以下、添付図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
図1は、本発明の一実施形態によるレーザ加工装置10を含むレーザ加工システム12の構成の一例を概略で示す。レーザ加工システム12は、レーザ加工装置10と、レーザ光源14と、レーザ加工装置10及びレーザ光源14の動作を制御する制御装置16とを備える。レーザ加工装置10は、加工ヘッド18と、レーザ光源14からレーザ光を伝送して加工ヘッド18に供給する伝送手段20と、加工ヘッド18とワークWとを相対移動させる駆動機構22とを備える。
レーザ光源14は、例えばファイバレーザ方式の発振器(図示せず)を備え、発振器で発振されたレーザ光が伝送手段20を介して加工ヘッド18に導入される。伝送手段20は、レーザ光源14に接続される第1の光ファイバ24と、加工ヘッド18に接続される第2の光ファイバ26と、第1の光ファイバ24と第2の光ファイバ26とを互いに光結合するファイバカプラ28とを備える。例えば、レーザ光源14に付設された所定のコア径を有する第1の光ファイバ24を、ファイバカプラ28を用いて、異なる所望のコア径を有する第2の光ファイバ26に光結合することにより、第2の光ファイバ26のコア径を最小ビーム径とするレーザ光を、第2の光ファイバ26の出射端から加工ヘッド18に出射させることができる。なお図示構成に限らず、レーザ光源14は、CO2レーザ等の様々な発振器を備えることができ、伝送手段20は、導光管や反射鏡等を用いた様々な構成を有することができる。
加工ヘッド18は、伝送手段20から入射されたレーザ光を集光する集光光学部(図示せず)を備え、ヘッド先端に設けた加工ノズル30からワークWの表面の狭小領域にレーザ光を照射してレーザ加工を実施する。レーザ加工中、ワークWの加工点及びその周辺には、酸素、窒素、空気、アルゴン等を成分とするアシストガスが吹き付けられる。アシストガスは、外部のガス供給源(図示せず)から加工ヘッド18に供給される。加工ヘッド18には、アシストガスをワークWに吹き付けるための圧縮空気も供給される。
駆動機構22は、加工ヘッド18とワークWとを、ワーク表面に沿った方向へ相対移動させることができる。また駆動機構22は、加工ヘッド18とワークWとを、互いに接近及び離反する方向へ択一的に移動させることができる。例えば、駆動機構22は、直交3軸座標系における指令値に従い、3個の制御軸(X軸、Y軸、Z軸)がそれぞれに動作することで、加工ヘッド18とワークWとを3次元的に相対移動させることができる。この場合、駆動機構22は、各制御軸にサーボモータ及び動力伝達機構を備えることができる。個々の制御軸は、加工ヘッド18とワークWとのいずれか一方又は双方に設定できる。例えば、加工ヘッド18をX軸、Y軸及びZ軸で駆動して、ワークWを固定したワークテーブル(図示せず)に対し水平方向及び鉛直方向へ移動させる構成や、加工ヘッド18をZ軸で駆動する一方でワークテーブルをX軸及びY軸で駆動する構成を採用できる。
制御装置16は、例えば数値制御装置の構成を有する。制御装置16は、与えられたレーザ加工プログラムを解釈して、レーザ加工装置10やレーザ光源14を含む制御対象に操作指令を出力し、駆動機構22に加工ヘッド18やワークWを移動させたり、レーザ光源14にレーザ光を発振、出射させたり、ガス供給源にアシストガスを加工ヘッド18へ供給させたりすることができる。
図2は、本発明の一実施形態によるレーザ加工装置10の主要部の構成を概略で示す。レーザ加工装置10は、レーザ光LをワークWに照射する加工ヘッド18と、加工ヘッド18に設けられ、レーザ光源14(図1)から加工ヘッド18に入射した拡散角αを有するレーザ光Lを集光して、集光角βを有するレーザ光Lとして加工ヘッド18から出射させる集光光学部32とを備える。加工ヘッド18は中空筒状のハウジング34を備え、ハウジング34の後端(図で上端)に、光ファイバ26の出射端26aが固定される。光ファイバ26は、少なくとも出射端26aにおいて集光光学部32の光軸32aに同軸に配置され、出射端26aのコア径を最小ビーム径とする拡散角αを有するレーザ光Lを、出射端26aから集光光学部32に向けてハウジング34の内部に出射する。したがってレーザ光Lの光束の中心を通る軸線は、光軸32aに一致する。なお拡散角αは、光ファイバ26の入射端(図示せず)に入射するレーザ光の集光角と、光ファイバ26自体の特性とによって実質的に決まる。
集光光学部32は、所要個数の光学レンズ36を有する。光学レンズ36として例えば種々の球面レンズを複数個組み合わせることで、球面収差等の幾何収差を可及的に低減することができる。集光光学部32は、幾何収差を可及的に低減する等の対策を施すことにより、集光光学部32に入射するレーザ光Lの拡散角αと最小ビーム径との積と、集光光学部32から出射されるレーザ光Lの集光角βと集光径との積とが、互いに同一になる(つまり集光光学部32がレーザ光Lの品質や集光性能に影響を及ぼさない)ように設計される。
ここで、集光光学部32による集光作用の一例を説明する。光ファイバ26のコア径(直径)を50μmとし、レーザ光Lの拡散角αを半角で0.1radとする。集光光学部32を一枚の仮想的なレンズと見なして、光ファイバ26の出射端26aのコア端面から集光光学部(仮想レンズ)32の主点までを100mmとし、集光光学部32の焦点距離を50mmとする。光ファイバ26の出射端26aと集光光学部32との間には他の光学要素が存在しないものとする。この条件の下で、集光光学部32の主点からレーザ光Lの集光点(結像点)までの距離は100mm、集光光学部32の結像倍率は1.0、集光角βは半角で0.1rad、集光点における集光径(直径)は50μmとなる。この条件に対し、レーザ光Lの拡散角αを変えずに光ファイバ26の出射端26aから集光光学部32の主点までの距離を90mmに変更すると、主点から集光点までの距離は112.5mm、結像倍率は1.25、集光角βは半角で0.08rad、集光径は62.5μmに変化する。このように、集光光学部32単体の作用としては、結像倍率が変化すると、集光角βと集光径とが互いに連関して変化する。なお結像倍率の変更等のために、集光光学部32を光軸32aに沿って移動可能にハウジング34に設置することができる。
ハウジング34の前端(図で下端)には、銅等を素材とする加工ノズル30が設置される。加工ノズル30の先端は通常、レーザ光Lの集光点に近接して配置される。加工ノズル30と集光光学部32との間は、ノズル開口及び後述するアシストガス導入口を除いて気密構造の室38とすることができる。集光光学部32と加工ノズル30の間に、透明な板からなる隔壁40を設け、隔壁40と加工ノズル30との間を気密構造の室38とすることもできる。隔壁40は、ワークWの加工点で発生したスパッタ等が集光光学部32に到達することを防止する。隔壁40が汚損したときには隔壁40のみを交換すればよく、この交換を可能にするべく隔壁40をハウジング34に着脱自在な構成とすることができる。ハウジング34の側面には、アシストガスGを室38に導入する導入口42が形成され、外部のガス供給源(図示せず)から所定圧力のアシストガスGが導入口42を介して室38に導入される。アシストガスGは圧縮空気と共に加工ノズル30からワークWに吹き付けられる。アシストガスGは加工ノズル30から光軸32aと同軸の流れを維持して吹き出すことが望ましく、これを実現するために、加工ノズル30の位置を光軸32aに直交する方向へ微調整する機構(図示せず)を備えることができる。また、光軸32a(したがって集光光学部32)を加工ノズル30の軸心に対して位置合わせする機構(図示せず)を備えることもできる。
一例として、加工ノズル30の開口径は約0.8mm〜約6mmに設定でき、加工ノズル30の軸位置調整範囲は約2mm〜約5mmに設定でき、加工ノズル30内のアシストガスGの圧力は約0.01MPa〜約3MPaの範囲内で調整でき、加工ノズル30とワークWとの間の距離は約0.5mm〜約4mmの範囲内で制御できる。なお、室38はアシストガスGの圧力を一定値に維持するべく気密構造としているが、光ファイバ26の出射端26aの取付箇所を含むハウジング34の他の部分も、外気がハウジング34の内部に侵入しない構造とすることができる。これにより、外部からハウジング34内への塵埃や湿気等の侵入を阻止し、光ファイバ出射端26aや集光光学部32等の光学要素の汚損を未然に防止することができる。
レーザ加工装置10はさらに、加工ヘッド18に設けられ、レーザ光Lの進行方向に見て集光光学部32の上流側(図で上方)に配置される透過光学部材44を備える。透過光学部材44は、ハウジング34の内部で光ファイバ26の出射端26aと集光光学部32との間の所定位置に、その中心軸線44aを集光光学部32の光軸32aに一致させて配置される光学要素である。透過光学部材44は、光ファイバ26の出射端26aから出射されたレーザ光Lを、その拡散角αを透過前後で一定に維持しながら透過させることができる。
図3及び図4を参照して、本実施形態における透過光学部材44の具体的構成及びレーザ光透過作用を説明する。
図3(a)、(b)に示すように、透過光学部材44は、回転対称形状で対称軸46aに対し傾斜する均一厚みの円錐板部分46を備える。換言すると、円錐板部分46は、円錐形の凸面である第1面46bと、第1面46bの反対側の第2面46cであって、第1面46bの円錐の頂角θと等しい頂角θを有するとともに第1面46bと同一の寸法及び形状を有する円錐形の凹面である第2面46cとを有する。第1面46bと第2面46cとは互いに平行に延び、第1面46b及び第2面46cに直交する方向の円錐板部分46の寸法(すなわち厚み)tは全体に均一である。円錐板部分46の対称軸46aは、透過光学部材44の中心軸線44aと一致する。本実施形態では、図示のように透過光学部材44の全体が円錐板部分46である。
透過光学部材44は、石英ガラス、BK7等の、レーザ光Lの吸収や散乱を生じない又は生じ難い材料から作製できる。また、透過光学部材44の第1面46b及び第2面46cには、光学多層膜からなる無反射コーティングを施すことができる。このような構成により、レーザ光Lは、そのエネルギーを減耗せずに透過光学部材44を透過できる。レーザ光Lは、透過光学部材44に入るとき及び透過光学部材44から出るときに、透過光学部材44と周囲空気との屈折率の違いにより、入射角に応じて光路が傾く。この現象を、図4を参照して説明する。
図4(a)、(b)に概念図として示すように、透過光学部材44は、加工ヘッド18のハウジング34(図2)の内部で、円錐板部分46の対称軸46aが集光光学部32(図2)の光軸32aに一致する位置に配置される。また透過光学部材44は、光ファイバ26の出射端26aから出射されたレーザ光Lの全体が、円錐板部分46を透過する位置に配置される(図2)。図4(a)では、透過光学部材44は、円錐板部分46の第2面46cを光ファイバ26に対向させて配置されている。図4(b)では、透過光学部材44は、円錐板部分46の第1面46bを光ファイバ26に対向させて配置されている。
ここで、レーザ光Lの光束内の1つの光線L1に着目する。図4(a)の構成において、光線L1は、円錐板部分46の第2面46cに鋭角な入射角γを成して入射するものとする。光線L1は、透過光学部材44に入るときに、屈折率の差と入射角γとで決まる方向に屈曲され、透過光学部材44から出るときに、屈折率の差と出射角とで決まる方向に再び屈曲される。このとき、第2面(入射面)46cと第1面(出射面)46bとが互いに平行であるから、出射角は入射角γに等しくなり、光線L1の進行方向は、透過光学部材44に入る前と出た後とで同一の方向となる。また2回の屈折の結果、透過光学部材44から出た後の光線L1の経路は、透過光学部材44に入る前の光線L1の経路(破線で示す)に対し、所定方向(図では光軸32aに接近する方向)へ平行移動したものとなる。光線L1の平行移動距離は、透過光学部材44の円錐板部分46の厚みt(図3)、頂角θ(図3)、透過光学部材44と周囲空気との屈折率差、円錐板部分46への入射角γ等によって決まる。この現象は、光ファイバ26の出射端26aから出射されたレーザ光Lの光束の全体に同様に生じ、結果として透過光学部材44は、レーザ光Lの拡散角α(図2)を透過前後で一定に維持しながらレーザ光Lを透過させることができる。また後述するように、光線が透過光学部材44の円錐板部分46を透過するときに、当該光線に対し光軸が斜めにずれたような作用が生じ、その結果、全光線を集光した集光点における集光径が拡大する。
図4(a)の構成に対し透過光学部材44を逆向きに配置した図4(b)の構成においても、同様に、透過光学部材44から出た後の光線L1の経路を、透過光学部材44に入る前の光線L1の経路(破線で示す)に対し、所定方向(図では光軸32aに接近する方向)へ平行移動させることができる。したがってこの構成でも、透過光学部材44は、レーザ光Lの拡散角α(図2)を透過前後で一定に維持しながらレーザ光Lを透過させることができる。但しこの構成では、図4(a)の光線L1と同じ光線L1は、円錐板部分46の第1面46bに、図4(a)の入射角γよりも小さな入射角γで入射する。その結果、光線L1の透過前後での平行移動距離は、図4(a)の光線L1の透過前後での平行移動距離よりも大きくなっている。
透過光学部材44の円錐板部分46は、レーザ光Lの集光径を拡大する集光径拡大部分を構成する。以下、図5〜図7を参照して、透過光学部材44を備えるレーザ加工装置10におけるレーザ光集光作用を説明する。なお図5(a)、図6(a)、図7(a)では、レーザ加工装置10の全体構成が示されているが、簡略化のために、図2に示すハウジング34、加工ノズル30及び隔壁40を省略するとともに、集光光学部32を1つの仮想レンズに置き換えている。
まず図5を参照して、レーザ加工装置10から透過光学部材44を除去した構成におけるレーザ光集光作用を検証する。検証した構成は、図5(a)に示すように、加工ヘッド18内のレーザ光Lの光路に透過光学部材44を備えないものである。光ファイバ26の出射端26aから出射された拡散角αを有するレーザ光Lは、透過光学部材44を透過することなく集光光学部(仮想レンズ)32で集光されて、集光角βを有するレーザ光LとしてワークWに照射される。各部寸法は、光ファイバ26のコア径(直径)を50μm、レーザ光Lの拡散角αを半角で0.1rad、光ファイバ26の出射端26aのコア端面から集光光学部32の主点までを100mm、集光光学部32の焦点距離を50mmとした。また、集光光学部32の主点からレーザ光Lの集光点までの距離は100mm、集光光学部32の結像倍率は1.0、レーザ光Lの集光角βは半角で0.1rad、集光点における集光径(直径)は50μmであった。
図5(b)は、シミュレーションにより得られたレーザ光Lの一部の光線の経路を示す。図5(c)は、理解を助けるべく(b)に示す光線経路の任意部分のみを抽出したものである。例えば、図5(b)、(c)において光ファイバ出射端26aのコア端面の上端から出射された光線は、拡散角αで拡がりながら集光光学部32に入射し、集光光学部32から集光角βで出射されて、集光点Iの図で下端位置に集光(結像)する。他方、図5(b)、(c)において光ファイバ出射端26aのコア端面の下端から出射された光線は、拡散角αで拡がりながら集光光学部32に入射し、集光光学部32から集光角βで出射されて、集光点Iの図で上端位置に集光(結像)する。したがって、光ファイバ出射端26aのコア端面全体から出射されるレーザ光Lの全光線は、図5(d)に拡大して示すように、集光点Iにおいて集光径Dの円形領域S(コア端面の外周形状及び直径に対応する領域)に集光される。集光点IをワークWの表面に位置決めすると、レーザ光Lはワーク表面に集光径Dの円形スポットで照射される。
次に図6を参照して、透過光学部材44を備えたレーザ加工装置10におけるレーザ光集光作用を検証する。検証した構成は、図6(a)に示すように、透過光学部材44が、円錐板部分46の第1面46bを光ファイバ26に対向させて配置されるものである。光ファイバ26の出射端26aから出射された拡散角αを有するレーザ光Lは、透過光学部材44を透過した後に集光光学部(仮想レンズ)32で集光されて、集光角βを有するレーザ光LとしてワークWに照射される。各部寸法は、図5の構成と同様に、光ファイバ26のコア径(直径)を50μm、レーザ光Lの拡散角αを半角で0.1rad、光ファイバ26の出射端26aのコア端面から集光光学部32の主点までを100mm、集光光学部32の焦点距離を50mmとした。また透過光学部材44は、円錐板部分46の頂角θを177.14°(つまり対称軸46aに直交する面に対する傾斜角度を1.43°)、厚みtを3mmとし、光ファイバ出射端26aのコア端面から円錐板部分46の頂点までの距離が44mmの位置に配置した。
図6(b)は、シミュレーションにより得られたレーザ光Lの一部の光線の経路を示す。図6(c)は、理解を助けるべく(b)に示す光線経路の任意部分のみを抽出したものである。例えば、図6(b)、(c)において光ファイバ出射端26aのコア端面の上端から出射された光線は、拡散角αで拡がりながら透過光学部材44の円錐板部分46に入射し、入射角に応じて図4(b)に示したように屈折及び平行移動して、拡散角αを維持しながら透過光学部材44を透過し、その後に集光光学部32に入射して、集光光学部32から集光角βで出射され、集光点Iの図で中心位置及び下端位置のそれぞれに集光(結像)する。他方、図6(b)、(c)において光ファイバ出射端26aのコア端面の下端から出射された光線は、拡散角αで拡がりながら透過光学部材44の円錐板部分46に入射し、入射角に応じて図4(b)に示したように屈折及び平行移動して、拡散角αを維持しながら透過光学部材44を透過し、その後に集光光学部32に入射して、集光光学部32から集光角βで出射され、集光点Iの図で中心位置及び上端位置のそれぞれに集光(結像)する。光線が透過光学部材44の円錐板部分46を透過するときに、当該光線に対し光軸が斜めにずれたような作用が生じ、その結果、図示のように光線が集光点Iで2箇所に分かれて結像する。
したがって、光ファイバ出射端26aのコア端面全体から出射されるレーザ光Lの全光線は、図6(d)に拡大して示すように、集光点Iにおいて集光径Dの円形領域S(コア端面の外周形状に対応し、約2倍の直径を有する領域)に集光される。集光点IをワークWの表面に位置決めすると、レーザ光Lはワーク表面に集光径Dの円形スポットで照射される。検証の結果、集光光学部32の主点からレーザ光Lの集光点Iまでの距離は約100mm、集光光学部32の結像倍率は約1.0、レーザ光Lの集光角βは半角で約0.1rad、集光点Iにおける集光径Dは約100μmとなった。
図5の構成と図6の構成との比較から理解されるように、透過光学部材44の円錐板部分(集光径拡大部分)46は、円錐板部分(集光径拡大部分)46を透過したレーザ光Lの集光径Dを、円錐板部分(集光径拡大部分)46を透過せずに集光光学部32で集光された場合のレーザ光Lの集光径Dに比べて拡大するように作用する。しかもこのとき、検証結果の通り、集光光学部32の主点からレーザ光Lの集光点Iまでの距離、集光光学部32の結像倍率、及びレーザ光Lの集光角βのいずれをも実質的に変化させることなく、集光径Dを拡大する(図6の例では約2倍)ことができる。
レーザ加工装置10から透過光学部材44を除去した構成(図5)において、集光光学部32の結像倍率の増加により集光径Dを拡大する場合、前述したように、図5(a)の位置から例えば集光光学部32を光ファイバ出射端26aに接近する方向へ10mm移動して、結像倍率を1.25に増加させることで、集光径Dが62.5μmに拡大するが、その一方、集光光学部32の主点から集光点Iまでの距離が112.5mmに増加し、集光角βが半角で0.08radに減少する。集光光学部32の結像倍率を2に増加させて集光径Dを2倍に拡大するためには、集光光学部32から集光点Iまでの距離及び集光角βの変化量がさらに大きなものとなり、レーザ加工装置10の全体寸法に影響を及ぼしたり、レーザ加工の種類やワークの材質、厚み等に応じた最適なレーザ加工を実施することが困難になったりする懸念がある。
これに対し、透過光学部材44を備えるレーザ加工装置10(図2、図6)では、集光光学部32の結像倍率を増加させる(つまり集光光学部32を光軸32a方向へ移動させる)構成に代えて、透過光学部材44が有する円錐板部分(集光径拡大部分)46にレーザ光Lの全体を透過させる構成を採用したことにより、集光光学部32の主点から集光点Iまでの距離及びレーザ光Lの集光角βを実質的に変化させることなく、集光径Dを拡大することができる。集光径Dを所望寸法に拡大することに加えて、集光角βも所望寸法に変化させたい場合は、集光光学部32を光軸32a方向へ適当な距離だけ移動させることで対応できる。したがってレーザ加工装置10によれば、レーザ加工装置10の全体寸法に影響を及ぼすことなく、レーザ加工の種類やワークWの材質、厚み等に応じた最適な集光径D及び集光角βを有するレーザ光LをワークWに照射することが可能になる。透過光学部材44は、拡散角αを透過前後で一定に維持しながらレーザ光Lを透過させるものであるから、集光光学部32のレーザ光進行方向上流側に透過光学部材44を配置した構成であっても、集光時の幾何収差への影響を最小限にすることができる。しかも透過光学部材44は、集光光学部32のレーザ光進行方向上流側に配置されるので、幾何収差を低減するべく予め設計されている集光光学部32に対し、透過光学部材44を配置したことで幾何収差が悪化することは回避される。仮に集光光学部32の複数の光学レンズ36の間に透過光学部材44を配置したとすると、光学レンズ36同士の距離が変わって幾何収差が変化するので集光光学部32の再設計が必要になる。しかしレーザ加工装置10では、透過光学部材44の配置に起因する集光光学部32の再設計は不要である。
次に図7を参照して、図6の透過光学部材44とは異なる透過光学部材44′を備えたレーザ加工装置10におけるレーザ光集光作用を検証する。透過光学部材44′は、円錐板部分46の頂角θが異なる以外は、透過光学部材44と同一の構成を有する。検証した構成は、図7(a)に示すように、透過光学部材44′が、円錐板部分46の第1面46bを光ファイバ26に対向させて配置されるものである。光ファイバ26の出射端26aから出射された拡散角αを有するレーザ光Lは、透過光学部材44′を透過した後に集光光学部(仮想レンズ)32で集光されて、集光角βを有するレーザ光LとしてワークWに照射される。透過光学部材44′は、円錐板部分46の頂角θを174.28°(つまり対称軸46aに直交する面に対する傾斜角度を2.86°(透過光学部材44の傾斜角度の2倍))とした。その他の各部寸法は、図6の構成と同様である。
図7(b)は、シミュレーションにより得られたレーザ光Lの一部の光線の経路を示す。図7(c)は、理解を助けるべく(b)に示す光線経路の任意部分のみを抽出したものである。例えば、図7(b)、(c)において光ファイバ出射端26aのコア端面の上端から出射された光線は、拡散角αで拡がりながら透過光学部材44′の円錐板部分46に入射し、入射角に応じて図4(b)に示したように屈折及び平行移動して、拡散角αを維持しながら透過光学部材44′を透過し、その後に集光光学部32に入射して、集光光学部32から集光角βで出射され、集光点Iの図で上から2つ目の位置及び下端位置のそれぞれに集光(結像)する。他方、図7(b)、(c)において光ファイバ出射端26aのコア端面の下端から出射された光線は、拡散角αで拡がりながら透過光学部材44′の円錐板部分46に入射し、入射角に応じて図4(b)に示したように屈折及び平行移動して、拡散角αを維持しながら透過光学部材44′を透過し、その後に集光光学部32に入射して、集光光学部32から集光角βで出射され、集光点Iの図で下から2つ目の位置及び上端位置のそれぞれに集光(結像)する。光線が透過光学部材44′の円錐板部分46を透過するときに、当該光線に対し光軸が斜めにずれたような作用が生じ、その結果、図示のように光線が集光点Iで2箇所に分かれて結像する。
したがって、光ファイバ出射端26aのコア端面全体から出射されるレーザ光Lの全光線は、図7(d)に拡大して示すように、集光点Iにおいて集光径(外径)Dの環状領域S(コア端面の外周形状に対応し、約3倍の外径を有する円環状の領域)に集光される。透過光学部材44′の円錐板部分46の頂角θが、図6の透過光学部材44の円錐板部分46の頂角θよりも小さいので、透過光学部材44′の円錐板部分46を透過する光線に対する見かけの光軸のずれが大きくなり、その結果、集光点Iの中心にレーザ光Lが結像しない領域が生じると考えられる。集光点IをワークWの表面に位置決めすると、レーザ光Lはワーク表面に集光径(外径)Dの環状スポットで照射される。検証の結果、集光光学部32の主点からレーザ光Lの集光点Iまでの距離は約100mm、集光光学部32の結像倍率は約1.0、レーザ光Lの集光角βは半角で約0.1rad、集光点Iにおける集光径(外径)Dは約150μmとなった。
図6の構成と図7の構成との比較から理解されるように、透過光学部材44の円錐板部分(集光径拡大部分)46の構成を変えることで、円錐板部分46によって拡大される集光径Dの寸法を変更することができる。例えば、円錐板部分46の頂角θ、厚みt、屈折率等のパラメータのうち所望のパラメータを変えることにより、集光径Dの寸法を変更できる。異なるパラメータを採用した複数種類の透過光学部材44をそれぞれに装備した複数種類の加工ヘッド18を用意し、レーザ加工の種類やワークWの材質、厚み等に対応する透過光学部材44を備える加工ヘッド18を適宜選択して用いるようにすることができる。
或いは、レーザ加工装置10は、加工ヘッド18の予め定めた位置に透過光学部材44が着脱自在に取り付けられる構成とすることができる。例えば、レーザ光Lに干渉しない箇所で適当な取付具(図示せず)を用いて、透過光学部材44をハウジング34の内面に着脱自在に取り付けることができる。この構成によれば、円錐板部分46の頂角θ、厚みt、屈折率等が異なる複数種類の透過光学部材44を用意し、レーザ加工の種類やワークWの材質、厚み等に対応する透過光学部材44を適宜選択して加工ヘッド18に取り付けることで、最適な集光径D及び集光角βを有するレーザ光LをワークWに照射してレーザ加工を実施できる。また、レーザ加工の種類やワークWの材質、厚み等が変更される都度、最適な透過光学部材44に適宜交換してレーザ加工を実施できる。
透過光学部材44を加工ヘッド18に着脱自在とすることで、1台のレーザ加工装置10において、透過光学部材44を備えない構成(例えば図5参照)と、透過光学部材44を備える構成(例えば図6、図7参照)とを、適宜選択して切り替えることができる。透過光学部材44を備えない構成では、光ファイバ26から出射されたレーザ光Lは、幾何収差を可及的に低減する等の対策を施した集光光学部32で集光されることにより、本来有する集光性能を劣化させることなく加工ヘッド18から出射される。これに対し、透過光学部材44を備える構成では、光ファイバ26から出射されたレーザ光Lは、対称軸46aに対し傾斜する円錐板部分46を透過することにより、本来有する集光性能が若干劣化した状態で、集光光学部32で集光されて加工ヘッド18から出射される。したがってレーザ加工装置10は、透過光学部材44を備えない構成と透過光学部材44を備える構成とを切り替えることにより、レーザ加工の種類やワークWの材質、厚み等の変更に応じるだけでなく、加工に要求されるレーザ光Lの集光性能の変更に応じて、最適なレーザ加工を実施することができる。
着脱自在な透過光学部材44を備えたレーザ加工装置10において、例えば、高エネルギー密度の小さな集光径Dを必要とするレーザ加工を行う際は、透過光学部材44を加工ヘッド18から取り外した状態とし、低エネルギー密度の大きな集光径Dを必要とするレーザ加工を行う際は、透過光学部材44を加工ヘッド18に取り付けた状態とすることで、最適な集光径Dによるレーザ加工を実施できる。一例を挙げると、軟鋼製の板状ワークWの切断加工に際し、厚み16mm程度の厚板ワークWに対しては、円錐板部分46の頂角θが比較的小さい(つまり傾斜が大きい)透過光学部材44を加工ヘッド18に取り付けて、集光径D(直径)150μmのレーザ光L(図7)により切断し、厚み6mm程度の中厚ワークWに対しては、円錐板部分46の頂角θが比較的大きい(つまり傾斜が小さい)透過光学部材44を加工ヘッド18に取り付けて、集光径D(直径)100μmのレーザ光L(図6)により切断し、厚み1mm程度の薄板ワークWに対しては、透過光学部材44を加工ヘッド18から取り外した状態で、集光径D(直径)50μmのレーザ光L(図5)により切断することができる。
レーザ加工装置10においては、透過光学部材44を、図6及び図7に示す向きとは逆向きに配置したり、レーザ光Lの進行方向に見て集光光学部32の下流側に配置したりすることができる。透過光学部材44を図6及び図7に示す向きとは逆向きに配置した場合、図4を参照して説明したように、レーザ光の光線の透過光学部材44を透過する前後での平行移動距離が小さくなり、集光径Dが若干変化する。よって、レーザ加工の種類やワークWの材質、厚み等に応じて、透過光学部材44の向きを選択することができる。
図8は、加工ヘッド18に設けられる透過光学部材44(図3)を、レーザ光Lの進行方向に見て集光光学部32の下流側(図で下方)に配置した変形例によるレーザ加工装置10′を示す。レーザ加工装置10′では、透過光学部材44は、ハウジング34の内部で集光光学部32と加工ノズル30との間の所定位置に、その中心軸線44aを集光光学部32の光軸32aに一致させて配置される。透過光学部材44は、集光光学部32で集光されたレーザ光Lを、その集光角βを透過前後で一定に維持しながら透過させることができる。またレーザ加工装置10′では、透過光学部材44は、円錐板部分46の第1面46bをノズル30側に向けて、円錐板部分46の対称軸46aが集光光学部32の光軸32aに一致する位置に配置される。レーザ加工装置10′の他の構成は、図2に示すレーザ加工装置10と同様である。
図8に示すレーザ加工装置10′は、透過光学部材44を備えたことにより、図2に示すレーザ加工装置10と同等の格別の効果を奏する。特にレーザ加工装置10′では、集光光学部32で集光角βに集光された後のレーザ光Lを、透過光学部材44の円錐板部分46への入射角に応じて図4(b)に示したように屈折及び平行移動させることで、集光径を拡大することができる。したがって、透過光学部材44を除去した構成(例えば図5)と比較して、集光角βの変化量を零にすることができる。
またレーザ加工装置10′は、透過光学部材44を加工ヘッド18の予め定めた位置に着脱自在に取り付ける構成とすることができる。これにより、図2に示すレーザ加工装置10と同様に、レーザ加工の種類やワークWの材質、厚み等の変更や、加工に要求されるレーザ光Lの集光性能の変更に応じて、最適種類の透過光学部材44を適宜選択して用いたり、透過光学部材44を備えない構成に切り替えたりすることで、最適な集光径D及び集光角βを有するレーザ光LをワークWに照射してレーザ加工を実施できる。さらに、集光光学部32と加工ノズル30との間に着脱自在に取り付けられる透過光学部材44は、隔壁40(図2)と同様に集光光学部32の汚損防止機能を発揮できるので、隔壁40を省略して部品点数を削減することができる。
図9は、レーザ光源14(図1)が有するCO2レーザ等の発振器で発振されたレーザ光Lが、導光管や反射鏡等を用いた伝送手段20(図1)を介して加工ヘッド18に導入される他の変形例によるレーザ加工装置10″を示す。レーザ加工装置10″では、加工ヘッド18のハウジング34がその後端(図で上端)に開口48を有し、その後方(図で上方)に、空気中を伝播したレーザ光Lを集光させる集光レンズ50が設置される。集光レンズ50を通ったレーザ光Lは集光されてビームウエストEを形成し、ビームウエストEの進行方向下流側で拡散角αを有するレーザ光Lとして加工ヘッド18に入射する。レーザ加工装置10″の他の構成は、図2に示すレーザ加工装置10と同様である。
図9に示すレーザ加工装置10″においても、透過光学部材44を備えたことにより、図2に示すレーザ加工装置10と同等の格別の効果が奏される。また、レーザ加工装置10″においても、透過光学部材44を集光光学部32のレーザ光進行方向の上流側又は下流側の所定位置に着脱自在に取り付ける構成とすることができる。これにより、図2に示すレーザ加工装置10と同様に、レーザ加工の種類やワークWの材質、厚み等の変更や、加工に要求されるレーザ光Lの集光性能の変更に応じて、最適種類の透過光学部材44を適宜選択して用いたり、透過光学部材44を備えない構成に切り替えたりすることで、最適な集光径D及び集光角βを有するレーザ光LをワークWに照射してレーザ加工を実施できる。
本発明に係るレーザ加工装置は、上記した透過光学部材44とは形状や構造が異なる様々な構成の透過光学部材を備えることができる。以下、図10〜図15を参照して、透過光学部材44とは形状が異なる透過光学部材52の構成、及び透過光学部材52を備えた他の実施形態によるレーザ加工装置54の構成を説明する。なお、透過光学部材52を備えたレーザ加工装置54は、透過光学部材44を透過光学部材52に置換した点以外は、図2及び図5〜図7のレーザ加工装置10、図8のレーザ加工装置10′、図9のレーザ加工装置10″と同様の構成を有することができる。以下の説明において、レーザ加工装置10、10′、10″の構成に対応する構成については、共通する参照符号を付すことでその説明を省略する。
図10(a)、(b)に示すように、透過光学部材52は、回転対称形状で対称軸56aに対し直交する均一厚みの中心平板部分56と、中心平板部分56の外周に沿って設けられ、回転対称形状で対称軸58aに対し傾斜する均一厚みの環状の円錐板部分58とを備える。換言すると、中心平板部分56は、円形の平坦面である第1面56bと、第1面56bの反対側の第2面56cであって、第1面56bと同一の寸法及び形状を有する円形の平坦面である第2面56cとを有する。第1面56bと第2面56cとは互いに平行に延び、第1面56b及び第2面56cに直交する方向の中心平板部分56の寸法(すなわち厚み)t1は全体に均一である。環状の円錐板部分58は、円錐台形の凸面である第1面58bと、第1面58bの反対側の第2面58cであって、第1面58bを延長した仮想円錐の頂角θと等しい頂角θを対応の仮想円錐に有するとともに第1面58bと同一の寸法及び形状を有する円錐台形の凹面である第2面58cとを有する。第1面58bと第2面58cとは互いに平行に延び、第1面58b及び第2面58cに直交する方向の円錐板部分58の寸法(すなわち厚み)t2は全体に均一である。中心平板部分56の厚みt1と円錐板部分58の厚みt2とは、互いに同一でも異なってもよい。中心平板部分56の対称軸56aと円錐板部分58の対称軸58aとは、互いに一致するとともに、透過光学部材52の中心軸線52aと一致する。
透過光学部材52は、石英ガラス、BK7等の、レーザ光Lの吸収や散乱を生じない又は生じ難い材料から作製できる。また、透過光学部材52の第1面56b、58b及び第2面56c、58cには、光学多層膜からなる無反射コーティングを施すことができる。このような構成により、レーザ光Lは、そのエネルギーを減耗せずに透過光学部材52を透過できる。レーザ光Lは、透過光学部材52に入るとき及び透過光学部材52から出るときに、透過光学部材52と周囲空気との屈折率の違いにより、入射角に応じて光路が傾く。この現象を、図11を参照して説明する。なお、図11に示す透過光学部材52は、図2に示す透過光学部材44と同様に、加工ヘッド18のハウジング34の内部で光ファイバ26の出射端26aと集光光学部32との間の所定位置(図2)に、その中心軸線52aを集光光学部32の光軸32aに一致させて配置されるものとする。
図11(a)〜(d)に概念図として示すように、透過光学部材52は、加工ヘッド18のハウジング34(図2)の内部で、中心平板部分56及び円錐板部分58の対称軸56a、58aが集光光学部32(図2)の光軸32aに一致する位置に配置される。図11(a)、(b)、(d)では、透過光学部材52は、中心平板部分56及び円錐板部分58の第2面56c、58cを光ファイバ26に対向させて配置されている。図11(c)では、透過光学部材52は、中心平板部分56及び円錐板部分58の第1面56b、58bを光ファイバ26に対向させて配置されている。また図11(a)は、円錐板部分58の頂角θ(図10(b))が小さい(すなわち傾斜が大きい)透過光学部材52を示し、図11(b)、(c)は、円錐板部分58の頂角θが大きい(すなわち傾斜が小さい)透過光学部材52を示す。図11(d)は、透過光学部材52を光ファイバ26に近接した位置に配置して、図11(a)〜(c)と同じ光線を中心平板部分56に透過させた状態を示す。
ここで、レーザ光Lの光束内の1つの光線L1に着目する。図11(a)の構成において、光線L1は、円錐板部分58の第2面58cに垂直に入射するものとする。この場合、光線L1は、第2面58cで屈折せずに円錐板部分58に入り、第1面58bで屈折せずに円錐板部分58から出るので、円錐板部分58の透過前後で屈曲及び平行移動を生じることなく全体として直進する。
図11(a)の構成よりも円錐板部分58の頂角が大きい図11(b)の構成において、(a)と同じ光線L1は、円錐板部分58の第2面58cに鋭角な入射角γを成して入射する。光線L1は、透過光学部材52に入るときに、屈折率の差と入射角γとで決まる方向に屈曲され、透過光学部材52から出るときに、屈折率の差と出射角とで決まる方向に再び屈曲される。このとき、第2面(入射面)58cと第1面(出射面)58bとが互いに平行であるから、出射角は入射角γに等しくなり、光線L1の進行方向は、透過光学部材52に入る前と出た後とで同一の方向となる。また2回の屈折の結果、透過光学部材52から出た後の光線L1の経路は、透過光学部材52に入る前の光線L1の経路(破線で示す)に対し、所定方向(図では光軸32aに接近する方向)へ平行移動したものとなる。光線L1の平行移動距離は、透過光学部材52の円錐板部分58の厚みt2(図10)、頂角θ(図10)、透過光学部材52と周囲空気との屈折率差、円錐板部分58への入射角γ等によって決まる。この現象は、光ファイバ26の出射端26aから出射されたレーザ光Lの光束のうち、円錐板部分58を透過する光束部分の全体に同様に生じ、結果として透過光学部材52は、レーザ光Lの拡散角α(図2)を透過前後で一定に維持しながらレーザ光Lを透過させることができる。また後述するように、光線が透過光学部材52の円錐板部分58を透過するときに、当該光線に対し光軸が斜めにずれたような作用が生じ、その結果、全光線を集光した集光点における集光径が拡大する。
図11(b)の構成に対し透過光学部材52を逆向きに配置した図11(c)の構成においても、同様に、透過光学部材52から出た後の光線L1の経路を、透過光学部材52に入る前の光線L1の経路(破線で示す)に対し、所定方向(図では光軸32aに接近する方向)へ平行移動させることができる。したがってこの構成でも、透過光学部材52は、レーザ光Lの拡散角α(図2)を透過前後で一定に維持しながらレーザ光Lを透過させることができる。但しこの構成では、図11(b)の光線L1と同じ光線L1は、円錐板部分58の第1面58bに、図11(b)の入射角γよりも小さな入射角γで入射する。その結果、光線L1の透過前後での平行移動距離は、図11(b)の光線L1の透過前後での平行移動距離よりも大きくなっている。
図11(d)に示すように、透過光学部材52を、図11(a)〜(c)の位置から光ファイバ26に接近させて、同じ光線L1を中心平板部分56に透過させた場合も、透過光学部材52から出た後の光線L1の経路は、透過光学部材52に入る前の光線L1の経路(破線で示す)に対し、所定方向(図では光軸32aに接近する方向)へ平行移動したものとなる。この場合、中心平板部分56に入射する光線L1の入射角γは、図11(b)の入射角γよりも小さく、かつ図11(c)の入射角γよりも大きくなる。その結果、光線L1の透過前後での平行移動距離は、図11(b)の光線L1の透過前後での平行移動距離よりも大きく、かつ図11(c)の光線L1の透過前後での平行移動距離よりも小さくなっている。なお、光線が透過光学部材52の中心平板部分56を透過するときには、当該光線に対し光軸が斜めにずれるような作用は生じない。光軸がずれないので、中心平板部分56を透過した全光線の集光点における集光径は、透過光学部材52を透過しない場合の集光径と比べて変化しない。
光線L1が透過光学部材52の中心平板部分56を透過する図11(d)の構成を基準に考えると、同じ光線L1を図11(b)の円錐板部分58に透過させたときには、円錐板部分58から出た後の光線L1の経路は図11(d)の光線L1の経路に対し光軸32aから離反する方向へ平行移動したものになり、また、同じ光線L1を図11(c)の円錐板部分58に透過させたときには、円錐板部分58から出た後の光線L1の経路は図11(d)の光線L1の経路に対し光軸32aに接近する方向へ平行移動したものになる。また、前述の説明から類推されるように、図11(a)の円錐板部分58よりもさらに頂角の小さい(すなわち傾斜の大きい)円錐板部分58に光線L1を透過させると、光線L1の入射角γは鈍角になり、円錐板部分58から出た後の光線L1の経路は円錐板部分58に入る前の光線L1の経路に対し光軸32aから離反する方向へ平行移動することになる。
透過光学部材52の円錐板部分58は、レーザ光Lの集光径を拡大する集光径拡大部分を構成する。以下、図12〜図15を参照して、透過光学部材52を備えるレーザ加工装置54におけるレーザ光集光作用を説明する。なお図12(a)、図13(a)、図14(a)、図15(a)では、レーザ加工装置54の全体構成が示されているが、簡略化のために、図2に示すハウジング34、加工ノズル30及び隔壁40を省略するとともに、集光光学部32を1つの仮想レンズに置き換えている。
図12(a)に示すように、レーザ加工装置54は、加工ヘッド18(図2)に設けられ、レーザ光Lの進行方向に見て集光光学部32の上流側(図で上方)に配置される透過光学部材52を備える。透過光学部材52は、ハウジング34(図2)の内部で光ファイバ26の出射端26aと集光光学部32との間の所定位置に、その中心軸線52aを集光光学部32の光軸32aに一致させて配置される。また透過光学部材52は、光ファイバ26の出射端26aから出射されたレーザ光Lの光束の中心部分が、中心平板部分56を透過するとともに、同光束の残りの外周部分が、円錐板部分58を透過する位置に配置される。また透過光学部材52は、中心平板部分56及び円錐板部分58の第1面56b、58bを光ファイバ26に対向させて配置されている。図11を参照して説明したように、透過光学部材52は、光ファイバ26の出射端26aから出射されたレーザ光Lを、その拡散角αを透過前後で一定に維持しながら透過させることができる。
図12(a)は、光ファイバ出射端26aから出射されたレーザ光Lの光束における3つの光線L2、L3、L4の代表的経路を示している。光ファイバ出射端26aの中心領域から出射された光線L2は、透過光学部材52の中心平板部分56を透過し、図11(d)を参照して説明したように、中心平板部分56の透過前後で平行移動した光線経路を通る(図12(b))。しかしこの光線L2は、光軸が斜めにずれるような作用を受けないので、集光光学部32で集光された後、集光点Iにおいて、光ファイバ出射端26aにおける出射位置に対応する位置に集光(結像)する。これに対し、光ファイバ出射端26aの外縁近傍領域から出射された光線L3は、透過光学部材52の円錐板部分58を透過し、図11(c)を参照して説明したように、円錐板部分58の透過前後で、光線L2の平行移動距離よりも大きな距離だけ平行移動した光線経路を通る(図12(c))。この光線L3は、円錐板部分58を透過するときに、光軸が斜めにずれたような作用を受け、その結果、集光光学部32で集光された後、集光点Iにおいて、光ファイバ出射端26aにおける出射位置に対し、光軸32aから離れる方向へずれた位置に集光(結像)する。また、光軸32aを挟んで光線L3の反対側に位置する光線L4は、透過光学部材52の円錐板部分58を透過することにより、光線L3の経路に対し軸対称の経路を通り、集光点Iにおいて、光軸32aから光線L3とは反対側へ離れる方向へずれた位置に集光(結像)する。その結果、集光点Iにおける集光径は、光ファイバ出射端26aにおけるビーム最小径に比べて拡大する。
上記したように、光ファイバ出射端26aの中心領域から出射されて透過光学部材52の中心平板部分56を通る光線群は、集光点Iにおいてもその中心領域に集光する。また、光ファイバ出射端26aの外縁近傍領域から出射されて透過光学部材52の円錐板部分58を通る光線群は、集光点Iにおいてもその外縁近傍領域に集光する。したがって、透過光学部材52の円錐板部分(集光径拡大部分)58の構成を変えることで、円錐板部分58によって拡大される集光径の寸法を変更することができる。例えば、円錐板部分46の頂角θ、厚みt2、屈折率、内径(つまり中心平板部分56の外径)等のパラメータのうち所望のパラメータを変えることにより、集光径の寸法を変更できる。また、同様に円錐板部分58の所望パラメータを変えることで、集光点Iの中心領域に集光する光線群の照射強度と、集光点Iの外縁近傍領域に集光する光線群の照射強度との比率を調整できる。異なるパラメータを採用した複数種類の透過光学部材52をそれぞれに装備した複数種類の加工ヘッド18(図2)を用意し、レーザ加工の種類やワークWの材質、厚み等に対応する透過光学部材52を備える加工ヘッド18を適宜選択して用いるようにすることができる。
レーザ加工装置54は、円錐板部分(集光径拡大部分)58を有する透過光学部材52を備えたことにより、図2に示すレーザ加工装置10と同等の格別の効果を奏する。さらに、透過光学部材52を備えたレーザ加工装置54では、円錐板部分58の所望パラメータを変えることに代えて、光ファイバ26と集光光学部32との間における透過光学部材52の、光軸32aに沿った方向の位置を変えることで、集光径の寸法を変更したり、集光点Iの中心領域と外縁近傍領域との照射強度の比率を調整したりすることができる。以下、図13〜図15を参照して、透過光学部材52をそれぞれ異なる光軸方向位置に配置したレーザ加工装置54におけるレーザ光集光作用を検証する。
まず図13を参照して、透過光学部材52を光ファイバ26の出射端26aに近接させて配置した構成におけるレーザ光集光作用を検証する。検証した構成は、図13(a)に示すように、透過光学部材52を、光ファイバ26の出射端26aから出射されたレーザ光Lの全てが中心平板部分56を透過する位置に配置したものである。また透過光学部材52は、中心平板部分56及び円錐板部分58の第1面56b、58bを光ファイバ26に対向させて配置されている。光ファイバ出射端26aから出射された拡散角αを有するレーザ光Lは、中心平板部分56を透過した後に集光光学部(仮想レンズ)32で集光されて、集光角βを有するレーザ光LとしてワークWに照射される。各部寸法は、光ファイバ26のコア径(直径)を50μm、レーザ光Lの拡散角αを半角で0.1rad、光ファイバ26の出射端26aのコア端面から集光光学部32の主点までを100mm、集光光学部32の焦点距離を50mmとした。また透過光学部材52は、中心平板部分56の厚みt1(図10)を3mm、直径を5mmとし、円錐板部分58の頂角θ(図10)を171.98°(つまり対称軸58aに直交する面に対する傾斜角度を4.01°)、厚みt2を3mmとし、光ファイバ出射端26aのコア端面から中心平板部分56の第1面56aまでの距離が5mmの位置に配置した。
図13(b)は、シミュレーションにより得られたレーザ光Lの一部の光線の経路を、抽出した任意部分の経路によって示す。例えば、図13(b)において光ファイバ出射端26aのコア端面の上端から出射された光線は、拡散角αで拡がりながら透過光学部材52の中心平板部分56に入射し、入射角に応じて図12(b)に示したように屈折及び平行移動して、拡散角αを維持しながら透過光学部材52を透過し、その後に集光光学部32に入射して、集光光学部32から集光角βで出射され、集光点Iの図で下端位置に集光(結像)する。他方、図13(b)において光ファイバ出射端26aのコア端面の下端から出射された光線は、拡散角αで拡がりながら透過光学部材52の中心平板部分56に入射し、入射角に応じて図12(b)に示したように屈折及び平行移動して、拡散角αを維持しながら透過光学部材52を透過し、その後に集光光学部32に入射して、集光光学部32から集光角βで出射され、集光点Iの図で上端位置に集光(結像)する。
光線が透過光学部材52の中心平板部分56を透過するときには、前述したように当該光線に対し光軸が斜めにずれるような作用は生じない。したがって、集光点Iにおける集光態様は、図5を参照して説明した透過光学部材44を除去した構成における集光態様と実質的に同一となる。つまり、光ファイバ出射端26aのコア端面全体から出射されるレーザ光Lの全光線は、図13(c)に拡大して示すように、集光点Iにおいて集光径Dの円形領域S(コア端面の外周形状及び直径に対応する領域)に集光される。集光点IをワークWの表面に位置決めすると、レーザ光Lはワーク表面に集光径Dの円形スポットで照射される。検証の結果、集光光学部32の主点からレーザ光Lの集光点Iまでの距離は100mm、集光光学部32の結像倍率は1.0、レーザ光Lの集光角βは半角で0.1rad、集光点における集光径(直径)は約50μmとなった。
次に図14を参照して、透過光学部材52を図13の位置よりも集光光学部32に近い位置に配置した構成におけるレーザ光集光作用を検証する。検証した構成は、図14(a)に示すように、透過光学部材52を、光ファイバ26の出射端26aから出射されたレーザ光Lの一部分が中心平板部分56を透過する一方で、同レーザ光Lの残りの部分が円錐板部分58を透過する位置に配置したものである。具体的には、光ファイバ出射端26aのコア端面から中心平板部分56の第1面56aまでの距離が45mmの位置に透過光学部材52を配置した。それ以外の構成は、図13の構成と同一である。
図14(b)は、シミュレーションにより得られたレーザ光Lの一部の光線の経路を、抽出した任意部分の経路によって示す。例えば、図14(b)において光ファイバ出射端26aのコア端面の上端から出射された光線は、拡散角αで拡がりながら透過光学部材52の円錐板部分58に入射し、入射角に応じて図12(c)に示したように屈折及び平行移動して、拡散角αを維持しながら透過光学部材52を透過し、その後に集光光学部32に入射して、集光光学部32から集光角βで出射され、集光点Iの図で上から2つ目の位置及び下端位置のそれぞれに集光(結像)する。他方、図14(b)において光ファイバ出射端26aのコア端面の下端から出射された光線は、拡散角αで拡がりながら透過光学部材52の円錐板部分58に入射し、入射角に応じて図12(c)に示したように屈折及び平行移動して、拡散角αを維持しながら透過光学部材52を透過し、その後に集光光学部32に入射して、集光光学部32から集光角βで出射され、集光点Iの図で下から2つ目の位置及び上端位置のそれぞれに集光(結像)する。光線が透過光学部材52の円錐板部分58を透過するときに、当該光線に対し光軸が斜めにずれたような作用が生じ、その結果、図示のように光線が集光点Iで2箇所に分かれて結像する。さらに、図14(b)において光ファイバ出射端26aのコア端面の中心領域から出射された光線群は、透過光学部材52の中心平板部分56に入射し、入射角に応じて図12(b)に示したように屈折及び平行移動して透過光学部材52を透過し、その後に集光光学部32で集光されて、集光点Iの図で中心領域に集光(結像)する。
したがって、光ファイバ出射端26aのコア端面の外縁近傍領域から出射されたレーザ光Lの光線群は、図14(c)に拡大して示すように、集光点Iにおいて集光径(外径)Dの環状領域S(コア端面の外周形状に対応し、約3倍強の外径を有する円環状の領域)に集光される。他方、光ファイバ出射端26aのコア端面の中心領域から出射されたレーザ光Lの光線群は、図14(c)に拡大して示すように、集光点Iにおいて、環状領域Sの内側の集光径(外径)D′の円形領域S′(コア端面の外周形状及び直径に対応する領域)に集光される。透過光学部材52の中心平板部分56を透過する光線量と円錐板部分58を透過する光線量とに依存して、集光点Iの中心の円形領域S′の照射強度と外縁近傍の環状領域Sの照射強度とが決まる。集光点IをワークWの表面に位置決めすると、レーザ光Lはワーク表面に、中心領域と外縁近傍領域とでそれぞれ任意の照射強度を有する集光径Dの実質的円形スポットとして照射される。検証の結果、集光光学部32の主点からレーザ光Lの集光点Iまでの距離は約100mm、集光光学部32の結像倍率は約1.0、レーザ光Lの集光角βは半角で約0.1rad、集光点Iにおける集光径Dは約150μmとなった。
次に図15を参照して、透過光学部材52を図14の位置よりもさらに集光光学部32に近い位置に配置した構成におけるレーザ光集光作用を検証する。検証した構成は、図15(a)に示すように、透過光学部材52を、光ファイバ26の出射端26aから出射されたレーザ光Lの一部分が中心平板部分56を透過する一方で、同レーザ光Lの残りの部分が円錐板部分58を透過する位置に配置したものである。具体的には、光ファイバ出射端26aのコア端面から中心平板部分56の第1面56aまでの距離が85mmの位置に透過光学部材52を配置した。それ以外の構成は、図14の構成と同一である。
図15(b)は、シミュレーションにより得られたレーザ光Lの一部の光線の経路を、抽出した任意部分の経路によって示す。例えば、図15(b)において光ファイバ出射端26aのコア端面の上端から出射された光線は、拡散角αで拡がりながら透過光学部材52の円錐板部分58に入射し、入射角に応じて図12(c)に示したように屈折及び平行移動して、拡散角αを維持しながら透過光学部材52を透過し、その後に集光光学部32に入射して、集光光学部32から集光角βで出射され、集光点Iの図で上から2つ目の位置及び下端位置のそれぞれに集光(結像)する。他方、図15(b)において光ファイバ出射端26aのコア端面の下端から出射された光線は、拡散角αで拡がりながら透過光学部材52の円錐板部分58に入射し、入射角に応じて図12(c)に示したように屈折及び平行移動して、拡散角αを維持しながら透過光学部材52を透過し、その後に集光光学部32に入射して、集光光学部32から集光角βで出射され、集光点Iの図で下から2つ目の位置及び上端位置のそれぞれに集光(結像)する。光線が透過光学部材52の円錐板部分58を透過するときに、当該光線に対し光軸が斜めにずれたような作用が生じ、その結果、図示のように光線が集光点Iで2箇所に分かれて結像する。さらに、図15(b)において光ファイバ出射端26aのコア端面の中心領域から出射された光線群は、透過光学部材52の中心平板部分56に入射し、入射角に応じて図12(b)に示したように屈折及び平行移動して透過光学部材52を透過し、その後に集光光学部32で集光されて、集光点Iの図で中心領域に集光(結像)する。
したがって、光ファイバ出射端26aのコア端面の外縁近傍領域から出射されたレーザ光Lの光線群は、図15(c)に拡大して示すように、集光点Iにおいて集光径(外径)Dの環状領域S(コア端面の外周形状に対応し、約3倍強の外径を有する円環状の領域)に集光される。他方、光ファイバ出射端26aのコア端面の中心領域から出射されたレーザ光Lの光線群は、図15(c)に拡大して示すように、集光点Iにおいて、環状領域Sの内側の集光径(外径)D′の円形領域S′(コア端面の外周形状及び直径に対応する領域)に集光される。図14の構成に比較して、透過光学部材52をさらに集光光学部32に近接させたことで、図15の構成では、中心平板部分56を透過する光線量が少なくなり、円錐板部分58を透過する光線量が多くなっている。その結果、図14(c)に比較して、図15(c)に示すように、集光点Iの中心の円形領域S′の照射強度が弱くなり、外縁近傍の環状領域Sの照射強度が強くなっている。集光点IをワークWの表面に位置決めすると、レーザ光Lはワーク表面に、中心領域の照射強度よりも外縁近傍領域の照射強度が強い集光径Dの実質的円形スポットとして照射される。検証の結果、集光光学部32の主点からレーザ光Lの集光点Iまでの距離は約100mm、集光光学部32の結像倍率は約1.0、レーザ光Lの集光角βは半角で約0.1rad、集光点Iにおける集光径Dは約150μmとなった。
図13〜図15の構成の比較から理解されるように、透過光学部材52の円錐板部分58の所望パラメータを変えることに代えて、光ファイバ26と集光光学部32との間における透過光学部材52の光軸方向の位置を変えることで、集光径の寸法を変更したり、集光点Iの中心領域と外縁近傍領域との照射強度の比率を調整したりすることができる。同一種類の透過光学部材52をそれぞれ異なる位置に配置した複数種類の加工ヘッド18(図2)を用意し、レーザ加工の種類やワークWの材質、厚み等に対応する位置に配置された透過光学部材52を備える加工ヘッド18を適宜選択して用いるようにすることができる。なお、レーザ光Lの一部分が必ず透過光学部材52の円錐板部分58を透過することを前提とした場合には、透過光学部材52の光軸方向の位置を変えるだけでは集光径を変更することはできない。この前提において集光径を変更するためには、透過光学部材52を、円錐板部分58の頂角θ、厚みt2、屈折率、内径等のパラメータが異なる別の透過光学部材52と交換することが必要である。
或いは、レーザ加工装置54は、透過光学部材52が加工ヘッド18(図2)に、集光光学部32の光軸32aに沿った方向へ移動可能に取り付けられる構成とすることができる。例えば、レーザ光Lに干渉しない箇所で適当な駆動機構(図示せず)を用いて、透過光学部材52をハウジング34の内部に光軸方向へ無段階に移動可能に設置することができる。この構成によれば、レーザ加工の種類やワークWの材質、厚み等に対応して、透過光学部材52を駆動機構により適宜位置に配置することで、最適な集光径D及び集光角βを有するレーザ光LをワークWに照射してレーザ加工を実施できる。なお、レーザ光Lの全てが透過光学部材52の中心平板部分56を透過する構成(図13)は、前述したように、レーザ加工装置54において透過光学部材52を備えない構成と実質的に同一のレーザ光集光作用を果たす。つまり、レーザ光Lの全てが中心平板部分56を透過する構成では、光ファイバ26から出射されたレーザ光Lは、幾何収差を可及的に低減する等の対策を施した集光光学部32で集光されることにより、本来有する集光性能を劣化させることなく加工ヘッド18から出射される。したがって、透過光学部材52が光軸方向へ移動可能に取り付けられるレーザ加工装置52は、透過光学部材52を適宜位置に移動させることにより、レーザ加工の種類やワークWの材質、厚み等の変更に応じるだけでなく、加工に要求されるレーザ光Lの集光性能の変更に応じて、最適なレーザ加工を実施することができる。
さらにレーザ加工装置54は、加工ヘッド18(図2)の予め定めた複数の位置に透過光学部材52が着脱自在に取り付けられる構成とすることができる。例えば、レーザ光Lに干渉しない箇所で適当な取付具(図示せず)を用いて、透過光学部材52をハウジング34(図2)の内面に着脱自在に取り付けることができる。この構成によれば、レーザ加工の種類やワークWの材質、厚み、要求されるレーザ光の集光性能等に対応して、予め定めた複数の位置から適宜選択した位置に透過光学部材52を取り付けることで、最適な集光径D及び集光角βを有するレーザ光LをワークWに照射してレーザ加工を実施できる。また、円錐板部分58の頂角θ、厚みt、屈折率、内径(中心平板部分56の外径)等が異なる複数種類の透過光学部材52を用意し、レーザ加工の種類やワークWの材質、厚み、要求されるレーザ光の集光性能等に対応して、透過光学部材52を適宜選択して加工ヘッド18の所望の位置に取り付けることもできる。さらに、1台のレーザ加工装置54において、透過光学部材52を備えない構成と備える構成とを適宜選択して切り替えることもできる。透過光学部材52を備えない構成では、光ファイバ26から出射されたレーザ光Lを、その本来の集光性能を劣化させることなく加工ヘッド18から出射させることができる。
レーザ加工装置54においても、レーザ加工装置10と同様に、透過光学部材52を、図12〜図15に示す向きとは逆向きに配置したり、レーザ光Lの進行方向に見て集光光学部32の下流側に配置したりすることができる。レーザ加工の種類やワークWの材質、厚み等に応じて、透過光学部材52の向きや集光光学部32に対する配置を選択することができる。
レーザ加工装置54においては、透過光学部材52の中心平板部分56と円錐板部分58との境界付近で、中心平板部分56に入射した光線が円錐板部分58から出射されたり、円錐板部分58に入射した光線が中心平板部分56から出射されたりする場合がある。この場合、透過光学部材52を透過する前後の光線経路が互いに非平行になることが懸念されるので、透過光学部品52をレーザ光Lの拡散角αや集光角βに応じて設計することが望ましい。
またレーザ加工装置54においては、レーザ光の集光点における照射強度の、要求される分布に応じて、透過光学部材52の光軸方向の位置を決定することができる。例えば、光ファイバ26のコア径(直径)が50μm、レーザ光Lの拡散角αが半角で0.1rad、光ファイバ26の出射端26aから集光光学部32の主点までが100mm、集光光学部32の主点からレーザ光Lの集光点までが100mm、集光光学部32の結像倍率が1.0の条件で、透過光学部材52を図13(a)に示すような光ファイバ出射端26aの近傍位置に配置した場合、集光径(直径)は光ファイバ26のコア径に等しい50μmとなる。透過光学部材52の円錐板部分58の頂角を176.6°(つまり傾斜角度1.7°)、厚みを5mmとすると、円錐板部分58を通過して集光光学部32で集光された光線群は、内径が約50μm、外径が約150μm、幅が約50μmの環状領域に集光する。環状領域の内側には、透過光学部材52の中心平板部分56を通過した光線群が、直径約50μmの円形領域に集光する。環状領域の面積は、円形領域の面積の約8倍である。よって、中心平板部分56を通過する光線群の8倍の光線群が円錐板部分58を透過する位置に透過光学部材52を配置することで、直径150μmの集光点の全体に均等な照射強度でレーザ光を照射できる。透過光学52の中心平板部分56の直径が5mmであれば、レーザ光が外径15mmで円錐板部分58を透過する位置に透過光学部材52を配置すれば、照射強度が均等な直径150μmの集光点が得られる。
レーザ加工装置54においては、透過光学部材52に代えて、図16(a)、(b)に示すように、環状の円錐板部分58の内側に対称軸58aを中心とした円形の穴60を有する透過光学部材62を用いることができる。透過光学部材62は、透過光学部材52の中心平板部分56を穴60に置換したものであって、透過するレーザ光に及ぼす作用は、透過光学部材52と実質的に同一である。なお透過光学部材62では、穴60を画定する円錐板部分58の環状内周面がその形状に起因してレーザ光を吸収し易くなる場合があるので、光ファイバ26の出射端26aに極めて近い位置や、レーザ光におけるエネルギー強度の強い部分が環状内周面を照射するような位置に、透過光学部材62を配置しないようにすることが望ましい。
なお、透過光学部材52、62が集光光学部32の上流側に配置される場合、環状の円錐板部分58は、拡散角αを有するレーザ光Lの最小ビーム径(光ファイバ26の出射端26aのコア径)よりも大きな内径を有することが好ましい。他方、透過光学部材52、62が集光光学部32の下流側に配置される場合、環状の円錐板部分58は、集光角βを有するレーザ光Lの集光径Dよりも大きな内径を有することが好ましい。
図17を参照して、透過光学部材44、52、62とは形状が異なる透過光学部材64の構成、及び透過光学部材64を備えた他の実施形態によるレーザ加工装置66の構成を説明する。なお、透過光学部材64を備えたレーザ加工装置66は、透過光学部材52、62を透過光学部材64に置換した点以外は、図12〜図15のレーザ加工装置54と同様の構成を有することができる。以下の説明において、レーザ加工装置54の構成に対応する構成については、共通する参照符号を付すことでその説明を省略する。
図17(a)に示すように、透過光学部材64は、回転対称形状で対称軸68aに対し直交する均一厚みの中心平板部分68と、中心平板部分68の外周に沿って設けられ、回転対称形状で対称軸70aに対し傾斜する均一厚みの環状の第1円錐板部分70と、第1円錐板部分70の外周に沿って設けられ、回転対称形状で対称軸72aに対し傾斜する均一厚みの環状の第2円錐板部分72とを備える。中心平板部分68の対称軸68aと第1円錐板部分70の対称軸70aと第2円錐板部分72の対称軸72aとは、互いに一致するとともに、透過光学部材64の中心軸線64aと一致する。第1円錐板部分70と第2円錐板部分72とは、互いに同心円状に配置される。対称軸72aに直交する面に対する第2円錐板部分72の傾斜角度は、対称軸70aに直交する面に対する第1円錐板部分70の傾斜角度よりも大きくなっている。換言すると、透過光学部材64は、前述した透過光学部材52の円錐板部分58を、互いに傾斜角度の異なる第1円錐板部分70及び第2円錐板部分72に置換したものであって、その他の構成は透過光学部材52と同様とすることができる。
図17(b)に示すレーザ加工装置66は、透過光学部材64を、光ファイバ26の出射端26aから出射されたレーザ光Lの一部分が中心平板部分68を透過し、同レーザ光Lの他の一部分が第1円錐板部分70を透過し、同レーザ光Lの残りの部分が第2円錐板部分72を透過する位置に配置したものである。図11を参照して説明したように、透過光学部材64の中心平板部分68、第1円錐板部分70及び第2円錐板部分72のそれぞれを透過する光線は、透過前後の光線経路の平行移動距離が互いに異なるものとなる。その結果、図17(b)の構成では、図17(c)に拡大して示すように、光ファイバ出射端26aのコア端面の外縁近傍領域から出射されたレーザ光Lの光線群は、集光点Iにおいて集光径(外径)Dの環状領域Sに集光され、コア端面の外縁近傍領域の内側の環状領域から出射されたレーザ光Lの光線群は、集光点Iにおいて、環状領域Sの内側の集光径(外径)D′の環状領域S′に集光され、コア端面の中心領域から出射されたレーザ光Lの光線群は、集光点Iにおいて、環状領域S′の内側の集光径(外径)D″の円形領域S″に集光される。
レーザ加工装置66においては、前述したレーザ加工装置54と同様に、レーザ加工の種類やワークWの材質、厚み、要求されるレーザ光の集光性能等に対応して、集光光学部32の光軸32a(図12)に沿った所望位置に透過光学部材64を配置できる。またレーザ加工装置66においては、レーザ加工装置54と同様に、レーザ光の集光点における照射強度の、要求される分布に応じて、透過光学部材64の光軸方向の位置を決定することができる。なお、透過光学部材64を、対称軸に対し互いに異なる角度で傾斜して同心円状に配置される3個以上の円錐板部分を備える構成とすることで、種々の要求に対しさらに緻密に対応することができる。また、透過光学部材64の中心平板部分68を穴に置換したり、中心平板部分68を省略して、第1円錐板部分70を、図3に示す透過光学部材44の円錐板部分46と同様の円錐形状にしたりすることもできる。このようにレーザ加工装置66は、第1及び第2円錐板部分70、72(集光径拡大部分)を有する透過光学部材64を備えたことにより、図12に示すレーザ加工装置54と同等の効果を少なくとも奏するものである。
図18を参照して、透過光学部材44、52、62、64とは形状が異なる透過光学部材74の構成、及び透過光学部材74を備えた他の実施形態によるレーザ加工装置76の構成を説明する。なお、透過光学部材74を備えたレーザ加工装置76は、透過光学部材52、62を透過光学部材74に置換した点以外は、図12〜図15のレーザ加工装置54と同様の構成を有することができる。以下の説明において、レーザ加工装置54の構成に対応する構成については、共通する参照符号を付すことでその説明を省略する。
透過光学部材74は、前述した互いに異なる傾斜角度を有する複数の円錐板部分の構成を、対称軸に対し互いに絶対値の等しい角度で反対方向へ傾斜する一対の円錐板部分を含む構成によって実現したものである。例えば図18(a)に示すように、透過光学部材74は、回転対称形状で対称軸78aに対し直交する均一厚みの中心平板部分78と、中心平板部分78の外周に沿って設けられ、回転対称形状で対称軸80aに対し傾斜する均一厚みの環状の第1円錐板部分80と、第1円錐板部分80の外周に沿って設けられ、回転対称形状で対称軸82aに対し傾斜する均一厚みの環状の第2円錐板部分82とを備える。中心平板部分78の対称軸78aと第1円錐板部分80の対称軸80aと第2円錐板部分82の対称軸82aとは、互いに一致するとともに、透過光学部材74の中心軸線74aと一致する。第1円錐板部分80と第2円錐板部分82とは、互いに同心円状に配置される。対称軸80aに直交する面に対する第1円錐板部分80の傾斜角度と、対称軸82aに直交する面に対する第2円錐板部分82の傾斜角度とは、互いに絶対値が等しくかつ反対方向に傾斜するものとなっている。
透過光学部材74はさらに、図18(b)に示すように、第2円錐板部分82の外周に沿って設けられ、回転対称形状で対称軸84aに対し傾斜する均一厚みの環状の第3円錐板部分84と、第3円錐板部分84の外周に沿って設けられ、回転対称形状で対称軸86aに対し傾斜する均一厚みの環状の第4円錐板部分86とを備えることができる。第3円錐板部分84の対称軸84aと第4円錐板部分86の対称軸86aとは、中心平板部分78の対称軸78aと一致するとともに、透過光学部材74の中心軸線74aと一致する。第3円錐板部分84と第4円錐板部分86とは、互いに同心円状に配置されるとともに、第1円錐板部分80及び第2円錐板部分82に対し同心円状に配置される。対称軸84aに直交する面に対する第3円錐板部分84の傾斜角度と、対称軸86aに直交する面に対する第4円錐板部分86の傾斜角度とは、互いに絶対値が等しくかつ反対方向に傾斜するものとなっている。また、第3円錐板部分84の傾斜角度は第1円錐板部分80の傾斜角度よりも大きく、第4円錐板部分86の傾斜角度は第2円錐板部分82の傾斜角度よりも大きくなっている。
図18(c)に示すように、透過光学部材74を備えたレーザ加工装置76は、集光光学部32の光軸32aに沿った所望位置に透過光学部材74を配置できるように構成される。図18(c)では、光ファイバ26の出射端26aから出射されるレーザ光Lの全てが中心平板部分78を透過する位置(図で上端位置)と、同レーザ光の一部分が中心平板部分78を透過し、同レーザ光Lの残りの部分が第1円錐板部分80及び第2円錐板部分82を透過する位置(図で中間位置)と、同レーザ光の一部分が中心平板部分78を透過し、同レーザ光Lの他の一部分が第1円錐板部分80及び第2円錐板部分82を透過し、同レーザ光Lの残りの部分が第3円錐板部分84及び第4円錐板部分86を透過する位置(図で下端位置)とのそれぞれに、透過光学部材74を配置した状態を示す。図で上端位置に透過光学部材74を配置した場合は、図13に示すレーザ加工装置54と同様に、レーザ光Lの本来の集光性能を維持して集光点の集光径を最小にすることができる。図で中間位置に透過光学部材74を配置した場合は、図14に示すレーザ加工装置54と同様に、第1円錐板部分80及び第2円錐板部分82の作用により集光点の集光径を拡大することができる。図で下端位置に透過光学部材74を配置した場合は、第1円錐板部分80及び第2円錐板部分82よりも傾斜角度の大きな第3円錐板部分84及び第4円錐板部分86の作用により集光点の集光径をさらに拡大することができる。このようにレーザ加工装置76は、一対以上の円錐板部分80、82、84、86(集光径拡大部分)を有する透過光学部材74を備えたことにより、図12に示すレーザ加工装置54と同等の効果を少なくとも奏するものである。
図19及び図20を参照して、透過光学部材44、52、62、64、74とは形状が異なる透過光学部材88の構成、及び透過光学部材88を備えた他の実施形態によるレーザ加工装置90の構成を説明する。なお、透過光学部材88を備えたレーザ加工装置90は、透過光学部材44を透過光学部材88に置換した点以外は、図5〜図7のレーザ加工装置10と同様の構成を有することができる。以下の説明において、レーザ加工装置10の構成に対応する構成については、共通する参照符号を付すことでその説明を省略する。
透過光学部材88は、前述した透過光学部材74の中心平板部分78を省略したものに相当する構成を有する。図19(a)に示すように、透過光学部材88は、回転対称形状で対称軸92aに対し傾斜する均一厚みの環状の第1円錐板部分92と、第1円錐板部分92の外周に沿って設けられ、回転対称形状で対称軸94aに対し傾斜する均一厚みの環状の第2円錐板部分94とを備える。第1円錐板部分92の対称軸92aと第2円錐板部分94の対称軸94aとは、互いに一致するとともに、透過光学部材88の中心軸線88aと一致する。第1円錐板部分92と第2円錐板部分94とは、互いに同心円状に配置される。対称軸92aに直交する面に対する第1円錐板部分92の傾斜角度と、対称軸94aに直交する面に対する第2円錐板部分94の傾斜角度とは、互いに絶対値が等しくかつ反対方向に傾斜するものとなっている。
図19(a)に示すように、レーザ加工装置90は、加工ヘッド18(図2)に設けられ、レーザ光Lの進行方向に見て集光光学部32の上流側に配置される透過光学部材88を備える。透過光学部材88は、ハウジング34(図2)の内部で光ファイバ26の出射端26aと集光光学部32との間の所定位置に、その中心軸線88aを集光光学部32の光軸32aに一致させて配置される。また透過光学部材88は、光ファイバ26の出射端26aから出射されたレーザ光Lの光束の中心部分が、第1円錐板部分92を透過するとともに、同光束の残りの外周部分が、第2円錐板部分94を透過する位置に配置される。図4を参照して説明したように、透過光学部材88は、光ファイバ26の出射端26aから出射されたレーザ光Lを、その拡散角αを透過前後で一定に維持しながら透過させることができる。
光ファイバ26の出射端26aから出射された拡散角αを有するレーザ光Lは、透過光学部材88を透過した後に集光光学部(仮想レンズ)32で集光されて、集光角βを有するレーザ光LとしてワークWに照射される。各部寸法は、図5の構成と同様に、光ファイバ26のコア径(直径)を50μm、レーザ光Lの拡散角αを半角で0.1rad、光ファイバ26の出射端26aのコア端面から集光光学部32の主点までを100mm、集光光学部32の焦点距離を50mmとした。また透過光学部材44は、第1円錐板部分92の頂角を177.14°(つまり対称軸92aに直交する面に対する傾斜角度を1.43°)、厚みを3mmとし、第2円錐板部分94の頂角を−177.14°(つまり対称軸94aに直交する面に対する傾斜角度を−1.43°)、厚みを3mmとし、光ファイバ出射端26aのコア端面から第1円錐板部分92の頂点までの距離が64mmの位置に配置した。
図19(b)は、シミュレーションにより得られたレーザ光Lの一部の光線の経路を示す。図19(c)は、理解を助けるべく(b)に示す光線経路の任意部分のみを抽出したものである。例えば、図19(b)、(c)において光ファイバ出射端26aのコア端面の上端から出射された光線は、拡散角αで拡がりながら透過光学部材88の第2円錐板部分94に入射し、入射角に応じて屈折及び平行移動して、拡散角αを維持しながら透過光学部材88を透過し、その後に集光光学部32に入射して、集光光学部32から集光角βで出射される。また、図19(b)、(c)において光ファイバ出射端26aのコア端面の下端から出射された光線は、拡散角αで拡がりながら透過光学部材88の第2円錐板部分94に入射し、入射角に応じて屈折及び平行移動して、拡散角αを維持しながら透過光学部材88を透過し、その後に集光光学部32に入射して、集光光学部32から集光角βで出射される。これら光線の経路は、図6(b)、(c)に示す光線の経路に実質的に対応する。
他方、光ファイバ26の出射端26aの中心領域から出射された光線群は、第1円錐板部分92を透過する際に、透過前後で、第2円錐板部分94を透過する光線とは異なる距離だけ平行移動し、その後に集光光学部32で集光されて出射される。結果としてレーザ光Lは、集光点Iにおいて、図6(d)の集光形状と同様の集光径Dの円形領域S(コア端面の外周形状に対応し、約2倍の直径を有する領域)に集光される。しかもこのとき、レーザ光Lが、対称軸92a、94aに対し互いに絶対値の等しい角度で反対方向へ傾斜する一対の第1及び第2円錐板部分92、94を透過することにより、集光点Iを中心として光軸方向前後の所定範囲における光線群の経路の態様は、図5(d)に示す透過光学部材44を透過しないときの光線群の経路の態様に類似したもの(集光点Iを中心とした鏡像的態様)となっている。したがって、透過光学部材88を備えたレーザ加工装置90によって、例えばワーク表面から意図的に集光点Iを光軸方向へずらしてレーザ加工を行う際に、レーザ光Lの集光点Iにおける集光径Dを拡大する一方で、透過光学部材88を備えない場合に得られる加工品質と同等の加工品質を得ることが期待できる。なおレーザ加工装置90は、一対以上の円錐板部分92、94(集光径拡大部分)を有する透過光学部材88を備えたことにより、図2に示すレーザ加工装置10と同等の効果を少なくとも奏するものである。
図20(a)は、透過光学部材88とは各円錐板部分の頂角が異なる円錐板部分を有する透過光学部材88′を、透過光学部材88と同じ位置に配置したレーザ加工装置90を示す。透過光学部材88′は、第1円錐板部分92の頂角を174.28°(つまり対称軸92aに直交する面に対する傾斜角度を2.86°)とし、第2円錐板部分94の頂角を−174.28°(つまり対称軸94aに直交する面に対する傾斜角度を−2.86°)とした。その他の各部寸法は、図19の構成と同様である。
図20(b)は、シミュレーションにより得られたレーザ光Lの一部の光線の経路を示す。図20(c)は、理解を助けるべく(b)に示す光線経路の任意部分のみを抽出したものである。例えば、図20(b)、(c)において光ファイバ出射端26aのコア端面の上端から出射された光線は、拡散角αで拡がりながら透過光学部材88の第2円錐板部分94に入射し、入射角に応じて屈折及び平行移動して、拡散角αを維持しながら透過光学部材88を透過し、その後に集光光学部32に入射して、集光光学部32から集光角βで出射される。また、図20(b)、(c)において光ファイバ出射端26aのコア端面の下端から出射された光線は、拡散角αで拡がりながら透過光学部材88の第2円錐板部分94に入射し、入射角に応じて屈折及び平行移動して、拡散角αを維持しながら透過光学部材88を透過し、その後に集光光学部32に入射して、集光光学部32から集光角βで出射される。これら光線の経路は、図7(b)、(c)に示す光線の経路に実質的に対応する。
他方、光ファイバ26の出射端26aの中心領域から出射された光線群は、第1円錐板部分92を透過する際に、透過前後で、第2円錐板部分94を透過する光線とは異なる距離だけ平行移動し、その後に集光光学部32で集光されて出射される。結果としてレーザ光Lは、集光点Iにおいて、図7(d)の集光形状と同様の集光径D(外径)Dの環状領域S(コア端面の外周形状に対応し、約3倍の外径を有する円環状の領域)に集光される。しかもこのとき、レーザ光Lが、対称軸92a、94aに対し互いに絶対値の等しい角度で反対方向へ傾斜する一対の第1及び第2円錐板部分92、94を透過することにより、集光点Iを中心として光軸方向前後の所定範囲における光線群の経路の態様は、図5(d)に示す透過光学部材44を透過しないときの光線群の経路の態様に類似したもの(集光点Iを中心とした鏡像的態様)となっている。このように、透過光学部材88′を備えたレーザ加工装置90においても、透過光学部材88を備えたレーザ加工装置90と同等の効果が奏される。
図21を参照して、透過光学部材44、52、62、64、74、88とは形状が異なる透過光学部材96の構成、及び透過光学部材96を備えた他の実施形態によるレーザ加工装置98の構成を説明する。なお、透過光学部材96を備えたレーザ加工装置98は、透過光学部材52、62を透過光学部材96に置換した点以外は、図12〜図15のレーザ加工装置54と同様の構成を有することができる。以下の説明において、レーザ加工装置54の構成に対応する構成については、共通する参照符号を付すことでその説明を省略する。
透過光学部材96は、前述した透過光学部材52の中心平板部分56及び円錐板部分58を、対称軸56a、58aに直交する分割面で分割したものに相当する形状を有する第1部材100及び第2部材102を備える。第1部材100と第2部材102とは、それぞれの分割面100a、102aを互いに対向させて同軸に配置される。これら第1部材100と第2部材102との間の距離を変更することにより、透過光学部材96を透過したレーザ光Lの集光点における集光径及び照射強度分布を調整できる。
レーザ加工装置98は、第1部材100と第2部材102とを有する透過光学部材96が加工ヘッド18(図2)に、集光光学部32の光軸32aに沿った方向へ移動可能に取り付けられる構成とすることができる。例えば、レーザ光Lに干渉しない箇所で適当な駆動機構(図示せず)を用いて、第1部材100と第2部材102との少なくとも一方をハウジング34の内部に光軸方向へ無段階に移動可能に設置することができる。この構成によれば、レーザ加工の種類やワークWの材質、厚み等、また要求されるレーザ光の集光性能に対応して、第1部材100又は第2部材102を駆動機構により適宜位置に配置することで、最適な集光径及び集光角βを有するレーザ光LをワークWに照射してレーザ加工を実施できる。このようにレーザ加工装置98は、円錐板部分58(集光径拡大部分)に相当する部分を含む透過光学部材96を備えたことにより、図12に示すレーザ加工装置54と同等の効果を少なくとも奏するものである。
特にレーザ加工装置96では、第1部材100と第2部材102との組合せからなる円錐板部分を、レーザ光Lの一部が必ず透過することを前提とした場合であっても、前述したレーザ加工装置54と異なり、透過光学部材96をパラメータの異なる別の透過光学部材96と交換するのではなく、第1部材100と第2部材102との間の距離を変更することで、レーザ光Lの集光点における集光径を変更できる。なお、第1部材100と第2部材102とを、それぞれの分割面100a、102aを互いに反対側に向けて配置した場合にも、同等の効果が奏される。
図22を参照して、透過光学部材44、52、62、64、74、88、96とは形状が異なる透過光学部材104の構成、及び透過光学部材104を備えた他の実施形態によるレーザ加工装置106の構成を説明する。なお、透過光学部材104を備えたレーザ加工装置106は、透過光学部材52、62を透過光学部材104に置換した点以外は、図12〜図15のレーザ加工装置54と同様の構成を有することができる。以下の説明において、レーザ加工装置54の構成に対応する構成については、共通する参照符号を付すことでその説明を省略する。
透過光学部材104は、前述した透過光学部材44、52、62、64、74、88、96と異なり、集光径拡大部分として機能する円錐板部分を備えない。図22(a)に示すように、透過光学部材104の集光径拡大部分は、透過光学部材104が備える回転対称形状の中心平板部分108であって、対称軸108aに対し直交する均一厚みの中心平板部分108と、透過光学部材104が備える回転対称形状の環状平板部分110であって、対称軸110aに対し直交する均一厚みの環状平板部分110とから構成される。環状平板部分110は、中心平板部分108の外周に沿って設けられる。中心平板部分108の厚みと環状平板部分110の厚みとは互いに異なる。中心平板部分108の対称軸108aと環状平板部分110の対称軸110aとは、互いに一致するとともに、透過光学部材104の中心軸線104aと一致する。
図22(b)に示すように、レーザ加工装置106は、加工ヘッド18(図2)に設けられ、レーザ光Lの進行方向に見て集光光学部32の上流側に配置される透過光学部材104を備える。透過光学部材104は、ハウジング34(図2)の内部で光ファイバ26の出射端26aと集光光学部32との間の所定位置に、その中心軸線104aを集光光学部32の光軸32aに一致させて配置される。また透過光学部材104は、光ファイバ26の出射端26aから出射されたレーザ光Lの光束の中心部分が、中心平板部分108を透過するとともに、同光束の残りの外周部分が、環状平板部分110を透過する位置に配置される。図11を参照して説明したように、透過光学部材110は、光ファイバ26の出射端26aから出射されたレーザ光Lを、その拡散角αを透過前後で一定に維持しながら透過させることができる。
中心平板部分108を透過した光線群と環状平板部分110を透過した光線群とは、いずれも、透過光学部材104を透過しない場合のレーザ光の集光径と同じ集光径に集光する。但し、中心平板部分108の厚みと環状平板部分110の厚みとが互いに異なるので、中心平板部分108及び環状平板部分110を透過することによる光線経路の平行移動距離が互いに異なる。その結果、図22(c)に拡大して示すように、中心平板部分108を透過した光線群と環状平板部分110を透過した光線群とは、光軸方向へ互いにずれた位置で円形領域S1、S2に集光することになる。集光したレーザ光Lの光束の外径が最小となる位置は、円形領域S1と円形領域S2との間の位置である。この位置がレーザ光Lの集光点Iであり、その集光径Dは、透過光学部材104を透過しない場合のレーザ光の集光径よりも大きくなっている。
このようにレーザ加工装置106は、中心平板部分108及び環状平板部分110(集光径拡大部分)を有する透過光学部材104を備えたことにより、図12に示すレーザ加工装置54と同等の効果を少なくとも奏するものである。レーザ加工装置106においても、中心平板部分108及び環状平板部分110のそれぞれの厚み、屈折率等のパラメータのうち所望のパラメータを変えることにより、集光径Dの寸法を変更できる。また、中心平板部分108の外径(つまり環状平板部分110の内径)を変えることにより、集光点Iの中心領域と外縁近傍領域との照射強度の比率を調整できる。
レーザ加工装置106においても、加工ヘッド18の予め定めた位置に透過光学部材104が着脱自在に取り付けられる構成や、透過光学部材104が集光光学部32の光軸32aに沿った方向へ移動可能に取り付けられる構成を採用できる。透過光学部材104の光軸32aに沿った方向の位置を変えることで、集光径Dの寸法を変更したり、集光点Iの中心領域と外縁近傍領域との照射強度の比率を調整したりすることができる。また、透過光学部材104を、光ファイバ出射端26aから出射されたレーザ光Lの全てが中心平板部分108を透過する位置に配置したり、透過光学部材104を取り外したりすることで、レーザ光Lが本来有する集光性能を劣化させることなく加工ヘッド18から出射することができる。
図23を参照して、透過光学部材44、52、62、64、74、88、96、104とは形状が異なる透過光学部材112の構成、及び透過光学部材112を備えた他の実施形態によるレーザ加工装置114の構成を説明する。なお、透過光学部材112を備えたレーザ加工装置114は、透過光学部材52、62を透過光学部材112に置換した点以外は、図12〜図15のレーザ加工装置54と同様の構成を有することができる。以下の説明において、レーザ加工装置54の構成に対応する構成については、共通する参照符号を付すことでその説明を省略する。
透過光学部材112は、前述した透過光学部材104と同様、集光径拡大部分として機能する円錐板部分を備えない。図23(a)に示すように、透過光学部材112の集光径拡大部分は、透過光学部材112が備える回転対称形状の中心平板部分116であって、対称軸116aに対し直交する均一厚みの中心平板部分116と、透過光学部材112が備える回転対称形状の環状平板部分118であって、対称軸118aに対し直交する均一厚みの環状平板部分118とを備える。環状平板部分118は、中心平板部分116の外周に沿って設けられる。中心平板部分116の厚みと環状平板部分118の厚みとは互いに同一である一方、中心平板部分116の屈折率と環状平板部分118の屈折率とは互いに異なる。中心平板部分116の対称軸116aと環状平板部分118の対称軸118aとは、互いに一致するとともに、透過光学部材112の中心軸線112aと一致する。
図23(a)に示すように、レーザ加工装置114は、加工ヘッド18(図2)に設けられ、レーザ光Lの進行方向に見て集光光学部32の上流側に配置される透過光学部材112を備える。透過光学部材112は、ハウジング34(図2)の内部で光ファイバ26の出射端26aと集光光学部32との間の所定位置に、その中心軸線112aを集光光学部32の光軸32aに一致させて配置される。また透過光学部材112は、光ファイバ26の出射端26aから出射されたレーザ光Lの光束の中心部分が、中心平板部分116を透過するとともに、同光束の残りの外周部分が、環状平板部分118を透過する位置に配置される。
レーザ加工装置114は、透過光学部材112を備えたことにより、レーザ加工装置106と同様に、レーザ光Lの集光点における集光径や照射強度分布を調整することができる。また、レーザ加工装置106、114においては、透過光学部材104、112に代えて、図23(b)に示すように、環状平板部分118の内側に対称軸118aを中心とした円形の穴120を有する透過光学部材122を用いることができる。透過光学部材122は、透過光学部材104、112の中心平板部分108、116を穴120に置換したものであって、透過するレーザ光に及ぼす作用は、透過光学部材104、112と実質的に同一である。
なお、透過光学部材104、112、122が集光光学部32の上流側に配置される場合、環状平板部分110、118は、拡散角αを有するレーザ光Lの最小ビーム径(光ファイバ26の出射端26aのコア径)よりも大きな内径を有することが好ましい。他方、透過光学部材104、112、122が集光光学部32の下流側に配置される場合、環状平板部分110、118は、集光角βを有するレーザ光Lの集光径Dよりも大きな内径を有することが好ましい。