JP2016012762A - 超音波プローブ - Google Patents
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Abstract
【課題】品質の良い圧電体素子が振動板に設置された超音波プローブを提供する。【解決手段】超音波プローブは圧電体素子23を有する素子チップ17と、素子チップ17を支持する筐体と、を備える。圧電体素子23は、上部電極25と、下部電極24と、上部電極25と下部電極24とに挟まれた圧電体膜26と、下部電極24と圧電体素子23の設置面46aとの間に密着性金属で形成された密着層24bと、を備える。下部電極24及び密着層24bは、拡散防止性金属を含んで構成されている。密着性金属は、チタン、クロムまたはチタンもしくはクロムの酸化物のうちいずれか1つであり、拡散防止性金属は、鉛、ランタン、ストロンチウム、タングステンまたはニオブのうちいずれか1つであり、下部電極24及び密着層24bにおける拡散防止性金属の含有量は、0.01at%〜10at%の範囲にある。【選択図】図13
Description
本発明は、超音波プローブに関するものである。
超音波プローブに設置された超音波トランスデューサー素子チップから生体に超音波を照射し反射波を解析する超音波診断装置が広く活用されている。超音波トランスデューサー素子チップには圧電素子であるPZT素子が用いられることが多い。PZT素子は、一般に、多結晶体からなる圧電体薄膜と、この圧電体薄膜を間に挟んで配置される上電極及び下電極と、を備えた構造を有している。
このような層構造の圧電体素子は駆動対象となる設置面に設置される。例えば、超音波プローブであれば超音波を出力するために変形可能に構成された振動板上に圧電体素子が設置される。下部電極が金属であり、振動板が酸化シリコンや窒化シリコンのときには、金属である下部電極と設置面との密着性が悪い。
この組合せのとき、金属である下部電極と設置面との密着性が悪い場合の改善方法が特許文献1に開示されている。これによると、チタン等、下部電極を構成する金属に対しても設置面に対しても密着性のよい金属材料を主成分とする密着層が下部電極と設置面との間に設けられていた。
ところがチタンは、熱によって非常に拡散しやすいという欠点がある。密着層を使用した従来品の圧電体素子では、チタン等の金属材料が圧電体層形成時の熱処理によって圧電体層中に拡散してしまい、圧電体素子の圧電特性が低下する場合が多かった。これはチタンが圧電体層中に混入することによって化学量論比がくずれたり、下部電極と圧電体層の界面に低誘電率層が発生したりするためであると考えられる。そこで、品質の良い圧電体素子が振動板に設置された超音波プローブが望まれていた。
本発明は、上述の課題を解決するためになされたものであり、以下の形態または適用例として実現することが可能である。
[適用例1]
本適用例にかかる超音波プローブであって、圧電体素子を有する超音波トランスデューサー素子チップと、前記超音波トランスデューサー素子チップを支持する筐体と、を備え、前記圧電体素子は、上部電極と、下部電極と、前記上部電極と前記下部電極とに挟まれた圧電体層と、前記下部電極と前記圧電体素子の設置面との間に密着性金属で形成された密着層と、を備え、前記下部電極及び前記密着層は、拡散防止性金属を含んで構成されており、前記密着性金属は、チタン、クロムまたはチタンもしくはクロムの酸化物のうちいずれか1つであり、前記拡散防止性金属は、鉛、ランタン、ストロンチウム、タングステンまたはニオブのうちいずれか1つであり、前記下部電極及び前記密着層における拡散防止性金属の含有量は、0.01at%〜10at%の範囲にあることを特徴とする。
本適用例にかかる超音波プローブであって、圧電体素子を有する超音波トランスデューサー素子チップと、前記超音波トランスデューサー素子チップを支持する筐体と、を備え、前記圧電体素子は、上部電極と、下部電極と、前記上部電極と前記下部電極とに挟まれた圧電体層と、前記下部電極と前記圧電体素子の設置面との間に密着性金属で形成された密着層と、を備え、前記下部電極及び前記密着層は、拡散防止性金属を含んで構成されており、前記密着性金属は、チタン、クロムまたはチタンもしくはクロムの酸化物のうちいずれか1つであり、前記拡散防止性金属は、鉛、ランタン、ストロンチウム、タングステンまたはニオブのうちいずれか1つであり、前記下部電極及び前記密着層における拡散防止性金属の含有量は、0.01at%〜10at%の範囲にあることを特徴とする。
本適用例によれば、超音波プローブでは筐体が超音波トランスデューサー素子チップを支持している。超音波トランスデューサー素子チップは圧電体素子を備えている。上部電極と下部電極との間に駆動電圧を印加することにより、圧電体層が収縮する。これにおり、超音波が発生される。または、外部から入力された超音波により圧電体層が収縮し電気信号に変換する。
下部電極と圧電体素子の設置面との間には密着性金属で形成された密着層が設置されている。密着性金属は、チタン、クロムまたはチタンもしくはクロムの酸化物のうちいずれか1つである。密着性金属は下部電極や圧電体素子を設置する部材に対して密着性の良い金属である。従って、圧電体素子を設置する部材に対して圧電体素子を密着性良く設置することができる。
拡散防止性金属は、鉛、ランタン、ストロンチウム、タングステンまたはニオブのうちいずれか1つである。拡散防止性金属は少なくとも鉛に関しては、十分な拡散防止効果が実験で証明されており、他の元素についても原子量や原子構造から同等の効果を得ることができる。
下部電極及び密着層における拡散防止性金属の含有量は、0.01at%〜10at%の範囲にある。拡散防止性金属の含有量がこの範囲より少ないと拡散防止効果が少なく、この範囲より多いと密着力が低下する。従って、上記含有量の範囲に拡散防止性金属がある為、圧電体層を所定の成分濃度で品質良く形成することができる。
以下、添付図面を参照しつつ本発明の一実施形態を説明する。尚、以下に説明する本実施形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではなく、本実施形態で説明される構成の総てが本発明の解決手段として必須であるとは限らない。
(第1の実施形態)
本実施形態では、超音波診断装置の特徴的な例について図1〜図22に従って説明する。
(第1の実施形態)
本実施形態では、超音波診断装置の特徴的な例について図1〜図22に従って説明する。
(1)超音波診断装置の全体構成
図1は超音波診断装置の構成を示す概略斜視図である。図1に示すように、超音波診断装置11は装置端末12と超音波プローブ13(プローブ)とを備える。装置端末12と超音波プローブ13とはケーブル14で相互に接続される。装置端末12と超音波プローブ13とはケーブル14を通じて電気信号をやりとりする。装置端末12にはディスプレイパネル15(表示装置)が組み込まれる。ディスプレイパネル15の画面は装置端末12の表面で露出する。装置端末12では、後述されるように、超音波プローブ13で検出された超音波に基づき画像が生成される。画像化された検出結果がディスプレイパネル15の画面に表示される。
図1は超音波診断装置の構成を示す概略斜視図である。図1に示すように、超音波診断装置11は装置端末12と超音波プローブ13(プローブ)とを備える。装置端末12と超音波プローブ13とはケーブル14で相互に接続される。装置端末12と超音波プローブ13とはケーブル14を通じて電気信号をやりとりする。装置端末12にはディスプレイパネル15(表示装置)が組み込まれる。ディスプレイパネル15の画面は装置端末12の表面で露出する。装置端末12では、後述されるように、超音波プローブ13で検出された超音波に基づき画像が生成される。画像化された検出結果がディスプレイパネル15の画面に表示される。
図2は超音波プローブの構成を示す組織側面図である。図2に示すように、超音波プローブ13は筐体16を有する。筐体16内には超音波トランスデューサー素子チップとしての素子チップ17が収容される。素子チップ17の表面は筐体16の表面で露出することができる。素子チップ17は表面から超音波を出力するとともに超音波の反射波を受信する。その他、超音波プローブ13は、プローブ本体13aに着脱可能に連結されるプローブヘッド13bを備えることができる。このとき、素子チップ17はプローブヘッド13bの筐体16内に組み込まれることができる。
図3は素子チップの構成を示す模式平面図である。図3に示すように、素子チップ17は基板21を備える。基板21には素子アレイ22が形成される。素子アレイ22は超音波トランスデューサー素子としての圧電体素子23の配列で構成される。配列は複数行複数列のマトリックスで形成される。個々の圧電体素子23は圧電素子部を備える。圧電素子部は金属膜としての下部電極24、上部電極25及び圧電体層としての圧電体膜26で構成される。個々の圧電体素子23ごとに下部電極24及び上部電極25の間に圧電体膜26が挟み込まれる。
下部電極24は複数本の第1導電体24aを有する。第1導電体24aは配列の行方向に相互に平行に延びる。1行の圧電体素子23ごとに1本の第1導電体24aが割り当てられる。1本の第1導電体24aは配列の行方向に並ぶ圧電体素子23の圧電体膜26に共通に配置される。第1導電体24aの両端は一対の引き出し配線27にそれぞれ接続される。引き出し配線27は配列の列方向に相互に平行に延びる。したがって、総ての第1導電体24aは同一長さを有する。こうしてマトリックス全体の圧電体素子23に共通に下部電極24は接続される。
上部電極25は複数本の第2導電体25aを有する。第2導電体25aは配列の列方向に相互に平行に延びる。1列の圧電体素子23ごとに1本の第2導電体25aが割り当てられる。1本の第2導電体25aは配列の列方向に並ぶ圧電体素子23の圧電体膜26に共通に配置される。列ごとに圧電体素子23の通電は切り替えられる。こうした通電の切り替えに応じてラインスキャンやセクタースキャンは実現される。1列の圧電体素子23は同時に超音波を出力することから、1列の個数すなわち配列の行数は超音波の出力レベルに応じて決定されることができる。行数は例えば10〜15行程度に設定されればよい。図中では省略されて5行が描かれる。配列の列数はスキャンの範囲の広がりに応じて決定されることができる。列数は例えば128列や256列に設定されればよい。図中では省略されて8列が描かれる。その他、配列では千鳥配置が確立されてもよい。千鳥配置では偶数列の圧電体素子23群は奇数列の圧電体素子23群に対して行ピッチの2分の1でずらされればよい。奇数列及び偶数列の一方の素子数は他方の素子数に比べて1つ少なくてもよい。さらにまた、下部電極24及び上部電極25の役割は入れ替えられてもよい。すなわち、マトリックス全体の圧電体素子23に共通に上部電極25が接続される一方で、配列の列ごとに共通に圧電体素子23に下部電極24が接続されてもよい。
基板21の輪郭は、相互に平行な一対の直線29で仕切られて対向する第1辺21a及び第2辺21bを有する。素子アレイ22の輪郭と基板21の外縁との間に広がる周縁領域31には、第1辺21aと素子アレイ22の輪郭との間に1ラインの第1端子アレイ32aが配置され、第2辺21bと素子アレイ22の輪郭との間に1ラインの第2端子アレイ32bが配置される。第1端子アレイ32aは第1辺21aに平行に1ラインを形成することができる。第2端子アレイ32bは第2辺21bに平行に1ラインを形成することができる。第1端子アレイ32aは一対の下部電極端子33及び複数の上部電極端子34で構成される。同様に、第2端子アレイ32bは一対の下部電極端子35及び複数の上部電極端子36で構成される。1本の引き出し配線27の両端にそれぞれ下部電極端子33、35は接続される。引き出し配線27及び下部電極端子33、35は素子アレイ22を二等分する垂直面で面対称に形成されればよい。1本の第2導電体25aの両端にそれぞれ上部電極端子34、36は接続される。第2導電体25a及び上部電極端子34、36は素子アレイ22を二等分する垂直面で面対称に形成されればよい。ここでは、基板21の輪郭は矩形に形成される。基板21の輪郭は正方形であってもよく台形であってもよい。
基板21には第1フレキシブルプリント基板としての第1フレキ37が連結される。第1フレキ37は第1端子アレイ32aに覆い被さる。第1フレキ37の一端には下部電極端子33及び上部電極端子34に個別に対応して導電線すなわち第1信号線38が形成される。第1信号線38は下部電極端子33及び上部電極端子34に個別に向き合わせられ個別に接合される。同様に、基板21には第2フレキシブルプリント基板としての第2フレキ41が覆い被さる。第2フレキ41は第2端子アレイ32bに覆い被さる。第2フレキ41の一端には下部電極端子35及び上部電極端子36に個別に対応して導電線すなわち第2信号線42が形成される。第2信号線42は下部電極端子35及び上部電極端子36に個別に向き合わせられ個別に接合される。
図4は素子チップの構成を示す模式側断面図である。図4に示すように、個々の圧電体素子23は振動膜43を有する。振動膜43の構築にあたって基板21の基体44には個々の圧電体素子23ごとに開口45が形成される。開口45は基体44に対してアレイ状に配置される。基体44の表面には可撓膜46が一面に形成される。可撓膜46は、基体44の表面に積層される酸化シリコン層47(SiO2)と、酸化シリコン層47の表面に積層される上面層48とで構成される。上面層48は窒化珪素の膜や酸化ジルコニウム(ZrO2)を用いることができる。本実施形態では例えば、上面層48に窒化珪素を用いている。上面層48がなくても振動膜43に弾性が得られるときには上面層48を省略しても良い。可撓膜46は開口45に接する。こうして開口45の輪郭に対応して可撓膜46の一部が振動膜43として機能する。酸化シリコン層47の膜厚は共振周波数に基づき決定される。
振動膜43の表面に下部電極24、圧電体膜26及び上部電極25が順番に積層される。下部電極24と上面層48との間に密着層24bが設置されている。密着層24bにはチタン膜が用いられている。従って、上面層48の上には密着層24bと下部電極24との積層膜が設置されている。そして、下部電極24は白金または白金を含む合金であり、密着層24bの材質のチタンである。チタンは白金を含む多種の金属と接合性の良い金属である。これにより、下部電極24は可撓膜46との密着性を高めることができる。
圧電体膜26は例えばジルコン酸チタン酸鉛(PZT)で形成されることができる。上部電極25は例えばイリジウム(Ir)や白金(Pt)で形成されることができる。下部電極24及び上部電極25にはその他の導電材が利用されてもよく、圧電体膜26にはその他の圧電材料が用いられてもよい。ここでは、上部電極25の下で圧電体膜26は完全に下部電極24を覆う。圧電体膜26の働きで上部電極25と下部電極24との間で短絡は回避されることができる。
基板21の表面には保護膜49が積層される。保護膜49は例えば全面にわたって基板21の表面に覆い被さる。その結果、素子アレイ22や第1端子アレイ32a及び第2端子アレイ32b、第1フレキ37及び第2フレキ41は保護膜49で覆われる。保護膜49には例えばシリコーン樹脂膜が用いられることができる。保護膜49は、素子アレイ22の構造や、第1端子アレイ32a及び第1フレキ37の接合、第2端子アレイ32b及び第2フレキ41の接合を保護する。
隣接する開口45同士の間には仕切り壁51が区画される。開口45同士は仕切り壁51で仕切られる。仕切り壁51の壁厚みtは開口45の空間同士の間隔に相当する。仕切り壁51は相互に平行に広がる平面内に2つの壁面を規定する。壁厚みtは壁面同士の距離に相当する。すなわち、壁厚みtは壁面に直交して壁面同士の間に挟まれる垂線の長さで規定されることができる。仕切り壁51の壁高さHは開口45の深さに相当する。開口45の深さは基体44の厚みに相当する。したがって、仕切り壁51の壁高さHは基体44の厚み方向に規定される壁面の長さで規定されることができる。基体44は均一な厚みを有することから、仕切り壁51は全長にわたって一定の壁高さHを有することができる。仕切り壁51の壁厚みtが縮小されれば、振動膜43の配置密度は高められ、素子チップ17の小型化に寄与することができる。壁厚みtに比べて仕切り壁51の壁高さHが大きければ、素子チップ17の曲げ剛性は高められることができる。こうして開口45同士の間隔は開口45の深さよりも小さく設定される。
基体44の裏面には補強板52(補強部材)が固定される。補強板52の表面に基体44の裏面が重ねられる。補強板52は素子チップ17の裏面で開口45を閉じる。補強板52はリジッドな基材を備えることができる。補強板52は例えばシリコン基板から形成されることができる。基体44の板厚は例えば100μm程度に設定され、補強板52の板厚は例えば100〜150μm程度に設定される。ここでは、仕切り壁51は補強板52に結合される。補強板52は個々の仕切り壁51に少なくとも1カ所の接合域で接合される。接合には接着剤を用いてもよい。
補強板52の表面には直線状の溝53(直線状溝部)が形成される。溝53は補強板52の表面を複数の平面54に分割する。複数の平面54は1つの仮想平面HP内で広がる。その仮想平面HP内で基体44の裏面は広がる。仕切り壁51は平面54に接合される。溝53は仮想平面HPから窪む。溝53の断面形状は四角形であってもよく三角形であってもよく半円形その他の形状であってもよい。
図5は補強板を示す模式平面図である。図5に示すように、開口45は第1方向D1に列を形成する。開口45の輪郭形状の図心45bは第1方向D1の1直線56上で等ピッチに配置される。開口45の輪郭45aは1つの形状の複写で象られることから、同一形状の開口45が一定のピッチで繰り返し配置される。開口45の輪郭45aは例えば四角形に規定される。具体的には矩形に形成される。矩形の長辺は第1方向D1に合わせ込まれる。こうして開口45は矩形の輪郭45aを有することから、仕切り壁51は全長にわたって一定の壁厚みtを有することができる。このとき、仕切り壁51の接合域は長辺の中央位置を含む領域であればよい。特に、仕切り壁51の接合域は長辺の全長を含む領域であればよい。仕切り壁51は長辺の全長にわたって開口45同士の間の全面で補強板52に面接合されることができる。さらに、仕切り壁51の接合域は四角形の各辺に少なくとも1カ所ずつ配置されることができる。仕切り壁51の接合域は四角形を途切れなく囲むことができる。仕切り壁51は四角形の全周にわたって開口45同士の間の全面で補強板52に面接合されることができる。
溝53は一定の間隔Lで相互に平行に第1方向D1に並べられる。溝53は第1方向D1に交差する第2方向D2に延びる。溝53の両端は補強板52の端面57a及び端面57bで開口する。1本の溝53は1列(ここでは1行)の開口45の輪郭45aを順番に横切る。個々の開口45には少なくとも1本の溝53が接続される。ここでは、第2方向D2は第1方向D1に直交する。したがって、溝53は矩形の短辺方向に開口45の輪郭45aを横切る。
図6は補強板を示す要部模式拡大図である。図6に示すように、平面54同士の間で溝53は基体44と補強板52との間に通路58a及び通路58bを形成する。こうして溝53内の空間は開口45の内部空間に連通する。通路58a及び通路58bは開口45の内部空間と基板21の外部空間との間で通気を確保する。基板21の表面に直交する方向すなわち基板21の厚み方向から見た平面視で、1本の溝53は1列(ここでは1行)の開口45の輪郭45aを順番に横切ることから、次々に開口45同士は通路58aで接続される。溝53の両端は補強板52の端面57a及び端面57bで開口する。こうして列端の開口45から基板21の輪郭の外側に通路58bは開放される。
溝53の間隔Lは開口45の開口幅Sよりも小さく設定される。開口幅Sは、溝53の並び方向すなわち第1方向D1に開口45を横切る線分のうち最大の長さのもので規定される。言い換えると、開口幅Sは、開口45の輪郭45aに外接する平行線59同士の間隔に相当する。開口45ごとに開口45の輪郭45aに外接する平行線59は特定される。平行線59は第2方向D2に延びる。仮に開口45ごとに開口幅Sが相互に相違する場合には、開口幅Sの最小値よりも小さい間隔Lで溝53は並べられればよい。ここでは、溝53の間隔Lは、開口45の開口幅Sの3分の1以上であって2分の1よりも小さく設定される。
(2)超音波診断装置の回路構成
図7は装置端末及び超音波プローブの回路図である。図7に示されるように、超音波プローブ13には素子チップ17と接続する集積回路チップ55が設置されている。集積回路チップ55はマルチプレクサー61及び送受信回路62を備える。マルチプレクサー61は素子チップ17側のポート群61aと送受信回路62側のポート群61bとを備える。素子チップ17側のポート群61aには第1配線60経由で第1信号線38及び第2信号線42が接続される。こうしてポート群61aは素子アレイ22に繋がる。ここでは、送受信回路62側のポート群61bには集積回路チップ55内の規定数の信号線63が接続される。規定数はスキャンにあたって同時に出力される圧電体素子23の列数に相当する。マルチプレクサー61はケーブル14側のポートと素子チップ17側のポートとの間で相互接続を管理する。
図7は装置端末及び超音波プローブの回路図である。図7に示されるように、超音波プローブ13には素子チップ17と接続する集積回路チップ55が設置されている。集積回路チップ55はマルチプレクサー61及び送受信回路62を備える。マルチプレクサー61は素子チップ17側のポート群61aと送受信回路62側のポート群61bとを備える。素子チップ17側のポート群61aには第1配線60経由で第1信号線38及び第2信号線42が接続される。こうしてポート群61aは素子アレイ22に繋がる。ここでは、送受信回路62側のポート群61bには集積回路チップ55内の規定数の信号線63が接続される。規定数はスキャンにあたって同時に出力される圧電体素子23の列数に相当する。マルチプレクサー61はケーブル14側のポートと素子チップ17側のポートとの間で相互接続を管理する。
送受信回路62は規定数の切り替えスイッチ64を備える。個々の切り替えスイッチ64はそれぞれ信号線63に接続される。送受信回路62は個々の切り替えスイッチ64ごとに送信経路65及び受信経路66を備える。切り替えスイッチ64には送信経路65と受信経路66とが並列に接続される。切り替えスイッチ64はマルチプレクサー61に選択的に送信経路65または受信経路66を接続する。送信経路65にはパルサー67が組み込まれる。パルサー67は振動膜43の共振周波数に応じた周波数でパルス信号を出力する。受信経路66にはアンプ68、ローパスフィルター69(LPF)及びアナログデジタル変換器71(ADC)が組み込まれる。個々の圧電体素子23の検出信号は増幅されてデジタル信号に変換される。
送受信回路62は駆動/受信回路72を備える。送信経路65及び受信経路66は駆動/受信回路72に接続される。駆動/受信回路72はスキャンの形態に応じて同時にパルサー67を制御する。駆動/受信回路72はスキャンの形態に応じて検出信号のデジタル信号を受信する。駆動/受信回路72は制御線73によりマルチプレクサー61に接続される。マルチプレクサー61は駆動/受信回路72から供給される制御信号に基づき相互接続の管理を実施する。
装置端末12には処理回路74が組み込まれる。処理回路74は例えば中央演算処理装置(CPU)やメモリーを備えることができる。超音波診断装置11の全体動作は処理回路74の処理に従って制御される。ユーザーから入力される指示に応じて処理回路74は駆動/受信回路72を制御する。処理回路74は圧電体素子23の検出信号に応じて画像を生成する。画像は描画データで特定される。
装置端末12には描画回路75が組み込まれる。描画回路75は処理回路74に接続される。描画回路75にはディスプレイパネル15が接続される。描画回路75は処理回路74で生成された描画データに応じて駆動信号を生成する。駆動信号はディスプレイパネル15に送り込まれる。その結果、ディスプレイパネル15に画像が映し出される。
(3)超音波診断装置の動作
次に超音波診断装置11の動作を簡単に説明する。処理回路74は駆動/受信回路72に超音波の送信及び受信を指示する。駆動/受信回路72はマルチプレクサー61に制御信号を供給するとともに個々のパルサー67に駆動信号を供給する。パルサー67は駆動信号の供給に応じてパルス信号を出力する。マルチプレクサー61は制御信号の指示に従ってポート群61bのポートにポート群61aのポートを接続する。ポートの選択に応じて下部電極端子33、下部電極端子35、上部電極端子34及び上部電極端子36を通じて列ごとにパルス信号が圧電体素子23に供給される。パルス信号の供給に応じて振動膜43は振動する。その結果、対象物(例えば人体の内部)に向けて所望の超音波が発せられる。
次に超音波診断装置11の動作を簡単に説明する。処理回路74は駆動/受信回路72に超音波の送信及び受信を指示する。駆動/受信回路72はマルチプレクサー61に制御信号を供給するとともに個々のパルサー67に駆動信号を供給する。パルサー67は駆動信号の供給に応じてパルス信号を出力する。マルチプレクサー61は制御信号の指示に従ってポート群61bのポートにポート群61aのポートを接続する。ポートの選択に応じて下部電極端子33、下部電極端子35、上部電極端子34及び上部電極端子36を通じて列ごとにパルス信号が圧電体素子23に供給される。パルス信号の供給に応じて振動膜43は振動する。その結果、対象物(例えば人体の内部)に向けて所望の超音波が発せられる。
超音波の送信後、切り替えスイッチ64が切り替えられる。マルチプレクサー61はポートの接続関係を維持する。切り替えスイッチ64は送信経路65及び信号線63の接続に代えて受信経路66及び信号線63の接続を確立する。超音波の反射波は振動膜43を振動させる。その結果、圧電体素子23から検出信号が出力される。検出信号はデジタル信号に変換されて駆動/受信回路72に送り込まれる。
超音波の送信及び受信は繰り返される。繰り返しにあたってマルチプレクサー61はポートの接続関係を変更する。その結果、ラインスキャンやセクタースキャンが実現される。スキャンが完了すると、処理回路74は検出信号のデジタル信号に基づき画像を形成する。形成された画像はディスプレイパネル15の画面に表示される。
(4)超音波トランスデューサー素子チップの製造方法
図8〜図12は超音波トランスデューサー素子チップの製造方法を説明するための模式図である。図8に示されるように、シリコンウエハー78(基板)の表面には酸化シリコン膜79及び酸化ジルコニウム膜81が相次いで形成される。酸化ジルコニウム膜81の表面には導電膜が形成される。導電膜はチタン、イリジウム、白金及びチタンの積層膜で構成される。フォトリソグラフィー技術に基づき導電膜から下部電極24、引き出し配線27、図示しない下部電極端子33及び下部電極端子35が形成される。下部電極24、引き出し配線27、下部電極端子33及び下部電極端子35は個々の素子チップ17ごとに形成される。
図8〜図12は超音波トランスデューサー素子チップの製造方法を説明するための模式図である。図8に示されるように、シリコンウエハー78(基板)の表面には酸化シリコン膜79及び酸化ジルコニウム膜81が相次いで形成される。酸化ジルコニウム膜81の表面には導電膜が形成される。導電膜はチタン、イリジウム、白金及びチタンの積層膜で構成される。フォトリソグラフィー技術に基づき導電膜から下部電極24、引き出し配線27、図示しない下部電極端子33及び下部電極端子35が形成される。下部電極24、引き出し配線27、下部電極端子33及び下部電極端子35は個々の素子チップ17ごとに形成される。
図9に示されるように、下部電極24の表面で個々の圧電体素子23ごとに圧電体膜26及び上部電極25が形成される。圧電体膜26及び上部電極25の形成にあたってシリコンウエハー78の表面に圧電材料膜及び導電膜が成膜される。圧電材料膜はPZT膜から構成される。導電膜はイリジウム膜から構成される。フォトリソグラフィー技術に基づき個々の圧電体素子23ごとに圧電材料膜及び導電膜から圧電体膜26及び上部電極25が成形される。
続いて、図10に示されるように、シリコンウエハー78の表面に導電膜82が成膜される。導電膜82は個々の素子チップ17内で列ごとに上部電極25を相互に接続する。そして、フォトリソグラフィー技術に基づき導電膜82から上部電極25、上部電極端子34及び上部電極端子36が成形される。
その後、図11に示されるように、シリコンウエハー78の裏面からアレイ状の開口45が形成される。開口45の形成にあたってエッチング処理が施される。酸化シリコン膜79はエッチングストップ層として機能する。酸化シリコン膜79及び酸化ジルコニウム膜81からなる振動膜43は開口45により区画される。
補強板用のウエハー83の表面には直線状の溝84が形成される。溝84は相互に平行に等間隔で延びる。溝84の少なくとも一端はウエハー83の端面で開放される。溝84は、開口45の開口幅Sよりも小さい間隔Lで並べられる。こうして溝84の間隔Lが設定されると、シリコンウエハー78と補強板用のウエハー83との間で相対的に位置ずれが生じても、少なくとも1本の溝84は開口45の輪郭45aを横切ることができる。例えば図12に示されるように、シリコンウエハー78に対して補強板用のウエハー83が第1方向D1にずれて溝84aが隣り合う開口45の間に位置しても、2つの開口45にはそれぞれ少なくとも1本の溝84bが配置されることができる。シリコンウエハー78から個々の素子チップ17が切り出された際に、溝84は補強板52の溝53を提供する。
こうして溝84が形成されると、シリコンウエハー78及びウエハー83が大気中またはその他の気体雰囲気下で相互に重ね合わせられる場合でも、比較的に簡単に重ね合わせは実現されることができる。その一方で、シリコンウエハー78の裏面が均一な平面に重ね合わせられると、個々の開口45内に補強板用のウエハーの平面で気体が押し詰められる。大気圧では開口45内の空間の体積よりも大きい体積の気体が開口45内に留まろうとする。開口45の封鎖と同時に、シリコンウエハー78及び補強板用のウエハーの隙間から余分な気体が逃げないと、シリコンウエハー78及び補強板用のウエハーの貼り合わせは実現されることができない。
図11に戻って、シリコンウエハー78の裏面に補強板用のウエハー83(補強部材)の表面が重ね合わせられる。重ね合わせに先立ってウエハー83はハンドリング機構やステージ上に保持される。ウエハー83には例えばリジッドな絶縁性基板が用いられることができる。絶縁性基板にはシリコンウエハーが用いられることができる。接合にあたって例えば接着剤を用いても良い。接合後、シリコンウエハー78から個々の素子チップ17が切り出されて素子チップ17が完成する。
(5)圧電体素子23の構造と圧電体素子の製造方法
(圧電体素子の構造)
図13は、圧電体素子の構造を示す要部模式断面図である。図13に示すように、圧電体素子23は、設置面46a上に、密着層24b、下部電極24、圧電体膜26及び上部電極25が順に積層されて構成されている。
(圧電体素子の構造)
図13は、圧電体素子の構造を示す要部模式断面図である。図13に示すように、圧電体素子23は、設置面46a上に、密着層24b、下部電極24、圧電体膜26及び上部電極25が順に積層されて構成されている。
密着層24bは、密着性金属に拡散防止性金属を含有して形成されている。密着性金属とは、下部電極24に対しても酸化珪素の振動板に対しても密着性のよい金属で、例えばチタン、クロムまたはチタンもしくはクロムの酸化物のうちいずれか1つである。拡散防止性金属とはチタンの拡散を防止する役割を担う金属をいい、鉛、ランタン、ストロンチウム、タンタル、タングステンまたはニオブのうちいずれか1つである。密着層24bにおける拡散防止性金属の含有量は、0.01at%乃至10at%の範囲にある。この範囲より少ないと拡散防止効果が少なく、この範囲より多いと密着力が低下するおそれがあるからである。密着層24b中に拡散防止性金属が存在するために、下部電極24の粒界に沿って密着性金属が拡散することを防止することができる。密着性金属の拡散が防止されるので、密着層24bは、最大厚みに対する最大厚みと最小厚みの差の割合が90%以下の均一な厚みに形成される。そして例えば密着層24bの厚みは、5nm以上で50nm以下になるように調整される。この範囲より薄いと密着層としての密着性が弱くなり、この範囲より厚いとより多くの拡散防止性金属が必要となり、拡散防止性金属自体が圧電体膜26に拡散して化学量論比通りの圧電体層が形成されなくなるという弊害を生ずるからである。
下部電極24は、圧電体膜26に電圧を印加するための一方の電極であり、導電性を有する材料、例えば白金(Pt)、イリジウム(Ir)等に拡散防止性金属を含んで形成されている。下部電極24における拡散防止性金属の含有量は、0.01at%乃至10at%の範囲にある。この範囲より少ないと拡散防止効果が少なく、この範囲より多いと圧電体膜26に拡散して化学量論比通りの圧電体層が形成されなくなるからである。下部電極24に拡散防止性金属が存在するために、下部電極24の粒界に沿って密着性金属が拡散することを防止することができる。この下部電極24は、400nm程度の厚みに形成されている。従来品では密着性金属がこの下部電極24を通して移動するために500nm以上の厚みに形成しておく必要があったが、本実施形態では密着性金属の拡散が防止されるので、下部電極を従来品より薄く成形しておくことが可能である。上部電極25は、圧電体膜26に電圧を印加するための他方の電極となり、導電性を有する材料、例えば白金(Pt)で0.1μm程度の厚みに形成されている。
下部電極24に白金を設けるのは、白金を下地として圧電体薄膜の前駆体を結晶化させると圧電体薄膜が<100>配向になる傾向が強いからである。特に下部電極24は、圧電体膜26側に設けられ白金とチタンとを電極材料として含み、当該電極材料のX線回折測定における線源としてCu−Kβを使用した場合の回折角度2θが36°±0.3°であるX線回折強度をIBEとした場合に、
IBE/I100≦0.05
を満たすように設定されている点に特徴がある。特性X線にCu−Kα線とCu−Kβ線とを使用した場合の強度である。
IBE/I100≦0.05
を満たすように設定されている点に特徴がある。特性X線にCu−Kα線とCu−Kβ線とを使用した場合の強度である。
X線回折特性におけるピーク強度(すなわち配向ごとの結晶存在量)の比較において、圧電体膜26の<100>配向のピーク強度に対する下部電極24のピーク強度が、低いほど、両者の密着性が高くなるからである。大体好適な密着性を確保できる境が0.05である。
また、チタンに対する白金の厚みは、10以上に設定される。白金が多いと電極の結晶成長面の平滑性が高く<100> 配向になり易くなる。さらに、下部電極24では白金は膜厚方向に長軸を有する結晶粒となっており、該結晶粒の短軸方向の径である結晶粒径が50nm〜100nmの範囲に設定されていることが好ましい。このように結晶粒径が大きいと、密着層24bのチタンが圧電体膜26側に拡散しにくく、<100>配向の結晶を発生し易くなる。これにより、下部電極24と圧電体膜26とは密着性良く接合される。
圧電体膜26は、通常の圧電性セラミックスの結晶で構成されている。例えば、ジルコン酸チタン酸鉛(PZT)等の強誘電性圧電性材料や、これにニオブ酸、酸化ニッケルまたは酸化マグネシウム等の金属酸化物を添加したもの等が好適である。圧電体膜26の組成は圧電体素子23の特性、用途等を考慮して適宜選択する。具体的には、チタン酸鉛(PbTiO3)、ジルコン酸チタン酸鉛(Pb(Zr,Ti)O3)、ジルコニウム酸鉛(PbZrO3)、チタン酸鉛ランタン((Pb,La),TiO3)、ジルコン酸チタン酸鉛ランタン((Pb,La)(Zr,Ti)O3)または、マグネシウムニオブ酸ジルコニウムチタン酸鉛(Pb(Zr,Ti)(Mg,Nb)O3)等を用いることができる。また、チタン酸鉛やジルコニウム酸鉛にニオブ(Nb)を適宜添加することで圧電特性に優れた膜を得ることができる。圧電体膜26の厚みについては、製造工程でクラックが発生しない程度に厚みを抑え、かつ、十分な圧電特性を呈する程度に厚く形成する。
(圧電体素子の製造方法)
図14〜図17は圧電体素子の製造方法を説明するための模式図である。次に、図14〜図17を用いて圧電体素子の製造方法を説明する。図14〜図17は、第2方向D2に沿う切断面に相当する断面図である。
図14〜図17は圧電体素子の製造方法を説明するための模式図である。次に、図14〜図17を用いて圧電体素子の製造方法を説明する。図14〜図17は、第2方向D2に沿う切断面に相当する断面図である。
振動板形成工程(図14(a)): 振動板形成工程は、シリコン単結晶の基体44の表面に可撓膜46を形成する工程である。この工程では通常用いる熱酸化法等により、酸素或いは水蒸気を含む酸化性雰囲気中で高温処理し、酸化珪素(SiO2)からなる熱酸化膜を形成する。CVD法を使用することもできる。この工程により、所定の厚さ(例えば、220μm)のシリコン単結晶の基体44上に適当な膜厚(例えば、1.0μm)の酸化シリコン層47を形成する。酸化シリコン層47は基体44の両面に形成される。
さらに、酸化シリコン層47の一方の面に重ねて上面層48を形成する。蒸着法、スパッタ法、CVD法等の成膜法を用いて窒化珪素の膜を成膜する。
密着層形成工程(図14(b)): 密着層形成工程は、可撓膜46上に密着性金属により密着層24bを形成する工程である。密着性金属とは、チタン、クロムまたはチタンもしくはクロムの酸化物のことをいう。密着層24bの成膜法としてはスパッタ法、蒸着法等を用いる。密着層24bの膜厚は密着用の金属として十分な量を供給できる程度の厚みにする。例えば20nm程度の厚みにする。
下部電極形成工程(図14(c)): 下部電極形成工程は、密着層24b上に下部電極24を形成する工程である。下部電極24の成膜法としてはスパッタ法等を用いる。従来品はチタンの拡散を防止するために500nm以上の下部電極24の厚みが必要であったが、本実施形態では拡散防止性金属がチタンの拡散を防止するので、400nm以下の膜厚で形成可能である。
拡散防止性金属化合物塗布工程(図14(d)): 拡散防止性金属化合物塗布工程は、下部電極24上に拡散防止性金属化合物87を塗布する工程である。拡散防止性金属化合物87としては、例えば、拡散防止性金属の酸化物または酢酸化物が挙げられる。具体的には酢酸鉛((CH3COO)2Pb)または酸化鉛(PbO)等である。拡散防止性金属化合物87の塗布法としては各種塗布法を適用可能である。拡散防止性金属化合物87の塗布量としては、圧電体層への密着性金属の拡散を停止させるに足りる拡散防止性金属を供給し得る程度に、例えば20nm程度の厚みになるように塗布する。
拡散防止性金属化合物を塗布後、400℃〜900℃程度で10分間加熱することにより、鉛等の拡散防止性金属が後の熱処理により下部電極24側に拡散し、圧電体膜26側に拡散しようとする密着性金属の移動を阻止するようになる。また拡散防止性金属化合物の塗布後に加熱せず、そのまま圧電体層の形成に移ってもよい。圧電体層を結晶化させるための熱処理過程で同様の拡散現象が生ずるからである。続いて、密着層24b及び下部電極24を所定の形状にパターニングする。パターニングは公知の方法であるフォトリソグラフィー法とエッチング法とを用いて行われる。
圧電体層形成工程(図15(a)〜15(b)): 圧電体層形成工程は、ゾル・ゲル法により圧電体薄膜を積層して圧電体膜26を形成する工程である。また、この工程では、圧電体層結晶化のために焼成処理を行う工程である。尚、拡散防止性金属化合物87の塗布直後に加熱処理をしていない場合には、圧電体層の焼成処理によって拡散防止性金属が下部電極24に拡散することになる。
まず有機金属アルコキシド溶液からなるゾルをスピンコート等の塗布法にて拡散防止性金属化合物87上に塗布する。次いで一定温度で一定時間乾燥させ、溶媒を蒸発させる。乾燥後、さらに大気雰囲気下において所定の高温で一定時間脱脂し、金属に配位している有機の配位子を熱分解させ、金属酸化物とする。この塗布→乾燥→脱脂の各工程を所定回数、例えば4回以上繰り返して4層以上の圧電体薄膜層881〜88n(nは塗布回数)を積層する(図15(a)→図15(b)→図15(a)→図15(b)…)。これらの乾燥や脱脂により、溶液中の金属アルコキシドと酢酸塩とは配位子の熱分解を経て金属−酸素−金属のネットワークが形成される。圧電体薄膜層を一定回数積層した後には、さらに一定の雰囲気下で焼成処理する。この焼成処理によりアモルファス状態のゲルからいずれかの結晶構造を備えたペロブスカイト結晶構造が形成される。そして、圧電体薄膜層88nが圧電体膜26になる。
上記熱処理の過程で、拡散防止性金属化合物が下部電極24中に沿って拡散して下部電極上面層24cとなる。下部電極上面層24cは密着層24bから拡散しようとするチタン等の密着性金属の移動を阻止する。
圧電体素子形成工程(図15(c)): 圧電体素子形成工程は、層構造の圧電体膜26を適当な形状にエッチングし整形する工程である。各圧電体膜26を各開口45に合わせた形状になるようマスクし、その周囲をエッチングする。具体的には、まずスピンナー法、スプレー法等の方法を用いて均一な厚さのレジスト材料を圧電体膜26上に塗布する。次いでマスクを圧電体素子23の形状に形成してから露光し現像して、レジストパターンを圧電体膜26上に形成する。これに通常用いるイオンミリング、あるいはドライエッチング法等を適用して、圧電体膜26をエッチングし除去して所定の形状に整形する。このとき、レジストの厚みとエッチング条件を調整することにより断面形状を台形に形成する。
上部電極形成工程(図16(a)): 次に、圧電体膜26の上に電子ビーム蒸着法、スパッタ法等の技術を用いて上部電極25を形成する。上部電極25の材料は、白金、イリジウム等を用いる。厚みは100nm程度にする。次に、上部電極25を所定の形状にパターニングする。パターニングには公知のフォトリソグラフィー法及びエッチング法が用いられる。
保護膜形成工程(図16(b)): 次に、保護膜49を感光性ポリイミドで厚み2μmに形成する。そして、図示しない電極取り出し部の保護膜を現像して取り除き、400℃で熱処理して硬化させる。以上の工程で圧電体素子23の原形が完成する。
圧力室形成工程(図16(c)): この工程は、圧電体素子23が形成された基体44の他方の面をエッチングして開口45を形成する工程である。例えば、異方性エッチング、平行平板型反応性イオンエッチング等の活性気体を用いた異方性エッチングを用いて、基体44に対し開口45空間のエッチングを行う。エッチングされずに残された部分が仕切り壁51になる。
補強板貼り合わせ工程(図17): エッチング後の基体44に補強板52を接着剤で貼り合わせる。補強板52が貼り合わせられた基体44を筐体16に取り付け、超音波プローブ13を完成させる。
(実施例)
本実施形態の製造方法の実施例として、密着性金属としてチタン、下部電極24として白金、拡散防止性金属化合物として酢酸鉛または酸化鉛、圧電体膜26としてPZTを用いて圧電体素子23を形成した。図18は、結晶構造を示す断面のTEM(Transmission Electron Microscopy)写真の模写図である。また、図19は、拡散防止性金属化合物を用いずに圧電体層としてPZT+PMNを用いて圧電体素子23を形成した従来品の結晶構造の断面のTEM写真模写図である。いずれも焼成温度を850℃とした。本実施例の圧電体素子23では、図18に示すように、密着層24bが顕著に残り拡散により消滅していない。これに比べ、従来品では図19に示すように密着層24bが失われて圧電体膜26に拡散してしまっている。
本実施形態の製造方法の実施例として、密着性金属としてチタン、下部電極24として白金、拡散防止性金属化合物として酢酸鉛または酸化鉛、圧電体膜26としてPZTを用いて圧電体素子23を形成した。図18は、結晶構造を示す断面のTEM(Transmission Electron Microscopy)写真の模写図である。また、図19は、拡散防止性金属化合物を用いずに圧電体層としてPZT+PMNを用いて圧電体素子23を形成した従来品の結晶構造の断面のTEM写真模写図である。いずれも焼成温度を850℃とした。本実施例の圧電体素子23では、図18に示すように、密着層24bが顕著に残り拡散により消滅していない。これに比べ、従来品では図19に示すように密着層24bが失われて圧電体膜26に拡散してしまっている。
図20は、TEMによる本実施例の下部電極における組成分析結果である。図21は、TEMによる従来品の下部電極における組成分析結果である。図20に示すように、本実施例の圧電体素子23では矢印で示すように下部電極中に鉛が含有されていることが確認された。これに対し、図21に示すように、従来品の圧電体素子23では鉛が含有されていないことがわかる。
図22は、TEMによる本実施例の密着層における組成分析結果である。図22に示すように本実施例の圧電体素子23では矢印で示すように密着層24bにおいても鉛が含有されていることが確認された。これら下部電極24や密着層24bにおける鉛の含有量は上記に記載した範囲に入っている。
表1に、実施例の圧電体素子23と従来品の圧電体素子とにおける印加電圧25Vにおける圧電d定数及び最大圧電d定数の値を示す。圧電d定数とは、電場と応力との間の比例定数である圧電g定数と電場と面電荷密度との間の比例定数である誘電率との積に相関する定数である。圧電d定数は、いわゆる圧電体素子23の圧電特性を表わす数値であり、数値が高い程良好な圧電体素子であるといえる。
表1から判るように、本実施例の方が従来品より明らかに圧電特性が良好である。これは鉛の存在によりチタンが圧電体層に拡散しない結果として、圧電体層の定誘電率化が阻止されたためと考えられる。
(その他の変形例)
本実施形態は、上記実施形態によらず種々に変形して適応することが可能である。例えば、上記実施形態では、下部電極24を形成後に拡散防止性金属化合物を塗布していた。下部電極形成時に拡散防止性金属を添加しながら下部電極24を成膜すれば、拡散防止性金属化合物の塗布は不要である。すなわち、下部電極形成工程において、添加物として拡散防止性金属またはその酸化物(例えばPb、PbO)を添加しながら、スパッタリングを行う。このような処理により当初から下部電極24に鉛等が含有されることができる。このため、密着性金属の移動を阻止することができる。
本実施形態は、上記実施形態によらず種々に変形して適応することが可能である。例えば、上記実施形態では、下部電極24を形成後に拡散防止性金属化合物を塗布していた。下部電極形成時に拡散防止性金属を添加しながら下部電極24を成膜すれば、拡散防止性金属化合物の塗布は不要である。すなわち、下部電極形成工程において、添加物として拡散防止性金属またはその酸化物(例えばPb、PbO)を添加しながら、スパッタリングを行う。このような処理により当初から下部電極24に鉛等が含有されることができる。このため、密着性金属の移動を阻止することができる。
他にも、本実施形態では密着層24bは密着性金属に拡散防止性金属を含有して形成した。他にも、密着層24bは酸化タンタルを含有した層にしてもよい。また、酸化タンタルを含有したタンタル層とは、好ましくは酸化タンタルと、TaPbyOxの組成式で表される酸化物との結晶相が混在している状態の層である。酸化タンタルは二酸化タンタル、五酸化タンタル、およびそれらの相が混合しているものであってもよいが、好ましくは五酸化タンタルである。
このタンタル層は、圧電膜前駆体を焼結する前は好ましくは金属タンタル層として形成される。そして、圧電膜前駆体を酸素を含む雰囲気中で焼結する際に、金属タンタルは酸化され、かつ圧電膜前駆体から拡散してきた鉛によって、酸化タンタルと、TaPbyOxの組成式で表される酸化物とに変換される。
この焼結の過程の前後で、タンタル層はその膜厚を増加させる。タンタル層の厚さが1100オングストローム以上であるのが好ましく、この厚さは、圧電膜の結晶化が終了した後の厚さを意味する。そしてこの結晶化後の厚さが1100オングストローム以上となるようなタンタル層を設けることで、酸化珪素層において観察される空洞の発生が有効に阻止される。この理由は以下のように考えられるが、これによって限定的に解釈されることを意図するものではない。
酸化珪素層における空洞は、本発明者等のその形成過程の分析によると、結晶化過程において圧電膜前駆体から拡散してきた鉛が酸化珪素層に侵入すると、酸化珪素の融点を下げ、液化した酸化珪素が外部に噴出した結果生じたものであると思われた。一方、タンタル層をある厚さ以上存在させることで、鉛の拡散をタンタル層において阻止し、酸化珪素層まで至らないようにすることが可能であることが見出された。
たとえ鉛の侵入があっても、酸化珪素の融点が少なくとも結晶化温度以下まで低下しなければ空洞の発生の阻止は可能と考えられることから、このタンタル層による鉛の酸化珪素層への侵入の阻止は完全におこなわれなくともよい。しかしながら、良好な特性の圧電膜を得るためには圧電膜前駆体をある程度高温で結晶化させることが好ましい。よって鉛の酸化珪素層への侵入はできる限り阻止することが好ましく、タンタル層の厚さは超音波プローブ13の性能を損なわない範囲で厚く設けられるのが、一般的には好ましいといえる。その好ましい厚さは上記したとおりである。
また、本実施形態で製造した圧電体素子は、上記超音波診断装置11の圧電体素子のみならず、インクジェット式記録ヘッド、不揮発性半導体記憶装置、薄膜コンデンサー、パイロ電気検出器、センサー、表面弾性波光学導波管、光学記憶装置、空間光変調器、ダイオードレーザー用周波数二倍器等のような強誘電体装置、誘電体装置、パイロ電気装置、圧電装置、及び電気光学装置の製造に適応することができる。
(発明の効果)
本実施形態によれば、下部電極24と密着層24bとに拡散防止性金属を含有している。これにより、従来品より下部電極24の厚みを薄くしても、密着性金属が圧電体膜26に拡散して低誘電率層を形成することを防止できる。さらに、圧電体膜26中の酸素や鉛が下部電極24から密着層24bへ抜け出したりすることを防止できる。このため、圧電体素子23は高い圧電特性を維持することができる。また下部電極24を混入物無く形成できるので、圧電体素子23の設計において理論通りの機械的強度を維持し得るものとの前提で設計ができるため、設計がし易くなる。さらに下部電極24を薄くできるので、圧電体膜26の変形を振動膜43に有効に伝達させることができ、圧電効率を良くすることができる。
本実施形態によれば、下部電極24と密着層24bとに拡散防止性金属を含有している。これにより、従来品より下部電極24の厚みを薄くしても、密着性金属が圧電体膜26に拡散して低誘電率層を形成することを防止できる。さらに、圧電体膜26中の酸素や鉛が下部電極24から密着層24bへ抜け出したりすることを防止できる。このため、圧電体素子23は高い圧電特性を維持することができる。また下部電極24を混入物無く形成できるので、圧電体素子23の設計において理論通りの機械的強度を維持し得るものとの前提で設計ができるため、設計がし易くなる。さらに下部電極24を薄くできるので、圧電体膜26の変形を振動膜43に有効に伝達させることができ、圧電効率を良くすることができる。
13…超音波プローブ、16…筐体、17…超音波トランスデューサー素子チップとしての素子チップ、23…圧電体素子、24…下部電極、24b…密着層、25…上部電極、26…圧電体層としての圧電体膜、46a…設置面。
Claims (1)
- 圧電体素子を有する超音波トランスデューサー素子チップと、
前記超音波トランスデューサー素子チップを支持する筐体と、を備え、
前記圧電体素子は、
上部電極と、下部電極と、前記上部電極と前記下部電極とに挟まれた圧電体層と、前記下部電極と前記圧電体素子の設置面との間に密着性金属で形成された密着層と、を備え、
前記下部電極及び前記密着層は、拡散防止性金属を含んで構成されており、
前記密着性金属は、チタン、クロムまたはチタンもしくはクロムの酸化物のうちいずれか1つであり、
前記拡散防止性金属は、鉛、ランタン、ストロンチウム、タングステンまたはニオブの
うちいずれか1つであり、
前記下部電極及び前記密着層における拡散防止性金属の含有量は、0.01at%〜10at%の範囲にあることを特徴とする超音波プローブ。
Priority Applications (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
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JP2014132278A JP2016012762A (ja) | 2014-06-27 | 2014-06-27 | 超音波プローブ |
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Cited By (2)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
JP2017152798A (ja) * | 2016-02-22 | 2017-08-31 | セイコーエプソン株式会社 | 超音波デバイス、超音波プローブ、超音波装置、及び超音波デバイスの製造方法 |
WO2017199809A1 (ja) * | 2016-05-16 | 2017-11-23 | セイコーエプソン株式会社 | 超音波トランスデューサーデバイス、超音波プローブおよび超音波測定装置 |
-
2014
- 2014-06-27 JP JP2014132278A patent/JP2016012762A/ja active Pending
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