JP2016061171A - エンジンの制御装置 - Google Patents

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Abstract

【課題】EGR率の低い高負荷領域への遷移時に生じる燃焼音の高まりとスモークの発生とを同時に抑制できるようにする。【解決手段】エンジン制御装置は、加速時に燃料を増量して過給圧を上昇させる一方、排気酸素濃度が所定の閾値を下回らないように燃料噴射量に上限値を設定する。加速時に排気を吸気系に再循環するEGR供給領域から再循環をしないEGR率の低い領域に移行したことを判定した際に、燃圧を低下させると共に、該燃圧の低下に伴って一旦燃料の増量を抑制する。【選択図】図5

Description

本発明は、エンジンの吸排気系の制御装置に関する。
排気の一部を吸気系に再循環することにより、排気に含まれる窒素酸化物の量を低減し、また、部分負荷時における燃費の向上を図る排気再循環(以下、EGRと呼ぶ。)装置が知られている。
一般に、ある負荷を超える高負荷領域、例えば加速領域では、吸気中の新気量を確保して過給性能を向上させるために、EGRの供給を行わないようにする場合がある。このときのEGRの供給停止と新気量の増大とに伴って燃焼速度が急速に高まり、燃焼音が大きくなることがある。
特開平10−037786号公報
EGRの供給停止時における燃焼音の増大を抑制すべく、燃料の噴射圧力(以下、燃圧とも呼ぶ。)を低下することも考えられる。但し、燃圧が低下すると、燃料と酸素との混合の状態が悪化して、スモークが発生することが懸念される。
本発明は、かかる点に鑑みてなされ、その課題とするところは、所定のEGR率以上のEGR供給領域から所定のEGR率よりも低い運転領域への遷移時に生じる燃焼音の高まりとスモークの発生とを同時に抑制できる技術を提供することにある。
なお、上記の特許文献1には、排気酸素濃度に基づき燃料の噴射量の上限値を設定して、スモークの発生を抑制するディーゼルエンジンの制御装置が提案されている。
上記の課題を解決するため、本発明は、EGR率が低下する領域への遷移時(加速時)に、燃圧を下げ、且つ、燃料の増量を抑制することを特徴とする。
具体的には、本発明は、エンジンの制御装置を対象とし、次のような解決手段を講じた。
すなわち、第1の発明は、加速時に燃料を増量して過給圧を上昇させる一方、排気酸素濃度が所定の閾値を下回らないように燃料噴射量に上限値を設定するエンジン制御装置を対象とし、加速時に排気を吸気系に再循環する所定のEGR率以上のEGR供給領域から所定のEGR率よりも低い運転領域に移行したことを判定した際に、燃圧を低下させると共に、該燃圧の低下に伴って一旦燃料の増量を抑制するものである。
これによれば、燃料の噴射圧力である燃圧を低下させることにより、燃料の燃焼速度が遅くなるので、燃焼音が小さくなると共に、燃圧の低下による燃料と酸素との混合状態の悪化に伴うスモークの増大を、燃料の増量を一旦抑制することにより抑えることができる。
第2の発明は、上記第1の発明において、燃圧の低下時には、排気酸素濃度の閾値を上昇させることにより、燃料の増量を抑制するものである。
これによれば、排気酸素濃度に基づいて空燃比を大きくすることにより、スモークの発生の悪化を確実に抑制することができる。
第3の発明は、上記第2の発明において、排気酸素濃度の閾値を徐々に上昇させるものである。
これによれば、急激な排気酸素濃度の閾値の変更に伴って、トルクの上昇の伸びが急激に悪化することを防止できる。
第4の発明は、上記第1の発明において、前記EGR供給領域から所定のEGR率よりも低い運転領域への移行時には、所定期間が経過した後に燃圧を低下させるものである。
これによれば、EGR率が低い運転領域への移行後の所定期間だけ上記の制御を遅らすことにより、その間のトルクの伸びを維持することができる。
第5の発明は、上記第4の発明において、EGR供給領域は、相対的に圧力が高い排気を用いる高圧EGR領域、相対的に圧力が低い排気を用いる低圧EGR領域、高圧EGR領域及び低圧EGR領域を併用する高圧/低圧EGR併用領域のうち、高圧EGR領域全域と高圧/低圧EGR併用領域全域と、低圧EGR領域の低中負荷域とであり、高圧/低圧EGR併用領域及び低圧EGR領域における所定期間を、高圧EGR領域よりも長く設定するものである。
これによれば、EGR率の低下期間が異なる高圧EGR領域と、低圧EGRを含む領域とにおいて、さらに緻密に制御することができる。
第6の発明は、上記第1の発明において、所定のEGR率以上のEGR供給領域から所定のEGR率よりも低い運転領域への移行時には、吸気酸素濃度が所定値以上となった際に燃圧を低下させるものである。
これによれば、EGR率の低い運転領域への移行後の所定期間だけ上記の制御を遅らすことにより、その間のトルクの伸びを維持することができる。
第7の発明は、上記第1の発明において、所定のEGR率以上のEGR供給領域から所定のEGR率よりも低い運転領域への移行時には、エンジンの燃焼モードにおける噴射パターンを、より少ない噴射パターン、例えば、パイロット噴射、前噴射、主噴射及び後噴射からなる4段の噴射パターンを、前噴射及び主噴射からなる2段の噴射パターンに切り換えるものである。
これによれば、パイロット噴射のカットにより主噴射前の発熱量の高さを適正化し、燃焼音の抑制を確実に行うことができる。また、後噴射をカットして該カット分の所定量を主噴射に加えることにより、燃焼期間を高トルクが出せる期間に短縮化でき、燃料の消費量を削減することができる。
本発明によると、EGR率が低い運転領域への遷移時に生じる燃焼音の高まりとスモークの発生とを同時に抑制することができる。
図1は本発明の一実施形態に係るエンジンの制御装置により制御される該エンジンの概略構成図である。 図2は本発明の一実施形態に係るエンジンの制御装置を構成するコントロールユニットとその入出力信号を示す図である。 図3は本発明の一実施形態に係るエンジンの制御装置における基本制御を示すフロー図である。 図4は本発明の一実施形態に係るエンジン回転数とエンジン負荷(要求噴射量)におけるEGRの使用領域を概略的に示した図である。 図5は本発明の一実施形態に係るエンジンの制御装置における制御方法の要部を示すフロー図である。 図6は本発明の一実施形態に係るエンジンの制御装置による燃圧、燃圧アクセル開度、エンジン回転数、燃料噴射量、燃焼モード、排気酸素ガード及び該排気酸素ガードに対する排気酸素濃度の動きを表したグラフである。 図7は本発明の一実施形態に係るエンジンの制御装置におけるEGRの種類別の供給領域から所定のEGR率よりも低い運転領域への移行時のエンジン回転数と移行時間との関係を模式的に表したグラフである。 図8は本発明の一実施形態に係るエンジンの制御装置における排気酸素ガードと噴射量ガードとの関係を模式的に表したグラフである。 図9は本発明の一実施形態に係るエンジンの制御装置における制御方法をまとめた表である。 図10は本発明の一実施形態に係るエンジンの制御装置のHP−EGR供給領域における燃焼モード(噴射パターン)を模式的に表したグラフである。 図11は本発明の一実施形態に係るエンジンの制御装置のEGR非供給領域における燃焼モード(噴射パターン)を模式的に表したグラフである。
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物又はその用途を制限することを意図しない。
(一実施形態)
図1は、一実施形態に係るエンジンの制御装置により制御されるエンジン1の概略構成を示している。エンジン1は、車両に搭載されるディーゼルエンジンであって、複数の気筒11a(1つのみ図示)が設けられたシリンダブロック11と、該シリンダブロック11上に配設されたシリンダヘッド12と、シリンダブロック11の下側に配設され、潤滑油が貯溜されたオイルパン13とを有している。エンジン1の各気筒11a内には、ピストン14が往復動可能にそれぞれ嵌挿されており、ピストン14の頂面には深皿形燃焼室14aを区画するキャビティが形成されている。ピストン14は、コンロッド14bを介してクランク軸15と連結されている。
シリンダヘッド12には、気筒11aごとに吸気ポート16及び排気ポート17が形成されていると共に、これら吸気ポート16及び排気ポート17の燃焼室14a側の開口を開閉する吸気弁21及び排気弁22がそれぞれ配設されている。
また、シリンダヘッド12には、燃料を噴射するインジェクタ18と、エンジン1の冷間時に気筒11a内に吸入されたガスを暖めて燃料の着火性を高めるためのグロープラグ19とが設けられている。インジェクタ18は、その燃料噴射口が燃焼室14aの天井面から該燃焼室14aに臨むように配設されており、燃焼室14aに燃料を直接に噴射供給するようになっている。
インジェクタ18には、燃料供給システム51を介して燃料が燃料タンク52から供給されるようになっている。燃料供給システム51は、低圧燃料ポンプ(不図示)、燃料フィルタ53、高圧燃料ポンプ54及びコモンレール55を有している。高圧燃料ポンプ54は、低圧燃料ポンプ及び燃料フィルタ53を介して燃料タンク52より供給されてきた低圧の燃料をコモンレール55に高圧で圧送し、該コモンレール55は、その圧送された燃料を、その高圧の圧力でもって蓄える。そして、インジェクタ18が作動することによって、コモンレール55に蓄えられている燃料がインジェクタ18から燃焼室14aに噴射される。尚、低圧燃料ポンプ、高圧燃料ポンプ54、コモンレール55及びインジェクタ18のそれぞれで生じた余剰の燃料は、リターン通路56を介して燃料タンク52に戻される。
高圧燃料ポンプ54は、エンジン1の回転部材(例えばカムシャフト)によって駆動される。高圧燃料ポンプ54には、電磁弁で構成された調圧弁が設けられており、該調圧弁によって、高圧燃料ポンプ54からコモンレール55に供給する燃料の圧力(コモンレール55で蓄えられる燃料の圧力、燃圧)、つまり、インジェクタ18から噴射される燃圧を調整することができる。
エンジン1の一側面には、各気筒11aの吸気ポート16に連通するように吸気通路30が接続されている。一方、エンジン1の他側面には、各気筒11aの燃焼室14aからの既燃ガス(排気)を排出する排気通路40が接続されている。これら吸気通路30及び排気通路40には、吸入空気(後述の低圧EGR通路81により還流された排気を含む)の過給を行う排気ターボ過給機61が配設されている。
吸気通路30の上流端部には、吸入空気を濾過するエアクリーナ31が配設されている。一方、吸気通路30における下流端近傍には、サージタンク34が配設されている。サージタンク34よりも下流側の吸気通路30は、気筒11aごとに分岐する独立通路とされ、これら各独立通路の下流端が各気筒11aの吸気ポート16にそれぞれ接続されている。
吸気通路30におけるエアクリーナ31とサージタンク34との間には、上流側から順に、排気ターボ過給機61のコンプレッサ61aと、吸気シャッタ弁36と、コンプレッサ61aにより圧縮されたガスを冷却するインタークーラ35とが配設されている。吸気シャッタ弁36は、基本的には全開状態とされるが、後述の高圧EGR通路71による排気の還流量を確保するために、全開よりも小さい開度とされる場合がある。インタークーラ35は、電動ウォータポンプ91による冷却水の供給により、吸気を冷却するように構成されている。
排気通路40の上流側の部分は、気筒11aごとに分岐して排気ポート17の外側端に接続された独立通路と該各独立通路が集合する集合部とを有する排気マニホールドによって構成されている。排気通路40における排気マニホールドよりも下流側には、上流側から順に、排気ターボ過給機61のタービン61bと、エンジン1の排気中の有害成分を浄化する排気浄化装置41と、サイレンサ42とが配設されている。
排気浄化装置41は、酸化触媒41aと、ディーゼルパティキュレートフィルタ(以下、フィルタと呼ぶ。)41bとを有しており、上流側から順次並んでいる。酸化触媒41aは、白金又は該白金にパラジウムを加えた合金等を担持した酸化触媒を有しており、排気中の一酸化炭素(CO)及び炭化水素(HC)を酸化して二酸化炭素(CO)及び水(HO)を生成する反応を促す。また、フィルタ41bは、エンジン1の排気中に含まれる煤等の微粒子を捕集する。尚、フィルタ41bに酸化触媒をコーティングしてもよい。
排気ターボ過給機61は、上記のように吸気通路30に配設されたコンプレッサ61aと、上記のように排気通路40に配設されたタービン61bとを有しており、該タービン61bが排気流により回転し、タービン61bの回転により、該タービン61bと同軸上に連結されたコンプレッサ61aが作動する。排気通路40におけるタービン61bの上流側の近傍には、VGT絞り弁62が設けられており、該VGT絞り弁62の開度(絞り量)を制御することにより、タービン61bへの排気の流速を調整することができる。これにより、排気流により回転するタービン61bの回転速度、つまり排気ターボ過給機61のコンプレッサ61aの圧力比(コンプレッサ61aへの流入直前のガス圧力に対する、コンプレッサ61aからの流出直後のガス圧力の比)を調整することができる。
エンジン1は、その排気の一部を排気通路40から吸気通路30に還流させるように構成されている。すなわち、排気の還流のために、高圧EGR通路71と、低圧EGR通路81とが設けられている。
高圧EGR通路71は、排気通路40における排気マニホールドと排気ターボ過給機61のタービン61bとの間の部分(つまり、排気ターボ過給機61のタービン61bよりも上流側部分)と、吸気通路30におけるサージタンク34とインタークーラ35との間の部分(つまり、排気ターボ過給機61のコンプレッサ61aよりも下流側部分)とを接続している。高圧EGR通路71には、該高圧EGR通路71の断面積を変更可能な高圧EGR弁73が配設されている。高圧EGR弁73により、高圧EGR通路71による排気の還流量(以下、高圧EGR量と呼ぶ。)が調節される。
低圧EGR通路81は、排気通路40における排気浄化装置41とサイレンサ42との間の部分(つまり、排気ターボ過給機61のタービン61bよりも下流側部分)と、吸気通路30における排気ターボ過給機61のコンプレッサ61aとエアクリーナ31との間の部分(つまり、排気ターボ過給機61のコンプレッサ61aよりも上流側部分)とを接続している。低圧EGR通路81には、その内部を通過する排気を冷却する低圧EGRクーラ82が配設されている。低圧EGRクーラ82は、エンジン1の冷却水の供給により、排気を冷却するように構成されている。また、低圧EGR通路81における低圧EGRクーラ82の下流側には、低圧EGR通路81の断面積を変更可能な低圧EGR弁83が配設されている。
排気通路40における低圧EGR通路81の接続部分よりも下流側(且つサイレンサ42の上流側)には、排気シャッタ弁43が配設されている。排気シャッタ弁43は、該排気シャッタ弁43の配設部分における排気通路40の断面積を変更し、該断面積が小さくなる(排気シャッタ弁43の開度が小さくなる)と、排気通路40における低圧EGR通路81の接続部分の圧力(排気の低圧EGR通路81への流入圧力)が高くなって、排気の低圧EGR通路81への流入圧力と流出圧力(吸気通路30における低圧EGR通路81の接続部分の圧力)との間の差圧が大きくなる。従って、低圧EGR弁83及び排気シャッタ弁43の開度を制御することにより、低圧EGR通路81による排気の還流量(以下、低圧EGR量と呼ぶ。)が調節される。
エンジン1には、クランク軸15の回転角度位置を検出することでエンジン1の回転数(以下、エンジン回転数と呼ぶ。)を検出するエンジン回転数センサ101が設けられている。
また、吸気通路30におけるエアクリーナ31の下流側近傍には、吸気通路30に吸入された吸入空気(新気)の流量を検出するエアフローセンサ102と、該吸入空気の温度(吸気温度)を検出する吸気温度センサ103とが配設されている。さらに、サージタンク34には、エンジン1の各気筒11aに吸入されるガス温度を検出する吸入ガス温度センサ104が配設されている。また、吸気通路30におけるインタークーラ35の下流側近傍には、当該部分におけるガスの圧力(サージタンク34内のガスの圧力と略同一)を検出する吸気圧センサ105が配設されている。
さらに、排気通路40における高圧EGR通路71の接続部分の上流側(且つ排気マニホールドの下流側)には、エンジン1より排出された排気の圧力を検出する排気圧センサ106が配設されている。また、排気通路40における排気浄化装置41と低圧EGR通路81の接続部分との間には、当該部分における排気の温度を検出する排気温度センサ107が設けられている。
また、エンジン1のシリンダブロック11には、該エンジン1の冷却水の温度を検出するエンジン水温センサ108が設けられている。
このように構成されたエンジン1は、コントロールユニット100によって制御される。コントロールユニット100は、周知のマイクロコンピュータをベースとするコントローラであって、プログラムを実行する中央演算処理装置(CPU)と、例えばRAM及びROM等により構成されてプログラム及びデータを格納するメモリと、電気信号の入出力を行う入出力(I/O)バスとを備えている。
図2に示すように、上記のエンジン回転数センサ101、エアフローセンサ102、吸気温度センサ103、吸入ガス温度センサ104、吸気圧センサ105、排気圧センサ106、排気温度センサ107、及びエンジン水温センサ108等のセンサ値の信号が、コントロールユニット100に入力される。また、コントロールユニット100には、車両のアクセルペダル(図示省略)の操作量に対応したアクセル開度を検出するアクセル開度センサ110(図2にのみ示す)のセンサ値の信号が入力される。
コントロールユニット100は、上記の入力信号に基づいて、インジェクタ18、吸気シャッタ弁36、排気シャッタ弁43、高圧燃料ポンプ54(詳細には、調圧弁)、VGT絞り弁62、高圧EGR弁73、低圧EGR弁83、及び電動ウォータポンプ91等を制御する。
<エンジンの基本制御>
以下に、コントロールユニット100によるエンジン1の基本制御について、図3のフローチャートを参照しながら説明する。
最初のステップS1で、各種センサからのセンサ値を読み込み、次のステップS2で、アクセル開度センサ110によるアクセル開度に基づき、目標トルクを設定する。
次のステップS3では、設定された目標トルクと、エンジン回転数センサ101によるエンジン回転数とに基づき、インジェクタ18から噴射すべき燃料量(エンジン1(気筒11a)に供給すべき燃料量)である要求噴射量及び噴射パターンを設定する。噴射パターンとは、主燃焼を生じさせるための主噴射、該主噴射よりも前に噴射され、プリ燃焼を生じさせるための前噴射、その前噴射よりも前に噴射され、プリ燃焼を生じさせ易くするためのパイロット噴射、主燃焼に継続して後燃焼を生じさせるための後噴射等を、どのタイミングでどれだけの量を噴射するかの設定パターンである。パイロット噴射、前噴射及び後噴射の噴射量が0になる場合があり、その場合、これらの噴射は行われない。
次のステップS4では、要求噴射量とエンジン回転数とに基づき、インジェクタ18から噴射される燃料の圧力(燃圧)及びVGT絞り弁62の開度を設定する。
次のステップS5では、要求噴射量とエンジン回転数とに基づき、エンジン1(気筒11a)に吸い込まれる全吸気ガスの酸素濃度の目標値である目標吸気酸素濃度を設定する。
次のステップS6では、要求噴射量と、エンジン回転数と、吸気温度センサ103による吸気温度と、エンジン水温センサ108によるエンジン水温とに基づき、高圧EGR量と低圧EGR量との比率であるEGR併用率を設定する。EGR併用率には、高圧EGR量又は低圧EGR量が0になる場合も含まれる。
ステップS6においてEGR併用率を設定した結果、エンジン回転数とエンジン負荷(要求噴射量と対応する)とで表されるエンジン運転領域において、高圧EGR通路71のみにより排気の還流が行われる高圧EGR供給領域である「HP−EGR」領域、低圧EGR通路81のみにより排気の還流が行われる低圧EGR供給領域である「LP−EGR」領域、及び高圧EGR通路71と低圧EGR通路81との両方により排気の還流が行われる高圧/低圧EGR併用領域である「HP/LP−EGR併用」領域は、概略的に図4のようになる。「HP/LP−EGR併用」領域では、「LP−EGR」領域に近づくほど、高圧EGR量の割合が減少し、低圧EGR量の割合が増大する。
次のステップS7では、目標吸気酸素濃度と、EGR併用率と、排気の酸素濃度である排気酸素濃度とに基づき、低圧EGR量の目標値である目標低圧EGR量を設定する。詳細には、目標吸気酸素濃度と排気酸素濃度とから、低圧EGR量と高圧EGR量とのトータルEGR量の目標値である目標トータルEGR量を算出して、その目標トータルEGR量とEGR併用率とから目標低圧EGR量を設定する。排気酸素濃度は、本実施形態では、吸気酸素濃度と、気筒11a内にて燃料の燃焼で使用される酸素量とに基づいて算出した値である。尚、排気酸素濃度を算出する代わりに、排気通路40に設けた0センサにより排気酸素濃度を検出するようにしてもよい。
次のステップS8では、目標低圧EGR量に基づき、吸気通路30における高圧EGR通路71の合流直前の酸素濃度(新気の酸素濃度と低圧EGR通路81により実際に還流された排気の酸素濃度との和)を計算する。ここでは、低圧EGR通路81により還流された排気が、吸気通路30における高圧EGR通路71の合流直前に達するまでの時間を考慮して、該合流直前の酸素濃度を算出する。
次のステップS9では、目標吸気酸素濃度と、排気酸素濃度と、合流直前の酸素濃度とに基づき、目標高圧EGR量を設定する。すなわち、ステップS8で、EGR併用率から、目標低圧EGR量に加えて、目標高圧EGR量を設定可能であるが、低圧EGR通路81により還流された排気が、吸気通路30における高圧EGR通路71の合流直前に達するまでにはある程度の時間を要する。このため、その時間遅れの分だけ低圧EGR量が不足することになり、その不足分を高圧EGR量で補えるように目標高圧EGR量を設定する。すなわち、本実施形態では、エンジン1の運転状態に応じて予め設定した目標吸気酸素濃度と、低圧EGRガスが排気ポート17から高圧EGR合流部に到達するまでの遅延時間を考慮して算出される高圧EGR合流前ガスの酸素濃度と、排気酸素濃度と、エンジン1への総吸入ガス量とから算出される値を、目標高圧EGR量に設定している。実低圧EGR量は、エンジン1(気筒11a)に吸入される総吸入ガス量から、エアフローセンサ102により検出された新気量を差し引く(「HP/LP−EGR併用」領域では、更に、高圧EGR通路71による還流量の実値である実高圧EGR量も差し引く)ことによって算出する。総吸入ガス量は、吸入ガス温度センサ104により検出されたガス温度と、吸気圧センサ105により検出されたガス圧とから算出することができ、実高圧EGR量は、吸気圧センサ105と排気圧センサ106との差圧及び高圧EGR弁73の実開度より算出することができる。
次のステップS10では、上記の各設定に基づいて、インジェクタ18、吸気シャッタ弁36、排気シャッタ弁43、高圧燃料ポンプ54(調圧弁)、VGT絞り弁62、高圧EGR弁73、低圧EGR弁83、及び電動ウォータポンプ91等の各アクチュエータの制御量を設定する。
次のステップS11では、上記の制御量に基づいて各アクチュエータを制御し、しかる後にリターンする。
コントロールユニット100は、高圧EGR量が、予め設定された目標高圧EGR量(上記のステップS9で設定された目標高圧EGR量)となるように、高圧EGR弁73の開度を制御する。すなわち、コントロールユニット100は、高圧EGR弁73の開度を、吸気圧センサ105と排気圧センサ106との差圧から、目標高圧EGR量が得られる開度に設定する。
また、コントロールユニット100は、低圧EGR量が、予め設定された目標低圧EGR量(上記のステップS7で設定された目標低圧EGR量)となるように、低圧EGR弁83及び排気シャッタ弁43の開度を制御する。その際、設定された目標低圧EGR量が、低圧EGR弁83及び排気シャッタ弁43の全開時に還流可能な低圧EGR量以下である場合には、排気シャッタ弁43が全開状態になり、その状態で、低圧EGR弁83の制御により低圧EGR量を制御する(目標低圧EGR量が多いほど、低圧EGR弁83の開度を大きくする)。また、目標低圧EGR量が、低圧EGR弁83及び排気シャッタ弁43の全開時に還流可能な低圧EGR量よりも多い場合には、低圧EGR弁83が全開状態となり、その状態で、排気シャッタ弁43の制御により低圧EGR量を制御する(目標低圧EGR量が多いほど、排気シャッタ弁43の開度を小さくする)。
<EGR供給領域からEGR非供給領域への遷移時の制御>
次に、図4に示すように、EGR供給領域のうちのHP−EGR領域からEGR非供給領域への遷移時のエンジン制御について説明する。なお、本実施形態は、EGR領域が、極軽負荷領域にHP−EGR領域、軽負荷領域にHP/LP併用領域、中負荷領域にHP−EGR領域、高負荷領域に非EGR領域が設定されており、EGR領域の中におけるEGR率はHP−EGR領域が最も高く、且つ、LP−EGR領域が最も低くなるように設定されている。各EGR領域中では、負荷が高くなるほどEGR率は低く設定され、EGR領域全体では、LP−EGR領域の高負荷領域が最もEGR率が低く、所定のEGR率よりも低く設定されている。本発明は、所定のEGR率以上のEGR供給領域から、より高負荷領域又は高エンジン回転領域の所定のEGR率以下のEGR領域(LP−EGR領域の高負荷領域)及び非EGR領域に遷移する際に有効であり、従って、HP−EGR領域からLP−EGR領域の高負荷領域への遷移、HP/LP−EGR併用領域からEGR非供給領域及びLP−EGR領域の高負荷領域への遷移、及びLP−EGR領域の低中負荷領域からEGR非供給領域及びLP−EGR領域の高負荷領域への遷移の際にも有効である。
まず、エンジン1に対する燃料制御においては、図3に示したステップS7及びS9で、目標吸気酸素濃度に沿ってEGRを制御できていなくても、基本的にはステップS3で設定された(目標トルクとエンジン回転数とから得た)要求出力により算出された要求噴射量によって燃料を噴射する。ここで、要求噴射量が制限値よりも大きい場合は該制限値に止める。本実施形態では、この要求噴射量の制限値が、スモークに対する排気酸素濃度の制限値(排気酸素ガード値)に基づいて決定される。
例えば、加速時において、現時点の吸気酸素濃度(実吸気酸素濃度の推定値)は計算することができる。現時点での吸気酸素濃度に対して得られる排気酸素濃度が、排気酸素ガード値と整合する燃料噴射量を計算して噴射量ガード値を得る。上記の要求出力から計算した燃料の噴射量が、算出した噴射量ガード値を超えているか否かを判断する。
以下に、EGR供給領域からEGR非供給領域への遷移する際の制御方法の具体例を図5のフローチャート、並びに燃圧、燃圧アクセル開度、エンジン回転数、燃料噴射量、燃焼モード、排気酸素ガード及び該排気酸素ガードに対する排気酸素濃度の動きを表すグラフに基づいて説明する。
図5に示すように、まず、ステップST01において、エンジン回転数をエンジン回転数センサ101から読み込む。アクセル開度をアクセル開度センサ110から読み込む。さらに、エンジン水温をエンジン水温センサ108から読み込む。なお、本ステップST01の各データは、図3に示した基本制御フローにおけるステップS1で周期的に取得されており、それらの取得されたデータを用いてもよい。
次に、ステップST02において、エンジン1の運転状態が加速中であるか否かを判定する。加速状態になければ、元のステップST01に戻り、加速状態にあれば、次のステップST03に進む。
次に、ステップST03において、所定のEGR率以上のEGR供給領域から所定のEGR率よりも低い運転領域に遷移したか否かを、本実施例では、LP−EGR領域の高負荷領域以外のEGR領域から、EGR非供給領域又はLP−EGR領域の高負荷領域に遷移したか否かを判定する。所定のEGR率よりも低い運転領域に遷移していなければ、元のステップST01に戻り、所定のEGR率よりも低い運転領域に遷移していれば、次のステップST04に進む。
次に、ステップST04において、EGR供給領域の種類に応じて、所定時間の経過後に、燃圧を低下させる。図6の1番目の燃圧のグラフによると、EGR供給領域からEGR非供給領域にA時点で遷移したとすると、燃圧は所定時間の遅れを伴って低下している。図7は、EGR供給領域の種類に応じて、所定時間の設定が変更される様子を模式的に表している。グラフa1は、EGR供給領域のうちのHP/LP−EGR併用領域及びLP−EGR領域における低中負荷領域の所定時間を表し、グラフa2は、EGR供給領域のうちのHP−EGR領域の所定時間を表している。図7から分かるように、HP/LP−EGR併用領域及びLP−EGR領域の低中負荷領域における所定期間(a1)を、HP−EGR領域の所定期間(a2)よりも長く設定してもよい。
なお、燃圧を下げる変更を所定時間の経過後に実行する方法に代えて、実吸気酸素濃度の推定値が所定値以上となった時点で、燃圧を低下させるようにしてもよい。このようにしても、EGR率が低い運転領域への移行後に、燃圧を低下させる制御が遅れるので、その間のトルクの伸びを維持することができる。
次に、排気酸素濃度の制限値(排気酸素ガード)を徐々に上昇させる。図6の7番目の排気酸素ガードのグラフにおいて、HP−EGR供給領域からEGR非供給領域にA時点で遷移したとする。グラフb1は、EGR非供給領域における排気酸素ガードを表し、グラフb2は、HP−EGR供給領域における排気酸素ガードを表し、グラフb3は、実際の排気酸素ガードを表している。従って、A時点までは、グラフb3はグラフb2にほぼ沿っており、EGR非供給領域に遷移したA時点からB時点の間に、グラフb3はグラフb1に漸近していることが分かる。さらに、図6の4番目の排気酸素ガードに対する排気酸素濃度の動きを表すグラフにおいて、A時点からしばらく後に、実際の排気酸素濃度を表すグラフb4は、実際の排気酸素ガードを表すグラフb3から離れて、その値が上昇していることが分かる。
次に、吸気酸素濃度に基づき、徐々に上昇する排気酸素ガードの元となる燃料の噴射量を計算し、噴射量ガードして設定する。図6の6番目の燃料噴射量のグラフにおいて、グラフb5はガード値(制限値)であり、グラフb6は、実際の噴射量である。EGR非供給領域に遷移したA時点の手前から、排気酸素濃度がEGR非供給領域の排気酸素ガードへのシフトが完了したB時点を超える期間にわたって、実噴射量のグラフb6は、噴射量ガードのグラフb5と合致している。図8は、排気酸素ガード値(閾値)の上昇に伴って、燃料の噴射量ガードが低減される様子を模式的に表している。その後、本制御フローからリターンする。
以上をまとめると、図9のようになる。すなわち、加速時に、所定のEGR率以上のEGR供給領域から所定のEGR率よりも低い運転領域に遷移すると、新気量の増大により燃焼速度が上昇して燃焼音が大きくなる。そこで、燃圧を下げることにより、燃料と酸素との混合を抑え、燃焼速度の上昇を抑えることにより、燃焼音の増大を抑制する。しかしながら、燃圧を下げて燃料と酸素との混合を抑えると、燃料の微粒子化が進まず、スモークが増大するため、排気酸素ガードをリーン側に厳しくすることにより、該スモークの増大を抑える。
また、本実施形態は、図6の3番目の燃焼モードを表すグラフのように、燃焼モードを変更してもよい。例えば、所定のEGR率以上のEGR供給領域における多段噴射を、所定のEGR率よりも低い運転領域においては、該多段噴射の段数を減らす燃焼モードとしてもよい。具体的には、図10に示すように、例えば、所定のEGR率以上のEGR供給領域において、燃料の噴射パターンに、パイロット噴射、前噴射(プリ噴射)、主噴射(メイン噴射)、及び後噴射(アフタ噴射)からなる4段の噴射パターンを採用しているとすると、所定のEGR率よりも低い運転領域に遷移した後は、図11に示すように、前噴射及び主噴射からなる2段の噴射パターンを採用してもよい。
このようにすると、多段噴射によるパイロット噴射及びプリ噴射による燃焼音の増大を抑えることができる。その上、多段噴射の噴射段数を減らしたことにより、燃費も向上する。
本発明に係るエンジンの制御装置は、所定のEGR率以上のEGR供給領域から所定のEGR率よりも低い運転領域に遷移するEGR制御を必要とする用途等に適用することができる。
1 エンジン
30 吸気通路
31 エアクリーナ
36 吸気シャッタ弁
41 排気浄化装置
42 サイレンサ
43 排気シャッタ弁
61 排気ターボ過給機
61a コンプレッサ
61b タービン
73 高圧EGR弁
83 低圧EGR弁
101 エンジン回転数センサ
102 エアフローセンサ(新気量センサ)
103 吸気温度センサ
104 吸入ガス温度センサ
105 吸気圧センサ
106 排気圧センサ
107 排気温度センサ
108 エンジン水温センサ

Claims (7)

  1. 加速時に燃料を増量して過給圧を上昇させる一方、排気酸素濃度が所定の閾値を下回らないように燃料噴射量に上限値を設定するエンジン制御装置であって、
    加速時に排気を吸気系に再循環する所定のEGR率以上のEGR供給領域から所定のEGR率よりも低い運転領域に移行したことを判定した際に、燃圧を低下させると共に、該燃圧の低下に伴って一旦燃料の増量を抑制することを特徴とするエンジン制御装置。
  2. 請求項1に記載のエンジンの制御装置において、
    前記燃圧の低下時には、排気酸素濃度の閾値を上昇させることにより、燃料の増量を抑制することを特徴とするエンジン制御装置。
  3. 請求項2に記載のエンジンの制御装置において、
    前記排気酸素濃度の閾値は、徐々に上昇させることを特徴とするエンジン制御装置。
  4. 請求項1〜3のいずれか1項に記載のエンジンの制御装置において、
    前記EGR供給領域から前記所定のEGR率よりも低い運転領域への移行時には、所定期間が経過した後に、前記燃圧を低下させることを特徴とするエンジン制御装置。
  5. 請求項4に記載のエンジンの制御装置において、
    前記EGR供給領域は、相対的に圧力が高い排気を用いる高圧EGR領域、相対的に圧力が低い排気を用いる低圧EGR領域、前記高圧EGR領域及び低圧EGR領域を併用する高圧/低圧EGR併用領域のうち、前記高圧EGR領域全域と高圧/低圧EGR併用領域全域と、前記低圧EGR領域の低中負荷域であり、
    前記高圧/低圧EGR併用領域及び低圧EGR領域における所定期間を、前記高圧EGR領域よりも長く設定することを特徴とするエンジン制御装置。
  6. 請求項1〜3のいずれか1項に記載のエンジンの制御装置において、
    前記EGR供給領域から前記所定のEGR率よりも低い運転領域への移行時には、吸気酸素濃度が所定値以上となった際に、前記燃圧を低下させることを特徴とするエンジン制御装置。
  7. 請求項1〜6のいずれか1項に記載のエンジンの制御装置において、
    前記EGR供給領域から前記所定のEGR率よりも低い運転領域への移行時には、エンジンの燃焼モードにおける噴射パターンを、より少ない噴射パターンに切り換えることを特徴とするエンジン制御装置。
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