JP2015229705A - グリース組成物及び転がり軸受 - Google Patents

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Nobuyuki Inami
宣行 稲見
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道太 外尾
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Atsushi Yokouchi
敦 横内
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Abstract

【課題】軸受寿命を維持しつつ、フレッチング摩耗の発生を抑制する。【解決手段】鉱油と合成油とを、質量比で、鉱油:合成油=0:100〜20:80にて混合してなり、40℃における動粘度が70〜150mm2/sである基油と、増ちょう剤とを含有し、かつ、増ちょう剤投影面積率が10%以上であり、深溝玉軸受6203に0.7g封入し、スラスト荷重を29.4N負荷したときの回転開始3秒後のアンデロン値が5ANDERON以上となるグリース組成物、並びに前記グリース組成物を封入した転がり軸受。【選択図】図1

Description

本発明はグリース組成物、並びにそれを封入した転がり軸受に関し、詳細には耐フレッチング摩耗性等を向上させる技術に関する。
転がり軸受を組み込んだ状態で輸送する際、微小振動を繰り返し受ける。例えば、自動車を貨車輸送する時には、車輪支持用転がり軸受ユニットは、微小振動を繰り返し受け、フレッチング摩耗と呼ばれる摩耗が軸受軌道面と転動体との接触部で発生し、輸送後に異音やはく離等の不具合を引き起こす場合がある。フレッチング磨耗を抑制するために、特許文献1では、基油動粘度を低下させたグリース組成物を封入することを提案している。また、特許文献2では、増ちょう剤の投影面積率を10%以上としたグリース組成物を用いることが提案されている。
特開2003−239999号公報 国際公開第2013/31705号公報
しかしながら、特許文献1のように動粘度の低い基油を用いると、油膜強度が低下したり、十分な厚さで油膜が形成されない場合がある。また、特許文献2のように増ちょう剤の投影面積率を10%以上に高めた場合でも、増ちょう剤繊維の分散性が高い場合にはフレッチング摩耗を発生しやすい。
本発明はこのような状況に鑑みてなされたものであり、軸受寿命を維持しつつ、フレッチング摩耗の発生を抑制することを目的とする。
上記課題を解決するために本発明は、下記のグリース組成物及び転動体を提供する。
(1)鉱油と合成油とを、質量比で、鉱油:合成油=0:100〜20:80にて混合してなり、40℃における動粘度が70〜150mm/sである基油と、増ちょう剤とを含有し、かつ、増ちょう剤投影面積率が10%以上であり、深溝玉軸受6203に0.7g封入し、スラスト荷重を29.4N負荷したときの回転開始3秒後のアンデロン値が5ANDERON以上となることを特徴とするグリース組成物。
(2)上記(1)記載のグリース組成物を封入したことを特徴とする転がり軸受。
本発明のグリース組成物は、特定の基油を用いるとともに、増ちょう剤投影面積を10%以上とし、深溝玉軸受6203に0.7g封入し、スラスト荷重を29.4N負荷したときの回転開始3秒後のアンデロン値が5ANDERON以上とすることにより、潤滑性能を維持しつつ、優れた耐フレッチング摩耗性が得られる。また、本発明の転がり軸受は、このようなグリース組成物を封入したことにより、耐フレッチング摩耗性に優れ、輸送時の繰り返し微小振動にも十分に耐え得ることに加えて、使用時の異音やはく離の発生が抑えられて長寿命となる。
フレッチング試験機を示す模式図である。 フレッチング試験を行う際の振幅比を説明するための模式図である。 フレッチング試験における損傷部の試験前と試験後の表面状態を示す模式図である。 増ちょう剤の投影面積率とアンデロン値との関係を示すグラフである。
以下、図面を参照して詳細に説明する。
〔基油〕
(種類)
グリース組成物において、基油には、鉱油と合成油とを、質量比で、鉱油:合成油=0:100〜20:80にて混合したものを用いる。即ち、基油は合成油単独、もしくは鉱油と合成油とを鉱油:合成油=20:80まで(質量比)、好ましくは0:100(合成油100%)(質量比)とした混合油である。混合油において、合成油の割合が80質量%以上(鉱油が20質量%以下)にすることにより、良好なトルク特性と耐熱性とが得られる。
尚、鉱油及び合成油の種類には制限はないが、好ましい例として以下を例示することができる。
鉱油としては、減圧蒸留、油剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、硫酸洗浄、白土精製、水素化精製等を、適宜組み合わせて精製したパラフィ系鉱油、ナフテン系鉱油が挙げられる。
合成油としては、炭化水素系油、芳香族系油、エステル系油、エーテル系油等が挙げられる。炭化水素系油としては、ノルマルパラフィン、イソパラフィン、ポリブテン、ポリイソブチレン、1−デセンオリゴマー、1−デセンとエチレンコオリゴマー等のポリ−α−オレフィンまたはこれらの水素化物等が挙げられる。芳香族系油としては、モノアルキルベンゼン、ジアルキルベンゼン等のアルキルベンゼン、あるいはモノアルキルナフタレン、ジアルキルナフタレン、ポリアルキルナフタレン等のアルキルナフタレン等が挙げられる。エステル系油としては、ジブチルセバケート、ジ−2−エチルヘキシルセバケート、ジオクチルアジペート、ジイソデシルアジペート、ジトリデシルアジペート、ジトリデシルグルタレート、メチル・アセチルシノレート等のジエステル油、あるいはトリオクチルトリメリテート、トリデシルトリメリテート、テトラオクチルピロメリテート等の芳香族エステル油、更にはトリメチロールプロパンカプリレート、トリメチロールプロパンベラルゴネート、ペンタエリスリトール−2−エチルヘキサノエート、ペンタエリスリトールベラルゴネート等のポリオールエステル油、更にはまた、多価アルコールと二塩基酸・一塩基酸の混合脂肪酸とのオリゴエステルであるコンプレックスエステル油等が挙げられる。エーテル系油としては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコールモノエーテル、ポリプロピレングリコールモノエーテル等のポリグリコール、あるいはモノアルキルトリフェニルエーテル、アルキルジフェニルエーテル、ジアルキルジフェニルエーテル、ペンタフェニルエーテル、テトラフェニルエーテル、モノアルキルテトラフェニルエーテル、ジアルキルテトラフェニルエーテル等のフェニルエーテル油等が挙げられる。これらの中でも、炭化水素系油がトルク特性が良好であるとともに、軸受のゴムシールの耐久性が良好になることから好ましい。
(動粘度)
基油は、低温起動時の異音発生や、高温で油膜が形成さえれ難いために起こる焼付きを防ぐために、40℃における動粘度が70〜150mm/sであり、好ましくは70〜130mm/sであり、より好ましくは70〜100mm/sである。
(流動点)
基油の流動点は−40℃以下であることが好ましく、流動点が−40℃より高いと低温時の耐フレッチング摩耗性に劣るようになる。
(誘電率)
基油が鉱油単独の場合、油膜厚さ向上による焼付き、摩耗を避けるために、25℃、1MHzにおける誘電率が4未満であることが好ましい。誘電率が4以上になると、グリース組成物中の増ちょう剤の凝集体面積率が低下し、油膜厚さ向上の効果が得られない。
(圧力粘度係数)
基油の40℃における圧力粘度係数は33GPa−1以下であることが好ましく、27GPa−1以下であることがより好ましい。40℃における圧力粘度係数が33GPa−1を超えると、軸受トルクが大きくなりすぎる。尚、基油の40℃における圧力粘度係数(α)は下記で表されるSo−Klausの推算式を用いて算出することができる。
α=1.030+3.509(logν3.0627
+2.412×10−4 5.1903(logν1.5975
−3.387(logν3.0975ρ0.1162
(ここで、νは基油の40℃における動粘度、mはWalterno式(ν=(10AT−m0−0.7)の定数、ρは40℃における基油の密度である。)
〔増ちょう剤〕
(種類)
増ちょう剤は、制限はないが、ジウレア化合物が好ましい。例えば、脂肪族ジウレア、脂環式ジウレア及び芳香族ジウレアを挙げることができるが、運転に伴う振動により生じるフレッチング摩耗を考慮すると、芳香族ジウレアが好ましい。
また、増ちょう剤の含有量は、グリース組成物の10〜40質量%が好ましい。増ちょう剤の含有量が10質量%未満では、グリース性状を維持することが困難になり、軸受に封入した際の漏洩率が高くなる。一方、40質量%を超えると、グリース組成物が硬くなりすぎて潤滑状態を十分に発揮することができなくなる。
(芳香族ジウレア)
芳香族ジウレアは、具体的に下記(I)式で表されるが、式中R1は炭素数6〜15の芳香族炭化水素基、R2及びR3は炭素数6〜12の芳香族炭化水素基を示し、R2及びR3は同一でも異なっていてもよい。
R2−NHCONH−R1−NHCONH−R3 ・・・(I)
(脂肪族ジウレア、脂環式ジウレア)
脂肪族ジウレアまたは脂環式ジウレアは、具体的に下記(II)式で表されるが、式中R4は炭素数6〜15の芳香族炭化水素基、R5及びR6は炭素数6〜20の脂肪族炭化水素基または炭素数6〜12のシクロヘキシル誘導体基を示し、R5及びR6の全量に占めるシクロヘキシル基の割合が50〜90モル%であり、R5及びR6は同一でも異なっていてもよい。
R5−NHCONH−R4−NHCONH−R6 ・・・(II)
(投影面積率)
増ちょう剤は、投影面積率が10%以上であることが好ましい。投影面積率が10%以上であれば、増ちょう剤により軌道面表面が良好に保護され、高温時の油膜低下を抑制し、寿命を延長することができる。好ましい投影面積率は、12%以上である。但し、投影面積率が高すぎると、相対的に基油量が減るようになり、潤滑性が低下するため、上限は50%が好ましい。
尚、増ちょう剤投影面積率は、グリース組成物の透過映像を撮影し、画像を2値化して増ちょう剤繊維を黒色、基油を白色で表わし、視野中の黒色部分が占める割合を投影面積率として求めることができる。
〔添加剤〕
グルース組成物には、必要に応じて各種添加剤を添加することができ、例えば下記に示す防錆剤や摩耗防止剤を添加することが好ましい。
(防錆剤)
防錆剤としては、カルボン酸系防錆剤、カルボン酸塩系防錆剤及びアミン系防錆剤が好ましく、これら3種を組み合わせることにより耐水性をより向上させることができる。それぞれのグリース組成物全量に対する添加量は、カルボン酸系防錆剤及びカルボン酸塩系防錆剤は、それぞれ0.1〜5質量%である。添加量が0.1質量%未満では十分な効果が得られず、5質量%を超えて添加しても効果の向上は得られない。これらを考慮すると0.5〜3質量%が好ましい。一方、アミン系防錆剤の添加量は0.1〜3質量%であり、0.1質量%未満では十分な効果が得られず、3質量%を超えて添加しても効果の向上は得られない上、軸受部材表面への吸着量が多くなりすぎて封入グリースに由来する酸化膜等の生成を阻害するおそれがある。
(カルボン酸系防錆剤)
カルボン酸系防錆剤の具体例としては、モノカルボン酸ではラウリン酸、ステアリン酸等の直鎖脂肪酸並びにナフテン酸核を有する飽和カルボン酸が挙げられる。ジカルボン酸ではコハク酸、アルキルコハク酸、アルキルコハク酸ハーフエステル、アルケニルコハク酸、アルケニルコハク酸ハーフエステル、コハク酸イミド等のコハク酸誘導体等が挙げられる。その他にもヒドロキシ脂肪酸、メルカプト脂肪酸、ザルコシン誘導体並びにワックスやペトロラタムの酸化物等の酸化ワックス等が挙げられる。中でも、コハク酸ハーフエステルが好ましい。
(カルボン酸塩系防錆剤)
カルボン酸塩系防錆剤の具体例としては、脂肪酸、ナフテン酸、アビエチン酸、ラノリン酸、アルケニルコハク酸、アミノ酸誘導体の各金属塩等が挙げられる。金属塩の金属元素としては、コバルト、マンガン、亜鉛、アルミニウム、カルシウム、バリウム、リチウム、マグネシウム、銅等が挙げられる。中でも、ナフテン酸亜鉛が好ましい。
(アミン系防錆剤)
アミン系防錆剤の具体例としては、アルコキシフェニルアミン、脂肪酸のアミン塩、二塩基性カルボン酸の部分アミド等が挙げられる。中でも、脂肪酸のアミン塩が好ましい。
(摩耗防止剤)
摩耗防止剤としては、トリフェニルフォスフェート系化合物やジチオフォスフェート系化合物のような硫黄−リン系(S−P系)が好ましく、中でも下記(III)式で表されるトリフェニルホスホロチオエート(TPPT)が特に好ましい。尚、摩耗防止剤の添加量は、グリース組成物全量の0.1〜5質量%が好ましく、0.1質量%未満では十分な効果が得られず、5質量%を超えても効果の向上は見られない。
Figure 2015229705
(その他添加剤)
上記した防錆剤等の他にも、所望により、酸化防止剤や極圧剤、油性向上剤、金属不活性化剤等をそれぞれ単独で、または2種以上を併用して添加することもできる。これらその他の添加剤の添加量は、本発明の効果を損なわない範囲であれば制限はないが、グリース組成物全量に対して1〜20質量%が好ましい。添加賞が0.1質量%未満では添加効果が十分に得られず、20質量%を超えて添加しても効果が飽和するとともに、相対的に基油量が少なくなるため潤滑性が低下するおそれがある。
(酸化防止剤)
酸化防止剤としては、アミン系酸化防止剤、フェノール系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、ジチオリン酸亜鉛等が挙げられる。
(アミン系酸化防止剤)
アミン系酸化防止剤の具体的としては、フェニル−1−ナフチルアミン、フェニル−2−ナフチルアミン、ジフェニルアミン、フェニレンジアミン、オレイルアミドアミン、フェノチアジン等が挙げられる。
(フェノール系酸化防止剤)
フェノール系酸化防止剤の具体例としては、p−t−ブチル−フェニルサリシレート、2,6−ジ−t−ブチル−p−フェニルフェノール、2,2´−メチレンビス(4−メチル−6−t−オクチルフェノール)、4、4´−ブチリデンビス−6−t−ブチル−m−クレゾール、テトラキス〔メチレン−3−(3´,5´−ジ−t−ブチル−4´−ヒドキシフェニル)プロピオネート〕メタン、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、n−オクタデシル−β−(4´−ヒドロキシ−3´,5´−ジ−t−ブチルフェニル)プロピオネート、2−n−オクチル−チオ−4,6−ジ(4´−ヒドロキシ−3´,5´−ジ−t−ブチル)フェノキシ−1,3,5−トリアジン、4、4´−チオビス(6−t−ブチル−m−クレゾール)、2−(2´−ヒドロキシ−3´−t−ブチル−5´−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール等のヒンダードフェノール等が挙げられる。
(極圧剤)
極圧剤の具体例としては、有機モリブデン等が挙げられる。
(油性向上剤)
油性向上剤の具体例としては、オレイン酸やステアリン酸等の脂肪酸、ラウリルアルコールやオレイルアルコール等のアルコール、ステアリルアミンやセチルアミン等のアミン、リン酸トリクレジル等のリン酸エステル、動植物油等が挙げられる。
(金属不活性化剤)
金属不活性化剤として、例えばベンゾトリアゾール等が挙げられる。
(グリース組成物を深溝玉軸受6202に0.7g封入し、スラスト荷重を29.4N負荷したときの回転開始3秒後のアンデロン値が5ANDERON以上)
本発明のグリース組成物は、深溝玉軸受6202に0.7g封入し、スラスト荷重を29.4N負荷したときの回転開始3秒後のアンデロン値が5ANDERON以上であるが、このようなアンデロン値を満足すると増ちょう剤繊維の凝集が適度に不均一になり、増ちょう剤繊維構造から基油が分離し易くなり、微小振動下での潤滑性に優れてフレッチング摩耗を抑制することができる。好ましくは、10ANDERON以上である。但し、このアンデロン値が大きすぎると、転がり軸受内部で発生する振動が大きくなりすぎるため、上限は40ANDERONが好ましい。
(グリース組成物の製造方法)
上記成分を含有するグリース組成物の製造方法には制限はなく、目的に応じて適宜選択されるが、増ちょう剤をジアミン化合物とする場合には、基油中でジアミン化合物の原料を反応させた後、防錆剤や摩耗防止剤をそれぞれ所定量添加し、ニーダやロールミル等で十分に撹拌し、均一分散して得られる。尚、この処理に際し、加熱することも有効である。また、その他の添加剤を添加する場合は、防錆剤や摩耗防止剤と同時に添加することが工程上好ましい。
〔転がり軸受〕
本発明はまた、上記のグリース組成物を封入した転がり軸受に関する。転がり軸受には制限はなく、玉軸受やころ軸受、針軸受、円錐ころ軸受、球面ころ軸受、スラスト軸受等に適用することができる。また、自動車の車軸支持軸受のように軸受ユニットであってもよい。そして、上記のグリース組成物による効果、即ち耐フレッチング摩耗性等に優れるようになる。
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明を更に説明するが、本発明はこれにより何ら制限されるものではない。
(実施例1〜25、比較例1〜17)
表1に示す組成にて、実施例及び比較例の各グリース組成物を調製した。尚、基油における鉱油及びポリαオレフィン油の配合量は、基油全量に占める割合である。また、増ちょう剤、酸化防止剤、防錆剤及び摩耗防止剤の配合量は質量%であり、残部が基油で、基油を含めた合計で100質量%である。
表中の鉱油M1は40℃における動粘度が30mm/sの鉱油、鉱油M2は40℃における動粘度が70mm/sの鉱油、鉱油M3は40℃における動粘度が75mm/sの鉱油、鉱油M4は40℃における動粘度が100mm/sの鉱油、鉱油M5は40℃における動粘度が130mm/sの鉱油、鉱油M6は40℃における動粘度が150mm/sの鉱油である。また、ポリαオレフィン油P1は40℃における動粘度が30mm/sの合成油、ポリαオレフィン油P2は40℃における動粘度が70mm/sの合成油、ポリαオレフィン油P3は40℃における動粘度が75mm/sの合成油、ポリαオレフィン油P4は40℃における動粘度が100mm/sの合成油、ポリαオレフィン油P5は40℃における動粘度が130mm/sの合成油、ポリαオレフィン油P6は40℃における動粘度が150mm/sの合成油、ポリαオレフィン油P7は40℃における動粘度が400mm/sの合成油である。尚、基油の40℃における圧力粘度係数は、So−Klausの推算式を用いて算出した。
また、増ちょう剤の芳香族ジウレアは、4,4´−ジレニルメタンジイソシアネートとp−トルイジンとの生成反応物であり、脂環式ジウレアは4,4´−ジレニルメタンジイソシアネートとシクロヘキシルアミンとの生成反応物であり、脂肪族ジウレアは4,4´−ジレニルメタンジイソシアネートとステアリルアミンとの反応生成物である。
更に、グリース組成物のちょう度は、NLGI(米国グリース協会規格:National Lubricating Grease Institute)No.1〜3に調整した。
そして、グリース組成物を(1)増ちょう剤投影面積率、(2)アンデロン値、(3)基油誘電率、(4)軸受トルク試験、(5)フレッチング試験、(6)転がり四球試験、(7)摩耗試験、(8)軸受漏洩試験、(9)高速四球試験、(10)高温放置試験及び(11)基油油膜厚さ比の測定または試験に供した。測定方法または試験方法は以下の通りである。結果を表1に示す。
(1)増ちょう剤投影面積率
グリース組成物をスライドガラスに厚さ0.1mmで塗布し、光学顕微鏡写真(OLYMPUS「BX51」)を光学5倍レンズにて撮影し、画像処理して黒色部分を増ちょう剤、白色部分を基油と見做し、視野中の黒色部分の面積割合を算出した。
(2)アンデロン値
日本精工(株)製アンデロンメータに、グリース組成物を0.7g封入した深溝玉軸受6202を取り付け、スラスト荷重を29.4N付与する。そして、回転数1800min−1で回転開始後、3秒後のアンデロン値を測定した。「アンデロン値」は、転がり軸受の外輪を固定し、内輪を回転させたときに、軸受内部で発生し、外輪に伝達されるラジアル方向の振動成分であり、アンデロンメータにより求められる。
(3)基油誘電率
グリース組成物の基油について、LCRメータにて誘電率を測定した。尚、測定値は、1MHz時の値である。
(4)軸受トルク試験
非接触シール付単列深溝玉軸受(内径17mm、外径40mm、幅12mm)に、グリース組成物を充填して供試軸受を作製した。そして、供試軸受を、回転数450min−1、アキシアル荷重392N、ラジアル荷重29.4Nにて600秒間回転させた後、回転トルクを測定した。評価基準は、比較例1に対する相対トルク値が1.0未満であるときに合格とした。
(5)フレッチング試験
内径25mm、外径52mm、高さ18mmの単式スラスト玉軸受(銘番:51305)に、グリース組成物を同量ずつ封入して供試軸受を作製した。そして、供試軸受を図1に示す日本精工(株)製フレッチング試験機に装着し、下記の試験条件にてフレッチング試験を行った。尚、供試軸受は、損傷部の最大高さ(Ry)を測定するために、下レースにラッピングを施したディスク試験片を用いている。
・最大面圧:3.2GPa
・最大揺動速度:20mm/s
・揺動回数:10000回
・振幅比:2.0
振幅比は、図2に示すように、接触円直径(D)と振幅(A)との比「A/D」である。供試軸受では揺動に伴いディスク試験片が摩耗し、図3に示すように、接触楕円の周上に摩耗粉が溜まり、その部分が大きく損傷する。そこで、試験前後でディスク試験片の表面を干渉顕微鏡で観測して損傷部の最大高さ(Ry)を測定し、試験前後のRyの比(損傷比=試験後のRy/試験前のRy)を求めることでフレッチングの軽減効果を評価することができる。損傷が少ないほど損傷比は1に近づき、下記の3ランクに分類した。A,Bランクが合格である。
Aランク:3.0未満
Bランク:3.0以上8.0未満
Cランク:8.0以上
(6)転がり四球試験(耐水性試験)
四球試験により、グリース組成物の耐水性を評価した。即ち、直径15mmの軸受用鋼球を3個用意し、底面の内径36.0mm、上端部の内径31.63mm、深さ10.98mmの円筒状容器内に正三角形状に置き、グリース組成物に水を20%混入させたものを20g塗布し、更に3個の鋼球で形成される窪みに直径5/8インチの軸受用鋼球を1個載せ、室温で、直径5/8インチの軸受用鋼球を面圧4.1GPaの負荷を加えながら1000min−1で回転させた。これにより、3個の直径15mmの軸受用鋼球も自転しながら公転するが、はく離が生じるまで連続回転させた、そして、はく離が生じた時点の総回転数を寿命とした。
(7)摩擦試験
ボールオンディスク試験機にて、グリース組成物の滑り摩擦係数を測定した。試験片には、ボールに3/8インチ、ディスクに鏡面仕上げをしたSUJ2を用いた。試験条件は、ディスクにグリース組成物を厚さ0.5mmで塗布し、垂直荷重4.9N、滑り速度1m/sとし、試験開始1秒後から2秒後までの1秒間の摩擦係数の平均をグリース組成物の摩擦係数とした。評価基準は、比較例1に対する相対値であり、1.0未満を合格とした。
(8)軸受漏洩試験
グリース組成物を、非接触シール付の単列深溝玉軸受(内径25mm、外径62mm、幅17mm)に封入し、外輪温度80℃、アキシアル荷重98N、ラジアル荷重98N、回転速度5000min−1にて20時間連続回転させ、回転前後の重量差からグリース組成物の漏洩率を測定した。評価基準は、比較例1に対する相対値であり、2.0以下を合格とした。
(9)高速四球試験(耐摩耗性試験)
ASTM D2596に規定された高速四球試験により、グリース組成物の耐摩耗性を評価した。即ち、グリース組成物で充填された試験容器に3個の固定球を正三角形状に固定し、3個の鋼球で形成された窪みに、回転軸に取り付けた1個の回転球を置き、所定の荷重を加えながら1770min−1で10秒間回転させ、そのとき固定球に生じた摩耗痕を測地した。そして、摩耗痕の平均直径がASTM D2596に記された補償摩耗痕径値より小さくなるときの荷重(最大非焼付き荷重)を求めた。また、回転球を同様に回転させ、溶着が生じた時の荷重(溶着荷重)を求めた。そして、耐摩耗性は最大非焼付き荷重が490N以上、溶着荷重が1236N以上であるときに、それぞれ合格(Good)とし、それ未満を不合格(NG)とした。
(10)高温放置試験(熱安定性試験)
グリース組成物を金属板に厚さ2mmで塗布し、150℃の恒温槽に入れ、200時間放置した。恒温槽から取り出し、水酸化カリウムで全酸価を測定し、恒温放置する前のグリース組成物の全酸価との差を算出した。この全酸価の差が大きいほどグリース組成物の酸化が進み、劣化していることを示しており、全酸化の差がマイナスであるものを合格とした。
(11)基油油膜厚さ比
ボールオンディスク試験機(室温、面圧0.5GPa、転がり速度0.1m/s)で、光干渉計を用いて基油及びグリース組成物の油膜厚さを測定し、基油の油膜厚さに対するグリース組成物の油膜厚さの比を求めた。
Figure 2015229705
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表1及び図4に示すように、合成油、もしくは鉱油と合成油との混合油を基油とし、増ちょう剤投影面積率が10%以上で、深溝玉軸受6202に0.7g封入しスラスト荷重29.4N負荷し、回転3秒後のアンデロン値が5ANDERON以上である実施例のグリース組成物は、耐フレッチング摩耗性、低トルク性、油膜形成性及び軸受に封入した際の耐漏洩性に優れることが分かる。これに対し、比較例のグリース組成物は、基油、増ちょう剤投影面積率及びアンデロン値の何れかが本発明の範囲外であるため、潤滑性に劣り、トルク特性、耐フレッチング摩耗性、耐焼付き性、耐漏洩性の何れかが劣っている。
また、カルボン酸系防錆剤、カルボン酸塩系防錆剤及びアミン系防錆剤の3種及び摩耗防止剤を添加することにより、耐はく離性、耐摩耗性、耐フレッチング摩耗性及び耐食性に優れるようになる。これに対し、3種の防錆剤の組み合わせではなく、防錆剤としてバリウムスルホネートを用いた場合には、耐はく離性及び耐食性に劣るようになる。また、カルボン酸系防錆剤、カルボン酸塩系防錆剤及びアミン系防錆剤には全酸価増加を抑制する効果もある。防錆剤の含有量と全酸価増加量との関係から、全酸価が減少するグリース組成物、即ち、熱安定性の高いグリース組成物を提供するためには、防錆剤の添加量がグリース組成物全量の1質量%以上必要であるといえる。
また、摩耗防止剤を添加しない場合には、十分な耐摩耗性が得られていない。
更に、増ちょう剤として脂肪族ジウレアを用いると、耐フレッチング摩耗性に劣るようになる。
以上のように、本発明によれば、耐フレッチング摩耗性、低トルク性、耐摩耗性、耐水性、低摩擦特性及び軸受に封入した際の耐漏洩性に優れ、良好な潤滑状態を長時間維持できるグリース組成物が提供できる。

Claims (2)

  1. 鉱油と合成油とを、質量比で、鉱油:合成油=0:100〜20:80にて混合してなり、40℃における動粘度が70〜150mm/sである基油と、増ちょう剤とを含有し、かつ、増ちょう剤投影面積率が10%以上であり、深溝玉軸受6203に0.7g封入し、スラスト荷重を29.4N負荷したときの回転開始3秒後のアンデロン値が5ANDERON以上となることを特徴とするグリース組成物。
  2. 請求項1記載のグリース組成物を封入したことを特徴とする転がり軸受。
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