JP2015221754A - 歯科用水硬性セメント組成物 - Google Patents
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Abstract
(1)一般的な歯科用器具で操作可能な練和物性状で、(2)充分かつ最適な操作時間を確保できる初期硬化時間を有し、(3)初期硬化直後の硬化物が、組織液中あるいは水中で崩壊することがなく、(4)硬化後の強度、封鎖性など物理的性質に優れた、歯科用水硬性セメント組成物を提供する。
【解決手段】
(A)以下の(イ)〜(ニ)成分を含有する粉材と、(イ)ケイ酸三カルシウム、又はケイ酸三カルシウム及びケイ酸二カルシウム、(ロ)酸化カルシウム、及び/又は水酸化カルシウム、(ハ)硫酸アルカリ金属塩、硫酸アルカリ土類金属塩又は硫酸遷移金属塩から選ばれる1種又は2種以上の硫酸塩、(二)粉材全量に対して0〜5質量%未満のカルシウムアルミネート、(B)水溶性高分子化合物の水溶液からなる液剤とを、用時に練和して得られる、歯科用水硬性セメント組成物。
【選択図】なし
Description
MTA製材は、良好な封鎖性、抗菌性、生体適合性、硬組織誘導能などを有する生体機能性材料であることから、a)露髄面の直接覆髄、b)断髄面の直接覆髄など覆髄材として臨床応用されている。さらに、c)穿孔封鎖、d)アぺキシフィケーション、e)逆根管充填など外科処置を伴う高度な歯内療法など様々な用途への応用も進んでいて注目を集めている。
間接覆髄は象牙質を介して、外来刺激を遮断し、歯髄の炎症を鎮め、第三象牙質の形成を促すことにより歯髄保護を目的とする。
直接覆髄は、感染象牙質除去後の窩洞で偶発的に露髄したもののうち、露髄が小さくかつ細菌感染がないものに対して歯髄保護とデンティン・ブリッジ(硬組織からなる象牙橋)形成誘導のために試みられる。
この生活断髄法は、乳歯あるいは若い永久歯根(未完成歯)に対して行われる。根未完成歯において、根部歯髄を生きて残すことは、歯根の成長を止めずにすみ、歯根の完成をはかることができる。また、根未完成歯は根尖孔が太いことから、抜髄後に緊密な根管充填を行うのは困難であることから、生活断髄法は好ましい。
穿孔してしまった場合には修復材料で封鎖して修復を試みるが、慢性的な炎症反応が常に存在し上皮性の肉芽組織が穿孔部に充満し、歯根膜は寸断されている状態にあるため、最悪の場合は抜歯になってしまうことがある。
また再植法により逆根管充填を行なうこともある。同じく通常の根管治療では治癒が望めないケースで、病巣が大きすぎる症例、また奥歯で手術操作が困難な症例、歯根付近を神経が走行しているなどの理由で、開窓が行えない症例などが該当する。
また従来の材料では果たし得なかった難治症例においても、生体親和性もよく、拒絶反応を起こしにくいMTA製材は、逆根管充填、穿孔封鎖、アペキシフィケーションの成功例が数多く報告されており、MTA製材の臨床的有用性は大きいと期待されている。
一方、ケイ酸三カルシウムの水和反応は非常に速いため、硬化初期の強度を向上させる効果がある。
また、カルシウムアルミネートの水和反応は、ケイ酸三カルシウムよりも遥かに早く、水と接すると瞬時に凝結が起こる。
カルシウムアルミノフェライトを配合する目的は、ケイ酸三カルシウムの生成温度を低下させることである。すなわち、これを添加することにより、前記セメントクリンカーの焼成温度を低く抑えることができ、経済的にポルトランドセメントを製造することができる。
MTA製材の硬化反応の主体はこれら無機質酸化物の水和反応であり、この過程でケイ酸カルシウム水和物(3CaO・2SiO2・3H2O)と水酸化カルシウムの結晶が生成する。
(1)粉と液を接触させて良く混合し、均一なペーストとする。このために要する時間を練和時間とする。MTA製材の練和時間は約1分である。
(2)練和開始から、均一になったペーストの粘度は徐々に上昇し、ある時間が経過するともはや窩洞への充填操作が不可能となる。この時点までの時間を操作時間とする。
操作時間終了直後、即ち窩洞填塞直後のペーストはまだ柔らかく、加圧により容易に変形してしまうため、静置しておくことが重要である。MTA製材の操作時間は概ね5分前後である。
(3)窩洞に填塞後、更にペーストの硬化が進み、流動性を完全に失って、変形や、修復物の移動などが起こらなくなる。この見かけの硬化状態を初期硬化と呼び、練和開始から初期硬化までに要する時間を初期硬化時間とする。MTA製材の初期硬化時間は数時間である。
初期硬化の段階では、まだペーストは完全に硬化していないので、過度の力をかけると亀裂、割れ、破砕などが起こる。この時点では、大きな荷重を与えないようにすることが肝要である。施術を成功させるためには、形成窩洞に填塞した後、なるべく早期に唾液、組織液や血液に接触した状態でも硬化物が崩壊や溶解を起こさなくなることが非常に重要となる。臨床的にはこの時間が充填操作完了後(すなわち操作時間終了から)30分以内である。
(4)初期硬化から更に硬化が進行し、圧縮強度が上がり続けてやがて極大値を示す。この状態を完全硬化とし、練和開始からこの状態までに要する時間を完全硬化時間とする。MTA製材の完全硬化時間は約一週間である。
また、市販されているMTA製材は、ほとんど粉―液タイプであり、液成分は同梱されているか用時調達するかの違いがあるものの、精製水もしくは生理食塩水が大半である。使用時には、土に水を加えた泥状のものとなり、臨床使用上操作性が悪いといわれている。現実には、指定された粉液比で用いるのみでなく、泥水〜固練りの土隗までさまざまな固さ=水分量で用いられており、施術部への移送・充填などが既存の歯科用インスツルメントでは困難である。このため、MTA製材の移送・充填には、ペレット成形ブロックやMTAガンと呼ばれる特殊な器具が用いられており、操作も充分な注意を払う必要がある。
これに対し、ポルトランドセメントを出発原料とせずにケイ酸二カルシウムおよびケイ酸三カルシウムを合成したものを使用し、水和反応させても同じ特性の生成物を得ることができるが、ケイ酸二カルシウムおよびケイ酸三カルシウムの単独または混合物からなる水和反応物も、市販MTA製材と同様、初期硬化直後に水中浸漬すると、表面から継続的に崩壊することを確認している。
また、特許文献2で開示されたケイ酸カルシウム類に炭酸カルシウムを配合した製材では、前記の通り水中での耐崩壊性が劣るが、これに硫酸塩を数%添加した場合でも、耐崩壊性の改善は起こらなかった。
したがって、ケイ酸カルシウム類の硬化促進及び水中崩壊の抑制を目的として、硫酸塩類を配合する際には、ポルトランドセメント由来のカルシウムアルミネートや、炭酸塩類を含まない粉材組成とする必要がある。
また、市販のMTA製材は、調製時には泥状〜塊状のペーストとなり、特殊な器具を用いて移送・充填する必要がある。このため、練和感の向上や施術の際の操作性を上げることにより、歯科で一般的に使用される移送器具が使用可能となれば、臨床上非常に有意義となる。
ほぼ1世紀の間、骨補填材として用いられてきた半水石膏を用いて、ケイ酸三カルシウム(非特許文献1)やケイ酸二カルシウム(非特許文献2)中に50質量%まで配合し、無添加と比べて硬化時間が短縮し、圧縮強度も向上したことを報告している。
(1)簡単に練和でき、施術の際に移送・充填・形態付与が容易になるように滑らかな練和物性状とする。
(2)臨床的に充分な操作時間と初期硬化時間の短縮を両立させる。
(3)施術直後(初期硬化直後)の唾液、組織液や血液中での耐崩壊性に優れる。
(4)硬化後の辺縁封鎖性、圧縮強さなど物理的性質を有する
(1)(A)以下の(イ)〜(ニ)成分を含有する粉材と、
(イ)ケイ酸三カルシウム、又はケイ酸三カルシウム及びケイ酸二カルシウム、
(ロ)酸化カルシウム、及び/又は水酸化アルミニウム、
(ハ)硫酸アルカリ金属塩、硫酸アルカリ土類金属塩又は硫酸遷移金属塩から選ばれる1種又は2種以上の硫酸塩、
(ニ)粉材全量に対して0〜5質量%未満のカルシウムアルミネート
(B)水溶性高分子化合物の水溶液からなる液材とを、
用時に練和して得られる、歯科用水硬性セメント組成物。
(2)カルシウムアルミネートを含有しない、(1)に記載の歯科用水硬性セメント組成物。
(3)硫酸アルカリ土類金属塩が、CaSO4、CaSO4・1/2H2O、又はCaSO4・2H2Oから選ばれる1種又は2種以上である、(1)又は(2)に記載の歯科用水硬性セメント組成物。
(4)水溶性高分子化合物が、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、又はヒアルロン酸ナトリウムから選ばれる1種又は2種以上である、(1)〜(3)に記載の歯科用水硬性セメント組成物。
(5)保存療法に使用する、(1)〜(4)に記載の歯科用水硬性セメント組成物。
(6)歯内療法に使用する、(1)〜(4)に記載の歯科用水硬性セメント組成物。
(7)外科処置を伴う歯内療法に使用する、(1)〜(4)に記載の歯科用水硬性セメント組成物。
(8)(A)以下の(イ)〜(ニ)成分を含有する粉材と、
(イ)ケイ酸三カルシウム、又はケイ酸三カルシウム及びケイ酸二カルシウム、
(ロ)酸化カルシウム、及び/又は水酸化アルミニウム、
(ハ)硫酸アルカリ金属塩、硫酸アルカリ土類金属塩又は硫酸遷移金属塩から選ばれる1種又は2種以上の硫酸塩、
(ニ)粉材全量に対して0〜5質量%未満のカルシウムアルミネート
(B)水溶性高分子化合物の水溶液からなる液材との組み合わせからなる、
(1)〜(7)に記載の歯科用水硬性セメント組成物の調整用キット。
(1)、(2)、(3)の優位性から、露髄面の直接覆髄、断髄面の直接覆髄、穿孔封鎖、アぺキシフィケーション、逆根管充填など、組織液に触れやすい処置に適している。また、間接覆髄においても、硬化時間が短く、圧縮強度が優れており、次の操作で圧を加えても変形が起きないことから、単に歯内療法材の範疇を超えて、裏装材、欠損部の充填剤の機能を果たし、様々な症例に安定的に用いることができる。
従来のMTA製材は、(1)、(2)、(3)を同時に満たすものはなかったが、本発明の歯科用水硬性セメント組成物は、(1)、(2)、(3)を同時に満たすものであるので、保存療法、歯内療法、外科処置を伴う歯内療法に、極めて有用である。
ケイ酸三カルシウム、又はケイ酸三カルシウム及びケイ酸二カルシウムは、粉材全量の50〜99質量%を配合し、好ましくは50〜95質量%である。ケイ酸三カルシウム及びケイ酸二カルシウムの混合物の配合比率は、1:0〜1:2が、操作時間の確保と迅速な初期硬化を両立させるために好ましい。
ケイ酸三カルシウム及びケイ酸二カルシウムは、酸化カルシウム、炭酸カルシウムなどのカルシウム塩と二酸化ケイ素などのケイ酸塩を、所定の割合で混合し、大気雰囲気中1200℃以上の温度で焼成し、粉砕して得ることができる。
カルシウムアルミネートの配合量は、粉材全量に対して0〜5質量%未満、好ましくは0〜3質量%、より好ましくは0〜2質量%であり、できる限り含まない方が好ましい。
液材は、精製水や蒸留水を用いることができるが、練和感の向上や施術の際の操作性を上げるには、水溶性高分子化合物を添加することが必要である。水溶性高分子化合物としては、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸ナトリウム、アルギン酸ナトリウム、ヒアルロン酸、ヒアルロン酸ナトリウムなどが挙げられるが、粉成分の溶出によるイオン濃度の上昇により、極端に溶解度が下がって、水溶性高分子化合物が凝集析出すると、操作が困難となるので、適度に増粘するか、ほとんど増粘しないものが好適である。具体的には、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒアルロン酸ナトリウムなどが好ましい。液材には、製品としての長期安定性を考慮し、防腐剤などを含んでいてもよい。
3CaO・SiO2:ケイ酸三カルシウム
2CaO・SiO2:ケイ酸二カルシウム
3CaO・SiO2+2CaO・SiO2(1:1)
:ケイ酸三カルシウムーケイ酸二カルシウム 1:1混合物
3CaO・Al2O3:アルミン酸三カルシウム(カルシウムアルミネート)
CaO:酸化カルシウム
CaSO4:無水石膏(無水硫酸カルシウム)
CaSO4・1/2H2O:半水石膏(硫酸カルシウム1/2水和物)
CaSO4・2H2O:二水石膏(硫酸カルシウム二水和物)
Al(OH)3:水酸化アルミニウム
MC:メチルセルロース(信越化学工業株式会社製 メトロース SM 粘度グレード4000)
HEC:ヒドロキシエチルセルロース(和光純薬株式会社製 試薬一級)
ヒアルロン酸ナトリウム(マルハニチロ食品株式会社製 外原規ヒアルロン酸Na「マルハ」)
CaCl2:塩化カルシウム
精製水
工業用ポルトランドセメント(急結剤含有):トーヨーマテラン株式会社製 トーヨー瞬間急硬セメント(NET 500g)
市販MTA製材:デンツプライ三金株式会社製 プロルートMTA
実施例および比較例において検討した試験項目と方法は下記の通りである。
[操作時間]
(1)粉0.18gと液0.07gを同一練和紙上に計り取り、60秒間練和した。
(2)直ちに練和ペーストを70mm×70mm×5mmのガラス板状に乗せ、同一寸法のガラス板で挟み、剪断力を加えながら圧接した。
(3)継続的に剪断力を加え続け、広がったペーストに亀裂が生じた時点の、練和開始からの時間を記録した。
(4)同一操作を5回繰り返し、5回の平均値を操作時間とした。
(1)練和ペーストをJIS T6609−1:2005 歯科用ウォーターベースセメント−第1部:粉液型酸-塩基性セメントで規定された圧縮試験用金型(直径4mm、高さ6mm)に填入して37℃100%RHの恒温恒湿器中に静置した。
(2)硬化体の割れ、欠け、変形などが発生せず、寸法を維持したまま金型から取り出すことができるまでの時間を概算で計測した。
n数は5とし、5回の平均値を初期硬化時間とした。
(1)練和ペーストをJIS T6609−1:2005 歯科用ウォーターベースセメント−第1部:粉液型酸-塩基性セメントで規定された圧縮試験用金型(直径4mm、高さ6mm)に填入して37℃100%RHの恒温恒湿器中に保管した。
(2)前記の方法で計測した初期硬化時間の直後に硬化体を取り出し、試験管に入れて精製水を加えた。
(3)試験管ミキサーで10秒間撹拌した後に静置し、表面からの粉末の遊離あるいは崩壊の有無を目視で判定した。
JIS T6609−1:2005 歯科用ウォーターベースセメント−第1部:粉液型酸-塩基性セメントに記載された方法に則って行った。
(1)アクリル樹脂で縦横とも15mm、深さ1mmの凹部を持つ型を作製し、練和ペーストを充填してPETフィルムで圧接し、37℃100%RHで24時間硬化させた。
(2)前記の組成で調合した擬似体液50mlをポリプロピレン製シール容器に入れ
(1)の硬化体からPETフィルムを除去し、アクリル型から外さずに、そのまま表面が上になるように浸漬して密封後、37℃で7日間静置した。
(3)硬化体を水洗し、目視で析出物の有無を確認し、光学顕微鏡または電子顕微鏡で表面析出物の形態を観察した。また、表面析出物は粉末X線回折装置で分析を行い、析出した結晶の物質特定を行った。
練和感および操作性は上市されているMTA製材と明らかに異なり、垂れのない滑らかなクリーム状となって一般的な歯科用器具で移送・充填が容易に行えた。
初期硬化時間は数分〜二十数分と大幅に短縮され、この時点で硬化体を水中に投入、振盪した場合は、既存MTA製材のように溶解や崩壊をすることはなく、形態を保っていた。
この硬化体を37℃の水中に24時間浸漬した後の圧縮強度は、既存MTA製材と同等以上の数値となった。またこの硬化体を擬似体液に浸漬したところ、数分のうちに擬似体液中に沈殿物が現れ、数十分の内にヒドロキシアパタイト類の結晶構造を持つ析出物が表面に現れた。
実施例6と7は、実施例1〜3で用いた主材をケイ酸三カルシウム−ケイ酸二カルシウム 1:1混合物としたものであり、実施例1〜3と同じく、良好な練和感・操作性と初期硬化時間の短縮および水中崩壊の抑制が達成できる。
比較例1〜6は、実施例1〜3、実施例6と7に対して、酸化カルシウムと硫酸塩の双方あるいは片方を配合しなかった例である。この場合、良好な練和感・操作性があるが、初期硬化時間の短縮は見られず、また初期硬化直後の水中崩壊は抑えられなかった。
比較例7は、実施例3で用いた液材の成分から、MCを除いた例である。この場合、粉と液が接触した時点から硬化が始まるため、ぼそぼそとした凝集物となり、実質的には全く操作時間がない。また、得られた硬化物は空隙が多く、水中崩壊が著しい。
比較例8と9は、工業用ポルトランドセメントを粉材とした場合である。
使用したポルトランドセメントは急結剤がプレミックスされており、初期硬化時間が短い。精製水のみで練和した場合は初期硬化直後に水中崩壊し、液成分にMCを添加した場合は水中崩壊が抑えられる。しかしながら成分が均一に粉砕混合されておらず、ペースト性状がざらざらの泥状となり、練和感・操作性に劣る。
比較例10と11は、精製ポルトランドセメントを含有する市販MTA製材の粉材を
用いた場合である。これらはひ素、重金属類の除去の際、アルミン酸三カルシウムが変性・失活しているようであり、初期硬化に数時間を要する。また、硬化が遅いため液成分にMCを添加した場合でも初期硬化直後の水中崩壊が著しい。また、ペースト性状が泥状であり練和感・操作性に劣る。
比較例12〜14はケイ酸三カルシウムとケイ酸二カルシウムの混合物にアルミン酸三カルシウムを混合した場合である。アルミン酸三カルシウムの配合量が0.1%あるいは1%の場合は操作時間、初期硬化時間共長いが、5%だと液材に触れると瞬時に硬化し、操作不可能であった。また、いずれも初期硬化直後の水中崩壊が著しかった。
比較例18〜20はケイ酸三カルシウムとケイ酸二カルシウムの混合物にアルミン酸三カルシウムと無水石膏を混合し、液成分にMCを添加した場合である。比較例18、19において、練和ペーストはクリーム状となり、操作性は大幅に改善され、操作時間、初期硬化時間は短縮されるが、水中崩壊を抑えることはできなかった。比較例17に対し、比較例20は液材にMCを加えることで見かけ上硬化が遅くし、若干の操作時間が確保できるものの、初期硬化直後の水中崩壊を抑えることはできなかった。
比較例22は、市販MTA製材の粉成分に、塩化カルシウムを配合した液材を組み合わせたものである。この場合、初期硬化時間は30分と大幅に短縮されるが、30分時点での水中崩壊が著しかった。
実施例13および17において、酸化カルシウムを添加せず、代わりに水酸化アルミニウムを添加したところ、著しく硬化が早いものとなった。実施例13に対し実施例14〜16は、さらに酸化カルシウムを配合したものであるが、本来は硬化促進剤である酸化カルシウムの配合量が増すにつれ、操作時間、硬化時間は逆に延長した。この理由として、二価のCaイオンによる溶出イオンのゲル化=硬化促進作用は、三価のAlイオンより大きくはなく、硬化に際し酸化カルシウムと水酸化アルミニウムが共存すると、CaイオンがAlイオンによるゲル化を一部阻害するものと考えている。実施例17に対し実施例18〜20も同様の傾向を示した。
実施例21〜25は、酸化カルシウムの配合量を一定とし、水酸化アルミニウムの配合量を増加させたものである。水酸化カルシウムの配合量が増すにつれ、操作時間、硬化時間共に短くなる傾向があった。
特筆すべきは、実施例14〜16、21〜25では、操作時間終了から硬化までの時間が非常に短いシャープな硬化特性を持つことである。これは、充填直後から即時に硬化することで、液中での崩壊の影響が非常に小さいことを示し、臨床的にも非常に有用な可能性を持つ特性と言える。
また、実施例は、すべて、従来のMTA製材と同様、又はそれ以上の優れた圧縮強度を有しているが、比較例4、5、6、8、9、10、及び11は、実施例と比べると、圧縮強度が劣っている。
Claims (8)
- (A)以下の(イ)〜(ニ)成分を含有する粉材と、
(イ)ケイ酸三カルシウム、又はケイ酸三カルシウム及びケイ酸二カルシウム、
(ロ)酸化カルシウム、及び/又は水酸化アルミニウム、
(ハ)硫酸アルカリ金属塩、硫酸アルカリ土類金属塩又は硫酸遷移金属塩から選ばれる1種又は2種以上の硫酸塩、
(ニ)粉材全量に対して0〜5質量%未満のカルシウムアルミネート
(B)水溶性高分子化合物の水溶液からなる液材とを、
用時に練和して得られる、歯科用水硬性セメント組成物。 - カルシウムアルミネートを含有しない、請求項1に記載の歯科用水硬性セメント組成物。
- 硫酸アルカリ土類金属塩が、CaSO4、CaSO4・1/2H2O、又はCaSO4・2H2Oから選ばれる1種又は2種以上である、請求項1又は2に記載の歯科用水硬性セメント組成物。
- 水溶性高分子化合物が、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、又はヒアルロン酸ナトリウムから選ばれる1種又は2種以上である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の歯科用水硬性セメント組成物。
- 保存療法に使用する、請求項1〜4のいずれか1項に記載の歯科用水硬性セメント組成物。
- 歯内療法に使用する、請求項1〜4のいずれか1項に記載の歯科用水硬性セメント組成物。
- 外科処置を伴う歯内療法に使用する、請求項1〜4のいずれか1項に記載の歯科用水硬性セメント組成物。
- (A)以下の(イ)〜(ニ)成分を含有する粉材と、
(イ)ケイ酸三カルシウム、又はケイ酸三カルシウム及びケイ酸二カルシウム、
(ロ)酸化カルシウム、及び/又は水酸化アルミニウム、
(ハ)硫酸アルカリ金属塩、硫酸アルカリ土類金属塩又は硫酸遷移金属塩から選ばれる1種又は2種以上の硫酸塩、
(ニ)粉材全量に対して0〜5質量%未満のカルシウムアルミネート
(B)水溶性高分子化合物の水溶液からなる液材との組み合わせからなる、
請求項1〜7のいずれか1項に記載の歯科用水硬性セメント組成物の調整用キット。
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