一般的に、高合金である超耐熱合金は溶解・凝固の過程において偏析を生じやすく、エレクトロスラグ再溶解(ESR)法や真空アーク再溶解(VAR)法などの二次溶解を行って、比較的均質な鋳塊を得ている。ここで、二次溶解に使用される消耗電極は、冷却モールドの上に吊下されて大電流を流されることでその下端から抵抗加熱により連続的に溶解していく。かかる溶解が安定して連続するように制御できないと、均質な鋳塊を得ることはできない。
例えば、特許文献1では、Nb及び/又はTiを含む成分組成の超耐熱合金についての二次溶解において、消耗電極の割れに起因する不安定溶解及びこの割れによる小片そのものが未溶解のまま鋳塊に残留することを防止するための消耗電極の製造方法を開示している。Inconel(登録商標)718、A286、V57などのFe−Ni−Cr基の超耐熱合金では、ラーベス(Laves)相や炭化物が結晶粒界に析出してこれを脆化させることが知られている。消耗電極においても、特に、ラーベス相が結晶粒界に析出又は晶出していると、これを起点に二次溶解中に割れを生じ易い。つまり、二次溶解時には、消耗電極の先端に大きな温度勾配が生じるから、熱応力で脆的な結晶粒界を起点とした粒界割れが生じ、これが結晶粒界に沿って伝播すると大きな割れに至るのである。そこで、消耗電極の製造時において、融点以下であり且つラーベス相を固溶させ得るような温度で均熱処理を施すとしている。
また、特許文献2では、Al及びTiを含む成分組成の超耐熱合金の二次溶解において、特許文献1と同様に、消耗電極の割れに起因する不安定溶解及びその破片の鋳塊への落下について述べ、これに対して、鍛伸材について非金属介在物を溶体化するための熱処理を施すとともに、その後、油冷又は水冷によって組織調整を行う消耗電極の製造方法を開示している。Al+Tiを所定量以上含有するFe−Ni−Cr基、Ni−Cr基、Ni−Cr−Co基、又はCo基などの超耐熱合金では、特許文献1に開示のような均熱処理(溶体化熱処理)だけでは均質な鋳塊を得るには不十分であるとし、消耗電極を鍛伸して靭性を高め、更に、熱処理後に油冷又は水冷することで硬さを高くなりすぎないように組織調整し、特に、Ni3(Al,Ti)の析出を防止すべきとしている。
更に、特許文献3では、Inconel(登録商標)718等のγ’析出硬化型のNi基超耐熱合金において、消耗電極の部分的な欠落を防止するためには溶体化温度よりも低い温度域で均熱処理を行って過時効状態に処理を行うべきとした消耗電極の製造方法を開示している。均熱処理は700〜950℃のγ’析出温度域で10時間以上行われ、過時効状態として硬さを低下させることで、脆化相を減少させ、消耗電極の部分的な欠落を防止できるとしている。
まず、本発明による1つの実施例である消耗電極の製造方法について、図1に沿って図2を参照しつつ詳細に説明する。
図1に図2を併せて参照すると、まず図2に示す成分組成の範囲内、且つ、原子%で、Ti/Al×10=0.2以上〜4.0未満、Al+Ti+Nb=8.5%以上〜13.0%未満、を満たす成分組成の二次溶解インゴットを得るべく、同成分組成の合金の一次溶解バルク材を得る(S1)。かかるバルク材は、鋳造により消耗電極形状とし得るが、必要に応じて鍛造などの加工を施してもよい。ここでは、目標値A及び目標値Bに示す成分組成の範囲内でそれぞれ製造を行った実施例を示す。
次いで、かかるバルク材に熱処理を施す(S2)。この熱処理においては、炭化物を固溶させるため、例えば1200℃に加熱して3時間保持し(S3)、炉冷する(S4)。炉冷においては、結晶粒界への炭化物の析出を抑制するよう、冷却速度は80℃/hr以下とし、好ましくは50℃/hr以下とする。かかる冷却によって得た消耗電極は、炭化物の析出を抑制できて360HV以下の硬さの組織を得ることができる。
上記したように、炭化物の析出を抑制させた消耗電極によれば、特定の成分組成のNi基超耐熱合金において、二次溶解における消耗電極の割れ及びその欠落を抑制できて、均質なインゴットを得ることが出来るのである。
次に、上記した成分組成のNi基超耐熱合金を用いて、熱処理条件と炭化物の析出状況の関係について調査した結果について、図2乃至図4を用いて説明する。
図2の目標値Aに示す成分組成の合金について、試験片を複数作成し、熱処理条件を変えて熱処理を行い、そのミクロ組織を観察した。
図3に示すように、1180℃×3hr及び1200℃×3hrの等温保持から空冷(AC)を行うと、どちらも結晶粒界に炭化物の析出が観察される。これに対し、炉冷(FC)を模して50℃/hrで冷却すると、どちらも結晶粒界の炭化物の析出が空冷の場合と比較して抑制されていることがわかる。
また、硬さは、1180℃×3hr及び1200℃×3hrの等温保持の順に、それぞれ、空冷では385HV及び396HVの硬さであったのに対し、50℃/hrの冷却速度の冷却では349HV及び319HVの硬さであった。つまり、空冷に比べて炉冷とすることで硬さが低くなり、360HV以下となる。
ここで、50℃/hrの空冷によって結晶粒界の炭化物の析出を抑制できたが、γ’の析出温度域を空冷に比べてゆるやかな冷却速度で通過しており、γ’も析出していると考えられる。しかし、少なくとも室温での硬さは炉冷で低くなっていることから、室温での硬さについては炭化物の析出量が支配的であると言える。
さらにいくつかの追加試験を行い、冷却速度を80℃/hr以下とすることで、上記と同様に結晶粒界の炭化物の析出を抑制できることを確認した。
また、図2の目標値Bに示す成分組成の合金についても試験を行い、冷却速度を80℃/hr以下とすることで同様に結晶粒界における炭化物の析出を抑制できることを確認できた。
さらに、図4に示すように、比較例として、Inconel(登録商標)718の試験片について、1160℃×6.5hrの等温保持後に空冷する熱処理を行い、組織観察を行った。結晶粒界の炭化物の析出はほとんど観察されず、図2に示す成分組成の合金における挙動とは異なることが判る。すなわち、図2に示す成分組成の合金は、Inconel(登録商標)718と同様な加熱保持後に空冷を行う熱処理では、粒界炭化物を析出させてしまうので、炭化物を固溶させてから炉冷を行って炭化物の析出を抑制するのである。
図5に示すように、他の比較例として、図2の合金について熱処理後に空冷して得た消耗電極について、二次溶解を行った場合の電極下端部のミクロ組織を調査した。ミクロ組織は、二次溶解を中断し、消耗電極の下端部の表層近傍の断面組織を観察して行った。これによれば、消耗電極の先端では、二次溶解中に粒界近傍が優先的に溶出していることが観察された。すなわち、粒界炭化物が優先的に溶融していると考えられ、これによって生じた粒界近傍の溶出部分を起点として、二次溶解中の温度勾配による熱応力で粒界割れが生じ、これが結晶粒界に沿って伝播して大きな割れや電極の欠落に至ると考えられる。上記した実施例では、優先的に溶融する粒界炭化物の析出が抑制されているため、このような粒界近傍の溶出は生じない。
なお、本発明で対象とする合金は、質量%で、C:0.001%超〜0.100%未満、Cr:11.0%以上〜19.0%未満、Co:0.5%以上〜22.0%未満、Fe:0.5%以上〜10.0%未満、Si:0.1%未満、Mo:2.0%超〜5.0%未満、W:1.0%超〜5.0%未満、Mo+1/2W:2.5%以上〜5.5%未満、S:0.010%以下、Nb:0.3%以上〜2.0%未満、Al:3.00%超〜6.50%未満、Ti:0.20%以上〜2.49%未満、残部Ni及び不可避的不純物からなり、且つ、原子%で、Ti/Al×10:0.2以上〜4.0未満、Al+Ti+Nb:8.5%以上〜13.0%未満、を満たす成分組成を有する。かかる合金は、例えばInconel(登録商標)718と比較して、γ’の析出量を増加し700℃以上での高温機械強度を向上させながら、γ’の固溶温度の上昇を防いで高い熱間加工性を維持することを考慮して開発されたものである。
また、上記した本発明で対象とする合金は、任意添加元素として、質量%で、B:0.0001%以上〜0.03%未満、Zr:0.0001%以上〜0.1%未満、Mg:0.0001%以上〜0.030%未満、Ca:0.0001%以上〜0.030%未満、REM:0.0001%以上〜0.200%以下を含み得て、不純物元素としてP:0.020%未満、N:0.020%未満を含み得る。
ここまで本発明による代表的実施例及びこれに基づく改変例について説明したが、本発明は必ずしもこれらに限定されるものではない。当業者であれば、添付した特許請求の範囲を逸脱することなく、種々の代替実施例を見出すことができるだろう。