプチドは、製造例1のHPLC条件1の条件でHPLC精製した。得られたトリペプチドは、Applied Biosystem社のプロテイン・シーケンサー(Model−473A)により、H−Met−Lys−Pro−OHの構造を持つことがわかった。また、サーモクエスト社製質量分析計LCQにより分子量(M)は374.2と測定された。
[試験例1]アミロイド・ベータ蛋白質投与マウス(Aβ injection model マウス)を用いたY迷路試験
次に、前記製造例2にて合成したペプチドMKPを用いて、アミロイド・ベータ蛋白質に起因する脳機能障害に対する改善効果を確認するための試験を行った。
アミロイド・ベータ蛋白質に起因する脳機能障害に対する効果を検証するためには、その中核症状である記憶障害(記憶力、特に記銘力の低下)を適切に惹起させたモデルを用いて、学習・記憶の状態を評価することが必要である。本試験例においては、アミロイド・ベータ蛋白質(以下、「Aβ」と略記することがある)を投与したAβ injection model マウスを用いてY迷路試験を実施することで、ペプチドMKPの効果を評価した。
<Aβ injection model マウス>
本試験例にて用いたAβ injection model マウスは、アミロイド・ベータ蛋白質をマウス側脳室内に投与することにより、記憶障害を惹起させたモデルマウスである。
マウスやラットの脳室内にアミロイド・ベータ蛋白質を連続投与すると、海馬アセチルコリン遊離量が低下し、八方向放射状迷路課題における空間記憶障害を発現することが報告されている(参考文献1:Iwasaki K. et al, Neurotoxicity Research, 2004, 6, pp.299-309、参考文献2:Walsh D. M. et al, Nature, 2002, 416, pp.535-539)。
また、マウスの脳室内にアミロイド・ベータ蛋白質を単回投与すると、Y迷路試験における短期記憶障害や受動回避試験における長期記憶障害を発現することが報告されている(参考文献3:Lu P, et al, British Journal of Pharmacology, 2010, 157, pp.1270-1277、参考文献4:Lu P. et al, The Journal of Pharmacology and Experimental Therapeutics, 2009, 331, 319-326、参考文献5:Hiramatsu M. et al, British Journal of Pharmacology, 2010, 161, pp.1899-1912、参考文献6:Mamiya T. et al, Biological and Pharmaceutical Bulletin, 2004, 27, 1041-1045)。
したがって、脳室内にアミロイド・ベータ蛋白質を投与した前記Aβ injection model マウスは、アミロイド・ベータ蛋白質に起因するアルツハイマー型認知症等の脳機能障害に対する効果を確認するために有用なモデルマウスである。
Aβ injection model マウスは、以下の手順にて作成した。Slc:ddYマウス(日本エスエルシー株式会社製)に、ペントバルビタールナトリウム40mg/kg体重の容量を腹腔内投与し、麻酔した。麻酔後、頭皮に塩酸レボブピバカインを適量皮下投与し、動物の頭頂部の毛を刈り、頭部を脳定位固定装置に固定した。頭皮をヨードチンキで消毒後に切開して、頭蓋骨を露出させた。歯科用ドリルを用いて ブレグマ(bregma)より、1mm右側、0.2mm後方の頭蓋骨にステンレスパイプ刺入用の穴を開け、骨表面から2.5mmの深さまで外径0.5mmのシリコンチューブ及びマイクロシリンジに接続されたステンレスパイプを垂直に刺入した。
試験群として、脳室内に、アミロイド・ベータ蛋白質(商品名:Amyloid β−Protein(Human,25−35)、Polypeptide Laboratories製)を2mol/L濃度に希釈したアミロイド・ベータ溶液3μLをマイクロシリンジポンプで3分間かけて注入する「Aβ投与手術」を行った。
なお、陰性群として、アミロイド・ベータ蛋白質を投与しないマウスを作製した。当該マウスに対しては、前記アミロイド・ベータ溶液に変えて注射用水3μLをマイクロシリンジポンプで3分間かけて注入する「偽手術」を行った。
アミロイド・ベータ溶液又は注射用水の注入後は、ステンレスパイプを挿入したまま 3分間静置し、ステンレスパイプをゆっくりと外した。その後、ステンレスパイプを取り除き、頭蓋穴を非吸収性骨髄止血剤(商品名:ネストップ(登録商標)、アルフレッサファーマ株式会社製)で塞ぎ、頭皮を縫合した。
ペプチドMKP(試料)の投与および前記手術は以下のスケジュールで行った。すなわち、Slc:ddYマウス(日本エスエルシー株式会社製)を3つの群(1群当たりn=10)に分け、各群に対して同時期に、試料の投与を開始した。そして、試料の投与を開始した日から起算して3日目に、前記アミロイド・ベータ蛋白質の側脳室内投与手術又は偽手術を行った。各群に対して投与した試料の種類、投与量及び手術による脳室内へのアミロイド・ベータ蛋白質の投与の有無(施術内容)は、下記表1のとおりとした。各試料は、前記手術までの3日間に加えて、術後から試験が終了するまでの6日間、合計で9日間投与した。また、全ての群において、試験用マウスには、各試料とは別に、MF飼料(オリエンタル酵母株式会社製)を自由摂取させた。
Figure 2016069343
<Y迷路試験>
前記手術後6日目(試料投与開始後9日目)のマウスを用いて、Y迷路試験により記憶障害を評価した。
Y迷路試験では、Y字型を構成する3本の同じ大きさのアームを、アーム間の角度を120度としたY迷路において、マウスの自発的交替行動を評価するために実施した。自発的交替行動とは、マウスが探索行動で自発的に異なるアームに入る性質を利用した試験において、既に入ったアームを記憶していることにより可能となる行動である。マウス(実験動物)に、報酬や罰刺激を与えずに起こる自発的行動で測定することができる。
1本のアームの長さが39.5cmであり、床の幅が4.5cmであり、壁の高さが12cmである、3アームがそれぞれ120度に分岐しているプラクチック製のY字型迷路(有限会社ユニコム製)を用いて、本試験を行った。
装置の設置後、装置の床面の照明が、10〜40ルクス(lx)になるように照度を調節した。当該試験は、最後の試料の投与から約1時間経過後に行なった。
マウスをY字型迷路のいずれかのアームに置き、8分間迷路内を自由に探索させた。マウスが測定時間内に移動したアームの順番を記録し、アームに移動した回数を数え、総エントリー数とした。次に、この中で連続して異なる3つのアームを選択した組み合わせを調べ、この数を自発的交替行動数とした。下記の式を用いて自発的交替行動率を算出した。
自発的交替行動率(%)=[自発的交替行動数/(総エントリー数−2)]×100
<試験結果>
試験の結果は、下記の表2のとおりとなった。総エントリー数、自発的交替行動数及び自発的交替行動率は、全ての群においてn=10の平均値として表した。
自発的交替行動率において、アミロイド・ベータ蛋白質投与手術を行った陽性群では、アミロイド・ベータ蛋白質を投与せずに偽手術を行った陰性群と比較して、自発的交替行動率の有意な低下が認められた(t検定において、P<0.01)。すなわち、陽性群においては、陰性群に比べて、Y迷路において既に入ったアームを記憶する能力が有意に低下していたことから、記憶障害の発生が示唆された。
一方、ペプチドMKP(試料)を投与した試験群(5mg/kg体重/日、経口投与)では、陽性群に対して自発的交替行動率が有意に増加した(t検定において、P<0.01)。
すなわち、ペプチドMKPを投与した試験群のマウスは、Y迷路において既に入ったアームを記憶する能力が、陽性群よりも向上したことが判明した。したがって、ペプチドMKPを投与した試験群では、陽性群よりも記憶障害の程度が改善していること明らかとなった。
Figure 2016069343
以上の試験結果から、ペプチドMKPを投与したマウスにおいて、ペプチドMKPを投与しない場合と比較して、Y迷路において既に入ったアームを記憶する能力の低下が改善し、自発的交替行動率が大幅に増加することがわかった。したがって、ペプチドMKPは、Aβ injection model マウスにおける記憶障害の改善に有効であることが明らかとなった。
このことから、ペプチドMKPは、アミロイド・ベータ蛋白質に起因する脳機能の障害やアルツハイマー型認知症に対して顕著な改善効果を有することが示唆された。
また、本試験の実施前後に、各群のマウスの血圧を測定したところ、いずれの群のマウスも試験実施による血圧の変動は確認されず、血圧は正常値を保っていた。
前記ペプチドMKPは、本出願人によりすでに、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害活性を有するものであることを開示している。このような事実を鑑みれば、本試験の実施により、本発明の脳機能障害改善剤を投与した対象において血圧低下等の変動が予想されるが、以外にも血圧への影響は確認されなかった。
このように、本発明による脳機能障害の改善とともに、血圧への影響が確認されなかった事実から、従来の血圧降下作用等の副作用を伴うアルツハイマー型認知症治療薬に比して、血圧変動を伴わない点で、本発明は異質な効果を有するものであると考えられる。
すなわち、低血圧等による不安定な循環動態に起因してアルツハイマー病の病態が悪化している高齢者に、本発明の脳機能障害改善剤を投与することにより、血圧等の循環動態に変化を与えることなくアルツハイマー型認知症の症状を改善することが可能であると考えられることから、高齢者等に発症するアルツハイマー型認知症を始めとしたアミロイド・ベータ蛋白質に起因する脳機能障害の治療において、従来のアルツハイマー型認知症治療薬よりも有利な効果を有するものである。
本発明のアミロイド・ベータ蛋白質に起因する脳機能障害改善剤の有効成分は、トリペプチドであるMet−Lys−Proとともに、Met−Lys−Proを含むカゼイン加水分解物としても使用することができるので、医薬品だけでなく、カゼイン加水分解物を添加することが可能な食品及び機能性食品等の幅広い分野に適用させて、安全性が高いアミロイド・ベータ蛋白質に起因する脳機能障害改善剤を提供することが可能である。

Claims (3)

  1. Met−Lys−Proからなるペプチドを有効成分として含有するアミロイド・ベータ蛋白質に起因する脳機能障害改善剤。
  2. 前記アミロイド・ベータ蛋白質に起因する脳機能障害がアルツハイマー型認知症である、請求項1に記載の改善剤。
  3. 前記アルツハイマー型認知症が、高齢者に発症する症状である請求項2に記載の改善剤。
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