JP2016056203A - デオキシノジリマイシン誘導体及び該誘導体のグルコシルセラミダーゼ阻害剤としての用途 - Google Patents
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Abstract
Description
近年、シグナル伝達における第二メッセンジャーとしてのセラミドの重要性が認識されてきている。多くのサイトカインによって生じたシグナルが、この脂質の細胞内濃度の変化を介して伝達されることが明らかになってきた[1,2]。例えば、TNF−α(腫瘍壊死因子α)がその受容体に結合することで生じたシグナルの伝達において、細胞膜の特定領域、或いは(細胞膜内の)陥入部におけるセラミド濃度の局所的な変化が重要である。サイトカインがその受容体に結合すると、スフィンゴミエリナーゼはその触媒作用によりスフィンゴミエリンをホスホリルコリン及びセラミドに変換する。このようにして生成されるセラミドは、特定のタンパク質キナーゼ及びホスファターゼを活性化することによってシグナルを伝達し、細胞応答をもたらす。図1は、TNF−α及び他のサイトカイン(インターフェロンγ及びインターロイキン6など)のシグナル伝達機構の概略を示している。
細胞内セラミド濃度の変動が、全てシグナル伝達に影響しているわけではないことは明らかである。セラミドは細胞内で大量に代謝される。この脂質は小胞体膜でアシルCoA及びスフィンゴシンから生合成され、更にゴルジ装置のレベルでスフィンゴミエリン、グルコシルセラミド及びこれに関連する複合体であるガングリオシドに、或いはガラクトシルセラミド及びこれに関連するグロボシドやスルファチドに変換される。スフィンゴミエリン及びグリコスフィンゴ脂質はまた、異化されてセラミド等の、細胞のリソソーム画分の構成成分になる。リソソームで生成されたセラミドは、リソソームのセラミダーゼの作用により局所的に加水分解されてスフィンゴシン及び脂肪酸になり、あるいは細胞質に輸送されてスフィンゴ脂質の生合成に再利用される。セラミド代謝の該略図を図2に示す。
ヒトでは、リソソームのスフィンゴ脂質の異化作用に関する多くの遺伝性疾患、いわゆるスフィンゴリピドーシスが発生する(表1参照)。例えば、リソソームのスフィンゴミエリナーゼの遺伝的欠損は、ニーマン−ピック病の原因となり、リソソームのセラミダーゼ活性が欠損していると、ファーバー病の原因となる。最も頻繁にみられるスフィンゴリピドーシスは、ゴーシェ病である[3]。代謝に関連するこの疾患の原因は、リソソームのβ−グルコシダーゼ、即ちグルコセレブロシダーゼ(E.C.3.2.1.45)の欠損である。この酵素は、グルコシルセラミド(グルコセレブロシド)の加水分解を触媒し、グルコースとセラミドに変換する。ゴーシェ病の患者では、グルコシルセラミドが細管状の構造物として、特にマクロファージのリソソームに蓄積する。脂質が蓄積したマクロファージは特徴的な形態を示し、通常‘ゴーシェ細胞’と呼ばれている。ゴーシェ病の臨床的発現過程の中で、異常なマクロファージが、骨髄、脾臓、肝臓、腎臓及び肺などの身体の各部に大量に蓄積する。ゴーシェ病に関する最も著明な臨床的徴候は、進行性の脾腫、肝腫及び骨格の劣化(skeletal deterioration)である。多くの場合、ゴーシェ病患者には、神経性の合併症は見られない。通常見られる神経障害を伴わないゴーシェ病は、タイプ1ゴーシェ病と呼ばれている。極めて重篤なゴーシェ病の場合には、特徴的な神経学的異常が生じ、乳幼児期(タイプ2)あるいは少年期(タイプ3)に致死的な合併症を引き起こす[3]。
グルコシルセラミドが蓄積したゴーシェ細胞は、病体生理学上重要な役割を果たしていると考えられている。身体の各部にゴーシェ細胞が大量に蓄積すると、局所的な病状をもたらすと考えられている。
ゴーシェ病における病状の進行(natural history)についての情報は乏しく、また個々の症例に基づくものしかないが、それらによればゴーシェ病の臨床的症状は進行性であるが、発病は通常徐々に起こるのではない。殆どの患者において、特定の年齢に達すると特定の組織において急速に異常が起こるが、その後かなり長期にわたって症状が安定化することがある。そしてその後、病状は再度急速に進行する。言い換えれば、この疾患は局所的に進行するが、その進行の仕方は一定ではない(chaotic)。ゴーシェ細胞は、おそらくこうした局所的な発病過程において重大な役割を果たしていると考えられる。活性化貯蔵細胞が存在すると、局所的な組織障害や代謝回転を誘導し、またそのような場所での活性化マクロファージの漸増を促進して、病理学的事象のカスケードを開始させる(図3参照)が、その進行の仕方は一定でない。この概念によれば、病理学的カスケードを破壊又は阻害することによって、主たる有益な効果が発揮されることになる。ゴーシェ病の治療に対する、これまでに検討されてきた種々のアプローチ方法について以下に述べる。
30年以上にわたり、治療上の1つの選択肢として、ゴーシェ病患者のマクロファージへのヒトグルコセレブロシダーゼの補充が真剣に検討されてきた。しかし、ゴーシェ病の治療法を開発するための努力がなされたにもかかわらず、十分量の純粋なヒトグルコセレブロシダーゼを入手することが不可能であったり、組織内マクロファージのリソソームに静脈内投与した酵素を選択的に取り込ませることが困難であったため、この方法は長年の間殆ど不成功に終わっていた。1990年以降にようやく、ヒトグルコセレブロシダーゼを長期にわたり患者に補充することによる、ゴーシェ病に対する効果的な治療的介入が可能になった[8]。静脈内注入によって投与されるのは、N結合型グリカンを修飾し、マンノース残基が末端に存在するようにしたヒトグルコセレブロシダーゼである。上記の修飾はマンノース受容体を介した取込みに好都合である。修飾された[「マンノース末端化(mannose-terminated)」]酵素の、組織マクロファージのリソソームへの取込みは、マンノース受容体が介在するエンドサイトーシスによって起こるため、取り込みの選択性が改善される。現在、全投与量(月に15−240U/kg体重)及び投与頻度(1−2週間に3回)が異なる種々の投与法が用いられている(例えば参考文献9参照)。ヒト胎盤から単離されたグルコセレブロシダーゼ(セレダーゼ;アルグルセラーゼ)及びCHO細胞内で組換えにより生成された酵素(セレザイム;イミグルセラーゼ)は、ゴーシェ病に関連する臨床的徴候を幾分好転させる作用があり、その有効性は同等であることが見出されている[10]。
限られた人数の少年期の患者において、骨髄移植によるゴーシェ病の治療が成功している。血液幹細胞にグルコセレブロシダーゼの正常な遺伝情報を導入すると、正常速度でグルコシルセラミドを加水分解できる血液細胞が形成されるようになる。骨髄移植の成功に伴ってゴーシェ病患者から臨床的な症状が消失するという事実は、血液細胞のグルコセレブロシダーゼ活性が正常であれば、疾患の症状が現れないことを示している。残念ながら、型が適合するドナーから骨髄を入手できる可能性が限られている上、このような介入に伴い患者が相当に病的な状態となるため、ゴーシェ病に対する治療法として骨髄移植を適応できる可能性は、特に患者が成人の場合非常に限定されている。
本発明は、スペーサーを介してデオキシノジリマイシンの窒素原子に結合した大きな疎水性部分を含有していることを特徴とする、デオキシノジリマイシン誘導体またはその塩を提供する。(以下、「デオキシノジリマイシン誘導体またはその塩」を単に「デオキシノジリマイシン誘導体」と言う。)
大きな疎水性部分は、好ましくはアダマンタンメタノール (adamantanemethanol)、コレステロール、β−コレスタノール、アダマンタノール (adamanthanol)、及び9−フェナントロール (9-hydroxyphenanthrene)からなる群より選ばれる化合物から誘導されたものである。
新規な治療方法:マクロファージの活性化の阻害
現在用いられている酵素療法には多大な費用が必要であり、この療法の効果は個人によって非常にばらつくことが証明されている。酵素療法の代わりとなるその他の治療方法は、限定された患者のみにしか適用できない(骨髄移植)か、または効果や安全性が立証されていない(遺伝子治療や基質剥奪療法)。この様な状況で、本発明者らは、酵素療法に加えて用いられうる新規な治療方法について鋭意研究を行った。
目的とする治療剤を開発するために、初めに、ゴーシェ細胞がその特徴的な活性化状態に至るメカニズムを解明した。
次に本発明者らは、リソソームのグルコセレブロシダーゼ以外にも、グルコシルセラミドをグルコースとセラミドに加水分解しうる別の酵素がヒト細胞中に存在することを見出した(参考文献17)。
このグルコシルセラミダーゼは、リソソームのグルコセレブロシダーゼとは色々な点で異なる酵素である。この酵素は、グルコセレブロシダーゼとは異なり、リソソームには存在しない。また、グルコセレブロシダーゼとは異なり、ゴーシェ病患者においても欠損は認められない。更に、この酵素は、膜関連タンパク質としての性質を有するグルコセレブロシダーゼとは異なり、膜内在性タンパク質である。そして、人工基質、阻害剤、賦活剤に対して、グルコセレブロシダーゼとは異なる特異性を示す。例えば、グルコセレブロシダーゼとは異なり、グルコシルセラミダーゼはb-キシロシド系の人工基質(artificial b-xylosidic substrate)の加水分解を行わない。また、グルコセレブロシダーゼはコンズリットB−エポキシド(conduritol B-epoxide)で不可逆的に阻害されるが、グルコシルセラミダーゼはこの物質に対して感受性がない。更に、リソソーム由来の活性化タンパク質であるサポシンCは、グルコセレブロシダーゼに対し強力な活性化作用を示すが、グルコシルセラミダーゼには何ら影響を与えない。
グルコシルセラミダーゼは、ゴーシェ病において生じるマクロファージの活性化の防止に利用できる理想的且つ新規な標的である。酵素活性を特異的に阻害することにより、更なる病原性因子放出が防止され、また病理カスケードの破壊が生じ、その結果として治療効果が得られる。この方法と酵素補充療法を合わせて用いることにより、治療効果が著しく向上すると同時に、関連費用の大幅な削減が可能になると考えられる。
グルコシルセラミダーゼに適した阻害剤を特定するために、細胞膜懸濁液および細胞そのものに存在するグルコシルセラミダーゼについて注意深い分析を行った。その結果、重要な関連事項が多数判明した。
グルコシルセラミダーゼ酵素活性の確立された、比較的強力な阻害剤。
2− N−アルキルからなるスペーサー
デオキシノジリマイシンのN−アルキル化は、グルコシルセラミダーゼ阻害能を高めることが本発明者らの研究から明らかとなった。
3− スペーサーにカップリングした、脂質二重層膜、好ましくは細胞膜(及び陥入した細胞膜)に入り込むことができる大きな疎水性部分
グルコシルセラミダーゼを含有する膜に阻害剤が挿入されると、阻害剤のin vivoでの阻害能及び特異性が向上する。
本発明者らの考えを検討し、且つ理想的なグルコシルセラミダーゼ阻害剤を開発するために、一連のデオキシノジリマイシン誘導体の化学合成を行った。上記の考えに基づき、以下に示すような一連のデオキシノジリマイシン(DNM)誘導体を合成した(式1):
上記の構造において、Xは飽和アルカン鎖であり、Rは大きな無極性基である。この様な化合物は、市販のテトラベンジルグルコピラノース (tertabenzyl-glucopyranose)から7段階の反応で得られるデオキシノジリマイシン塩酸塩(DNM・HCl)(参考文献18)と、適切なアルデヒドとの還元的アミノ化(参考文献19)反応によって得られる化合物である(スキーム1)。
様々なデオキシノジリマイシン−アナログが関連酵素に与える阻害効果を、in vitroおよび細胞を用いた実験系で分析した。
初めに、精製したヒト由来の酵素とヒト組織より得られた細胞膜懸濁液を用いたin vitroの実験を行った。実験はリソソーム由来のグルコセレブロシダーゼとグルコシルセラミダーゼ活性の阻害、及びリソソーム由来のa−グルコシダーセ活性の阻害に着目して行われた。グルコシルセラミダーゼとしては、ヒト脾臓より得られた膜画分を用いた。グルコシルセラミダーゼ活性は、グルコセレブロシダーゼの活性を消すためにコンズリットB−エポキシドによる前処理を行った膜画分を用い、4MU−b−グルコシド (4MU-b-glucoside) の加水分解能として測定した。グルコセレブロシダーゼとしては、酵素療法に用いられるヒト胎盤酵素[セレダーゼ (ceredase), 米国(ボストン)、Genezyme Corp社製]、または、ヒト脾臓より得られた膜画分を用いた。グルコセレブロシダーゼの活性は、コンズリットB−エポキシドによって阻害可能な、4MU−b−グルコシドの加水分解能として測定した。リソソーム由来のa−グルコシダーゼの活性は、精製したa−グルコシダーゼ調製液による4MU−b−グルコシドの加水分解能として測定した。
次に、細胞そのものが有するグルコシルセラミダーゼ活性及びグルコセレブロシダーゼ活性に対する、デオキシノジリマイシン−アナログの活性阻害能について検討した。酵素活性の測定は参考文献17の方法に従って行った。実験には、コンズリットB−エポキシドの存在下または非存在下で事前に培養しておいた培養メラノーマ細胞を用い、メラノーマ細胞による4MU−b−グルコシドの加水分解を測定した。コンズリットB−エポキシド感受性の活性はグルコシルセラミダーゼ活性であり、コンズリットB−エポキシド非感受性の活性はグルコセレブロシダーゼ活性である。この実験の結果を表4に示す。
P21(N−(5−アダマンタン−1−イル−メトキシペンチル)−デオキシノジリマイシン)[N-(5-adamantane-1-yl-methoxy-pentyl) deoxynojirimycin]とブチル−デオキシノジリマイシンの培養マクロファージに与える影響に付いて検討した。DMSO中に溶解した10mMのイミノ糖類を、いろいろな希釈度でマクロファージの培養液に添加した。上記の方法で培養液に混入した微量のDMSOは実験結果に影響を与えないことも確認した。
新規に開発された非常に高い特異性を示す阻害剤の1つの用途として、ゴーシェ病に対する治療的介入を挙げることができる。上記したように、マクロファージの活性化に対する阻害剤の効果は、ゴーシェ病の病因に好ましい影響を与えると考えられる。阻害剤の投与は酵素療法の効率を高めると考えられ、その当然の結果として、臨床効果を向上し、関連費用の削減に繋がる。
実施例
5,5−ジエトキシペンタン−1−オール(3)
5,5−ジエトキシペンタナール(1)(3 g, 17 mmol)及びNaBH4(0.65 g, 17 mmol)を、エタノール30 ml中室温下で3時間攪拌した後、溶媒を留去して残さを得た。得られた残さを10 % NaOH中ですりつぶし(triturated)、得られた混合物をCH2Cl2による抽出処理に付した。得られた有機層を合わせて乾燥(Na2SO4)し、溶媒を留去した後、残さをシリカゲルフラッシュクロマトグラフィー(石油エーテル60-80/酢酸エチル=1/1にて溶出)に付すことにより精製し、化合物(2)を得た(収率59 %)。
1H NMR (CDC13): d 4.47 (t, 1H, J=5.7 Hz, C-1), 3.70-3.58 (m, 4H,C-5, CH2 acetal), 3.46 (dq, 2H, J= 7.1 Hz, 2.3 Hz, CH2 acetal), 1.65-1.50 (m, 4H, C-2, C-4), 1.41 (m, 2H, C-3), 1.18 (t, 6H, J=7.1 Hz, CH3 acetal).
上記化合物(2)(0.3 g、1.7 mmol)及びトリエチルアミン(0.21 g、2.0 mmol)を3 mlのCH2Cl2に溶解して得られた溶液に、氷冷下メタンスルホニルクロライド(0.21 g、1.9 mmol)を添加した。この混合物を室温で1時間攪拌した後、反応混合物を水で洗浄し、有機層をNa2SO4上で乾燥した後減圧下で溶媒を留去することにより、化合物(4)を得た(0.43 g、1.7 mmol、収率100%)。このものはこれ以上精製することなく以降の反応に用いた。
1H NMR (CDC13): d 4.47 (dt, 1H, J=5.5 Hz, 2.5 Hz, C-1) , 4.21 (dt, 2H, J=6.5 Hz, 2.7 Hz, C-5), 3.63 (m, 2H, CH2 acetal), 3.48 (m, 2H, CH2 acetal), 3.00 (s, 3H, OSO2CH3), 1.77 (m, 2H, C-2), 1.63 (m, 2H, C-4), 1.47 (m, 2H, C-3), 1.20 (t, 6H, J=7.0 Hz, CH3 acetal).
NaH[60 % 分散液(disp.)、0.108 g、2.7 mmol]を、ペンタンを用いて洗浄した後、5 mlのDMF中でアダマンタンメタノール(0.4 g、1.6 mmol)と共に室温で1時間攪拌し、(アダマンタンメタノールの)ナトリウム塩懸濁液を得た。この懸濁液に上記化合物(4)(0.4 g、1.6 mmol)を加え、得られた混合物を70℃で4時間加熱した後室温で1晩攪拌し、反応混合物を得た。得られた反応混合物を数滴のメタノールで処理した後氷水中に投入し、得られた混合物をジエチルエーテルによる抽出処理に付した(15 ml×3回)。有機層をNa2SO4上で乾燥した後減圧下で溶媒を留去し、残さをシリカゲルフラッシュクロマトグラフィー(石油エーテル60-80/酢酸エチル=7/3にて溶出)に付すことにより精製し、化合物(5)を粘稠なシロップ状物質として得た。
5: yield 34%. 1H NMR (CDCl3) : d 4.48 (t, 1H, J=5.7 Hz, C-1 chain), 3.61 (dq, 2H, J=7.1 Hz, 2.3 Hz, CH2 acetal), 3.49 (dq, 2H, J=7.1 Hz, 2.2 Hz, CH2 acetal), 3.37 (t, 2H, J=6.5 Hz, C-5 chain), 2.94 (s, 2H, CH2 adamant.), 1.94 (m, 3H, adamant.), 1.73-1.51 (m, 16H, C-2, C-4 chain, adamant.), 1.45-1.35 (m, 2H, C-3 chain), 1.19 (t, 6H, J=7.1 Hz, CH3 acetal).
NaH(60 % 分散液、0.12 g、3 mmol)を、ペンタンを用いて洗浄した後、6 mlのDMF中でコレステロール(1.16 g、3 mmol)と共に65〜70℃で45分間攪拌し、(コレステロールの)ナトリウム塩懸濁液を得た。この懸濁液に上記化合物(4)(0.508 g、2 mmol)を加え、得られた混合物を70〜75℃で20時間加熱し、反応混合物を得た。得られた反応混合物に含まれるDMFを留去し、得られた残さを水とジエチルエーテルによる抽出処理に付し、ジエチルエーテル抽出物をNa2SO4上で乾燥した後減圧下で溶媒を留去し、残さをシリカゲルフラッシュクロマトグラフィー(石油エーテル60-80/酢酸エチル=5/1にて溶出)に付すことにより精製し、生成物(6)を粘稠なシロップ状物質として得た。
1H NMR (CDCl3): d 5.31 (m, 1H, C-6 chol.), 4.45 (t, J=5.5 Hz, 1H, C-1 chain), 3.61 (dq, 2H, J=7.1 Hz, 2.4 Hz, CH2 acetal), 3.45 (m, 4H, CH2 acetal, C-5 chain), 3.10 (m, 1H, C-3 chol.), 2.34 (m, 1H, chol.), 2.16 (m, 1H, chol.), 2.07-1.70 (bm, 4H), 1.70-0.75 (bm, 46H, chol., CH3 acetal), 0.67 (s, 3H, CH3 chol.).
上記アセタール(5)又は(6)(0.2 mmol)、アセトン3 ml及び5 % 塩酸1 mlを混合して得られる混合物を室温で1時間攪拌し、得られた反応混合物に含まれるアセトンを留去した。得られた残さをジエチルエーテルによる抽出処理に付し(7 ml×3回)、ジエチルエーテル抽出物をNa2SO4上で乾燥した後減圧下で溶媒を留去し、アルデヒドを定量的に得た。このアルデヒドはこれ以上精製することなく以降の反応に用いた。
7: yield 100%. 1H NMR (CDC13): d 9.77 (s, 1H, CHO), 5.33 (m, 1H, C-6 chol.), 3.46 (t, 2H, J=6.1 Hz,C-5 chain), 3.11 (m, 1H, C-3 chol.), 2.46 (dt, 2H, J=7.2 Hz, 1.4 Hz, C-2 chain) 2.34 (m, 1H, chol.), 2.16 (m, 1H, chol.), 2.05-1.75 (bm, 42H, C-3 C-4 chain, chol), 0.67 (s, 3H, CH3 chol.).
8: yield 100%. 1H NMR (CDCl3): d 9.76 (t, 1H, J=1.7 Hz, CHO), 3.38 (t, 2H, J=6.2 Hz, C-5 chain), 2.94 (s, 2H, CH2 adamant.), 2.46 (dt, 2H, J=7.2 Hz, 1.7 Hz, C-2 chain), 1.95 (m, 3H, adamant.), 1.80-1.45 (m, 16H, C-3, C-4 chain, adamant.).
上記アルデヒド(7)(0.118 g、0.25 mmol)を、少量の加熱した酢酸エチルに溶解し、更に約4 mlのエタノールを加えて希釈した。得られた溶液に、デオキシノジリマイシン塩酸塩(0.050 g、0.2 mmol)及び酢酸ナトリウム(0.020 g、0.25 mmol)を0.4 mlのメタノールに溶解して得られた溶液と混合し、得られる混合物を室温で1時間攪拌した。得られた反応混合物を0℃に冷却した後、NaCNBH3(0.016g, 0.25 mmol)を添加し、得られた懸濁液を室温で18時間激しく攪拌し、最終的に温度を60℃まで上げて更に1時間攪拌した。得られた反応混合物を室温まで冷却した後、5 %塩酸を用いて酸性(pH < 1)にし、1時間攪拌した後減圧乾固した。残留した固形物をCH2Cl2とメタノール(1/1)の混合溶媒20 mlに懸濁させ、得られた懸濁液に、メタノール性アンモニア(20 %のアンモニアを含むメタノール)2 ml及び約5 gのシリカを加え、減圧下で(注意深く)溶媒を留去した後、溶離液(CH2Cl2/メタノール/上記メタノール性アンモニア=80/15/5)で前処理したシリカのカラムの上部に添加して、カラムクロマトグラフィーを行った。このとき、溶離液の組成を、CH2Cl2/メタノール/上記メタノール性アンモニア=80/15/5→75/20/5→70/25/5のように変化させた。このようにして得られた目的物を含む画分の溶媒を留去し、純粋な化合物(9)を固体として得た(0.081 g、0.13 mmol、収率65 %)。
上記化合物(8)(0.056 g、0.22 mmol)をメタノール1 mlに溶解して得られた溶液を0℃に冷却し、これに、デオキシノジリマイシン塩酸塩(0.030 g、0.15 mmol)の溶液と、数μlの酢酸をメタノール2 mlに添加して得られる溶液とを加え、更にNaCNBH3(0.014g, 0.22 mmol)を添加した後室温で1晩攪拌し、反応混合物を得た。得られた反応混合物を濃縮し、5 %塩酸2 mlで処理し、室温で1時間攪拌した後、炭酸ナトリウム(固体)を加え、得られた水性懸濁液をCH2Cl2による抽出処理に付した。得られた有機層を合わせて乾燥(Na2SO4)し、溶媒を留去した後、残さをシリカゲルフラッシュクロマトグラフィー(CH2Cl2/メタノール/8 Nアンモニアを含むメタノール=70/30/4にて溶出)に付すことにより精製し、純粋な化合物(10)を油状物質として得た(0.030 g、0.08 mmol、収率50 %)。
対照、無症候性のゴーシェ病患者及び症候性のゴーシェ病患者から得た血漿サンプル中のキトトリオシダーゼ活性の測定は、参考文献4の方法に従って行った。キトトリオシダーゼ欠損者に関するデータは表には示されていない。
阻害剤による酵素活性の阻害が拮抗阻害によるものであり、ミカエリス・メンテン速度論に従うものとして、一定濃度の阻害剤に対して基質の濃度を変化させることにより、各阻害剤に対するKi値(阻害定数)を求めた。表中の各阻害定数(constants)の単位はμMとする。〔−〕の符号は阻害剤濃度100μMにおいて阻害がなかったことを示す。試験に用いた各阻害剤の構造は表6及び表7に示す。
4MU−b−グルコシドに対するセレダーゼの活性は、クエン酸/リン酸緩衝液(pH 5.2)中で、0.25%(w/v)タウロコール酸ナトリウム及び0.1%(v/v)トリトン(Triton)X−100の存在下において測定した。
4MU−b−グルコシドに対する、細胞膜懸濁液中の、グルコセレブロシダーゼ及びグルコシルセラミダーゼの活性は、クエン酸/リン酸緩衝液(pH 5.2)中で測定した。コンズリットB−エポキシドは上記2種の酵素の活性を識別するために用いた。リソソームのa−グルコシダーゼの4MU−a−グルコシドに対する活性は、クエン酸/リン酸緩衝液(pH 4)中で測定した。
P21及びP24の可溶性グルコセレブロシダーゼ(セレダーゼ)に対する見かけ上のIC50の値は、それぞれ、0.2μM及び0.8μMであった。
P21及びP24の細胞膜懸濁液中のグルコセレブロシダーゼに対する見かけ上のIC50の値は、それぞれ、0.06μM及び0.7μMであった。
P21及びP24のグルコシルセラミダーゼに対する見かけ上のIC50値は、それぞれ、1nM及び0.1μMであった。
メラノーマ細胞を様々な濃度の阻害剤と共にインキュベートし、各阻害剤のin vivoでのIC50値(即ち、酵素反応が50%阻害される阻害剤濃度)を調べた。グルコシルセラミダーゼ及びグルコセレブロシダーゼの活性はそれぞれ参考文献17に記載の方法に従って測定した。表中の記号NIは、阻害剤濃度1μMにおいて有意な阻害が認められなかったことを示す。
参考文献4に記載の方法で得られた培養ヒトマクロファージを、種々の濃度のブチルデオキシノジリマイシン(BDNJ)又はN−(5−アダマンタン−1−イル−メトキシペンチル)−デオキシノジリマイシン[N-(5-adamantane-1-yl-methoxy-pentyl)-deoxynojirimycin](P21)と共にインキュベートした。阻害剤と共に4日間プレインキュベートした後、グルコシルセラミダーゼ及びグルコセレブロシダーゼの活性を、C6−NBDグルコシルセラミドを基質として用いて測定した(参考文献17)。また同時に、培養液中に分泌されたキトトリオシダーゼの活性も測定した(参考文献4)。BDNJ及びP21の存在下における酵素活性及びキトトリオシダーゼの分泌は、BDNJ及びP21の非存在下における酵素活性及びキトトリオシダーゼ活性値を100%としたときの比率で示されている。
グルコシルセラミド合成酵素活性に関しては、5μMのB−DNJ又は1nMのP21の存在下では有意な阻害は認められない。PDMP又はPPMPが存在すると、グルコシルセラミド合成は強力に阻害されるが、キトトリオシダーゼの分泌量が減少することはない。
大きな無極性基の構造名:
1.アダマンタンメタノール;
2.アダマンタノール;
3.9−ヒドロキシフェナントレン;
4.コレステロール;
5.β−コレスタノール;
6.アダマンタンメタノール;及び
7.コレステロール。
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Claims (12)
- テイ−サックス病、サンドホフ病、及びニーマン−ピック病からなる群より選ばれる疾患の治療用医薬組成物の製造のための、デオキシノジリマイシン誘導体またはその塩のグルコシルセラミダーゼ阻害剤としての使用であって、
該デオキシノジリマイシン誘導体は、スペーサーを介してデオキシノジリマイシンの窒素原子に結合した酸素原子を有する大きな疎水性部分を含有し、該大きな疎水性部分がアダマンタンメタノール、コレステロール、β−コレスタノール、アダマンタノール、及び9−フェナントロールからなる群より選ばれる化合物であり、該スペーサーが―(CH2)n―で表される構造を有し、上記構造中のnが3〜8である、ことを特徴とする使用。 - nが3〜6であることを特徴とする、請求項1に記載の使用。
- nが5であることを特徴とする、請求項3に記載の使用。
- nが5であり、大きな疎水性部分がアダマンタンメタノールであることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の使用。
- デオキシノジリマイシン誘導体またはその塩が、デオキシノジリマイシン誘導体またはその塩と、薬学的に投与可能な担体とを含有してなる医薬組成物の形態であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の使用。
- テイ−サックス病、サンドホフ病、及びニーマン−ピック病からなる群より選ばれる疾患の治療用医薬組成物の製造のための、デオキシノジリマイシン誘導体またはその塩の使用であって、
該デオキシノジリマイシン誘導体は、スペーサーを介してデオキシノジリマイシンの窒素原子に結合した酸素原子を有する大きな疎水性部分を含有し、該大きな疎水性部分がアダマンタンメタノール、コレステロール、β−コレスタノール、アダマンタノール、及び9−フェナントロールからなる群より選ばれる化合物であり、該スペーサーが―(CH2)n―で表される構造を有し、上記構造中のnが3〜8である、ことを特徴とする使用。 - nが3〜6であることを特徴とする、請求項7に記載の使用。
- nが5であることを特徴とする、請求項9に記載の使用。
- nが5であり、大きな疎水性部分がアダマンタンメタノールであることを特徴とする、請求項7〜10のいずれかに記載の使用。
- 該医薬組成物が、デオキシノジリマイシン誘導体またはその塩と、薬学的に投与可能な担体とを含有してなることを特徴とする、請求項7〜11のいずれかに記載の使用。
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