以下、本発明の実施形態について、図面を用いて説明する。なお、すべての図面において、同様の構成要素には同一の符号を付し、適宜に説明を省略する。
<<第1の実施形態>>
まず、本実施形態の概要について説明する。本実施形態では、III族窒化物半導体からなる下地基板の成長面上にIII族窒化物半導体をエピタキシャル成長させることで、自立基板を得る。
ところで、本発明者らは、下地基板の製造方法によっては、図1に示すように、下地基板10の成長面111に複数の凸部が形成されることを確認した。そして、以下の実施例で示すように、このような凸部が存在する状態で、当該成長面111上にIII族窒化物半導体をエピタキシャル成長させると、III族窒化物半導体の層が凹状に反り(下地基板10と接する面と反対側の面が凹状に反る)、自立基板に反りが発生しやすいことを確認した。
そこで、本実施形態では、凸部の高さを小さくする前処理(平坦化処理)を下地基板10の成長面111に対して実施した後に、下地基板10の成長面111上にIII族窒化物半導体をエピタキシャル成長させる。これにより、自立基板の反りの問題が軽減される。なお、第2の実施形態で、下地基板10の成長面111に複数の凸部が形成される場合がある下地基板10の製造方法の一例を説明する。また、図1は模式図であり、図示する下地基板10の厚さと山の高さの比率等は、本実施形態において特に意味を有さない。
最初に、図4乃至図9を参照して、本実施形態における基板(自立基板及び下地基板を含む)の「反り」の詳細な定義について説明する。図4乃至図9の各図は断面模式図であり、結晶軸の方向を破線の矢印で示している。結晶軸の傾きは、たとえばX線回折法により測定することができる。なお、基板の反りは、結晶成長段階での結晶軸の傾き、もしくは結晶軸が傾こうとする力等に起因する。
本実施形態において基板の「反り」とは、基板の外形に顕在化した反りのみならず、結晶構造上の反り(結晶軸が傾き、平行でなくなった状態)も含む。基板の外形に顕在化した反りは、例えば、基板の成長面の曲率半径により定量化できる。また、結晶構造上の反りは、例えば、結晶軸を法線とした所定の面の曲率半径により定量化できる。いずれの場合も、曲率半径が小さくなるほど、反りが大きいことを意味する。本実施形態の自立基板の製造方法によれば、自立基板の外形に顕在化する反りのみならず、自立基板の結晶構造上の反りをも改善する(上記曲率半径を大きくする)ことができる。
以下、本実施形態の定義上、基板が反っている状態を具体的に例示する。図4は、下地基板710の上にIII族窒化物半導体の層711を結晶成長させることで得られた自立基板720を示す。
図示する例の場合、自立基板720の外形に反りは顕在化していない。しかし、III族窒化物半導体の層711の結晶軸(III族窒化物半導体の層711の厚さ方向に延びる結晶軸)が傾いている。具体的には、III族窒化物半導体の層711の露出面771の周縁部における結晶軸の方向が、III族窒化物半導体の層711の露出面771の中心部に向かって傾いている。結果、結晶軸の互いの間隔が、III族窒化物半導体の層711の一方の面772(下地基板710と接する面)から露出面771に向かうにつれて狭くなっている。本実施形態においては、このような状態も、自立基板720が凹状に反った状態と定義する。
なお、図4の状態において、さらに、自立基板720の外形に反りが顕在化し、III族窒化物半導体の層711及び下地基板710が凹状に反った状態(図中、露出面771が凹状に反り、面772が凸状に反った状態)も、自立基板720が凹状に反った状態と定義する。
図5は、下地基板710の上にIII族窒化物半導体の層711を結晶成長させることで得られた積層体から、下地基板710を研磨等により除去することで得られたIII族窒化物半導体の層711からなる自立基板720を示している。
図示する例の場合、自立基板720の外形に反りが顕在化している。すなわち、露出面771が凹状に反り、面772が凸状に反っている。また、III族窒化物半導体の層711の結晶軸(III族窒化物半導体の層11の厚さ方向に延びる結晶軸)が傾いている。具体的には、III族窒化物半導体の層711の露出面771の周縁部における結晶軸の方向が、III族窒化物半導体の層711の露出面771の中心部に向かって傾いている。結果、結晶軸の互いの間隔が、III族窒化物半導体の層711の一方の面772(下地基板710と接していた面)から露出面771に向かうにつれて狭くなっている。本実施形態においては、このような状態も、自立基板720が凹状に反った状態と定義する。
図6は、下地基板710の上に厚膜のIII族窒化物半導体の層711を結晶成長させることで得られた積層体から、下地基板710を研磨等により除去することで得られた厚膜のIII族窒化物半導体の層711を示している。
図示する状態において、III族窒化物半導体の層711の外形に反りは顕在化していない。しかし、III族窒化物半導体の層711の結晶軸(III族窒化物半導体の層711の厚さ方向に延びる結晶軸)が傾いている。具体的には、III族窒化物半導体の層711の露出面771の周縁部における結晶軸の方向が、III族窒化物半導体の層711の露出面771の中心部に向かって傾いている。結果、結晶軸の互いの間隔が、III族窒化物半導体の層711の一方の面772(下地基板710と接していた面)から露出面771に向かうにつれて狭くなっている。
図7は、図6に示すIII族窒化物半導体の層711から、図6に示す図中横方向に延びる破線で切り出されたIII族窒化物半導体の層からなる自立基板720を示している。
図示する例の場合、自立基板720の外形に反りは顕在化していない。しかし、結晶軸(自立基板720の厚さ方向に延びる結晶軸)が傾いている。具体的には、自立基板720の露出面721の周縁部における結晶軸の方向が、自立基板720の露出面721の中心部に向かって傾いている。結果、結晶軸の互いの間隔が、自立基板720の一方の面722から露出面721に向かうにつれて狭くなっている。本実施形態においては、このような状態も、自立基板720が凹状に反った状態と定義する。
図8は、図6に示すIII族窒化物半導体の層711から、図6に示す図中横方向に延びる破線で切り出されたIII族窒化物半導体の層からなる自立基板720の他の例を示している。
図示する例の場合、自立基板720の外形に反りが顕在化している。すなわち、露出面721が凹状に反り、面722が凸状に反っている。また、結晶軸(自立基板720の厚さ方向に延びる結晶軸)が傾いている。具体的には、自立基板720の露出面721の周縁部における結晶軸の方向が、自立基板720の露出面721の中心部に向かって傾いている。結果、結晶軸の互いの間隔が、自立基板720の一方の面722から露出面721に向かうにつれて狭くなっている。本実施形態においては、このような状態も、自立基板720が凹状に反った状態と定義する。
図9は、下地基板710の上にIII族窒化物半導体の層711を結晶成長させることで得られた自立基板720を示す。図示する例の場合、自立基板720のうち、III族窒化物半導体の層711の外形に反りが顕在化している。すなわち、露出面771が凹状に反っている。また、III族窒化物半導体の層711の結晶軸(III族窒化物半導体の層711の厚さ方向に延びる結晶軸)が傾いている。具体的には、III族窒化物半導体の層711の露出面771の周縁部における結晶軸の方向が、III族窒化物半導体の層711の露出面771の中心部に向かって傾いている。結果、結晶軸の互いの間隔が、III族窒化物半導体の層711の一方の面772(下地基板710と接する面)から露出面771に向かうにつれて狭くなっている。本実施形態においては、このような状態も、自立基板720が凹状に反った状態と定義する。
次に、本実施形態の構成について詳細に説明する。図2は、本実施形態の自立基板の製造方法の処理の流れを示すフローチャートである。図示するように、本実施形態の自立基板の製造方法は、前処理工程S10と、成長工程S20とを有する。
前処理工程S10では、III族窒化物半導体からなる下地基板10の成長面(第1の面)111(図1参照)を化学的機械研磨(CMP:chemical mechanical polishing)により平坦化する。上述の通り、下地基板10の成長面111には、複数の凸部が存在する場合がある。当該工程のエッチングにより、この凸部の高さを小さくし、下地基板10の成長面111を平坦化する。
なお、当該工程をどの程度行うかは設計的事項である。当該工程を十分に行い、成長面111を完全に平坦化すれば、自立基板の反りの問題を十分に軽減できる。しかし、当該工程をある程度でも行い、凸部の高さを少しでも小さくして平坦化すれば、上記反りの問題をある程度軽減することができる。例えば、当該処理工程の後になだらなか凸部が存在する程度に平坦化してもよい。成長面111における凸部の高さに応じて、CMPの条件(処理時間、研磨圧力、回転速度、研磨液供給量等)を決定してもよい。
なお、CMPは、自立基板の成長面111における凸部の高さを小さくすることができればよく、その詳細は特段制限されない。本実施形態のCMPの一例として、塩基性のコロイダルシリカを研磨材とし、不織布製の研磨パッドを用いる例が挙げられる。例えば、自立基板をワックスでセラミックスプレートに貼り付け、凸部を研磨する。貼り付けの際にはエアーバック機構を備えた加圧装置により反りを強制しながら裏面基準で貼り付けを行うことができる。加工条件は、例えば、面圧:700g/cm2、回転数:40rpmとすることができる。
成長工程S20では、前処理工程S10の後、下地基板10の成長面(第1の面)111上にIII族窒化物半導体をエピタキシャル成長させることで、III族窒化物半導体の層を形成する。エピタキシャル成長させる手段は特段制限されず、例えば、HVPE法(ハイドライド気相成長法)、MOVPE法(有機金属気相成長法)等、周知の技術を利用することができる。
ここで、HVPE法によりIII族窒化物半導体層をエピタキシャル成長させる場合を例にとり、当該工程の一例を説明する。例えば、図3に示すようなハイドライド気相成長(HVPE)装置100を用いて、基板41(下地基板10)上にIII族窒化物半導体の層をエピタキシャル成長させる。
図示するHVPE装置100は、反応管121と、反応管121内に設けられている基板ホルダ123とを備える。また、HVPE装置100は、III族原料ガスを反応管121内に供給するIII族原料ガス供給部139と、窒素原料ガスを反応管121内に供給する窒素原料ガス供給部137とを備える。さらに、HVPE装置100は、ガス排出管135と、ヒータ129、130とを備える。
基板ホルダ123は、反応管121の下流側に回転軸132により回転自在に設けられている。ガス排出管135は、反応管121のうち基板ホルダ123の下流側に設けられている。
III族原料ガス供給部139は、ガス供給管126とソースボート128とIII族(Ga)原料127と反応管121のうち遮蔽板136の下の層とを含む。窒素原料ガス供給部137は、ガス供給管124と反応管121のうち遮蔽板136の上の層とを含む。III族原料ガス供給部139は、III族原子のハロゲン化物(たとえば、GaCl)を生成し、これを基板ホルダ123に保持された基板41の表面に供給する。
ガス供給管126の供給口は、III族原料ガス供給部139内の上流側に配置されている。このため、供給されたハロゲン化水素ガス(たとえば、HClガス)は、III族原料ガス供給部139内でソースボート128中のIII族原料127と接触するようになっている。これにより、ガス供給管126から供給されるハロゲン含有ガスは、ソースボート128中のIII族原料127の表面または揮発したIII族分子と接触し、III族分子をハロゲン化してIII族のハロゲン化物を含むIII族原料ガスを生成する。なお、このIII族原料ガス供給部139の周囲にはヒータ129が配置され、III族原料ガス供給部139内は、たとえば800〜900℃程度の温度に維持される。
反応管121の上流側は、遮蔽板136により2つの層に区画されている。図中の遮蔽板136の上側に位置する窒素原料ガス供給部137中を、ガス供給管124から供給されたアンモニアが通過し、熱により分解が促進される。なお、この窒素原料ガス供給部137の周囲にはヒータ129が配置され、窒素原料ガス供給部137内は、たとえば800〜900℃程度の温度に維持される。
反応管121の下流側に位置する成長領域122には、基板ホルダ123が配置され、この成長領域122内でGaN等のIII族窒化物半導体の成長が行われる。この成長領域122の周囲にはヒータ130が配置され、成長領域122内は、たとえば1000℃〜1050℃程度の温度に維持される。
以上説明した前処理工程S10及び成長工程S20により、下地基板10の上にIII族窒化物半導体の層11を結晶成長させた積層体が得られる。III族窒化物半導体の層11の厚さは、例えば、1mm以上10mm以下とすることができる。本実施形態では、この積層体を自立基板としてもよい。また、この積層体から下地基板10を研磨等により除去することで得られるIII族窒化物半導体の層11を自立基板としてもよい。さらに、III族窒化物半導体の層11をスライス等して切り出されたIII族窒化物半導体の層を自立基板としてもよい。
以上説明した本実施形態の自立基板の製造方法によれば、準備した下地基板10の成長面111に複数の凸部が存在する場合であっても、前処理工程S10により凸部の高さを小さくし、成長面111を平坦化した後に、当該成長面111上にIII族窒化物半導体をエピタキシャル成長させることができる。このため、下地基板10の成長面111上の凸部の存在により、当該成長面111上にエピタキシャル成長させたIII族窒化物半導体の層が凹状に反る(下地基板10と接する面と反対側の面が凹状に反る)不都合を軽減することができる。
<<第2の実施形態>>
本実施形態では、下地基板10の成長面111に複数の凸部が形成される場合がある下地基板10の製造方法の一例を説明する。なお、下地基板10の製造方法は、本実施形態と完全に一致するものに限定されず、本実施形態の製造方法の一部工程を変化させたものや、その他の製造方法であってもよい。
図10は、本実施形態の自立基板の製造方法の処理の流れを示すフローチャートである。図示するように、本実施形態の自立基板の製造方法は、準備工程S1と、前処理工程S10と、成長工程S20とを有する。前処理工程S10及び成長工程S20は、第1の実施形態と同様である。
準備工程S1では、前処理工程S10の前に、成長面111(第1の面)に凸部を有する下地基板10を準備する。なお、凸部は、所定の方法で下地基板10を製造した結果、意図せず成長面111(第1の面)に現れる結果物であってもよい。
準備工程S1は、
(1)基材上に、第1の層として、炭化物MC(炭化アルミニウム、炭化チタン、炭化ジルコニウム、炭化ハフニウム、炭化バナジウムまたは炭化タンタル)が分散した炭素層を形成する第1の工程と、
(2)第1の層の上に、第2の層として、炭化物MC(炭化アルミニウム、炭化チタン、炭化ジルコニウム、炭化ハフニウム、炭化バナジウムまたは炭化タンタル)の層を形成する第2の工程と、
(3)第2の層を窒化する第3の工程と、
(4)窒化された第2の層の上に、III族窒化物半導体層を形成する第4の工程と、
(5)第4の工程の後、基材、第1の層、窒化された第2の層及びIII族窒化物半導体層を含む積層体を、III族窒化物半導体層を形成する際の加熱よりも高い温度で加熱する第5の工程と、
を有する。
以下、炭化物MCが炭化チタンである場合を例にとり、各工程について説明する。なお、炭化物MCが炭化チタン以外である場合も、同様の工程で自立基板を製造することができる。
<第1の工程>
第1の工程では、基材上に、第1の層として、炭化チタンが分散した炭素層を形成する。まず、基材を用意する。基材は、その上に形成されるIII族窒化物半導体と異なる異種基板とすることができる。基材の厚さは、250um以上1500um以下であり、400um以上600um以下が好ましい。基材が厚すぎると、以下で説明する第4の工程後に、基材とIII族窒化物半導体層36との熱膨張係数の差に起因した応力により、割れやクラックが入ってしまう場合がある。基材の厚さを、400um以上600um以下とすることで、このような不都合を軽減できる。本実施形態では、例えば、厚さ550μmの3インチφのサファイア(Al2O3)基板30を基材として用意する。そして、次に、このサファイア基板30上に、第1の層31を形成する(図11(A))。
第1の層31は、炭化チタンが分散した炭素層である。例えば、第1の層31は、第1の層31中におけるTiとCの原子数比C/Tiが1.5以上、好ましくは3.0以上、さらに好ましくは3.5以上を満たすようにTiCが分散した炭素層とすることができる。このような第1の層31は、炭化チタンの層(第2の層)中の金属(チタン)と、サファイア基板30とが結合してしまうことを抑制する結合抑制膜として機能する。
このような第1の層31は、例えばスパッタリングで形成することができる。第1の層31の成膜条件は、例えば以下のようにすることができる。
成膜方法:反応性スパッタリング
成膜温度:25〜1000℃
成膜時間:3〜60秒
圧力:0.2〜0.5Pa
印加電力:100〜300W
スパッタガス:Arガス
スパッタガス流量:5〜30sccm
反応性ガス:炭化水素(CH4)
反応性ガス流量:10.0sccm
ターゲット:Ti
膜厚:0.1nm〜0.4nm
炭化水素の導入量がより多い条件で反応性スパッタリングを行うと、第1の層31中にTiCをより多く分散させることができる。上記成膜条件の場合、メタンガスの供給量を適当に調整することで、第1の層31中に分散する炭化チタンの量を調整できる。すなわち、メタンガスの供給量を適当に調整することで、第1の層31中におけるTiとCの原子数比C/Tiを所望の値に調整できる。
また、印加電力をより大きくした条件で反応性スパッタリングを行うと、第1の層31中にTiCをより多く分散させることができる。すなわち、印加電力を適当に調整することで、第1の層31中に分散する炭化チタンの量を調整し、第1の層31中におけるTiとCの原子数比C/Tiを所望の値に調整できる。
第1の層31は、Cを主成分とした膜であり、炭素膜を母材とし、この母材中にTiCを含む膜である。たとえば、炭素が海状(マトリクス)であり、TiCがこのマトリクス中に分散した形態である。
第1の層31の成膜温度は、25℃以上であればよい。なかでも、第1の層31の成膜温度は第2の層32の成膜温度以上であることが好ましい。具体的には、600℃以上、特には、800℃以上で成膜することが好ましい。
このようにすることで、第1の層31は緻密な膜となり、均一で結晶配向性の高い層が形成され、第4の工程で形成されるIII族窒化物半導体層の高品質化が実現する。
また、第1の層31の成膜温度を高くすると、第1の層31中に分散したTiCの一部も結晶配向が起こり、これにより、第2の層32の結晶配向性も向上することとなる。
第1の層31の厚みは、0.1nm以上、0.4nm以下であることが好ましい。なかでも、0.2nm以上、0.3nmであることが好ましい。この第1の層31の厚みは、スパッタリング装置による成膜条件(成膜時間等)から計算した値である。
また、第1の層31は、サファイア基板30のうち、後述する第2の層32が形成される領域(本実施形態では、サファイア基板30の全面)を完全に被覆する必要はない。第1の層31は、基材であるサファイア基板30を完全に被覆していてもよいし、または、島状あるいはドット状の膜がサファイア基板30上に均一又はまだらに分布し、局所的にサファイア基板30が露出する態様であってもよい。
第1の層31を、サファイア基板30を完全被覆するものとした場合には、III族窒化物半導体層を容易にサファイア基板30から剥離させることができる。一方で、第1の層31を、島状あるいはドット状の膜とした場合には、サファイア基板30の結晶情報がIII族窒化物半導体層に伝達されやすくなり、結晶性の高いIII族窒化物半導体層を得ることができる。
<第2の工程>
第2の工程では、第1の層31の上に、第2の層32として炭化チタンの層を形成する(図11(B))。第2の層32の成膜条件は、例えば以下のようにする。
成膜方法:反応性スパッタリング
成膜温度:500〜1000℃
成膜時間:4.5〜114分
圧力:0.2〜0.5Pa
印加電力:100〜300W
スパッタガス:Arガス
スパッタガス流量:5〜50sccm
反応性ガス:CH4
反応性ガス流量:10.0sccm
ターゲット:Ti
膜厚:20nm〜500nm
第2の層32である炭化チタン層は、TiCが主成分の層であり、C原子は、Ti原子と結合し、TiCを構成している。
成膜温度は、500℃以上、1000℃以下であることが好ましいが、600℃以上であることが好ましく、900℃以下であることが好ましい。600℃以上であれば結晶性の高いTiC層が形成可能で、900℃より高い温度では基材面内の温度分布斑が発生しやすくなるためTiC層の結晶性に分布が発生しやすくなる。
また、炭化チタン層の厚みは、結晶性向上の観点から、20nm以上、製造効率の観点から500nm以下であることが好ましいが、なかでも、結晶性を高めるという観点から、70nm以上、さらには120nm以上とすることが好ましい。また、炭化物層の形成に多くの時間を費やすことなく結晶性の高い炭化物層を得るという観点から、150nm以下とすることが好ましい。
<キャップ層形成工程>
第2の工程の後、かつ、第3の工程の前に、第2の層32の上にキャップ層33を形成してもよい(図11(C))。キャップ層33は、炭化チタンが分散した炭素層とすることができる。炭化チタンが分散した炭素層の成膜条件は、例えば以下のようになる。
成膜方法:反応性スパッタリング
成膜温度:25〜1000℃
成膜時間:2.5〜25分
圧力:0.3〜0.5Pa
印加電力:100〜300W
反応性ガス:CH4
反応性ガス流量:10.0sccm
ターゲット:Ti
膜厚:5nm〜50nm
炭化水素の導入量がより多い条件で反応性スパッタリングを行うと、キャップ層33中にTiCをより多く分散させることができる。上記条件の場合、メタンガスの供給量を適当に調整することで、キャップ層33中に分散する炭化チタンの量を調整できる。すなわち、メタンガスの供給量を適当に調整することで、キャップ層33中におけるTiとCの原子数比C/Tiを所望の値に調整できる。
また、印加電力をより大きくした条件で反応性スパッタリングを行うと、キャップ層33中にTiCをより多く分散させることができる。すなわち、印加電力を適当に調整することで、キャップ層33中に分散する炭化チタンの量を調整し、キャップ層33中におけるTiとCの原子数比C/Tiを所望の値に調整できる。
キャップ層33は、Cを主成分とした膜であり、炭素膜を母材とし、この母材中にTiCを含む膜である。たとえば、炭素が海状(マトリクス)であり、TiCがこのマトリクス中に分散した形態である。
キャップ層33中のTiC濃度は、C単体(TiCとして存在するCを除くC)の濃度よりも低い。またキャップ層33のTiC濃度は、第2の層32中のTiC濃度よりも低い。たとえば、キャップ層33中のTiC濃度は、33〜49%である。
キャップ層33の成膜温度は、25℃以上であればよい。なかでも、キャップ層33の成膜温度は第2の層32の成膜温度以上であることが好ましい。具体的には、600℃以上、特には、800℃以上で成膜することが好ましい。このようにすることで、キャップ層33が緻密な膜となり、効果的に第2の層32の酸化を防止することができる。
また、キャップ層33の膜厚は、5nm以上、50nm以下であることが好ましいが、なかでも、10nm以上であることが好ましい。キャップ層33を10nm以上とすることで、効果的に第2の層32の酸化を防止することができる。さらに、キャップ層33は、第2の層32の全面を完全に被覆している。
<第3の工程>
第3の工程では、第2の層(炭化チタン層)32を窒化する。例えば、図12(A)に示すように、第2の層32を300℃以上、1000℃以下の雰囲気下で部分的に窒化し、窒化された炭化チタン層34を形成する。窒化された炭化チタン層34は、主に炭化チタンが存在する炭化チタン層342と、主に窒化チタンが存在する窒化チタン層341との積層構造となる。第2の層32の窒化条件は、例えば以下のようである。
窒化温度:300℃〜950℃
窒化時間:5〜30分
窒化ガス:NH3ガス、H2ガス、N2ガス
なお、第2の層32の上にキャップ層33を形成した場合、第2の層32はキャップ層33で覆われている。しかし、第2の層32の窒化処理において、キャップ層33中の炭素は窒化ガスによりCH4として気化することとなる。このため、キャップ層33中には、第2の層32まで到達する空隙が生じる。そして、この空隙を通じて窒化ガスが第2の層32に到達し、第2の層32が部分的に窒化され、窒化された炭化チタン層34が形成されることとなる。
なお、窒化温度は500℃以上700℃以下であることがより好ましく、特に好ましくは550℃以下である。窒化温度を500℃以上とすることで第2の層32の窒化速度を速くするという効果がある。一方で、窒化温度を700℃以下とすることで、窒化速度を抑制し、第1の層31まで窒化される不都合を抑制することができる。第1の層31が窒化されると、窒化される前に比べて、第1の層31とサファイア基板30(基材)との結合が強固になるという不都合が生じる。
なお、窒化温度を550℃より高温にすると、(1)式に示すとおりCH4が分解してCが析出し、CがTiNに混入することでIII族窒化物半導体層の結晶性が低下する場合がある。Cの析出を抑制するには、水素の導入やアンモニア分圧を高めるのが有効である。
CH4→C+2H2・・・・・・・・・・・・・・・・(1)式
また、窒化時間は、30分以下であることが好ましい。窒化時間を30分程度とすることで、第2の層32を適度に窒化することができる。
なお、第2の層32を窒化する際の反応ガスとしては、アンモニアが好ましい。反応ガスとしてアンモニア以外に窒素を使用してもTiNを形成できるが、(2)式で示すようにTiNとCが生成し、TiNにCが混入した場合にはIII族窒化物半導体層の結晶品質に影響を与える可能性がある。
2TiC+N2→2TiN+2C・・・・・・・・・・・(2)式
なお、第2の層32の上にキャップ層33を形成した場合、当該第3の工程により、キャップ層33中に含まれる炭化チタンが部分的に窒化され、窒化されたキャップ層343が形成される(図12(A)参照)。また、第1の層31中に含まれる炭化チタンが部分的に窒化され、TiNとなる場合もある。これらのTiNは後段のIII族窒化物半導体をエピタキシャル成長する間にサファイア基板30(基材)の結晶情報を引き継ぐ役目をし、結晶性の良好なIII族窒化物半導体を形成することとなる。
<第4の工程>
第4の工程では、窒化された炭化チタン層34(第2の層32を窒化した層)の直上に、III族窒化物半導体層36を形成する。なお、第2の層32の直上にキャップ層を形成した場合は、窒化されたキャップ層343の直上に、III族窒化物半導体層36を形成する(図12(B))。ここでは、III族窒化物半導体層36として、GaN半導体層をエピタキシャル成長させるものとする。なお、III族窒化物半導体層36は、GaNに限られるものではなく、たとえば、AlGaN等であってもよい。GaN半導体層(III族窒化物半導体層36)の成長条件は、例えば以下のようにすることができる。
成膜方法:HVPE(hydride vapor phase epitaxy)法
成膜温度:1000℃〜1050℃
成膜時間:30分〜500分
膜厚:100μm〜1500μm
なお、当該成膜温度よりも低温で、III族窒化物半導体の低温成長バッファ層を形成した後、上記成長条件で、III族窒化物半導体のエピタキシャル成長を実施してもよい。
また、III族窒化物半導体のファセットを形成した後、上記成長条件で、III族窒化物半導体のエピタキシャル成長を実施して、平坦膜であるIII族窒化物半導体層36を得てもよい。III族窒化物半導体のエピタキシャル成長は、例えば、図3に示すハイドライド気相成長(HVPE)装置を用いて実現してもよい。
なお、III族窒化物半導体層36を形成する工程の初期においては、窒素原料ガスにより、窒化されたキャップ層343又は窒化された炭化チタン層34の露出面がさらに窒化されてもよい。
そして、III族窒化物半導体層36を形成する工程の初期においては、窒化されたキャップ層343又は窒化された炭化チタン層34の露出面における炭化チタンと、III族窒化物半導体とが以下のように反応すると考えられる。ここでは、III族窒化物半導体がGaNである場合を例にあげて説明する。
Al4C3+4GaN→4AlN+4Ga+3C・・・(3)式
TiC+GaN→TiN+Ga+C・・・(4)式
また、窒化されたキャップ層343及び窒化された炭化チタン層34の結晶性によっては、以下のような反応が生じる場合もある。III族窒化物半導体が熱分解して、窒素原子と、III族原子とになる。この熱分解により生じた窒素原子が、窒化されたキャップ層343及び窒化チタン層341中の隙間(たとえば、結晶粒界あるいは微小クラック)を通じて炭化チタン層342の表面、場合によっては、炭化チタン層342の表面層内の隙間(たとえば、結晶粒界あるいは微小クラック)に達し、炭化チタン層342の表面および表面層の炭化物が窒化物となる反応が生じることもある。
なお、上記記載から理解できるように、III族窒化物半導体層36を形成する工程の初期において、窒化された炭化チタン層34の中の窒化チタン層341の厚みは厚くなり、炭化チタン層342の厚みは薄くなる。
また、上記(3)、(4)の反応や、III族窒化物半導体の熱分解により、析出したIII族原子は、III族窒化物半導体層36と、窒化されたキャップ層343との間に位置することとなり、III族元素析出層が形成される。なお、窒化されたキャップ層343が存在しない場合は、III族窒化物半導体層36と、窒化された炭化チタン層34との間にIII族元素析出層が形成される。
III族窒化物半導体層36の厚みは、サファイア基板30(基材)およびIII族窒化物半導体層36の線膨張係数差により発生してしまう応力を小さくするという観点から、たとえば、600μm以下であることが好ましく、特には450μm以下であることが好ましく、なかでも300μm以下であることが好ましい。さらに、III族窒化物半導体層36の厚みは、取り扱い性の観点から50μm以上であることが好ましい。
<第5の工程>
第5の工程では、第4の工程の後、サファイア基板30(基材)、第1の層31、窒化された炭化チタン層34(第2の層32を窒化した層)、及び、III族窒化物半導体層36を含む積層体(さらに、窒化されたキャップ層343を含む場合がある)を、III族窒化物半導体層36を形成する際の加熱よりも高い温度で加熱する。
第5の工程の加熱の後、常温まで戻った積層体を観察すると、サファイア基板30(基材)と、III族窒化物半導体層36とは分離している。III族窒化物半導体層36とサファイア基板30(基材)との分離位置は、III族窒化物半導体層36とサファイア基板30(基材)の間に位置する第1の層31及び窒化された炭化チタン層34の内部で起こる。すなわち、第5の工程を行うことで、III族窒化物半導体層36とサファイア基板30(基材)との分離位置を制御できる。また、分離位置の制御により、分離形状のばらつきを軽減できる。
ところで、このような分離位置の違いから、本発明者らは、本実施形態の場合、加熱後の冷却中に応力を利用した分離が起こっているのでなく、第5の工程での加熱処理の最中に分離が起こっていると推測している。このような加熱処理の最中の分離のメカニズムは明らかではないが、以下のようであると推測される。
前述した、III族窒化物半導体層36と、窒化されたキャップ層343(又は、窒化された炭化チタン層34)との間に形成されるIII族元素析出層には、III族原子が存在している。さらには、熱処理により、III族窒化物半導体層36を構成するIII族窒化物が分解して、III族原子が形成されることとなる。
III族原子は、融点が低いため、熱処理過程では液状となる。そして、III族原子は、窒化されたキャップ層343、及び、窒化チタン層341を通過し、炭化チタン層342、炭化チタンを含む第1の層31に達する。
そして、炭化チタン層342及び第1の層31では、以下の反応が生じると考えられる。ここでは、III族窒化物半導体がGaである例をあげて説明する。
Al4C3+4Ga(l)→4Al−Ga(l)+3C・・・(5)式
TiC+Ga(l)→Ti−Ga(l)+C・・・(6)式
なお、式(5)や(6)の反応を進行させる観点から、III族窒化物半導体層のIII族原子と、第1の層31及び第2の層32を構成する金属原子とは異なるものであることが好ましい。
この反応により、炭化チタン層342及び第1の層31の結晶構造が破壊され、炭化チタン層342及び第1の層31と、サファイア基板30(基材)との密着性が悪化する。そして、炭化チタン層342及び第1の層31の中で分離が生じる(図12(D))。
このようなメカニズムでIII族窒化物半導体層36とサファイア基板30(基材)とを分離するので、III族窒化物半導体層36及びサファイア基板30(基材)の径が大きい場合でも、剥離形状に大きなばらつきが生じにくく、所望の基材を生産性良く得ることができる。例えば、III族窒化物半導体層36及びサファイア基板30(基材)の径は、10mm以上200mm以下とすることができる。
なお、第5の工程では、例えば、1050℃より大1150℃以下の温度、さらに好ましくは1050℃より大1100℃以下、さらに好ましくは1050℃より大1080℃以下の温度で、上記積層体を加熱する。加熱温度が高くなると、式(5)及び(6)の反応を進めることができる反面、III族窒化物半導体層36に転位が発生しやすくなる。本実施形態の場合、サファイア基板30(基材)の直上に第1の層31を設けているので、第1の層31を設けていない場合に比べて低温の加熱で、サファイア基板30(基材)とIII族窒化物半導体層36とを十分に分離することができる。
また、第5の工程では、上記温度で、上記積層体を5時間以上30時間以下加熱する。加熱時間が長くなると、III族窒化物半導体層36に転位が発生しやすくなるほか、製造時間が長くなり、生産効率が悪くなる。本実施形態の場合、サファイア基板30(基材)の直上に第1の層31を設けているので、第1の層31を設けていない場合に比べて短い時間の加熱で、サファイア基板30(基材)とIII族窒化物半導体層36とを分離することができる。
ここで、加熱処理の例を説明する。
<第1の例>
第5の工程は、III族窒化物半導体層36を形成された後の加熱状態の積層体を常温(室温)まで冷却することなく、エピタキシャル成長した温度よりも高い温度で当該積層体を連続的に加熱してもよい。当該加熱は、例えば、III族窒化物半導体層36を形成したHVPE装置を使用して行うことができる。
例えば、HVPE装置でIII族窒化物半導体層36を形成後、積層体をHVPE装置内に収容した状態のまま、原料ガス及び反応ガスの供給を停止し、ヒータの温度を所望の値まで上げて、積層体を加熱してもよい。
<第2の例>
例えば第3の工程の条件の制御や、サファイア基板30(基材)とIII族窒化物半導体層36の厚みの関係の制御等により、III族窒化物半導体層36を形成後(第4の工程の後)、サファイア基板30(基材)、第1の層31、窒化された炭化チタン層34(第2の層32を窒化した層)、及び、III族窒化物半導体層36を含む積層体(さらに、窒化されたキャップ層343を含む場合がある)を常温まで冷却しても、サファイア基板30(基材)とIII族窒化物半導体層36との線膨張係数差に起因する応力に基づいてサファイア基板30(基材)とIII族窒化物半導体層36とが分離しないようにできる。このような場合、第4の工程でIII族窒化物半導体層36を形成後、上記積層体を一度常温まで冷却し、その後、第5の工程を行うことができる。第3の工程の条件の制御は、例えば、NH3ガス(窒化ガス)の流量(分圧)の制御である。NH3ガスの流量が少ないと、第4の工程後の冷却で、サファイア基板30(基材)とIII族窒化物半導体層36とが分離しやすい。一方、NH3ガスの流量が多いと、第4の工程後の冷却で、サファイア基板30(基材)とIII族窒化物半導体層36とが分離しにくい。
当該例でも、積層体の加熱には、HVPE装置3を使用することができる。例えば、積層体を、図3に示すヒータ129及び130で取り囲まれている領域内に配置して、加熱してもよい。
たとえば、図13に示すような表面に凹部511が形成された治具55を用意し、凹部511に、積層体Dを挿入する。そして、このような治具55ごと積層体DをHVPE装置内に収容する。そして、ヒータ129、130を駆動して、複数の積層体Dを同時に加熱処理する。なお、この熱処理工程においては、III族窒化物半導体層36の成長は停止した状態である。また、HVPE装置100とは別に熱処理装置を用意し、積層体Dを加熱処理してもよい。
<第3の例>
当該例でも、積層体を常温まで冷却後、第5の工程を実行する。例えば、積層体DをIII族元素の液体中に浸漬させた状態で、加熱する。III族元素の液体は、III族窒化物半導体層36に含まれるIII族元素と同じ元素の液体である。たとえば、III族窒化物半導体層36がGaNである場合には、III族元素の液体はGaの液体である。
III族元素の液体は、少なくとも、積層体Dの熱処理温度で液体となるものであればよい。たとえば、25℃で固体であっても、積層体Dの熱処理温度で液体となればよい。25℃で固体である場合には、たとえばIII族元素の粉末状を、後述する容器5、6に入れておけばよい。
例えば、図14および図15に示すような容器5を用意する。図14は、容器5の底面と直交する断面図である。図15は容器5の斜視図であり、内部に配置される積層体Dを示した図である。
この容器5は上面が開口した容器本体50と、この容器本体50の開口を閉鎖する蓋53と、ピン52とを備え、容器本体50の内部に複数の積層体Dを収容できる構成となっている。
容器5は耐熱性材料で構成され、たとえば、容器本体50、蓋53、ピン52は黒鉛製である。
容器本体50の側壁51には複数のピン52が挿入されている。複数のピン52のうち一部のピン52は、容器5の側壁51に対する高さ方向の取り付け位置が異なっており、容器5の底面側からピン52A〜52Dの順に配置されている。
まず、側壁51に挿入されているピン52A〜52Dを容器5の側壁51から一定程度引きだしておく。ただし、完全にピン52A〜52Dを引き抜くことはしない。次に、この容器5内にIII族元素の液体を所定量入れ、その後、積層体Dを容器5内に入れる。積層体Dは、サファイア基板30(基材)が容器5の上側となるように容器5内に挿入する。積層体Dは浮力により液体中で浮くこととなる。そして、ピン52Aを容器5内側に押し込み、積層体Dのサファイア基板30(基材)の外周縁をピン52で押さえる。
その後、再度、III族元素の液体を容器5内に充填し、2つ目の積層体Dを容器5内に挿入する。そして、前記ピン52Aよりも高い位置にあるピン52Bを容器5内側に押し込み、2つめの積層体Dのサファイア基板30(基材)の外周縁をピン52Bで押さえる。このような作業を繰り返して、各ピン52A〜52Dで各積層体Dのサファイア基板30(基材)の外周縁を押さえる。
このような容器5を使用すれば、複数の積層体Dを容器5内でIII族元素の液体Lに浸漬させることができる。容器5内において、積層体D全体がIII族元素の液体Lに浸漬することとなる。
その後、容器5の開口部に蓋53をはめ込む。そして、III族元素の液体Lが充填されるとともに、III族元素の液体Lに複数の積層体Dが浸漬された容器5を、HVPE装置100内に配置する。そして、ヒータ129、130を駆動して、容器5の外側から、III族元素の液体に浸漬された複数の積層体Dを同時に加熱処理する。また、HVPE装置100とは別に熱処理装置を用意し、容器5中の積層体Dを加熱処理してもよい。
また、積層体DをIII族元素の液体中に浸漬させるための容器は、図13及び図14に示すものに限らず、図15に示す容器6を使用してもよい。
この容器6は、上面が開口した容器本体61と、この容器本体61の開口をふさぐ蓋62と、容器本体61内に積層体Dを配置するための治具63とを有する。
容器6は耐熱性材料で構成され、たとえば、容器本体61、蓋62、治具63は黒鉛製である。
治具63は、長手方向に沿って複数の溝が離間して形成された複数本の保持部631と、この保持部631の長手方向の端部を一体的に固定する固定部632とを備える。
例えば、複数の保持部631の溝に、積層体Dの外周縁をはめ込むことで、積層体Dが治具63に保持されることとなる。
治具63により、複数の積層体Dが所定の間隔で離間して設置されることとなる。そして、複数の積層体Dを保持する治具63を、容器本体61内に挿入する。その後、容器本体61内にIII族元素の液体を充填し、複数の積層体DがIII族元素の液体中に完全に浸漬されることとなる。
その後、容器本体61の開口を蓋62でふさぐ。次に、容器6を、HVPE装置100内に配置する。たとえば、ヒータ129、130で取り囲まれている領域内に、容器6を配置する。そして、ヒータ129、130を駆動して、容器6の外側から、III族元素の液体に浸漬された複数の積層体Dを同時に加熱処理する。また、HVPE装置3とは別に熱処理装置を用意し、容器6中の積層体Dを加熱処理してもよい。
なお、熱処理工程において、容器5、6の腐食を抑制するために、容器5、6を窒素ガス等の非酸化性ガス雰囲気下に配置することが好ましい。また、容器5、6にIII族元素の液体を充填するとしたが、積層体Dの熱処理温度で液体となるIII族元素の粉末を充填してもよい。
第5の工程の加熱処理は、上記例示したものに限定されず、その他の形態を採用することもできる。
なお、積層体の加熱は、非酸化性ガス中で熱処理することが好ましい。たとえば、窒素原料ガス供給部から窒素ガスを供給してもよく、また、配管40から非酸化性ガスを供給して、成長領域39を非酸化性ガス雰囲気としてもよい。
非酸化性ガスとしては、Arガス等の希ガスおよびN2ガスのいずれかから1種以上を選択することができる。非酸化性ガス雰囲気下で熱処理を行なうことで、III族窒化物半導体層36の酸化を抑制することができる。
なかでも、非酸化性ガスとして、N2ガスを使用することが好ましい。窒素は、アンモニアに比べて窒化力が低いため、N2ガスを使用することで、III族窒化物半導体層15表面のN原子の脱離を一定程度抑制できる一方で、適度にIII族窒化物の分解が起こり、III族原子を生成することができる。そして、生成したIII族原子により、上述した反応(5)あるいは(6)を生じさせて、サファイア基板30(基材)とIII族窒化物半導体層36との分離を促進させることができる。
なお、サファイア基板30(基材)から分離した後、III族窒化物半導体層36を含む側の構造体を酸(たとえば、塩酸水溶液あるいは、リン酸と硫酸の混合液)で洗浄して、III族元素の液滴あるいは液滴が固化したものを除去する。また、第1の層31、窒化された炭化チタン層34が残っている場合、これらを除去(エッチング、研磨等)してもよい。これにより、III族窒化物半導体層36からなる下地基板10が得られる。
以上、図面を参照して本実施形態について述べたが、これらは本実施形態の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
例えば、上記各実施形態では、基材としてサファイア基板30を使用したが、スピネル基板、SiC基板、ZnO基板、シリコン基板、GaAs基板、GaP基板等を用いてもよい。
さらに、上記実施形態では、第1の層31、第2の層32、キャップ層33、GaN半導体層36等を特定の製造条件で製造したが、特に限定する趣旨ではない。すなわち、上記の膜厚、製造条件は単なる例示に過ぎず、形成する半導体層の組成、構造に応じて適宜変更可能である。
上記実施形態では、第2の層32として炭化チタンを使用していたが、これに限られるものではない。第2の層32としては、炭化アルミニウム、炭化チタン、炭化ジルコニウム、炭化ハフニウム、炭化バナジウム及び炭化タンタルから選択されるいずれかの炭化物層を形成すればよい。炭化ジルコニウム、炭化ハフニウム、炭化バナジウムまたは炭化タンタルは、非化学量論的化合物であり、炭素原子に比べ金属原子が過剰に存在する。そのため、過剰な金属原子が基材に対し、比較的結合しやすいため、上記実施形態のように、第1の層31を形成することが特に有用である。
さらに、上記実施形態では、第1の層31に含まれる金属炭化物と、第2の層32を構成する金属炭化物とを同種のものとしたが、これに限らず、第1の層31に含まれる金属炭化物と、第2の層32を構成する金属炭化物とが異なっていてもよい。たとえば、第1の層31中に含まれる金属炭化物を炭化ジルコニウムとし、第2の層32を構成する炭化物を炭化チタンとしてもよい。
また、上記実施形態では、キャップ層33を生成していたが、キャップ層33はなくてもよい。たとえば、炭化物層の酸化を防止する役目を有するグローブボックス中の酸素または水蒸気を低減した雰囲気で取り扱うことが可能な場合には、炭化物層の酸化は抑制できるため、キャップ層33は不要である。
さらに、上記実施形態では、第1の層31、第2の層32、キャップ層33をスパッタリングにより成膜したがこれに限らず、他の方法にて成膜してもよい。たとえば、真空蒸着により第1の層31等を生成してもよい。さらには、たとえば、基材を加熱しながら、金属膜と、カーボン膜とを重ねて成膜することで炭化物層を形成してもよい。
以上説明した下地基板10の製造方法によれば、サファイア基板30(基材)と、III族窒化物半導体層36と分離位置を制御できる反面、加熱工程等に起因して、下地基板10の成長面111に複数の凸部が形成される場合がある。また、成長面111が凹状になる状態で、下地基板10に反りが発生する場合がある。第1の実施形態で説明した自立基板の製造方法によれば、このような下地基板10を用いて、反りの問題を軽減された自立基板を製造することができる。
<<第3の実施形態>>
本実施形態では、下地基板10の成長面111が凹状に反っている場合(外形に反りが発生している場合)、成長工程S20において、前処理工程S10の後の下地基板10を成長面111が凸状になるように反らせ、この状態でIII族窒化物半導体を成長させる。その他の工程は、第1及び第2の実施形態と同様である。以下、成長工程S20について説明する。
まず、成長装置内で下地基板10を保持する基板ホルダ450の構造の例を詳述する。図17に示すように、基板ホルダ450は、下地基板10の成長面111と反対側の面112を支持する支持面451aと、支持面451aにおいて下地基板10の中央部と対向する部位に形成された突起部452と、下地基板10の成長面111の周縁部を支持面451a側に押さえ付ける押さえ部455と、を有している。押さえ部455によって下地基板10の周縁部が支持面451a側に押さえ付けられることにより、基板ホルダ450によって下地基板10が保持されるとともに、突起部452が下地基板10の中央部を支持面451aから遠ざかる方向に押圧する。このため、図17に示すように、下地基板10は、その成長面111が凸になるように反った状態となる。
基板ホルダ450は、盤状の本体部451を有しており、上記の支持面451aは、本体部451の一方の面の少なくとも中央部を含む部分である。突起部452は、支持面451aより突出している。基板ホルダ450は、更に、本体部451の一方の面の周縁部より起立した壁部453を有している。すなわち、壁部453は、支持面451aからの突起部452の突出方向と同じ方向へ、本体部451の一方の面から起立している。壁部453は、例えば、環状に形成されており、壁部453によって囲まれた領域に下地基板10が保持されるようになっている。
押さえ部455は、例えば、壁部453に対して着脱可能に取り付けられる着脱部材456と、着脱部材456と下地基板10との間に介装されるスペーサ457、458と、を有している。
着脱部材456は、例えば、着脱部材456を本体部451に対して位置決めするための位置決め部456aと、スペーサ457、458を介して下地基板10を押さえ付ける板状の押さえ板部456bと、を有している。位置決め部456aを壁部453の側面にあてがった状態で、ビスなどの止着部材460を用いて、押さえ板部456bを壁部453の起立方向における端面(頂面)に対して取り付けることにより、着脱部材456を本体部451に対して位置決めして固定することができるようになっている。壁部453には、その頂面側に開口する止着穴453aが形成されている。押さえ板部456bを通して止着部材460を止着穴453aに止着することによって、押さえ板部456b、ひいては着脱部材456の全体が、壁部453に対して(つまり本体部451に対して)固定される。
押さえ板部456bは、環状に形成されている。着脱部材456が壁部453に取り付けられた状態で、押さえ板部456bの内周縁は、壁部453よりも内側に庇(ひさし)状に張り出すようになっている。
スペーサ457、458は、例えば、それぞれ環状の板状部材であり、その外径は下地基板10の外径と同等の寸法に設定されている。スペーサ457、458は、下地基板10の凸反り量を調節するためのものであり、スペーサ457、458の数は、下地基板10の必要な凸反り量に応じて適宜選択するものとする。
なお、スペーサ457、458、押さえ板部456b、支持面451a等の形状は、下地基板10の平面形状に合わせて適宜変更すればよい。一例として、下地基板10の平面形状が円形の場合、スペーサ457、458は円環状とし、押さえ板部456bの少なくとも内周形状は円形とし、支持面451aは円形とすることが好ましい。
次に、基板ホルダ450によって下地基板10を保持させる手順の例を説明する。
先ず、押さえ部455(着脱部材456およびスペーサ457、458)を本体部451から取り外した状態で、下地基板10を、支持面451aと対向する姿勢で、壁部453によって囲まれた領域に配置する。このとき、下地基板10の成長面111が、支持面451aとは反対側を向くように、下地基板10を配置する。
次に、所要数のスペーサ457、458を、壁部453によって囲まれた領域に挿入し、スペーサ457、458を下地基板10の周縁部と対向させた状態とする。なお、スペーサ457、458は、互いに重なり合った状態とする。
次に、着脱部材456を壁部453に対して位置決めし、押さえ板部456bを壁部453に対して取り付ける。このとき、押さえ板部456bの庇状の内周縁が、スペーサ457、458を介して、下地基板10の成長面111の周縁部を支持面451a側に押さえ付ける。これにより、下地基板10は、本体部451とスペーサ158との間に挟み込まれた状態で、基板ホルダ450によって保持される。このとき、下地基板10の中央部は、突起部452によって、支持面451aから遠ざかる方向に押圧される。このため、下地基板10は、成長面111側が凸になるように反り返った状態となる(図17)。
そして、このように基板ホルダ450に保持された下地基板10を、例えば、図3に示すようなHVPE装置100内に配置し、成長面111上にIII族窒化物をエピタキシャル成長させる。なお、MOVPE法、Naフラックス法、アモノサーマル法等の結晶成長法によりエピタキシャル成長させても良い。
以上説明した本実施形態によれば、第1の実施形態で説明した前処理工程と、本実施形態で説明した下地基板10の機械的拘束により、下地基板10上に形成されるIII族窒化物半導体の層における反りの問題をより効果的に軽減することができる。結果、得られる自立基板の反りの問題をより軽減することができる。また、第1の実施形態で説明した前処理工程により改善すべき程度を小さくすることができるので、薬液の温度を低くして扱いやすくしたり、処理時間を短くして効率を向上させたりすることができる。
<比較例1>
第2の実施形態で説明した製造方法で得られた下地基板であって、第1の実施形態で説明した前処理工程S10を実施しないものを、比較例1の下地基板とした。第2の実施形態で説明した製造方法で下地基板を得る具体的な方法は、以下の通りである。
まず、厚さ550μmの2インチφのサファイア(Al2O3)基板を基材として用意した。そして、このサファイア基板上に、以下の条件で炭化チタンが分散した炭素層(第1の層)を形成した。第1の層中におけるTiとCの原子数比C/TiをXPS(X-ray Photoelectron Spectroscopy)で測定したところ、4であった。
成膜方法:反応性スパッタリング
成膜温度:800℃
成膜時間:24秒
圧力:0.4Pa
印加電力:150W
スパッタガス:Arガス
スパッタガス流量:14.3scc
反応性ガス:炭化水素(CH4)
反応性ガス流量:10.0sccm
ターゲット:Ti
膜厚:0.3nm
その後、第1の層の上に、以下の条件で炭化チタンの層(第2の層)を形成した。
成膜方法:反応性スパッタリング
成膜温度:800℃
成膜時間:30分
圧力:0.4Pa
印加電力:300W
スパッタガス:Arガス
スパッタガス流量:27.0sccm
反応性ガス:CH4
反応性ガス流量:10.0sccm
ターゲット:Ti
膜厚:100nm
その後、第2の層を、以下の条件で窒化した。
窒化温度:925℃
窒化時間:30分
窒化ガス:NH3ガス、H2ガス
その後、窒化した第2の層の上に、以下の条件でGaN層を形成した。
成膜方法:HVPE(hydride vapor phase epitaxy)法
成膜温度:1040℃
成膜時間:150分
膜厚:400μm
その後、GaN層を形成した後の積層体を常温まで冷却することなく、以下の条件で加熱(第5の工程)した。
加熱温度:1100℃
加熱時間:12時間
加熱方法:HVPE装置内
第5の工程の後、積層体を常温まで冷却し、観察した。GaN層とサファイア基板は分離していた。分離箇所は、GaN層とサファイア基板との間に位置する第1の層及び第2の層部分に生じていた。このようにして得られたGaN層を、比較例1の下地基板とした。
<実施例1>
第2の実施形態で説明した製造方法(比較例1と同じ製造条件)で得られた下地基板であって、第1の実施形態で説明した前処理工程S10を実施したものを、実施例1の下地基板とした。以下、前処理工程S10の詳細を説明する。
研磨材:塩基性コロイダルシリカ
研磨パッド:不織布パッド
プレート:アルミナセラミックス
面圧:700g/cm2
回転数:40rpm
CMP時間:20時間
<下地基板の成長面の観察>
比較例1の下地基板の成長面をSEM(走査電子顕微鏡)で観察した様子を、図18に示す。上側は成長面を斜め上から観察した画像であり、下側は成長面の断面を観察した画像である。なお、図示しないが、前処理工程S10前の実施例1の下地基板を観察したところ、図18と同様な状態であった。これらから分かるように、第2の実施形態で説明した製造方法によれば、GaN層とサファイア基板との分離箇所を制御できるが、得られた下地基板の成長面に凸部が形成される場合があることが分かる。
次に、前処理工程S10後の実施例1の下地基板の成長面をSEMで観察した様子を、図21及び図22に示す。図21は成長面を斜め上から観察した画像であり、図22は成長面の断面を観察した画像である。図21及び図22に示すように、前処理工程S10により下地基板の成長面における凸部が除去され、成長面は平坦化されていることが分かる。
<下地基板の外形上の反りの観察>
触針式表面段差計で、比較例1及び実施例1の下地基板の裏面(サファイア基板との剥離面)形状を測定した。比較例1及び実施例1の下地基板いずれも、裏面側が凸状に反っていた。この結果より、比較例1及び実施例1の下地基板いずれも、成長面側が凹状に反っていることを確認した。
<下地基板の結晶構造上の反りの観察>
図19(a)および(b)は、実施例及び比較例の下地基板の模式図であり、このうち図19(a)は正面断面図、図19(b)は平面図である。なお、図19(a)においては、下地基板の外形上の反りを図示していないが、実際には反りが存在していた。
ここで、c軸の角度差αの定義を説明する。実施例および比較例の下地基板(2インチφ、+c面が成長面)各々について、図19(b)に示す点P1、点P2、点P3および点P4の合計4箇所において、c軸の向きをX線回折装置により測定した。
ここで、平面視における下地基板の中心を原点(0,0)とすると、点P1の平面座標は(−20,0)、点P2の平面座標は(+20,0)、点P3の平面座標は(0,−20)、点P4の平面座標は(0,+20)である。点P1は原点から−X方向に20mmシフトした位置、点P2は原点から+X方向に20mmシフトした位置、点P3は原点から−Y方向に20mmシフトした位置、点P4は原点から+Y方向に20mmシフトした位置である。
また、c軸の角度差αは、図19(a)に示す点Aにおけるc軸の向き(向きA1)と、図19(a)に示す点Bにおけるc軸の向き(向きB1=向きB2)と、の角度差である。
図19(a)に示す点Aおよび点Bは、図19(b)に示す点P1〜P4のうち、原点を間に挟んで対称に配置された2つの点である。すなわち、点Aおよび点Bの組み合わせには、点P1および点P2からなる第1の組み合わせと、点P3および点P4からなる第2の組み合わせと、が存在する。
そして、この2つの組み合わせ各々で得られた角度差αの平均値を、各下地基板の角度差と定義する。
比較例1及び実施例1いずれにおいても、角度差は0.8°以上1.2°以下の範囲に含まれていた。
<下地基板上へのIII族窒化物半導体の成長>
比較例1及び実施例1各々の下地基板を、第3の実施形態で説明した基板ホルダ450に、成長面(+c面)が200μm凸形状となるように保持させた。具体的には、図20に示すように、成長面が凹状に反った下地基板を、成長面が凸状に反り、かつ、下地基板の中心部と外周部の高低差が200μmとなるように、基板ホルダ450に保持させた。その後、当該基板ホルダ450を図3に示すHVPE装置内にセットし、III族窒化物半導体を成長させた。このようにして得られた下地基板と、III族窒化物半導体の層との積層体を、自立基板とした。なお、III族窒化物半導体の成長条件は、以下の通りである。
成膜温度:1050℃
成膜時間:4時間
GaCl流量:500sccm
NH3流量:5000sccm
成膜する厚さ:2mm
<III族窒化物半導体成長後の自立基板の結晶構造上の反りの観察>
下地基板上にIII族窒化物半導体を成長後、基板ホルダ450から解放した自立基板のIII族窒化物半導体の層の露出面(成長面)において、<下地基板の結晶構造上の反りの観察>と同様の手法(図19参照)により観察点を定義し、同様の手法で角度差を測定した。
ここで、<下地基板の結晶構造上の反りの観察>で観察された角度差から、<自立基板の結晶構造上の反りの観察>で観察された角度差を引いた値を、「改善角度」と定義する。改善角度が正の値であれば成長面の凹状の反りが改善しており、改善角度の値が大きいほど改善の程度が大きいことを意味する。
比較例1の改善角度は、約0.2°であった。一方、実施例1の改善角度は、約0.9°であった。すなわち、実施例1は、比較例1よりも改善角度が大きく、比較例1よりも結晶構造上の反り(成長面の凹状の反り)が改善されていた。
以下、参考形態の例を付記する。
1. 窒化物半導体からなる下地基板の第1の面を化学的機械研磨により平坦化する前処理工程と、
前記前処理工程の後、前記第1の面上に窒化物半導体層をエピタキシャル成長させる成長工程と、
を有する自立基板の製造方法。
2. 1に記載の自立基板の製造方法において、
前記前処理工程の前に、前記第1の面に凸部を有する前記下地基板を準備する準備工程をさらに有する自立基板の製造方法。
3. 2に記載の自立基板の製造方法において、
前記準備工程は、
基材層上に、炭化アルミニウム、炭化チタン、炭化ジルコニウム、炭化ハフニウム、炭化バナジウムおよび炭化タンタルから選択されるいずれかの炭化物層を形成する工程と、
前記炭化物層を窒化する工程と、
前記窒化された炭化物層上に、III族窒化物半導体層をエピタキシャル成長させる工程と、
前記基材層、前記炭化物層およびエピタキシャル成長後の前記III族窒化物半導体層を前記エピタキシャル成長の成長温度よりも高い温度で熱処理し、前記III族窒化物半導体層と前記基材層とを剥離して、前記III族窒化物半導体層を含む前記下地基板を得る工程と、
を有する自立基板の製造方法。