本発明の一実施形態に係るX線回折測定装置を含むX線回折測定システムの構成について図1乃至図4を用いて説明する。このX線回折測定システムは、X線回折測定装置、高電圧電源65、コンピュータ装置70、先端検出センサ75及びベルトコンベアのように一定速度で移動する長尺状のステージStを有する移動機構から構成される。ステージStは平面で、移動方向がこの平面に平行であり、一定間隔で測定対象物OBが載置されている。よって、ステージStが移動すると、載置された測定対象物OBは移動して次々にX線回折測定装置の直下に来る。そして、X線回折測定システムは、X線回折測定装置の直下に来た測定対象物OBに対して先端から後端までX線を連続的に照射して回折X線の強度を検出し、それぞれの測定対象物OBごとに異常箇所を検出する検査を行う。なお、本実施形態では測定対象物OBは鉄製の平板とする。
X線回折測定装置は、筐体40内にX線を出射するX線出射器10、X線出射器10から出射されるX線を通過させる貫通孔20aが中心に形成され、測定対象物OBのX線照射点で発生する回折X線を入射する電離箱20、出射されるX線の光軸と交差するようにレーザ光を出射するレーザ照射器12を収容している。また、筐体40内には、レーザ照射器12から出射されたレーザ光の照射点で発生する散乱光の1部を集光して結像する結像レンズ30とラインセンサ32とからなる撮像ユニットが収容されている。さらに、筐体40内には、X線出射器10、電離箱20、レーザ照射器12及びラインセンサ32に接続されて作動制御したり、検出信号を入力したりするための各種回路も内蔵されており、図1において筐体40外で2点鎖線で囲まれた各種回路は、筐体40内の2点鎖線内に納められている。なお、図1においては、回路基板、電線、固定具及び空冷ファン等は省略されている。
筐体40は略直方体状に形成され、底面壁40a、前面壁40b、上面壁40c、後面壁40d、及び側面壁40eを有する。底面壁40aにはX線出射器10から電離箱20内の貫通孔20aを介して出射されるX線を通過させ、X線照射点で発生する回折X線を通過させる、円形孔40a1が形成されている。図3は筐体40を底面壁40aの垂直方向から見た図であるが、図3に示すように、円形孔40a1は電離箱20の底面に円状に形成されたスリット19よりやや径が大きく、出射X線を通過させるとともにスリット19を介して電離箱20に入射する回折X線を通過させるようになっている。電離箱20内の貫通孔20aから出射されるX線の光軸は、底面壁40a及び上面壁40cに略垂直であり、前面壁40b、後面壁40d及び側面壁40eに略平行である。また、側面壁40eには接続部51が設けられており、接続部51が固定具50に固定されることで、筐体40は固定具50に連結されている。そして、固定具50は位置と姿勢を微調整することが可能であり、筐体40は位置と姿勢が微調整され、ステージStの平面に対しX線が垂直方向から照射され、ステージSt上の測定対象物OBが標準の厚さであるとき、X線照射点は設定された位置(後述するX線レーザ交差点)になるようになっている。
X線出射器10は、長尺状に形成され、筐体40内の上部にて図示左右方向に延設されて筐体40に固定されており、高電圧電源65からの高電圧の供給を受け、X線制御回路62により制御されて、X線を出射口11から出射する。
X線制御回路62は、後述するコンピュータ装置70を構成するコントローラ71によって制御され、X線出射器10から一定の強度のX線が出射されるように、X線出射器10に高電圧電源65から供給される駆動電流及び駆動電圧を制御する。また、X線出射器10は、図示しない冷却装置を備えていて、X線制御回路62は、この冷却装置に供給される駆動信号も制御する。これにより、X線出射器10は温度が一定に保たれる。
電離箱20は内部に正極と負極を有し、放射線により電離するガスを封入したものであり、作動原理は市場で一般に流通しているものと同等である。電離箱20に放射線(この場合はX線)が入射すると、封入したガスが電離し、正極と負極の間には電離した量、すなわち入射した放射線の強度に相当する強度の電流が流れ、後述する強度検出回路60は、この電流の強度を検出することで入射した放射線(この場合はX線)の強度を取得する。図2及び図3に示されるように電離箱20は円筒状に形成され、底面にX線を入射させるためのスリット19が円状に形成されており、中心に貫通孔20aが形成されている。そして、電離箱20は、底面が底面壁40aの内壁と接触するとともに、貫通孔20aの中心軸がX線出射器10から出射されるX線の光軸と一致するように、筐体40内に固定されている。
図4は、電離箱20を出射X線の光軸を含む平面で切断した断面図により電離箱20の内部構造を示したものである。この切断面は図3では電離箱20の中心を通るラインであるが、図3の横方向と微小な角度を成すラインである。これは断面図にスリット19が描かれるようにする為である。なお、図を分かりやすくするため、後述する三角状ミラー17は図4からは除かれている。図4に示すように電離箱20は中心に貫通孔20aが形成されているが、この貫通孔20aは円筒状パイプ18を底面23の中心に開けられた孔に嵌め込んで固定し、上面22に固定された円柱状の絶縁体26の中心に開けられた孔に嵌め込んで固定したものである。また、円柱状の絶縁体26は上面22に開けられた孔に嵌め込んで固定したものである。円筒状パイプ18は貫通孔20aを通過するX線の遮蔽能力が高い材質で適切な厚さで作成されており、貫通孔20aから電離箱20の内部に入射するX線は無視できる程度に小さくされている。X線の遮蔽能力が高い材質としては鉛、銅又は鉄などを用いることができる。電離箱20の内部には貫通孔20aを囲むように円筒状の正極27が配置されており、円筒状の側面21の近傍に円筒状の負極29が配置されている。円筒状の正極27は円柱状の絶縁体26に固定され、絶縁体26は上面22に固定されることで、電離箱20内部で固定されている。同様に、円筒状の負極29は円筒状の絶縁体28に固定され、円筒状の絶縁体28は上面22に開けられた孔に嵌め込んで固定されることで、電離箱20の内部で固定されている。なお、絶縁体28が上面22に嵌め込んで固定される箇所は、上面22の側面21の近傍に数箇所形成された孔である。正極27及び負極29は一部が絶縁体26及び絶縁体28から電離箱20の外側に出ており、この箇所から正極27と負極29間に電圧を印加することができる。
図3に示すように電離箱20の底面23には電離箱20の中心軸(貫通孔20aの中心軸)を中心とした円状のスリット19が形成されており、このスリット19は図4に示すように、底面23に形成された断面が凸状の孔に、放射線透過用の物体19を嵌め込んで固定したものである。放射線透過用の物体19はX線の透過率が高くて機械的強度が大きければどのような材質でもよく、例えばポリカーボネートなどを用いることができる。電離箱20の内部はX線により電離するガスが封入されており、スリット19から電離箱20の内部に入射したX線により封入したガスが電離し、電圧が印加された正極27及び負極29の間には電流が流れる。
貫通孔20a(円筒状パイプ18)には、上側と下側の端に微小な孔が開けられた通路部材24,25が固定されており、X線出射器10の出射口11から出射されたX線は、通路部材24の孔から貫通孔20aに入り、通路部材25の孔から出射する。出射口11から出射されるX線は拡散するX線であるが、通路部材24の孔、貫通孔20a及び通路部材25の孔を通過することで貫通孔20aの中心軸(電離箱20の中心軸)に平行なX線になる。
貫通孔20aを介して測定対象物OBにX線が照射されると照射箇所で回折X線が発生するが、回折X線は出射X線の光軸に対する角度がブラッグの条件に合致する角度である箇所で強度の高いX線となり、これは、出射X線の光軸に垂直なあらゆる方向において成り立つため、出射X線の光軸に垂直な面には回折環が形成される。この回折環は出射X線の光軸に垂直なあらゆる面にて形成されるが、測定対象物OBのX線照射点からの距離が大きいほど半径が大きくなる。また、この回折環の半径方向のX線強度分布曲線は正規分布曲線に近い曲線となる。スリット19は、測定対象物OBにおけるX線照射点が設定された位置(後述するX線レーザ交差点)にあるとき、半径方向の中心を回折環が通る位置に形成されている。別の言い方をすると、回折環の半径方向におけるX線強度分布曲線のピーク位置が、スリット19の半径方向の中心と一致する位置に形成されている。そしてスリット19の幅は、電離箱20に入射する回折X線の量が適切になる幅にされている。この点は後程、詳細に説明する。
強度検出回路60は、後述するコントローラ71から作動開始の指令が入力すると、電離箱20の正極27及び負極29の間に電圧を印加するとともに、正極27及び負極29の間に流れる電流の強度を検出し、検出した電流の強度を設定された時間間隔でデジタルデータにしてコントローラ71に出力する。強度検出回路60は、正極27及び負極29の間に流れる電流の強度を、該電流を高い抵抗を通すことで電圧に変換するか又はコンデンサで充電して電荷量に変換することで検出する。上述したように検出した電流の強度は、電離箱20に入射したX線の強度に相当するので、コントローラ71は作動開始の指令を出力すると、電離箱20に入射したX線の強度が設定された時間間隔で入力することになる。
なお、電離箱20の正極27及び負極29の間に印加する電圧を上昇させると、電離箱20は比例計数管になり、更に上昇させるとガイガー・ミュラー管(GM管)になるが、入射した回折X線の強度に相当する強度の電流を発生させることができれば、正極27及び負極29の間に印加する電圧は適宜設定してよい。よって請求項に記載されている電離箱は、比例計数管及びガイガー・ミュラー管のように入射したX線によるガスの電離現象により正極と負極の間に電流が発生するものであれば、どのようなものも含まれる。
図2及び図3に示すように、筐体40の底面壁40aの短尺方向における中心線位置で長尺方向の先端位置付近には、レーザ照射器12が、その中心軸が底面壁40aに平行かつ前面壁40bに垂直になるよう取り付けられている。レーザ照射器12は、円筒状の枠体13にレーザ光源14を固定具15で固定し、円筒状の枠体13の先端近傍にコリメーティングレンズ16を固定したものであり、レーザ光源14から出射されたレーザ光は、コリメーティングレンズ16で平行光になって出射される。レーザ光源14はレーザ駆動回路61から駆動信号が入力することでレーザ光を出射し、レーザ駆動回路61は、後述するコントローラ71から照射開始の指令が入力すると、レーザ光源14が設定された強度のレーザ光を出射するための駆動信号を出力する。レーザ照射器12から出射されるレーザ光は、電離箱20の底面23に固定された三角状ミラー17で反射し測定対象物OBに照射される。三角状ミラー17で反射した後のレーザ光の光軸は、出射X線の光軸と交差するようになっており、出射X線の光軸とレーザ光の光軸とは1つの平面に含まれる。以下、この平面を基準平面という。三角状ミラー17の反射面の法線は基準平面に平行であり、三角状ミラー17で反射する前のレーザ光の光軸も基準平面に含まれる。よって、基準平面は底面壁40aの短尺方向の中心線を含み、前面壁40bに垂直な平面と略同一な平面である。
三角状ミラー17で反射した後のレーザ光の光軸が出射X線の光軸と交差する点を測定対象物OBのX線照射点としたとき、電離箱20の底面23にあるスリット19の半径方向の中心を回折環が通るよう、厳密な言い方をすると、回折環の半径方向のX線強度分布曲線のピーク点がスリット19の半径方向の中心と合致するよう三角状ミラー17は位置が調整されている。以下、出射X線の光軸とレーザ光の光軸の交差点を、X線レーザ交差点という。X線レーザ交差点は、電離箱20の底面23にあるスリット19に回折X線を入射させるのに最適なX線照射点であり、設定されたX線照射点の位置である。別の言い方をすると基準のX線照射点である。
底面壁40aには円筒状の枠体31に結像レンズ30が固定されており、結像レンズ30の光軸は基準平面に含まれている。そして、結像レンズ30の光軸と中心が交差するようラインセンサ32が筐体40内で固定されている。結像レンズ30とラインセンサ32は撮影ユニットを形成しており、被写界深度はX線レーザ交差点を中心とした範囲になるよう、結像レンズ30に対するラインセンサ32の位置が設定されている。レーザ照射器12からレーザ光が出射されると、測定対象物OBのレーザ光照射点では散乱光と反射光が発生するが、散乱光の一部は結像レンズ30に入射してラインセンサ32で結像し、ラインセンサ32にはレーザ光照射点の像ができる。ラインセンサ32はCCD又はCMOS等からなる画素を1列に並べたものであり、後述するずれ距離検出回路63からの信号が入力すると、ずれ距離検出回路63にそれぞれの画素が蓄積した電荷量(受光強度に相当)に相当する強度の信号を並んだ画素順に出力する。
ずれ距離検出回路63は、後述するコントローラ71から作動開始の指令が入力すると、ラインセンサ32から設定された時間間隔で信号を入力し、画素順に信号強度(受光強度に相当)をデジタルデータにする。これは、ラインセンサ32の長尺方向の受光強度分布曲線をデジタルデータにしたものであり、次いで、ずれ距離検出回路63は内蔵するプログラムを作動させて、このデジタルデータから受光強度分布曲線のピーク位置を算出する。これは、ラインセンサ32の長尺方向におけるレーザ光照射点の像の位置を検出することである。さらに距離検出回路63は、予め記憶されているピーク位置(レーザ光照射点の像の位置)とX線照射点のX線レーザ交差点からの距離との関係に、検出したピーク位置を当てはめて、X線照射点のX線レーザ交差点からの距離を算出し、このデジタルデータをずれ距離としてコントローラ71に出力する。上述したように、X線レーザ交差点は基準のX線照射点であるため、ずれ距離は、実際のX線照射点の基準のX線照射点からのずれ距離である。なお、これは3角測量法により距離を求める方法であるが、実際に受光強度分布曲線のピーク位置と1:1の関係になるのは、レーザ光照射点のX線レーザ交差点からの距離である。ただし、出射X線の測定対象物OBの表面に対する角度がほぼ一定であれば、レーザ光照射点とX線照射点の位置関係は1:1の関係になるので、X線照射点のX線レーザ交差点からの距離も受光強度分布曲線のピーク位置と1:1の関係になる。
X線照射点のX線レーザ交差点からの距離(ずれ距離)と受光強度分布曲線のピーク位置との関係は、次のようにすれば得ることができる。基準厚さの直方体形状の測定対象物OBをステージStに載置し、X線感光フィルムを測定対象物OBの上面に置いてX線を照射し、X線照射点がわかるようにする。次に、筐体40の位置を調整してレーザ光がX線照射点に合致するようにし、このときの受光強度分布曲線のピーク位置を検出する。これが、ずれ距離0のピーク位置になる。そして、厚さが異なる直方体形状の測定対象物OBを次々にステージStに載置し、受光強度分布曲線のピーク位置を検出する。2回目以降の測定対象物OBの厚さから最初の測定対象物OBの厚さを減算したものが、X線照射点のX線レーザ交差点からの距離(ずれ距離)であるので、これにより、X線照射点のX線レーザ交差点からの距離(ずれ距離)と受光強度分布曲線のピーク位置との関係を得ることができる。なお、測定対象物OBの上面及び筐体40の上面壁40cに水準器をセットし、測定対象物OBの上面及び筐体40の上面壁40cが常に水平になるよう調整しながら上記操作を行えば、測定対象物OBの上面に精度よく垂直にX線が照射されるので、該関係を精度よく得ることができる。
ステージStの側面の近傍には、測定対象物OBの先端および後端が出射X線が照射される位置になったことを検出するための端検出センサ75が取り付けられている。端検出センサ75はステージStの反対側の側面近傍にあるレーザ光の受光の有無により、測定対象物OBの先端および後端を確認するものであり、レーザ光を受光すると所定強度の信号を出力し、レーザ光の受光がないと信号の出力はないようになっている。端検出回路76は端検出センサ75と一体になっており、後述するコントローラ71から作動指令が入力した後、端検出センサ75から入力する信号の強度が所定強度から0になると、「先端検出」を意味する信号をコントローラ71に出力し、0から所定強度になると「後端検出」を意味する信号をコントローラ71に出力する。なお、端検出センサ75が検出するライン(反対側にあるレーザ光の光軸)は、測定対象物OBの移動方向に対して出射X線の光軸よりやや後方にあり、後述するように、「先端検出」の信号が出力されたときは、予め設定された時間をおいて回折X線の強度の検出を行い、「後端検出」の信号が出力されたときは、即座に回折X線の強度の検出を停止するようになっている。これは、出射X線が測定対象物OBの先端及び後端の縁にかかった状態では正常な検査ができないため、この状態のときは検査を行わないようにするためである。
コンピュータ装置70は、コントローラ71、入力装置72及び表示装置73からなる。コントローラ71は、CPU、ROM、RAM、大容量記憶装置などを備えたマイクロコンピュータを主要部とした電子制御装置であり、大容量記憶装置に記憶されたプログラムを実行してX線回折測定装置の作動を制御するとともに、入力したデジタルデータを用いて演算を行い、合否を判定する処理を行う。入力装置72は、コントローラ71に接続されて、作業者により、各種パラメータ、作動指示などの入力のために利用される。表示装置73も、コントローラ71に接続されて、X線回折測定システムの各種の設定状況、作動状況及び検査結果などを表示する。
ここで、コントローラ71が入力するデジタルデータである、強度検出回路60から入力する電離箱20に入射した回折X線の強度と、ずれ距離検出回路63から入力するX線照射点のX線レーザ交差点からの距離(ずれ距離)とから測定対象物OBを検査する(異常を検出する)ことができることを説明する。図5は、実際のX線照射点がX線レーザ交差点(基準のX線照射点)に合致したとき、スリット19の半径方向(回折環の半径方向)におけるX線強度分布曲線にスリット19を重ね合わせて示したものであり、図5(a)において、実線は測定箇所が正常な場合のX線強度分布曲線であり、2点鎖線はスリット19の縁である。X線強度分布曲線のピーク点が、スリット19の半径方向の中心になっており、X線強度分布曲線の強度が減少して0付近になる箇所が、スリット19の半径方向の縁になっている。X線強度分布曲線を標準偏差σの正規分布曲線とみなすと、スリット19の短尺方向の縁は、2.5σ程度の箇所にされている。図5(a)において、点線は測定箇所に表面硬さまたはそれ以外の特性の異常で回折X線の強度分布が変化したときのX線強度分布曲線であり、この曲線は正常時よりもなだらかな曲線となる。言い換えると、X線強度分布曲線を標準偏差σの正規分布曲線とみなすと標準偏差σは正常時よりも大きくなる。このため、スリット19を通過する回折X線は大きく減少する。よって、測定箇所(X線照射点)に、表面硬さ等、回折X線の強度分布が変化する異常があったとき、検出される回折X線の強度は大きく減少する。なお、本実施形態ではスリット19の半径方向の縁は、X線強度分布曲線を標準偏差σの正規分布曲線とみなすと、2.5σ程度の箇所としたが、スリット19の半径方向の縁は、対象とする測定対象物OBを多く検査して最適な箇所にすればよく、1.5σ〜4σの範囲で適宜設定されるものである。なお、回折X線の強度分布が変化する異常は、X線強度分布曲線がなだらかになる異常のみならず、測定対象物OBの表面に皮膜や錆があることでX線強度分布曲線のピーク強度が小さくなる異常も含む。この場合も、スリット19を通過する回折X線は大きく減少するので異常を検出することができる。
図5(b)は、測定箇所が正常で、実際のX線照射点がX線レーザ交差点(基準のX線照射点)からずれたときの、スリット19の半径方向(回折環の半径方向)におけるX線強度分布曲線にスリット19を重ね合わせて示したものである。図5(b)において、実線はX線照射点がX線レーザ交差点に合致した場合のX線強度分布曲線であり、点線および1点鎖線はX線照射点がX線レーザ交差点からずれたときのX線強度分布曲線であり、2点鎖線はスリット19の半径方向の縁である。点線および1点鎖線のX線強度分布曲線のピーク位置はスリット19の半径方向の中心からずれるが、スリット19を通過する回折X線は多少減少するにとどまる。よって、測定対象物OBが移動したとき、X線レーザ交差点の測定対象物OB表面からの変位が微小であれば、合否判定レベルを適切に定め、強度検出回路60が検出した回折X線の強度とこの合否判定レベルとを比較することで、合否を判定する(異常箇所を検出する)ことができる。
また、測定対象物OBに厚さの異常、測定対象物OBの載置の仕方異常またはX線回折測定装置の位置ずれ等があり、X線照射点のX線レーザ交差点からのずれが大きい場合は、スリット19を通過する回折X線は大きく減少するが、この場合は、検出したずれ距離も大きいので、回折X線の強度分布が変化する異常とは別の異常であることを判別することができる。そして、異常の原因は標準厚さの測定対象物OBを用意しておけばつきとめることができる。
また、回折X線の強度分布が変化する異常には異常の度合いがあり、図5(a)に点線で示すX線強度分布曲線のなだらかさの度合い(標準偏差σの正規分布曲線とみなしたときの標準偏差σの大きさ)にも幅がある。このため、検出した回折X線の強度の減少度合いが小さくても、合否判定を精度よく行うことができるよう、合否判定レベルを検出したずれ距離により補正することを行っている。これは、ずれ距離と(回折X線強度/ずれ距離0における回折X線強度)との関係を得て記憶しておき、検出したずれ距離から(回折X線強度/ずれ距離0における回折X線強度)を求め、基準の合否判定レベルに(回折X線強度/ずれ距離0における回折X線強度)を乗算することで補正するものである。ずれ距離と(回折X線強度/ずれ距離0における回折X線強度)との関係は、上述した、ずれ距離と受光強度分布曲線のピーク位置との関係を求める作業を行う際、X線を照射して回折X線の強度を検出すれば得ることができる。
次に、上記のように構成したX線回折測定装置を含むX線回折測定システムを用いて、一定速度で移動する長尺状のステージStに載置された測定対象物OBを次々に検査する場合のX線回折測定システムの作動について、コントローラ71が実行するプログラムのフロー図である図6に沿って説明する。まず、作業者は移動機構を操作してステージStを載置された測定対象物OBの移動を開始し、次いで入力装置72から検査開始の指令を入力する。これによりコントローラ71は図6に示すフローのプログラムの実行をステップS1にて開始する。
まず、コントローラ71はステップS2にて、コントローラ71に内蔵されたクロックによる時間計測を開始し、ステップS3にて端検出回路76に作動開始の指令を出力する。これにより端検出回路76は、上述したように端検出センサ75からの信号により測定対象物OBの先端と後端を検出するごとに、「先端検出」及び「後端検出」を意味する信号をコントローラ71に出力する。次にコントローラ71はステップS4にて測定対象物OBを識別する番号であるmを「1」にし、ステップS5にて測定点を識別する番号であるnを「0」にする。そして、ステップS6にて端検出回路76から最初の測定対象物OBにおける「先端検出」の信号が入力するのを待ち、入力するとYesと判定してステップS7へ行き、ステップS7にてX線制御回路62に出射開始の指令を出力し、ステップS8にてレーザ駆動回路61に出射開始の指令を出力し、ステップS9にてずれ距離検出回路63にデータ出力開始の指令を出力し、ステップS10にて強度検出回路60にデータ出力開始の指令を出力する。これにより、X線回折測定装置(筐体40)からX線とレーザ光が測定対象物OBに向けて照射され、X線照射点のX線レーザ交差点からの距離(ずれ距離)と回折X線強度のデジタルデータがコントローラ71に入力するようになる。
次に、コントローラ71はステップS11にて計測時間をリセットして0にし、ステップS12にて予め設定した時間Tが経過するのを待つ。これは、上述したように、端検出センサ75が検出するライン(反対側にあるレーザ光の光軸)は、測定対象物OBの移動方向に対して出射X線の光軸よりやや後方にあり、出射X線が測定対象物OBの縁にかかると正確な検査が行われないため、X線照射点が測定対象物OBの縁より微小距離だけ離れ、正確に検査を行うことができるまで待つためのものである。そして、時間Tが経過するとYesと判定してステップS13へ行き、ステップS13にて計測時間がT+n・Δt以上になったか判定する。最初nは「0」にされているので、即座にYesと判定してステップS14へ行き、ステップS14にて強度検出回路60から入力している回折X線強度データI(n,m)をメモリに取込み、ステップS15にてずれ距離検出回路63から入力しているずれ距離D(n,m)をメモリに取込む。次にステップS16にて、取込んだずれ距離D(n,m)を予め記憶しているずれ距離と(回折X線強度/ずれ距離0における回折X線強度)との関係に当てはめて補正係数として使用する(回折X線強度/ずれ距離0における回折X線強度)を求め、合否判定レベルLに求めた補正係数を乗算して補正合否判定レベルL’を求める。そしてステップS17にて、取込んだ回折X線強度データI(n,m)が補正合否判定レベルL’以上である場合はYesと判定してステップS19へ行き、取込んだ回折X線強度データI(n,m)が補正合否判定レベルL’未満である場合はNoと判定してステップS18へ行き、回折X線強度データI(n,m)を異常箇所データとして別のメモリ領域に記憶した後、ステップS19へ行く。
次に、コントローラ71はステップS19にて取込んだずれ距離D(n,m)の絶対値が許容値A以下である場合は、Yesと判定してステップS21へ行き、取込んだずれ距離D(n,m)の絶対値が許容値Aを超える場合はNoと判定してステップS20へ行き、ずれ距離D(n,m)を異常箇所データとして別のメモリ領域に記憶した後、ステップS21へ行く。次に、コントローラ71はステップS21にて、端検出回路76から最初の測定対象物OBにおける「後端検出」の信号が入力したか判定するが、この段階では検査を開始したばかりであるのでNoと判定してステップS22へ行き、nをインクリメントしてステップS13に戻る。そして、ステップS13にて計測時間がT+n・Δt(この場合はT+Δt)になるまで待ち、計測時間がT+n・ΔtになるとYesと判定してステップS14へ行き、上述したステップS14乃至ステップS22の処理を行ってステップS13へ戻る。このようにして計測時間がT,T+Δt,T+2・Δtと、Δtづつ増えるごとに、回折X線強度データI(n,m)及びずれ距離D(n,m)が取込まれてそれぞれ合否判定が行われ、不合格(異常検出)の場合はI(n,m)又はずれ距離D(n,m)が異常箇所データとして別のメモリ領域に記憶されていく。そして、端検出回路76から「後端検出」の信号が入力すると、ステップS21にてYesと判定してステップS23へ行き、ステップS23乃至ステップS26にて、X線制御回路62とレーザ駆動回路61に出射停止の指令を出力し、ずれ距離検出回路63と強度検出回路60にデータ出力停止の指令を出力する。これにより、次の測定対象物OBが来るまでX線とレーザ光の照射は停止し、ずれ距離検出回路63と強度検出回路60はデータの出力を停止する。なお、上述したように、端検出センサ75が検出するライン(反対側にあるレーザ光の光軸)は、測定対象物OBの移動方向に対して出射X線の光軸よりやや後方にあるため、端検出センサ75が後端を検出したときは、出射X線は測定対象物OBの後端の縁にかかっていない。よって、「後端検出」の信号が入力したときは、即座にX線とレーザ光の照射を停止し、データの出力を停止する。
次に、コントローラ71はステップS27にて、異常箇所データとして別のメモリ領域に記憶した回折X線強度データI(n,m)又はずれ距離D(n,m)があるか判定し、ない場合はNoと判定してステップS28へ行き、「合格」の表示を、m=1に対応する測定対象物OBの識別情報とともに表示装置73へ表示させる。また、別のメモリ領域に記憶した回折X線強度データI(n,m)又はずれ距離D(n,m)がある場合は、Yesと判定してステップS29へ行き、「不合格」の表示を測定対象物OBの識別情報とともに表示装置73へ表示させる。そして、ステップS30にて、記憶したデータのn、予め記憶されているステージStの移動速度F、時間Tおよび端検出センサ75が検出するラインから出射X線の光軸までの距離Bから、F・(T+n・Δt)−Bの計算を行い、異常箇所の測定対象物OBの先端からの距離を計算する。さらに、補正された合否判定レベルL’と回折X線強度データI(n,m)との比、またはずれ距離D(n,m)と許容値Aとの差を、予め記憶されている異常度合のテーブルに当てはめて、異常度合を定める。異常度合のテーブルは、補正された合否判定レベルL’と回折X線強度データIとの比、およびずれ距離Dと許容値Aとの差を数値の範囲ごとに分け、「微」,「小」,「中」,「大」,「特大」又は「1」,「2」,「3」,「4」,「5」というように異常度合を定めたものである。なお、合否判定レベルL’と回折X線強度データI(n,m)との比の数値、およびずれ距離D(n,m)と許容値Aとの差の数値を、そのまま異常の度合いとしてもよい。そして、コントローラ71は、このように計算した異常箇所の先端からの距離と定めた異常の度合を、異常の種類(回折X線の強度分布が変化した異常か、ずれ距離が許容値を超えた異常か)とともに表示装置73へ表示する。この表示において、数値での表示に加えて図で異常箇所と異常の度合を示す表示を行うと検査結果が分かりやすい。
次に、コントローラ71はステップS31にて、mをインクリメントしてステップS5に戻り、m=2の測定対象物OBに対して、上述したステップS5乃至ステップS30の処理を行う。そして、ステップS31にて、mをインクリメントしてステップS5に戻り、m=3の測定対象物OBに対して同様の処理を行う。このようにして、移動するステージStに載置されて次々に移動してくる測定対象物OBが検査され、検査結果が表示装置73に表示される。作業者は表示装置73に表示される結果を見て、不合格と判定された測定対象物OBをステージStから取り除き、それ以外の測定対象物OBと分別する。なお、不合格がずれ距離によるものである場合は、異常の原因が測定対象物OBの厚さによるものか、測定対象物OBのステージStへの載置の仕方によるものかを調査する。また、ずれ距離による不合格が連続して発生する場合は、後述するように検査を停止し、X線回折測定装置(筐体40)の位置が変化していないか調査する。いずれの場合も、標準厚さの測定対象物OBを用意しておけば異常の原因をつきとめることができる。そして、検査する測定対象物OBがなくなり、作業者が入力装置72から検査停止の指令を入力すると、ステップS32にてYesと判定してステップS33へ行き、ステップS33にて端検出回路76へ作動停止の指令を出力し、内蔵されたクロックによる時間計測を停止する。次にステップS34にて、異常箇所データとして記憶した回折X線強度データI(n,m)及びずれ距離D(n,m)を別のメモリ領域に移動して、次回の検査の際に使用するメモリ領域を空にし、ステップS35にてプログラムの実行を終了する。
このように、ステージStを移動させた後、入力装置72から検査開始の指令を入力すれば、コントローラ71がインストールされたプログラムを実行することで、ステージStに載置された測定対象物OBの検査が次々に行われ、検査結果が順に表示装置73に表示される。作業者は異常が検出された測定対象物OBの異常の原因を詳細に分析したいときは、該測定対象物OBをX線回折像を得るX線回折装置にセットして、異常箇所のX線回折像を測定すればよい。なお、コントローラ71に設定されている合否判定レベルLは、測定対象物OBに照射されるX線の強度が一定である必要がある。上述したように、X線制御回路62は、X線出射器10から一定の強度のX線が出射されるように、高電圧電源65からX線出射器10に供給される駆動電流及び駆動電圧を制御しているが、長期間が経過するとX線出射器10から出射されるX線の強度が変化する可能性がある。よって、定期的に標準の測定対象物OBを測定して回折X線強度データIが許容範囲内にあることを確認する必要がある。そして、許容範囲外になったときは、X線制御回路62の設定を変えて標準の測定対象物OBの回折X線強度データIを許容範囲内にするか、又は合否判定レベルLを設定し直し、その時点の回折X線強度データIの平均値を中央値にした新たな許容範囲を定める必要がある。
上記説明からも理解できるように、上記実施形態においては、X線回折測定装置を、対象とする測定対象物OBに向けてX線を略平行光にして出射するX線出射器10及び貫通孔20aからなるX線出射手段と、X線出射手段から出射されるX線が測定対象物OBに照射されたとき、測定対象物OBにて発生する回折X線を通過させるスリット19であって、回折X線により回折環が形成される箇所に円状に形成され、測定対象物OBが正常であり測定対象物OBにおけるX線照射点が設定された位置であるときの、回折環の半径方向におけるX線強度分布曲線を標準偏差σの正規分布曲線とみなしたとき、正規分布曲線の両側における1.5σ乃至4σの箇所が半径方向の縁になるようにされたスリット19と、内部に正極27と負極29とからなる電極を設け、X線により電離するガスを封入した電離箱20であって、スリット19を通過した回折X線が入射し、入射した回折X線により発生するガスの電離現象により、電極を通して入射した回折X線の強度に対応する強度の電流が流れる電離箱20と、電離箱20に流れる電流の強度を、スリット19を通過した回折X線の強度として検出する強度検出回路60とを備えたX線回折測定装置としている。
これによれば、X線が測定対象物OBに照射されたとき、スリット19を通過する回折X線は、回折環の半径方向におけるX線強度分布曲線を標準偏差σの正規分布曲線とみなしたとき、正規分布曲線の両側における1.5σ乃至4σの箇所を下限と上限にした範囲となり、測定箇所(X線照射点)が正常であれば、X線照射点が設定された位置から多少ずれても、大部分の回折X線がスリット19を通過する。これに対し、測定箇所が表面硬さまたはそれ以外の特性の異常で回折X線の強度分布が変化したときは、X線強度分布曲線は、正常時よりもなだらかな曲線となり、言い換えると、X線強度分布曲線を標準偏差σの正規分布曲線とみなすと標準偏差σは正常時よりも大きくなり、多くの回折X線がスリット19で遮断される。よって、測定箇所(X線照射点)に、表面硬さ等、回折X線の強度分布が変化する異常があったとき、電離箱20に入射する回折X線の強度すなわち強度検出回路60が検出する電離箱20に流れる電流の強度は大きく変化し、測定箇所の異常を検出することができる。すなわち、X線照射点が設定された位置になるよう測定対象物OBに対するX線回折測定装置の位置を定め、測定対象物OBと装置の位置関係が大きく変化しないように測定対象物OBを装置に対して移動させれば、1つの電離箱20を有するX線回折測定装置により、先行技術と同様に回折X線の強度分布が変化する異常を検出することができ、装置のコストアップ及び装置維持のための工数と費用を大幅に抑制することができる。
また、上記実施形態においては、X線出射手段は、X線を出射するX線出射器10とX線出射器10から出射されたX線を通過させる貫通孔20aとから構成され、貫通孔20aは電離箱20に形成されたものであり、電離箱20の内部における貫通孔20aの周囲には正極27が形成されているようにしている。これによれば、X線出射器10と電離箱20とを近接させて配置することができ、X線回折測定装置を小型化することができる。
また、上記実施形態においては、X線出射器10及び貫通孔20aからなるX線出射手段から出射されるX線の光軸と交差するよう微小断面のレーザ光を照射するレーザ光照射器12及び三角状ミラー17であって、X線の光軸と交差する点が測定対象物OBにおけるX線照射点であるとき、X線強度分布曲線のピーク点がスリット19の半径方向における中心になるようレーザ光を照射するレーザ光照射器12及び三角状ミラー17と、レーザ光照射器12及び三角状ミラー17が出射したレーザ光が測定対象物OBに照射されたとき、測定対象物OBのレーザ光照射点で発生する散乱光の一部をラインセンサ32で受光し、ラインセンサ32の受光位置からX線の光軸と交差する点と測定対象物OBにおけるX線照射点との間の距離を、ずれ距離として検出するずれ距離検出回路63とを備えたX線回折測定装置としている。
これによれば、強度検出回路60が検出する強度(電離箱20に入射する回折X線の強度)が大きく変化したとき、ずれ距離検出回路63が検出するずれ距離も大きく変化すれば、回折X線の強度の変化は、測定箇所の回折X線の強度分布が変化する異常によるものではなく、測定対象物OBと装置の位置関係が変化したことのよるものとすることができる。この場合は、測定対象物OBの厚さ異常、測定対象物OBの載置の仕方異常またはX線回折測定装置の位置ずれ等が考えられるが、標準厚さの測定対象物OBを用意しておけば異常の原因をつきとめることができる。すなわち、回折X線の強度分布が変化する異常をより正確に検出することができる。
また、上記実施形態においては、強度検出回路60が検出した強度と予め設定した合否判定レベルとを比較して合否判定を行うコントローラ71にインストールされたプログラムであって、合否判定レベルLをずれ距離検出回路63が検出したずれ距離を用いて補正したうえで合否判定を行うプログラムを備えている。
これによれば、測定対象物OBとX線回折測定装置の位置関係が多少変化しても、すなわち、ずれ距離検出回路63が検出するずれ距離が0から多少変化しても、スリット19を通過する(電離箱20に入射する)回折X線の強度は微小にしか変化しないが、コントローラ71にインストールされたプログラムはこの微小の変化分がないように合否判定レベルLを補正するので、測定対象物OBの測定箇所(X線照射点)が正常であれば、強度検出回路60が検出する強度と合否判定レベルLとの強度関係は略一定になる。よって、回折X線の強度分布が変化する異常をより精度よく検出することができる。
なお、本発明の実施にあたっては、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
上記実施形態では、本発明を測定対象物OBが移動機構のステージSt上に載置され一定速度で移動する場合に適用したが、X線回折測定装置を持ち運んで複数の対象箇所を検査する場合にも本発明は適用することができる。図7はこの場合のX線回折測定装置の構造を示した図である。上記実施形態のX線回折測定装置と異なっている点は、レーザ照射器12、三角状ミラー17及び結像レンズ30とラインセンサ32からなる撮像ユニットを備えず、底面壁40aの円形孔40a1に嵌め込むように固定された円筒体56を備え、測定対象物OBに円筒体56を密着させることでX線照射点を設定された位置(基準のX線照射点)にしている点である。及び、X線回折測定装置を運搬可能なように取っ手55を上面壁50cに取り付けている点である。作業者は取っ手55を持って円筒体56の中心軸が測定対象物OBと交差する箇所が検査対象箇所になるよう、測定対象物OBに円筒体56を密着させ、上記実施形態のようにX線を出射して電離箱20に入射する回折X線の強度を測定する。これにより、上記実施形態と同様、検査対象箇所(X線照射点)を検査することができる。また、円筒体56を測定対象物OBに密着させることで回折X線をX線回折測定装置から外に出さないようにし、作業者のX線被曝量を無視できるレベルまで下げることができる。なお、上記実施形態のようにX線回折測定装置を固定し、測定対象物OBを繰り返し固定されたステージSt上に載置しながら、連続して検査する場合にも本発明は適用することができる。
また、上記実施形態では、X線照射点のX線レーザ交差点(基準のX線照射点)からのずれ距離を検出して合否判定レベルを補正するようにしたが、合否判定レベルを補正することに替えて、検出したずれ距離が常に0になるよう、X線回折測定装置の位置を制御するようにしてもよい。この場合はX線回折測定装置(筐体40)を出射X線の光軸方向に移動する機構を設け、ずれ距離を検出するごとに、検出したずれ距離分、X線回折測定装置(筐体40)が移動するようフィードバック制御を行うようにすればよい。この形態は、測定対象物OBの表面が凹凸があるものである場合や、測定対象物OBの移動方向と測定対象物OBの表面が平行でない場合(表面に傾きがある場合)などに有効である。
また、測定対象物OBの表面の凹凸度合いが大きい場合や測定対象物OBの移動方向と測定対象物OBの表面が成す角度が場所ごとに異なる場合は、ずれ距離が常に0になるとともに、測定対象物OBの表面に対する出射X線の光軸が常に垂直になるよう、X線回折測定装置の位置に加えて姿勢も制御するようにしてもよい。この場合は、X線回折測定装置(筐体40)を出射X線の光軸方向に移動する機構に加えてX線回折測定装置(筐体40)を測定対象物OBの移動方向に平行な2つの軸周りに傾斜角を変化させる機構を設け、測定対象物OBの表面の法線に対する出射X線の光軸が成す角度を微小時間間隔で検出し、検出するごとにこの角度が0になるようX線回折測定装置(筐体40)の姿勢をフィードバック制御するようにすればよい。測定対象物OBの表面の法線に対する出射X線の光軸が成す角度は、レーザ照射器12から三角状ミラー17を介して照射されるレーザ光の反射光を受光するエリアセンサを設け、エリアセンサの受光位置から検出するようにすればよい。
また、上記実施形態では、合否判定レベルLに、ずれ距離検出回路63が検出したずれ距離を予め記憶されている関係に当てはめて得られる(回折X線強度/ずれ距離0における回折X線強度)を乗算して、合否判定レベルL’にしたうえで合否を判定するようにした。しかし、これに替えて強度検出回路60が検出した回折X線の強度(電離箱20に入射した回折X線の強度)であるI(n,m)をずれ距離から得られる(回折X線強度/ずれ距離0における回折X線強度)で除算して、I(n,m)’ にしたうえで合否を判定するようにしてもよい。
また、上記実施形態2では、レーザ照射器12から出射されるレーザ光を三角状ミラー17を介してX線の光軸と交差するようにし、X線レーザ交差点が基準のX線照射点になるようにしたが、微小な断面径の平行光を照射することができればレーザ光以外のものを照射してもよい。例えば、LED光のようなインコヒーレント光を、微小な内径の円筒状パイプを通過させることで微小な断面径の平行光にして照射してもよい。
また、上記実施形態では、スリット19を電離箱20の底面23に形成したが、回折X線が電離箱20に入射する手前にスリットがあっても、回折環の半径方向におけるX線強度分布曲線を標準偏差σの正規分布曲線とみなしたとき、スリットの半径方向の縁が正規分布曲線の両側における1.5σ乃至4σの箇所になるようになっていればよい。よって、電離箱20の底面23には広い面積で入射口を設け、底面23の手前にスリットが形成された円状の平板を配置してもよい。
また、上記実施形態では、X線回折測定装置(筐体40)が固定され、測定対象物OBを載置したステージStが移動機構により移動するシステムにした。しかし、X線回折測定装置(筐体40)と相対的に測定対象物OBが移動すれば本発明は適用することができるので、測定対象物OBが固定されているときはX線回折測定装置(筐体40)を移動機構にセットし、X線回折測定装置を測定対象物OBに対して移動するシステムにすればよい。
また、上記実施形態2では、測定対象物OBの検査結果として、合否判定結果及び不合格の場合の異常箇所と異常の程度を表示装置73に表示した。しかし、これ以外に回折X線強度データI(n,m)又はずれ距離D(n,m)で算出可能なものを計算し、表示するようにしてもよい。例えば、移動方向における回折X線強度変化曲線、これから計算される平均値、最大値、最小値及び変動範囲を表示してもよいし、移動方向における測定対象物OBの表面プロファイルやこれから計算される変動範囲、Ra値及びRMS値を表示してもよい。
また、上記実施形態では、端検出センサ75はステージStの反対側から出射されているレーザ光の受光の有無により、測定対象物OBの先端および後端を検出するものにしたが、端検出センサ75は測定対象物OBの先端および後端を検出できれば、どのような作動原理のものでもよい。例えば、端検出センサ75を撮像機能のあるものにし、ステージStの反対側に輝点や特殊なマークを設けて、撮像画像から輝点や特殊なマークがなくなることや現れることで測定対象物OBの先端および後端を検出するものであってもよい。
また、上記実施形態では、結像レンズ30によりラインセンサ32に結像されたレーザ光照射点の受光位置によりずれ距離を検出している。しかし、測定対象物OBが表面が平面で厚さが均一のものに限定されており、全体の厚さのみが変化する可能性があるときは、これに替えてレーザ光の反射光をラインセンサのように受光位置を検出できる光センサで受光し、受光位置によりずれ距離を検出してもよい。
また、上記実施形態では、ずれ距離を検出して合否判定レベルLを補正するようにしたが、測定対象物OBの厚さが一定になるよう製造工程が管理されており、ステージStの平面が移動方向とに対し高精度に平行であれば、合否判定レベルLは一定で判定を行い、異常が検出されたときのみ、ずれ距離に変化がないかチェックしたうえで異常判定をするようにしてもよい。また、この場合も、結像レンズ30とラインセンサ32を、レーザ光の反射光の受光位置を検出できる光センサに替えてずれ距離を検出するようにしてもよい。
さらに、この場合で、測定対象物OBの載置の仕方の異常やX線回折測定装置(筐体40)の取付け位置の変化をX線回折測定システム以外に設けた手段で検出することができるならば、レーザ照射器12、三角状ミラー17、結像レンズ30とラインセンサからなる撮像ユニット、及びずれ距離検出回路63を備えないX線回折測定装置としてもよい。また、スリット19の半径方向の縁が、上述したように標準偏差σの正規分布曲線の1.5σ乃至4σの箇所になっていれば、X線強度分布曲線のピーク位置がスリット19の中心からずれていてもよい。
また、上記実施形態では、電離箱20に貫通孔20aを設け、X線出射器10から出射されたX線が貫通孔20aを通って出射するようにすることで、X線出射器10と電離箱20とを近接させて配置させ、X線回折測定装置が小型になるようにした。しかし、X線回折測定装置が大型になってもよければ、X線出射器10とX線通過させる円筒状パイプを出射X線の出射方向に対して電離箱20より前に配置し、電離箱20は貫通孔20aを設けないものにしてもよい。