本発明の実施形態に用いるX線回折測定装置を含むX線回折測定システムの構成について図1乃至図4を用いて説明する。このX線回折測定システムは、測定対象物OBの表面硬さ及び残留応力を測定及び評価するために、X線を測定対象物OBに照射して、X線の照射によって測定対象物OBから出射される回折X線により回折環を形成し、形成した回折環の回折X線の強度分布を検出して演算処理を行う。なお、本実施形態では、測定対象物OBは鉄製の部材である。
X線回折測定装置は、X線を出射するX線出射器10、回折X線による回折環が形成されるイメージングプレート15を取り付けるためのテーブル16と、テーブル16を回転及び移動させるテーブル駆動機構20と、イメージングプレート15に形成された回折環の形状を測定するためのレーザ検出装置30と、これらのX線出射器10、イメージングプレート15、テーブル16、テーブル駆動機構20及びレーザ検出装置30を収容する筐体50とを備えている。そして、X線回折測定システムは、前記X線回折測定装置とともに、測定対象物OBがセットされる対象物セット装置60、コンピュータ装置90及び高電圧電源95を備えている。また、筐体50内には、X線出射器10、テーブル16、テーブル駆動機構20及びレーザ検出装置30に接続されて作動制御したり、検出信号を入力したりするための各種回路も内蔵されており、図1において筐体50外に示された2点鎖線で示された各種回路は、筐体50内の2点鎖線内に納められている。なお、図1及び図2においては、回路基板、電線、固定具、空冷ファンなどは省略されている。
筐体50は、略直方体状に形成されるとともに、底面壁50a、前面壁50b、後面壁50e、上面壁50f、側面壁(図示せず)、及び底面壁50aと前面壁50bの角部を紙面の表側から裏側に向けて切り欠くように設けた切欠き部壁50cと繋ぎ壁50dを有するように形成されている。切欠き部壁50cは底面壁50aに垂直な平板と平行な平板とからなり、繋ぎ壁50dは側面壁と垂直であり底面壁50aと所定の角度を有している。この所定の角度は、例えば30〜45度である。筐体50の上面壁50fには、筐体50を持ち運ぶための取っ手51が設けられている。この筐体50の図示裏側の側面壁には、支持ロッド52(図1では省略)に固定される固定具が設けられており、筐体50は、切欠き部壁50cが対象物セット装置60の上面に対向するように、図示傾斜状態で支持ロッド52に固定される。支持ロッド52は、設置面上に載置された平板状に形成された設置プレート53上に立設固定されている。
対象物セット装置60は、いわゆるゴニオメータで構成されており、測定対象物OBが載置されるステージ61を、図示X,Y,Z軸方向にそれぞれ移動させるとともに、図示X軸及びY軸周りに回動(傾斜)させるものである。設置面上に載置された平板状に形成された設置プレート62上に、高さ調整機構63、第1乃至第5プレート64〜68及びステージ61がそれぞれ下から上に順に載置されている。高さ調整機構63は、操作子63aを有し、操作子63aの回動操作により第1プレート64を設置プレート62に対して上下動(すなわちZ軸方向に移動)させて、設置プレート62と第1プレート64間の垂直距離を変更することにより第1プレート64の高さすなわちステージ61の高さを変更する。
第2プレート65には操作子65aが組み付けられており、操作子65aの回動操作により、図示しない機構を介して第3プレート66が第2プレート65に対してX軸周りに回動されて、第3プレート66の第2プレート65に対するX軸周りの傾斜角すなわちステージ61のX軸周りの傾斜角が変更される。第3プレート66には操作子66aが組み付けられており、操作子66aの回動操作により、図示しない機構を介して第4プレート67が第3プレート66に対してY軸周りに回動されて、第4プレート67の第3プレート66に対するY軸周りの傾斜角すなわちステージ61のY軸周りの傾斜角が変更される。第4プレート67には操作子67aが組み付けられており、操作子67aの回動操作により、図示しない機構を介して第5プレート68が第4プレート67に対してX軸方向に移動されて、第5プレート68の第4プレート67に対するX軸方向の位置すなわちステージ61のX軸方向の位置が変更される。第5プレート68には操作子68aが組み付けられており、操作子68aの回動操作により、図示しない機構を介してステージ61が第5プレート68に対してY軸方向に移動されて、ステージ61の第5プレート68に対するY軸方向の位置すなわちステージ61のY軸方向の位置が変更される。また、操作子65a、66aは回転角度(傾斜角度)を目盛りにより示すことができ、操作子65aが示す回転角度は図2のX軸方向に向かって左周りに回転したとき増加する。
X線制御回路71は、後述するコンピュータ装置90を構成するコントローラ91によって制御され、X線出射器10から一定の強度のX線が出射されるように、X線出射器10に高電圧電源95から供給される駆動電流及び駆動電圧を制御する。また、X線出射器10は、図示しない冷却装置を備えていて、X線制御回路71は、この冷却装置に供給される駆動信号も制御する。これにより、X線出射器10の温度が一定に保たれる。
テーブル駆動機構20は、X線出射器10の下方にて、移動ステージ21を備えている。移動ステージ21は、フィードモータ22及びスクリューロッド23により、X線出射器10から出射されたX線の光軸と測定対象物OBの法線とが成す平面内であって、前記X線の光軸に垂直な方向に移動可能となっている。フィードモータ22は、テーブル駆動機構20内に固定されていて筐体50に対して移動不能となっている。スクリューロッド23は、X線出射器10から出射されたX線の光軸に垂直な方向に延設されていて、その一端部がフィードモータ22の出力軸に連結されている。スクリューロッド23の他端部は、テーブル駆動機構20内に設けた軸受部24に回転可能に支持されている。また、移動ステージ21は、それぞれテーブル駆動機構20内にて固定された、対向する1対の板状のガイド25,25により挟まれていて、スクリューロッド23の軸線方向に沿って移動可能となっている。すなわち、フィードモータ22を正転又は逆転駆動すると、フィードモータ22の回転運動が移動ステージ21の直線運動に変換される。フィードモータ22内には、エンコーダ22aが組み込まれている。エンコーダ22aは、フィードモータ22が所定の微小回転角度だけ回転するたびに、ハイレベルとローレベルとに交互に切り替わるパルス列信号を位置検出回路72及びフィードモータ制御回路73へ出力する。
位置検出回路72及びフィードモータ制御回路73は、コントローラ91からの指令により作動開始する。測定開始直後において、フィードモータ制御回路73は、フィードモータ22を駆動して移動ステージ21をフィードモータ22側へ移動させる。位置検出回路72は、エンコーダ22aから出力されるパルス列信号が入力されなくなると、移動ステージ21が移動限界位置に達したことを表す信号をフィードモータ制御回路73に出力し、カウント値を「0」に設定する。フィードモータ制御回路73は、位置検出回路72から移動限界位置に達したことを表す信号を入力すると、フィードモータ22への駆動信号の出力を停止する。上記の移動限界位置を移動ステージ21の原点位置とする。したがって、位置検出回路72は、移動ステージ21が図1及び図2にて左上方向に移動して移動限界位置に達したとき「0」を表す位置信号を出力し、移動ステージ21が移動限界位置から右下方向へ移動すると、エンコーダ22aからのパルス列信号をカウントし、移動限界位置からの移動距離xを表す信号を位置信号として出力する。
フィードモータ制御回路73は、コントローラ91から移動ステージ21の移動先の位置を表す設定値を入力すると、その設定値に応じてフィードモータ22を正転又は逆転駆動する。位置検出回路72は、エンコーダ22aが出力するパルス信号のパルス数をカウントする。そして、位置検出回路72は、カウントしたパルス数を用いて移動ステージ21の現在の位置(移動限界位置からの移動距離x)を計算し、コントローラ91及びフィードモータ制御回路73に出力する。フィードモータ制御回路73は、位置検出回路72から入力した移動ステージ21の現在の位置が、コントローラ91から入力した移動先の位置と一致するまでフィードモータ22を駆動する。
また、フィードモータ制御回路73は、移動ステージ21の移動速度を表す設定値をコントローラ91から入力する。そして、エンコーダ22aから入力したパルス信号の単位時間当たりのパルス数を用いて、移動ステージ21の移動速度を計算し、前記計算した移動ステージ21の移動速度がコントローラ91から入力した移動速度になるようにフィードモータ22を駆動する。
一対のガイド25,25の上端は、板状の上壁26によって連結されている。上壁26には、貫通孔26aが設けられていて、貫通孔26aの中心位置はX線出射器10の出射口11の中心位置に対向しており、X線出射器10から出射されたX線は、出射口11及び貫通孔26aを介してテーブル駆動機構20内に入射する。
後述するイメージングプレート15が回折環撮像位置にある状態(図1乃至図3の状態)において、移動ステージ21の貫通孔26aと対向する位置には、図3に拡大して示すように、貫通孔21aが形成されている。移動ステージ21には、出射口11及び貫通孔26a,21aの中心軸線位置を回転中心とする出力軸27aを有するスピンドルモータ27が組み付けられている。出力軸27aは、円筒状に形成され、回転中心を中心軸とする断面円形の貫通孔27a1を有する。スピンドルモータ27の出力軸27aと反対側には、貫通孔27a1の中心位置を中心軸線とする貫通孔27bが設けられている。貫通孔27bの内周面上には、貫通孔27bの一部の内径を小さくするための円筒状の通路部材28が固定されている。
また、スピンドルモータ27内には、エンコーダ22aと同様のエンコーダ27cが組み込まれている。エンコーダ27cは、スピンドルモータ27が所定の微小回転角度だけ回転する度に、ハイレベルとローレベルとに交互に切り替わるパルス列信号を、スピンドルモータ制御回路74及び回転角度検出回路75へ出力する。さらに、エンコーダ27cは、スピンドルモータ27が1回転するごとに、所定の短い期間だけローレベルからハイレベルに切り替わるインデックス信号を、コントローラ91及び回転角度検出回路75に出力する。
スピンドルモータ制御回路74及び回転角度検出回路75は、コントローラ91からの指令により作動開始する。スピンドルモータ制御回路74は、コントローラ91から、スピンドルモータ27の回転速度を表す設定値を入力する。そして、エンコーダ27cから入力したパルス信号の単位時間当たりのパルス数を用いてスピンドルモータ27の回転速度を計算し、計算した回転速度がコントローラ91から入力した回転速度(設定値)になるように、駆動信号をスピンドルモータ27に供給する。回転角度検出回路75は、エンコーダ27cから出力されたパルス列信号のパルス数をカウントし、そのカウント値を用いてスピンドルモータ27の回転角度すなわちイメージングプレート15の回転角度θpを計算して、コントローラ91に出力する。そして、回転角度検出回路75は、エンコーダ27cから出力されたインデックス信号を入力すると、カウント値を「0」に設定する。すなわち、インデックス信号を入力した位置が回転角度0°の位置である。なお、イメージングプレート15の回転角度0°の位置とは、後述するレーザ検出装置30からのレーザ照射によりイメージングプレート15に形成された回折環を読み取る際、インデックス信号を入力した時点でレーザ光が照射されている位置である。この位置は各半径位置においてあるためラインである。
テーブル16は、円形状に形成され、スピンドルモータ27の出力軸27aの先端部に固定されている。テーブル16の中心軸と、スピンドルモータ27の出力軸の中心軸とは一致している。テーブル16は、一体的に設けられて下面中央部から下方へ突出した突出部17を有していて、突出部17の外周面には、ねじ山が形成されている。突出部17の中心軸は、スピンドルモータ27の出力軸27aの中心軸と一致している。テーブル16の下面には、イメージングプレート15が取付けられる。イメージングプレート15は、表面に蛍光体が塗布された円形のプラスチックフィルムである。イメージングプレート15の中心部には、貫通孔15aが設けられていて、この貫通孔15aに突出部17を通し、突出部17の外周面上にナット状の固定具18をねじ込むことにより、イメージングプレート15が、固定具18とテーブル16の間に挟まれて固定される。固定具18は、円筒状の部材で、内周面に、突出部17のねじ山に対応するねじ山が形成されている。
テーブル16、突出部17及び固定具18にも貫通孔16a,17a,18aがそれぞれ設けられており、貫通孔16a,17a,18aの中心軸はテーブル16の中心軸と同じであり、貫通孔18aの内径は貫通孔16a,17aに比べて小さく、前述した通路部材28の内径と同じである。したがって、スピンドルモータ27の出力軸27aから出射されたX線は、貫通孔16a,17a,18aを介するとともに、切欠き部壁50cに設けた円形孔50c1を介して外部下方に位置する測定対象物OBに向かって出射される。この場合、通路部材28の内径及び貫通孔18aの内径は小さいので、通路部材28を介して貫通孔27b,27a1,16a,17a内に入射したX線はやや拡散しているが、貫通孔18aから出射されるX線は貫通孔27a1の軸線に平行な平行光となり、円形孔50c1から出射される。また、この円形孔50c1の内径は、測定対象物OBからの回折光をイメージングプレート15に導くために大きい。
イメージングプレート15は、フィードモータ22によって駆動されて、移動ステージ21、スピンドルモータ27及びテーブル16と共に、原点位置から回折環を撮像する回折環撮像位置へ移動する。前述のように、この回折環撮像位置において、X線出射器10から出射されたX線が測定対象物OBに照射されるようになっている。また、イメージングプレート15は、スピンドルモータ27によって駆動されて回転しながら、フィードモータ22によって駆動されて、移動ステージ21、スピンドルモータ27及びテーブル16と共に、撮像した回折環を読み取る回折環読取り領域内、及び回折環を消去する回折環消去領域内を移動する。なお、この場合のイメージングプレート15の移動においては、イメージングプレート15の中心軸が、X線出射器10から出射されたX線の光軸とイメージングプレート15における回転角度0°の位置(ライン)とが成す平面内に保たれた状態で、前記X線の光軸に垂直な方向に移動する。
レーザ検出装置30は、回折環を撮像したイメージングプレート15にレーザ光を照射して、イメージングプレート15から入射した光の強度を検出する。レーザ検出装置30は、測定対象物OB及び回折環撮像位置にあるイメージングプレート15からフィードモータ22側に充分離れている。すなわち、イメージングプレート15が回折環撮像位置にあるとき、測定対象物OBにて回折したX線がレーザ検出装置30によって遮られないようになっている。レーザ検出装置30は、レーザ光源31と、コリメートレンズ32、反射鏡33、ダイクロイックミラー34、及び対物レンズ36を備えている。
レーザ光源31は、レーザ駆動回路77によって制御されて、イメージングプレート15に照射するレーザ光を出射する。レーザ駆動回路77は、コントローラ91によって制御され、レーザ光源31から所定の強度のレーザ光が出射されるように、駆動信号を制御して供給する。レーザ駆動回路77は、後述するフォトディテクタ42から出力された受光信号を入力して、受光信号の強度が所定の強度になるようにレーザ光源31に出力する駆動信号を制御する。これにより、イメージングプレート15に照射されるレーザ光の強度が一定に維持される。
コリメートレンズ32は、レーザ光源31から出射されたレーザ光を平行光に変換する。反射鏡33は、コリメートレンズ32にて平行光に変換されたレーザ光を、ダイクロイックミラー34に向けて反射する。ダイクロイックミラー34は、反射鏡33から入射したレーザ光の大半(例えば、95%)をそのまま透過させる。対物レンズ36は、ダイクロイックミラー34から入射したレーザ光をイメージングプレート15の表面に集光させる。この対物レンズ36から出射されるレーザ光の光軸は、X線出射器10から出射されたX線の光軸とイメージングプレート15における回転角度0°の位置(ライン)とが成す平面内であって、前記X線の光軸に平行な方向、すなわち移動ステージ21の移動方向に対して垂直な方向である。
対物レンズ36には、フォーカスアクチュエータ37が組み付けられている。フォーカスアクチュエータ37は、対物レンズ36をレーザ光の光軸方向に移動させるアクチュエータである。なお、対物レンズ36は、フォーカスアクチュエータ37が通電されていないときに、その可動範囲の中心に位置する。
対物レンズ36によって集光されたレーザ光を、イメージングプレート15の表面であって、回折環が撮像されている部分に照射すると、輝尽発光(Photo−Stimulated Luminesence)現象が生じる。すなわち、回折環を撮像した後、イメージングプレート15にレーザ光を照射すると、イメージングプレート15の蛍光体が回折X線の強度に応じた光であって、レーザ光の波長よりも波長が短い光を発する。イメージングプレート15に照射されて反射したレーザ光の反射光及び蛍光体から発せられた光は、対物レンズ36を通過して、ダイクロイックミラー34にて蛍光体から発せられた光の大部分は反射し、レーザ光の反射光の大部分は透過する。ダイクロイックミラー34の反射方向には、集光レンズ38、シリンドリカルレンズ39及びフォトディテクタ40が設けられている。集光レンズ38は、ダイクロイックミラー34から入射した光を、シリンドリカルレンズ39に集光する。シリンドリカルレンズ39は、透過した光に非点収差を生じさせる。フォトディテクタ40は、分割線で区切られた4つの同一正方形状の受光素子からなる4分割受光素子によって構成されており、時計回りに配置された受光領域A,B,C,Dに入射した光の強度に比例した大きさの検出信号を受光信号(a,b,c,d)として、増幅回路78に出力する。
増幅回路78は、フォトディテクタ40から出力された受光信号(a,b,c,d)をそれぞれ同じ増幅率で増幅して受光信号(a’,b’,c’,d’)を生成し、フォーカスエラー信号生成回路79及びSUM信号生成回路80へ出力する。本実施形態においては、非点収差法によるフォーカスサーボ制御を用いる。フォーカスエラー信号生成回路79は、増幅された受光信号(a’,b’,c’,d’)を用いて、演算によりフォーカスエラー信号を生成する。すなわち、フォーカスエラー信号生成回路79は、(a’+c’)−(b’+d’)の演算を行い、この演算結果をフォーカスエラー信号としてフォーカスサーボ回路81へ出力する。フォーカスエラー信号(a’+c’)−(b’+d’)は、レーザ光の焦点位置のイメージングプレート15の表面からのずれ量を表している。
フォーカスサーボ回路81は、コントローラ91により制御され、フォーカスエラー信号に基づいて、フォーカスサーボ信号を生成してドライブ回路82に出力する。ドライブ回路82は、このフォーカスサーボ信号に応じてフォーカスアクチュエータ37を駆動して、対物レンズ36をレーザ光の光軸方向に変位させる。この場合、フォーカスエラー信号(a’+c’)−(b’+d’)の値が常に一定値(例えば、ゼロ)となるようにフォーカスサーボ信号を生成することにより、イメージングプレート15の表面にレーザ光を集光させ続けることができる。
SUM信号生成回路80は、受光信号(a’,b’,c’,d’)を合算してSUM信号(a’+b’+c’+d’)を生成し、A/D変換回路83に出力する。SUM信号の強度は、イメージングプレート15にて反射し、ダイクロイックミラー34で反射した微量のレーザ光の強度と輝尽発光により発生した光の強度を合わせた強度に相当するが、イメージングプレート15にて反射したレーザ光の強度はほぼ一定であるので、SUM信号の強度は、輝尽発光により発生した光の強度に相当する。すなわち、SUM信号の強度は、イメージングプレート15に入射した回折X線の強度に相当する。A/D変換回路83は、コントローラ91によって制御され、SUM信号生成回路80からSUM信号を入力し、入力したSUM信号の瞬時値をディジタルデータに変換してコントローラ91に出力する。
また、レーザ検出装置30は、集光レンズ41及びフォトディテクタ42を備えている。集光レンズ41は、レーザ光源31から出射されたレーザ光の一部であって、ダイクロイックミラー34を透過せずに反射したレーザ光をフォトディテクタ42の受光面に集光する。フォトディテクタ42は、受光面に集光された光の強度に応じた受光信号を出力する受光素子である。従って、フォトディテクタ42は、レーザ光源31が出射したレーザ光の強度に相当する受光信号をレーザ駆動回路77へ出力する。
また、対物レンズ36に隣接して、LED光源43が設けられている。LED光源43は、LED駆動回路84によって制御されて、可視光を発して、イメージングプレート15に撮像された回折環を消去する。LED駆動回路84は、コントローラ91によって制御され、LED光源43に、所定の強度の可視光を発生させるための駆動信号を供給する。
また、X線回折測定装置は、LED光源44を有する。LED光源44は、図2乃至図4に示すように、X線出射器10とテーブル駆動機構20の上壁26との間に配置されたプレート45の一端部下面に固定されている。プレート45は、その他端部上面にて、筐体50内に固定されたモータ46の出力軸46aに固着されており、モータ46の回転により、テーブル駆動機構20の上壁26に平行な面内を回転する。テーブル駆動機構20の上壁26にはストッパ部材47a,47bが設けられており、ストッパ部材47aは、プレート45を図4のD1方向に回転させたとき、LED光源44がX線出射器10の出射口11及びテーブル駆動機構20の上壁26の貫通孔26aに対向する位置(A位置)に静止するように、プレート45の回転を規制する。一方、ストッパ部材47bは、プレート45を図4のD2方向に回転させたとき、プレート45がX線出射器10の出射口11とテーブル駆動機構20の上壁26の貫通孔26aとの間を遮断しない位置(B位置)に静止するように、プレート45の回転を規制する。言い換えれば、A位置は、プレート45が図2及び図3に示す状態にある位置であり、LED光源44から出射されるLED光がスピンドルモータ27の貫通孔27a1に設けた通路部材28の通路に入射する位置である。B位置は、X線出射器10から出射されるX線がプレート45によって遮られない位置である。
LED光源44は、コントローラ91によって作動制御されるLED駆動回路85からの駆動信号によりLED光を出射する。LED光は拡散する可視光であり、プレート45がA位置にあるとき、その一部は、貫通孔26a,21a、通路部材28の通路及び貫通孔27bを介して、スピンドルモータ27の出力軸27aの貫通孔27a1に入射し、貫通孔16a,17a,18a及び切欠き部壁50cの円形孔50c1から出射される。このLED光の場合も、通路部材28の内径及び貫通孔18aの内径は小さいので、通路部材28を介して貫通孔27b,27a1,16a,17a内に入射したX線はやや拡散しているが、貫通孔18aから出射されるLED光は貫通孔27a1の軸線に平行な平行光となり、円形孔50c1から出射される。したがって、LED光源44、通路部材28、貫通孔18aなどが、可視光である平行光を測定対象物OBに出射する本発明の可視光出射器を構成する。
モータ46はエンコーダ22a,27aと同様なエンコーダ46bを備えており、エンコーダ46bはモータ46が所定の微小回転角度だけ回転する度に、ハイレベルとローレベルとに交互に切り替わるパルス列信号を回転制御回路86に出力する。回転制御回路86は、コントローラ91から回転方向と回転開始の指示が入力されると、モータ46に駆動信号を出力して、モータ46を指示方向に回転させる。そして、エンコーダ46bからのパルス列信号の入力が停止すると、駆動信号の出力を停止する。これにより、プレート45を、上述したA位置及びB位置までそれぞれ回転させることができる。
筐体50の切欠き部壁50cには結像レンズ48が設けられているとともに、筐体50内部には撮像器49が設けられている。撮像器49は、多数の撮像素子をマトリクス状に配置したCCD受光器又はCMOS受光器で構成され、各撮像素子で受光した光の強度に応じた大きさの受光信号(撮像信号)を撮像素子ごとにセンサ信号取出回路87にそれぞれ出力する。これらの結像レンズ48及び撮像器49は、イメージングプレート15に対して設定された位置にある測定対象物OBにおけるLED光の出射点を中心とした領域の画像を撮像する。すなわち、結像レンズ48及び撮像器49は、測定対象物OBを撮像するディジタルカメラとして機能する。このイメージングプレート15に対して設定された位置とは、前記測定対象物OBにおけるX線及びLED光の出射点(照射点)からイメージングプレート15までの垂直距離Lが、予め決められた所定距離となる位置である。なお、この場合の結像レンズ48及び撮像器49による被写界深度は、前記出射点を中心とした前後の範囲で設定されている。センサ信号取出回路87は、撮像器49の各撮像素子からの受光信号(撮像信号)の強度データを、各撮像素子の位置(すなわち画素位置)が分かるデータと共にコントローラ91に出力する。したがって、図5に示すように、コントローラ91には、測定対象物OBにおけるLED光の照射点P1を含む、照射点P1近傍の画像を表す画像データが出力され後述する表示装置93に画像が表示されることになる。
また、結像レンズ48の光軸は、X線出射器10から出射されるX線の光軸とイメージングプレート15の回転角度0°のラインを含む平面に含まれるように調整されている。そして、この平面は、対象物セット装置60の傾斜角0のときのステージ61の表面に垂直になっている。また、結像レンズ48の光軸と、測定対象物OBに照射されるX線及びLED光の光軸が交わる点は、イメージングプレート15に対して設定された位置にある測定対象物OBにおけるX線及びLED光の出射点(照射点)である。さらに、設定された位置にある測定対象物OBにおけるX線及びLED光の出射点を通る、対象物セット装置60の傾斜角0のときのステージ61の表面の法線に対して、結像レンズ48の光軸がなす角度は、X線出射器10から出射されるX線及びLED光源44から出射されるLED光の光軸が前記法線に対してなす角度(X線及びLED光の入射角度)に等しい。
したがって、測定対象物OB上のX線及びLED光の照射点がイメージングプレート15に対して設定された位置にあり、該照射点の表面が傾斜角0のステージ61の上面と平行である状態で、LED光源44からのLED光を測定対象物OBに照射した場合には、照射点P1を含む測定対象物OBの画像が撮像器49で撮像されることに加えて、測定対象物OBにて反射したLED光の受光点P2も撮像器49で照射点P1と同じ位置に撮像されることになる。すなわち、測定対象物OBに照射されるLED光は平行光であり、測定対象物OBにおけるLED光の照射点において、LED光は散乱光と、略平行光のまま反射する反射光を発生させる。そして、図5に示すように、散乱光のうち結像レンズ48に入射した光は撮像器49の位置で結像して照射点P1の画像となり、結像レンズ48に入射した反射光は結像レンズ48により集光されて撮像器49で受光され、受光点P2の画像となる。このとき、X線及びLED光の照射点が設定された位置にあり、該照射点の表面が傾斜角0のステージ61の上面と平行であれば、結像レンズ48に入射する散乱光の光軸と反射光の光軸は、いずれも結像レンズ48の光軸と一致するため、照射点P1と受光点P2は同じ位置になる。なお、撮像器49は測定対象物OBを撮像するもので、撮像器49は結像レンズ48の焦点位置よりも若干量だけ後方に位置するので、厳密には、撮像器49によって受光される反射光は集光した後にやや拡散したものである。
コンピュータ装置90は、コントローラ91、入力装置92及び表示装置93からなる。コントローラ91は、CPU、ROM、RAM、大容量記憶装置などを備えたマイクロコンピュータを主要部とした電子制御装置であり、大容量記憶装置に記憶された各種プログラムを実行してX線回折測定装置の作動を制御する。入力装置92は、コントローラ91に接続されて、作業者により、各種パラメータ、作業指示などの入力のために利用される。表示装置93は図5に示すように、表示画面上に撮像器49によって撮像された画像に加えて、X線及びLED光の照射点が設定された位置にあり、該照射点の表面が傾斜角0のステージ61の上面と平行であるときに、照射点P1と受光点P2が表示される位置に十字マークを表示する。この十字マークは撮像画像とは独立して表示される。よって、照射点P1と受光点P2が十字マークと一致するように、対象物セット装置60のステージ61(測定対象物OB)の位置と姿勢を調整すれば、X線の照射点からイメージングプレート15までの距離Lが所定距離になり、X線の測定対象物OBに対する入射角度が所定角度(X線の光軸と傾斜角0のステージ61の上面の法線とが成す角度)になる。さらに、表示装置93は、作業者に対して各種の設定状況、作動状況、測定結果なども視覚的に知らせる。また、高電圧電源95は、X線出射器10にX線出射のための高電圧及び電流を供給する。
なお、測定対象物OBがギヤのように複雑な形状をしている場合は、回折X線が遮られない方向からX線を照射しなければならない場合があり、この場合はX線の測定対象物OBに対する入射角度を所定角度にすることが困難である。このような場合は、照射点P1のみが十字マークと一致するように位置と姿勢を調整すればよい。X線の入射角度を所定角度にしなくても測定対象物OBの表面硬さを求めることは可能であり、形成された回折環からX線の入射角度を算出して残留応力を求めることも可能である。これについては後述する。
このように構成したX線回折測定装置を含むX線回折測定システムを用いて、測定対象物OBの表面硬さと残留応力を測定するときは、図6に示す工程を行う。作業者はまずステージ調整工程S1でX線回折測定装置からLED光を照射して対象物セット装置60のステージ61(測定対象物OB)の位置と姿勢を調整する。次に、回折環撮像工程S2で、X線を照射してイメージングプレート15に回折環を形成する。次に、回折環読取り工程S3で、テーブル16を回転させながらレーザ検出装置30からレーザ光を照射して回折X線の強度分布を測定する。次に、回折環消去工程S4でイメージングプレート15に形成された回折環を消去する。そして、計算工程S5で、回折環の半径方向の強度分布における半価幅を複数の箇所で算出して平均し、半価幅の平均値を予め得られている半価幅と表面硬さとの関係曲線に当てはめ、表面硬さを算出する。また、回折X線の強度分布から回折環の形状を検出して残留応力を計算する。
以下、工程S1〜S5について説明する。なお工程S1〜S4については、特開2014−98677号公報に詳細に説明されているので、簡潔に説明するにとどめる。ステージ調整工程S1において、作業者はステージ61に測定対象物OBを残留応力の測定方向とY軸方向とが合うように置き、入力装置92からステージ調整の開始を入力する。これにより、コントローラ91は各回路に指令を出力し、イメージングプレート15が回折環撮像位置(図1及び図2の状態)になり、プレート45がA位置になり、LED光源44が点灯してLED光が出射して測定対象物OBに照射される。さらに、撮像器49から撮像信号が入力して表示装置93に撮像画像が表示される。図5に示すように、撮像画像にはLED光の照射点P1と反射光の受光点P2が表示されるので、作業者は撮像画像を見ながらステージ61をX軸、Y軸、Z軸方向に移動させ、照射点P1が測定箇所と十字マークに合致するように調整する。そして、ステージ61をX軸周り、Y軸周りに回転(傾斜)させ、受光点P2が十字マークに合致するように調整し、これにより照射点P1が測定箇所と十字マークからややずれるので、X軸、Y軸、Z軸方向の微量移動とX軸、Y軸周りの微小回転とを繰り返して照射点P1と受光点P2が十字マークに合致するようにする。
これにより、測定対象物OBに照射されるX線は測定箇所になり、Y軸方向が残留応力の測定方向になり、X線の照射点からイメージングプレート15までの距離Lが所定距離になり、測定対象物OBに対するX線の入射角度が所定角度になる。なお、上述したように、測定対象物OBが複雑な形状をしていてX線の入射角度を所定角度にすることが困難な場合は、照射点P1のみが十字マークと合致するように調整を行えばよい。
次に作業者は、入力装置92からステージ調整終了を入力する。これにより、コントローラ91は、各回路に指令を出力し、LED光の発光が停止し、撮像器49からの信号入力を停止し、プレート45をB位置まで回転させる。これで、ステージ調整工程S1は終了する。
次の回折環撮像工程S2において、作業者は入力装置92から測定対象物OBの材質(本実施例では、鉄)、及びX線入射角度ψが所定角度であるか否かを入力する。また、後述するが、X線入射角度ψを0°(垂直入射)にして測定を行うときは、垂直入射であることを入力する。そして、表面硬さ及び残留応力の測定開始を入力する。これにより、コントローラ91は、各回路に指令を出力し、イメージングプレート15を低速回転させ、エンコーダ27cからインデックス信号が入力する角度である回転角度0°に設定した後、X線出射器10からX線を出射させ、所定時間の経過後に出射を停止させる。これにより、イメージングプレート15には所定時間で所定強度のX線により発生した回折X線により回折環が撮像される。
回折環撮像工程S2の後、コントローラ91は自動で回折環読取り工程S3を実行する。コントローラ91は、各回路に指令を出力し、イメージングプレート15を回折環読取り開始位置へ移動させた後、テーブル16を所定の一定回転速度で回転させ、レーザ検出装置30からレーザ光をイメージングプレート15に照射させる。そして、レーザ光の焦点がイメージングプレート15の表面に合わせるフォーカスサーボ制御を開始させ、イメージングプレート15の図1及び図2の右下方向への移動を開始させる。この状態で、回転角度検出回路75、位置検出回路72及びA/D変換器83の作動を開始させ、イメージングプレート15の回転角度θpが所定の小さな角度だけ回転するごとに、回転角度θp、レーザ光照射位置の径方向距離r(半径値r)、及びA/D変換器83からの信号の瞬時値I(回折X線の強度)を入力して記憶することを開始する。これにより、螺旋状に回転するレーザ光の照射位置ごとに、回転角度θp、半径値r及び瞬時値Iのデータが記憶されていく。
コントローラ91は、記憶動作と並行して、設定されている複数の回転角度ごとに半径値rに対する瞬時値Iの変化曲線を作成し、すべての回転角度において該変化曲線が左右対称で得られた時点で、瞬時値I、回転角度θp及び半径値rの記憶動作を終了する。その後、コントローラ91は、各回路に指令を出力し、フォーカスサーボ制御の停止、レーザ光照射の停止、イメージングプレート15の移動の停止、及び回転角度検出回路75とA/D変換器83の作動の停止を行う。これにより、回折環読取り工程S3が終了する。この時点で、回折環における回折X線の強度分布が回転角度θp、半径値r及び瞬時値Iのデータとして得られている。
回折環読取り工程S3の後、コントローラ91は自動で回折環消去工程S4を実行する。コントローラ91は、各回路に指令を出力し、イメージングプレート15を回折環消去開始位置へ移動させた後、LED光源43からLED光を発光させてイメージングプレート15へ照射させ、イメージングプレート15を図1及び図2の右下方向に一定速度で移動させる。なお、イメージングプレート15の回転と位置検出回路72の作動は、回折環読取り工程S3から継続して行われている。これにより、LED光源43による可視光が、イメージングプレート15上に螺旋状に照射され、前記回折X線によって形成された回折環が消去されていく。コントローラ91は、回折環消去終了位置になると、各回路に指令を出力し、イメージングプレート15の移動停止、LED光源43の発光停止、イメージングプレート15の回転停止、及び位置検出回路72の作動停止を行う。これにより、回折環消去工程S4が終了する。
このような回折環消去工程S4の後、コントローラ91は、自動的に又は作業者による入力装置92からの指令により、計算工程S5を行う。なお、この計算工程S5は回折環消去工程S4と並行して行ってもよい。計算工程S5においてコントローラ91は、インストールされている演算プログラムを実行させ、回転角度θp、半径値r及び瞬時値Iのデータと予め記憶されている半価幅と表面硬さとの関係曲線を用いて測定対象物OBの表面硬さを計算する。及び、回転角度θp、半径値r及び瞬時値Iのデータと予め記憶されているX線照射点からイメージングプレート15までの距離L、X線の入射角度ψ及び格子面間隔等のパラメータを用いて残留応力を計算する。
まず表面硬さの計算方法から説明する。コントローラ91は、以下に示す(1)〜(7)の順に計算を行い、表面硬さを計算する
(1)回折環の半径方向における回折X線の強度分布曲線作成
コントローラ91は、回転角度θpごとに瞬時値Iと半径値rのデータを用いて、図7に示すように半径値rに対する瞬時値Iの変化曲線(以下、r−I変化曲線という)を作成する。これが、回折環の半径方向における回折X線の強度分布曲線である。データ処理上は、回転角度θpごとに半径値rの数値順に半径値rと瞬時値Iのデータ群をまとめる処理である。なお、記憶されている半価幅と表面硬さとの関係曲線において半価幅が角度の単位になっているときは、半径値rはtan−1(半径値r/距離L)の計算により角度の単位にする。
(2)正常な強度分布曲線の抽出
関係曲線は左右対称で尖った形状であるのが理想であるが、測定対象物OBの結晶粒が大きい、測定対象物OBが複雑な形状をしているため回折X線の一部が遮断される等の理由で、r−I変化曲線の形状が悪い箇所があるので、次に、形状が悪いr−I変化曲線を除外する処理を行う。具体的には、r−I変化曲線の歪度と尖度を計算し、予め記憶されている許容値より歪度が大きい場合と、予め記憶されている許容値より尖度が小さい場合を除外する処理を行う。歪度と尖度は、r−I変化曲線のピーク値を平均値として統計学で使用されている通常の歪度と尖度の計算式を用いて計算すればよい。歪度は変化曲線の左右対称性を評価する値であり、尖度は変化曲線の尖りの程度を評価する値である。これにより、正常な形状のr−I変化曲線が抽出される。なお、このとき抽出されるr−I変化曲線の数が予め設定されている許容値より少ないときは、後述する半価幅の平均化処理を精度よく行うことができないので、表示装置93に表面硬さの測定不可とX線を測定対象物OBに垂直に(入射角度0°で)入射させて測定を行う指示を表示し、表面硬さの計算は終了する。その理由は後述する。また、X線を測定対象物OBに垂直に入射させる方法についても後述する。
(3)半価幅計算
次に抽出されたr−I変化曲線すべてにおいて、r−I変化曲線のピーク値とグランドレベル値の差を2で除算し、その値にグランドレベル値を加算したレベルで変化曲線をスライスしたときの、変化曲線の幅を半値幅Wとして求める。これは、図7にWで示される幅である。
(4)円周方向位置(回転角度)に対する半価幅の変化曲線作成
得られた複数の半価幅Wを平均して、半価幅と表面硬さとの関係曲線に当てはめれば測定対象物OBの表面硬さを求めることができる。しかし、本実施形態のようにX線を測定対象物OBに対し所定の入射角度で入射させて回折環を作成した場合は、r−I変化曲線で除外したものがない限り、すなわち、すべての回転角度θpで半価幅Wが得られていない限り、通常の平均の計算では精度のよい平均値を求めることはできない。その理由は、円周方向位置(回転角度)θpに対する半価幅Wの変化曲線は、常に回転角度0°をピーク点とする正弦曲線になり、r−I変化曲線で除外したものがある場合は、この変化曲線の一部が欠けているということであるので、通常の平均の計算では、平均値が変化曲線の中心線の値(本来の平均値)からずれてしまうためである。よって、円周方向位置(回転角度)θpに対する半価幅Wの変化曲線(以下、θp−W変化曲線という)を作成し、このθp−W変化曲線から半価幅Wの平均値を計算する。θp−W変化曲線の作成は、データ処理上は、回転角度θpと半価幅Wのデータ群を用いてスムージング処理を行い、処理を行った半価幅W’のデータを得る処理である。
なお、(2)の処理で抽出されるr−I変化曲線の数が許容値より少ないとき計算処理を終了したのは、θp−W変化曲線において欠けている部分が多すぎると精度よく平均値を求めることができないためである。このときは、表示装置93に表示されるようにX線を測定対象物OBに入射角度0°で入射させ、測定を行う。X線を測定対象物OBに入射角度0°で入射させるとθp−W変化曲線は、直線になるので、(3)までの処理を行った後、データ値を加算してデータ数で除算する通常の平均の計算で半価幅Wを平均することができる。
本願発明者は、多数の測定対象物OBを複数回測定することにより、測定対象物OBに対するX線の入射角度を0°にすると、θp−W変化曲線は直線になり、入射角度を0°から大きくしていくと、θp−W変化曲線は回転角度0°をピーク点とする正弦曲線で、その振幅値が大きくなっていくことを見出した。これを、示したものが図8である。また、X線の入射角度を変化させると振幅値は変化するが、平均値すなわちθp−W変化曲線の中心線の値は変化しないことも見出した。そして、これらのことは理論的に説明できることも見出した。よって、X線の入射角度を0°にしても、また設定値以外の値にしても、半価幅Wの平均値は変化せず、半価幅Wから計算される表面硬さも変化しない。よって、上述したようにθp−W変化曲線において欠けている部分が多い場合は、X線の入射角度を0°にして測定をやり直すことができ、また、測定対象物OBが複雑な形状をしている場合は、X線の入射角度を所定角度にせずに測定を行うこともできる。θp−W変化曲線の上記特徴が理論的に説明できることは重要であるので後で詳細に説明する。
(5)半価幅の変化曲線の異常箇所除外
作成されたθp−W’変化曲線は正常であれば正弦曲線になるが、(2)の処理後でも正常でないr−I変化曲線が残存している等の理由で、正弦曲線からずれている箇所がある可能性がある。よって、θp−W’変化曲線から異常箇所を除外する処理を行う。この処理は、まず、θp−W’変化曲線のピーク値とボトム値の箇所を検出し、回転角度θpが180°異なっていることを確認したうえで、全ての半価幅W’のデータからピーク値とボトム値の中間値を減算し、ピーク値と中間値との差(中間値とボトム値の差)で除算した半価幅W”を作成する。これは、規格化した曲線(ボトム値を−1、ピーク値を1にした曲線)を作成する処理である。このとき、ピーク値とボトム値のいずれか1つが(2)の処理の結果得られていなていないときは、ピーク値またはボトム値から90度の位置にある点2つの半価幅W’のデータを平均した値を中間値にし、同様の処理を行う。また、ピーク値とボトム値の双方が得られていない場合は、(2)の処理で抽出されるr−I変化曲線の数が許容値より少ないときと同様、表示装置93に表面硬さの測定不可とX線を測定対象物OBに入射角度0°で入射させて測定を行う指示を表示し、表面硬さの計算は終了する。
半価幅W”を作成した後、θp−W”変化曲線とsin(θp+90°+α)の曲線を比較し、sin(θp+90°+α)からのずれが大きい箇所を除外する処理を行う。データ処理上は、sin(θp+90°+α)のαを微少量ずつ変化させ、それぞれの半価幅W”とsin(θp+90°+α)の値との差の2乗を加算してデータ数で除算した値が最小となるときのαをαdとして求める。次に半価幅W”とsin(θp+90°+αd)の値との差の絶対値が許容値より大きい半価幅W”に対応する半価幅W’をθp−W’変化曲線から除外する。これによりθp−W’変化曲線から異常箇所が除外される。
ここでαの最小値αdを求める理由を説明する。θp−W”変化曲線は、出射されるX線の光軸とX線照射点部分の表面の法線とを含む平面がイメージングプレート15と交差するラインXIが回転角度0°のラインになっていれば、sin(θp+90°)の曲線になる。しかし、ステージ調整工程S1において、測定対象物OBが複雑な形状をしているため、照射点P1のみを十字マークと合致するよう調整を行い、受光点P2の調整を行わなかった場合は、前記ラインXIは回転角度0°のラインからずれる可能性がある。この場合は、θp−W”変化曲線のピーク点、ボトム点は回転角度θpが0°の点からずれた点になる。よって、sin(θp+90°+α)とし、αの最小値αdを求める処理を行う。そして、αdは、前記ラインXIと回転角度0°のラインとのずれの角度である。
(6)半価幅の平均値算出
次に、θp−W’変化曲線から半価幅Wの平均値を計算する。この処理は、(2)の処理と(5)の処理で除外したr−I変化曲線の数と半価幅W’の数の総計により計算方法が異なる。まず、1つも除外されなかった場合は、全ての半価幅Wを加算してデータ数で除算する通常の平均の計算を行う。これは、θp−W’変化曲線を積分して横軸の大きさ360°で除算する計算である。次に除外数が許容値以下であった場合は、θp−W’変化曲線の欠けているデータW’を両側のデータにより補間演算で作成し、全ての半価幅W’を加算してデータ数で除算する計算を行う。これは、θp−W’変化曲線の欠けている箇所を作成したうえで積分して横軸の大きさ360°で除算する計算である。次に除外数が許容値より多かった場合は、θp−W’変化曲線に最も一致する〔A・sin(θp+90°+αd)+B〕の曲線のAとBを求める計算を行う。この計算は以下のように行う。θp−W’変化曲線にピーク点とボトム点がある場合は、まず、(ピーク値−ボトム値)/2 をAにし、(ピーク値+ボトム値)/2 をBにする。次にAを微小量変化させるごとにBを所定範囲で変化させ、それぞれの半価幅W’と〔A・sin(θp+90°+αd)+B〕の値と差の2乗を加算してデータ数で除算した値が最小となるときのA、Bを求める。θp−W’変化曲線にピーク点、ボトム点のいずれか一方しかない場合は、ピーク値又はボトム値から90°の回転角度θpの箇所の半価幅W’2つを平均した値Cを計算し、(ピーク値−C)または(C−ボトム値)をAにし、CをBにする。次に同様に、Aを微小量変化させるごとにBを所定範囲で変化させ、それぞれの半価幅W’と〔A・sin(θp+90°+αd)+B〕の値と差の2乗を加算してデータ数で除算した値が最小となるときのA、Bを求める。計算の結果得られたBが半価幅Wの平均値である。これは、〔A・sin(θp+90°+αd)+B〕の曲線を積分して横軸の大きさ360°で除算するとBになるためである。なお、Aは半価幅Wの平均値には関係しない値であるが、上述したようにX線の入射角度を大きくしていくとθp−W変化曲線の振幅値は大きくなっていくので、後述するように、測定対象物OBに対するX線の入射角度を計算する際に使用することができる。
(7)測定対象物OBの表面硬さ計算
次に半価幅Wの平均値を、予め記憶されている半価幅と表面硬さとの関係曲線に当てはめて測定対象物OBの表面硬さを計算する。半価幅と表面硬さとの関係曲線は図9に示すものであるが、この関係曲線は、表面硬さを変化させた試料を用意し、上述したX線回折測定システムを用いて上述した測定方法と演算方法で半価幅Wの平均値を求め、公知技術である破壊検査の手法により試料の表面硬さを測定すれば、得ることができる。半価幅と表面硬さに相関関係があることは、先行技術文献にも書かれているが、本願発明のように回折環を撮像し半価幅の平均値を求めれば、相関係数の高い半価幅と表面硬さの相関関係を得ることができる。
次に、コントローラ91は、測定対象物OBの残留応力を計算する。この計算は、測定対象物OBの表面硬さ計算の(2)で算出したr−I変化曲線のピーク点における半径値rpを計算した後、回転角度θpと半径値rpで表される回折環の形状と、X線照射点からイメージングプレート15までの距離L、X線の入射角度ψ及び格子面間隔等のパラメータ等を用いて行う計算である。この計算方法は公知技術であり、特開2005−241308号公報の〔0026〕〜〔0044〕及び特開2011−27550号公報の〔0007〕〜〔0017〕等で詳細に説明されているので本願では省略する。また、r−I変化曲線が正常でないためピーク点における半径値rpが得られない箇所があり、回折環全体の形状が得られない場合は、別の方法により残留応力を計算する必要があるが、この方法は特許第5408234号公報で詳細に説明されているので本願では省略する。
なお、上述したステージ調整工程S1において、測定対象物OBが複雑な形状をしているため、照射点P1のみを十字マークと合致するよう調整を行い、受光点P2の調整を行わなかった場合は、残留応力の計算の前に行う演算処理がある。これは、X線の入射角度ψは設定値になっておらず、出射されるX線の光軸とX線照射点部分の表面の法線とを含む平面がイメージングプレート15と交差するラインXIが回転角度0°のラインと一致していないために行う演算処理であり、具体的には、X線の入射角度ψを求める処理と回転角度θpのデータを補正する処理である。これについて、以下に説明する。
上述したようにX線の入射角度ψが大きくなるほど、正弦曲線であるθp−W変化曲線の振幅値は大きくなる。よって、予めθp−W変化曲線をスムージング処理したθp−W’変化曲線の振幅値とX線の入射角度ψとの関係曲線を求め、記憶しておけば、測定対象物OBの表面硬さ計算の(6)で算出した〔A・sin(θp+90°+αd)+B〕の曲線のAの値をこの関係曲線に当てはめることで、X線の入射角度ψを求めることができる。測定対象物OBの表面硬さ計算の(6)で除外した数が許容値以下である場合は、この段階で上述した方法により〔A・sin(θp+90°+αd)+B〕の曲線のAの値を算出する。θp−W’変化曲線の振幅値とX線の入射角度ψとの関係曲線は、表面がステージ61と平行である測定対象物OBを用意し、上述したX線回折測定システムを用いて上述した測定方法と演算方法で〔A・sin(θp+90°+αd)+B〕の曲線のAの値を求め、以後、対象物セット装置60の操作子65aを回動操作することでX線の入射角度ψを変化させるごとに、同様の方法で〔A・sin(θp+90°+αd)+B〕の曲線のAの値を求めればよい。初回のX線の入射角度ψは設定値になり、2回目以降のX線の入射角度ψは、回動操作後に操作子65aが示す回転角度から初回の操作子65aが示す回転角度を減算した角度を、入射角度ψの設定値に加算した角度になる。
回転角度θpのデータの補正は、出射されるX線の光軸とX線照射点部分の表面の法線とを含む平面がイメージングプレート15と交差するラインXIを回転角度0°にする補正である。具体的には、それぞれの回転角度θpから、測定対象物OBの表面硬さ計算の(6)で算出したラインXIと回転角度0°のラインとのずれの角度であるαdを減算する補正である。
コントローラ91は、測定対象物OBの表面硬さと残留応力の計算が終了すると、表示装置93に表面硬さと残留応力の計算結果を表示する。なお、これ以外に、回折環の強度分布画像(瞬時値Iを明度にして瞬時値I、回転角度θp及び半径値rのデータ群から得られる画像)及びX線入射角度ψ、X線照射点からイメージングプレート15までの距離L等の測定条件を表示するようにしてもよい。作業者は結果を見ることで、表面硬さの値から測定対象物OBの表面硬さの評価をし、残留応力の値から測定対象物OBの疲労度等を評価する。
ここで、表示装置93に表面硬さの測定不可とX線を測定対象物OBに垂直に(入射角度0°で)入射させて測定を行う指示が表示された場合、X線を測定対象物OBに垂直に入射させる方法について説明する。ステージ調整工程S1において、照射点P1と受光点P2とを十字マークに合致するよう調整を行った場合は、X線を測定対象物OBに対する入射角度は設定値である。よって、この場合は、対象物セット装置60の操作子65aを回動操作し、回動操作後に操作子65aが示す回転角度から回動操作前の操作子65aが示す回転角度を減算した角度が、入射角度の設定値にマイナスを付けた値になるようにステージ61の傾斜状態を調整すればよい。また、測定対象物OBが複雑な形状をしているため、照射点P1のみを十字マークと合致するよう調整を行い、受光点P2の調整を行わなかった場合は、切欠き部壁50cに設けた円形孔50c1の箇所に切欠き部壁50cと平行に黒色のフィルムを設ける。そして、黒色のフィルム上に形成される2つのLED光の照射点である、LED光源44からの出射光の照射点と、測定対象物OBからの反射光の照射点が、一致するよう、対象物セット装置60の操作子65aと操作子66aを回動操作すればよい。
次に、上述したように回折環の円周方向に対する半価幅Wの変化曲線であるθp−W変化曲線が、以下の特徴を有することを、理論的に説明する。
・回転角度0°(X線の光軸と測定箇所の平面の法線を含む平面がイメージングプレートと交差するラインの箇所)をピーク点とする正弦曲線である。
・X線の入射角度が大きくなるほど振幅値は大きくなり、X線の入射角度が0°であるときは振幅値は0、すなわち直線になる。
・X線の入射角度を変化させると振幅値は大きくなるが、平均値(θp−W変化曲線の中心線の値)は変化しない。
測定対象物OBに入射するX線はある程度の断面径を有し、X線照射点はある程度の面積を有する。よって、以後この説明ではX線照射点をX線照射円と呼ぶ。図10は、測定対象物OBにおけるX線の回折を入射X線の断面径を誇張して示したものであるが、X線照射円内の各点から回折X線が発生するとした場合、回転角度θpにおける半価幅は、入射X線の光軸とイメージングプレート15の回転角度θpのラインとを含む平面が、X線照射円内の外周と交差する2点から発生する回折X線が、イメージングプレート15に入射したときの幅(以下、撮像幅という)に比例すると見なすことができる。図10(a)に示されるように、回転角度0°の位置において撮像幅は広くなるが、回転角度180°の位置において撮像幅は狭くなる。そして、図10(a)〜(c)に示されるように、X線の入射角度が小さくなるほど、回転角度0°と回転角度180°における回折X線の撮像幅の差は小さくなる。これにより、回転角度0°がピーク点となること、およびX線の入射角度が大きくなるほどθp−W変化曲線の振幅値は大きくなり、入射角度が0°であるときは振幅値は0になる(直線になる)ことが説明できる。ただし、この説明のみではθp−W変化曲線が正弦曲線になること、及びX線の入射角度により平均値(中心線の値)は変化しないことは、説明できないので、さらに数式を使った説明を行う。
測定対象物OBにある入射角度で入射したX線の照射円を拡大して示すと図11のようになるが、上述したように、また、図13に示すように、回転角度θpにおける半価幅Wは、入射X線の光軸とイメージングプレート15の回転角度θpのラインとを含む平面が、X線の照射円の外周と交差する2点から発生する回折X線が、イメージングプレート15に入射したときの撮像幅Wiに比例すると見なすことができる。ここでの回折X線は、X線の光軸と成す角度が所定角度である回折X線のみとする。すなわち、回折X線は頂点を回折X線の発生点としたときの円錐の側面に沿った直線であるとする。円錐の側面に沿った直線と円錐の底面とが成す角度はどの箇所でも一定であるように、回転角度θpによらず回折X線がイメージングプレート15に対する入射角度は一定である。従って、図13に示すように、撮像幅Wiは、X線照射円の外周の2点から発生する回折X線の幅Wdに定数を乗算したものである。また、X線照射円の外周の2点から発生する回折X線の幅Wdは、X線照射円の中心から発生する回折X線と、X線の照射円の外周点から発生する回折X線の幅Wrを2倍した値である。従って、半価幅Wは回折X線の幅Wrに比例すると見なすことができ、θp−W変化曲線は、回転角度θpに対する回折X線の幅Wrの変化曲線に曲線形状が等しいと見なすことができる。
次に、回転角度θpにおけるX線照射円の中心からX線照射円の外周点までの距離Xcrにおいて成り立つ式を考える。断面が円であるX線がある入射角度で入射した場合、X線照射円は楕円となるので、楕円における中心から外周までの距離の式が成り立つ。すなわち、図11に示すように、楕円における短軸半径をa、長軸半径をbとすると、次の数1の式が成り立つ。
X線照射円の平面で見ると、X線照射円の外周点と回転角度θpのラインとは一致しないが、これはX線照射円の平面とイメージングプレート15の平面は、X線入射角度分の角度がある関係であるためであり、入射X線の光軸とイメージングプレート15の回転角度θpのラインとを含む平面が、X線の照射円の外周と交差する2点は図11で示す点になる。なお、これ以降の説明では計算式を分かりやすくするため、X軸、Y軸の方向は図2と合わせているが、回転角度θpはX軸方向を0°とし、反時計回りに値が増大するとする。すなわち、X軸方向は図11下方向、Y軸方向は図11右方向とし、回転角度θpは図11下方向が0°で反時計回りに値が増大するとする。よって、これ以降の説明における回転角度θpは、上述したX線回折システムによる半価幅Wの説明のときの回転角度θpから90°を減算した値である。
X線の入射角度をψとすると、図12に示すように、楕円の短軸半径aは照射されるX線の断面径Xrに等しく、長軸半径bはXr/cosψになる。よって数1は次の数2に書き換えることができる。
次に、回転角度θpにおける回折X線の幅Wrを考える。図13に示すように、入射X線の光軸とイメージングプレート15の回転角度θpのラインとを含む平面において、回折X線がX線照射円の平面となす角度をθk(以下、回折X線が平面となす角度θkという)とすると、回折X線の幅WrはXcr・sinθkとなる。このXcrに、数2の式を代入すると、回折X線の幅Wrは次の数3で表される。
回折X線が平面と成す角度θkは回転角度θpにより異なる。入射X線の光軸と回折X線がなす角度をθrとすると、回折X線が平面と成す角度θkは、回転角度θpが90°のときは、90°−(ψ+θr)になり、回転角度θpが270°のときは90°−(ψ−θr)になる。そして、回転角度θpが90°と270°の間にあるときは、回折X線が平面と成す角度θkは、これら2つの値の中間の値になる。
次に回折X線が平面と成す角度θkを求める式を考える。まず、図14に示すように、照射されるX線が測定対象物の平面に垂直に照射される場合を考え、X線照射円の中心座標を(0,0,0)とし、入射X線の光軸とイメージングプレート15の平面が交差する点の座標を(0,0,L)とする。入射X線の光軸と回折X線がなす角度θrは一定であるので、入射X線の光軸とイメージングプレート15の回転角度θpのラインとを含む平面において、X線照射円の中心から発生した回折X線がイメージングプレート15と交差する点までの距離はL・tanθrである。よって、入射X線の光軸とイメージングプレート15の回転角度θpのラインとを含む平面において、X線照射円の中心から発生した回折X線がイメージングプレート15と交差する点の座標は(L・tanθr・cosθp,L・tanθr・sinθp,L)である。
次にこの状態から、図15に示すように、入射X線をψの角度だけ傾けた状態(X線入射角度をψにした状態)を考える。これは、X軸を回転軸としX軸方向に向かって左周りに座標群を回転させた状態と考えることができるので、回転前の座標(x,y,z)と回転後の座標(x’,y’,z’)には次の数4の式が成り立つ。
この(x,y,z)に座標(0,0,0)、(0,0,L)及び(L・tanθr・cosθp,L・tanθr・sinθp,L)を代入したとき、対応する(x’,y’,z’)の座標は、(0,0,0)、(0,L・sinψ,L・cosψ)及び(L・tanθr・cosθp,L・tanθr・cosψ・sinθp+L・sinψ,−L・tanθr・sinψ・sinθp+L・cosψ)になる。この座標を座標O、座標Ic、座標Rとする。
次に、座標Oから座標Icに向かうベクトルVと座標Oから座標Rに向かうベクトルDとを外積したベクトルSを考える。このベクトルSは、入射X線の光軸とイメージングプレート15の回転角度θpのラインとを含む平面の法線ベクトルである。次にこのベクトルSと(0,0,1)の単位ベクトルとを外積したベクトルFを求める。このベクトルFは、入射X線の光軸とイメージングプレート15の回転角度θpのラインとを含む平面がX線照射円の平面(図15のXY平面)と交差するラインに平行なベクトルである。図15に示すように、回転角度θpの箇所の回折X線が平面と成す角度θkは、ベクトルFとベクトルDが成す角度であり、ベクトルFおよびベクトルDの大きさを|F|および|D|とすると、以下のベクトルの内積の式で求めることができる。
ベクトルFとベクトルDの成分を座標O、座標Ic、座標Rの座標値と外積の計算により求め、数5に代入し、式を整理すると、以下の数6の式が成り立つ。
これで回折X線が平面と成す角度θkを求める式ができたので、数6の式を数3のθkに代入して式を整理すると、次の数7ができる。
数7において、変数は回転角度θpと回折X線の幅Wrであり、X線の入射角度ψを設定すれば、後はすべて定数である。よって、回転角度θpに対する回折X線の幅Wrの変化曲線は、振幅値Aが次の数8であり、中心線の値(平均値)Bが次の数9の正弦曲線になる。
数8において、振幅値Aにおいて変化するのはX線の入射角度ψであり、それ以外は定数である。よって、数8から、X線の入射角度ψが大きくなるほど正弦曲線の振幅値Aは大きくなり、X線の入射角度ψが0°のとき、振幅値Aは0になることがわかる。また、数9においては全てが定数である。よって、数9から、X線の入射角度ψによらず正弦曲線の中心線の値(平均値)Bは変化しないことがわかる。上述したように、θp−W変化曲線は、回転角度θpに対する回折X線の幅Wrの変化曲線に曲線形状が等しいと見なすことができるので、θp−W変化曲線にも同様の特徴があるといえる。これにより、θp−W変化曲線の特徴を理論的に説明することができた。
上記説明からも理解できるように、上記実施形態においては、測定対象物OBに向けてX線を出射し、測定対象物OBにて発生した回折X線を、出射X線の光軸に対して垂直に交差する撮像面を有するイメージングプレート15にて受光し、イメージングプレート15に回折環を形成するX線回折システムを用いて測定対象物OBの表面硬さを評価する際、イメージングプレート15に回折環を形成し、形成した回折環における回折X線の強度分布を検出した後、X線回折システムのコントローラ91が実行する演算プログラムにより、回折環の半径方向における回折X線の強度分布を用いて半価幅Wを回折環の複数の箇所で算出して平均し、得られた半価幅Wの平均値と、予め記憶されている半価幅と表面硬さの関係曲線とを用いて測定対象物OBの表面硬さを算出している。
これによれば、回折環の半径方向における回折X線の強度分布に正常でない箇所があっても、回折X線の強度分布が正常である箇所を抽出して回折環幅を算出することができるので、精度のよい測定対象物OBの表面硬さを求めることができる。また、複数の箇所で回折環幅を算出して平均しているので回折環幅のばらつきを小さくすることができ、1回のX線回折像形成で精度のよい測定対象物OBの表面硬さを求めることができる。
また、上記実施形態においては、コントローラ91が実行する演算プログラムは、検出された回折環における回折X線の強度分布に基づいて、半価幅Wの回折環の円周方向に対する変化曲線であるθp−W変化曲線を算出し、算出されたθp−W変化曲線から半価幅Wの平均値を算出している。
これによれば、半価幅Wを回折環全周に渡ってあらゆる箇所で算出し平均していることになるので、半価幅Wのばらつきをさらに小さくすることができ、精度のよい測定対象物OBの表面硬さを求めることができる。また、上述したように、測定対象物OBへのX線の入射角度ψによって、θp−W変化曲線の振幅は変化するが、θp−W変化曲線の中心線、すなわち半価幅Wの平均値は変化しないので、X線の入射角度を一定にしなくても精度よく測定対象物OBの表面硬さを求めることができる。
また、上記実施形態においては、コントローラ91が実行する演算プログラムは、算出されたθp−W変化曲線に正弦曲線が最も一致するときの正弦曲線の中心線値を算出し、算出した中心線値を半価幅Wの平均値にしている。
これによれば、測定対象物OBが複雑な形状をしている等の原因で回折X線が遮られ、回折環の一部が欠けている場合でも、算出されたθp−W変化曲線に最も一致する正弦曲線の中心線値を求めれば、半価幅Wの平均値を精度よく求めることができ、精度よく測定対象物OBの表面硬さを求めることができる。
また、上記実施形態においては、コントローラ91が実行する演算プログラムは、θp−W変化曲線を算出した後、算出されたθp−W変化曲線を規格化し、規格化したθp−W変化曲線の正弦曲線からのずれを算出し、算出したずれが予め設定された許容値を超えている箇所を、θp−W変化曲線から除外している。
これによれば、θp−W変化曲線に正常でない箇所があっても、その箇所を自動で除外した上で、最も一致する正弦曲線の中心線値から、半価幅Wの平均値を求めることができるので、短時間で半価幅Wの平均値を精度よく求めることができ、精度よく測定対象物OBの表面硬さを求めることができる。
また、上記実施形態においては、コントローラ91が実行する演算プログラムは、検出された回折環における回折X線の強度分布に基づいて、回折環の形状を検出し、検出した回折環の形状からcosα法を用いて測定対象物OBの残留応力を算出している。これによれば、表面硬さ以外に残留応力によっても対象物を評価することができる。
さらに、本発明の実施にあたっては、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
上記実施形態においては、測定対象物OBに対するX線の入射角度ψを所定の角度にし、測定対象物OBの表面硬さに加えて測定対象物OBの残留応力を測定することができるようにした。そして、θp−W変化曲線の正常部分が少ない場合は、測定対象物OBに対するX線の入射角度ψを0°にして測定を行うようにした。しかし、測定対象物OBの表面硬さのみを測定したい場合は、最初から測定対象物OBに対するX線の入射角度ψを0°にして測定を行えばよい。この場合は、θp−W変化曲線は直線になるので、r−I変化曲線が正常な箇所を抽出して、通常の平均の計算で半価幅を求めることができる。また、この場合は、作業者がr−I変化曲線を表示装置93に表示し、適切と判断した箇所を抽出してもよい。さらに、X線回折測定装置を測定対象物OBの表面硬さの測定のみに使用する場合は、X線回折測定装置の筐体50をステージ61に対してX線が垂直に入射する姿勢で支持ロッド52に固定するようにしてもよい。
また、上記実施形態においては、測定対象物OBに対するX線の入射角度ψを所定の角度にするよう調整し、測定対象物OBの形状が複雑等の理由で調整が困難であるときは、調整を行わず、残留応力の計算において、X線の入射角度ψをθp−W変化曲線の振幅値から求めるようにしたが、残留応力の計算の精度を少々落としてもよければ、測定対象物OBに対するX線の入射角度ψの調整は行わないようにしてもよい。これによれば、測定対象物OBの表面硬さの測定精度を変化させず、調整の要する時間を短縮することができる。
また、上記実施形態においては、イメージングプレート15に回折環を形成し、回折X線の強度分布を検出した後、コントローラ91の演算プログラムの実行により、測定対象物OBの表面硬さと残留応力を計算するようにした。しかし、測定に時間がかかってもよければ、回折X線の強度分布データを用いての計算は別の装置で行ってもよいし、計算の一部または全部を人為的に行ってもよい。また、X線回折測定装置は回折環の形成のみを行う装置にし、回折環が形成されたイメージングプレート15をテーブル16から取り外して別の装置にセットし、回折X線の強度分布検出、回折環の消去を別の装置で行うようにしてもよい。
また、上記実施形態においては、回折環の半径方向における強度分布に基づく幅として半価幅を用いたが、回折環の半径方向における強度分布に基づく幅であれば、これ以外の値を用いてもよい。例えば積分幅でもよいし、ピーク値の1/βのレベルでスライスしたときの幅でβを適切な値に定めた幅でもよい。
また、上記実施形態では、対象物セット装置60の移動機構、回転機構を用いて、測定対象物OBの位置、姿勢を調整できる構成にしたが、測定対象物OBは固定させ、X線回折測定装置の筐体50をアーム式移動装置等に連結させて、測定対象物OBに対して筐体50の位置、姿勢を調整するようにしてもよい。この場合は、測定対象物OBが重量物であるか、固定されていて運搬が困難な場合に有効である。
また、上記実施形態および変形例では、イメージングプレート15に回折環を形成し、レーザ照射装置30からのレーザ照射と光の強度検出により、回折環における回折X線の強度に相当する強度の分布を検出し、LED光の照射により回折環の消去を行ったが、回折環を形成してその強度分布を検出することができるならば、回折環の形成と強度分布の検出はどのような方法を用いてもよい。例えば、イメージングプレート15の代わりにイメージングプレート15と同じ広さの平面を有するX線CCDを備え、X線出射器10からのX線照射の際、X線CCDの各画素が出力する電気信号により回折環における強度分布を検出するようにしてもよい。また、イメージングプレート15と同じ広さの平面を有するX線CCDの代わりに微小サイズのX線CCDを位置を検出しながら走査し、X線CCDの各画素が出力する電気信号とX線CCDの走査位置から回折環における強度分布を検出するようにしてもよい。