詳細な説明
技術に関する以下の説明は、1つ以上の本発明の主題、製造、および使用を本質的に単に例示したものにすぎず、本出願もしくは本出願に基づく優先権を主張して出願されうる他の出願またはそれらから生じる特許で特許請求された任意の特定の本技術の範囲、適用、または使用を限定することを意図したものでいない。以下の定義および限定されるものではないがガイドラインは、本明細書に示される技術の説明を精査したものとみなされなければならない。
本明細書で用いられる「抗体」という用語は、ジスルフィド結合により相互結合された4本のポリペプチド鎖、すなわち、2本の重(H)鎖および2本の軽(L)鎖で構成された免疫グロブリン分子を意味するものとする。各重鎖は、重鎖可変領域(本明細書ではHCVRまたはVHと略記される)および重鎖定常領域で構成される。重鎖定常領域は、3つのドメイン、すなわち、CH1、CH2、およびCH3で構成される。各軽鎖は、軽鎖可変領域(本明細書ではLCVRまたはVLと略記される)および軽鎖定常領域で構成される。軽鎖定常領域は、1つのドメインCLで構成される。VHおよびVLの領域は、フレームワーク領域(FR)と称されるより保存された領域が介在する相補性決定領域(CDR)と称される超可変性の領域にさらに細分可能である。各可変領域(VHまたはVL)は、CDR1、CDR2、およびCDR3と称される3つのCDRを含有する。各可変領域はまた、FR1、FR2、FR3、およびFR4と称される4つのフレームワークサブ領域を含有する。抗体という用語は、たとえばIgGおよびIgMをはじめとするすべてのタイプの抗体を包含する。いくつかの実施形態では、抗体はIgMであり、いくつかの実施形態では、IgMは重合五量体を形成する。
本明細書で用いられる場合、抗体に関して「抗体フラグメント」および「抗原結合フラグメント」という用語は、インタクト抗体と同一の抗原に結合可能なインタクト抗体の一部を意味する。抗体フラグメントの例としては、線状抗体、一本鎖抗体分子(scFv)、Fv、Fab、およびF(ab’)2フラグメント、ならびに抗体フラグメントから形成される多重特異的抗体が含まれるが、これらに限定されるものではない。抗体フラグメントは、好ましくは、重鎖可変領域および/または軽鎖可変領域の少なくとも一部を保持する。
「抗αβTCR抗体または抗αβTCR抗体フラグメント」という用語は、ヒトT細胞レセプターのα鎖、ヒトT細胞レセプターのβ鎖、またはヒトT細胞レセプターのα鎖およびβ鎖の両方に結合する抗体または抗体フラグメントを意味する。
本明細書で用いられる場合、「TOL101抗体」という表現は、ヒトαβTCRに結合するかつハイブリドーマTOL101マスターセルバンク(MCB)から産生されるネズミ抗αβTCRモノクローナルIgM抗体を意味する。本明細書で用いられる場合、「マスターセルバンク」という用語は、均一性および安定性を確保すべく一緒に処理された完全に特徴付けられた細胞の培養物を意味する。典型的には、MCBは、特定のモノクローナル抗体の安定かつ均一な供給源を提供すべく試験され決定されたハイブリドーマ細胞系である。TOL101MCBは、2012年11月2日にATCCに寄託され、ATCC受託番号_が割り当てられた。
TOL101は、配列番号3:
のポリヌクレオチド配列によりコードされる軽鎖を有する。
TOL101は、配列番号4:
のポリヌクレオチドによりコードされる重鎖を有する。
TOL101は、配列番号5:
のポリヌクレオチド配列によりコードされるJ鎖を有する。
TOL101軽鎖のアミノ酸配列は、配列番号6:
で表される。
TOL101重鎖のアミノ酸配列は、配列番号7:
で表される。
TOL101J鎖のアミノ酸配列は、配列番号8:
で表される。
本明細書で用いられる場合、「αβTCR」は、哺乳動物TCRの哺乳動物αサブユニットと哺乳動物βサブユニットとのヘテロ二量体を含みうる。いくつかの実施形態では、哺乳動物αサブユニットは、ヒトαサブユニットのアミノ酸配列、たとえば、配列番号1:
のアミノ酸配列を含みうる。
いくつかの実施形態では、哺乳動物βサブユニットは、ヒトβサブユニットのアミノ酸配列、たとえば、配列番号2:
のアミノ酸配列を含みうる。
いくつかの実施形態では、例示的なヒトαβTCRは、配列番号1および2のサブユニットαβを含むヘテロ二量体でありうる。いくつかの実施形態では、ヒトαβTCRまたはそのフラグメントは、配列番号1および2の少なくとも一部を含む。いくつかの実施形態では、ヒトαβTCRは、配列番号1または2の少なくとも一部を含む部分またはフラグメントを含みうる。
本明細書で用いられる場合、「相補性決定領域」および「CDR」という用語は、主に抗原結合に関与する領域を意味する。軽鎖可変領域には3つのCDR(CDRL1、CDRL2、およびCDRL3)および重鎖可変領域には3つのCDR(CDRH1、CDRH2およびCDRH3)が存在する。これらの6つのCDRを構成する残基は、KabatおよびChothiaにより、次のように、すなわち、軽鎖可変領域中の残基24〜34(CDRL1)、残基50〜56(CDRL2)、および残基89〜97(CDRL3)、ならびに重鎖可変領域中の残基31〜35(CDRH1)、残基50〜65(CDRH2)、および残基95〜102(CDRH3)(Kabat et al., (1991) Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th Ed. Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, MD.(参照により本明細書において援用される))として、さらには軽鎖可変領域中の残基26〜32(CDRL1)、残基50〜52(CDRL2)、および残基91〜96(CDRL3)、ならびに重鎖可変領域中の残基26〜32(CDRH1)、残基53〜55(CDRH2)、および残基96〜101(CDRH3)(Chothia and Lesk (1987) J. Mol. Biol. 196: 901-917(参照により本明細書において援用される))として、特徴付けられてきた。特定の実施形態では、本明細書で用いられる「相補性決定領域」および「CDR」という用語は、Kabat定義およびChothia定義の両方を包含する残基(すなわち、軽鎖可変領域中の残基24〜34(CDRL1)、残基50〜56(CDRL2)、および残基89〜97(CDRL3)、ならびに残基26〜35(CDRH1)、残基50〜65(CDRH2)、および残基95〜102(CDRH3))を含む。また、本明細書で用いられる場合、明記されていないかぎり、CDR残基の番号付けは、Kabatに従う。特定の実施形態では、本発明は、ヒトフレームワーク内にTOL101の6つのCDRで構成されたヒト化抗体を提供する(たとえば、寄託されたハイブリドーマの配列決定を行って、当技術分野で公知の技術に従って組換えによりヒト化抗体を構築する)。
本明細書で用いられる場合、「フレームワーク」という用語は、本明細書に定義されたCDR残基以外の可変領域の残基を意味する。フレームワークを構成する4つの個別のフレームワークサブ領域、すなわち、FR1、FR2、FR3、およびFR4が存在する。フレームワークサブ領域が軽鎖または重鎖の可変領域に存在するかを示すために、サブ領域略号に「L」または「H」が追加されることもある(たとえば、「FRL1」は、軽鎖可変領域のフレームワークサブ領域1を示す)。明記されていないかぎり、フレームワーク残基の番号付けは、Kabatに従う。特定の実施形態では、抗αβTCR抗体またはそのフラグメントは、完全でないフレームワークを有しうることが、留意すべき点である(たとえば、それらは、4つのサブ領域の1つ以上を含有するにすぎないフレームワークの一部を有しうる)。
本明細書で用いられる場合、「完全ヒトフレームワーク」という用語は、ヒトで天然に見いだされるアミノ酸配列を有するフレームワーを意味する。完全ヒトフレームワークの例としては、KOL、NEWM、REI、EU、TUR、TEI、LAY、およびPOMが含まれるが、これらに限定されるものではない(たとえば、Kabat et al., (1991) Sequences of Proteins of Immunological Interest, US Department of Health and Human Services, NIH, USA、およびWu et al., (1970) J. Exp. Med. 132, 211-250(両方とも参照により本明細書において援用される)を参照されたい)。特定の実施形態では、本発明に係るヒト化抗体は、完全ヒトフレームワークまたはTOL101のネズミCDRを収容するように変化させた1個以上のアミノ酸を有するフレームワークを有する。
本明細書で用いられる場合、「ヒト化」抗体とは、組換え技術を用いて一般に調製され、非ヒト種の免疫グロブリンに由来する抗原結合部位を有し、かつ分子の残りの免疫グロブリン構造がヒト免疫グロブリンの構造および/または配列に基づく、キメラ分子を意味する。抗原結合部位は、定常ドメインに融合された完全な可変ドメインまたは可変ドメイン中の適切なフレームワーク領域にグラフトされた相補性決定領域(CDR)のみのいずれかを含みうる。抗原結合部位は、野生型でありうるかまたは1つ以上のアミノ酸置換により修飾されうる。これにより、一般的には、ヒト個体において免疫原としての定常領域は排除されるが、一般的には、外来可変領域に対する免疫反応の可能性は残る。他の手法では、ヒト由来の定常領域を提供するだけでなく、できるかぎりヒトに近い形態で再構成すべく可変領域を修飾することにも重点が置かれる。重鎖および軽鎖の可変領域は両方とも、所与の種で比較的保存されるかつCDRに対する足場を提供すると推定される4つのフレームワーク領域(FR)によりフランキングされた、対象の抗原に応じて異なるかつ結合能を決定する3つの相補性決定領域(CDR)を含有することが知られている。特定の抗原に対して非ヒト抗体を調製する場合、非ヒト抗体に由来するCDRを修飾されるヒト抗体中に存在するFR上にグラフトすることにより、可変領域を「再構成」または「ヒト化」することが可能である。種々の抗体へのこの手法の適用は、Sato, K., et al., (1993) Cancer Res 53 :851-856、Riechmann, L., et al., (1988) Nature 332:323-327、Verhoeyen, M., et al., (1988) Science 239:1534-1536、Kettleborough, C. A., et al., (1991) Protein Engineering 4:773-3783、Maeda, H., et al., (1991) Human Antibodies Hybridoma 2:124-134、Gorman, S. D., et al., (1991) Proc Natl Acad Sci USA 88:4181-4185、Tempest, P. R., et al., (1991) Bio/Technology 9:266-271、Co, M. S., et al., (1991) Proc Natl Acad Sci USA 88:2869-2873、Carter, P., et al., (1992) Proc Natl Acad Sci USA 89:4285-4289、およびCo, M. S. et al., (1992) J Immunol 148:1149-1154(それらはすべて、参照により本明細書において援用される)により報告された。いくつかの実施形態では、ヒト化抗体は、すべてのCDR配列を保存する(たとえば、寄託されたTOL101抗体の6つのCDRをすべて含有するヒト化マウス抗体)。他の実施形態では、ヒト化抗体は、元の抗体(たとえば、元のTOL101抗体)に対して改変された1つ以上(1、2、3、4、5、6)のCDR(元の抗体の1つ以上のCDR「に由来する」1つ以上のCDRと称されることもある)を有する。
本明細書で用いられる場合、「被験体」および「患者」という用語は、哺乳動物などの任意の動物を意味する。本明細書で用いられる「哺乳動物」という用語は、ヒト、非ヒト霊長動物、類人猿、ブタ、ウシ、ヤギ、ヒツジ、ウマ、イヌ、ネコ、ならびに当技術分野で一般に知られている科学研究で利用される哺乳動物、たとえば、マウス、ラット、ハムスター、ウサギ、モルモット、およびフェレットを含めて、哺乳動物に分類される任意の哺乳動物を意味する。本発明の好ましい実施形態では、哺乳動物はヒトである。
本明細書で用いられる場合、「精製された」または「精製する」という用語は、サンプルからの汚染物質の除去を意味する。たとえば、αβTCR特異的抗体は、汚染性非免疫グロブリンタンパク質の除去により精製されうる。また、同一の抗原に結合しない免疫グロブリンの除去により精製される。非免疫グロブリンタンパク質の除去および/または特定の抗原に結合しない免疫グロブリンの除去により、サンプル中の抗原特異的免疫グロブリンのパーセントが増加する。他の例では、組換え抗原特異的ポリペプチドは、細菌宿主細胞、真核宿主細胞、または哺乳動物宿主細胞で発現され、ポリペプチドは、宿主細胞タンパク質の除去により精製される。それにより、サンプル中の組換え抗原特異的ポリペプチドのパーセントが増加する。
本明細書で用いられる場合、「Fc領域」という用語は、免疫グロブリン重鎖のC末端領域を意味する。「Fc領域」は、天然配列Fc領域または(たとえば、増大または低減されたエフェクター機能を有する)変異Fc領域でありうる。
本明細書で用いられる場合、Fc領域は、(たとえば、被験体において)生物学的活性の活性化または低下に関与する「エフェクター機能」を有しうる。エフェクター機能の例としては、C1q結合、補体依存性細胞傷害(CDC)、Fcレセプター結合、抗体依存性細胞媒介性細胞傷害(ADCC)、食作用、細胞表面レセプター(たとえば、B細胞レセプターBCR)のダウンレギュレーションなどが含まれるが、これらに限定されるものではない。そのようなエフェクター機能は、Fc領域と結合ドメイン(たとえば、抗体可変ドメイン)とを組み合わせることを必要としうる。また、種々のアッセイ(たとえば、Fc結合アッセイ、ADCCアッセイ、CDCアッセイなど)を用いて評価可能である。
本明細書で用いられる場合、「単離された」抗体または抗体フラグメントは、同定されてその天然環境の成分から分離および/または回収されたものである。その天然環境の汚染成分は、抗体またはそのフラグメントの診断的または治療的使用を妨害するおそれのある物質であり、酵素、ホルモン、および他のタンパク質または非タンパク質の溶質を含みうる。特定の実施形態では、単離された抗体は、(1)ローリー法により決定したときに95重量%超、好ましくは99重量%超のポリペプチドに、(2)スピニングカップシークエネーターを用いて少なくとも15残基のN末端もしくは内部のアミノ酸配列を得るのに十分な程度に、または(3)クーマシーブルー染色もしくは銀染色を用いて還元性もしくは非還元性の条件下でSDS−pageにより均一になるまで、精製される。単離された抗体は、ポリペプチドの天然環境の少なくとも1つの成分は存在しないであろうから、組換え細胞内にin situで抗体を含む。しかしながら、通常、単離された抗体は、最も少ない1回の精製工程により調製されるであろう。
本明細書で用いられる場合、「治療」という用語は、治療処置および予防(prophylactic or preventative)手段の両方を意味する。治療を必要とするものは、すでに疾患を有するものさらには疾患が予防されるものを含む。
「症状が軽減される条件下で」という表現は、疾患からの回復率(たとえば、体重増加率)に及ぼす検出可能な影響(ただし、これに限定されるものではない)を含めてαβTCR抗体により治療可能な任意の疾患の検出可能な症状の定性的もしくは定量的な軽減、または特定の疾患に通常関連付けられる症状(たとえば、移植拒絶の症状)の少なくとも1つの軽減、の任意の程度を意味する。特定の実施形態では、本発明に係るαβTCR抗体は、(たとえば、αβTCR抗体で治療しない場合と比較して)移植拒絶またはGVHDの症状が軽減される条件下で被験体に投与される。
本明細書で用いられる見出し(「背景」や「概要」など)および副見出しは、本技術内のトピックを一般的に構成することを意図したものにすぎず、本技術またはその任意の側面の開示を限定することを意図したものではない。とくに、「背景」に開示された主題は、新規な技術を含むこともあれば、先行技術の記載を構成しないこともありうる。「概要」に開示された主題は、技術またはその任意の実施形態の全範囲の網羅的または完全な開示ではない。特定の有用性を有する本明細書の節内の材料の分類または考察は、便宜的に行われたものであり、所与の組成物のいずれで使用する場合でも、本明細書のその分類に従って材料が必ずまたは専ら機能しなければならないという推論を引き出すべきでない。
本明細書での参照文献の引用は、それらの参照文献が先行技術であることまたは本明細書に開示された技術の特許性となんらかの関連性を有することを承認するものではない。本開示に引用された参照文献の内容の考察はいずれも、参照文献の著者らによりなされた主張の一般的概要を単に提供することを意図したものであり、そのような参照文献の内容の確かさに関して承認するものではない。本明細書の「説明」の節で引用された引用文献はすべて、その全体が参照により本明細書において援用される。
説明および特施例は、技術の実施形態の指標となるが、例示の目的を意図したものにすぎず、技術の範囲を限定することを意図したものではない。さらに、明記された特徴を有する複数の実施形態の記載は、追加の特徴を有する他の実施形態または明記された特徴の異なる組合せが組み込まれた他の実施形態を除外することを意図したものではない。特定例は、この技術の組成物および方法の実施および使用をいかに行うかを例示する目的で提供されたものであり、とくに明記されていないかぎり、この技術の所与の実施形態の作製または試験が行われたか行われていないかを表すことを意図したものではない。
本明細書で用いられる場合、「好ましい」および「好ましくは」という言葉は、特定の状況下で特定の利点を与える技術の実施形態を意味する。しかしながら、同一または他の状況下で、他の実施形態が好ましいこともありうる。さらに、1つ以上の好ましい実施形態の記載は、他の実施形態が有用でないことを意味するものでもなければ、他の実施形態を技術の範囲から除外することを意図したものでもない。
本明細書で参照される場合、組成パーセントはすべて、とくに明記されていないかぎり、全組成物の重量を基準にする。本明細書で用いられる場合、「include(〜を含む)」という言葉およびその変化形は、限定することを意図したものではないので、リスト中の項目の記載は、この技術の材料、組成物、装置、および方法で同様に有用でありうる他の類似の項目を除外するものではない。同様に、「can(〜可能である、〜しうる)」および「may(〜であってもよい、〜しうる)」という用語ならびにそれらの変化形は、限定することを意図したものではないので、実施形態が特定の要素または特徴を含みうるまたは含んでいてもよいという記載は、それらの要素または特徴を含有しない本技術の他の実施形態を除外するものではない。
「comprising(〜を含む)」というオープンエンドの用語は、including(〜を含む)、containing(〜を含有する)、having(〜を有する)などの同義語も同様に、本発明の説明または特許請求を行うべく本明細書で用いられるが、本技術またはその実施形態は、記載の成分「consisting of(〜からなる)」や「consisting essentially of(〜から本質的になる)」などのより多くの限定用語を用いて代替的に記載されうる。
とくに定義されていないかぎり、本明細書で用いられる科学技術用語はすべて、当該技術が属する技術分野の当業者により一般に理解されているものと同一の意味を有する。本技術の実施または試験にあたり本明細書に記載のものと類似のもしくは等価な方法および材料を使用することが可能であるが、好適な方法および材料を以下に記載する。さらに、材料、方法、および実施例は、例示的なものにすぎず、それらに限定しようとするものではない。本明細書に記載の刊行物、特許出願、特許、および他の参照文献はすべて、それらの全体が参照により組み込まれる。矛盾を生じた場合、定義を含む本明細書が優先するものとする。
αβTCRを指向する単離された抗体および抗体フラグメント
「抗体」という用語は、最広義で用いられ、特定的には、単一の抗αβTCR抗体(アゴニスト、アンタゴニスト、および中和抗体または阻止抗体を含む)およびポリエピトープ特異性を有する抗αβTCR抗体組成物を包含する。本明細書で用いられる「抗体」は、本明細書に記載の所望の作動性もしくは拮抗性または機能性もしくは臨床性のいずれかを呈するかぎり、インタクト免疫グロブリンまたは抗体分子、ポリクローナル抗体、多重特異的抗体(すなわち、少なくとも2つのインタクト抗体から形成される二重特異性抗体)、および免疫グロブリンフラグメント(たとえば、scFv、Fab、F(ab’)2、またはFv)を含む。
抗体は、典型的には、特異的抗原に対する結合特異性を呈するタンパク質またはポリペプチドである。天然抗体は、通常、2本の同一の軽(L)鎖および2本の同一の重(H)鎖で構成されたヘテロ四量体糖タンパク質である。典型的には、各軽鎖は、1つの共有結合性ジスルフィド結合により重鎖に結合されるが、ジスルフィド結合の数は、異なる免疫グロブリンアイソタイプの重鎖間で異なる。各重鎖および軽鎖はまた、規則的に離間した鎖内ジスルフィド架橋を有する。各重鎖は、一端に可変ドメイン(VH)および続いていくつかの定常ドメインを有する。各軽鎖は、一端に(VL)可変ドメインおよびその他端に定常ドメインを有し、軽鎖の定常ドメインは、重鎖の第1の定常ドメインにアライメントされ、軽鎖可変ドメインは、重鎖の可変ドメインでアライメントされる。特定のアミノ酸残基は、軽鎖および重鎖の可変ドメイン間に境界を形成すると考えられる[Chothia et al., J. Mol. Biol., 186:651-663 (1985)、Novotny and Haber, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 82:4592-4596 (1985)]。いかなるの脊椎動物種の抗体の軽鎖も、その定常ドメインのアミノ酸配列に基づいて、κおよびλと呼ばれる2つの明確に異なるタイプの1つに帰属可能である。その重鎖の定常ドメインのアミノ酸配列に依存して、免疫グロブリンは、異なるクラスに帰属可能である。
5つの主要クラスの免疫グロブリン、すなわち、IgA、IgD、IgE、IgG、およびIgMが存在し、これらのいくつかは、サブクラス(アイソタイプ)、たとえば、IgG−1、IgG−2、IgG−3、およびIgG−4、IgA−1およびIgA−2にさらに分割されうる。異なるクラスの免疫グロブリンに対応する重鎖定常ドメインは、それぞれ、α、δ、ε、γ、およびμと呼ばれる。
「抗体フラグメント」は、インタクト抗体の一部、一般的には、インタクト抗体の抗原結合領域または可変領域を含む。抗体フラグメントの例としては、Fab、Fab’、F(ab’)2、およびFvフラグメント、ダイアボディー、ならびに抗体フラグメントから形成される多重特異的抗体が含まれる。
「可変」という用語は、抗体間で配列が異なる可変ドメインの特定の部分を記載すべく本明細書で用いられ、各特定の抗体のその特定の抗原に対する結合性および特異性に使用される。しかしながら、可変性は、通常、抗体の可変ドメイン全体にわたり一様に分布してない。それは、典型的には、軽鎖および重鎖の可変ドメインの両方にある相補性決定領域(CDR)または超可変領域と呼ばれる3つのセグメントに集中する。可変ドメインのより高度に保存された部分は、フレームワーク(FR)と呼ばれる。天然の重鎖および軽鎖の可変ドメインは、それぞれ、3つのCDRにより結合された主にβシート配置をとる4つのFR領域を含み、これらのCDRは、ループを形成して、βシート構造を結合し、いくつかの場合にはその一部を形成する。各鎖中のCDRは、他の鎖のCDRと共にFR領域によりごく近接して一体的に保持されており、抗体の抗原結合部位の形成に寄与する[Kabat, E. A. et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, National Institutes of Health, Bethesda, Md. (1987)を参照されたい]。定常ドメインは、抗原への抗体の結合に直接関与していないが、抗体依存性細胞毒性における抗体の関与などの種々のエフェクター機能を呈する。
本明細書で用いられる「モノクローナル抗体」という用語は、実質的に均一な抗体の集団から得られた抗体を意味する。すなわち、集団を構成する個別の抗体は、副次量で存在しうる天然に存在する可能性のある突然変異以外は同一である。モノクローナル抗体は、きわめて特異的であり、単一の抗原性部位を指向する。さらに、典型的には異なる決定因子(エピトープ)を指向する異なる抗体を含む従来の(ポリクローナル抗体)抗体調製物とは対照的に、各モノクローナル抗体は、抗原上の単一の決定因子を指向する。
本明細書中のモノクローナル抗体は、所望の生物学的活性または性質を呈するかぎり、起源の種または免疫グロブリンのクラス名もしくはサブクラス名さらには抗体フラグメント(たとえば、Fab、F(ab’)2、およびFv)にかかわらず、抗αβTCR抗体の可変(超可変を含む)ドメインと定常ドメインとの(たとえば、「ヒト化」抗体の場合)、または軽鎖と重鎖との、または一方の種の鎖と他方の種の鎖との接合により、または異種タンパク質との融合により、産生されたキメラ抗体、ハイブリッド抗体、および組換え抗体を含む。たとえば、米国特許第4,816,567号およびMage et al., in Monoclonal Antibody Production Techniques and Applications, pp. 79-97 (Marcel Dekker, Inc.: New York, 1987)を参照されたい。
したがって、「モノクローナル」という修飾語は、実質的に均一な抗体集団から得られる抗体の特性を意味し、いかなる特定の方法による抗体の産生も必要とみなすべきではない。たとえば、本発明に従って使用されるモノクローナル抗体は、Kohler and Milstein, Nature, 256:495 (1975)により最初に記載されたハイブリドーマ法により作製しうるか、または米国特許第4,816,567号に記載の組換えDNA法により作製しうる。「モノクローナル抗体」はまた、たとえば、McCafferty et al., Nature, 348:552-554 (1990)に記載の技術を用いて生成されたファージライブラリーから単離しうる。
「ヒト化」形態の非ヒト(たとえば、ネズミ)抗体は、非ヒト免疫グロブリンに由来する最小限の配列を含有する特異的なキメラ免疫グロブリン、免疫グロブリン鎖、またはそれらのフラグメント(たとえば、抗体のFv、Fab、Fab’、F(ab’)2、または他の抗原結合サブ配列)である。ほとんどの場合、ヒト化抗体は、レシピエントの相補性決定領域(CDR)の残基が、所望の特異性、親和性、および能力を有するマウス、ラット、ウサギなどの非ヒト種(ドナー抗体)のCDRの残基により置き換えられた、ヒト免疫グロブリン(レシピエント抗体)である。いくつかの場合には、ヒト免疫グロブリンのFvフレームワーク領域(FR)残基は、対応する非ヒト残基により置き換えられる。さらに、ヒト化抗体は、レシピエント抗体中にも輸入されたCDRやフレームワーク配列中にも見いだされない残基を含みうる。これらの修飾は、抗体性能のさらなる精密化および最適化のために行われる。一般的には、ヒト化抗体は、CDR領域のすべてまたは実質的にすべてが非ヒト免疫グロブリンのものに対応する、かつFR領域のすべてまたは実質的にすべてがヒト免疫グロブリンコンセンサス配列のものである、少なくとも1つ、典型的には2つの可変ドメインの実質的にすべてを含むであろう。最適には、ヒト化抗体はまた、免疫グロブリン定常領域またはドメイン(Fc)の少なくとも一部、典型的にはヒト免疫グロブリンのものを含むであろう。
「ヒト抗体」は、ヒトにより産生された抗体および/または当技術分野で公知のもしくは本明細書に開示のヒト抗体作製技術のいずれかを用いて作製された抗体のアミノ酸配列に対応するアミノ酸配列を有するものである。ヒト抗体のこの定義は、少なくとも1つのヒト重鎖ポリペプチドまたは少なくとも1つのヒト軽鎖ポリペプチドを含む抗体、たとえば、ネズミ軽鎖ポリペプチドとヒト重鎖ポリペプチドとを含む抗体を含む。ヒト抗体は、当技術分野で公知の種々の技術を用いて産生可能である。一実施形態では、ヒト抗体は、ファージライブラリーがヒト抗体を発現するファージライブラリーから選択される(Vaughan et al. Nature Biotechnology, 14:309-314 (1996)、Sheets et al. PNAS, (USA) 95:6157-6162 (1998))、Hoogenboom and Winter, J. Mol. Biol., 227:381 (1991)、Marks et al., J. Mol. Biol., 222:581 (1991))。ヒト抗体はまた、トランスジェニック動物、たとえば、内因性免疫グロブリン遺伝子が部分的にまたは完全に不活性化されたマウスにヒト免疫グロブリン遺伝子座を導入することにより作製可能である。挑戦時、遺伝子再構成、集合、および抗体レパートリーを含めてあらゆる点でヒトに見られるものによく似たヒト抗体産生が観察される。この手法は、たとえば、米国特許第5,545,807号、同第5,545,806号、同第5,569,825号、同第5,625,126号、同第5,633,425号、同第5,661,016号、および次の科学出版物、すなわち、Marks et al., Bio/Technology, 10: 779-783 (1992)、Lonberg et al., Nature, 368: 856-859 (1994)、Morrison, Nature, 368:812-13 (1994)、Fishwild et al., Nature Biotechnology, 14: 845-51 (1996)、Neuberger, Nature Biotechnology, 14: 826 (1996)、Lonberg and Huszar, Intern. Rev. Immunol., 13:65-93 (1995)に記載されている。他の選択肢として、ヒト抗体は、標的抗原を指向する抗体を産生するヒトBリンパ球の不死化を介して調製されうる(そのようなBリンパ球は、個体から回収されうるか、またはin vitroで免疫されたものでありうる)。たとえば、Cole et al., Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy, Alan R. Liss, p. 77 (1985)、Boerner et al., J. Immunol. , 147 (1):86-95 (1991)、および米国特許第5,750,373号を参照されたい。
本発明に係る抗αβTCR抗体または抗体フラグメントの可変領域および/またはCDRならびにそれらの変異体は、任意のタイプの好適なヒト定常領域(たとえば、キメラ抗体の場合)またはヒトフレームワーク(たとえば、ヒト化抗体の場合)と共に利用しうる。特定の実施形態では、定常領域はIgMクラスである。好ましくは、CDRは、完全ヒトフレームワーク領域またはフレームワークサブ領域と共に使用される。たとえば、NCBIウェブサイトは、特定のヒトフレームワーク領域に対する配列を含有する。ヒトVH配列の例としては、ヒト免疫グロブリン鎖可変領域遺伝子座の完全なヌクレオチド配列を含むMatsuda et al., J Exp. Med. 1998 Dec 7; 188(11):2151-62(参照により本明細書において援用される)に提供されるVH1−18、VH1−2、VH1−24、VH1−3、VH1−45、VH1−46、VH1−58、VH1−69、VH1−8、VH2−26、VH2−5、VH2−70、VH3−11、VH3−13、VH3−15、VH3−16、VH3−20、VH3−21、VH3−23、VH3−30、VH3−33、VH3−35、VH3−38、VH3−43、VH3−48、VH3−49、VH3−53、VH3−64、VH3−66、VH3−7、VH3−72、VH3−73、VH3−74、VH3−9、VH4−28、VH4−31、VH4−34、VH4−39、VH4−4、VH4−59、VH4−61、VH5−51、VH6−1およびVH7−81が含まれるが、これらに限定されるものではない。ヒトVK配列の例としては、Kawasaki et al., Eur J Immunol 2001 Apr;31(4): 1017-28、Schable and Zachau, Biol Chem Hoppe Seyler 1993 Nov; 374(11):1001-22、およびBrensing-Kuppers et al., Gene 1997 Jun 3;191(2):173-81(それらはすべて、参照により本明細書において援用される)に提供されるA1、A10、A11、A14、A17、A18、A19、A2、A20、A23、A26、A27、A3、A30、A5、A7、B2、B3、L1、L10、L11、L12、L14、L
15、L16、L18、L19、L2、L20、L23、L24、L25、L4/18a、L5、L6、L8、L9、O1、O11、O12、O14、O18、O2、O4、およびO8が含まれるが、これらに限定されるものではない。ヒトVL配列の例としては、Kawasaki et al., Genome Res 1997 Mar; 7(3):250-61(参照により本明細書において援用される)に提供されるV1−11、V1−13、V1−16、V1−17、V1−18、V1−19、V1−2、V1−20、V1−22、V1−3、V1−4、V1−5、V1−7、V1−9、V2−1、V2−11、V2−13、V2−14、V2−15、V2−17、V2−19、V2−6、V2−7、V2−8、V3−2、V3−3、V3−4、V4−1、V4−2、V4−3、V4−4、V4−6、V5−1、V5−2、V5−4、およびV5−6が含まれるが、これらに限定されるものではない。完全ヒトフレームワークは、これらの機能性生殖系列遺伝子のいずれかから選択可能である。一般的には、これらのフレームワークは、限られた数のアミノ酸変化だけ互いに異なる。これらのフレームワークは、TOL101のCDRまたはその変異体と共に使用しうる。本発明に係るCDRと共に使用しうるヒトフレームワークの追加の例としては、KOL、NEWM、REI、EU、TUR、TEI、LAY、およびPOMが含まれるが、これらに限定されるものではない(たとえば、Kabat et al., 1987 Sequences of Proteins of Immunological Interest, US Department of Health and Human Services, NIH, USA、およびWu et al., 1970, J. Exp. Med. 132, 211-250(両方とも参照により本明細書において援用される)を参照されたい)。
「Fc領域」という用語は、インタクト抗体のパパイン消化により生成されうる免疫グロブリン重鎖のC末端領域を定義すべく使用される。Fc領域は、天然配列Fc領域または変異Fc領域でありうる。免疫グロブリン重鎖のFc領域の境界はさまざまでありうるが、ヒトIgG重鎖Fc領域は、通常、位置Cys226近傍のアミノ酸残基からまたは位置Pro230近傍からFc領域のカルボキシル末端まで伸長するように定義される(本明細書ではKabat et al., supraによる番号付け体系を使用する)。免疫グロブリンのFc領域は、一般的には、CH2ドメインおよびCH3ドメインの2つの定常ドメインを含み、任意選択で、CH4ドメインを含む。
「Fc領域鎖」とは、本明細書では、Fc領域の2本のポリペプチド鎖の1つを意味する。ヒトIgG Fc領域の「CH2ドメイン」(「Cγ2」ドメインとしても参照される)は、通常、位置231近傍のアミノ酸残基から位置340近傍のアミノ酸残基まで延在する。CH2ドメインは、他のドメインと強く対合しないという点でユニークである。もっと正確に言えば、インタクト天然IgG分子の2つのCH2ドメイン間に2本のN結合分岐状炭水化物鎖が介在する。炭水化物は、ドメイン間対合の代わりを提供してCH2ドメインの安定化を支援しうると推測されてきた。Burton, Molec. Immunol. 22:161-206 (1985)。本明細書中のCH2ドメインは、天然配列CH2ドメインまたは変異CH2ドメインでありうる。
「CH3ドメイン」は、Fc領域中のC末端からCH2ドメインまでの一続きの残基(すなわち、IgGの位置341近傍のアミノ酸残基から位置447近傍のアミノ酸残基まで)を含む。本明細書中のCH3領域は、天然配列CH3ドメインまたは変異CH3ドメインでありうる(たとえば、一方の鎖中に導入された「隆起」と他方の鎖中に対応して導入された「空隙」とを有するCH3ドメイン、米国特許第5,821,333号参照)。そのような変異体CH3ドメインは、本明細書に記載の多重特異的(たとえば、二重特異的)抗体を作製するために使用しうる。
「ヒンジ領域」は、一般的には、ヒトIgG1のGlu216近傍またはCys226近傍からPro230近傍までの伸長として定義される(Burton, Molec. Immunol. 22:161-206 (1985))。他のIgGアイソタイプのヒンジ領域は、同一の位置に重鎖間S−S結合を形成する最初および最後のシステイン残基を配置することによりIgG1配列とアライメントされうる。本明細書中のヒンジ領域は、天然配列ヒンジ領域または変異ヒンジ領域でありうる。変異ヒンジ領域の2本のポリペプチド鎖は、一般的には、変異ヒンジ領域の2本のポリペプチド鎖が2本の鎖間でジスルフィド結合を形成できるように、ポリペプチド鎖1本あたり少なくとも1個のシステイン残基を保持する。本明細書中の好ましいヒンジ領域は、天然配列ヒトヒンジ領域、たとえば、天然配列ヒトIgG1ヒンジ領域である。
「機能性Fc領域」は、天然配列Fc領域の少なくとも1つの「エフェクター機能」を有する。例示的な「エフェクター機能」としては、C1q結合、補体依存性細胞傷害(CDC)、Fcレセプター結合、抗体依存性細胞媒介性細胞傷害(ADCC)、食作用、細胞表面レセプター(たとえば、B細胞レセプターBCR)のダウンレギュレーションなどが含まれる。そのようなエフェクター機能は、一般的には、Fc領域を結合ドメイン(たとえば、抗体可変ドメイン)と組み合わせることを必要とし、そのような抗体エフェクター機能を評価するための当技術分野で公知の種々のアッセイを用いて評価可能である。
「天然配列Fc領域」は、天然に見いだされるFc領域のアミノ酸配列と同一のアミノ酸配列を含む。「変異Fc領域」は、少なくとも1つのアミノ酸修飾により天然配列Fc領域のものと異なるアミノ酸配列を含む。好ましくは、変異Fc領域は、天然配列Fc領域または親ポリペプチドのFc領域と比較して、天然配列Fc領域または親ポリペプチドのFc領域中に少なくとも1つのアミノ酸置換、たとえば、約1〜約10のアミノ酸置換、好ましくは約1〜約5のアミノ酸置換を有する。本明細書の変異Fc領域は、好ましくは、天然配列Fc領域および/または親ポリペプチドのFc領域に対して少なくとも約80%の配列同一性、最も好ましくは少なくとも約90%の配列同一性、より好ましくは少なくとも約95%の配列同一性を有するであろう。
「抗体依存性T細胞媒介細胞傷害性」および「ADCC」とは、Fc受容体(FcR)を発現する非特異的細胞傷害性細胞(たとえば、ナチュラルキラー(NK)細胞、好中球、およびマクロファージ)が、標的T細胞上に結合された抗体を認識し、続いて標的T細胞の溶解を引き起こす細胞媒介性反応を意味する。ADCCを媒介する一次細胞のNK細胞は、FcγRIIIのみを発現し、一方、単球は、FcγRI、FcγRII、およびFcγRIIIを発現する。造血細胞上のFcR発現は、Ravetch and Kinet, Annu. Rev. Immunol., 9:457-92 (1991)の464頁の表3にまとめられている。対象分子のADCC活性を評価するために、米国特許第5,500,362号または同第5,821,337号に記載されるようなin vitro ADCCアッセイを行いうる。そのようなアッセイに有用なエフェクター細胞としては、末梢血単核細胞(PBMC)およびナチュラルキラー(NK)細胞が含まれる。他の選択肢としてまたは追加として、対象分子のADCC活性は、in vivoで、たとえば、Clynes et al. PNAS (USA), 95:652-656 (1998)に開示されるような動物モデルで評価しうる。
「ヒトエフェクター細胞」は、1つ以上のFcRを発現する白血球であり、エフェクター機能を発揮する。好ましくは、細胞は、少なくともFcγRIIIを発現し、ADCCエフェクター機能を発揮する。ADCCを媒介するヒト白血球の例としては、末梢血単核細胞(PBMC)、ナチュラルキラー(NK)細胞、単球、細胞傷害性T細胞、および好中球が含まれ、好ましいのは、PBMCおよびNK細胞である。エフェクター細胞は、その天然源から、たとえば、本明細書に記載の血液またはPBMCから、単離しうる。
「Fc受容体」および「FcR」という用語は、抗体のFc領域に結合するレセプターを記載すべく用いられる。好ましいFcRは、天然配列ヒトFcRである。さらに、好ましいFcRは、IgG抗体に結合するもの(γレセプター)であり、これには、FcγRI、FcγRII、およびFcγRIIIサブクラスのレセプターが含まれ、これらのレセプターの対立遺伝子変異体および選択的にスプライシングされた形態も含まれる。FcγRIIレセプターとしては、FcγRIIA(「活性化レセプター」)およびFcγRIIB(「阻害性レセプター」)が含まれ、これらは、主にその細胞質内ドメインが異なる類似のアミノ酸配列を有する。活性化レセプターFcγRIIAは、その細胞質内ドメインに免疫レセプターチロシンベース活性化モチーフ(ITAM)を含有する。阻害性レセプターFcγRIIBは、その細胞質内ドメインに免疫レセプターチロシンベース阻害モチーフ(ITIM)を含有する(Daeron, Annu. Rev. Immunol., 15:203-234 (1997)にレビューされている)。FcRは、Ravetch and Kinet, Annu. Rev. Immunol., 9:457-92 (1991)、Capel et al., Immunomethods, 4:25-34 (1994)、およびde Haas et al., J. Lab. Clin. Med., 126:330-41 (1995)にレビューされている。他のFcRは、将来同定されるものを含めて、本明細書中の「FcR」という用語に包含される。この用語はまた、胎児への母性IgGの移動に関与する新生児レセプター(FcRn)を含む(Guyer et al., J. Immunol., 117:587 (1976)、およびKim et al., J. Immunol., 24:249 (1994))。
「補体依存性細胞傷害」および「CDC」は、補体の存在下での標的の溶解を意味する。補体活性化経路は、コグネイト抗原と複合体化された分子(たとえば、抗体)への補体系の第1の成分(C1q)の結合により開始される。補体活性化を評価するために、たとえば、Gazzano-Santoro et al., J. Immunol. Methods, 202:163 (1996)に記載のCDCアッセイを行いうる。
「親和性成熟」抗体は、改変を有していない親抗体と比較して、抗原に対する抗体の親和性の改良をもたらす1つ以上の改変をその1つ以上のCDR中に有するものである。好ましい親和性成熟抗体は、標的抗原に対するナノモル親和性さらにはピコモル親和性を有するであろう。親和性成熟抗体は、当技術分野で公知の手順により産生される。Marks et al. Bio/Technology, 10:779-783 (1992)には、VHおよびVLドメインシャフリングによる親和性成熟が記載されている。CDRおよび/またはフレームワークの残基のランダム突然変異誘発は、Barbas et al. Proc Nat. Acad. Sci, USA 91 :3809-3813 (1994)、Schier et al. Gene, 169:147-155 (1995)、Yelton et al. J. Immunol., 155:1994-2004 (1995)、Jackson et al., J. Immunol., 154(7):3310-9 (1995)、およびHawkins et al, J. Mol. Biol., 226:889-896 (1992)に記載されている。
たとえば「抗体の免疫特異的結合」で使用される「免疫特異的」という用語は、抗体の抗原結合部位とその抗体により認識される特異的抗原との間で起こる抗原特異的結合相互作用を意味する。
「サイトカイン」という用語は、細胞間メディエーターとして他の細胞に作用する1つの細胞集団により放出されるタンパク質に対する総称語である。そのようなサイトカインの例は、リンホカイン、モノカイン、および伝統的なポリペプチドホルモンである。サイトカインに含まれるのは、成長ホルモン、たとえば、ヒト成長ホルモン、N−メチオニルヒト成長ホルモン、およびウシ成長ホルモン、上皮小体ホルモン、チロキシン、インスリン、プロインスリン、リラキシン、プロリラキシン、糖タンパク質ホルモン、たとえば、濾胞刺激ホルモン(FSH)、甲状腺刺激ホルモン(TSH)および黄体形成ホルモン(LH)、肝臓増殖因子、線維芽細胞増殖因子、プロラクチン、胎盤性ラクトゲン、腫瘍壊死因子−αおよび−β、ミュラー管抑制物質、マウスゴナドトロピン関連ペプチド、インヒビン、アクチビン、血管内皮増殖因子、インテグリン、トロンボポイエチン(TPO)、神経成長因子、たとえば、NGF−α、血小板増殖因子、トランスフォーミング増殖因子(TGF)、たとえば、TGF−αおよびTGF−β、インスリン様増殖因子−Iおよび−II、エリトロポイエチン(EPO)、骨誘導因子、インターフェロン、たとえば、インターフェロン−α、−β、および−γ、コロニー刺激因子(CSF)、たとえば、マクロファージ−CSF(M−CSF)、顆粒球−マクロファージ−CSF(GM−CSF)、および顆粒球−CSF(G−CSF)、インターロイキン(IL)、たとえば、IL−1、IL−1α、IL−2、IL−3、IL−4、IL−5、IL−6、IL−7、IL−8、IL−9、IL−10、IL−11、IL−12、腫瘍壊死因子、たとえば、TNF−αまたはTNF−β、ならびにLIFやkitリガンド(KL)を含む他のポリペプチド因子である。本明細書で用いられる場合、サイトカインという用語は、天然源からのまたは組換えT細胞培養物からのタンパク質、および天然配列サイトカインの生物学的活性等価体を包含する。
本明細書で用いられる「治療する」、「治療」、および「療法」という用語は、治癒的療法、疾患または病態の症状を軽減または改善する療法、予防的療法(prophylactic therapy; and preventative therapy)を意味する。
「治療上有効量」という用語は、哺乳動物において疾患または障害を治療するのに効果的な量の活性剤(たとえば、抗体もしくは抗体フラグメント)または薬剤を意味する。自己免疫性疾患または炎症性疾患の場合、治療上有効量の活性剤または薬剤は、活性化免疫細胞(たとえば、αβTCR+T細胞)の数の低減、Treg細胞の数および/もしくは活性の増加、炎症性サイトカインもしくは免疫誘発性サイトカイン、たとえば、IL−2、インターフェロン−γ、または活性化T細胞からのTNF−αの産生の低減、活性化T細胞の増殖の阻害(すなわち、ある程度の減速、好ましくは停止)、αβTCR+T細胞の表面上のCD3の発現を50個/mm3未満、好ましくは25個/mm3未満に低減、ならびに/または自己免疫性および/もしくは炎症性の障害に関連付けられる症状の1つ以上のある程度の軽減を行いうる。抗体または抗体活性剤または薬剤がαβTCR+T細胞の活性化および増殖を予防しうる程度まで、抗炎症性および/または自己抗原寛容誘発性でありうる。自己免疫療法または炎症療法では、in vivo有効性は、たとえば、炎症性サイトカインまたは免疫誘発性サイトカイン、たとえば、IL−2、インターフェロン−γ、もしくは活性化T細胞からのTNF−αの量、およびαβTCR+T細胞の表面上の機能性CD3分子の枯渇を評価することにより、測定可能である。移植組織拒絶の治療では、「治療上有効量」とは、in vivoまたはin vitroで、移植組織の細胞壊死、アロ反応性抗体の産生、または移植組織に反応するアロ反応性T細胞の産生の抑止、低減、休止、または予防により測定したときに、移植組織拒絶の抑止、低減、休止、または予防に効果的な量の活性剤(たとえば、抗αβTCR抗体または抗体フラグメント)、たとえば、TOL101または二次的補助薬剤を意味する。
「ヒト抗マウス抗体反応」または「HAMA」という用語は、ヒト被験体へのネズミ抗体の投与後のネズミ抗体に対する免疫反応を意味する。典型的には、マウス抗体は、ヒト免疫系により異種として認識されるので、ヒト抗マウス抗体反応またはHAMA反応を誘発する。HAMA反応は、マウス抗体の有効性を妨害し、レシピエントにおいて重篤有害症状を引き起こしうる。HAMA反応はまた、後続的に患者に投与されうる他のネズミベースの治療剤または診断剤の使用を妨害しうる。患者におけるHAMAの測定方法および/またはHAMAの診断方法は、当技術分野で周知である。たとえば、ImmuSTRIP(登録商標)HAMA IgG ELISA Test System(カタログ番号10016;IMMUNOMEDICS(登録商標)INC. 300 American Road, Morris Plains, NJ 07950)、またはHAMA(ヒト抗マウス抗体)ELISA(IgGおよびIgM HAMA、カタログ番号43−HAMHU−E01;ALPCO DIAGNOSTICS, 26-G Keewaydin Drive, Salem, NH 03079)、またはGruber et. al., Cancer Res., 60: 1921-1926 (2000)を参照されたい。
ポリクローナル抗体
ポリクローナル抗体は、好ましくは、関連抗原および補助剤の複数回の皮下(sc)または腹腔内(ip)注射により動物で産生される。他の選択肢として、抗原を動物のリンパ節に直接注射しうる(Kilpatrick et al., Hybridoma, 16:381-389, 1997参照)。改善された抗体反応は、二官能性剤または誘導体化剤、たとえば、マレイミドベンゾイルスルホスクシンイミドエステル(システイン残基を介したコンジュゲーション)、N−ヒドロキシスクシンイミド(リシン残基を介する)、グルタルアルデヒド、無水コハク酸、または当技術分野で公知の他の作用剤を用いて、関連抗原を免疫される種において免疫原性であるタンパク質、たとえば、キーホールリンペットヘモシアニン、血清アルブミン、ウシサイモグロブリン、またはダイズトリプシン阻害剤にコンジュゲートすることにより取得しうる。
動物は、たとえば、100μgのタンパク質またはコンジュゲート(マウスの場合)と3体積のフロイント完全アジュバントとを組み合わせて、複数の部位に溶液を皮内注射することにより、αβTCRタンパク質、そのフラグメント、それらの免疫原性コンジュゲートまたは誘導体に対して免疫される。1ヶ月後、動物は、フロイント完全アジュバント中の元の量の1/5〜1/10のペプチドまたはコンジュゲートを用いて、複数の部位に皮下注射することにより、ブースター免疫される。ブースター注射の7〜14日後、動物から採血して、抗体価に関して血清をアッセイする。力価プラトーまで動物をブースター免疫する。好ましくは、動物は、同一の抗原のコンジュゲートを用いて、ただし、異なる架橋試薬によりコンジュゲートして、ブースター免疫される。コンジュゲートはまた、タンパク質融合として組換え細胞培養で作製可能である。また、免疫反応を促進するために、ミョウバンなどの凝集剤が好適に使用される。
モノクローナル抗体
本発明に係る抗体は、モノクローナル抗体でありうる。モノクローナル抗体は、Kohler and Milstein, Nature, 256:495 (1975)により記載されるようなハイブリドーマ法を用いて調製しうる。ハイブリドーマ法では、典型的には、マウス、ハムスター、または他の適切な宿主動物を免疫剤で免疫して、免疫剤に特異的に結合する抗体を産生するまたは産生可能であるリンパ球を誘導する。他の選択肢として、リンパ球をin vitroで免疫化しうる。
免疫剤は、典型的には、αβTCRまたはそのサブユニットを含むであろう。限定されるものではないが、例として、αβTCRサブユニットとしては、α鎖、β鎖、または結合されたα−β鎖が含まれうる。いくつかの実施形態では、αβTCRは、哺乳動物βTCRでありうる。いくつかの実施形態では、動物を免疫するために使用されるαβTCRは、配列番号1のアミノ酸配列またはそのフラグメントを含むヒトαβTCRを含む。他の選択肢として、免疫剤は、配列番号1のフラグメントまたは一部を含みうる。一実施形態では、免疫剤は、配列番号1のアミノ酸配列を含むタンパク質を含む。一実施形態では、免疫剤は、配列番号2のアミノ酸配列または配列番号2の一部のフラグメントを含むタンパク質を含む。一実施形態では、免疫剤は、配列番号1および2のアミノ酸配列により提供される2つのサブユニットのタンパク質を含む。他の選択肢として、免疫原は、所望の種のαβTCRヘテロ二量体、たとえば、ヒトαβTCRヘテロ二量体を含みうる。一実施形態では、免疫剤は、末梢血単核細胞を含有するヒトバフィーコート細胞の集団を含む。
一般的には、ヒト起源の細胞が望まれるのであれば、末梢血リンパ球(「PBL」)が使用され、または非ヒト哺乳動物源が望まれるのであれば、脾臓細胞もしくはリンパ節細胞が使用される。次いで、リンパ球は、ハイブリドーマ細胞を形成するために、ポリエチレングリコールなどの好適な融合剤を用いて不死化細胞系と融合される(Goding, Monoclonal Antibodies: Principles and Practice, Academic Press, (1986) pp. 59-103に開示されるモノクローナル抗体の例示的な産生方法を参照されたい)。不死化細胞系は、通常、トランスフォームされた哺乳動物細胞、特定的には、齧歯動物起源、ウシ起源、およびヒト起源の骨髄腫細胞である。通常、ラットまたはマウスの骨髄腫細胞系が利用される。ハイブリドーマ細胞は、好ましくは非融合不死化細胞の増殖または生存を阻害する1つ以上の物質を含有する好適な培養培地中で培養しうる。たとえば、親細胞に酵素ヒポキサンチングアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(HGPRTまたはHPRT)が欠如しているのであれば、ハイブリドーマ用の培養培地は、典型的には、ヒポキサンチン、アミノプテリン、およびチミジンを含むであろう(「HAT培地」)。これらの物質は、HGPRT欠損T細胞の増殖を予防する。いくつかの実施形態では、好ましい不死化細胞系は、効率的に融合し、選択された抗体産生細胞による抗体の安定な高レベル発現を支援し、かつHAT培地など培地に対して感受性があるものである。より好ましい不死化細胞系は、ネズミ骨髄腫系であり、たとえば、ソーク研究所細胞頒布センター(Salk Institute Cell Distribution Center)、San Diego, Calif.および米国培養細胞系統保存機関(American Type Culture Collection)、Manassas, Va.から取得可能である。そのようなネズミ骨髄腫細胞系の例は、P3X63Ag8U.1(ATCC CRL1580)である。また、ヒト骨髄腫細胞系およびマウス−ヒトヘテロ骨髄腫細胞系は、ヒトモノクローナル抗体の産生に関して記載されている(たとえば、Kozbor, J. Immunol., 133 :3001 (1984)、Brodeur et al., Monoclonal Antibody Production Techniques and Applications, Marcel Dekker, Inc., New York, (1987) pp. 51-63を参照されたい)。
次いで、ハイブリドーマ細胞が培養される培養培地は、αβTCRを指向するモノクローナル抗体の存在に関してアッセイしうる。好ましくは、免疫沈降によりまたは放射線免疫アッセイ(RIA)や酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)などのin vitro結合アッセイにより、ハイブリドーマ細胞により産生されたモノクローナル抗体の結合特異性を決定するか、他の選択肢として、モノクローナル抗体と共にT細胞の集団をインキュベートして、抗CD3抗体を用いて共染色することにより、ハイブリドーマ細胞により産生されたモノクローナル抗体の結合特異性を決定することが可能である。そのような技術およびアッセイは、当技術分野で公知である。モノクローナル抗体の結合親和性は、たとえば、Munson and Pollard, Anal. Biochem. 107:220 (1980)のスキャチャード解析により決定可能である。
所望のハイブリドーマ細胞を同定した後、限界希釈手順によりクローンをサブクローニングし、標準的方法により増殖させうる(たとえば、Goding, supraを参照されたい)。この目的に合った好適な培養培地としては、たとえば、ダルベッコ改変イーグル培地またはRPMI−1640培地が含まれる。他の選択肢として、当技術分野で一般に使用されるかつ慣例的に作製される哺乳動物において、in vivoで腹水としてハイブリドーマ細胞を増殖させうる。
サブクローンにより分泌されたモノクローナル抗体は、従来の免疫グロブリン精製手順、たとえば、などプロテインA−セファロース、ヒドロキシルアパタイトクロマトグラフィー、ゲル電気泳動、透析、またはアフィニティークロマトグラフィーにより、培養培地または腹水から単離または精製しうる。
抗体の組換え産生
対象の免疫グロブリンのアミノ酸配列は、一般的には、直接的タンパク質配列決定により決定可能であり、好適なコードヌクレオチド配列は、ユニバーサルコドン表に従って設計可能である。しかしながら、IgM抗体の場合、抗体タンパク質からの直接的タンパク質配列決定は、非常に困難である。TOL101(IgM抗体)のアミノ酸配列は、標準的タンパク質配列決定プロトコルではとくに取扱いが困難である。他の選択肢として、従来の手順を用いて(たとえば、モノクローナル抗体の重鎖および軽鎖をコードする遺伝子に特異的に結合可能なオリゴヌクレオチドプローブを用いて)抗体のアミノ酸配列を確認するために、TOL101を含めてモノクローナル抗体をコードするDNAは、ハイブリドーマTOL101MCBを含めてハイブリドーマ細胞から単離および配列決定を行うことが可能である。配列決定は、一般的には、対象の遺伝子またはcDNAの少なくとも一部の単離を必要とするであろう。通常、これは、モノクローナル抗体をコードするDNAまたはmRNAのクローニングを必要とする。クローニングは、標準的技術を用いて行われる(たとえば、Sambrook et al. (1989) Molecular Cloning: A Laboratory Guide, Vols 1-3, Cold Spring Harbor Press(参照により本明細書において援用される)を参照されたい)。たとえば、cDNAライブラリーは、ポリA+mRNA、好ましくは膜関連mRNAの逆転写により、構築可能であり、ライブラリーは、ヒト免疫グロブリンポリペプチド遺伝子配列に特異的なプローブを用いてスクリーニング可能である。好ましい実施形態では、対象の免疫グロブリン遺伝子セグメント(たとえば、軽鎖可変セグメント)をコードするcDNA(または全長cDNAの一部)を増幅するために、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)が使用される。増幅された配列は、任意の好適なベクター、たとえば、発現ベクター、ミニ遺伝子ベクター、またはファージディスプレイベクター中に容易にクローニング可能である。対象の免疫グロブリンポリペプチドの一部分の配列を決定可能であるかぎり、使用される特定のクローニング方法がそれほど重要でないことは、わかるであろう。
クローニングおよび配列決定に使用されるRNA源の1つは、トランスジェニックマウスからB細胞を取得してB細胞を不死細胞に融合することにより産生されたハイブリドーマである。ハイブリドーマを使用する利点は、容易にスクリーニング可能であることおよび対象のヒトモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを選択可能であることである。他の選択肢として、免疫化動物のB細胞(または全脾臓)からRNAを単離することが可能である。ハイブリドーマ以外の供給源を使用する場合、特異的結合特性を有する免疫グロブリンまたは免疫グロブリンポリペプチドをコードする配列をスクリーニングすることが望ましいこともある。そのようなスクリーニング方法の1つは、ファージディスプレイ技術の使用である。ファージディスプレイは、たとえば、Dowerらの国際公開第91/17271号、McCaffertyらの国際公開第92/01047号、およびCaton and Koprowski, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 87:6450-6454 (1990)(それぞれ参照により本明細書において援用される)に記載されている。ファージディスプレイ技術を使用する一実施形態では、免疫化トランスジェニックマウスのcDNA(たとえば、全脾臓cDNA)を単離し、PCRを用いて免疫グロブリンポリペプチド一部、たとえば、CDR領域をコードするcDNA配列を増幅し、そして増幅された配列をファージベクターに挿入する。対象のペプチド、たとえば、所望の結合特性を有する可変領域ペプチドをコードするcDNAは、パニングなどの標準的技術により同定される。次いで、増幅またはクローニングされた核酸の配列を決定する。典型的には、免疫グロブリンポリペプチドの全可変領域をコードする配列を決定するが、ときには、可変領域の一部のみ、たとえば、CDRコード部分の配列を決定することが必要なこともある。典型的には、配列決定部分は、少なくとも30塩基長であろう。また、より多くの場合、可変領域の長さの少なくとも約1/3または少なくとも約1/2をコードする塩基の配列が決定されるであろう。配列決定は、cDNAライブラリーから単離されたクローンで行いうるか、またはPCRを使用する場合、増幅された配列をサブクローニングした後に行いうるか、または増幅されたセグメントの直接的PCR配列決定により行いうる。配列決定は、標準的技術を用いて行われる(たとえば、Sambrook et al. (1989) Molecular Cloning: A Laboratory Guide, Vols 1-3, Cold Spring Harbor Press、およびSanger, F. et al. (1977) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 74: 5463-5467(参照により本明細書において援用される)を参照されたい)。クローニングされた核酸の配列とヒト免疫グロブリン遺伝子およびcDNAの発表された配列とを比較することにより、当業者であれば、配列決定された領域に依存して、(i)ハイブリドーマ免疫グロブリンポリペプチド(重鎖のアイソタイプを含む)の生殖系列セグメントの使用頻度、および(ii)N領域付加および体細胞突然変異プロセスから生じる配列を含めて重鎖および軽鎖の可変領域の配列を容易に決定することが可能である。免疫グロブリン遺伝子配列情報源の1つは、国立バイオテクノロジー情報センター(National Center for Biotechnology Information)、国立医学図書館(National Library of Medicine)、国立衛生研究所(National Institutes of Health)、Bethesda, Mdである。
単離後、DNAを発現制御配列に機能可能に結合しうるか、または発現ベクター中に配置しうる。次いで、そうしなければ免疫グロブリンタンパク質を産生しない細菌宿主細胞、真核宿主細胞、および/または哺乳動物宿主細胞、たとえば、E.コリ(E.coli)細胞、サルCOS細胞、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、または骨髄腫細胞にトランスフェクトして、組換え宿主細胞内でモノクローナル抗体の合成を誘導する。
発現制御配列とは、特定の宿主生物において機能可能に結合されたコード配列の発現に必要なDNA配列を意味する。原核生物に好適な制御配列としては、たとえば、プロモーター、任意選択でオペレーター配列、およびリボソーム結合部位が含まれる。真核細胞は、プロモーター、ポリアデニル化シグナル、およびエンハンサーを利用することが知られている。原核宿主細胞、真核宿主細胞、および/または哺乳動物宿主細胞で抗体を発現するのに好適な発現制御配列は、当技術分野で周知である。
他の核酸配列と機能的関係に配置された場合、核酸は、機能可能に結合されている。たとえば、ポリペプチドの分泌に関与するプレタンパク質として発現するのであれば、プレ配列もしくは分泌リーダーのDNAがポリペプチドのDNAに機能可能に結合され、配列の転写に影響を及ぼすのであれば、プロモーターもしくはエンハンサーがコード配列に機能可能に結合され、または翻訳を促進するように配置するのであれば、リボソーム結合部位がコード配列に機能可能に結合される。一般的には、機能可能に結合されるとは、結合されるDNA配列が隣接していること、分泌リーダーの場合、隣接しかつリーディングフェーズ内にあることを意味する。しかしながら、エンハンサーは、隣接していなくてもよい。結合は、都合のよい制限部位でライゲーションにより達成可能である。そのような部位が存在しない場合、合成オリゴヌクレオチドアダプターまたはリンカーを慣例に従って使用することが可能である。
「細胞系」および「細胞培養物」は、多くの場合、同義的に使用され、そのような表記はすべて、後代を含む。トランスフォーマントおよびトランスフォーム細胞としては、移入回数に関係なく、一次対象細胞およびそれ由来の培養物が含まれる。また、意図的または偶発的な突然変異に起因して、後代はすべて、DNA含有率が正確に同一であるとはかぎらないことを理解されたい。最初にトランスフォームされた細胞でスクリーニングしたときと同一の機能または生物学的活性を有する突然変異後代が含まれる。
また、任意選択で宿主細胞により認識される制御配列に機能可能に結合された、特異的抗体をコードする単離された核酸、この核酸を含むベクターおよび宿主細胞、ならびにこの核酸が発現されるように宿主細胞を培養することと、任意選択で、宿主細胞培養物または培養培地から抗体を回収していることと、を含む、抗体を産生するための組換え技術が提供される。
さまざまなベクターが当技術分野で公知である。ベクター成分は、次のもの、すなわち、シグナル配列(たとえば、抗体の分泌の誘導が可能なもの)、複製起点、1つ以上の選択マーカー遺伝子(たとえば、抗生物質耐性または他の薬剤耐性の付与、栄養要求性欠損の補完、または培地から取得できない重要栄養素の供給が可能なもの)、エンハンサーエレメント、プロモーター、および転写終止配列(それらはすべて、当技術分野で周知である)の1つ以上を含みうる。
好適な宿主細胞としては、原核生物細胞、酵母細胞、または高等真核生物細胞が含まれる。好適な原核生物としては、真性細菌、たとえば、グラム陰性またはグラム陽性の生物、たとえば、腸内細菌科(Enterohacteriaceae)、たとえば、エシェリキア属(Escherichia)、たとえば、E.コリ(E. coli)、エンテロバクター属(Enterobacter)、エルウィニア属(Erwinia)、クレブシエラ属(Klebsiella)、プロテウス属(Proteus)、サルモネラ属(Salmonella)、たとえば、サルモネラ・ティフィムリウム(Salmonella typhimurium)、セラチア属(Serratia)、たとえば、セラチア・マルセッサンス(Serratia marcescans)、およびシゲラ属(Shigella)、さらには桿菌、たとえば、B.サブチリス(B.subtilis)およびB.リケニフォルミス(B. licheniformis)、シュードモナス属(Pseudomonas)、およびストレプトマイセス属(Streptomyces)が含まれる。原核生物に加えて、真核微生物、たとえば、糸状菌または酵母は、抗体コードベクターに好適なクローニング宿主または発現宿主である。サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)または通常のパン酵母は、下等真核宿主微生物のなかで最も一般的に使用される。しかしながら、いくつかの他の属、種、および株、たとえば、ピキア属(Pichia)、たとえば、P.パストリス(P. pastoris)、シゾサッカロマイセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)、クルイベロマイセス属(Kluyveromyces)、ヤロウイア属(Yarrowia)、カンジダ属(Candida)、トリコデルマ・リーシア(Trichoderma reesia)、ニューロスポラ・クラッサ(Neurospora crassa)、シュワンニオマイセス属(Schwanniomyces)、たとえば、シュワンニオマイセス・オシデンタリス(Schwanniomyces occidentalis)、ならびに糸状菌、たとえば、ニューロスポラ属(Neurospora)、ペニシリウム属(Penicillium)、トリポクラジウム属(Tolypocladium)、およびアスペルギルス属(Aspergillus)宿主、たとえば、A.ニデュランス(A. nidulans)およびA.ニガー(A. niger)は、一般に利用可能である。
グリコシル化抗体を発現させるのに好適な宿主細胞は、多細胞生物に由来する。無脊椎動物細胞の例としては、植物細胞および昆虫細胞が含まれる。多数のバキュロウイルス株および変異体、ならびにスポドプテラ・フルギペルダ(Spodoptera frugiperda)(イモムシ・ケムシ)、アエデス・アエギプティ(Aedes aegypti)(カ)、アエデス・アルボピクタス(Aedes albopictus)(カ)、ドロソフィラ・メラノガステル(Drosophila melanogaster)(ミバエ)、ボンビクス・モリ(Bombyx mori)などの宿主の対応する許容昆虫宿主細胞が、同定されてきた。そのような細胞をトランスフェクトするためのさまざまなウイルス株、たとえば、アウトグラファ・カリフォルニカ(Autographa californica)NPVのL−I変異体およびボンビクス・モリ(Bombyx mori)NPVのBm−5株が、公的に利用可能である。
しかしながら、関心は、脊椎動物細胞で最も大きくなってきており、培養(組織培養)下の脊椎動物細胞の増殖は、慣例になってきた。有用な哺乳動物宿主細胞系の例は、チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHOKI細胞(ATCC CCL61)およびチャイニーズハムスター卵巣細胞/−DHFR(DXB−11、DG−44、Urlaub et al, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 77: 4216 (1980))を含む)、SV40によりトランスフォームされたサル腎臓CV1系(COS−7、ATCC CRL 1651)、ヒト胚性腎臓系(293または懸濁培養増殖のためにサブクローニングされた293細胞)[Graham et al., J. Gen Virol. 36: 59 (1977)]、ベビーハムスター腎細胞(BHK、ATCC CCL10)、マウスセルトリ細胞(TM4、Mather, Biol. Reprod. 23: 243-251 (1980))、サル腎臓細胞(CV1、ATCC CCL70)、アフリカミドリザル腎臓細胞(VERO−76、ATCC CRL−1587)、ヒト子宮頸癌細胞(HELA、ATCC CCL2)、イヌ腎細胞(MDCK、ATCC CCL 34)、バッファローラット肝細胞(BRL3A、ATCC CRL1442)、ヒト肺細胞(WI38、ATCC CCL75)、ヒト肝癌細胞(Hep G2、HB8065)、マウス乳房腫瘍(MMT060562、ATCC CCL51)、トリ細胞(Mather et al., Annals N.Y. Acad. Sci. 383: 44-68 (1982))、MRC5細胞、およびFS4細胞である。
宿主細胞は、さまざまな培地中で培養可能である。市販の培地、たとえば、ハムF10(Sigma)、最少必須培地((MEM)、(Sigma)、RPMI−1640(Sigma)、およびダルベッコ改変イーグル培地((DMEM)、Sigma)は、宿主細胞の培養に好適である。それに加えて、Ham et al., Meth. Enz. 58: 44 (1979)、Barnes et al., Anal. Biochem. 102: 255 (1980)、米国特許第4,767,704号、同第4,657,866号、同第4,927,762号、同第4,560,655号、または同第5,122,469号、国際公開第90103430号、国際公開第87/00195号、または米国再発行特許第30,985号に記載の培地のいずれかを、宿主細胞用の培養培地として使用することが可能である。好ましくは、培地は動物産物を含まない。より好ましくは、培地はタンパク質を含まない。例示的な培地としては、Gibco CDハイブリドーマ、SAFC EX CELL SP/20、SAFC EX CELL 620-HSF、Cell Grow TurboDoma、およびHyclone HyQ CDM4Mabが含まれる。これらの培地はいずれも、所要により、ホルモンおよび/または他の増殖因子(たとえば、インスリン、トランスフェリン、または表皮増殖因子)、塩(たとえば、塩化ナトリウム、カルシウム塩、マグネシウム塩、およびリン酸塩)、緩衝液(たとえば、HEPES)、ヌクレオチド(たとえば、アデノシンおよびチミジン)、抗生物質(たとえば、Gentamycin(商標)薬剤)、微量元素(マイクロモル領域の最終濃度で通常存在する無機化合物として定義される)、およびグルコースまたは等価エネルギー源を追加可能である。好ましくは、培地は、LグルタミンまたはLアラニル−Lグルタミンを追加しうる。また、任意の他の必要なサプリメントを当業者に公知の適切な濃度で組み込みうる。培養条件、たとえば、温度、pHなどは、発現のために選択される宿主細胞ですでに使用されているものであり、当業者には明らかであろう。
いくつかの実施形態では、細胞培養および採取プロセスは、以下の5工程、すなわち、
1. 解凍および増殖
2. 振盪フラスコ増殖
3. WAVE増殖
4. 300Lバイオリアクター産生
5. 採取/清澄化
を含む。
抗体組成物は、たとえば、ヒドロキシルアパタイトクロマトグラフィー、陽イオン交換もしくは陰イオン交換クロマトグラフィー、または好ましくはアフィニティークロマトグラフィー(対象の抗原または親和性リガンドとしてプロテインAもしくはプロテインGを使用)を用いて、精製可能である。ヒトγ1、γ2、またはγ4重鎖に基づく抗体を精製するために、プロテインAを使用することが可能である(Lindmark et al., J. Immunol. Meth. 62: 1-13 (1983))。すべてのマウスアイソタイプに対しておよびヒトγ3に対して、プロテインGが推奨される(Guss et al., 20 EMBO J. 5: 15671575 (1986))。親和性リガンドが装着されるマトリックスは、多くの場合ほとんどがアガロースであるが、他のマトリックスも利用可能である。制御細孔ガラスやポリ(スチレンジビニル)ベンゼンなどの機械的に安定なマトリックスは、アガロースで達成可能なよりも高流量かつ短時間処理を可能にする。抗体がCH3ドメインを含む場合、Bakerbond ABX.TM.樹脂(J. T. Baker, Phillipsburg, 25 NJ.)は、精製に有用である。また、タンパク質精製のための他の技術、たとえば、エタノール沈殿、逆相HPLC、クロマトフォーカシング、SDS−PAGE、および硫安沈殿は、特異的結合剤または回収抗体に依存して、利用可能である。
いくつかの実施形態では、精製プロセスは、以下の6工程、すなわち、
1. pH調整およびToypearl SP-650Mクロマトグラフィー
2. Toyopearl Super Q-650Mクロマトグラフィー
3. Toyopearl CM-650Mクロマトグラフィー
4. Pianova 35Nナノ濾過
5. Toypearl phenyl-650Mクロマトグラフィー
6. 最終接線流濾過(TFF)
を含む。
「エピトープ」または「抗原決定基」という用語は、本明細書では同義的に用いられ、特定の抗体により認識可能であるかつ特異的に結合される抗原の部分を意味する。抗原がポリペプチドである場合、エピトープは、連続アミノ酸およびタンパク質の三次フォールディングにより並置された非連続アミノ酸の両方から形成可能である。連続アミノ酸から形成されるエピトープは、典型的には、タンパク質変性の際に保持されるが、三次フォールディングにより形成されるエピトープは、典型的には、タンパク質変性の際に失われる。エピトープは、ユニークな空間コンフォメーションで、典型的には少なくとも3〜5個、通常は少なくとも5個または8〜10個のアミノ酸を含む。
また、キメラ抗体またはハイブリッド抗体は、架橋剤が関与するものを含めて、合成タンパク質化学の公知の方法を用いて、in vitroで調製しうる。たとえば、ジスルフィド交換反応を用いてまたはチオエーテル結合を形成することにより、イムノトキシンを構築しうる。この目的に好適な試薬の例としては、イミノチオレートおよびメチル−4−メルカプトブチリミデートが含まれる。
ヒト化抗体
一般的には、ヒト化抗体は、非ヒト源から導入された1個以上のアミノ酸残基を有する。これらの非ヒトアミノ酸残基は、多くの場合、「輸入」残基と参照され、典型的には、「輸入」可変ドメインから得られる。ヒト化は、本質的には、ヒト抗体の対応する配列を齧歯動物のCDRまたはCDR配列で置き換えることにより、Winterらの方法[Jones et al., Nature, 321 :522-525 (1986)、Riechmann et al., Nature, 332:323-327 (1988)、Verhoeyen et al., Science, 239:1534-1536 (1988)]に従って、実施可能である。
したがって、そのような「ヒト化」抗体は、インタクトヒト可変ドメインよりも実質的に小さい部分が非ヒト種の対応する配列により置換されたキメラ抗体である。実際には、ヒト化抗体は、典型的には、いくつかのCDR残基およびおそらくいくつかのFR残基が齧歯動物抗体中の類似部位の残基により置換されたヒト抗体である。
抗原に対する高親和性および他の有利な生物学的性質を保持しながら抗体がヒト化されることは、重要である。この目標を達成するために、好ましい方法によれば、ヒト化抗体は、親配列およびヒト化配列の三次元モデルを用いて親配列および種々の概念上のヒト化産物の分析プロセスにより調製される。三次元免疫グロブリンモデルは、一般に入手可能であり、当業者の熟知するところである。選択された候補免疫グロブリン配列の予想三次元コンフォメーション構造を例示および表示するコンピュータープログラムが利用可能である。これらの表示を調べることにより、候補免疫グロブリン配列の機能における残基の可能性のある役割の分析(すなわち、その抗原に結合する候補免疫グロブリンの能力に影響を及ぼす残基の分析)が可能になる。このようにして、標的抗原に対する親和性の増大などの所望の抗体特性が達成されるように、コンセンサスからFR残基を選択し組み合わせて、配列を輸入することが可能である。一般的には、CDR残基は、抗原結合への影響に直接的かつ最も実質的に関与する。
ヒト抗体
ヒトモノクローナル抗体はヒト抗体ハイブリドーマ法により作製可能である。ヒトモノクローナル抗体を産生するためのヒト骨髄腫およびマウス−ヒトヘテロ骨髄腫細胞系は、たとえば、Kozbor, J. Immunol. 133, 3001 (1984)、およびBrodeur, et al., Monoclonal Antibody Production Techniques and Applications, pp. 51-63(Marcel Dekker, Inc., New York, 1987)に記載されている。
いくつかの実施形態では、αβTCRまたはそのフラグメントによる免疫化の際、内因性免疫グロブリン産生の不在下でヒト抗体のレパートリーを産生可能なトランスジェニック動物(たとえば、マウス)を利用することが可能である。たとえば、キメラマウスおよび生殖系列突然変異マウスにおける抗体重鎖連結領域(JH)遺伝子のホモ接合欠失は、内因性抗体産生の完全阻害をもたらすと記載されている。そのような生殖系列突然変異マウスにおけるヒト生殖系列免疫グロブリン遺伝子アレイの移入は、抗原チャレンジによるヒト抗体の産生をもたらすであろう。たとえば、Jakobovits et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90, 2551-255 (1993)、Jakobovits et al., Nature 362, 255-258 (1993)を参照されたい。Mendezら(Nature Genetics 15 : 146-156 [1997))は、技術をさらに改善し、抗原でチャレンジした時に高親和性完全ヒト抗体を産生する「Xenomouse II」と称されるトランスジェニックマウス系を作製した。これは、以上に記載の内因性(JH)セグメント中に欠失を有するマウスへのメガ塩基のヒト重鎖および軽鎖遺伝子座の生殖系列組込みにより達成された。Xenomouse IIは、約66個のVH遺伝子、完全DHおよびJH領域、ならびに3個の異なる定常領域(μ、δ、χ)を含有する1,020kbのヒト重鎖遺伝子座を保有し、さらには、32個のVκ遺伝子、Jκセグメント、およびCκ遺伝子を含有する800kbのヒトκ遺伝子座を保有する。これらのマウスで産生された抗体は、遺伝子再構成、集合、およびレパートリーを含めて、あらゆる点でヒトに見られるものに非常によく類似している。ヒト抗体は、ネズミ遺伝子座での遺伝子再構成を予防する内因性JHセグメントの欠失に起因して、内因性抗体よりも優先的に発現される。
他の選択肢として、非免疫化ドナーの免疫グロブリン可変(V)ドメイン遺伝子レパートリーからin vitroでヒト抗体および抗体フラグメントを産生するために、ファージディスプレイ技術(McCafferty et al., Nature 348, 552-553 (1990])を使用することが可能である。この技術によれば、抗体Vドメイン遺伝子は、糸状バクテリオファージのメジャーまたはマイナーコートタンパク質遺伝子のいずれか、たとえば、M13またはfd中にインフレームでクローニングされ、ファージ粒子の表面上に機能性抗体フラグメントとして提示される。糸状粒子は、ファージゲノムの一本鎖DNAコピーを含有するので、抗体の機能性に基づく選択はまた、それらの性質を呈する抗体をコードする遺伝子の選択をもたらす。したがって、ファージは、B細胞の性質のうちのいくつかを模倣する。ファージディスプレイは、さまざまな方式で実施可能である。それらのレビューに関しては、たとえば、Johnson, Kevin S. and Chiswell, David J., Current Opinion in Structural Biology 3, 564-571 (1993)を参照されたい。いくつかのV遺伝子セグメントの供給源は、ファージディスプレイに使用することが可能である。Clackson et al., Nature 352, 624-628 (1991)は、免疫化マウスの脾臓に由来するV遺伝子の小さいランダムコンビナトリアルライブラリーから多様な一連の抗オキサゾロン抗体を単離した。Marks et al., J. Mol. Biol. 222, 581-597 (1991)、またはGriffith et al., EMBO J. 12, 725-734 (1993)に記載の技術を本質的に従って、非免疫化ヒトドナーのV遺伝子のレパートリーを構築可することが可能であり、また多様な一連の抗原(自己抗原を含む)に対する抗体を単離することが可能である。自然免疫反応では、抗体遺伝子は、高速度で突然変異を蓄積する(体細胞超突然変異)。導入された変化のいくつかは、より高い親和性を付与するであろう。また、高親和性表面免疫グロブリンを提示するB細胞は、後続の抗原のチャレンジの際に優先的に複製され分化される。この自然過程は、「鎖シャフリング」(Marks et al., Bio/Technol. 10, 779-783 [1992])として知られる技術を利用することにより模倣可能である。この方法では、ファージディスプレイにより取得された「一次」ヒト抗体の親和性は、重鎖および軽鎖のV領域遺伝子を非免疫化ドナーから得られたVドメイン遺伝子の天然に存在する変異体(レパートリー)のレパートリーで逐次置き換えることにより改善可能である。この技術は、nM領域の親和性を有する抗体および抗体フラグメントの産生を可能にする。非常に大きいファージ抗体レパートリーを作製する戦略は、Waterhouse et al., Nucl. Acids Res. 21, 2265-2266 (1993)に記載されている。また、齧歯動物抗体からヒト抗体を誘導するために、遺伝子シャフリングを使用することも可能である。この場合、ヒト抗体は、出発齧歯動物抗体と類似の親和性および特異性を有する。「エピトープインプリンティング」としても参照されるこの方法によれば、ファージディスプレイ技術により取得された齧歯動物抗体の重鎖または軽鎖Vドメイン遺伝子は、ヒトVドメイン遺伝子のレパートリーと置き換えられて、齧歯動物ヒトキメラを形成する。抗原の選択は、機能性抗原結合部位を回復可能なヒト可変部の単離をもたらす。すなわち、エピトープは、パートナーの選択を支配(インプリント)する。残りの齧歯動物Vドメインを置き換えるようにプロセスを繰り返した場合、ヒト抗体が取得される(1993年4月1日公開のPCT出願国際公開第93/06213号を参照されたい)。CDR移植による齧歯動物抗体の伝統的ヒト化とは異なり、この技術は、齧歯動物起源のフレームワーク残基またはCDR残基を有していない完全ヒト抗体を提供する。
以下で詳細に考察されるように、本発明に係る抗体は、任意選択、単量体抗体、二量体抗体、さらには多価形態の抗体を含みうる。当業者であれば、当技術分野で公知の技術により、かつ本明細書に開示される抗αβTCR抗体を用いて、そのような二量体または多価形態を構築しうる。また、一価抗体の調製方法も、当技術分野で周知である。たとえば、一方法は、免疫グロブリンの軽鎖および修飾重鎖の組換え発現を含む。重鎖は、一般的には、重鎖架橋を予防すべくFc領域中の任意の点がトランケートされる。他の選択肢として、関連システイン残基は、他のアミノ酸残基で置換されるか、または架橋を予防すべく欠失される。
ヘテロコンジュゲート抗体
ヘテロコンジュゲート抗体もまた、本発明の範囲内である。ヘテロコンジュゲート抗体は、2つの共有結合で連結された抗体で構成される。そのような抗体は、たとえば、免疫系細胞が望ましくない細胞を標的とすべく(米国特許第4,676,980号)、およびHIV感染を治療すべく(PCT出願公開番号国際公開第91/00360号および国際公開第92/200373号、欧州特許第03089号)、提案されてきた。ヘテロコンジュゲート抗体は、任意の都合のよい架橋方法を用いて作製しうる。好適な架橋剤は、当技術分野で周知であり、米国特許第4,676,980号にはいくつかの架橋技術と共に開示されている。
抗体フラグメント
特定の実施形態では、本発明に係る抗αβTCR抗体(ネズミ抗体、ヒト抗体、およびヒト化抗体、ならびに抗体変異体を含む)は、抗体フラグメントである。抗体フラグメントの産生のために、種々の技術が開発されてきた。伝統的には、これらのフラグメントは、インタクト抗体のタンパク質分解消化を介して誘導されてきた(たとえば、Morimoto et al., J. Biochem. Biophys. Methods 24:107-117 (1992)およびBrennan et al., Science 229:81 (1985)を参照されたい)。しかしながら、これらのフラグメントは、現在、組換え宿主細胞により直接に産生することが可能である。たとえば、Fab’−SHフラグメントは、E.コリ(E.coli)から直接回収可能であり、F(ab’)2フラグメントを形成すべく化学結合可能である(Carter et al., Bio/Technology 10:163-167 (1992))。一実施形態では、一本鎖可変フラグメント(scFv)は、当技術分野で公知の技術を用いてE.コリ(E.coli)から産生される。他の実施形態では、F(ab’)2は、F(ab’)2分子の集合を促進すべくロイシンジッパーGCN4を用いて形成される。他の手法によれば、Fv、Fab、またはF(ab’)2フラグメントは、組換え宿主細胞培養物から直接単離可能である。抗体フラグメントを産生するためのさまざまな技術は、当業者には明らかであろう。たとえば、パパインを用いて消化を行うことが可能である。パパイン消化の例は、1994年12月22日公開の国際公開第94/29348号および米国特許第4,342,566号に記載されている。抗体のパパイン消化は、典型的には、それぞれ一つの抗原結合部位と残りのFcフラグメントとを有するFabフラグメントと呼ばれる2つの同一の抗原結合フラグメントを産生する。ペプシン処理は、2つの抗原結合部位を有するかつ依然として抗原の架橋が可能であるF(ab’)2フラグメントを生成する。
また、抗体消化で産生されたFabフラグメントは、軽鎖の定常ドメインおよび重鎖の最初の定常ドメイン(CH1)を含有する。Fab’フラグメントは、抗体ヒンジ領域の1つ以上のシステインを含む重鎖CH1ドメインのカルボキシ末端に少数の残基が追加されている点でFabフラグメントと異なる。Fab’−SHは、本明細書では、定常ドメインのシステイン残基が遊離チオール基を有するFab’に対する表記である。F(ab’)2抗体フラグメントは、最初に、それらの間にヒンジシステインを有する対をなすFab’フラグメントとして産生された。また、抗体フラグメントの他の化学結合も知られている。
モノクローナル抗体をコードするDNAは、従来の手順を用いて(たとえば、モノクローナル抗体の重鎖および軽鎖をコードする遺伝子に特異的に結合可能なオリゴヌクレオチドプローブを用いて)、容易に単離および配列決定が行われる。ハイブリドーマ細胞は、そのようなDNAの好ましい供給源として機能する。単離後、DNAを発現ベクター中に配置しうる。次いで、そうしなければ免疫グロブリンタンパク質を産生しない宿主細胞、たとえば、E.コリ(E.coli)細胞、サルCOS細胞、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、または骨髄腫細胞にトランスフェクトして、組換え宿主細胞内でモノクローナル抗体の合成を達成する。
いくつかの実施形態では、抗体または抗体フラグメントは、たとえば、McCafferty et al., Nature, 348: 552554 (1990)に記載の技術を用いて作製された抗体ファージライブラリーから単離される。Clackson et al., Nature, 352:624-628 (1991)およびMarks et al., J. Mol. Biol., 222: 581-597 (1991)には、それぞれ、ファージライブラリーを用いたネズミ抗体およびヒト抗体の単離が記載されている。後続の出版物には、鎖シャフリング(Marks et al, BioTechnology, 10: 779-783 (1992))さらには非常に大きいファージライブラリーを構築するための戦略としてコンビナトリアル感染およびin vivo組換え(たとえば、Waterhouse et al., Nuc. Acids. Res., 21 : 2265-2266 (1993))による高親和性(nM領域)ヒト抗体の産生が記載されている。したがって、これらの技術および類似の技術は、モノクローナル抗体の単離のための伝統的モノクローナル抗体ハイブリドーマ技術に対する利用可能な代替手段である。
また、たとえば、相同的ネズミ配列の代わりのヒト重質および軽鎖定常ドメインのコード配列を用いることにより(たとえば、米国特許第4,816,567号、およびMorrison, et al., Proc. Nat. Acad. Sci. USA, 81: 6851 (1984)(両方とも参照により本明細書において援用される))、または非免疫グロブリンポリペプチドに対するコード配列の全部または一部分を免疫グロブリンコード配列に共有結合で連結することにより、DNAを修飾しうる。
典型的には、そのような非免疫グロブリンポリペプチドは、抗体の定常ドメインに対して置換されるか、または抗原に対する特異性を有する1つの抗原結合部位と、異なる抗原に対する特異性を有する他の抗原結合部位と、を含むキメラ二価抗体を形成すべく、抗体の1つの抗原結合部位の可変ドメインに対して置換される。
抗体のアミノ酸配列変異体
抗αβTCR抗体のアミノ酸配列変異体は、抗αβTCR抗体DNA中に適切なヌクレオチド変化を導入することにより、またはペプチド合成により、調製される。そのような変異体は、たとえば、本明細書の実施例の抗αβTCR抗体のアミノ酸配列内の残基からの欠失、および/またはその中への挿入、および/またはその置換を含む。最終構築物が所望の特性を有するかぎり、最終構築物に達するように、欠失、挿入、および置換の任意の組合せが行われる。また、アミノ酸変化は、グリコシル化部位の数や位置の変化などのヒト化抗αβTCR抗体または変異抗αβTCR抗体の翻訳後過程で改変しうる。
突然変異誘発に対する好ましい位置である抗αβTCR抗体の特定の残基または部分の同定に有用な方法は、Cunningham and Wells Science, 244:1081-1085 (1989)に記載されるように「アラニンスキャニング突然変異誘発」と呼ばれる。この場合、残基または一群の標的残基が同定され(たとえば、arg、asp、his、lys、gluなどの荷電残基)、アミノ酸とDR4抗原との相互作用に影響を及ぼすように中性または負荷電アミノ酸(最も好ましくはアラニンまたはポリアラニン)により置き換えられる。次いで、さらなるまたは他の変異体を置換部位にまたは置換のために導入することにより、置換に対する機能感受性を示すアミノ酸位置を精密化する。したがって、アミノ酸配列変化を導入する部位は、あらかじめ決定されるが、突然変異自体の性質は、あらかじめ決定する必要がない。たとえば、所与の部位での突然変異の性能を分析するためには、標的コドンまたは領域でalaスキャニングまたはランダム突然変異誘発を行い、発現された抗αβTCR抗体変異体を所望の活性に関してスクリーニングする。
アミノ酸配列挿入は、1残基から100残基以上を含有するポリペプチドまでの長さ範囲にわたるアミノ末端融合および/またはカルボキシル末端融合さらには単一もしくは複数のアミノ酸残基の配列内挿入を含む。末端挿入の例としては、N末端メチオニル残基を有する抗αβTCR抗体またはエピトープタグに融合された抗体が含まれる。抗αβTCR抗体分子の他の挿入変異体としては、抗体の血清中半減期を増加させる酵素またはポリペプチドの抗αβTCR抗体のN末端またはC末端への融合が含まれる。
他のタイプの変異体は、アミノ酸置換変異体である。これらの変異体は、抗αβTCR抗体分子中に除去された少なくとも1つのアミノ酸残基とその場所に挿入された異なる残基とを有する。置換突然変異誘発の最も興味深い部位としては、超可変領域が含まれるが、FR改変も考えられる。保存的置換は、以下に示される。そのような置換が生物学的活性の変化をもたらす場合、より実質的な置換変化を導入して産物をスクリーニングしうる。
抗体の生物学的性質の実質的修飾は、(a)置換領域内のポリペプチド骨格の構造、たとえば、シートもしくはヘリックスのコンフォメーション、(b)標的部位の分子の電荷もしくは疎水性、または(c)側鎖の嵩の維持に及ぼす効果が有意に異なる置換を選択することにより達成される。天然に存在する残基は、共通する側鎖の性質に基づいてグループに分類される。
次の8つのグループは、それぞれ、互いに保存的置換とみなされるアミノ酸を含有する。1)アラニン(A)およびグリシン(G)、2)アスパラギン酸(D)およびグルタミン酸(E)、3)アスパラギン(N)およびグルタミン(Q)、4)アルギニン(R)およびリシン(K)、5)イソロイシン(I)、ロイシン(L)、メチオニン(M)、およびバリン(v)、6)フェニルアラニン(F)、チロシン(Y)、およびトリプトファン(W)、7)セリン(S)およびトレオニン(T)、ならびに8)システイン(C)およびメチオニン(M)(たとえば、Creighton, Proteins, W.H. Freeman and Co., New York (1984)を参照されたい)。
いくつかの実施形態では、機能的に類似のアミノ酸を提供する保存的置換表は、当技術分野で周知である。たとえば、保存的置換を選択する例示的ガイドラインの1つとしては、次のものが含まれる(元の残基およびそれに続く例示的置換)。ala/glyまたはser、arg/lys、asn/glnまたはhis、asp/glu、cys/ser、gln/asn、gly/asp、gly/alaまたはpro、his/asnまたはgin、ile/leuまたはval、leu/ileまたはval、lys/argまたはginまたはglu、met/leuまたはtyrまたはile、phe/metまたはleuまたはtyr、ser/thr、thr/ser、trp/tyr、tyr/trpまたはphe、val/ileまたはleu。他の選択肢の例示的ガイドラインでは、互いに保存的置換であるアミノ酸をそれぞれ含有する次の6つのグループが使用される。1)アラニン(A)、セリン(S)、トレオニン(T)、2)アスパラギン酸(D)、グルタミン酸(E)、3)アスパラギン(N)、グルタミン(Q)、4)アルギニン(R)、リシン(I)、ヒスチジン(h)、5)イソロイシン(I)、ロイシン(L)、メチオニン(M)、バリン(V)、ならびに6)フェニルアラニン(F)、チロシン(Y)、トリプトファン(W)、(また、たとえば、Creighton, Proteins, W.H. Freeman and Company (1984)、Schultz and Schimer, Principles of Protein Structure, Springer-Verlag (1979)も参照されたい)。当業者であれば、以上に規定した置換のみが可能な保存的置換ではないことは、わかるであろう。たとえば、いくつかの目的では、正または負であるかにかかわらず、すべての荷電アミノ酸を互いに保存的置換であると見なしうる。それに加えて、コード配列中の単一のアミノ酸または低パーセントのアミノ酸が改変、付加、または欠失された個別の置換、欠失、または付加もまた、「保存的修飾変異」であると見なしうる。
非保存的置換では、これらクラスの1つのメンバーを他のクラスのものと交換することが必要であろう。ヒト化抗αβTCR抗体または変異抗αβTCR抗体の適正コンフォメーションの維持に関与しない任意のシステイン残基もまた、分子の酸化安定性の改善および異常架橋の予防のために、一般的にはセリンで置換しうる。反対に、その安定性を改善するために、システイン結合を抗体に付加しうる(とくに、抗体がFvフラグメントなどの抗体フラグメントである場合)。
とくに好ましいタイプの置換変異体は、親抗体(たとえば、ヒト化抗体またはヒト抗体)の1つ以上の超可変領域残基の置換を含む。一般的には、さらなる改善のために選択された得られた変異体は、産生源の親抗体を基準にして改善された生物学的性質を有するであろう。そのような置換変異体を産生するための簡便法は、ファージディスプレイを用いた親和性成熟である。簡潔に述べると、いくつかの超可変領域部位(たとえば、6〜7部位)は、各部位ですべての可能なアミノ置換を生成するように突然変異される。こうして産生された抗体変異体は、各粒子内にパッケージ化されたM13の遺伝子III産物への融合体としての繊維状ファージ粒子から一価形態で提示される。次いで、ファージディスプレイ変異体は、本明細書に開示された生物学的活性(たとえば、結合親和性)に関してスクリーニングされる。修飾のための候補超可変領域部位を同定するために、アラニンスキャニング突然変異誘発を行って、抗原結合に有意に寄与する超可変領域残基を同定することが可能である。他の選択肢としてまたは追加として、抗体とヒトDR4との間の接点を同定するために、抗原−抗体複合体の結晶構造を分析することが有益なこともありうる。そのような接触残基および近接残基は、本明細書に詳述された技術による置換の候補である。そのような変異体を産生した後、一群の変異体を本明細書に記載のスクリーニングに付して、さらなる改善のために、1つ以上の関連アッセイにより優れた性質を有する抗体を選択しうる。
抗体のグリコシル化変異体
抗体は、その定常領域内の保存位置でグリコシル化される(Jefferis and Lund, Chem. Immunol. 65:111-128 [1997)、Wright and Morrison, TibTECH 15:26-32 [1997])。免疫グロブリンのオリゴサッカリド側鎖は、タンパク質の機能(Boyd et al., Mol. Immunol. 32: 1311-1318 [1996)、Wittwe and Howard, Biochem. 29:4175-4180 [1990])ならびに糖タンパク質のコンフォメーションおよび提示三次元表面に影響を及ぼしうる糖タンパク質の部分間の分子内相互作用(Hefferis and Lund, supra、Wyss and Wagner, Current Opin. Biotech. 7:409-416 [1996])に影響を及ぼす。オリゴサッカリドはまた、特異的認識構造に基づいて所与の糖タンパク質が特定の分子を標的とするように機能しうる。たとえば、アガラクトシル化IgGでは、CH2内空間および末端N−アセチルグルコサミン残基からのオリゴサッカリド部分の「フリップ」は、マンノース結合性タンパク質に結合するように利用可能になると報告された(Malhotra et al., Nature Med. 1 :237-243 (1995])。チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞で産生されるCAMPATH−1H(ヒトリンパ球のCDw52抗原を認識する組換えヒト化ネズミモノクローナルIgG1抗体)からのオリゴサッカリドのグリコペプチダーゼによる除去は、補体媒介性溶解の完全低減をもたらし(CMCL)(Boyd et al., Mol. Immunol. 32:1311-1318 [1996])、一方、ノイラミニダーゼを用いたシアル酸残基の選択的除去は、DMCL低下をもたらさなかった。抗体のグリコシル化もまた、抗体依存性細胞傷害(ADCC)に影響を及ぼすと報告された。とくに、β(1,4)−N−アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼIII(GnTIII)のテトラサイクリン調節発現を有するCHO細胞では、バイセクトGlcNAcのグリコシルトランスフェラーゼ触媒形成が改善されたADCC活性を有すると報告された(Umana et al., Mature Biotech. 17: 176-180 [1999])。
抗体のグリコシル化変異体は、抗体のグリコシル化パターンが改変された変異体である。改変とは、抗体中に見いだされる1つ以上の炭水化物部分を欠失すること、1つ以上の炭水化物部分を抗体に付加すること、グリコシル化の組成(グリコシル化パターン)、グリコシル化の程度などを変化させることを意味する。グリコシル化変異体は、たとえば、抗体をコードする核酸配列中の1つ以上のグリコシル化部位の除去、変化、および/または付加、ならびに原核細胞発現系での核酸の発現および翻訳により調製されうる。
抗体のグリコシル化は、典型的には、N結合またはO結合である。N結合とは、アスパラギン残基の側鎖への炭水化物部分の装着を意味する。トリペプチド配列のアスパラギン−X−セリンおよびアスパラギン−X−トレオニン(式中、Xは、プロリン以外の任意のアミノ酸である)は、アスパラギン側鎖への炭水化物部分の酵素装着のための認識配列である。したがって、ポリペプチド中のこれらのトリペプチド配列のいずれかの存在は、潜在的なグリコシル化部位を形成する。O結合グリコシル化とは、ヒドロキシアミノ酸、最も一般的にはセリンまたはトレオニンへの糖N−アセイルガラクトサミン、ガラクトース、またはキシロースの1つの装着を意味するが、5−ヒドロキシプロリンまたは5−ヒドロキシリシンも使用しうる。
抗体へのグリコシル化部位の付加は、以上に記載のトリペプチド配列の1つ以上を含有するようにアミノ酸配列を改変することにより、都合よく達成される(N結合グリコシル化部位に対して)。改変はまた、元の抗体の配列に対する1つ以上のセリン残基またはトレオニン残基の付加または置換により、行われうる(O結合グリコシル化部位に対して)。
抗αβTCR抗体のアミノ酸配列変異体をコードする核酸分子は、当技術分野で公知のさまざまな方法により調製される。これらの方法としては、天然源からの単離(天然に存在するアミノ酸配列変異体の場合)またはすでに調製された変異型または非変異体型の抗αβTCR抗体のオリゴヌクレオチド媒介(または部位指向)突然変異誘発、PCR突然変異誘発、およびカセット突然変異誘発による調製が含まれるが、これらに限定されるものではない。
抗体のグリコシル化(グリコシル化パターンを含む)はまた、下に位置するヌクレオチド配列を改変することなく改変しうる。グリコシル化は、主に、抗体を発現するために用いられる宿主細胞に依存する。治療剤としての組換え糖タンパク質、たとえば、抗体の発現に使用される細胞タイプが天然細胞であることは、ほとんどないので、抗体のグリコシル化パターンの有意な変化は予想可能である(たとえば、Hse et al., J. Biol. Chem. 272:9062-9070 [1997]を参照された)。オリゴサッカリド産生に関与する特定の酵素の導入または過剰発現を含む特定の宿主生物で達成されるグリコシル化パターンを改変するために、種々の方法が提案されてきた(米国特許第5,047,335号、同第5,510,261号、および同第5.278,299号)。グリコシル化または特定のタイプのグリコシル化は、たとえば、エンドグリコシダーゼH(エンドH)を用いて、糖タンパク質から酵素的に除去可能である。それに加えて、組換え宿主細胞は、遺伝子工学操作が可能である。たとえば、特定のタイプのポリサッカリドのプロセシングで欠損を生じさせることが可能である。これらのおよび類似の技術は、当技術分野で周知である。抗体のグリコシル化構造は、レクチンクロマトグラフィー、NMR、質量分析、HPLC、GPC、モノサッカリド組成分析、逐次酵素消化、およびHPAEC−PAD(高pH陰イオン交換クロマトグラフィーを用いて電荷に基づいてオリゴサッカリドを分離する)を含めて、従来の炭水化物分析技術により、容易に分析可能である。分析目的のオリゴサッカリドの放出方法も知られており、限定されるものではないが、酵素処理(一般的には、ペプチド−N−グリコシダーゼF/エンド−α−ガラクトシダーゼを用いて行われる)、過酷なアルカリ性環境を用いた脱離による主にO結合構造の放出、無水ヒドラジンを用いてN結合およびO結合オリゴサッカリドの両方を放出する化学法が含まれる。いくつかの実施形態では、本発明に係る抗αβTCR抗体は、グリコシル化可能である。本発明のいくつかの実施形態では、本発明に係る抗αβTCR抗体は、非グリコシル化可能である。いくつかの実施形態では、本発明に係る抗体または抗原結合フラグメントは、ハイブリドーマTOL101MCB(TOL101)から産生される抗体と同一のグリコシル化パターンを有するまたは有するように工学操作された、ヒトαβTCRに結合する抗体または抗体フラグメントを含む。「同一のグリコシル化パターン」または「等価なグリコシル化パターン」とは、本発明に係る抗体の全体的グリコシル化シグネチャーまたはN結合もしくはO結合オリゴサッカリド組成が、本明細書に開示される伝統技術を用いて測定したときに、ハイブリドーマTOL101MCB(TOL101)から産生される抗体のグリコシル化シグネチャーまたはN結合もしくはO結合オリゴサッカリド組成に類似して、本明細書に記載のTOL101の改善された機能性または臨床性の少なくともの1つを有する本発明に係る抗体をもたらすように、本発明に係る抗体が、ハイブリドーマTOL101MCB(TOL101)から産生される抗体と同一の数および/またはタイプのグリコシル化部位を有することが意図される。それに加えて、本発明に係る抗体または抗原結合フラグメントは、ハイブリドーマTOL101MCB(TOL101)により産生される抗体と等価なまたは対応する残基の位置でグリコシル化しうる。「等価なまたは対応する残基」とは、公的に利用可能なコンピューターソフトウェアを用いて2つの抗体配列をアライメントし、グリコシル化残基の残基番号をKabatに従って同定したときに、本発明に係る抗体または抗原結合フラグメントが、本明細書に記載の先行技術よりも改善されたTOL101の機能性または臨床性の少なくとも1つを有するように、本発明に係る抗体または抗原結合フラグメントが、ハイブリドーマTOL101MCB(TOL101)により産生される抗体中のグリコシル化残基のうち35個以内、30個以内、25個以内、20個以内、15個以内、10個以内、または5個以内のアミノ酸残基である残基位置でグリコシル化されるものと考えられる。好適なコンピューターソフトウェアの例としては、「Staden Package」、「DNA Star」、「MacVector」、GCG「Wisconsin Package」(Genetics Computer Group, Madison, Wis.)、および「NCBI toolbox」(国立バイオテクノロジー情報センター(National Center for Biotechnology Information))を含むプログラムが含まれる。また、本明細書で考察されるように、抗体のグリコシル化の同定、比較、改変、および/または工学操作の方法は、当技術分野で周知である。
例示的な抗体
本明細書に開示された本発明は、いくつかの例示的実施形態を有する。本発明のさまざまな典型的実施形態は、以下に記載される。以下の実施形態は、単に例示を目的として提供したものにすぎず、本発明の範囲をなんら限定しようとするものではない。本発明に係る方法、アッセイ、および組成物の特定の実施形態では、抗αβTCR抗体またはその抗体フラグメントは、αβTCRに結合するかつハイブリドーマTOL101MCBにより産生される単離されたマウスIgMモノクローナル抗体であるTOL101抗体または抗体フラグメントを含む。
抗αβTCRモノクローナル抗体の性質
種々の実施形態では、本発明に係る抗αβTCR抗体は、哺乳動物αβTCR(たとえばヒトαβTCR)に特異的に結合する。いくつかの実施形態では、本発明に係る抗αβTCR抗体は、γδTCRを含まないCD3+T細胞に結合する。さらに、本発明に係る抗αβTCR抗体は、CD14、CD16、B220、CD19などのマーカーを発現する細胞に結合しないことから、αβT細胞に対する特異性がさらに強調される。たとえば、TOL101の均一でロバストで再現性のある抗αβTCR抗体結合は、130名の臨床患者および20名の健常志願者さらには通常の不死化T細胞系で観察された。本発明に係る抗αβTCR抗体は、αβT細胞の全集団に均一に結合するので、本発明に係る抗αβTCR抗体は、αβTCRの定常領域に結合すると考えられる。
T10B9.1A−31(T10B9)やMEDI−500などの当技術分野で公知の他の抗αβTCR抗体は、Tリンパ球レセプター複合体のアルファベータ(αβ)ヘテロ二量体を指向する免疫グロブリンMκネズミモノクローナル抗体(mAb)である。T10B9は、カタログ番号561674、555548、5555547、561673としてBD Pharminigen(商標)(San Diego, CA, USA)から市販されている。T10B9は、サイモグロブリンおよびCampath−1Hで見られる長期間枯渇と異なり、比較的短い作用持続期間を有し、T細胞を10〜14日間枯渇させる。T10B9やMEDI−500などの抗αβTCR抗体は、低濃度で可溶形態で非マイトジェンである(すなわち、細胞増殖を引き起こさない)。しかしながら、高濃度の可溶形態の抗体または低濃度もしくは高濃度のプレート結合抗体(すなわち、架橋抗体)は、細胞増殖を引き起こす(Brown et al. Clinical Transplantation 10; 607-613 [1996])。これとは対照的に、本発明に係る抗αβTCRモノクローナル抗体またはその抗体フラグメント(MEDI−500もしくはT10B9またはそれらのフラグメントを含まない)は、高濃度および低濃度でならびに可溶性形態およびプレート結合形態の両方で非マイトジェンである。T10B9およびMEDI−500は、文献では同義的に使用されることがあり、それぞれ、アロ移植拒絶および血液学的悪性疾患に対する治療など、適応症に対する治療用抗体としてすでに試験されてきた。しかしながら、これら抗体の臨床的使用は、有害なイベントおよび有意なヒト抗マウス抗体反応(HAMA)に関連付けられた(Waid et al. Transplantation 64; 274-281 [1997])。したがって、有害イベントを最小限に抑えつつ有効性を提供する抗αβTCR抗体の必要性が、当技術分野に存在する。驚くべきことに、ネズミ抗体であるかつαβTCRに特異的であるTOL101は、有害イベントを最小限に抑えてかつHAMA反応を最小限に抑えて、ロバストなT細胞抑制を呈した。理論により拘束することを望むものではないが、たとえば、抗体のグリコシル化および/またはコンフォメーションを含めて、TOL101の翻訳後修飾が、少なくとも部分的に、先行技術の抗体よりも優れた本発明に係る抗体の臨床的有効性および安全性に関与すると考えられる。それに加えて、本発明に係る抗αβTCR抗体(TOL101を含む)は、0〜42mg/mL/日の範囲内の用量で1〜5日間全身投与したとき、循環CD3+T細胞の数を有意に(たとえば、媒体対照と比較して10%超の量)枯渇しない。理論により拘束することを望むものではないが、その代わりに、本発明に係る抗αβTCR抗体(TOL101を含む)は、αβTCR自体を含めて、αβTCR+T細胞上のCD3複合体をダウンレギュレートすることにより、T細胞が抗原に反応しないようにすると考えられる。本明細書で用いられる場合、「T細胞枯渇」および「T細胞欠失」という用語は、T細胞数(たとえば、被験体における循環T細胞数)の低減を意味する。T細胞の枯渇または欠失は、T細胞で細胞死を引き起こすことにより達成しうる。
抗αβTCR抗体およびその抗体フラグメントの使用
本発明に係る抗αβTCR抗体またはその抗体フラグメントは、とくにαβTCR+T細胞の負のモジュレーションに関連付けられる種々の有用性を有する。たとえば、抗αβTCR抗体は、哺乳動物、たとえば、ヒト、霊長動物、および実験動物において、病態の治療方法で利用しうる。本明細書では、抗αβTCR抗体は、自己免疫性疾患、炎症性疾患、および移植片対宿主反応または移植組織拒絶反応に関連する病態および疾患の治療および/または予防に利用しうると考えられる。本発明に係る方法では、抗αβTCR抗体またはその抗体フラグメントは、単独でまたはさらに他の二次的補助療法剤または技術との組合せで、哺乳動物(たとえば、必要とされるヒト被験体)に投与可能である。
単なる例示にすぎないが、抗αβTCR抗体または抗体フラグメントによる治療が有効性を提供可能である自己免疫性および炎症性疾患としては、喘息(たとえば、アレルギー性喘息、非アレルギー性喘息、運動起因性喘息、職業性喘息、および夜間性喘息)、アレルギー、アレルギー性気道炎症、アレルギー性脳脊髄炎、自己免疫性関節炎、関節リウマチ、若年性関節リウマチ、反応性関節炎、乾癬性関節炎、仙腸骨炎、孤立性急性前部ブドウ膜炎、未分化脊椎関節症、1型糖尿病、多発性硬化症、全身性紅斑性狼瘡、糸球体腎炎、橋本甲状腺炎、グレーブス病、強皮症、セリアック病、クローン病、炎症性腸疾患、潰瘍性結腸炎、強直性脊椎炎、シェーグレン症候群、乾癬、接触性皮膚炎、グッドパスチャー症候群、アジソン病、ウェゲナー肉芽腫症、原発性胆汁性肝硬変、硬化性胆管炎、自己免疫性肝炎、リウマチ性多発性筋痛症、ベーチェット病、ギラン・バレー症候群、種々の血管炎、ブドウ膜網膜炎、甲状腺炎、重症筋無力症、免疫グロブリン腎症、心筋炎、および進行性全身性硬化症が含まれうる。いくつかの実施形態では、炎症性疾患としては、炎症性の病態または疾患、たとえば、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、気管支炎、肺気腫、または急性呼吸窮迫症候群(ARDS)が含まれうる。他の態様では、炎症性の病態または疾患としては、炎症性サイトカインレベルの上昇に関連付けられる疾患、病態、または障害が含まれうる。種々の態様で、炎症性サイトカインは、IL−2、IL−4、またはIL−5であるか、または炎症性サイトカインは、IFN−γであるか、または炎症性サイトカインは、TNF−αである。特定の実施形態では、自己免疫性疾患は、I型糖尿病または多発性硬化症である。
本発明の実施形態は、移植を行っているまたは移植を必要とする被験体を治療する方法を提供する。これらの実施形態によれば、被験体は、被験体における移植拒絶または移植拒絶の副作用のリスクを低減させるために組成物で治療しうる。この方法によれば、T細胞活性化を低減可能な抗αβTCR抗体またはその抗体フラグメントを含む組成物を被験体に投与することが可能である。組成物は、移植前、移植中、移植後、またはそれらの組合せで投与しうる。いくつかの実施形態では、本発明に係る抗αβTCR抗体またはその抗体フラグメントは、移植拒絶の予防またはその重症度の低減のために投与される。他の実施形態では、本発明に係る抗αβTCR抗体またはその抗体フラグメントは、起こっているまたはすでに起こった移植拒絶を治療するために投与される。それに加えて、組成物は、1つ以上の抗移植拒絶剤、抗炎症剤、免疫抑制剤、免疫変調剤、抗微生物剤、またはそれらの組合せをさらに含みうる。
本発明の特定の実施形態では、抗αβTCR抗体またはその抗体フラグメントを含む組成物は、T細胞活性化に関連付けられるサイトカイン活性化を有意に低減可能である。本発明に係る組織移植は、臓器移植および/または非臓器移植を含みうる。たとえば、肺、腎臓、心臓、肝臓、角膜、皮膚、幹細胞、軟組織(たとえば、顔要素移植)、腸管移植、骨髄、膵島、膵臓の移植、またはそれらの組合せが考えられる。
本発明の実施形態は、移植を行っているまたは移植を必要とする被験体が遭遇する症状または徴候を改善する方法を提供する。これらの実施形態によれば、症状または徴候としては、移植片対宿主病(GVHD)または移植拒絶に関連付けられる病態が含まれうる。一例では、本明細書に開示される方法は、腎臓移植を受けている被験体を治療するために使用しうる。他の実施形態では、症状または徴候としては、次のもの、すなわち、腎機能不全、肺不全、心不全、倦怠感、発熱、乾性咳、拒食症、重量損失、筋肉痛および胸痛を限定されるものではないが含む、換気障害、発汗する、悪心、嘔吐、発熱、腹痛、血性下痢、粘膜潰瘍、腎機能低下(クレアチニン増加、尿量減少)、肺機能低下(息切れ増加、発熱する、咳、痰、低酸素血症)、心機能低下(息切れ、胸痛、疲労、肺浮腫または末梢性浮腫、弁膜症)、ランゲルハンス島機能低下(グルコース増加、糖尿病)、移植片対宿主病(胃腸(GI)潰瘍化、肺不全、皮膚潰瘍、凝固障害、CNS機能不全(精神状態変化、昏睡)、CMV(サイトメガロウイルス感染、ウイルス菌類寄生生物感染))のうち1つ以上が含まれうる。
本発明の実施形態は、抗αβTCR抗体またはその抗体フラグメントを含む治療上有効量の組成物を必要とされる被験体に投与することを含む、被験体における長期間移植片生着および機能を促進する方法を提供する。本発明の実施形態は、免疫寛容療法を必要とする被験体を治療する方法を提供する。これらの実施形態によれば、被験体は、被験体における機能不全移植拒絶または機能不全移植拒絶の副作用のリスクを低減させるために組成物で治療しうる。他の実施形態では、本明細書中の方法は、移植に特異的な免疫寛容の誘導および/または免疫抑制療法の必要性の低減を提供する。この実施形態によれば、移植レシピエントの免疫系は、移植片を攻撃する特異的能力を低減または消失すると同時に任意の他のタイプの免疫攻撃を開始する能力を維持しうる。この方法によれば、抗αβTCR抗体またはその抗体フラグメント、たとえば、TOL1101を含む組成物を移植レシピエントに投与することが可能である。これらの実施形態によれば、免疫寛容療法は、抗αβTCR抗体またはその抗体フラグメントを用いてサイトカイン産生を阻害することを含みうる。
本発明の実施形態は、被験体においてTNF−α(腫瘍壊死因子α)レベルを低下させる方法を提供する。この方法は、そのような治療を必要とする被験体に抗αβTCR抗体またはその抗体フラグメントを含む組成物を投与することを含む。本発明の実施形態は、免疫寛容療法を必要とする被験体を治療する方法を提供する。これらの実施形態によれば、抗αβTCR抗体またはその抗体フラグメントを含む組成物を投与することを含む、NO産生の低減および/またはアポトーシスの低減および/またはサイトメガロウイルス(感染および再活性化)の阻害を行う方法が提供される。本発明の特定の実施形態では、in vivoおよびin vitroでT細胞活性化を有意に低減可能な組成物である。
本発明の特定の実施形態では、本発明に係る抗αβTCR抗体またはその抗体フラグメントと組み合わせて、二次活性剤を使用することが可能である。例示的実施形態では、抗炎症性化合物または免疫モジュレート薬剤としては、単独または組合せのいずれかで摂取される、インターフェロン、インターフェロン誘導体(betaseron、βインターフェロンを含む)、プロスタン誘導体(イロプロスト、シカプロストを含む)、グルココルチコイド(コルチゾール、プレドニゾロン、メチルプレドニゾロン、デキサメタゾンを含む)、免疫抑制剤(シクロスポリンA、FK−506、メトキサレン、サリドマイド、スルファサラジン、アザチオプリン、メトトレキセートを含む)、リポキシゲナーゼ阻害剤(zileutone、MK−886、WY−50295、SC−45662、SC−41661A、BI−L−357を含む)、ロイコトリエンアンタゴニスト、ペプチド誘導体(ACTHおよびそのアナログを含む)、可溶性TNF受容体、TNF抗体、インターロイキン、他のサイトカイン、T細胞タンパク質の可溶性レセプターインターロイキン、他のサイトカイン、T細胞タンパク質に対する抗体レセプター、およびカルシポトリオール、Celcept(登録商標)ミコフェノール酸モフェチル、ならびにそれらの類似体の1つ以上が含まれうるが、これらに限定されるものではない。
本発明に係る抗αβTCR抗体またはその抗体フラグメントはさらに、N末端またはC末端で異種ポリペプチドに組換え融合もしくはカップリングされうるか、またはポリペプチドもしくは他の組成物に化学的にコンジュゲートされうる(共有結合もしくは非共有結合によるコンジュゲーションを含む)。たとえば、本発明に係る抗体は、検出アッセイで標識として有用な分子(放射性核種、放射性同位体、蛍光標識、発光標識、生物発光標識、またはビオチン)およびエフェクター分子、たとえば、異種ポリペプチド、薬剤、酵素、または毒素に組換え融合またはコンジュゲートされうる。たとえば、PCT出版物国際公開第92/08495号、国際公開第91/14438号を参照されたい。
本発明の実施形態は、被験体において移植拒絶を低減する方法を提供する。これらの実施形態によれば、被験体において移植拒絶反応または移植拒絶反応の副作用のリスクを低減させるために、治療上有効量の抗αβTCR抗体またはその抗体フラグメントで被験体を治療しうる。この方法によれば、抗αβTCR抗体またはその抗体フラグメントを含む組成物を被験体に投与することが可能である。一例では、移植拒絶の低減としては、臓器移植、たとえば、腎臓移植または腸移植、非臓器移植、たとえば、骨髄移植軟組織移植を有する被験体において移植拒絶に関連付けられる症状の低減が含まれうる。
種々の実施形態では、本明細書に記載の種々の病態の哺乳動物において診断が熟練者により行われうる。たとえば、哺乳動物において自己免疫性疾患および炎症関連疾患の診断または検出を可能する診断技術は、当技術分野で利用可能である。たとえば、自己免疫性疾患および炎症関連疾患は、特定のリンパ球のタイプおよび集団、自己抗体の存在、疾患特異的サイトカインの存在および量の同定を含む技術(ただし、これらに限定されるものではない)により、発熱の存在などにより、同定しうる。たとえば、全身性紅斑性狼瘡では、疾患の中心的メディエーターは、自己タンパク質/組織に対する自己反応性抗体の産生および後続の免疫媒介性炎症の発生である。腎臓、肺、筋骨格系、粘膜皮膚、眼、中枢神経系、心血管系、胃腸管、骨髄、および血液を含めて、複数の臓器および系が臨床的に影響を受ける。SLEは、さまざまなリウマチ学的および血液学的試験、たとえば、特定の自己抗体の存在および量、たとえば、陽性抗核抗体(ANA)試験、抗nRNPA、抗nRNPC、抗Sm、抗Ro、抗La、および抗dsDNA抗体の存在を用いて、診断可能である。
関節リウマチ(RA)は、主に関節軟骨に傷害を生じた複数の関節の滑膜が関与する慢性全身性自己免疫性炎症性疾患である。病理発生は、Tリンパ球依存性であり、結果的に滑液中および血液中で高レベルに達する免疫複合体の形成を伴うリウマチ因子、自己IgGを指向する自己抗体の産生に関連付けられる。関節中のこれらの複合体は、滑膜中へのリンパ球および単球の顕著な浸潤および後続の顕著な滑膜変化を引き起こしうる。多数の好中球が加わって類似の細胞により浸潤される場合、関節腔/流体中。罹患組織は、主に関節であり、多くの場合、対称パターンである。しかしながら、関節外疾患もまた、2つの主要形態で生じる。一形態は、持続進行性関節疾患を伴う関節外病変、ならびに肺線維症、血管炎、および皮膚潰瘍の典型的な病変の発生である。関節外疾患の第2の形態は、RA疾患経過の後期に、ときには関節疾患が非活動性になった後に起こるいわゆるフェルティー症候群であり、好中球減少症、血小板減少症、および巨脾の存在を含む。これは、梗塞、皮膚潰瘍、および壊疽の形成と共に複数の臓器で血管炎を伴いうる。また、患者は、多くの場合、罹患関節を覆う皮下組織中にリウマトイド結節を発生し、結節は、後期、混合炎症細胞浸潤物に取り囲まれたネクローシス中心を有する。RAで生じうる他の所見は、心膜炎、胸膜炎、冠動脈炎、肺線維症を伴う間質性肺炎、乾性角結膜炎、およびリウマトイド結節を含む。
若年性慢性関節炎は、多くの場合、16歳未満の年齢で始まる慢性特発性炎症性疾患である。その表現型は、RAとのいくつかの類似性を有し、リウマチ性因子陽性である一部の患者は、若年性関節リウマチとして分類される。疾患は、3つの主要なカテゴリー、すなわち、小関節性、多関節性、および全身性に細分類される。関節炎は、重篤になることもあり、典型的には、破壊的であり、関節硬直および遅延成長をもたらす。他の所見は、慢性前部ブドウ膜炎および全身性アミロイドーシスを含みうる。
脊椎関節症は、いくつかの共通した臨床徴候およびHLA−B27遺伝子産物の発現を伴う共通した関連症状を有する一群の疾患である。障害としては、強直性脊椎炎、ライター症候群(反応性関節炎)、炎症性腸疾患関連関節炎、乾癬関連脊椎炎、若年発症脊椎関節症、および未分化脊椎関節症が含まれる。際立った特徴としては、脊椎炎を伴うまたは伴わない仙腸骨炎、炎症性非対称性関節炎、HLA−B27関連症(クラスI MHCのHLA−B遺伝子座の血清学的に規定される対立遺伝子)、眼炎症、および他のリウマチ性疾患に関連付けられる自己抗体の不在が含まれる。疾患の誘導の鍵として最も関与する細胞は、クラスI MHC分子により提示された抗原を標的とする細胞CD8+Tリンパ球である。MHCクラスI分子により発現された外来ペプチドであるがごとく、CD8+T細胞は、クラスI MHC対立遺伝子HLA−B27に対して反応しうる。HLA−B27のエピトープは、細菌または他の微生物の抗原エピトープを模倣しうるので、CD8+T細胞反応を引き起こすという仮説が立てられてきた。
全身性硬化症(強皮症)は、未知の病因を有する。疾患の特徴は、皮膚の硬結であり、これは、おそらく活性炎症過程により引き起こされる。強皮症は、局所性であることもあれば全身性であることもあり、血管病変は、共通しており、微小血管系の内皮細胞傷害は、全身性硬化症の発生における初期の重要なイベントである。血管損傷は、免疫媒介性でありうる。免疫学的基礎は、皮膚病変中の単核細胞浸潤物の存在および多くの患者における抗核抗体の存在により示唆される。ICAM−1は、多くの場合、皮膚病変の線維芽細胞の細胞表面上でアップレギュレートされることから、ことが示唆される、これらの細胞とT細胞との相互作用は、疾患の病理発生の役割を有する。関与する他の臓器としては、胃腸管:異常蠕動運動/運動性をもたらす平滑筋萎縮および線維症;腎臓:弓状小動脈および小葉間動脈に影響を及ぼして腎臓皮質血流の減少を生じる同心性内皮下内膜増殖は、タンパク尿、高窒素血症、および高血圧をもたらす;骨格筋:萎縮、間質性線維症、炎症;肺:間質性肺炎および間質性線維症;ならびに心臓:収縮帯壊死(瘢痕化/線維症)が含まれる。
皮膚筋炎、多発性筋炎などを含む特発性炎症性筋症は、筋力低下をもたらす未知の病因の慢性筋肉炎症の障害である。筋損傷/炎症は、多くの場合、対称性かつ進行性である。自己抗体は、ほとんどの形態と関連する。これらの筋炎特異的自己抗体は、タンパク質合成に関与する成分、タンパク質、およびRNAを指向し、それらの機能を阻害する。
シェーグレン症候群は、免疫媒介性炎症ならびにそれに続く涙腺および唾液腺の機能破壊に起因する。疾患は、炎症性結合組織疾患に関連付けられうるか、または結合組織疾患を伴いうる。疾患は、RoおよびLa抗原(両方とも小さいRNA−タンパク質複合体である)に対する自己抗体産生に関連付けられる。病変は、乾性角結膜炎、口腔乾燥症をもたらし、胆汁性肝硬変、末梢性または感覚性神経症、および触知可能紫斑病を含む他の所見または関連症を伴う。
全身性血管炎は、一次病変が炎症およびそれに続く血管の損傷であり、罹患した血管により供給される組織に虚血/壊死/変性を生じ、いくつかの場合には、最終的な終末臓器機能不全をもたらす疾患である。血管炎はまた、免疫炎症媒介疾患、たとえば、関節リウマチ、全身性硬化症などに対する二次病変または後遺症として、とくに、免疫複合体の形成にも関連付けられる疾患で、起こりうる。原発性全身性血管炎グループの疾患としては、全身性壊死性血管炎、結節性多発性動脈炎、アレルギー性血管炎、および肉芽腫症、多発性血管炎、ウェゲナー肉芽腫症、リンパ腫様肉芽腫症、ならびに巨細胞性動脈炎が含まれる。他の血管炎としては、皮膚粘膜リンパ節症候群(MLNSまたは川崎病)、孤立性CNS血管炎、ベーチェット病、閉塞性血栓性血管炎(バージャー病)、および皮膚壊死性細静脈炎が含まれる。列挙された血管炎のタイプのほとんどの病原機序は、主に血管壁中への免疫グロブリン複合体の堆積およびそれに続くADCC、補体活性化、またはその両方を介する炎症反応の誘導に起因すると考えられる。
サルコイドーシスは、体内のほぼ任意の組織において類上皮肉芽腫の存在により特徴付けられる未知の病因の病態であり、肺の合併症は、最も一般的である。病理発生は、疾患部位における活性化マクロファージおよびリンパ系細胞の存続を含み、これらの細胞タイプにより放出される局所的および全身的に活性な産物の放出から生じる後続の慢性後遺症を伴う。
自己免疫性溶血性貧血、免疫性汎血球減少症、および発作性夜間血色素尿症を含む自己免疫性溶血性貧血は、赤血球(いくつかの場合には、血小板をも含めた他の血液細胞)の表面上に発現された抗原と反応する抗体の産生の結果であり、補体媒介性溶解および/またはADCC/Fcレセプター媒介性機序を介する抗体被覆細胞の除去の現れである。
血小板減少性紫斑病および他の臨床状況で免疫媒介性血小板減少症を含む自己免疫性血小板減少症では、血小板に装着する抗体または補体、およびそれに続く補体溶解、ADCC、またはFCレセプター媒介機序による除去のいずれかの結果として、血小板破壊/除去が起こる。
グレーブス病、橋本甲状腺炎、若年性リンパ球性甲状腺炎、および萎縮性甲状腺炎を含む甲状腺炎は、甲状腺抗原に対する自己免疫反応の結果であり、甲状腺に存在するおよび多くの場合それに特異的であるタンパク質と反応する抗体の産生を伴う。自然モデル:ラット(BUFおよびBBラット)およびニワトリ(肥満ニワトリ株);誘導モデル:サイログロブリン、甲状腺ミクロソーム抗原(甲状腺ペルオキシダーゼ)のいずれかによる動物の免疫化を含む実験モデルが存在する。
I型糖尿病またはインスリン依存性糖尿病は、膵島β細胞の自己免疫性破壊である。この破壊は、自己抗体および自己反応性T細胞により媒介される。また、インスリンまたはインスリンレセプターに対する抗体は、インスリン非反応性の表現型を生成可能である。
糸球体腎炎および尿細管間質性腎炎を含む免疫媒介性腎疾患は、直接的には、腎臓抗原に対する自己反応性抗体またはT細胞の産生の結果としての、または間接的には、他の非腎臓抗原に対して反応性である抗体および/または免疫複合体の腎臓中への堆積の結果としての、腎臓組織の抗体媒介またはTリンパ球媒介の傷害の結果である。したがって、免疫複合体の形成をもたらす他の免疫媒介性疾患はまた、間接的後遺症として免疫媒介性腎疾患を引き起こしうる。直接的および間接的の両方の免疫機序は、腎臓組織中に病変発生を生成/誘導する炎症性反応をもたらし、臓器機能障害およびいくつかの場合には腎不全への進行を伴う。体液性および細胞性の両方の免疫機序は、病変の病理発生に関与しうる。
多発性硬化症、特発性脱髄性多発性神経症またはギラン・バレー症候群、ならびに慢性炎症性脱髄性多発性神経症を含む中枢神経系および末梢神経系の脱髄疾患は、自己免疫性基礎を有し、乏突起膠細胞または直接ミエリンに損傷を引き起こした結果として神経脱髄をもたらすと考えられる。多発性硬化症では、疾患の誘導および進行は、Tリンパ球に依存することを示唆する証拠が存在する。多発性硬化症は、典型的には、再発性寛解性経過または慢性進行性経過のいずれかを有する。病因は、不明であるが、ウイルス感染、遺伝的素因、環境、および自己免疫はすべて、疾患の病因および/または病理発生に寄与しうる。病変は、主にTリンパ球媒介のミクログリア細胞および浸潤性マクロファージの浸潤物を含有し、CD4+Tリンパ球は、病変部位の主な細胞タイプである。乏突起膠細胞の細胞死および後続の脱髄の機序は、知られていないが、おそらくTリンパ球駆動であろう。本発明の種々の態様では、本発明に係る抗αβTCR抗体の投与は、さらなるミエリン破壊および患者罹患を予防するうえで合理的な第一段階と見られる。MSの動物モデル(実験的自己免疫性脳脊髄炎)では、T細胞アンタゴニズムは、疾患を完全に抑止可能である。特定の理論になんら拘束されるものではないが、多発性硬化症(実験的自己免疫性脳脊髄炎)の動物モデルでは、本発明に係る抗αβTCR抗体の投与は、疾患を完全に抑止可能であるT細胞アンタゴニズムをもたらすと考えられる。疾患の症状および病理発生を軽減、抑止、または逆転する際の特異的作用機序は、本発明の理解に必要ではないが、最近発症した多発性硬化症患者への本発明に係る抗αβTCR抗体の投与は、自己反応性免疫反応を鎮静化するだけでなく、他のミエリンエピトープへのエピトープの広がりを予防し、疾患の進行を阻害すると考えられる。
多発性硬化症疾患の病期を決定する基準は、周知である。たとえば、最近の発症に関連付けられる症状としては、次のもの、すなわち、疲労、視覚障害、無感覚眩暈(dizziness/vertigo)、膀胱および腸管の機能不全、虚弱、振戦、運動障害、性機能不全、不明瞭言語、痙縮(脚硬直)、嚥下障害、慢性うずく痛み、抑鬱症、軽度の認知障害および記憶障害のうち1つ以上が含まれうる。これらの症状のすべてが最近発症した多発性硬化症に存在するとは限らないが、通常、これらのいくつかの組合せが検出される。多発性硬化症の他の病期またはタイプとしては、次のもの、すなわち、良性多発性硬化症、再発性/寛解性多発性硬化症、二次/進行性多発性硬化症、一次/進行性多発性硬化症、および進行性/再発性多発性硬化症が含まれうる。多発性硬化症のこれらの病期は、当技術分野で周知であり、当技術分野で公知の神経学的に許容可能な試験方法および診断方法を用いて検証可能である。たとえば、コントラスト増強病巣(CEL)の数は、磁気共鳴イメージング(MRI)試験から決定可能である。そのほかに、多発性硬化症患者の機能評価は、当技術分野で公知であり、たとえば、平均スクリプス神経症状評価尺度(SNRS)、平均総合障害度評価尺度(EDSS)、および平均多発性硬化症複合機能(MSFC)を含む。
本明細書で用いられる場合、多発性硬化症を有すると診断されたまたはその疑いのある哺乳動物、たとえば、ヒトの治療は、治療上有効な用量の本発明に係る抗αβTCR抗体またはそのフラグメントを、最近発症した多発性硬化症、良性多発性硬化症、再発性/寛解性多発性硬化症、二次/進行性多発性硬化症、一次/進行性多発性硬化症、および進行性/再発性多発性硬化症、のいずれか1つ以上を有すると診断されたまたはその疑いのある哺乳動物被験体に投与することを含みうる。いくつかの実施形態では、多発性硬化症の哺乳動物を治療する方法はさらに、本明細書に開示されるように、漸増用量レジメン、漸減用量レジメン、またはそれらの組合せ中で治療上有効な用量の本発明に係る抗αβTCR抗体またはそのフラグメントを投与することを含みうる。
臨床的には、アレムツズマブおよびダクリズマブを含む作用剤がMSで試験されている。しかしながら、これらの療法は、疑わしい有効性および安全性プロファイルを有する。動物研究では、αβT細胞レセプターを標的とすると、疾患の臨床的および病理学的徴候に対する劇的な治療有効性を有することが示された。自己反応性免疫反応を鎮静化するだけでなく、他のミエリンエピトープへのエピトープの広がりを予防して、疾患の進行を阻害する。いくつかの実施形態では、本発明に係る抗αβTCR抗体またはそのフラグメントは、毎月のコントラスト増強病巣の平均数を50%以上低減するであろう。いくつかの実施形態では、本発明に係る抗αβTCR抗体またはそのフラグメントは、ベースラインMRI時のCELの全平均(たとえば、治療の2ヶ月前に得られた3つのMRIのCELの全平均)と比較して、本発明に係る抗αβTCR抗体またはそのフラグメントによる治療の3〜6ヶ月後、コントラスト増強病巣(CEL)の平均数を低減するであろう。他の実施形態では、本発明に係る抗αβTCR抗体またはそのフラグメントによる治療は、SNRS、総合障害度評価尺度(EDSS)、および/または多発性硬化症複合機能(MSFC)と比較して、平均スクリプス神経症状評価尺度(SNRS)により測定したとき、多発性硬化症の症状の悪化を改善または予防する。
いくつかの実施形態では、本発明に係る抗αβTCR抗体またはそのフラグメントは、ミエリン特異的T細胞の数を低減するであろう。いくつかの実施形態では、本発明に係る抗αβTCR抗体またはそのフラグメントは、ミエリン特異的T細胞の表現型を炎症誘発性TH1/17細胞から抗炎症性TH2様T細胞に変化させたり、かつ/または疾患誘発性T細胞を非反応性にしたりするであろう。
本明細書で用いられる場合、最近発症した多発性硬化症は、最初の脱髄イベント(臨床孤立症候群(CID))を有する被験体を含みうる。最近発症した多発性硬化症を検出および/または診断する方法は、神経学的分野で周知である。いくつかの例示的な例としては、病変検出のための、たとえば、ガドリニウム増強病変およびT2病変(すなわち、T2強調画像上に見られた病変)、T1強調低信号病変(ブラックホール)の病変体積およびカウント数の使用のための、磁気共鳴イメージングが含まれ、中枢神経系(CNS)萎縮測定は、炎症、脱髄、軸索損失、また神経変性により引き起こされる一連の組織改変のよりグローバルな写真を取り込むことが可能である。いくつかの実施形態では、最近発症した多発性硬化症患者の1つの病変(臨床孤立症候群)の客観的な臨床的証拠は、発性硬化症に合致する2つ以上のMRI病変により示される空間内の広がり、陽性CSF、およびMRIまたは第2の臨床的発作により示される時間内の広がりにより決定可能である。陽性CSFは、一般的には、血清中のものとは異なるオリゴクローナルバンドまたは免疫グロブリンG指標の増加として定義される。一例では、次の基準、すなわち、1)脳または脊椎中の1つのガドリニウム増強病変または9つのT2高信号病変、2)少なくとも1つテント下病変または脊椎病変、3)少なくとも1つの傍骨性病変、または4)少なくとも3つの室周囲病変の少なくとも3つが満たされれば、空間内および時間内の広がりにより決定される脳の異常ならびに空間内に広がるMRI病変に対するMRI基準を決定することが可能である。時間内に広がるMRI病変の存在を決定するために、次の少なくとも1つの基準を満たさなければならない。すなわち、1)初期出現の3ヶ月以上後のガドリニウム増強病変であるが、初期イベントとは異なる位置、および2)初期イベントの発症の30日以上後に行われた参照MRIと比較して、新しいT2病変。Polman CH, Reingold SC, Edan G, et al: Diagnostic Criteria for Multiple Sclerosis: 2005 Revisions to the “McDonald Criteria.” Ann Neurol 2005;58:840-846(その開示はその全体が本明細書において援用される)。
炎症性および線維性の肺疾患(好酸球性肺炎を含む)、特発性肺線維症、および過敏性肺炎は、脱調節された免疫炎症性反応を含みうる。その反応の阻害は、治療上有益であろう。
水疱性皮膚疾患、多形性紅斑、および接触性皮膚炎を含む自己免疫性または免疫媒介性の皮膚疾患は、自己抗体により媒介され、その起源はTリンパ球依存性である。
乾癬は、Tリンパ球媒介性炎症性疾患である。病変は、Tリンパ球、マクロファージ、および抗原プロセシング細胞ならびにいくらかの好中球の浸潤物を含有する。
炎症性疾患としては、IgE媒介性および非IgE媒介性のものを含むアレルギー型疾患を含みうる。たとえば、アレルギー性鼻炎、アトピー性皮膚炎、食物過敏症、および蕁麻疹は、Tリンパ球依存性である。これらの疾患は、主に、Tリンパ球誘発性炎症、IgE媒介性炎症、または両者の組合せにより媒介される。いくつかの実施形態では、本発明に係る抗αβTCR抗体は、アレルギー疾患、神経過敏関連疾患、または気道炎症関連呼吸器疾患、たとえば、喘息を治療するのに有用でありうる。いくつかの実施形態では、本発明に係る組成物は、過敏症、皮膚アレルギー、湿疹、アレルギー性鼻炎、蕁麻疹、アトピー性皮膚炎、眼乾燥疾患、アレルギー、接触アレルギー、食物過敏症、アレルギー性結膜炎、昆虫毒アレルギー、気管支喘息、アレルギー性喘息、内因性喘息、職業性喘息、アトピー性喘息、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、および慢性閉塞性肺疾患(COPD)に関連付けられる1つ以上の症状を予防、治療、または軽減するのに効果的である。
本発明に係る方法により治療しうる過敏性関連疾患または障害としては、過敏症、薬剤反応、皮膚アレルギー、湿疹、アレルギー性鼻炎、蕁麻疹、アトピー性皮膚炎、眼乾燥疾患(または乾性角結膜炎(KCS)としても参照される、乾性角膜炎、眼球乾燥症とも呼ばれる、アレルギー性接触アレルギー、食物アレルギー、アレルギー性結膜炎、昆虫毒アレルギー、および気道炎症関連呼吸器疾患、たとえば、IgE媒介性喘息および非IgE媒介性喘息が含まれるが、これらに限定されるものではない。
気道炎症関連呼吸器疾患としては、鼻炎、アレルギー性鼻炎、気管支喘息、アレルギー(外因性)喘息、非アレルギー性(内因性)喘息、職業性喘息、アトピー性喘息、運動起因性喘息、咳誘発性喘息、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、および慢性閉塞性肺疾患(COPD)が含まれるが、これらに限定されるものではない。
移植拒絶および移植片対宿主病(GVHD)を含む移植関連疾患は、Tリンパ球依存性であり、Tリンパ球機能の阻害は、改善性である。以上に記載の抗αβTCR抗体および抗体フラグメントは、アロ移植拒絶を治療、予防、または遅延するに有用である。
本発明は、利用されるアロ移植片のタイプにより制限されない。たとえば、特定の実施形態では、アロ移植片は、心臓、肺、腎臓、肝臓、膵臓、腸、胃、精巣、手、角膜、顔を含む皮膚再移植片、ランゲルハンス島(ランゲルハンス島細胞)、骨髄/成体幹細胞、輸血/部分輸血、血管、心臓弁、骨、および細胞、または組織移植レシピエント(たとえば、幹細胞または骨髄細胞レシピエント)からなる群から選択される固形臓器または組織である。
投与
好ましくは、抗体は、担体、好ましくは薬学的に許容可能な担体に入れて哺乳動物に投与される。好適な担体およびその処方は、Remington’s Pharmaceutical Sciences, 16th ed., 1980, Mack Publishing Co., edited by Oslo et al.に記載されている。典型的には、製剤を等張性にするために、適切な量の薬学的に許容可能な塩が製剤で使用される。担体の例としては、生理食塩水、リンゲル液、およびデキストロース溶液が含まれる。溶液のpHは、好ましくは約5〜約8、より好ましくは約7〜約7.5である。さらなる担体としては、持続放出性製剤、たとえば、抗体を含有する固体疎水性ポリマーの半透性のマトリックスが含まれる。このマトリックスは、造形品、たとえば、膜、リポソーム、またはマイクロ粒子の形態である。たとえば、投与経路および投与される抗体の濃度に依存して、特定の担体がより好ましいこともありうることは、当業者には明らかであろう。
抗αβTCR抗体またはその抗体フラグメントは、注射により(たとえば、静脈内、腹腔内、皮下、筋肉内、門脈内)、または他の方法により、たとえば、効果的形態で血流への送達が確保される注入により、被験体に投与可能である。抗体はまた、局所治療効果を発揮するように、分離組織灌流などの分離灌流技術により投与しうる。局所注射または静脈内注射が好ましい。
抗体の適切な用量を選択する際の指針は、抗体の治療的使用に関する文献、たとえば、Handbook of Monoclonal Antibodies, Ferrone et al., eds., Noges Publications, Park Ridge, N.J., (1985) ch. 22 and pp. 303-357、Smith et al., Antibodies in Human Diagnosis and Therapy, Haber et al., eds., Raven Press, New York (1977) pp. 365-389に見いだされる。単独使用される抗体の典型的な一日投与量は、以上に述べた因子に依存して、約0.01mg/kg〜100mg/kg体重/日またはそれ以上、より好ましくは約0.1mg/kg〜約10mg/kg、さらにより好ましくは約0.2mg/kg〜約0.7mg/kg体重/日またはそれ以上の範囲内でありうる。
いくつかの実施形態では、自己免疫性疾患、炎症性疾患、または移植組織拒絶(たとえば、腎臓移植拒絶反応)を治療する方法は、抗αβTCR抗体もしくはその抗体フラグメントまたは抗αβTCRIgM抗体もしくはその抗体フラグメントを、約1mg/日〜約200mg/日、もしくは約7mg/日〜約58mg/日、もしくは約14mg/日〜約45mg/日、もしくは約28mg/日〜約42mg/日の量で、または7mg/日、14mg/日、21mg/日、28mg/日、30mg/日、32mg/日、34mg/日、35mg/日、36mg/日、38mg/日、40mg/日、42mg/日、44mg/日、46mg/日、48mg/日、50mg/日、52mg/日、54mg/日、56mg/日、もしくは58mg/日またはそれ以上の量で、あるいはそれらの組合せで、必要とする被験体に投与することを含みうる。本明細書で用いられる場合、整数1〜200は、整数1と200との間の任意の整数またはその分割値を包含または含む。たとえば、約7mg/日〜約58mg/日の一日用量は、当然ながら、この範囲間のすべての整数、たとえば、8、10、13、27、28、29、30、45、53、および57mg/日、ならびにその任意の分割量、たとえば、整数7と58との間にあるとみなされる分割量の単なる例として、3.5、4.7、5.25、11.6、22.1、46.3、および51.125mg/日を含む。いくつかの実施形態では、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、または14日間の投与スケジュールは、同一であってもよいかつ/または異なっていてもよい逐次一日用量とみなされる漸増および/または漸減投与スケジュールを含みうる。本発明に係る方法、アッセイ、および組成物の特定の実施形態では、抗αβTCR抗体またはその抗体フラグメントは、αβTCRに結合するTOL101抗体またはその抗体フラグメントを含む。本発明に係る方法の特定の実施形態では、自己免疫性疾患、炎症性疾患、または移植片組織拒絶は、腎臓移植組織拒絶/移植片対宿主病または多発性硬化症である。
いくつかの実施形態では、本発明に係る方法、たとえば、自己免疫性疾患、炎症性疾患、または移植組織拒絶の治療方法は、抗αβTCR抗体またはその抗体フラグメントを、約1mg/日〜約200mg/日もしくは約7mg〜約58mg/一日用量の範囲内の量または合計すると一日用量になる分割単位用量(たとえば、28mgの一日用量は、24時間以内の異なる時間、たとえば1日2回または12時間おき、の2回の14mg投与用量を含みうる)で、必要とする被験体に投与することを含みうる。いくつかの実施形態では、投与レジメンは、必要とされる患者または被験体に、組成物、たとえば、医薬組成物を、本質的に日によって変わらない一日用量で投与することを含みうる。いくつかの実施形態では、被験体は、0日目に最高一日用量、たとえば、58mg/日または56mg/日または42mg/日から始めて、3日間〜5日間〜6日間にわたり最低一日用量、たとえば、7mg/日または14mg/日に調整される調整一日用量で治療される。例示的な投与スケジュールは、以下の表1〜4に示される。
いくつかの実施形態では、投与レジメンは、0日目に一日用量が最低一日用量で被験体に投与される漸増投与スケジュールを含みうる。治療期間内の最終日または他日に、一日用量は、最高一日用量に漸増される。一実施形態では、被験体のタクロリムスレベルが目標レベルに達するまで抗αβTCR抗体またはその抗体フラグメントを被験体に投与する。一実施形態では、最低3日間にわたりまたは被験体のタクロリムスレベルが目標レベルに達するまで抗αβTCR抗体またはその抗体フラグメントを被験体に毎日投与する。一実施形態では、最低4日間にわたりまたは被験体のタクロリムスレベルが目標レベルに達するまで抗αβTCR抗体またはその抗体フラグメントを被験体に毎日投与する。一実施形態では、最低5日間にわたりまたは被験体のタクロリムスレベルが目標レベルに達するまで抗αβTCR抗体またはその抗体フラグメントを被験体に毎日投与する。一実施形態では、最低6日間にわたりまたは被験体のタクロリムスレベルが目標レベルに達するまで抗αβTCR抗体またはその抗体フラグメントを被験体に毎日投与する。一実施形態では、最大10日間にわたり抗αβTCR抗体またはその抗体フラグメントを被験体に毎日投与する。いくつかの実施形態では、タクロリムスの目標レベルは、8〜15ng/mlである。一実施形態では、漸増投与レジメンは、表5および6に例示された以下の投与スケジュールを含みうる。
いくつかの実施形態では、一日用量は、全一日用量であり、一単位用量または複数回用量で、たとえば、合計すると指定の全一日用量に達する2、3、または4単位用量で投与される。
いくつかの実施形態では、自己免疫性疾患、炎症性疾患、または移植組織拒絶の治療方法は、少なくとも3回分の個別用量の抗αβTCR抗体(たとえば、IgGまたはIgM)またはその抗αβTCR抗体フラグメントを、自己免疫性疾患、炎症性疾患、臓器アロ移植片移植レシピエントの被験体に、投与することを含みうる。ただし、少なくとも3回分の個別用量は、連続して3日間にわたり投与され、2回分の用量は、同一日に投与される。他の実施形態では、少なくとも3回分の個別用量は、4回分の個別用量を含むかまたはそれからなる。ただし、少なくとも4回分の個別用量は、連続して4日間にわたりに投与され、同一日に2回分の用量は投与されない。特定の実施形態では、少なくとも3回分の個別用量は、5回分の個別用量を含むかまたはそれからなる。ただし、少なくとも5回分の個別用量は、連続して5日間にわたりに投与され、同一日に2回分の用量は投与されない。他の実施形態では、少なくとも3回分の個別用量は、6〜14回分の個別用量を含むかまたはそれからなる。ただし、少なくとも6〜14回分の個別用量は、連続して6〜14日間にわたりに投与され、同一日に2回分の用量は投与されない。
いくつかの実施形態では、自己免疫性疾患、炎症性疾患、または移植組織拒絶を有する被験体の治療は、少なくとも初回用量の抗αβTCR抗体(たとえば、IgGまたはIgM)または抗αβTCR抗体フラグメントを被験体に投与することを含む。ただし、初回用量は、少なくとも50分間または少なくとも70分間(たとえば、50〜100分間、70〜200分間、70〜180分間、70〜140分間、または70…140…180…200分間)にわたり静脈内投与される。特定の実施形態では、本発明は、少なくとも初回用量の抗αβTCR抗体(たとえば、IgGまたはIgM)または抗αβTCR抗体フラグメントをアロ移植片移植レシピエントに投与することを含む、アロ移植拒絶を遅延または予防する方法を提供する。ただし、初回用量は、0.05mg/分〜0.35mg/分間(たとえば、0.05…0.1…0.2…0.3…0.35mg/分)の速度で静脈内投与される。
他の実施形態では、少なくとも初回用量は、少なくとも3回分の個別用量を含み、3回分の個別用量は、連続して3日間にわたり投与され、3回分の個別用量のそれぞれは、少なくとも50分間…60分間…または少なくとも70分間にわたり静脈内投与される。さらなる実施形態では、初回用量は、実質的に一定の速度(たとえば、0.05mg/分〜0.35mg/分の速度)で静脈内投与される。特定の実施形態では、初回用量は、高流量静脈内に投与される。
抗αβTCR抗体および抗体フラグメントは、非経口、非侵襲的、皮下、局所、腹腔内、肺内、鼻腔内、および病変内の投与を含めて、任意の好適な手段により投与されうる(たとえば、局所免疫抑制治療のために)。非経口注入としては、筋肉内、静脈内、動脈内、腹腔内、皮下の投与が含まれるが、これらに限定されるものではない。それに加えて、抗αβTCR抗体および抗体フラグメントは、とくに漸減用量で、パルス注入により投与されうる。
抗αβTCR抗体および抗体フラグメントは、被験体への投与に好適な医薬組成物中に組込み可能である。たとえば、医薬組成物は、抗αβTCR抗体および抗体フラグメントと、薬学的に許容可能な担体と、を含みうる。本明細書で用いられる場合、「薬学的に許容可能な担体」としては、生理学的に適合性のある、溶媒、分散媒、被覆剤、抗細菌剤および抗菌類剤、等張化剤および吸収遅延剤などが含まれる。薬学的に許容可能な担体の例としては、次のもの、すなわち、水、生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水、デキストロース、グリセロール、エタノールなどのうち1つ以上、さらにはそれらの組合せが含まれる。多くの場合、組成物中に等張化剤、たとえば、糖、ポリアルコール、たとえば、マンニトール、ソルビトール、または塩化ナトリウムを含むことが好ましいであろう。薬学的に許容可能な担体は、抗αβTCR抗体および抗体フラグメントの貯蔵寿命または有効性を向上させる副次量の補助物質、たとえば、湿潤剤または乳化剤、保存剤または緩衝液をさらに含みうる。
本発明に係る組成物は、さまざまな形態をとりうる。こうしたものとしては、たとえば、液体溶液剤(たとえば、注射用および注入用の溶液剤)、ディスパージョン剤またはサスペンジョン剤、錠剤、丸剤、粉末剤、リポソーム剤、坐剤などの液体、半固体、および固体の剤形が含まれる。好ましい形態は、意図される投与形態および治療用途に依存する。典型的な好ましい組成物は、注射用または注入用の溶液剤、たとえば、他の抗体によるヒトの受動免疫に使用されるものに類似した組成物の形態をとる。
治療用組成物は、典型的には、製造条件下および貯蔵条件下で無菌かつ安定である。組成物は、溶液剤、マイクロエマルジョン剤、ディスパージョン剤、リポソーム剤、または高薬剤濃度に好適な他の秩序化構造剤として製剤化可能である。無菌注射用溶液剤は、活性化合物(すなわち、抗体または抗体フラグメント)を必要量で適切な溶媒中に、必要に応じて、以上に列挙した成分の1つまたは組合せと共に、組み込んでから無菌濾過を行うことにより、調製可能である。一般的には、ディスパージョン剤は、ベース分散媒と以上に列挙したものから選ばれる所要の他の成分とを含有する無菌媒体中に活性化合物を組み込むことにより調製される。無菌注射用溶液剤を調製するための無菌粉末剤の場合、好ましい調製方法は、活性成分と任意の追加の所望の成分とからなる粉末を事前に無菌濾過されたその溶液から生成する真空乾燥および凍結乾燥である。溶液剤の適正な流動性は、たとえば、レシチンなどのコーティング剤を用いることにより、ディスパージョン剤の場合には所要の粒子サイズを維持することにより、および界面活性剤を用いることにより、維持可能である。吸収を遅らせる作用剤、たとえば、モノステアリン酸塩およびゼラチンを組成物中に組み込むことにより、注射用組成物を長期間にわたり吸収させるようにすることが可能である。
特定の実施形態では、活性化合物は、化合物の急速放出を防止する担体を用いて調製しうる。たとえば、インプラント、経真皮パッチ、およびマイクロカプセル化送達システムをはじめとする制御放出性製剤である。生分解性生体適合性ポリマー、たとえば、エチレンビニルアセテート、ポリアンヒドリド、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリオルトエステル、およびポリ乳酸を使用することが可能である。そのような製剤の多くの調製方法は、特許化されており、当業者に周知である(たとえば、Sustained and Controlled Release Drug Delivery Systems, J. R. Robinson, ed., Marcel Dekker, Inc., New York, 1978を参照されたい)。
本発明に係る医薬組成物は「治療上有効量」または「予防上有効量」の本発明に係る抗体または抗体フラグメントを含みうる。「治療上有効量」とは、所望の治療結果(たとえば、アロ移植拒絶の予防または低減、自己免疫性および炎症性の症状および病態の治療、軽減、再発または発症の予防)を達成するのに必要な投与および期間で効果的な量を意味する。治療上有効量の抗体または抗体フラグメントは、疾患状態、個体の年齢、性別、および体重、ならびに個体において所望の反応を誘発する抗体または抗体フラグメントが能力などの因子によって異なりうる。また、治療上有効量は、治療上有益な効果が抗αβTCR抗体または抗体フラグメントのいかなる毒性または有害作用をも凌ぐ量である。「予防上有効量」とは、所望の予防結果を達成するのに必要な投与および期間で効果的な量を意味する。典型的には、予防用量は、疾患の前またはより早い段階の被験体で使用されるので、予防上有効量は、治療上有効量よりも少ないであろう。
特定の実施形態では、本発明は、配列番号3、4、および5のポリヌクレオチド配列を含む単離された抗体を含む組成物を提供する。ただし、単離された抗体は、αβTCRに結合する。特定の実施形態では、本発明は、本明細書に記載の自己免疫性の疾患および障害、炎症性の疾患または障害、ならびに移植組織拒絶またはGVHDの治療のための、αβTCRに結合するかつαβTCRへのモノクローナル抗体T10B9.1A−31の結合を競合的に阻害する抗体を含む組成物を提供する。
特定の実施形態では、本発明は、i)TOL101抗体の軽鎖可変領域の3つの相補性決定領域(CDR)の少なくとも1つと、ii)TOL101抗体の重鎖可変領域の3つの相補性決定領域(CDR)の少なくとも1つと、iii)ヒト抗体の定常領域と、を含む単離されたヒト化モノクロナール抗体またはそのフラグメントを含む組成物を提供する。さらなる実施形態では、単離されたヒト化モノクロナール抗体またはそのフラグメントは、i)TOL101抗体の軽鎖可変領域の3つの相補性決定領域(CDR)の少なくとも1つ、少なくとも2つ、または3つすべてと、ii)TOL101抗体の重鎖可変領域の3つの相補性決定領域(CDR)の少なくとも1つ、少なくとも2つ、または3つすべてと、を含む。
いくつかの実施形態では、本発明は、i)TOL101抗体の軽鎖可変領域の3つの相補性決定領域(CDR)、ii)TOL101抗体の重鎖可変領域の3つの相補性決定領域(CDR)と、iii)ヒト抗体の定常領域と、を含む単離されたヒト化モノクロナール抗体またはそのフラグメントを含む組成物を提供する。さらなる実施形態では、ヒト化モノクロナール抗体またはそのフラグメントは、凍結乾燥される。他の実施形態では、組成物はさらに、生理学的耐容性緩衝液を含む。特定の実施形態では、組成物はさらに、次のもの、すなわち、i)無菌水、ii)L−アルギニン(たとえば、約100mM L−アルギニンまたは10〜900mM)、iii)シトレート(たとえば、約5mMシトレート、または約1〜25mMシトレート)、iv)マンニトール(たとえば、4%マンニトール(w/v)または1〜30%w/vマンニトール約)、およびv)TWEENまたは他の非イオン性界面活性剤(たとえば、約0.01%TWEEN80、pH7.0)の少なくとも1つ、2つ、または3つを含むかまたはそれからなる。さらなる実施形態では、ヒト化モノクローナルTOL101抗体またはそのフラグメントは、組成物中に14mg〜52mg、好ましくは28mg〜52mgで存在し、または組成物中に28mg、30mg、32mg、34mg、35mg、36mg、38mg、40mg、42mg、44mg、46mg、48mg、もしくは50mgで存在する。
抗αβTCR抗体の他の使用
本発明に係る抗αβTCR抗体の治療効果は、in vitroアッセイによりおよびin vivo動物モデルを用いて調べることが可能である。たとえば免疫関連疾患または癌の発症および病理発生における本明細書に明記される抗αβTCR抗体の役割をさらに理解するためにおよび候補治療剤の有効性を試験するために、さまざまな周知の動物モデルを使用することが可能である。そのようなモデルのin vivoでの性質により、とくに、ヒト患者における反応が予測されるようになる。免疫関連疾患の動物モデルは、非組換えおよび組換え(トランスジェニック)動物の両方を含む。非組換え動物モデルとしては、たとえば、齧歯動物、たとえば、ネズミモデルが含まれる。そのようなモデルは、標準的技術により、たとえば、皮下注射、尾静脈注射、脾臓留置術、腹腔内留置術、および腎臓カプセル下留置術を用いて、細胞を同種同系マウス中に導入することにより作製可能である。
動物モデル(たとえば、移植片対宿主病)は、公知である。移植片対宿主病は、免疫担当細胞を免疫抑制または免疫寛容の患者に移植した時に起こる。ドナー細胞は、宿主抗原を認識して反応する。反応は、命にかかわる重篤な炎症から下痢や体重減少の軽度の症例までさまざまでありうる。移植片対宿主病モデルは、MHC抗原および副次的移植抗原に対するT細胞反応性を評価する手段を提供する。好適な手順は、Current Protocols in Immunology, Unit 4.3に詳述されており、前記手順は、その全体が参照により本明細書において援用される。
皮膚アロ移植拒絶の動物モデルは、in vivoで組織破壊を媒介するT細胞の能力を試験する手段であり、抗ウイルス免疫および抗腫瘍免疫におけるその役割の指標および尺度となる。最も一般的な許容されたモデルでは、ネズミ尾皮膚移植片が使用される。皮膚アロ移植拒絶は、抗体ではなく、T細胞、ヘルパーT細胞、およびキラーエフェクターT細胞により媒介されることが、反復実験により示された。(Auchincloss, H. Jr. and Sachs, D. H., Fundamental Immunology, 2nd ed., W. E. Paul ed., Raven Press, NY, 1989, 889-992)。好適な手順は、Current Protocols in Immunology, Unit 4.4に詳述されている。本発明に係る組成物の試験に使用可能な他の移植拒絶モデルは、Tanabe, M. et al., Transplantation, (1994) 58:23およびTinubu, S. A. et al., J. Immunol., (1994) 4330-4338に記載されている同種異系心臓移植モデルである。
遅延型過敏症の動物モデルでは、さらに細胞媒介性免疫機能のアッセイも提供される。遅延型過敏反応は、炎症がピークに達するのが抗原チャレンジ後一定期間を経過した後であることにより特徴付けられるT細胞媒介in vivo免疫反応である。これらの反応はまた、多発性硬化症(MS)や実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE、MS用モデル)などの組織特異的自己免疫性疾患でも起こる。好適な手順は、Current Protocols in Immunology, Unit 4.5に詳述されている。
関節炎の動物モデルは、コラーゲン誘発関節炎である。このモデルは、ヒト自己免疫性関節リウマチの臨床的、組織学的、および免疫学的な特性を共有し、ヒト自己免疫性関節炎に対する許容可能なモデルである。マウスおよびラットモデルは、滑膜炎、軟骨および軟骨下骨の糜爛により特徴付けられる。本発明に係る抗αβTCR抗体は、Current Protocols in Immunology, above, units 15.5に記載のプロトコルを用いて自己免疫性関節炎に対する活性に関して試験可能である。Issekutz, A. C. et al., Immunology, (1996) 88:569に記載のCD18およびVLA−4インテグリンに対するモノクローナル抗体を用いたモデルも参照されたい。
オボアルブミンで動物を感作してから、エアロゾルにより送達される同一のタンパク質で動物をチャレンジすることにより、抗原誘発性気道過反応性肺好酸球増加症および炎症が引き起こされる喘息モデルが記載されている。いくつかの動物モデル(モルモット、ラット、非ヒト霊長動物)は、エアロゾル抗原でチャレンジするとヒトにおいてアトピー性喘息に類似した症状を示す。ネズミモデルは、ヒト喘息の特徴の多くを有する。喘息の治療における活性および有効性に関して本発明に係る組成物を試験する好適な手順は、Wolyniec, W. W. et al., Am. J. Respir. Cell Mol. Biol., (1998) 18:777およびそこに引用されている参照文献に記載されている。
そのほかに、本発明に係る抗αβTCR抗体は、乾癬様疾患の動物モデルで試験可能である。本発明に係る抗αβTCR抗体は、Schon, M. P. et al., Nat. Med., (1997) 3:183に記載のscid/scidマウスモデルで試験可能である。このモデルでは、マウスは、乾癬に類似した病理組織学的皮膚病変を示す。他の好適なモデルは、Nickoloff, B. J. et al., Am. J. Path., (1995) 146:580に記載されるように作製されたヒト皮膚/scidマウスキメラである。
(TCR+)T細胞免疫反応の選択的阻害方法
いくつかの実施形態では、本発明は、(αβTCR+)T細胞免疫反応を阻害または選択的に阻害する方法を提供する。本明細書で用いられる場合、「選択的に阻害する」または「阻害する」という用語は、一般的には、本発明に係る抗αβTCR抗体またはその抗体フラグメントへのαβTCR+T細胞の暴露後にαβTCR+T細胞の少なくとも1つの活性化経路が阻害されることを意味する。また、「選択的に阻害する」または「阻害する」とは、増殖やサイトカイン産生などのT細胞活性化の下流効果が阻害されることも意味しうる。
以上に記載したように、(TCR+)T細胞免疫反応の選択的阻害は、炎症誘発性サイトカイン、たとえば、腫瘍壊死因子−α(TNF−α)、インターフェロン−γ(IFN−γ)、またはSTAT活性化に関連付けられるインターロイキン(たとえば、IL−2、IL−4、IL−5、IL−6、IL−9、および/またはIL−13)の増殖および/または産生の低減または完全休止をもたらしうる、αβTCR+T細胞(たとえばヒトCD4+Thelper or memory細胞またはCD8+Teffector細胞)中のシグナル伝達成分の低減または抑制を含む。本明細書で利用される種々の治療方法では、治療上有効量の抗αβTCR抗体またはその抗体フラグメントを投与すると、MHCとの関連でかつ抗αβTCR抗体またはその抗体フラグメントの不在下でコグネイト抗原に暴露されたTCR+T細胞の活性化と比較して前記TCR+T細胞からの炎症誘発性サイトカインの発現または放出が低減される。さらに、選択的に阻害すると、枯渇するのではなく単にCD3の発現を消失するにすぎず、引き続きCD2を発現するαβTCR+T細胞を生じる(たとえば、アロ移植片移植レシピエントのCD3+カウント数を25細胞/mm3未満にするには、抗αβTCR抗体または抗αβTCR抗体フラグメントの少なくとも3回の投与で十分である)。したがって、本発明に係る抗αβTCR抗体またはそのフラグメントは、血流からT細胞を枯渇させて重度免疫無防備被験者をもたらしうるOKT3などの他の抗T細胞抗体とは異なり、T細胞枯渇を引き起こすことなく炎症誘発性サイトカインの増殖および産生をはじめとするT細胞活性化を抑制する。
アッセイ
いくつかの実施形態では、抗αβTCR抗体およびその抗体フラグメントは、抗αβTCR抗体を模倣して抗αβTCRに結合しTCRの機能不活性化を引き起こす治療用化合物を同定するスクリーニングアッセイに使用可能である。
一実施形態では、本方法は、TCR+T細胞活性化を抑制、抑圧、不活性化/脱活性化する治療用化合物を同定するアッセイ工程を含む。本方法は、TCR−抗αβTCR複合体を形成するように操作可能な条件下でαβT細胞レセプター(αβTCR)またはそのフラグメントと抗αβTCR抗体またはその抗体フラグメントとを接触させる工程を含む。アッセイは、アッセイ条件がTCR−抗αβTCR抗体複合体の形成を助長するかぎり、任意のアッセイ反応容器内、ウェル内、チューブ内、または固体基材上で行うことが可能である。いくつかの実施形態では、試薬は、適切な緩衝液中に懸濁された液体形態で添加される。αβT細胞レセプターは、フローサイトメトリー細胞分取器を利用して選別されたヒトαβT細胞から、単離または精製することが可能である。
一般的には、第2の工程は、TCR−抗αβTCR複合体と候補化合物とを接触させることを含む。候補化合物としては、核酸、ペプチド、タンパク質(本明細書に記載の抗体を含む)、糖、ポリサッカリド、糖タンパク質、脂質、および小有機分子が含まれるが、これらに限定されるものではない。「候補化合物」は、スクリーニングアッセイで試験可能な化合物である。一実施形態では、候補化合物は、抗体またはその抗体フラグメントを含みうる。候補化合物または陰性対照のタンパク質もしくは抗体(たとえば、ウシ血清アルブミンもしくは抗BSA抗体)の不在下と比較して、候補化合物がαβT細胞レセプターに特異的に結合した場合、その候補化合物は、同定された化合物のサイトカイン産生の低減または休止をはじめとするαβT細胞レセプター脱活性化を実証可能なアッセイを用いて検証されうる「リード化合物」であると言えるか、あるいは自己免疫性、炎症性、または組織拒絶性の疾患または病態、たとえば、I型糖尿病および自己免疫性または炎症性の神経変性疾患、たとえば、多発性硬化症、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症の治療に好適なαβT細胞レセプター脱活性化活性を有する潜在的または実際的な治療剤または活性剤として使用可能である。「小有機分子」という用語は、典型的には、医薬で一般に使用される有機分子に匹敵するサイズの分子を意味する。小有機分子としては、一般的には、生体高分子(たとえば、タンパク質、核酸など)は除外される。好ましい小有機分子は、約5,000Daまで、より好ましくは2,000Daまで、最も好ましくは約1、000Daまでの範囲内のサイズである。
従来方式では、有用な性質を有する新しい化学物質は、いくつかの望ましい性質または活性を有する候補化合物を同定することと、候補化合物の変異体を形成することと、それらの変異体化合物の性質および活性を評価することと、創製される。しかしながら、創薬のすべての側面で時間スケールを短縮することが、現在の傾向である。迅速かつ効率的に多くを試験する能力があることから、高スループットスクリーニング(HTS)方法が従来のリード化合物同定法と置き換わりつつある。
いくつかの実施形態では、高スループットスクリーニング方法は、多数の潜在的治療用化合物(候補化合物)を含有するライブラリーを提供することを含む。次に、そのような「コンビナトリアル化学ライブラリー」を本明細書に記載されているような1種以上のアッセイでスクリーニングして、所望の特性活性を呈するライブラリーメンバー(特定の化学種またはサブクラス)を同定する。
コンビナトリアル化学ライブラリーまたは化学ライブラリーとは、化学的合成または生物学的合成のいずれかにより、試薬などのいくつかの化学的「ビルディングブロック」を組み合わせることにより、生成されたさまざまな化学化合物のコレクションのことである。たとえば、ポリペプチド(たとえば、ムテイン)ライブラリーなどのリニアコンビナトリアル化学ライブラリーは、所与の化合物長さ(すなわち、ポリペプチド化合物中のアミノ酸の数)に対してできるかぎりの方法で一群の化学的ビルディングブロックと呼ばれるアミノ酸を組み合わせることにより形成される。化学的ビルディングブロックのそのようなコンビナトリアル混合を介して、何百万もの化学化合物を合成することが可能である。たとえば、100個の交換可能な化学的ビルディングブロックの系統的コンビナトリアル混合により、10000万個の四量体化合物または100億個の五量体化合物の理論的合成か可能になる。
コンビナトリアル化学ライブラリーの作製は、当業者に周知である。そのようなコンビナトリアル化学ライブラリーとしては、ペプチドライブラリー(たとえば、米国特許第5,010,175号を参照されたい)が含まれるが、これに限定されるものではない。ペプチド合成は、なんら想定される唯一の手法というわけではないが、本発明で使用することが意図される。化学的多様性ライブラリーを作製するための他の化学を使用することも可能である。そのような化学としては、次のものが挙げられるが、これらに限定されるものではない。ペプトイド(PCT国際公開第91/19735号、1991年12月26日)、コードペプチド(PCT国際公開第93/20242号、1993年10月14日)、ランダムバイオオリゴマー(PCT国際公開第92/00091号、1992年1月9日)、ベンゾジアゼピン(米国特許第5,288,514号)、ダイバーソマー、たとえば、ヒダントイン、ベンゾジアゼピン、およびジペプチド、ビニロガスポリペプチド、β−D−グルコース足場を有する非ペプチド性ペプチド模倣体、低分子化合物ライブラリーの類似の有機合成、オリゴカルバメート、および/またはペプチジルホスホネート。一般的には、核酸ライブラリー(たとえば、Strategene, Corp.)、ペプチド核酸ライブラリー(たとえば、米国特許第5,539,083号を参照されたい)、抗体ライブラリー(たとえば、PCT/US96/10287号を参照されたい)、炭水化物ライブラリー(たとえば、米国特許第5,593,853号を参照されたい)、および小有機分子ライブラリー(たとえば、ベンゾジアゼピン、イソプレノイド、米国特許第5,569,588号、チアゾリジノンおよびメタチアザノン、米国特許第5,549,974号、ピロリジン、米国特許第5,525,735号、および同第5,519,134号、ならびにモルホリノ化合物、米国特許第5,506,337号、およびベンゾジアゼピン、同第5,288,514号などを参照されたい)を参照されたい。
コンビナトリアルライブラリーの作製装置は、市販されている(たとえば、357 MPS, 390 MPS, Advanced Chem Tech, Louisville Ky.、Symphony, Rainin, Woburn, Mass.、433A Applied Biosystems, Foster City, Calif、9050 Plus, Millipore, Bedford, Mass.を参照されたい)。また、いくつかの周知のロボットシステムも溶相化学用に開発されてきた。これらのシステムとしては、武田薬品工業株式会社(日本国大阪)により開発された自動合成装置のような自動ワークステーション、および化学者により行われる手動合成操作を模倣するロボットアームを利用した多くのロボットシステム(Zymate II, Zymark Corporation, Hopkinton, Mass.、Orca, Hewlett-Packard, Palo Alto, Calif.)、および開始から終了まで576〜9,600の同時反応を行うことが可能な超ハイスループット合成装置Venture(商標)プラットフォーム(Advanced ChemTech, Inc. Louisville, KY, USAを参照されたい)が含まれるが、これらに限定されるものではない。以上の装置はいずれも、本発明に使用するのに好適である。本明細書で考察されるように操作可能になるようなこれらの装置に対する変更(もしあれば)の特質および実現は、関連技術分野の当業者には明らかであろう。そのほかに、多くのコンビナトリアルライブラリーが市販されている(たとえば、ComGenex, Princeton, N.J.、Asinex, Moscow, Ru、Tripos, Inc., St. Louis, Mo.、ChemStar, Ltd, Moscow, RU、3D Pharmaceuticals, Exton, Pa.、Martek Biosciences, Columbia, Md.などを参照されたい)。
いくつかの実施形態では、アッセイ方法の第3の工程は、前記TCRまたはそのフラグメントへの抗αβTCR抗体またはその抗体フラグメントの結合をモジュレートする前記候補化合物能力を決定することを含む。この場合、前記TCRまたはそのフラグメントへの前記抗αβTCR抗体またはその抗体フラグメントの結合をモジュレートすることおよび休止T細胞を活性化できないことは、前記候補化合物が治療用化合物であることの指標となる。候補化合物がTCRまたはそのフラグメントへの抗αβTCR抗体またはその抗体フラグメントの結合をモジュレート可能であるかの決定は、多くの方法で達成可能である。抗αβTCR抗体またはその抗体フラグメントとTCRまたはそのフラグメントとの結合のモジュレーションは、競合結合アッセイにより達成可能である。そのようなアッセイでは、TCRは、固体基材、たとえば、96ウェルELISAプレートの表面上に接着可能である。さまざまな量の抗αβTCR抗体またはその抗体フラグメントを対照サンプル中のウェルに添加可能である。試験サンプルでは、さまざまな量の候補化合物が抗αβTCR抗体またはその抗体フラグメントの添加と同時にまたそれに続いて添加される例外は、対照反応と等価な条件で行われる。次いで、試験および対照のウェルを洗浄して結合されていない抗αβTCR抗体またはその抗体フラグメントを除去する。次いで、結合された抗αβTCR抗体またはその抗体フラグメントの量は測定し、対応する対照サンプルと比較することが可能である。候補化合物がTCRへの抗αβTCR抗体またはその抗体フラグメントの結合を競合的に阻害した場合、候補化合物が抗CD3抗体の存在下で休止αβT細胞を活性化可能であるかを調べるために、候補化合物をさらに試験する。これは、1つ以上のαβTCR+T細胞と、1つ以上のαβTCR+T細胞上のCD3に結合するように機能可能な抗CD3抗体またはスーパー抗原と、を接触させることと、αβTCRまたはそのフラグメントへの抗αβTCR抗体またはその抗体フラグメントの結合をモジュレートする候補化合物を添加することと、試験候補化合物の存在または不在で生じるαβTCR T細胞活性化の程度または速度を比較することと、により実施可能である。候補化合物が、候補化合物の不在下で生じるαβTCR+T細胞活性化の程度または速度と比較して、抗CD3抗体の存在下でαβTCR+T細胞活性化の程度または速度を増加させない場合、候補化合物は治療用化合物である。
実施例
以下の実施例は、本発明の特定の例示的実施形態を提供するために示されたものであり、その範囲を限定することを意図するものではない。
実施例1.TOL101またはキメラTOL101による治療およびそれらにより治療されたヒトの評価
TOL101は、ハイブリドーマTOL101MCBにより産生され、ヒトαβTCRに結合するネズミIgMモノクローナル抗体(特定的にはIgMκ)である。
例示的なTOL101およびTOL101キメラ抗体の製剤
TOL101およびキメラTOL101は、IV投与前に注射用無菌水(SWFI)中に再構成してから生理食塩水中に希釈すべく製剤化される凍結乾燥生成物として作製可能である。バイアル入り生成物は、50〜150mMのL−アルギニン(たとえば、50mM…75mM…100mM…125mM…150mM)、1〜10mMのシトレート(たとえば、1.0mM…2.0mM…3.0mM…4.0mM…5.0mM…6.0mM…7.0mM…8.0mM…9.0mM…10mM)、2〜8%のマンニトール(w/v)(たとえば、2%…3%…4%…5%…6%…7%…または8%)、0.005〜0.05%のTween 80、pH7.0(たとえば、0.005%…0.01%…0.02%…0.03%…または0.05%)からなる最終製剤を提供するように3mLのSWFI中に再構成可能である。
TOL101およびキメラTOL101の作製
TOL101およびキメラTOL101は、静脈内(IV)投与に供すべく再構成および希釈が可能である。TOL101/キメラTOL101バイアル(たとえば、14mgの凍結乾燥抗体を有する)は、真空下で密閉可能である。TOL101およびキメラTOL101は、以下の工程に従って再構成可能である。
1. 必要とされるバイアルの数を計算する(たとえば、0.28mg、1.4mg、7mg、または14mgの用量ではバイアル1つ、28mgの用量ではバイアル2つなど)。
2. 再構成前に各バイアルを室温に達するようにする。
3. 無菌でキャップを除去してゴム栓を露出させる。
4. 殺菌剤またはアルコールスワブで栓を清浄化する。
5. 皮下注射針をバイアルに挿入してバイアルの内圧を解放する。
6. 無菌で第2の針を用いて3mLのSWFIで各バイアルを再構成してから両方の針を除去する。
7. バイアルを手で45度の角度で穏やかに60秒間転動させる。バイアルの上端が材料に接触しない状態を確保する。好ましくは、再構成中、バイアルを振盪したり逆転させたりしない。材料が起泡しないようにする。
8. 気泡が排除されるまで、擾乱させずにバイアルを3分間静置する。そして、
9. 内容物が均一になるまで、2回目としてバイアルを手で60秒間転動させる。
微粒子状物質がないか再構成溶液を検査すべきである。微粒子状物質が完全に消失しない場合、バイアルは、偏析しているので使用すべきでない。再構成されたTOL101またはキメラTOL101は、正常生理食塩水(NS)を用いてIV注入バッグ(ポリビニルクロリド、PVCバッグ)中に1バイアルあたり50mLに希釈可能である(以下の表7を参照されたい)。バイアルの一部を使用する場合(すなわち、0.28mg、1.4mg、または7mg)、以上に記載したように全バイアルを3mLのSWFIで再構成すべきであり、そして適切な体積(すなわち、それぞれ、0.06mL(60μL)、0.3mL、または1.5mL)の再構成されたTOL101/キメラTOL101をIV注入バッグに移すべきである。注入前、IVバッグを穏やかに逆転させて校正された注入ポンプを介して溶液を混合すべきである。
例示的な注入速度
0.28mg用量に対しては0.004mg/分、1.4mg用量に対しては0.02mg/分、7および14mg用量に対しては0.1mg/分、および28mg用量に対しては0.2mg/分、および42mg以上の用量に対しては0.3mg/分の一定速度で、特定の用量のTOL101またはキメラTOL101を低速静脈内注入により投与することが可能である(下記表7参照)。したがって、この実施例では、TOL101またはキメラTOL101は、いずれの用量でも70分間未満で投与されることはない。任意の中間用量を試験する場合、より低速度を使用することが可能である(たとえば、28mg用量に対して0.2mg/分の速度を使用し、かつ42mg用量に対して0.3mg/分の速度を使用し、かつ中間用量を試験する場合、0.2mg/分の速度で35mg用量を投与することが可能である)。TOL101またはキメラTOL101は、好ましくは高流量静脈中に投与される。注入の終了時、約25mLのNSでIV系を徐々にフラッシングすべきである。
実施例2.ヒト移植患者の治療
この実施例では、TOL101モノクローナル抗体によるヒト腎臓移植患者の治療および種々の時間点でのCD3カウント数に関するこれらの患者が試験について説明する。T細胞の枯渇および/またはモジュレーション(CD3バイオマーカーにより決定される)は、急性拒絶を予防するので、臓器移植の初期段階で重要である。それに加えて、とくに腎臓移植の場合、移植臓器に対して毒性を有することが知られている維持免疫抑制剤の遅延適用もまた可能である。医者の経験により、50(CD3+カウント数/mm3)は、最良の長期転帰を提供するようにT細胞を低減する必要な上側閾値に対応することが決定された。この実施例では、以下の表8のスケジュールに従って少なくとも6日間にわたり腎臓移植患者に注入を行った。各コホート2名の患者で3つの異なるコホートを試験した。試験投与量は、0.28mg、1.4mg、7.0mgのTOL101抗体であった。これらの用量を70分間にわたり静脈内に与えた。初回用量を移植手術時に与えて、合計5日間にわたり各患者に毎日1回投与を行った。被験体を麻酔した後かつクランプを解除する前から開始して、初回用量を手術室で与えた(アロ移植片の再灌流)。
TOL101の最初の2回の投与前にジフェンヒドラミン(50mgIV)を投与し、TOL101の最初の3回の投与前に静脈内ステロイドを投与した。後続投与のTOL101は、経口ステロイド投与の後に注入した。また、移植後の最初6日以内に開始して試験の持続期間にわたりタクロリムスを投与した。タクロリムスは、移植後の最初の1ヶ月間にわたり8〜15ng/mLの治療域に達してそれを維持するようにかつその後は6〜12ng/mLの治療域を維持するように設計された用量で投与された。移植日または翌日かつ試験の持続期間にわたり、1000mgBIDの最大用量でミコフェノール酸モフェチルを投与した。
試験の結果から、TOL101の投与は、腎臓移植患者においてCD3+T細胞のカウント数を用量依存的に低減することが示された。
実施例3.TOL101はT細胞を選択的に阻害する
抗αβTCR抗体TOL101がin vitroでT細胞の増殖を抑制するかを調べるために、一方向MRL反応でTOL101の増殖効果を調べる実験を行った。3名の健常ドナーのバフィーコートからPBMCを単離した。リンパ球を富化すべく、バフィーコートをFicolグラジエント上に層状化した。次いで、3000radsでスティミュレーター細胞に照射した。スティミュレーター細胞およびレスポンダー細胞を2:1の比((4×105)スティミュレーター細胞対2×105レスポンダー細胞)で6日間共培養した。細胞の組合せは次のとおりであった。被験体No.1からの1単位の血液+被験体No.2からの1単位の照射された血液、被験体No.1からの1単位の血液+被験体No.3からの1単位の照射された血液、被験体No.2からの1単位の血液+被験体No.1からの1単位の照射された血液、被験体No.2からの1単位の血液+被験体No.3からの1単位の照射された血液、被験体No.3からの1単位の血液+被験体No.1からの1単位の照射された血液、被験体No.3からの1単位の血液+被験体No.2からの1単位の照射された血液。培養時、TOL101を9μg/mLの濃度で添加した。トリチウム化チミジンH3を培養物に5日間添加し、6日目にプレートから採取してカウントした。図1は、2つの独立した実験の代表的データを示している。***=p>.001。図1に示されるように、TOL101は、対照と比較して、T細胞の増殖を有意に抑制することから、アロ免疫反応の阻害が直接示唆される。
他の実験では、TOL101は、in vitroMLR反応の最初の24時間の間とくに効果的であることが示された。3名の健常ドナーのバフィーコートからPBMCを単離した。リンパ球を富化すべく、バフィーコートをFicolグラジエント上に層状化した。次いで、3000radsでスティミュレーター細胞に照射した。スティミュレーター細胞およびレスポンダー細胞を2:1の比(4×105スティミュレーター細胞対2×105レスポンダー細胞)で6日間共培養した。細胞の組合せは次のとおりであった。被験体No.1からの1単位の血液+被験体No.2からの1単位の照射された血液、被験体No.1からの1単位の血液+被験体No.3からの1単位の照射された血液、被験体No.2からの1単位の血液+被験体No.1からの1単位の照射された血液、被験体No.2からの1単位の血液+被験体No.3からの1単位の照射された血液、被験体No.3からの1単位の血液+被験体No.1からの1単位の照射された血液、被験体No.3からの1単位の血液+被験体No.2からの1単位の照射された血液。0時間、24時間、48時間、および72時間の時間でTOL101を添加した。添加されたTOL101の濃度は、0.9μg/mL、9μg/mL、および90μg/mLであった。トリチウム化チミジンH3を培養物に5日間添加し、6日目にプレートから採取してカウントした。図2に示されるように、実線は、9μg/mLで添加されたCD3抗体(OKT3)を含む培養物の陽性対照増殖に対応する。破線は、TOL101無添加の培養物からの増殖に対応する。**=p>.05。図2からわかるように、増殖の抑制は、0時間〜24時間の間で最大が観察された。
他の実験では、TOL101を液体溶液に添加するかまたは表面上にプレーティングして、T細胞増殖に及ぼすTOL101の架橋の影響を対照活性化抗体抗CD3(OKT3)と比較して測定した。3名の健常ドナーのバフィーコートからPBMCを単離した。リンパ球を富化すべく、バフィーコートをFicolグラジエント上に層状化した。リンパ球を2×105細胞/ウェルの密度で培養した。可溶性TOL101(9、0.9μg/mL)またはプレート結合TOL101(90、9、0.9μg/mL)のいずれかと共に細胞を培養し、一方、陽性対照としてCD3抗体(OKT3 9μg/mL)またはPMA/イオノマイシンと共に他の細胞を培養した。トリチウム化チミジンH3を培養物に5日間添加し、6日目にプレートから採取してカウントした。図3に示されるように、実線は、バックグラウンド増殖に対応する。**=p>.05、***=p>.001。抗CD3、T10B9、および他の抗TCR抗体(Brown et al. Clinical Transplantation 10; 607-613 [1996])と異なり、TOL101の架橋は、90μg/mLの最高濃度でさえも、マイトジェン性状態(すなわち、T細胞の増殖の誘発)を引き起こさない。これは、驚くべきことであり、臨床被験体におけるTOL101の安全な利用の可能性を反映するので、臨床適合性である。
他の実験では、抗CD3で刺激されたT細胞に対するTOL101の抑制的活性は調べた。T細胞レセプター(TCR)の認識機序は、ペプチドとMHCとの複合体に関与するα鎖およびβ鎖である。関与する遺伝的および細胞的機序は、何百万もの異なるα鎖およびβ鎖の形成をもたらして、広範な病原体範囲を提供する。TCRの非多型成分、すなわち、CD3、γ、δ、ε、およびTCRζ鎖二量体は、α鎖およびβ鎖の認識成分をと相互作用する。TCRのα鎖およびβ鎖に対する公知の細胞内シグナル伝達成分は、存在しない。もっと正確に言えば、CD3は、T細胞を活性化するためにTCRによるシグナル伝達機構の使用を含有すると考えられる。たとえば、CD3分子は、適切なTCR発現に必要とされるだけでなく、さらには、これらの非多型分子のそれらの細胞内/サイトゾル成分中にユニークなモチーフITAM(免疫レセプターベースチロシン活性化モチーフ)を含有する、不可欠なTCR成分である。CD3内に含有されるこれらのITAMSは、T細胞を活性化するためにTCRにより使用されるシグナル伝達機構である。αβTCRの活性化がCD3媒介シグナル伝達をもたらすプロセスは、不明である。しかしながら、αβTCRシグナルはCD3を介して起こるに違いないと、これまで考えられていた。したがって、抗CD3抗体の使用により、αβTCR活性化シグナルの必要性が回避される。この実施例では、3名の健常ドナーのバフィーコートからPBMCを単離した。リンパ球を富化すべく、バフィーコートをFicolグラジエント上に層状化した。リンパ球を2e5細胞/ウェルの密度で培養した。可溶性TOL101(9、0.9μg/mL)と共にまたは陽性対照として抗CD3(OKT3 9、0.9、0.09μg/mL)またはPMA/イオノマイシンと共に、細胞を培養した。24時間で、TOL101(9μg/mL)を一群のOKT3刺激細胞に添加した。トリチウム化チミジンH3を培養物に5日間添加し、6日目にプレートから採取してカウントした。図4に示されるように、驚くべきことに、TOL101は、増殖を引き起こさないだけではなく、in vitroでT細胞の抗CD3誘発増殖を改善または逆転させた。*=p>.01、**=p >.05、***=p>.001。
他の実験では、混合リンパ球の集団中でTOL101の結合の特異性を測定した。3名の健常ドナーのバフィーコートからPBMCを単離した。リンパ球を富化すべく、バフィーコートをFicolグラジエント上に層状化した。細胞をヒトAB血清により4℃で30分間ブロックした。次いで、細胞を4℃で次の抗体で30分間染色した。TOL101+抗マウスIgM、CD3、CD4、CD8、CD2、CD69、およびCD44。細胞を洗浄し、そしてBD FACS Canto IIで試験した。Flow Joによるデータ解析。図5に示されるデータは、6名の患者に対応する。図5に示されるように、染色プロファイルは、T細胞に対するTOL101の特異性を示すだけではなく、TOL101が活性化状態に関係なくT細胞に結合することをも例示する(たとえば、活性化およびナイーブT細胞の指標となるそれぞれCD62L高および低のエクスプレッサーに結合する)。
他の実験では、TOL101は、図6に示されるように活性化T細胞に結合することが示された。簡潔に述べると、3名の健常ドナーのバフィーコートからPBMCを単離した。リンパ球を富化すべく、バフィーコートをFicolグラジエント上に層状化した。次いで、3000radsでスティミュレーター細胞に照射した。スティミュレーター細胞およびレスポンダー細胞を2:1の比(4×105スティミュレーター細胞対2×105レスポンダー細胞)で6日間共培養した。細胞の組合せは、次のとおりであった。被験体No.1からの1単位の血液+被験体No.2からの1単位の照射された血液、被験体No.1からの1単位の血液+被験体No.3からの1単位の照射された血液、被験体No.2からの1単位の血液+被験体No.1からの1単位の照射された血液、被験体No.2からの1単位の血液+被験体No.3からの1単位の照射された血液、被験体No.3からの1単位の血液+被験体No.1からの1単位の照射された血液、および被験体No.3からの1単位の血液+被験体No.2からの1単位の照射された血液。細胞を培養の6日目に分析した。細胞をヒトAB血清と共に4℃で30分間30分間ブロックし、次いで、次の抗体で4℃で染色した。TOL101+抗マウスIgM、CD3、CD4、CD8、CD2、CD69、およびCD44。細胞を洗浄し、そしてBD FACS Canto IIで試験した。データをFlow Joにより解析した。試験の結果から、T細胞に対するTOL101の特異性がさらに確認される。驚くべきことに、T細胞活性化後、TCRがダウンレギュレートされると考えられる事実にもかかわらず、TOL101は、活性化T細胞に結合した。したがって、他のT細胞抗体と異なり、TOL101は、活性化状態のいかんを問わずT細胞に結合する能力を有する。
TOL101が活性化T細胞に結合することを示すことに加えて、TOL101がT細胞の特定のメモリーサブセットに結合可能であるかを調べるために、さらなる実験を行った。3名の健常ドナーのバフィーコートからPBMCを単離した。リンパ球を富化すべく、バフィーコートをFicolグラジエント上に層状化した。細胞をヒトAB血清により4℃で30分間ブロックした。次いで、細胞を4℃で次の抗体で30分間染色した。TOL101+抗マウスIgM、CD3、CD4、CD8、CD2、CD62L、CD45RA、CD45RO。細胞を洗浄し、そしてBD FACS Canto IIで試験した。データをFlow Joにより解析した。このデータは、2つの独立した実験の6名の患者に対応する。図7に示されるように、抗αβTCR抗体TOL101は、CD4およびCD8T細胞メモリーサブセットの両方に結合する。
メモリーサブセットへのTOL101の結合をさらに調べるために、他の実験では、PBMCを3名の健常ドナーのバフィーコートから単離した。リンパ球を富化すべく、バフィーコートをFicolグラジエント上に層状化した。次いで、3000radsでスティミュレーター細胞に照射した。スティミュレーター細胞およびレスポンダー細胞を2:1の比(4×105スティミュレーター細胞対2×105レスポンダー細胞)で6日間共培養した。細胞の組合せは、次のとおりであった。被験体No.1からの1単位の血液+被験体No.2からの1単位の照射された血液、被験体No.1からの1単位の血液+被験体No.3からの1単位の照射された血液、被験体No.2からの1単位の血液+被験体No.1からの1単位の照射された血液、被験体No.2からの1単位の血液+被験体No.3からの1単位の照射された血液、被験体No.3からの1単位の血液+被験体No.1からの1単位の照射された血液、および被験体No.3からの1単位の血液+被験体No.2からの1単位の照射された血液。細胞を培養の6日目に分析した。細胞をヒトAB血清により4℃で30分間ブロックした。次いで、細胞を4℃で次の抗体で30分間染色した。TOL101+抗マウスIgM、CD3、CD4、CD8、CD2、CD62L、CD45RA、CD45RO。細胞を洗浄し、そしてBD FACS Canto IIで試験した。Flow Joによるデータ解析。図8に示されるように、TOL101は、一方向MLR反応後、PBMCのメモリーT細胞サブセットおよび活性化T細胞サブセットに結合する。
他の実験では、抗CD3抗体を用いてすでに活性化された細胞でTOL101の結合特性を測定した。3名の健常ドナーのバフィーコートからPBMCを単離した。リンパ球を富化すべく、バフィーコートをFicolグラジエント上に層状化した。抗CD3(9μg/mL)または、PMI/イオノマイシンを培養時に各ドナーの細胞に添加した。細胞を培養の6日目に分析した。細胞をヒトAB血清で4℃で30分間ブロック化し、TOL101で染色した。細胞を洗浄し、BD FACS Canto IIで試験し、Flow Joによりデータを解析した。図9に示されるように、TOL101は、CD3活性化細胞およびPMA/イオノマイシン活性化細胞の両方により高度に結合した。
他の実験では、主要な活性化およびシグナル伝達成分ZAP70のリン酸化に及ぼす影響を調べるために、TOL101を試験した。次の条件に従って、3名の健常ドナーから採取した新鮮血を刺激して活性化後のリン酸化を分析した。無刺激:37℃で15分、抗CD3→TOL101:抗CD3 4℃で15分、aIG 37℃で15分、TOL101 4℃で15分、aIgM 37℃で15分、架橋抗CD3:抗CD3 4℃で15分、aIG 37℃で15分、抗CD3:抗CD3 37℃で15分、架橋TOL101:TOL101 4℃で15分、aIgM 37℃での15分、およびTOL101:TOL101 37℃で15分。抗体を9μg/mLの濃度で添加した。刺激後、細胞を固定し、透過化し、T細胞抗体カクテルおよび抗pZap70(BD Phosflow T cell Activation Kit-Human)で染色した。染色の4時間以内で細胞をBD FACS Canto IIで解析した。Zap70リン酸化および生の蛍光強度値のヒストグラムを図10に示す。抗CD3に暴露された24時間後にTOL101に暴露されたT細胞ではZAP70リン酸化は低減される。また、ZAP70のリン酸化の生の値を図10に示す。以上に記載したように、TCR媒介T細胞活性化は、ITAM媒介下流シグナル伝達の結果である。ZAP−70(タンパク質チロシンキナーゼ)は、CD3ITAMドメインに結合するSRC相同性2ドメイン(SH2)を含有する。ZAP70の初期活性化に続いて、アダプタータンパク質および酵素のリン酸化が起こり、最終的には、転写因子、たとえば、活性化細胞の核因子(NFAT)、FOS、JUN、および核転写因子kB(NFKB)の活性化が起こる。理論により拘束することを望むものではないが、TOL101が抗CD3誘発リン酸化ZAP−70を低減できることから、TOL101がそのエピトープに特異的に結合することにより、おそらく、プロテインチロシンホスファターゼ、たとえば、PTPN22、CD45、CD148、SHP−1、およびSITを介して、またはCD3を必要とすることなくαβTCRを細胞シグナリングカスケードにリンクする未知アダプタータンパク質を介して、T細胞ダウンレギュレーションがもたらされることが示唆される。なんら特定の理論により拘束することを望むものではないが、このタンパク質は、B細胞レセプターシグナル伝達におけるCD81およびCD19と同様に作用しうる。
他の実験では、主要なシグナル伝達成分ERKのリン酸化に及ぼす影響を調べるために、TOL101を試験した。次の条件下で、健常ドナーから採取した新鮮血を刺激して活性化後のリン酸化を分析した。無刺激:37℃で15分、抗CD3→TOL101:抗CD3 4℃で15分、aIG 37℃で15分、TOL101 4℃で15分、aIgM 37℃で15分、架橋抗CD3:抗CD3 4℃で15分、aIG 37℃で15分、抗CD3:抗CD3 37℃で15分、架橋TOL101:TOL101 4℃で15分、aIgM 37℃での15分、およびTOL101:TOL101 37℃で15分。抗体を9μg/mLの濃度で添加した。刺激後、細胞を固定し、透過化し、T細胞抗体カクテルおよび抗pERK/p38(BD Phosflow T cell Activation Kit-Human)で染色した。染色の4時間以内で細胞をBD FACS Canto IIで解析した。pERK/p38リン酸化のヒストグラム(図11A)および平均蛍光強度値(図11B)を示す。図11からわかるように、ERK/p38リン酸化は、抗CD3刺激の24時間後にTOL101に暴露された抗CD3処理T細胞で増大される。pERK/p38のリン酸化の生の値を図11Bに示す。ERKをはじめとするマイトジェン活性化プロテインキナーゼは、細胞増殖、分化、運動性、および生存を協調的に調節する。共刺激(たとえば、CD28刺激の形態で)を含まないTCR刺激は、通常、T細胞アネルギーおよびアポトーシスをもたらす。したがって、TOL101誘発シグナル伝達が生存経路を開始するという知見は、驚くべきことである。理論により拘束することを望むものではないが、これらのデータから、ヒトαβTCRへのTOL101の結合により誘発された新規なシグナル伝達経路の存在が裏付けられる。
他の実験では、主要なシグナル伝達成分STAT1のリン酸化に及ぼす影響を調べるために、TOL101に試験した。次の条件下で、健常ドナーから採取した新鮮血を刺激して活性化後のリン酸化を分析した。無刺激:37℃で15分、抗CD3→TOL101:抗CD3 4℃で15分、aIG 37℃で15分、TOL101 4℃で15分、aIgM 37℃で15分、架橋抗CD3:抗CD3 4℃で15分、aIG 37℃で15分、抗CD3:抗CD3 37℃で15分、架橋TOL101:TOL101 4℃で15分、aIgM 37℃での15分、およびTOL101:TOL101 37℃で15分。抗体を9μg/mLの濃度で添加した。刺激後、細胞を固定し、透過化し、T細胞抗体カクテルおよび抗STAT1(BD Phosflow T cell Activation Kit-Human)で染色した。染色の4時間以内にBD FACS Canto IIで細胞を分析した。STAT1リン酸化のヒストグラム(図12A)および平均蛍光強度値(図12B)を示す。図12からわかるように、T細胞をTOL101に暴露した場合、STAT1リン酸化は増大される。STAT1結合性サイトカイン(たとえば、II型インターフェロン)は、T細胞増殖および活性化に関連付けられるので、TOL101の結合によるリン酸化STAT1の増大は、予想外であった。理論により拘束することを望むものではないが、これまでに記載されたT細胞活性化におけるSTAT1の役割を超えたSTAT1の役割がデータから示唆される。STAT1のリン酸化の生の値を図12Bに示す。
他の実験では、主要なシグナル伝達成分STAT3のリン酸化に及ぼす影響を調べるために、TOL101を試験した。次の条件下で、健常ドナーから採取した新鮮血を刺激して活性化後のリン酸化を分析した。無刺激:37℃で15分、抗CD3→TOL101:抗CD3 4℃で15分、aIG 37℃で15分、TOL101 4℃で15分、aIgM 37℃で15分、架橋抗CD3:抗CD3 4℃で15分、aIG 37℃で15分、抗CD3:抗CD3 37℃で15分、架橋TOL101:TOL101 4℃で15分、aIgM 37℃での15分、およびTOL101:TOL101 37℃で15分。抗体を9μg/mLの濃度で添加した。刺激後、細胞を固定し、透過化し、T細胞抗体カクテルおよび抗STAT3(BD Phosflow T cell Activation Kit-Human)で染色した。染色の4時間以内で細胞をBD FACS Canto IIで解析した。STAT3リン酸化のヒストグラム(図13A)および平均蛍光強度(図13B)値を示す。図13からわかるように、STAT3リン酸化は、抗CD3処理およびTOL101処理のT細胞で同等に増大した。STAT3のリン酸化の生の値を図13Bに示す。
他の実験では、主要なシグナル伝達成分STAT5のリン酸化に及ぼす影響を調べるために、TOL101を試験した。次の条件下で、健常ドナーから採取した新鮮血を刺激して活性化後のリン酸化を分析した。無刺激:37℃で15分、抗CD3→TOL101:抗CD3 4℃で15分、aIG 37℃で15分、TOL101 4℃で15分、aIgM 37℃で15分、架橋抗CD3:抗CD3 4℃で15分、aIG 37℃で15分、抗CD3:抗CD3 37℃で15分、架橋TOL101:TOL101 4℃で15分、aIgM 37℃での15分、およびTOL101:TOL101 37℃で15分。抗体を9μg/mLの濃度で添加した。刺激後、細胞を固定し、透過化し、T細胞抗体カクテルおよび抗STAT5(BD Phosflow T cell Activation Kit-Human)で染色した。染色の4時間以内で細胞をBD FACS Canto IIで解析した。STAT5リン酸化のヒストグラム(図14A)および平均蛍光強度値(図14B)を示す。図14からわかるように、STAT5リン酸化は、T細胞がTOL101および/または抗CD3に暴露された時に増大される。STAT5のリン酸化の生の値を図14Bに示す。
他の実験では、主要なシグナル伝達成分STAT6のリン酸化に及ぼす影響を調べるために、TOL101を試験した。次の条件下で、健常ドナーから採取した新鮮血を刺激して活性化後のリン酸化を分析した。無刺激:37℃で15分、抗CD3→TOL101:抗CD3 4℃で15分、aIG 37℃で15分、TOL101 4℃で15分、aIgM 37℃で15分、架橋抗CD3:抗CD3 4℃で15分、aIG 37℃で15分、抗CD3:抗CD3 37℃で15分、架橋TOL101:TOL101 4℃で15分、aIgM 37℃での15分、およびTOL101:TOL101 37℃で15分。抗体を9μg/mLの濃度で添加した。刺激後、細胞を固定し、透過化し、T細胞抗体カクテルおよび抗STAT6(BD Phosflow T cell Activation Kit-Human)で染色した。染色の4時間以内で細胞をBD FACS Canto IIで解析した。STAT6リン酸化のヒストグラム(図15A)および平均蛍光強度値(図15B)を示す。図15からわかるように、STAT6リン酸化は、後続的にTOL101に暴露した場合、抗CD3処理T細胞で低減される。STAT6のリン酸化の生の値を図15Bに示す。
実施例4.腎臓移植患者におけるTOL101漸増試験
初回腎臓移植レシピエントに投与されたTOL101の第2の試験では、安全性および投与の標準尺度を測定した。第2の試験は、初回投与漸増成分に続いてランダム化実対照成分を含む修飾適応設計を有する。試験の最初の部分(パートA)は、2つの可能性のある治療用量レベル(PTD−AおよびPTD−B)の同定を目標として、逐次高用量レベルで4〜14コホート(2〜6被験体/コホート)を登録するように計画する。パートBは、所要により、標準治療対照としてサイモグロブリンを含むランダム化並行群間設計を用いて、かつ目標集団の腎臓移植患者で安全性およびいくつかの有効性データを集めて、より多くの腎臓移植被験体でTOL101を評価するよう設計する。米国では急性腎臓アロ移植拒絶の予防に最も一般的に使用される誘発剤でありかつこの試験に関与する多くのセンターで標準治療であることから、サイモグロブリンを実対照として選択した。TOL101投与をトラフタクロリムスレベルに連動させた。試験の概要を図16に提供する。
0.28、1.4、7、14、28、32、および42mg/日で5〜8日間、さらには1日あたり14または21mgから開始して28および42mgまでの漸増戦略のTOL101の試験を評価した。最初のコホートを図17にまとめる。安全の点では、TOL101は、耐容性が良好あった。これまでに報告された注入反応は、軽度であり、容易に対処された(表9)。重要なこととして、T細胞モジュレーションが治療レベルまたはその近傍に現われる用量レベルで、急性拒絶は報告されていない。また、血液学的パラメーターは、TOL101の高安全性プロファイルを裏付ける(表9)。これらの患者におけるTOL101の薬力学的効果の検討から、TOL101用量に伴って増大する強いCD3モジュレーションが示される(図18)。<50 T細胞/mm3の薬力学的目標が28mgコホートで達成された。アレムツズマブおよびThymoglobulinとは異なり、TOL101で治療された患者は、メモリーT細胞およびナイーブT細胞のモジュレーションを示すことから、現在使用されている作用剤と対比してTOL101の有効性が増大しうる。さらに、他のTCR標的化薬剤とは異なり、TOL101は、全白血球カウント数を低減することもなければ(非枯渇機序を介するTOL101機能が示唆される)、サイモグロブリンの通常の副作用である血小板レベルに影響を及ぼすこともない。広範なT細胞不活性化に加えて、28mgコホートデータから、TOL101は、CD3−CD2+T細胞の存在により決定したときに、T細胞を枯渇させることなくCD3発現を低減することが示された(図19)。TOL101は非枯渇性でありうるが、混合リンパ球反応でアロ反応性を強力に阻害しうる。この作用機序により、in−vitroで抗アロ抗原反応が強力に予防される(図20参照)。TOL101の注入は、いかなる有意なサイトカイン放出症候群の症状もTNF−αやIL−6の強力な産生も引き起こさなかったことから、以上の表9に概説した臨床安全性プロファイルが裏付けられる。TNF−αおよびIL−6(図21に示される)さらにはIL−Ιβ、IFNγ、およびIL−2(図示せず)のレベルは、注入後の複数の時間点で決定されつつある。TOL101治療被験体で、最小量のこれらサイトカインが検出された。TNF−αおよびIL−6は、とくに過去のrATGデータと比較して、非常に低レベルで検出された。サイトカイン放出症候群は、報告されていない。それに加えて、抗炎症性サイトカインIL−10は、TOL101の注入により増大する。
本明細書に提示されたデータは、TOL101の安全性および有効性を裏付ける。以上で提示されたin vitroデータと一緒にすると、試験の結果から、ものTOL101は、T細胞枯渇を引き起こすことなく、炎症性サイトカインの増殖および産生をはじめとするT細胞の活性化を阻害することが示される。さらに、メモリー表現型のものを含めてαβTCR+T細胞のすべてのサブセットをモジュレートするTOL101の能力や非枯渇作用機序などの重要な要素は、おそらく、一緒になって、より良好な抗拒絶療法を提供するとともに、移植後リンパ球増殖性障害(PTLD、悪性腫瘍の形態)のリスクを低減する。結論として、TOL101による被験体の治療は、CD3+細胞カウント数が25mm3未満に低減され、CD2+T細胞が無αβTCR/CD3で現れることにより決定される治療有効性をもたらすので、これらの細胞を枯渇させることがなくαβTCR+T細胞を不活性化させる。TCRの欠如は、非機能的T細胞に等しい。
図22〜24に示されるように、TOL101の用量漸増は、治療された被験体において、生物学的利用能の増大(AUCの付随的増加を含む)、血清中半減期の増大を示し、認知可能な抗マウス抗体反応を示さない。TOL101用量漸増は、有望な安全性プロファイルを有して行われた。TOL101は、有意なサイトカイン放出や他の重篤有害イベント(SAE)を引き起こすことなく、用量依存性T細胞モジュレーションを引き起こした。免疫モニタリングにより、枯渇を伴わない特異的標的化機能的不活性化の作用機序が示される。現在使用されている誘発剤よりも増大された特異性および長期にわたる安全性指標を提供するTOL101の可能性が、データから裏付けられる。
図17に示される投与スケジュールを用いてTOL101を投与した後、フローサイトメトリーを用いてBeckman Coulter Flow-Count Flourospheres手順により全血のT細胞カウント数を調べた。Ficoll分離サンプルでT細胞表現型分析を行う。現在の試験では、CD3、CD4、CD8、CD45RA、およびCD45ROの発現プロファイルは、図25〜27に示されるように本実施例で提供される。手順はすべて、中央研究所で行われる。これらのタンパク質に加えて、次のパラメーターも測定した。CD3カウント数および免疫表現型解析、サイトカイン産生(IL−2、IL−10、IL−1β、IL−6、TNF−α、およびIFN−γ)分析、HAMA分析、および標準的血液学的分析。
図25に示されるように、TOL101療法後、フローサイトメトリー分析を行った。図25A〜25Cに示される。CD3カウント数のゲート処理戦略を選択した。ビーズ標準(25A)、リンパ球ゲート処理(25B)、およびCD2対CD3ゲート処理(25C)を示す。CD3カウント数がソリッドボックスにより与えられていることに留意されたい。TOL101は、用量依存的にCD3カウント数を低減することが示された。ここに提示されたデータから、図26に示されるように、細胞を枯渇させることがなく細胞表面からTCR複合体が除去されることが裏付けられる。図19に示されたCD2+データに類似して、CD3を発現する細胞のパーセントは、TOL101による治療後、劇的に低減され、CD4+およびCDの8+細胞の数は、図26に示されるように依然として正常レベルであった。TOL101の投与後のCD3枯渇の機序を図27に模式的に示す。
実施例5.TOL101漸増試験
漸増投与プロトコルの有効性を試験すべく臨床実験を設計した。TOL101抗体などのTCRダウンモジュレーション剤が投与された患者における可能性のある副作用、たとえば、皮疹を予防または改善するために、漸増投与を使用した。たとえば、皮疹は、αβTCR刺激およびそれに続いてすでに形成された貯蔵物、たとえば、とくにグランザイムまたはパーフォリンの放出の結果である。理論的根拠は、本発明を理解するうえで必ずしも必要というわけではないが、低用量のTOL101抗体の使用により、明らか臨床症状をなんら引き起こさない閾値未満のレベルで、すでに形成された貯蔵物のT細胞放出が起こり、続いて、より高用量のTOL101抗体により、すでに形成された貯蔵物が使い果たされた後、TCRダウンモジュレーションが完結し、それにより、臨床症状が予防される。この仮説を試験するために、以下の投与戦略を用いてTOL101抗体を投与した。
2名の患者がこの投与戦略に最初に登録された。両患者は、優れたT細胞モジュレーションを呈したが、投与された患者は、いかなる形態の皮疹も他の可能な重篤有害イベントも発症しなかった。まとめると、これらのデータから、皮疹発症および他の重篤有害イベントの低減を試行して生物学的物質を投与する新規な方法が示される。それに加えて、表10に示される投与戦略は、限定されるものではないが、自己免疫性疾患、炎症性疾患、または移植組織拒絶(たとえば、腎臓移植拒絶反応)をはじめとする広範にわたる疾患に罹患した患者において生物学的物質または抗体(TOL101のような抗αβTCR抗体を含む)を投与するうえで有用でありうる。
実施例6.漸増TOL101投与によるTreg細胞の誘導および/またはアップレギュレーション
TOL101の組織移植および投与を行った後の臨床血液学的転帰を調べる実験では、一定投与レジメン(すなわち、同一投与量のTOL101mAbを患者に投与した。たとえば、投与レジメンのそれぞれの日に、0.28mg/日、1.4mg/日、7mg/日、14mg/日、28mg/日、または32mg/日で)、または1日目に14mg、2日目に21mg、3日目に28mg、4日目に42mg、5日目に42mg、および6日目に42mgを含む漸増投与レジメンのいずれかを用いて、TOL101を患者に投与した。T細胞、生命徴候、および他の生化学的パラメーターを分析した。TOL101抗体に加えて、同様に行ったバックグラウンド療法は、以下のものを含んでいた。
1. 静脈内メチルプレドニゾロン、1回目のTOL101投与の前に500mg、ならびに2および3回目の投与の前に25〜250mg
2. 経口プレドニゾン、4回目の投与の前に100mg、その後、ステロイド、20〜30mgまで漸減させて14日目まで
3. 静脈内Benadryl、最初の2回の投与の前に(50mg)
4. タクロリムスの毎日の投与を移植の6時間後すぐから開始して、遅くとも移植の6日後まで続ける
5. ミコフェノール酸モフェチルの毎日の投与を移植日または翌日に開始する
被験体を麻酔した後かつクランプを解除する前から開始して、初回用量のTOL101を手術室で与えた(アロ移植片の再灌流)。
この試験では、薬力学的目標は、25細胞/mm3未満でT細胞カウント数であった。この薬力学的目標は、移植拒絶を予防する所要のT細胞モジュレーションを提供するのに十分であると考えられる。漸増投与レジメンは、ベースラインからのCD3カウント数を有意に低減した(表11)。
各患者のTregT細胞(CD2+CD4+CD25+FOXP3+CD127lo)の測定を移植の14日後まで毎日行った。結果を図28に示す。驚くべきことに、漸増投与レジメンの投与を受ける患者では、Tregが誘導されたが、32mg/日程度の高用量の投与を受けた患者でさえも、治療のそれぞれの日に同一の用量の投与を受けた患者では誘導されなかった。
適応免疫反応中、一般的には、抗原提示細胞(APC)上のMHC/ペプチド複合体とTエフェクター細胞のT細胞レセプター(TCR)との間での相互作用および情報伝達は、IL−4やIFN−γなどの炎症誘発性サイトカインの活性化および分泌をもたらす。一方、天然のT調節性T細胞(TregT細胞)の活性化は、とくに、免疫抑制的なサイトカインIL−10およびTGF−βの発現をもたらす。これらのサイトカインは、近傍のエフェクターT細胞に直接作用して、いくつかの場合には、アネルギーまたはアポトーシスをもたらす。他の場合には、調節性のサイトカインおよびケモカインは、エフェクターT細胞をT調節性表現型に変換する。このプロセスは、本明細書では、「誘発」寛容または「適応」寛容として参照される。MHC分子に結合可能であるしかも活性化循環TregT細胞に会合可能かつそれを活性化可能であるT細胞エピトープは、Tregエピトープと参照される。本明細書で用いられる場合、TregT細胞の治療のためのおよびTregT細胞の細胞数のアップレギュレーションのための種々の方法は、一般的には、機能性TregT細胞、たとえば、表面マーカーCD2+CD4+CD25+FOXP3+およびCD127loを発現するTregT細胞を意味する。
髄様上皮細胞が未成熟T細胞に特異的な自己タンパク質エピトープを発現する初期自己/非自己識別は、新生児発症の際に胸腺で生じる。高親和性を有する自己抗原を認識するT細胞は、欠失されているが、中程度の親和性を有する自己反応性T細胞は、ときには、欠失を回避して、いわゆる天然TregT細胞に変換されうる。これらの天然TregT細胞は、末梢に輸出され、自己免疫の定常的抑制を提供する。天然TregT細胞は、免疫制御および自己寛容の重要な成分である。
自己寛容は、T細胞、B細胞、サイトカイン、および表面レセプターの間の複雑な相互関係により調節される。T調節性免疫反応は、タンパク質抗原(自己も異種も)に対するTエフェクター免疫反応を相殺する。自己反応性Tエフェクター細胞の数もしくは機能の増大またはTregT細胞の数または機能の減少のいずれかにより自己反応性側に向かうバランス傾向は、自己免疫として顕在化される。
第2の寛容形態は、IL−10およびTGF−βの存在下で、通常、バイスタンダーTregT細胞により供給されて、T細胞レセプターを介して、活性化時に成熟T細胞が「適応」TregT細胞表現型に変換される末梢で生じる。これらの「適応」TregT細胞に対する可能な役割としては、アレルギー反応または低レベル慢性感染症により引き起こされうる過剰の炎症の制御手段として浸潤性病原体の奏功的クリアランスの後で免疫反応を弱めること、またはおそらく、有益な共生細菌およびウイルスとの共存を促進することが含まれる。「適応」Treg T細胞はまた、体細胞超突然変異を受けたヒト抗体の生活環の管理にも関与しうる。
また、TregT細胞は、B細胞寛容の助けになる。B細胞は、その細胞表面上に単一の低親和性FcレセプターFcγRIIBを発現する。このレセプターは、その細胞質内ドメインに免疫レセプターチロシンベース阻害モチーフ配列(ITIM)を含有する。免疫複合体によるFCyRIIBとBCRとの共ライゲーションは、ITIMのチロシンリン酸化を引き起こすように作用し、イノシトールホスファターゼSHIPの動員をもたらして、MAPキナーゼの活性化を妨害することによりBCR誘発増殖を阻害し、細胞膜からのバートンチロシンキナーゼ(Btk)の解離により食作用をブロックして、細胞中へのカルシウム流入を阻害する。FcγRIIBはまた、ITIMに依存しないアポトーシスを引き起こしうる。ICによるFcRIIBのホモ凝集の際、Btkと細胞膜との会合が促進されて、アポトーシス性反応を引き起こす。FcγRIIBの発現は、きわめて変動性であり、サイトカイン依存する。活性化Th2およびTregT細胞により発現されるIL−4およびIL−10は、相乗的に作用して、FcγRIIB発現を促進することにより、体液性応答の抑制を支援することが示されている。
本発明は、患者において特異的漸増用量レジメンを用いて抗αβTCR抗体TOL101が投与された患者でTregT細胞の予想外の驚くべき治療的アップレギュレーションを提供する。なんら特定の理論により拘束することを望むものではないが、いくつかのアロ反応性または自己反応性の反応に遭遇しているまたは遭遇するであろう患者において、低用量TOL101抗体を用いると、新規なシグナリングイベント(ZAP70ダウンレギュレーション、AKTおよびERKモジュレーション、さらには潜在的カルシウムフラックス)のカスケード、さらには低レベルのIL2の産生が誘発されると考えられる。この考えは、低減レベルのTregT細胞(Saadoun, D. et al. N. Engl. J. Med, 365(22) 2067-2077)を有するC型肝炎ウイルスにより引き起こされた血管炎の患者での試験で裏付けられる。Saadoun et al.に示されるように、低レベルIL2は、TregT細胞誘導を刺激する。数日間にわたり、Treg遺伝子は、所定の位置にTreg表現型を有して機能性である。理論により拘束することを望むものではないが、本開示に例示されるように、TOL101mAb用量を増大させるにつれて、IL2の局所的増加だけでなく、in vivoでTregT細胞の増殖を支援する一群のユニークな転写因子が開始されると考えられる。TOL101mAbの投与に反応して産生されるIL2のレベルは、古典的T細胞活性化および増殖に必要と通常考えられるよりも低いことは、注目に値する。したがって、IL2が産生されて、TregT細胞増殖を支援するが、IL−2のレベルは、サイトカイン放出症候群を引き起こすのに必要なレベル未満である。この点に関して、特異的Treg細胞を活用することにより、望ましくない免疫反応を抑制したり、適応TregT細胞を誘導して、アロ反応性反応および自己抗原でチャレンジされた自己免疫性反応を抑制したりすることが可能である。概略図を図29および30に示す。この発見は、移植、タンパク質療法、アレルギー、慢性感染、自己免疫、およびワクチン設計に対する治療レジメンおよび抗原特異的療法の設計と密接な関係がある。本明細書に記載の特異的漸増投与レジメンでTOL101mAbの投与を用いれば、TregT細胞の細胞数の拡張および増大するが可能になり、次に、これを用いて、エフェクター免疫反応を抑制することが可能である。いくつかの実施形態では、TOL101mAbは、自己免疫性疾患の症状の発生前、発生時、もしくは発生後、または組織の移植前、移植時、もしくは移植後に、患者に投与される。いくつかの実施形態では、移植手順によるTOL101mAbの投与は、移植時に開始される。すなわち、同一日、したがって、投与スケジュールの1日目は、移植日である。他の実施形態では、TOL101は、すでに組織移植を受けた被験体に投与されうる。いくつかの実施形態では、漸増投与レジメンは、1日目に14mg、2日目に21mg、3日目に28mg、4日目に42mg、および5日目に42mgでTOL101を被験体に投与することを含む。他の実施形態では、漸増投与レジメンは、1日目に14mg、2日目に21mg、3日目に28mg、4日目に42mg、5日目に42mg、および6日目に42mgでTOL101を被験体に投与することを含む。いくつかの実施形態では、TOL101mAbの一度の漸増投与が誘導投与のためであることが例証されるので、本明細書に記載のTOL101の漸増投与は、5または6日時間にわたり1回のみ行われると考えられる。
本明細書に記載の漸増投与レジメンを用いた抗αβTCR抗体TOL101の投与は、TregT細胞の選択的会合および活性化に役立つ。本明細書では、全身的状況および局限的疾患特異的状況の両方で、望ましくない免疫反応の抑制のために、TregT細胞の既存集団の会合、活性化、および適用が可能であることが実証される。本明細書に記載の漸増レジームを用いて症状発現前投与、症状発現時投与、または症状発現後投与が奏効しうる特異的疾患としては、喘息、アレルギー、アレルギー性気道炎症、アレルギー性脳脊髄炎、自己免疫性関節炎、関節リウマチ、若年性関節リウマチ、反応性関節炎、乾癬性関節炎、仙腸骨炎、孤立性急性前部ブドウ膜炎、未分化脊椎関節症、1型糖尿病、多発性硬化症、全身性紅斑性狼瘡、糸球体腎炎、橋本甲状腺炎、グレーブス病、強皮症、免疫調節不全多腺性内分泌症腸疾患X連鎖症候群(IPEX症候群)、セリアック病、クームス陽性溶血性貧血、自己免疫性血小板減少症、自己免疫性好中球減少症、クローン病、炎症性腸疾患、潰瘍性結腸炎、強直性脊椎炎、シェーグレン症候群、乾癬、接触性皮膚炎、グッドパスチャー症候群、アジソン病、ウェゲナー肉芽腫症、尿細管性腎症、原発性胆汁性肝硬変、硬化性胆管炎、自己免疫性肝炎、リウマチ性多発性筋痛症、ベーチェット病、ギラン・バレー症候群、種々の血管炎、ブドウ膜網膜炎、甲状腺炎、重症筋無力症、免疫グロブリン腎症、心筋炎、および進行性全身性硬化症が含まれうるが、これらに限定されるものではない。
いくつかの実施形態では、TregT細胞レベルをアップレギュレートのために本明細書に提供される治療方法は、必要とされる被験体に治療効果を提供する。いくつかの実施形態では、TregT細胞の方法および/またはアップレギュレーションは、前記TregT細胞の被験体ベースラインレベル超でTregT細胞のアップレギュレーションを提供する。ベースラインレベルは、治療用mAbTOL101の投与前に決定可能である。いくつかの実施形態では、TregT細胞のアップレギュレーションとは、一般的には、特定の被験体に対して、CD2+CD4+CD25+FOXP3+CD127loである局所または全身循環のTreg細胞の数の増加を意味し、この増加は、TOL101の漸増投与前のCD2+CD4+CD25+FOXP3+CD127loのTregT細胞のベースライン濃度を基準にして、ベースラインレベルから5%増、または10%増、または15%増、または20%増、または25%増、または30%>増、または50%>増である。それにもかかわらず、TregT細胞のアップレギュレーションは、アロ反応性T細胞に関連付けられる任意の1つ以上の症状または病態のブロック、予防、治療、または抑制、または細胞傷害性T細胞(CTL)活性の阻害、またはアロ反応の免疫抑制、または自己免疫反応の阻害、または組織の移植前、移植中、もしくは移植後のアロ反応もしくは自己免疫反応の阻害、予防、もしくはブロック、または移植片対宿主疾患の阻害、抑制、もしくはブロック、または炎症性疾患もしくは自己免疫性疾患で自己免疫反応の予防、治療、もしくは抑制に、治療上有効である。いくつかの実施形態では、被験体、たとえば、ヒトまたは他の哺乳動物被験体は、全身健康状態を調べて、なんらかの既存の自己免疫性疾患または自己組織拒絶もしくはアロ−組織拒絶の好発を確認すべく、治療前に評価可能である。この実施形態では、被験体の血液を採血し、T細胞また他の白血球計数を行う。また、これらは、行われる予後予測または医学的治療に関連するアロ反応または組織拒絶および自己免疫性疾患の治療前TregT細胞および他のマーカーの濃度をも含みうる。いくつかの実施形態では、被験体に存在する全血1ミリリットルあたりのTreg細胞の濃度は、被験体において全血1ミリリットルあたりCD2+CD4+CD25+FOXP3+CD127loのTregT細胞のベースラインレベルが得られるように投与スケジュールの開始前に決定される。TOL101mABの漸増投与中および終了時、慣例的採血を行って、被験体において全血1ミリリットルあたりのCD2+CD4+CD25+FOXP3+CD127loのTregT細胞の数を調べ、標準的免疫学的方法を用いて、たとえば、CD2+CD4+CD25+FOXP3+CD127lo細胞表面マーカーを表現型発現するTregT細胞の細胞表面マーカーに特異的な1、2、または3つのカラー免疫蛍光染色を用いたフローサイトメトリーにより、TregT細胞のアップレギュレーションを確認することが可能である。
実施例7.TOL101の安全性および有効性
腎臓移植患者においてTOL101臨床試験を以上の実施例6で説明したように行った。
安全性パラメーター。一般的な臨床安全性測定、たとえば、異常生命徴候、身体的徴候、および症状、ならびに血清化学または血液学をはじめとする複数の安全性パラメーターをモニターした。適正臨床試験規範ガイドラインを用いて、臓器系に基づいてイベントを有害イベント(AE)または重篤有害イベント(SAE)に分類した。Medra辞書を用いて有害イベントコード化を行った。同一のイベントを2回以上起こした被験体を1つのイベントを起こしたと記録した。システム臓器クラス内で2回以上の有害イベントを起こした被験体をそのシステム臓器クラスで1回のみカウントした。サイトカイン放出症候群を示唆しうる症状を含む免疫安全パラメーターをモニターした。それに加えて、TNF、インターフェロン−γ、インターロイキン6(IL6)、インターロイキンIB(IL1)、およびインターロイキン2(IL2)の血清中レベルを、初回投与の0、2、8、および24時間後に決定した。ルミネックス技術を用いてサイトカインを測定した。初回投与の0、2、8、および24時間後さらには4日目、熱量測定アッセイを用いて一酸化窒素レベルも決定した。14日目および28日目、サンドイッチELISAを用いてヒト抗マウス抗体をベースラインで決定した。TOL101を一次抗体として使用した。
リンパ球増殖性障害を含む悪性腫瘍の発生を収集した。それに加えて、CMV(28、90、および180日目)、BKV(90および180日目)、およびEBV(28、90、および180日目)に対してPCR検出を用いてウイルス血症を調べた。他の重篤感染または日和見感染の発生も収集した。
有効性パラメーター。CD3+Tリンパ球カウント数に及ぼすTOL101の薬力学的効果により、臨床的有効性を決定した。CD3+カウント数が25/mm3未満に保持された患者をT細胞モジュレーションに成功したとみなしたが、連続投与間隔では、ベースラインから90%のCD3カウント数の減少で十分であると考えられる。それに加えて、6ヶ月で患者生存、移植片生着、および生検確認急性拒絶(BPAR)を含む伝統的トリプルエンドポイントを決定した。臓器移植後臓器機能障害は、移植後の最初の1週間以内に透析が必要性として定義された。各試験訪問時に推定糸球体濾過率(GFR)により腎機能を決定した。180日目にイオタラメートクリアランスにより測定GFRを決定した。90日目および180日目に尿中タンパク対クレアチニン比さらにはドナー特異的抗体(DSA)を測定した。
維持免疫抑制。経口またはIVミコフェノール酸モフェチル(MMF、少なくとも750mg毎日2回)からなる維持免疫抑制を移植日に開始した。被験体の病態に依存して試験1日目と試験6日目との間でタクロリムスを開始した。タクロリムスの出発用量は、0.1〜0.2mg/kgであった。移植後の最初の1ヶ月間、全血中C0レベルを8〜15ng/mLの範囲内に維持するようにタクロリムスの後続用量を個別化した。TOL101投与中は毎日、1ヶ月目は毎週、ならびに90および180日目、最小タクロリムスC0レベル測定を行った。
コルチコステロイドの初回投与は、移植時に500mg、2日目に250mg、3日目に125mg、および4日目から0.5mg/kg、1ヶ月目まで5〜10mg/日に漸減、そして45日目に5mg以上/日まで低減し、6ヶ月目まで行った。
抗感染予防。CMV+レシピエントまたはCMV+ドナーからの腎臓のレシピエントでは、経口バルガンシクロビル(Valcyte(登録商標))が推奨された。ニューモシスティスカリニ肺炎(PCP)の予防のために、経口トリメトプリム/スルファメトキサゾール(TMP/SMX、Septra SS(登録商標)/バクトリム(Bactrim)(登録商標))が6ヶ月に必要とされた。
TOL101の投与。TOL101は、14mg凍結乾燥バイアル(Tolera Therapeutics, Inc Kalamazoo, Michigan, USA)中に提供された。被験体は、中心静脈カテーテルを介して、0日目に手術室で開始して少なくとも6回のTOL101投与を受けた。この試験は、表12にまとめられているように、有効性の一次マーカーとしてのCD3T細胞カウント数を用いて、TOL101の漸増用量を試験するように設計された。TCR標的化抗体の潜在的免疫刺激能に起因して、使用した初期TOL101用量は、0.28mgの計算最小有害生物学的作用レベル(MABEL)の1/10であった。さらなる安全上の要件は、患者間24時間保持および患者データの定期的安全性データモニタリング委員会審査を含んでいた。Beckman Coulter CD3フローサイトメトリーキットを用いて、センター施設(Neogenomics; Orange County, CA)でCD3カウント数を測定した。投与期間を通じてCD3カウント数が<25 T細胞/mm3であれば、投与が有効であるとみなした。タクロリムスC0レベルが治療的であれば(8〜15ng/mL)、最小6回の投与後にTOL101投与を停止した。
薬動学。1回目の投与後のいくつかの時間点で毎日(0日目)、4回目投与で、最終投与で、および14日目に、TOL101の血清中濃度を測定した。マウスIgMに対してAサンドイッチELISAを利用した(ABS laboratories, Colombia MI)。コンパートメントモデルを、すべての被験体のすべての観測および用量のデータを含むプールデータセットにあてはめることにより、TOL101に対する集団薬動学的モデルを開発した。モデリングでは、投与内または投与間で量または注入速度の変化を考慮に入れる。適切なクリアランス値(CL)および分布容積(v)に関してモデルをパラメーター化する。あてはめられたパラメーターから排出半減期(t1/2)を推定する。NONMEMバージョン7.0以降を用いて集団モデリングを行う。目的関数および/またははめあい等級のグラフの改良に基づいて、共変量(年齢、身体サイズ、性別、人種など)をモデル中に組み込む。Rバージョン2.10以降を用いて、観察されたおよびモデルから予測された血清中濃度のグラフを作成する。
統計。1つのコホートあたりの被験体の数は、統計的要件に基づくものではなく、その次の用量レベルに漸増するのに十分な安全性およびPDのデータを提供するように意図されたものである。すべての感染、AE、最大重症度のすべてのAE、薬剤関連AE、SAE、および試験薬剤停止をもたらすAEに対して、度数分布表を提示する。定量臨床検査に対しては、各時点で統計のまとめを提示する。サイトカイン放出症候群を呈する被験体のカウント数をまとめて、度数分布表を提示する。測定GFRおよび推定GFRの両方を記述統計でまとめる。臓器移植後臓器機能障害およびBPARのエピソードを度数分布表にまとめる。尿中タンパク対クレアチニン比およびDSA評価に対しては、90日目および180日目/EOSに取得された値で、まとめの統計値を提示する。カプラン・マイヤー積極限手順およびログランク検定を用いて生存曲線を比較し、患者生存および移植片生着を分析する。
結果
患者の特徴。2010年2月に患者登録を開始し、米国で6つのセンターで登録を行って、2012年4月に終了した。合計28名の患者は、この第2a相試験に登録し、被験体は、表12に示される漸増TOL101用量のコホートに入った。登録は、広範な範囲の患者に対応した(表13)。平均ドナー年齢は、40歳であった。24名の被験体は、生体ドナーから腎臓を受け、4名の被験体は、死体ドナーから腎臓を受けた。平均レシピエント年齢は、44歳であり、これら患者の79%が男性であった。被験体は、低度〜中度の拒絶のリスクを有する初回腎臓移植レシピエントであった。重要なこととして、登録患者のリスクプロファイルは、用量と共に増加した。最初の4のコホートの患者は、一般に、より低い免疫学的リスクであった。最後の用量漸増コホートは、4つの死体ドナー移植片および3つのアフリカ系アメリカ人レシピエントを含んでいた。末期腎疾患(ERSD)の最も一般的な原因は、多嚢胞性腎疾患(33%)および糸球体腎炎(33%)であった。
重篤有害イベント。35例の重篤有害イベント(SAE)が11名の被験体で報告されている(表14)。死亡は、観察されなかった。1名のSAE以外は全員、試験薬剤と「無関係」とみなされた。おそらく関連するSAEは、院内肺炎であった。他のSAEは、手術および他の非TOL101関連問題に関連付けられた。
有害イベント(AE)。「もしかすると」、「おそらく」、または「明らかに」TOL101に関連付けられると報告された18名の被験体の29例のAEを含めて、合計521例のAEが28の被験体で報告されている。患者の15%以上に生じたAEを表15に示す。AEの大多数は、28、32、および42mg用量コホートで報告された。3名の被験体は、AE(蕁麻疹様皮疹および掻痒)に起因して薬剤の継続を中断した。これらの各人は、42mg用量グループであった。最も一般的に報告された関連AEは、表15に示されるように、皮疹であった。観察された皮疹は、蕁麻疹様、赤色、隆起、蕁麻疹、および/またはみみずばれ様のようにさまざまに記載された。いかなる場合も、ネクローシスや長期持続性と判定された皮疹はなく、よりの重篤な所見に進行することはなかった。
必ずしも全部というわけではないが、皮疹を生じた患者のほとんどは、TOL101の初回投与後に皮疹を生じた(表16)。すべての場合で、皮疹は、自然に消失したか、またはジフェンヒドラミンによる治療後に典型的には数時間以内に消失した。皮疹は、42mgコホート以外のいずれの用量レベルでも再発しなかった。再発した時、典型的には、それほど強くはなかったが、連続したTOL101投与を行わなかった。理論により拘束することを望むものではないが、観察された皮疹の1つの潜在的原因は、血管拡張能を有するあらかじめ形成された非古典的可溶性メディエーターのT細胞から放出であると考えられる。これらは、あらかじめ形成されたと考えられるので、これらのT細胞貯蔵物を使い果たして皮疹発生を低減することを目標として、用量漸増戦略を利用した。表16に示されるように、用量漸増プロトコルの利用は、皮疹発生を低減した42mg投与を可能にした。全体的に、試験の結果から、TOL101は、安全に投与しうることが示唆された。とくに、漸増投与戦略は、最小限の有害作用に関連付けられた。
感染および悪性疾患。悪性疾患は、TOL101の投与を受けた被験体でこれまで報告されていない。表17は、試験で観測された感染をすべてまとめる。ただ1つの有意な感染は、以上に記載したように、おそらくTOL101に関連付けられると考えられた(院内肺炎)。しかしながら、この患者から培養を行っていないので、確定的な診断および原因物質を同定することはできなかった。皮膚関連感染は、主に、切開創傷細菌感染であり、濾胞炎の症例は、報告されていない。BKウイルス血症の3つの症例が検出され、そのうち2つは、サイモグロブリンレスキューの直後に急性拒絶エピソードに罹患している患者で現れた。CMV、EBV、日和見性ニューモシスティス性肺炎などの他の重要な感染は、観察されなかった。
免疫学的安全性パラメーター。AE表に記載したように、サイトカイン放出症候群に関連付けられる症状は、一般に観察されなかった。症状の欠如は、低レベルのTNF、IFN−γ、IL6、IL1β、およびIL2(図31A〜31E)により裏付けられた。これらは、検出されなかったか、またはrATGが与えられた患者での記載のレベルと対比して低レベルで検出された。さらに、注入反応の指標となる他のおそらく炎症性マーカーは、一酸化窒素(NO)の産生を含む。NOは、いずれのTOL101治療患者でも検出されなかった。TOL101はネズミ抗体であるので、HAMAの検出は、試験の重要な部分であった。移植の0、14、および28日後、HAMA発症に関して、サンプルを評価した。1名の患者以外ではすべて、HAMAは検出されなかった(図31F)。陽性HAMAサンプルを有する1名の患者の力価は、1/100であった。T10B9、OKT3、およびBMA−031およびを含めて、他の抗TCR抗体またはCD3抗体は、患者の30%超でHAMAを誘発し、いくつかの試験では、HAMAの発生率が80%と報告されているので、HAMAの低い発生率は、驚くべき結果であった(Waid et al. Transplantation 64; 274-281 [1997])。理論により拘束することを望むものではないが、HAMAの低い発生率は、抗体の新規な作用機序および/または抗体の翻訳後修飾(グリコシル化など)を反映すると考えられる。
薬力学的CD3モジュレーション。末梢血CD3T細胞カウント数を投与中に毎日測定した。5日間1日1回(6回投与)、または治療的タクロリムスレベル(8−15ng/ml)が達されるまで、TOL101の投与を行った。6名の患者では、TOL101の6回超の投与が必要であった。しかしながら、これらはどれも、TOL101がCD3抑制目標を満たしたコホートではなかった。すべての患者で、CD3発現細胞を含めて、白血球カウント数の初期低減が移植直後に観察された。これは、静脈内ステロイド注入を受けた患者では一般に観察される。0.28、1.4、7、および14mgのTOL101の投与を受けた患者では、48〜72時間以内に、循環CD3カウント数は、25/mm3目標によりも増加した(図32)。28mgコホートでは、3日目にCD3数のスパイクに遭遇した1名の患者を除いて、CD3カウント数は、依然として25/mm3を下回った状態を維持した。28mgは有望な用量レジメンであるように思われたが、1つの潜在的異常値があったので、32mgおよび42mgへのTOL101の増量を行うきっかけとなった。これらの投与レジメンの両方では、ロバストなCD3抑制が達成された。しかしながら、32mgおよび42mgコホートの患者のそれぞれ50%および100%で、皮疹が観察された。理論により拘束することを望むものではないが、皮疹は、あらかじめ形成されたT細胞可溶性メディエーター放出の結果であろうことが確認された。したがって、発症レベル以下でこれらの貯蔵物を使い果たすことに重点を置いた用量漸増戦略を行った。この投与レジメンでは、投与は、14mgで開始され、4回目の投与による42mgまで、急速に増加させた。この投与レジメン、皮疹発症の傾向を低減しただけでなく、さらには薬力学的目標を満たして、ロバストなCD3抑制をもたらした。
TOL101投与後、CD3発現の回復は、14日目までにすべての患者で生じることが観察された(図32)。この回復は、非枯渇作用機序の証拠となり、投与中に白色白血球カウント数の減少が見られなかった観測からも裏付けられる。
薬動学。OKT3および他の抗TCR療法に類似して、TOL101の排出は、その標的タンパク質への結合を介して主に媒介されると考えられる。薬動学的観測から、ロバストなCD3抑制が達成された(すなわち、28、32、42mgおよび用量漸増コホート;32)コホートでは、TOL101の半減期は、23〜29時間の範囲内であった(表18)。TOL101のピーク濃度は、投与の3日後に達成されたことから、おそらく、この時点で標的飽和であることが示唆される。
有効性複合トリプルエンドポイント。試験で報告された移植片機能損失の患者は、存在しなかった(図33A)。3名の被験体は、もしかすると試験薬剤に関連付けられると記載された生検確認急性拒絶エピソードに遭遇した。すべての拒絶エピソードは、ステロイドまたはサイモグロブリンで治療されて、移植片機能損失を伴うことなく臨床的に消散された。ドナー特異的抗体は、試験に登録されたいずれの患者でも検出されていない。
腎機能。臓器移植後臓器機能障害は、試験で観察されなかった。試験全体にわたり腎機能は、改善し、すべての患者で観測された推定GFRの増加が見られた(図33B)。それに加えて、移植片後180日目のイオタラメートクリアランスを用いて計算されちGFRは、急性拒絶イベントを受けたものを含めて、すべての患者にわたって優れたクレアチニンクリアランスを示した(図33C)。
実施例8.TOL101の特異性
6名の独立したドナーの末梢血単球(PBMC)を用いて、TOL101が結合する精密T細胞サブセットを決定した。TOL101は、CD3+T細胞をのみ標識し、CD4+およびCD8+T細胞の両方に結合した(図34)。重要なこととして、TOL101は、CD14(単球系列/NK細胞)を発現する細胞であるγδT細胞にもB細胞にも結合しなかった(図34)。したがって、TOL101は、αβT細胞に特異的である。さらに、TOL101と共にプレインキュベートしたところ、他のαβTCR抗体IP26の結合をブロックしたことから、αβT細胞に対するTOL101の特異性をさらに実証された。TCRのα鎖に特異的な抗体は、TOL101結合を阻害したが、β鎖抗体は、TOL101結合の阻害をそれほど示さなかった。したがって、TOL101は、優先的にTCRのα鎖に結合するように思われる。
実施例9.TOL101のシグナル伝達およびin vitro Treg誘導
1方向混合リンパ球反応(MLR)を用いて、TOL101媒介T細胞阻害をさらに調べた。この実験では、3名の健常ドナーのバフィーコートからPBMCを単離した。リンパ球を富化すべく、バフィーコートをFicolグラジエント上に層状化した。次いで、3000radsでスティミュレーター細胞に照射した。スティミュレーター細胞およびレスポンダー細胞を2:1の比(4e5スティミュレーター細胞対2e5レスポンダー細胞)で7日間共培養した。細胞の組合せは、次のとおりでにあった。ユニット1+ユニット2irr(Ab)、ユニット1+ユニット3irr(Ac)、ユニット2+ユニット1irr(Ba)、ユニット2+ユニット3irr、ユニット3+ユニット1irr(Ca)、ユニット3+単位2irr(Cb)。培養時、TOL101を9μg/mLの濃度で添加した。培養の最後の24時間、ブレフェルジンを添加した。細胞を採取し、細胞外抗原に対して染色し、固定で、透過化し、細胞内サイトカインに対して染色した。図35でのグラフは、IFN−γを発現するCD4T細胞のパーセントを示している。得られた臨床データを裏づけるものとして、TOL101は、多くの個別患者の一方向MLRでT細胞の2型インターフェロンを阻害した。
実施例3に記載されるように、TOL101は、リン酸化ERKのレベルを増加し(図11)、リン酸化ZAP70のレベルを低下させる(図10)ことが示された。T細胞のERKリン酸化は、一般に、CD28経路を含めて、T細胞共刺激経路に関連付けられる。TOL101が共刺激誘発T細胞増殖を阻害するかを調べる実験を行った。3名の健常ドナーのバフィーコートからPBMCを単離した。リンパ球を富化すべく、バフィーコートをFicolグラジエント上に層状化した。リンパ球を2e5細胞/ウェルの密度で培養した。TOL101(9μg/mL)、プレート結合CD28(1μg/mL)、ならびにプレート結合CD28(1μg/mL)およびTOL101(9μg/mL)と共に細胞を培養した。H3を培養物に4日間添加し、5日目にプレートから採取してカウントした。図36からわかるように、TOL101は、CD28媒介増殖を阻害できなかった。
ZAP70およびERKに加えて、T細胞活性化の他の指示は、カルシウムフラックスである。カルシウムの持続増加は、ホスファターゼカルシニューリンの活性化をもたらす。カルシニューリンは、NF−ATを含むいくつかの転写因子を調節する。TOL101がカルシウム放出を引き起こすかを調べるために、4名の健常ドナー(0、P、Q、およびR)のバフィーコートからPBMCを単離した。図37では、リンパ球を富化すべく、バフィーコートをFicolグラジエント上に層状化した。各ドナーの5e5細胞を37℃で1時間にわたり抗CD4で染色した。細胞を洗浄し、Fluo−4直接カルシウムアッセイ試薬溶液(Invitrogen#F10471)で処理し、37℃で30分間そして室温で30分間インキュベートした。細胞をLSRで600秒間試験した。T=90秒、20μLの培地単独、または各20μLの9μg/mL TOL101および9μg/mL抗マウスIgM、または20μLの9μg/mL CD3および9μg/mL抗マウスIgG、または20μLの1μg/mLイオノマイシンをチューブに添加し、ピペットで穏やかに上下させてから、取得を継続した。驚くべきことに、TOL101は、抗CD3とは異なり、CD4T細胞のわずか約15%でカルシウムフラックスを引き起こし、結果として、本質的にすべてのCD4T細胞でカルシウムフラックスを生じた(図37)。理論により拘束することを望むものではないが、TOL101の結合によりカルシウムフラックスを引き起こす小数のCD4T細胞は、TregになるT細胞に対応すると考えられる。
カルシウムフラックスに加えて、リン酸化熱ショックタンパク質27(HSP27)、AKT−2、およびMAPK活性化プロテインキナーゼを、TOL101処理T細胞で調べた(図38)。この実験では、健常ドナーのバフィーコートからPBMCを単離した。リンパ球を富化すべく、バフィーコートをFicolグラジエント上に層状化した。細胞は、次の条件、すなわち、無処理、抗CD3(OKT3)9μg/mL+抗マウスIg10μg/mL、TOL101 9μg/mL+抗マウスIgM10μg/mLの1つの下に37度で1時間維持された。1時間後、細胞を洗浄し、そして溶解させた。RDヒトホスホMAPKアレイを用いて、200μgのタンパク質/サンプルを処理した。ストレプトアビジン−HRPおよび化学発光検出を用いて、タンパク質のリン酸化を検出した。露出および発色させた膜の写真およびImageJソフトウェアを用いたピクセル強度の定量を図38に示す。図38に示されるように、HSP27は、処理グループ間で異ならなかった。P38aに対する潜在的傾向が観察されてきたが、それは有意ではなかった。最も顕著なのは、リン酸化AKT2のレベルが、TOL101処理PBMCでは有意量で見いだされたが、抗CD3PBMCまたは対照PBMCでは発見されなかったという観測であった。まとめると、これらのデータは、TCRに結合した時にTOL101により開始されるユニークなモジュレーション経路をさらに際立たせる。
以上に記載したように、TOL101の漸増用量で治療された臨床患者でのTregの誘導は、予想外であった(図28)。さらに、ERKの増大を含めて、TOL101により引き起こされるシグナル伝達イベントは、Tregの増殖を阻害すると記載されてきた。さらにこれらの結果を調べるために、Tregを誘導するTOL101の能力をin−vitroでさらに調べられた。3名の健常ドナーのバフィーコートからPBMCを単離した。リンパ球を富化すべく、バフィーコートをFicolグラジエント上に層状化した。in vivoアロ移植片移植患者に対応する二方向MLR培養を1:1の比の4e5細胞/ドナーで構成した。臨床実験投与を反映するように漸増濃度でTOL101と共に細胞を培養した。漸増濃度のTOL101(9、18、36、72、および120μg/mL)、一定濃度のTOL101(9μg/mL)、抗CD3(1μg/mL)、または培地単独を培養物に添加した。培養下で5日後、細胞を採取し、洗浄し、ブロックし、細胞外抗原で染色し、固定し、透過化し、細胞内Foxp3を染色した。細胞をフローサイトメトリーにより捕集し、 Flow Joで分析した。ドットプロットは、3つの反応(A+B、A+C、B+C)を表す。CD4+CD25+FOXP3+CD127lo表現型を有するTregは、in vivoで抑制活性を有することがすでに示されており、図39に示されるようにゲート処理した。注目すべき点として、漸増用量のTOL101で処理された培養物は、CD4+CD25+FOXP3+CD127loTregが富化された。抗CD3処理培養物は、数的にはより多くのCD4+CD25+FOXP3+CD127loを有しているが、有意なCD127hi集団もまた存在したことから、それはエフェクターT細胞であると考えられる。これらのエフェクターT細胞は、アロ移植拒絶および自己免疫を引き起こすうえではできわめて効果的である。まとめると、試験の結果から、予想外なことに、シグナル2(共刺激)を伴わないシグナル1(TCR刺激)を示唆する定説とは対照的に、T細胞アネルギーおよび死亡をもたらし、TOL101により提供されたユニークなシグナル1は、T細胞枯渇や死亡をもたらさない。理論により拘束することを望むものではないが、αβTCRへのTOL101は、T細胞生存に重要であることが知られているAKTおよびERKを含めて、タンパク質のリン酸化を引き起こし、生存シグナルが、カルシウム誘発シグナル伝達と組み合わされて、Tregの誘導をもたらすと考えられる。
実施例10.TOL101ScFV
この実験では、TOL101の一連の10個の異なる小鎖可変フラグメント(scFv)を発現する修飾CDRをE.コリ(E.coli)中で発現させた。10個のscFvの1つは、高発現プロファイル(図40)を呈した。また、概略図およびこのscFvのアミノ酸配列(配列番号9)を図40に示す。scFvは、CD4+およびCD8+T細胞の両方にin vitro結合したことから(図40)、T細胞結合能と高発現レベルとを兼備したTOL101scFvを産生可能であるが示唆される。
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