JP2015222275A - 生成イオンスペクトルのデータ独立取得および参照スペクトルライブラリ照合 - Google Patents

生成イオンスペクトルのデータ独立取得および参照スペクトルライブラリ照合 Download PDF

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Abstract

【課題】生成イオンスペクトルのデータ独立取得および参照スペクトルライブラリ照合の提供。【解決手段】システムおよび方法は、試料の全検出可能化合物の全生成イオンスペクトルの電子記録を記憶するために使用される。複数の生成イオンスキャンは、複数の質量選択窓を使用して、ある質量範囲にわたる単一の試料分析において1回以上タンデム質量分析計上で実施される。各質量選択窓に対する全検出可能化合物の全試料生成イオンスペクトルが生成される。各質量選択窓に対する全試料生成イオンスペクトルは、プロセッサを使用してタンデム質量分析計から受信される。各質量選択窓に対する全試料生成イオンスペクトルは、プロセッサを使用して試料の全検出可能化合物の電子記録として記録される。電子記録は、電子記録が記憶される時に既知の化合物を特徴づけるために使用され、電子記録が記憶された後、既知となった化合物を特徴づけるためにも使用される。【選択図】図4

Description

(関連出願の引用)
本願は、米国仮特許出願第61/383,137号(2019年9月15日出願)および欧州特許出願第10009595.9号(2010年9月15日出願)の利益を主張する。これらの出願は、その全体が参照により本明細書に引用される。
質量分析は、長年、複合混合物中の化合物を同定および定量化するために使用されてきた。典型的化合物として、タンパク質、ペプチド、薬学的化合物、および派生物、例えば、代謝物、乱用薬物、殺虫剤等が挙げられ得るが、それらに制限されない。一般的質量分析技法は、タンデム質量分析である。タンデム質量分析では、前駆体イオンが、質量分析器によって選択され、ある方法で断片化され、断片が、第2の質量分析器または第1の分析器の第2のスキャンにおいて分析される。生成された断片は、同定または定量化のために使用することができる。
定量化のための一般的技法は、選択反応モニタリング(SRM)である。SRMは、長い間、小分子を定量化するために使用されてきたが、近年、ペプチド、タンパク質、および他の生物学的化合物、例えば、脂質ならびに炭水化物にも適用されている。SRMは、典型的には、三連四重極器具上で行われ、第1および第2の質量分析器は、質量分離ピーク幅約0.7を有し、前駆体および断片質量(遷移として知られる)の1つ以上の組み合わせが、液体クロマトグラフ質量分析(LC−MS)の間、モニタリングされる。
その感度およびロバスト性にも関わらず、SRMは、少なくとも、その用途を制限する、以下の課題を有する。
1.測定される化合物は、データ取得に先立って定義されなければならず、モニタリングされる遷移は、着目化合物の実験的断片スペクトルから、またはそのようなスペクトルのライブラリから、決定されなければならない。
2.得られる情報は、単一分析の間に測定することができる遷移、ひいては、化合物の数がいくつかの理由から制限されるので、不完全である。クロマトグラフピークは、定量化が、遷移のクロマトグラム内のピークの高さまたは領域、すなわち、遷移対時間に対する応答のプロットに基づくので、明確に定義されなければならない。したがって、一式の遷移を測定するために費やす時間を可能な限り短く維持する必要がある。感度(検出することができる材料の最小量)は、遷移をモニタリングするために費やす時間の長さ(滞留時間)に依存し、したがって、感度が良いほど時間がかかり、分析することができる化合物が少なくなることを意味する。正確な化合物が同定されたことの信頼性は、通常、いくつかの遷移が測定され、その応答が、標準的スペクトルから予期されるものと比較されることを要求する。これは、特に、質量透過窓が、複合混合物において、1つ以上の前駆体または断片が、同時に選択され得るように、比較的に幅広の場合に該当し、標的断片イオンの測定に干渉する。精密かつ正確な定量化は、標的化合物と区別することができる異なる遷移をもたらす確証的標準材料(典型的には標的化合物の同位体で標識された形態)を含むことを必要とする。すなわち、これらも、モニタリングされなければならず、したがって、分析することができる化合物の全体的数を低減させる。
3.さらに、利用可能なデータは、分析が実施されるまでに定義されたものに制限される。したがって、多くの場合、異なるまたは追加の遷移が、定量化の信頼性の精度を改善するためにモニタリングされなければならない場合、または追加のデータが、標的化合物の異なる化合物または修飾形態を検出するために要求される場合、試料を再分析し、追加のデータを作成する必要がある。
4.制限された数の化合物のみ、1度に分析することができるので、試料中に存在する全化合物に対するデータを得ることは、多くの別個の分析を要求する。
ある代替取得方法は、高低断片化と低断片化とを有するスキャンを交互に実施を行い、スキャンは、次いで、グループをなす前駆体(低エネルギー)および断片(高エネルギー)を決定するために処理される。(SRMと同様に)本データから抽出されたイオントレースに基づく定量化は、複合混合物では、多くのイオンが同時に断片化されることができるので、干渉を被りやすい。
他の代替取得方法は、着目質量範囲にわたって段階的である小質量窓を選択するが、質量範囲全体の完全な網羅は、多数の分析を要求し、相当な時間がかかる。
したがって、同一分析において分析することができる化合物の数、ひいては、完全な網羅が要求される場合の試料処理量、および感度と、定量化挙動を劣化させる干渉を検出する可能性との間にトレードオフが存在する。
本方法は、動的定量的標的遷移および標的化合物の修飾形態(代謝物または翻訳後修飾物等)を、試料に関するデータを再取得することなく決定することを可能にする。
種々の実施形態では、システムおよび方法は、全検出可能化合物の記録を作成する方法を提供し、該方法は、全化合物の断片スペクトルを作成するデータ取得方法と、標的データ分析方法との新規組み合わせを含む。
本願明細書は、例えば、以下の項目も提供する。
(項目1)
試料の全検出可能化合物の全生成イオンスペクトルの電子記録を記憶するためのシステムであって、
複数の質量選択窓を使用して、ある質量範囲にわたる単一の試料分析において、1回以上、複数の生成イオンスキャンを行うタンデム質量分析計であって、前記タンデム質量分析計は、各質量選択窓に対する全検出可能化合物の全試料生成イオンスペクトルを生成する、タンデム質量分析計と、
前記タンデム質量分析計と通信しているプロセッサであって、前記プロセッサは、各質量選択窓に対する前記全試料生成イオンスペクトルを前記タンデム質量分析計から受信し、各質量選択窓に対する前記全試料生成イオンスペクトルを前記試料の全検出可能化合物の電子記録として記憶する、プロセッサと
を備え、
前記電子記録は、前記電子記録が記憶される時に、既知の化合物を特徴づけるために使用され、前記電子記録が記憶された後、既知となった化合物を特徴づけるためにも使用される、システム。
(項目2)
前記複数の質量選択窓の各質量選択窓は、15amuより大きい幅を有している、項目1に記載のシステム。
(項目3)
前記プロセッサは、既知の化合物に対応する所定の生成イオンスペクトルを受信することと、1つ以上の質量選択窓に対する前記全試料生成イオンスペクトルを前記電子記録から受信することと、前記所定の生成イオンスペクトルの所定の生成イオンを1つ以上の質量選択窓に対する前記全試料生成イオンスペクトルの試料生成イオンと比較することとをさらに行い、前記比較からの1つ以上の合致する試料生成イオンは、前記試料における検出可能な前記既知の化合物を特徴づける、項目1に記載のシステム。
(項目4)
前記既知の化合物は、ペプチド、タンパク質、完全プロテオーム、内因性代謝産物、脂質、炭水化物、またはそれらの組み合わせのうちの1つ以上を備えている、項目3に記載のシステム。
(項目5)
前記既知の化合物は、薬学的、環境的、法医学的、または産業的重要性がある1つ以上の化合物を備えている、項目3に記載のシステム。
(項目6)
前記所定の生成イオンスペクトルは、前記既知の化合物の確証的基準、前記化合物を含む試料の分析、または、既存のスペクトルライブラリから決定され、または、前記所定の生成イオンスペクトルは、実験的または推測的な断片化または修飾規則を前記既知の化合物に適用することによって、コンピュータ的に作成される、項目3に記載のシステム。
(項目7)
前記プロセッサは、前記所定の生成イオンと前記試料生成イオンとがいかに良く合致するかを表すスコアを計算することによって、前記所定の生成イオンスペクトルの所定の生成イオンを1つ以上の質量選択窓に対する前記全試料生成イオンスペクトルの試料生成イオンと比較する、項目3に記載のシステム。
(項目8)
前記単一の試料分析の試料化合物を経時的に分離する分離デバイスをさらに備え、前記タンデム質量分析計は、前記試料化合物が分離されるにつれて、前記単一の試料分析に関する複数の生成イオンスキャンを実施する、項目7に記載のシステム。
(項目9)
前記スコアは、前記所定の生成イオンのトレースにおけるピークが前記試料生成イオンのトレースにおけるピークにいかに良く合致するかに基づいてさらに計算される、項目8に記載のシステム。
(項目10)
前記プロセッサは、前記比較からの1つ以上の合致する試料生成イオンをさらに使用し、前記試料の化合物に対する定量的値を計算する、項目9に記載のシステム。
(項目11)
前記プロセッサは、前記比較からの1つ以上の合致する試料生成イオンをさらに使用し、前記既知の化合物の1つ以上の化合物の修飾形態を同定する、項目3に記載のシステム。
(項目12)
前記プロセッサは、前記合致する試料イオンを前記所定のイオンおよび前記修飾から予測される質量と比較することにより、前記修飾の種類および場所を特徴づける、項目11に記載のシステム。
(項目13)
前記プロセッサは、前記同定された修飾形態における前記修飾の種類および場所を特徴づけるために、前記同定された修飾形態のスペクトルを前記電子記録からさらに抽出する、項目11に記載のシステム。
(項目14)
試料の全検出可能化合物の全生成イオンスペクトルの電子記録を記憶する方法であって、
タンデム質量分析計を使用して、ある質量範囲にわたる単一の試料分析において、1回以上、複数の生成イオンスキャンを行うことであって、前記単一の試料分析は、複数の質量選択窓を使用して、各質量選択窓に対する全検出可能化合物の全試料生成イオンスペクトルを生成する、ことと、
プロセッサを使用して、各質量選択窓に対する前記全試料生成イオンスペクトルを前記タンデム質量分析計から受信することと、
前記プロセッサを使用して、各質量選択窓に対する前記全試料生成イオンスペクトルを前記試料の全検出可能化合物の電子記録として記憶することと
を含み、
前記電子記録は、前記電子記録が記憶される時に、既知の化合物を特徴づけるために使用され、前記電子記録が記憶された後、既知となった化合物を特徴づけるためにも使用される、方法。
(項目15)
そのコンテンツがプログラムを含む有形コンピュータ可読記憶媒体を備えているコンピュータプログラム製品であって、前記プログラムは、試料の全検出可能化合物の全生成イオンスペクトルの電子記録を記憶する方法を実施するようにプロセッサ上で実行される命令を有し、前記方法は、
システムを提供することであって、前記システムは、1つ以上の個別のソフトウェアモジュールを備え、前記個別のソフトウェアモジュールは、測定モジュールおよび記憶モジュールを備えている、ことと、
前記測定モジュールを使用して、タンデム質量分析計から各質量選択窓に対する全検出可能化合物の全試料生成イオンスペクトルを受信することであって、前記タンデム質量分析計は、複数の質量選択窓を使用して、ある質量範囲にわたる単一の試料分析において、1回以上、複数の生成イオンスキャンを実施する、ことと、
前記記憶モジュールを使用して、各質量選択窓に対する前記全試料生成イオンスペクトルを前記試料の全検出可能化合物の電子記録として記憶することと
を含み、
前記電子記録は、前記電子記録が記憶される時に、既知の化合物を特徴づけるために使用され、前記電子記録が記憶された後、既知となった化合物を特徴づけるためにも使用される、コンピュータプログラム製品。
当業者は、後述の図面が、例証目的に過ぎないことを理解するであろう。図面は、本教示の範囲をいかようにも制限することを意図するものではない。
図1は、本教示の実施形態が実装され得る、コンピュータシステムを例証するブロック図である。 図2は、種々の実施形態による、質量分析器の段階的前駆体イオン選択窓を使用して、データが、完全な質量範囲に対して取得される方法を示す、概略図である。 図3は、種々の実施形態による、参照スペクトルライブラリから決定された断片に対して、図2のイオントレースから抽出された質量トレースを示す、例示的プロットである。 図4は、種々の実施形態による、試料の全検出可能化合物の全生成イオンスペクトルの電子記録を記憶するためのシステムを示す、概略図である。 図5は、種々の実施形態による、試料の全検出可能化合物の全生成イオンスペクトルの電子記録を記憶する方法を示す、例示的流れ図である。 図6は、種々の実施形態による、試料の全検出可能化合物の全生成イオンスペクトルの電子記録を記憶する方法を実施する、1つ以上の個別のソフトウェアモジュールを含む、システムの概略図である。
本教示の1つ以上の実施形態を詳細に説明する前に、当業者は、本教示が、その適用において、以下の発明を実施するための形態に記載される、または図面に例証される、構造、構成要素の配列、およびステップの配列の詳細に制限されないことを理解するであろう。また、本明細書で使用される表現および専門用語は、説明の目的のためであって、制限としてみなされるべきではないことを理解されたい。
(コンピュータ実装システム)
図1は、本教示の実施形態が実装され得る、コンピュータシステム100を例証するブロック図である。コンピュータシステム100は、情報を通信するためのバス102または他の通信機構と、情報を処理するためにバス102と結合されたプロセッサ104とを含む。コンピュータシステム100は、プロセッサ104によって実行される命令を記憶するために、バス102に結合されるランダムアクセスメモリ(RAM)または他の動的記憶デバイスであり得るメモリ106も含む。メモリ106は、プロセッサ104によって実行される命令の実行の間、一時的変数または他の中間情報を記憶するためにも使用され得る。コンピュータシステム100は、プロセッサ104のための静的情報および命令を記憶するために、バス102に結合された読取専用メモリ(ROM)108または他の静的記憶デバイスをさらに含む。磁気ディスクまたは光ディスク等の記憶デバイス110は、情報および命令を記憶するために提供され、バス102に結合される。
コンピュータシステム100は、情報をコンピュータユーザに表示するために、バス102を介して、ブラウン管(CRT)または液晶ディスプレイ(LCD)等のディスプレイ112に結合され得る。英数字および他のキーを含む入力デバイス114は、情報およびコマンド選択をプロセッサ104に通信するために、バス102に結合される。別のタイプのユーザ入力デバイスは、方向情報およびコマンド選択をプロセッサ104に通信し、ディスプレイ112上のカーソル移動を制御するためのマウス、トラックボール、またはカーソル方向キー等のカーソル制御116である。本入力デバイスは、典型的には、デバイスが平面において位置を指定することを可能にする2つの軸、すなわち、第1の軸(すなわち、x)および第2の軸(すなわち、y)において、2自由度を有する。
コンピュータシステム100は、本教示を実施することができる。本教示のある実装によると、結果は、メモリ106内に含まれる1つ以上の命令の1つ以上のシーケンスをプロセッサ104が実行することに応答して、コンピュータシステム100によって提供される。そのような命令は、記憶デバイス110等の別のコンピュータ可読媒体から、メモリ106内に読み込まれ得る。メモリ106内に含まれる命令のシーケンスの実行は、プロセッサ104に、本明細書に説明されるプロセスを行わせる。代替として、有線回路が、本教示を実装するためのソフトウェア命令の代わりに、またはそれと組み合わせて、使用され得る。したがって、本教示の実装は、ハードウェア回路およびソフトウェアの任意の具体的組み合わせに制限されない。
用語「コンピュータ可読媒体」は、本明細書で使用される場合、実行のために、命令をプロセッサ104に提供する際に関与する任意の媒体を指す。そのような媒体は、不揮発性媒体、揮発性媒体、および伝送媒体を含むが、それらに制限されない、多くの形態をとり得る。不揮発性媒体は、例えば、記憶デバイス110等の光学または磁気ディスクを含む。揮発性媒体は、メモリ106等の動的メモリを含む。伝送媒体は、バス102を備えている配線を含む、同軸ケーブル、銅線、および光ファイバを含む。
コンピュータ可読媒体の一般的形態として、例えば、フロッピー(登録商標)ディスク、フレキシブルディスク、ハードディスク、磁気テープ、または任意の他の磁気媒体、CD−ROM、デジタルビデオディスク(DVD)、ブルーレイディスク、任意の他の光学媒体、サムドライブ、メモリカード、RAM、PROM、およびEPROM、フラッシュ−EPROM、任意の他のメモリチップまたはカートリッジ、あるいはコンピュータが読み取ることができる、任意の他の有形媒体が挙げられる。
コンピュータ可読媒体の種々の形態は、実行のために、1つ以上の命令の1つ以上のシーケンスをプロセッサ104に搬送することに関わり得る。例えば、命令は、最初は、遠隔コンピュータの磁気ディスク上で搬送され得る。遠隔コンピュータは、命令をその動的メモリ内にロードし、モデムを使用して、電話回線を介して、命令を送信することができる。コンピュータシステム100にローカルのモデムは、データを電話回線上で受信し、赤外線送信機を使用して、データを赤外線信号に変換することができる。バス102に結合された赤外線検出器は、赤外線信号で搬送されるデータを受信し、データをバス102上に配置することができる。バス102は、データをメモリ106に搬送し、そこから、プロセッサ104は、命令を読み出し、実行する。メモリ106によって受信された命令は、随意に、プロセッサ104による実行の前後に、記憶デバイス110上に記憶され得る。
種々の実施形態による、方法を実施するためにプロセッサによって実行されるように構成される命令は、コンピュータ可読媒体上に記憶される。コンピュータ可読媒体は、デジタル情報を記憶するデバイスであることができる。例えば、コンピュータ可読媒体は、ソフトウェアを記憶するために、当技術分野において周知のように、コンパクトディスク読取専用メモリ(CD−ROM)を含む。コンピュータ可読媒体は、実行されるように構成される命令を実行するために好適なプロセッサによってアクセスされる。
本教示の種々の実装の以下の説明は、例証および説明の目的のために提示される。包括的でもなく、本教示を開示される精密な形態に制限するものでもない。修正および変形例は、前述の教示に照らして可能である、または本教示の実践から取得され得る。加えて、説明される実装は、ソフトウェアを含むが、本教示は、ハードウェアおよびソフトウェアの組み合わせとして、またはハードウェア単独において、実装され得る。本教示は、オブジェクト指向および非オブジェクト指向両方のプログラミングシステムによって実装され得る。
(データ処理のシステムおよび方法)
前述のように、従来の質量分析方法では、同一分析において分析することができる、化合物の数、および感度と、定量化挙動を劣化させる干渉を検出する可能性間にトレードオフが存在する。
したがって、既知の化合物を定量化し、既知の化合物の修飾形態を決定および定量化し、または未知の修飾の種類および場所を決定するために使用することができる、複合混合物中に存在する全検出可能化合物の完全な記録を提供する方法の必要性が存在する。さらに、記録は、データが取得されたとき、またはその後のある時点において、これらの動作が実施されることができるように記憶されるべきである。そのような記録は、使用される分離デバイスおよび質量分析計システムによって検出することができる全化合物の完全な分析を可能にする。
現在の選択反応モニタリング(SRM)方法論は、試料注入に先立って、方法を工夫するための長時間の準備作業を要求する(参照スペクトルライブラリ作成を含む)。すなわち、それは、注入あたりの制限された数のペプチドの遷移のモニタリングを可能にし、それは、モニタリングされるペプチドの同定を確認するための参照ライブラリ照合による広範なデータ分析を要求し、それは、定量化精度を改善するための新しいデータの取得(汚染された遷移を新しいものと置換することによって)、および/または定量化をオリジナルデータセットに記載されていない新しい遷移および/または検体に拡張するための新しいデータの取得を要求する。
種々の実施形態では、システムおよび方法は、SRMアプローチの現在の制限を解決し、単一試料注入から、反復的かつ再帰的に、プロテオーム全体の探測を可能にする。これらのシステムおよび方法は、SRMアプローチの現在の制限を解決するが、SRMまたはSRMが適用される実験の種類にいかようにも制限されない。これらのシステムおよび方法は、データ分析のための生物情報工学的パイプラインと、一緒に設定される新規LC−MS取得との組み合わせを備えている。種々の実施形態の詳細は、以下に提示される。
(方法設定)
SRMと対照的に、種々の実施形態は、試料注入に先立って、任意の予備方法設計を要求しない。LC−MS取得は、記録された質量および保持時間範囲(以下参照)にわたって、試料の完全な検体内容を対象とすることができるので、データは、任意の着目化合物に対して、事後的にマイニングすることができる。保持時間および質量範囲は、特定の着目範囲に対して、情報を作成するように設定され得る。
(LC−MS取得方法)
種々の実施形態では、取得方法は、クロマトグラフィによって検出可能な全化合物および使用される質量範囲を対象とする。すなわち、これらは、可能な限り多くの化合物を検出するように、広範かつ一般的であることができるか、または特定の着目化合物または化合物の種類に焦点を当てるように調節することができる。前駆体イオンの幅広の窓、例えば、>10、>15、>20amuは、窓に存在する全前駆体の断片スペクトルを作成するように選択および断片化される。窓は、前駆体空間の残りを対象とするように、段階的に移動され、例えば、窓幅25amuの場合、第1の窓は、100−125、第2の窓は、125−150、第3の窓は、150−175を対象とし得る。
窓は、化合物の全同位体形態が、少なくとも1つの窓内に一緒に存在することを確実にするように重複させることができる。窓は、重複が、小さく維持され、かつ要求される窓の数を最小にすることができるように、比較的に正方形形状を有することが有益である。
したがって、質量範囲全体に対するデータを取得するために要求される時間は、断片化される前駆体の数ではなく、窓の数およびその蓄積時間に依存する。時間は、分離によって生成されるピークの忠実性を維持するために十分に短い。
質量範囲全体に対する生成イオンスペクトルを作成することは、分離システムが使用されるかどうかに応じて、1回以上、反復される。全断片化されていない前駆体イオンの質量スペクトルが、サイクルの一部として含まれることができる。取得されたデータはすべて、後のマイニングのために記憶される。窓の幅は、一定であることも可変であることもできる。
図2は、データが、種々の実施形態による、質量分析器の段階的前駆体イオン選択窓を使用して、完全な質量範囲に対して取得される方法を示す、概略図200である。略図200は、全断片イオンスペクトルのデータ独立取得が、クロマトグラフィ230全体の間、反復的に、質量範囲220全体にわたって、段階的に、質量分析器の分離窓をパンすることによって得られる、LC−MS法を描写する。略図200は、例えば、LC−MSマップである。略図200内の各サイクルの開始前の鎖線は、分析プロセスのために必要とされる場合、断片イオンをそれらが発生する前駆体に再関連付けするために使用することもできる、高分解能の正確な質量検査(MS1)スキャンの随意の取得を描写することに留意されたい。
略図200のデータは、各分離窓に対して取得された生成イオンスペクトルを別個のMS2マップ内に組み合わせることによって解釈することができる。MS2マップ240は、分離窓210に対する全生成イオンスペクトルの例示的組み合わせである。MS2マップ240は、質量対電荷比(m/z)、保持時間、および信号強度の関数として、プロットされたイオントレース250を含む。記号260は、対応する検体に属する断片のイオントレース250を同定する。記号270は、参照スペクトルライブラリから決定された断片のイオントレース250を同定する。
図3は、種々の実施形態による、参照スペクトルライブラリから決定された断片に対する図2のイオントレースから抽出された質量トレースを示す、例示的プロット300である。
種々の実施形態では、LC−MS取得方法は、以下のように、イオン前駆体の断片化から生じる、生成イオンのモニタリングを備えている。
(試料の全検体に対する完全な内容網羅)
1)質量分析器の分離窓の段階化に基づくデータ独立取得
1回の実行あたり、少数の個別的な前駆体/遷移をモニタリングする代わりに、MS情報は、試料の内容に関わらず、全質量範囲に関して、かつクロマトグラフィ全体を通して、データ独立様式で取得される。種々の実施形態では、これは、所定のまたは標的前駆体に焦点を当てる代わりに、完全な質量範囲(図2参照)を通して段階的に、質量分析器の前駆体イオン選択窓を段階化することによって達成することができる。これらの測定のサイクル時間(または、滞留時間)は、したがって、SRMにおけるように、モニタリングされる遷移の数によってではなく、完全な質量範囲(図2)を対象とするために必要なステップの数によって決定される。そのような段階的データ独立断片化測定は、1回の単一実行において、試料中に含まれる検体/前駆体に関する完全な情報の取得を可能にする。実際、本データ取得方法は、試料中に存在する全検体に対する完全な断片イオンマップを作成し、断片イオンスペクトルを断片イオンスペクトルが取得された前駆体イオン選択窓に戻し関連付けすることができる。
2)第1の質量分析器の選択窓の拡大
2a)質量分析器によって達成可能な最狭小選択窓においてさえ、汚染のない着目前駆体のみが断片化のために選択されることを確実にすることは、ほぼ不可能である。したがって、種々の実施形態では、反対アプローチが使用される。すなわち、質量分析器の前駆体分離窓を拡大し、したがって、分析中に、共溶出し、記憶される断片化パターンに寄与する複数の前駆体を含む。複数の前駆体の断片化から生じる複合生成イオンスペクトルの解釈は、データ分析のセクションで後述される。
2b)種々の実施形態において実践されるように、質量分析器の選択窓の拡大の副次的プラス効果は、(i)(1)に記載されたサイクル時間の短縮、したがってモニタリングされる前駆体に対するより明確に定義および分解されたクロマトグラフ溶出プロファイルの取得と、(ii)SRMにおけるように、モノアイソトピックピークだけではなく、現時点では、前駆体の同位体パターン全体が断片化に関与するので、断片に対する信号強度の増加である。
(ペプチド同定のための信頼性の増加)
3)古典的SRM実験におけるような所与の前駆体に対しする少数の生成イオンのモニタリングに代わる全生成イオンスペクトルの取得。一連の全生成イオン(MS2)スペクトルが、前駆体の溶出にわたって取得され、少数のイオン断片ではなく、全MS2スペクトルの完全な断片化パターンをライブラリからの参照スペクトルと照合することによって、前駆体同定において、より優れた信頼性を達成可能にする。
要約すれば、種々の実施形態では、LC−MS法は、前駆体あたり少数の遷移の代わりに、完全な質量範囲およびクロマトグラフプロファイルを対象とすることができ、幅広の分離窓(図2−3)に関して取得される擬似SRMトレースとして処理することができる、一連のMS2マップの取得をもたらす。
連続的MS2マップは、いくつかの前駆体分離窓の重複によって取得され、少なくとも1つの分離窓における任意の所与の前駆体イオンの完全な同位体パターンの転送を確実にし、それによって、任意のLC時間点における親と断片同位体ピークとの間の最適相関を維持し得る。本重複は、質量分析計内で使用されるイオン選択デバイス上で達成可能な断片イオン透過プロファイルに最も合致するように実験的に決定することができる、最小値に低減され得る。連続的分離窓間の重複を低減することは、窓のための最小サイズ、所与のm/z範囲を対象とするための最小窓数、および周期的分離窓取得間の最小滞留時間を維持可能にする。
種々の実施形態は、種々の組み合わせにおいて、すなわち、単独で、およびさらに後述されるデータ分析原理の種々の組み合わせともに、以下のMS取得方法を含む。
1)内容独立様式において質量分析器の前駆体分離窓を段階化することに基づく前駆体イオンの全断片化(MS2)スペクトルの周期的取得(図2参照)。取得は、例えば、前駆体分離窓を所定の(例えば、データ依存取得/ショットガン)または標的の(例えば、評価対象リストまたはSRM)前駆体イオンの質量に焦点を当てることを含まない。
2)データ分析セクションに説明される本発明の種々の実施形態による、親イオン前駆体分離窓内で同時に選択され、観察された断片化パターンに同時に関与する、複数の親前駆体に対するこれらのMS2スペクトルの綿密な検索。言い換えると、種々の実施形態では、検索は、前駆体イオンに対して行われない。検索は、前駆体イオンを含むことが予期される窓内の断片に対して実施される。
3)前駆体選択のための重複窓の使用。重複窓が、(i)全前駆体イオンが、非理想的質量分析器の場合においても、適切に選択され、(ii)質量分析器/選択窓の境界における前駆体イオンが、同一分離窓内の断片化に対して選択されたその全体的または実質的に全体的同位体パターンを得ることを保証するために、種々の実施形態において使用されることができる。
4)同一取得実行中の、前駆体分離窓に対する固定および/または可変幅の使用。種々の実施形態では、固定および/または可変幅が、同一サイクル(すなわち、質量範囲にわたる一式のスキャン)中に、前駆体分離窓に対して使用される。より大きな窓の使用は、質量/クロマトグラフ空間のあまり混雑していない部分(すなわち、最少数の検体が予期される場所)における取得のサイクル時間の短縮を可能にする。より狭い窓の使用は、質量/クロマトグラフ空間の最も複雑な部分における分析の動的範囲増加を可能にすることができる。実際、より狭い窓は、より少ない断片化するための前駆体イオンを含み、したがって、存在度(abundance)に大きな差異を伴う前駆体を含む機会がより低い。
5)同一取得実行中の前駆体選択窓あたりの単一および/または複数の(可変または離散)衝突エネルギーの使用。そのような複数の衝突エネルギー実験中に取得される断片イオン強度の増加または減少は、共溶出に対して確認され、スペクトルライブラリからの参照断片イオン強度と相関されることができ、同一親イオンから生じる断片イオンピーク群の同定を強化することができる(データ分析セクション参照)。
6)同一取得実行中のMS2スペクトルの取得に対する前駆体分離窓あたりの固定および/または可変時間の使用。信号は、取得時間にわたって、カウント(例えば、cts/msec)として報告されることができるので、可変取得時間は、依然として、定量化目的のために使用することができる(「動的」または「定期的」SRMにおけるように)。より長い取得時間は、より高い感度によって、低存在度前駆体のモニタリングを可能にすることができる。
(生物情報工学/データ分析パイプラインに関する種々の実施形態)
データ分析は、断片イオン溶出情報の使用および参照スペクトルライブラリのデータマイニングを備えている。プロテオタイピックペプチド(あるタンパク質において一意的に見出される、したがって、定質的および定量的に明確にそのタンパク質を特徴づける、MS観察可能ペプチド)の参照スペクトルライブラリは、有機体全体に対して、合成ペプチドのプール(Picottietal、Nat Method 2010)を使用して、および/またはそれらの有機体に関して行われた以前の広範なMSシークエンシングプロテオーム分析から作成され得る。同様に、他の検体の参照スペクトルライブラリが、合成検体参照から、および/または以前の検体MS分析から作成され得る。重要なことは、参照断片イオンライブラリが作成されると、永久に使用することができることである。
LC−MSデータは、幅広の前駆体選択窓から取得された全生成イオンスペクトルを備えているので、データ処理は、記録されたMS2スペクトルで観察された断片化パターンに潜在的に関与する複数の前駆体、および全断片イオンの存在を考慮するように修正される。
(事後的前駆体の検索)
着目前駆体が、試料注入に先立って選択される必要がある、SRMアプローチと対照的に、「完全な内容網羅」取得アプローチは、LC−MS/MSデータセットにおいて、事後的に、種々の実施形態では、スペクトルライブラリ内に存在する任意の検体を検索および定量化可能にする。データ分析は、その前駆体の予期される選択窓(m/z)内で取得された一連の全生成イオンスペクトル(図2−3参照)からの着目前駆体の断片質量トレース(参照スペクトルライブラリおよび/またはコンピュータによる予測から決定される)の抽出を備えている。
前駆体同定における信頼性は、例えば、参照(または、予測された)断片化スペクトルのそれと比較した、取得された生成イオン断片の質量精度および/または相対的強度、合致した断片の数、これらの断片の抽出されたイオントレースの類似クロマトグラフ特性(共溶出、ピーク形状等)に基づいてスコア化することができる。同定の確率は、例えば、同様に、同一LC−MSデータセットからのデコイ前駆体断片イオンを検索(および、スコア化)することによって決定することができる。相対的定量化は、前駆体のクロマトグラフ溶出にわたる生成イオントレースの積算によって実施することができる。種々の実施形態では、異なるように同位体で標識された参照検体(同様に、同定、定量化、およびスコア化されている)が利用され、対応する着目前駆体の絶対的定量化を達成する。
(ペプチド同定に対する信頼性の増加)
少数のイオン断片ではなく、全MS2スペクトルの完全な断片化パターンをライブラリからの参照スペクトルと照合することによって、前駆体同定におけるより高い信頼性を達成するために、一連の全生成イオン(MS2)スペクトルが、最良スコア化断片イオンピーク群候補の溶出の周囲において抽出されることができる。
前述のデータマイニング手法は、LC−MS/MSデータセットから、(スペクトルライブラリからの)参照断片イオントレースの偏りのない抽出を使用する。したがって、全生成イオンマップが、複数の前駆体の同定に対してマイニングされる。なぜなら、それらが、ライブラリから独立した合致の断片イオントレースによって抽出されるからである。したがって、これは、質量分析器の選択窓内で共溶出する前駆体の検索数を限定せず、同一生成イオンスペクトル内で複数の前駆体の同定を可能にすることができる。
(MS2特徴抽出による代替データ処理)
別のデータ処理実施形態は、再構成されたMS2マップ(図2)からの断片イオン信号の全部または実質的に全部の新規特徴抽出を備えている。共溶出断片イオン信号は、次いで、参照スペクトルライブラリ照合によって(または、最終的に、検体の事前に算出された理論的断片イオンのデータベースに対して)、群化および検索され、その起始前駆体を決定することができる。種々の実施形態では、方法は、前駆体同定と、その溶出にわたるその前駆体の生成イオン信号の除去によって、分析の感度を増加させ、より低い存在度のイオン断片を対象から除くこととの反復によって進められる。
種々の実施形態は、種々の組み合わせにおいて、すなわち、単独において、およびさらに前述されたMS取得原理の種々の組み合わせとともに、以下のデータ分析原理を含む。
1)その前駆体の予期される選択窓(あるいは、修飾または複数の荷電状態ペプチドに対する窓)において取得された一連の全生成イオンスペクトル(図2−3参照)からの着目前駆体の断片質量トレース(参照スペクトルライブラリまたはコンピュータによる予測から決定される)の抽出。
2)以下のパラメータに基づいて、抽出された断片イオントレースをスコア化することによる検体の同定。例えば、(i)抽出された断片イオントレースの共溶出、(ii)それらのピーク形状の相関、(iii)それらの相対的強度と参照スペクトルライブラリ(または、コンピュータによる予測)からのものとの相関、(iv)予期される参照クロマトグラフ保持時間に対する近さ、(v)同一前駆体の複数の荷電状態の断片イオントレースの共溶出およびピーク形状相関、(vi)1つ以上の異なるように同位体で標識された参照の断片イオントレースとの共溶出、ピーク形状、および相対的強度相関(例えば、それぞれ、軽いまたは重い内因性試料に対する重いまたは軽い参照検体)、(vii)種々の衝突エネルギーにおいて取得された窓から得られた断片イオントレースの共溶出およびピーク形状相関、(viii)種々の衝突エネルギーにおいて取得された窓から得られた断片イオンの相対的強度と参照スペクトルライブラリ(または、コンピュータによる予測)からのものとの相関、ならびに(ix)前述の2つ以上の組み合わせ等。
3)同様に、デコイ前駆体断片イオンに対する同一LC−MS/MSデータセットの検索(および、スコア化)に基づく、誤発見率評価による、誤決定同定からの真実の識別。機械学習技法(例えば、半監視学習)を使用して、前述のスコアのうちの1つ以上の組み合わせを最適化ずるために、かつ、それらが同定の帰無分布に類似すると仮定することによって、誤発見率を予測するために、デコイヒットが実質的に使用されることができる。
4)試料中に含まれる同定された検体を定量化するための共溶出断片イオン強度の使用。
5)そのクロマトグラフ溶出にわたって、汚染された断片イオントレース、または既に同定された検体のそれらを実質的に除去することによる、取得されたデータの「精緻化」および再検索(例えば、複数の反復において)。
6)その前駆体の予期される選択窓(または、修飾または複数の荷電状態ペプチドに対する窓)において取得された一連の全生成イオンスペクトルからの任意の着目前駆体の事前算出理論的断片質量トレースの抽出(例えば、天然または合成化合物のスペクトルライブラリの取得および精緻化のため)
7)再構成されたMS2マップ(図2)からの断片イオン信号の新規「特徴抽出」。例えば、前述の(2)に記載される、それらの断片イオン信号の群化およびスコア化。その起始前駆体を決定するための参照スペクトルライブラリ照合による(または、最終的に、検体の事前に算出された断片イオンのデータベースに対して)、それらの検索。その共溶出断片イオン強度に基づく、同定された検体の定量化。
要約すれば、種々の実施形態は、(i)単一LC−MS注入または分析における、試料中に存在する全検体の生成イオンスペクトルの包括的取得、(ii)具体的データマイニング手法による、それらの完全な同定および定量的分析、ならびに(iii)反復データマイニングによる、それらの分析の精緻化および/または補完を可能にすることができる。本組み合わせられたLC−MS取得およびデータ処理方法論は、したがって、データ一貫性、同定率、および定量化速度の観点から、従来のアプローチに勝る有意な改良点を構成する。これらの発明は、完全なプロテオームマップの取得およびそれらの定質的かつ定量的データマイニングのための方法を可能にする。
これらの発明の潜在的用途は、本質的に、SRM定量的プロテオームのものと同一であって、定質的かつ定量的LC−MS分析に依存する、任意の生物工学的、生物医学的、薬学的、および生物学的用途を含む。アプローチは、例えば、種々の実施形態では、特に、制限された量においてのみ利用可能であり得る、複合試料(例えば、全部の有機体、細胞、器官、体液等)内の多数の着目候補前駆体(例えば、ペプチド)の分析を実施するのに好適である。
種々の実施形態として、とりわけ、以下の用途が挙げられる。
−天然または合成化合物(例えば、ペプチド)のスペクトルライブラリの高速取得および精緻化。
−着目天然または合成化合物の定質的かつ定量的分析(例えば、特定の検体または生体指標測定の状況において、またはタンパク質複合体の組成物を分析するため)。
−その非修飾対照物(例えば、活性に基づくプローブと反応された翻訳後修飾を伴う、タンパク質/ペプチド、または化学的に架橋されたタンパク質/ペプチド)と断片イオンを共有する、または、その修飾物が、断片イオン(例えば、ユビキチンまたはユビキチン様分子)または共通レポーターイオンを共有する、あるいは本修飾が、それらの検体の断片イオンにもたらす(正または負の)質量差を使用することによる、自然または人工的に修飾された検体の定質的および定量的分析。
−スペクトルライブラリ内に存在する、または新規に同定された(データ分析セクション参照)全検出可能検体の定質的および定量的分析(例えば、部分的または完全なプロテオーム分析の状況において)。
-取得されたデータセットの反復データマイニングによる、それらの定質的かつ定量的
分析を精緻化および/または補完するための能力。
これらの種々の実施形態は、高処理量様式において、複合試料のメタボローム/プロテオーム全体の完全な定質的かつ定量的分析のための道を開くことができる。
(定量的データ処理)
種々の実施形態では、単一前駆体質量窓から取得された断片データはすべて、一緒に処理することができる。データが、1つ以上の前駆体イオン(化合物)からの断片を含み得る場合でも、着目化合物を定量化し、またはそのような化合物の修飾形態を検索するように処理することができる。
着目化合物の前駆体質量ならびに高分解能および質量精度における一式の予期される断片は、ライブラリから、または化合物の確証的標準形態を分析することによって得られるか、あるいは、以前の分析(化合物が、既知または未知かに関わらず)から、または既知の断片化規則を使用する予測によって得られる。一式の断片は、その予期される強度、それらが着目化合物に対して一意的である可能性、または他の特徴に基づいて、選択することができる。予期される前駆体質量を含む窓に対して、一式の断片質量は、イオントレース、例えば、1つ以上のピークを含む、クロマトグラムを作成するために使用される。
トレースは、正確または最も可能性の高いピークを決定するようにスコア化される。スコアは、試料断片イオンの検出された質量が、どの程度うまく所定の生成イオンの予期される質量に合致するかということ、試料断片イオンの相対的強度が、どの程度うまく所定の生成イオンの相対的強度に合致するかということ、測定された試料イオンが、正確な同位体形態であること、通常、モノアイソトープであること、前駆体および断片イオンが、予期される荷電状態を有すること等、質量スペクトルからの情報に基づくことができる。
分離ステップが、含まれる場合、スコアは、検出されたイオントレースが、形状および位置において、どの程度うまく互いに合致するか等、追加の情報に基づくことができる。標識および天然形態の組み合わせ等、試料の異なる同位体形態が、分析される場合、異なる形態からのデータが、スコアをさらに精緻化するために使用されることができる。干渉が存在することにより集合内の1つ以上の断片が不良スコアを受ける場合、それらはその集合から除外され、所望に応じて、所定のスペクトルからの別の断片と置換されることができる。
許容可能スコアを受けるイオンは、経時的研究の要素、異なるように処置または調製された試料群、健康または罹患対象からの試料群等、他の試料からの類似値と比較することができる、標的化合物に対する定量的値を作成するために使用することができる。全検出された前駆体からの全断片イオンが、データ内に存在するので、種々の実施形態では、測定における誤差を低減させる代替断片イオンを使用することによって、最適定量化を実施することができる。
取得されたデータは、全検出可能化合物からの断片を含むので、任意の数の化合物に対してマイニングすることができ、スコア化は、定量的値を作成することができる。
(定質的データ処理)
種々の実施形態では、データはさらに、試料中に存在する化合物に関する定質的情報を抽出するようにマイニングすることができる。修飾形態は、例えば、同一前駆体窓または異なる窓において、予想外の保持時間において同一集合の断片イオンの位置を特定することによって検出することができる。窓は、修飾によって生じる、予期される質量差に基づいて、決定することができる。種々の実施形態では、修飾形態は、修飾の特性であるイオンの位置を特定することによって検出することができる。
修飾形態が、検出されると、修飾の種類および場所をいくつかの方法で決定することができる。例えば、修飾の種類および場所は、修飾の位置または種類に依存するイオンを予測し、それらの予測された質量に対するデータから抽出されたトレースを作成およびスコア化することによって決定することができる。種々の実施形態では、修飾の種類および場所は、データからスペクトルを作成し、そのスペクトルを解釈することによって決定することができる。
さらに、各窓からのデータは、関連イオンを決定または同定し、それによって、化合物の同定を決定するために解釈することができる、既知または未知の化合物のスペクトルを抽出するように処理することができる。
(タンデム質量分析システム)
図4は、種々の実施形態による、試料の全検出可能化合物の全生成イオンスペクトルの電子記録を記憶するためのシステム400を示す、概略図である。システム400は、タンデム質量分析計410およびプロセッサ420を含む。プロセッサ420は、コンピュータ、マイクロプロセッサ、または、制御信号を送信し、質量分析計410からのデータを受信し、データを処理可能な任意のデバイスであり得るが、それらに限定されない。
タンデム質量分析計410は、2つ以上の質量分析を実施する、1つ以上の物理的質量分析器を含むことができる。タンデム質量分析計の質量分析器として、飛行時間(TOF)、四重極、イオントラップ、線形イオントラップ、オービトラップ、またはフーリエ変換質量分析器が挙げられ得るが、それらに限定されない。タンデム質量分析計410はまた、分離デバイス(図示せず)を含むことができる。分離デバイスは、液体クロマトグラフィ、ガスクロマトグラフィ、キャピラリー電気泳動、またはイオン移動度を含むが、それらに限定されない、分離技法を実施することができる。タンデム質量分析計410は、それぞれ、空間または時間において、質量分析段階またはステップの分離を含むことができる。
タンデム質量分析計410は、複数の質量選択窓を使用して、ある質量範囲にわたって、1回以上、複数の生成イオンスキャンを実施する。複数の生成イオンスキャンは、単一の試料分析において実施される。単一の試料分析は、例えば、単一試料注入である。複数の生成イオンスキャンから、タンデム質量分析計410は、各質量選択窓に対する全検出可能化合物の全試料生成イオンスペクトルを生成する。
プロセッサ420は、タンデム質量分析計410と通信する。プロセッサ420は、タンデム質量分析計410から、各質量選択窓に対する全試料生成イオンスペクトルを受信する。プロセッサ420は、次いで、各質量選択窓に対する全試料生成イオンスペクトルを試料の全検出可能化合物の電子記録として記憶する。電子記録は、電子記録が記憶される時に、既知の化合物を特徴づける、または電子記録が記憶された後、既知となった化合物を特徴づけるために使用される。
種々の実施形態では、複数の質量選択窓の各質量選択窓は、幅10原子質量単位(amu)超、または幅15amu超を有する。
種々の実施形態では、複数の質量選択窓の少なくとも2つの質量選択窓は、異なる幅を有する。
種々の実施形態では、電子記録からの1つ以上の質量選択窓に対する全試料生成イオンスペクトルが、参照ライブラリからの所定の生成イオンスペクトルに対して検索される。例えば、プロセッサ420は、既知の化合物に対応する所定の生成イオンスペクトルを受信する。プロセッサ420は、電子記録から、1つ以上の質量選択窓に対する全試料生成イオンスペクトルを受信する。プロセッサ420は、次いで、所定の生成イオンスペクトルの所定の生成イオンを、1つ以上の質量選択窓に対する全試料生成イオンスペクトルの試料生成イオンと比較する。比較からの1つ以上の合致する試料生成イオンは、試料における検出可能な既知の化合物を特徴づける。既知の化合物は、例えば、再現可能生成イオンスペクトルをもたらす、任意の化合物を含む。
種々の実施形態では、既知の化合物は、ペプチド、タンパク質、完全プロテオーム、内因性代謝産物、脂質、または炭水化物のうちの1つ以上を含む。
種々の実施形態では、既知の化合物は、生物学的、薬学的、環境的、法医学的、または産業的重要性のある1つ以上の化合物を含む。生物学的、薬学的、環境的、法医学的、または産業的重要性のある1つ以上の化合物として、殺虫剤、除草剤、殺菌剤、産業的化学物質、乱用薬物、ドーパント、または爆薬のうちの1つ以上が挙げられ得るが、それらに制限されない。
種々の実施形態では、所定の生成イオンスペクトルは、実験的または推測的な断片化あるいは修飾規則を既知の化合物に適用することによって、コンピュータ的に作成される。
種々の実施形態では、所定の生成イオンスペクトルは、自然発生源から分離されるか、または化学合成される確証的標準化合物の分析から得られる。
種々の実施形態では、所定の生成イオンスペクトルは、公開または独自のスペクトルライブラリから得られる。
種々の実施形態では、所定の生成イオンスペクトルは、所定の生成イオンスペクトルに対応する化合物の同定の有無に関わらず、代表的試料の事前分析から得られる。
種々の実施形態では、参照ライブラリからの所定の生成イオンスペクトルの検索は、スコアの計算を含む。例えば、プロセッサ420は、所定の生成イオンと試料生成イオンとがどの程度うまく合致するかを表すスコアを計算することによって、所定の生成イオンスペクトルの所定の生成イオンを1つ以上の質量選択窓に対する全試料生成イオンスペクトルの試料生成イオンと比較する。スコアは、例えば、イオン質量および相対的強度の比較を含むことができる。種々の実施形態では、スコアは、試料前駆体イオンが、予期される同位体形態を有することの決定を含む。種々の実施形態では、スコアは、前駆体および断片イオンの予期される荷電状態に関する情報を含むことができる。
種々の実施形態では、分離デバイスは、経時的に、単一の試料分析の試料化合物を分離する。タンデム質量分析計410は、試料化合物が分離されるにつれて、単一の試料分析に関する複数の生成イオンスキャンを実施する。種々の実施形態では、プロセッサ420はさらに、イオントレースのピーク形状の比較または合致する試料生成イオンの検出時間類似性に基づいて、合致に対するスコアを計算する。
種々の実施形態では、プロセッサ420はさらに、試料の化合物に対する定量的値を計算するための検索の比較からの1つ以上の合致する試料生成イオンを使用する。定量的値は、例えば、試料生成イオンスペクトル内の1つ以上の合致する試料生成イオンの強度を使用して計算される。種々の実施形態では、定量的値は、1つ以上の合致イオントレースピークの強度または領域を使用して計算される。
種々の実施形態では、プロセッサ420はさらに、既知の化合物の1つ以上の化合物の修飾形態を同定するための検索の比較からの1つ以上の合致する試料生成イオンを使用する。修飾形態は、例えば、同一質量選択窓または異なる質量選択窓において、1つ以上の合致する試料生成イオンを見つけることによって同定される。異なる質量選択窓は、例えば、予期される修飾の質量から決定される。
種々の実施形態では、修飾形態は、修飾の質量によって調節された1つ以上の合致する試料生成イオンに対応する質量を見つけることによって同定される。修飾は、例えば、既知の修飾であるか、既知の反応によって生じるか、または他の実験によって示唆される。
種々の実施形態では、修飾形態は、既知の化合物の修飾部分の質量特性を見つけることによって同定される。
種々の実施形態では、修飾形態は、結合分子から複合合成スペクトルを見つけることによって同定される。
種々の実施形態では、プロセッサ420はさらに、同定された修飾形態における修飾の種類および場所を特徴づけるために、電子記録から、同定された修飾形態のスペクトルを抽出する。
種々の形態では、プロセッサ420はさらに、所定の生成イオンおよび修飾を使用して、修飾の部位を示すであろう質量を予測し、各質量に対するスコアを作成し、修飾の場所を決定する。
(タンデム質量分析方法)
図5は、種々の実施形態による、試料の全検出可能化合物の全生成イオンスペクトルの電子記録を記憶する方法500を示す、例示的流れ図である。
方法500のステップ510では、複数の生成イオンスキャンが、複数の質量選択窓を使用して、ある質量範囲にわたり、単一の試料分析において1回以上、タンデム質量分析計上で実施される。各質量選択窓に対する全検出可能化合物の全試料生成イオンスペクトルが生成される。
ステップ520では、各質量選択窓に対する全試料生成イオンスペクトルが、プロセッサを使用して、タンデム質量分析計から受信される。
ステップ530では、各質量選択窓に対する全試料生成イオンスペクトルが、プロセッサを使用して、試料の全検出可能化合物の電子記録として記録される。電子記録は、電子記録が記憶されたときに既知である化合物を特徴づけるか、または電子記録が記憶された後、既知となった化合物を特徴づけるために使用される。
(タンデム質量分析コンピュータプログラム製品)
種々の実施形態では、コンピュータプログラム製品は、有形コンピュータ可読記憶媒体を含み、そのコンテンツは、試料の全検出可能化合物の全生成イオンスペクトルの電子記録を記憶する方法を実施するように、プロセッサ上で実行される命令を伴う、プログラムを含む。本方法は、1つ以上の個別のソフトウェアモジュールを含む、システムによって実施される。
図6は、種々の実施形態による、試料の全検出可能化合物の全生成イオンスペクトルの電子記録を記憶する方法を実施する、1つ以上の個別のソフトウェアモジュールを含む、システム600の概略図である。システム600は、測定モジュール610および記憶モジュール620を含む。
測定モジュール610は、タンデム質量分析計から、ある質量範囲の各質量選択窓に対する全検出可能化合物の全試料生成イオンスペクトルを受信する。タンデム質量分析計は、複数の質量選択窓を使用して、質量範囲にわたり、単一の試料分析において1回以上、複数の生成イオンスキャンを実施することによって、試料生成イオンスペクトルを生成する。
記憶モジュール620は、各質量選択窓に対する全試料生成イオンスペクトルを試料の全検出可能化合物の電子記録として記憶する。電子記録は、電子記録が記憶されたときに既知である化合物を特徴づけるか、または電子記録が記憶された後、既知となった化合物を特徴づけるために使用される。
本教示は、種々の実施形態と併せて説明されるが、本教示が、そのような実施形態に制限されることを意図するものではない。対照的に、本教示は、当業者によって理解されるように、種々の代替、修正、および均等物を包含する。
さらに、種々の実施形態の説明において、本明細書は、ステップの特定のシーケンスとして、方法および/またはプロセスを提示し得る。しかしながら、方法またはプロセスが本明細書に記載されるステップの特定の順序に依拠しない程度において、方法またはプロセスは、説明されるステップの特定のシーケンスに制限されるべきではない。当業者が理解するであろうように、ステップの他のシーケンスも可能であり得る。したがって、本明細書に記載されるステップの特定の順序は、請求項に関する制限として解釈されるべきでない。加えて、方法および/またはプロセスを対象とする請求項は、そのステップの実施を書かれた順序に制限されるべきではなく、当業者は、シーケンスが、変動され得、依然として、種々の実施形態の精神および範囲内にあることを容易に理解することができる。

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  1. 明細書に記載された発明。
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