JP2016064487A - 被覆切削工具 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】基材と基材の上に配置され、ナノビーム回折パターンからWCの結晶構造に指数付けされ、WとCrを含有する炭化物からなる膜厚が1nm以上10nm以下の中間皮膜と、中間皮膜の上に配置され、X線回折で特定される結晶構造が面心立方格子構造であって、金属元素の総量に対し、Alの含有比率が60%以上、Tiの含有比率が20%以上であるAlとTiを含有する窒化物または炭窒化物からなる硬質皮膜とを有し、硬質皮膜は、透過型電子顕微鏡の制限視野回折パターンから求められる強度プロファイルにおいて、六方最密充填構造のAlN(010)面に起因するピーク強度をIhとし、面心立方格子構造と六方最密充填構造に起因するピーク強度との合計をIsとした場合、Ih×100/Is≦20の関係を満たす被覆切削工具。
【選択図】図1
Description
硬質皮膜は、耐熱性と耐摩耗性が優れる皮膜種である窒化物又は炭窒化物とする。より好ましくは窒化物である。
Alは、硬質皮膜に耐熱性を付与する元素であり、金属元素のうちAlの含有比率(原子%)を最も多く含有することで、優れた耐熱性を発現し、被覆切削工具の耐久性が向上する。そして硬質皮膜に十分な耐熱性を付与するために、金属元素の総量に対してAlの含有比率(原子%)は60%以上とする。より好ましいAlの含有比率(原子%)は、金属元素の総量に対して62%以上であり、更には65%以上である。
被覆切削工具により高い耐久性を付与するためには、Alの含有比率(原子%)を、金属元素の総量に対して75%以下とすることが好ましい。より好ましいAlの含有比率(原子%)は、金属元素の総量に対して70%以下である。
本発明において、AlとTiとを含む窒化物または炭窒化物は、耐熱性および耐摩耗性の観点から、AlとTiとの合計の含有比率(原子%)を、金属元素の総量に対して90%以上とすることが好ましい。
本発明では、測定条件を統一するため、加速電圧120V、制限視野領域をφ750nm、カメラ長100cm、入射電子量5.0pA/cm2(蛍光板上)として、各試料の基材側と表面側で制限視野回折パターンを求めた。また、バックグラウンドの設定の仕方による誤差を排除するため、バックグラウンドの値は除去せず評価した。
そして、hcp構造のAlN(010)面に起因するピーク強度をIhとし、fcc構造のAlN(111)面、TiN(111)面、AlN(002)面、TiN(002)面、AlN(022)面、およびTiN(022)面に起因するピーク強度と、hcp構造のAlN(010)面、(011)面、(110)面に起因するピーク強度と、の合計をIsとし、「Ih×100/Is」で評価することで、硬質皮膜に含まれるhcp構造のAlNを定量的に評価できることを確認した。
なお、fcc構造では、(002)面と(200)面は等価であり、(022)面と(220)面は等価である。本発明のTEM解析においては、fcc構造の等価な結晶面を代表して、(111)面、(002)面、(022)面と示している。
基材の直上の中間皮膜がナノビーム回折パターンからWCの結晶構造に指数付けされ、タングステン(W)を含有する炭化物であれば基材である超硬合金との親和性が強くなり密着性が優れると考えられる。また、中間皮膜がクロム(Cr)を含有することで、中間皮膜の直上にある硬質皮膜がfcc構造となり易くなり、硬質皮膜に含まれるhcp構造のAlNが低減すると考えられる。
また、中間皮膜の膜厚は、薄厚になり過ぎても厚膜になり過ぎても、基材との密着性を向上させるのに好ましくない。よって、中間皮膜の膜厚は、1nm以上10nm以下の範囲とする。中間皮膜の膜厚の下限については、好ましくは2nm以上であり、更には3nm以上が好ましい。また、中間皮膜の膜厚の上限については、好ましくは7nm以下である。更には、5nm以下であることが好ましい。
また、本発明者の検討によれば、被加工材や加工条件によっては、硬質皮膜が上述した元素を更に含有することで、より優れた耐久性を示す場合があることを確認した。これは、AlTi系の窒化物または炭窒化物が、他の金属元素を含有することで、耐熱性や靱性等が改善されるためと推定される。但し、添加元素の含有量が多くなり過ぎると、硬質皮膜の耐摩耗性及び耐熱性を低下させる傾向にある。そのため、添加する場合でも、金属元素の含有比率(原子%)で15%以下とするのが好ましい。
また、Crボンバードの際に基材に印加する負のバイアス電圧およびターゲットへ投入する電流が低いと、ナノビーム回折パターンからWCの結晶構造に指数付けされ、タングステン(W)とクロム(Cr)を含有する炭化物が形成され難い。そのため、基材に印加する負のバイアス電圧は−1000V〜−700Vとすることが好ましい。また、ターゲットへ投入する電流は80A〜150Aとすることが好ましい。また、ボンバード処理前の基材の加熱温度が低くなると、ナノビーム回折パターンからWCの結晶構造に指数付けされ、タングステン(W)とクロム(Cr)を含有する炭化物が形成され難くなるため、基材と硬質皮膜の密着性が低下する傾向にある。そのため、基材の加熱温度を450℃以上として、その後のボンバード処理をすることが好ましい。
Crボンバードはアルゴンガス、窒素ガス、水素ガス、炭化水素系ガス等を導入しながら実施してもよいが、炉内雰囲気を1.0×10−2Pa以下の真空下で実施することで基材表面の清浄化および拡散層の形成が容易になり好ましい。
物性評価及び切削工具の基材には、組成がWC(bal.)−Co(8質量%)−TaC(0.25質量%)−Cr3C2(0.9質量%)、WC平均粒径0.6μm、硬度93.4HRA、からなる超硬合金製のインサート式ラジアスエンドミルを準備した。
成膜にはアークイオンプレーティング方式の成膜装置を用いた。
真空容器内部は真空ポンプにより排気され、ガスは供給ポートより導入される。真空容器内に設置した各基材にはバイアス電源が接続され、独立して各基材に負のDCバイアス電圧を印加する。
基材回転機構は、プラネタリーとプラネタリー上のプレート状治具、プレート状治具上のパイプ状治具が取り付けられ、プラネタリーが毎分3回転の速さで回転し、プレート状治具、パイプ状治具は夫々自公転する。
本発明の硬質皮膜を被覆するには、ターゲットの外周および背面に永久磁石を配備し、20.2mTの平均磁束密度を発生するカソード(以下、C1と記載する。)を用いた。
比較例2は、背面に永久磁石を配備し、15.1mTの平均磁束密度のカソード(以下、C2と記載する。)を用いた。
Crボンバード処理には、ターゲットの外周にコイル磁石を配備したカソード(以下、C3と記載する。)を用いた。
真空容器内に設置したヒーターにより、基材を加熱して真空排気を行った。そして、真空容器内の圧力を8×10−3Pa以下とした。その後、Arプラズマによるクリーニングを行い、続いて、Crボンバード処理をした。真空容器内のガスを窒素に置き換え、真空容器内の圧力を5Paとした。そして、カソードに150Aの電流を供給して約2μmの硬質皮膜を被覆した。
なお、比較例1以外は硬質皮膜の被覆前に、8×10−3Pa以下になるように真空排気して、C3に150Aのアーク電流を供給してCrボンバード処理を実施した。
比較例1は、Arプラズマによるクリーニングの後、Crボンバード処理をせずに、硬質皮膜を被覆した。
比較例8は、Arプラズマによるクリーニングの後、Crボンバード処理をせずに、中間皮膜としてTiNを被覆した。
比較例9は、Arプラズマによるクリーニングの後、Crボンバード処理をせずに、中間皮膜としてCrNを被覆した。
株式会社日本電子製の電子プローブマイクロアナライザー装置(型番:JXA−8500F)を用いて、硬質皮膜の組成を波長分散型電子プローブ微小分析(WDS−EPMA)により測定した。測定条件は、加速電圧10kV、照射電流5×10−8A、取り込み時間10秒、分析領域直径1μm、分析深さが略1μmで5点測定してその平均から求めた。
X線回折を用いて硬質皮膜の結晶構造を評価した。株式会社リガク製のX線回折装置(型番:RINT2500V−PSRC/MDG)を用い、管電圧40kV、管電流300mA、X線源Cukα(λ=0.15418nm)、2θが30〜70度の測定条件で実施した。
中間皮膜及び硬質皮膜を評価するためTEMによる断面観察を行った。日本電子株式会社製の電界放出型透過電子顕微鏡(型番:JEM−2010F型)を用い、加速電圧120V、入射電子量5.0pA/cm2の条件下でTEM解析を実施した。
制限視野回折パターンは、カメラ長100cm、制限視野領域φ750nmで実施した。制限視野回折パターンから求められる強度プロファイルからhcp構造及びfcc構造のピーク強度を求めた。各試料について硬質皮膜の基材側と表面側の2カ所で制限視野回折パターンを測定した。
中間皮膜の組成は付属のUTW型Si(Li)半導体検出器を用いてビーム径1nmで分析した。ナノビーム回折は、カメラ長50cmとし、2nm以下のビーム径で分析した。
なお、比較例3については、Al含有量が少ない硬質皮膜のため、硬質皮膜のTEM解析は実施していない。比較例4については、X線回折でもhcp構造のピーク強度が確認されているため、硬質皮膜のTEM解析は実施していない。比較例5については、本願発明の硬質皮膜とは膜種が異なるAlCrNであるめ、硬質皮膜のTEM解析は実施していない。
また、中間皮膜はナノビーム回折パターンからWCの結晶構造に指数付けが可能であった。EDSスペクトル分析およびナノビーム回折パターンから、中間皮膜はナノビーム回折パターンからWCの結晶構造に指数付けされ、タングステン(W)とクロム(Cr)を含有する炭化物であることを確認した。
工具:高硬度材加工用インサート式ラジアスエンドミル
φ12×R2×3枚刃(日立ツール株式会社製)
カッター型番:ASRM−1012R−3−M6
インサート型番:EPHN0402TN−2
切削方法:底面切削
被削材:SKD11(60HRC)
切込み:軸方向0.15mm、径方向6mm
刃数:1
主軸回転数:1856min−1
テーブル送り:742mm/min
一刃送り量:0.4mm/tooth
切削油:エアーブロー
切削距離:25m
比較例1は、硬質皮膜のIh×100/Isの値は小さいが、中間皮膜を形成していないため基材と硬質皮膜の密着性が十分なく、工具損傷が大きくなった。
比較例2は、本発明例よりもターゲット表面付近の磁束密度が小さいカソードを用いて硬質皮膜を被覆したので、硬質皮膜に含まれているhcp構造のAlNが多くなり、工具損傷が大きくなった。
比較例3は、硬質皮膜に含まれるAl含有量が少ないため工具損傷が大きくなった。
比較例4は、硬質皮膜を被覆する際に基材に印加するバイアス電圧が小さいため、X線回折でもhcp構造のAlNに起因するピーク強度が確認された。そのため、工具損傷が大きくなった。
比較例5は、硬質皮膜にAlCr系の窒化物を形成したので、工具損傷が大きくなった。
比較例6は、基材のクリーニングを目的として短時間のCrボンバード処理を実施したため本発明例のような中間皮膜は確認されなかった。そのため、基材と硬質皮膜の密着性が十分ではなく、工具損傷が大きくなった。
比較例7は、中間皮膜の膜厚が厚くなり過ぎて、基材と硬質皮膜の密着性が十分ではなく、工具損傷が大きくなった。
比較例8と比較例9は、窒化物の中間皮膜を設けたため、基材と硬質皮膜の密着性が十分ではなく、工具損傷が大きくなった。
Claims (1)
- 基材と、前記基材の上に配置され、ナノビーム回折パターンからWCの結晶構造に指数付けされ、WとCrを含有する炭化物からなる膜厚が1nm以上10nm以下の中間皮膜と、
前記中間皮膜の上に配置され、X線回折で特定される結晶構造が面心立方格子構造であって、金属(半金属を含む)元素の総量に対し、Alの含有比率(原子%)が60%以上、Tiの含有比率(原子%)が20%以上であるAlとTiを含有する窒化物または炭窒化物からなる硬質皮膜と、を有し、
前記硬質皮膜は、透過型電子顕微鏡の制限視野回折パターンから求められる強度プロファイルにおいて、六方最密充填構造のAlN(010)面に起因するピーク強度をIhとし、面心立方格子構造のAlN(111)面、TiN(111)面、AlN(002)面、TiN(002)面、AlN(022)面、およびTiN(022)面に起因するピーク強度と、六方最密充填構造のAlN(010)面、AlN(011)面、およびAlN(110)面に起因するピーク強度と、の合計をIsとした場合、Ih及びIsは、Ih×100/Is≦20の関係を満たす被覆切削工具。
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